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特許7438185マイクロリソグラフィ投影露光装置用のミラー、及びデフォーマブルミラーの作動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】マイクロリソグラフィ投影露光装置用のミラー、及びデフォーマブルミラーの作動方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20240216BHJP
   G02B 5/10 20060101ALI20240216BHJP
   H05G 2/00 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
G03F7/20 503
G03F7/20 521
G02B5/10 B
H05G2/00 K
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2021504275
(86)(22)【出願日】2019-06-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-18
(86)【国際出願番号】 EP2019066634
(87)【国際公開番号】W WO2020020550
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】102018212508.2
(32)【優先日】2018-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【弁理士】
【氏名又は名称】下地 健一
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス リッペルト
(72)【発明者】
【氏名】トラルフ グリューナー
(72)【発明者】
【氏名】ケルスティン ヒルド
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ルッケ
(72)【発明者】
【氏名】ムハンマドレザ ネマトラヒ
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/009005(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102016224202(DE,A1)
【文献】特表2016-533516(JP,A)
【文献】特表2017-528755(JP,A)
【文献】特表2014-514742(JP,A)
【文献】特開2009-164284(JP,A)
【文献】特開2010-045347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20-7/24、9/00-9/02
G02B 5/00-5/136
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学有効面(11)を有する、マイクロリソグラフィ投影露光装置用のミラーであって、
ミラー基板(12)と、
前記光学有効面(11)に入射した電磁放射を反射する反射積層体(21)と、
少なくとも1つの圧電層(16)であり、前記ミラー基板(12)と前記反射積層体(21)との間に配置され、圧電層(16)に対して前記反射積層体(21)側に位置する第1電極装置及び圧電層(16)に対して前記ミラー基板(12)側に位置する第2電極装置により局所的に可変の変形を発生させる電界を印加されることが可能な少なくとも1つの圧電層(16)と
を備え、前記圧電層(16)は、カラム境界により相互に空間的に分離された複数の結晶カラムを有し、
前記結晶カラムの平均カラム径が、0.1μm~50μmの範囲にあるミラー。
【請求項2】
請求項1に記載のミラーにおいて、それぞれ相互に隣接する結晶カラムの平均カラム間隔は、平均カラム径の2%~30%の範囲にあることを特徴とするミラー。
【請求項3】
光学有効面(11)を有する、マイクロリソグラフィ投影露光装置用のミラーであって、
ミラー基板(12)と、
前記光学有効面(11)に入射した電磁放射を反射する反射積層体(21)と、
少なくとも1つの圧電層(16)であり、前記ミラー基板(12)と前記反射積層体(21)との間に配置され、圧電層(16)に対して前記反射積層体(21)側に位置する第1電極装置及び圧電層(16)に対して前記ミラー基板(12)側に位置する第2電極装置により局所的に可変の変形を発生させる電界を印加されることが可能な少なくとも1つの圧電層(16)と
を備え、前記圧電層(16)は、カラム境界により相互に空間的に分離された複数の結晶カラムを有し、
前記結晶カラムの平均カラム間隔が、平均カラム径の2%~30%の範囲にあるミラー。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のミラーにおいて、前記結晶カラムの平均カラム径と高さとの比が、50:1~1:200の範囲にあることを特徴とするミラー。
【請求項5】
光学有効面(11)を有する、マイクロリソグラフィ投影露光装置用のミラーであって、
ミラー基板(12)と、
前記光学有効面(11)に入射した電磁放射を反射する反射積層体(21)と、
少なくとも1つの圧電層(16)であり、前記ミラー基板(12)と前記反射積層体(21)との間に配置され、圧電層(16)に対して前記反射積層体(21)側に位置する第1電極装置及び圧電層(16)に対して前記ミラー基板(12)側に位置する第2電極装置により局所的に可変の変形を発生させる電界を印加されることが可能な少なくとも1つの圧電層(16)と
を備え、前記圧電層(16)は、カラム境界により相互に空間的に分離された複数の結晶カラムを有し、
前記結晶カラムの平均カラム径と高さとの比が、50:1~1:200の範囲にあるミラー。
【請求項6】
請求項5に記載のミラーにおいて、前記結晶カラムの平均カラム径と高さとの比が、10:1~1:10の範囲にあることを特徴とするミラー。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のミラーにおいて、前記圧電層(16)は、平均カラム径に関して30%以上相互に異なる少なくとも2つの領域を有することを特徴とするミラー。
【請求項8】
光学有効面(11)を有する、マイクロリソグラフィ投影露光装置用のミラーであって、
ミラー基板(12)と、
前記光学有効面(11)に入射した電磁放射を反射する反射積層体(21)と、
少なくとも1つの圧電層(16、30、40)であり、前記ミラー基板(12)と前記反射積層体(21)との間に配置され、圧電層(16、30、40)に対して前記反射積層体(21)側に位置する第1電極装置及び圧電層(16、30、40)に対して前記ミラー基板(12)側に位置する第2電極装置により局所的に可変の変形を発生させる電界を印加されることが可能な少なくとも1つの圧電層(16、30、40)と
を備え、前記圧電層(16、30、40)は、カラム境界により相互に空間的に分離された複数の結晶カラムを有し、
前記圧電層(16、30、40)は、平均カラム径に関して30%以上相互に異なる少なくとも2つの領域を有することを特徴とするミラー。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のミラーにおいて、前記圧電層(16、30、40)は、平均カラム径に関して40%以上相互に異なる少なくとも2つの領域を有することを特徴とするミラー。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか1項に記載のミラーにおいて、前記2つの領域は、前記圧電層(16)の異なる層プライに対応し、前記層プライの第1層プライ(41)が、前記層プライの第2層プライ(42)よりも前記ミラー基板の近くに配置されることを特徴とするミラー。
【請求項11】
請求項10に記載のミラーにおいて、前記第1層プライ(41)は、平均カラム径が小さい方の領域を有することを特徴とするミラー。
【請求項12】
請求項7~9のいずれか1項に記載のミラーにおいて、前記2つの領域は、前記圧電層(16)の同一の層プライ内に位置し且つ相互に横方向に分離された領域(31、32)であることを特徴とするミラー。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のミラーにおいて、前記圧電層(16、30、40)は、平均カラム間隔に関して10%以上相互に異なる少なくとも2つの領域を有することを特徴とするミラー。
【請求項14】
光学有効面(11)を有する、マイクロリソグラフィ投影露光装置用のミラーであって、
ミラー基板(12)と、
前記光学有効面(11)に入射した電磁放射を反射する反射積層体(21)と、
少なくとも1つの圧電層(16、30、40)であり、前記ミラー基板(12)と前記反射積層体(21)との間に配置され、圧電層(16、30、40)に対して前記反射積層体(21)側に位置する第1電極装置及び圧電層(16、30、40)に対して前記ミラー基板(12)側に位置する第2電極装置により局所的に可変の変形を発生させる電界を印加されることが可能な少なくとも1つの圧電層(16、30、40)と
を備え、前記圧電層(16、30、40)は、カラム境界により相互に空間的に分離された複数の結晶カラムを有し、
前記圧電層(16、30、40)は、平均カラム間隔に関して10%以上相互に異なる少なくとも2つの領域を有するミラー。
【請求項15】
請求項14に記載のミラーにおいて、前記圧電層(16、30、40)は、平均カラム間隔に関して20%以上相互に異なる少なくとも2つの領域を有することを特徴とするミラー。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載のミラーにおいて、該ミラーは、30nm未満の作動波長用に設計されることを特徴とするミラー。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載のミラーにおいて、前記ミラーは、マイクロリソグラフィ投影露光装置用のミラーであることを特徴とするミラー。
【請求項18】
ミラー基板(12)と、
学有効面(11)に入射した電磁放射を反射する反射積層体(21)と、
少なくとも1つの圧電層(16)であり、前記ミラー基板(12)と前記反射積層体(21)との間に配置され、圧電層(16、30、40)に対して前記反射積層体(21)側に位置する第1電極装置(20)及び圧電層(16、30、40)に対して前記ミラー基板(12)側に位置する第2電極装置(14)により局所的に可変の変形を発生させる電界を印加されることが可能な少なくとも1つの圧電層(16)と
を備え、
前記圧電層(16)は、カラム境界により相互に空間的に分離された複数の結晶カラムを有し、前記結晶カラムの平均カラム径が、0.1μm~50μmの範囲にあるデフォーマブルミラーの作動方法であって、
a)前記ミラーの変形挙動に対する予想ヒステリシス寄与を決定するステップであって、前記ヒステリシス寄与により、前記第1電極装置(20)及び/又は前記第2電極装置(14)への所定の電圧分布U(x,y)の印加時の前記光学有効面(11)に対する表面法線に沿った前記圧電層(16、30、40)の線膨張が、前記圧電層(16、30、40)の該当線膨張係数d33(x,y)と電圧の各値との積からずれるステップと、
b)前記ヒステリシス寄与が少なくとも部分的に補償されるように前記第1電極装置(20)及び/又は前記第2電極装置(14)に修正電圧分布を印加するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、前記予想ヒステリシス寄与を、前記ミラーのヒステリシス挙動を予め測定した後にモデルベースで決定することを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項18又は19に記載の方法において、前記予想ヒステリシス寄与を、前記圧電層(16、30、40)の誘電率の測定に基づいて決定することを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項18~20のいずれか1項に記載の方法において、該方法は、前記第1電極装置(20)及び/又は前記第2電極装置(14)にバイアス電圧を印加するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項18~21のいずれか1項に記載の方法において、前記圧電層のワイス磁区を整列させる目的で前記ミラーの起動前又は/及び少なくとも1回の作動休止中に前記光学有効面に対する表面法線の方向に沿って単極交番電界を発生させることを特徴とする方法。
【請求項23】
ミラー基板(12)と、
学有効面(11)に入射した電磁放射を反射する反射積層体(21)と、
少なくとも1つの圧電層(16)であり、前記ミラー基板(12)と前記反射積層体(21)との間に配置され、前記圧電層(16、30、40)に対して前記反射積層体(21)側に位置する第1電極装置(20)及び前記圧電層(16、30、40)に対して前記ミラー基板(12)側に位置する第2電極装置(14)により局所的に可変の変形を発生させる電界を印加されることが可能な少なくとも1つの圧電層(16)と
を備え、
前記圧電層(16)は、カラム境界により相互に空間的に分離された複数の結晶カラムを有し、前記結晶カラムの平均カラム径が、0.1μm~50μmの範囲にあるデフォーマブルミラーの作動方法であって、
前記圧電層のワイス磁区を整列させる目的で前記ミラーの起動前又は/及び少なくとも1回の作動休止中に前記光学有効面に対する表面法線の方向に沿って単極交番電界を発生させることを特徴とする方法。
【請求項24】
マイクロリソグラフィ投影露光装置の照明系であって、該光学系は請求項1~17のいずれか1項に記載のミラーを備えることを特徴とする照明系。
【請求項25】
マイクロリソグラフィ投影露光装置の投影レンズであって、該光学系は請求項1~17のいずれか1項に記載のミラーを備えることを特徴とする投影レンズ。
【請求項26】
照明装置及び投影レンズを備えたマイクロリソグラフィ投影露光装置(400)であって、請求項25に記載の光学系を備えることを特徴とするマイクロリソグラフィ投影露光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2018年7月26日に出願された独国特許出願第10 2018 212 508.2号の優先権を主張する。この独国出願の内容を、参照により本願の本文にも援用する。
【0002】
本発明は、マイクロリソグラフィ投影露光装置用のミラー、及びデフォーマブルミラーの作動方法に関する。
【背景技術】
【0003】
マイクロリソグラフィは、例えば集積回路又はLCD等の微細構造コンポーネントの製造に用いられる。マイクロリソグラフィプロセスは、照明装置及び投影レンズを備えたいわゆる投影露光装置で実行される。この場合、照明装置により照明されたマスク(レチクル)の像を、投影レンズにより、感光層(フォトレジスト)で被覆されて投影レンズの像平面に配置された基板(例えばシリコンウェーハ)に投影することで、マスク構造を基板の感光コーティングに転写するようにする。
【0004】
EUV領域用に設計した投影レンズでは、すなわち例えば約13nm又は7nmの波長では、適当な光透過屈折材料が利用可能でないことにより、ミラーを結像プロセス用の光学コンポーネントとして用いる。
【0005】
この場合、圧電材料からなるアクチュエータ層を有するアダプティブミラーとしてEUVシステムの1つ又は複数のミラーを構成することも知られており、その場合、この圧電層に対して両側に配置された電極に電圧を印加することにより、強度が局所的に変わる電界が圧電層において発生する。圧電層が局所変形する場合、アダプティブミラーの反射積層体も変形する結果として、例えば、結像収差を(場合によっては時間的に変化する結像収差も)電極の適当な駆動により少なくとも部分的に補償することができる。
【0006】
光学収差の補償に用いられる上記圧電層に関して、原理上は、電極に印加される特定の電圧により、いずれの場合も予測的にアダプティブミラーの圧電層の、したがって反射積層体の最大限の比例変形も得られることが望ましい。電圧依存的に得られる圧電層の材料の線膨張を特徴付ける係数は、d33係数とも称し、光学有効面に対して垂直な方向の線膨張を引き起こす誘電テンソルの該当成分に対応する。
【0007】
しかしながら、ここで実際に起こる問題は、光学有効面に対して垂直な方向の上記線膨張が、(実質的に体積を保存する)圧電材料の場合にその横方向の収縮をもたらすことであり、この作用は、d31係数又は誘電テンソルの対応成分により記述することができる。
【0008】
上記作用は、図7a~図7eの概略図で説明されており、図中ではミラー基板を「70」、圧電層を「71」で示す(図中、さらに他の機能層の図示は簡単のために省いてある)。電界の印加時(図7b)に圧電層71内で横方向に生じる機械的応力(図7c)は、(圧電層71に比べてより柔軟又は軟質な)取り付け固定されたミラー基板70(図7c)にさらに伝達され、ミラー基板70が圧電層71から離れる方向に向かって降伏する(図7d)。図7eに示すように、上記作用は、最終的にはミラー基板70内への圧電層71の押し込みをもたらし、最終的には、電界の印加から得られる全体形状効果がd33係数で記述される線膨張に比べてその分だけ低下するという悪影響がある。
【0009】
実際に起こるさらに別の問題は、例えば図1に示す構成を有するアダプティブミラーで最終的に達成可能な設定精度が、圧電層16内で生じるヒステリシス効果により制限されることである。ここでの「ヒステリシス」は、印加電圧の特定の値について最終的に達成される撓み(光学有効面に対して垂直な方向の圧電層の「変位」に対応する)が履歴に依存する、換言すれば、(例えば、図5に示す図式に従った)ある電圧範囲を循環的に通過すると、印加電圧の値に対して「往路」及び「復路」で撓み又は変位の値が異なることを意味するものとする。
【0010】
したがって、概して、アダプティブミラーの高い設定精度と共に十分に大きな撓みを実現するのは実際には難題である。
【0011】
従来技術に関して、例として特許文献1及び特許文献2を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】独国特許出願公開第10 2013 219 583号明細書
【文献】独国特許出願公開第10 2015 213 273号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、高い設定精度と共に十分に大きな撓みの実現を可能にする、マイクロリソグラフィ投影露光装置用のミラー及びデフォーマブルミラーの作動方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、独立特許請求項の特徴により達成される。
【0015】
光学有効面を有する、マイクロリソグラフィ投影露光装置用の本発明によるミラーは、
ミラー基板と、
光学有効面に入射した電磁放射を反射する反射積層体と、
少なくとも1つの圧電層であり、ミラー基板と反射積層体との間に配置され、圧電層に対して反射積層体側に位置する第1電極装置及び圧電層に対してミラー基板側に位置する第2電極装置により局所的に可変の変形を発生させる電界を印加されることが可能な少なくとも1つの圧電層と
を備え、上記圧電層は、カラム境界により相互に空間的に分離された複数のカラムを有し、
上記カラムの平均カラム径が、0.1μm~50μmの範囲にある。
【0016】
一実施形態によれば、それぞれ相互に隣接するカラムの平均カラム間隔は、平均カラム径の2%~30%の範囲にある。
【0017】
本発明は、まず、アダプティブミラーに存在し且つ局所的に可変の変形を発生させる電界を印加されることが可能な圧電層が、通常は完全に均質とはならず、各製造プロセスに応じて複数の結晶カラムからなる一種の「カラム構造」で構成されるという所見から出発している。
【0018】
こうした見識から、本発明は、特に、一方ではアダプティブミラーで実現できる変位と他方では達成可能な設定精度との間の最善の妥協に達するように上記カラムの平均カラム径を適当な方法で選択するという概念に基づく。
【0019】
第1に、光学有効面に対して垂直な方向の変位又は線膨張に関する限り、本発明は、前述のようなミラー基板内への圧電層の押し込みの効果(すなわち、上記「押し込み効果」)を、原理上は平均カラム径の最小値により低減するか又はほぼなくすことができるという考えから出発している。これは、圧電層が比較的小さなカラム(例えば約0.5μmの平均径を有する)からなる場合に上記カラムが横方向に略自由な移動度を示し、したがってミラー基板内への圧電層の押し込みを引き起こし得る大きな機械的応力が隣接カラム間で伝達されないことにより説明できる。
【0020】
他方では、アダプティブミラーで達成可能な設定精度に関する限り、本発明は、逆に平均カラム径の値が比較的大きいと、同じく前述の上記設定精度を制限するヒステリシス効果に関して有利であるという考えから出発している。この状況は、上記ヒステリシス効果が、隣接カラム間で又はカラム境界で起こる摩擦効果によりある程度は引き起こされ、したがって平均カラム径が小さいことにより特に多数の摩擦面が圧電層内にある場合には特に顕著であることに起因する。
【0021】
結果として、そこで上記考察から、本発明は、アダプティブミラーで達成される変位及び達成可能な設定精度の両方がそれぞれに必要な仕様を満たすことができるように、平均カラム径に適した妥協値又は値範囲を選択するという原理を含む。
【0022】
一実施形態によれば、カラムの平均カラム径と高さとの比が、50:1~1:200の範囲、特に10:1~1:10の範囲にある。
【0023】
本発明はさらに、光学有効面を有する、マイクロリソグラフィ投影露光装置用のミラーであって、
ミラー基板と、
光学有効面に入射した電磁放射を反射する反射積層体と、
少なくとも1つの圧電層であり、ミラー基板と反射積層体との間に配置され、圧電層に対して反射積層体側に位置する第1電極装置及び圧電層に対してミラー基板側に位置する第2電極装置により局所的に可変の変形を発生させる電界を印加されることが可能な少なくとも1つの圧電層と
を備え、上記圧電層は、カラム境界により相互に空間的に分離された複数のカラムを有し、
上記カラムの平均カラム間隔が、平均カラム径の2%~30%の範囲にあるミラーに関する。
【0024】
本発明はさらに、光学有効面を有する、マイクロリソグラフィ投影露光装置用のミラーであって、
ミラー基板と、
光学有効面に入射した電磁放射を反射する反射積層体と、
少なくとも1つの圧電層であり、ミラー基板と反射積層体との間に配置され、圧電層に対して反射積層体側に位置する第1電極装置及び圧電層に対してミラー基板側に位置する第2電極装置により局所的に可変の変形を発生させる電界を印加されることが可能な少なくとも1つの圧電層と
を備え、上記圧電層は、カラム境界により相互に空間的に分離された複数のカラムを有し、
カラムの平均カラム径と高さとの比が、50:1~1:200の範囲、特に10:1~1:10の範囲にあるミラーに関する。
【0025】
一実施形態によれば、圧電層は、平均カラム径に関して30%以上相互に異なる少なくとも2つの領域を有する。
【0026】
本発明の実施形態では、この場合、上記2つの領域は、圧電層の異なる層プライに対応することができ、上記層プライの第1層プライが、上記層プライの第2層プライよりもミラー基板の近くに配置される。
【0027】
好ましくは、この場合、第1層プライは、平均カラム径が小さい方の領域を有する。この構成には、第2層プライに対して平均カラム径が比較的小さいことにより、上記第1層プライが比較的柔軟に働き、したがって比較的大きな平均カラム径を有する第2層プライとミラー基板との間での積層体の方向の機械的結合を低減するという利点がある。同時に、第2層プライにおけるカラム境界の数が少ないことにより第2層プライでヒステリシス寄与の低減が達成され得る。
【0028】
本発明のさらに他の実施形態では、相互に異なる平均カラム径を有する2つの領域は、圧電層の同一の層プライ内に位置し且つ相互に横方向に分離された領域を構成することもできる。この構成は、アダプティブミラーが含む領域では、通常は例えば上述の「押し込み効果」の悪影響が現れる程度が領域毎に異なるという状況を考慮でき、本発明によれば、例えば、「静定性」が高いことによりこの押し込み効果の出現が比較的小さい領域(この領域は、単なる例として、エッジ領域及び/又はブシュ等のコンポーネントで機械的に支持されたミラーの領域であり得る)では、この点でヒステリシス効果の制限の強化、したがって設定精度の向上を達成するために平均カラム径を対応して大きく選択することができる。
【0029】
本発明はさらに、光学有効面を有する、マイクロリソグラフィ投影露光装置用のミラーであって、
ミラー基板と、
光学有効面に入射した電磁放射を反射する反射積層体と、
少なくとも1つの圧電層であり、ミラー基板と反射積層体との間に配置され、圧電層に対して反射積層体側に位置する第1電極装置及び圧電層に対してミラー基板側に位置する第2電極装置により局所的に可変の変形を発生させる電界を印加されることが可能な少なくとも1つの圧電層と
を備え、上記圧電層は、カラム境界により相互に空間的に分離された複数のカラムを有し、
圧電層は、平均カラム径に対して30%以上相互に異なる少なくとも2つの領域を有するミラーに関する。
【0030】
一実施形態によれば、圧電層は、平均カラム径に関して40%以上、より詳細には50%以上相互に異なる少なくとも2つの領域を有する。
【0031】
一実施形態によれば、圧電層は、平均カラム間隔に関して10%以上、特に20%以上相互に異なる少なくとも2つの領域を有する。
【0032】
本発明はさらに、光学有効面を有する、マイクロリソグラフィ投影露光装置用のミラーであって、
ミラー基板と、
光学有効面に入射した電磁放射を反射する反射積層体と、
少なくとも1つの圧電層であり、ミラー基板と反射積層体との間に配置され、圧電層に対して反射積層体側に位置する第1電極装置及び圧電層に対してミラー基板側に位置する第2電極装置により局所的に可変の変形を発生させる電界を印加されることが可能な少なくとも1つの圧電層と
を備え、上記圧電層は、カラム境界により相互に空間的に分離された複数のカラムを有し、
圧電層は、平均カラム間隔に関して10%以上、特に20%以上相互に異なる少なくとも2つの領域を有するミラーに関する。
【0033】
他の用途では、本発明によるミラーを例えばマスク計測装置で使用又は利用することもできる。
【0034】
一実施形態によれば、ミラーは、30nm未満、特に15nm未満の作動波長用に設計される。しかしながら、本発明はそれに制限されるのではなく、さらなる用途において、VUV領域の(例えば、200nm未満の)作動波長を有する光学系で本発明を有利に実現することもできる。
【0035】
本発明はさらに、
ミラー基板と、
光学有効面に入射した電磁放射を反射する反射積層体と、
少なくとも1つの圧電層であり、ミラー基板と反射積層体との間に配置され、圧電層に対して反射積層体側に位置する第1電極装置及び圧電層に対してミラー基板側に位置する第2電極装置により局所的に可変の変形を発生させる電界を印加されることが可能な少なくとも1つの圧電層と
を備えたデフォーマブルミラーの作動方法であって、
ミラーの変形挙動に対する予想ヒステリシス寄与を決定するステップであって、上記ヒステリシス寄与により、第1電極装置及び/又は第2電極装置への所定の電圧分布U(x,y)の印加時の光学有効面に対する表面法線に沿った圧電層の線膨張が、圧電層の該当線膨張係数d33(x,y)と電圧の各値との積からずれるステップと、
上記ヒステリシス寄与が少なくとも部分的に補償されるように第1電極装置及び/又は第2電極装置に修正電圧分布を印加するステップと
を含む方法にも関する。
【0036】
一実施形態によれば、予想ヒステリシス寄与を、ミラーのヒステリシス挙動を予め測定した後にモデルベースで決定する。
【0037】
一実施形態によれば、予想ヒステリシス寄与を、圧電層の誘電率の測定に基づいて決定する。
【0038】
一実施形態によれば、本方法は、第1電極装置及び/又は第2電極装置にバイアス電圧を印加するステップを含む。
【0039】
一実施形態によれば、圧電層のワイス磁区を整列させる目的でミラーの起動前又は/及び少なくとも1回の作動休止中に光学有効面に対する表面法線の方向に沿って単極交番電界を発生させる。
【0040】
本発明はさらに、デフォーマブルミラーの作動方法であって、ミラーは、
ミラー基板と、
光学有効面に入射した電磁放射を反射する反射積層体と、
少なくとも1つの圧電層であり、ミラー基板と反射積層体との間に配置され、圧電層に対して反射積層体側に位置する第1電極装置及び圧電層に対してミラー基板側に位置する第2電極装置により局所的に可変の変形を発生させる電界を印加されることが可能な少なくとも1つの圧電層と
を備え、圧電層のワイス磁区を整列させる目的でミラーの起動前又は/及び少なくとも1回の作動休止中に光学有効面に対する表面法線の方向に沿って単極交番電界を発生させる方法に関する。
【0041】
単極交番電界の周波数は、例えば1MHz~100MHzの間隔であり得る。
【0042】
本発明はさらに、上述の特徴を有する少なくとも1つのミラーを備えたマイクロリソグラフィ投影露光装置用の照明装置又は投影レンズに関し、マイクロリソグラフィ投影露光装置にも関する。
【0043】
本発明のさらに他の構成は、説明及び従属請求項から得ることができる。
【0044】
添付図面に示す例示的な実施形態に基づいて、本発明を以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明の一実施形態によるアダプティブミラーの構成を説明する概略図を示す。
図2】一態様による本発明の基礎となる概念を説明する図を示す。
図3】本発明のさらに別の実施形態を説明する概略図を示す。
図4】本発明のさらに別の実施形態を説明する概略図を示す。
図5】本発明の基礎となるさらに別の概念を説明する図を示す。
図6】EUVでの動作用に設計されたマイクロリソグラフィ投影露光装置の可能な構成を説明する概略図を示す。
図7a】本発明が扱う従来のアダプティブミラーで起こる問題を説明する概略図を示す。
図7b】本発明が扱う従来のアダプティブミラーで起こる問題を説明する概略図を示す。
図7c】本発明が扱う従来のアダプティブミラーで起こる問題を説明する概略図を示す。
図7d】本発明が扱う従来のアダプティブミラーで起こる問題を説明する概略図を示す。
図7e】本発明が扱う従来のアダプティブミラーで起こる問題を説明する概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1は、本発明によるミラーの例示的な構成を説明する概略図を示す。ミラー10は、特にミラー基板12を備え、ミラー基板12は、任意の所望の適当なミラー基板材料から作製される。適当なミラー基板材料は、例えば二酸化チタン(TiO)でドープした石英ガラスであり、使用可能な材料は、単なる例として(本発明をそれに制限することなく)、商品名ULE(登録商標)(Corning Inc.製)又はZerodur(登録商標)(Schott AG製)で市販されているものである。さらに、ミラー10は、原理上は自体公知の形で反射積層体21を有し、反射積層体21は、図示の実施形態では、単なる例としてモリブデン-ケイ素(Mo-Si)積層体を含む。本発明をこの積層体の特定の構成に制限することなく、単なる例としての適当な一構成は、それぞれ層厚2.4nmのモリブデン(Mo)層及びそれぞれ層厚3.3nmのケイ素(Si)層を含む層系の約50個のプライ又は層パケットを含み得る。
【0047】
ミラー10は、特に光学系のEUVミラー、特にマイクロリソグラフィ投影露光装置の投影レンズ又は照明装置のEUVミラーであり得る。
【0048】
光学系の動作中にミラー10の光学有効面11に電磁EUV放射が当たる(図1に矢印で示す)結果として、光学有効面11に不均一に入射する放射の吸収から生じる温度分布によりミラー基板12の体積変化が不均一になり得る。このような望ましくない体積変化を補正するために、又はマイクロリソグラフィ投影露光装置の動作中に起こる他の収差を補正するために、以下でより詳細に説明するようにミラー10はアダプティブ設計である。この目的で、本発明によるミラー10は、例示的な実施形態ではチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O、PZT)から作製される圧電層16を有する。さらに他の実施形態では、圧電層16は、他の何らかの適当な材料(例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムスカンジウム(AlScN)、マグネシウムニオブ酸鉛(PbMgNb)、又はバナジウムドープ酸化亜鉛(ZnO))からも作製され得る。圧電層16は、例えば5μm未満の厚さ、より詳細には1μm~4μmの範囲の厚さを有し得る。実施形態では、圧電層16の性能は、ニオブ酸カルシウム層(CaNbO層)を積層体の適当な場所に導入することにより向上させることができる。性能向上は、ここでは好ましくは圧電層16の[001]結晶方向の成長により達成される。
【0049】
電極装置が、圧電層16の上下にそれぞれ位置し、これらの電極装置により、局所的に可変の変形を発生させる電界をミラー10に印加することが可能である。上記電極装置のうち、ミラー基板12側の第2電極装置は、一定の厚さの連続した平面電極14として構成される一方で、第1電極装置は複数の電極20を有し、そのそれぞれに、電極14に対する電圧をリード線19により印加することが可能である。電極20は、共通の平滑化層18に埋め込まれ、平滑化層18は、例えば石英(SiO)から作製され、電極20から形成された電極装置を水平にするよう働く。
【0050】
さらに、図1に示すミラー10は、ミラー基板12とミラー基板12側の下部電極14との間に任意の接着層13(本例ではチタンTiからなる)を備える。さらに、「15」は、ミラー基板12側の電極14と圧電層16との間にあるバッファ層を示す。当該バッファ層15は、最適な結晶構造のPZTの成長をさらに支持するよう働くと共に耐用寿命にわたって圧電層16の一貫した偏光特性を確保するよう働き、例えばLaNiOから作製され得る。
【0051】
図1によれば、ミラー10はさらにメディエータ層17を有する。当該メディエータ層17は、電極20(説明のためだけに図1に平面図で示す)と直接電気的に接触する。上記メディエータ層17は、電位に関して電極20間を「媒介する」よう働き、低い導電率(好ましくは200ジーメンス/メートル(S/m)未満)しか有しない結果として、隣接電極60間の電位差がメディエータ層17で実質的に下がる。
【0052】
ミラー10又は当該ミラー10を備えた光学系の動作中に、圧電層16の領域に形成される電界により電極14、20に電圧を印加すると、上記圧電層16が撓む。このように、光学収差の補償のためのミラー10の駆動を達成することが可能である。
【0053】
既に前述したように、製造プロセスに応じて、圧電層は通常は完全に均質とはならず、複数の結晶カラムからなる一種の「カラム構造」で構成される。この場合、製造プロセスの多様なパラメータにより意図的に平均カラム径に影響を及ぼす又は平均カラム径を制御することが可能であり、これに関しては特に、レーザ堆積法で設定されたレーザクロック周波数、成長プロセス中のミラー基板温度、ミラー基板と圧電層との間にある成長層の構成、及びコーティング中のチャンバ内のガス組成に言及すべきである。この場合、最終的に確定される結晶カラムの平均サイズに、上述のパラメータの1つ又は複数により意図的に影響を及ぼすことができる。
【0054】
本発明によれば、続いて、図2の図に概略的に示すように、平均カラム径が大きくなるほど大きくなる「押し込み効果」と平均カラム径が大きくなるほど小さくなるヒステリシス効果との両方を考慮に入れるように平均カラム径に影響を与える。
【0055】
この点で、平均カラム径に対するヒステリシス効果の依存(点線)と平均カラム径に対する押し込み効果の依存(破線)との両方に関する例示的な定性プロファイルを図2の図に示す。図2に示すように、印を付けた値間隔に平均カラム径を本発明により意図的に設定する結果として、両方の効果(すなわち、ヒステリシス効果及び押し込み効果の両方)が各仕様の所定の閾値を下回る。
【0056】
図3及び図4は、本発明によるアダプティブミラーにある圧電層のさらに他の可能な構成を説明する非常に簡略化した概略図を示し、これらの実施形態には圧電層の種々の領域があり、これらの領域は平均カラム径に関して相互に大きく(特に40%以上、より詳細には50%以上)異なる。これは、アダプティブミラーの特定の実施形態によっては、例えば、(例えば、該当領域におけるミラー基板の機械的支持が強力であることにより)上記「押し込み効果」があまり重大でない領域があり得るので、そのような領域ではヒステリシス効果を減じて設定精度を向上させるのに有利なように大きな平均カラム径を選択できることを考慮したものであり得る。この点で、図3の例示的な場合には、圧電層30が、圧電層30又はアダプティブミラーの径方向外縁領域に、さらに径方向内側に位置する第1領域32に比べて大きな平均カラム径を有する領域32を有する。
【0057】
図4によれば、異なる平均カラム径を有する圧電層40の上記領域は、圧電層の異なる層プライに対応し、図示の例示的な実施形態では、第2層プライ42よりもミラー基板の近くに配置された第1層プライ41は、平均カラム径が比較的小さいことにより比較的柔軟になり、したがって第2層プライ42とミラー基板(図示せず)との間の積層体の方向の機械的結合を低減する。結果として、図4における構成の場合にはこのように、第1に上記「押し込み効果」が軽減され、第2に第2層プライにおけるカラム境界の数が少ないことにより第2層プライでヒステリシス寄与の低減が達成される。
【0058】
本発明のさらに別の態様によれば、図2図4を参照して上述したような圧電層内の平均カラム径の設定に加えて又はその代替として、圧電層の上記ヒステリシス寄与を低減し、したがってアダプティブミラーで達成される設定精度を向上させるために、1つ又は複数のさらに他の適当な措置が実施される。
【0059】
これらの措置のうち第1のものは、ヒステリシスのモデルベース予測を含み、結果として作動精度の向上を達成するために、この予測の過程で得られた結果はいずれの場合もアダプティブミラーで実現される駆動変位に最初から組み込まれる。この場合、特にコンポーネント(すなわち、アダプティブミラー又は圧電層のコンポーネント)のヒステリシス挙動の測定に基づいて、対応するモデルで特性パラメータを決定し処理することができ、ヒステリシス予測に適したモデルは(本発明をそれに制限することなく)、例えばPreisachモデル、Prandtl-Ishlinskiiモデル、Duhemモデル、Bouc-Wenモデル、Coleman-Hodgdonモデル、及びJiles-Athertonモデルである。
【0060】
さらに他の実施形態では、この場合も修正電圧分布を電極装置に対応して印加することによりヒステリシス寄与の少なくとも部分的な補償を達成するために、圧電層の誘電率の測定に基づいて予想ヒステリシス寄与を実施することもできる。この場合、本発明は、一方では圧電伸縮と他方では誘電率変化との間の線形関係を利用し、この点で、Y. Ishikiriyamaの「Improvement of Self-sensing Piezoelectric Actuator Control Using Permittivity Change Detection」, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems and Manufacturing, Volume 4, No. 1, 2010, pages 143-149を参照されたい。
【0061】
さらに他の実施形態では、バイアス電圧を各電極装置に印加することができる。これにより、アダプティブミラーを実際に起動する前のいわゆるワイス磁区の整列、したがってヒステリシス効果の低減を達成することが可能である。
【0062】
このような「バイアス電圧」は、本発明によるアダプティブミラーの作動前に又は作動休止中に印加することができる。さらに、図5によれば、このような「バイアス電圧」は、アダプティブミラーの作動中に連続的に維持することもできる。さらに、ワイス磁区の整列、したがってヒステリシス効果の低減は、冷却ステップにおいて圧電層の作製中に「バイアス電圧」を圧電層に印加することにより達成することもできる。
【0063】
バイアス電圧の設定値は、特に実際に駆動に用いられる電圧値を超え得る。図5に示すように、望ましくないヒステリシス効果に関して改善される「作動点」を、適当な電圧の印加により選択することもできる。この点で、単なる例として、図5によれば、曲線「C」に従った電圧範囲から曲線「D」に従った電圧範囲に変更することにより、非線形曲線プロファイルを利用して、ヒステリシスの低減が同じく得られる変位減少の効果を上回ることができ、したがって換言すれば、「表面変形の設定ナノメートルあたりのヒステリシス幅が効果的に小さくなる。
【0064】
「バイアス電圧」及び変形有効可変駆動電圧の相互作用において、可変電圧部分を0V~所定の最大値に設定することが可能である。代替として、可変電圧が所定の最小値~最大値(ゼロ以外)であるように、又はその最大値が0Vであり負の電圧範囲にあるように、設計を行うことができる。例えば、「バイアス電圧」は50Vとすることができ、可変電圧は0V~50Vで変わることができる。その代替として、バイアス電圧を70Vに選択することができ、可変電圧を-20V~+30Vとすることができる。さらに、この例では、バイアス電圧は100Vとすることができ、可変電圧は-50V~0Vとすることができる。
【0065】
図5において、これらの状況のそれぞれは、Dで示す曲線に囲まれた範囲での作動を表すことができる。相違点は、比較的高い「バイアス電圧」が磁区又はワイス磁区の強い分極を常に、すなわち作動休止時を含めて維持することである。しかしながら、常に高い電圧では、構造の絶縁に対する要求が大きい可能性がある。作動点は、特定の用途でどの側面がより重要であるかに応じて選択される。完全な作動範囲(すなわち、図5において曲線Dに囲まれた領域)及び「バイアス電圧」の各選択が作動の現状に適合される可能性がある。この点で、必要な振幅が小さい場合、低ヒステリシス、したがって高精度を重視することができ、比較的高い「バイアス電圧」が用いられる傾向がある。これに対して、精度要件が緩く大きな変位が必要とされる場合、比較的低い「バイアス電圧」が選択される。
【0066】
さらに他の実施形態では、アダプティブミラーの起動前及び/又は作動休止中に、ワイス磁区の整列のために単極交番電界を印加することができる。上記単極交番電界の周波数は、例えば1MHz~100MHzの間隔であり得る。
【0067】
図6は、EUVでの動作用に設計され本発明を実現できる例示的な投影露光装置の概略図を示す。
【0068】
図6によれば、EUV用に設計された投影露光装置600の照明装置が、視野ファセットミラー603及び瞳ファセットミラー604を含む。プラズマ光源601及びコレクタミラー602を含む光源ユニットからの光は、視野ファセットミラー603へ指向される。第1望遠鏡ミラー605及び第2望遠鏡ミラー606が、瞳ファセットミラー604の下流の光路に配置される。偏向ミラー607が光路の下流に配置され、当該偏向ミラーは、入射した放射線を6つのミラー651~656を含む投影レンズの物体平面の物体視野へ指向させる。物体視野の場所では、反射構造担持マスク621がマスクステージ620上に配置され、上記マスクは投影レンズを用いて像平面に結像され、像平面では、感光層(フォトレジスト)でコーティングされた基板661がウェーハステージ660上に位置する。
【0069】
投影レンズのミラー651~656のうち、単なる例として光ビーム経路に対して投影レンズの初期領域に配置されたミラー651及び652を、本発明に従って構成することができるが、それは、上記ミラー651、652において総反射損失がまだ比較的低く、したがって光強度が比較的高いことにより、熱変形の補償効果の達成が特に顕著だからである。
【0070】
本発明は特定の実施形態に基づいて説明されているが、例えば個々の実施形態の特徴の組み合わせ及び/又は交換により、多数の変形形態及び代替的な実施形態が当業者には明らかとなるであろう。したがって、当業者には言うまでもなく、かかる変形形態及び代替的な実施形態も本発明に包含され、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物の意味の範囲内にのみ制限される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図7c
図7d
図7e