(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】リファレンス刺激
(51)【国際特許分類】
A61B 5/383 20210101AFI20240219BHJP
【FI】
A61B5/383
(21)【出願番号】P 2021516251
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017658
(87)【国際公開番号】W WO2020218493
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2019085779
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】517249071
【氏名又は名称】PaMeLa株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100190621
【氏名又は名称】崎間 伸洋
(72)【発明者】
【氏名】中江 文
(72)【発明者】
【氏名】能村 幸大郎
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/022242(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/009420(WO,A1)
【文献】青樹秀樹,痛覚刺激時における脳波ゆらぎについて,電子情報通信学会技術研究報告,Vol.95 No.356,日本,1995年11月16日,Page 71-78
【文献】米田徹,痛みを誘発する電気的な新奇刺激に対する事象関連電位の測定,電子情報通信学会技術研究報告,Vol.98 No.400,日本,1998年11月17日,Page 7-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/383
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記憶装置と演算装置を有するコンピュータが、対象人の反応を識別するためのモデルを構築するための方法であって、
前記演算装置が、前記対象人から
反応データとして複数の
脳波データを取得する
ステップを備え、前記取得するステップは、
前記
対象人が第1の状態にあるときの第1の脳波データを取得する
ステップと、
前記
対象人が第2の状態にあるときの第2の脳波データを取得する
ステップと、
を含
み、
前記対象人の前記第1の脳波データは、前記対象人に異なるレベルの痛みを加えた第1の状態で測定され、前記演算装置が、前記第1の脳波データを記憶装置に記憶させ、前記対象人の前記第2の脳波データは、前記対象人に痛みを加えなかった第2の状態で測定され、前記演算装置が、前記第2の脳波データは前記記憶装置に記憶させ、
前記演算装置が、前記取得された複数の
脳波データに基づいて、前記
対象人の反応を識別するための前記
対象人に特有のモデルを構築するステップを
さらに備え、前記モデルを構築するステップは、
a)複数の健常被験者に疼痛試験を実施し、各健常被験者に異なるレベルの疼痛を適用した複数のCOVASデータを取得するステップと、
b)複数のCOVASデータを平均化してCOVASテンプレートを作成するステップと、
c)前記記憶装置から前記第1および第2の脳波データを読み出すステップと、
d)前記COVASテンプレートに基づいて、前記第1および第2の脳波データまたはその解析データを切り出すステップと、
e)前記切り取られた脳波データまたはその分析データを学習用データとし、前記切り取られた脳波データまたはその分析データに対応するCOVASテンプレートの値をラベルとして学習することにより、モデルを作成するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記解析データを切り出すステップは、
前記切り出された脳波データから、絶対振幅、エントロピー、所定の周波数帯域の周波数パワー、コヒーレンスの各特徴量を抽出する前処理ステップと、
サンプル数を増加させるサンプル増加法を実行するステップとを含み、
前記モデルを作成するステップは、
前記増加したサンプルを使用して、前記対象人にフィットするLSTMのモデルを作成するステップと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記解析データを切り出すステップは、
前記COVASテンプレートを最小値0から最大値まで昇順にソートするステップと、
前記ソートされたCOVASテンプレートから、最小値から最大値までの範囲を所定単位で所定数切り出すステップと、
前記抽出された特徴量から、前記モデルを探索するための標準化パラメータを、前記所定数の範囲のそれぞれの平均値と標準偏差とに基づいて算出するステップと、を含み、
前記LSTMのモデルを作成するステップは、標準化パラメータを使用してアンサンブル学習を実行するステップを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
対象人から反応データ
として複数の脳波データを取得する取得手段
を備え、前記取得手段は、前記対象人が第1の状態にある場合に、前記対象人から第1の脳波データを取得する第1の脳波データ取得手段と、前記対象人が第2の状態にある場合に、前記対象人から第2の脳波データを取得する第2の脳波データ取得手段と、を含み、
前記対象人の前記第1の脳波データは、前記対象人に異なるレベルの痛みを加えた第1の状態で測定され、前記演算装置が、前記第1の脳波データを記憶装置に記憶させ、前記対象人の前記第2の脳波データは、前記対象人に痛みを加えなかった第2の状態で測定され、前記演算装置が、前記第2の脳波データは前記記憶装置に記憶させ、
前記取得手段から得た
前記脳波データに基づいて、前記対象人の反応を特定するための前記対象人固有のモデルを構築するモデル構築手段
を備え、
前記モデル構築手段は、
a)複数の健常被験者に疼痛試験を実施し、各健常被験者に異なるレベルの疼痛を適用した複数のCOVASデータを取得する手段と、
b)複数のCOVASデータを平均化してCOVASテンプレートを作成する手段と、
c)前記記憶装置から前記第1および第2の脳波データを読み出す手段と、
d)前記COVASテンプレートに基づいて、前記第1および第2の脳波データまたはその解析データを切り出す手段と、
e)前記切り取られた脳波データまたはその分析データを学習用データとし、前記切り取られた脳波データまたはその分析データに対応するCOVASテンプレートの値をラベルとして学習することにより、モデルを作成する学習手段と、を含み、
前記取得手段によって取得された
前記脳波データに基づいて前記モデルにより前記
対象人の反応を識別した結果を出力する出力手段を、さらに備える、システム。
【請求項5】
対象人の反応を識別するためのモデルを構築するためのプログラムであって、前記プログラムは、
演算装置と記憶装置とを備えるコンピュータシステムにおいて実行され
るとき、前記プログラムは、前記
演算装置に請求項1に記載の方法を実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リファレンス刺激を用いた信号処理に関する。より特定すると生理信号の処理においてリファレンス刺激を利用する技術に関する。さらに特定すると、脳波に関するリファレンス刺激の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
Pain Visionという機械がある。これは、痛みを数値化したという点で画期的であったが、その痛みの程度をボタンを押すことで知らせたデータをもとに数値化するものであった。
【0003】
誘発電位という脳波を用いて刺激に対する脳活動を測定する技術が存在する。痛みに対する測定ができることはすでに明らかになっており、大きな刺激に対し大きな脳活動がおこることがわかっている。この研究は海外で先行している。しかし、神経障害を見出す手段として考えられており、痛みの大きさそのものを測るという状況に至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6373402号公報
【文献】特許第6371366号公報
【文献】特許第5909748号公報
【文献】特許第6049224号公報
【文献】特許第5215508号公報
【文献】特許第6125670号公報
【文献】特開2018-166935号公報
【文献】特表2017-536946号公
【文献】特開2018-187287号公報
【文献】特開2019-32767号公報
【文献】特開2009-18047号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、[1]事前に刺激を与え、[2]その後、脳波などのシグナルを測定し、[3]あてはめを行い、[4]対象のなんらかの状態を判定する方法により、予想外に分析精度が改善したことを見出したことにより完成された。特に、本開示は、[1]事前に刺激を与え、[2]その後、脳波などのシグナルを測定し、[3]個人に対する(判別)モデルを作成し、[4]あてはめを行い、[5]作成したモデルを用いて、対象のなんらかの状態を判定する方法により、予想外に分析精度が改善したことも見出した。
【0006】
特に、本開示は、リファレンス刺激を与えて得られたデータ(前もってとったデータ)に基づいて、実際の診断をするものであり、ノイズ処理について特に注目される。従来技術では70%正解率を目的とするものであれば、30%のノイズについて、20%でも改善できることも特徴の一つである。本開示の手法は、ノイズ発生行動(例えば、意味のない行動)を行い、ノイズを伴うデータを取得し、取得したデータを4分割ラベルし(ノイズあるなし、痛みあるなし)、各々機械学習させて判別式を作成し、実際に得られた信号をその判別式に当てはめ痛みの有無を判定する方法を提供する。
本開示の実施形態の例として、以下のものが挙げられる。
(項目1)
生体の反応を識別するためのモデルを構築するための方法であって、
生体から複数の反応データを取得することであって、
前記生体が第1の状態にあるときの第1の反応データを取得することと、
前記生体が第2の状態にあるときの第2の反応データを取得することと
を含む、ことと、
前記取得された複数の反応データに基づいて、前記生体の反応を識別するための前記生体に特有のモデルを構築することと
を含む、方法。
(項目2)
前記第1の反応データは、前記生体が第1の状態にあるときに前記生体に刺激を付与したときのデータであり、
前記第2の反応データは、前記生体が第2の状態にある時に前記生体に刺激を付与したときのデータである、
項目1に記載の方法。
(項目3)
前記生体から複数の反応データを取得することは、
前記生体が前記第1の状態にあるときに前記生体に刺激を付与しないときの第3の反応データを取得することと、
前記生体が前記第2の状態にあるときに前記生体に刺激を付与しないときの第4の反応データを取得することと
を含む、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記生体の反応は、痛み有りの反応と、痛み無しの反応とを含む、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
(項目5)
前記第1の状態は、前記反応データにノイズが付加される状態であり、
前記第2の状態は、前記反応データにノイズが付加されない状態である、
項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
前記第2の状態は、前記生体が視覚遮断行動、聴覚遮断行動またはこれらの組合せを行っている状態を含む、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記モデルを構築することは、前記取得された複数の反応データに基づいて、生体の反応を識別するための既存のモデルを更新することによって、前記生体に特有のモデルを構築することを含む、項目1~6のいずれか一項に記載の方法。
(項目8)
前記モデルを構築することは、前記取得された複数の反応データに基づいて、生体の反応を識別するための複数の既存のモデルから前記生体に特有のモデルを選択することによって、前記生体に特有のモデルを構築することを含む、項目1~6のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
前記生体の反応は、痛み有りの反応と、痛み無しの反応とを含み、前記モデルを構築することは、
a)複数の被験体に対して疼痛試験を行うことにより、複数のCOVASデータを取得するステップと、
b)前記複数のCOVASデータを平均することにより、COVASテンプレートを作成するステップと、
c)前記生体に対して前記疼痛試験を行うことにより、前記生体から脳波データまたはその分析データを得るステップと、
d)前記COVASテンプレートに基づいて、前記脳波データまたはその分析データを切り取るステップと、
e)前記切り取られた脳波データまたはその分析データを学習用データとし、前記切り取られた脳波データまたはその分析データに対応するCOVASテンプレートの値をラベルとして学習することにより、モデルを作成するステップと
を含む、項目1~8のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
項目1~9のいずれか一項に記載の方法によって構築されたモデルと、
生体から反応データを取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得された反応データに基づいて前記モデルが前記生体の反応を識別した結果を出力する出力手段と
を備えるシステム。
(項目11)
生体から反応データを取得する取得手段であって、前記取得手段は、参照モードと測定モードとを含む取得手段と、
前記取得手段から得た反応データを参照刺激として用いてモデルを構築するモデル構築手段であって、前記モデルは、
前記参照モードにおいて、前記生体から複数の反応データを取得することであって、
前記生体が第1の状態にあるときの第1の反応データを取得することと、
前記生体が第2の状態にあるときの第2の反応データを取得することと
を含むことによって取得された複数の反応データに基づいて、前記生体の反応を識別するための前記生体に特有のモデルを構築することによって構築される、モデル構築手段と、
前記測定モードにおいて前記取得手段によって取得された反応データに基づいて前記モデルが前記生体の反応を識別した結果を出力する出力手段と
を備えるシステム。
(項目12)
さらに、標準的なモデルを備える、項目11に記載のシステムであって、前記モデル構築手段は、前記複数の反応データに基づいて前記標準的なモデルを修正する、システム。
(項目13)
生体の反応を識別するためのモデルを構築するためのプログラムであって、前記プログラムは、プロセッサを備えるコンピュータシステムにおいて実行され、
前記生体が第1の状態にあるときの第1の反応データと、前記生体が第2の状態にあるときの第2の反応データとに基づいて、前記生体の反応を識別するための前記生体に特有のモデルを構築すること
を含む処理を前記プロセッサに実行させる、プログラム。
【0007】
本開示において、上記1又は複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態及び利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0008】
痛みの感度は、高齢者や幼年者でまったくことなるが、絶対的な基準がなく、正確な診断ができない。本開示は、このような状況のもと、対象毎にリファレンス刺激を与えてデータをとることで、個人ごとに標準化することができるという効果を奏する。また、どの患者にもノイズがつきもの(特に筋電図)であり、これを除去できないため、正確な診断ができない。改良発明として、ノイズがあっても、正確な試験ができることも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、4クラスLSTM解析の解析条件を示す図である。
【
図2】
図2は、4クラスLSTM解析に用いた生データ(artifact1)を示す図である。artifact1の条件は、ノイズテスト(強く目をつむる、体の伸び、音読)、開眼である。ノイズタスクのデータ収集に不備があったため、このデータに基づいたモデル作成は行っていない。
【
図3】
図3は、
図2に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。4クラスでは、ノイズあり痛みなし(2)と判定されるべきであるが、誤判別が観察されている。
【
図4】
図4は、4クラスLSTM解析に用いた生データ(artifact2)を示す図である。artifact2の条件は、ノイズテスト(強く目をつむる、体の伸び、音読)、開眼である。
【
図5】
図5は、
図4に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。4クラスでは、ノイズあり痛みなし(2)と判定されるべきであるが、モデル作成用なので、正しく判定されていることが分かる。
【
図6】
図6は、4クラスLSTM解析に用いた生データ(artifact_pain1)を示す図である。artifact_pain1の条件は、痛み刺激時にノイズテスト(ノイズが入る自発的反応)、開眼である。
【
図7】
図7は、
図6に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。4クラスでは、ノイズあり痛みなし(2)とノイズあり痛みあり(3)が、交互に現われているので、うまく判別できていることが分かる。
【
図8】
図8は、4クラスLSTM解析に用いた生データ(artifact_pain2)を示す図である。artifact_pain2の条件は、痛み刺激時にノイズテスト(ノイズが入る自発的反応)、開眼である。
【
図9】
図9は、
図8に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。4クラスでは、ノイズあり痛みなし(2)とノイズあり痛みあり(3)が、交互に現われているので、うまく判別できていることが分かる。
【
図10】
図10は、4クラスLSTM解析に用いた生データ(ref)を示す図である。refの条件は、痛み刺激、安静、閉眼である。
【
図11】
図11は、
図10に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。4クラスでは、ノイズなし痛みあり(1)が、痛み刺激のある時に現われているので、うまくモデルが作成できていることが分かる。
【
図12】
図12は、4クラスLSTM解析に用いた生データ(main1)を示す図である。refの条件は、痛み刺激、安静、閉眼である。
【
図13】
図13は、
図12に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。4クラスでは、ノイズなし痛みあり(1)が、痛み刺激のある時に現われているので、うまく判別ができていることが分かる。
【
図14】
図14は、4クラスLSTM解析に用いた生データ(main2)を示す図である。refの条件は、痛み刺激、安静、閉眼である。
【
図15】
図15は、
図14に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。後半の痛み刺激のないところでは、ノイズあり(2or3)と判定されており、誤判別も多くなっていることが分かる。
【
図16】
図16は、4クラスLSTM解析に用いた生データ(main3)を示す図である。refの条件は、痛み刺激時にノイズテスト、閉眼である。
【
図17】
図17は、
図16に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。全体的に、ノイズあり(2または3)と判定されており、2クラスでの誤判別も多くなっていることが分かる。
【
図18】
図18は、4クラスLSTM解析に用いた生データ(2temp)を示す図である。refの条件は、痛み刺激(中:46℃、大:48℃)、開眼である。
【
図19】
図19は、
図18に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。全体的に、ノイズあり(2)と判定されており、誤判別が多くなっている。閉眼タスクを行っていないためだと考えられる。
【
図20】
図20は、4クラスLSTM解析に用いた生データ(2temp_artifact)を示す図である。refの条件は、痛み刺激(中:46℃、大:48℃)時にノイズテスト(ノイズが入る自発的反応)、開眼である。
【
図21】
図21は、
図20に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。閉眼タスクを行っていないが、痛み刺激時に痛みに反応するタスクを行っているためか、少し判別精度が改善されている。
【
図22】
図22は、4クラスと2クラスのLSTMの比較における評価基準を示す図である。
【
図23】
図23は、4クラスと2クラスのLSTMの比較における各条件の判別精度を示す図である。
【
図24】
図24は、4クラスと2クラスのLSTMの比較における各条件の適合率を示す図である。
【
図25】
図25は、4クラスと2クラスのLSTMの比較における各条件の再現率を示す図である。
【
図26】
図26は、4クラスと2クラスのLSTMの比較における各条件のF1値を示す図である。
【
図27】
図27は、4クラスと2クラスのLSTMの比較における評価基準の平均値を示す図である。
【
図28】
図28は、2クラスLSTM解析流れを示す図である。
【
図29】
図29は、2クラスLSTM解析に用いた生データ(artifact1)を示す図である。artifact1の条件は、ノイズテスト(強く目をつむる、体の伸び、音読)、開眼である。ノイズタスクのデータ収集に不備があったため、このデータに基づいたモデル作成は行っていない。
【
図30】
図30は、
図29に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。2クラスでは、痛みなし(0)と判定されるべきであるが、誤判別されている。
【
図31】
図31は、2クラスLSTM解析に用いた生データ(artifact2)を示す図である。artifact2の条件は、ノイズテスト(強く目をつむる、体の伸び、音読)、開眼である。
【
図32】
図32は、
図31に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。2クラスなので、痛みなし(0)と判定されるべきであるが、痛みありと誤判別されている。
【
図33】
図33は、2クラスLSTM解析に用いた生データ(artifact_pain1)を示す図である。artifact_pain1の条件は、痛み刺激時にノイズテスト(ノイズが入る自発的反応)、開眼である。
【
図34】
図34は、
図33に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。2クラスでは、痛みなし(0)と痛みあり(1)が、交互に現われているので、うまく判別できている。
【
図35】
図35は、2クラスLSTM解析に用いた生データ(artifact_pain2)を示す図である。artifact_pain2の条件は、痛み刺激時にノイズテスト(ノイズが入る自発的反応)、開眼である。
【
図36】
図36は、
図35示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。2クラスでは、痛みなし(0)とノイズあり(1)が、交互に現われているので、うまく判別できている。
【
図37】
図37は、2クラスLSTM解析に用いた生データ(ref)を示す図である。refの条件は、痛み刺激、安静、閉眼である。
【
図38】
図38は、
図37に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。2クラスでは、痛みあり(1)が、痛み刺激のある時に現われているので、うまくモデルが作成できている。
【
図39】
図39は、2クラスLSTM解析に用いた生データ(main1)を示す図である。refの条件は、痛み刺激、安静、閉眼である。
【
図40】
図40は、
図39に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。2クラスでは、痛みあり(1)が、痛み刺激のある時に現われているので、うまく判別ができている。
【
図41】
図41は、2クラスLSTM解析に用いた生データ(main2)を示す図である。refの条件は、痛み刺激、安静、閉眼である。
【
図42】
図42は、
図41に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。後半の痛み刺激のないところでは、ノイズあり(1)と判定されており、誤判別も多くなっている。
【
図43】
図43は、2クラスLSTM解析に用いた生データ(main3)を示す図である。refの条件は、痛み刺激時にノイズテスト、閉眼である。
【
図44】
図44は、
図43に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。全体的に、痛みあり(1)と判定されており、2クラスでの誤判別も多くなっている。
【
図45】
図45は、2クラスLSTM解析に用いた生データ(2temp)を示す図である。refの条件は、痛み刺激(中:46℃、大:48℃)、開眼である。
【
図46】
図46は、
図45に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。全体的に、誤判別が多くなっている。閉眼タスクを行っていないためだと考えられる。
【
図47】
図47は、2クラスLSTM解析に用いた生データ(2temp_artifact)を示す図である。refの条件は、痛み刺激(中:46℃、大:48℃)時にノイズテスト(ノイズが入る自発的反応)、開眼である。
【
図48】
図48は、
図47に示した生データのオフライン時系列データ解析を行った結果を示す図である。全体的に、誤判別が多くなっている。閉眼タスクを行っていないためだと考えられる。
【
図49】
図49は、スタンドアローン型のシステム模式図である。
【
図50】
図50は、熱刺激提示のPathwayプログラムを示す図である。40℃から48℃まで、5段階でランダムに3回ずつ熱刺激を提示した。
【
図51】
図51は、脳波電極の装着箇所を示す図である。絶対振幅と6つの周波数帯域(2-5Hz、5-8Hz、8-14Hz、14-29Hz、31-40Hz、40-49Hz)から周波数パワーを特徴量として抽出し、前処理として、EOG除去とバンドパスフィルターをかけた。
【
図52】
図52は、モデル作成用の熱刺激実験を示す図である。
【
図53】
図53は、本番(0-76分)の痛み判別値、痛み推定値および特徴量を示す図である。
【
図54】
図54は、本番(0-30分)の痛み判別値、痛み推定値および脳波を示す図である。
【
図55】
図55は、本番(30-76分)の痛み判別値、痛み推定値および脳波を示す図である。
【
図56】
図56は、本番(0-76分)の痛み判別値および痛み推定値を示す図である。
【
図57】
図57は、レファレンス刺激を応用した医療システムの構成の一例を示す図である。
【
図58】
図58は、レファレンス刺激を応用した医療システムの構成の一例を示す図である。
【
図59】
図59は、レファレンス刺激を応用した医療システムの構成の一例を示す図である。
【
図61】
図61は、スパースモデル解析の流れを示すフローチャートの一例である。
【
図62A】
図62Aは、実験トライアルの(1)の段階的熱刺激の例と、それに対応するCOVASテンプレートの例と、COVASテンプレートを最小値0から最大値100まで昇順にソートしたソート済みCOVASテンプレートの例を示す。
【
図62B】
図62Bは、ソートされたCOVASテンプレートから切り取られた19種類の標準化パラメータと10種類の標準化パラメータに対応する10個のモデルとの範囲を示す。
【
図63A】
図63Aは、ソートされたCOVASテンプレートから切り取られた10種類の標準化パラメータと10種類の標準化パラメータに対応する10個のモデルとの範囲を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0011】
(定義等)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0012】
本明細書において「リファレンス刺激」とは、ある刺激に基づいて検査、分析または診断を行う際に、実際の検査、分析または診断を行う前に与える刺激をいう。本明細書では、「Ref刺激」などと省略されることがある。リファレンス刺激は、任意の大きさの刺激であり得、例えば、診断時に与えられる刺激より小さいことが多い。
【0013】
本明細書において「生体の反応」とは、生体に与えられた刺激に応じて生じる任意の現象をいう。生体の反応としては、痛覚、味覚、視覚、嗅覚、聴覚などの生体により認知できる感覚が挙げられる。
【0014】
本明細書において、「モデル(model)」または「仮説(hypothesis)」とは、同義に用いられ、入力される予測対象から、予測結果への対象対応を記述する写像、もしくはそれらの候補集合で、数学的な関数か論理式を用いて表現する。機械学習での学習では、訓練データを参照して、モデル集合から真のモデルを最もよく近似すると思われるモデルが選択される。
【0015】
モデルとしては、生成モデル、識別モデル、関数モデルなどが挙げられる。入力(予測対象)xと出力(予測結果)yとの写像関係の分類モデルを表現する方針の違いを示すものである。生成モデルは、入力xが与えられたときの出力yの条件付分布を表現する。識別モデルは、入力xと出力yの同時分布を表現する。識別モデルと生成モデルは写像関係が確率的である。関数モデルは、写像関係が確定的なもので、入力xと出力yの確定的な関数関係を表現する。識別モデルと生成モデルでは識別の方がやや高精度といわれることもあるが、ノーフリーランチ定理により基本的には優劣はない。
【0016】
本明細書において「機械学習」とは、明示的にプログラミングすることなく、コンピュータに学ぶ能力を与える技術をいう。機能単位が新しい知識・技能を獲得すること、又は既存の知識・技能を再構成することによって、自身の性能を向上させる過程である。経験から学ぶように計算機をプログラミングすることで、細部をプログラミングするのに必要になる手間の多くは減らせ、機械学習分野では、経験から自動的に改善を図れるようなコンピュータプログラムを構築する方法について議論している。データ分析・機械学習の役割としては、アルゴリズム分野と並んで知的処理の基盤になる要素技術であり、通常他の技術と連携して利用され、連携する分野の知識(ドメインスペシフィック(領域特有)知識;例えば、医学分野)が必要である。その応用範囲としては、予測(データを集め、これから起こることを予測する)、探索(集めたデータの中から、何か目立つ特徴を見つける)、検定・記述(データの中のいろいろな要素の関係を調べる)などの役割がある。機械学習は、実世界の目標の達成度を示す指標に基づくものであり、機械学習の利用者が、実世界での目標を把握していなければならない。そして、目的が達成されたときに、良くなるような指標を定式化する必要がある。機械学習は逆問題で、解が解けたかどうかが不明確な不良設定問題である。学習したルールの挙動は確定的ではなく確率(蓋然)的である。何らかの制御できない部分が残ることを前提とした運用上の工夫が必要であり、本開示のテイラーメイド法はこの解決手段ともいいうるものである。訓練時と運用時の性能指標をみながら、機械学習の利用者が、データや情報を実世界の目標に合わせて逐次的に取捨選択することも有用である。
【0017】
機械学習としては、線形回帰、ロジスティック回帰、サポートベクターマシンなどが用いられ得、および交差検証(交差検定、交差確認ともいう。Cross Validation;CV)を行うことで、各モデルの判別精度を算出することができる。ランキングした後、1つずつ特徴量を増やして機械学習(線形回帰、ロジスティック回帰、サポートベクターマシンなど)と交差検証を行い、各モデルの判別精度を算出することができる。それにより、最も高い精度のモデルを選択することができる。本開示において、機械学習は、任意のものを使用することができ、教師付き機械学習として、線形、ロジスティック、サポートベクターマシン(SVM)などを利用することができる。
【0018】
機械学習では論理的推論を行う。論理的推論にはおおまかに3種類あり、演繹(deduction)、帰納(induction)、アブダクション(abduction)、類推(アナロジー)がある。演繹は、ソクラテスは人間、すべての人間は死ぬとの仮説があったときにソクラテスは死ぬとの結論を導き出すもので特殊な結論といえる。帰納は、ソクラテスは死ぬ、ソクラテスは人間との仮説があったときにすべての人間は死ぬとの結論を導き出すもので一般的な規則を導くものである。アブダクションは、ソクラテスは死ぬ、すべての人間は死ぬとの仮定があった時にソクラテスは人間であると導き出すものであり、仮説・説明にあたる。とはいえ、帰納にしてもどう一般化するかは前提によるため、客観的であるとは言えない可能性があることに留意する。類推は、対象Aと対象Bがあり、対象Aが4つの特徴を持ち、かつ対象Bがその特徴のうち共通して3つ持つ場合、対象Bは、残り一つの特徴を同様にもち、対象Aと対象Bは同種か類似した近親性を持つと推論するような蓋然的な論理的思考法である。
【0019】
機械学習において、特徴(feature)・属性(attribute)とは、予測対象をある側面で見たときに、どのような状態にあるのかを表すものである。特徴ベクトル・属性ベクトルとは、予測対象を記述する特徴(属性)をベクトルの形式にまとめたものである。
【0020】
本明細書において「反応データ」とは、対象への刺激に応じて生じる現象のデータをいう。対象が生物の場合、対象とした生物の生理学的活性、例えば、痛覚等を示すデータをいう。反応データは、例えば、脳波データを含む。
【0021】
本明細書において「刺激」とは、対象に対して何らかの反応を生じさせるものをいい、対象が生物の場合、生物やそのある部分の生理学的活性に、一時的な変化をもたらす要因をいう。
【0022】
本明細書において「状態」とは、対象の様子をいい、内部または外部からの刺激に応じて変化する。
【0023】
本明細書において「行動」とは、能動的または受動的な、対象の任意の動きをいう。能動的な動きとしては、例えば、眼を閉じることなどが挙げられ、受動的な動きとしては、ヘッドホンを付けられることなどが挙げられる。
【0024】
本明細書において「視覚遮断」とは、任意の手段により、対象の視覚を遮断することまたは対象の視覚に由来する脳波の変化を妨げることをいう。視覚遮断行動としては、例えば、閉眼、光を通さない物質で目を覆うこと、光を通さない空間にいることなどが挙げられる。
【0025】
本明細書において「聴覚遮断」とは、任意の手段により、対象の聴覚を遮断することまたは対象の聴覚に由来する脳波の変化を妨げることをいう。聴覚遮断行動としては、例えば、耳栓をすること、ヘッドホンをしてホワイトノイズ音を聞くこと、音を遮断した空間にいることなどが挙げられる。
【0026】
(脳波関連)
本明細書において、「対象」(英文ではobject)とは、患者(patient)または被験者(subject)と同義に用いられ、疼痛測定および脳波測定などの本開示の技術が対象とする任意の生体または動物をいう。対象としては、好ましくは、ヒトであるがこれに限定されない。本明細書において、疼痛の推定を行う場合、「推定対象」とすることがあるが、これは対象などと同じ意味である。「対象」は、複数存在し得る。そのような場合、個々の例については、(対象の)「サンプル」と称することがある。
【0027】
本明細書において「脳波」は当該分野で通常用いられるのと同義であり、頭皮上に1対の電極を置いて脳の神経活動にともなう電位差によって発生する電流をいう。脳波には、電流の時間的変化を導出記録した脳電図(electroencephalogram,EEG)を包含する。安静時には振幅約50μV,周波数10Hz前後の波が主成分をなすとされる。これをα波という。精神活動時にはα波は抑制され,振幅の小さい17~30Hzの速波が現われるとされ、これはβ波という。浅い睡眠の時期にはα波はしだいに減少して4~8Hzのθ波が現われるとされる。深い睡眠中は1~4Hzのδ波が現われるとされる。これらの脳波は特定の振幅、周波数、複雑性指標、相関等で表現することができ、本開示では、特定の振幅および周波数、あるいは、振幅の解析で表すことができる。
【0028】
本明細書において「脳波データ」は、脳波に関する任意のデータであり(「脳活動量」、「脳特徴量」等ともいう)、振幅データ(EEG振幅)、周波数特性などが含まれる。これらの脳波データを分析した「分析データ」は、脳波データと同様に用いることができることから、本明細書では、「脳波データまたはその分析データ」とまとめて呼ぶことがある。分析データとしては、例えば、脳波データの平均振幅やピーク振幅(例えば、Fz、Cz、C3、C4)、周波数パワー(例えば、Fz(δ)、Fz(θ)、Fz(α)、Fz(β)、Fz(γ)、Cz(δ)、Cz(θ)、Cz(α)、Cz(β)、Cz(γ)、C3(δ)、C3(θ)、C3(α)、C3(β)、C3(γ)、C4(δ)、C4(θ)、C4(α)、C4(β)、C4(γ)など)等を挙げることができる。もちろん、脳波データまたはその解析データとして通常使用される他のデータを排除するものではない。例えば、生データを一定時間切り出しただけのものを判別に使えば、それも特徴量であることから、本開示において用いることができる。
【0029】
本明細書において「脳波特徴量」または「脳波の特徴量」とは、脳波の任意の特徴量をいい、「脳波データまたはその分析データ」を包含し、例えば、振幅、脳波特徴量相互関係、周波数パワー、および複雑性指標等を包含しうる。これらの例として、前記振幅は、平均振幅(例えば、絶対平均振幅、相対平均振幅など)や振幅中央値、振幅最頻値、振幅最大値、ピーク振幅や四分位振幅などの振幅分布特性値を含み、前記脳波特徴量相互関係は、電位相関(例えば、前頭-頭頂電位相関(相関係数、偏相関係数、Connectivity、Causality、ならびにそれらの亜種))または電極間位相同期(例えば、コヒーレンス、Phaselocking value、ならびにそれらの亜種)を含み、前記周波数パワーはスペクトラム密度、パワースペクトラムやそれらの亜種を含み、前記複雑性指標はエントロピー(例えば、マルチスケールエントロピー(MSE)、サンプルエントロピー、自己エントロピー、平均エントロピー、結合エントロピー、相対エントロピー、および条件付エントロピーなど)、また、痛み発生と連動して事象関連的に起こる生体電位特徴量(瞬目反射などの眼球運動を反映した眼球運動電位など)から選択される少なくとも1つを含み得る。
【0030】
本明細書において「振幅データ」とは、「脳波データ」の一種であり、脳波の振幅のデータをいう。単に「振幅」ということもあり、「EEG振幅」ともいう。このような振幅データは、脳活動の指標であることから、「脳活動データ」「脳活動量」などと称されることもある。振幅データは、脳波の電気信号を測定することによって得ることができ、電位(μV等で表示され得る)で表示される。振幅データとしては、平均振幅を使用することができるがこれに限定されない。
【0031】
本明細書において「痛み」および「疼痛」は同義であり、身体部分に傷害・炎症など一般に強い侵害のあるとき、これを刺激として生ずる感覚をいう。痛みは、疾患ではなく症状であり、中枢性、侵害受容性、ならびに神経障害性疼痛の3つの主要特性の組み合わせにより、その様態が決まる。また、急性疼痛と慢性疼痛は区別され、両者では関連する脳部位ネットワーク(結合性)で違いがあり、慢性の場合、実際には痛くないのに、痛いという主観報告をするような場合もあり、疼痛刺激の感覚強度では説明できない心因性要因も含む。
【0032】
ヒトでは、痛覚などの強い不快感情を伴う感覚として一般感覚も含む。加えて、皮膚痛覚などはある程度は外部受容の性格も備え、他の皮膚感覚や味覚と協同して,外物の硬さ・鋭さ・熱さ(熱痛)・冷たさ(冷痛)・辛さなどの質の判断に役立つとされる。ヒトの痛覚は皮膚・粘膜以外に身体のほとんどあらゆる部分(例えば、胸膜、腹膜、内臓(内臓痛覚,脳を除く)、歯、眼および耳など)に起こり得、いずれも脳において脳波またはその変動として感知され得る。この他、内臓痛に代表される内部痛覚もまた、痛覚に包含される。内臓痛に対して上述した痛覚は体性痛という。体性痛および内臓痛に加えて、実際に障害されている部位と異なる部位の表面が痛くなるような現象である「関連痛」という痛覚も報告されており、本開示は、これらの多様な疼痛タイプの時間変化をリファレンス刺激を応用することにより正確に診断・分析することができる。
【0033】
痛覚には、感受性(痛閾)に個人差があり、通刺激の起こり方や受容器部位の相違により、質的相違があり、鈍痛や鋭利痛などの分類があるが、本開示ではいずれの種類の痛覚でも測定、推定および分類することができる。また、速い痛覚(A痛覚)および遅い痛覚(B痛覚)、(速い)局所的痛みおよび(遅い)瀰漫性痛みにも対応可能である。本開示は、痛覚異常過敏などの痛覚の異常症などにも対応し得る。痛みを伝える末梢神経には「Aδ繊維」と「C繊維」の2つの神経繊維が知られており、例えば手をたたくと、始めの痛みはAδ繊維の伝導により、局在が明確な鋭い痛み(一次痛;鋭利痛)が伝わる。その後、C繊維の伝導により、局在が不明確なじんじんとした痛み(二次痛;鈍痛)を感じるとされている。痛みは4-6週間以内持続する「急性疼痛」、と4-6週間以上持続する「慢性疼痛」に分類される。痛みは、脈拍や体温、血圧、呼吸と並ぶ重要なバイタルサインであるが、客観的データとして表示することは難しい。代表的な痛みスケールVAS(visual analogue scale)やfaces pain rating scaleは主観的な評価法であり、患者間の痛みを比較することはできない。他方で、本発明者は、痛みの客観的評価のための指標として、末梢循環系の影響を受けにくい脳波に着目し、その痛み刺激に対する振幅/潜時の変化を観測し、トレンド分析を行えば、疼痛の判別および分類が可能であることが導かれた。瞬間刺激も持続刺激も検出可能である。特に、瞬間痛とじんじんした持続痛は、本開示のトレンド分析でも区別できる可能性がある。瞬間痛は、短い時間区間の痛みなので、トレンド分析における、少なくとも数十秒にわたる時間方向平均法を使うと関連する脳活動は減衰する可能性がある(例.痛み評価と有意な相関がみられない)。一方、持続痛の場合は継続的なので、時間方向平均法により、痛み評価と有意な相関が逆に強まる可能性がある。本発明者はまた、痛みの客観的評価のための指標として、末梢循環系の影響を受けにくい脳波に着目し、その痛み刺激に対する振幅/潜時の変化を観測し、リファレンス刺激を応用することで、その精度が増すことが見出された。
【0034】
本開示では、強度自体よりも「治療が必要な」痛みかどうかということが区別できることが重要な点の一つであり、リファレンス刺激によりこれをより正確に診断することができる。したがって「治療」という概念を軸に「痛み」の類別化を明確にできることも重要である。例えば、「快不快」や「耐えられない」といった痛みの「質的」分類につながるものであるといえる。例えば、「疼痛指数」の位置づけと、ベースラインやその関係性も定義することができ、n=2の場合の他、n=3以上の場合もあり得ると想定される。また3つ以上の場合は、「痛くない」「痛気持ちいい」「痛い」に分けることができる。例えば、「耐えられない、治療が必要」な痛み、「中間」、「痛いけど気にならない」という判別が可能である。本開示のトレンド解析を用いた場合、強い痛みに関連する信号の持続時間の長短の閾値を特定することにより、「耐えられない」と「痛いけど耐えられる」痛みであることが識別できる。
【0035】
本明細書において「主観的疼痛感覚レベル」とは、対象が有する疼痛感覚のレベルをいい、コンピュータ化された可視化アナログスケール(COVAS)等の慣用技術または他の公知技術、例えば、Support Team Assesment Schedule(STAS-J)、Numerical Rating Scale(NRS)、Faces Pain Scale(FPS)、Abbey pain scale(Abbey)、Checkinlist of Nonverbal Pain Indicatiors(CNPI)、Non-communicative Patient‘s Pain Assessment Instrument(NOPPAIN)、Doloplus2などで表現することができる。
【0036】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参照して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0037】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、請求の範囲を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0038】
(リファレンス刺激)
1つの局面において、本開示は、生体の反応を識別するためのモデルを構築するための方法であって、生体から複数の反応データを取得することであって、前記生体が第1の状態にあるときの第1の反応データを取得することと、前記生体が第2の状態にあるときの第2の反応データを取得することとを含む、ことと、前記取得された複数の反応データに基づいて、前記生体の反応を識別するための前記生体に特有のモデルを構築することとを含む、方法を提供する。種々の分析、診断、検査が、リファレンス刺激を応用することにより正確に行うことができる。
【0039】
1つの実施形態では、前記第1の反応データは、前記生体が第1の状態にあるときに前記生体に刺激を付与したときのデータであり、前記第2の反応データは、前記生体が第2の状態にある時に前記生体に刺激を付与したときのデータである。
【0040】
1つの実施形態では、前記生体から複数の反応データを取得することは、前記生体が前記第1の状態にあるときに前記生体に刺激を付与しないときの第3の反応データを取得することと、前記生体が前記第2の状態にあるときに前記生体に刺激を付与しないときの第4の反応データを取得することとを含む。
【0041】
1つの実施形態では、前記生体の反応は、痛み有りの反応と、痛み無しの反応とを含む。
【0042】
1つの実施形態では、前記第1の状態は、前記反応データにノイズが付加される状態であり、前記第2の状態は、前記反応データにノイズが付加されない状態である。
【0043】
1つの実施形態では、前記第2の状態は、前記生体が五感のうちの少なくとも1つを遮断する行動を含む。1つの実施形態では、前記第2の状態は、前記生体が視覚遮断行動、聴覚遮断行動またはこれらの組合せを行っている状態を含む。
【0044】
1つの実施形態では、前記モデルを構築することは、前記取得された複数の反応データに基づいて、生体の反応を識別するための既存のモデルを更新することによって、前記生体に特有のモデルを構築することを含む。
【0045】
1つの実施形態では、前記モデルを構築することは、前記取得された複数の反応データに基づいて、生体の反応を識別するための複数の既存のモデルから前記生体に特有のモデルを選択することによって、前記生体に特有のモデルを構築することを含む。
【0046】
1つの実施形態では、刺激を付与したときの反応データは、付与した刺激を対象に想起させることで取ることもできる。刺激付与と刺激想起との間隔は短いほど、より正確な反応データをとることができる。例えば、対象が、痛みを想像すると、実際に痛みが付与されているかのような反応データを呈することがある。
【0047】
1つの局面では、本開示の方法によって構築されたモデルと、生体から反応データを取得する取得手段と、前記取得手段によって取得された反応データに基づいて前記モデルが前記生体の反応を識別した結果を出力する出力手段とを備えるシステムを提供する。
【0048】
別の局面では、本開示は、生体から反応データを取得する取得手段であって、前記取得手段は、参照モードと測定モードとを含む取得手段と、前記取得手段から得た反応データを参照刺激として用いてモデルを構築するモデル構築手段であって、前記モデルは、前記参照モードにおいて、前記生体から複数の反応データを取得することであって、前記生体が第1の状態にあるときの第1の反応データを取得することと、前記生体が第2の状態にあるときの第2の反応データを取得することとを含むことによって取得された複数の反応データに基づいて、前記生体の反応を識別するための前記生体に特有のモデルを構築することによって構築される、モデル構築手段と、前記測定モードにおいて前記取得手段によって取得された反応データに基づいて前記モデルが前記生体の反応を識別した結果を出力する出力手段とを備えるシステムを提供する。種々の分析、診断、検査が、リファレンス刺激を応用することに、都度カスタマイズすることで、個人に沿ったより正確に行うことができる。Precision Medicine(テーラーメイド機械学習(テーラーメイド法)とも称される)の一つの実現例としてこの実施形態を挙げることができる。
【0049】
別の局面において、本開示は、さらに、標準的なモデルを備える、上述のシステムであって、前記モデル構築手段は、前記複数の反応データに基づいて前記標準的なモデルを修正する、システムを提供する。種々の分析、診断、検査が、リファレンス刺激を応用することにより正確に行うことができる。ここでは、予め標準的なモデルが想定されている場合でも、個人にとって最適化されているとは言えないことも多いため、このような場合に種々の分析、診断、検査が、リファレンス刺激を応用することにより正確に行うことができる。
【0050】
(プログラム)
本開示はさらに、生体の反応を識別するためのモデルを構築するためのプログラムを提供し、前記プログラムは、プロセッサを備えるコンピュータシステムにおいて実行され、前記生体が第1の状態にあるときの第1の反応データと、前記生体が第2の状態にあるときの第2の反応データとに基づいて、前記生体の反応を識別するための前記生体に特有のモデルを構築することを含む処理を前記プロセッサに実行させる。
【0051】
(スタンドアローン)
本開示の生体の反応を識別するためのモデルを構築するための方法は、例えば、ユーザに提供される痛み分析装置などの分析装置において全てのステップが実行され得る。すなわち、痛み分析装置は、スランドアローン型であり得る。スタンドアローン型の痛み分析装置などの分析装置は、リファレンス刺激を生体に付与し、その反応データを取得し、取得された反応データに基づいてその生体に特有のモデルを構築するという一連の動作を行う。これにより、痛み分析装置などの分析装置は、外部と通信することなく、その生体に特有のモデルを用いて、精度よくその生体の反応を識別することができる。
【0052】
本開示の生体の反応を識別するためのモデルを構築するためのプログラムを実行するコンピュータシステムは、例えば、ユーザに提供される痛み分析装置などの分析装置であり得る。痛み分析装置などの分析装置のプロセッサは、リファレンス刺激を生体に付与し、その反応データを取得し、取得された反応データに基づいてその生体に特有のモデルを構築するという一連の動作を行う。これにより、痛み分析装置などの分析装置は、外部と通信することなく、その生体に特有のモデルを用いて、精度よくその生体の反応を識別することができる。
【0053】
(クラウド)
本開示の生体の反応を識別するためのモデルを構築するための方法は、例えば、ユーザに提供される痛み分析装置などの分析装置と、痛み分析装置などの分析装置がネットワークを介して接続可能なサーバ装置とを備えるシステムにおいて実行され得る。生体の反応を識別するためのモデルを構築するための方法のうちの一部のステップが痛み分析装置などの分析装置で実行され、残りのステップがサーバ装置で行われ得る。例えば、痛み分析装置が、生体から複数の反応データを取得するステップを実行し、取得された複数の反応データをサーバ装置に送信し、サーバ装置が、痛み分析装置などの分析装置から複数の反応データを受信し、受信された複数の反応データに基づいて、生体の反応を識別するための生体に特有のモデルを構築するステップを実行することができる。これにより、痛み分析装置などの分析装置の処理負荷を低減することができる。
【0054】
(大規模システム)
別の局面において、本開示はさらに、生体の反応を識別するためのモデルを構築するためのシステムを提供する。このシステムは、プロセッサと、分析装置を備え、ここでプロセッサは、生体が第1の状態にあるときの第1の反応データと、生体が第2の状態にあるときの第2の反応データとに基づいて、前記生体の反応を識別するための前記生体に特有のモデルを構築することを含む処理を実行する。種々の分析、診断、検査が、リファレンス刺激を応用することに、都度カスタマイズすることで、個人に沿ったより正確に行うことができる。Precision Medicine(テーラーメイド機械学習(テーラーメイド法)とも称される)の一つの実現例としてこの実施形態を挙げることができる。大規模システムでの応用としては、まず、データベースに保存されている複数の標準モデルを用いて、痛みの判別を試みることも可能であるが、更に、リファレンス刺激を用いて、その都度微調整を行うようなケースも考えられる。
【0055】
(システム)
図49は、本開示の生体の反応を識別するためのモデルを構築するためシステム100の構成の一例を示す。ここでは、痛み分析装置を説明する。
【0056】
システム100は、例えば、ユーザに提供される痛み分析装置であり得る。
【0057】
システム100は、刺激付与部110と、反応データ取得部120と、プロセッサ130と、メモリ140と、出力部150とを備え得る。
【0058】
刺激付与部110は、生体に刺激を付与するように構成されている。刺激付与部110によって付与される刺激は、例えば、電気刺激、冷刺激、熱刺激、物理的刺激、化学的刺激のうちの少なくとも1つであり得る。刺激付与部110は、付与する刺激に応じた構成を備え得る。電気刺激、冷刺激、熱刺激、物理的刺激、化学的刺激を付与する例示的な構成をとしては、Pain Vision(オサチ)を小型化したものが考えられる。例示的な構成をとしては、電気刺激は、Pain Vision(オサチ)を、冷刺激、および、熱刺激は、Pathway(MEDOC)を、小型化したものが考えられる。
【0059】
反応データ取得部120は、生体から反応データを取得するように構成されている。反応データ取得部120は、例えば、刺激付与部110によって刺激を付与された生体による反応データを取得する。反応データ取得部120は、例えば、刺激付与部110によって刺激を付与された生体による反応データをリアルタイムに測定することにより、反応データを取得するようにしてもよいし、刺激付与部110によって刺激を付与された生体による反応データが予め格納された記憶部から反応データを取得するようにしてもよい。
【0060】
プロセッサ130は、システム100の処理を実行し、かつ、システム100全体の動作を制御する。プロセッサ130は、メモリ140に格納されているプログラムを読み出し、そのプログラムを実行する。これにより、システム100を所望のステップを実行するシステムとして機能させることが可能である。プロセッサ130は、取得手段110が取得した教師データが処理に適さない形式である場合は、処理に適した形式に変換する処理を行うようにしてもよい。プロセッサ130は、単一のプロセッサによって実装されてもよいし、複数のプロセッサによって実装されてもよい。
【0061】
メモリ140は、システム100の処理を実行するために必要とされるプログラムやそのプログラムの実行に必要とされるデータ等を格納する。メモリ140は、生体の反応を識別するためのモデルを構築するための処理をプロセッサ120に行わせるためのプログラム(例えば、後述する
図60に示されるフローの一部を実現するプログラム、
図61に示される処理を実現するプログラム)を格納してもよい。プロセッサ120は、構築されたモデルを用いて、生体の反応を識別する処理をプロセッサ120に行わせるためのプログラムを格納してもよい。ここで、プログラムをどのようにしてメモリ140に格納するかは問わない。例えば、プログラムは、メモリ140にプリインストールされていてもよい。あるいは、プログラムは、ネットワークを経由してダウンロードされることによってメモリ140にインストールされるようにしてもよい。この場合、ネットワークの種類は問わない。メモリ140は、任意の記憶手段によって実装され得る。
【0062】
出力部150は、システム100の外部にデータを出力することが可能であるように構成されている。出力部150は、例えば、構築された生体に特有のモデルを出力することができる。出力部150は、例えば、構築されたモデルを用いて、生体の反応を識別した結果を出力することができる。出力部150がどのような態様で増幅された教師データを出力するかは問わない。例えば、出力部150が送信器である場合、送信器がネットワーク500を介してシステム100の外部にデータを送信することにより出力してもよい。例えば、出力部150がデータ書き込み装置である場合、システム100に接続された記憶媒体またはデータベース部200にデータを書き込むことによりデータを出力するようにしてもよい。例えば、出力部150は、データの出力先のハードウェアまたはソフトウェアによって取り扱い可能な形式に変換して、または、データの出力先のハードウェアまたはソフトウェアによって取り扱い可能な応答速度に調整してデータを出力するようにしてもよい。
【0063】
リファレンス刺激を用いて構築する際には、例えば、本発明者らが以前に出願したWO2018/038121およびWO2019/009420等を参考にして、これらにリファレンス刺激の処理を行うことで、実現することができる。例えば、リファレンス刺激を用いたモデル構築手法は、(i)新規モデルの構築、(ii)既存モデルの更新、(iii)既存モデルの選択の3通りであると理解され得る。
【0064】
図60を用いて、例示的な痛みレベル算出の手法を説明する
【0065】
モデル用の刺激強度(判別モデル作成用の痛み刺激の提示、S100)に対応するモデル用脳波データまたはその分析データを取得する(判別モデル作成用データの取得)工程(S200)では、推定対象が複数レベル(強さまたは大きさ)の刺激(例えば、冷温刺激、電気刺激など)で刺激され脳波が取得される。刺激強度の種類の数は関数パターンの作成に必要である数であり得、例えば、通常少なくとも弱・中・強の3種類必要である。1種類または2種類であっても、前もって入手された情報と組み合わせることにより、モデル構築への適用が可能であることもあるから、必ずしもこの種類数必要というわけではない。他方で、新たに適用を行う場合は、通常少なくとも3種類、好ましくは4種類、5種類、6種類またはそれより多い種類レベルの刺激で刺激することが有利であり得る。3種類あれば、弱・中・強がわかることから、好ましく、それより多ければ、関数パターンがより詳細に分かるので、理想的と言えるがそれに限定されない。ここで、推定対象への負担を極力少なくするべきであることから、刺激強度は該推定対象に対する侵襲性が高い(別の言葉でいえば、被験者が我慢できない強度)数は最低限またはゼロであることが好ましい。他方で、推定対象に対する侵襲性が高い刺激は、より正確なフィッティングのために必要であり得ることから、目的に応じて最低限の数を入れることができる。例えば、そのような侵襲性が高いレベルの種類の数は、少なくとも1種類、少なくとも2種類または少なくとも3種類であってもよく、推定対象が許容し得る場合4種類以上であってもよい。脳波データまたはその分析データは、脳活動デー夕、脳活動量などともいう。例えば、振幅データ(「EEG振幅」)、周波数特性、などを含む。このような脳波データは、当該分野で周知の任意の手法を用いて取得することができる。脳波データは、脳波の電気信号を測定することによって得ることができ、振幅データなどとして電位(μv等で表示され得る)で表示される。周波数特性はパワースペクトル密度などで表示される。
【0066】
S300は、目的とする痛みレベルを設定し、該モデル用脳波特徴量と該痛みレベルとをスパースモデル解析に導入し、適切なλ(好ましくは最適λ)を求め、該適切なλ(好ましくは最適λ)に対応する該モデル用脳波特徴量のパラメータ(偏回帰係数)およびアルゴリズムの定数(切片)を決定し回帰モデルを生成する工程である。ここでは痛みレベルを設定し、工程b)で得られた脳波特徴量を用いて、回帰モデル(疼痛分類器/予測器(モデル回帰式))を作成する(S400)。回帰モデルは、当該分野で公知の任意の手法を用いて行うことができる。このような具体的な解析手法としては、例えば、LASSOが挙げられる。
【0067】
以下に、リファレンス刺激を用いたモデル構築の一例として、スパースモデリングを用いたモデル構築を示す。
【0068】
<回帰モデル生成>
該推定対象の脳波に基づいて該推定対象が有する痛みを判別または推定するための回帰モデルを生成するための方法を以下に示す。この方法は、a)レファレンス刺激に対応するモデル用脳波データまたはその分析データを取得する工程と、b)該脳波データまたはその分析データからモデル用脳波特徴量を抽出する工程と、c)目的とする痛みレベルを設定し、該モデル用脳波特徴量(独立変数)と該痛みレベル(従属変数)とをスパースモデル解析に導入し、適切なλ(好ましくは最適λ)を求め、該適切なλ(好ましくは最適λ)に対応する該モデル用脳波特徴量のパラメータ(偏回帰係数)およびアルゴリズムの定数(切片)を決定し回帰モデルを生成する工程とを含む。
【0069】
スパースモデル解析では、データ入力、判別/推定部のアルゴリズム決定および判別/推定の出力を複数回(例えば、1000回、またはそれ以上あるいはそれ以下)行って、適切な値に(好ましくは、最適化)することができる。例えば、2000回、3000回、5000回、10000回行ってもよい。
【0070】
適切な(好ましくは最適な)λ係数を用いて、特徴量のパラメータ(係数)とアルゴリズムの定数(切片)を決定し、テストデータの判別推定をする際に、これを1000回繰り返し行い、その平均が判別精度となる。従来技術の精度判別とは、かなり厳密性が異なるといえる。また、一般を対象に生成した回帰モデルを用いる場合は、個人ごとにキャリブレーションを行うことが好ましい。このモデルで使う特徴量のパラメータ(係数)やアルゴリズムの定数(切片)を個人ごとに補正する技術を追加することができる。
【0071】
本開示においてモデリングをする際にスパースモデル解析を行う場合、以下の点に留意して行うべきである。例えば、LASSOでは、すべての係数にλ値を同じようにかけて正則化するため、用いる特徴量が同じ単位で扱われる必要がある。したがって、特徴量の正規化を行い統制する必要がある。
【0072】
<スパースモデリング>
例示的なスパースモデリングのより詳細な手順を以下に示す。
【0073】
S1000では、データ入力がされ、特徴量データおよび痛みレベルデータが入力される。
【0074】
S2000では、データの分割がされる。ここでは、学習データとテストデータに分割され、学習データはモデル決定に使用されテストデータはモデル精度のテストに使用される。
【0075】
S3000では、学習データを用いた交差検証(図では10分割交差検証が例示されている)による適切な(好ましくは最適な)λ値の決定を行う(例えば、LASSO解析)。
【0076】
S4000では、特徴量のパラメータ(偏回帰係数)および回帰式モデルの定数(切片)を決定する。
【0077】
S5000では、テストデータの痛みレベルの推定および実際の痛みレベルの照合を行う。照合は、たとえば、既存の回帰モデルがあり、その推定値が、痛み強≧0.3以上、痛み弱<0.3未満とする。そこで、≧0.3以上の場合「2」、<0.3の場合「1」とする。ここで、実際の痛みレベルも「強=2」と「弱=1」で表現されているので、両者を照合して一致しているなら正解として、判別精度を算出する。
【0078】
S6000では判別精度(%)の算出を行う。S6000からS2000に戻り事後複数回(
図61では1000回)繰り返し精度を計算する。
【0079】
本明細書の記載される各実施形態において、痛みに関する生体の反応を判別するためのモデルを生成することは、例えば、以下の方法によって行われ得る。すなわち、a)複数の被験体に対して疼痛試験を行うことにより、複数のCOVASデータを取得するステップと、
b)該複数のCOVASデータを平均することにより、COVASテンプレートを作成するステップと、
c)該生体に対して該疼痛試験を行うことにより、該生体から脳波データまたはその分析データを得るステップと、
d)該COVASテンプレートに基づいて、該脳波データまたはその分析データを切り取るステップと、
e)該切り取られた脳波データまたはその分析データを学習用データとし、該切り取られた脳波データまたはその分析データに対応するCOVASテンプレートの値をラベルとして学習することにより、モデルを作成するステップと
を含む方法である。
【0080】
この方法では、生体とは別の複数の被検体に対して疼痛試験を行っておき、その疼痛試験から得られた複数のCOVASデータを平均することにより、COVASテンプレートを作成することを特徴としている。
【0081】
疼痛試験は、任意の疼痛を与える試験であり、疼痛は、所定のプロファイルに従って複数の被検体に与えられる。疼痛は、例えば、電気刺激であってもよいし、熱刺激であってもよい。疼痛は、例えば、弱い刺激から強い刺激まで階段状に上昇する強度の刺激であってもよいし、強い刺激から弱い刺激まで階段状に下降する強度の刺激であってもよいし、これらの組み合わせであってもよいし、弱い刺激と強い刺激との間で上下する強度の刺激であってもよい。
【0082】
COVAS(コンピュータ化された可視化アナログスケール)データは、複数の被検体に対して疼痛試験を行ったときの複数の被検体による痛みの主観的評価を表している。COVASデータは、疼痛試験での各痛みに対するそれぞれの主観的評価を関連付けている。COVASデータは、疼痛試験の時間分の長さを有している。
【0083】
複数の被検体は、好ましくは、痛みに対する健常体であり得る。これにより、複数の被検体によるCOVASデータの平均をとることにより、COVASテンプレートが健常体による痛みの主観的評価を表すことになる。
【0084】
さらに、この方法では、疼痛を判別する生体に対して疼痛試験を行うことによって得られた脳波データまたはその分析データを、予め作成されたCOVASテンプレートに基づいて、切り取ることを特徴としている。ここで、疼痛試験では、COVASテンプレートを作成するために行われた疼痛試験と同じプロファイルに従って疼痛が生体に与えられる。
【0085】
脳波データまたはその分析データを、予め作成されたCOVASテンプレートに基づいて、切り取る際、疼痛刺激の開始タイミングをCOVASテンプレートと脳波データまたはその分析データとで整合させて切り取ることが好ましい。これにより、切り取られた脳波データまたはその分析データにCOVASテンプレートをラベルとして対応付けることができる。すなわち、脳波データまたはその分析データがどのような疼痛によるものなのかを、COVASテンプレートの主観的評価を介して判別することができるようになる。COVASテンプレートによってラベルを付けられた脳波データまたはその分析データは、疼痛を判別するためのモデルを作成するための学習に用いられることができる。
【0086】
疼痛刺激の開始タイミングを整合させることは、例えば、脳波データまたはその分析データに含まれる、疼痛刺激の開始タイミングを示すトリガーと、COVASテンプレートに含まれる、疼痛刺激の開始タイミングを示すトリガーとを一致させることによって達成され得る。
【0087】
さらにこの方法では、切り取られた脳波データまたはその分析データを学習用データとし、切り取られた脳波データまたはその分析データに対応するCOVASテンプレートの値をラベルとして学習することにより、モデルを作成することを特徴としている。
【0088】
学習に用いられる手法は、任意の手法であり得る。学習に用いられる手法は、例えば、LSTM(Long short-term memory)であり得る。例えば、LSTMの入力に切り取られた脳波データまたはその分析データを用い、そのラベル(教師出力)にCOVASテンプレートの値を用いることによって学習が行われる。
【0089】
なお、上記各実施の形態において、各構成要素は、専用のハードウェアで構成されるか、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPUまたはプロセッサなどのプログラム実行部が、ハードディスクまたは半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。ここで、上記各実施の形態の痛み推定装置などを実現するソフトウェアは、本明細書において上述したプログラムであり得る。
【0090】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0091】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0092】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0093】
以下に実施例を記載する。以下の実施例で用いる対象の取り扱いは、必要な場合、大阪大学において規定される基準を遵守し、臨床研究が関係する場合はヘルシンキ宣言およびICH-GCPに準拠して行った。
【0094】
(実施例1:閉眼サンプル増幅)
本実施例では、閉眼サンプル増幅(Long short-term memory(LSTM)4 class)の実験を行った。以下に方法等を示す。
【0095】
(方法1)
「痛みなし・痛みあり・ノイズあり痛みなし・ノイズあり痛みあり」の4クラスの判別をLSTMを用いて行った。ノイズを含むクラスのラベル付けのため、ノイズテスト、及び、痛み刺激中でのノイズテストを行った。被験者には、一部のトライアルで、目を閉じてもらった(閉眼タスク)。行った実験トライアルの条件を以下に示す。
・実験トライアル:
(1)artifact1:ノイズテスト(強く目をつむる、体の伸び、音読)、開眼
(2)artifact2:ノイズテスト(強く目をつむる、体の伸び、音読)、開眼
(3)artifact_pain1:痛み刺激時にノイズテスト(ノイズが入る自発的反応)、開眼
(4)artifact_pain2:痛み刺激時にノイズテスト(ノイズが入る自発的反応)、開眼
(5)ref:痛み刺激、安静、閉眼
(6)main1:痛み刺激、安静、閉眼
(7)main2:痛み刺激、安静、閉眼
(8)main3:痛み刺激時にノイズテスト、閉眼
(9)2temp:痛み刺激(中:46℃、大:48℃)、開眼
(10)2temp_artifact:痛み刺激(中:46℃、大:48℃)時にノイズテスト(ノイズが入る自発的反応)、開眼
【0096】
(方法2)
電極として前額の6chを用いて実験を行った。各chにおいて、以下の周波数帯域を用いた。
-f1=2-5Hz
-f2=5-8Hz
-f3=8-14Hz
-f4=14-29Hz
-f5=31-40Hz
-f6=40-49Hz
【0097】
特徴量抽出の際には、EOG除去とバンドパスフィルターをかけた。「ノイズなし痛みなし」、「ノイズなし痛みあり」、「ノイズあり痛みなし」および「ノイズあり痛みあり」の各クラスでずらしながら切り取り、それぞれオリジナルのサンプルを増やした。得られたサンプルに対し、サンプル増幅法を個人ごとに適用し、個人にフィットさせるモデルを作成した。
【0098】
次いで、2classと4classの評価基準(判別精度、適合率、再現率、F1値)を比較した。今回は、閾値を設定して判別する方法は行わず、2classおよび4classともに、ソフトマックス関数を使用して、比較した。以下の表1に4クラスLSTM解析の流れを示す。
【表1】
【0099】
図28に、従来技術である2クラスLSTMの流れを示す。
解析条件はを
図1に示す
【0100】
解析条件は、具体的には以下のとおりである。
以下のネットワークを用いた
layers=次の層をもつ6x1のLayer 配列:
1 シーケンス入力 7 次元のシーケンス入力
2 LSTM 300 隠れユニットのある LSTM
3 ドロップアウト 50% ドロップアウト
4 全結合 4 全結合層
5 ソフトマックス ソフトマックス
6 分類出力 crossentropyex
【0101】
ハイパーパラメータは以下の通り
・パラメータの更新手法:Adam
・学習率:0.001
・ミニバッチサイズ:128
・エポック数:20
・L2正則化(λ):0.01
・ドロップアウト:0.5
【0102】
(オフライン時系列データ解析)
オフライン時系列データ解析は以下のとおり行った。
(1)判別値(ソフトマックス:4class)
→(0:ノイズなし痛みなし、1:ノイズなし痛みあり、2:ノイズあり痛みなし、3:ノイズあり痛みあり)
・・・全結合層の結果をソフトマックス関数に入力し、確率が最も高いクラスを判別値とする。
(2)判別値(ソフトマックス:2class)
→(0:痛みなし、1:痛みあり)
・・・(1)の結果(4クラス)を2クラスに変換した。
([4クラス]0,2→[2クラス]0、[4クラス]1,3→[2クラス]1)
・今回、この2クラスの判別値と正解ラベル(熱刺激が出ているところ)を比較して評価(判別精度、適合率、再現率、F1値)を行った。
熱刺激の正解ラベルがあるのは、以下の8つのトライアルである:
(3)artifact_pain1、(4)artifact_pain2、(5)ref、(6)main1、(7)main2、(8)main3、(9)2temp、(10)2temp_artifact。
(3)痛み推定値:-log(1-x)
→痛み推定値(0-1)を-log(1-x)で変換した痛み推定値
・・・1に近い閾値(例えば、0.99)を設定する場合に、推定値の変動を見やすくしたもの。
(4)脳波:Fp1
(5)特徴量
→147x15個の特徴量
・・・147個の特徴量と15個の時系列シークエンスを単位とした特徴量。
【0103】
(結果)
以下に結果を示す。
artifact1(ノイズテスト(強く目をつむる、体の伸び、音読)、開眼)条件の生データを
図2に示す。オフライン時系列データ解析を行った結果を
図3に示す。4クラスでは、ノイズあり痛みなし(2)と判定されるべきであるが、誤判別が観察されていることが分かる。
【0104】
artifact2(ノイズテスト(強く目をつむる、体の伸び、音読)、開眼)条件の生データを
図4に示す。モデル作成用のオフライン時系列データ解析を
図5に示す。4クラスでは、ノイズあり痛みなし(2)と判定されるべきであるが、モデル作成用なので、正しく判定されていることが分かる。
【0105】
artifact_pain1(痛み刺激時にノイズテスト(ノイズが入る自発的反応)、開眼)条件の生データを
図6に示す。モデル作成用のオフライン時系列データ解析を
図7に示す。4クラスでは、ノイズあり痛みなし(2)とノイズあり痛みあり(3)が、交互に現われているので、うまく判別できていることが分かる。
【0106】
artifact_pain2(痛み刺激時にノイズテスト(ノイズが入る自発的反応)、開眼)条件の生データを
図8に示す。モデル作成用のオフライン時系列データ解析を
図9に示す。4クラスでは、ノイズあり痛みなし(2)とノイズあり痛みあり(3)が、交互に現われているので、うまくモデルが作成できていることが分かる。
【0107】
ref(痛み刺激、安静、閉眼)条件の生データを、
図10に示す。モデル作成用のオフライン時系列データ解析を
図11に示す。4クラスでは、ノイズなし痛みあり(1)が、痛み刺激のある時に現われているので、うまくモデルが作成できていることが分かる。
【0108】
main1(痛み刺激、安静、閉眼)条件の生データを、
図12に示す。モデル作成用のオフライン時系列データ解析を
図13に示す。4クラスでは、ノイズなし痛みあり(1)が、痛み刺激のある時に現われているので、うまく判別ができていることが分かる。
【0109】
main2(痛み刺激、安静、閉眼)条件の生データを、
図14に示す。モデル作成用のオフライン時系列データ解析を
図15に示す。後半の痛み刺激のないところでは、ノイズあり(2または3)と判定されており、誤判別も多くなっていることが分かる。ノイズありと判別された原因としては、実際には被験者が体を動かしていた可能性があること、または痛み刺激後の余韻が残っていたことが考えられる。すなわち、刺激が終わった後も、痛みが尾を引いて持続することが考えられる。
【0110】
main3(痛み刺激、安静、閉眼)条件の生データを、
図15に示す。モデル作成用のオフライン時系列データ解析を
図17に示す。全体的に、ノイズあり(2または3)と判定されており、2クラスでの誤判別も多くなっていることが分かる。ノイズありと判別された原因としては、実際には被験者が体を動かしていた可能性があることが考えられ、2クラスのソフトマックスにおいて、前半でも痛みありと誤判別された原因としては、この時作成したモデルがうまく機能なかったことが考えられる。
【0111】
2temp(痛み刺激(中:46℃、大:48℃)、開眼)条件の生データを、
図18に示す。モデル作成用のオフライン時系列データ解析を
図19に示す。全体的に、ノイズあり(2)と判定されており、誤判別が多くなっている。閉眼タスクを行っていないためだと考えられる。
【0112】
2temp_artifact(痛み刺激(中:46℃、大:48℃)時にノイズテスト(ノイズが入る自発的反応)、開眼)条件の生データを、
図20に示す。モデル作成用のオフライン時系列データ解析を
図21に示す。閉眼タスクを行っていないが、痛み刺激時に痛みに反応するタスクを行っているためか、少し判別精度が改善されている。
【0113】
(考察)
これらの結果から、ノイズあり痛みなし、ノイズあり痛みありクラスを追加することで、4クラスのLSTMでは、ノイズがある場合にも判別できる可能性が示唆された。
【0114】
(実施例2:4クラスと2クラスのLSTMの比較)
本実施例は、4クラスと2クラスのLSTMの比較を行った。
【0115】
(方法)
正と負の2クラスの分類問題において、分類器の予測結果と、真の結果に基づいて以下のように分類する。例えば、真に正であるデータで、かつ、予測結果も正であったようなデータ数をTP(True Positive)個とし、真に負であるデータで、かつ、予測結果も負であったようなデータ数をTN(True Negative)個とし、真に負であるデータで、かつ、予測結果が正であったようなデータ数をFP(False Positive)個とし、真に正であるデータで、かつ、予測結果が負であったようなデータ数をFN(False Negative)個とした。
【0116】
(評価基準)
以下、4つの評価基準を以下のように定義する(
図22)。
正解率 (精度, accuracy):正や負と予測したデータのうち,実際にそうであるものの割合
accuracy=(TP+TN)/(TP+FP+TN+FN)
適合率 (precision):正と予測したデータのうち,実際に正であるものの割合
precision=TP/(TP+FP)
再現率 (recall, 感度, sensitivity):実際に正であるもののうち,正であると予測されたものの割合
recall=TP/(TP+FN)
F1値 (F1尺度, F1-score, F1-measure):精度と再現率の調和平均
F1-score=2*recall*precision/(recall+precision)
【0117】
【0118】
(考察)
・ノイズあり痛みなし、ノイズあり痛みありクラスを追加することで、4クラスのLSTMでは、ノイズがある場合にも判別できる可能性が示唆された。
・(9)2tempおよび(10)2temp_artifactで、判別精度が低かったのは、閉眼タスクを行っていなかったためだと考えられる。
・今回の被験者に限ると、評価基準の平均値では、判別精度と適合率が、4クラスの方が2クラスよりも良かった。逆に、再現率とF1値は、2クラスの方が良かった。判別精度で評価する場合は、4クラスの方が優れていると考えられる。
【0119】
(実施例3:2クラスLSTM解析)
本実施例では、2クラスLSTM解析を行った。2クラスLSTM解析の流れを
図28に示す。
【0120】
(結果)
以下に結果を示す。
artifact1(ノイズテスト(強く目をつむる、体の伸び、音読)、開眼)条件の生データを、
図29に示す。以下にオフライン時系列データ解析を行った結果を
図30に示す。2クラスでは、痛みなし(0)と判定されるべきであるが、誤判別されている。
【0121】
artifact2(ノイズテスト(強く目をつむる、体の伸び、音読)、開眼)条件の生データを、
図31に示す。モデル作成用のオフライン時系列データ解析を
図32に示す。2クラスなので、痛みなし(0)と判定されるべきであるが、痛みありと誤判別されている。
【0122】
artifact_pain1(痛み刺激時にノイズテスト(ノイズが入る自発的反応)、開眼)条件の生データを、
図33に示す。モデル作成用のオフライン時系列データ解析を
図34に示す。2クラスでは、痛みなし(0)と痛みあり(1)が、交互に現われているので、うまく判別できている。
【0123】
artifact_pain2(痛み刺激時にノイズテスト(ノイズが入る自発的反応)、開眼)条件の生データを、
図35に示す。モデル作成用のオフライン時系列データ解析を
図36に示す。2クラスでは、痛みなし(0)とノイズあり(1)が、交互に現われているので、うまく判別できている。
【0124】
ref(痛み刺激、安静、閉眼)条件の生データを、
図37に示す。モデル作成用のオフライン時系列データ解析を
図38に示す。2クラスでは、痛みあり(1)が、痛み刺激のある時に現われているので、うまくモデルが作成できている。
【0125】
main1(痛み刺激、安静、閉眼)条件の生データを、
図39に示す。モデル作成用のオフライン時系列データ解析を
図40に示す。2クラスでは、痛みあり(1)が、痛み刺激のある時に現われているので、うまく判別ができている。
【0126】
main2(痛み刺激、安静、閉眼)条件の生データを、
図41に示す。モデル作成用のオフライン時系列データ解析を
図42に示す。後半の痛み刺激のないところでは、ノイズあり(1)と判定されており、誤判別も多くなっている。
【0127】
main3(痛み刺激、安静、閉眼)条件の生データを、
図43に示す。モデル作成用のオフライン時系列データ解析を
図44に示す。全体的に、痛みあり(1)と判定されており、2クラスでの誤判別も多くなっている。
【0128】
2temp(痛み刺激(中:46℃、大:48℃)、開眼)条件の生データを、
図45に示す。モデル作成用のオフライン時系列データ解析を
図46に示す。全体的に、誤判別が多くなっている。閉眼タスクを行っていないためだと考えられる。
【0129】
2temp_artifact(痛み刺激(中:46℃、大:48℃)時にノイズテスト(ノイズが入る自発的反応)、開眼)条件の生データを、
図47に示す。モデル作成用のオフライン時系列データ解析を
図48に示す。全体的に、誤判別が多くなっている。閉眼タスクを行っていないためだと考えられる。
(考察)
2クラスは、4クラスに比べて、ラベルの種類が少ない分、リファレンス刺激を用いて、個人にフィットさせた場合に、判別精度が落ちる可能性が示唆された。このことから、逆に、リファレンス刺激を用いる場合は、できるだけ多くのラベルを具体的に定義することで、判別精度を向上させることができる可能性が示唆された。
【0130】
(実施例4:事前検査により作成したモデルを用いた痛み判別)
実験パラダイムは、以下の通りである。
被検者(患者):F030 年齢:61歳 性別:女性
病名:両下肢静脈瘤
術式:両下肢静脈レーザー焼灼術
日時:2018年11月17日 13:55-19:52(5時間57分)
【0131】
データを、事前検査をモデル作成用、手術中の本番をテスト用として、2回に分けて収集した。テスト用データには、痛みのラベルが存在しないが、手術中の手技を記録し、NRSを尋ねて、その代替とした。
【0132】
被験者には、40℃から48℃まで、5段階でランダムに3回ずつ熱刺激を提示した。この内、40、42、44℃を「痛みなし」、48℃を「痛みあり」とし、2クラスを調べた(
図50)。
【0133】
脳波は前額の6chを用い、絶対振幅と6つの周波数帯域(2-5Hz、5-8Hz、8-14Hz、14-29Hz、31-40Hz、40-49Hz)から周波数パワーを特徴量として抽出した(
図51)。前処理として、EOG除去とバンドパスフィルターをかけた。
【0134】
学習モデルは、2クラスのクラスごとに、サンプル増幅を行い、LSTM(Long short-term memory)を用いて作成した。特徴量は147x15個を用い、サンプル増幅を、特徴量抽出後、モデルの作成時前に行った。
【0135】
オフラインの時系列データに対して、2クラス(「0:痛みなし・1:痛みあり」)の判別を行い、閾値を個別に設定して、痛み判別値として結果を出力した。
【0136】
【0137】
(結果)
手術中における、患者の痛み主観評価(VAS)が高い時(特に局所麻酔時)の時系列データをLSTMを用いて評価したところ、高い一致度を得ることに成功した。
【0138】
(実施例5:仮想実施例、レファレンス刺激を応用した医療装置、医療システム)
図57は、例示的な実施例における、レファレンス刺激を応用した医療システムの構成の一例を示す。
図57に示される医療システムは、デバイス部分(左側)とクラウド/サーバ部分(右側)とを含む。デバイス部分は、脳波取得、特徴量抽出およびデータの送受信を行い、可視化する機能を有し、この機能のために、脳波データ測定部110000と、データ送受信部120000と、疼痛レベル可視化部130000と、脳波特徴量抽出部140000とを備える。クラウド/サーバ部分は、分析や判定判別モデルの生成などを行う機能を持ち、データ送受信部125000と、疼痛レベル判別推定部150000と、疼痛判別モデル生成部160000と、データ保存部170000とを備える。デバイス部分とクラウド/サーバ部分とは、データ送受信部120000および125000を介して接続され得る。クラウド/サーバ部分には、脳波データベース180000が接続され得る。このモデルでは、脳波特徴量(分析データ)の抽出は、デバイス部分で行われる。
【0139】
図57に示されるように、本実施例の医療システムは、判別モデルを作成、もしくは決定するとき(白矢印)と実際の疼痛をモニタリングするとき(黒矢印)に使うことができる。モデルを作成もしくは決定するとき、レファレンス刺激が対象に与えられる。脳波データ測定部110000は、対象がレファレンス刺激を受けているときの脳波を測定する。レファレンス刺激は、例えば、対象が安静にしている状態(ノイズなし)、および対象がノイズ発生行動をしている状態(ノイズあり)において与えられる。測定されたデータは、脳波特徴量抽出部140000に送られ、複数の特徴量が抽出される。抽出された特徴量は、データ送受信部120000を介してクラウド/サーバ部分に送信される。クラウド/サーバ部分が、データ送受信部125000を介して特徴量を受信すると、特徴量は、疼痛判別モデル生成部160000に送られる。疼痛判別モデル生成部160000は、特徴量に基づいて判別モデルを生成する。判別モデルは、痛みの有無を判別することができるモデルである。例えば、判別モデルに生体反応データを入力すると、痛みが有りのときの生体反応データであるか、痛み無しのときの生体反応データであるかを出力することができる。
【0140】
ここで、判別モデルの生成は、例えば、新たに判別モデルを構築することによって判別モデルを生成することであってもよいし、既存の判別モデルを更新することによって判別モデルを生成することであってもよい。あるいは、判別モデルの生成は、既存の判別モデルから、レファレンス刺激による脳波特徴量に最も適合する1の判別モデルを選択することも含意し得る。
【0141】
判別モデルは、疼痛レベル判別推定部150000に送られ、疼痛レベル判別推定部150000は、判別モデルを用いて、入力されたデータが、痛みが有りのときの生体反応データであるか、痛み無しのときの生体反応データであるかを判別することができる。疼痛レベル判別推定部150000による判別結果は、データ送受信部125000を介してデバイス部分に送信される。デバイス部分がデータ送受信部120000を介して判別結果を受信すると、判別結果は、疼痛レベル可視化部130000に送られ、疼痛レベル判別結果の妥当性確認のために表示される。
【0142】
なお、本実施例では、レファレンス刺激を用いることなく、脳波データベース180000に格納されている脳波データの特徴量から、疼痛判別モデルを生成するようにしてもよい。
【0143】
判別モデルを決定した後、実際の疼痛レベルのリアルタイムモニタリングが黒矢印の流れで起こる。すなわち、疼痛モニタリングが開始されると、対象に刺激が与えられ、脳波データ測定部110000が、対象からの脳波データを測定する。測定された脳波データは脳波特徴量抽出部140000に送られ、複数の脳波特徴量が抽出される。抽出された特徴量は、データ送受信部120000を介してクラウド/サーバ部分に送信される。クラウド/サーバ部分が、データ送受信部125000を介して特徴量を受信すると、特徴量は、疼痛レベル判別推定部150000に送られ、疼痛レベル判別推定部150000は、判別モデルを用いて、特徴量が、痛みが有りのときの生体反応データのものであるか、痛み無しのときの生体反応データのものであるかを判別することができる。疼痛レベル判別推定部150000による判別結果は、データ送受信部125000を介してデバイス部分に送信される。デバイス部分がデータ送受信部120000を介して判別結果を受信すると、判別結果は、疼痛レベル可視化部130000で表示される。なお、両過程は、組み合わされても良く、リアルタイムモニタリング時に判別結果が妥当ではないようなら、疼痛レベル判別推定部150000の結果が疼痛判別モデル生成部160000にフィードバックされ、モデルが修正された後、再度、疼痛レベル判別推定部150000に修正モデルが送られる。なお、記録されたデータや作成された特徴量、判別モデルはデータ保存部170000に適時保存される。
【0144】
図58は、例示的な別の実施例における、レファレンス刺激を応用した医療システムの構成の一例を示す。
図58に示される医療システムは、デバイス部分(左側)とクラウド/サーバ部分(右側)とを含む。
図58に示される医療システムは、デバイス部分が特徴量を抽出する機能を有さず、代わりにクラウド/サーバ部分が特徴量を抽出する機能を有する点で、
図57に示される医療システムと異なっている。このため、
図58に示される医療システムでは、クラウド/サーバ部分が脳波特徴量抽出部140000を備えている。
【0145】
図58に示されるように、本実施例の医療システムは、判別モデルを作成、もしくは決定するとき(白矢印)と実際の疼痛をモニタリングするとき(黒矢印)に使うことができる。モデルを作成もしくは決定するとき、レファレンス刺激が対象に与えられる。脳波データ測定部110000は、対象がレファレンス刺激を受けているときの脳波を測定する。レファレンス刺激は、例えば、対象が安静にしている状態(ノイズなし)、および対象がノイズ発生行動をしている状態(ノイズあり)において与えられる。測定されたデータは、データ送受信部120000を介してクラウド/サーバ部分に送信される。クラウド/サーバ部分が、データ送受信部125000を介してデータを受信すると、データは、脳波特徴量抽出部140000に送られ、複数の特徴量が抽出される。抽出された特徴量は、疼痛判別モデル生成部160000に送られる。疼痛判別モデル生成部160000は、特徴量に基づいて判別モデルを生成する。判別モデルは、痛みの有無を判別することができるモデルである。例えば、判別モデルに生体反応データを入力すると、痛みが有りのときの生体反応データであるか、痛み無しのときの生体反応データであるかを出力することができる。
【0146】
ここで、判別モデルの生成は、例えば、新たに判別モデルを構築することによって判別モデルを生成することであってもよいし、既存の判別モデルを更新することによって判別モデルを生成することであってもよい。あるいは、判別モデルの生成は、既存の判別モデルから、レファレンス刺激による脳波特徴量に最も適合する1の判別モデルを選択することも含意し得る。
【0147】
判別モデルは、疼痛レベル判別推定部150000に送られ、疼痛レベル判別推定部150000は、判別モデルを用いて、入力されたデータが、痛みが有りのときの生体反応データであるか、痛み無しのときの生体反応データであるかを判別することができる。疼痛レベル判別推定部150000による判別結果は、データ送受信部125000を介してデバイス部分に送信される。デバイス部分がデータ送受信部120000を介して判別結果を受信すると、判別結果は、疼痛レベル可視化部130000に送られ、疼痛レベル判別結果の妥当性確認のために表示される。
【0148】
なお、本実施例では、レファレンス刺激を用いることなく、脳波データベース180000に格納されている脳波データの特徴量から、疼痛判別モデルを生成するようにしてもよい。
【0149】
判別モデルを決定した後、実際の疼痛レベルのリアルタイムモニタリングが黒矢印の流れで起こる。すなわち、疼痛モニタリングが開始されると、対象に刺激が与えられ、脳波データ測定部110000が、対象からの脳波データを測定する。測定された脳波データは、データ送受信部120000を介してクラウド/サーバ部分に送信される。クラウド/サーバ部分が、データ送受信部125000を介してデータを受信すると、データは、脳波特徴量抽出部140000に送られ、複数の脳波特徴量が抽出される。抽出された特徴量は疼痛レベル判別推定部150000に送られ、疼痛レベル判別推定部150000は、判別モデルを用いて、特徴量が、痛みが有りのときの生体反応データのものであるか、痛み無しのときの生体反応データのものであるかを判別することができる。疼痛レベル判別推定部150000による判別結果は、データ送受信部125000を介してデバイス部分に送信される。デバイス部分がデータ送受信部120000を介して判別結果を受信すると、判別結果は、疼痛レベル可視化部130000で表示される。なお、両過程は、組み合わされても良く、リアルタイムモニタリング時に判別結果が妥当ではないようなら、疼痛レベル判別推定部150000の結果が疼痛判別モデル生成部160000にフィードバックされ、モデルが修正された後、再度、疼痛レベル判別推定部150000に修正モデルが送られる。なお、記録されたデータや作成された特徴量、判別モデルはデータ保存部170000に適時保存される。
【0150】
図59は、例示的な別の実施例における、レファレンス刺激を応用した医療システムの構成の一例を示す。
図59に示される医療システムは、デバイス部分(左側)とクラウド/サーバ部分(右側)とを含む。
図58に示される医療システムは、デバイス部分(左側)では、脳波取得およびデータの送受信を行い、判別モデルを格納してオンサイトでの判別を行うことができるようにし、これらを可視化する機能を有している。このような実施形態は、病院などの電波の送受信を行いにくい施設や場所での実施を想定した実施形態である。判別モデルの生成はクラウド/サーバ部分で行われ、実際にモデルに実測データを当てはめることはデバイス部分で行われる。脳波特徴量(分析データ)の抽出はデバイス部分で行われてもよいし、クラウド/サーバ部分で行われてもよい。
【0151】
なお、
図59に示される例では、判別モデルの生成がクラウド/サーバ部分で行われることを説明したが、本開示はこれに限定されない。判別モデルの生成をデバイス部分で行うようにすることも可能である。すなわち、スタンドアローン型である。
【0152】
(実施例4:痛み解析結果の増幅=閉眼サンプル増幅)
本実施例では、閉眼サンプルを用いて、痛みの解析を行った。その際サンプル増幅を行った。
【0153】
(方法と材料)
(閉眼サンプル)
閉眼サンプルとは、被験者が目を瞑ったときの刺激に対する反応データのことである。本実施例では、被験者に目を瞑ってもらう閉眼タスクにおいて、「痛みなし(36℃)」から「痛みあり(48℃)」までのいくつかの段階的な熱刺激に対する反応データ、ここでは脳波データを取得した。「痛みなし(36℃)」は36℃の熱刺激があるときの状態を示し、「痛みあり(48℃)」は48℃の熱刺激があるときの状態を示す。
【0154】
実験トライアルは以下のとおりである。
(1)pre:段階的熱刺激(36℃~48℃):事前に被験者に与えるリファレンス刺激
(2)main:手術後(ベッドサイドでの長時間(6時間)計測)
【0155】
(COVASテンプレート)
予め複数の健常者(N=150)に対して、実験トライアルの(1)を行い、N=150のCOVASデータを取得した。これらのCOVASデータの平均値をとることにより、COVASテンプレートを予め作成した。COVASテンプレートは、実験トライアルの(1)の段階的熱刺激と、健常者の痛みの主観的評価とを対応付けるものである。
【0156】
図62Aは、実験トライアルの(1)の段階的熱刺激の例と、それに対応するCOVASテンプレートの例と、COVASテンプレートを最小値0から最大値100まで昇順にソートしたソート済みCOVASテンプレートの例を示す。
【0157】
(前処理)
サンプリングレートは、500Hzとした。
【0158】
脳波は、前額の6ch(monopolar電極配置)に、bipolar電極配置の6ch、CAR(Common Average Reference)電極配置の6chを追加し、計18chを用いて計測した。
【0159】
熱刺激(痛み刺激)の開始タイミングを示すトリガーを開始点として、予め作成しておいたCOVASテンプレートの長さ分だけ、18チャンネルの脳波データを切り取った。これにより、COVASテンプレートと18チャンネルの脳波データの長さとは一致することになる。COVASテンプレートと18チャンネルの脳波データの長さとを一致させることにより、学習に用いられる脳波データにCOVASテンプレートをラベルとして対応付けることができる。すなわち、学習に用いられる脳波データに、痛みの主観的評価対応付けられることになる。
【0160】
データは、臨床実験においてモデル作成用とテスト用(本番)に分けて収集した。実験トライアルの(1)がモデル作成用であり、実験トライアルの(2)がテスト用である。脳波データの長さ全体に対して、16秒の時間窓を1秒ずらしながら切り取った。時間窓を時間軸方向にずらして複数回切り取ることにより複数のオリジナルサンプルを生成した。
【0161】
複数のオリジナルサンプルに対し、前処理として、固有のノイズ処理方法を適用した。前処理されたオリジナルサンプル16秒の脳波データに対して、8秒の時間窓を1秒ずつずらしながら、9シークエンス分を確保するように、各チャンネルの脳波データを切り取った。各チャンネルの脳波データから、絶対振幅と、エントロピーと、8つの周波数帯域(2-5Hz、5-8Hz、8-14Hz、14-28Hz、28-58Hz、62-118Hz、122-178Hz、182-238Hz)からの周波数パワーと、コヒーレンスとの4種類の特徴量を抽出した。4種類の特徴量(振幅、周波数パワー、コヒーレンス、エントロピー)を結合し、合計で、324個の特徴量を抽出した。これにより、324個の特徴量と9個の時系列シークエンスとを単位とした324×9個の特徴量を得た。
【0162】
抽出された特徴量に対して、サンプル増幅法を個人ごとに適用してサンプル数を増加させた。増加させたサンプルを利用して、個人にフィットさせるモデルをLSTM(Long short-term memory)を用いて作成した。
【0163】
(モデルの探索のための標準化パラメータの定義)
予め作成されたCOVASテンプレートを最小値0から最大値100まで昇順にソートした。ソートされたCOVASテンプレートから、最小値0から最大値100まで、10単位で、5ずつずらして19個の範囲を切り取った。これらの19個の範囲は、19種類の標準化パラメータであり、これらの19種類の標準化パラメータのそれぞれの平均値と標準偏差とを求めた。後のオフライン時系列データ解析時に利用するために、19個の平均値と19個の標準偏差をそれぞれ保存した。
【0164】
(10個の標準化パラメータによる特徴量データの標準化)
ソートされたCOVASテンプレートから、最小値0から最大値100まで、10単位で、10ずつずらして10個の範囲を切り取った。これらの10個の範囲は、10種類の標準化パラメータであり、COVASテンプレートと脳波データとが対応付けられていることから、10種類の標準化パラメータに対応付けられた特徴量が抽出される。抽出された特徴量は、対応する標準化パラメータを用いて、標準化(z値化)された。
【0165】
10個の標準化された特徴量に対して、以下の工程を繰り返し行うことにより、10個モデルの作成(LSTM回帰)を行った。
【0166】
1)回帰:(サンプル増幅)学習においては、均等にラベルが存在すると、汎化能を獲得しやすいことが分かっているため、サンプル増幅する際に、各特徴量に対応する(ソート済み)COVASテンプレートのラベルの値の比率が均等になるように、各ラベルごとに増幅サンプル数を調整するパラメータを定義する。
2)回帰:(サンプル増幅)5サンプルを単位として、その平均値と共分散行列を基に多変量正規分布から乱数によって生成されるサンプルを、1)で各ラベルごとに定義したパラメータだけ増やす。繰り返し数分だけ、サンプルを増やす。
3)回帰:(モデルの作成:(学習))増幅したサンプルを学習サンプルとして定義し、対応するラベルと共に学習させ、LSTM回帰によりモデルを作成する。
【0167】
図62Bは、ソートされたCOVASテンプレートから切り取られた19種類の標準化パラメータと10種類の標準化パラメータに対応する10個のモデルとの範囲を示す。
【0168】
(オフライン時系列データ解析)
19個の標準化パラメータと10個のモデルとの組み合わせからベストな組み合わせを探索するために、19個の標準化パラメータと10個のモデルとを用いて、190個の回帰の結果を計算した。オフライン時系列データ解析では、まず、テストデータの時間方向の全体に対して、特徴量を抽出した。特徴量抽出後のデータは、標準化されていない状態で保持した(未標準化特徴量)。未標準化特徴量に対して、19個の標準化パラメータのそれぞれを用いて、標準化(z値化)を行うことにより、標準化特徴量を算出した。すなわち、19個の標準化パラメータのうちの第iの標準化パラメータ(0<i≦19)について平均μi、標準偏差σiとし、未標準化特徴量をx、標準化パラメータiについての標準化特徴量をx’iとすると、
x’i=(x-μi)/σi
で算出される。
【0169】
モデルに標準化特徴量を投入することによって痛みスコアの予測を行った。
【0170】
本例では、10種類のモデルのうちの4種類のモデルについて、10×19のマトリックスの対角成分のみを用いて、痛みスコア(回帰の予測値)のアンサンブル学習を行い、相関係数とRMSE(Root Mean Square Error)を計算し、回帰の結果を表示した。
【0171】
(結果)
図62Cは、本実施例による結果を示している。
【0172】
図62Cにおいて、左側のマトリックスが、利用した19個の標準化パラメータと10個のモデルの組み合わせを表しており、行がモデル、列が標準化パラメータを表している。着色されたセルが、選択された組み合わせを示している。選択されたもののアンサンブル学習(すなわち、平均値)が、
図62Cの右側のグラフの痛みスコア(黒線)に対応している。
図62Cの右側のグラフの灰色の線が、患者の痛みの主観評価であるNRSを示している。破線の三角形の位置が、患者にNRSを聞いたタイミングを示している。
【0173】
4つのグラフのうち、上から1番目のグラフは、第1~第4のモデルと第1~第7の標準化パラメータを用いた場合の結果を示し、上から2番目のグラフは、第4~第7のモデルと第7~第13の標準化パラメータを用いた場合の結果を示し、上から3番目のグラフは、第7~第10のモデルと第13~第19の標準化パラメータを用いた場合の結果を示し、上から4番目のグラフは、全てのモデルおよび標準化パラメータを用いた場合の結果を示している。
【0174】
図62Cの結果から、NRSと痛みスコアとがある程度、対応しているのが読み取れる。
【0175】
(実施例5::痛み解析結果の増幅=閉眼サンプル増幅)
本実施例では、閉眼サンプルを用いて、痛みの解析を行った。その際サンプル増幅を行った。
【0176】
(方法と材料)
(閉眼サンプル)
閉眼サンプルとは、被験者が目を瞑ったときの刺激に対する反応データのことである。本実施例では、被験者に目を瞑ってもらう閉眼タスクにおいて、「痛みなし(36℃)」から「痛みあり(48℃)」までのいくつかの段階的な熱刺激に対する反応データ、ここでは脳波データを取得した。「痛みなし(36℃)」は36℃の熱刺激があるときの状態を示し、「痛みあり(48℃)」は48℃の熱刺激があるときの状態を示す。
【0177】
実験トライアルは以下のとおりである。
アルゴリズム開発用に行った最小限のデータ取得で済む実験(minimum_set_heat)を行った。
(1)minimum_set_heat1回目:段階的熱刺激(36℃~48℃)
(2)minimum_set_heat2回目:段階的熱刺激(36℃~48℃)
minimum_set_heatでは、熱刺激を36℃から48℃まで階段状に上昇させ、次いで、48℃から36℃まで階段状に下降させるという熱刺激を与えた。
【0178】
(COVASテンプレート)
予め複数の健常者(N=150)に対して、実験トライアルの(1)を行い、N=150のCOVASデータを取得した。これらのCOVASデータの平均値をとることにより、COVASテンプレートを予め作成した。COVASテンプレートは、実験トライアルの(1)の段階的熱刺激と、健常者の痛みの主観的評価とを対応付けるものである。
【0179】
(前処理)
サンプリングレートは、1000Hzとした。
【0180】
脳波は、前額の6ch(monopolar電極配置)に、bipolar電極配置の6ch、CAR(Common Average Reference)電極配置の6chを追加し、計18chを用いて計測した。
【0181】
熱刺激(痛み刺激)の開始タイミングを示すトリガーを開始点として、予め作成しておいたCOVASテンプレートの長さ分だけ、18チャンネルの脳波データを切り取った。これにより、COVASテンプレートと18チャンネルの脳波データの長さとは一致することになる。COVASテンプレートと18チャンネルの脳波データの長さとを一致させることにより、学習に用いられる脳波データにCOVASテンプレートをラベルとして対応付けることができる。すなわち、学習に用いられる脳波データに、痛みの主観的評価対応付けられることになる。
【0182】
データは、モデル作成用とテスト用(本番)に分けて収集した。実験トライアルの(1)がモデル作成用であり、実験トライアルの(2)がテスト用である。脳波データの長さ全体に対して、8秒の時間窓を1秒ずらしながら切り取った。時間窓を時間軸方向にずらして複数回切り取ることにより複数のオリジナルサンプルを生成した。
【0183】
複数のオリジナルサンプルに対し、前処理として、固有のノイズ処理方法を適用した。前処理されたオリジナルサンプル16秒の脳波データに対して、8秒の時間窓を1秒ずつずらしながら、9シークエンス分を確保するように、各チャンネルの脳波データを切り取った。各チャンネルの脳波データから、絶対振幅と、エントロピーと、8つの周波数帯域(2-5Hz、5-8Hz、8-14Hz、14-28Hz、28-58Hz、62-118Hz、122-178Hz、182-238Hz)からの周波数パワーと、コヒーレンスとの4種類の特徴量を抽出した。4種類の特徴量(振幅、周波数パワー、コヒーレンス、エントロピー)を結合し、合計で、324個の特徴量を抽出した。これにより、324個の特徴量と9個の時系列シークエンスとを単位とした324×9個の特徴量を得た。
【0184】
抽出された特徴量に対して、サンプル増幅法を個人ごとに適用してサンプル数を増加させた。増加させたサンプルを利用して、個人にフィットさせるモデルをLSTM(Long short-term memory)を用いて作成した。
【0185】
(モデルの探索のための標準化パラメータの定義)
予め作成されたCOVASテンプレートを最小値0から最大値100まで昇順にソートした。ソートされたCOVASテンプレートから、最小値0から最大値100まで、10単位で、10ずつずらして10個の範囲を切り取った。これらの範囲は、10種類の標準化パラメータであり、これらの10種類の標準化パラメータの平均値と標準偏差とを求めた。後のオフライン時系列データ解析時に利用するために、10個の平均値と10個の標準偏差とをそれぞれ保存した。
【0186】
(10個の標準化パラメータによる特徴量データの標準化)
ソートされたCOVASテンプレートから、最小値0から最大値100まで、10単位で、10ずつずらして10個の範囲を切り取った。これらの10個の範囲は、10種類の標準化パラメータであり、COVASテンプレートと脳波データとが対応付けられていることから、10種類の標準化パラメータに対応付けられた特徴量が抽出される。抽出された特徴量は、対応する標準化パラメータを用いて、標準化(z値化)されるた。
【0187】
10個の標準化された特徴量に対して、以下の工程を繰り返し行うことにより、10個のモデルの作成(LSTM回帰)を行った。
【0188】
1)回帰:(サンプル増幅)学習においては、均等にラベルが存在すると、汎化能を獲得しやすいことが分かっているため、サンプル増幅する際に、各特徴量に対応する(ソート済み)COVASテンプレートのラベルの値の比率が均等になるように、各ラベルごとに増幅サンプル数を調整するパラメータを定義する。
2)回帰:(サンプル増幅)5サンプルを単位として、その平均値と共分散行列を基に多変量正規分布から乱数によって生成されるサンプルを、1)で各ラベルごとに定義したパラメータだけ増やす。繰り返し数分だけ、サンプルを増やす。
3)回帰:(モデルの作成:(学習))増幅サンプルを学習サンプルとして定義し、対応するラベルと共に学習させ、LSTM回帰によりモデルを作成する。
【0189】
図63Aは、ソートされたCOVASテンプレートから切り取られた10種類の標準化パラメータと10種類の標準化パラメータに対応する10個のモデルとの範囲を示す。
【0190】
(オフライン時系列データ解析)
10個の標準化パラメータと10個のモデルとの組み合わせからベストな組み合わせを探索するために、10個の標準化パラメータと10個のモデルとを用いて、100個の回帰の結果を計算した。オフライン時系列データ解析では、まず、テストデータの時間方向の全体に対して、特徴量を抽出した。特徴量抽出後のデータは、標準化されていない状態で保持した(未標準化特徴量)。未標準化特徴量に対して、10個の標準化パラメータのそれぞれを用いて、標準化(z値化)を行うことにより、標準化特徴量を算出した。すなわち、10個の標準化パラメータのうちの第iの標準化パラメータ(0<i≦10)について平均μi、標準偏差σiとし、未標準化特徴量をx、標準化パラメータiについての標準化特徴量をx’iとすると、
x’i=(x-μi)/σi
で算出される。
【0191】
モデルに標準化特徴量を投入することによって痛みスコアの予測を行った。
【0192】
本例では、10x10のマトリックスの中から、相関係数とRMSEからある閾値を基準に、事前に基準を満たす上位数個(上位1個、上位5個、上位10個、全て)を確保しておき、それぞれの条件ごとに、痛みスコア(回帰の予測値)のアンサンブル学習を行い、相関係数とRMSE(RootMeanSquareError)を計算し、回帰の結果を表示した。
【0193】
(結果)
図63Bは、本実施例による結果を示している。
【0194】
図63Bにおいて、左側のマトリックスは、利用した10個の標準化パラメータと10個のモデルの組み合わせを表しており、行が、モデル、列が標準化パラメータを表している。相関係数およびRMSEが閾値を満たすか否かで着色されている。斜線は、RMSEが閾値よりも小さい組み合わせを表しており、点描は、相関係数が閾値よりも高い組み合わせを表しており、淡色は、RMSEが閾値より小さくかつ相関係数が閾値よりも高い組み合わせを表している。当てはめの良さを示す相関係数は、高いほど良い基準となり、誤差を示すRMSEは低いほど良い基準となる。淡色の組み合わせの中で、RMSEが閾値より小さくかつ相関係数が閾値よりも高いという基準を満たす上位1個、上位5個、上位10個、および全てを選択したものが、濃色で示され、それぞれの結果は、上から1番目のグラフ、2番目のグラフ、3番目のグラフ、4番目のグラフにそれぞれ示されている。
【0195】
図63Bの右側のグラフは、左側の組み合わせを用いた場合の結果に対応している。濃色で選択された組み合わせのアンサンブル学習、すなわち、平均値が、痛みスコア(黒線:予測値)を表しており、灰色の線が、患者の痛みの主観評価であるCOVASのテンプレート(実測値)を示している。
【0196】
図63Bの結果から、COVASテンプレート(実測値)と痛みスコア(予測値)がある程度、対応しているのが読み取れる。
【0197】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本願は、日本国特許庁に2020年4月26日に出願された特願2019-85779に対して優先権主張をするものであり、その内容は全体が、本願において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本開示は、疼痛等の整理信号を精確に判別することができ疼痛に関する診断、治療をよりきめ細やかに行うことができる。
【0199】
本開示は、より少ない特徴量を使った判別モデルや判別精度改善率が高いモデルで疼痛を判定することができる方法を提供でき、疼痛に関する診断、治療をよりきめ細やかに行うことができる。
【符号の説明】
【0200】
1000:対象
1100:疼痛レベル判別/推定装置を含むシステム
1110:疼痛レベル判別/推定装置
1111:測定部