(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】クロマトグラフのデータ処理装置、データ処理方法、およびクロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
G01N 30/86 20060101AFI20240215BHJP
【FI】
G01N30/86 E
G01N30/86 Q
(21)【出願番号】P 2023021763
(22)【出願日】2023-02-15
(62)【分割の表示】P 2019053584の分割
【原出願日】2019-03-20
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正人
(72)【発明者】
【氏名】福田 真人
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-069253(JP,A)
【文献】特開2012-177568(JP,A)
【文献】特開平04-274761(JP,A)
【文献】特開平10-339727(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163275(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフで計測されたプロットデータに基づいてデータ処理を行うクロマトグラ
フのデータ処理装置であって、
計測されたプロットデータよりも少ない数の仮想曲線算出データを求める仮想曲線算出
データ生成部と、
上記仮想曲線算出データに基づいて
、ピーク波形に対応する仮想曲線を求める仮想曲線算出部と、
を有し、
上記仮想曲線算出データ生成部は、設定されたピーク幅から求められる所定数のプロッ
トデータごとに代表値を求めて、上記仮想曲線算出データとすることを特徴とするクロマ
トグラフのデータ処理装置。
【請求項2】
請求項1のクロマトグラフのデータ処理装置であって、
上記所定数が、下記式(1)を満たす最小の整数であることを特徴とするクロマトグラ
フのデータ処理装置。
B≧w/(S×N)・・・(1)
(B:上記所定数、w:上記ピーク幅、S:サンプリング間隔、N:1本のピークの上記
仮想曲線算出データの点数)
【請求項3】
請求項2のクロマトグラフのデータ処理装置であって、
上記ピーク幅が、成分ごとに設定されることを特徴とするクロマトグラフのデータ処理
装置。
【請求項4】
請求項3のクロマトグラフのデータ処理装置であって、
さらに、クロマトグラフの計測結果におけるピーク波形ごとに、暫定スタート点と暫定
エンド点とを求める暫定スタート・エンド点演算部を有し、
上記暫定スタート・エンド点演算部は、互いに隣り合うプロットデータの計測信号強度
の差が、所定回数連続して所定の不感変位以上であったかに基づいて、上記暫定スタート
点と暫定エンド点とを求め、
上記ピーク幅が、上記暫定スタート点と上記暫定エンド点とに基づいて求められること
を特徴とするクロマトグラフのデータ処理装置。
【請求項5】
試料に含まれる成分を分離して計測するするクロマトグラフユニットと、
請求項1のクロマトグラフのデータ処理装置と、
を備えたことを特徴とするクロマトグラフ。
【請求項6】
クロマトグラフで計測されたプロットデータに基づいてデータ処理を行うクロマトグラ
フのデータ処理方法であって、
計測されたプロットデータよりも少ない数の仮想曲線算出データを求める仮想曲線算出
データ生成ステップと、
上記仮想曲線算出データに基づいて
、ピーク波形に対応する仮想曲線を求める仮想曲線算出ステップと、
を有し、
上記仮想曲線算出データ生成ステップは、設定されたピーク幅から求められる所定数の
プロットデータごとに代表値を求めて、上記仮想曲線算出データとすることを特徴とする
クロマトグラフのデータ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフなどのクロマトグラフィー技術に関し、特にクロマトグラフのデータ処理装置、データ処理方法、およびクロマトグラフに関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロマトグラフでは、横軸が時間、縦軸が信号強度の波形データから、分析試料に含まれる成分の種類や量などが求められる。その際、装置によって検出されたデータに基づいて、信号強度が立ち上がるスタート点や立ち下がるエンド点などの特徴点が検出されて波形処理が行われる。具体的には、例えば非線形最小二乗法を用いてガウシアン関数などの仮想曲線算出処理(カーブフィッティング)を行うことにより、スタート点などの特徴点が見出される(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような非線形最小二乗法を用いたガウシアン関数などのカーブ・フィッティング等が行われる場合、プロット数が少ないと、求められたカーブが実際の波形に沿わないおそれが大きくなるが、一方、プロット数が多いと仮想曲線算出処理(カーブフィッティング)の演算処理負荷が大きくなる。また、ノイズの影響によって、却って、求められたカーブが実際の波形からずれる可能性が大きくなることもある。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、代表値を求めるプロットデータの数が適切に設定されて、仮想曲線算出処理の際の演算処理負荷の低減や、ノイズの影響の低減などが容易にできるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、
クロマトグラフで計測されたプロットデータに基づいてデータ処理を行うクロマトグラフのデータ処理装置であって、
計測されたプロットデータよりも少ない数の仮想曲線算出データを求める仮想曲線算出データ生成部と、
上記仮想曲線算出データに基づいて仮想曲線を求める仮想曲線算出部と、
を有し、
上記仮想曲線算出データ生成部は、設定されたピーク幅から求められる所定数のプロットデータごとに代表値を求めて、上記仮想曲線算出データとすることを特徴とする。
【0007】
これにより、仮想曲線を求める際のデータ数を適切に設定して、少なく抑えることができるので、演算処理負荷や、ノイズの影響の低減などが容易にできる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、仮想曲線算出処理の際の演算処理負荷の低減や、ノイズの影響の低減などが容易にできるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】クロマトグラフの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】クロマトグラフのデータ処理装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図7】さらに他の特徴点の抽出例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
(液体クロマトグラフ100の構成)
図1に液体クロマトグラフ100の概略構成を示す。この液体クロマトグラフ100は、移動相である液体が貯蔵される移動相容器110、移動相を送液するポンプ120、試料を注入するオートサンプラ130、カラムオーブン141により恒温に保たれて試料中の成分を分離させるカラム140、分離された成分を検出する検出器150、検出結果を処理するデータ処理装置160、および処理結果を表示する表示部170を備えている。なお、液体クロマトグラフ100を構成する各部は、主としてデータ処理装置160の処理内容を除き、通常の装置と同様に構成することができるものであるため、詳細な説明は省略する。
【0012】
(データ処理装置160の詳細な構成)
上記データ処理装置160は、
図2に示すように、制御処理部161と、データ保持部162と、演算処理部163とを備えている。
【0013】
制御処理部161は、液体クロマトグラフ100全体の動作を制御するもので、制御部161a、図示しない操作パネルの操作等に応じて測定条件を設定する測定条件設定部161b、および測定結果等を記録する記録部161cが設けられている。
【0014】
データ保持部162は、測定結果に基づいて処理されたデータ等を保持するようになっている。
【0015】
演算処理部163は、測定結果に基づいた処理を行うもので、仮想曲線算出データ生成部、仮想曲線算出部、暫定スタート・エンド点演算部、暫定特徴点取得部、および実プロットデータ特徴点抽出部として機能する。具体的には、例えば、検出器150から出力されるアナログ信号をD/A変換等する信号処理部163a、特徴点の抽出や分析などを行う演算部163b、および分析結果の判定等を行う判定部163cを備えている。
【0016】
(データ処理動作)
上記のような液体クロマトグラフ100では、計測動作によって例えば
図3に示すような波形データが得られる。この波形データは、横軸が時間、縦軸が信号強度の波形データである。時間と成分の関係は予め既知であるため、波形データのピーク頂点の横軸上の保持時間によって、分析試料に含まれる成分が特定される(定性処理)。また、波形データのピーク面積によって、その成分の含有物質量が計量される(定量計算処理)。これらのような処理は、
図3に典型的な例を示すようなピーク頂点や、スタート点、エンド点、バレー点、ショルダー点などの特徴点が抽出されたり、さらにこれらを基にベースライン線分が設定されたりして行われる。
【0017】
上記特徴点の抽出は、例えばピーク点の抽出を例に挙げると、演算処理部163の処理によって、以下、および
図4に示すように行われる。
【0018】
(データ処理動作-バンチング処理)
まず、検出器150によるサンプリング間隔が細かく、ピーク幅wの範囲内で実際に検出される離散データであるプロットデータの数が例えば65点以上などと多い場合には、時間軸に関して複数のプロットデータを64点以下などの仮想曲線算出データにまとめるバンチングが行われたり、Savitzky-Golay法などによる実測点群の平滑化前処理などが行われたりされる。
【0019】
上記バンチング処理は、例えば、単純に2点ずつ加算することや、3点ずつ加算することなどが基本である。但し、データ処理装置によっては、データポイントが等間隔の時間に並んでいない場合もあり、それ相応のバンチング処理が必要である。例えば、400msのサンプリング間隔で4点ずつ加算していたもの(1,600msをバンチング)が、サンプリング間隔が2倍の800msに変化した場合、それ以降は2点ずつの加算バンチング処理とすることが考えられる。ここで、入力Peakwidthは、ユーザがイメージするピーク幅である。ショルダーピークが2本のピークの重ね合わせであったり、ダブルピークがピーク幅の広い単一のピークに見えたりすることは避けられない場合がある。マイナーなピークが単一のピークに見えず、メインピークをブロードニングするような影響もある。このような様々なピーク形状も賢く配慮されたバンチング処理が実施されることが望ましい。
【0020】
上記バンチングによって生成される仮想曲線算出データの数は、例えば15~64点などに設定される。これは、一般に、ピーク面積を正確に求めるには30~50点のデータが好ましいことが多いことや、データ点数が多過ぎることによって例えばスタート点の候補点が複数現れてしまうのを回避して適正なスタート点(やエンド点)を選択しやすくするためにはピーク形成データは32~63点が望ましいことが多いことなどによる。
【0021】
より詳しくは、上記ピーク幅wは、データ処理システム(CDS)における所定の演算や入力によって与えられる波形処理用の入力変数であり、例えば0.1分間と入力される場合、対象ピークの半値全幅が0.1分間を目安としてデータポイント間隔を計算する基準となる。例えば、サンプリング間隔50msで実際のデータを取り込んでいる場合、0.1分間は6s=6,000msであり、wの点数は120点となる。これを約30点に集約するためには、サンプリング間隔を200msにする必要があり、結果として4点を纏めて1データポイント化する即ちバンチング処理を実行することができる。これからわかるようにwは非常に有用なパラメータである。入力値wに基づくバンチング処理はノイズを低減するのみならず、波形処理の前工程としてオペレータの意図するピーク波形のCDSが想定できる。すなわち、CDSにとって多すぎず少なすぎず、処理しやすいデータポイント数に最適化することができる。
【0022】
また、例えば、ピーク全幅の目安としてのピーク幅がw=60sの場合、1sの時間間隔に存在するデータ点をバンチング合算することにより、およそ60点程度のバンチング後のデータ点数にすることができる。すなわち、例えば、元データのサンプリングピリオッドSがS=0.4sの場合、一本のピークの仮想曲線算出データの点数をN(例えば32~63の点数範囲)とすると、バンチングする点数Bは、B=w/(S×N)で求められる。なお、上記Bの値が整数ではない場合は、小数点以下を切り捨てたり、切り上げたり、四捨五入したりしてもよい。より具体的には、例えば、B≧w/(S×N)として、N=64とすると、Bは上記式を満足する最小の整数である。
【0023】
上記のようにしてバンチングする点数が求められると、その数のプロットデータごとに、計測信号強度の平均値などの代表値が求められることにより、後の仮想曲線算出(カーブフィッティング)の演算処理負荷を低減したり、ノイズの影響を低減したりすることが容易にできる。なお、データ数の削減のためには、代表値を求めるのに限らず、プロットデータの間引きを行ってもよく、この場合でも、演算処理負荷を低減することができる。
【0024】
ここで、上記ピーク幅wは、ユーザ入力によって設定されるようにしてもよいが、ピーク形状から判断して自動的に設定されるようにしてもよい。後者の場合には、成分ごとに設定することも、より容易にできる。
【0025】
上記ピーク幅wは、バンチングする所定数を求めるために暫定的に求めるものなので、仮想曲線算出処理後にピーク面積を求める場合などに比べて、必ずしも高精度に求められなくてもよい。具体的には、例えば以下のようにして暫定スタート点、および暫定エンド点を求めることによって、得ることができる。すなわち、例えば
図5に示すように、互いに隣り合うプロットデータの計測信号強度の差が順次d1~d4、所定の不感変位をIとして、d1≦Iである後に3回連続してd2~d4≧Iとなった場合に、最初のd1に対応するプロットEをスタート点としてもよい。エンド点についても、同様に求めることができる。
【0026】
上記不感変位Iは、例えば以下、および
図6に示すようにして自動的に設定することもできる。例えば、まず、ピークが存在しないと想定される時間帯で、(ピーク近傍のピークの存在しない区間、すなわちベースラインとみなせる区間)で、半値全幅のピーク幅w
1/2の20~30倍の時間区間を見出し、その区間内で、縦軸である検出信号のpeak-to-peakの大きさ(ノイズ信号の頂点の最大最小差)をノイズの大きさと想定し、これに、予め入力等設定された所定の係数(例えば3)などを乗じて、不感変位I(ピークとして認識する閾値)を設定することができる。ここで上記係数は必ずしも自然数でなくてもよい。
【0027】
なお、バンチング処理がされていない状態で、データ点数が多過ぎたり、ノイズが比較的抑制されていないことなどによって、スタート点などと認識されるべき状況であっても大小関係が連続しない可能性がある場合などには、上記連続回数や、不感変位Iの大きさを増減するなどの調整をして、時間経過と繰り返しから適切な状況になるように設定すればよい。
【0028】
(データ処理動作-仮想曲線算出処理、および特徴点決定処理)
上記のようなバンチング処理によって適当な数の仮想曲線算出データが求められると、比較的小さな演算処理負荷で仮想曲線算出処理(カーブフィッティング)や特徴点決定処理を行うことができる。具体的には、例えば二次曲線などの仮想曲線Cが非線形最小二乗法等により求められる(
図4)。または双曲線余弦関数(ハイパボリックコサイン:cosh)を用いることもできるが、いずれの回帰曲線の場合にも回帰係数の個数の少ないほうがノイズや外れ値の影響を受けにくく望ましい。より詳しくは、例えば、隣接する5点のプロットデータを二次関数や3次以上の多項式に当てはめたりされる。
【0029】
ここで、上記のような仮想曲線算出処理の対象となる仮想曲線算出データの範囲は、前記バンチングする所定数を求めるためにピーク幅wを求める際に、互いに隣り合うプロットデータの計測信号強度の差に基づいて暫定スタート点や暫定エンド点を求める例を説明したのと同様に、互いに隣り合う上記仮想曲線算出データの信号強度の差に基づいて、スタート点、およびエンド点を求めることによって設定されるようにしてもよい。この場合、バンチング処理によって仮想曲線算出データの点数が適正になっており、かつ縦方向の検出信号ノイズが元データより比較的良好に抑制されていることが期待されるので、適切なスタート点、およびエンド点に応じた仮想曲線の算出が容易に可能になる。
【0030】
すなわち、不感変位Iの利用によってベースライン領域とピーク領域が容易に識別できることにもなるので、仮想曲線算出処理に先立ってピーク領域を切り出し、ピーク領域のデータ点のみを対象として仮想曲線算出処理することができる。例えば、連続回数3回の判定でスタート点を見出した場合、その1回目や、2回目のデータ点にも遡って仮想曲線算出処理に供するようにしてもよい。エンド点も同様に見出してから遡ってデータ点を確定し、仮想曲線算出処理に供することもできる(時間経過が前となる信号推移を考慮する)。また、不感変位Iを利用する方法は検出信号縦軸の量子化(有効数字を決める基準)にも資することができる。これの利点は、仮想曲線算出処理に用いるテータ点の簡素化である。またディスプレイ上や、印刷物にする場合にもこの量子化は有効である。
【0031】
また、仮想曲線算出処理によって得られる仮想曲線に基づいて、スタート点やエンド点などの特徴点が求められる場合などには、隣接する7点のプロットデータを双曲線関数(反比例関数)f(t)=a/(t-b)+cに当てはめたりされる(例えば
図7のD)。回帰関数は4次以上の多項式で推定することも可能であるが、回帰係数の数が増すとそれだけノイズなどの影響を受けやすくなり、回帰対象になる実データポイントの和を増やす必要性が高くなる。本来、回帰係数の数が少ないほうが外れ値などの影響を受けにくくなる。自然現象であるピーク波形は単純な曲線であるはずだという前提がこの回帰の背景にある。また、指数関数的な減衰曲線(Exponential decayfunction)として非線形関数ではあるがGaussianやEMG (Exponentially Modified Gaussian)なども利用可能である。ここで、複数のピーク等が隣接している場合などには、例えば入力された半値全幅のピーク幅wなど、代表的なピークの時間軸方向の特徴的な長さや区間、点数があらかじめまたは後に設定されて、当てはめが行われる。すなわち、例えば入力される(与えられる)ピーク幅に基づき仮想曲線を回帰する対象の実データ点数が決定される。
【0032】
また、漸近線的な仮想曲線算出処理について指数関数で回帰する場合、対数演算を用いた対数演算データに基づいて、1次式で回帰可能にしてもよい。例えば、
f(t)-C=αe^(t-T)/τ とすると、簡略化して
f(t)-C=Ae^t/τ と表され、回帰係数はA、C、および時定数τ(tがτだけ減少するとαは1/e倍に減衰する)となる。
【0033】
そこで、両辺の対数を取ると、
log{f(t)-C}=log A+t/τ
となるので、直線のベースラインを水平の漸近線y=Cと見なすことにより、右辺は、傾きが1/τ、切片がlog Aに対応するtの1次式で回帰可能となる。
【0034】
また、Cも回帰係数とする非線形の仮想曲線算出処理も可能である。例えば、
f(t)-C=Ae^-((t-tr)^2)/2σ^2とすると、簡略化して
f(t)-C=Ae^(a0+a1×t+a2×t^2) と表され、両辺の対数を取ると、
log{f(t)-C}=log A+a0+a1×t+a2×t^2
log{f(t)-C}=a0’+a1×t+a2×t^2
となるので、ベースラインが引かれたクロマトグラム波形{f(t)-C}の対数値log{f(t)-C}を時刻tの2次式を用いて回帰することができ、スタート点やエンド点の探索を容易にすることができる。
【0035】
また、同じような考え方で、2時曲線について、プロットデータの平方根を取っ手、直線で回帰することもできる。
y―C=(t+R)^2、SQRT(y―C)=t+R
また、ショルダーピークの特徴点としては、変曲点を用いることがある。この場合、3次以上の多項式や双曲線正弦関数に回帰分析することができる。この3次多項式は、極値をもたず変曲点をもつ。
【0036】
上記のような仮想曲線C(
図4)の頂点O等の座標は、多くの場合、代数演算等により比較的容易に求めることができる。具体的には、例えば仮想曲線が二次曲線f(t)=at^2+bt+cで表されるとすると、頂点Oの時間座標値は-b/2aで与えられる。
【0037】
または、反比例関数等の仮想曲線D(
図7)の場合には、ピークiの暫定高さをHとして、あらかじめ設定されまたは後に設定可能な値0.01を乗算した0.01Hを閾値として、暫定ベースラインと暫定頂点から左右に暫定スタート点(例えば
図7のR)や暫定エンド点を見いだしてもよい。
【0038】
また、仮想曲線が三次曲線f(t)=at^3+bt^2+ct+dで表されるとすると、ショルダー点Sの時間座標値tIは-b/3aで与えられる。また、隣接データ点の変化分が閾値以下になることを見出してもよい。ここで、回帰分析の際、2次関数の判別式を用いて、実数解を2個もたない(単調増加、単調減少である)ことを確認して暫定特徴点を求める処理を進めるようにしてもよい。また、実数解が顕著に2個で回帰された場合は、通常のピーク頂点検出処理を行うようにしてもよい。また、実数解1個の回帰3次式に制限するよう、係数a、b、c、dに関する拘束条件のもとで回帰するようにしてもよい。また、実数解が2個ある場合でも、ショルダー点としての変曲点の時間座標値が適切に求められる可能性が高い場合には、仮想曲線自体は必ずしも最も適切な曲線に一致していなくても、その変曲点に基づいて暫定ショルダー点を求めるようにしてもよい。また、回帰分析の区間設定は波形処理用タームテーブルの指定になる。自動で実行するときは、例えば暫定保持時間tRと入力のピーク半値全幅wを用いて、tR-2w~tR-1/4wを区間に設定し、回帰分析するようにしてもよい。ここで、上記区間tR-2w~tR-1/4wは柔軟性をもたせる必要があり、特に、隣接するピークが近いときは、その影響を受けないように設定されることが望ましい。
【0039】
また、回帰曲線の微分係数決定法にSavitzky-Golay法を利用し、スタート点、エンド店、バレー点、ピーク頂点、ショルダー点など仮想特徴点を一旦求めるようにしてもよい。すなわち、Savitzky-Golay法は微分係数を計算することにも有効であり、回帰係数を求めることのみならず、多項式の微分係数も決定できる。そこで、この微分係数を用いて、各仮想特徴点を求めるようにしてもよい。
【0040】
(実プロットデータ特徴点の抽出)
上記のようにして求められる頂点O等の座標は、通常、架空の点の座標である。そこで、そのように仮想曲線C等に基づいて求められた特徴点を暫定特徴点として、実測のプロットデータから、プロットデータ特徴点が抽出、選択される。具体的には、例えば、暫定特徴点に時間が最も近いプロットデータ(例えばプロットデータP)や、暫定特徴点からの距離が最も近いプロットデータ、または暫定特徴点から所定の時間範囲内など近傍で極値を取るプロットデータ(例えばプロットデータQ)や隣接プロットデータ間で勾配が最も小さい点などが、実プロットデータ特徴点として抽出、選択される。
【0041】
すなわち、暫定特徴点からの時間が短い方のプロットデータを選択するなど一定のルールに基づき実データ点と各種仮想特徴点を結びつけることができる。この論法が本発明の骨子であるが、2つの時刻間の時間が短い方を選択するというルール以外にも、時刻が早い方とか、時刻が遅い方とかを選択することも考えられる。また、2次元クロマトグラムの縦軸方向(検出強度)の情報も考慮するルールも考えられる。 上記のようにして求められたプロットデータ特徴点は、実際に計測されたプロットデータのうちで、特徴点またはそれに最も近い点である可能性が高い点なので、適切な特徴点の座標値を得ることが期待される。しかも、仮想曲線に基づいた暫定特徴点に比べて、離れたプロットデータなど他のプロットデータの影響を受けにくくすることができる。それゆえ、上記プロットデータ特徴点を用いて定性処理を行ったり、ベースラインの設定や、さらに定量処理を行ったりすることにより、検出精度を向上させることが容易にできる。また、ブランク試料が用意されない場合などでも、プロットデータ特徴点を結ぶ線分をベースラインとして、定量処理等を行ったりすることもできる。また、ブランクデータがある場合でも、ブランクデータへのノイズの影響が大きい場合などには、やはりプロットデータ特徴点を用いて、より正確な処理を行うことができる。さらに、ブランク試料を使っても、バレー点がベースラインまで低下しない場合にも、より正確な処理を行うことができる。
【0042】
(その他の事項)
なお、上記の例では液体クロマトグラフを例に挙げて説明したが、これに限らず、種々のクロマトグラフに対して、同様の処理を適用することができる。
【0043】
また、上記のような暫定特徴点とプロットデータ特徴点とを使う手法は、仮想曲線に基づいて直接特徴点を求める一般的な手法を排除するものではなく、それらの手法と、本発明の手法とを選択的に用い得るようにしてもよい。さらに、そのような種々の手法による分析結果を対比可能に表示できるようにしたりしてもよい。
【0044】
ここで時刻と時間の主な使い分けを説明する。時刻は、時々刻々と進む時計の各時点を表す。時刻には取り決めた原点、時刻ゼロがある。例えば、2020年4月1日16時10分10秒というような時点が時刻である。一方、時間は時間の長さを表し、10秒間とか、1.2分間とか時刻Aと時刻Bの差、期間である。保持時間も時間の一種である。
【0045】
また、上記のようなバンチング処理も含め、各処理に先立ち、ブランクサブトラクト、および/またはドリフト除去の処理を併用することも可能である。
【符号の説明】
【0046】
100 液体クロマトグラフ
110 移動相容器
120 ポンプ
130 オートサンプラ
140 カラム
141 カラムオーブン
150 検出器
160 データ処理装置
161 制御処理部
161a 制御部
161b 測定条件設定部
161c 記録部
162 データ保持部
163 演算処理部
163a 信号処理部
163b 演算部
163c 判定部
170 表示部