IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人北海道大学の特許一覧 ▶ 全国農業協同組合連合会の特許一覧

<>
  • 特許-子牛の飼育方法 図1
  • 特許-子牛の飼育方法 図2-1
  • 特許-子牛の飼育方法 図2-2
  • 特許-子牛の飼育方法 図3
  • 特許-子牛の飼育方法 図4
  • 特許-子牛の飼育方法 図5
  • 特許-子牛の飼育方法 図6
  • 特許-子牛の飼育方法 図7
  • 特許-子牛の飼育方法 図8
  • 特許-子牛の飼育方法 図9
  • 特許-子牛の飼育方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】子牛の飼育方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/10 20160101AFI20240219BHJP
   A23K 20/158 20160101ALI20240219BHJP
【FI】
A23K50/10
A23K20/158
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022178644
(22)【出願日】2022-11-08
(62)【分割の表示】P 2019144435の分割
【原出願日】2019-08-06
(65)【公開番号】P2023011891
(43)【公開日】2023-01-24
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000201641
【氏名又は名称】全国農業協同組合連合会
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 聡
(72)【発明者】
【氏名】大和田 尚
(72)【発明者】
【氏名】平野 和夫
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-261350(JP,A)
【文献】特開平5-219895(JP,A)
【文献】特開平6-153811(JP,A)
【文献】特開2007-236295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 50/10
A23K 20/158
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生後3ヶ月以下の子牛に、人工乳と、該人工乳の12重量%~20重量%の中鎖脂肪酸を給与することを含み、前記中鎖脂肪酸が、オクタン酸、デカン酸及びラウリン酸を含む、子牛のルーメン絨毛の発達を促進する方法。
【請求項2】
前記子牛が、生後21日以下の子牛である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
中鎖脂肪酸を2週間以上給与する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
さらに粗飼料を給与する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子牛の飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牛の哺育期においてはルーメンの発達を目的として、人工乳(固形濃厚飼料)が給与されている。この人工乳の特徴としては、易発酵性の成分が多く含まれており、ルーメンの健全な発育に重要である。ルーメン内で人工乳が微生物により発酵され、それにより産生される酪酸が粘膜細胞から吸収および上皮細胞を刺激し絨毛の発達を促進する。また、吸収された酪酸は、代謝されて血中においてβ-ヒドロキシ酪酸 (BHBA)となる。このため、BHBA濃度は哺育期における人工乳摂取量およびルーメン絨毛の発達に指標として用いられることが多く、ルーメン内での酪酸生成量の促進はルーメン絨毛の発達に有効な手段であることが考えられている。
【0003】
従来より、中鎖脂肪酸(炭素数8~12の脂肪酸)の給与がルーメンに与える影響がいくつか報告されている。非特許文献1には、ヤギに中鎖脂肪酸を給与したところ、ルーメン微生物の一種である、プロトゾア(原生動物)が減少したことが記載されている。非特許文献2には、中鎖脂肪酸を乳牛の成牛に給与したところ、ルーメン微生物数が大きく乱れ、特にプロトゾアが減少することが記載されている。非特許文献3には、濃厚飼料(穀物)を給与している去勢牛(成牛)にラウリン酸を給与したところ、ルーメン発酵には影響がなく、酸血症やフィードロット鼓脹症(feedlot bloat)のような疾患が減少することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Matsumoto M. et al., J. Gen. Appl. Microbiol., 37:439-445 (1991)
【文献】Hristov AN. et al., J. Anim. Sci., 90:4449-4457 (2012)
【文献】Yabuuchi Y. et al., Animal Science Journal 78:387-394 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、子牛において、ルーメン絨毛の発達を促進することが可能な、新規な飼育方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、生後21日未満の子牛に、人工乳に加え、中鎖脂肪酸を給与することにより、ルーメン絨毛の発達に寄与する細菌の増殖が促進されることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
(1) 生後3ヶ月以下の子牛に、人工乳と、該人工乳の12重量%~20重量%の中鎖脂肪酸を給与することを含み、前記中鎖脂肪酸が、オクタン酸、デカン酸及びラウリン酸を含む、子牛のルーメン絨毛の発達を促進する飼育方法。
(2) 前記子牛が、生後21日以下の子牛である、(1)記載の方法。
(3) 中鎖脂肪酸を2週間以上給与する、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) さらに粗飼料を給与する、(1)~(3)のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の飼育方法によれば、子牛において、ルーメン絨毛の発達に寄与する細菌の増殖が促進される。また、人工乳の給与量に対する中鎖脂肪酸の比率を適切に選択することにより、人工乳の摂取量及び体重も増加するという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】下記実施例において、5~8週齢の子牛に、中鎖脂肪酸を人工乳の8重量%、3日間給与した後のルーメン発酵パターンを示す図である。
図2-1】下記実施例において、5~8週齢の子牛に、中鎖脂肪酸を人工乳の8重量%、3日間給与した後の各種微生物の菌数の変化を示す図である。
図2-2】同上
図3】下記実施例において、5~8週齢の子牛に、中鎖脂肪酸を人工乳の8重量%、3日間給与した後の血中BHBA濃度の経時変化を示す図である。
図4】下記実施例において、5~8週齢の子牛に、中鎖脂肪酸を人工乳の4重量%、3日間給与した後の血中BHBA濃度の経時変化を示す図である。
図5】下記実施例において、生後7日程度の子牛に、中鎖脂肪酸を人工乳の4重量%、3週間給与した際の人工乳摂取量の経時変化を示す図である。
図6】下記実施例において、生後7日程度の子牛に、中鎖脂肪酸を人工乳の4重量%、3週間給与した際の体重の経時変化を示す図である。
図7】下記実施例において、生後7日程度の子牛に、中鎖脂肪酸を人工乳の8重量%、3週間給与した際の人工乳摂取量の経時変化を示す図である。
図8】下記実施例において、生後7日程度の子牛に、中鎖脂肪酸を人工乳の8重量%、3週間給与した際の体重の経時変化を示す図である。
図9】下記実施例において、生後7日程度の子牛に、中鎖脂肪酸を人工乳の16重量%、3週間給与した際の人工乳摂取量の経時変化を示す図である。
図10】下記実施例において、生後7日程度の子牛に、中鎖脂肪酸を人工乳の16重量%、3週間給与した際の体重の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の方法では、生後3ヶ月以下の子牛に、人工乳と、該人工乳の6重量%~20重量%の中鎖脂肪酸を給与することを含む。中鎖脂肪酸を給与する子牛は、生後0日~21日であることが、ルーメン絨毛をよりよく発達させる観点から好ましい。給与する期間は、3日以上、より好ましくは2週間以上であり、一方、長期にわたって給与すると、ルーメン中の繊維分解菌が減少する恐れがあるので、4週間以下が好ましい。
【0011】
中鎖脂肪酸は、炭素数8~12の脂肪酸である。中鎖脂肪酸としては、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸のような、飽和脂肪酸が好ましい。中鎖脂肪酸、特にオクタン酸、デカン酸及びラウリン酸を主として含む飼料(例えば、株式会社科学飼料研究所の「エネアップ」(商品名)など)を好ましく用いることができる。
【0012】
人工乳(固形の濃厚飼料)は、子牛の飼育に汎用されているものでよく、市販品を好ましく用いることができる。人工乳は、自由採食としてもよい。
【0013】
給与する中鎖脂肪酸の量(複数種類の中鎖脂肪酸を給与する場合にはその合計量)は、人工乳に対して6重量%~20重量%である。中鎖脂肪酸の給与量が、12重量%~20重量%の場合には、Butyrivibrio 属やMegasphaera elsdeniiのようなルーメン発酵菌の菌数が増大するのみならず、人工乳の摂取量が減少せず、体重も増加するという、優れた効果が発揮されるので好ましい。なお、人工乳の給与量は、生後21日齢までは通常、50~500g/日であるので、中鎖脂肪酸の給与量は、通常、3g/日~100g/日、好ましくは、6g/日~100g/日である。
【0014】
通常、人工乳及び中鎖脂肪酸に加え、チモシーやアルファルファのような乾牧草である粗飼料も給与される。粗飼料は自由採食としてもよい。
【0015】
下記実施例に具体的に記載されるように、本発明の方法によれば、ルーメン発酵菌の菌数が増大し、ルーメン絨毛の発達に重要な酪酸の生成が増大する。また、中鎖脂肪酸の給与量を人工乳の12重量%以上とすると、人工乳の摂取量が減少せず、増体効果が得られる。
【0016】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、「%」は全て重量基準である。
【実施例
【0017】
実施例1 血中β-ヒドロキシ酪酸濃度に対する中鎖脂肪酸給与の影響
A. 材料および方法
(1)試験(i) 中鎖脂肪酸給与による血中β-ヒドロキシ酪酸の移行メカニズムの確認
ア.供試動物:生後5-8週齢前後の場内産ホルスタイン種子牛11頭を供試した。
【0018】
イ.試験区分:
(ア)対照期;慣行の飼養管理方法(市販の代用乳の添付書類に記載されている標準給与体系)に準じて管理されている供試牛から採取した。
(イ)試験期;中鎖脂肪酸資材(「エネアップ」(商品名))を固形飼料(人工乳)(商品名:(JA東日本くみあい飼料株式会社)の「にこにこモーレット」)給与量の10%または5%、飼料給与直後に3日間連続で給与した。なお、エネアップ(商品名)は、中鎖脂肪酸を約80%含有するので、給与した中鎖脂肪酸は、人工乳の8%又は4%である。エネアップ(商品名)中の脂肪酸の組成を下記表1に示す。また、供試牛の概要を下記表2に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
ウ.調査項目:
(ア) ルーメン性状;中鎖脂肪酸資材を人工乳の10%給与した区については、試験前24、20時間および中鎖脂肪酸給与前、給与4、24、48、52、72時間後に経口的にルーメン液を採取し、揮発性脂肪酸(VFA)(短鎖脂肪酸)を分析した。
【0022】
(イ)細菌叢解析;中鎖脂肪酸資材を人工乳給与量の10%給与した区については、試験前24、20時間および中鎖脂肪酸給与前、給与4、24、48、52、72時間後に経口的に採取したルーメン液および直腸から採取した新鮮便を-20℃で凍結し、ルーメン微生物の菌叢を分析した。
【0023】
(ウ)血液生化学的検査;試験前24、20時間および中鎖脂肪酸給与前、給与4、24、48、52、72時間後に採血を行い、β‐ヒドロキシ酪酸(BHBA)を測定した。
【0024】
B.結果
中鎖脂肪酸給与による、ルーメン発酵パターンについては図1に示す。各VFAの産生割合については、試験期で、酪酸の明らかの産生割合の増加が認められた。酪酸は、ルーメン絨毛の発達にとって最も重要であることがわかっている揮発性脂肪酸である。さらに、ルーメン細菌については、Butyrivibrio 属の菌数が明らかに増加していた(図2)。
【0025】
中鎖脂肪酸を人工乳の10%給与した際の血液中のβ-ヒドロキシ酪酸(BHBA)濃度の推移を図3に示す。BHBA濃度は対照期では飼料給与4時間後で給与前との違いは認められなかった。試験期では飼料および中鎖脂肪酸給与4時間後に明確なBHBA濃度の増加が認められた。このため、ルーメン内で中鎖脂肪酸給与により、産生された酪酸が血中に移行していることが考えられた。一方、エネアップ(商品名)を人工乳の5%給与した場合は血中のBHBA濃度の増加は認められなかった(図4)。
【0026】
以上のとおり、5~8週齢の子牛に、エネアップ(商品名)を人工乳に対して10%(中鎖脂肪酸として8%)、3日間給与することにより、ルーメン絨毛の発達を促進する酪酸の産生割合が増加し、ルーメン発酵を促進するButyrivibrio 属の菌数が増大し、酪酸産生の指標となる血中BHBAが増加することが明らかになった。
【0027】
実施例2 中鎖脂肪酸給与による飼料摂取量への影響
ア.供試動物:生後7日齢前後の場内産子牛24頭を供試し、5g/日、10g/日、20g/日の給与量で3期に分けて試験した。また、人工乳と粗飼料(チモシー)を不断給餌とした。
【0028】
イ.試験区分:
(ア)対照区;慣行の飼養管理方法(上述)に準じた。
(イ)試験区;生後14日齢前後より、中鎖脂肪酸資材(エネアップ(商品名))を人工乳の5%区(一期目)、10%区(ニ期目)、20%区(三期目)飼料給与直後に給与した。供試牛の概要を下記表3に示す。
【0029】
【表3】
【0030】
ウ.調査項目:
(ア)飼料摂取量;人工乳、乾草について測定した。
(イ)体重;試験開始時および終了時の体重を測定した。
(ウ)糞便性状;試験開始時および終了時の糞便性状を目視で観察し記録する(正常便、軟便、下痢便、水様便)。
(エ)血液生化学的検査;中鎖脂肪酸給与期間中は週に一度、飼料給与前と給与4時間後における採血を実施した。採血した血液を用いて、血清中のBHBA濃度を測定した。
【0031】
3.結果
5%区、10%区及び20%区における、血中BHBA濃度の経時変化(中鎖脂肪酸給与開始時を0週とする)をそれぞれ表4~表6に示す。これらの表から明らかなように、10%区及び20%区では、血中BHBA濃度の増加が観察され、特に、20%区では、給与開始後2週間後と3週間後の両方において、血中BHBA濃度の増加が統計学的に有意(p値が0.05未満)であった。
【0032】
5%区、10%区及び20%区における、人工乳摂取量及び体重の経時変化を、それぞれ図5~10に示す。5%区及び10%区では、少なくとも一時的に人工乳摂取量及び体重が、対照区よりも少なくなった。これに対し、20%区では、人工乳摂取量が少なくとも一時的に対照区よりも増大し、結果、体重は、一貫して対照区よりも多かった。
【0033】
【表4】
【0034】
【表5】
【0035】
【表6】
【0036】
以上のことから、エネアップ(商品名)を、人工乳に対して20%(中鎖脂肪酸換算では16%)給与することにより、酪酸産生(血中BHBA濃度)の増大のみならず、人工乳の摂取量増大及び増体効果が得られることが明らかになった。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10