(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】部分酸化カップリング触媒、並びに、この触媒を用いたオレフィン製造装置及びオレフィン製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/04 20060101AFI20240216BHJP
B01J 8/02 20060101ALI20240216BHJP
B01J 8/04 20060101ALI20240216BHJP
B01J 35/57 20240101ALI20240216BHJP
C07C 2/84 20060101ALI20240216BHJP
C07C 11/04 20060101ALI20240216BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240216BHJP
【FI】
B01J23/04 Z
B01J8/02 D
B01J8/04 311Z
B01J35/04 301G
C07C2/84
C07C11/04
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020160435
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】行本 敦弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 幸男
(72)【発明者】
【氏名】仙波 範明
(72)【発明者】
【氏名】高鍋 和広
(72)【発明者】
【氏名】シリタナラットクル パヴィン
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/116484(WO,A1)
【文献】特開2020-028821(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0079708(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0014807(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01J 8/02
B01J 8/04
C07C 2/84
C07C 11/04
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mをアルカリ金属としたときにM
2ZrO
3で表される成分が担体に担持された構成を有する部分酸化カップリング触媒。
【請求項2】
前記担体は、
ナノメートルのオーダーの少なくとも1つの直径及び10:1超のアスペクト比を有するナノワイヤ構造、又は、
複数の細長い孔が並列に形成され、各孔の目開き及び隣り合う孔間の壁厚さがマイクロメートルオーダーであるマイクロハニカム構造
の少なくとも一方を有する、請求項1に記載の部分酸化カップリング触媒。
【請求項3】
メタンを含む原料ガスから請求項1または2に記載の部分酸化カップリング触媒を用いてオレフィンを製造するオレフィン製造装置であって、
前記オレフィン製造装置は、前記部分酸化カップリング触媒が収容された少なくとも1つの反応器を備えるオレフィン製造装置。
【請求項4】
前記オレフィン製造装置は複数の前記反応器を備え、該複数の反応器は直列に接続される、請求項3に記載のオレフィン製造装置。
【請求項5】
隣り合う反応器の間に設けられた冷却器をさらに備える、請求項4に記載のオレフィン製造装置。
【請求項6】
メタンを含む原料ガスから請求項1または2に記載の部分酸化カップリング触媒を用いてオレフィンを製造するオレフィン製造方法であって、
前記原料ガス中のメタンを、前記部分酸化カップリング触媒を用いて部分酸化カップリングする第1反応ステップを含むオレフィン製造方法。
【請求項7】
前記第1反応ステップの流出ガス中のメタンを、前記部分酸化カップリング触媒を用いて部分酸化カップリングする第2反応ステップを含む、請求項6に記載のオレフィン製造方法。
【請求項8】
前記第1反応ステップと前記第2反応ステップとの間に、前記流出ガスを冷却するステップをさらに含む、請求項7に記載のオレフィン製造方法。
【請求項9】
前記第1反応ステップにおいて前記原料ガス及び酸素が混合した反応ガスの流速と、前記第2反応ステップにおいて前記流出ガス及び酸素が混合した反応ガスの流速とはそれぞれ、10~100cm/秒である、請求項7または8に記載のオレフィン製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、部分酸化カップリング触媒、並びに、この触媒を用いたオレフィン製造装置及びオレフィン製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガス等のメタンを含むガスを用いた部分酸化カップリング反応(Oxidative Coupling of Methane、以下OCM反応という)により、オレフィンを製造する技術が知られている。特許文献1には、メタンのOCM反応によってオレフィンを製造する方法が開示されており、この方法では、タングステン酸ナトリウム(Na2WO4)を活性成分とする部分酸化カップリング触媒が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メタンのOCM反応では、メタンと酸素とが反応してエチレン等のオレフィンが生成する主反応の他に、メタンと酸素とが反応して、一酸化炭素及び二酸化炭素が生成する副反応や生成したオレフィンの酸化による二酸化炭素の生成する反応も生じる。この副反応が進行するほど生成される二酸化炭素が多くなり、オレフィンの選択率が低下してしまうといった問題点があった。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、オレフィンの選択率を向上できる部分酸化カップリング触媒、並びに、この触媒を用いたオレフィン製造装置及びオレフィン製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る部分酸化カップリング触媒は、Mをアルカリ金属としたときにM2ZrO3で表される成分が担体に担持された構成を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の部分酸化カップリング触媒によれば、メタンの部分酸化カップリング反応におけるオレフィンの選択率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態に係るオレフィン製造装置の構成模式図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る部分酸化カップリング触媒に担体として使用されるマイクロハニカムの構成を示す拡大部分正面図である。
【
図3】リチウムジルコネートの回折パターンのリファレンスと実施例のリチウムジルコネートの回折パターンの実測値とを比較した図である。
【
図4】各実施例及び各比較例のそれぞれにおけるメタンの転化率とC
2-4選択率との相関図である。
【
図5】各実施例のそれぞれにおける反応ガスの流速とC
2-4選択率との相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態による部分酸化カップリング触媒、並びに、この触媒を用いたオレフィン製造装置及びオレフィン製造方法について、図面に基づいて説明する。かかる実施の形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0010】
<本開示の一実施形態に係るオレフィン製造装置の構成>
図1に示されるように、本開示の一実施形態に係るオレフィン製造装置1は、複数の反応器2,3,4を備えている。
図1では、オレフィン製造装置1は3つの反応器2,3,4を備えているが、3つに限定するものではなく、1つの反応器を備えてもよく、2つの反応器を備えてもよく、4つ以上の反応器を備えてもよい。
【0011】
1段目の反応器2には、メタンを含む原料ガスを反応器2に供給するための供給管5が接続されている。反応器2と2段目の反応器3とは連結管6によって連通され、反応器3と3段目の反応器4とは連結管7によって連通されている。すなわち、3つの反応器2,3,4は直列に接続されている。尚、連結管6,7のそれぞれには、連結管6,7を流れる後述の流出ガスを冷却するための冷却器8,9を設けてもよい。
【0012】
反応器2,3,4のそれぞれには、部分酸化カップリング触媒10が収容されている。反応器2,3,4の内部にはそれぞれ、それらの長さ方向において部分酸化カップリング触媒10の上流側及び下流側に空間Sが形成されている。この空間Sは積極的に設けるものではなく、反応器2,3,4の構成上どうしても形成されてしまうものであり、可能な限り空間Sの容積は小さくすることが好ましい。
【0013】
供給管5には、供給管5内に酸素を供給するための酸素供給管11が接続されている。連結管6,7のそれぞれには、冷却器8,9よりも下流側で連結管6,7内のそれぞれに酸素を供給するための酸素供給管12,13が接続されている。
【0014】
<本開示の一実施形態に係る部分酸化カップリング触媒の構成>
部分酸化カップリング触媒10は、Mをアルカリ金属としたときにM2ZrO3で表される活性成分、例えばナトリウムジルコネート(Na2ZrO3)やリチウムジルコネート(Li2ZrO3)等が担体に担持された構成を有している。担体に担持される活性成分は1種類に限定するものではなく、アルカリ金属Mが異なる複数種類の活性成分を担持してもよい。例えば、ナトリウムジルコネートとリチウムジルコネートとを任意の割合で担体に担持してもよい。また、担体の構成は特に限定するものではなく、任意の構成の担体を使用することができる。活性成分を担体に担持することによって、触媒充填時のハンドリング性が向上する。また、比表面積が大きい担体に担持することで、触媒の単位体積あたりの触媒活性点の数を大きくすることができる。
【0015】
活性成分の表面積をさらに大きくするために、比表面積の高い担体を用いることが好ましい。このような担体として、ナノワイヤの形態やマイクロハニカムの形態の担体を用いることが好ましい。ナノワイヤとは、ナノメートルのオーダーの少なくとも1つの直径及び10:1超のアスペクト比を有する構成を意味する。マイクロハニカムとは、
図2に示されるように、マイクロハニカム20の本体部21に複数の細長い孔22が並列に形成され、各孔22の目開きw1又はw2及び隣り合う孔22,22間の壁厚さpがマイクロメートルオーダーである構成を意味する。ナノワイヤやマイクロハニカムの構成を有するか否かにかかわらず、部分酸化カップリング触媒10に使用される担体は、アルミナ(Al
2O
3)やシリカ(SiO
2)、ジルコニア(ZrO
2)等の任意のセラミックスや、任意の樹脂、任意の金属から形成することができる。
【0016】
<本開示の一実施形態に係るオレフィン製造装置の動作(オレフィン製造方法)>
次に、オレフィン製造装置1の動作、すなわちオレフィン製造方法について説明する。供給管5を流通する原料ガスが、酸素供給管11を介して供給管5に供給された酸素と混合されて反応ガスとなり、反応器2に供給される。反応器2では、部分酸化カップリング触媒10の触媒作用の下で、例えば、下記反応式(1)で表される主反応によってエチレンが生じる。
2CH4+O2→C2H4+2H2O ・・・(1)
【0017】
部分酸化カップリング触媒10の触媒作用による反応メカニズムは次の通りである。まず、酸素が部分酸化カップリング触媒10の活性成分に吸着して、活性酸素種(O*)となる。メタンがこの活性酸素種O*と反応してその水素原子が引き抜かれ、中間体であるメチルラジカルが生成する。メチルラジカル同士が反応することによってエタンが生成し、それが脱水素反応を受けることによってエチレンが生成される。活性酸素種O*を形成できる活性点が多く存在することによってエチレン選択率が高くなる。
【0018】
ただし、メチルラジカル同士の反応によってエタンのみが生じるのではなく、プロパンやブタン等のC3以上のアルカンも生成し得る。これにより、エチレンの他に、プロピレンやブテン等のオレフィンも生成し得る。このため、以下の説明における「反応式(1)で表される主反応」には、特に言及する場合を除いて、エチレンが生成する反応のみが含まれるのではなく、エチレン以外のオレフィンが生成する反応も含まれるものとする。また、以下の説明における「エチレンの選択率」も、特に言及する場合を除いて、エチレンのみの選択率を意味するのではなく、エチレンを含むオレフィンの選択率を意味することとする。
【0019】
一方で、反応器2では、下記反応式(2)及び(3)で表される副反応によって二酸化炭素も生成する。
CH4+2O2→CO2+2H2O ・・・(2)
CH4+3/2O2→CO+2H2O ・・・(3)
これらの副反応は、主に気相で起こり、部分酸化カップリング触媒10の触媒作用に関係のない反応であるため、反応式(1)で表される主反応が生じない領域、すなわち、反応器2内において部分酸化カップリング触媒10が存在しない部分である空間Sや、反応器に充填された触媒間の空隙部や、反応器2から流出後に連結管6を流れる間でも生じ得る。
【0020】
反応器2内を流通する反応ガスの流速の好ましい範囲は、10~100cm/秒である。その結果、反応ガスの空間Sにおける滞留時間が短くなり、反応式(2)で表される副反応のみが生じる時間が短くなるので、エチレンの選択率を高めることができる。
【0021】
反応器2から流出する流出ガスには、反応式(1)~(3)のそれぞれで表される主反応及び副反応によって得られたエチレン等のオレフィンと、一酸化炭素と、二酸化炭素と、水との他に、これらの反応で消費されなかったメタンが含まれている。この流出ガスは、連結管6を流通する間に、酸素供給管12を介して連結管6に供給された酸素と混合されて反応ガスとなり、反応器3に流入する。反応器3では、反応器2と同様に、部分酸化カップリング触媒10の触媒作用の下での主反応によりエチレン等のオレフィンが生成するとともに、副反応により二酸化炭素が生成する。反応器3も反応器2と同様の形状を有することにより、反応器3を流通する反応ガスの流速が、反応器2内を流通する反応ガスの流速の好ましい範囲と同等になるので、エチレンの選択率を高めることができる。
【0022】
反応器3から流出する流出ガスも、反応器2から流出する流出ガスと同様に、エチレン等のオレフィンと、二酸化炭素と、水との他に、消費されなかったメタンが含まれている。この流出ガスは、連結管7を流通する間に、酸素供給管13を介して連結管7に供給された酸素と混合されて反応ガスとなり、反応器4に流入する。反応器4では、反応器3と同様に、部分酸化カップリング触媒10の触媒作用の下での主反応によりエチレン等のオレフィンが生成するとともに、副反応により二酸化炭素が生成する。反応器4も反応器2,3と同様の形状を有することにより、反応器4を流通する反応ガスの流速が、反応器2,3内のそれぞれを流通する反応ガスの流速の好ましい範囲と同等になるので、エチレンの選択率を高めることができる。
【0023】
連結管6,7のそれぞれに冷却器8,9を設ける場合には、連結管6,7のそれぞれを流通する流出ガスは冷却器8,9によって冷却されるので、反応器3,4のそれぞれに流入する反応ガスの温度は、連結管6,7のそれぞれに冷却器8,9を設けない場合に比べて低くなり、反応器3,4のそれぞれにおける反応温度が低くなる。そうすると、反応式(2)で表される副反応は、部分酸化カップリング触媒10の触媒作用に関係がないため、その反応速度が小さくなり、反応器3,4のそれぞれにおける二酸化炭素の生成量が低くなる。その結果、エチレンの選択率を高めることができる。
【0024】
後述の実施例で詳細に説明するが、M2ZrO3で表される活性成分を有する部分酸化カップリング触媒10の活性と、他の触媒の活性とを比べると、同じ反応温度条件では前者の方が高い。そうすると、反応器3,4のそれぞれにおける反応温度が低くても、他の触媒を用いて反応温度を高めた条件での反応と同等の量のオレフィンを生成することができる。その結果、オレフィン製造装置1において、反応式(2)で表される副反応を抑制して反応式(1)で表される主反応を維持できるので、エチレンの選択率を高めることができる。
【実施例】
【0025】
<部分酸化カップリング触媒の調製>
固相法によって、以下の手順でリチウムジルコネートを調製した。Li及びZrのモル比が2:1となるように、1.930gの炭酸リチウム及び3.219gの二酸化ジルコニウムをアルミナ乳鉢に入れて、2~3mlのエタノールを注ぎ、乳棒で約15分間混合した。この混合物をマッフル炉内において10℃/分で1000℃まで昇温し、1000℃の温度で12時間保持した。このようにして焼成した混合物を自然冷却した後、圧縮成形機を用いて15~30MPaの圧力で圧縮し、粉砕してふるいを用いて250~500μmの粒子を分級した。
【0026】
ナトリウムジルコネートは、Na及びZrのモル比が2.4:1(Naが20%過剰)となるように、3.214gの炭酸ナトリウム及び2.661gの二酸化ジルコニウムの混合物を使用して、リチウムジルコネートの調製方法と同じ方法で調製した。
【0027】
上記手順で得られたリチウムジルコネートの回折パターンを高分解能X線回折装置(RINT-Ultima3,株式会社リガク)によって取得した。回折パターンの測定は、約0.1gのリチウムジルコネートに、7.5度/分のスキャン速度でCu Kα線を照射することにより行った。このようにして得られた回折パターンと、リチウムジルコネートの回折パターンのリファレンスとを
図3に並べた。その結果、両回折パターンはほぼ一致することから、上記手順によってリチウムジルコネートが得られたことを確認できた。
【0028】
<オレフィンの製造試験>
オレフィンの製造試験の反応器として、不活性な石英製の管状流通式反応器(内径4mm、外径6mm、長さ30cm)を使用した。この反応器に流通させる反応ガスとして、メタン/酸素のモル比が6.0であり、アルゴンの分圧が89kPaとなるようにアルゴンで希釈したものを使用した。
【0029】
この反応器の中に0.2gのリチウムジルコネートを入れ、反応温度を800℃、全圧を0.1MPaとし、反応ガスの流量が30~120standardcm3/分の範囲で異なるようにして反応器に流通させたものを実施例1~4とした。この反応器の中に0.05gのナトリウムジルコネートを入れ、反応温度を800℃、全圧を0.1MPaとし、反応ガスの流量が30~120standardcm3/分の範囲で異なるようにして反応器に流通させたものを実施例5~8とした。この反応器の中に0.2gのナトリウムジルコネートを入れ、反応温度を800℃、全圧を0.1MPaとし、反応ガスの流量が30~120standardcm3/分の範囲で異なるようにして反応器に流通させたものを実施例9~12とした。この反応器の中に0.2gの二酸化ジルコニウムを入れ、反応温度を800℃、全圧を0.1MPaとし、反応ガスの流量が30~120standardcm3/分の範囲で異なるようにして反応器に流通させたものを比較例1~4とした。実施例1~12及び比較例1~4のそれぞれの各触媒量並びに反応ガスの流量及び流速の条件を、下記表1にまとめた。
【0030】
【0031】
実施例1~12及び比較例1~4のそれぞれにおいて、反応器から流出した流出ガスをサンプリングし、ガスクロマトグラフ法によって、流出ガス中のメタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロペン、ブタン、ブテン、一酸化炭素及び二酸化炭素の濃度を測定し、これらの濃度に基づいて、メタンの転化率と、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロペン、ブタン及びブテンの選択率(以下、「C2-4選択率」という)を算出した。尚、「メタンの転化率」は、メタンのモル反応量とメタンのモル供給量との比であり、「C2-4選択率」は、メタンが反応して得られた水以外のモル生成物量のうち、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロペン、ブタン及びブテンのモル量の割合を意味する。
【0032】
実施例1~12及び比較例1~4のそれぞれにおけるメタンの転化率とC
2-4選択率との相関を
図4に示す。反応温度800℃において、実施例1~12のいずれも、比較例1~4に対して大幅にC
2-4選択率が高いことが分かる。また、同じ触媒量で比較した場合、実施例1~4及び9~12は比較例1~4よりも転化率が有意に高いことが分かる。このことから、前者の活性が後者の活性よりも高いと言える。すなわち、実施例1~12のC
2-4選択率及び活性は及び比較例1~4のC
2-4選択率及び活性よりも高いことが分かった。
【0033】
実施例1~12のそれぞれにおける反応ガスの流速とC
2-4選択率との相関を
図5に示す。いずれの触媒においても、反応ガスの流速が16~63cm/秒の範囲では、反応ガスの流速が大きくなるほどC
2-4選択率がわずかに上昇するが、その上昇も10%未満であることから、実施例1~12のそれぞれにおいて、反応ガスの流速が16~63cm/秒の範囲ではC
2-4選択率に大きな影響を及ぼさないと言える。これら実施形態1~12のデータを、流速16cm/秒より小さい側と、流速63cm/秒よりも大きい側とのそれぞれに外挿すると、流速10~100cm/秒の範囲では、流速の増加によるC
2-4選択率の上昇は10%程度になると言えることから、流速10~100cm/秒の範囲が反応ガスの流速の好ましい範囲であると考えられる。
【0034】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0035】
[1]一の態様に係る部分酸化カップリング触媒は、
Mをアルカリ金属としたときにM2ZrO3で表される成分が担体に担持された構成を有する。
【0036】
本開示の部分酸化カップリング触媒によれば、メタンの部分酸化カップリング反応におけるオレフィンの選択率を向上させることができる。
【0037】
[2]別の態様に係る部分酸化カップリング触媒は、[1]の部分酸化カップリング触媒であって、
前記担体は、
ナノメートルのオーダーの少なくとも1つの直径及び10:1超のアスペクト比を有するナノワイヤ構造、又は、
複数の細長い孔が並列に形成され、各孔の目開き及び隣り合う孔間の壁厚さがマイクロメートルオーダーであるマイクロハニカム構造
の少なくとも一方を有する。
【0038】
このような構成によれば、比表面積の高い担体に活性成分が担持されることで触媒の単位体積あたりの触媒活性点の数を大きくすることができるので、高い活性を得ることができる。
【0039】
[3]一の態様に係るオレフィン製造装置は、
メタンを含む原料ガスから[1]または[2]の部分酸化カップリング触媒(10)を用いてオレフィンを製造するオレフィン製造装置(1)であって、
前記オレフィン製造装置(1)は、前記部分酸化カップリング触媒(10)が収容された少なくとも1つの反応器(2,3,4)を備える。
【0040】
本開示のオレフィン製造装置によれば、[1]または[2]の部分酸化カップリング触媒を用いてオレフィンを製造するので、メタンの部分酸化カップリング反応におけるオレフィンの選択率を向上させることができる。
【0041】
[4]別の態様に係るオレフィン製造装置は、[3]のオレフィン製造装置であって、
前記オレフィン製造装置(1)は複数の前記反応器(2,3,4)を備え、該複数の反応器(2,3,4)は直列に接続される。
【0042】
本開示のオレフィン製造装置によれば、1つの反応器を有する構成又は複数の反応器が並列に設けられている構成に比べて、各反応器を流通する反応ガスの流速を高めることができる。そうすると、部分酸化カップリング触媒の存在しない空間が反応器に存在しても、このような空間における反応ガスの滞留時間が短くなり、OCM反応の副反応のみが生じる時間が短くなるので、オレフィンの選択率を高めることができる。
【0043】
[5]さらに別の態様に係るオレフィン製造装置は、[4]のオレフィン製造装置であって、
隣り合う反応器(2,3/3,4)の間に設けられた冷却器(8,9)をさらに備える。
【0044】
このような構成によれば、反応器から流出する流出ガスは冷却器によって冷却されるので、後段の反応器に流入する反応ガスの温度は、冷却器を設けない場合に比べて低くなり、後段の反応器における反応温度が低くなる。そうすると、OCM反応式の副反応は、部分酸化カップリング触媒の触媒作用に関係がないため、その反応速度が小さくなり、後段の反応器における一酸化炭素及び二酸化炭素の生成量が低くなる。その結果、オレフィンの選択率を高めることができる。
【0045】
[6]一の態様に係るオレフィン製造方法は、
メタンを含む原料ガスから[1]または[2]の部分酸化カップリング触媒を用いてオレフィンを製造するオレフィン製造方法であって、
前記原料ガス中のメタンを、前記部分酸化カップリング触媒を用いて部分酸化カップリングする第1反応ステップを含む。
【0046】
このような構成によれば、[1]または[2]の部分酸化カップリング触媒を用いてオレフィンを製造するので、メタンの部分酸化カップリング反応におけるオレフィンの選択率を向上させることができる。
【0047】
[7]別の態様に係るオレフィン製造方法は、[6]のオレフィン製造方法であって、
前記第1反応ステップの流出ガス中のメタンを、前記部分酸化カップリング触媒を用いて部分酸化カップリングする第2反応ステップを含む。
【0048】
このような構成によれば、1つの反応ステップのみを有する方法に比べて、各反応ステップにおける反応ガスの流速を高めることができる。そうすると、部分酸化カップリング触媒の存在しない空間が反応器に存在しても、このような空間における反応ガスの滞留時間が短くなり、OCM反応の副反応のみが生じる時間が短くなるので、オレフィンの選択率を高めることができる。
【0049】
[8]さらに別の態様に係るオレフィン製造方法は、[7]のオレフィン製造方法であって、
前記第1反応ステップと前記第2反応ステップとの間に、前記流出ガスを冷却するステップをさらに含む。
【0050】
このような製造方法によれば、第1反応ステップの流出ガスが冷却されるので、第2反応ステップの反応ガスの温度は、第1反応ステップの流出ガスを冷却しない場合に比べて低くなり、第2反応ステップの反応温度が低くなる。そうすると、OCM反応式の副反応は、部分酸化カップリング触媒の触媒作用に関係がないため、その反応速度が小さくなり、第2反応ステップにおける二酸化炭素の生成量が低くなる。その結果、オレフィンの選択率を高めることができる。
【0051】
[9]さらに別の態様に係るオレフィン製造方法は、[7]または[8]のオレフィン製造方法であって、
前記第1反応ステップにおいて前記原料ガス及び酸素が混合した反応ガスの流速と、前記第2反応ステップにおいて前記流出ガス及び酸素が混合した反応ガスの流速とはそれぞれ、10~100cm/秒である。
【0052】
本開示のオレフィン製造方法によれば、各反応器を流通する反応ガスの流速が高いので、部分酸化カップリング触媒の存在しない空間が反応器に存在しても、このような空間における反応ガスの滞留時間が短くなり、OCM反応の副反応のみが生じる時間が短くなる。その結果、オレフィンの選択率を高めることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 オレフィン製造装置
2 反応器
3 反応器
4 反応器
8 冷却器
9 冷却器
10 部分酸化カップリング触媒