(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】アスファルト組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20240216BHJP
C08L 95/00 20060101ALI20240216BHJP
C08L 97/00 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C08J3/20 Z CEZ
C08L95/00
C08L97/00
(21)【出願番号】P 2020102077
(22)【出願日】2020-06-12
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 啓人
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 彰
(72)【発明者】
【氏名】野口 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】呉 悦樵
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/092278(WO,A1)
【文献】特表2017-508862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00- 3/28
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニン含有物と、アスファルト含有物と、界面活性剤と、を含む混合物を、120℃以上250℃以下に加熱した状態で撹拌する工程を有する、アスファルト組成物の製造方法。
【請求項2】
前記撹拌
する工程の後、さらに180℃以上250℃以下に加熱する工程を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記撹拌
する工程の前に、前記混合物にリグニン及びリグニン誘導体の重合を抑制する化合物を含有させる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記リグニン含有物に含まれるリグニン及びリグニン誘導体の重量平均分子量が100~10000であり、
前記リグニン及びリグニン誘導体の70質量%以上がテトラヒドロフランに可溶であり、
前記リグニン及びリグニン誘導体の軟化温度が250℃以下である、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記リグニン及びリグニン誘導体が、リグニン含有材料からフェノール化合物を含む溶媒で抽出された抽出物である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記リグニン含有材料が、植物系バイオマスの糖化残渣及び発酵残渣の少なくとも一方である、請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスファルト(ビチューメン、ビチュメンとも呼ぶ。)は、石油の蒸留残留物等であり、道路舗装用材料、防水剤、防腐剤、接着剤等に使用されている。石油由来のアスファルトに、バイオマス由来のリグニン及びその誘導体を添加したアスファルト組成物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。リグニン及びその誘導体は、例えば、アスファルトの増量剤として使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リグニン、リグニン誘導体等を含む材料(以下、リグニン含有物という。)を、アスファルトを含む材料(以下、アスファルト含有物という。)に混合する場合、加熱しながら、ハイシアミキサー、プロペラミキサーのような撹拌装置で混合し、剪断力を与えることにより、アスファルト含有物中にリグニン含有物を微細に分散することができる。しかしながら、撹拌を停止すると、分散したリグニン含有物が容易に再凝集するため、冷却後にはリグニン含有物が高分散した状態を維持することができなかった。
本発明の目的は、冷却後でもリグニン含有物が高分散しているアスファルト組成物の製造方法に関する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、リグニン含有物と、アスファルト含有物と、界面活性剤と、を含む混合物を、120℃以上250℃以下に加熱した状態で撹拌する工程を有する、アスファルト組成物の製造方法に関する技術が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、冷却後でもリグニン含有物が高分散しているアスファルト組成物の製造方法に関する技術が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の一実施形態に係るアスファルト組成物の製造方法は、リグニン含有物と、アスファルト含有物と、界面活性剤と、を含む混合物を、120℃以上250℃以下に加熱した状態で撹拌する工程を有する。
本実施形態では、混合物に界面活性剤を含有させて撹拌することにより、撹拌による剪断力で微細に分散したリグニン含有物の、再凝集を抑制しつつ冷却することができる。これにより、アスファルト含有物中にリグニン含有物が微分散した組成物が得られる。
【0008】
また、混合物を120℃以上250℃以下に加熱した状態で撹拌することにより、リグニン含有物のアスファルト含有物中への拡散が容易となる。また、250℃以下とすることでリグニン含有物中のリグニン同士の縮重合を抑制することが期待できる。
以下、本実施形態の構成成分及び製造方法を説明する。
【0009】
[アスファルト含有物]
本実施形態において、アスファルト含有物はアスファルト基油を含む。例えば、アスファルト含有物全体に対しアスファルト基油が30質量%以上、50質量%以上、90質量%以上、95質量%以上又は実質的に100質量%である。なお、「実質的に100質量%」の場合、不可避不純物を含んでもよい。他の成分としては後述する芳香族系重質鉱油、添加剤、充填材等が挙げられる。
本願において「アスファルト基油」には、直接蒸留による石油又は減圧による石油の蒸留からの生成物であるストレートアスファルトだけでなく、プロパン脱れきアスファルト等の溶剤脱れきアスファルト、これらの酸化及び/又は可塑化生成物、ブローン又はセミブローン・アスファルトも含まれる。
【0010】
(ストレートアスファルト)
ストレートアスファルトとしては、JIS K 2207に定められるアスファルト又はこれらの混合物を使用することができる。本実施形態において、ストレートアスファルトは針入度グレード40~60から200~300相当品まで使用することができる。
【0011】
(溶剤脱れきアスファルト)
溶剤脱れきアスファルトは、減圧蒸留残油から溶剤脱れき油(高粘度潤滑油留分)を抽出した残渣分に相当する(「新石油辞典」,石油学会編,1982年,p.308参照)。特に溶剤としてプロパン、又はプロパン及びブタンを用いた場合をプロパン脱れきアスファルトと呼ぶ。
【0012】
(ブローンアスファルト)
ブローンアスファルトは、例えば、JIS K 2207に定められるアスファルトである。
【0013】
(セミブローンアスファルト)
セミブローンアスファルトは、例えば、「アスファルト舗装要綱」,社団法人日本道路協会発行,平成9年1月13日,p.51,表-3.3.4に定められるセミブローンアスファルトである。
【0014】
一実施形態では、アスファルトは原油残渣の蒸留によって得られる。蒸留工程において、残渣の異なる量の軽質成分を除去することによって、異なる等級のアスファルト(すなわち、異なる硬度及び軟化点のアスファルト)を製造することができる。軽質成分をより多量に除去するほど、より硬質なアスファルトが製造される。180~300℃の温度で残渣を通して空気を吹き込むことによって同様の硬質化効果を得ることができる。この方法で製造されたアスファルトは、ブローン又はエアブローン・アスファルトと呼ばれる。産業界でよく知られているように、リン酸又は塩化第二鉄等の添加物を、ブローンプロセスにおいて任意に用いてもよい。
【0015】
[リグニン含有物]
本実施形態において、リグニン含有物は、リグニン、リグニン誘導体等のリグニン関連物質を主成分として含み、必要に応じて他の成分を含み得る。リグニン関連物質を主成分として含むとは、例えば、リグニン含有物全体に対しリグニン関連物質が50質量%以上、90質量%以上、95質量%以上又は実質的に100質量%であることを意味する。なお、「実質的に100質量%」の場合、不可避不純物を含んでもよい。他の成分としては後述する添加剤、リグニン及びリグニン誘導体の重合を抑制する化合物等が挙げられる。
【0016】
一実施形態において、リグニン含有物に含まれるリグニン及びリグニン誘導体の重量平均分子量が100~10000である。これにより、120℃以上250℃以下に加熱した状態で撹拌する工程において溶融状態となる。重量平均分子量は、300~5000であることがより好ましく、500~3000であることがさらに好ましい。
リグニン及びリグニン誘導体の重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により標準ポリスチレン換算分子量で求めた値である。
【0017】
一実施形態において、リグニン及びリグニン誘導体の70質量%以上がテトラヒドロフランに可溶である。これにより、リグニン及びリグニン誘導体は、上述した所定の範囲の分子量となる。リグニン及びリグニン誘導体の溶解量は80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
上記溶解量は、リグニン及びリグニン誘導体をテトラヒドロフランに10質量%になるように投入し、25℃で十分撹拌した後、ろ過・乾燥により不溶量を求めることにより算出する。
【0018】
一実施形態において、リグニン及びリグニン誘導体の軟化温度が250℃以下である。これにより、120℃以上250℃以下に加熱した状態で撹拌する工程において溶融状態となる。軟化点は、200℃以下であることがより好ましく、特に、150℃以下であることが好ましい。
軟化点は、以下の方法で測定する。
リグニン及びリグニン誘導体を乳鉢で粉砕し、篩(40メッシュ)にかけて大きな粒子を取り除き、砕いた試料をアルミ製カップ(円形上部φ60、下部φ53×深さ15mm)に10~20mgに入れる。試料を入れたアルミ製カップをホットプレート(ASONEND-2A)に置き、ガラス板(厚さ0.5mm)でふたをし、80℃まで加熱後、10℃刻みに温度を上げ、ガラス越しに目視観察を行い、目視により溶解した温度を軟化点とする。
【0019】
一実施形態において、リグニン含有物はリグニン含有材料から有機溶媒を含む溶媒で抽出されたリグニン誘導体を含む。溶媒は原料中のリグニンの溶解性及び経済性の観点から、アルコール類、ケトン類、エーテル類、芳香族類、及び水のいずれか1種以上を含むことが好ましい。
本明細書において「リグニン誘導体」とは、リグニン含有材料に含まれるリグニンが溶媒によって抽出されたリグニン由来の抽出物をいう。
【0020】
本明細書において、「リグニン」とは、p-ヒドロキシケイ皮アルコール類である3種類のリグニンモノマーが重合した高分子化合物であり、下記式(A)で表される基本骨格を有する。
【0021】
【0022】
上記式(A)において、置換基であるR3及びR4は水素原子又はメトキシ基を示す。R3及びR4の両方が水素原子のものはp-ヒドロキシフェニル核(H型骨格)、R3及びR4のいずれか一方が水素原子のものはグアイアシル核(G型骨格)、R3及びR4の両方が水素原子でないものはシリンギル核(S型骨格)と称される。
なお、上記式(A)中のXは炭素原子に結合していることを示し、Yは水素原子又は炭素原子に結合していることを示す。
【0023】
一実施形態において、リグニンには芳香族部位(式(A)で表される基本骨格)だけではなく脂肪族部位も存在するが、本態様のリグニン誘導体は、有機溶媒Aを含む溶媒で抽出することによって、親水性が増加することを防止できる。このとき、加熱下で抽出すること(抽出条件を高温にすること)によって、脂肪族水酸基を減少させることが期待できる。これにより、疎水性が向上する。
【0024】
(リグニン含有材料)
リグニン含有材料は、リグニンを含有する材料であれば格別限定されない。
一実施形態において、リグニン含有材料は、バイオマス及びバイオマス残渣からなる群から選択される1以上である。
バイオマス残渣としては、例えば木本系バイオマス及び草本系バイオマス等のような植物系バイオマス由来のものが挙げられる。
例えば、バイオマス残渣としては、植物系バイオマスの糖化残渣及び発酵残渣(第2世代エタノール糖化残渣、第2世代エタノール発酵残渣等)、黒液(サルファイトリグニン、クラフトリグニン、ソーダリグニン等)等が挙げられ、これらのいずれか1種以上を使用することができる。これらの中でも、入手容易性、リグニン誘導体の品質、及び経済性の観点から、リグニン含有材料として、植物系バイオマスの糖化残渣及び発酵残渣のいずれか1種以上を使用することが好ましい。
【0025】
木本系バイオマス、草本系バイオマスは、非食系植物バイオマスであり得、またリグノセルロース系バイオマスであり得る。
木本系バイオマスとしては、例えば、スギ、ヒノキ、ヒバ、サクラ、ユーカリ、ブナ、タケ等のような針葉樹、広葉樹が挙げられる。
草本系バイオマスとしては、例えば、パームヤシの樹幹・空房、パームヤシ果実の繊維及び種子、バガス(さとうきび及び高バイオマス量さとうきびの搾り滓)、ケーントップ(さとうきびのトップ及びリーフ)、エナジーケーン、稲わら、麦わら、トウモロコシの穂軸・茎葉・残渣(コーンストーバー、コーンコブ、コーンハル)、ソルガム(スイートソルガムを含む)残渣、ヤトロファ種の皮及び殻、カシュー殻、スイッチグラス、エリアンサス、高バイオマス収量作物、エネルギー作物等が挙げられる。
これらのなかでも、草本系バイオマスであることが好ましく、パームヤシの空房、麦わら、トウモロコシの穂軸・茎葉・残渣(コーンストーバー、コーンコブ、コーンハル)、バガス、ケーントップ、エナジーケーン、それら有用成分抽出後の残渣がより好ましく、トウモロコシの穂軸・茎葉・残渣(コーンストーバー、コーンコブ、コーンハル)、バガス、ケーントップ、エナジーケーン、これら有用成分抽出後の残渣がより好ましい。なお、上記有用成分には、例えば、ヘミセルロース、糖質、ミネラル、水分等が含まれる。
バガスには、5~30質量%程度のリグニンが含まれる。また、バガス中のリグニンは基本骨格として、H核、G核及びS核の全てを含む。
植物系バイオマスは、粉砕されたものを用いることもできる。また、ブロック、チップ、粉末、又は水が含まれた含水物のいずれの形態でもよい。
【0026】
バガスやコーンストーバー等に、オルガノソルブ法、加圧熱水法、水蒸気爆砕法、アンモニア処理法、アンモニア爆砕法、酸処理法、アルカリ処理法、酸化分解法、熱分解及びマイクロ波加熱法等の処理をして、好ましくは酸処理やアンモニア爆砕や水蒸気爆砕等の処理をして、溶液側へヘミセルロースを分離した後、酵素によってセルロースをグルコースとしてこれも溶液側へ分離する、もしくはヘミセルロースを分離しないままセルロースと共に糖化して溶液側へ分離し、残った固体が植物系バイオマスの糖化残渣である。もしくは糖類を分離せずに、発酵によりエタノールとして溶液側へ分離し、残った固体が植物系バイオマスの発酵残渣である。
植物系バイオマスの糖化残渣は、リグニンを主成分とし、分解有機物や触媒、酵素、灰分、セルロース等が含まれている。また、植物系バイオマスの発酵残渣は、リグニンを主成分とし、分解有機物や触媒、酵素、酵母、灰分、セルロース等が含まれている。
【0027】
リグニン誘導体の製造方法は、例えば次のとおりである。
植物系バイオマスの糖化残渣及び発酵残渣のいずれか1種以上を原料とし、上述の特定の溶媒を添加する。約2~4時間加熱を継続した後、加熱液は不溶物を含んでいるため、No.2濾紙を用いて濾過する。濾過固体は未抽出成分と無機夾雑物である。濾過液は減圧下で蒸留し、溶媒を除去する。蒸留で除去しきれない溶媒は真空乾燥、あるいは必要に応じてアセトンに溶解させ、貧溶媒である水で再沈殿等を繰り返すことで除去される。分離される固体はリグニン誘導体である。
【0028】
また、原料として用いられるリグニン含有材料として、非食系植物バイオマスからオルガノソルブ法、加圧熱水法、水蒸気爆砕法、アンモニア処理法、アンモニア爆砕法、酸処理法、アルカリ処理法、酸化分解法、熱分解及びマイクロ波加熱法等の処理をして、分離したリグニンを用いることもできる。具体的には、例えば、有機溶媒又は有機溶媒及び水を含む溶媒を用い、高温で処理することで非食系植物バイオマスに含まれるリグニンを溶媒に溶出させ、当該リグニン含有溶液を濾過してセルロース等を除去した後、溶液を濃縮、乾固することにより、分離したリグニンを用いることもできる。なお、上記有機溶媒として有機溶媒Aを用いることによって、非食系植物バイオマスからリグニン誘導体を直接抽出することもできる。
【0029】
(溶媒)
抽出に用いる溶媒は、有機溶媒を含む。有機溶媒は、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、及びフェノール、トルエン等の芳香族類等が挙げられる。
【0030】
一実施形態において、有機溶媒が水酸基及びエーテル結合からなる群から選択される1種以上を有する化合物(以下、「有機溶媒A」ともいう。)を含む。リグニンを抽出するための有機溶媒として有機溶媒Aを用いることで、当該リグニン由来の抽出物が親水性に変性されることを好適に防止することが期待される。なお、抽出されるリグニン誘導体は、有機溶媒Aを含む有機溶媒と反応していても構わない。有機溶媒Aを用いることで好適にリグニン由来の抽出物を抽出し得る。
【0031】
有機溶媒Aが水酸基を有する場合、有機溶媒Aが有する水酸基の数は格別限定されず、例えば、1以上であり得、また、10以下、5以下、4以下、3以下、2以下であり得る。有機溶媒Aが有する水酸基の数は、1、2、3、4又は5であり得、1、2又は3であり得、1又は2であり得、1であり得る。
水酸基を2つ有する有機溶媒Aとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。また、水酸基を3つ有する有機溶媒Aとしては、例えば、グリセリン、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ヘプタトリオール、1,2,4-ヘプタトリオール、1,2,5-ヘプタトリオール、2,3,4-ヘプタトリオール等が挙げられる。水酸基を4つ有する有機溶媒Aとしては、例えば、ペンタエリスリトール、エリトリトール等が挙げられる。水酸基を5つ有する有機溶媒Aとしては、例えば、キシリトール等が挙げられる。水酸基を6つ有する有機溶媒Aとしては、例えば、ソルビトール等が挙げられる。
【0032】
これらの水酸基を2以上有する有機溶媒A(水酸基を複数有する有機溶媒A)としては、リグニンの抽出効率向上、経済性の観点から、好ましくはエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール及びグリセリンからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、及びグリセリンからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはエチレングリコール及びグリセリンからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはエチレングリコールである。
【0033】
有機溶媒Aは、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
R-OH (1)
(式(1)において、Rは、炭素数1~10のアルキル基、又は置換若しくは無置換のフェニル基である。)
【0034】
Rが炭素数1~10のアルキル基である場合、アルキル基の炭素数は、1以上、2以上、3以上又は4以上であり得、また、10以下、8以下、6以下であり得る。アルキル基は直鎖状であってもよく分岐状であってよい。
特にアルキル基の炭素数を2以上とすることで、リグニン由来の抽出物が親水性に変性されることをより顕著に防止することが期待できる。また、炭素数が2以上、3以上、さらには4以上と大きくなる程、そのような効果がさらに顕著に発揮されることが期待できる。
Rが炭素数1~10のアルキル基である式(1)で表される化合物として、例えば、メタノール、エタノール、1-プロピルアルコール、2-プロピルアルコール、1-ブチルアルコール、2-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ターシャリーブチルアルコール、1-ペンチルアルコール、2-ペンチルアルコール、3-メチル-1-ブチルアルコール、1-ヘキシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、1-へプチルアルコール、1-オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール等が挙げられる。
【0035】
Rが置換若しくは無置換のフェニル基である場合、式(1)で表される化合物(フェノール化合物とも称する。)は、水酸基(式1中の「OH」基)に対する置換基の位置である2位、4位及び6位のうち少なくとも1つが水素原子であることが好ましく、下記式(2)で表される化合物であることがより好ましい。
【0036】
【0037】
上記式(2)において、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基又は炭素数1~15のアルキル基を示し、R1及びR2は同一でも異なっていてもよい。
炭素数1~15のアルキル基は、直鎖状であってもよく分岐状であってよい。炭素数1~15のアルキル基は、好ましくは炭素数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~5の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1~3の直鎖状のアルキル基である。
【0038】
式(2)で表される化合物としては、例えば、フェノール、レゾルシノール、フロログルシン、m-クレゾール、3-エチルフェノール、及び3-プロピルフェノール等の3-アルキルフェノール;5-メチルレゾルシノール、5-エチルレゾルシノール、及び5-プロピルレゾルシノール等の5-アルキルレゾルシノール;3,5-ジメチルフェノール、3-メチル-5-エチル-フェノール、及び3,5-ジエチルフェノール等の3,5-ジアルキルフェノール等が挙げられる。
【0039】
有機溶媒として、フェノール化合物を用いる場合は、リグニン誘導体は、フェノール化合物と反応することによって、H型骨格及びG型骨格の骨格が増加することが期待できる。
有機溶媒として、フェノール化合物を用いる場合は、リグニンとフェノール化合物とが反応することによって、リグニン中の式(A)で表されるリグニン基本骨格における置換基R3及びR4が、フェノール化合物に由来する構造へ転移する置換反応が生じることが期待できる。
【0040】
有機溶媒として、フェノール化合物を用いる場合は、リグニン誘導体は、フェノール化合物と反応することによって、UV吸収率が向上し、アスファルト組成物の紫外線や酸化による劣化が抑制されることが期待できる。
【0041】
有機溶媒Aは、1種又は2種以上を併用してもよい。
有機溶媒Aとして、例えば、Rが炭素数1~20のアルキル基である式(1)で表される化合物から選択される1種又は2種以上と、Rが置換若しくは無置換のフェニル基である式(1)で表される化合物から選択される1種又は2種以上とを併用してもよい。具体例を挙げれば、エタノールとフェノールとを併用することができる。
【0042】
有機溶媒は、有機溶媒A以外の他の有機溶媒を含んでもよい。
他の有機溶媒は格別限定されず、例えば、メチルエチルケトン等のケトン類、及び芳香族類等が挙げられる。他の有機溶媒は、1種又は2種以上を併用してもよい。
【0043】
一実施形態において、有機溶媒の10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上又は99質量%以上が、有機溶媒Aである。
【0044】
抽出に用いる溶媒は、有機溶媒以外に水を含んでもよい。
抽出に用いる溶媒における有機溶媒に対する水の割合は、例えば、有機溶媒100質量部に対して、10質量部以上、20質量部以上、30質量部以上、50質量部以上又は70質量部以上であり得、また、900質量部以下、700質量部以下、400質量部以下、300質量部以下又は100質量部以下であり得る。
【0045】
リグニン含有材料からリグニン誘導体を溶媒で抽出する際に、溶媒は相分離しても、相分離しなくてもよい。溶媒が相分離する場合、「抽出に用いる溶媒」は、リグニン誘導体を最も高濃度で含む相を構成する溶媒を意味する。
【0046】
(抽出)
本発明における抽出とは、リグニン以外の成分を含有するリグニン含有材料からリグニン由来の抽出物を含むリグニン誘導体を抽出することをいう。
一実施形態における「抽出」とは、リグニン含有材料がリグニンを含有する固形物である場合にリグニンを含有する固形物からリグニン誘導体を抽出するものを指し、既にリグニンの全部が溶解された溶液(例えば塩基性化合物を含む水溶液)に有機溶媒を加えるものではない。かかる実施形態において、抽出前のリグニン含有材料(有機溶媒を加える前のリグニン含有材料)は、
リグニンを含有する固形物と、既に溶媒に溶解されたリグニンとを含むか、又は
リグニンを含有する固形物を含み、既に溶媒に溶解されたリグニンを含まない。
抽出に際して、リグニン含有材料に対して添加する溶媒の添加量は格別限定されない。
リグニン含有材料中のリグニンに対する有機溶媒の質量比[有機溶媒/リグニン]は、例えば、0.1以上であり得、また、15以下、10以下、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.7以下又は0.5であり得る。
【0047】
(酸触媒)
上述した抽出は、無触媒又は触媒下で行うことができる。触媒としては、例えば酸触媒等が挙げられる。酸触媒としては、リン酸、リン酸エステル、塩酸、硫酸、及び硫酸エステル等の無機酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸、及びp-トルエンスルホン酸等の有機酸等が挙げられる。酸触媒は、1種又は2種以上を併用してもよい。
酸触媒は、リグニン及び有機溶媒の合計量を100質量部としたときに、例えば、0質量%超、0.1質量%以上又は0.2質量%以上であり得、また、5.0質量%以下、3.0質量%以下又は2.6質量%以下であり得る。
抽出を無触媒で進行させる場合は、例えば抽出工程後の後処理(精製工程)を省略することができる。
【0048】
抽出温度は、リグニン含有材料からリグニン誘導体を抽出可能であれば格別限定されず、例えば、100℃以上、140℃以上、140℃超、150℃以上又は180℃以上であり得、また、350℃以下、300℃以下、270℃以下、250℃以下又は230℃以下であり得る。140℃超であればリグニン(リグニン誘導体)の溶解性を向上して抽出を促進することができ、また300℃以下であればリグニン再結合の進行を好適に防ぐことができる。
【0049】
抽出時間は、適宜設定可能であり、例えば、0.1時間以上、0.5時間以上、1時間以上又は2時間以上であり得、また、15時間以下、10時間以下又は8時間以下であり得る。
【0050】
(精製)
リグニン誘導体は、上述の抽出により製造されるが、必要に応じて、抽出後に精製してもよい。以下に精製の一例について説明する。
【0051】
抽出後のリグニン誘導体は、精製(精製工程)として、まず、固液分離工程に供することができる。抽出後のリグニン誘導体は溶媒に溶解しているが、未抽出成分や無機残渣は固体として液中に存在している。これらは濾過(熱時)により除去することが好ましい。例えば、抽出液はNo.5CあるいはNo.2等の濾紙を取り付けた加圧(熱時)濾過器に入れ、20~100℃程度、20~70℃程度、通常20~50℃程度で、0.1~0.99MPa程度、通常0.1~0.4MPa程度で加圧濾過する。濾過固体は適宜溶媒で希釈及び/又は洗浄し、濾過してもよい。当該濾過においてリグニン誘導体は濾液中に含まれる。また、例えば、抽出生成液を水、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の低沸点汎用溶媒のいずれか1種以上で希釈及び/又は洗浄し、固液分離してもよい。当該固液分離においてリグニン誘導体は溶液中に含まれる。
固液分離を行う方法は特に限定されないが、濾過、フィルタープレス、遠心分離、脱水機等を挙げることができる。
【0052】
また、上記リグニン誘導体を含有する溶液を、蒸留に供してもよい。蒸留は、40~200℃程度、通常50~150℃程度の温度、3~20kPa程度、通常5~10kPa程度の減圧下、減圧蒸留して溶媒及び芳香族化合物を除去して行うことができる。当該蒸留においてリグニン誘導体は固体として得られる。また、例えば、その他の希釈溶媒を用いる場合は、溶媒の沸点を考慮した適当な温度で、減圧蒸留して低沸点汎用溶媒を除去し、その後、上記と同様の方法で、抽出に用いた溶媒を除去して行うことができる。当該蒸留においてリグニン誘導体は固体として得られる。
【0053】
蒸留により得られたリグニン誘導体を、通常50~200℃に加熱して、固体あるいは溶融状態で、真空乾燥することにより、残留する溶媒(例えば有機溶媒A)を除去して精製してもよい。また、蒸留後の加熱された流動状態にあるリグニン誘導体を、そのまま同様の真空乾燥をすることにより、残留する溶媒(例えば有機溶媒A)を除去して精製してもよい。
【0054】
蒸留あるいは減圧乾固により得られたリグニン誘導体に、有機溶媒が残留している場合は、かかるリグニン誘導体をアセトン等の溶媒に溶解させ、リグニン誘導体の貧溶媒であるイオン交換水等を加えて再沈殿させることにより有機溶媒を除去して精製してもよい。
また、精製工程において、上記濾過、蒸留、減圧乾固及び再沈殿は繰り返し行ってもよく、いずれか1つ又は2つ以上を組み合わせて行ってもよい。
【0055】
リグニン誘導体中に残留する有機溶媒は、特に限定されないが、これらの総量に対して、通常30質量%未満であり、10質量%未満が好ましく、5質量%未満がより好ましく、1質量%未満がさらに好ましい。
【0056】
本発明のリグニン誘導体の製造方法により、植物系バイオマスの糖化残渣や、植物系バイオマスの発酵残渣に含まれるリグニンの含有量のうち、50質量%以上がリグニン誘導体として取出されることが好ましく、60質量%以上がリグニン誘導体として取出されることがより好ましく、70質量%以上がリグニン誘導体として取出されることがさらに好ましく、80質量%以上がリグニン誘導体として取出されることがよりさらに好ましく、90質量%以上がリグニン誘導体として取出されることがよりさらに好ましい。
【0057】
[界面活性剤]
本実施形態で用いる界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤(脂肪酸塩、コール酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ラウリル硫酸塩、アルキルリン酸塩等)、カチオン性界面活性剤(アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等)、両性界面活性剤(アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン、アルキルアミノ脂肪酸塩等)、非イオン性界面活性剤(アルキルグリコシド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、しょ糖脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテル等)等が挙げられる。
【0058】
具体的には、脂肪酸ナトリウム、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、アルキルグリコシド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が好適である。
【0059】
[その他の成分]
本実施形態のアスファルト組成物は、上述したリグニン関連物質、アスファルト及び界面活性剤の他に、必要に応じて芳香族系重質鉱油、公知の添加剤等を配合することができる。添加剤としては、例えば、改質剤、樹脂、オイル、安定剤、静電防止剤、剥離防止剤、融剤、難燃剤、顔料がある。
【0060】
芳香族系重質鉱油としては、原油の減圧蒸留残油をプロパン等により脱れきして得られた溶剤脱れき油を、更にフルフラール等の極性溶剤を用いて溶剤抽出することにより、ブライトストック(重質潤滑油)を得る際の溶剤抽出油、すなわち、エキストラクトが使用できる。
【0061】
改質剤としては、アスファルトの補強材として添加される熱可塑性エラストマーが好適に用いられる。例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、クロロプレンゴム、天然ゴム、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、ポリエチレンが挙げられる。
【0062】
樹脂としては、石油精製過程において熱分解留分中に存在する不飽和炭化水素の重合物である石油樹脂やロジンが含まれていてもよく、適宜水素添加されていてもよい。例えば、石油樹脂としては、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5系石油樹脂及びC9系石油樹脂の共重合樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、テルペン、水素添加されたC5系石油樹脂、水素添加されたC9系石油樹脂、水素添加されたC5系石油樹脂及びC9系石油樹脂の共重合樹脂、水素添加されたジシクロペンタジエン樹脂、芳香族変性テルペン等が挙げられる。また、ロジンとしては、ガムロジン、不均化ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等が使用されることが好ましく、少なくとも松脂の水蒸気蒸留時の残渣成分として得られるものであればよい。なお、ロジン中にはアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸、レボピマル酸などの各種樹脂酸が含まれているが、これら樹脂酸をそれぞれ精製して単独で添加してもよい。
さらに、本実施形態におけるアスファルト組成物では、溶融粘度の低減と高温剛性の向上を図るために、ノルマルパラフィンや、ポリエチレン又はポリエチレンに酸が付加されたワックスを添加してもよい。
【0063】
添加剤の含有量は、アスファルト組成物全体に対して0~10質量%の範囲であり得る。
【0064】
一実施形態では、本発明のアスファルト組成物は、用途に合わせて、1種又は複数の充填剤をさらに含むことができる。充填剤の例としては、タルク、炭酸カルシウム、カーボンブラック、フライアッシュ、スレート粉塵、石灰石、ドロマイト;粘土、雲母及び他のシート状珪酸塩等の珪質充填剤が挙げられる。
充填剤の含有量は、アスファルト組成物全体に対して、40~80質量%であってもよく、好ましくは50~75質量%であり、より好ましくは60~70質量%である。
【0065】
また、アスファルト組成物は、セルロース、ガラス及び岩石繊維等の繊維をさらに含んでもよい。例えば、アスファルト組成物全体に対して25質量%まで繊維を含んでもよい。
【0066】
一実施形態では、アスファルト組成物はリグニン及びリグニン誘導体の重合を抑制する化合物(以下、重合抑制剤という。)を含有することが好ましい。重合抑制剤としては、4-tert-ブチルピロカテコール、tert-ブチルヒドロキノン、1,4-ベンゾキノン、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール、2-tert-ブチル-1,4-ベンゾキノン、ジブチルジチオカルバミン酸銅(II)、ジブチルヒドロキシトルエン、ジブチルフェノール、1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジルフリーラジカル、ヒドロキノン、メキノール、フェノチアジン等がある。
具体的には、ジブチルヒドロキシトルエン、ジブチルフェノール、ヒドロキノン等が好適である。
【0067】
重合抑制剤の含有量は、リグニン関連物質100質量部に対し0~10質量部が好ましく、さらに、0.01~5質量部が好ましい。
【0068】
[製造方法]
本実施形態では、上述したリグニン含有物、アスファルト含有物及び界面活性剤と、任意に添加剤及び/又は重合抑制剤を含む混合物を、120℃以上250℃以下に加熱した状態で撹拌する。
各成分の配合順序は特に限定はない。例えば、界面活性剤は、リグニン含有物及びアスファルト含有物を合流させる際に添加してもよく、また、リグニン含有物及びアスファルト含有物の一方又は両方に予め添加してもよい。
同様に、添加剤、充填材及び重合抑制剤は、リグニン含有物とアスファルト含有物とに合流させる際に添加してもよく、また、リグニン含有物及びアスファルト含有物の一方又は両方に予め添加してもよい。
【0069】
アスファルト組成物において、リグニン関連物質の含有率はアスファルト組成物の用途に応じて適宜調整できる。
【0070】
本実施形態では、上記混合物を120℃以上250℃以下に加熱した状態で撹拌する。例えば、リグニン含有物とアスファルト含有物を合流させた後、界面活性剤を投入して得られる混合物を120℃以上250℃以下に加熱した状態で撹拌する。撹拌による剪断力により、アスファルト含有物中のリグニン含有物を微小に分散させる。
【0071】
撹拌に用いる装置は、アスファルト含有物中のリグニン含有物に剪断力を与えることができる装置であれば特に限定はしない。例えば、ハイシアミキサー、プロペラミキサー、ホモジナイザー、プラネタリーミキサーが挙げられる。なかでもハイシアミキサーは、効率的にリグニン含有物に剪断力を付与できるため好ましい。
【0072】
撹拌時の温度は、120℃以上250℃以下であり、好ましくは180℃以上200℃以下である。これにより、アスファルト含有物中へのリグニン含有物の分散が容易となる。250℃以下とすることで、リグニン及びリグニン誘導体同士の縮重合を抑制できる。
【0073】
撹拌条件は、温度、使用装置、組成物の構成成分等に合わせて適宜調整することができる。
【0074】
一実施形態では、上記撹拌の後、さらに180℃以上250℃以下に加熱する工程を有する。リグニン含有物を分散させた後に、さらに加熱することにより、微粒子状に分散した状態でリグニン含有物を重合させることができ、その後、冷却することにより、形状を固定することができる。
【0075】
撹拌後、又は撹拌後の更なる加熱後、処理物を冷却することにより、目的物であるアスファルト組成物が得られる。冷却条件は特に限定はなく、室温放置による自然冷却でもよく、また、冷却装置を用いた強制冷却でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の製造方法で得られるアスファルト組成物では、リグニン関連物質をアスファルト組成物に加えることにより、アスファルト組成物の機械的性質及び物理的性質を調整することができる。
本発明の製造方法で得られるアスファルト組成物は、道路舗装用材料、防水剤、防腐剤、接着剤等に使用できる。例えば、アスファルト組成物に公知の骨材を配合することにより道路舗装用材料となる。