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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】環状ヘミアセタール化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/20 20060101AFI20240219BHJP
   B01J 31/28 20060101ALI20240219BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240219BHJP
【FI】
C07D307/20
B01J31/28 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020530036
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2019022241
(87)【国際公開番号】W WO2020012830
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2018133166
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】中川 寛之
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-273465(JP,A)
【文献】特開2001-055353(JP,A)
【文献】特開平09-052888(JP,A)
【文献】特開昭60-019781(JP,A)
【文献】国際公開第2014/196530(WO,A1)
【文献】特開昭62-201881(JP,A)
【文献】特開平05-320087(JP,A)
【文献】特開2007-320944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 307/20
B01J 31/28
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第8族から第10族の遷移金属化合物、第3級ホスファイト配位子および塩基の存在下、下記一般式(I)で表される不飽和結合を有するアルコール、一酸化炭素および水素を反応させることにより、下記一般式(II)で表されるヘミアセタール化合物を製造する方法であって、下記式(1)で表されるA値が0.0~4.0であり、下記式(2)で表されるB値が0.6~1.0であり、前記第8族から第10族の遷移金属化合物の濃度が、当該遷移金属化合物に含まれる第8族から第10族の遷移金属原子換算で、0.01~0.30mMである、製造方法。
【化1】

(一般式(I)中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、および置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる1種を表す。R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、および置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる1種を表す。nは1または2を表す。)
【化2】

(一般式(II)中、R~Rおよびnは前記の通りである。)
【数1】

【数2】

(式(1)および(2)中、Tは反応温度(K)、xは反応系内における塩基の濃度(mM)(ただしxは30以上500以下である)、[M]は反応系内における第8族から第10族の遷移金属化合物に由来する第8族から第10族の遷移金属原子の濃度(mM)、tはバッチ反応においては反応時間(hr)、連続反応においては滞留時間(hr)を表す。)
【請求項2】
前記第8族から第10族の遷移金属化合物がロジウム化合物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(I)において、RおよびRが水素原子である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(I)で表される不飽和結合を有するアルコールがメタリルアルコールまたは3-メチル-3-ブテン-1-オールである、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記第3級ホスファイト配位子がトリアリールホスファイトである、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記第3級ホスファイト配位子が下記一般式(III)で表される、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【化3】

(一般式(III)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、および置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基からなる群から選ばれる1種を表す。)
【請求項7】
前記塩基が第3級アミンである、請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ヘミアセタール化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和化合物を水素および一酸化炭素と反応させてアルデヒドを製造する方法はヒドロホルミル化反応(あるいはオキソ反応)とよばれており、工業的に有用である。ヒドロホルミル化反応では、通常、触媒としてコバルト化合物やロジウム化合物が用いられている。
【0003】
不飽和結合を有するアルコールをヒドロホルミル化して環状ヘミアセタール化合物を製造することは公知であり、数多くの例が報告されている。例えば、アリルアルコール(特許文献1)、メタアリルアルコール(特許文献2)、または3-メチル-3-ブテン-1-オール(特許文献3)をヒドロホルミル化して、それぞれ対応する環状ヘミアセタール化合物を合成する方法が知られている。
【0004】
ところで、触媒として使用される遷移金属触媒は一般に高価であり、単蒸発などの操作によって環状ヘミアセタール化合物と触媒成分とを分離し、触媒を再利用する場合がある。例えば、特許文献4には、オレフィン性化合物をヒドロホルミル化してアルデヒドを製造する際に、耐熱性の高い特定のビスホスファイト化合物を配位子として用いることで、反応生成物の分離工程においても分解・変質することなく安定に存在し、反応生成物分離後の反応液をそのままアルデヒド製造用反応器に再循環できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-320087号公報
【文献】特開平9-52888号公報
【文献】特開昭62-201881号公報
【文献】特開平11-130720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1~3に開示の環状ヘミアセタール化合物の製造方法では、その収率において未だ改善の余地がある。また、上記ヒドロホルミル化反応において生成する環状ヘミアセタール化合物は安定性に欠けることが多く、得られる反応混合液中には多くの高沸成分が含まれやすいが、反応混合液がこのような高沸成分を多く含むと反応混合液から単蒸発などにより目的とする環状ヘミアセタール化合物を分離する際にその回収率が悪化する。特に上記のように触媒を再利用する場合、反応混合液中に高沸成分が多く含まれていると再利用の回数が増すに従い高沸成分の含有量も多くなって上記回収率がより悪化するため、このような高沸成分の生成は触媒の再利用を妨げる原因にもなる。そのため、反応混合液中の高沸成分を抑制することが求められる。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑み、高沸成分の生成を抑制しつつ、温和な条件で簡便に収率よく環状ヘミアセタール化合物を製造することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、不飽和結合を有する特定のアルコールをヒドロホルミル化して特定の環状ヘミアセタール化合物を製造する際に特定の反応条件を採用することにより、前記課題が解決できることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本願開示は、以下に関する。
[1]第8族から第10族の遷移金属化合物、第3級ホスファイト配位子および塩基の存在下、下記一般式(I)で表される不飽和結合を有するアルコール(以下、「不飽和アルコール(I)」という場合がある)、一酸化炭素および水素を反応させることにより、下記一般式(II)で表されるヘミアセタール化合物(以下、「環状ヘミアセタール化合物(II)」という場合がある)を製造する方法であって、下記式(1)で表されるA値が0.0~4.0であり、下記式(2)で表されるB値が0.6~1.0である、製造方法。
【0010】
【化1】

(一般式(I)中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、および置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる1種を表す。nは1または2を表す。)
【0011】
【化2】

(一般式(II)中、R~Rおよびnは前記の通りである。)
【0012】
【数1】
【0013】
【数2】

(式(1)および(2)中、Tは反応温度(K)、xは反応系内における塩基の濃度(mM)(ただしx≦500である)、[M]は反応系内における第8族から第10族の遷移金属化合物に由来する第8族から第10族の遷移金属原子の濃度(mM)、tはバッチ反応においては反応時間(hr)、連続反応においては滞留時間(hr)を表す。)
[2]前記第8族から第10族の遷移金属化合物がロジウム化合物である、[1]に記載の製造方法。
[3]前記一般式(I)において、RおよびRが水素原子である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記一般式(I)で表される不飽和結合を有するアルコールがメタリルアルコールまたは3-メチル-3-ブテン-1-オールである、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記第3級ホスファイト配位子がトリアリールホスファイトである、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記第3級ホスファイト配位子が下記一般式(III)で表される、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
【化3】

(一般式(III)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、および置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基からなる群から選ばれる1種を表す。)
[7]前記塩基が第3級アミンである、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高沸成分の生成を抑制しつつ、温和な条件で簡便に収率よく環状ヘミアセタール化合物を製造することのできる方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
環状ヘミアセタール化合物(II)を製造するための本発明の方法では、第8族から第10族の遷移金属化合物、第3級ホスファイト配位子および塩基の存在下、不飽和アルコール(I)、一酸化炭素および水素を反応させる(以下、当該反応を「ヒドロホルミル化反応」という場合がある)。そして、本発明の方法では、下記式(1)で表されるA値が0.0~4.0であり、下記式(2)で表されるB値が0.6~1.0である。
【0017】
【数3】
【0018】
【数4】
【0019】
上記式(1)および式(2)中、Tは反応温度(K)、xは反応系内における塩基の濃度(mM)(ただしx≦500である)、[M]は反応系内における第8族から第10族の遷移金属化合物に由来する第8族から第10族の遷移金属原子の濃度(mM)、tはバッチ反応においては反応時間(hr)、連続反応においては滞留時間(hr)を表す。
【0020】
・A値およびB値
上記式(1)で表されるA値は、環状ヘミアセタール化合物(II)の選択率に関連し、A値が低い方が環状ヘミアセタール化合物(II)の選択率が高くなる傾向がある。本発明においてA値は0.0~4.0の範囲内にあることが必要であり、これにより、反応混合液中に含まれる高沸成分の生成を抑制することができる。A値が4.0を超えると、反応混合液中に含まれる高沸成分の含有量が多くなり、触媒の再利用が困難となるおそれがある。このような観点から、A値は、3.5以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.5以下であることがさらに好ましく、2.2以下であることが特に好ましい。
【0021】
A値は反応温度T(単位:K)と反応系内における塩基の濃度x(単位:mM)との関数である。例えば、反応温度Tを高くするとA値は大きくなり、塩基の濃度xを高くするとA値は小さくなる。
【0022】
上記式(2)で表されるB値は、不飽和アルコール(I)の転化率に関連し、B値が高い方が不飽和アルコール(I)の転化率が高くなる傾向がある。本発明においてB値は0.6~1.0であることが必要であり、これにより、反応混合液中に含まれる高沸成分の生成を抑制しつつ収率よく目的とする環状ヘミアセタール化合物(II)を得ることができる。B値が0.6未満であると、不飽和アルコール(I)の転化率が低くなり、目的とする環状ヘミアセタール化合物(II)の収率が低下する。このような観点から、B値は、0.70以上であることが好ましく、0.75以上であることがより好ましく、0.80以上であることがさらに好ましい。
【0023】
B値は反応温度T(単位:K)、反応系内における塩基の濃度x(単位:mM)、反応系内における第8族から第10族の遷移金属化合物に由来する第8族から第10族の遷移金属原子の濃度[M](単位:mM)、および反応時間ないし滞留時間t(単位:hr)の関数である。例えば、反応温度Tや、反応系内における第8族から第10族の遷移金属化合物に由来する第8族から第10族の遷移金属原子の濃度[M]を高くするとB値は大きくなる。また、反応時間ないし滞留時間tを長くしてもB値は大きくなりやすい。一方、反応系内における塩基の濃度xを高くするとB値は小さくなる傾向がある。
【0024】
なお、上記式(1)および(2)において、反応温度が一定でない場合には、各反応温度を時間で重み付けした平均値を反応温度Tとすればよい。例えば、温度T1(K)で2時間反応した後に温度T2(K)で1時間反応した場合には、その平均値である(T1×2+T2×1)/3を反応温度Tとすればよい。同様に、反応系内における塩基の濃度xおよび/または反応系内における第8族から第10族の遷移金属化合物に由来する第8族から第10族の遷移金属原子の濃度[M]が一定でない場合には、それぞれ、各濃度を時間で重み付けした平均値をこれらの濃度xないし濃度[M]とすればよい。また、バッチ反応における反応時間tは、通常、ヒドロホルミル化反応に要したトータル時間に相当し、途中で反応を中断した場合には当該中断した時間を除外した実際の反応時間の合計時間を反応時間tとすればよく、連続反応における滞留時間tについても同様である。
【0025】
・環状ヘミアセタール化合物(II)
本発明の製造方法により得られる環状ヘミアセタール化合物(II)は、下記一般式(II)で表される。
【0026】
【化4】
【0027】
一般式(II)中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、および置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる1種を表す。nは1または2を表す。なお、nが2の場合、複数存在するRおよびRは、それぞれ、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0028】
炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。中でも、反応活性の観点から、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0029】
炭素数6~12のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基などが挙げられる。中でも、フェニル基が好ましい。
【0030】
炭素数1~6のアルキル基および炭素数6~12のアリール基が有してもよい置換基としては、例えば、水酸基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2-メトキシエトキシ基、2-エトキシエトキシ基、フリル基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、ビフェニルオキシ基、ナフチルオキシ基等のアルコキシ基またはエーテル基;アセチル基、ベンゾイル基等のケトン基;ホルミル基等のアルデヒド基;カルボン酸基およびその金属塩;アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシルオキシ基;メトキシカルボニルオキシ基、フェノキシカルボニルオキシ基等の炭酸エステル基;シアノ基;メチルスルファニル基、フェニルスルファニル基等のスルフィド基;メチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基等のスルホキシド基;メチルスルホニル基、フェニルスルホニル基等のスルホニル基;スルホン酸基およびその金属塩;トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等のシリル基;ジメチルホスフィノ基、ジブチルホスフィノ基、ジフェニルホスフィノ基等のホスフィノ基;オキソジメチルホスフィノ基、オキソジブチルホスフィノ基、オキソジフェニルホスフィノ基等のホスフィンオキシド基;ホスホン酸基およびその金属塩;クロル基、ブロモ基等のハロゲン基などが挙げられる。
【0031】
環状ヘミアセタール化合物(II)の具体例としては、2-ヒドロキシテトラヒドロフラン、2-ヒドロキシ-4-メチルテトラヒドロフラン、2-ヒドロキシ-3-メチルテトラヒドロフラン、2-ヒドロキシ-3,3-ジメチルテトラヒドロフラン、2-ヒドロキシ-3-エチルテトラヒドロフラン、2-ヒドロキシ-4-エチルテトラヒドロフラン、2-ヒドロキシ-3-フェニルテトラヒドロフラン、2-ヒドロキシ-4-フェニルテトラヒドロフラン、2-ヒドロキシテトラヒドロピラン、2-ヒドロキシ-3-メチルテトラヒドロピラン、2-ヒドロキシ-4-メチルテトラヒドロピラン、2-ヒドロキシ-5-メチルテトラヒドロピランなどが挙げられる。
【0032】
・不飽和アルコール(I)
本発明で用いる不飽和アルコール(I)は、下記一般式(I)で表される。
【0033】
【化5】
【0034】
一般式(I)中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、および置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる1種を表す。nは1または2を表す。なお、nが2の場合、複数存在するRおよびRは、それぞれ、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0035】
炭素数1~6のアルキル基としては、上記一般式(II)中のR~Rが表す炭素数1~6のアルキル基として例示したものと同じものが挙げられる。中でも、反応活性の観点から、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
炭素数6~12のアリール基としては、上記一般式(II)中のR~Rが表す炭素数6~12のアリール基として例示したものと同じものが挙げられる。中でも、フェニル基が好ましい。
炭素数1~6のアルキル基および炭素数6~12のアリール基が有してもよい置換基としては、上記一般式(II)中のR~Rが表す炭素数1~6のアルキル基および炭素数6~12のアリール基が有してもよい置換基として例示したものと同じものが挙げられる。
【0036】
上記一般式(I)において、反応活性の観点から、RおよびRは水素原子であることが好ましい。上記一般式(I)において、Rは置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基であることが好ましく、置換基を有さない炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。上記一般式(I)において、RおよびRは水素原子であることが好ましい。
【0037】
不飽和アルコール(I)の具体例としては、アリルアルコール、メタリルアルコール、2-ブテン-1-オール、3-メチル-2-ブテン-1-オール、2-ペンテン-1-オール、2-エチル-2-プロペン-1-オール、3-フェニル-2-プロペン-1-オール、2-フェニル-2-プロペン-1-オール、3-ブテン-1-オール、3-ペンテン-1-オール、3-メチル-3-ブテン-1-オール、2-メチル-3-ブテン-1-オールが挙げられる。中でも、反応活性の観点から、メタリルアルコール、3-メチル-3-ブテン-1-オールが好ましく、メタリルアルコールがより好ましい。
【0038】
・第8族から第10族の遷移金属化合物
本発明で用いる第8族から第10族の遷移金属化合物は、周期表第8族から第10族の遷移金属を含む化合物であり、それ自体でヒドロホルミル化反応の触媒能を有していてもよいし、後述する第3級ホスファイト配位子が配位するなどしてヒドロホルミル化反応の触媒として機能するものであってもよい。第8族から第10族の遷移金属化合物としては、例えば、ロジウム化合物、コバルト化合物、ルテニウム化合物、イリジウム化合物などが挙げられる。反応活性の観点から、ロジウム化合物、コバルト化合物が好ましく、ロジウム化合物が特に好ましい。
【0039】
ロジウム化合物としては、ヒドロホルミル化反応の触媒能を有するか、またはヒドロホルミル化反応条件下にヒドロホルミル化反応の触媒能を有するように変化する任意のロジウム化合物を使用することができる。かかるロジウム化合物の具体例としては、例えば、Rh(CO)12、Rh(CO)16、Rh(acac)(CO)、酸化ロジウム、塩化ロジウム、アセチルアセトナトロジウム、酢酸ロジウムなどが挙げられる。これらのロジウム化合物は、市販のものを用いてもよいが、硝酸ロジウム、硫酸ロジウム、三塩化ロジウム、酸化ロジウム等の無機ロジウム化合物;酢酸ロジウム等のロジウム有機酸塩;ロジウムの各種塩やカルボニル化合物などを用いて公知の方法により合成してもよい。
【0040】
ヒドロホルミル化反応を行うに際して、第8族から第10族の遷移金属化合物の濃度は、当該遷移金属化合物に含まれる第8族から第10族の遷移金属原子換算で、0.01~0.30mMの低濃度の濃度範囲に設定することが好ましく、0.02~0.15mMの範囲に設定することがより好ましい。
【0041】
・第3級ホスファイト配位子
本発明で用いる第3級ホスファイト配位子に特に制限はないが、反応活性の観点から、トリアリールホスファイトが好ましく、下記一般式(III)で表される第3級ホスファイト配位子がより好ましい。
【0042】
【化6】
【0043】
一般式(III)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、および置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基からなる群から選ばれる1種を表す。なお、複数存在するRおよびRは、それぞれ、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、互いに同一であることが好ましい。
【0044】
炭素数1~6のアルキル基としては、上記一般式(II)中のR~Rが表す炭素数1~6のアルキル基として例示したものと同じものが挙げられる。炭素数1~6のアルキル基が有してもよい置換基としては、上記一般式(II)中のR~Rが表す炭素数1~6のアルキル基および炭素数6~12のアリール基が有してもよい置換基として例示したものと同じものが挙げられる。反応活性の観点から、RおよびRは、それぞれ、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基が好ましく、置換基を有さない炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、メチル基、t-ブチル基、エチル基がさらに好ましい。
【0045】
上記第3級ホスファイト配位子の具体例としては、例えば、トリス(2-メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6-ジメチルフェニル)ホスファイト、トリス(2-イソプロピルフェニル)ホスファイト、トリス(2-フェニルフェニル)ホスファイト、トリス(2-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2-t-ブチル-5-メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、ビス(2-メチルフェニル)(2-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2-t-ブチルフェニル)(2-メチルフェニル)ホスファイトなどが挙げられる。中でも、トリス(2-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2-t-ブチル-5-メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトが、本発明を工業的に実施する上で好ましい。
なお、第3級ホスファイト配位子は、1種のみ使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
第3級ホスファイト配位子は、第8族から第10族の遷移金属化合物に含まれる第8族から第10族の遷移金属1原子に対してリン原子換算で10~200モル倍の範囲で使用することが好ましい。第3級ホスファイト配位子の使用量が上記下限以上であると、ヒドロホルミル化反応における選択率を高めることができるとともに、反応混合液から生成物を蒸発分離する際に触媒の熱劣化が抑えられ、触媒活性の低下を抑制することができる。また、第3級ホスファイト配位子の使用量が上記上限以下であると、ヒドロホルミル化反応の速度低下を抑制することができる。
【0047】
・塩基
本発明においては、塩基の存在下でヒドロホルミル化反応を行うことにより、高沸成分の生成を抑制し、目的とする環状ヘミアセタール化合物(II)の収率を高めることができる。塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の無機塩基;第3級アミン、ピリジン化合物、キノリン化合物、イミダゾール化合物等の有機塩基が挙げられる。これらの中でも有機塩基が好ましく、第3級アミンがより好ましい。
【0048】
第3級アミンとしては、例えば、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリオクチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、メチルジシクロヘキシルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルドデシルアミン等のモノアミン;テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチルプロパンジアミン、テトラメチルヘキサメチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N’-ジメチルピペラジン、テトラメチルトルエンジアミン等のジアミン;ペンタメチルジエチレントリアミン等のトリアミンなどが挙げられる。第3級アミンは、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシアルキル基などの置換基を有してもよく、例えば、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアミノアルコールであってもよい。第3級アミンは、モノアミン、アミノアルコールであることが好ましく、トリオクチルアミン、トリエタノールアミンがより好ましい。
【0049】
ピリジン化合物としては、例えば、ピリジン、ピコリン、ルチジン、フェニルピリジン、ニコチン酸などが挙げられる。キノリン化合物としては、例えば、キノリン、イソキノリン、メチルキノリン、フェニルキノリンなどが挙げられる。イミダゾール化合物としては、例えば、イミダゾール、N-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、ベンゾイミダゾールなどが挙げられる。
【0050】
塩基は、不飽和アルコール(I)のヒドロホルミル化反応を行う前に反応液に添加すればよく、具体的な添加方法に特に制限はない。塩基は、反応成績の他、製造コストなども勘案しながら、A値およびB値が本発明の規定を満足する範囲内で反応系内における塩基の濃度が500mM(ミリモル/リットル)以下となるように使用すればよく、200mM以下となるように使用することが好ましく、150mM以下となるように使用することがより好ましく、80mM以下、さらには50mM以下としてもよく、また、1mM以上となるように使用することが好ましく、5mM以上となるように使用することがより好ましく、10mM以上、20mM以上、さらには30mM以上としてもよい。反応系内における塩基の濃度が上記上限以下であることにより反応速度の低下をより効果的に抑制することができ、また、上記下限以上であることにより高沸成分の生成をより効果的に抑制することができる。
【0051】
・ヒドロホルミル化反応
ヒドロホルミル化反応の反応温度は、60~150℃の範囲が好ましく、70~120℃の範囲がより好ましく、80~110℃の範囲がさらに好ましい。反応温度が60℃以上であると反応速度が大きくなり、一方、反応温度が150℃以下であると触媒の安定性が維持しやすくなる。また、反応時間(連続反応においては滞留時間)は、好ましくは2~12時間、より好ましくは3~6時間である。
【0052】
一酸化炭素および水素は、例えば、これらの混合ガスとして用いることができる。当該混合ガスにおいて、水素/一酸化炭素のモル比は、入りガス組成として、1/5~5/1の範囲から選択することができる。なお、反応系中にヒドロホルミル化反応に対して不活性なガス、例えば、メタン、エタン、プロパン、窒素、ヘリウム、アルゴンなどが少量存在してもよい。
【0053】
反応圧力は反応温度にもよるが、5~20MPaG(ゲージ圧)の範囲が好ましく、7~15MPaGの範囲がより好ましく、8~10MPaGの範囲がさらに好ましい。反応圧力が5MPaG以上であるとヒドロホルミル化反応における環状ヘミアセタール化合物(II)の選択率を向上させることができる。一方、反応に使用する装置および操作性の観点から、反応圧力を20MPaG以下に保持して反応を実施することが工業的に有利である。反応は撹拌型反応槽または気泡塔型反応槽中でバッチ方式または連続方式で行うことができる。
【0054】
ヒドロホルミル化反応は、溶媒の不存在下に実施することもできるが、不活性な溶媒の存在下に行ってもよい。かかる溶媒としては、例えば、エタノール、ブタノール、エチレングリコール等のアルコール;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の飽和脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、プソイドクメン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン等のエーテルなどが挙げられる。
【0055】
ヒドロホルミル化反応によって生成する環状ヘミアセタール化合物(II)は、例えば、反応混合液を減圧下に蒸発させることにより、触媒と分離することができる。そして蒸発により得られた環状ヘミアセタール化合物(II)を含む留分を蒸留などの公知の手段を用いて精製することにより、環状ヘミアセタール化合物(II)を単離することができる。
なお、蒸発残渣中に含まれる第8族から第10族の遷移金属化合物(第3級ホスファイト配位子が配位したものであってもよい)の全部または一部を再びヒドロホルミル化反応に循環して再使用することも可能である。特にロジウム化合物は極めて高価であるため、ロジウム化合物の循環再使用は工業上有利である。
【0056】
ヒドロホルミル化反応後に得られる反応混合液中には、目的とする環状ヘミアセタール化合物(II)の他に、未反応原料、溶媒、低沸点あるいは高沸点の副生物などが存在し得る。ここで低沸点の副生物とは、目的とする環状ヘミアセタール化合物(II)よりも沸点の低い化合物を意味し、例えば、原料である不飽和アルコール(I)の水素化により生成した飽和アルコールや異性化により生成したアルデヒド化合物などが挙げられる。また、高沸点の副生物とは、目的とする環状ヘミアセタール化合物(II)よりも沸点の高い化合物を意味し、例えば、ヘミアセタールがアルコールと反応して生成したアセタール化合物などが挙げられる。
【0057】
一般に高沸点の副生物は高い粘性を有する場合が多く、上述のように蒸発残渣中に含まれる第8族から第10族の遷移金属化合物(第3級ホスファイト配位子が配位したものであってもよい)の全部または一部を再びヒドロホルミル化反応に循環して再使用する場合などにおいては、目的とする環状ヘミアセタール化合物の回収率の観点も踏まえると、高沸点の副生物の含有量は可能な限り低いことが望ましい。
本発明の環状ヘミアセタール化合物(II)の製造方法によれば、上記の式(1)および式(2)で規定されるA値およびB値が上記の範囲内であることにより、反応混合液中に含まれる特定の高沸成分の生成を抑制することができるため、触媒の再利用がしやすくなる。これにより、より簡便に収率よく目的とする環状ヘミアセタール化合物(II)を製造することができる。
【実施例
【0058】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、本実施例において、ガスクロマトグラフィー分析および高速液体クロマトグラフィー分析は以下の条件で行い、環状ヘミアセタール化合物(II)の収率ないし高沸点の副生物の生成量は検量線法による内部標準法により求めた。
【0059】
[ガスクロマトグラフィー分析の条件]
分析機器:GC-2014(株式会社島津製作所製)
検出器:FID(水素炎イオン化型検出器)
カラム:DB-WAX(長さ30m、膜厚0.25μm、内径0.25mm)(アジレント・テクノロジー株式会社製)
分析条件:Injection温度:250℃、Detection温度:250℃
昇温条件:50℃(2分保持)→(8℃/分で昇温)→160℃(5分保持)→(15℃/分で昇温)→240℃(5分保持)
【0060】
[高速液体クロマトグラフィー分析の条件]
検出器:示差屈折率(RI)検出器
カラム:CHEMCOSORB 5Si(4.6mm×250mm)(株式会社ケムコプラス製)
溶離液:テトラヒドロフラン/ヘキサン=1/1(vol/vol)
流速:1mL/分
【0061】
<実施例1>
窒素雰囲気下、第3級ホスファイト配位子としてトリス(2-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト2.8g(5.4mmol)および第8族から第10族の遷移金属化合物としてRh(acac)(CO)15.5mg(0.060mmol)をトルエン150mLに溶解させた混合溶液を調製した(以下、これを「触媒液A」と称する)。
ガス導入口およびサンプリング口を備えた内容積100mLの電磁撹拌式オートクレーブに、窒素雰囲気下、触媒液A3.0mLおよび塩基としてトリエタノールアミン0.89g(6.0mmol)、不飽和アルコール(I)としてメタリルアルコール49g(0.68mol)を加えた(以下、これを「反応原液A」と称する)。このときの反応原液A中のRh濃度は0.02mM、第3級ホスファイト配位子の濃度は1.8mM、塩基(トリエタノールアミン)の濃度は100mMとなる。
オートクレーブ内を一酸化炭素:水素=1:1(モル比)の混合ガスで5MPaGとした後、撹拌しながらオートクレーブ内の温度を110℃となるように30分間かけて昇温した。次いで、全圧が9.8MPaGとなるように昇圧した後、5時間反応させて反応混合液を得た。反応中、一酸化炭素:水素=1:1(モル比)の混合ガスを常時供給し、反応系内の圧力を一定に保った。A値は1.9となり、B値は0.77となる。
得られた反応混合液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、メタリルアルコールの転化率は99%、環状ヘミアセタール化合物(II)である2-ヒドロキシ-4-メチルテトラヒドロフランの収率は87%であった。
【0062】
<参考例>
実施例1で得られた反応混合液の一部を濃縮して環状ヘミアセタール化合物(II)(2-ヒドロキシ-4-メチルテトラヒドロフラン)よりも沸点の低い化合物を留去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィーにて精製した。展開溶媒には酢酸エチル/ヘキサン=1/1(vol/vol)の混合溶媒を用いた。これにより特定の高沸点の副生物(以下、高沸成分Iと称する)を得た。これを用いて実施例1で得られた反応混合液を液体クロマトグラフィーにて分析したところ、高沸成分Iが1.0質量%含まれていた。
【0063】
<実施例2および比較例1,2>
塩基(トリエタノールアミン)の濃度、反応温度および反応時間を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様の条件下でメタリルアルコールのヒドロホルミル化反応を行った。そのときのA値、B値および反応成績を表2に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
*1:反応混合液から単蒸発により環状ヘミアセタール化合物(II)を除去した後のRh触媒を含む残渣を触媒として再利用してさらに4回(合計5回)ヒドロホルミル化反応を行った後に単蒸発したときの環状ヘミアセタール化合物(II)の回収率
なお、当該回収率は以下の基準により評価した。
A:90%以上
B:80%以上90%未満
C:80%未満
【0067】
A値およびB値が本発明の規定を満たす実施例1および2では、メタリルアルコールの転化率が高く、環状ヘミアセタール化合物(II)の収率も高いことがわかる。また、高沸成分Iの生成量が少なく、触媒を再利用した後に単蒸発したときの環状ヘミアセタール化合物(II)の回収率が高いことがわかる。一方、B値が本発明の規定を満たさない比較例1では、メタリルアルコールの転化率が32%と低く、環状ヘミアセタール化合物(II)の収率も28%と低いことがわかる。また、A値が本発明の規定を満たさない比較例2では、高沸成分Iの生成量が3.7質量%と高く、触媒を再利用した後に単蒸発したときの環状ヘミアセタール化合物(II)の回収率が低いことがわかる。
【0068】
<実施例3>
窒素雰囲気下、第3級ホスファイト配位子としてトリス(2-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト16.9g(32mmol)および第8族から第10族の遷移金属化合物としてRh(acac)(CO)92.9mg(0.36mmol)をトルエン150mLに溶解させた混合溶液を調製した(以下、これを「触媒液B」と称する)。
ガス導入口、サンプリング口、フィードポンプおよび気液分離管を備えた内容積100mLの電磁撹拌式オートクレーブに、窒素雰囲気下、触媒液B3.0mLおよび塩基としてトリエタノールアミン90mg(0.60mmol)、不飽和アルコール(I)としてメタリルアルコール49g(0.68mol)を加えた(以下、これを「反応原液B」と称する)。このときの反応原液B中のRh濃度は0.12mM、第3級ホスファイト配位子の濃度は11mM、塩基(トリエタノールアミン)の濃度は10mMとなる。
オートクレーブ内を一酸化炭素:水素=1:1(モル比)の混合ガスで5MPaGとした後、撹拌しながらオートクレーブ内の温度を90℃となるように30分間かけて昇温した。次いで、全圧が9MPaGとなるように昇圧した後、1時間反応させた。反応中、一酸化炭素:水素=1:1(モル比)の混合ガスを常時供給し、反応系内の圧力を一定に保った。
次いで、触媒液B、メタリルアルコールおよびトリエタノールアミンを、それぞれ0.75mL/hr、12.3g/hr、22.5mg/hrの速度でフィードし、反応器内の液が60mLを保つように反応器より気液分離管に留出させて反応混合液を得た。このときの滞留時間は4時間となる。また、A値は2.4となり、B値は0.88となる。
得られた反応混合液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、メタリルアルコールの転化率は78%、環状ヘミアセタール化合物(II)である2-ヒドロキシ-4-メチルテトラヒドロフランの収率は70%であった。また、高沸成分Iは1.3質量%含まれていた。
【0069】
<比較例3>
第3級ホスファイト配位子(トリス(2-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト)の濃度、Rh濃度、塩基(トリエタノールアミン)の濃度および反応温度を表3に示すように変更したこと以外は実施例3と同様の条件下でメタリルアルコールのヒドロホルミル化反応を行った。そのときのA値、B値および反応成績を表4に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
*2:反応混合液から単蒸発により環状ヘミアセタール化合物(II)を除去した後のRh触媒を含む残渣を触媒として再利用してさらに4回(合計5回)ヒドロホルミル化反応を行った後に単蒸発したときの環状ヘミアセタール化合物(II)の回収率
なお、当該回収率は以下の基準により評価した。
A:90%以上
B:80%以上90%未満
C:80%未満
【0073】
A値およびB値が本発明の規定を満たす実施例3では、メタリルアルコールの転化率が高く、環状ヘミアセタール化合物(II)の収率も高いことがわかる。また、高沸成分Iの生成量が少なく、触媒を再利用した後に単蒸発したときの環状ヘミアセタール化合物(II)の回収率が高いことがわかる。一方、A値が本発明の規定を満たさない比較例3では、高沸成分Iの生成量が5.5質量%と高く、触媒を再利用した後に単蒸発したときの環状ヘミアセタール化合物(II)の回収率が低いことがわかる。