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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】マグネトロンスパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/35 20060101AFI20240219BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20240219BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
C23C14/35 C
H01L21/285 S
H05H1/46 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020098128
(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公開番号】P2021188113
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(73)【特許権者】
【識別番号】515315440
【氏名又は名称】アルバック コリア リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ULVAC KOREA,LTD.
【住所又は居所原語表記】5,Hansan-Gil,Cheongbuk-Myeon,Pyeongtaek-Si,Gyeonggi-Do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】クォン スンオプ
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 照明
(72)【発明者】
【氏名】シム チャンミン
(72)【発明者】
【氏名】ウォン ヨンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ビョンファ
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/073449(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0199926(US,A1)
【文献】国際公開第2016/136255(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0004995(US,A1)
【文献】国際公開第2011/007831(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0103801(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0298303(US,A1)
【文献】特表2005-503648(JP,A)
【文献】特表2003-525519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/35
H01L 21/285
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、真空チャンバ内で被処理基板を保持するステージと、ステージに対向させて真空チャンバに取り付けられるターゲットと、ステージに背向するターゲットの裏面側に配置されて被処理基板とターゲットとの間の空間に漏洩磁場を発生させる磁石ユニットとを備え、真空チャンバ内に発生させたプラズマを利用してステージで保持された被処理基板の処理面に成膜するマグネトロンスパッタリング装置であって、
処理面に直交する軸線方向をZ軸方向、被処理基板の処理面側を上として、真空チャンバの側壁に設けられて処理面を通るZ軸方向に沿う垂直磁場を発生させる磁場発生ユニットを備えるものにおいて、
磁場発生ユニットに、垂直磁場をZ軸に対して所定範囲内の角度で傾ける傾動手段が備えられることを特徴とするマグネトロンスパッタリング装置
【請求項2】
前記磁場発生ユニットが、Z軸方向にのびる前記真空チャンバの側壁に外挿されるリング状のヨークに導線を巻回してなるコイルとこのコイルに通電する電源とを備え、前記傾動手段が、ヨークの部分を上方向または下方向に移動させてZ軸方向に対してコイルを全体として傾ける少なくとも1個の駆動部を備えることを特徴とする請求項1記載のマグネトロンスパッタリング装置
【請求項3】
前記磁場発生ユニットが、Z軸方向にのびる前記真空チャンバの側壁に、Z軸方向に直交する同一平面内に位置させると共に周方向に間隔を存して複数個の電磁石を配置してなる電磁石群を上下方向に所定間隔で複数段設けて構成され、
前記傾動手段が、各段の電磁石群の中から夫々選択される電磁石に対して通電可能なコントローラを備えることを特徴とする請求項1記載のマグネトロンスパッタリング装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバと、真空チャンバ内で被処理基板を保持するステージと、ステージに対向させて真空チャンバに取り付けられるターゲットと、ステージに背向するターゲットの裏面側に配置されて被処理基板とターゲットとの間の空間に漏洩磁場を発生させる磁石ユニットとを備え、真空チャンバ内に発生させたプラズマを利用してステージで保持された被処理基板の処理面に成膜するマグネトロンスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体デバイスの製造工程では、真空チャンバ内にプラズマを発生させ、この発生させたプラズマを利用してステージで保持された被処理基板の処理面に所定処理を施す各種のプラズマ処理装置が利用されている。例えば、ビアホールやコンタクトホールの内面(内壁面及び底面)にシード層としてCu膜等の金属膜を成膜する工程においては、金属膜を被処理基板全面に亘って被覆性よく成膜するために、スパッタリング装置が従来から利用されている(例えば、特許文献1参照)。この種のスパッタリング装置は、真空チャンバを備え、真空チャンバ内には、金属製のターゲットのスパッタ面と被処理基板の成膜面とを互いに対向させた姿勢でターゲットと被処理基板とが配置される。
【0003】
また、上記スパッタリング装置は、スパッタ面と成膜面とに夫々直交する軸線方向をZ軸方向、成膜面側を上として、ターゲットのZ軸方向上方に配置されてターゲットを貫通してターゲットと被処理基板との間の空間に漏洩磁場を発生させる磁石ユニットと、成膜面を通るZ軸方向下向きの垂直磁場を発生させる磁場発生ユニットと、成膜中に被処理基板に対してバイアス電力を投入する高周波電源とを備えている。磁場発生ユニットとしては、一般に、真空チャンバの外側壁に固定配置されるリング状のヨークに導線を巻回してなるコイルとこのコイルに通電する電源とで構成したものが利用される。
【0004】
上記スパッタリング装置を用いて金属膜を成膜するのに際しては、真空雰囲気の真空チャンバにアルゴンなどのスパッタガスを導入し、磁石ユニットによって漏洩磁場を作用させた状態で金属製のターゲットに、例えば負の電位を持つ所定電力を投入する。すると、成膜面とスパッタ面との間の空間にプラズマが形成され、プラズマ中で電離したスパッタガスのイオンがターゲットのスパッタ面に衝突してターゲットからスパッタ粒子が飛散される。この飛散したスパッタ粒子は、正電位を持つことで垂直磁場によりその向きが変えられ、被処理基板にバイアス電力が投入されていることと相俟って、成膜面に対して略垂直に入射して付着、堆積して所定の金属膜が成膜される。
【0005】
ここで、金属膜の成膜時、生産性向上のために成膜レートを速くしようとする場合、被処理基板に対して所定のバイアス電力を投入した状態で、コイルへの通電電流を大きくしていくと(即ち、第2の磁場発生ユニットにより発生させる垂直磁場の磁場強度を強くすると)、それに従い、成膜レートが速くなる。一方で、コイルへの通電電流を大きくすると、膜厚分布の面内均一性が低下することが判明した。そこで、本願発明者らは、鋭意研究を重ね、成膜レートを速くするために、磁場発生ユニットによって発生させる垂直磁場の磁場強度を強くすることで、膜厚分布の面内均一性が低下したとき、垂直磁場をZ軸に対して所定範囲内の角度(例えば、-15度~15度以下の範囲内)で傾ければ、膜厚分布の面内均一性が調整できることを見出した。なお、例えば、ドライエッチング装置によりシリコンウエハの一方の面(処理面)に、処理面を通るZ軸方向に沿う垂直磁場を発生させた状態でトレンチやホールを形成する際に、垂直磁場をZ軸に対して傾ける構成は、処理面全面に亘ってエッチング形状を制御することにも期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-1965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑みなされたものであり、処理面を通るZ軸方向の垂直磁場を発生させた状態でプラズマを利用して所定処理を施す際に、垂直磁場をZ軸に対して所定範囲内の角度で傾けることができるプラズマ処理装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために真空チャンバと、真空チャンバ内で被処理基板を保持するステージと、ステージに対向させて真空チャンバに取り付けられるターゲットと、ステージに背向するターゲットの裏面側に配置されて被処理基板とターゲットとの間の空間に漏洩磁場を発生させる磁石ユニットとを備え、真空チャンバ内に発生させたプラズマを利用してステージで保持された被処理基板の処理面に成膜する本発明のマグネトロンスパッタリング装置は、処理面に直交する軸線方向をZ軸方向、被処理基板の処理面側を上として、真空チャンバの側壁に設けられて処理面を通るZ軸方向に沿う垂直磁場を発生させる磁場発生ユニットを備え、磁場発生ユニットに、垂直磁場をZ軸に対して所定範囲内の角度で傾ける傾動手段が備えられることを特徴とする。

【0009】
本発明において、磁場発生ユニットが、Z軸方向にのびる前記真空チャンバの側壁に外挿されるリング状のヨークに導線を巻回してなるコイルとこのコイルに通電する電源とを備えるような場合、前記傾動手段が、ヨークの部分を上方向または下方向に移動させてZ軸方向に対してコイルを全体として傾ける少なくとも1個の駆動部を備える構成を採用すればよい。これにより、コイルの部分を上方または下方に移動させるだけで、垂直磁場をZ軸に対して所定範囲内の角度で傾ける構成が実現できる。このため、プラズマを利用して所定処理を施すプラズマ処理装置が、例えば、マグネトロンスパッタリング装置であり、このマグネトロンスパッタリング装置を用いて被処理基板の成膜面に銅などの金属膜を成膜するような場合に、成膜レートを速くするために、コイルへの通電電流を大きくして磁場発生ユニットによって発生させる垂直磁場の磁場強度を強くすることで、膜厚分布の面内均一性が低下しても、垂直磁場をZ軸に対して所定範囲内の角度(例えば、-15度~15度以下の範囲内)で所定の方位に傾ければ、膜厚分布の面内均一性を調整することができる。その結果、速い成膜レートで膜厚分布の面内均一性よく金属膜を成膜することが可能になる。
【0010】
ところで、上記のように磁場発生ユニットをコイルで構成し、コイルの部分を機械的に上方または下方に移動させる構成では、Z軸に対して垂直磁場を傾けることができる方位や傾斜角度が限られてしまう場合がある。そこで、磁場発生ユニットが、Z軸方向にのびる前記真空チャンバの側壁に、Z軸方向に直交する同一平面内に位置させ、且つ、周方向に間隔を存して複数個の電磁石を配置してなる電磁石群を上下方向に所定間隔で複数段設けて構成され、前記傾動手段は、各段の電磁石群の中から夫々選択される電磁石に対して通電可能なコントローラで構成することができる。これによれば、コントローラにより通電する電磁石を適宜選択するだけで、Z軸に対して垂直磁場を傾けることができる傾斜角度や方位を自在に変更でき、しかも、成膜中に、Z軸に対して傾けた垂直磁場をZ軸回りに回転させるといったことも可能になる。
【0011】
なお、本発明は、被処理基板がその成膜面に全面に亘って高アスペクト比の微細ホールが複数形成されたものである場合に、各微細ホールにカバレッジよく金属膜を成膜するのにも適用することができる。他方、例えば、プラズマ処置装置をドライエッチング装置とし、ドライエッチング装置によりシリコンウエハの処理面に、断面形状の揃ったトレンチやホールを形成する場合にも本発明は適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態のプラズマ処理装置を示す模式的断面図。
図2】本発明の効果を示す実験で成膜されたCu膜の成膜レート及び膜厚分布の面内均一性を示す図。
図3】本発明の第2の実施形態のプラズマ処理装置を示す平面断面図。
図4図3のIV-IV線に沿った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、プラズマ処理装置をマグネトロン方式のスパッタリング装置とし、被処理基板をシリコンウエハ(以下、「基板Sw」という)、ターゲットを所定の純度を持つ銅製のものとして、基板Swの一方の面(以下、「成膜面Sw1」という)にCu膜を成膜するものを例に本実施形態を説明する。以下において、図1に示す姿勢を基準とし、基板Swの成膜面Sw1に直交する軸線方向をZ軸方向、成膜面Sw1に向かう方向を下として説明する。
【0014】
図1を参照して、SMは、第1の実施形態のマグネトロンスパッタリング装置である。スパッタリング装置SMは、成膜室1aを画成する真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1の上部にはカソードユニットCuが取り付けられている。カソードユニットCuは、ターゲットアッセンブリ2と、真空チャンバ1外に位置させてターゲットアッセンブリ2の上方に配置される磁石ユニット3とを備える。ターゲットアッセンブリ2は、公知の方法で円筒状の輪郭を持つ所定の組成比の銅製のターゲット21と、ターゲット21の上面にインジウム等のボンディング材(図示省略)を介して接合されるバッキングプレート22とを備える。なお、ターゲット21は銅製ものに限られるものではなく、チタンやタングステンなどの他の金属製のものや金属化合物製のものを使用することができる。そして、ターゲット21の下面(スパッタ面21a)が成膜室1aを臨むようにして絶縁体Iを介して真空チャンバ1の上部にターゲットアッセンブリ2が着脱自在に取り付けられる。ターゲット21にはまた、電源E1からの出力が接続され、スパッタリング中、ターゲット21に例えば、負の電位を持つ所定電力が投入される。磁石ユニット3としては、ターゲット21の下面(スパッタ面)21aの下方空間に漏洩磁場を発生させ、スパッタリング時にスパッタ面21aの下方で電離した電子等を捕捉してターゲット21から飛散したスパッタ粒子を効率よくイオン化する公知の構造を有するものを用いることができるため、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0015】
真空チャンバ1の下部には、ターゲット21のスパッタ面21aに対向する基板載置面41を持つステージ4が絶縁体Iを介して設けられ、基板Swをその成膜面Sw1を上方に向けて位置決め保持することができる。ステージ4にはまた、電源E2からの出力が接続され、スパッタリング中、ステージ4、ひいては基板Swに所定周波数のバイアス電力が投入されて、正電位を持つスパッタ粒子を基板Swに積極的に引き込むことができる。スパッタ面21aと成膜面Sw1との間の間隔は、例えば300mm~600mmの範囲に設定される。真空チャンバ1の下壁には、排気管5aが接続されている。排気管5aは、ターボ分子ポンプやロータリーポンプ等で構成される真空ポンプユニットPuに連通し、真空チャンバ1内を所定圧力以下に真空引きすることができる。真空チャンバ1の側壁1bには、スパッタガスとしてアルゴンガスを導入するガス管5bが接続されている。ガス管5bは、マスフローコントローラMcを介して図外のガス源に連通し、流量制御されたアルゴンガスを成膜室1a内に導入することができる。なお、電極としてのターゲット21、電源E1,E2やガス管5bなどの各種の構成部品が本実施形態のプラズマ発生手段を構成する。
【0016】
真空チャンバ1の側壁1bには、基板Swの成膜面Sw1を通るZ軸方向下向きの垂直磁場MFを発生させる磁場発生ユニット6が設けられている。磁場発生ユニット6は、真空チャンバ1の側壁1bに隙間を存して外挿されるリング状のヨーク61aに導線61bを巻回してなるコイル61と、導線61bの自由端が接続されてコイル61への通電を可能とする電源62とを備える。真空チャンバ1の側壁1bに対するコイル61の位置や導線61bの巻数は、例えばターゲット21のスパッタ面21aの面積、ターゲット21と基板Swとの間の距離や、発生させようとする垂直磁場MFの磁場強度に応じて適宜設定される。また、ヨーク61aには、その一部を上方向または下方向に移動させてZ軸方向に対してコイル61を全体として傾ける傾動手段7が連結されている。
【0017】
傾動手段7は、駆動部としてのモータ71を有する送りねじ72と送りねじ72に螺合するスライダ73とを備え、スライダ73がヒンジ74を介してヨーク61aの所定位置に連結されている。本実施形態では、4個の傾動手段7が周方向に90度間隔で設けられている。これにより、例えば、いずれか1個の傾動手段7のスライダ73をZ軸方向上方(または下方)に移動させれば、コイル61が全体としてZ軸方向に対して傾き、これに応じて、コイル61によって発生する垂直磁場MFが、仮想線で示す磁場MFのように、Z軸に対して傾斜角度θ(例えば、-15度~15度以下の範囲内)で傾く(図1参照)。この場合、各傾動手段7のスライダ73をZ軸方向上方または下方への移動量を適宜調整すれば、垂直磁場MFを傾ける傾斜角度や方位を適宜調整することができる。なお、本実施形態では、傾動手段7の駆動部として送りねじ72を備えるものを例に説明するが、これに限定されるものではなく、単軸ロボットなどの他のアクチュエータを利用してコイル61を全体として傾けるようにしてもよい。スパッタリング装置SMはまた、マイクロコンピュータやシーケンサ等を備えた公知の制御コントローラCrを有し、制御コントローラCrにより上記各電源E1,E2,62の作動、マスフローコントローラMcの作動、真空排気手段Puの作動やモータ71の作動等を統括管理するようになっている。以下、上記スパッタリング装置SMを用いた成膜方法について、基板SwにCu膜を成膜する場合を例に説明する。
【0018】
真空チャンバ1内でステージ4の基板載置面41にその成膜面Sw1を上側に向けた姿勢で基板Swをセットし、真空排気手段Puにより真空チャンバ1内を所定圧力(例えば、10-5Pa)まで真空排気する。真空チャンバ1内が所定圧力に達すると、電源62によりコイル61に所定の電流値で通電し、基板Swの成膜面Sw1を通るZ軸方向下向きの垂直磁場MFを発生させる。このとき、予め実験的に求めたコイル61への電流値とそのときの基板Sw面内の膜厚分布との相関から、いずれかの傾動手段7のモータ71によりスライダ73をZ軸方向上方(または下方)に移動させ、コイル61を全体としてZ軸方向に対して所定の角度で傾ける(例えば、基板Sw内で膜厚が局所的に厚く(または薄く)なる領域と同方位となるコイル61の部分を起点にし、このコイル61の部分が上方または下方に移動されるようにスライド73を移動する傾動手段7と、その移動量とを選択すればよい)。これにより、Z軸に対して傾斜角度θ(例えば、-15度~15度以下の範囲内)で傾いた垂直磁場MFが基板Swに発生する。
【0019】
次に、マスフローコントローラMcを制御して真空チャンバ1内にアルゴンガスを所定の流量で導入し、電源E1よりターゲット21に負の電位を持つ所定電力(10~30kW)を投入して、成膜室1a内にプラズマを発生させ、プラズマを発生させてから所定時間が経過した後、ターゲット21への電力投入を維持しながら、マスフローコントローラMcを制御してアルゴンガスの導入を停止して自己放電させる。これにより、プラズマ雰囲気で電離したスパッタガスのイオンによりターゲット21がスパッタリングされてターゲット21からのスパッタ粒子が飛散する。このとき、電源E2によりステージ4(基板Sw)に所定のバイアス電力(0~1250W)を投入することで、正電位を持つスパッタ粒子が基板Swに積極的に引き込まれながら、基板Swの成膜面Sw1にCu膜が成膜される。これにより、速い成膜レートで膜厚分布の面内均一性良くCu膜を成膜することができる。
【0020】
以上の効果を確認するため、上記スパッタリング装置SMを用いて、次の実験を行った。発明実験では、基板SwをΦ300mmのシリコン基板として、シリコン基板の表面にCu膜を成膜した。即ち、ターゲット21としてΦ320mmの銅製(純度99.9999%)のものを用い、ターゲット21と基板Swとの間の距離を600mmに設定し、電源62によりコイル61に3Aの電流値で通電し、基板Swの成膜面Sw1を通るZ軸方向下向きの垂直磁場MFを発生させた。そして、モータ71を駆動させて、垂直磁場MFをZ軸に対して3.5度の傾斜角度で傾けた後、マスフローコントローラMcを制御して、アルゴンガスを所定の流量(例えば、20sccm)で導入した(このときの処理室1aの圧力は0.4Pa)。これと併せて、電源E1からターゲット21に負の電位を持つ直流電力(例えば、30kW)を投入して、成膜室1a内にプラズマを発生させた後、ターゲット21への電力投入を維持しながら、アルゴンガスの導入を停止して自己放電させた(このときの成膜室1aの圧力は1×10-5Pa)。このとき、電源E2によりステージ4に250Wまたは400Wの所定のバイアス電力を投入して、ターゲット21のスパッタ面21aをスパッタリングすることで飛散したスパッタ粒子を基板Swに付着、堆積させてCu膜を成膜し、成膜したCu膜の膜厚分布の面内均一性及び成膜レートを夫々測定した。なお、比較実験として、垂直磁場MFをZ軸に対して所定の傾斜角度で傾ける点を除いて、基板SwにCu膜を成膜し、成膜したCu膜の膜厚分布の面内均一性及び成膜レートを夫々測定した。夫々測定したCu膜の膜厚分布の面内均一性及び成膜レートを図2に示す。
【0021】
これによれば、垂直磁場MFをZ軸に対して3.5度の傾斜角度で傾けて成膜されたCu膜の膜厚分布の面内均一性は、ステージ4への投入電力250Wまたは400Wの夫々において、1.82%、1.34%であり、比較実験の2.30%、1.46%と比べて、膜厚分布の面内均一性よく成膜できることが確認された。また、垂直磁場MFをZ軸に対して3.5度の傾斜角度で傾けて成膜されたCu膜の成膜レートは、ステージ4への投入電力250Wまたは400Wの夫々において、2.20nm/sec、1.80nm/secであり、比較実験の2.29nm/sec、1.98nm/secと同程度の成膜レートであることが確認された。
【0022】
次に、上記第1の実施形態と同一の部材、要素につき同一の符号を付した図3,4を参照して、SMは、第2の実施形態のスパッタリング装置である。スパッタリング装置SMでは、真空チャンバ1の側壁1bに設けられる第2の磁場発生ユニット6が次のように構成されている。即ち、第2の磁場発生ユニット6は、Z軸方向に直交する同一平面内に位置させて、且つ、側壁1bの周方向に等間隔に配置される複数個(本実施形態では、8個)の電磁石63を磁石群63u,63m,63dとし、各電磁石63が上下方向で整列するように各磁石群63u,63m,63dを上下方向に等間隔の三段で配置して構成される。各電磁石63は、同一の構成を有し、円柱状や角柱状の鉄心に巻線を巻回してなる公知のものが利用される。磁石群63u,63m,63dを構成する電磁石63の数やその位置は、例えばターゲット21のスパッタ面21aの面積、ターゲット21と基板Swとの間の距離や、発生させようとする垂直磁場MFの磁場強度に応じて適宜設定される。
【0023】
また、スパッタリング装置SMでは、傾動手段7がコントローラで構成される。この場合、コントローラ7は、スパッタリング装置の制御コントローラCrと通信自在としてもよい。コントローラ7は、マイクロコンピュータ、シーケンサや電源回路等を備える公知のものであり、上段の磁石群63uの中から選択される少なくとも1個の電磁石63、中段の磁石群63mの中から選択される少なくとも1個の電磁石63、下段の磁石群63dの中から選択される少なくとも1個の電磁石63の巻線に対して夫々通電可能となっている。そして、各段の磁石群63u,63m,63dを構成する全ての電磁石63に対してコントローラ7から同等の電流を夫々通電すると、基板Swの成膜面Sw1に対して垂直磁場MFを発生させることができる。他方で、例えば、上段の磁石群63uのいずれか1個の電磁石63を基準電磁石63sとし、基準電磁石63sに時計方向で隣接する電磁石63(図3中、63n)への通電を停止し、この通電停止された電磁石63の直下に位置する中段の磁石群63uの電磁石63への通電を維持すると共に、この通電が維持された中段の磁石群63uの電磁石63に時計方向で隣接する電磁石63への通電を停止し、この通電停止された電磁石63の直下に位置する下段の磁石群63dの電磁石63への通電を維持すると共に、この通電が維持された下段の磁石群63dの電磁石63に時計方向で隣接する電磁石63への通電を停止する。これを繰り返すことでZ軸に対して所定の傾斜角度θで傾いた磁場MFを発生させることができる(図4参照)。
【0024】
以上によれば、各段の磁石群63u,63m,63dの中から任意に選択した電磁石63にコントローラ7により通電するだけで、Z軸に対して垂直磁場MFを傾けることができる角度や方位を自在に変更することができる。しかも、処理中に、Z軸に対して傾けた磁場MFをZ軸回りに回転させるといったことも可能になる。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記第1及び第2の各実施形態では、プラズマ処理装置としてマグネトロンスパッタリング装置を例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、ドライエッチング装置やプラズマCVD装置にて、ステージに保持された被処理基板に対して下向きの垂直磁場を作用させた状態でプラズマを利用して所定処理を施す場合に、本発明の技術思想は広く適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
SM,SM…スパッタリング装置(プラズマ処理装置)、Sw…基板(被処理基板)、Sw1…成膜面(処理面)、E1,E2…電源(プラズマ発生手段)、MF…垂直磁場、1…真空チャンバ、1b…真空チャンバの側壁、4…ステージ、5b…ガス管(プラズマ発生手段)、6,6…磁場発生ユニット、7…傾動手段、7…コントローラ(傾動手段)、61…コイル(磁場発生ユニット)、61a…ヨーク、61b…導線、62…電源(磁場発生ユニット)、63…電磁石(磁場発生ユニット)、63u,63m,63d…電磁石群71…モータ(駆動部)。
図1
図2
図3
図4