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特許7438845面内磁化膜、面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、および磁気抵抗効果素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】面内磁化膜、面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、および磁気抵抗効果素子
(51)【国際特許分類】
   H01F 10/30 20060101AFI20240219BHJP
   H01F 10/16 20060101ALI20240219BHJP
   H01F 10/32 20060101ALI20240219BHJP
   H01F 1/047 20060101ALI20240219BHJP
   H10N 50/10 20230101ALI20240219BHJP
   H10N 52/85 20230101ALI20240219BHJP
【FI】
H01F10/30
H01F10/16
H01F10/32
H01F1/047
H10N50/10 M
H10N52/85
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020081597
(22)【出願日】2020-05-01
(65)【公開番号】P2021176182
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】櫛引 了輔
(72)【発明者】
【氏名】タム キム コング
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 知成
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/090914(WO,A1)
【文献】特開2017-194367(JP,A)
【文献】特開2015-212409(JP,A)
【文献】特開2004-031545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 10/30
H01F 10/16
H01F 10/32
H01F 1/047
H10N 50/10
H10N 52/85
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸を有する下地膜の上に形成されて、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜であって、
金属Ptおよび酸化物を含有してなり、厚さが20nm以上80nm以下であり、
当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、
前記下地膜の前記凹凸の凹部の底から該凹凸の凸部の上端までの距離は0.2nm以上1nm以下であり、
前記下地膜の前記凹凸の凸部にはPtが含まれておらず、
前記下地膜から当該面内磁化膜へと移り変わる境界領域におけるPt量推移の傾きが8(1/nm)以上であり、
当該面内磁化膜は、保磁力が2.00kOe以上であり、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm 2 以上であることを特徴とする面内磁化膜。
【請求項2】
下地膜の上に形成されて、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜であって、
金属Ptおよび酸化物を含有してなり、金属成分の合計に対して、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、前記下地膜の上に設けられた下部磁性層と、
金属Ptおよび前記酸化物を含有してなり、金属成分の合計に対して、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、前記下部磁性層の上に設けられた上部磁性層と、
を備えており、
前記下部磁性層の厚さは0.2nm以上8nm以下であり、前記下部磁性層と前記上部磁性層とを備えてなる当該面内磁化膜の厚さは20nm以上80nm以下であり、
前記下部磁性層は、前記上部磁性層よりも、前記酸化物の含有量が多く、
前記下部磁性層と前記上部磁性層とを備えてなる当該面内磁化膜は、保磁力が2.00kOe以上であり、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm2以上であることを特徴とする面内磁化膜。
【請求項3】
前記下部磁性層は前記酸化物を25vol%以上35vol%以下含有し、前記上部磁性層は前記酸化物を5vol%以上15vol%以下含有することを特徴とする請求項2に記載の面内磁化膜。
【請求項4】
前記面内磁化膜は、金属Coを、金属成分の合計に対して45at%以上80at%以下含有していることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の面内磁化膜。
【請求項5】
前記面内磁化膜は、ホウ素を、金属成分の合計に対して0.5at%以上3.5at%以下含有していることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の面内磁化膜。
【請求項6】
前記酸化物は、Ti、Si、W、B、Mo、Ta、Nbの酸化物のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の面内磁化膜。
【請求項7】
表面に凹凸を有する下地膜の上に形成されて、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、
複数の面内磁化膜と、
非磁性中間層と、
を有してなり、
前記非磁性中間層は、前記面内磁化膜同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記面内磁化膜同士は強磁性結合をしており、
前記面内磁化膜は、
金属Ptおよび酸化物を含有してなり、
当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、
前記複数の面内磁化膜の合計の厚さは30nm以上であり、
前記下地膜の前記凹凸の凹部の底から該凹凸の凸部の上端までの距離は0.2nm以上1nm以下であり、
前記下地膜の前記凹凸の凸部にはPtが含まれておらず、
前記下地膜から、該下地膜の直上の前記面内磁化膜へと移り変わる境界領域におけるPt量推移の傾きが8(1/nm)以上であり、
当該面内磁化膜多層構造は、保磁力が2.00kOe以上であり、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm 2 以上であることを特徴とする面内磁化膜多層構造。
【請求項8】
表面に凹凸を有する下地膜の上に形成されて、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、
複数の面内磁化膜と、
非磁性中間層と、
を有してなり、
前記非磁性中間層は、前記面内磁化膜同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記面内磁化膜同士は強磁性結合をしており、
前記面内磁化膜は、
金属Ptおよび酸化物を含有してなり、
当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、
前記下地膜の前記凹凸の凹部の底から該凹凸の凸部の上端までの距離は0.2nm以上1nm以下であり、
前記下地膜の前記凹凸の凸部にはPtが含まれておらず、
前記下地膜から、該下地膜の直上の前記面内磁化膜へと移り変わる境界領域におけるPt量推移の傾きが8(1/nm)以上であり、
当該面内磁化膜多層構造は、保磁力が2.00kOe以上であり、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm2以上であることを特徴とする面内磁化膜多層構造。
【請求項9】
前記非磁性中間層は、RuまたはRu合金からなることを特徴とする請求項7または8に記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項10】
前記非磁性中間層の厚さは、0.3nm以上3nm以下であることを特徴とする請求項7~9のいずれかに記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項11】
前記面内磁化膜の1層あたりの厚さは、5nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項7~10のいずれかに記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項12】
請求項1~6のいずれかに記載の面内磁化膜、または請求項7~11のいずれかに記載の面内磁化膜多層構造を有してなることを特徴とするハードバイアス層。
【請求項13】
請求項12に記載のハードバイアス層を有してなることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面内磁化膜、面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、および磁気抵抗効果素子に関し、詳細には、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板を加熱して行う成膜(以下、加熱成膜と記すことがある。)を行わずに実現することができるPt-酸化物系の面内磁化膜、Pt-酸化物系の面内磁化膜多層構造、前記面内磁化膜または前記面内磁化膜多層構造を有してなるハードバイアス層、および前記ハードバイアス層を有してなる磁気抵抗効果素子に関する。前記Pt-酸化物系の面内磁化膜および前記Pt-酸化物系の面内磁化膜多層構造は、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層に用いることができる。
【0002】
保磁力Hcが2.00kOe以上であり、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるハードバイアス層であれば、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層と比べて同等程度以上の保磁力および残留磁化を有していると考えられる。
【0003】
なお、本願において、ハードバイアス層とは、磁気抵抗効果を発揮する磁性層(以下、フリー磁性層と記すことがある。)にバイアス磁界を加える薄膜磁石のことである。
【0004】
また、本願では、金属Coを単にCoと記載し、金属Ptを単にPtと記載し、金属Ruを単にRuと記載することがある。また、他の金属元素についても同様に記載することがある。
【0005】
また、本願において、ホウ素(B)は金属元素の範疇に含める。
【背景技術】
【0006】
現在多くの分野で磁気センサが用いられているが、汎用的に用いられている磁気センサの1つに磁気抵抗効果素子がある。
【0007】
磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果を発揮する磁性層(フリー磁性層)と、該磁性層(フリー磁性層)にバイアス磁界を加えるハードバイアス層と、を有してなり、ハードバイアス層には、所定以上の大きさの磁界を安定的にフリー磁性層に印加できることが求められている。
【0008】
したがって、ハードバイアス層には、高い保磁力および残留磁化が求められる。
【0009】
しかしながら、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の保磁力は、2kOe程度であり(例えば、特許文献1の図7)、これ以上の保磁力の実現が望まれている。
【0010】
また、単位面積当たりの残留磁化は、2memu/cm2程度以上であることが望まれている(例えば、特許文献2の段落0007)。
【0011】
これらに対応できる可能性のある技術として、例えば特許文献3に記載の技術がある。特許文献3に記載の技術は、センサ積層体(フリー磁性層を備えた積層体)とハードバイアス層との間に設けたシード層(Ta層と、そのTa層の上に形成され、面心立方(111)結晶構造または六方最密(001)結晶構造を有する金属層とを含む複合シード層)により、長手方向に容易軸を向かせるように磁性材料を配向させ、ハードバイアス層の保磁力の向上を試みた手法である。しかしながら、ハードバイアス層に望まれる前記磁気特性を満たしていない。また、この手法では、保磁力向上のため、センサ積層体とハードバイアス層との間に設けたシード層を厚くする必要がある。このため、センサ積層体中のフリー磁性層への印加磁場が弱くなるという問題も抱える構造である。
【0012】
また、特許文献4には、ハードバイアス層に用いる磁性材にFePtを用いることや、Pt又はFeシード層を有するFePtハードバイアス層、及びPt又はFeのキャッピング層が記載されており、この特許文献4では、焼なまし温度が約250~350℃である焼なましの間に、シード層及びキャッピング層内のPt又はFe、ならびにハードバイアス層内のFePtが互いに混ざり合う構造が提案されている。しかしながら、このハードバイアス層の形成に必要な加熱工程においては、既に積層されている他の膜への影響を考慮する必要があり、この加熱工程は可能な限り避けるべき工程である。
【0013】
特許文献5では、焼なまし温度の最適化が行われて、焼なまし温度を200℃程度まで下げることが可能であることが示され、ハードバイアス層の保磁力が3.5kOe以上であることが示されているが、単位面積当たりの残留磁化は1.2memu/cm2程度であり、ハードバイアス層に望まれている前記磁気特性を満たしていない。
【0014】
特許文献6には、長手記録用磁気記録媒体が記載されており、その磁性層は、六方最密充填構造を有する強磁性結晶粒と、それを取り巻く主に酸化物からなる非磁性粒界とからなるグラニュラ構造であるが、このようなグラニュラ構造が磁気抵抗効果素子のハードバイアス層へ用いられた事例は無い。また、特許文献6に記載の技術は、磁気記録媒体の課題である信号対雑音比の低減を目的としており、磁性層の層間に非磁性層を用いて磁性層を多層化させているが、その上下の磁性層同士は反強磁性結合を有しており、磁性層の保磁力の向上には適さない構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2008-283016号公報
【文献】特表2008-547150号公報
【文献】特開2011-008907号公報
【文献】米国特許出願公開第2009/027493A1号公報
【文献】特開2012-216275号公報
【文献】特開2003-178423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
実際の磁気抵抗効果素子への適用を視野に入れた場合、センサ積層体(フリー磁性層を備えた積層体)およびハードバイアス層は、できるだけ薄くすることが好ましく、また、加熱成膜は行わないことが好ましい。
【0017】
この条件を満たした上で、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の保磁力(2kOe程度)および単位面積当たりの残留磁化(2memu/cm2程度)を上回るハードバイアス層を得るためには、現状のハードバイアス層に用いられている元素や化合物とは異なる元素や化合物を探索していく必要があると本発明者は考え、また、酸化物をPt系の面内磁化膜に適用することが有望であるのではないかと本発明者は考えた。また、Pt-酸化物系の面内磁化膜を形成する際には、下地膜の上にPt-酸化物系の面内磁化膜を形成するが、下地膜の表面には凹凸があるので、その凹凸を適切に活用すれば、Pt磁性結晶粒同士の間の磁気的な相互作用を小さくした状態で、Pt-酸化物系の面内磁化膜を形成できるのではないかと本発明者は考えた。
【0018】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、加熱成膜を行わずに達成することができる面内磁化膜および面内磁化膜多層構造を提供することを課題とし、併せて、前記面内磁化膜または前記面内磁化膜多層構造を有してなるハードバイアス層、および前記ハードバイアス層を有してなる磁気抵抗効果素子を提供することも補足的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、以下の面内磁化膜、面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、および磁気抵抗効果素子により、前記課題を解決したものである。
【0020】
即ち、本発明に係る面内磁化膜の第1の態様は、下地膜の上に形成されて、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜であって、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、厚さが20nm以上80nm以下であり、当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、前記下地膜から当該面内磁化膜へと移り変わる境界領域におけるPt量推移の傾きが8(1/nm)以上であることを特徴とする面内磁化膜である。
【0021】
ここで、本発明に係る面内磁化膜およびそれに付随して存在する下地膜等の部材に関し、上下方向を観念する文言は、当該面内磁化膜が積層された下地膜が最も低い位置になるように該下地膜を水平方向に配置した状態を基準として、その意味内容を解釈するものとする。
【0022】
また、「前記下地膜から当該面内磁化膜へと移り変わる境界領域におけるPt量推移の傾き」は、[実施例]の欄の「(E)Ru下地膜およびその直上のCoPt面内磁化膜の膜厚方向断面におけるPt量推移の分析(実施例2、6、9~12、比較例1、3、4)」に記載した方法によって算出する。本願における他の箇所の同様の記載においても同様である。
【0023】
本発明に係る面内磁化膜の第2の態様は、下地膜の上に形成されて、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜であって、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、金属成分の合計に対して、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、前記下地膜の上に設けられた下部磁性層と、金属Ptおよび前記酸化物を含有してなり、金属成分の合計に対して、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、前記下部磁性層の上に設けられた上部磁性層と、を備えており、前記下部磁性層の厚さは0.2nm以上8nm以下であり、前記下部磁性層と前記上部磁性層とを備えてなる当該面内磁化膜の厚さは20nm以上80nm以下であり、前記下部磁性層は、前記上部磁性層よりも、前記酸化物の含有量が多く、前記下部磁性層と前記上部磁性層とを備えてなる当該面内磁化膜は、保磁力が2.00kOe以上であり、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm2以上であることを特徴とする面内磁化膜である。
【0024】
前記下部磁性層は前記酸化物を25vol%以上35vol%以下含有し、前記上部磁性層は前記酸化物を5vol%以上15vol%以下含有する、ようにしてもよい。
【0025】
前記面内磁化膜は、金属Coを、金属成分の合計に対して45at%以上80at%以下含有していてもよい。
【0026】
前記面内磁化膜は、ホウ素を、金属成分の合計に対して0.5at%以上3.5at%以下含有していてもよい。
【0027】
前記酸化物は、Ti、Si、W、B、Mo、Ta、Nbの酸化物のうちの少なくとも1種を含むようにしてもよい。
【0028】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第1の態様は、下地膜の上に形成されて、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、複数の面内磁化膜と、非磁性中間層と、を有してなり、前記非磁性中間層は、前記面内磁化膜同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記面内磁化膜同士は強磁性結合をしており、前記面内磁化膜は、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、前記複数の面内磁化膜の合計の厚さは30nm以上であり、前記下地膜から、該下地膜の直上の前記面内磁化膜へと移り変わる境界領域におけるPt量推移の傾きが8(1/nm)以上であることを特徴とする面内磁化膜多層構造である。
【0029】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第2の態様は、下地膜の上に形成されて、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、複数の面内磁化膜と、非磁性中間層と、を有してなり、前記非磁性中間層は、前記面内磁化膜同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記面内磁化膜同士は強磁性結合をしており、前記面内磁化膜は、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、前記下地膜から、該下地膜の直上の前記面内磁化膜へと移り変わる境界領域におけるPt量推移の傾きが8(1/nm)以上であり、当該面内磁化膜多層構造は、保磁力が2.00kOe以上であり、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm2以上であることを特徴とする面内磁化膜多層構造である。
【0030】
本願において、非磁性中間層とは、面内磁化膜同士の間に配置される非磁性層のことである。
【0031】
本願において、強磁性結合とは、非磁性中間層を挟んで隣り合う磁性層(ここでは、前記面内磁化膜)のスピンが平行(同じ向き)になっているときに働く交換相互作用に基づく結合のことである。
【0032】
また、本願において、面内磁化膜の「単位面積あたりの残留磁化」とは、当該面内磁化膜の単位体積当たりの残留磁化に、当該面内磁化膜の厚さを乗じた値のことであり、面内磁化膜多層構造の「単位面積あたりの残留磁化」とは、当該面内磁化膜多層構造に含まれる面内磁化膜の単位体積当たりの残留磁化に、当該面内磁化膜多層構造に含まれる面内磁化膜の厚さの合計の値を乗じた値のことである。
【0033】
前記非磁性中間層は、RuまたはRu合金からなることが好ましい。
【0034】
前記非磁性中間層の厚さは、0.3nm以上3nm以下であることが標準的である。
【0035】
前記面内磁化膜の1層あたりの厚さは、5nm以上30nm以下であることが標準的である。
【0036】
本発明に係るハードバイアス層は、前記面内磁化膜または前記面内磁化膜多層構造を有してなることを特徴とするハードバイアス層である。
【0037】
本発明に係る磁気抵抗効果素子は、前記ハードバイアス層を有してなることを特徴とする磁気抵抗効果素子である。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、加熱成膜を行わずに達成することができる面内磁化膜、面内磁化膜多層構造、前記面内磁化膜または前記面内磁化膜多層構造を有してなるハードバイアス層、および前記ハードバイアス層を有してなる磁気抵抗効果素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の第1実施形態に係る面内磁化膜10を、磁気抵抗効果素子12のハードバイアス層14に適用している状態を模式的に示す断面図。
図2】面内磁化膜10を下地膜40とともに、拡大して模式的に描いた拡大断面図
図3】面内磁化膜10の下部磁性層10Aの形成の初期段階を模式的に示す図。
図4】面内磁化膜10の下部磁性層10Aの形成が終了した段階を模式的に示す図。
図5】面内磁化膜10の上部磁性層10B全体の形成が完了して、面内磁化膜10全体の形成が完了した段階を模式的に示す図。
図6】本発明の第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造20を、磁気抵抗効果素子26のハードバイアス層28に適用している状態を模式的に示す断面図。
図7】薄片化処理を行った後の薄片化サンプル60の形状を模式的に示す斜視図。
図8】走査透過電子顕微鏡を用いて撮像して取得した観察像の一例(参考例6の観察像)。
図9】参考例6の面内磁化膜の厚さ方向に行った(図8中の黒線に沿って行った)線分析(元素分析)の結果。
図10】薄片化処理を行った後の薄片化サンプル80の形状を模式的に示す斜視図。
図11】走査透過電子顕微鏡を用いて撮像して取得した観察像の一例(実施例9の観察像)。
図12】実施例9の面内磁化膜の厚さ方向に行った(図11中の黒線に沿って行った)線分析(元素分析)の結果。
図13】正方形領域200に対して行った「Ptについての元素マッピング」の結果を示す画像。
図14】実施例9についての膜厚方向のPt量の推移を示すグラフ(縦軸:規格化されたPt量、横軸:走査位置)。
図15】走査透過電子顕微鏡を用いて正方形領域200を撮像して取得した観察像。
【発明を実施するための形態】
【0040】
(1)第1実施形態
(1-1)概要
図1は、本発明の第1実施形態に係る面内磁化膜10を、磁気抵抗効果素子12のハードバイアス層14に適用している状態を模式的に示す断面図である。図2は、面内磁化膜10を下地膜40とともに、拡大して模式的に描いた拡大断面図である。なお、図1においては、下地膜40の記載は省略している。
【0041】
ここでは、磁気抵抗効果素子12としてトンネル型磁気抵抗効果素子を念頭に置いて図1に示す構成の説明を行うが、本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、トンネル型磁気抵抗効果素子のハードバイアス層への適用に限定されるわけではなく、例えば巨大磁気抵抗効果素子、異方性磁気抵抗効果素子のハードバイアス層への適用も可能である。
【0042】
磁気抵抗効果素子12(ここでは、トンネル型磁気抵抗効果素子)は、非常に薄い非磁性トンネル障壁層(以下、バリア層54)によって分離された2つの強磁性層(フリー磁性層16、ピン層52)を有する。ピン層52は、隣接する反強磁性層(図示せず)との交換結合により固定されることなどによって、その磁化方向が固定されている。フリー磁性層16は、外部磁界が存在する状態で、その磁化方向を、ピン層52の磁化方向に対して自由に回転させることができる。フリー磁性層16が外部磁界によってピン層52の磁化方向に対して回転すると、電気抵抗が変化するため、この電気抵抗の変化を検出することで、外部磁界を検出することができる。
【0043】
ハードバイアス層14は、フリー磁性層16にバイアス磁界を加えて、フリー磁性層16の磁化方向軸を安定させる役割を有する。絶縁層50は電気的な絶縁材料で形成されており、センサ積層体(フリー磁性層16、バリア層54、ピン層52)を垂直方向に流れるセンサ電流が、センサ積層体(フリー磁性層16、バリア層54、ピン層52)の両側のハードバイアス層14に分流するのを抑制する役割を有する。
【0044】
図1に示すように、本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、磁気抵抗効果素子12のハードバイアス層14として用いることができ、磁気抵抗効果を発揮するフリー磁性層16にバイアス磁界を加えることができる。
【0045】
本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、CoPt-酸化物系の面内磁化膜であり、金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の保磁力と比べて同等程度以上の保磁力(2.00kOe以上の保磁力)および単位面積当たりの残留磁化(2.00memu/cm2以上)を有する単層の面内磁化膜である。ただし、図2に示すように、面内磁化膜10の部位のうち、下地膜40近傍の部位(以下、下部磁性層10Aと称することがある。)は、それよりも上方の部位で下地膜40から遠い部位(以下、上部磁性層10Bと称することがある。)よりも、酸化物の含有量が多くなっており、この点については、後述する「(1-5)面内磁化膜10の厚さ方向における酸化物の分布とその作用効果」で詳細に説明する。
【0046】
本第1実施形態においては、ハードバイアス層14は、本第1実施形態に係る面内磁化膜10(下部磁性層10Aおよび上部磁性層10B)のみで構成されている。
【0047】
(1-2)面内磁化膜10の構成成分
本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、前述したように、金属成分としてCoおよびPtを含有し、また、酸化物を含有する。
【0048】
金属Coおよび金属Ptは、スパッタリングによって形成される面内磁化膜において、磁性結晶粒(微小な磁石)の構成成分となる。
【0049】
Coは強磁性金属元素であり、面内磁化膜中の磁性結晶粒(微小な磁石)の形成において中心的な役割を果たす。スパッタリングによって得られる面内磁化膜中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくするという観点および得られる面内磁化膜中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性を維持するという観点から、本実施形態に係る面内磁化膜中のCoの含有割合は、当該面内磁化膜中の金属成分の合計に対して45at%以上80at%以下としている。また、同様の点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜中のCoの含有割合は、当該面内磁化膜中の金属成分の合計に対して45at%以上70at%以下であることが好ましく、45at%以上60at%以下であることがより好ましい。
【0050】
Ptは、所定の組成範囲でCoと合金化することにより合金の磁気モーメントを低減させる機能を有し、磁性結晶粒の磁性の強さを調整する役割を有する。一方、スパッタリングによって得られる面内磁化膜中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくして、面内磁化膜の保磁力を大きくするという機能を有する。面内磁化膜の保磁力を大きくするという観点および得られる面内磁化膜中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性を調整するという観点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜中のPtの含有割合は、当該面内磁化膜中の金属成分の合計に対して20at%以上55at%以下としている。また、同様の点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜中のPtの含有割合は、当該面内磁化膜中の金属成分の合計に対して30at%以上55at%以下であることが好ましく、40at%以上55at%以下であることがより好ましい。
【0051】
また、本第1実施形態に係る面内磁化膜10の金属成分として、CoおよびPt以外に、ホウ素Bを0.5at%以上3.5at%以下含有させてもよい。ホウ素Bを0.5at%以上3.5at%以下含有させることにより、面内磁化膜10の保磁力Hcをさらに向上させる効果がある。
【0052】
本第1実施形態に係る面内磁化膜10が含有する酸化物は、Ti、Si、W、B、Mo、Ta、Nbの酸化物のうちの少なくとも1種を含む。そして、面内磁化膜10中において、前記のような酸化物からなる非磁性体によって、CoPt合金磁性結晶粒同士が仕切られており、グラニュラ構造が形成されている。即ち、このグラニュラ構造は、CoPt合金結晶粒とその周囲を取り囲む前記酸化物の結晶粒界とからなる。
【0053】
したがって、面内磁化膜10中の酸化物の含有量を多くした方が磁性結晶粒同士の間を確実に仕切りやすくなり、磁性結晶粒同士を独立させやすくなるので好ましい。この観点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜10中に含まれる酸化物の含有量(面内磁化膜10全体における酸化物の含有量の平均値)を、6vol%以上にすることが標準的であり、また、同様の観点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜10中に含まれる酸化物の含有量(面内磁化膜10全体における酸化物の含有量の平均値)は、7vol%以上であることが好ましく、8vol%以上であることがより好ましい。
【0054】
ただし、面内磁化膜10中の酸化物の含有量(面内磁化膜10全体における酸化物の含有量の平均値)が多くなりすぎると、酸化物がCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)中に混入してCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶性に悪影響を与えて、CoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)においてhcp以外の構造の割合が増えるおそれがある。この観点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜10中に含まれる酸化物の含有量(面内磁化膜10全体における酸化物の含有量の平均値)を、32vol%以下にすることが標準的であり、また、同様の観点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜10中に含まれる酸化物の含有量は、25vol%以下であることが好ましく、20vol%以下であることがより好ましい。
【0055】
したがって、本第1実施形態においては、面内磁化膜10中に含まれる酸化物の含有量(面内磁化膜10全体における酸化物の含有量の平均値)を、6vol%以上32vol%以下にすることが標準的であり、また、本第1実施形態に係る面内磁化膜10中に含まれる酸化物の含有量(面内磁化膜10全体における酸化物の含有量の平均値)は、7vol%以上25vol%以下であることが好ましく、8vol%以上20vol%以下であることがより好ましい。
【0056】
また、酸化物としてWO3またはMoO3を含むと、面内磁化膜10の保磁力Hcが大きくなるので、酸化物としてWO3またはMoO3を含むことが好ましい。
【0057】
なお、現状の面内磁化膜では、CoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)同士を仕切る粒界材料として、Cr、W、Ta、B等の単体元素が用いられているため、粒界材料が、ある程度、CoPt合金に固溶すると考えられる。このため、現状の面内磁化膜のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)は、結晶性に悪影響を受けて飽和磁化および残留磁化が低減していると考えられ、現状の面内磁化膜は、その保磁力Hcおよび残留磁化の値が悪影響を受けていると考えられる。
【0058】
一方、本第1実施形態に係る面内磁化膜10においては、粒界材料が酸化物であるので、粒界材料がCr、W、Ta、B等の単体元素の場合と比べて、粒界材料がCoPt合金に固溶しにくい。このため、本第1実施形態に係る面内磁化膜10中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の飽和磁化および残留磁化は大きくなり、また、本第1実施形態に係る面内磁化膜10の保磁力Hcおよび残留磁化は大きくなる。
【0059】
(1-3)面内磁化膜10の厚さ
面内磁化膜10の厚さを薄くすると、単位面積当たりの残留磁化Mrtが小さくなる傾向があり、また、面内磁化膜10の厚さを厚くすると、保磁力Hcが小さくなる傾向があるので、両者を両立させる観点から、面内磁化膜10の厚さ(下部磁性層10Aと上部磁性層10Bとを合わせた厚さ)は、20nm以上80nm以下に設定することが標準的である。
【0060】
(1-4)下地膜
本第1実施形態に係る面内磁化膜10を形成する際に用いる下地膜40(図2参照)としては、面内磁化膜10の磁性粒子(CoPt合金粒子)と同じ結晶構造(六方最密充填構造hcp)である金属RuまたはRu合金からなる下地膜が適している。下地膜40の表面は凹凸状になっており、凸部40Aと凹部40Bが形成されている。
【0061】
積層する面内磁化膜10中の磁性結晶粒(CoPt合金粒子)を整然と面内配向させるため、下地膜40としてRu下地膜またはRu合金下地膜を用いる場合、Ru下地膜またはRu合金下地膜の表面には、(10.0)面または(11.0)面が多く配置されるようにすることが好ましい。
【0062】
なお、本発明に係る面内磁化膜を形成する際に用いる下地膜は、Ru下地膜またはRu合金下地膜に限定されるわけではなく、得られる面内磁化膜のCoPt磁性結晶粒を面内配向させ、かつ、CoPt磁性結晶粒同士の磁気的な分離を促進させることができる下地膜であれば使用可能である。
【0063】
(1-5)面内磁化膜10の厚さ方向における酸化物の分布とその作用効果
前述したように、面内磁化膜10の部位のうち、下地膜40近傍の部位である下部磁性層10A(図2参照)は、それよりも上方の部位で下地膜40から遠い部位である上部磁性層10B(図2参照)よりも、酸化物の含有量が多くなっている。以下の説明においては、下地膜40として、金属RuからなるRu下地膜42を採用し、面内磁化膜10の下部磁性層10Aの形成には酸化物含有量の多い(Co-20Pt)-30vol%WO3ターゲットを使用し、面内磁化膜10の上部磁性層10Bの形成には酸化物含有量の少ない(Co-20Pt)-10vol%WO3ターゲットを使用するものとして、説明を行う。
【0064】
面内磁化膜10の下部磁性層10Aにおける酸化物の含有量を多くし、上部磁性層10Bにおける酸化物の含有量を少なくするため、面内磁化膜10の作製に際し、まず、酸化物含有量の大きいスパッタリングターゲット(Co-20Pt)-30vol%WO3を用いて所定の厚さの下部磁性層10Aを形成した後、酸化物含有量の小さいスパッタリングターゲット(Co-20Pt)-10vol%WO3を用いて必要な厚さとなるまで上部磁性層10Bを形成する。
【0065】
このときの面内磁化膜10の形成過程を図3図5に模式的に示す。図3は面内磁化膜10の下部磁性層10Aの形成の初期段階を模式的に示す図で、図4は面内磁化膜10の下部磁性層10Aの形成が終了した段階を模式的に示す図で、図5は面内磁化膜10の上部磁性層10B全体の形成が完了して、面内磁化膜10全体の形成が完了した段階を模式的に示す図である。
【0066】
CoPt-WO3スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行って、金属RuからなるRu下地膜42の上にCoPt-WO3面内磁化膜を形成すると、金属成分であるCoPt合金は、Ru下地膜42の凸部42Aに優先的に析出してCoPt合金相46を形成し、酸化物成分であるWO3はRu下地膜42の凹部42Bに析出して酸化物(WO3)相48を形成する。このため、Ru下地膜42の凸部42A同士の間(Ru下地膜42の凹部42B)には酸化物(WO3)相48が配置され、CoPt合金磁性結晶粒同士は磁気的に分離させられることになる。Ru下地膜42の凹部42Bを酸化物(WO3)で埋めるためには、多くの酸化物(WO3)が必要となるため、本第1実施形態では、面内磁化膜10の下部磁性層10Aの形成にはWO3量の多い(Co-20Pt)-30vol%WO3ターゲットを用いている。このようにすることにより、面内磁化膜10において、Ru下地膜42の凹部42BおよびCoPt合金磁性結晶粒同士の間は酸化物で埋め尽くされ、金属がほとんど存在しなくなり、CoPt合金磁性結晶粒同士の磁気的な分離が促進される。
【0067】
酸化物含有量の多い下部磁性層10Aの厚さは、Ru下地膜42の凹部42Bを酸化物で埋める観点から、0.2nm以上とするのが標準的であり、0.5nm以上とすることが好ましく、1nm以上とすることがより好ましいが、酸化物含有量の多い下部磁性層10Aの厚さを必要以上に厚くすると、面内磁化膜10中の磁性結晶粒の存在割合が減ってしまい、保磁力Hcが小さくなる方向に影響を受けるおそれがあるので、下部磁性層10Aの厚さは、8nm以下とするのが標準的であり、7nm以下とすることが好ましく、5nm以下とすることがより好ましい。
【0068】
したがって、酸化物含有量の多い下部磁性層10Aの厚さは、0.2nm以上8nm以下とするのが標準的であり、0.5nm以上7nm以下とすることが好ましく、1nm以上5nm以下とすることがより好ましい。
【0069】
金属成分であるCoPt合金がRu下地膜42の凸部42Aに優先的に析出してCoPt合金相46を形成し、酸化物成分であるWO3はRu下地膜42の凹部42Bに析出して酸化物(WO3)相48を形成する理由は、Ru下地膜42に飛来するスパッタ粒子44から見ると、Ru下地膜42の凹部42Bは影になるため、Ru下地膜42の凸部42Aに金属が凝固し易く、そのため酸化物はRu下地膜42の凹部42Bに析出するからである。
【0070】
酸化物含有量の少ない上部磁性層10Bの厚さは、酸化物含有量の多い下部磁性層10Aとの合計厚さ(即ち、面内磁化膜10の厚さ)が20nm以上80nm以下となるように設定することが標準的である。
【0071】
下部磁性層10Aにおいては、前述したようなメカニズムで、CoPt合金相46と酸化物(WO3)相48とが分離して形成されるので、下部磁性層10Aの上に形成する上部磁性層10Bにおいても、CoPt合金相46と酸化物(WO3)相48とは分離して形成されやすく、酸化物含有量の少ない上部磁性層10Bの形成においても、CoPt合金相46と酸化物(WO3)相48とは分離して形成されやすい。
【0072】
以上説明したように、本第1実施形態に係る面内磁化膜10の下部磁性層10Aの形成においては、WO3量の多い(Co-20Pt)-30vol%WO3ターゲットを用いており、このため、面内磁化膜10においては、CoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)同士の間には金属成分ではなく酸化物成分が卓越して堆積しやすく、CoPt合金磁性結晶粒同士の間には酸化物(WO3)相48が形成されて、CoPt合金磁性結晶粒同士の間には金属はほとんど存在しておらず、CoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)同士の磁気的な相互作用が弱められており、保磁力Hcを向上させることができる。
【0073】
なお、本発明に係る面内磁化膜においてCoPt合金磁性結晶粒同士の間に金属がほとんど存在していないことは、後述する[実施例]の「(E)Ru下地膜およびその直上のCoPt面内磁化膜の膜厚方向断面におけるPt量推移の分析(実施例2、6、9~12、比較例1、3、4)」で実証している。
【0074】
(1-6)面内磁化膜10の形成方法
本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、Ru下地膜42の上に、酸化物(WO3)量の多い(Co-20Pt)-30vol%WO3スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行って、所定の厚さの下部磁性層10Aを形成させ、次に、酸化物(WO3)量の少ない(Co-20Pt)-10vol%WO3スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行って、下部磁性層10Aの上に上部磁性層10Bを形成する。なお、この成膜過程で加熱することは不要であり、本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、室温成膜で形成することが可能である。
【0075】
(2)第2実施形態
図6は、本発明の第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造20を、磁気抵抗効果素子26のハードバイアス層28に適用している状態を模式的に示す断面図である。
【0076】
以下、本第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造20について説明するが、面内磁化膜10の構成成分、面内磁化膜10の厚さ、面内磁化膜10を形成する際に用いる下地膜40、面内磁化膜10の厚さ方向における酸化物の分布とその作用効果、および面内磁化膜10の形成方法については、すでに「(1)第1実施形態」において説明を行っているので、説明は省略する。
【0077】
図6に示すように、本発明の第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造20は、第1実施形態に係る面内磁化膜10の上に非磁性中間層22を備え、その非磁性中間層22の上に、面内磁化膜10の上部磁性層10Bと同一組成の追加面内磁化膜24が積み重ねられた構造になっている。図6では、追加面内磁化膜24を1層積み重ねただけであるが、非磁性中間層22を間に介在させて追加面内磁化膜24を複数層積み重ねてもよい。
【0078】
面内磁化膜多層構造20において、面内磁化膜10の厚さおよび追加面内磁化膜24の厚さは、標準的には5nm以上30nm以下であるが、面内磁化膜10の厚さおよび追加面内磁化膜24の厚さは、保磁力Hcをより大きくする観点から、5nm以上15nm以下であることが好ましく、10nm以上15nm以下であることがより好ましい。また、面内磁化膜10と追加面内磁化膜24の合計の厚さは、単位面積当たりの残留磁化Mrtを2.00meum/cm2以上にする観点から、標準的には20nm以上にする。また、面内磁化膜10と追加面内磁化膜24の合計の厚さの上限に関しては、後述するように、非磁性中間層22が介在することによって分離された隣り合う面内磁化膜10と追加面内磁化膜24は強磁性結合を行い、非磁性中間層22が介在することによって分離された隣り合う追加面内磁化膜24同士は強磁性結合を行うため、面内磁化膜10と追加面内磁化膜24の合計の厚さが大きくなっても、理論上は保磁力Hcは小さくならず、上限はない。実際に、後述する実施例によって、面内磁化膜10と追加面内磁化膜24の合計の厚さが60nmまでは、保磁力Hcが2.00kOe以上となることを確認している。
【0079】
本第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造20は、磁気抵抗効果素子26のハードバイアス層28として用いることができ、磁気抵抗効果を発揮するフリー磁性層16にバイアス磁界を加えることができる。
【0080】
非磁性中間層22は、面内磁化膜10と追加面内磁化膜24の間、および追加面内磁化膜24同士の間に介在して、面内磁化膜10と追加面内磁化膜24を分離し、また、追加面内磁化膜24同士を分離して、面内磁化膜を多層化する役割を有する。非磁性中間層22を介在させて面内磁化膜を多層化することにより、単位面積当たりの残留磁化Mrtの値を維持したまま、保磁力Hcをさらに向上させることができる。
【0081】
非磁性中間層22が介在することによって分離された面内磁化膜10と追加面内磁化膜24、および追加面内磁化膜24同士は、スピンが平行(同じ向き)になるように配置する。このように配置することにより、非磁性中間層22が介在することによって分離された面内磁化膜10と追加面内磁化膜24、および追加面内磁化膜24同士は強磁性結合を行うため、面内磁化膜多層構造20は、単位面積当たりの残留磁化Mrtの値を維持したまま、保磁力Hcを向上させることができ、良好な保磁力Hcを発現することができる。
【0082】
非磁性中間層22に用いる金属は、CoPt合金磁性結晶粒の結晶構造を損なわないようにする観点から、CoPt合金磁性結晶粒と同じ結晶構造(六方最密充填構造hcp)の金属にする。具体的には、非磁性中間層22としては、面内磁化膜10中のCoPt合金磁性結晶粒の結晶構造と同じ結晶構造(六方最密充填構造hcp)である金属RuまたはRu合金を好適に用いることができる。
【0083】
非磁性中間層22に用いる金属がRu合金の場合の添加元素としては、具体的には例えば、Cr、Pt、Coを用いることができ、それらの金属の添加量の範囲は、Ru合金が六方最密充填構造hcpとなる範囲とするのがよい。
【0084】
アーク溶解を行ってRu合金のバルクサンプルを作製し、X線回折装置(XRD:(株)リガク製 SmartLab)によってX線回折のピーク解析を行ったところ、RuCr合金においては、Crの添加量が50at%のときに、六方最密充填構造hcpとRuCr2の混相が確認されたので、非磁性中間層22にRuCr合金を用いる場合、Crの添加量は50at%未満とするのが適当であり、40at%未満とすることが好ましく、30at%未満とすることがより好ましい。また、RuPt合金においては、Ptの添加量が15at%のときに、六方最密充填構造hcpとPt由来の面心立方構造fccの混相が確認されたので、非磁性中間層22にRuPt合金を用いる場合、Ptの添加量は15at%未満とするのが適当であり、12.5at%未満とすることが好ましく、10at%未満とすることがより好ましい。また、RuCo合金においては、Coの添加量に関わらず六方最密充填構造hcpを形成するが、Coを40at%以上添加すると磁性体となるため、Coの添加量は40at%未満とするのが適当であり、30at%未満とすることが好ましく、20at%未満とすることがより好ましい。
【0085】
また、非磁性中間層22の厚さは、0.3nm以上3nm以下が標準的である。
【実施例
【0086】
以下、本発明を裏付けるための実施例、比較例および参考例について記載する。
【0087】
以下の(A)では、CoPt-WO3面内磁化膜の下部磁性層(金属成分であるCo、Ptの組成比がCo:Pt=76.6:23.4である場合)の厚さについての検討しており、以下の(B)では、CoPt-WO3面内磁化膜の下部磁性層(金属成分であるCo、Ptの組成比がCo:Pt=48.0:52.0である場合)の厚さについての検討しており、以下の(C)では、CoPt-WO3面内磁化膜の上にRu非磁性中間層を介してCoPt-WO3追加面内磁化膜を積み重ねて多層化して構成した面内磁化膜多層構造の多層化の効果について検討している。
【0088】
また、以下の(D)では、作製したCoPt-WO3面内磁化膜の実際の組成(組成分析によって得られた組成)と、当該CoPt-WO3面内磁化膜の作製に用いたスパッタリングターゲットの組成との間のずれの程度を確認するために、参考例1~8のCoPt-WO3面内磁化膜を取り上げて、組成分析を行った。その結果、作製された面内磁化膜の組成と当該面内磁化膜を作製するのに用いたスパッタリングターゲットの組成との間にずれが生じることが判明した。
【0089】
以下の(A)~(C)で記載する実施例および比較例におけるCoPt-WO3面内磁化膜の組成は、作製に用いたスパッタリングターゲットの組成に対して、以下の(D)で判明した組成のずれを補正する計算を施して、算出したものである。
【0090】
また、以下の(E)では、Ru下地膜およびその直上のCoPt面内磁化膜の膜厚方向断面におけるPt量推移の分析を行って、Ru下地膜からCoPt面内磁化膜へと移り変わる境界領域のPt量推移の傾きk(1/nm)を算出した。
【0091】
<(A)CoPt-WO3面内磁化膜の下部磁性層(Co:Pt=76.6:23.4)の厚さについての検討(実施例1~8、比較例1、2)>
実施例1~8、比較例1、2では、(Co-20Pt)-WO3スパッタリングターゲットを用いて作製したCoPt-WO3面内磁化膜の部位のうち、酸化物含有量が多い下部磁性層の厚さを変化させて実験データを取得した。作製したCoPt-WO3面内磁化膜において、下部磁性層のWO3含有量は31.1vol%であり、上部磁性層のWO3含有量は10.4vol%である。
【0092】
実施例1~6では、下部磁性層の厚さを0.5nmから3nmまで0.5nm刻みで変化させており、実施例7、8では、下部磁性層の厚さを5nm、7nmとした。比較例1、2では、下部磁性層の厚さを0nm、10nmとした。実施例1~8、比較例1、2のいずれにおいても、面内磁化膜の厚さ(下部磁性層と上部磁性層を合わせた厚さ)は30nmである。
【0093】
以下、具体的に説明する。
【0094】
まず、Si基板上に、Ru下地膜を、株式会社エイコーエンジニアリング製ES-3100Wを用いてスパッタリング法により厚さ60nmとなるように形成した。なお、本願の実施例および比較例においてスパッタリングの際に用いたスパッタリング装置は、いずれの成膜(Ru下地膜、面内磁化膜の下部磁性層および上部磁性層、Ru非磁性中間層、追加面内磁化膜の成膜)においても株式会社エイコーエンジニアリング製ES-3100Wであるが、以下では装置名の記載は省略する。
【0095】
そして、実施例1~8および比較例2では、CoPt面内磁化膜の下部磁性層を、所定の厚さとなるようにRu下地膜の上に(Co-20Pt)-30vol%WO3スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法で形成し、形成した下部磁性層の上に、CoPt面内磁化膜の上部磁性層を、(Co-20Pt)-10vol%WO3スパッタリングターゲットを用いて、面内磁化膜の厚さ(下部磁性層と上部磁性層を合わせた厚さ)が30nmとなるように、スパッタリング法により形成した。比較例1では、下部磁性層を設けずに、Ru下地膜の上に、CoPt面内磁化膜を、厚さ30nmとなるように(Co-20Pt)-10vol%WO3スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法で形成した。
【0096】
これらの成膜過程(Ru下地膜ならびに面内磁化膜の下部磁性層および上部磁性層の成膜過程)では、いずれも基板加熱を行っておらず、室温成膜で行った。
【0097】
作製した実施例1~8および比較例1、2の面内磁化膜のヒステリシスループを振動型磁力計(VSM:(株)玉川製作所製 TM-VSM211483-HGC型)(以下、振動型磁力計と記す。)により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。
【0098】
また、実施例2、6および比較例1においては、以下の(E)に記載した「Ru下地膜およびその直上のCoPt面内磁化膜の膜厚方向断面におけるPt量推移の分析」を行い、Ru下地膜からCoPt面内磁化膜へと移り変わる境界領域における「Pt量の推移を示すグラフの傾きk(1/nm)」を求めた。
【0099】
実施例1~8および比較例1、2の結果を、次の表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1からわかるように、実施例2、6の面内磁化膜は、金属Co、金属Pt、および酸化物を含有する厚さが30nmの面内磁化膜であって、金属成分(Co、Pt)の合計に対するPtの含有量が20at%以上55at%以下であり、下地膜から当該面内磁化膜へと移り変わる境界領域におけるPt量推移の傾きが8以上である観点で、本発明の範囲に含まれ、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板加熱をしない室温成膜で実現している。
【0102】
実施例2、6の面内磁化膜は、下地膜から当該面内磁化膜へと移り変わる境界領域におけるPt量推移の傾きが8(1/nm)以上であり、下地膜近傍領域において、CoPt磁性結晶粒の間に存在する金属(Co、Pt)の量がほとんど存在していないということが推定される。このため、CoPt磁性結晶粒の間の磁気的な分離が十分になされていることが推定され、実施例2、6の面内磁化膜は、保磁力Hcが4.86kOe、4.87kOeと大きくなったものと考えられる。
【0103】
また、実施例1~8の面内磁化膜は、前記観点とは別の観点、即ち、金属Co、金属Pt、および酸化物を含有する厚さが30nmの面内磁化膜であって、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、金属成分の合計に対して、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、下地膜の上に設けられた下部磁性層と、金属Ptおよび前記酸化物を含有してなり、金属成分の合計に対して、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、下部磁性層の上に設けられた上部磁性層と、を備えており、上部磁性層よりも酸化物含有量の多い下部磁性層の厚さが0.2nm以上8nm以下であり、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板加熱をしない室温成膜で実現しているという観点で、本発明の範囲に含まれる。
【0104】
一方、金属Co、金属Pt、および酸化物を含有する厚さが30nmの面内磁化膜であって、金属成分(Co、Pt)の合計に対するPtの含有量が23.3at%であるが、下地膜から当該面内磁化膜へと移り変わる境界領域におけるPt量推移の傾きが8(1/nm)未満で、かつ、当該面内磁化膜の厚さ方向において酸化物含有量が10.4vol%と一定であり、本発明の範囲に含まれない比較例1の面内磁化膜は、保磁力Hcが4.64kOeであり、本発明の範囲に含まれる実施例1~8の面内磁化膜の保磁力Hc(4.75~4.87kOe)と比べて劣っている。比較例1の面内磁化膜は、下地膜から当該面内磁化膜へと移り変わる境界領域におけるPt量推移の傾きが8(1/nm)未満であり、その傾きが8(1/nm)以上である実施例2、6の面内磁化膜と比べて小さく、下地膜近傍領域において、CoPt磁性結晶粒の間に存在する金属(Co、Pt)の量が多くなったため、CoPt磁性結晶粒の間の磁気的な分離が不十分となったことが、保磁力Hcが小さくなった原因と考えられる。
【0105】
また、金属Co、金属Pt、および酸化物を含有する厚さが30nmの面内磁化膜であって、金属成分(Co、Pt)の合計に対するPtの含有量が20at%以上55at%以下であるが、酸化物含有量が31.1vol%と多い下部磁性層の厚さが10nmと厚く、本発明の範囲に含まれない比較例2の面内磁化膜は、保磁力Hcが3.85kOeであり、実施例1~8の面内磁化膜の保磁力Hc(4.75~4.87kOe)と比べて大きく劣っている。酸化物含有量が31.1vol%と多い下部磁性層の厚さが10nmと厚くなりすぎると、面内磁化膜中の磁性結晶粒の割合が相対的に小さくなってしまうことが原因と考えられる。
【0106】
<(B)CoPt-WO3面内磁化膜の下部磁性層(Co:Pt=48.0:52.0)の厚さについての検討(実施例9、10、比較例3)>
実施例9、10、比較例3では、(Co-45Pt)-WO3スパッタリングターゲットを用いて作製したCoPt-WO3面内磁化膜の部位のうち、酸化物含有量が多い下部磁性層の厚さを変化させて実験データを取得した。作製したCoPt-WO3面内磁化膜において、下部磁性層のWO3含有量は30.9vol%であり、上部磁性層のWO3含有量は10.3vol%である。
【0107】
実施例9、10では、下部磁性層の厚さを1nm、3nmとした。比較例3では、下部磁性層の厚さを0nmとした。実施例9、10、比較例3のいずれにおいても、面内磁化膜の厚さ(下部磁性層と上部磁性層を合わせた厚さ)は30nmである。
【0108】
以下、具体的に説明する。
【0109】
まず、Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ60nmとなるように形成した。
【0110】
そして、実施例9、10では、CoPt面内磁化膜の下部磁性層を、所定の厚さとなるようにRu下地膜の上に(Co-45Pt)-30vol%WO3スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法で形成し、形成した下部磁性層の上に、CoPt面内磁化膜の上部磁性層を、(Co-45Pt)-10vol%WO3スパッタリングターゲットを用いて、面内磁化膜の厚さ(下部磁性層と上部磁性層を合わせた厚さ)が30nmとなるように、スパッタリング法により形成した。比較例3では、下部磁性層を設けずに、Ru下地膜の上に、CoPt面内磁化膜を、厚さ30nmとなるように (Co-45Pt)-10vol%WO3スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法で形成した。
【0111】
これらの成膜過程(Ru下地膜ならびに面内磁化膜の下部磁性層および上部磁性層の成膜過程)では、いずれも基板加熱を行っておらず、室温成膜で行った。
【0112】
作製した実施例9、10および比較例3の面内磁化膜のヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。
【0113】
また、以下の(E)に記載した「Ru下地膜およびその直上のCoPt面内磁化膜の膜厚方向断面におけるPt量推移の分析」を行い、Ru下地膜からCoPt面内磁化膜へと移り変わる境界領域における「Pt量の推移を示すグラフの傾きk(1/nm)」を求めた。
【0114】
実施例9、10および比較例3の結果を、次の表2に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
表2からわかるように、実施例9、10の面内磁化膜は、金属Co、金属Pt、および酸化物を含有する厚さが30nmの面内磁化膜であって、金属成分(Co、Pt)の合計に対するPtの含有量が20at%以上55at%以下であり、下地膜から当該面内磁化膜へと移り変わる境界領域におけるPt量推移の傾きが8(1/nm)以上である観点で、本発明の範囲に含まれ、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板加熱をしない室温成膜で実現している。
【0117】
実施例9、10の面内磁化膜は、下地膜から当該面内磁化膜へと移り変わる境界領域におけるPt量推移の傾きが8(1/nm)以上であり、下地膜近傍領域において、CoPt磁性結晶粒の間に存在する金属(Co、Pt)の量がほとんど存在していないということが推定される。このため、CoPt磁性結晶粒の間の磁気的な分離が十分になされていることが推定され、実施例9、10の面内磁化膜は、保磁力Hcが5.39kOeと大きくなったものと考えられる。
【0118】
また、実施例9、10の面内磁化膜は、前記観点とは別の観点、即ち、金属Co、金属Pt、および酸化物を含有する厚さが30nmの面内磁化膜であって、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、金属成分の合計に対して、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、下地膜の上に設けられた下部磁性層と、金属Ptおよび前記酸化物を含有してなり、金属成分の合計に対して、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、下部磁性層の上に設けられた上部磁性層と、を備えており、上部磁性層よりも酸化物含有量の多い下部磁性層の厚さが0.2nm以上8nm以下であり、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板加熱をしない室温成膜で実現しているという観点でも、本発明の範囲に含まれる。
【0119】
一方、金属Co、金属Pt、および酸化物を含有する厚さが30nmの面内磁化膜であって、金属成分(Co、Pt)の合計に対するPtの含有量が51.8at%であるが、当該面内磁化膜の厚さ方向において酸化物含有量が10.3vol%と一定であり、本発明の範囲に含まれない比較例3の面内磁化膜は、保磁力Hcが5.31kOeであり、本発明の範囲に含まれる実施例9、10の面内磁化膜の保磁力Hc(5.39kOe)と比べて劣っている。比較例3の面内磁化膜は、下地膜から当該面内磁化膜へと移り変わる境界領域におけるPt量推移の傾きが8(1/nm)未満であり、その傾きが8(1/nm)以上である実施例9、10の面内磁化膜と比べて小さく、下地膜近傍領域において、CoPt磁性結晶粒の間に存在する金属(Co、Pt)の量が多くなったため、CoPt磁性結晶粒の間の磁気的な分離が不十分となったことが、保磁力Hcが小さくなった原因と考えられる。
【0120】
<(C)CoPt-WO3面内磁化膜多層構造において下部磁性層を設けることの効果についての検討(実施例11、12、比較例4)>
実施例11で形成した面内磁化膜多層構造は、厚さ15nmのCoPt-WO3面内磁化膜((Co-52.0Pt)-30.9vol%WOである下部磁性層の厚さが1nm、(Co-51.8Pt)-10.3vol%WOである上部磁性層の厚さが14nm)の上に、厚さ2nmのRu非磁性中間層を形成し、そのRu非磁性中間層の上に、酸化物含有量が10.3vol%である厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜を積み重ね、さらにその上に、厚さ2nmのRu非磁性中間層および酸化物含有量が10.3vol%である厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜を積み重ね、CoPt-WO3面内磁化膜の合計の厚さが60nmになるまで、厚さ2nmのRu非磁性中間層および酸化物含有量が10.3vol%である厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜を積み重ねることを繰り返し、CoPt-WO3面内磁化膜を4層積み重ねた面内磁化膜多層構造である。
【0121】
実施例12で形成した面内磁化膜多層構造は、厚さ15nmのCoPt-WO3面内磁化膜((Co-52.0Pt)-30.9vol%WOである下部磁性層の厚さが3nm、(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3である上部磁性層の厚さが12nm)の上に、厚さ2nmのRu非磁性中間層を形成し、そのRu非磁性中間層の上に、酸化物含有量が10.3vol%である厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜を積み重ね、さらにその上に、厚さ2nmのRu非磁性中間層および酸化物含有量が10.3vol%である厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜を積み重ね、CoPt-WO3面内磁化膜の合計の厚さが60nmになるまで、厚さ2nmのRu非磁性中間層および酸化物含有量が10.3vol%である厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜を積み重ねることを繰り返し、CoPt-WO3面内磁化膜を4層積み重ねた面内磁化膜多層構造である。
【0122】
比較例4で形成した面内磁化膜多層構造は、厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜の上に、厚さ2nmのRu非磁性中間層を形成し、そのRu非磁性中間層の上に、酸化物含有量が10.3vol%である厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜を積み重ね、さらにその上に、厚さ2nmのRu非磁性中間層および酸化物含有量が10.3vol%である厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜を積み重ね、CoPt-WO3面内磁化膜の合計の厚さが60nmになるまで、厚さ2nmのRu非磁性中間層および酸化物含有量が10.3vol%である厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜を積み重ねることを繰り返し、CoPt-WO3面内磁化膜を4層積み重ねた面内磁化膜多層構造である。このように、比較例4では、実施例11、12とは異なり、Ru下地膜の上に設ける1層目のCoPt-WO3面内磁化膜において、最初に酸化物含有量の多い下部磁性層を形成させた後に、酸化物含有量の少ない上部磁性層を形成させることはしていない。
【0123】
以下、具体的に説明する。
【0124】
まず、Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ60nmとなるように形成した。
【0125】
そして、実施例11では、形成したRu下地膜の上に、厚さ1nmとなるように(Co-52.0Pt)-30.9vol%WO3面内磁化膜(下部磁性層)をスパッタリング法により形成し、その上に、厚さ14nmとなるように(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜(上部磁性層)をスパッタリング法により形成し、形成した厚さ15nmのCoPt-WO3面内磁化膜の上にスパッタリング法(Ru100at%のスパッタリングターゲットを使用)によりRu非磁性中間層を厚さ2nmとなるように形成し、形成した厚さ2nmのRu非磁性中間層の上にスパッタリング法により厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜をスパッタリング法により形成し、さらにその上に、厚さ2nmのRu非磁性中間層および酸化物含有量が10.3vol%である厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜をスパッタリング法により積み重ね、CoPt-WO3面内磁化膜の合計の厚さが60nmになるまで、厚さ2nmのRu非磁性中間層および酸化物含有量が10.3vol%である厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜をスパッタリング法により積み重ねることを繰り返し、CoPt-WO3面内磁化膜を4層積み重ねた面内磁化膜多層構造を形成した。
【0126】
実施例12では、形成したRu下地膜の上に、厚さ3nmとなるように(Co-52.0Pt)-30.9vol%WO3面内磁化膜(下部磁性層)をスパッタリング法により形成し、その上に、厚さ12nmとなるように(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜(上部磁性層)をスパッタリング法により形成し、形成した厚さ15nmのCoPt-WO3面内磁化膜の上にスパッタリング法(Ru100at%のスパッタリングターゲットを使用)によりRu非磁性中間層を厚さ2nmとなるように形成し、形成した厚さ2nmのRu非磁性中間層の上にスパッタリング法により厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜をスパッタリング法により形成し、さらにその上に、厚さ2nmのRu非磁性中間層および酸化物含有量が10.3vol%である厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜をスパッタリング法により積み重ね、CoPt-WO3面内磁化膜の合計の厚さが60nmになるまで、厚さ2nmのRu非磁性中間層および酸化物含有量が10.3vol%である厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜をスパッタリング法により積み重ねることを繰り返し、CoPt-WO3面内磁化膜を4層積み重ねた面内磁化膜多層構造を形成した。
【0127】
比較例4では、形成したRu下地膜の上に、厚さ15nmとなるように(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜をスパッタリング法により形成し、その上にスパッタリング法(Ru100at%のスパッタリングターゲットを使用)によりRu非磁性中間層を厚さ2nmとなるように形成し、形成した厚さ2nmのRu非磁性中間層の上にスパッタリング法により厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜をスパッタリング法により形成し、さらにその上に、厚さ2nmのRu非磁性中間層および酸化物含有量が10.3vol%である厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜をスパッタリング法により積み重ね、CoPt-WO3面内磁化膜の合計の厚さが60nmになるまで、厚さ2nmのRu非磁性中間層および酸化物含有量が10.3vol%である厚さ15nmの(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜をスパッタリング法により積み重ねることを繰り返し、CoPt-WO3面内磁化膜を4層積み重ねた面内磁化膜多層構造を形成した。このように、比較例4では、実施例11、12とは異なり、Ru下地膜の上に設ける1層目のCoPt-WO3面内磁化膜において、最初に酸化物含有量の多い下部磁性層を形成させた後に、酸化物含有量の少ない上部磁性層を形成させることはしておらず、積み重ねた4層の面内磁化膜は、いずれも(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3面内磁化膜である。
【0128】
実施例11、12および比較例4の成膜過程(Ru下地膜、CoPt面内磁化膜およびRu非磁性中間層の成膜過程)では、いずれも基板加熱を行っておらず、室温成膜で行った。
【0129】
作製した実施例11、12および比較例4のCoPt面内磁化膜多層構造のヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、形成したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。
【0130】
また、以下の(E)に記載した「Ru下地膜およびその直上のCoPt面内磁化膜の膜厚方向断面におけるPt量推移の分析」を行い、Ru下地膜からCoPt面内磁化膜へと移り変わる境界領域における「Pt量の推移を示すグラフの傾きk(1/nm)」を求めた。
【0131】
実施例11、12および比較例4の結果を、次の表3に示す。
【0132】
【表3】
【0133】
表3からわかるように、Ru下地膜の上に設ける1層目のCoPt-WO3面内磁化膜において、最初に酸化物含有量の多い下部磁性層(Co-52.0Pt)-30.9vol%WO3を形成させた後に、酸化物含有量の少ない上部磁性層(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3を形成させている実施例11、12の面内磁化膜多層構造は、1層目のCoPt-WO3面内磁化膜において酸化物含有量が厚さ方向に一定である比較例4で形成した面内磁化膜多層構造よりも、保磁力Hcが2%程度大きくなっている。
【0134】
実施例11、12の面内磁化膜多層構造は、1層目のCoPt-WO3面内磁化膜において、最初に酸化物含有量の多い下部磁性層(Co-52.0Pt)-30.9vol%WO3を形成させた後に、酸化物含有量の少ない上部磁性層(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3を形成させているので、下地膜から面内磁化膜へと移り変わる境界領域におけるPt量推移の傾きが8(1/nm)以上であり、下地膜近傍領域において、CoPt磁性結晶粒の間に存在する金属(Co、Pt)の量が少なくなっており、CoPt磁性結晶粒の間の磁気的な分離が十分になされており、このため、保磁力Hcが大きくなったと考えられる。
【0135】
一方、1層目のCoPt-WO3面内磁化膜においても酸化物含有量が厚さ方向に一定である比較例4は、下地膜から面内磁化膜へと移り変わる境界領域におけるPt量推移の傾きが8(1/nm)未満の7.54(1/nm)であり、その傾きが8以上である実施例11、12の面内磁化膜と比べて小さく、下地膜近傍領域において、CoPt磁性結晶粒の間に存在する金属(Co、Pt)の量が多くなっており、CoPt磁性結晶粒の間の磁気的な分離が不十分となったため、比較例4の保磁力Hcが実施例11、12の保磁力Hcと比べて小さくなったと考えられる。
【0136】
<(D)面内磁化膜の組成分析(参考例1~8)>
参考例1~8の面内磁化膜の組成分析を行って、作製したCoPt-WO3面内磁化膜の実際の組成(組成分析によって得られた組成)と、当該CoPt-WO3面内磁化膜の作製に用いたスパッタリングターゲットの組成との間のずれの程度を確認した。以下、参考例6の面内磁化膜に対して行った組成分析の手法の手順について概要を説明した後、各手順の内容を具体的に説明する。
【0137】
[手順の概要]面内磁化膜の厚さ方向に組成分析のための線分析を行い、面内磁化膜の厚さ方向断面の線分析実施箇所から、組成の変動の少ない箇所を選び出す(手順1~4)。そして、その組成の変動の少ない箇所に含まれる任意の測定点を含むように、組成分析を行う面内磁化膜の面内方向に左右に補助線を引き、その補助線上100nmの直線領域について、組成分析のための線分析を行う(手順5)。そして、検出された元素ごとに、167点の測定点についての検出強度の平均値を算出して、面内磁化膜の組成を決定する(手順6)。以下、手順1~6の内容を具体的に説明する。
【0138】
[手順1]組成分析の対象となる面内磁化膜を面内方向と直交する方向(面内磁化膜の厚さ方向)に、平行な2面で切断するとともに、得られた2つの平行な切断面の間の距離が30nm程度となるまで、FIB法(μ-サンプリング法)により薄片化処理を行う。この薄片化処理を行った後の薄片化サンプル60の形状を、図7に模式的に示す。図7に示すように、薄片化サンプル60の形状は概ね直方体形状である。前記2つの平行な切断面の間の距離が30nm程度であり、直方体形状の薄片化サンプル60の面内方向の1辺の長さは30nm程度であるが、他の2辺の長さは、走査透過電子顕微鏡による観察が可能であれば、適宜に定めてよい。
【0139】
[手順2]手順1で得られた薄片化サンプル60の切断面(面内磁化膜の厚さ方向の切断面)を、100nmの長さを2cmまで拡大観察可能な(20万倍まで拡大観察可能な)走査透過電子顕微鏡を用いて撮像し、観察像を取得する。得られる観察像は長方形であるが、観察対象の面内磁化膜の最上面と切断面(面内磁化膜の厚さ方向の切断面)とが交わる部位の線が、長方形の観察像の長手方向になるように撮像する。得られた観察像の一例(参考例6の観察像)を図8に示す。面内磁化膜の観察像の取得においては、株式会社日立ハイテクノロジーズ製H-9500を用いた。
【0140】
[手順3]手順2で得られた観察像から、面内磁化膜に含まれる任意の点を選び(図8において黒丸62で示す)、その点から、観察像の長手方向に左右10nmの位置に点をそれぞれ付す(図8において白丸64で示す)。そして、黒丸62の点を通るように面内磁化膜の厚さ方向に、元素分析のための線分析を行うとともに、白丸64の点を通るように面内磁化膜の厚さ方向に、元素分析のための線分析を行って、3つの直線(黒丸62の点を通る厚さ方向の1つの直線および白丸64の点を通る厚さ方向の2つの直線)について、面内磁化膜の厚さ方向に元素分析のための線分析(上から下に向かう方向に走査)を行う。この元素分析のための線分析を行うに際し、前記3直線の線分析の走査範囲を、原則として面内磁化膜の厚さ方向の全範囲(組成分析の対象が面内磁化膜多層構造の場合は、最上層の面内磁化膜から最下層の面内磁化膜までの全範囲)とすることができるように、1つの黒丸62の点および2つの白丸64の点を選び出すことが必要である。
【0141】
面内磁化膜の組成分析においては、元素分析手法としてエネルギー分散型X線分析法(EDX)を採用し、元素分析装置として日本電子株式会社製JEM-ARM200Fを用いた。そして、具体的な分析条件を次のようにした。即ち、X線検出器をSiドリフト検出器とし、X線取出角を21.9°とし、立体角を約0.98srとし、各元素に応じ一般的に適切な分光結晶を用い、測定時間1秒/点とし、走査点間隔を0.6nmとし、照射ビーム径を約0.2nmφとした。以下、本段落に記載の条件を、「手順3の分析条件」と記すことがある。
【0142】
図8(参考例6の観察像)中の黒線(黒丸62の点を通る面内磁化膜の厚さ方向の線)に沿って行った線分析(元素分析)の結果を図9に示す。図9において、縦軸は各元素についての検出強度、横軸は走査位置である。図9内の凡例に示す各元素は、十分な検出強度を確認できた元素であり、この参考例6の場合、十分な検出強度を確認できた元素は、Co、Pt、W、O、Ruであった。また、この参考例6の組成分析においては、Co、Oの検出にはKα1線を選択し、Pt、Ru、Wの検出にはLα1線を選択した。また、各検出強度においては、事前に測定したブランク測定における検出強度を差し引く補正を施した。図8の線分析の最終端(最下端)は、Si基板である。この箇所は理論上Siおよび表面酸化によるO以外は検出されない。そのため、この箇所で検出されたSi、O以外の検出値は当該装置における不可避な検出誤差値と考えられるので、この値より検出強度が大きな値を示した場合にのみ、当該元素の存在を示すものとした。
【0143】
参考例6は組成が(Co-45Pt)-30vol%WO3であるスパッタリングターゲットを用いて、組成が(Co-52.0Pt)-30.9vol%WO3である下部磁性層を1nm設け、その直上に、組成が(Co-45Pt)-10vol%WO3であるスパッタリングターゲットを用いて、組成が(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3である上部磁性層を29nm設ける成膜を行った。また最上層には面内磁化膜の酸化防止を目的としてTa層を10nm設け、この層の成膜には100at%Taのスパッタリングターゲットを用いた。
【0144】
図9に示す線分析の結果からわかるように、面内磁化膜においては主にCo、Pt、W、Oが確認され、下地膜においては主にRu、酸化防止層には主にTaが確認された。面内磁化膜と接する各層の界面には、成膜中におけるスパッタ熱によって、上下に隣り合う各層の元素がお互いに拡散している状態が一部に確認されるが、面内磁化膜の各主要元素の分布をみる限り、おおよそ設計した通りの成膜が行われていることを確認することができた。
【0145】
[手順4]手順3で行った線分析(面内磁化膜の厚さ方向に元素分析のために行った線分析)の結果から、組成の変動の少ない測定点の集合箇所を選び出す。組成の変動の少ない測定点の集合箇所は、次の条件a~cを満たす測定点の集合箇所のことである。
【0146】
条件a)手順3で行った3つの直線の線分析のうちのいずれかについての測定点であって、CoおよびPtの検出強度の合計が300カウントを超える測定点であること。
【0147】
条件b)当該測定点でのCoおよびPtの検出強度の合計をXカウント、当該測定点での測定を行った後の次の測定点(当該測定点から0.6nm下方に離れて隣り合う測定点)でのCoおよびPtの検出強度の合計をYカウントとしたとき、
Y/X-1<0.05
を満たすこと。
【0148】
条件c)条件aおよびbを満たす5点以上の連続する測定点であること。
【0149】
条件a~cを満たす測定点の集合箇所は、5点以上の連続する測定点であるので、0.6nm×4=2.4nm以上の直線領域となる。したがって、条件a~cを満たす測定点の集合箇所は、2.4nm以上の範囲で、安定してCoおよびPtのうちの少なくともいずれか一方が検出される直線領域である。
【0150】
[手順5]手順4で選び出した測定点の集合から任意の1つの測定点を選択して、面内磁化膜の組成分析のための基準点とする(図8において二重白丸66で示す)。そして、その基準点を含むように、組成分析を行う面内磁化膜の面内方向(図8の観察像の長手方向)に左右に補助線(図8において黒破線68)を引き、その補助線上の100nmの直線領域(図8において白破線70で示す。)について、手順3の分析条件と同様の分析条件で、組成分析を行う。組成分析の対象部位となる白破線70は、先に行った厚さ方向の線分析によって生じたコンタミネーションを避ける観点から、厚さ方向の線分析の箇所(図8において白線64Aに対し10nm以上離れた距離(図8において両端に矢印を付した白線72で示す。)となるように設定した。この組成分析では、100nmの直線領域について、線分析を、走査点間隔0.6nmで行うので、合計で167点の測定点における分析結果が得られる。
【0151】
[手順6]検出された元素ごとに、167点の測定点についての検出強度(カウント数)の平均値を算出する。検出された各元素の検出強度(カウント数)の平均値の比が、当該面内磁化膜の各元素の組成比となる。
【0152】
なお、EDXにおける分析においては、酸素(O)等の軽元素の蛍光X線が、白金(Pt)等の重元素の蛍光X線に吸収されることは避けられないが、本発明に係る面内磁化膜においては、酸素(O)等の軽元素と白金(Pt)等の重元素とが混在する。このため、酸素(O)に関しては、酸化物として存在する金属(参考例6ではW)が全て適切に酸化した状態(参考例6ではWO3)になっているものとして、当該面内磁化膜の組成を決定した。
【0153】
参考例1~8の面内磁化膜の作製に用いたスパッタリングターゲットの組成と、参考例1~8の面内磁化膜についての組成分析の結果を、次の表4に示す。
【0154】
【表4】
【0155】
表4に示すように、スパッタリングターゲットの組成と、当該スパッタリングターゲットを用いて作製した面内磁化膜の組成との間にずれが生じるので、このずれを補正して、前記(A)~(C)で記載した実施例および比較例におけるCoPt-WO3面内磁化膜の組成を決定している。
【0156】
なお、図8において、符号62、64、64A、66、68、70、72で示す丸印や直線等は、組成分析の方法を説明するために便宜的に付したものであり、実際に測定を行った箇所と対応しているわけではない。
【0157】
<(E)Ru下地膜およびその直上のCoPt面内磁化膜の膜厚方向断面におけるPt量推移の分析(実施例2、6、9~12、比較例1、3、4)>
実施例2、6、9~12、比較例1、3、4において、Ru下地膜およびその直上のCoPt面内磁化膜の膜厚方向断面におけるPt量推移の分析を行った。以下、行った分析の手法の手順について概要を説明した後、各手順の内容を具体的に説明する。ここでは実施例9における分析結果に基づいて説明する。
【0158】
[手順の概要]面内磁化膜の厚さ方向に組成分析のための線分析を行い、面内磁化膜の厚さ方向断面の線分析実施箇所から、組成の変動の少ない箇所を選び出す(手順1~4)。そして、その組成の変動の少ない箇所に含まれる任意の測定点を含むように、面内磁化膜の面内方向に左右に補助線を引く。そして、その補助線およびRu下地膜中のPt量が0となる部位を含む正方形領域(縦100nm×横100nm)を設定する(手順5)。設定した正方形領域(縦100nm×横100nm)について、Ptについての元素マッピングを行う(手順6)。そして、Ptについての元素マッピングの結果から、縦方向(膜厚方向)1nmあたりの平均のPt量を算出して、Ru下地膜からCoPt面内磁化膜までのPt量の推移をグラフ化(縦軸:規格化されたPt検出量、横軸:縦方向(膜厚方向)の距離)する(手順7)。手順7で得たグラフから、Ru下地膜からCoPt面内磁化膜へと移り変わる境界領域のPt量推移の傾きk(1/nm)を算出する(手順8)。
【0159】
Ru下地膜とCoPt面内磁化膜との境界領域であるRu下地膜表面の凹凸部においてPt量が少ない(Ru下地膜表面の凹部内におけるPtの存在量が少ない)と、縦方向(膜厚方向)に1nmごとに検出したPt量は、Ru下地膜からCoPt面内磁化膜へと移り変わる境界領域において、急激に大きくなる(Pt量の推移を示すグラフの傾きkが大きくなる)。換言すれば、Ru下地膜からCoPt面内磁化膜へと移り変わる境界領域において、Pt量の推移を示すグラフの傾きk(1/nm)が大きいということは、Ru下地膜表面の凹部内におけるPtの存在量が少ないということであり、Ru下地膜上に形成されたCoPt面内磁化膜内のCoPt合金磁性結晶粒同士の間の磁気的な相互作用が弱いということであり、当該CoPt面内磁化膜の保磁力Hcが大きくなる方向に作用する。
【0160】
以下、手順1~8の内容を具体的に説明する。
【0161】
[手順1]組成分析の対象となる面内磁化膜を面内方向と直交する方向(面内磁化膜の厚さ方向)に、平行な2面で切断するとともに、得られた2つの平行な切断面の間の距離が30nm程度となるまで、FIB法(μ-サンプリング法)により薄片化処理を行う。この薄片化処理を行った後の薄片化サンプル80の形状を、図10に模式的に示す。図10に示すように、薄片化サンプル80の形状は概ね直方体形状である。前記2つの平行な切断面の間の距離が30nm程度であり、直方体形状の薄片化サンプル80の面内方向の1辺の長さは30nm程度であるが、他の2辺の長さは、走査透過電子顕微鏡による観察が可能であれば、適宜に定めてよい。
【0162】
[手順2]手順1で得られた薄片化サンプル80の切断面(面内磁化膜の厚さ方向の切断面)を、100nmの長さを2cmまで拡大観察可能な(20万倍まで拡大観察可能な)走査透過電子顕微鏡を用いて撮像し、観察像を取得する。得られる観察像は長方形であるが、観察対象の面内磁化膜の最上面と切断面(面内磁化膜の厚さ方向の切断面)とが交わる部位の線が、長方形の観察像の長手方向になるように撮像する。得られた観察像の一例(実施例9の観察像)を図11に示す。面内磁化膜の観察像の取得においては、株式会社日立ハイテクノロジーズ製H-9500を用いた。
【0163】
[手順3]手順2で得られた観察像から、面内磁化膜に含まれる任意の点を選び(図11において黒丸82で示す)、その点から、観察像の長手方向に左右10nmの位置に点をそれぞれ付す(図11において白丸84で示す)。そして、黒丸82の点を通るように面内磁化膜の厚さ方向に、元素分析のための線分析を行うとともに、白丸84の点を通るように面内磁化膜の厚さ方向に、元素分析のための線分析を行って、3つの直線(黒丸82の点を通る厚さ方向の1つの直線および白丸84の点を通る厚さ方向の2つの直線)について、面内磁化膜の厚さ方向に元素分析のための線分析(上から下に向かう方向に走査)を行う。この元素分析のための線分析を行うに際し、前記3直線の線分析の走査範囲を、原則として面内磁化膜の厚さ方向の全範囲(組成分析の対象が面内磁化膜多層構造の場合は、最上層の面内磁化膜から最下層の面内磁化膜までの全範囲)とすることができるように、1つの黒丸82の点および2つの白丸84の点を選び出すことが必要である。
【0164】
面内磁化膜の組成分析においては、元素分析手法としてエネルギー分散型X線分析法(EDX)を採用し、元素分析装置として日本電子株式会社製JEM-ARM200Fを用いた。そして、具体的な分析条件を次のようにした。即ち、X線検出器をSiドリフト検出器とし、X線取出角を21.9°とし、立体角を約0.98srとし、各元素に応じ一般的に適切な分光結晶を用い、測定時間1秒/点とし、走査点間隔を0.6nmとし、照射ビーム径を約0.2nmφとした。以下、本段落に記載の条件を、「手順3の分析条件」と記すことがある。
【0165】
図11(実施例9の観察像)中の黒線(黒丸82の点を通る面内磁化膜の厚さ方向の線)に沿って行った線分析(元素分析)の結果を図12に示す。図12において、縦軸は各元素についての検出強度、横軸は走査位置である。図12内の凡例に示す各元素は、十分な検出強度を確認できた元素であり、この実施例9の場合、十分な検出強度を確認できた元素は、Co、Pt、W、O、Ruであった。また、この実施例9の組成分析においては、Co、Oの検出にはKα1線を選択し、Pt、Ru、Wの検出にはLα1線を選択した。また、各検出強度においては、事前に測定したブランク測定における検出強度を差し引く補正を施した。図11の線分析の最終端(最下端)は、Si基板である。この箇所は理論上Siおよび表面酸化によるO以外は検出されない。そのため、この箇所で検出されたSi、O以外の検出値は当該装置における不可避な検出誤差値と考えられるので、この値より検出強度が大きな値を示した場合にのみ、当該元素の存在を示すものとした。
【0166】
実施例9では、組成が(Co-45Pt)-30vol%WO3であるスパッタリングターゲットを用いて、組成が(Co-52.0Pt)-30.9vol%WO3である下部磁性層を1nm設け、その直上に、組成が(Co-45Pt)-10vol%WO3であるスパッタリングターゲットを用いて、組成が(Co-51.8Pt)-10.3vol%WO3である上部磁性層を29nm設ける成膜を行った。また、最上層には、面内磁化膜の酸化防止を目的としてTa層を10nm設けた。このTa層の成膜には、100at%Taのスパッタリングターゲットを用いた。
【0167】
図12に示す線分析の結果からわかるように、面内磁化膜においては主にCo、Pt、W、Oが確認された。面内磁化膜の各主要元素の分布をみる限り、おおよそ設計した通りの成膜が行われていることが確認できた。
【0168】
[手順4]手順3で行った線分析(面内磁化膜の厚さ方向に元素分析のために行った線分析)の結果から、組成の変動の少ない測定点の集合箇所を選び出す。組成の変動の少ない測定点の集合箇所は、次の条件a~cを満たす測定点の集合箇所のことである。
【0169】
条件a)手順3で行った3つの直線の線分析のうちのいずれかについての測定点であって、CoおよびPtの検出強度の合計が300カウントを超える測定点であること。
【0170】
条件b)当該測定点でのCoおよびPtの検出強度の合計をXカウント、当該測定点での測定を行った後の次の測定点(当該測定点から0.6nm下方に離れて隣り合う測定点)でのCoおよびPtの検出強度の合計をYカウントとしたとき、
Y/X-1<0.05
を満たすこと。
【0171】
条件c)条件aおよびbを満たす5点以上の連続する測定点であること。
【0172】
条件a~cを満たす測定点の集合箇所は、5点以上の連続する測定点であるので、0.6nm×4=2.4nm以上の直線領域となる。したがって、条件a~cを満たす測定点の集合箇所は、2.4nm以上の範囲で、安定してCoおよびPtのうちの少なくともいずれか一方が検出される直線領域である。
【0173】
また、以上の測定により、膜厚方向の断面である図11におけるCoPt面内磁化膜の位置を特定することができ、同時にCoPt面内磁化膜の下地膜はRuが主要元素である下地膜であることも確認することができる。
【0174】
[手順5]図11において、Ptについての元素マッピングを行う領域として、縦100nm×横100nmの正方形領域200を定める。
【0175】
正方形領域200の横方向の位置は、縦方向に線分析を行った白線84Aおよび前記(D)で組成分析を行った箇所のどちらからも10nm以上離れた範囲を選定する。図11における両端矢印白線90は、正方形領域200と白線84Aとの間の距離を示しており、この距離は10nm以上とすることが必要である。
【0176】
正方形領域200の縦方向の位置は、手順4で選び出した「組成の変動の少ない測定点の集合箇所」内の任意の点である二重白丸86を通る面内方向の補助線(図11において黒破線88で示す。)を含み、かつ、Ru下地膜においてPtが検出されない部位(以下、Pt量0部位と記すことがある。)を含むように選定する。
【0177】
Pt量0部位は、手順4における線分析の結果を用いて確定することができ、具体的には、「Ru下地膜内の部位のPt検出量」を「CoPt面内磁化膜内におけるPt検出量の最大値」で除した値が0.01未満となる「Ru下地膜内の部位」のことである。
【0178】
[手順6]取り込み画素数を256×256とし、測定時間1秒/点とし、走査点間隔を1nmとすること以外は、「手順3の分析条件」と同様の条件で、手順5で定めた正方形領域200に対してPtの検出を行い、Ptについての元素マッピングを行う。正方形領域200に対して行った「Ptについての元素マッピング」の結果を示す画像を、図13に示す。
【0179】
[手順7]手順6で得た「Ptについての元素マッピング」の結果から、縦方向(膜厚方向)1nmあたりの平均のPt量を算出し、Ru下地膜からCoPt面内磁化膜までのPt量の推移を示すグラフを取得する。
【0180】
具体的には、縦方向(膜厚方向)1nmあたりの平均のPt量は、当該縦方向(膜厚方向)1nmに対する、横方向(面内方向)のPt検出量の平均値とする。縦方向(膜厚方向)1nmあたりの平均のPt量の算出において用いる横方向(面内方向)の領域の長さは100nm以上とする。得られた縦方向(膜厚方向)1nmあたりの平均のPt量を、「CoPt面内磁化膜内におけるPt検出量の最大値」で除して規格化する(このようにして規格化されたPt量を、以下、「規格化されたPt量」と記す。)。図14は、実施例9についての膜厚方向のPt量の推移を示すグラフ(縦軸:規格化されたPt量、横軸:走査位置)である。図14中の矢印で示す走査位置Xは、実施例9の面内磁化膜の膜厚方向断面を示す図15において、Ru下地膜中のPt量0部位である白破線92の位置Yに対応する。
【0181】
[手順8]図14において、「規格化されたPt量」が2%であるときを、Pt検出の下限界と考え、「規格化されたPt量」が2%を超えた最初のプロットの位置P(2%)に対応する走査位置(nm)から「規格化されたPt量」が80%を超えた最初のプロットの位置P(80%)に対応する走査位置(nm)までの間にある「規格化されたPt量」についてのデータを最小二乗法により直線近似して、Pt量の推移を示すグラフの傾きk(1/nm)を得る。
【0182】
Ru下地膜とCoPt面内磁化膜との境界領域であるRu下地膜表面の凹凸部においてPt量が少ない(Ru下地膜表面の凹部内におけるPtの存在量が少ない)と、「規格化されたPt量」は、Ru下地膜からCoPt面内磁化膜へと移り変わる境界領域において、急激に大きくなる(Pt量の推移を示すグラフの傾きk(1/nm)が大きくなる)。Ru下地膜の凸部にはCoPt合金磁性結晶粒が堆積しており、Ru下地膜の凸部の先端よりも上方の領域には多量のPtが存在しているからである。
【0183】
Ru下地膜からCoPt面内磁化膜へと移り変わる境界領域において、Pt量の推移を示すグラフの傾きk(1/nm)が大きいということは、Ru下地膜表面の凹部内におけるPtの存在量が少ないということであり、Ru下地膜上に形成されたCoPt面内磁化膜内のCoPt合金磁性結晶粒同士の間の磁気的な結合が弱いということであり、当該CoPt面内磁化膜の保磁力Hcが大きくなる方向に作用する。
【0184】
なお、図11において、符号82、84、84A、86、88、90、200で示す丸印や直線等は、組成分析の方法を説明するために便宜的に付したものであり、実際に測定を行った箇所と対応しているわけではない。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明に係る面内磁化膜、面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、および磁気抵抗効果素子は、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、加熱成膜を行わずに実現することができ、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0186】
10…面内磁化膜
10A…下部磁性層
10B…上部磁性層
12、26…磁気抵抗効果素子
14、28…ハードバイアス層
16…フリー磁性層
20…面内磁化膜多層構造
22…非磁性中間層
24…追加面内磁化膜
40…下地膜
40A、42A…凸部
40B、42B…凹部
42…Ru下地膜
44…スパッタ粒子
46…CoPt合金相
48…酸化物(WO3)相
50…絶縁層
52…ピン層
54…バリア層
60…薄片化サンプル
62…黒丸(面内磁化膜に含まれる任意の点)
64…白丸(黒丸62から観察像の長手方向に左右10nmの位置の点)
64A…白線
66…二重白丸(面内磁化膜の組成分析のための基準点)
68…黒破線(二重白丸66(基準点)から観察像の長手方向に引いた補助線)
70…白破線(黒破線68(補助線)上の100nmの直線領域)
72…両端に矢印を付した白線(白線64Aに対し10nm以上離れた距離を示す)
80…薄片化サンプル
82…黒丸(面内磁化膜に含まれる任意の点)
84…白丸(黒丸82から観察像の長手方向に左右10nmの位置の点)
84A…白線
86…二重白丸(面内磁化膜の組成分析のための基準点)
88…黒破線(二重白丸86(基準点)から観察像の長手方向に引いた補助線)
90…両端矢印白線
92…白破線
200…正方形領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15