(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】ワニス組成物、及びポリイミド樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20240216BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C08L79/08 A
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2020064295
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】田所 恵典
(72)【発明者】
【氏名】菊地 浩之
(72)【発明者】
【氏名】西條 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】塩田 大
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-174682(JP,A)
【文献】国際公開第2019/107464(WO,A1)
【文献】特開2014-029465(JP,A)
【文献】特開2018-123297(JP,A)
【文献】特開2016-027089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミック酸(A)と、溶媒(S)とを含み、
前記溶媒(S)が、窒素原子に炭素原子数3以上7以下のアルキル基が結合したN-アルキル-2-ピロリドン
、並びに、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド及びN,N,N’,N’-テトラメチルウレアから選択される少なくとも1種を含
み、
前記N-アルキル-2-ピロリドン、前記N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、及び前記N,N,N’,N’-テトラメチルウレアの質量の合計の比率が、前記溶媒(S)の質量に対して90質量%以上である、ポリイミド樹脂形成用のワニス組成物。
【請求項2】
前記溶媒(S)の質量における、前記N-アルキル-2-ピロリドンの質量の比率が、1質量%以上20質量%以下である、
請求項1に記載のワニス組成物。
【請求項3】
前記溶媒(S)の質量における、前記N-アルキル-2-ピロリドンの質量の比率が、1質量%以上6質量%以下である、
請求項2に記載のワニス組成物。
【請求項4】
前記N-アルキル-2-ピロリドンの含有量が、前記ワニス組成物の固形分100質量部に対して、6質量部以上110質量部以下である、
請求項2に記載のワニス組成物。
【請求項5】
前記N-アルキル-2-ピロリドンの含有量が、前記ワニス組成物の固形分100質量部に対して、6質量部以上34質量部以下である、
請求項4に記載のワニス組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の前記ワニス組成物を成形する成形工程と、
成形された前記ワニス組成物を加熱してイミド化させるイミド化工程と、を含むポリイミド樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワニス組成物と、当該ワニス組成物を用いるポリイミド樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、優れた耐熱性、機械的強度、及び絶縁性や、低誘電率等の特性を有するため、種々の素子や、多層配線基板等の電子基板のような電気・電子部品において、絶縁材や保護材として広く使用されている。
【0003】
一般に、ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを極性有機溶剤中で重合させて得られるポリアミック酸を、熱処理することによって形成される。このような背景もあり、電子材料用のポリイミド製品は、ポリアミック酸のようなポリイミド前駆体の溶液として供給されることが多い。具体的に、電気・電子部品を製造する際には、ポリイミド前駆体の溶液が、絶縁材や保護材を形成する個所に、塗布や注入等の方法により供給された後、ポリイミド前駆体の溶液を熱処理して、絶縁材や保護材が形成されている。
【0004】
このようなポリイミド樹脂に関する技術開拓が鋭意なされており、ポリアミック酸等を含む種々の樹脂組成物が開示されている(例えば特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、ポリイミド樹脂、特にポリイミドフィルムには用途によっては高度な表面平滑性が望まれる場合があるところ、特許文献1等に記載される樹脂組成物をワニス組成物として用いてポリイミド樹脂を製造する場合、高度に表面が平滑なポリイミド樹脂を形成しにく問題があった。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、高度に表面が平滑なポリイミド樹脂を形成できるワニス組成物と、当該ワニス組成物を用いるポリイミド樹脂の製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリアミック酸を含有するポリイミド樹脂形成用のワニス組成物において、溶媒(S)として、窒素原子に炭素原子数3以上7以下のアルキル基が結合したN-アルキル-2-ピロリドンを配合することにより上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
本発明の第1の態様は、
ポリアミック酸(A)と、溶媒(S)とを含み、
溶媒(S)が、窒素原子に炭素原子数3以上7以下のアルキル基が結合したN-アルキル-2-ピロリドンを含む、ポリイミド樹脂形成用のワニス組成物である。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様にかかるワニス組成物を成形する成形工程と、
成形されたワニス組成物を加熱してイミド化させるイミド化工程と、を含むポリイミド樹脂の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高度に表面が平滑なポリイミド樹脂を形成できるワニス組成物と、当該ワニス組成物を用いるポリイミド樹脂の製造方法とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪ワニス組成物≫
ワニス組成物は、ポリアミック酸(A)と、溶媒(S)とを含む。当該ワニス組成物は、ポリイミド樹脂の形成に用いられる。
【0013】
溶媒(S)は、窒素原子に炭素原子数3以上7以下のアルキル基が結合したN-アルキル-2-ピロリドンを含む。
【0014】
ワニス組成物が、溶媒(S)として、窒素原子に炭素原子数3以上7以下のアルキル基が結合したN-アルキル-2-ピロリドンを含むことにより、ワニス組成物を用いて高度に表面が平滑なポリイミド樹脂を形成できる。
【0015】
以下、ワニス組成物の必須、又は任意の成分に関して説明する。
【0016】
<ポリアミック酸(A)>
ワニス組成物は、ポリアミック酸(A)を含む。ポリアミック酸(A)は、ワニス組成物を硬化させた際に生成するポリイミド樹脂の前駆体ポリマーである。ポリアミック酸(A)は、従来より、ポリイミド樹脂を製造する際の前駆体ポリマーとして使用されている樹脂であれば特に限定されない。
【0017】
ポリアミック酸(A)は、通常、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン化合物とからなるモノマー成分を縮合することにより得ることができる。
ポリアミック酸は、下記式(a1)で表される構造単位を有し得る。
【化1】
(式(a1)中、A
1は炭素原子数6以上50以下の4価の有機基であり、A
2は2価の有機基である。)
【0018】
以下、ポリアミック酸(A)の製造に用いられる、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン化合物と、ポリアミック酸(A)の製造方法とについて以下説明する。
【0019】
〔テトラカルボン酸二無水物〕
式(a1)で表される構造単位を生成させるテトラカルボン酸二無水物は、下記式(a1-1)で表される。
式(a1-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、後述のジアミン化合物と反応して、式(a1)で表される構造単位を有するポリアミック酸(A)を与える。かかるテトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化2】
(式(a1-1)中、A
1は炭素原子数6以上50以下の4価の有機基である。)
【0020】
式(a1-1)中、A1は、炭素原子数6以上50以下の4価の有機基であり、式(a1-1)における2個の-CO-O-CO-で表される酸無水物基の他に、1又は複数の置換基を有していてもよい。
置換基の好適な例としては、フッ素原子、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数1以上6以下のフッ素化アルキル基、炭素原子数1以上6以下のフッ素化アルコキシ基が好ましい。また、式(a1-1)で表される化合物は、酸無水物基の他にカルボキシ基、カルボン酸エステル基を含んでいてもよい。
置換基がフッ素化アルキル基又はフッ素化アルコキシ基である場合、パーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルコキシ基であるのが好ましい。
以上の置換基については、後述の芳香族基が芳香環上に有していてもよい1又は複数の置換基についても同様のことがいえる。
【0021】
式(a1-1)中、A1は4価の有機基であり、その炭素原子数の下限値は6であり、上限値は50である。
A1を構成する炭素原子数は8以上がより好ましく、12以上がさらに好ましい。また、A1を構成する炭素原子数は40以下がより好ましく、30以下がさらに好ましい。A1は、脂肪族基であっても、芳香族基であっても、これらの構造を組み合わせた基であってもよい。A1は、炭素原子、及び水素原子の他に、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子を含んでいてもよい。A1が酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含む場合、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子は、含窒素複素環基、-CONH-、-NH-、-N=N-、-CH=N-、-COO-、-O-、-CO-、-SO-、-SO2-、-S-、及び-S-S-から選択される基として、A1に含まれてもよく、-O-、-CO-、-SO-、-SO2-、-S-、及び-S-S-から選択される基として、A1に含まれることがより好ましい。
【0022】
テトラカルボン酸二無水物は、従来からポリアミック酸の合成原料として使用されているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であっても、芳香族テトラカルボン酸二無水物であってもよい。
【0023】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシ)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシ)メタン二無水物等が挙げられる。また、脂肪族テトラカルボン酸二無水物は、脂環式構造を含有してもよい。該脂環式構造は多環式であってもよい。多環式の脂環式構造としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン等の橋かけ脂環式構造等が挙げられる。例えば、橋かけ脂環式構造は、他の橋かけ脂環式構造及び/又は非橋かけ脂環式構造と縮合していてもよいし、橋かけ脂環式構造が他の橋かけ脂環式構造及び/又は非橋かけ脂環式構造とスピロ結合により連結していてもよい。脂肪族テトラカルボン酸二無水物を用いる場合、組成物を用いて透明性に優れる硬化物を得やすい傾向がある。
【0024】
また、式(a1-1)におけるA
1を構成する脂肪族基としては、例えば、以下の式(a2)で示される4価の基を採用することができる。このような基を用いた場合、透明性に優れるポリイミド樹脂を得やすい傾向がある。
なお、原料化合物の精製が容易である点から、式(a2)中のaは5以下が好ましく、3以下がより好ましい。また、式(a1)で表される構造単位を与える原料化合物の化学的安定性が優れることから、aは1以上が好ましく、2以上がより好ましい。
式(a2)中のaは、2又は3が特に好ましい。
【化3】
(式(a2)中、R
a11、R
a12、及びR
a13は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1以上5以下のアルキル基及びフッ素原子からなる群より選択される1種であり、aは0以上12以下の整数である。)
【0025】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、3,3’,4,4’-オキシビスフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0026】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、また、例えば、下記一般式(a1-2)~(a1-4)で表される化合物であってもよい。
【化4】
【0027】
上記式(a1-2)及び式(a1-3)において、Ra1、Ra2及びRa3は、それぞれ、ハロゲンで置換されていてもよい脂肪族基、酸素原子、硫黄原子、1つ以上の2価元素を介した芳香族基のいずれかであるか、又はそれらの組み合わせによって構成される2価の基を示す。Ra2及びRa3は、同一であっても異なっていてもよい。
すなわち、Ra1、Ra2及びRa3は、炭素-炭素の一重結合、炭素-酸素-炭素のエーテル結合又はハロゲン元素(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)を含んでいてもよい。式(a1-2)で表される化合物としては、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)プロパン二無水物、及び1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物等が挙げられる。
【0028】
また、上記式(a1-4)において、Ra4、Ra5はハロゲンで置換されていてもよい脂肪族基、1つ以上の2価元素を介した芳香族基、ハロゲンのいずれかであるか、又はそれらの組み合わせによって構成される1価の置換基を示す。Ra4、及びRa5は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。式(a1-4)で表される化合物として、ジフルオロピロメリット酸二無水物、及びジクロロピロメリット酸二無水物等も用いることができる。
【0029】
分子構造内にフッ素を含有する含フッ素ポリイミドを得るためのテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(ヘプタフルオロプロピル)ピロメリット酸二無水物、ペンタフルオロエチルピロメリット酸二無水物、ビス{3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェノキシ}ピロメリット酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、5,5’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシビフェニル二無水物、2,2’,5,5’-テトラキス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシビフェニル二無水物、5,5’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシジフェニルエーテル二無水物、5,5’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシベンゾフェノン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ベンゼン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、2,2-ビス{4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビフェニル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ジフェニルエーテル二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物、ジフルオロピロメリット酸二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)オクタフルオロビフェニル二無水物等が挙げられる。
【0030】
テトラカルボン酸二無水物としては、得られるポリイミド樹脂の耐熱性及び透明性等を考慮した場合、脂環式テトラカルボン酸二無水物を用いることが好ましい。
なお、これらと同じ基本骨格を有するテトラカルボン酸の酸塩化物、エステル化物等も、用いることができる。
【0031】
テトラカルボン酸二無水物は、ジカルボン酸無水物と併用されてもよい。これらのカルボン酸無水物を併用すると、得られるポリイミド樹脂等のイミド環含有ポリマーの特性がさらに良好となる場合がある。ジカルボン酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水イタコン酸、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、無水クロレンド酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸、cis-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0032】
〔ジアミン化合物〕
ジアミン化合物は、下記式(a3-1)で表される化合物を典型的に用いることができる。ジアミン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
H2N-A2-NH2・・・(a3-1)
(式(a3-1)中、A2は2価の有機基を表す。)
【0033】
式(a3-1)中、A2は、2価の有機基であり、式(a3-1)における2つのアミノ基の他に、1又は複数の置換基を有していてもよい。
置換基の好適な例としては、フッ素原子、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数1以上6以下のフッ素化アルキル基、炭素原子数1以上6以下のフッ素化アルコキシ基又は水酸基が好ましい。
置換基がフッ素化アルキル基又はフッ素化アルコキシ基である場合、パーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルコキシ基であるのが好ましい。
【0034】
式(a3-1)中、A2としての有機基の炭素原子数の下限値は2が好ましく、6がより好ましく、上限値として50が好ましく、30がより好ましい。
A2は、脂肪族基であってもよいが、1以上の芳香環を含む有機基であることが好ましい。
【0035】
A2が1以上の芳香環を含む有機基である場合、当該有機基は、1の芳香族基そのものであってもよく、2以上の芳香族基が、脂肪族炭化水素基及びハロゲン化脂肪族炭化水素基や、酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子等のヘテロ原子を含む結合を介して結合された基であってもよい。A2に含まれる、酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子等のヘテロ原子を含む結合としては、-CONH-、-NH-、-N=N-、-CH=N-、-COO-、-O-、-CO-、-SO-、-SO2-、-S-、及び-S-S-等が挙げられ、-O-、-CO-、-SO-、-SO2-、-S-、及び-S-S-が好ましい。
【0036】
A2中のアミノ基と結合する芳香環はベンゼン環であることが好ましい。A2中のアミノ基と結合する環が2以上の環を含む縮合環である場合、当該縮合環中のアミノ基と結合する環はベンゼン環であることが好ましい。
また、A2に含まれる芳香環は、芳香族複素環であってもよい。
【0037】
A
2が芳香族環を含む有機基である場合、樹脂組成物を用いて形成される硬化物の耐熱性の点から、当該有機基は下記式(21)~(24)で表される基のうちの少なくとも1種であることが好ましい。
【化5】
(式(21)~(24)中、R
111は、水素原子、フッ素原子、水酸基、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、及び炭素原子数1以上4以下のハロゲン化アルキル基よりなる群から選択される1種を示す。式(24)中、Qは、9,9’-フルオレニリデン基、又は、式:-C
6H
4-、-CONH-C
6H
4-NHCO-、-NHCO-C
6H
4-CONH-、-O-C
6H
4-CO-C
6H
4-O-、-OCO-C
6H
4-COO-、-OCO-C
6H
4-C
6H
4-COO-、-OCO-、-O-、-S-、-CO-、-CONH-、-SO
2-、-C(CF
3)
2-、-C(CH
3)
2-、-CH
2-、-O-C
6H
4-C(CH
3)
2-C
6H
4-O-、-O-C
6H
4-C(CF
3)
2-C
6H
4-O-、-O-C
6H
4-SO
2-C
6H
4-O-、-C(CH
3)
2-C
6H
4-C(CH
3)
2-、-O-C
10H
6-O-、-O-C
6H
4-C
6H
4-O-、及び-O-C
6H
4-O-で表される基よりなる群から選択される1種を示す。
Qの例示における、-C
6H
4-はフェニレン基であり、m-フェニレン基、及びp-フェニレン基が好ましく、p-フェニレン基がより好ましい。また、-C
10H
6-は、ナフタレンジイル基であり、ナフタレン-1,2-ジイル基、ナフタレン-1,4-ジイル基、ナフタレン-2,3-ジイル基、ナフタレン-2,6-ジイル基、及びナフタレン-2,7-ジイル基が好ましく、ナフタレン-1,4-ジイル基、及びナフタレン-2,6-ジイル基がより好ましい。)
【0038】
式(21)~(24)中のR111としては、形成されるポリイミド樹脂の耐熱性の観点から、水素原子、水酸基、フッ素原子、メチル基、エチル基、又はトリフルオロメチル基がより好ましく、水素原子、水酸基、又はトリフルオロメチル基が特に好ましい。
【0039】
式(24)中のQとしては、形成されるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、9,9’-フルオレニリデン基、-O-C6H4-O-、-C(CF3)2-、-O-、-C(CH3)2-、-CH2-、又は-O-C6H4-C(CH3)2-C6H4-O-、-CONH-が好ましく、-O-C6H4-O-、-C(CF3)2-又は-O-が特に好ましい。
【0040】
式(a3-1)で表されるジアミン化合物として芳香族ジアミンを用いる場合、例えば、以下に示される芳香族ジアミンを好適に用いることができる。
すなわち、芳香族ジアミンとしては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,3’-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、及び4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエタン-1,1-ジイル)]ジアニリン等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、及び4,4’-ジアミノベンズアニリドが好ましい。
【0041】
また、A
2としては、鎖状の脂肪族基及び/又は芳香族環を有していてもよいケイ素原子含有基を採用することができる。このようなケイ素原子含有基としては、典型的には、以下に示される基を用いることができる。
【化6】
【0042】
また、得られるポリイミド樹脂の機械特性をさらに向上させる観点から、A
2として、以下の式(Si-1)で表される基も好ましく用いることができる。
【化7】
(式(Si-1)中、R
112及びR
113は、それぞれ独立に、単結合又はメチレン基、炭素原子数2以上20以下のアルキレン基、炭素原子数3以上20以下のシクロアルキレン基、又は炭素原子数6以上20以下のアリーレン基等であり、R
114、R
115、R
116、及びR
117は、それぞれ独立に、炭素原子数1以上20以下のアルキル基、炭素原子数3以上20以下のシクロアルキル基、炭素原子数6以上20以下のアリール基、炭素原子数20以下のアミノ基を含む基、-O-R
118で表される基(R
118は炭素原子数1以上20以下の炭化水素基)、炭素原子数2以上20以下の1以上のエポキシ基を含む有機基であり、lは、3以上50以下の整数である。)
【0043】
式(Si-1)中のR112及びR113における、炭素原子数2以上20以下のアルキレン基としては、耐熱性、残留応力の観点から炭素原子数2以上10以下のアルキレン基が好ましく、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
【0044】
式(Si-1)中のR112及びR113における、炭素原子数3以上20以下のシクロアルキレン基としては、耐熱性、残留応力の観点から炭素原子数3以上10以下のシクロアルキレン基が好ましく、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基等が挙げられる。
式(Si-1)中のR112及びR113における、炭素原子数6以上20以下のアリーレン基としては、耐熱性、残留応力の観点から炭素原子数6以上20以下の芳香族基が好ましく、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
【0045】
式(Si-1)中のR114、R115、R116、及びR117における炭素原子数1以上20以下のアルキル基としては、耐熱性と残留応力の観点から炭素原子数1以上10以下のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
式(Si-1)中のR114、R115、R116、及びR117における炭素原子数3以上20以下のシクロアルキル基としては、耐熱性、残留応力の観点から炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基が好ましく、具体的には、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
式(Si-1)中のR114、R115、R116、及びR117における炭素原子数6以上20以下のアリール基としては、耐熱性、残留応力の観点から炭素原子数6以上12以下のアリール基が好ましく、具体的には、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
式(Si-1)中のR114、R115、R116、及びR117における炭素原子数20以下のアミノ基を含む基としては、アミノ基、置換したアミノ基(例えば、ビス(トリアルキルシリル)アミノ基)等が挙げられる。
式(Si-1)中のR114、R115、R116、及びR117における-O-R118で表される基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基、トリルオキシ基、ナフチルオキシ基、プロペニルオキシ基(例えば、アリルオキシ基)、及びシクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
中でも、R114、R115、R116、及びR117として、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基である。
【0046】
式(Si-1)で表される基は、両末端にアミノ基を有するケイ素含有化合物を酸無水物に対して作用させることで導くことができる。このようなケイ素含有化合物の具体例としては、両末端アミノ変性メチルフェニルシリコーン(例えば信越化学社製の、X-22-1660B-3(数平均分子量4,400程度)及びX-22-9409(数平均分子量1,300程度))、両末端アミノ変性ジメチルシリコーン(例えば信越化学社製の、X-22-161A(数平均分子量1,600程度)、X-22-161B(数平均分子量3,000程度)及びKF8012(数平均分子量4,400程度);東レダウコーニング製のBY16-835U(数平均分子量900程度);並びにJNC社製のサイラプレーンFM3311(数平均分子量1000程度))等が挙げられる。
【0047】
〔ポリアミック酸(A)の製造方法〕
式(a1)で表される構造単位を有するポリアミック酸(A)は、典型的には、上述の式(a1-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物と、上述の式(a3-1)で表されるジアミン化合物とを溶媒中で反応させて得られるポリマーであり、ジアミン化合物及び/又はテトラカルボン酸二無水物をそれぞれ1種又は2種類以上を用いて得られるポリマーであってもよい。例えば、ジアミン化合物と2種類以上のテトラカルボン酸二無水物を含む混合物とを重縮合して得られるポリマーであってもよい。また、ポリアミック酸(A)は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0048】
ポリアミック酸(A)を合成する際の、テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の使用量は特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミン化合物を0.50モル以上1.50モル以下用いることが好ましく、0.60モル以上1.30モル以下用いることがより好ましく、0.70モル以上1.20モル以下用いることが特に好ましい。
また、得られるポリアミック酸(A)の重量平均分子量は、その用途にあわせて適宜設定すればよいが、例えば5000以上であり、7500以上が好ましく、10000以上がより好ましい。一方、得られるポリアミック酸(A)の重量平均分子量は、例えば100000以下であり、80000以下が好ましく、75000以下がより好ましい。
この重量平均分子量は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物の配合量や、溶媒や反応温度等の反応条件を調整して、上述の値とすればよい。
【0049】
テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との反応は、通常、有機溶媒中で行われる。テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との反応に使用される有機溶媒は、テトラカルボン酸二酸無水物及びジアミン化合物を溶解させることができ、テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物と反応しない有機溶媒であれば特に限定されない。有機溶媒は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0050】
テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との反応に用いる有機溶媒の例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、及びN,N,N’,N’-テトラメチルウレア等の含窒素極性溶媒;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、及びテトラヒドロフラン等のエーテル類が挙げられる。
【0051】
これらの有機溶剤の中では、生成するポリアミック酸(A)の溶解性から、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、及びN,N,N’,N’-テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤が好ましい。
【0052】
テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン化合物とを反応させる際の温度は、反応が良好に進行する限り特に限定されない。典型的には、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン化合物との反応温度は、-5℃以上150℃以下が好ましく、0℃以上120℃以下がより好ましく、0℃以上70℃以下が特に好ましい。テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン化合物とを反応させる時間は、反応温度によっても異なるが、典型的には、1時間以上50時間以下が好ましく、2時間以上40時間以下がより好ましく、5時間以上30時間以下が特に好ましい。
【0053】
以上説明した方法により、ポリアミック酸(A)を含む溶液が得られる。
上記のようにして得られるポリアミック酸(A)を含む溶液をそのままワニス組成物の調製に用いることもできるし、減圧下に、ポリアミック酸のポリイミド樹脂への変換が生じない程度の低温で、ポリアミック酸(A)の溶液から溶剤の少なくとも一部を除去して得られる、ポリアミック酸のペースト又は固体をワニス組成物の調製に用いることもできる。
【0054】
ワニス組成物におけるポリアミック酸(A)の含有量は、ワニス組成物の塗布性や、ポリアミック酸(A)の溶媒(S)への溶解性等を考量して適宜定められる。典型的には、ワニス組成物におけるポリアミック酸(A)の含有量は、ワニス組成物の質量に対して、5質量%以上45質量%以下が好ましく、7質量%以上40質量%以下がより好ましく、10質量%以上30質量%以下がさらに好ましい。
【0055】
<溶媒(S)>
溶媒(S)は、窒素原子に炭素原子数3以上7以下のアルキル基が結合したN-アルキル-2-ピロリドンを含む。
前述の通り、ワニス組成物が、窒素原子に炭素原子数3以上7以下のアルキル基が結合したN-アルキル-2-ピロリドンを含むことにより、ワニス組成物を用いて表面が高度に平滑なポリイミド樹脂を製造できる。
【0056】
N-アルキル-2-ピロリドンにおいて、窒素原子に結合するアルキル基は、その炭素原子数が3以上7以下であれば特に限定されない。かかるアルキル基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよく、直鎖状が好ましい。かかるアルキル基の炭素原子数は、3以上6以下が好ましく、3以上5以下がより好ましく、4が特に好ましい。
【0057】
N-アルキル-2-ピロリドンにおいて、窒素原子に結合するアルキル基の具体例としては、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、及びn-へプチル基が挙げられる。これらの中では、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、及びn-へプチル基が好ましく、n-プロピル基、n-ブチル基、及びn-ペンチル基がより好ましく、n-ブチル基が特に好ましい。
つまり、上記のN-アルキル-2-ピロリドンとしては、N-n-ブチル-2-ピロリドンが特に好ましい。
【0058】
上記のN-アルキル-2-ピロリドンは、ポリアミック酸(A)及びポリイミド樹脂を溶解させやすく、且つ、沸点が高い。このため、溶媒(S)として上記のN-アルキル-2-ピロリドンを含むワニス組成物を焼成してポリイミド樹脂を形成する場合には、高沸点のN-アルキル-2-ピロリドンが、焼成されるワニス組成物中から急激に揮発せずにとどまるため、形成されるポリイミド樹脂の表面に荒れが生じにくいと思われる。
【0059】
なお、N-メチル-2-ピロリドンの大気圧下での沸点が202℃であり、N-n-ブチル-2-ピロリドンの大気圧下での沸点が243℃である。
【0060】
形成されるポリイミド樹脂の表面の平滑性の点から、溶媒(S)の質量における、前述の窒素原子に炭素原子数3以上7以下のアルキル基が結合したN-アルキル-2-ピロリドンの質量の比率は、1質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましく、1質量%以上6質量%以下がさらに好ましい。
また、形成されるポリイミド樹脂の表面の平滑性の点から、窒素原子に炭素原子数3以上7以下のアルキル基が結合したN-アルキル-2-ピロリドンの含有量は、ワニス組成物の固形分100質量部に対して、6質量部以上110質量部以下が好ましく、6質量部以上55質量部以下がより好ましく、6質量部以上34質量部以下がさらに好ましい。
【0061】
溶媒(S)は、上記のN-アルキル-2-ピロリドンとともに、下記式(S1):
【化8】
(式(S1)中、R
S1は炭素原子数1以上2以下のアルキル基であり、R
S2は炭素原子数1以上3以下のアルキル基であり、R
S3は、水素原子、又は下記式(S1-1)若しくは下記式(S1-2):
【化9】
で表される基であり、R
S4は、水素原子又は水酸基であり、R
S5及びR
S6は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1以上3以下のアルキル基であり、R
S7及びR
S8は、それぞれ独立に水素原子、又は炭素原子数1以上3以下のアルキル基であり、R
S3が式(S1-1)で表される基である場合、R
S2及びR
S3は、互いに結合して環を形成してもよい。)
で表される含窒素化合物を含むのが好ましい。
【0062】
上記の式(S1)で表される含窒素化合物は、ポリアミック酸(A)を良好に溶解させ、且つ上記のN-アルキル-2-ピロリドンよりも沸点が低い。このため、溶媒(S)が、上記のN-アルキル-2-ピロリドンとともに上記の式(S1)で表される含窒素化合物を含むことにより、組成が均一なワニスの調製が容易であり、且つ、焼成中にある程度早く溶媒(S)を除去しつつ、形成されるポリイミド樹脂の表面における荒れの発生を良好に抑制できる。
【0063】
式(S1)で表される含窒素化合物のうち、RS3が、水素原子、又は式(S1-1)で表される基である場合の具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、N-エチル,N,2-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジエチル-2-メチルプロピオンアミド、N,N,2-トリメチル-2-ヒドロキシプロピオンアミド、N-エチル-N,2-ジメチル-2-ヒドロキシプロピオンアミド、及びN,N-ジエチル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアミド等が挙げられる。
【0064】
式(S1)で表される含窒素化合物のうち、RS3が式(S1-1)で表される基であり、RS2及びRS3が、互いに結合して環を形成している場合の具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、及びN-エチル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0065】
式(S1)で表される含窒素化合物のうち、RS3が式(S1-2)で表される基である場合の具体例としては、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア、N,N,N’,N’-テトラエチルウレア等が挙げられる。
【0066】
溶媒(S)は、溶媒(S)の揮発性や、含窒素化合物の入手の容易性から、上記式(S1)で表される含窒素化合物として、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、N-エチル,N,2-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジエチル-2-メチルプロピオンアミド、N,N,2-トリメチル-2-ヒドロキシプロピオンアミド、N-エチル-N,2-ジメチル-2-ヒドロキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア、及びN,N,N’,N’-テトラエチルウレアからなる群より選択される1種以上を含むのが好ましい。
【0067】
式(S1)で表される含窒素化合物の上記の例のうち、特に好ましい化合物としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、及びN,N,N’,N’-テトラメチルウレアが挙げられる。これらの中では、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、及びN,N,N’,N’-テトラメチルウレアが好ましい。N,N,2-トリメチルプロピオンアミドの大気圧下での沸点は175℃であって、N,N,N’,N’-テトラメチルウレアの大気圧下での沸点は177℃である。このように、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、及びN,N,N’,N’-テトラメチルウレアは沸点が低い。
このため、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、及びN,N,N’,N’-テトラメチルウレアから選択される少なくとも1種を含む溶媒(S)を含有するワニス組成物を用いると、ポリイミド樹脂を形成する際に、加熱により生成したポリイミド樹脂中に溶媒(S)が残存しにくく、得られるポリイミド樹脂の機械的特性の低下等を招きにくい。
【0068】
さらに、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、及びN,N,N’,N’-テトラメチルウレアは、EU(欧州連合)でのREACH規則において、有害性が懸念される物質であるSVHC(Substance of Very High Concern、高懸念物質)に指定されていないように、有害性が低い物質である点でも有用である。
【0069】
溶媒(S)は、窒素原子に炭素原子数3以上7以下のアルキル基が結合したN-アルキル-2-ピロリドン、及び式(S1)で表される含窒素化合物以外の溶媒を含んでいてもよい。溶媒(S)の質量に対する、窒素原子に炭素原子数3以上7以下のアルキル基が結合したN-アルキル-2-ピロリドンの質量、及び式(S1)で表される含窒素化合物の質量の合計の比率は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらにより好ましく、95質量%以上が特に好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0070】
溶媒(S)は、窒素原子に炭素原子数3以上7以下のアルキル基が結合したN-アルキル-2-ピロリドン、及び式(S1)で表される含窒素化合物以外に含んでいてもよい溶媒としては、水、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、及びジエチレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールモノエーテル;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、及びジエチレングリコールジプロピルエーテル等のグリコールジエーテル;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、及びジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールモノアセテート;ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、2-メトキシブチルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、4-メトキシブチルアセテート、2-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-エチル-3-メトキシブチルアセテート、2-エトキシブチルアセテート、4-エトキシブチルアセテート、4-プロポキシブチルアセテート、2-メトキシペンチルアセテート、3-メトキシペンチルアセテート、4-メトキシペンチルアセテート、2-メチル-3-メトキシペンチルアセテート、3-メチル-3-メトキシペンチルアセテート、3-メチル-4-メトキシペンチルアセテート、及び4-メチル-4-メトキシペンチルアセテート等のジオール類のモノエーテルモノアセテート;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルシソブチルケトン、エチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノン等のケトン類;プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、2-ヒドロキシプロピオン酸メチル、2-ヒドロキシプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシ-2-メチル、メチル-3-メトキシプロピオネート、エチル-3-メトキシプロピオネート、エチル-3-エトキシプロピオネート、エチル-3-プロポキシプロピオネート、プロピル-3-メトキシプロピオネート、イソプロピル-3-メトキシプロピオネート、エトキシ酢酸エチル、オキシ酢酸エチル、2-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、炭酸メチル、炭酸エチル、炭酸プロピル、炭酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、ピルビン酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸ベンジル、安息香酸エチル、シュウ酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、及びγ-ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ベンジルメチルエーテル、ベンジルエチルエーテル、及びテトラヒドロフラン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クレゾール、及びクロロベンゼン等の芳香族類;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、n-ヘキサノール、及びシクロヘキサノール等の脂肪族アルコール類;ポリエチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、及びジプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン;等が挙げられる。
【0071】
ワニス成物中の溶媒(S)の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。ワニス組成物中の溶媒(S)の含有量は、ワニス組成物中の固形分含有量に応じて適宜調整される。ワニス組成物中の固形分含有量は、例えば5質量%以上99.9質量%以下の範囲であり、5質量%以上70質量%以下が好ましく、10質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0072】
<熱塩基発生剤(B)>
焼成によるポリアミック酸(A)からポリアミド樹脂の生成を良好に進行させる目的で、ワニス組成物は、加熱により塩基性含窒素複素環化合物を発生させる熱塩基発生剤(B)を含むのが好ましい。
【0073】
熱塩基発生剤(B)が発生させる塩基性含窒素複素環化合物は、脂肪族環式化合物であっても、芳香族化合物であってもよい。塩基性含窒素複素環化合物が、2以上の単環が縮合した化合物である場合、2以上の単環は、脂肪族環のみからなってもよく、芳香族環のみからなってもよく、脂肪族環と芳香族環との組み合わせからなってもよい。
【0074】
熱塩基発生剤(B)が発生させる塩基性含窒素複素環化合物の例としては、ピロリジン、ピラゾリジン、イミダゾリジン、トリアゾリジン、テトラゾリジン、ピロリン、ピラゾリン、イミダゾリン、トリアゾリン、テトリゾリン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、及びテトラゾール等の含窒素5員環化合物;ピペリジン、ピペラジン、トリアジナン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン等の含窒素6員環;これらの化合物が1以上の置換基により置換された化合物;これらの化合物がシクロペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン等と縮合した化合物が挙げられる。
塩基性含窒素複素環化合物が、含窒素複素環上に置換基を有する場合、当該置換基としては、後述する式(B1)中の、R1、R2、及びR3と同様の基が挙げられる。
【0075】
ポリアミック酸(A)からのポリイミド樹脂の生成を促進させる効果が良好であること等から、熱塩基発生剤(B)成分が発生させる塩基性含窒素複素環化合物としては、下記式(B1):
【化10】
(式(B1)中、R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホナト基、又は有機基である。)
で表されるイミダゾール化合物が好ましい。
【0076】
R1、R2、及びR3における有機基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。この有機基は、該有機基中にヘテロ原子等の炭化水素基以外の結合や置換基を含んでいてもよい。また、この有機基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよい。この有機基は、通常は1価であるが、環状構造を形成する場合等には、2価以上の有機基となり得る。
【0077】
R1及びR2は、それらが結合して環状構造を形成していてもよく、ヘテロ原子の結合をさらに含んでいてもよい。環状構造としては、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロアリール基等が挙げられ、縮合環であってもよい。
【0078】
R1、R2、及びR3の有機基に含まれる結合は、本発明の効果が損なわれない限り特に限定されない。有機基は、酸素原子、窒素原子、珪素原子等のヘテロ原子を含む結合を含んでいてもよい。ヘテロ原子を含む結合の具体例としては、エーテル結合、カルボニル結合、チオカルボニル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、イミノ結合(-N=C(-R)-、-C(=NR)-:Rは水素原子又は有機基を示す)、カーボネート結合、スルホニル結合、アゾ結合等が挙げられる。
【0079】
R1、R2、及びR3の有機基が有してもよいヘテロ原子を含む結合としては、イミダゾール化合物の耐熱性の観点から、エーテル結合、カルボニル結合、チオカルボニル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、イミノ結合(-N=C(-R)-、-C(=NR)-:Rは水素原子又は1価の有機基を示す)、カーボネート結合、スルホニル結合が好ましい。
【0080】
R1、R2、及びR3の有機基が炭化水素基以外の置換基である場合、R1、R2、及びR3は本発明の効果が損なわれない限り特に限定されない。R1、R2、及びR3の具体例は、前述の通り、ハロゲン原子、水酸基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、及びホスホナト基である。上記置換基に含まれる水素原子は、炭化水素基によって置換されていてもよい。また、上記置換基に含まれる炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれでもよい。
【0081】
R1、R2、及びR3としては、水素原子、炭素原子数1以上12以下のアルキル基、炭素原子数1以上12以下のアリール基、炭素原子数1以上12以下のアルコキシ基、及びハロゲン原子が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0082】
熱塩基発生剤(B)は、加熱により塩基性含窒素複素環化合物を発生させることができる化合物であれば特に限定されない。従来から種々の組成物に配合されている、熱の作用によりアミンを発生する化合物(熱塩基発生剤)について、加熱時に発生するアミンに由来する骨格を、所望する塩基性含窒素複素環化合物に由来する骨格に置換することにより、熱塩基発生剤(B)として使用される化合物が得られる。
【0083】
好適な熱塩基発生剤(B)としては、下記式(B2):
【化11】
(式(B2)中、R
1、R
2、及びR
3は、式(B1)におけるこれらと同様であり、R
b1及びR
b2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、又は有機基を示し、R
b3、R
b4、R
b5、R
b6、及びR
b7は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、アミノ基、アンモニオ基、又は有機基を示し、R
b3、R
b4、R
b5、R
b6、及びR
b7は、それらの2つ以上が結合して環状構造を形成していてもよく、ヘテロ原子の結合を含んでいてもよい。)
で表される化合物が挙げられる。
【0084】
式(B2)において、R1、R2、及びR3は、式(B1)について説明したものと同様である。
【0085】
式(B2)において、Rb1及びRb2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、又は有機基を示す。
【0086】
Rb1及びRb2における有機基としては、R1、R2、及びR3について例示した基が挙げられる。この有機基は、R1、R2、及びR3の場合と同様に、該有機基中にヘテロ原子を含んでいてもよい。また、この有機基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよい。
【0087】
以上の中でも、Rb1及びRb2としては、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1以上10以下のアルキル基、炭素原子数4以上13以下のシクロアルキル基、炭素原子数4以上13以下のシクロアルケニル基、炭素原子数7以上16以下のアリールオキシアルキル基、炭素原子数7以上20以下のアラルキル基、シアノ基を有する炭素原子数2以上11以下のアルキル基、水酸基を有する炭素原子数1以上10以下のアルキル基、炭素原子数1以上10以下のアルコキシ基、炭素原子数2以上11以下のアミド基、炭素原子数1以上10以下のアシル基、炭素原子数2以上11以下のエステル基(-COOR、-OCOR:Rは炭化水素基を示す)、炭素原子数6以上20以下のアリール基、電子供与性基及び/又は電子吸引性基が置換した炭素原子数6以上20以下のアリール基、電子供与性基及び/又は電子吸引性基が置換したベンジル基、シアノ基であることが好ましい。より好ましくは、Rb1及びRb2の両方が水素原子であるか、又はRb1がメチル基であり、Rb2が水素原子である。
【0088】
式(B2)において、Rb3、Rb4、Rb5、Rb6、及びRb7は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、アミノ基、アンモニオ基、又は有機基を示す。
【0089】
Rb3、Rb4、Rb5、Rb6、及びRb7における有機基としては、R1、R2、及びR3において例示した基が挙げられる。この有機基は、R1、R2、及びR3の場合と同様に、該有機基中にヘテロ原子等の炭化水素基以外の結合や置換基を含んでいてもよい。また、この有機基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよい。
【0090】
Rb3、Rb4、Rb5、Rb6、及びRb7について、それらの2つ以上が結合して環状構造を形成していてもよい。Rb3、Rb4、Rb5、Rb6、及びRb7は、それぞれ、ヘテロ原子を含む結合を含んでいてもよい。環状構造としては、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロアリール基等が挙げられ、縮合環であってもよい。例えば、Rb3、Rb4、Rb5、Rb6、及びRb7は、それらの2つ以上が結合して、Rb3、Rb4、Rb5、Rb6、及びRb7が結合しているベンゼン環の原子を共有してナフタレン、アントラセン、フェナントレン、インデン等の縮合環を形成してもよい。縮合環が形成される場合、吸収波長が長波長化する点で好ましい。
【0091】
以上の中でも、Rb3、Rb4、Rb5、Rb6、及びRb7としては、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1以上10以下のアルキル基、炭素原子数4以上13以下のシクロアルキル基、炭素原子数4以上13以下のシクロアルケニル基、炭素原子数7以上16以下のアリールオキシアルキル基、炭素原子数7以上20以下のアラルキル基、シアノ基を有する炭素原子数2以上11以下のアルキル基、水酸基を有する炭素原子数1以上10以下のアルキル基、炭素原子数1以上10以下のアルコキシ基、炭素原子数2以上11以下のアミド基、炭素原子数1以上10以下のアシル基、炭素原子数2以上11以下のエステル基、炭素原子数6以上20以下のアリール基、電子供与性基及び/又は電子吸引性基が置換した炭素原子数6以上20以下のアリール基、電子供与性基及び/又は電子吸引性基が置換したベンジル基、シアノ基、及びニトロ基であることが好ましい。
【0092】
上記式(B2)で表される化合物の中では、下記式(B3):
【化12】
(式(B3)中、R
1、R
2、及びR
3は、式(B1)及び(B2)と同義である。R
b1~R
b6は式(B2)と同義である。R
b8は、水素原子又は有機基を示す。R
b3及びR
b4が水酸基となることはない。R
b3、R
b4、R
b5、及びR
b6は、それらの2つ以上が結合して環状構造を形成していてもよく、ヘテロ原子の結合を含んでいてもよい。)
で表される化合物が好ましい。
【0093】
式(B3)で表される化合物は、置換基-O-Rb8を有するため、溶媒(S)に対する溶解性に優れる。
【0094】
式(B3)において、Rb8は、水素原子又は有機基である。Rb8が有機基である場合、有機基としては、R1、R2、及びR3において例示した基が挙げられる。この有機基は、該有機基中にヘテロ原子を含んでいてもよい。また、この有機基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよい。Rb8としては、水素原子、又は炭素原子数1以上12以下のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0095】
式(B1)で表される化合物のうちで熱塩基発生剤(B)として特に好適な化合物の具体例を以下に示す。
【化13】
【0096】
また、下記式(B4)で表されるイミダゾール化合物も、熱塩基発生剤(B)として好適である。
【化14】
(式(B4)中、R
1、R
2、及びR
3は、式(B1)におけるこれらと同様であり、R
b9は、水素原子又は1価の有機基を表し、R
b10は置換基を有してもよい芳香族基を表し、R
b9は他方のR
b9又はR
b10と結合して環状構造を形成してもよい。)
【0097】
式(B4)中、Rb9は、水素原子又は1価の有機基である。1価の有機基としては、特に限定されず、例えば、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよい芳香族基等であってもよい。Rb9がアルキル基である場合、当該アルキル基は鎖中にエステル結合等を有してもよい。
【0098】
アルキル基としては、例えば後述の式(B4a)におけるRb11等と同様であってよい。アルキル基の炭素原子数は1以上40以下が好ましく、1以上30以下がより好ましく、1以上20以下が特に好ましく、1以上10以下が最も好ましい。
当該アルキル基が有していてもよい置換基としては、例えば後述の式(B4a)におけるRb11であるアルキレン基が有していてもよい置換基と同様であってよい。
【0099】
置換基を有してもよい芳香族基としては、後述の式(B4a)におけるRb10と同様であり、アリール基が好ましく、フェニル基がより好ましい。Rb9としての置換基を有してもよい芳香族基は、Rb10と同一であっても異なっていてもよい。
式(B4)中、一方のRb9は水素原子であることが好ましく、一方のRb9が水素原子であり他方のRb9が置換基を有してもよいアルキル基又は置換基を有してもよい芳香族基であることがより好ましい。
式(B4)中、Rb9は他方のRb9又はRb10と結合して環状構造を形成していてもよい。例えば、少なくとも1つのRb9が置換基を有してもよいアルキル基である場合、Rb9は他方のRb9又はRb10と結合して環状構造を形成していてもよい。
【0100】
式(B4)で表されるイミダゾール化合物は、下記式(B4a)で表される化合物であってもよい。
【0101】
【化15】
(式(B4a)中、R
1、R
2、及びR
3は式(B1)におけるこれらと同様であり、R
b11は水素原子又はアルキル基であり、R
b10は置換基を有してもよい芳香族基であり、R
b12は置換基を有してもよいアルキレン基であり、R
b12はR
b10と結合して環状構造を形成してもよい。)
【0102】
式(B4a)中、Rb11は水素原子又はアルキル基である。Rb11がアルキル基である場合、当該アルキル基は、直鎖アルキル基であっても、分岐鎖アルキル基であってもよい。当該アルキル基の炭素原子数は特に限定されないが、1以上20以下が好ましく、1以上10以下が好ましく、1以上5以下がより好ましい。
【0103】
Rb11として好適なアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチル-n-ヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、及びn-イコシル基が挙げられる。
【0104】
式(B4a)中、Rb10は、置換基を有してもよい芳香族基である。置換基を有してもよい芳香族基は、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基でもよく、置換基を有してもよい芳香族複素環基でもよい。
【0105】
芳香族炭化水素基の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。芳香族炭化水素基は、単環式の芳香族基であってもよく、2以上の芳香族炭化水素基が縮合して形成された基であってもよく、2以上の芳香族炭化水素基が単結合により結合して形成された基であってもよい。芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、アンスリル基、フェナンスレニル基が好ましい。
【0106】
芳香族複素環基の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。芳香族複素環基は、単環式基であってもよく、多環式基であってもよい。芳香族複素環基としては、ピリジル基、フリル基、チエニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、及びベンゾイミダゾリル基が好ましい。
【0107】
フェニル基、多環芳香族炭化水素基、又は芳香族複素環基が有してもよい置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、アミノ基、アンモニオ基、及び有機基が挙げられる。フェニル基、多環芳香族炭化水素基、又は芳香族複素環基が複数の置換基を有する場合、当該複数の置換基は、同一であっても異なっていてもよい。
【0108】
芳香族基が有する置換基が有機基である場合、当該有機基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、及びアラルキル基等が挙げられる。この有機基は、当該有機基中にヘテロ原子等の炭化水素基以外の結合や置換基を含んでいてもよい。また、この有機基は、直鎖状、分岐鎖状、環状、及びこれらの構造の組み合わせのいずれでもよい。この有機基は、通常は1価であるが、環状構造を形成する場合等には、2価以上の有機基となり得る。
【0109】
芳香族基が隣接する炭素原子上に置換基を有する場合、隣接する炭素原子上に結合する2つの置換基はそれが結合して環状構造を形成してもよい。環状構造としては、脂肪族炭化水素環や、ヘテロ原子を含む脂肪族環が挙げられる。
【0110】
芳香族基が有する置換基が有機基である場合に、当該有機基に含まれる結合は本発明の効果が損なわれない限り特に限定されず、有機基は、酸素原子、窒素原子、珪素原子等のヘテロ原子を含む結合を含んでいてもよい。ヘテロ原子を含む結合の具体例としては、エーテル結合、カルボニル結合、チオカルボニル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、イミノ結合(-N=C(-R)-、-C(=NR)-:Rは水素原子又は有機基を示す)、カーボネート結合、スルホニル結合、アゾ結合等が挙げられる。
【0111】
有機基が有してもよいヘテロ原子を含む結合としては、式(B4)又は式(B4a)で表されるイミダゾール化合物の耐熱性の観点から、エーテル結合、カルボニル結合、チオカルボニル結合、エステル結合、アミド結合、アミノ結合(-NR-:Rは水素原子又は1価の有機基を示す)ウレタン結合、イミノ結合(-N=C(-R)-、-C(=NR)-:Rは水素原子又は1価の有機基を示す)、カーボネート結合、スルホニル結合が好ましい。
【0112】
有機基が炭化水素基以外の置換基である場合、炭化水素基以外の置換基の種類は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。炭化水素基以外の置換基の具体例としては、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアルミ基、モノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、カルバモイル基、チオカルバモイル基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシラート基、アシル基、アシルオキシ基、スルフィノ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホナト基、アルキルエーテル基、アルケニルエーテル基、アリールエーテル基等が挙げられる。上記置換基に含まれる水素原子は、炭化水素基によって置換されていてもよい。また、上記置換基に含まれる炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれでもよい。
【0113】
フェニル基、多環芳香族炭化水素基、又は芳香族複素環基が有する置換基としては、炭素原子数1以上12以下のアルキル基、炭素原子数1以上12以下のアリール基、炭素原子数1以上12以下のアルコキシ基、炭素原子数1以上12以下のアリールオキシ基、炭素原子数1以上12以下のアリールアミノ基、及びハロゲン原子が好ましい。
【0114】
Rb10としては、式(B4)又は式(B4a)で表されるイミダゾール化合物を安価且つ容易に合成でき、イミダゾール化合物の水や有機溶媒に対する溶解性が良好であることから、それぞれ置換基を有してもよいフェニル基、フリル基、チエニル基が好ましい。
【0115】
式(B4a)中、Rb12は、置換基を有してもよいアルキレン基である。アルキレン基が有していてもよい置換基は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。アルキレン基が有していてもよい置換基の具体例としては、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、及びハロゲン原子等が挙げられる。アルキレン基は、直鎖アルキレン基であっても、分岐鎖アルキレン基であってもよく、直鎖アルキレン基が好ましい。アルキレン基の炭素原子数は特に限定されず、1以上20以下が好ましく、1以上10以下がより好ましく、1以上5以下が特に好ましい。なお、アルキレン基の炭素原子数には、アルキレン基に結合する置換基の炭素原子を含まない。
【0116】
アルキレン基に結合する置換基としてのアルコキシ基は、直鎖アルコキシ基であっても、分岐鎖アルコキシ基であってもよい。置換基としてのアルコキシ基の炭素原子数は特に限定されず、1以上10以下が好ましく、1以上6以下がより好ましく、1以上3以下が特に好ましい。
【0117】
アルキレン基に結合する置換基としてのアミノ基は、モノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基であってもよい。モノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基に含まれるアルキル基は、直鎖アルキル基であっても分岐鎖アルキル基であってもよい。モノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基に含まれるアルキル基の炭素原子数は特に限定されず、1以上10以下が好ましく、1以上6以下がより好ましく、1以上3以下が特に好ましい。
【0118】
Rb12として好適なアルキレン基の具体例としては、メチレン基、エタン-1,2-ジイル基、n-プロパン-1,3-ジイル基、n-プロパン-2,2-ジイル基、n-ブタン-1,4-ジイル基、n-ペンタン-1,5-ジイル基、n-ヘキサン-1,6-ジイル基、n-ヘプタン-1,7-ジイル基、n-オクタン-1,8-ジイル基、n-ノナン-1,9-ジイル基、n-デカン-1,10-ジイル基、n-ウンデカン-1,11-ジイル基、n-ドデカン-1,12-ジイル基、n-トリデカン-1,13-ジイル基、n-テトラデカン-1,14-ジイル基、n-ペンタデカン-1,15-ジイル基、n-ヘキサデカン-1,16-ジイル基、n-ヘプタデカン-1,17-ジイル基、n-オクタデカン-1,18-ジイル基、n-ノナデカン-1,19-ジイル基、及びn-イコサン-1,20-ジイル基が挙げられる。
【0119】
上記式(B4)で表されるイミダゾール化合物の中では、安価且つ容易に合成可能である点から、下記式(B4-1a)で表される化合物が好ましい。
【0120】
【化16】
(式(B4-1a)中、R
1、R
2、及び
R3は、式(B1)におけるこれらと同様であり、R
b9は、式(B4)と同様であり、R
b13、R
b14、R
b15、R
b16、及びR
b17は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、アミノ基、アンモニオ基、又は有機基である。R
b13、R
b14、R
b15、R
b16、及びR
b17のうち少なくとも2つが結合して環状構造を形成してもよい。R
b9はR
b15と結合して環状構造を形成してもよい。)
なお、式(B4-1a)において、R
b13、R
b14、R
b15、R
b16、及びR
b17は、全て水素原子であってもよい。また、式(B4-1)で表される化合物の溶媒(S)への溶解性の点で、R
b13、R
b14、R
b15、R
b16、及びR
b17のうちの少なくとも1つが水素原子以外の基であるのが好ましい。
【0121】
Rb13、Rb14、Rb15、Rb16、及びRb17は、後述の式(B4-1)におけるこれらと同様である。式(B4-1a)中、Rb9はRb15と結合して環状構造を形成していてもよい。例えば、Rb9が置換基を有してもよいアルキル基である場合、Rb9はRb15と結合して環状構造を形成していてもよい。
【0122】
上記式(B4a)又は式(B4-1a)で表されるイミダゾール化合物の中では、安価且つ容易に合成可能であり、水や有機溶剤に対する溶解性に優れる点から、下記式(B4-1)で表される化合物が好ましく、式(B4-1)で表され、Rb12がメチレン基である化合物がより好ましい。
【0123】
【化17】
(式(B4-1)中、R
1、R
2、及び
R3は式(B1)におけるこれらと同様であり、R
b11、及びR
b12は、式(B4a)におけるこれらと同様であり、R
b13、R
b14、R
b15、R
b16、及びR
b17は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、アミノ基、アンモニオ基、又は有機基である。R
b13、R
b14、R
b15、R
b16、及びR
b17のうち少なくとも2つが結合して環状構造を形成してもよい。R
b12はR
b15と結合して環状構造を形成してもよい。)
なお、式(B4-1)において、R
b13、R
b14、R
b15、R
b16、及びR
b17は、全て水素原子であってもよい。また、式(B4-1)で表される化合物の溶媒(S)への溶解性の点で、R
b13、R
b14、R
b15、R
b16、及びR
b17のうちの少なくとも1つが水素原子以外の基であるのが好ましい。
【0124】
Rb13、Rb14、Rb15、Rb16、及びRb17が有機基である場合、当該有機基は、式(B4a)におけるRb10が置換基として有する有機基と同様である。Rb13、Rb14、Rb15、及びRb16は、イミダゾール化合物の溶媒(S)に対する溶解性の点から水素原子であるのが好ましい。
【0125】
中でも、Rb13、Rb14、Rb15、Rb16、及びRb17のうち少なくとも1つは、下記置換基であることが好ましく、Rb17が下記置換基であるのが特に好ましい。Rb17が下記置換基である場合、Rb13、Rb14、Rb15、及びRb16は水素原子であるのが好ましい。
-O-Rb18
(Rb18は水素原子又は有機基である。)
【0126】
Rb18が有機基である場合、当該有機基は、式(B4a)におけるRb10が置換基として有する有機基と同様である。Rb18としては、アルキル基が好ましく、炭素原子数1以上8以下のアルキル基がより好ましく、炭素原子数1以上3以下のアルキル基が特に好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0127】
上記式(B4-1)で表される化合物の中では、下記式(B4-1-1)で表される化合物が好ましい。
【化18】
(式(B4-1-1)において、R
1、R
2、及び
R3は式(B1)におけるこれらと同様であり、R
b11は、式(B4a)と同様であり、R
b19、R
b20、R
b21、R
b22、及びR
b23は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、アミノ基、アンモニオ基、又は有機基である。ただし、R
b19、R
b20、R
b21、R
b22、及びR
b23のうち少なくとも1つは水素原子以外の基である。)
【0128】
式(B4-1-1)で表される化合物の中でも、Rb19、Rb20、Rb21、Rb22、及びRb23のうち少なくとも1つが、前述の-O-Rb18で表される基であることが好ましく、Rb23が-O-Rb18で表される基であるのが特に好ましい。Rb23が-O-Rb18で表される基である場合、Rb19、Rb20、Rb21、及びRb22は水素原子であるのが好ましい。
【0129】
式(B4)又は式(B4a)で表されるイミダゾール化合物の好適な具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【化19】
【0130】
ワニス組成物中の熱塩基発生剤(B)の含有量は、ワニス組成物の質量に対して、5質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上40質量%以下がより好ましい。かかる範囲内の量の熱塩基発生剤(B)を用いることにより、熱塩基発生剤(B)の熱分解物の過度の揮発や昇華をともなうことなく、ポリアミック酸(A)からのポリアミド樹脂の生成を効果的に促進することができる。
【0131】
<その他の成分>
ワニス組成物は、必要に応じて、種々の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、着色剤、分散剤、増感剤、密着促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、凝集防止剤、消泡剤、界面活性剤等が挙げられる。また、ワニス組成物は、必要に応じて、種々の充填材、又は強化材を含んでいてもよい。
各種添加剤の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。ワニス組成物の固形分の質量に対して、例えば、0.001質量%以上60質量%以下の範囲内で適宜調整すればよく、好ましくは0.05質量%以上5質量%以下である。
充填材又は強化材の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。充填材又は強化材の使用量は、典型的には、ポリアミック酸(A)の質量に対して、1質量%以上300質量%以下が好ましく、5質量%以上200質量%以下がより好ましく、10質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。
【0132】
以上の通り、上記のワニス組成物によれば、高度に表面が平滑なポリイミド樹脂を形成できる。
【0133】
≪ポリイミド樹脂の製造方法≫
以上説明したワニス組成物を成形する成形工程と、
成形されたワニス組成物を加熱してイミド化させるイミド化工程と、を含む方法によって、ポリイミド樹脂を製造することができる。
【0134】
ワニス組成物を成形する際、成形されたワニス組成物の形状は特に限定されない。ワニス組成物を成形する方法は特に限定されない。例えば、所望する形状の型の中にワニス組成物を注入する方法や、スキージ等を用いて鋳型内にワニス組成物を充填する方法や、基材上にワニス組成物を塗布する方法等が挙げられる。
これらの方法の中では、ポリイミド樹脂フィルムの需要が大きいことや、ポリイミド樹脂製造時にワニス組成物から溶媒(S)を良好に除去しやすいこと等から、基材上にワニス組成物を塗布する方法が好ましい。
ワニス組成物の塗布後は、加熱及び/又は真空若しくは減圧環境に置いて、塗布膜を乾燥し、乾燥膜を形成する。ワニス組成物における溶媒(S)が窒素原子に炭素原子数3以上7以下のアルキル基が結合したN-アルキル-2-ピロリドンを含むことで、加熱及び/又は真空若しくは減圧環境下の乾燥工程を経ても、高度に表面が平滑なポリイミド樹脂を形成できる。
【0135】
ワニス組成物又は乾燥工程後のワニス組成物を加熱する温度は、所望する性能のポリイミド樹脂が得られる温度であれば特に限定されない。ポリアミック酸を加熱する温度は、120℃以上430℃以下が好ましく、150℃以上420℃以下がより好ましい。このような範囲の温度でワニス組成物を加熱することにより、生成するポリイミド樹脂の熱劣化や熱分解を抑制しつつ、溶媒(S)を除去するとともに、ポリイミド樹脂を生成させることができる。
また、ガラス転移温度、及び引張強度が高く、熱膨張率が低く、着色の少ないポリイミド樹脂を形成しやすいことから、ポリアミック酸を、70℃以上120℃以下の温度で10分から2時間程度さらに150℃以上420℃以下で10分から2時間程度、段階的に温度を上げながら加熱してポリイミド樹脂を生成させるのも好ましい。
【0136】
以上説明したポリイミド樹脂の製造方法によれば、高度に表面が平滑なポリイミド樹脂を形成できる。上記の方法により形成されたポリイミド樹脂について算術平均粗さが、300Å以下であるのが好ましく、250Å以下であるのがより好ましく、200Å以下であるのがさらに好ましく、150Å以下であるのが特に好ましい。
【実施例】
【0137】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されない。
【0138】
〔調製例1〕
まず、容量30mLの三口フラスコをヒートガンで加熱して十分に乾燥させた。次に、三口フラスコ内の雰囲気を窒素で置換し、三口フラスコ内を窒素雰囲気とした。三口フラスコ内に、4,4’-ジアミノベンズアニリド0.2045g(0.90mmol:日本純良薬品株式会社製:DABAN)を添加した後、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア(TMU)を添加した。三口フラスコの内容物を撹拌して、TMU中に芳香族ジアミン(DABAN)が分散したスラリー液を得た。
次に、三口フラスコ内に下記式のテトラカルボン酸二無水物0.3459g(0.90mmol)を添加した後、窒素雰囲気下に、室温(25℃)で12時間フラスコの内容物を撹拌して反応液を得た。このようにして、ポリアミック酸A-1を固形分濃度18質量%で含むポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸A-1は、透明なポリイミド樹脂を与える。
【化20】
【0139】
〔調製例2〕
ジアミン成分を4,4’-ジアミノジフェニルエーテルに変えることと、テトラカルボン酸二無水物成分をピロメリット酸二無水物に変えることと、溶媒をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に変えることとの他は、調製例1と同様にして、ポリアミック酸A-2を固形分濃度18質量%で含むポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸A-2は、不透明なポリイミド樹脂を与える。
【0140】
〔実施例1~6〕
表1に記載の種類のポリアミック酸(A)80質量部を含むポリアミック酸溶液と、下記構造の化合物である熱塩基発生剤(B)20質量部とを混合した後、溶媒(S)が表1に記載の組成となり、且つ固形分濃度が15質量%になるように混合物を希釈して実施例1~6のワニス組成物を得た。
なお、表1中の溶媒の名称について、NBPはN-n-ブチル-2-ピロリドンを意味する。
【化21】
【0141】
〔実施例7〕
ポリアミック酸A-2を100質量部含むポリアミック酸溶液を、溶媒(S)が表1に記載の組成となり、且つ固形分濃度が15質量%になるように希釈して実施例7のワニス組成物を得た。
【0142】
〔比較例1〕
ポリアミック酸A-1を80質量部含むポリアミック酸溶液と、実施例1で用いた熱塩基発生剤(B)20質量部とを混合した後、溶媒(S)が表1に記載の組成となり、且つ固形分濃度が15質量%になるように混合物を希釈して比較例1のワニス組成物を得た。
【0143】
〔比較例2〕
ポリアミック酸A-2を80質量部含むポリアミック酸溶液と、実施例1で用いた熱塩基発生剤(B)20質量部とを混合した後、溶媒(S)が表1に記載の組成となり、且つ固形分濃度が15質量%になるように混合物を希釈して比較例2のワニス組成物を得た。
【0144】
〔比較例3〕
ポリアミック酸A-2を100質量部含むポリアミック酸溶液を、溶媒(S)が表1に記載の組成となり、且つ固形分濃度が15質量%になるように希釈して比較例3のワニス組成物を得た。
【0145】
以上のようにして得た、各実施例、及び比較例のワニス組成物を用いて、以下の方法に従ってポリイミド樹脂フィルムの成膜を行い、形成されたポリイミド樹脂フィルムについて、算術平均粗さRa(Å)と、ムラと、真空乾燥後のディフェクトとを評価した。
【0146】
<ポリイミド樹脂フィルムの成膜方法>
ガラス基板(縦:100mm、横100mm、厚み1.3mm)上に、上述のようにして得られたワニス組成物を、加熱硬化後の塗膜の厚みが13μmとなるようにスピンコートして、塗膜を形成した。次いで、塗膜を備えるガラス基板を、温度50℃、圧力13Paの条件下で真空乾燥して、塗膜中の溶媒を除去した。
溶媒の除去後、塗膜を備えるガラス基板を3L/分の流量で窒素が流れているイナートオーブンに投入した。イナートオーブン内で、窒素雰囲気下、80℃の温度条件で0.5時間静置した後、さらに400℃の温度条件(最終加熱温度)で0.5時間加熱して、塗膜を硬化させて、ポリイミドからなる薄膜(ポリイミドフィルム)でコートされたポリイミドコートガラスを得た。
得られたポリイミドコートガラスを、90℃の湯の中に浸漬して、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離させて、ポリイミドフィルム(縦100mm、横100mm、厚み13μmの大きさのフィルム)を得た。
【0147】
<算術平均粗さ>
表面粗さRaは、触針式表面粗さ計(アルバック社製Dektak150)を用いて測定し、200Åより大きい場合を×、200Å未満の場合を〇とした。
【0148】
<ムラ>
形成されたポリイミド樹脂フィルムを、ナトリウムランプで照らし成膜ムラの有無を確認した。ムラが認められた場合を×と判定し、ムラが認められなかった場合を〇と判定した。
【0149】
<真空乾燥後のディフェクト>
ポリイミド樹脂フィルムの成膜において、ワニス組成物を塗布した後に塗布膜を真空乾燥した直後の、乾燥された塗布膜における100mm×100mmの範囲内におけるディフェクトの個数を、「AOI」(TAKANO社製)を用いて、塗膜表面の欠陥を検査して計測した。100mm×100mmの範囲内におけるディフェクトの個数が100個以上であった場合を×と判定し、99個以下であった場合を〇と判定した。
【0150】
また、各実施例、及び比較例のワニス組成物を用いてポリイミド樹脂フィルムを形成し、以下の方法に従って、形成されたポリイミド樹脂についての黄色度(YI)、光線透過率、熱膨張率(CTE)、破断伸び、及び引張強度の評価を行った。
【0151】
<黄色度(YI)、光線(全光線)透過率>
各実施例、及び比較例のポリイミドフィルムの、全光線透過率(光線透過率)の値(単位:%)、及び黄色度(YI)は、測定装置として日本電色工業株式会社製の商品名「ヘーズメーターNDH-5000」を用いて、JIS K7361-1(1997年発行)に準拠した測定を行うことにより求めた。
【0152】
<熱膨張率(CTE)>
各実施例、及び比較例のポリイミドフィルムから、縦:20mm、横:5mmの大きさの測定用のフィルムを形成した。
次に、測定装置として熱機械的分析装置(株式会社島津製作所製の商品名「TMA-60」)を利用して、得られた測定用のフィルムを窒素雰囲気下で昇温速度10℃/分の条件で30度から200度まで昇温した後一旦30度まで冷却し、再度、昇温速度10℃/分の条件で30度から500度まで昇温した際の100℃~350℃における試料の長さの変化を測定して、100℃~350℃における1℃あたりの長さの変化の平均値を求めることにより測定した。なお、引張りモードは49mNとした。
【0153】
<破断伸び及び引張強度>
各実施例、及び比較例のポリイミドフィルムについて、SD型レバー式試料裁断器(株式会社ダンベル製の裁断器(型式SDL-200))に、株式会社ダンベル製の商品名「スーパーダンベルカッター(型:SDMK-1000-D、JIS K7139(2009年発行)のA22規格に準拠)」を取り付けて、ポリイミドフィルムの大きさが、全長:75mm、タブ部間距離:57mm、平行部の長さ:30mm、肩部の半径:30mm、端部の幅:10mm、中央の平行部の幅:5mm、厚み:13μmとなるように裁断して、ダンベル形状の試験片(厚みを13μmにした以外はJIS K7139 タイプA22(縮尺試験片)の規格に沿った試験片)を、測定試料として調製した。
次いで、テンシロン型万能試験機(株式会社エー・アンド・デイ製の型番「UCT-10T」)を用いて、測定試料を掴み具間の幅が57mm、掴み部分の幅が10mm(端部の全幅)となるようにして配置した後、荷重フルスケール:0.05kN、試験速度:1~300mm/分の条件で測定試料を引っ張る引張試験を行って、引張強度及び破断伸びの値を求めた。
上記の試験は、JIS K7162(1994年発行)に準拠した試験である。
また、破断伸びの値(%)は、試験片の平行部の長さ(=平行部の長さ:30mm)をL0とし、破断するまでの試験片の平行部の長さ(破断した際の試験片の平行部の長さ:30mm+α)をLとして、下記式:
[破断伸び(%)]={(L-L0)/L0}×100
を計算して求めた。
【0154】
下記表1において、N-n-ブチル-2-ピロリドン(NBP)は、窒素原子に炭素原子数3以上7以下のアルキル基が結合したN-アルキル-2-ピロリドンに該当する。N,N,N’,N’-テトラメチルウレア(TMU)及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)は、前述の式(S1)で表される含窒素化合物に該当する。
【表1】
【0155】
【0156】
表1及び表2によれば、溶媒(S)としてNBPを含む実施例のワニスを用いることにより、高度に表面が平滑なポリイミド樹脂を形成できることが分かる。
他方、溶媒(S)としてNBPを含まない比較例のワニスを用いる場合、表面が平滑なポリイミド樹脂を形成しにくい。
【0157】
また、理由は不明であるが、溶媒(S)の組成を除いて同一である、実施例1~4と、比較例1との比較によれば、溶媒(S)にNBPを含有させることにより、ワニス組成物を用いて形成されるポリイミド樹脂の黄色度(YI)が低下し、光線透過率が向上する傾向がみられた。
さらに、理由は不明であるが、溶媒(S)の組成を除いて同一である、実施例1~4と、比較例1との比較、実施例5及び実施例6と、比較例2との比較、並びに実施例7と比較例3との比較によれば、溶媒(S)にNBPを含有させることにより、ワニス組成物を用いて形成されるポリイミド樹脂の熱膨張率(CTE)が低下し、破断伸びが向上し、張強度が維持されるか向上する傾向がみられた。