(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】ボーラスを計算するためのボーラス計算機および方法
(51)【国際特許分類】
G16H 20/10 20180101AFI20240219BHJP
A61B 5/145 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
G16H20/10
A61B5/145
(21)【出願番号】P 2020519797
(86)(22)【出願日】2018-10-19
(86)【国際出願番号】 EP2018078682
(87)【国際公開番号】W WO2019077095
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-10-06
(32)【優先日】2017-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・クレム
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・シャーバッハ
【審査官】森田 充功
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0164414(US,A1)
【文献】特表2010-532044(JP,A)
【文献】特表2008-545489(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0006129(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00 - 80/00
A61B 5/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリンのボーラス(B)を決定するためのボーラス計算機(4.1)であって、
ボーラス計算機(4.1)は、血糖値の時系列(h(t-τ))が入力されるように、かつ、少なくとも1つのインスリンの活性プロファイルを表す少なくとも1つの既知のパルス応答(x(τ))を記憶するように、構成された入力部を有し、
ここで、ボーラス計算機(4.1)は、
血糖値の時系列(h(t-τ))を既知のパルス応答(x(τ))と畳み込み、ボーラス(B)を得る
、
患者特性(PS)を記憶し、考慮に入れる、
患者特性(PS)の別々のセットについて、1つまたはそれ以上のタイプ(T)のインスリンの、複数の記憶されたパルス応答(x(τ))を含む特性マップを記憶する、
該患者特性(PS)のセットに対するすべての選択可能なインスリンのタイプ(T)を測定血糖値の時系列(h(t-τ))と畳み込む、および
インスリンの複数のタイプ(T)
から最も適切なインスリンのタイプ(T)を選択して、この選択されたタイプ(T)についてボーラス(B)を計算する
ように構成されている、前記ボーラス計算機。
【請求項2】
人体(2)の毛細管血の血糖値を測定することに起因する時系列(h(t-τ))の不感時間を考慮に入れるようにさらに構成された、請求項1に記載のボーラス計算機(4.1)。
【請求項3】
患者特性(PS)
が、患者の年齢、性別、体重および体脂肪率のうちの少なくとも1つを
含む、請求項1または2に記載のボーラス計算機(4.1)。
【請求項4】
インスリンのボーラス(B)を決定するための装置(6)であって、請求項1~
3のいずれかに記載のボーラス計算機(4.1)と、人体モデル(9)と、人体(2)の静脈血または毛細管血の血糖測定を行うように適用された血糖センサ(3)と、血糖センサ(3)によって測定された血糖値を、ボーラス計算機(4.1)に渡す前に、人体モデル(9)によって計算された血糖値と比較するための比較器(4.2)とを含む、前記装置。
【請求項5】
インスリンのボーラス(B)を計算する
ボーラス計算機(4.1)の作動方法であって、
血糖値の時系列(h(t-τ))をボーラス計算機(4.1)の入力部に入力し、少なくとも1つのインスリンの活性プロファイルを表す少なくとも1つの既知のパルス応答(x(τ))をボーラス計算機(4.1)に記憶すること、
血糖値の時系列(h(t-τ))を既知のパルス応答(x(τ))と畳み込み、ボーラス(B)を得ること、
患者特性(PS)を記憶し、考慮に入れること
患者特性(PS)の別々のセットについて、1つまたはそれ以上のタイプ(T)のインスリンの、複数の記憶されたパルス応答(x(τ))を含む特性マップを記憶すること
該患者特性(PS)のセットに対するすべての選択可能なインスリンのタイプ(T)を測定血糖値の時系列(h(t-τ))と畳み込むこと、および
インスリンの複数のタイプ(T)
から最も適切なインスリンのタイプ(T)を選択し、この選択されたタイプ(T)についてボーラス(B)を計算すること、
を含む、前記方法。
【請求項6】
人体(2)の毛細管血の血糖値を測定することに起因する時系列(h(t-τ))の不感時間が考慮に入れられる、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
患者特性(PS)
を考慮に入れることが、患者の年齢、性別、体重および体脂肪率のうちの少なくとも1つを考慮に入れることを含む、請求項
5または6に記載の方法。
【請求項8】
人体(2)のパルス応答を測定するためのティーチインランを、不感時間を決定するために行うことをさらに含む、請求項
5~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
測定血糖値と、履歴を生成するために計算されたボーラス(B)とを記憶すること、およびボーラス(B)を計算するときにその履歴を考慮に入れることをさらに含む、請求項
5~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
血糖センサ(3)によって測定された血糖値を、ボーラス計算機(4.1)に渡す前に、人体モデル(9)によって計算された血糖値と比較することをさらに含む、請求項
5~9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、ボーラスを計算するためのボーラス計算機および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、しばしば糖尿病と呼ばれる真性糖尿病が、インスリンを生成および/または使用する体の能力の欠陥に起因して人の血糖値が高くなっている慢性症状であることを開示している。糖尿病には3つの主要なタイプがある。タイプ1糖尿病は通常、子供および若年成人を襲い、自己免疫性、遺伝性および/または環境性であり得る。タイプ2糖尿病は、糖尿病症例の90~95%を占め、肥満および運動不足と関連している。妊娠糖尿病は、妊娠中に診断される耐糖能障害の一形態であり、通常は出産後に自然に消散する。
【0003】
治療しなければ糖尿病は、心臓病、脳卒中、失明、腎不全、切断などの重篤な合併症、ならびに肺炎およびインフルエンザと関連した死につながるおそれがある。
【0004】
糖尿病の管理は、血流に入る血糖のレベルが動的であるので複雑である。血流からのグルコースの輸送を制御するインスリンが変動することもまた、糖尿病管理を複雑にする。血糖値は食事および運動の影響を受けやすいが、睡眠、ストレス、喫煙、旅行、病気、月経、および他の、個々の患者に固有の心理的要因および生活習慣要因によっても影響を受ける。血糖およびインスリンの動的な性質、ならびに血糖に影響を及ぼす他のすべての要因により、糖尿病の患者は、進行中のパターンを理解し、血糖値を予測すること(または少なくとも体内のグルコースを上げる、もしくは下げる行動を理解すること)がしばしば求められる。したがって、インスリンもしくは経口医薬品、または両方の形の治療法は、血糖値を適切な範囲に維持するように時間調節される。
【0005】
糖尿病の管理は、信頼できる診断情報を常に入手し、処方された治療法に従い、また生活習慣を日常的に管理する必要があるので、高度に侵襲的であることが多い。血糖などの日常的な診断情報は通常、穿刺デバイスを用いてサンプリングされてからハンドヘルド血糖計を用いて測定される毛細管血試料から得られる。組織内の血糖値は、体に装着された連続血糖センサから得られる。処方される治療法は、インスリンもしくは経口医薬品、または両方を含み得る。インスリンは、シリンジ、インスリンペン、携帯型インスリンポンプ、またはこのようなデバイスの組み合わせによって送達することができる。インスリン治療法では、注射されるべきインスリンの量を計算するには、炭水化物、脂肪およびタンパク質からなる食事構成を、運動の影響または他の生理学的状態と共に決定する必要があり得る。体重、食事および運動などの生活習慣要因の管理は、治療法の種類および有効性に大きく影響を及ぼし得る。
【0006】
糖尿病の管理には、医療デバイス、個人健康管理デバイス、患者記録情報、医療専門家バイオマーカデータ、処方医薬品および記録情報から得られる大量の診断データおよび規定データを要する。医療デバイスには、自己監視BG計、連続グルコースモニタ、移動式インスリン注入ポンプ、糖尿病分析ソフトウェア、および糖尿病デバイス構成ソフトウェアが含まれ、これらのそれぞれが、大量の診断データおよび規定データを生成および/または管理する。個人健康管理デバイスには、体重計、歩数計および血圧測定用カフが含まれる。患者記録情報には、食事、運動および生活習慣、ならびに処方医薬品および非処方医薬品に関連する情報が含まれる。医療専門家バイオマーカデータには、HbA1C、空腹時血糖、コレステロール、トリグリセリド、およびグルコース負荷試験結果が含まれる。医療専門家情報には、患者の治療に関連する治療法および他の情報が含まれる。
【0007】
糖尿病の患者の看護および健康を改善し、したがって、糖尿病を患う人が充実した生活を送り、糖尿病による合併症のリスクを低減することができるように、患者デバイスが、医療デバイス、個人健康管理デバイス、個人記録情報、バイオマーカ情報、および記録情報からの診断データおよび規定データを効率的に集約、操作、管理、提示、および伝達する必要がある。
【0008】
加えて、患者のBGレベルに影響を及ぼし得る最近の活動および出来事を考慮した様々な使用者入力に基づいて、使用者により一層正確なボーラス推奨を提供し、それによって、使用者に対し推奨されるボーラス、または提案される糖質量を生成する際のデバイスの精度、利便性および/または効率を高めることができる、糖尿病管理デバイスが必要とされている。
【0009】
改善されたボーラス計算機、およびボーラスを計算するための改善された方法が、依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本開示の目的は、改善されたボーラス計算機、およびボーラスを計算するための改善された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、請求項1に記載のボーラス計算機、および請求項8に記載の方法によって達成される。
【0013】
例示的な実施形態は従属請求項に提供されている。
【0014】
本開示によれば、インスリンのボーラスを決定するためのボーラス計算機は、血糖値の時系列が入力されるように、かつ、少なくとも1つのインスリンの活性プロファイルを表す少なくとも1つの既知のパルス応答を記憶するように、構成された入力部を有し、ボーラス計算機は、血糖値の時系列を既知のパルス応答と畳み込み、ボーラスを得るように構成される。
【0015】
速効型インスリンの活性プロファイルは、短いが高い血中のインスリンレベルを示すが、同じ量の遅効型インスリンは、長く平坦な活性レベルを示す。薬剤のボーラスは、活性レベル曲線の下の面積、すなわち血中濃度の時間にわたる積分に相当する。
【0016】
たとえばペンによってインスリンが送達されると、インスリンのディラックパルスと同様のパルスが発生する。このようにして活性薬剤すなわちインスリンが、人体である系に急激に導入され、系はステップ応答で応答する。ポンプを使用する場合は、送達は非常にゆっくりと、または少量の繰り返し注射(たとえば、ディラックパルスと同様のパルス状)として行われる。
【0017】
活性プロファイルとは、様々な期間にわたって作用し得る、また血中のインスリンの様々なレベルを達成できる、様々なインスリンの薬物動態作用モードのことである。この活性プロファイルは、インスリンを注射し、血糖値を経時的に測定して、それぞれのインスリンに対するその血糖値のパルス応答を得ることによって試験される。同様に、一定血糖値での自由インスリンレベルを示すために、クランプ実験が行われる。次いで、その傾向が正規化される。
【0018】
通常、各インスリンは、特定の薬物動態作用モードを有する。通常、半減期が、インスリンの効果がいつ初期または最大レベルの半分に減衰するかを示すために用いられる。
【0019】
例示的な一実施形態では、ボーラス計算機はさらに、人体の毛細管血の血糖値を測定することに起因する時系列の不感時間を考慮に入れるように構成される。
【0020】
例示的な一実施形態では、ボーラス計算機はさらに、インスリンの1つのタイプについてボーラスを計算するように、またはインスリンの複数のタイプのうちの1つを選択して、この選択されたタイプについてボーラスを計算するように、構成される。
【0021】
例示的な一実施形態では、インスリンのタイプには、遅効型インスリン、速効型インスリン、および中間作用型インスリンが含まれる。
【0022】
例示的な一実施形態では、ボーラス計算機はさらに、患者特性、特に年齢、性別、体重および体脂肪率のうちの少なくとも1つを記憶し、考慮に入れるように構成される。
【0023】
例示的な一実施形態では、ボーラス計算機はさらに、患者特性の別々のセットについて、1つまたはそれ以上のタイプのインスリンの、複数の記憶されたパルス応答を含む特性マップを記憶するように構成される。
【0024】
例示的な一実施形態では、ボーラス計算機はさらに、設定された患者特性に対するすべての選択可能なインスリンのタイプを測定血糖値の時系列と畳み込み、最も適切なインスリンのタイプを選択するように構成される。
【0025】
例示的な一実施形態では、ボーラス計算機はさらに、人体のパルス応答を測定するためのティーチインランを、不感時間を決定するために行うように構成される。
【0026】
例示的な一実施形態では、ボーラス計算機はさらに、測定血糖値と、履歴を生成するために計算されたボーラスとを記憶するように、かつ、ボーラスを計算するときにその履歴を考慮に入れるように、構成される。
【0027】
例示的な一実施形態では、インスリンのボーラスを決定するための装置は、ボーラス計算機と、人体モデルと、人体の静脈血または毛細管血の血糖測定を行うように適用された血糖センサと、血糖センサによって測定された血糖値を、ボーラス計算機に渡す前に、人体モデルによって計算された血糖値と比較するための比較器とを含む。
【0028】
人体モデルは複合制御系であり、注射のパルスを受け、代謝、食物摂取、活動、昼夜リズム、年齢、性別、および体重すなわち重量によって、また疾患のタイプによって、恒久的に影響を受ける。インスリン感度因子は、タイプ2糖尿病では可変性である。健康トラッカが、体重、安静時心拍数、年齢、性別、および現在の心拍数の関数としての心拍数によって消費カロリーを得るように構成される(消費カロリーを決定するための改作が加わった確立された標準的な方法である、ハリス-ベネディクトの式を参照)。
【0029】
例示的な一実施形態では、血糖センサは、血糖測定を連続的に、周期的に、ランダムに、または擬似ランダムに行うように適用される。
【0030】
例示的な一実施形態では、装置はさらにコントローラを含み、ボーラス計算機はコントローラ内に配置される。
【0031】
例示的な一実施形態では、ボーラス計算機は、ボーラスを自動的に設定するように適用されている薬物送達デバイスにボーラスを送信するように適用される。
【0032】
例示的な一実施形態では、ボーラス計算機は薬物送達デバイスに接続され、ボーラスの送達を、また場合により、選択されたタイプのインスリンの送達を制御するように適用される。
【0033】
例示的な一実施形態では、血糖センサは、人体に取り付けられるか移植され、毛細管血糖測定によって、または静脈血糖測定によって血糖値を決定するように適用される。
【0034】
例示的な一実施形態では、コントローラまたは装置は、モバイルデバイスである。
【0035】
例示的な一実施形態では、コントローラは、有線または無線接続によって血糖センサと通信するように構成される。
【0036】
本開示の一態様によれば、インスリンのボーラスを計算する方法は、血糖値の時系列をボーラス計算機の入力部に入力し、少なくとも1つのインスリンの活性プロファイルを表す少なくとも1つの既知のパルス応答をボーラス計算機に記憶すること、血糖値の時系列を既知のパルス応答と畳み込み、ボーラスを得ることを含む。
【0037】
例示的な一実施形態では、人体の毛細管血の血糖値を測定することに起因する時系列の不感時間が考慮に入れられる。
【0038】
例示的な一実施形態では、インスリンの1つのタイプについてボーラスが計算されるか、またはインスリンの複数のタイプのうちの1つが選択され、この選択されたタイプについてボーラスが計算される。
【0039】
例示的な一実施形態では、インスリンのタイプには、遅効型インスリン、速効型インスリン、および中間作用型インスリンが含まれる。
【0040】
例示的な一実施形態では、この方法はさらに、患者特性、特に年齢、性別、体重および体脂肪率のうちの少なくとも1つを記憶し、考慮に入れることを含む。
【0041】
例示的な一実施形態では、この方法はさらに、患者特性の別々のセットについて、1つまたはそれ以上のタイプのインスリンの、複数の記憶されたパルス応答を含む特性マップを記憶することを含む。
【0042】
例示的な一実施形態では、この方法はさらに、設定された患者特性に対するすべての選択可能なインスリンのタイプを測定血糖値の時系列と畳み込むこと、および最も適切なインスリンのタイプを選択することを含む。
【0043】
例示的な一実施形態では、この方法はさらに、人体のパルス応答を測定するためのティーチインランを、不感時間を決定するために行うことを含む。
【0044】
ティーチインランでは、パラメータが患者に合わせて調整され、複合体モデル制御ループに値が、とりわけ連続血糖測定値がロードされる。このティーチインランは、インスリンが送達されない時間、たとえば夜間において最善に機能する。後に続く段階では、インスリンが以前の平常通りに送達される一方で、体モデルに値が入力され続けて、パラメータを最適化するために体モデルを教え続ける。注射は、連続シミュレーションによって外挿され、連続血糖測定の実際の値、およびこれまでに使用されたアルゴリズムと比較されてパラメータのバーニア調整が得られ、インスリン抵抗が間接的に決定される。制御ループで実際の値およびシミュレーションの近似値を求めたならば、ティーチインモードが終了されて活性モードに入る。
【0045】
活性モードでは、体モデルが教え込まれており、生命パラメータが、たとえば連続血糖測定値、糖交換(carb)(たとえば手入力による食品カロリー)、健康トラッカによる心拍数が、連続して入力される。カロリー摂取もまた、一種のパルス応答を系に生じさせる。制御回路はここで、たとえば、特定の時点における1回のインスリンの送達またはもう1回の送達がどれだけ血糖値推移に影響を及ぼすかを推定するために、新しい値をシミュレーション(過去の傾向を含む)によって外挿することを試みることができる。その目的は、規定目標値(たとえば100mg/mL)まわりで血糖値変動を最小にすることである。最適値が特定された場合、それが出力される。使用可能なインスリンのタイプが制御回路には分かっているので、シミュレーションではこれらのタイプの順序を変えることができる。こうすることは、血糖目標範囲に向けたシミュレーションの繰り返しによって達成される。患者は通常、注射をすべき時を決定する(通常は食後)。次に、ボーラスの最適化がその時点で、確認されるべき値を出力することによって、または次にボーラスを送達できるポンプを制御することによって、行われる。
【0046】
すべてのインスリンの活性プロファイルは等しいか、活性期間の終わりに収束し、無視できないことが知られている(たとえば、Apidra(登録商標)は、24時間後でも効果が持続する)。血糖値が体のすべての部分で等しいわけではなく、すべてのものが体の各部分にいくらかの遅れを伴って到着するので、不感時間が考慮に入れられなければならない。例示的な一実施形態では、この方法はさらに、測定血糖値と、履歴を生成するために計算されたボーラスとを記憶すること、およびボーラスを計算するときにその履歴を考慮に入れることを含む。
【0047】
例示的な一実施形態では、この方法はさらに、血糖センサによって測定された血糖値を、ボーラス計算機に渡す前に、人体モデルによって計算された血糖値と比較することを含む。
【0048】
例示的な一実施形態では、血糖測定は、連続的に、周期的に、ランダムに、または擬似ランダムに行われる。
【0049】
例示的な一実施形態では、ボーラスは、ボーラスが自動的に設定される薬物送達デバイスへ伝達される。
【0050】
例示的な一実施形態では、この方法はさらに、ボーラスの送達を制御すること、また場合により、インスリンのタイプを選択することを含む。
【0051】
改善されたボーラス計算機および改善された方法は、特に、異なる活性プロファイルを有するいくつかの異なるタイプのインスリンを用いる強化糖尿病治療法に使用されるべき、インスリンのボーラスをより正確かつ確実に決定することができる。
【0052】
本明細書に記載の薬物送達デバイスは、薬剤を患者に注射するように構成される。たとえば送達は、皮下、筋肉内、または静脈内送達とすることができる。このようなデバイスは、患者、または看護師もしくは医師などの介護者によって操作され、様々なタイプの安全シリンジ、ペン注射器または自動注射器を含み得る。このデバイスは、使用前に封止アンプルを穿孔する必要がある、カートリッジベースのシステムを含み得る。これらの様々なデバイスを用いて送達される薬剤の量は、約0.5mLから約2mLになり得る。さらに別のデバイスは、「大」量の薬剤(通常約2mLから約5mLまで)を送達するためにある期間(たとえば、約5、15、30、60、または120分)患者の皮膚に粘着するように構成された、大容量デバイス(「LVD」)またはパッチポンプを含み得る。
【0053】
特定の薬剤と組み合わせることで、ここで説明されているデバイスはまた、必要な仕様内で動作するようにカスタマイズされる。たとえば、デバイスは、ある一定の期間内(たとえば、自動注射器では約3秒から約20秒、LVDでは約10分から約60分)に薬剤を注射するようにカスタマイズされる。他の仕様には、低レベルまたは最小レベルの不快感、またはヒューマンファクタに関連するいくつかの条件に対し、保存寿命、使用期限、生体適合性、環境的考慮事項などが含まれ得る。このような違いは、たとえば、粘性が約3cPから約50cPまでの薬物など、様々な要因により生じ得る。その結果、薬物送達デバイスは、サイズが約25から約31ゲージまでの中空針を含むことが多い。一般的なサイズは27および29ゲージである。
【0054】
本明細書に記載の送達デバイスはまた、1つまたはそれ以上の自動化機能を含み得る。たとえば、1回またはそれ以上の針挿入、薬剤注射、および針引き戻しが自動化される。1つまたはそれ以上の自動化段階のためのエネルギーは、1つまたはそれ以上のエネルギー源によって供給される。エネルギー源は、たとえば、機械エネルギー、空気エネルギー、または電気エネルギーを含み得る。たとえば、機械エネルギー源は、エネルギーを保存または解放するためのばね、てこ、エラストマー、または他の機械機構を含み得る。1つまたはそれ以上のエネルギー源は、単一のデバイスの中に集約することができる。デバイスはさらに、エネルギーをデバイスの1つまたはそれ以上の構成要素の動きに変換するための歯車、弁、または他の機構を含み得る。
【0055】
自動注射器の1つまたはそれ以上の自動化機能は、起動機構を介して起動される。このような起動機構は、1つまたはそれ以上のボタン、レバー、ニードルスリーブ、または他の起動機構を含み得る。起動は、一段階または多段階手順になり得る。すなわち、使用者が、自動化機能を行わせるために1つまたはそれ以上の起動機構を起動する必要があり得る。たとえば、使用者が、薬剤の注射をするためにニードルスリーブを使用者の体に当てて押し下げることができる。他のデバイスでは、使用者が、注射をするためにボタンを押し下げ、ニードルシールドを引き戻す必要がある。
【0056】
加えて、このような起動では、1つまたはそれ以上の機構を起動することができる。たとえば、1つの起動シーケンスにより少なくとも2回の針挿入、薬剤注射、および針引き戻しを起動することができる。いくつかのデバイスはまた、1つまたはそれ以上の自動化機能を行わせるための特定の一連の段階を必要とし得る。他のデバイスは、シーケンスに依存しない段階によって動作し得る。
【0057】
いくつかの送達デバイスは、安全シリンジ、ペン注射器、または自動注射器の1つまたはそれ以上の機能を含み得る。たとえば、送達デバイスが、薬剤を自動的に注射するように構成された機械エネルギー源(自動注射器で通常見られる)と、用量設定機構(ペン注射器で通常見られる)とを含み得る。
【0058】
本開示のさらなる適用可能性の範囲は、以下に示す詳細な説明から明らかになろう。しかし、この詳細な説明および具体的な例は、本開示の例示的な実施形態を示すとはいえ、この詳細な説明から本開示の趣旨および範囲内の様々な変更および修正が当業者には明らかになるので、例示としてのみ提示されていることを理解されたい。
【0059】
本開示は、詳細な説明および添付の図面から、より完全に理解されることになろう。図面は例示としてのみ与えられており、本開示を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図2】ボーラス計算機を有するコントローラを含む制御ループの概略図である。
【
図3】インスリンのボーラスを決定するための装置の例示的な実施形態の概略図である。
【
図4】インスリンのボーラスを決定するための装置の例示的な実施形態の概略図である。
【
図5】インスリンのボーラスを決定するための装置の例示的な実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
すべての図において、対応する部材は同じ参照記号で印付けられている。
【0062】
本開示のいくつかの実施形態による、例示的な薬物送達デバイス10が
図1Aおよび
図1Bに示されている。上述のように、デバイス10は、薬剤を患者の体に注射するように構成される。デバイス10は、注射予定の薬剤を含む貯蔵器を通常は含むハウジング11(たとえば、シリンジ)と、送達手順の1つまたはそれ以上の段階を容易にするために必要な構成要素とを含む。デバイス10はまた、ハウジング11に取り外し可能に取り付けられるキャップアセンブリ12を含み得る。通常は使用者が、デバイス10が動作する前に、キャップ12をハウジング11から取り外さなければならない。
【0063】
図示のように、ハウジング11は実質的に円筒形であり、長手方向軸Xに沿って実質的に一定の直径を有する。ハウジング11は、遠位領域20および近位領域21を有する。用語「遠位」は、注射の部位に相対的に近い場所を指し、用語「近位」は、注射部位から相対的に遠い場所を指す。
【0064】
デバイス10はまた、ハウジング11に対してスリーブ13が動くことを可能にするようにハウジング11に連結されたニードルスリーブ13(
図2C参照)を含み得る。たとえば、スリーブ13は長手方向軸Xと平行な長手方向に動くことができる。具体的には、スリーブ13が近位方向に動くことにより、針17がハウジング11の遠位領域20から延びることが可能になり得る。
【0065】
針17を注射部位に挿入することは、いくつかの機構を介して行うことができる。たとえば、針17は、ハウジング11に対して固定して配置され、最初に、延びたニードルスリーブ13の中に配置される。スリーブ13の遠位端を患者の体に当て、ハウジング11を遠位方向に動かすことによってスリーブ13が近位に動くと、針17の遠位端のカバーが取り外される。このような相対的な動きが、針17の遠位端が患者の体の中へ延びることを可能にする。このような挿入は、スリーブ13に対してハウジング11が患者の手操作で動くことにより針17が手動で挿入されるので、「手動」挿入と呼ばれる。
【0066】
挿入の別の形は「自動化」であり、それによって針17がハウジング11に対して動く。このような挿入は、スリーブ13が動くことによって、または、たとえばボタン22などの別の形の起動によって起動される。
図1Aおよび
図1Bに示されるように、ボタン22はハウジング11の近位端にある。しかし、他の実施形態では、ボタン22はハウジング11の側面にある。
【0067】
他の手動または自動化機能には、薬物注射もしくは針引き戻し、または両方が含まれ得る。注射とは、薬剤をシリンジから針17に強制的に通すために、栓またはピストン23をシリンジ(図示せず)内の近位位置からシリンジ内のより遠くの位置まで動かす過程のことである。いくつかの実施形態では、駆動ばね(図示せず)が、デバイス10が起動される前に圧縮の状態にある。駆動ばねの近位端はハウジング11の近位領域21内に固定され、駆動ばねの遠位端は、ピストン23の近位面に圧縮力をかけるように構成される。起動に続いて、駆動ばねに保存されたエネルギーの少なくとも一部がピストン23の近位面に加えられる。この圧縮力はピストン23に、ピストンを遠位方向に動かすように作用する。このような遠位の動きは、シリンジ内の液体薬剤を圧縮するように作用して、液体薬剤を針17から外に強制的に出す。
【0068】
注射に続いて、針17はスリーブ13またはハウジング11の中に引き戻される。引き戻しは、使用者がデバイス10を患者の体から離すにつれてスリーブ13が遠位に動くときに行うことができる。これは、針17がハウジング11に対して固定位置にとどまったままであるので行うことができる。スリーブ13の遠位端が針17の遠位端を通り過ぎ、針17が覆われると、スリーブ13がロックされる。このようなロッキングは、ハウジング11に対するスリーブ13のいかなる近位の動きもロックすることを含み得る。
【0069】
別の形の針引き戻しは、針17がハウジング11に対して動く場合に行うことができる。このような動きは、ハウジング11内のシリンジがハウジング11に対して近位方向に動く場合に行うことができる。この近位動きは、遠位領域20にある引き戻しばね(図示せず)を使用して実現される。圧縮された引き戻しばねが、起動したときに十分な力をシリンジに供給して、シリンジを近位方向に動かすことができる。十分な引き戻しの後では、針17とハウジング11の間のいかなる相対的な動きもロッキング機構によってロックされる。加えて、デバイス10のボタン22または他の構成要素が必要に応じてロックされる。
【0070】
図2は、制御系を表す、患者の人体モデル9を含む制御ループ1の概略図である。この人体モデルには、消費が落ち着く睡眠、および消費が増大する活動事象などの、身体活動Aに依存する、画成されたグルコース消費がある。グルコース消費はさらに、患者の年齢および性別、ならびに季節(夏、冬など)または時刻などの外部条件Eにも依存する。血糖消費はまた、時間の関数でもある。睡眠は通常、血糖消費の減少につながる。糖質交換CEおよび身体活動Aもまた、血糖消費に影響を及ぼし、それぞれのパルス応答が血糖値に生じる。さらに、血糖消費は、糖尿病のタイプおよび程度などの、糖尿病の特性Cによる影響を受ける。タイプI糖尿病の患者はインスリンを全く産生しないので、ボーラスを計算するときには、患者に送達されるインスリンだけが考慮に入れられる。タイプII糖尿病の患者は、患者の糖尿病の程度に応じて量が異なるインスリンを産生し、一年のうちで季節に応じて変化する体重および代謝状態に応じて、様々な程度の再取込阻害を示す。
【0071】
人体は、身体活動Aおよび糖質交換CEに対し、有効なI(積分)要素をもつPI(比例積分)コントローラのように反応する。
【0072】
外部条件Eおよび身体活動Aは、たとえばセンサおよび活動トラッカによって自動的に決定される。糖尿病の特性Cおよびデータ関連糖質交換CEが、使用者によってユーザインターフェースを介して人体モデル9に入力される。同様に、人体モデル9は、特に患者が自分の食事を定期的に取っている場合には、以前の入力に基づいて糖質交換を推定することができる。
【0073】
血糖センサ3は、たとえば人体の静脈血の血糖測定を行うために適用される。一代替実施形態では、毛細管血の血糖測定が、血糖センサ3によってたとえば耳たぶで行われ、またはコンタクトレンズとして構成された血糖センサ3によって眼で行われ、そのパルス応答は静脈血の測定に対して遅れている。この遅延は、インスリンのボーラスBを計算するときに、不感時間要素8によって表された不感時間として考慮に入れられなければならない。血糖測定は、連続的に、周期的に、ランダムに、または擬似ランダムに行われる。血糖測定の結果は、ボーラス計算機4.1を含むコントローラ4に入れられる。コントローラ4はさらに、血糖測定値を、ボーラス計算機4.1に渡す前に、人体モデル9によって計算された血糖値と比較するための比較器4.2を含み得る。
【0074】
ボーラス計算機4.1は、インスリンの1つのタイプTについてボーラスBを計算するように、またはインスリンの複数のタイプTのうちの1つを選択して、この選択されたタイプTについてボーラスBを計算するように構成される。
【0075】
別々のタイプTのインスリンは、たとえば、遅効型インスリン、速効型インスリン、中間作用型インスリンという、別々の活性プロファイルを有する。インスリンの各タイプTの活性プロファイルとは、このタイプTのインスリンのボーラスBの投与に対するパルス応答のことである。パルス応答は、選択されたタイプTのインスリンの薬物動態と、ボーラスBのインスリンの量と、年齢、性別、体重、体脂肪率などの患者の特性とに依存する。高齢の患者は、若年の患者よりも代謝が遅いことがある。体重の重い患者もまた、より多くのインスリンを必要とし得る。
【0076】
患者特性は、ユーザインターフェースを介してボーラス計算機4.1に入力され、繰り返して必ず入力しなくてもよいようにボーラス計算機に4.1に記憶される。
【0077】
ボーラス計算機4.1は、人体のパルス応答を表す血糖値の時系列を、インスリンの1つまたはそれ以上のタイプTの既知のパルス応答と畳み込む。
【0078】
畳み込み積分は次式によって決定される。
【数1】
ここで、x(τ)はシステムを励起する関数であり、h(τ)は畳み込み関数である。
【0079】
本実施形態では、h(t-τ)は、人体の経時的な時系列の測定血糖値で表され、x(τ)は、1つまたはそれ以上のタイプTのインスリンの既知のパルス応答(活性プロファイル)によって表される。
【0080】
特性マップは、ボーラス計算機4.1内で提供され、年齢、性別、体重、体脂肪率などの患者の特性の異なるセットについての、1つまたはそれ以上のタイプTのインスリンに対する記憶されたパルス応答を含む。
【0081】
ボーラス計算機4.1は、設定された患者特性に対するすべての選択可能なインスリンのタイプTを測定血糖値の時系列と畳み込み、最も適切なインスリンのタイプTを選択することができる。このようにして、最も適切なインスリンのタイプTおよびボーラスBが選択される。
【0082】
ボーラス計算機4.1によって計算されたボーラスBは次に、薬物送達デバイス5、たとえばインスリンポンプまたはインスリンペンによって、人体に送達される。
【0083】
例示的な実施形態では、ボーラス計算機4.1は、計算されたボーラスBと、場合により、選択されたインスリンのタイプTとを出力するための表示装置を含むことができ、使用者は、その出力に従って、インスリンペンなどの薬物送達デバイス5を使用して注射をすることができる。ボーラスは、患者によって手入力で設定され、あるいは、たとえば無線または有線接続で薬物送達デバイス5へ自動的に送信され、薬物送達デバイス5によって自動的に設定される。別の例示的な実施形態では、ボーラス計算機4.1は、インスリンポンプなどの薬物送達デバイス5に連結され、計算されたボーラスBの送達と、場合により、選択されたタイプTのインスリンの送達とを制御する。
【0084】
ボーラスBが送達されると、人体にそれぞれのパルス応答が生じることになる。したがって、血糖値は、画成された限度内になるように制御される。
【0085】
ボーラス計算機4.1が選択できるタイプTのインスリンには:遅効型インスリン、速効型インスリン、中間作用型インスリン、が含まれ得る。別の実施形態では、ただ1つの、2つの、または3つより多いタイプTの、選択できるインスリンがあり得る。たとえば、遅効型インスリンが夜間に使用される。
【0086】
人体のパルス応答を測定するためのティーチインランが、実際の適用の際に考慮に入れるべき不感時間を決定するために、コントローラ4を用いて行われる。
【0087】
ボーラス計算機4.1はまた、測定血糖値と、将来のボーラスBを計算するときに考慮に入れられる履歴を生成するために計算された、ボーラスBとを記憶することもできる。
【0088】
説明したシステムでは、血糖測定値は、連続血糖測定パッチによって得られ、特に無線で、たとえばNFCまたはBluetooth(登録商標)通信によって、モバイルデバイスへ送信される。カロリー摂取は手で入力され、あるいはモバイルデバイスで実行されるアプリケーションによって推定される。健康トラッカは、心拍数を決定し、これを特に無線で、たとえばNFCまたはBluetooth(登録商標)通信によって、送信することができる。インスリンの注射は、ペン注射器またはインスリンポンプによって、腹壁を通して脂肪組織の中へ行われる。
【0089】
体モデル9は、通常は周波数領域で動作する時間離散システム/制御回路とすることができる。すべての値が時間領域の離散値として存在し、またそのようなものとして処理される。制御回路は時間領域で記述されるが、最初にZ変換されなければならない。
【0090】
比較器4.2は血糖目標値に設定され、具体的には上限値および下限値、たとえば150mg/dLの上限値および80mg/dLの下限値に設定される。変化するインスリン値を用いてシミュレーションを実行した後に、ボーラス計算機4.1は最適条件を決定し出力する。
【0091】
複合制御系体モデル9は微分方程式の系とすることができ、この系は、数値的に解が出され、経時的な血糖値(BGM)の推移を出力し、この出力は、不感時間要素8を通過した後に、血糖センサ3の測定値(連続血糖測定値)と経時的に比較される。
【0092】
血糖値BGMの推移は、BGM(t-t0)=F(t,τ,f(carb,HF,...))によって計算され、carbは糖質交換CEであり、HFは心拍数である。
【0093】
系がサンプリングされるとき、系はZ変換によって周波数領域に変換され、時間領域に戻される。
【0094】
ボーラス計算機4.1は、設定された患者特性に対してすべての選択可能なインスリンのタイプTを時系列の測定血糖値と畳み込み、最も適切なインスリンのタイプTを選択し、適切なボーラスBを決定することができる。
【0095】
この決定は、血糖目標範囲に向けてシミュレーションが繰り返されることによって達成される。患者は通常、注射をすべき時を決定する(通常は食後)。次に、ボーラスBの最適化がその時点で、確認されるべき値を出力することによって、または次にボーラスを送達できるポンプを制御することによって、行われる。
【0096】
図3は、インスリンのボーラスを決定するための装置6の例示的な実施形態の概略図である。血糖センサ3は人体2に取り付けられ、または移植され、たとえば毛細管血糖測定によって血糖値を決定するように適用される。コントローラ4(たとえばスマートフォンなどのモバイルデバイス)は、有線または無線接続7(たとえばBluetooth(登録商標))によって血糖センサ3と通信するように構成される。コントローラ4は、ボーラス計算機4.1(たとえばソフトウェアアプリケーション)を含む。コントローラ4はまた、1つまたはそれ以上の薬物送達デバイス5(たとえばインスリンペン5.1およびインスリンポンプ5.2)に、有線または無線接続7(たとえばBluetooth(登録商標))によって接続される。
【0097】
図4は、インスリンのボーラスを決定するための装置6の例示的な実施形態の概略図である。血糖センサ3は人体2に取り付けられ、または移植され、たとえば毛細管血糖測定によって血糖値を決定するように適用される。コントローラ4は、薬物送達デバイス5(たとえばインスリンポンプ5.2)と一体化され、有線または無線接続7(たとえばBluetooth(登録商標))によって血糖センサ3と通信するように構成される。コントローラ4は、ボーラス計算機4.1(たとえばソフトウェアアプリケーション)を含む。
【0098】
図5は、インスリンのボーラスを決定するための装置6の例示的な実施形態の概略図である。血糖センサ3は、人体2からの血液試料付き血糖測定ストリップ8を分析するように構成され、血糖値を決定するように適用される。コントローラ4(たとえばスマートフォンなどのモバイルデバイス)は、有線または無線接続7(たとえばBluetooth(登録商標))によって血糖センサ3と通信するように構成される。コントローラ4はボーラス計算機4.1(たとえばソフトウェアアプリケーション)を含む。コントローラ4はまた、1つまたはそれ以上の薬物送達デバイス5(たとえば2つ以上の異なるインスリンペン5.1、5.3)に連結され、一方には遅効型インスリン、たとえばLantus(登録商標)が入っており、他方には速効型インスリン、たとえばApidra(登録商標)が入っている。
【0099】
図6は、四極子の形の電子回路として示された簡略化体モデルの概略図であり、第1の抵抗R1およびコンデンサC1によって形成された低域通過回路と、コンデンサC1に並列の制御電流源CSと、第2の抵抗R2が後に続く低域通過回路と、たとえば電池である電圧源VSと、第3の抵抗R3とを含む。
【0100】
インスリン注射ΔIがモデルに、パルスが四極子に影響を及ぼすように、すなわち血糖値の減少-ΔBGに比例して影響を及ぼす。低域通過回路は、インスリンが生物体の静脈系を経由して分布するまでの、腹壁およびその脂肪組織による減衰を表す。制御電流源CSは、活動によるカロリー消費およびカロリー摂取、すなわち血糖値の増加または減少を表す。中心脂肪組織および他の組織、特に肝臓が電圧源VSによって表されている。たとえ食物摂取が行われなくても、電圧源VSは、グルコースを脂肪組織から系の中へ供給する(糖尿病の程度に応じてインスリン摂取ΔIによって制御される)。
【0101】
本明細書で使用する用語「薬物」または「薬剤」は、1つまたはそれ以上の薬学的に活性な化合物を説明するために本明細書において使用される。以下に説明されるように、薬物または薬剤は、1つまたはそれ以上の疾患を処置するための、さまざまなタイプの製剤の少なくとも1つの低分子もしくは高分子、またはその組み合わせを含むことができる。例示的な薬学的に活性な化合物は、低分子;ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質(たとえばホルモン、成長因子、抗体、抗体フラグメント、および酵素);炭水化物および多糖類;ならびに核酸、二本鎖または一本鎖DNA(裸およびcDNAを含む)、RNA、アンチセンスDNAおよびRNAなどのアンチセンス核酸、低分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム、遺伝子、およびオリゴヌクレオチドを含むことができる。核酸は、ベクター、プラスミド、またはリポソームなどの分子送達システムに組み込むことができる。これらの薬物の1つまたはそれ以上の混合物もまた、企図される。
【0102】
用語「薬物送達デバイス」は、薬物をヒトまたは動物の体内に投薬するように構成されたあらゆるタイプのデバイスまたはシステムを包含するものである。限定されることなく、薬物送達デバイスは、注射デバイス(たとえばシリンジ、ペン型注射器、自動注射器、大容量デバイス、ポンプ、かん流システム、または眼内、皮下、筋肉内、もしくは血管内送達にあわせて構成された他のデバイス)、皮膚パッチ(たとえば、浸透圧性、化学的、マイクロニードル)、吸入器(たとえば鼻用または肺用)、埋め込み(たとえば、コーティングされたステント、カプセル)、または胃腸管用の供給システムとすることができる。ここに説明される薬物は、針、たとえば小ゲージ針を含む注射デバイスで特に有用であることができる。
【0103】
薬物または薬剤は、薬物送達デバイスで使用するように適用された主要パッケージまたは「薬物容器」内に含むことができる。薬物容器は、たとえば、カートリッジ、シリンジ、リザーバ、または1つまたはそれ以上の薬学的に活性な化合物の保存(たとえば短期または長期保存)に適したチャンバを提供するように構成された他の容器とすることができる。たとえば、一部の場合、チャンバは、少なくとも1日(たとえば1日から少なくとも30日まで)の間薬物を保存するように設計することができる。一部の場合、チャンバは、約1ヶ月から約2年の間薬物を保存するように設計することができる。保存は、室温(たとえば約20℃)または冷蔵温度(たとえば約-4℃から約4℃まで)で行うことができる。一部の場合、薬物容器は、薬物製剤の2つまたはそれ以上の成分(たとえば薬物および希釈剤、または2つの異なるタイプの薬物)を別々に、各チャンバに1つずつ保存するように構成された二重チャンバカートリッジとすることができ、またはこれを含むことができる。そのような場合、二重チャンバカートリッジの2つのチャンバは、ヒトまたは動物の体内に投薬する前、および/または投薬中に薬物または薬剤の2つまたはそれ以上の成分間で混合することを可能にするように構成することができる。たとえば、2つのチャンバは、これらが(たとえば2つのチャンバ間の導管によって)互いに流体連通し、所望の場合、投薬の前にユーザによって2つの成分を混合することを可能にするように構成することができる。代替的に、またはこれに加えて、2つのチャンバは、成分がヒトまたは動物の体内に投薬されているときに混合することを可能にするように構成することができる。
【0104】
本明細書において説明される薬物送達デバイスおよび薬物は、数多くの異なるタイプの障害の処置および/または予防に使用することができる。例示的な障害は、たとえば、糖尿病、または糖尿病性網膜症などの糖尿病に伴う合併症、深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症などの血栓塞栓症を含む。さらなる例示的な障害は、急性冠症候群(ACS)、狭心症、心筋梗塞、がん、黄斑変性症、炎症、枯草熱、アテローム性動脈硬化症および/または関節リウマチである。
【0105】
糖尿病または糖尿病に伴う合併症の処置および/または予防のための例示的な薬物は、インスリン、たとえばヒトインスリン、またはヒトインスリン類似体もしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GLP-1類似体もしくはGLP-1受容体アゴニスト、またはその類似体もしくは誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、または薬学的に許容される塩もしくはその溶媒和物、またはそれらの任意の混合物を含む。本明細書において使用される用語「誘導体」は、元の物質と構造的に十分同様のものであり、それによって同様の機能または活性(たとえば治療効果性)を有することができる任意の物質を指す。
【0106】
例示的なインスリン類似体は、Gly(A21),Arg(B31),Arg(B32)ヒトインスリン(インスリングラルギン);Lys(B3),Glu(B29)ヒトインスリン;Lys(B28),Pro(B29)ヒトインスリン;Asp(B28)ヒトインスリン;B28位におけるプロリンがAsp、Lys、Leu、Val、またはAlaで置き換えられており、B29位において、LysがProで置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28-B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0107】
例示的なインスリン誘導体は、たとえば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(N-リトコリル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン、およびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。例示的なGLP-1、GLP-1類似体およびGLP-1受容体アゴニストは、たとえば:リキシセナチド(Lixisenatide)/AVE0010/ZP10/リキスミア(Lyxumia)、エキセナチド(Exenatide)/エクセンディン-4(Exendin-4)/バイエッタ(Byetta)/ビデュリオン(Bydureon)/ITCA650/AC-2993(アメリカドクトカゲの唾液腺によって産生される39アミノ酸ペプチド)、リラグルチド(Liraglutide)/ビクトザ(Victoza)、セマグルチド(Semaglutide)、タスポグルチド(Taspoglutide)、シンクリア(Syncria)/アルビグルチド(Albiglutide)、デュラグルチド(Dulaglutide)、rエクセンディン-4、CJC-1134-PC、PB-1023、TTP-054、ラングレナチド(Langlenatide)/HM-11260C、CM-3、GLP-1エリゲン、ORMD-0901、NN-9924、NN-9926、NN-9927、ノデキセン(Nodexen)、ビアドール(Viador)-GLP-1、CVX-096、ZYOG-1、ZYD-1、GSK-2374697、DA-3091、MAR-701、MAR709、ZP-2929、ZP-3022、TT-401、BHM-034、MOD-6030、CAM-2036、DA-15864、ARI-2651、ARI-2255、エキセナチド(Exenatide)-XTENおよびグルカゴン-Xtenである。
【0108】
例示的なオリゴヌクレオチドは、たとえば:家族性高コレステロール血症の処置のためのコレステロール低下アンチセンス治療薬である、ミポメルセン(mipomersen)/キナムロ(Kynamro)である。
【0109】
例示的なDPP4阻害剤は、ビルダグリプチン(Vildagliptin)、シタグリプチン(Sitagliptin)、デナグリプチン(Denagliptin)、サキサグリプチン(Saxagliptin)、ベルベリン(Berberine)である。
【0110】
例示的なホルモンは、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(ソマトロピン)、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、ロイプロレリン、ブセレリン、ナファレリン、およびゴセレリンなどの、脳下垂体ホルモンまたは視床下部ホルモンまたは調節性活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニストを含む。
【0111】
例示的な多糖類は、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリン、もしくは超低分子量ヘパリン、またはそれらの誘導体、または上述の多糖類の硫酸化形態、たとえば、ポリ硫酸化形態、および/または、薬学的に許容されるそれらの塩を含む。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容される塩の例としては、エノキサパリンナトリウムがある。ヒアルロン酸誘導体の例としては、HylanG-F20/Synvisc、ヒアルロン酸ナトリウムがある。
【0112】
本明細書において使用する用語「抗体」は、免疫グロブリン分子またはその抗原結合部分を指す。免疫グロブリン分子の抗原結合部分の例は、抗原を結合する能力を保持するF(ab)およびF(ab’)2フラグメントを含む。抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、組換え型、キメラ型、非免疫型またはヒト化、完全ヒト型、非ヒト型(たとえばマウス)、または一本鎖抗体とすることができる。いくつかの実施形態では、抗体はエフェクター機能を有し、補体を固定することができる。いくつかの実施形態では、抗体は、Fc受容体と結合する能力が低く、または結合することはできない。たとえば、抗体は、アイソタイプもしくはサブタイプ、抗体フラグメントまたは変異体とすることができ、Fc受容体との結合を支持せず、たとえば、これは、突然変異したまたは欠失したFc受容体結合領域を有する。
【0113】
用語「フラグメント」または「抗体フラグメント」は、全長抗体ポリペプチドを含まないが、抗原と結合することができる全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部分を依然として含む、抗体ポリペプチド分子(たとえば、抗体重鎖および/または軽鎖ポリペプチド)由来のポリペプチドを指す。抗体フラグメントは、全長抗体ポリペププチドの切断された部分を含むことができるが、この用語はそのような切断されたフラグメントに限定されない。本開示に有用である抗体フラグメントは、たとえば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、scFv(一本鎖Fv)フラグメント、直鎖抗体、二重特異性、三重特異性、および多重特異性抗体(たとえば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)などの単一特異性または多重特異性抗体フラグメント、ミニボディ、キレート組換え抗体、トリボディまたはバイボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュラー免疫薬(SMIP)、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、およびVHH含有抗体を含む。抗原結合抗体フラグメントのさらなる例は、当技術分野で知られている。
【0114】
用語「相補性決定領域」または「CDR」は、特異的抗原認識を仲介する役割を主に担う重鎖および軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内の短いポリペプチド配列を指す。用語「フレームワーク領域」は、CDR配列ではなく、CDR配列の正しい位置決めを維持して抗原結合を可能にする役割を主に担う重鎖および軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内のアミノ酸配列を指す。フレームワーク領域自体は、通常、当技術分野で知られているように、抗原結合に直接的に関与しないが、特定の抗体のフレームワーク領域内の特定の残基が、抗原結合に直接的に関与することができ、またはCDR内の1つまたはそれ以上のアミノ酸が抗原と相互作用する能力に影響を与えることができる。
【0115】
例示的な抗体は、アンチPCSK-9mAb(たとえばアリロクマブ(Alirocumab))、アンチIL-6mAb(たとえばサリルマブ(Sarilumab))、およびアンチIL-4mAb(たとえばデュピルマブ(Dupilumab))である。
【0116】
本明細書において説明される化合物は、(a)化合物または薬学的に許容されるその塩、および(b)薬学的に許容される担体を含む医薬製剤において使用することができる。化合物はまた、1つまたはそれ以上の他の医薬品有効成分を含む医薬製剤、または存在する化合物またはその薬学的に許容される塩が唯一の有効成分である医薬製剤において使用することもできる。したがって、本開示の医薬製剤は、本明細書において説明される化合物および薬学的に許容される担体を混合することによって作られる任意の製剤を包含する。
【0117】
本明細書において説明される任意の薬物の薬学的に許容される塩もまた、薬物送達デバイスにおける使用に企図される。薬学的に許容される塩は、たとえば酸付加塩および塩基性塩である。酸付加塩は、たとえば、HClまたはHBr塩である。塩基性塩は、たとえば、アルカリもしくはアルカリ土類金属、たとえばNa+、もしくはK+、もしくはCa2+、またはアンモニウムイオンN+(R1)(R2)(R3)(R4)(式中、R1からR4は互いに独立して:水素、場合により置換されたC1~C6-アルキル基、場合により置換されたC2~C6-アルケニル基、場合により置換されたC6~C10-アリル基、または場合により置換されたC6~C10-ヘテロアリール基を意味する)から選択されるカチオンを有する塩である。薬学的に許容される塩のさらなる例は、当業者に知られている。
【0118】
薬学的に許容される溶媒和物は、たとえば、水和物またはメタノラート(methanolate)またはエタノラート(ethanolate)などのアルカノラート(alkanolate)である。
【0119】
当業者には、本明細書に記載の物質、配合物、装置、方法、システムおよび諸実施形態の様々な構成要素の修正(追加および/または除去)が、このような修正、およびありとあらゆるその等価物を包含する本開示の全範囲および趣旨から逸脱せずに加えられることが理解されよう。
【符号の説明】
【0120】
1 制御ループ
2 人体
3 血糖センサ
4 コントローラ
4.1 ボーラス計算機
4.2 比較器
5 薬物送達デバイス
5.1 インスリンペン
5.2 インスリンポンプ
5.3 インスリンペン
6 装置
7 接続
8 不感時間要素
9 人体モデル
10 薬物送達デバイス
11 ハウジング
12 キャップアセンブリ
13 ニードルスリーブ
17 針
20 遠位領域
21 近位領域
22 ボタン
23 ピストン
A 身体活動
B ボーラス
C 糖尿病の特性
CE 糖質交換
E 外部条件
T インスリンのタイプ
X 長手方向軸
PS 患者特性