(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】機械加工システム
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/00 20060101AFI20240219BHJP
B23Q 11/10 20060101ALI20240219BHJP
B23P 25/00 20060101ALI20240219BHJP
C23F 13/02 20060101ALI20240219BHJP
C23F 13/06 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
B23Q11/00 L
B23Q11/10 E
B23P25/00
C23F13/02 B
C23F13/02 M
C23F13/06
(21)【出願番号】P 2020062410
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(73)【特許権者】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100161355
【氏名又は名称】野崎 俊剛
(72)【発明者】
【氏名】西川 尚宏
(72)【発明者】
【氏名】飯田 勇気
(72)【発明者】
【氏名】中居 久明
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-173190(JP,A)
【文献】特開2016-155197(JP,A)
【文献】特開平01-188247(JP,A)
【文献】特開昭62-136370(JP,A)
【文献】特開昭56-089431(JP,A)
【文献】特公昭45-026352(JP,B1)
【文献】米国特許第04559115(US,A)
【文献】国際公開第2011/018925(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 35/00-49/06
B23Q 11/00-13/00
B23P 23/00-25/00
B24B 53/00-57/04
C23F 13/00-13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電可能な加工物を保持具により保持し、主軸に保持された工具により加工するとともに前記加工物の加工時に前記加工物及び工具間に加工水を介在させる加工装置を備え、前記加工装置を、前記加工水に通電する陽極部と、前記加工物の加工時に前記陽極部と同時に前記加工水に接触する前記加工物及び前記保持具を含む導電性部材を陰極部として、前記陽極部から加工水を通して前記陰極部へ電流を流す回路部を備えた機械加工システムにおいて、
前記加工装置は、前記加工水を蓄える加工水槽と、前記加工水槽に配置され前記加工水を噴出して加工時に前記加工物から排出される切屑を押し流す加工水噴出ノズル部と、加工水槽に配置され前記加工物に接近させて加工部分の周辺の前記加工水を超音波により振動させる超音波ホーンと、を備え
、
前記超音波ホーンの先端部から前記加工部分までの距離は、前記主軸から前記加工部分までの距離よりも小さいことを特徴とする機械加工システム。
【請求項2】
請求項
1記載の機械加工システムであって、
前記加工水噴出ノズル部は、前記工具のわきに配置され前記加工部分に向かって前記加工水を噴出する加工点ノズルを備えていることを特徴とする機械加工システム。
【請求項3】
請求項1
又は請求項2記載の機械加工システムであって、
前記加工水噴出ノズル部は、前記加工水槽の縁のわきに配置され前記加工水槽の内側から外側へ向かう前記加工水の流れ発生させるように前記加工水を噴出する切屑流し用ノズルを備えていることを特徴とする機械加工システム。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項記載の機械加工システムであって、
前記陽極部は、前記加工物に沿って配置された内側電極を備えていることを特徴とする機械加工システム。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項記載の機械加工システムであって、
前記陽極部は、前記加工水槽の縁に配置されたプール電極を備えていることを特徴とする機械加工システム。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項記載の機械加工システムであって、
前記加工水槽の外側には、当該加工水槽の縁から溢れた前記加工水を受けるように外水槽を備えていることを特徴とする機械加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱油など油剤等薬剤を含む不水溶性切削油剤や水溶性切削油剤といった加工液に代わって、水を主とする加工水を用い、加工物に対して加工水を介在させて切削等の機械加工を行う機械加工システムに係り、特に、電気防錆を行いながら機械加工を行うことのできる機能を備えた機械加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
切削等の機械加工では、ドリルなどの工具によって金属などの加工物を切削して加工する。加工の際、加工物からは切屑が発生するとともに回転する工具と加工物には熱が発生する。切屑を除去し、高温になる工具及び加工物を冷却する必要があることから、加工液が使用される。
【0003】
しかし、加工液には、切屑を押し流す洗浄性のほか、工具と加工物との摩擦を低減する等の潤滑作用や冷却作用を向上させる目的等から鉱油など油剤等をベースとした加工オイルや防錆性のための防錆剤など薬剤が使用されており、工場の臭いや汚れ、作業者の健康、廃液処理など環境に配慮する必要がある。また、加工によって排出された切屑は処分されるが、切屑に加工液が付着しているため、切屑から加工液を除去して廃液処理する必要があり手間がかかる。
【0004】
そこで、環境に考慮した機械加工システムとして、本発明者らが先に提案した、例えば特許文献1に記載された技術が知られている。
【0005】
特許文献1の機械加工システムでは、大まかに言えば、鉱油など油剤等をベースとした不水溶性切削油剤や、油剤など薬剤を含む水溶性切削油剤といった加工液に代わって、水を主とする加工水を用いる。機械加工システムは、通電可能な加工物を保持具により保持し、主軸に保持された工具により加工するとともに加工物の加工時に加工物及び工具間に加工水を介在させる加工装置を備え、加工装置を、加工水に通電する陽極部と、加工物の加工時に陽極部と同時に加工水に接触する加工物及び保持具を含む導電性部材を陰極部として、陽極部から加工水を通して陰極部へ電流を流す回路部とを備えている。
【0006】
ところで、機械加工に加工水を使用した場合、一般的に、鉱油など油剤等薬剤を含んだり防錆剤などを含んだりする加工液を使用した場合に比較して、防錆性能が低下し錆発生が懸念される。また、機械加工に加工水を使用した場合、鉱油など油剤等薬剤を含んだりした加工液を使用した場合に比較して潤滑性の低下等から、加工性能の低下が懸念されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、加工水を使用したうえで、加工物の防錆性能及び加工性能を向上させることができる機械加工システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]通電可能な加工物を保持具により保持し、主軸に保持された工具により加工するとともに前記加工物の加工時に前記加工物及び工具間に加工水を介在させる加工装置を備え、前記加工装置を、前記加工水に通電する陽極部と、前記加工物の加工時に前記陽極部と同時に前記加工水に接触する前記加工物及び前記保持具を含む導電性部材を陰極部として、前記陽極部から加工水を通して前記陰極部へ電流を流す回路部を備えた機械加工システムにおいて、
前記加工装置は、前記加工水を蓄える加工水槽と、前記加工水槽に配置され前記加工水を噴出して加工時に前記加工物から排出される切屑を押し流す加工水噴出ノズル部と、前記加工水槽に配置され前記加工物に接近させて加工部分の周辺の前記加工水を超音波により振動させる超音波ホーンと、を備えていることを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、水による加工水を使用しているので、鉱油など油剤等薬剤を含んだ加工液(切削油剤、水溶性切削液など)を使用した場合に比較して、環境性を向上させることができる。さらに、加工装置は、加工水を蓄える加工水槽と、加工水槽に配置され加工水を噴出して加工時に加工物から排出される切屑を押し流す加工水噴出ノズル部と、加工水槽に配置され加工物に接近させて加工部分の周辺の加工水を超音波により振動させる超音波ホーンと、を備えている。超音波ホーンによる超音波振動により加工物から切屑を剥がすと共に加工部分周辺を振動させ、加工水噴出ノズル部から噴出する加工水で加工物から切屑を押し流すので、加工部分から切屑を除去すると共に加工部分周辺を振動させて加工性能を向上させることができる。さらに、陽極部から加工水を通して陰極部へ電流を流すことで電気防錆を行い、これらを複合的に作用させることで、加工面の被削性を向上させて防錆性能を向上させることができる。このように、加工水を使用したうえで、加工物の防錆性能及び加工性能を向上させることができる。
【0011】
[1]好ましくは、前記超音波ホーンの先端部から前記加工部分までの距離は、前記主軸から前記加工部分までの距離よりも小さい。
【0012】
かかる構成によれば、超音波ホーンを加工部分に接近させることができるので、加工部分周辺に効率よく超音波を当てることができる。
【0013】
[2]好ましくは、前記加工水噴出ノズル部は、前記工具のわきに配置され前記加工部分に向かって前記加工水を噴出する加工点ノズルを備えている。
【0014】
かかる構成によれば、加工水噴出ノズル部は、工具のわきに加工点ノズルを備えるので、加工部分に向かって加工水を噴出し、切屑を吹き飛ばして効率よく切屑を除去することができる。
【0015】
[3]好ましくは、前記加工水噴出ノズル部は、前記加工水槽の縁のわきに配置され前記加工水槽の内側から外側へ向かう前記加工水の流れ発生させるように前記加工水を噴出する切屑流し用ノズルを備えている。
【0016】
かかる構成によれば、加工水噴出ノズル部は、加工水槽の縁のわきに切屑流し用ノズルを備えているので、加工水槽の内側から外側へ向かう加工水の流れを発生させて加工物近傍から切屑を押し流すことができる。
【0017】
[4]好ましくは、前記陽極部は、前記加工物に沿って配置された内側電極を備えている。
【0018】
かかる構成によれば、内側電極が加工物に沿って配置されるので、効率よく電気を流して電気防錆の防錆性能を向上させることができる。
【0019】
[5]好ましくは、前記陽極部は、前記加工水槽の縁に配置されたプール電極を備えている。
【0020】
かかる構成によれば、加工水槽内全体に電気が流れやすくなり、加工物と共に加工装置全体の防錆性能も向上させることができる。
【0021】
[6]好ましくは、前記加工水槽の外側には、当該加工水槽の縁から溢れた前記加工水を受けるように外水槽を備えている。
【0022】
かかる構成によれば、加工水槽の水量を一定にすると共に、外水槽で加工水を収集でき、装置全体を簡単な構成にすることができる。
【発明の効果】
【0023】
加工水を使用したうえで、加工物の防錆性能及び加工性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る機械加工システムの一例を示す説明図である。
【
図2】
図1の別態様に係る機械加工システムを示す説明図である。
【
図3】
図1の更なる別態様に係る機械加工システムを示す説明図である。
【
図4】
図2の機械加工システムを示す斜視図である。
【
図10】
図3に示した本実験の機械加工システム10の写真による斜視図である。
【
図23】実施例の穴加工後の加工物の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は、機械加工システムの概略構成を概念的(模式的)に示すものとする。
【実施例】
【0026】
図1に示すように、機械加工システム10は、通電可能な加工物Mを保持具31により保持し、主軸21に保持された工具22により加工するとともに加工物Mの加工時に加工物M及び工具22間に加工水Wを介在させる加工装置20を備えている。
【0027】
機械加工システム10は、加工装置20を、加工水Wに通電する陽極部40と、加工物Mの加工時に陽極部40と同時に加工水Wに接触する加工物M及び保持具31を含む導電性部材を陰極部30として、陽極部40から加工水Wを通して陰極部30へ電流を流す回路部11を備えている。なお、回路部11を構成する電気配線等は不図示とする。
【0028】
加工装置20は、例えば、いわゆるNC加工機であり、ステンレス製の基台23と、この基台23に設けられ金属製の導電性加工物Mを保持する導電性のチャックからなる保持具31と、主軸21を移動且つ回転可能に保持する本体部24とを備え、ドリル、エンドミル、フライス等からなる工具22により切削加工するものである。保持具31の上面は平面状に形成されており、加工物Mを、磁着、クランプ、ボルト等によって保持する。
【0029】
加工装置20は、加工水Wを蓄える加工水槽50と、加工水槽50に配置され加工水Wを噴出して加工時に加工物Mから排出される切屑を押し流す加工水噴出ノズル部60と、加工水槽50に配置され加工物Mに接近させて加工部分の周辺の加工水Wを超音波により振動させる超音波ホーン70と、この超音波ホーン70、陽極部40、陰極部30に給電する電源(不図示)と、超音波ホーン70の超音波、陽極部40及び陰極部30の電圧、電流、加工水噴出ノズル部60からの加工水Wの水量等を制御する制御部(不図示)と、を備えている。
【0030】
また、超音波ホーン70の先端部から加工部分までの距離は、主軸21から加工部分までの距離よりも小さくなるように設定されている。このような構成にすることで、超音波ホーン70を加工部分に接近させることができるので、加工部分周辺に効率よく超音波を当てることができる。
【0031】
加工水噴出ノズル部60は、工具22のわき(近傍)に配置され加工部分に向かって加工水Wを噴出する加工点ノズル61と、加工水槽50の縁のわき(近傍)に配置され加工水槽50の内側から外側へ向かう加工水Wの流れ発生させるように加工水Wを噴出する切屑流し用ノズル62と、を備えている。
【0032】
このように、加工水噴出ノズル部60は、工具22のわきに加工点ノズル61を備えるので、加工部分に向かって加工水Wを噴出し、切屑を吹き飛ばして効率よく切屑を除去することができる。さらに、加工水噴出ノズル部60は、加工水槽50の縁のわきに切屑流し用ノズル62を備えているので、加工水槽50の内側から外側へ向かう加工水Wの流れを発生させて加工物M近傍から切屑を押し流すことができる。
【0033】
また、加工水槽50の外側には、当該加工水槽50の縁から溢れた加工水Wを受けるように外水槽51を備えている。このような構成にすることで、加工水槽50の水量を一定にすると共に、外水槽51で加工水Wを収集でき、装置全体を簡単な構成にすることができる。
【0034】
加工水槽50には、第1排水口52が形成されている。外水槽51には、第2排水口53が形成されている。加工水槽50は、底54から略矩形状の側壁55が立ち上げられており、上方が開放した箱形状である。
【0035】
また、陽極部40は、加工物Mに沿って配置された内側電極41と、加工水槽50の縁に配置されたプール電極42と、を備えている。具体的には、加工水槽50に支持部材43が設けられ、この支持部材43に内側電極41が設けられている。加工水槽50の底かからの内側電極41の高さは、加工部分の高さとほぼ同じである。プール電極42は、加工水槽50の底54から立ち上がる側壁55の縁の内側に設けられている。
【0036】
このように、内側電極41が加工物Mに沿って配置されるので、効率よく電気を流して電気防錆の防錆性能を向上させることができる。さらに、加工水槽50の縁にプール電極42が配置されているので、加工水槽50内全体に電気が流れやすくなり、加工物Mの防錆性能をさらに向上させることが期待できる。
【0037】
また、機械加工システム10には、排出される加工水Wをろ過して循環する水循環再生システムを併用してもよい。一般的な従来技術では、加工液による流れで、切屑の排出が通常なされる。加工液は、ペーパーフィルタやマグネットセパレータなどでろ過して切屑を適宜除去して再利用がされている。一方、本発明のように、水を主成分とする加工水Wとする場合、安価で無害であるため、掛け流しをするのもひとつだが、省資源のためリサイクルするならば、切屑の腐食(錆:鉄イオン化や微細粒子)などで加工水Wが汚れるため、イオンや微粒子であると通常従来ろ過システムでは除去が困難である。この点、発明者が開発した水循環再生システムなどを用いると加工水Wのリサイクルも可能となる(水循環再生システムは、特許第5598841号に記載の技術を利用)。
【0038】
次に以上の述べた機械加工システム10の作用を説明する。
機械加工システム10において、加工装置20の保持具31に加工物Mを保持する。主軸21を駆動させ、工具22により加工物Mに例えばドリル加工を行う。加工時、加工点ノズル61(加工水噴出ノズル部60)から矢印(1)のように加工水を加工部分に向けて噴出するとともに、切屑流し用ノズル62(加工水噴出ノズル部60)から矢印(2)のように加工水を噴出する。
【0039】
加工水は矢印(3)のように流れて切屑を押し流し、一部は第1排水口52から矢印(4)のように排出され、残りは加工水槽50の縁を矢印(5)のように乗り越えて外水槽51に流れ、第2排水口53から矢印(6)のように排出される。なお、排出された加工水は、水循環再生システムによりリサイクルして使用してもよい。
【0040】
加工水Wの噴出及び押し流しとともに、超音波ホーン70から加工部分に向けて超音波を発生させる。
【0041】
このような加工水Wを利用した電気防錆加工により次に挙げる効果が得られる。
【0042】
水による加工水Wを使用しているので、鉱油など油剤等薬剤を含んだ加工液を使用した場合に比較して、環境性を向上させることができる。さらに、機械加工システム10は、加工水Wを蓄える加工水槽50と、加工水槽50に配置され加工水Wを噴出して加工時に加工物Mから排出される切屑を押し流す加工水噴出ノズル部60と、加工水槽50に配置され加工物Mに接近させて加工部分の周辺の加工水Wを超音波により振動させる超音波ホーン70と、を備えている。超音波ホーン70による超音波振動により加工物Mから切屑を剥がすと共に加工部分周辺を振動させ、加工水噴出ノズル部60から噴出する加工水Wで加工物Mから切屑を押し流すので、加工部分から切屑を除去すると共に加工部分周辺を振動させて加工性能を向上させることができる。
【0043】
さらに、陽極部40から加工水Wを通して陰極部30へ電流を流すことで電気防錆を行い、これらを複合的に作用させることで、加工面の被削性を向上させて防錆性能を向上させることができる。このように、加工水Wを使用したうえで、加工物Mの防錆性能及び加工性能を向上させることができる。
【0044】
次に別態様に係る機械加工システム10について説明する。なお、
図1に示した構成と共通の構成については、符号を振り具体的な説明を省略する。
【0045】
図2に示すように、機械加工システム10において、陽極部40には内側電極41が備えられており、加工水噴出ノズル部60には切屑流し用ノズル62が備えられている。
【0046】
次に作用について説明する。
機械加工システム10において、加工装置20の保持具31に加工物Mを保持する。主軸21を駆動させ、工具22により加工物Mに例えばドリル加工を行う。加工時、切屑流し用ノズル62(加工水噴出ノズル部60)から矢印(7)のように加工水を噴出する。加工水は矢印(8)のように流れて切屑を押し流し、加工水槽50の縁を矢印(9)のように乗り越えて外水槽51に流れる。外水槽51に矢印(10)のように溜まる加工水Wを、排水ポンプ(不図示)により矢印(11)のように外部に排出する。なお、排出された加工水は、水循環再生システムなどによりリサイクルして使用してもよい。
【0047】
加工水Wの噴出及び押し流しとともに、超音波ホーン70から加工部分に向けて超音波を発生させる。
【0048】
次に更なる別態様に係る機械加工システム10について説明する。なお、
図1に示した構成と共通の構成については、符号を振り具体的な説明を省略する。
【0049】
図3に示すように、機械加工システム10において、陽極部40には内側電極41が備えられており、加工水噴出ノズル部60には加工点ノズル61が備えられている。
【0050】
次に作用について説明する。
機械加工システム10において、加工装置20の保持具31に加工物Mを保持する。主軸21を駆動させ、工具22により加工物Mに例えばドリル加工を行う。加工時、加工点ノズル61(加工水噴出ノズル部60)から矢印(12)のように加工水を噴出する。加工水は矢印(13)のように流れて切屑を押し流し、加工水槽50の縁を矢印(14)のように乗り越えて外水槽51に流れる。外水槽51に矢印(15)のように溜まる加工水Wを、排水ポンプ(不図示)により矢印(16)のように外部に排出する。なお、排出された加工水は、水循環再生システムなどによりリサイクルして使用してもよい。
【0051】
加工水Wの噴出及び押し流しとともに、超音波ホーン70から加工部分に向けて超音波を発生させる。
【0052】
次に
図2に概念的に示した機械加工システム10を、実機の構成の一例で説明する。なお、
図2に示した構成と共通の構成については、符号を振り具体的な説明を省略する。
【0053】
図4、
図5に示すように、機械加工システム10は、加工装置20と、陰極部30と、陽極部40と、加工水槽50と、加工水噴出ノズル部60と、超音波ホーン70と、電源(不図示)と、制御部(不図示)と、を備えている。
【0054】
加工装置20では、基台23に加工水槽50が設けられ、本体部24の主軸21に工具22としてのドリルが設けられている。本体部24には、支持フレーム12が設けられ、この支持フレーム12に超音波ホーン70が設けられている。このような構成にすることで、超音波ホーン70を主軸21と共に移動させ、常に超音波ホーン70を加工部分の近傍に配置して超音波を加工部分に当てることができる。
【0055】
加工水槽50は基台23に設けられ、加工水槽50の中に保持具31を介して加工物Mがセットされている。加工物Mを囲うようにして支持部材43に設けられた内側電極41が配置されている。内側電極41は、電源(不図示)に配線44によって接続されている。なお、保持具31及び加工物Mが陰極部30となり、内側電極41が陽極部40となり、加工水槽50の加工水W(
図2参照)を介して回路部11(
図2参照)が形成される。
【0056】
加工水槽50の外側には、外水槽51が設けられて二重水槽となっている。外水槽51には、排水ポンプ56を配置されている。この排水ポンプ56によって、外水槽51に流れくる加工水Wを排出することができる。また、加工水槽50の縁の近傍には、加工水Wを噴出する加工水噴出部60としての切屑流し用ノズル62が配置されている。
【0057】
なお、機械加工システム10には、排出される加工水Wをろ過して循環する水循環再生システムなどを併用してもよい。また、本発明の実験では、加工時、工具22によって、加工物Mの表面M1に複数の穴M2を切削加工する。
【0058】
次に本発明の実施例による実験について説明する。
【0059】
実験には
図2、
図4に示した機械加工システム10を用い、工具(ドリル)22によって加工物Mを穴切削加工する穴加工実験と、加工物Mを加工水Wに3時間入れたままの状態での表面の状態を観察する防錆実験と、を行った。
【0060】
穴加工実験では、水槽内に水量は約Q=12.5L/minとし、加工物MはSS400鋼とし、加工水槽50の水深(水面から加工物M上面まで)を40mmとし、電気防錆は直流の定電流l=150mAとした。なお、加工水槽50の底から水面までの距離が110mm、保持具31の高さが40mm、加工物Mの高さが30mmである。主軸21と超音波ホーン70は連動して動作し、防錆実験時は工具(ドリル)22を外して模擬的に加工水Wだけ流し、水中に加工物Mを3時間入れた状態とし、その他は穴加工実験と同じ条件とした。超音波ホーン70は本多電子社製の超音波振動子「SONAC-200」(28kHz、200W)を使用し、電源装置は横河電機株式会社製「GS610」を使用し、加工装置20は浜井産業株式会社製「MAC New-55P-3A」を使用した。
【0061】
次に
図2に示した機械加工システム10による防錆実験の実験結果を示す。
【0062】
図6、
図7は、比較例であり、条件を、電気防錆なし、超音波あり、として防錆実験した加工物Mの実験結果である。
図6は加工物Mの平面図であり、
図7は加工物Mの正面図である。電気防錆なし、超音波ありでは、加工水中で、加工物Mの所々に複数の斑点のような錆が発生した。
【0063】
図8、
図9は、実施例であり、条件を、電気防錆あり、超音波あり、として防錆実験した加工物Mの実験結果である。
図8は加工物Mの平面図であり、
図9は加工物Mの正面図である。電気防錆あり、超音波ありでは、加工物Mに錆が発生しなかった。
【0064】
次に実験装置を写真で示す。
図10は
図3に示した本実験の機械加工システム10の写真による斜視図である。加工水噴出ノズル部60は、加工点ノズル61(
図3参照)とした。
【0065】
次に
図3に示した機械加工システム10による防錆実験の実験結果を示す。
【0066】
図11~
図16は、比較例であり、条件を、電気防錆なし、超音波あり、として防錆実験した加工物Mの実験結果である。
図11は加工物Mの平面図であり、
図12は加工物Mの正面図であり、
図13は加工物Mの左側面図であり、
図14は加工物Mの背面図であり、
図15は加工物Mの右側面図であり、
図16は加工物Mの底面図である。電気防錆なし、超音波ありでは、加工水中では、加工物Mの所々に複数の斑点のような錆が発生した。
【0067】
図17~
図22は、実施例であり、条件を、電気防錆あり、超音波あり、として防錆実験した加工物Mの実験結果である。
図17は加工物Mの平面図であり、
図18は加工物Mの正面図であり、
図19は加工物Mの左側面図であり、
図20は加工物Mの背面図であり、
図21は加工物Mの右側面図であり、
図22は加工物Mの底面図である。電気防錆あり、超音波ありでは、加工水中では、加工物Mに錆が発生しなかった。なお、
図3に示した機械加工システム10では、水流が加工物Mに当たるため、
図2に示した機械加工システム10よりも過酷な条件と考えられるが、防錆に成功した。
【0068】
次に
図2に示した機械加工システム10による穴加工実験の実験結果を示す。
【0069】
図23は、電気防錆あり、超音波あり、として穴加工実験した加工物Mの実験結果である。工具22(
図2参照)はドリルとして穴加工を行い、200穴を切削加工した。工具22のドリルは、材質がHSS-CO(ハイス)ノンコートの不二越社製「NACHI(登録商標)」COLSD3.0×100のコバルトハイスドリルを使用した。各寸法は、シャンク径が直径3mm、全長が100mm、シャンクつかみが30mm、溝長(刃先の長さ)が50mm、刃径が直径3mmであり、穴深を15.621mmとした。また、穴加工実験では、工具22の回転数は1250rpm、送り速度は60mm/min、ステップは1.0mm、電気防錆は直流の定電流48mAとした。電圧は4.67Vであった。
【0070】
電気防錆あり、超音波ありでは、加工直後では加工物Mに錆が発生しなかった。200穴の穴加工に成功した。切屑は比較的長い。
【0071】
次に比較例として、従来技術の機械加工システムによる穴加工実験の結果を比較のため説明する。なお、工具22は前述のドリルと同じものを使用し、工具22の回転数を1250rpm、送り速度を60mm/min、ステップを1.0mm、穴深を15.621mm、加工物MをSS400鋼とする条件は共通とした。
【0072】
(1)比較例、鉱油など油剤等を含む一般的な加工液(水溶性切削油剤)を使用した加工
加工条件は、超音波なし、加工点ノズル61から加工部分への加工液噴出あり、加工液の流量は8.25L/min、電気防錆なしとした。加工液は、JIS A1種相当のトラスコ中山社製(製造:タイユ株式会社)のTRUSCO(登録商標) メタルカット エマルション高圧対応油脂型 MC-16Eを20倍希釈の濃度にして使用した。穴加工は200穴以上となった。切屑は長い。ただし、一般的な加工液のため、鉱油など油剤等や各種薬剤を含むため、環境に配慮する必要がある。
【0073】
(2)比較例、ドライ加工(空気中加工)
加工条件は、超音波なし、加工液及び加工水の供給なし、電気防錆なしとした。穴加工は46穴まででき、47穴目の加工で工具22が折損した。切屑は短い。このように、ドライ加工では、加工性能が低下する。
【0074】
(3)比較例、加工水に入れた状態のみでの加工(切屑流し用ノズル使用)
加工条件は、超音波なし、加工点ノズル61から加工部分への加工水噴出なし、切屑流し用ノズル62からの加工水噴出あり、加工水の流量は12.5L/min、電気防錆は直流の定電流150mAとした。電圧は14Vであった。穴加工は134穴まででき、135穴目の加工で工具22が折損した。切屑は長い。このように、超音波なしの加工水に入れた状態のみでの加工では、加工性能が低下する。
【0075】
(4)比較例、加工水に入れた状態のみでの加工(加工点ノズル使用)
加工条件は、超音波なし、加工点ノズル61から加工部分への加工水噴出あり、切屑流し用ノズル62からの加工水噴出なし、加工水の流量は12.5L/min、電気防錆は直流の定電流150mAとした。電圧は14Vであった。加工時、加工水中での錆は発生しないが、穴加工は100穴まででき、101穴目の加工で工具22が折損した。切屑は長い。このように、超音波なしの加工水に入れた状態のみでの加工では、加工性能が低下する。
【0076】
以上から、本発明の実施例に示す機械加工システム10のように、加工水を使用したうえで、電気防錆あり、超音波あり、とした条件で穴加工することが、環境によく、加工物の防錆性能及び加工性能を向上させることができる。
【0077】
次に以上に述べたことをまとめて説明する。
従来、切削ドリル加工での加工液使用を削減する技術では、加工液を使用しないドライ加工、微量油剤を使用するMQL加工などがあったが、工具が折損する寿命や、冷却性の問題から加工精度や加工能率の低減が、従来加工液(切削油剤、水溶性切削液など)に比較し、多くの場合劣っていた。懸念事項として、次のことが挙げられていた。
【0078】
1.水を加工液とする場合、安全性・環境性もよく、安価・省資源で、大きな冷却性を得られるが、加工物が水で錆びると言う問題から、錆を防ぐ防錆剤など薬剤を含んだ加工液を使用せざるを得なかった。社会動向として生産工場では、加工液を減らす試みとして希釈加工液使用が現場でも行われているが、防錆性低減や加工性能低減が懸念されている。そこで、さらに腐食性的に過酷な水だけでの防錆というのが可能であるか、ということが切削ドリル加工で懸念されていた。2.水を加工液として使用するための試みとして、希釈加工液(防錆剤)やアルカリ水では腐敗などでの液成分劣化やpHなど液質を管理するなどしなければコンスタントな加工運用での防錆達成ができず、廃液処理も必要である。3.水では切削ドリル加工の性能が、油剤や乳化剤、極圧添加剤などが含まれないため加工能率や工具寿命が従来加工液に比べ低減する懸念がある。
【0079】
そこで、本発明では、次のような構成を含めた。
1.切削ドリル加工への電気防錆加工法システム搭載。
切削機に、ノズルや水槽を必要に応じて設け、そこに防錆用陽極部(内側電極、プール電極)を設置し、加工物を陰極部として、外部電源装置に接続して、加工物防錆のための電圧・電流供給を行う。その際、簡単な電流供給手法としては、定電圧制御(電圧一定での電流供給)や、電極ショートの防止や防錆や水はね・水面変化での電流変動抑制のための定電流制御(電流を一定になるように電源装置が電圧を自動調整する)がある。これにより、加工物の水のみでの防錆加工が可能となる。尚、工具の防錆もしたい場合、工具を陰極として同様に給電することで、工具についても防錆が可能となる。
【0080】
2.切削ドリル加工への超音波振動システム搭載。
加工装置(切削機)に、超音波ホーンや振動子、振動プレート等を設置し、超音波を伝導するため、加工水(水)が介在する中で、腐食(錆)を抑制しつつ超音波複合により加工性能・能率を向上させる。例えば、電気防錆加工を実装しつつ、それらの器具類と干渉しないように、加工物と超音波ホーン等の間を水で充填し、超音波振動を水中で伝え、切削性向上やドリル穴からの切屑の排出性向上を図る。また、加工装置上に水槽(単一であったり二重であったりなど)を設置し、超音波ホーンを配置する。超音波ホーンについては、水中の適当な方向を向け設置する。
【0081】
このようにすることで、本発明の実施例は、水を加工液として、加工物等を防錆し(腐食を防ぎ)、かつ超音波併用で加工性能・能率向上することができる。さらに、電気防錆加工法(水加工)に、超音波の使用を複合することで、加工中における防錆が可能となり、さらに加工性能・能率向上を図ることができる。これにより、温室効果ガス排出削減、環境保護、資源保護にも対応でき、安全性・環境性も満たすことができる。さらに、豊富な水で安価に加工でき、クリーンな生産において、水だけの加工でも能率での競争力を得ることができる。
【0082】
尚、超音波ホーンは、加工物上面に向け設置してもよい(切屑排出と超音波ビームの加工面への集中)。超音波ホーンの超音波ビームラインが、ドリル(工具)が加工物に入る加工点(加工部分)に向け、ドリルに超音波ホーンが追従して上下するようにしてもよい。その際、追従するドリル先端にあわせて超音波ビームが加工点からずれるが簡易的に実装するか、あるいは、加工点で超音波ホーンの追従がとまるようにしてもよい(下端ストッパーを設けて追従を制限する。機械的に駆動制御する)。超音波ホーンの先端部から加工点までの距離は、ドリルの主軸から加工点までの距離よりも小さいことで切屑排出効果を高めることができる。さらに、電気防錆加工を実装しつつ、それらの器具類と干渉しないように、加工物に超音波振動を超音波水槽や振動子から直接印加してもよい。さらに、電気防錆加工を実装しつつ、それらの器具類と干渉しないように、工具に超音波振動を印加し(ドリル軸に内蔵など)、加工物にそれが接触あるいは非接触で超音波を印加するようにしてもよい。さらに、電気防錆加工を実装しつつ、それらの器具類と干渉しないように、ノズルに超音波振動を印加し(ノズル内部に振動子を実装したり、予め液に超音波印加する(メガ)ソニッククーラントを併用する)、加工物にそれが接触あるいは非接触で超音波を印加するようにしたりしてもよい。
【0083】
また、実施例では、基台をステンレス製としたが、樹脂材などへの材質変更や樹脂コーティングなどにより絶縁してもよい。加工装置の筐体については、必要に応じ、錆びない材質(ステンレス、樹脂、セラミックなど)への変更や、実施例のように樹脂などでのコーティングでもよく、さらには機械筐体に対する電気防錆での複合的な防錆としてもよい。また、実施例では、加工装置をNC加工機としたが、いわゆるNC加工機ではないボール盤やフライス盤など他の一般的な切削用工作機械であってもよい。
【0084】
また、加工物の保管方法としては、加工後、電気防錆が行われないと、加工物が濡れていると錆が発生してしまうので、加工後に即時にエアなどで水分を除去して乾燥させ、乾燥状態で保管するか従来方と同様に防錆剤などをかけて保管する。または、加工後にいわゆる電気防錆水中保管法を適用し、必要時まで水中で防錆保管してもよい。さらには、加工後の加工物の防錆については、特許5598841号を利用して、被膜を生成して耐食性を向上することがあってもよい。また、加工水槽に陽極部が配置されているので、加工水槽内全体に電気が流れやすくなり、加工装置が陰極部に接続された場合、加工装置全体の防錆性能も向上させることができる。また、排出された加工水は、水循環再生システムなどによりリサイクルして使用してもよい。
【0085】
また、実施例の電気防錆加工法による機械加工システムでは、防錆用の電極として陽極部を内側電極やプール電極としたが、これに限定されず、加工水を噴出するノズルを電極とするノズル型電極としてもよい。また実施例では、超音波供給源として、超音波ホーンを使用したが、これに限定されず、プレート、振動板、振動子などや、加工物への振動体の実装、工具への振動体の実施、加工水を噴出するノズルでの超音波としての振動体実施、超音波印加加工水などを採用してもよい。
【0086】
即ち、本発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、加工水を用いて電気防錆を行いながらドリルによる穴加工を行う機械加工システムに好適である。
【符号の説明】
【0088】
10…機械加工システム、11…回路部、20…加工装置、21…主軸、22…工具(ドリル、エンドミル、フライス)、30…陰極部、31…保持具(陰極部)、40…陽極部、41…内側電極(陽極部)、42…プール電極(陽極部)、50…加工水槽、51…外水槽、60…加工水噴出ノズル部、60、61…加工点ノズル、60、62…切屑流し用ノズル、70…超音波ホーン、M…加工物(陰極部)、W…加工水。