(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】浸出液中の水素ガス注入による電池のリサイクル
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20240219BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20240219BHJP
C22B 3/20 20060101ALI20240219BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20240219BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B3/04
C22B3/20
C22B3/22
C22B23/00 102
(21)【出願番号】P 2021529332
(86)(22)【出願日】2019-11-18
(86)【国際出願番号】 EP2019081608
(87)【国際公開番号】W WO2020109045
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-11-17
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローデ,ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】アデルマン,トルベン
(72)【発明者】
【氏名】ゲルケ,ビルギット
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公告第00740797(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池から遷移金属を回収するためのプロセスであって、
機械的に処理された電池スクラップを、水素雰囲気または一酸化炭素を含有する雰囲気下で、400℃を超え、900℃以下の範囲の温度で、熱処理に供することで遷移金属材料を供給すること、
(a)
前記遷移金属材料を浸出剤で処理して、ニッケルおよび/またはコバルトの溶解塩を含有する浸出液を得ることと、
(b)
オートクレーブにおいて、150~280℃の温度および
45~60バールの分圧で、前記浸出液中に水素ガスを注入して、ニッケルおよび/またはコバルトを元素形態で沈殿させることと、
(c)工程(b)で得られた沈殿物の分離と、を含む、プロセス。
【請求項2】
前記水素ガスが、4を超えるpH値で前記浸出液中に注入される、
請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記浸出剤が、無機酸、有機酸、塩基、またはキレート剤を含む、
請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記遷移金属材料が、金属として、またはその化合物のうちの1つ以上の形態で1~30重量%のニッケルを含有する、請求項1~
3のいずれかに記載のプロセス。
【請求項5】
工程(a)では、前記浸出液が、ニッケルの溶解塩を含有し、工程(b)では、元素ニッケルが、任意選択的に、ニッケル還元触媒の存在下で沈殿する、請求項1~
4のいずれかに記載のプロセス。
【請求項6】
(a)前記遷移金属材料を前記浸出剤で処理して、ニッケルおよびコバルトの溶解塩を含有する前記浸出液を得ることと、
(b1)
オートクレーブにおいて、150~280℃の温度および45~60バールの分圧で、
かつニッケル還元触媒の存在下で、前記浸出液中に水素ガスを注入して、ニッケルを元素形態で沈殿させることと、
(c1)工程(b1)で得られた前記沈殿物を分離して、前記コバルトの溶解塩を含むコバルト溶液を得ることと、
(b2)
オートクレーブにおいて、150~280℃の温度および45~60バールの分圧で、
かつコバルト還元触媒の存在下で、前記コバルト溶液中に水素ガスを注入して、コバルトを元素形態で沈殿させることと、
(c2)工程(b2)で得られた前記沈殿物の分離と、を含む、請求項1~
5のいずれかに記載のプロセス。
【請求項7】
工程(c)において、前記沈殿物の前記分離が、磁気分離によって行われる、請求項1~
6のいずれかに記載のプロセス。
【請求項8】
前記遷移金属材料が、リチウムおよびその化合物、導電性形態の炭素、電解質に使用される溶媒、アルミニウムおよびアルミニウムの化合物、鉄および鉄化合物、亜鉛および亜鉛化合物、シリコンおよびシリコン化合物、スズ、シリコン-スズ合金、有機ポリマー、フッ化物、ならびにリンの化合物から選択される少なくとも1つの電池成分を含有する、請求項1~
7のいずれかに記載のプロセス。
【請求項9】
前記浸出液が、鉄、マンガン、リチウム、亜鉛、スズ、ジルコニウム、アルミニウム、タングステン、または銅の無機塩から選択される少なくとも1つのさらなる溶解成分を含有し、前記さらなる溶解成分が、工程(b)中、溶解形態のままである、請求項1~
8のいずれかに記載のプロセス。
【請求項10】
工程
(a1)前記浸出液からの非溶解固形物の除去、をさらに含む、請求項1~
9のいずれかに記載のプロセス。
【請求項11】
工程
(a2)前記浸出液のpH値を2.5~8に調整することと、
(a3)固液分離による、リン酸塩、酸化物、水酸化物、またはオキシ水酸化物の沈殿物を除去することと、をさらに含む、請求項1~
10のいずれかに記載のプロセス。
【請求項12】
工程
(a5)セメンテーションによる前記浸出液からの貴金属および/または銅を除去すること、をさらに含む、請求項1~
11のいずれかに記載のプロセス。
【請求項13】
工程
(a6)前記浸出液を含有する電解質の電気分解により、
前記浸出液に溶解した貴金属および/または銅不純物を元素貴金属および/または銅として粒子堆積カソード上に堆積させることにより、前記浸出液から貴金属および/または銅を除去すること、をさらに含む、請求項1~
12のいずれかに記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(a)遷移金属材料を浸出剤で処理して、ニッケルおよび/またはコバルトの溶解塩を含有する浸出液を得ることと、(b)100℃を超える温度および5バールを超える分圧で、浸出液中に水素ガスを注入して、ニッケルおよび/またはコバルトを元素形態で沈殿させることと、(c)工程(b)で得られた沈殿物の分離と、を含む電池から遷移金属を回収するためのプロセスに関する。好ましい実施形態と他の好ましい実施形態との組み合わせは、本発明の範囲内である。
【背景技術】
【0002】
電池、特にリチウムイオン電池の寿命は、無制限ではない。したがって、使い尽くした電池の数が増えることが予想される。それらは、限定するものではないがコバルトおよびニッケルなどの重要な遷移金属、さらにリチウムを含有するため、使い尽くした電池は、新世代の電池用の原材料の貴重な供給源となり得る。そのため、使用済みリチウムイオン電池から遷移金属-および、任意選択的に、リチウム-さえもリサイクルすることを目的にさらなる研究が行われている。
【0003】
原材料の回収には様々なプロセスが見出されている。1つのプロセスは、対応する電池スクラップの製錬と、それに続く製錬プロセスから得られた金属合金(マット)の湿式精錬処理に基づく。別のプロセスは、電池スクラップ材料の直接の湿式精錬処理である。そのような湿式精錬プロセスは、遷移金属を水溶液として、もしくは沈殿した形態で、例えば、別々に水酸化物として(DE-A-19842658)、またはDemidov et al.,Ru.J.of Applied chemistry 78,356(2005)によって提案されるように、前々から新しいカソード活物質を作製するための所望の化学量論で提供する。
【0004】
還元によって溶液からニッケルやコバルトのような遷移金属を沈殿させる湿式精錬プロセスは、一般に知られており、A.R.Burkin,Powder Metallurgy 12,243(1969)は、ニッケル沈殿に対する速度論的選好について説明する。そのようなプロセスは、特定の核剤の添加も含む(GB-A-740797)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】独国特許出願公開19842658号明細書
【文献】Demidov et al.,Ru.J.of Applied chemistry 78,356(2005)
【文献】A.R.Burkin,Powder Metallurgy 12,243(1969)
【文献】英国特許第740797号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明のプロセスによって様々な目的が追求される:ニッケルおよび/またはコバルトなどの遷移金属の容易で、安価で、迅速で、かつ/または効率的な回収。新しい不純物が、追加の精製工程を必要とするプロセスに導入されることを回避する。銅不純物を除去するための高い選択性。
【0007】
この目的は、
(a)遷移金属材料を浸出剤で処理して、ニッケルおよび/またはコバルトの溶解塩を含有する浸出液を得ることと、
(b)100℃を超える温度および5バールを超える分圧で、浸出液中に水素ガスを注入して、ニッケルおよび/またはコバルトを元素形態で沈殿させることと、
(c)工程(b)で得られた沈殿物の分離と、を含む電池から遷移金属を回収するためのプロセスによって達成される。
【0008】
リチウムイオン電池などの電池からの遷移金属の回収は、通常、遷移金属(例えば、ニッケル、コバルト、および/またはマンガン)ならびに任意選択的に、さらに有価元素(例えば、リチウムおよび/または炭素)は、典型的には、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、または95重量%の各々の回収率で、少なくとも部分的に回収することができる。好ましくは、少なくともニッケル、コバルトおよび/またはリチウムは、プロセスによって回収される。
【0009】
遷移金属および任意選択的に、さらに有価元素は、電池、好ましくは使用済みまたは新しい電池などのリチウムイオン電池、電池の部品、その規格外の材料(例えば、仕様および要件を満たさない)、または電池製造からの製造廃棄物から回収される。
【0010】
遷移金属材料は、通常、電池、好ましくはリチウムイオン電池に由来する材料である。安全上の理由から、そのような電池は、完全に放電され、さもなければ、火災および爆発の危険をもたらすショートカットが発生する場合がある。そのようなリチウムイオン電池は、例えば、ハンマーミルで分解、打ち抜き、粉砕、または例えば、工業用シュレッダーで細断され得る。この種の機械的処理から、規則的な形状を有し得るが通常は不規則な形状を有する遷移金属材料を含有する電池電極の活物質が得られ得る。しかしながら、例えば、強制的なガス流、空気分離、または分類において、有機プラスチックおよびアルミホイルまたは銅ホイルから作製されたハウジング部品などの軽質画分を可能な限り除去することが好ましい。遷移金属材料はまた、製錬電池スクラップから金属合金としても得られ得る。好ましくは、遷移金属材料は、リチウムイオン電池から得られ、リチウムを含有する。
【0011】
遷移金属材料は、しばしば、リチウムイオン電池などの電池スクラップからのものである。そのような電池スクラップは、使用済み電池または製造廃棄物、例えば規格外の材料に由来し得る。好ましい形態では、遷移金属材料は、機械的に処理された電池スクラップ、例えば、ハンマーミルまたは工業用シュレッダーで処理された電池スクラップから得られる。そのような遷移金属材料は、1μm~1cmの範囲、好ましくは1~500μm、特に3~250μmの範囲の平均粒子直径(D50)を有し得る。ハウジング、配線、および電極担体フィルムのような電池スクラップのより大きな部品は、通常、プロセスで用いられる遷移金属材料から対応する材料を広く除外することができるように、機械的に分離される。機械的に処理された電池スクラップは、遷移金属酸化物を集電体フィルムに結合するために、または例えばグラファイトを集電体フィルムに結合するために使用されるポリマー結合剤を溶解および分離するために溶媒処理に供され得る。好適な溶媒は、純粋な形態の、ここで挙げられるものの少なくとも2つの混合物としての、または1~99重量%の水との混合物としての、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルピロリドン、およびジメチルスルホキシドである。
【0012】
機械的に処理された電池スクラップは、異なる雰囲気下で広範囲の温度で熱処理に供され得る。温度範囲は、典型的には、100~900℃の範囲である。300℃未満の低温では、電池電解質から残留溶媒を蒸発させるのに役立ち、高温では、結合剤ポリマーが分解する場合があるが、400℃を超える温度では、一部の遷移金属酸化物が、スクラップ材料中に含有される炭素、または還元性ガスの導入のいずれかによって還元され得るため、無機材料の組成が変化する場合がある。そのような熱処理により、遷移金属材料の形態は、通常保持され、化学組成のみが変わる場合がある。しかしながら、そのような熱処理は、溶融遷移金属合金および溶融スラグが形成される製錬プロセスとは根本的に異なる。そのような熱処理の後、得られた材料は、選択的に容易な可溶性構成成分、特に熱処理中に形成されている可能性のあるリチウムの塩、例えば炭酸リチウムおよび水酸化リチウムを溶解するために、水または弱酸もしくは希酸で浸出され得る。一形態では、遷移金属材料は、熱処理された(例えば、100~900℃で)、および任意選択的に、水素雰囲気または一酸化炭素を含有する雰囲気下での電池スクラップの機械的処理から得られる。
【0013】
好ましくは、遷移金属材料は、機械的に処理された電池スクラップから得られるか、またはそれは、製錬電池スクラップから金属合金として得られる。
【0014】
遷移金属材料は、リチウムおよびその化合物、導電性形態の炭素(例えば、グラファイト、スート、およびグラフェン)、電解質に使用される溶媒(例えば、ジエチルカーボネートなどの有機カーボネート)、アルミニウムおよびアルミニウムの化合物(例えば、アルミナ)、鉄および鉄化合物、亜鉛および亜鉛化合物、シリコンおよびシリコン化合物(例えば、ゼロ<y<2のシリカおよび酸化シリコンSiOy)、スズ、ケイ素-スズ合金、ならびに有機ポリマー(ポリエチレン、ポリプロピレン、およびフッ素化ポリマー、例えばポリフッ化ビニリデンなど)、フッ化物、リン(phosphorous)の化合物(例えば、広く用いられているLiPF6の液体電解質およびLiPF6の加水分解に由来する生成物に由来し得る)を含有し得る。
【0015】
遷移金属材料は、金属として、またはその化合物のうちの1つ以上の形態で、1~30重量%、好ましくは3~25重量%、特に8~16重量%のニッケルを含有し得る。
【0016】
遷移金属材料は、金属として、またはその化合物のうちの1つ以上の形態で、1~30重量%、好ましくは3~25重量%、特に8~16重量%のコバルトを含有し得る。
【0017】
遷移金属材料は、金属として、またはその化合物のうちの1つ以上の形態で、1~30重量%、好ましくは3~25重量%、特に8~16重量%のマンガンを含有し得る。
【0018】
遷移金属材料は、金属として、またはその化合物のうちの1つ以上の形態で、0.5~45重量%、好ましくは1~30重量%、特に2~12重量%のリチウムを含有し得る。
【0019】
遷移金属材料は、金属として、またはその化合物のうちの1つ以上の形態で、100ppm~15重量%のアルミニウムを含有し得る。
【0020】
遷移金属材料は、金属として、またはその化合物のうちの1つ以上の形態で、20ppm~3重量%の銅を含有し得る。
【0021】
遷移金属材料は、金属または合金として、またはその化合物のうちの1つ以上の形態で、100ppm~5重量%の鉄を含有し得る。遷移金属材料は、金属または合金として、またはその化合物のうちの1つ以上の形態で、20ppm~2重量%の亜鉛を含有し得る。遷移金属材料は、金属または合金として、またはその化合物のうちの1つ以上の形態で、20ppm~2重量%のジルコニウムを含有し得る。遷移金属材料は、金属または合金として、またはその化合物のうちの1つ以上の形態で、20ppm~2重量%のタングステンを含有し得る。遷移金属酸化物材料は、ポリマーに結合した有機フッ化物およびその無機フッ化物のうちの1つ以上中の無機フッ化物の合計として計算して、0.5重量%~10重量%のフッ素を含有し得る。遷移金属材料は、0.2重量%~10重量%のリンを含有し得る。リンは、1つ以上の無機化合物で発生し得る。
【0022】
遷移金属材料は、通常、ニッケルならびにコバルトおよびマンガンのうちの少なくとも1つを含有する。そのような遷移金属材料の例は、リチウム化ニッケルコバルトマンガン酸化物(「NCM」)もしくはリチウム化ニッケルコバルトアルミニウム酸化物(「NCA」)またはそれらの混合物上のLiNiO2に基づき得る。
【0023】
層状ニッケル-コバルト-マンガン酸化物の例は、一般式Li1+x(NiaCobMncM1
d)1-xO2の化合物であり、M1は、Mg、Ca、Ba、Al、Ti、Zr、Zn、Mo、V、およびFeから選択され、さらなる変数は、次のように定義される:ゼロ≦x≦0.2、0.1≦a≦0.95、ゼロ≦b≦0.9、好ましくは0.05<b≦0.5、ゼロ≦c≦0.6、ゼロ≦d≦0.1、およびa+b+c+d=1。好ましい層状ニッケル-コバルト-マンガン酸化物は、M1がCa、Mg、Zr、Al、およびBaから選択されるものであり、さらなる変数は、上記のように定義される。好ましい層状ニッケル-コバルト-マンガン酸化物は、Li(1+x)[Ni0.33Co0.33Mn0.33](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.5Co0.2Mn0.3](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.6Co0.2Mn0.2](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.7Co0.2Mn0.1](1-x)O2、およびLi(1+x)[Ni0.8Co0.1Mn0.1](1-x)O2であり、各々は、上記で定義されたxを伴う。
【0024】
リチウム化ニッケル-コバルトアルミニウム酸化物の例は、一般式Li[NihCoiAlj]O2+rの化合物であり、式中、hは0.8~0.95の範囲にあり、iは0.2~0.3の範囲にあり、jは0.01~0.1の範囲にあり、rはゼロ~0.4の範囲にある。好ましい層状ニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物は、Li[Ni0.85Co0.13Al0.02]O2である。
【0025】
工程(a)の前
任意選択的に、遷移金属材料は、様々な方法によって工程(a)の前に処理することができる。
【0026】
工程(a)の前に、使用済み電解質、特に有機溶媒または有機溶媒の混合物を含む使用済み電解質を、例えば、機械的除去または、例えば、50~300℃の範囲の温度で乾燥させることによって少なくとも部分的に除去することが可能である。有機溶媒(複数可)を除去するための好ましい圧力範囲は、0.01~2バール、好ましくは10~100ミリバールである。
【0027】
工程(a)の前に、遷移金属材料を水で洗浄し、それによって遷移金属材料から液体不純物および水溶性不純物を除去することが好ましい。該洗浄工程は、例えばボールミルまたは撹拌ボールミルでの粉砕によって改善され得る。洗浄された遷移金属材料は、固液分離工程、例えば、濾過もしくは遠心分離、または任意の種類の沈降およびデカンテーションによって回収され得る。そのような固体遷移金属材料のより微細な粒子の回収を支援するために、凝集剤、例えばポリアクリレートが添加され得る。
【0028】
遷移金属材料を有機溶媒で洗浄して、可溶性の有機および無機成分、例えば電解質溶媒および導電性塩を除去することも可能である。そのような洗浄は、好ましくは、結合剤ポリマーの除去のために前述の洗浄と組み合わされ得る。
【0029】
熱処理された遷移金属材料の場合、洗浄は、好ましくは、水または熱処理中に形成されている可能性のあるリチウム塩を溶解することが可能な水性媒体で行われる。典型的には、純水もしくは水二酸化炭素混合物-後者は好ましくは圧力下で適用される-または弱酸、例えば酢酸もしくはギ酸の溶液を用いることができる。これらの酸は、任意の遷移金属の溶解を回避し、炭酸リチウムまたは水酸化リチウムの簡易な回収を可能にするように選択される。したがって、炭酸リチウムは、重炭酸リチウムまたはギ酸リチウムから回収され得る。
【0030】
工程(a)の前に、例えば、炭素および/またはポリマー材料の少なくとも部分的な除去のために、少なくとも1つの固固分離工程を行うことができる。固固分離工程の例は、分類、重力濃度、浮選、重液選鉱、磁気分離、および電気選別である。通常、工程(a)の前に得られた水性スラリーは、乾燥条件下で行われる電気選別を除いて、固固分離に供され得る。固固分離工程は、しばしば、炭素およびポリマーのような疎水性不溶性成分を金属または金属酸化物成分から分離するのに役立つ。
【0031】
固固分離工程は、機械的、カラム、空気圧、またはハイブリッド浮選によって行われ得る。コレクタ化合物をスラリーに添加して、疎水性成分をより一層疎水性にし得る。炭素およびポリマー材料に好適なコレクタ化合物は、1g/t~50kg/tの遷移金属材料の量で導入される炭化水素または脂肪アルコールである。
【0032】
逆の意味で浮選を行うことも可能であり、すなわち、特別なコレクタ物質、例えば、脂肪アルコール硫酸塩またはエステルクアット(esterquats)によって、元々親水性の成分を強い疎水性の成分に変換する。炭化水素コレクタを用いる直接浮選が好ましい。炭素およびポリマー材料粒子に対する浮選の選択性を改善するために、泡相中の同伴金属および金属酸化物成分の量を低減する抑制剤を添加することができる。使用することができる抑制剤は、3~9の範囲でpH値を制御するための酸もしくは塩基、またはより親水性の成分に吸着し得るイオン性成分であり得る。浮選の効率を増加させるために、浮選条件下で疎水性の標的粒子と凝集体を形成する担体粒子を添加することが有利であり得る。
【0033】
磁性または磁化可能な金属または金属酸化物成分は、磁化可能な成分の感受性に応じて、低、中、または高強度の磁気分離器を用いる磁気分離によって分離され得る。磁性担体粒子を添加することも可能である。そのような磁性担体粒子は、標的粒子と凝集体を形成することができる。これにより、非磁性材料も磁気分離技術によって除去することができ、好ましくは、磁性担体粒子は、分離プロセス内でリサイクルすることができる。
【0034】
固固分離工程により、典型的には、スラリーとして存在する固体材料の少なくとも2つの画分が得られる:1つは、主に遷移金属材料を含有し、もう1つは、主に炭素質およびポリマー電池成分を含有する。次いで、第1の画分は、本発明の工程(a)に供給され、第2の画分は、異なる構成成分、すなわち炭素質およびポリマー材料を回収するために、さらに処理され得る。
【0035】
工程(a)
工程(a)は、遷移金属材料を浸出剤で処理して、ニッケルおよび/またはコバルトの溶解塩を含有する浸出液を得ることを含む。一形態では、浸出液は、コバルトの溶解塩を含有する。好ましい形態では、浸出液は、ニッケルの溶解塩を含有する。別の好ましい形態では、浸出液は、ニッケルおよびコバルトの溶解塩を含有する。
【0036】
工程(a)の過程では、遷移金属材料は、浸出剤、好ましくは、硫酸、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、およびクエン酸から選択される酸、または前述のもののうちの少なくとも2つの組み合わせ、例えば、硝酸と塩酸との組み合わせで処理される。別の好ましい形態では、浸出剤は、
-硫酸、塩酸、硝酸などの無機酸、
-メタンスルホン酸、シュウ酸、クエン酸、アスパラギン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、もしくはグリシンなどの有機酸、
-アンモニア、アミンの水溶液、アンモニア、炭酸アンモニウム、もしくはアンモニアと二酸化炭素との混合物などの塩基、または
-EDTAもしくはジメチルグリオキシムなどのキレート剤、である。
【0037】
一形態では、浸出剤は、無機または有機水性酸などの水性酸を含む。別の形態では、浸出剤は、塩基、好ましくはアンモニアまたはアミンを含む。別の形態では、浸出剤は、錯体形成剤、好ましくはキレート剤を含む。別の形態では、浸出剤は、無機酸、有機酸、塩基またはキレート剤を含む。
【0038】
浸出剤の濃度は、広範囲、例えば、0.1~98重量%、好ましくは10~80%の範囲で変更され得る。水性酸の好ましい例は、例えば10~98重量%の範囲の濃度を有する水性硫酸である。好ましくは、水性酸は、-1~2の範囲のpH値を有する。酸の量は、遷移金属を参照して過剰の酸を維持するように調整される。好ましくは、工程(a)の終わりに得られる溶液のpH値は、-0.5~2.5の範囲にある。浸出剤としての塩基の好ましい例は、好ましくは炭酸塩または硫酸イオンの存在下でも、1:1~6:1、好ましくは2:1~4:1のモルNH3対金属(Ni、Co)比を有するアンモニア水である。EDTAまたはジメチルグリオキシムなどの好適なキレート剤は、1:1~3:1のモル比で適用されることがしばしばある。
【0039】
浸出は、酸化剤の存在下で実行され得る。好ましい酸化剤は、純粋なガスとして、または不活性ガス、例えば窒素を有する混合物中の、または空気としての酸素である。他の酸化剤は、酸化性酸、例えば硝酸または過酸化物、例えば過酸化水素である。
【0040】
工程(a)による処理は、20~130℃の範囲の温度で行われ得る。100℃を超える温度が望まれる場合、工程(a)は、1バールを超える圧力で実行される。それ以外の場合は、常圧が優先される。本発明の文脈では、常圧は、1バールを意味する。
【0041】
一形態では、工程(a)は、強酸から保護された容器、例えば、モリブデンおよび銅に富む鋼合金、ニッケルベースの合金、二相ステンレス鋼、またはグラスライニングまたはエナメルもしくはチタン被覆鋼内で実行される。さらなる例は、耐酸性ポリマー、例えば、HDPEおよびUHMPEなどのポリエチレン、フッ素化ポリエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン(「PFA」)、ポリテトラフルオロエチレン(「PTFE」)、PVdFおよびFEPからのポリマーライナーおよびポリマー容器である。FEPは、テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンの共重合体であるフッ素化エチレンプロピレンポリマーの略である。
【0042】
工程(a)から得られたスラリーは、例えばボールミルまたは撹拌ボールミルにおいて、撹拌(stirred)、振動(agitated)、または粉砕処理に供され得る。そのような粉砕処理は、しばしば、粒子状遷移金属材料への水または酸のより良いアクセスにつながる。
【0043】
工程(a)は、しばしば、10分~10時間、好ましくは1~3時間の範囲の持続時間を有する。例えば、工程(a)における反応混合物は、良好な混合を達成し、不溶性成分の沈降を回避するために、少なくとも0.1W/lの出力で撹拌されるか、またはポンピングによって循環される。バッフルを用いることにより、せん断をさらに改善することができる。これらのせん断デバイスは全て、十分な耐食性を適用する必要があり、容器自体について説明したのと同様の材料およびコーティングから生成され得る。
【0044】
工程(a)は、空気雰囲気下またはN2で希釈された空気下で行われ得る。しかしながら、不活性雰囲気、例えば窒素またはArなどの希ガス下で工程(a)を行うことが好ましい。
【0045】
工程(a)による処理は、通常、浸出において、遷移金属含有材料、例えば、炭素および有機ポリマー以外の不純物を含む該NCMまたはNCAの溶解をもたらす。浸出液は、工程(a)を実行した後、スラリーとして得られ得る。リチウムならびにこれらに限定されないが、ニッケル、コバルト、銅、および該当する場合は、マンガンなどの遷移金属は、しばしば、浸出液中で溶解形態、例えばそれらの塩の形態である。
【0046】
工程(a)は、還元剤の存在下で行われ得る。還元剤の例は、メタノール、エタノール、糖、アスコルビン酸、尿素、デンプンまたはセルロースを含有するバイオベースの材料などの有機還元剤、およびヒドラジンおよび硫酸塩などのその塩、および過酸化水素などの無機還元剤である。工程(a)に好ましい還元剤は、ニッケル、コバルト、またはマンガン以外の金属に基づく不純物を残さないものである。工程(a)における還元剤の好ましい例は、メタノールおよび過酸化水素である。還元剤の助けを借りて、例えば、Co3+をCo2+またはMn(+IV)またはMn3+をMn2+に還元することが可能である。好ましくは、Coおよび-存在する場合-Mnの量を参照して、過剰の還元剤が用いられる。Mnが存在する場合、そのような過剰は有利である。
【0047】
いわゆる酸化性酸が工程(a)で使用されている実施形態では、未使用の酸化剤を除去するために還元剤を添加することが好ましい。酸化性酸の例は、硝酸および硝酸と塩酸の組み合わせである。本発明の文脈において、塩酸、硫酸およびメタンスルホン酸は、非酸化性酸の好ましい例である。
【0048】
使用される酸の濃度に応じて、工程(a)で得られる浸出液は、1~20重量%、好ましくは3~15重量%の範囲の遷移金属濃度を有し得る。
【0049】
工程(a)と(b)との間
工程(a)からの浸出液は、工程(b)でそれを使用する前に、工程(a1)、(a2)、および/または(a3)などの様々な方法によって処理することができる。好ましい形態では、工程(a1)、(a2)、および(a3)は、所与の順序で実行される。
【0050】
工程(a)の後および工程(b)の前に実行され得る任意選択的の工程(a1)は、浸出液からの非溶解固形物の除去である。非溶解固形物は、通常、炭素質材料、好ましくは炭素粒子、特にグラファイト粒子である。炭素粒子などの非溶解固形物は、1~1000μm、好ましくは5~500μm、特に5~200μmの範囲の粒子サイズD50を有する粒子の形態で存在することができる。D50は、レーザー回折によって決定され得る。工程(a1)は、濾過、遠心分離、沈降、またはデカンテーションによって実施することができる。工程(a1)では、凝集剤が添加され得る。除去された非溶解固形物は、例えば水で洗浄することができ、任意選択的に、炭素質成分とポリマー成分とを分離するためにさらに処理することができる。通常、工程(a)に先行する任意の工程、および工程(a1)は、連続動作モードで連続して行われる。
【0051】
工程(a1)の好ましい形態は、浸出液から非溶解固形物を除去することであり、非溶解固形物は、炭素粒子(好ましくはグラファイト粒子)である。
【0052】
工程(a)の後、または工程(a1)の後、および工程(b)の前に実行され得る別の任意選択的の工程(a2)は、浸出液のpH値を2.5~8、好ましくは5.5~7.5、特に6~7に調整することである。pH値は、従来の手段によって、例えば電位差測定によって(potentiometrically)決定され得、20℃での連続液相のpH値を指す。pH値の調整は、通常、水で希釈するか、塩基を添加するか、酸を添加するか、またはそれらの組み合わせによって行われる。好適な塩基の例は、例えば、ペレットとして、または好ましくは水溶液として、固体形態のアンモニアおよびアルカリ金属水酸化物、例えば、LiOH、NaOH、またはKOHである。前述のもののうちの少なくとも2つの組み合わせ、例えば、アンモニアと水性苛性ソーダの組み合わせも実行可能である。工程(a2)は、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、アンモニア、および水酸化カリウムのうちの少なくとも1つを添加することによって行われる。
【0053】
工程(a2)の後および工程(b)の前に実行され得る別の任意選択的の工程(a3)は、固液分離によるリン酸塩、酸化物、水酸化物、またはオキシ水酸化物(例えば、Al、Fe、Sn、Si、Zr、Zn、もしくはCuのような金属またはそれらの組み合わせのそれら)の沈殿物の除去である。該沈殿物は、工程(a2)におけるpH値の調整中に形成され得る。リン酸塩は、化学量論的または塩基性のリン酸塩であり得る。如何なる理論にも拘束されることを望まないが、リン酸塩は、ヘキサフルオロリン酸塩の加水分解によるリン酸塩形成の際に生成され得る。濾過などの固液分離によって、または遠心分離機の助けを借りて、または沈降によって沈殿物を除去することが可能である。好ましいフィルタは、ベルトフィルタ、フィルタプレス、吸引フィルタ、およびクロスフローフィルタである。
【0054】
好ましくは、このプロセスは、工程(a2)浸出液のpH値を2.5~8に調整すること、および(a3)リン酸塩、酸化物、水酸化物、またはオキシ水酸化物の沈殿物を除去することを含む。
【0055】
工程(b)の前に実行され得る別の任意選択的の工程(a4)は、電解採取による金属イオン(例えば、Ag、Au、白金族金属(platin group metals)、または銅のような金属の金属イオン、中でも好ましくは銅の金属イオン)の除去である。
【0056】
工程(a)の後および工程(b)の前に実行され得る別の任意選択的の工程(a5)は、セメンテーションにより、浸出液、例えばニッケル、コバルト、またはマンガン粒子上からの貴金属および/または銅の除去である。
【0057】
工程(a)の後および工程(b)の前に実行され得る別の任意選択的の工程(a6)は、溶解した貴金属および/または銅不純物を元素貴金属および/または銅として、浸出液を含有する電解質の電気分解によって、粒子状堆積カソード(particulate deposition cathode)、例えば、グラファイト粒子上に堆積させることによって、浸出液からの貴金属および/または銅の除去することである。電気分解は、定電位または定電流で作動され得るが、定電位が好ましい。電解質は、通常、水性電解質である。電解質は、1、2、3、4、または5を超える、好ましくは5を超えるpHを有し得る。電解質は、10、9、または8未満のpHを有し得る。別の形態では、電解質は、4~8のpHを有し得る。電解質は、pH値を調整するために、緩衝塩、例えば酢酸塩を含有し得る。堆積カソードは、1~1000μm、好ましくは5~500μm、特に5~200μmの範囲の粒子サイズd50を有し得る。電解質のpHは、4~8である。特に、電気分解は、電解質が微粒子濾過助剤層の形態で堆積カソードを通過する電気化学フィルタフローセルで行われる。電気化学フィルタフローセルは、通常、フローセルアノードを含み、これは、上記のようなアノード材料で作製することができる。フローセルアノードおよび堆積カソードは、上記のようにダイアフラムまたはカチオン交換膜によって分離され得る。堆積した金属は、分離され、再溶解され、例えば水酸化物として沈殿する。
【0058】
工程(b)
浸出液は、通常、0.1重量%(wt.-%)~15重量%、好ましくは0.5重量%~12重量%、特に1~10重量%のニッケル塩の濃度を含み、この量は、ニッケルを指す。
【0059】
浸出液は、通常、0.1重量%(wt.-%)~15重量%、好ましくは0.5重量%~12重量%、特に1~10重量%のコバルト塩の濃度を含み、この量は、コバルトを指す。
【0060】
水素ガスの注入は、高圧オートクレーブなどの商用デバイスで行うことができる。
【0061】
水素ガスの注入は、通常、浸出液内または浸出液の上で、反応器の内部で終わるパイプなどの従来の手段によって行われる。
【0062】
様々な商業的供給源からの水素ガスを使用することができる。少量の硫黄を含有する水素ガスが好ましい。そのような水素ガスは、水の電気分解によって、好ましくは再生可能資源、例えば水風力または太陽光発電から得られる電気によって得ることができる。
【0063】
水素ガスは、窒素などの様々な量の不活性ガスを含有し得る。典型的には、水素ガスは、5体積%(vol.-%)未満の不活性ガスを含有する。
【0064】
水素ガスは、100℃を超える、好ましくは130℃を超える、特に150℃を超える温度で浸出液に注入される。好ましい形態では、水素ガスは、150~280℃の温度で浸出液に注入される。
【0065】
水素ガスは、5バールを超える、好ましくは10バールを超える、特に15バールを超える分圧で浸出液に注入される。好ましい形態では、水素ガスは、5~60バールの分圧で浸出液に注入される。さらに好ましい実施形態では、水素ガスは、30~100バール、特に45~100バールの範囲の分圧で浸出液に注入される。
【0066】
浸出液のpHは、水素ガスの注入前または注入中に調整することができる。還元により酸が製造されるため、酸の濃度を低く保つために酸の連続中和が好ましい。一般に、水素ガスは、4を超える、好ましくは6を超える、特に8を超えるpH値で浸出液に注入される。pH値は、pH値を制御しながら塩基を連続的に供給することによって調整することができる。好適な塩基は、アンモニア、またはアルカリ水酸化物もしくは炭酸塩であり、アンモニアが好ましい。好ましい形態では、水素還元は、好適な緩衝系の存在下で行われる。そのような緩衝系の例は、アンモニアおよび炭酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、または塩化アンモニウムのようなアンモニウム塩である。そのような緩衝系を使用する場合、アンモニアと、ニッケルまたはニッケルおよびコバルトとの比率は、1:1~6:1、好ましくは2:1~4:1の範囲でなければならない。
【0067】
金属ニッケル、金属コバルト、硫酸第一鉄、硫酸アルミニウムで修飾された硫酸第一鉄、塩化パラジウム、硫酸クロム、炭酸アンモニウム、マンガン塩、塩化白金酸、塩化ルテニウム、テトラクロロ白金酸カリウム/アンモニウム、ヘキサクロロ白金酸アンモニウム/ナトリウム/カリウム、または銀塩(硝酸塩、酸化物、水酸化物、亜硝酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、炭酸塩、リン酸塩、アジド、ホウ酸塩、スルホン酸塩、もしくはカルボン酸塩、または銀)などのニッケル還元触媒および/またはコバルト還元触媒は、水素ガスの注入中に浸出液中に存在し得る。硫酸第一鉄、硫酸アルミニウム、および硫酸マンガンは、遷移金属材料の対応する成分からの浸出液中に存在し得る。好ましいニッケル還元触媒および/またはコバルト還元触媒は、硫酸第一鉄、硫酸アルミニウム、硫酸マンガン、および炭酸アンモニウムである。
【0068】
好ましいニッケル還元触媒は、金属ニッケル、特に金属ニッケル粉末である。好ましいコバルト還元触媒は、金属コバルト粉末である。ニッケルまたはコバルトのこれらの金属粉末は、還元プロセスの開始時にその場で、またはNiおよびCo塩溶液を還元することによって別個の反応器でその場外で得られ得る。
【0069】
金属播種結晶を形成するための播種結晶促進剤は、水素ガスの注入中の浸出液中に存在し得る。いくつかの播種結晶促進剤が当技術分野で知られている(チオ尿素、チオアセトアミド、チオアセトアニリド、チオ酢酸アルカリ塩(例えば、US3775098)、キサンテートのアルカリ塩、次亜リン酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウムのような非ガス性非金属還元剤(例えば、US2767083)、ホルムアルデヒドスルホキサレート(formaldehyde sulfoxalat)(ロンガリット)(例えば、US4758266)、硫黄、硫化物、グラファイトのような非ガス性、非金属性、非還元性促進剤(例えば、US2767081)、後者は、電池スクラップ、ヒドラジン、ハイドロキノンのような触媒性非ガス性、非金属性促進剤から得られ得る(例えば、US2767082))。当技術分野で知られているのはまた、沈殿物のモルホロジーを制御する播種結晶促進剤(エチレンマレイン酸無水物ポリマー(例えば、US3694185)、アクリルポリマー、リグニン(例えば、CA580508)、アンモニウムまたはマレイン酸無水物共重合体およびオレフィン炭化水素のアルカリ金属塩(例えば、US3989509)、骨接着剤(bone glue)もしくはポリアクリル酸または2つの混合物(例えば、US5246481)、固体の添加(例えば、EP3369469)である。NiもしくはCoまたは他の金属播種結晶を用いて、混合金属粒子が得られ得る(例えば、US2853403)。
【0070】
ニッケル還元触媒および/またはコバルト還元触媒の量は、選択された触媒のタイプに依存する。一般に、浸出液1リットルあたり少なくとも0.001gのニッケル還元触媒および/またはコバルト還元触媒が存在する。
【0071】
好ましい形態では、浸出液は、ニッケルの溶解塩を含有し、工程(b)では、元素形態のニッケルが、任意選択的に、ニッケル還元触媒の存在下で沈殿する。
【0072】
浸出液がコバルトの溶解塩を含有する形態および工程(b)では、元素形態のコバルトが、任意選択的に、コバルト還元触媒の存在下で沈殿する。
【0073】
別の好ましい形態では、浸出液は、ニッケルおよびコバルトの溶解塩を含有し、工程(b)では、元素形態のニッケルおよびコバルトが、任意選択的に、ニッケル還元触媒およびコバルト還元触媒の存在下で沈殿する。
【0074】
別の好ましい形態では、浸出液は、ニッケルおよびコバルトの溶解塩を含有し、工程(b)では、元素形態のニッケルが、任意選択的に、ニッケル還元触媒の存在下で沈殿し、沈殿物は、0~50重量%の元素形態のコバルトを含有し得る。
【0075】
別の形態では、浸出液は、ニッケルおよびコバルトの溶解塩を含有し、工程(b)では、元素形態のコバルトが、任意選択的に、コバルト還元触媒の存在下で沈殿し、沈殿物は、0~50重量%の元素形態のニッケルを含有し得る。
【0076】
このプロセスは、浸出液に水素ガスを注入する2つ以上の工程を含み得る。この工程は、通常、所与の順序で実行される。
【0077】
好ましい形態では、プロセスは、
(a)遷移金属材料を浸出剤で処理して、ニッケルおよびコバルトの溶解塩を含有する浸出液を得ることと、
(b1)100℃を超える温度および5バールを超える分圧で、任意選択的に、ニッケル還元触媒の存在下で、浸出液中に水素ガスを注入して、ニッケルを元素形態で沈殿させることと、
(c1)工程(b1)で得られた沈殿物を分離して、コバルトの溶解塩を含むコバルト溶液を得ることと、
(b2)100℃を超える温度および5バールを超える分圧で、任意選択的に、コバルト還元触媒の存在下でコバルト溶液中に水素ガスを注入して、コバルトを元素形態で沈殿させることと、
(c2)工程(b2)で得られた沈殿物の分離と、を含む。
【0078】
別の形態では、プロセスは、
(a)遷移金属材料を浸出剤で処理して、ニッケルおよびコバルトの溶解塩を含有する浸出液を得ることと、
(b3)100℃を超える温度および5バールを超える分圧で、任意選択的に、コバルト還元触媒の存在下で、浸出液中に水素ガスを注入して、コバルトを元素形態で沈殿させることと、
(c3)工程(b3)で得られた沈殿物を分離して、ニッケルの溶解塩を含むニッケル溶液を得ることと、
(b4)100℃を超える温度および5バールを超える分圧で、任意選択的に、ニッケル還元触媒の存在下でニッケル溶液中に水素ガスを注入して、ニッケルを元素形態で沈殿させることと、
(c4)工程(b4)で得られた沈殿物の分離と、を含む。
【0079】
好ましい形態では、浸出液は、鉄、マンガン、リチウム、亜鉛、スズ、ジルコニウム、アルミニウム、タングステンの無機塩から選択される少なくとも1つのさらなる溶解成分を含み、さらなる溶解成分は、工程(b)中、溶解形態のままである。
【0080】
さらなる工程
工程(c)は、工程(b)および任意選択的に、(b1)、(b2)、(b3)、または(b4)で得られた沈殿物の分離を含む。これは、固液分離、磁気分離、濾過、または沈降によって、好ましくは濾過または沈降によって達成することができる。分離されていない他の固体残留物が、工程(a)で得られた浸出液中に存在する場合、磁気分離によって元素ニッケルおよび/または元素コバルトを分離することが好ましい。
【0081】
任意選択的に、工程(c)および任意選択的に、(c1)、(c2)、(c3)、または(c4)では、(d)および/または工程(e)などのさらなる工程が続いてもよい。
【0082】
工程(c)で元素ニッケルおよび/または元素コバルトを分離した後、これらの金属のさらなる処理(例えば、工程(d)による)および工程(c)で得られた残留懸濁液または溶液のさらなる処理(例えば、工程(e)による)が可能である。
【0083】
任意選択的の工程(d)では、分離された金属(例えば、元素ニッケルおよび/またはコバルト)は、さらに精製される。鉄、マンガン、およびアルミニウムの残留水酸化物は、分離された金属を弱酸または希酸で洗浄することによって溶解および除去され得る。残留銅を分離するために、混合金属を酸(例えば、工程(a)で説明したもの)に再溶解し、酸性条件下で水酸化物もしくは硫化物として沈殿させるか、または電解採取により、銅を選択的に回収することができる。
【0084】
工程(d)の別の形態では、分離された金属は、それらを溶解し、セメンテーションによって、例えばニッケル、コバルト、またはマンガン粒子上の貴金属および/または銅を除去することによって、さらに精製される。
【0085】
工程(d)の別の形態では、分離された金属は、それらを溶解し、溶解した貴金属および/または銅不純物を元素貴金属および/または銅として、浸出液を含有する電解質の電気分解によって、粒子状堆積カソード、例えば、グラファイト粒子上に堆積させることによって、貴金属および/または銅を除去することによってさらに精製される。電気分解は、好ましくは、電気化学的フィルタフローセルで行われる。
【0086】
最後に、ニッケルおよび/またはコバルト塩を含有する精製溶液が得られ得る。この溶液から、ニッケルおよびコバルトは、例えば溶媒抽出または電解採取によって分離され得る。好ましい形態では、混合ニッケルコバルト塩溶液は、NCMまたはNCAタイプのカソード活物質の製造に直接使用される。
【0087】
工程(c)で得られた残留懸濁液または溶液は、鉄、マンガン、アルミニウム、およびリチウムなどのニッケル、コバルト、および銅よりも希ではない全ての金属を含有し得る。これらの金属は、工程(b)中に2.5を超えるpH値で沈殿した固体として存在しても、溶解塩として存在してもよい。任意の前の工程でリチウムが回収されなかった場合、リチウムは、溶解塩として存在し得る。残留懸濁液を任意選択的の工程(e)でさらに処理して、残留金属塩を水酸化物または硫化物、あるいはその両方として沈殿させ得、次いで固液分離、例えば濾過もしくは遠心分離(デカントする)または磁気分離に供して、純粋なリチウム塩を含有する溶液を得られ得る。この溶液から、リチウムは、ソーダ灰で沈殿させるか、または水酸化リチウムおよびリチウム塩の対応する酸を製造する電気分解もしくは電気透析によって、炭酸リチウムとして回収され得る。
【実施例】
【0088】
金属不純物およびリン(phosphorous)は、ICP-OES(誘導結合プラズマ-発光分光分析)またはICP-MS(誘導結合プラズマ-質量分析)を使用した元素分析によって決定される。全炭素は、燃焼後に熱伝導度検出器(CMD)で決定される。フッ素は、全フッ素の燃焼後(DIN EN 14582:2016-12)またはイオン性フッ化物のためのH3PO4蒸留後(DIN 38405-D4-2:1985-07)にイオン感受性電極(ISE)で検出される。「w%」は、サンプルの重量パーセントを表す。
【0089】
実施例1
a)800℃の温度で廃電池材料を熱処理して得られた3gの材料である、コバルト(6.3重量%)、ニッケル(7.4重量%)、銅(2重量%)、リチウム(0.57重量%)、グラファイト(23重量%)、アルミニウム(6.5重量%)、鉄(0.2重量%)、亜鉛(0.2重量%)、フッ素(2.4重量%)、リン(0.4重量%)、およびマンガン(6.8重量%)を含有する材料を、21重量%の水酸化アンモニウムおよび9重量%の炭酸アンモニウムの146.03gの60℃の水溶液で5時間処理する。冷却後、懸濁液を濾過し、脱イオン水で洗浄して、0.081重量%のコバルト、0.094重量%のニッケル、および0.031重量%の銅、および0.001重量%未満のマンガンを含有する197.06gの(洗浄水を含有する)浸出濾液を得る。これは、85%のコバルト、83%のニッケル、100%の銅、1%未満のマンガンの浸出効率に相当する。
【0090】
b)90gのこの浸出濾液をオートクレーブに入れる。0.027gのマレイン酸オレフィン共重合体ナトリウム塩(Sokalan CP9(登録商標)、BASF)を添加する。溶液を200℃まで加熱し、60バールの水素で加圧する。これらの反応条件下でオートクレーブを2時間保つ。冷却後、オートクレーブの内容物を濾過する。フィルタ残留物を脱イオン水で洗浄する。濾液は、0.023重量%のコバルト、0.061重量%のニッケル、および0.024重量%の銅を含有し、工程(a)で得られた浸出濾液と比較すると、これは、金属沈殿物として63%のコバルト、16%のニッケル、および4%の銅の回収に相当する。これは、乾燥したフィルタケーキの分析によって確認される。
【0091】
実施例2
34.2gの硫酸アンモニウム、252gの脱イオン水、35gの水酸化アンモニウム溶液(28重量%)、93gの硫酸コバルト溶液(9重量%)、および87gの硫酸ニッケル溶液(10重量%)の混合物を出発物質として使用する。150gのこの溶液をオートクレーブに入れ、200℃まで加熱し、60バールの水素で加圧する。これらの反応条件下でオートクレーブを2時間保つ。冷却後、オートクレーブの内容物を濾過する。フィルタ残留物を脱イオン水で洗浄する。濾液(洗浄水を含む)は、0.16重量%のコバルトおよび0.0034重量%のニッケルを含有し、これは、金属沈殿物として65%のコバルトおよび99%のニッケルの回収に相当する。
本発明は、以下の態様を含む。
[項1]
電池から遷移金属を回収するためのプロセスであって、
(a)遷移金属材料を浸出剤で処理して、ニッケルおよび/またはコバルトの溶解塩を含有する浸出液を得ることと、
(b)100℃を超える温度および5バールを超える分圧で、前記浸出液中に水素ガスを注入して、ニッケルおよび/またはコバルトを元素形態で沈殿させることと、
(c)工程(b)で得られた沈殿物の分離と、を含む、プロセス。
[項2]
前記水素ガスが、150~280℃の温度で前記浸出液中に注入される、項1に記載のプロセス。
[項3]
前記水素ガスが、5~100バール、例えば5~60バールまたは45~100バールの範囲の分圧で前記浸出液中に注入される、項1または2に記載のプロセス。
[項4]
前記水素ガスが、4を超えるpH値で前記浸出液中に注入される、項1~3のいずれかに記載のプロセス。
[項5]
前記浸出剤が、無機酸、有機酸、塩基、またはキレート剤を含む、項1~4のいずれかに記載のプロセス。
[項6]
前記遷移金属材料が、金属として、またはその化合物のうちの1つ以上の形態で1~30重量%のニッケルを含有する、項1~5のいずれかに記載のプロセス。
[項7]
工程(a)では、前記浸出液が、ニッケルの溶解塩を含有し、工程(b)では、元素ニッケルが、任意選択的に、ニッケル還元触媒の存在下で沈殿する、項1~6のいずれかに記載のプロセス。
[項8]
(a)前記遷移金属材料を前記浸出剤で処理して、ニッケルおよびコバルトの溶解塩を含有する前記浸出液を得ることと、
(b1)100℃を超える温度および5バールを超える分圧で、任意選択的に、ニッケル還元触媒の存在下で、前記浸出液中に水素ガスを注入して、ニッケルを元素形態で沈殿させることと、
(c1)工程(b1)で得られた前記沈殿物を分離して、前記コバルトの溶解塩を含むコバルト溶液を得ることと、
(b2)100℃を超える温度および5バールを超える分圧で、任意選択的に、コバルト還元触媒の存在下で、前記コバルト溶液中に水素ガスを注入して、コバルトを元素形態で沈殿させることと、
(c2)工程(b2)で得られた前記沈殿物の分離と、を含む、項1~7のいずれかに記載のプロセス。
[項9]
工程(c)において、前記沈殿物の前記分離が、磁気分離によって行われる、項1~8のいずれかに記載のプロセス。
[項10]
前記遷移金属材料が、リチウムおよびその化合物、導電性形態の炭素、電解質に使用される溶媒、アルミニウムおよびアルミニウムの化合物、鉄および鉄化合物、亜鉛および亜鉛化合物、シリコンおよびシリコン化合物、スズ、シリコン-スズ合金、有機ポリマー、フッ化物、ならびにリンの化合物から選択される少なくとも1つの電池成分を含有する、項1~9のいずれかに記載のプロセス。
[項11]
前記浸出液が、鉄、マンガン、リチウム、亜鉛、スズ、ジルコニウム、アルミニウム、タングステン、または銅の無機塩から選択される少なくとも1つのさらなる溶解成分を含有し、前記さらなる溶解成分が、工程(b)中、溶解形態のままである、項1~10のいずれかに記載のプロセス。
[項12]
工程
(a1)前記浸出液からの非溶解固形物の除去、をさらに含む、項1~11のいずれかに記載のプロセス。
[項13]
工程
(a2)前記浸出液のpH値を2.5~8に調整することと、
(a3)固液分離による、リン酸塩、酸化物、水酸化物、またはオキシ水酸化物の沈殿物を除去することと、をさらに含む、項1~12のいずれかに記載のプロセス。
[項14]
前記遷移金属材料が、機械的に処理された電池スクラップから得られるか、または製錬電池スクラップから金属合金として得られる、項1~13のいずれかに記載のプロセス。
[項15]
工程
(a5)セメンテーションによる前記浸出液からの貴金属および/または銅を除去すること、をさらに含む、項1~14のいずれかに記載のプロセス。
[項16]
工程
(a6)前記浸出液を含有する電解質の電気分解により、前記溶解した貴金属および/または銅不純物を元素貴金属および/または銅として粒子堆積カソード上に堆積させることにより、前記浸出液から貴金属および/または銅を除去すること、をさらに含む、項1~15のいずれかに記載のプロセス。