IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー・ケム・リミテッドの特許一覧

特許7439284正極活物質前駆体および正極活物質前駆体の製造方法
<>
  • 特許-正極活物質前駆体および正極活物質前駆体の製造方法 図1
  • 特許-正極活物質前駆体および正極活物質前駆体の製造方法 図2
  • 特許-正極活物質前駆体および正極活物質前駆体の製造方法 図3
  • 特許-正極活物質前駆体および正極活物質前駆体の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】正極活物質前駆体および正極活物質前駆体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240219BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240219BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240219BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 D
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/36 E
C01G53/00 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022550990
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-12
(86)【国際出願番号】 KR2021006526
(87)【国際公開番号】W WO2021241995
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】10-2020-0064875
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】チュ・ハン・ユン
(72)【発明者】
【氏名】キョン・ワン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン・ジン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ソン・イ・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・ス・パク
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/163846(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 4/505
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1遷移金属水溶液および前記第1遷移金属水溶液とは金属元素の組成が相違する第2遷移金属水溶液を準備する第1ステップと、
反応器内に前記第1遷移金属水溶液、アンモニウムカチオン錯体形成剤および塩基性水溶液を含む第1反応原料物質を投入し、pH12以上で沈殿反応により第1正極活物質前駆体粒子の核を形成した後、pH12未満で沈殿反応により第1正極活物質前駆体粒子を成長させる第2ステップと、
前記第1正極活物質前駆体粒子を含む反応器に前記第2遷移金属水溶液、アンモニウムカチオン錯体形成剤および塩基性水溶液を含む第2反応原料物質を投入し、pH12以上で沈殿反応により第2正極活物質前駆体粒子の核を形成した後、pH12未満で沈殿反応により前記第1正極活物質前駆体粒子と第2正極活物質前駆体粒子を同時に成長させ、平均粒径(D50)が相違する第1正極活物質前駆体粒子と第2正極活物質前駆体粒子を含むバイモーダル型正極活物質前駆体を製造する第3ステップとを含み、
前記第1遷移金属水溶液と前記第2遷移金属水溶液のうち少なくとも一つは、Zr、B、W、Mo、Cr、Al、Ti、Mg、TaおよびNbから選択される1種以上のドーピング元素を含む、バイモーダル型正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記反応器は、濾過装置をさらに含み、
前記反応器が満液になると、前記反応器内に含まれた濾過装置を介して反応が完了した反応母液を反応器の外部に排出しながら、反応原料物質を投入する、請求項1に記載のバイモーダル型正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記ドーピング元素は、Zr、Al、BおよびWから選択される1種以上である、請求項1に記載のバイモーダル型正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項4】
前記ドーピング元素は、前記第1遷移金属水溶液または前記第2遷移金属水溶液に含まれる金属元素の全含有量に対して0.01モル%~0.5モル%の含有量で含まれる、請求項1に記載のバイモーダル型正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項5】
コアシェル構造を有する第1正極活物質前駆体粒子および前記第1正極活物質前駆体粒子より平均粒径(D50)が小さい第2正極活物質前駆体粒子を含み、
前記第1正極活物質前駆体粒子のコア部は、下記化学式1で表される組成を有し、
前記第1正極活物質前駆体粒子のシェル部と前記第2正極活物質前駆体粒子は下記化学式2で表される組成を有し、
化学式1で表される組成と化学式2で表される組成は相違し、
[化学式1]
[Nix1Coy1Mnz1 ](OH)
[化学式2]
[Nix2Coy2Mnz2 ](OH)
前記化学式1および前記化学式2中、
およびMは、それぞれ独立して、Zr、B、W、Mo、Cr、Al、Ti、Mg、TaおよびNbから選択される1種以上であり、
0.6≦x1≦1.0、0≦y1≦0.4、0≦z1≦0.4、0≦a<0.1、x1+y1+z1+a=1であり、
0.6≦x2≦1.0、0≦y2≦0.4、0≦z2≦0.4、0≦b<0.1、x2+y2+z2+b=1であり、
aとbのうち少なくとも一つは0超である、バイモーダル型正極活物質前駆体。
【請求項6】
前記化学式1および前記化学式2中、MおよびMは、それぞれ独立して、Zr、Al、BおよびWから選択される1種以上である、請求項5に記載のバイモーダル型正極活物質前駆体。
【請求項7】
前記化学式1中、aは0であり、前記化学式2中、bは0.0001≦b≦0.05である、請求項5に記載のバイモーダル型正極活物質前駆体。
【請求項8】
前記第1正極活物質前駆体粒子の平均粒径(D50)が8μm~15μmであり、前記第2正極活物質前駆体粒子の平均粒径(D50)が1μm以上8μm未満である、請求項5に記載のバイモーダル型正極活物質前駆体。
【請求項9】
前記バイモーダル型正極活物質前駆体のタップ密度が2.0g/cc~2.5g/ccである、請求項5に記載のバイモーダル型正極活物質前駆体。
【請求項10】
前記バイモーダル型正極活物質前駆体を1.0kgf/cm~5.0kgf/cmの圧延密度で圧縮してペレット状に製造してから測定したペレット密度が2.0g/cc~3.0g/ccである、請求項5に記載のバイモーダル型正極活物質前駆体。
【請求項11】
請求項5から10のいずれか一項に記載のバイモーダル型正極活物質前駆体とリチウム原料物質の焼成品である正極活物質。
【請求項12】
請求項11に記載の正極活物質を含む正極。
【請求項13】
請求項12に記載の正極を含む電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年5月29日付けの韓国特許出願第10-2020-0064875号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、正極活物質前駆体および正極活物質前駆体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
モバイル器機および電気自動車に対する技術開発および需要の増加に伴い、エネルギー源として二次電池の需要が急激に増加している。二次電池の中でも、高いエネルギー密度と電圧を有し、サイクル寿命が長く、自己放電率が低いリチウム二次電池が商用化し、広く使用されている。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が用いられており、中でも、作用電圧が高く、容量特性に優れたLiCoOなどのリチウムコバルト複合金属酸化物が主に使用されている。しかし、LiCoOは、脱リチウムによる結晶構造の不安定化のため、熱的特性が非常に劣る。また、前記LiCoOは、高価であるため、電気自動車などの分野の動力源として大量使用するには限界がある。
【0005】
前記LiCoOの代わりに使用する材料として、リチウムマンガン複合金属酸化物(LiMnOまたはLiMnなど)、リチウムリン酸鉄化合物(LiFePOなど)またはリチウムニッケル複合金属酸化物(LiNiOなど)などが開発されている。中でも、約200mAh/gの高い可逆容量を有して大容量の電池の実現が容易なリチウムニッケル複合金属酸化物に関する研究開発がより活発になされている。しかし、前記LiNiOは、LiCoOに比べて熱安定性が劣り、充電状態で外部からの圧力などによって内部短絡が生じると、正極活物質自体が分解し、電池の破裂および発火を引き起こす問題があった。そのため、前記LiNiOの優れた可逆容量は維持するとともに低い熱安定性を改善するための方法として、Niの一部をCoおよびMnまたはAlで置換したリチウムニッケルコバルト金属酸化物が開発されている。
【0006】
しかし、前記リチウムニッケルコバルト金属酸化物の場合、容量が低い問題があった。前記リチウムニッケルコバルト金属酸化物の容量を増加させるために、ニッケルの含有量を増加させるか、または正極活物質の単位体積当たり充填密度を増加させる方法が研究されている。
【0007】
従来、単位体積当たり充填密度が高い高密度正極活物質を製造するために、小粒子前駆体および大粒子前駆体をそれぞれ製造した後、混合し焼成するか、または製造された前駆体を分離回収して混合し焼成する方法を用いていた。しかし、この場合、それぞれ製造された小粒子前駆体および大粒子前駆体を分離、回収するための分離装置および空間などが必要となり、別の混合過程が必要であるため、製造コストおよび製造時間が上昇するという問題があった。また、粒子のサイズに応じて適正な焼成温度が異なるため、焼成均一度も十分でないという問題があった。
【0008】
したがって、製造コストおよび製造時間を低減することができ、且つ混合焼成に最適化した正極活物質前駆体を製造する方法の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決するためのものであり、製造コストおよび製造時間を低減することができ、且つ混合焼成に最適化したバイモーダル型正極活物質前駆体を製造する方法および混合焼成に最適化したバイモーダル型正極活物質前駆体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、第1遷移金属水溶液および前記第1遷移金属水溶液とは金属元素の組成が相違する第2遷移金属水溶液を準備する第1ステップと、反応器内に前記第1遷移金属水溶液、アンモニウムカチオン錯体形成剤および塩基性水溶液を含む第1反応原料物質を投入し、pH12以上で沈殿反応により第1正極活物質前駆体粒子の核を形成した後、pH12未満で沈殿反応により第1正極活物質前駆体粒子を成長させる第2ステップと、前記第1正極活物質前駆体粒子を含む反応器に前記第2遷移金属水溶液、アンモニウムカチオン錯体形成剤および塩基性水溶液を含む第2反応原料物質を投入し、pH12以上で沈殿反応により第2正極活物質前駆体粒子の核を形成した後、pH12未満で沈殿反応により前記第1正極活物質前駆体粒子と第2正極活物質前駆体粒子を同時に成長させ、平均粒径(D50)が相違する第1正極活物質前駆体粒子と第2正極活物質前駆体粒子を含むバイモーダル型正極活物質前駆体を製造する第3ステップとを含み、前記第1遷移金属水溶液と前記第2遷移金属水溶液のうち少なくとも一つは、Zr、B、W、Mo、Cr、Al、Ti、Mg、TaおよびNbから選択される1種以上のドーピング元素を含むバイモーダル型正極活物質前駆体の製造方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、コアシェル構造を有する第1正極活物質前駆体粒子および前記第1正極活物質前駆体粒子より平均粒径(D50)が小さい第2正極活物質前駆体粒子を含み、前記第1正極活物質前駆体粒子のコア部は、下記化学式1で表される組成を有し、前記第1正極活物質前駆体粒子のシェル部と前記第2正極活物質前駆体粒子は下記化学式2で表される組成を有し、前記化学式1で表される組成と前記化学式2で表される組成は相違するバイモーダル型正極活物質前駆体を提供する。
[化学式1]
[Nix1Coy1Mnz1 ](OH)
[化学式2]
[Nix2Coy2Mnz2 ](OH)
前記化学式1および化学式2中、
およびMは、それぞれ独立して、Zr、B、W、Mo、Cr、Al、Ti、Mg、TaおよびNbから選択される1種以上であり、
0.6≦x1≦1.0、0≦y1≦0.4、0≦z1≦0.4、0≦a<0.1、x1+y1+z1+a=1であり、
0.6≦x2≦1.0、0≦y2≦0.4、0≦z2≦0.4、0≦b<0.1、x2+y2+z2+b=1であり、
aとbのうち少なくとも一つは0超である。
【0012】
また、本発明によるバイモーダル型正極活物質前駆体とリチウム原料物質の焼成品である正極活物質を提供する。
【0013】
また、本発明による正極活物質を含む正極およびこれを含む電気化学素子を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、単一反応器を用いて、平均粒径(D50)が相違するバイモーダル型正極活物質前駆体を合成できることから、製造コストおよび製造時間を低減することができる。
【0015】
また、本発明は、ドーピング元素を用いて、平均粒径(D50)が相違する第1正極活物質前駆体粒子と第2正極活物質前駆体粒子との焼成温度の差を最小化することで、焼成均一度に優れたバイモーダル型正極活物質前駆体を製造することができる。
【0016】
また、本発明によるバイモーダル型正極活物質前駆体は、ドーピング元素でドーピングされたバイモーダル型正極活物質前駆体であり、ドーピング元素でドーピングされた正極活物質の製造時に、ドーピング原料物質とさらに混合した後、焼成する必要なしに焼成のみ行えば良いことから、製造工程を簡素化することができる。
【0017】
最後に、本発明は、バイモーダル型正極活物質前駆体の組成を容易に調節することができ、これにより、混合焼成に最適化したバイモーダル型正極活物質前駆体を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例1で製造したバイモーダル型正極活物質前駆体のSEMイメージである。
図2】本発明の比較例1で製造したバイモーダル型正極活物質前駆体のSEMイメージである。
図3】本発明の比較例2で製造したバイモーダル型正極活物質前駆体のSEMイメージである。
図4】本発明の実施例1で製造したバイモーダル型正極活物質前駆体の粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0020】
本明細書および請求の範囲にて使用されている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適宜定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0021】
本明細書の全体にわたり、「タップ密度(tap density)」は、粉末を充填する時に所定の条件で容器を振動させて得られる粉末の見掛け密度を意味し、通常のタップ密度測定器を用いて測定することができ、具体的には、ASTM B527‐06に準じて測定することができ、TAS‐2S(Logan社製)を用いて測定することができる。
【0022】
本明細書の全体にわたり、「平均粒径(D50)」は、粒径分布曲線で体積累積量の50%に該当する粒径と定義することができる。前記平均粒径(D50)は、例えば、レーザ回折法(laser diffraction method)を用いて測定することができる。例えば、前記正極活物質の平均粒径(D50)の測定方法は、正極活物質の粒子を分散媒の中に分散させた後、市販のレーザ回折粒度測定装置(例えば、Microtrac MT 3000)に導入して約28kHzの超音波を出力60Wで照射した後、測定装置における体積累積量の50%に該当する平均粒径(D50)を算出することができる。
【0023】
バイモーダル型正極活物質前駆体の製造方法
先ず、本発明によるバイモーダル型正極活物質前駆体の製造方法について説明する。
【0024】
本発明によるバイモーダル型正極活物質前駆体の製造方法は、第1遷移金属水溶液および前記第1遷移金属水溶液とは金属元素の組成が相違する第2遷移金属水溶液を準備する第1ステップと、反応器内に前記第1遷移金属水溶液、アンモニウムカチオン錯体形成剤および塩基性水溶液を含む第1反応原料物質を投入し、pH12以上で沈殿反応により第1正極活物質前駆体粒子の核を形成した後、pH12未満で沈殿反応により第1正極活物質前駆体粒子を成長させる第2ステップと、前記第1正極活物質前駆体粒子を含む反応器に前記第2遷移金属水溶液、アンモニウムカチオン錯体形成剤および塩基性水溶液を含む第2反応原料物質を投入し、pH12以上で沈殿反応により第2正極活物質前駆体粒子の核を形成した後、pH12未満で沈殿反応により前記第1正極活物質前駆体粒子と第2正極活物質前駆体粒子を同時に成長させ、平均粒径(D50)が相違する第1正極活物質前駆体粒子と第2正極活物質前駆体粒子を含むバイモーダル型正極活物質前駆体を製造する第3ステップとを含み、前記第1遷移金属水溶液と前記第2遷移金属水溶液のうち少なくとも一つは、Zr、B、W、Mo、Cr、Al、Ti、Mg、TaおよびNbから選択される1種以上のドーピング元素を含む。
【0025】
以下、本発明の各ステップについて具体的に説明する。
【0026】
(1)第1ステップ
前記第1ステップは、第1遷移金属水溶液および前記第1遷移金属水溶液とは金属元素の組成が相違する第2遷移金属水溶液を準備するステップである。前記第1遷移金属水溶液と前記第2遷移金属水溶液のうち少なくとも一つは、Zr、B、W、Mo、Cr、Al、Ti、Mg、TaおよびNbから選択される1種以上のドーピング元素を含む。
【0027】
本明細書において、前記金属元素は、前記第1遷移金属水溶液と前記第2遷移金属水溶液に含まれることができる遷移金属元素(例:ニッケル、マンガン、コバルトなど)とドーピング元素をすべて含むものを意味する。
【0028】
前記第1遷移金属水溶液と前記第2遷移金属水溶液は、金属元素の組成が相違することができる。
【0029】
例えば、前記第1遷移金属水溶液と前記第2遷移金属水溶液は、それぞれ独立して、ニッケル、マンガンおよびコバルトから選択される1種以上の遷移金属のカチオンとZr、B、W、Mo、Cr、Al、Ti、Mg、TaおよびNbから選択される1種以上のドーピング元素のカチオンを含むことができるが、前記第1遷移金属水溶液と前記第2遷移金属水溶液に含まれる遷移金属イオンの組成および/またはドーピング元素イオンの組成が相違することができる。
【0030】
具体的には、前記第1遷移金属水溶液は、金属元素の全含有量に対して、ニッケルを70モル%~90モル%、コバルトを0モル%~10モル%、マンガンを0モル%~20モル%の含有量で含むことができ、前記第2遷移金属水溶液は、金属元素の全含有量に対して、ニッケルを60モル%~80モル%、コバルトを0モル%~20モル%、マンガンを0モル%~20モル%、ドーピング元素を0.01モル%~0.5モル%の含有量で含むことができる。この場合、製造されるバイモーダル型正極活物質前駆体の焼成均一度に優れることができる。
【0031】
一方、前記第1遷移金属水溶液は、第2遷移金属水溶液に比べて、ニッケルイオンの濃度が高い溶液であることができる。また、前記第1遷移金属水溶液は、第2遷移金属水溶液に比べて、マンガンおよびコバルトのうち少なくとも一つの遷移金属イオンの濃度が低い溶液であることができる。
【0032】
前記第1遷移金属水溶液および第2遷移金属水溶液は、それぞれ独立して、前記遷移金属の酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硫化物、水酸化物、酸化物またはオキシ水酸化物などを含むことができ、水に溶解可能なものであれば、特に限定されない。
【0033】
例えば、前記ニッケル原料物質は、ニッケル含有酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硫化物、水酸化物、酸化物またはオキシ水酸化物などであることができ、具体的には、Ni(OH)、NiO、NiOOH、NiCO・2Ni(OH)・4HO、NiC・2HO、Ni(NO・6HO、NiSO、NiSO・6HO、脂肪酸ニケル塩、ニッケルハロゲン化物またはこれらの組み合わせであることができるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
前記コバルト原料物質は、コバルト含有酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硫化物、水酸化物、酸化物またはオキシ水酸化物などであることができ、具体的には、Co(OH)、CoOOH、Co(OCOCH・4HO、Co(NO・6HO、CoSO、Co(SO・7HOまたはこれらの組み合わせであることができるが、これに限定されるものではない。
【0035】
前記マンガン含有原料物質は、例えば、マンガン含有酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硫化物、水酸化物、酸化物、オキシ水酸化物またはこれらの組み合わせであることができ、具体的には、Mn、MnO、Mnなどのマンガン酸化物;MnCO、Mn(NO、MnSO、酢酸マンガン、ジカルボン酸マンガン塩、クエン酸マンガン、脂肪酸マンガン塩のようなマンガン塩;オキシ水酸化マンガン、塩化マンガンまたはこれらの組み合わせであることができるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
前記第1遷移金属水溶液および/または第2遷移金属水溶液は、ニッケル含有原料物質、コバルト含有原料物質およびマンガン含有原料物質を溶媒、具体的には、水、または水と均一に混合可能な有機溶媒(例えば、アルコールなど)の混合溶媒に添加して製造されるか、またはニッケル含有原料物質の水溶液、コバルト含有原料物質の水溶液およびマンガン含有原料物質を混合して製造されることができる。
【0037】
前記第1遷移金属水溶液および/または第2遷移金属水溶液に含まれるニッケル原料物質、コバルト原料物質およびマンガン原料物質の濃度を調節することで、最終製造される正極活物質前駆体の組成を調節することができる。例えば、前記原料物質の濃度を調節して、金属の全含有量に対して、ニッケル(Ni)の含有量が60モル%以上である正極活物質前駆体を製造することができ、この場合、高含有量ニッケル(high‐Ni)を含むことで高容量特性を実現することができる。
【0038】
本発明によると、前記第1遷移金属水溶液と前記第2遷移金属水溶液のうち少なくとも一つは、Zr、B、W、Mo、Cr、Al、Ti、Mg、TaおよびNbから選択される1種以上のドーピング元素を含む。具体的には、前記第2遷移金属水溶液が前記ドーピング元素を含むことができる。本発明は、前記ドーピング元素を用いて、平均粒径(D50)が相違する第1正極活物質前駆体粒子と第2正極活物質前駆体粒子との焼成温度の差を最小化することで、焼成均一度に優れた正極活物質前駆体を製造することができる。
【0039】
一方、前記第1遷移金属水溶液と前記第2遷移金属水溶液にドーピング元素がすべて含まれる場合、各水溶液が含むドーピング元素の種類および含有量のうち少なくとも一つが相違することができる。この場合、第1正極活物質前駆体粒子の組成と第2正極活物質前駆体粒子の組成が相違するように制御され、これにより、平均粒径(D50)の差による焼成不均一の問題を補償することができ、バイモーダル型正極活物質前駆体の焼成均一度を向上させることができる。
【0040】
本発明によるバイモーダル型正極活物質前駆体は、ドーピング元素でドーピングされたバイモーダル型正極活物質前駆体であり、ドーピング元素でドーピングされた正極活物質の製造時にドーピング原料物質とさらに混合した後、焼成する必要なしに焼成だけ行えば良いことから、製造工程を簡素化することができる。
【0041】
本発明によると、前記ドーピング元素は、Zr、Al、BおよびWから選択される1種以上であることができる。この場合、ドーピング元素が遷移金属結晶の内部に置換されることで結晶性が向上し、製造されるバイモーダル型正極活物質前駆体の焼成均一度が改善することができる。
【0042】
本発明によると、前記ドーピング元素は、前記第1遷移金属水溶液または前記第2遷移金属水溶液に含まれる金属元素の全含有量に対して、0.01モル%~0.5モル%の含有量で含まれることができる。具体的には、前記ドーピング元素は、前記第1遷移金属水溶液または前記第2遷移金属水溶液に含まれる金属元素の全含有量に対して、0.1モル%~0.3モル%、または0.15モル%~0.25モル%の含有量で含まれることができる。ドーピング元素の含有量が前記範囲内である場合、析出相が生成されず、ドーピング元素が遷移金属結晶の内部に置換されることで結晶性が向上し、製造されるバイモーダル型正極活物質前駆体の焼成均一度が改善することができる。
【0043】
前記Zr、B、W、Mo、Cr、Al、Ti、Mg、TaおよびNbから選択される1種以上のドーピング元素は、前記ドーピング元素含有原料物質を前記第1遷移金属水溶液および/または前記第2遷移金属水溶液の製造時に添加することができる。
【0044】
前記ドーピング元素含有原料物質としては、前記ドーピング元素を含む酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硫化物、水酸化物、酸化物またはオキシ水酸化物などであることができる。例えば、前記ドーピング元素がZrである場合、ZrSOなどが使用されることができる。
【0045】
前記第1遷移金属水溶液および/または第2遷移金属水溶液の製造時に、ドーピング元素含有原料物質の種類および濃度を調節して添加することで、最終製造される正極活物質前駆体の焼成均一度に優れるように第1正極活物質前駆体粒子と第2正極活物質粒子の組成を調節することができる。
【0046】
上述のとおり、本発明は、バイモーダル型正極活物質前駆体の組成を容易に調節することができ、これによって、混合焼成に最適化した正極活物質前駆体を容易に製造することができる。
【0047】
(2)第2ステップ
前記第2ステップは、反応器内に前記第1遷移金属水溶液、アンモニウムカチオン錯体形成剤および塩基性水溶液を含む第1反応原料物質を投入し、pH12以上で沈殿反応により第1正極活物質前駆体粒子の核を形成した後、pH12未満で沈殿反応により第1正極活物質前駆体粒子を成長させるステップである。
【0048】
前記アンモニウムイオン含有溶液は、NHOH、(NHSO、NHNO、NHCl、CHCOONH、およびNHCOから選択される1種以上を含むことができる。この際、溶媒としては、水、または水と均一に混合可能な有機溶媒(具体的には、アルコールなど)と水の混合物が使用されることができる。
【0049】
前記塩基性水溶液は、NaOH、KOHおよびCa(OH)から選択される1種以上を含むことができ、溶媒としては、水、または水と均一に混合可能な有機溶媒(具体的には、アルコールなど)と水の混合物が使用されることができる。この際、前記塩基性水溶液の濃度は、2M~10M、好ましくは、2.5M~3.5Mであることができる。前記塩基性水溶液の濃度が2M~10Mである場合、均一なサイズの前駆体粒子を形成することができ、前駆体粒子の形成時間が速く、取得率にも優れることができる。
【0050】
前記第2ステップは、先ず、反応器に脱イオン水を入れた後、不活性気体を反応器にパージングして水中の溶存酸素を除去し、反応器内を非酸化雰囲気にした後、アンモニウムカチオン錯体形成剤および塩基性水溶液を反応器の所定の体積まで投入して反応器内のpHを調節してから行われることができる。
【0051】
前記第2ステップは、第1遷移金属水溶液を投入しながら第1正極活物質前駆体粒子の核を形成した後、第1正極活物質前駆体粒子を成長させるステップである。一方、第1正極活物質前駆体粒子の核が形成されるか、第1正極活物質前駆体粒子が成長することによって反応溶液のpH値が変化するため、第1遷移金属水溶液の投入とともに塩基性水溶液およびアンモニウムカチオン錯体形成剤を連続して投入してpH条件を維持するように制御することができる。
【0052】
第1正極活物質前駆体粒子核の形成は、pH12以上で、具体的には、pH12~pH13下で行われることができる。より具体的には、pH12~pH12.5下で行われることができる。pHが前記範囲内である場合、粒子核だけ形成され、粒子の成長はほとんど行われないことがある。
【0053】
第1正極活物質前駆体粒子の成長は、pH12未満で、具体的には、pH10以上pH12未満で行われることができる。より具体的には、pH11以上pH12未満で行われることができる。pHが前記範囲内である場合、新たな粒子核はほとんど生成されず、すでに生成された粒子核の成長が優先して行われる。
【0054】
一方、本発明による反応器は、濾過装置をさらに含むことができ、前記反応器が満液になると、前記反応器内に含まれた濾過装置を介して反応が完了した反応母液を反応器の外部に排出しながら、反応原料物質を投入して、バイモーダル型正極活物質前駆体を製造することができる。この場合、バイモーダル型正極活物質前駆体の生産性を向上させることができる。
【0055】
前記反応器は反応器が満液になる場合、反応原料物質の投入を中断することなく、反応が完了した反応母液のみを反応器の外部に効果的に排出することができる。
【0056】
前記濾過装置は、反応母液を容易に濾過することができるものであれば、特に制限なく使用可能である。例えば、前記濾過装置は、反応器の内部および/または反応器の外部に1個または2個以上の複数個で設置され、前記反応器の内部で反応が完了した反応母液のみを排出することができるが、これに制限されるものではない。
【0057】
この際、前記反応器が満液になった時に、外部に排出される反応母液の排出流量は、前記反応原料物質の投入流量と同一であることができるが、これに制限されるものではない。
【0058】
(3)第3ステップ
前記第3ステップは、前記第1正極活物質前駆体粒子を含む反応器に前記第2遷移金属水溶液、アンモニウムカチオン錯体形成剤および塩基性水溶液を含む第2反応原料物質を投入し、pH12以上で沈殿反応により第2正極活物質前駆体粒子の核を形成した後、pH12未満で沈殿反応により前記第1正極活物質前駆体粒子と第2正極活物質前駆体粒子を同時に成長させ、平均粒径(D50)が相違する第1正極活物質前駆体粒子と第2正極活物質前駆体粒子を含むバイモーダル型正極活物質前駆体を製造するステップである。
【0059】
本発明は、単一反応器を用いて、平均粒径(D50)および組成が相違するバイモーダル型正極活物質前駆体を合成できることから、製造コストおよび製造時間を低減することができる。すなわち、本発明によるバイモーダル型正極活物質前駆体の製造方法は、従来相違する反応器で小粒子前駆体および大粒子前駆体をそれぞれ製造した後、分離、回収し、これを混合してバイモーダル型正極活物質前駆体を製造する場合に比べて、分離装置および空間などをあまり必要とせず、製造コストおよび製造時間を節減することができる。
【0060】
一方、前記第1遷移金属水溶液を第2遷移金属水溶液に変更していない状態で前記第3ステップを行う場合、pHを12以上に変更するに伴い、反応器内に第1正極活物質前駆体粒子の核がさらに生成される。すなわち、同一反応器で平均粒径(D50)が相違する正極活物質前駆体を製造することはできるが、この時に製造された正極活物質前駆体は、その組成が同様に形成される。この場合、正極活物質前駆体粒子をリチウム原料物質と混合し焼成して正極活物質を製造する時に、平均粒径(D50)が大きい正極活物質前駆体粒子は部分的に未焼成され、平均粒径(D50)が小さい正極活物質前駆体粒子は過焼成され、焼成均一度が劣るという問題がある。
【0061】
しかし、本願発明のように、正極活物質前駆体の製造時に、第1遷移金属水溶液と第2遷移金属水溶液の金属元素の組成を調節し、ドーピング元素を用いることによって、平均粒径(D50)の差による焼成不均一の問題を補償することができ、焼成均一度を向上させることができる。
【0062】
前記第3ステップは、前記第1正極活物質前駆体粒子を含む反応器に前記第2遷移金属水溶液を投入しながら第1正極活物質前駆体粒子の核を形成した後、第1正極活物質前駆体粒子と第2正極活物質粒子を同時に成長させるステップである。一方、第2正極活物質前駆体粒子の核が形成されるか、第2正極活物質前駆体粒子が成長するに伴い、反応溶液のpH値が変化するため、第2遷移金属水溶液の投入とともに、塩基性水溶液およびアンモニウムカチオン錯体形成剤を連続して投入してpH条件を維持するように制御することができる。
【0063】
第2正極活物質前駆体粒子核の形成は、pH12以上で、具体的には、pH12~pH13下で行われることができる。より具体的には、pH12.5~pH13下で行われることができる。pHが前記範囲内である場合、粒子核だけ形成され、粒子の成長はほとんど行われないことがある。
【0064】
第2正極活物質前駆体粒子の成長は、pH12未満で、具体的には、pH10以上pH12未満で行われることができる。より具体的には、pH11以上pH12未満で行われることができる。pHが前記範囲内である場合、新たな粒子核はほとんど生成されず、すでに生成された粒子核の成長が優先して行われる。これにより、第2正極活物質前駆体粒子だけでなく、前記反応器に存在する第1正極活物質前駆体粒子も成長する。
【0065】
すなわち、前記第1正極活物質前駆体粒子の場合、前記第2ステップによって、前記第1遷移金属水溶液と同じ金属元素の組成を有するコア部、および前記第3ステップによって前記第2遷移金属水溶液と同じ金属元素の組成を有するシェル部を含む、コアシェル構造を有することができる。
【0066】
この際、コア部およびシェル部が占める体積は、前記第2ステップおよび第3ステップの反応時間を調節することによって調節することができる。
【0067】
一方、前記第1正極活物質前駆体粒子および第2正極活物質前駆体粒子は、9:1~6:4、好ましくは8:2~7:3の重量比で形成されることが、単位体積当たり充填密度の改善の面で好ましく、前記第2ステップおよび前記第3ステップの反応時間を調節することで、前記第1正極活物質前駆体粒子および第2正極活物質前駆体粒子の比率を調節することができる。例えば、前記第2正極活物質前駆体粒子の比率が前記範囲未満と低い場合、第1正極活物質前駆体粒子の組成変化があまりなく、第2正極活物質前駆体が成長することができる時間が足りず平均粒径が小さくなるため、焼成不均一度を改善するのに制限がある。逆に、前記第2正極活物質前駆体粒子の比率が前記範囲を超えて高い場合、バイモーダル型粒度分布による充填密度の向上効果があまりないことがある。
【0068】
また、前記第2ステップおよび第3ステップの反応時間を調節することで、前記第1正極活物質前駆体粒子および第2正極活物質粒子の平均粒径(D50)を調節することができる。
【0069】
例えば、前記第1正極活物質前駆体粒子は、平均粒径(D50)が8μm~15μm、好ましくは10μm~13μmであることができる。前記第1正極活物質前駆体粒子の平均粒径(D50)が前記範囲を満たす場合、第1正極活物質前駆体のタップ密度が増加することができる。
【0070】
例えば、前記第2正極活物質前駆体粒子は、平均粒径(D50)が1μm~8μm、好ましくは2μm~6μm、最も好ましくは3μm~5μmであることができる。前記第2正極活物質前駆体粒子の平均粒径(D50)が前記範囲を満たす場合、前記平均粒径を有する第1正極活物質前駆体と混合する時にタップ密度をより改善することができる。
【0071】
本発明によるバイモーダル型前駆体が前記の範囲の平均粒径(D50)を有する第1正極活物質前駆体粒子および第2正極活物質前駆体粒子を含むことで、前記第1正極活物質前駆体粒子の空所内に相対的に平均粒径(D50)が小さい第2正極活物質前駆体が位置し、単位体積当たり充填密度がより増加することができる。
【0072】
次に、取得したバイモーダル型前駆体を分離して水洗し乾燥する工程をさらに行うことができる。
【0073】
前記水洗ステップは、例えば、超純水にリチウム遷移金属酸化物を投入し、撹拌する方法で行われることができる。この際、前記水洗温度は、20℃以下、好ましくは10℃~20℃であることができ、水洗時間は、10分~1時間程度であることができる。
【0074】
前記乾燥は、前記水洗溶液を乾燥するためのものであり、取得した正極活物質前駆体粒子に化学的変化を引き起こさず、前記溶液を乾燥させることができる方法であれば、特に制限なく使用可能であり、例えば、噴霧乾燥法、回転式蒸発器(rotary evaporator)を用いた乾燥法、真空乾燥法または自然乾燥法を用いて行うことができる。
【0075】
バイモーダル型正極活物質前駆体
次に、本発明によるバイモーダル型正極活物質前駆体について説明する。
【0076】
本発明によるバイモーダル型正極活物質前駆体は、コアシェル構造を有する第1正極活物質前駆体粒子および前記第1正極活物質前駆体粒子より平均粒径(D50)が小さい第2正極活物質前駆体粒子を含み、前記第1正極活物質前駆体粒子のコア部は、下記化学式1で表される組成を有し、前記第1正極活物質前駆体粒子のシェル部と前記第2正極活物質前駆体粒子は、下記化学式2で表される組成を有し、前記化学式1で表される組成と前記化学式2で表される組成は相違する。
【0077】
[化学式1]
[Nix1Coy1Mnz1 ](OH)
【0078】
[化学式2]
[Nix2Coy2Mnz2 ](OH)
【0079】
前記化学式1および化学式2中、
およびMは、それぞれ独立して、Zr、B、W、Mo、Cr、Al、Ti、Mg、TaおよびNbから選択される1種以上であり、
0.6≦x1≦1.0、0≦y1≦0.4、0≦z1≦0.4、0≦a<0.1、x1+y1+z1+a=1であり、
0.6≦x2≦1.0、0≦y2≦0.4、0≦z2≦0.4、0≦b<0.1、x2+y2+z2+b=1であり、
aとbのうち少なくとも一つは0超である。
【0080】
前記バイモーダル型正極活物質前駆体は、上記の正極活物質の製造方法で製造されたことができる。
【0081】
本発明によるバイモーダル型正極活物質前駆体は、ドーピング元素を用いて、平均粒径(D50)が相違する第1正極活物質前駆体粒子と第2正極活物質前駆体粒子との組成を異なるように調節し、焼成温度の差を最小化することで、焼成均一度に優れることができる。また、本発明によるバイモーダル型正極活物質前駆体は、ドーピング元素でドーピングされたバイモーダル型正極活物質前駆体であることから、ドーピング元素でドーピングされた正極活物質の製造時に、ドーピング原料物質とさらに混合した後、焼成する必要なしに焼成だけ行えば良いことから、活物質製造工程を簡素化することができる。
【0082】
本発明によると、前記化学式1および化学式2中、前記MおよびMは、それぞれ独立して、Zr、Al、BおよびWから選択される1種以上であることができる。この場合、ドーピング元素が遷移金属結晶の内部に置換されることで結晶性が向上し、製造されるバイモーダル型正極活物質前駆体の焼成均一度が改善することができる。
【0083】
本発明によると、前記化学式1中、aは、0であり、前記化学式2中、bは、0.0001≦b≦0.05であることができる。具体的には、前記化学式2中、0.01≦b≦0.03、または0.015≦b≦0.025であることができる。この場合、析出相が生成されず、ドーピング元素が遷移金属結晶の内部に置換されることで結晶性が向上し、製造されるバイモーダル型正極活物質前駆体の焼成均一度が改善することができる。
【0084】
本発明によると、前記第1正極活物質前駆体粒子は、平均粒径(D50)が8μm~15μmであり、前記第2正極活物質前駆体粒子は、平均粒径(D50)が1μm以上8μm未満であることができる。
【0085】
例えば、前記第1正極活物質前駆体粒子は、平均粒径(D50)が8μm~15μm、好ましくは10μm~13μmであることができる。前記第1正極活物質前駆体粒子の平均粒径(D50)が前記範囲を満たす場合、第1正極活物質前駆体のタップ密度が増加することができる。
【0086】
例えば、前記第2正極活物質前駆体粒子は、平均粒径(D50)が1μm~8μm、好ましくは2μm~6μm、最も好ましくは3μm~5μmであることができる。前記第2正極活物質前駆体粒子の平均粒径(D50)が前記範囲を満たす場合、前記平均粒径を有する第1正極活物質前駆体と混合時にタップ密度をより改善することができる。
【0087】
本発明によると、前記バイモーダル型正極活物質前駆体は、タップ密度が2.0g/cc~2.5g/ccであることができる。前記バイモーダル型正極活物質前駆体のタップ密度は、具体的には2.2g/cc~2.5g/cc、より具体的には2.2g/cc~2.4g/ccであることができる。前記バイモーダル型正極活物質前駆体のタップ密度が前記範囲内である場合、前記バイモーダル型正極活物質前駆体をリチウム原料物質とともに混合した後、焼成する時に、熱伝達が均一であることができ、正極活物質前駆体の充填量が増加し、生産性が増大することができる。
【0088】
本発明によると、前記バイモーダル型正極活物質前駆体を1.0kgf/cm~5.0kgf/cmの圧延密度で圧縮してペレット状に製造してから測定したペレット密度が2.0g/cc~3.0g/ccであることができる。前記ペレット密度は、具体的には2.5g/cc~3.0g/cc、より具体的には2.9g/cc~3.0g/ccであることができる。
【0089】
正極活物質
次に、本発明によるバイモーダル型正極活物質前駆体とリチウム原料物質の焼成品である正極活物質について説明する。
【0090】
前記正極活物質は、本発明のバイモーダル型正極活物質前駆体をリチウム原料物質と混合した後、焼成して製造することができる。
【0091】
前記リチウム原料物質としては、例えば、リチウム含有炭酸塩(例えば、炭酸リチウムなど)、水和物(例えば、水酸化リチウム水和物(LiOH・HO)など)、水酸化物(例えば水酸化リチウムなど)、硝酸塩(例えば、硝酸リチウム(LiNO)など)、塩化物(例えば、塩化リチウム(LiCl)など)などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。
【0092】
一方、前記正極活物質前駆体とリチウム原料物質の混合は、固相混合で行われることができ、前記正極活物質前駆体とリチウム原料物質の混合比は、最終的に製造される正極活物質での各成分の原子分率を満たす範囲と決定されることができる。例えば、前記正極活物質前駆体とリチウム原料物質は、遷移金属:Liのモル比が1:0.9~1:1.2、具体的には1:0.98~1:1.1になるようにする量で混合されることができる。前記前駆体およびリチウム原料物質が前記範囲で混合される場合、優れた容量特性を示す正極活物質を製造することができる。
【0093】
前記焼成は、600℃~1000℃、具体的には700℃~900℃で行われることができ、焼成時間は、5時間~30時間、具体的には8時間~15時間であることができるが、これに限定されるものではない。
【0094】
正極
次に、上述の本発明の正極活物質を含む正極について説明する。
【0095】
前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体上に形成された正極活物質層とを含み、前記正極活物質層は、本発明による正極活物質を含む。
【0096】
正極活物質については上述したため、具体的な説明を省略し、以下、残りの構成についてのみ具体的に説明する。
【0097】
前記正極集電体は、伝導性が高い金属を含むことができ、正極活物質層が容易に接着し、且つ電池の電圧範囲で反応性がないものであれば、特に制限されるものではない。前記正極集電体は、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが使用されることができる。また、前記正極集電体は、通常、3μm~500μmの厚さを有することができ、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体など様々な形態で使用されることができる。
【0098】
前記正極活物質層は、前記正極活物質とともに、必要に応じて、選択的に導電材、およびバインダーを含むことができる。
【0099】
この際、前記正極活物質は、正極活物質層の全重量に対して、80重量%~99重量%、より具体的には85重量%~98.5重量%の量で含まれることができる。前記の含有量範囲で含まれる時に、優れた容量特性を示すことができる。
【0100】
前記導電材は、電極に導電性を付えるために使用されるものであり、構成される電池において、化学変化を引き起こさず電子伝導性を有するものであれば、特に制限なく使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;カーボンナノチューブなどの導電性チューブ;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記導電材は、正極活物質層の全重量に対して0.1重量%~15重量%含まれることができる。
【0101】
前記バインダーは、正極活物質粒子の間の付着および正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割をする。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニリデンフルオライド‐ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール(polyvinylalcohol)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリメチルメタクリレート(polymethymethaxrylate)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、ポリアクリル酸(poly acrylic acid)、およびこれらの水素をLi、Na、またはCaで置換した高分子、またはこれらの様々な共重合体などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記バインダーは、正極活物質層の全重量に対して0.1重量%~15重量%含まれることができる。
【0102】
前記正極は、前記の正極活物質を用いる以外は、通常の正極製造方法によって製造されることができる。具体的には、前記の正極活物質および必要に応じて選択的にバインダー、導電材、および分散剤を溶媒の中に溶解または分散させて製造した正極活物質層形成用組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥および圧延することで製造することができる。
【0103】
前記溶媒としては、当該技術分野において一般的に使用される溶媒であることができ、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N‐メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(dimethyl formamide、DMF)、アセトン(acetone)または水などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造歩留まりを考慮して、前記正極活物質、導電材、バインダー、および分散剤を溶解または分散させ、以降、正極の製造のための塗布時に、優れた厚さ均一度を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0104】
また、他の方法として、前記正極は、前記正極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネートすることで製造されることもできる。
【0105】
電気化学素子
次に、上述の正極を含む電気化学素子について説明する。
【0106】
前記電気化学素子は、具体的には、電池、キャパシタなどであることができ、より具体的には、リチウム二次電池であることができる。
【0107】
前記リチウム二次電池は、具体的には、正極と、前記正極と対向して位置する負極と、前記正極と負極との間に介在されるセパレータおよび電解質とを含み、前記正極は、上述のとおりであるため、具体的な説明を省略し、以下、残りの構成についてのみ具体的に説明する。
【0108】
また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、セパレータの電極組立体を収納する電池容器、および前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含むことができる。
【0109】
前記リチウム二次電池において、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に位置する負極活物質層とを含む。
【0110】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず、高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などが使用されることができる。また、前記負極集電体は、通常、3μm~500μmの厚さを有することができ、正極集電体と同様、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して負極活物質の結合力を強化することもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体など様々な形態で使用されることができる。
【0111】
前記負極活物質層は、負極活物質とともに選択的にバインダーおよび導電材を含む。
【0112】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーションおよびデインターカレーションが可能な化合物が使用されることができる。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金など、リチウムとの合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープおよび脱ドープすることができる金属酸化物;またはSi‐C複合体またはSn‐C複合体のように前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などが挙げられ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されることができる。また、前記負極活物質として金属リチウム薄膜が使用されることもできる。また、炭素材料は、低結晶性炭素および高結晶性炭素などがいずれも使用可能である。低結晶性炭素としては、軟化炭素(soft carbon)および硬化炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、鱗片状、球状または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、液晶ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(meso‐carbon microbeads)、液晶ピッチ(Mesophase pitches)および石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0113】
前記負極活物質は、負極活物質層の全重量に対して80重量%~99重量%含まれることができる。
【0114】
前記バインダーは、導電材、活物質および集電体の間の結合を容易にする成分であり、通常、負極活物質層の全重量に対して0.1重量%~10重量%添加される。このようなバインダーの例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン‐ブタジエンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、フッ素ゴム、これらの様々な共重合体などが挙げられる。
【0115】
前記導電材は、負極活物質の導電性をより向上させるための成分であり、負極活物質層の全重量に対して、10重量%以下、具体的には5重量%以下で添加されることができる。このような導電材は、当該電池に化学的変化を引き起こさず、導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などが使用されることができる。
【0116】
前記負極活物質層は、負極集電体上に負極活物質、および選択的にバインダーおよび導電材を溶媒の中に溶解または分散させて製造した負極活物質層形成用組成物を塗布し乾燥することで製造されるか、または前記負極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることで製造されることができる。
【0117】
一方、前記リチウム二次電池において、セパレータは、負極と正極を分離し、リチウムイオンの移動通路を提供するものであり、通常、リチウム二次電池においてセパレータとして使用されるものであれば、特に制限なく使用可能であり、特に、電解質のイオン移動に対して低抵抗であり、且つ電解液含湿能に優れるものが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体およびエチレン/メタクリレート共重合体などのポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムまたはこれらの2層以上の積層構造体が使用されることができる。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が使用されることもできる。また、耐熱性または機械的強度の確保のために、セラミック成分または高分子物質が含まれたコーティングされたセパレータが使用されることもでき、選択的に、単層または多層構造で使用されることができる。
【0118】
また、前記電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル型高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0119】
具体的には、前記電解質は、有機溶媒およびリチウム塩を含むことができる。
【0120】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関わるイオンが移動することができる媒質の役割が可能なものであれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ‐ブチロラクトン(γ‐butyrolactone)、ε‐カプロラクトン(ε‐caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R‐CN(Rは、炭素数2~20の直鎖状、分岐状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含むことができる)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3-ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが使用されることができる。中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、底粘度の直鎖状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと直鎖状カーボネートは、約1:1~約1:9の体積比で混合して使用することが、優れた電解液の性能を示すことができる。
【0121】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池において使用されるリチウムイオンを提供することができる化合物であれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記リチウム塩のアニオンとしては、F、Cl、Br、I、NO 、N(CN) 、BF 、CFCFSO 、(CFSO、(FSO、CFCF(CFCO、(CFSOCH、(SF、(CFSO、CF(CFSO 、CFCO 、CHCO 、SCNおよび(CFCFSOからなる群から選択される少なくとも一つ以上であることができ、前記リチウム塩は、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAl0、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiCl、LiI、またはLiB(Cなどが使用可能である。前記リチウム塩の濃度は、0.1~2.0Mの範囲内で使用することが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれると、電解質が適切な伝導度および粘度を有することから、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0122】
前記電解質には、前記電解質構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池容量減少の抑制、電池の放電容量の向上などを目的に、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n‐グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N‐置換オキサゾールリジノン、N,N‐置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれることもできる。この際、前記添加剤は、電解質の全重量に対して0.1~5重量%含まれることができる。
【0123】
前記のように本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性および寿命特性を安定的に示すことから、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラなどのポータブル機器、およびハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などにおいて有用である。
【0124】
これにより、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュールおよびこれを含む電池パックが提供されることができる。
【0125】
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug‐in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムのいずれか一つ以上の中大型デバイスの電源として用いられることができる。
【0126】
前記リチウム二次電池の外形は、特に制限されないが、缶を使用した円筒型、角型、パウチ(pouch)型またはコイン(coin)型などになり得る。
【0127】
前記リチウム二次電池は、小型デバイスの電源として使用される電池セルに使用されることだけでなく、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールにおいて単位電池としても好ましく使用されることができる。
【0128】
前記中大型デバイスの例としては、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、および電力貯蔵用システムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0129】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例をあげて詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は、様々な異なる形態に変形可能であり、本発明の範囲が以下で詳述する実施例に限定されるものと解釈してはならない。本発明の実施例は、当業界において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0130】
実施例および比較例
実施例1
NiSO、CoSO、MnSOをニッケル:コバルト:マンガンのモル比が73:7:20のモル比になるようにする量で水の中で混合し、濃度2.4Mの第1遷移金属水溶液を準備した。また、NiSO、CoSO、MnSOをニッケル:コバルト:マンガンのモル比が68:12:20のモル比になるようにする量で、ZrSOを第2遷移金属水溶液に含まれる金属元素の全含有量に対して0.2モル%の量で水の中で混合し、濃度2.4Mの第2遷移金属水溶液を準備した。
【0131】
前記第1遷移金属水溶液が入っている容器、第2遷移金属水溶液が入っている容器、濃度25重量%のNaOH水溶液が入っている容器および濃度9重量%のNHOH水溶液が入っている容器をそれぞれ反応器(70L)に連結した。
【0132】
次いで、前記反応器に脱イオン水20Lを入れた後、窒素気体を反応器に10L/minの速度でパージングして水中の溶存酸素を除去し、反応器内を非酸化雰囲気にした。次に、濃度25重量%のNaOH水溶液40mL、濃度9重量%のNHOH水溶液870mLを投入した後、50℃で550rpmの撹拌速度で撹拌し、反応器内のpHをpH12.2に調節した。
【0133】
次に、前記第1遷移金属水溶液を8mol/hr、NaOH水溶液を16mol/hr、NHOH水溶液を2.4mol/hrの速度で反応器に投入し、pH12~12.2の下で4時間沈殿反応を行って、第1正極活物質前駆体粒子の核を形成した。
【0134】
次いで、前記反応器内のpHがpH11.6になるように調節した後、前記第1遷移金属水溶液を8mol/hr、NaOH水溶液を16mol/hr、NHOH水溶液を2.4mol/hrの速度で反応器に投入し、pH11.6の下で28時間沈殿反応を行って第1正極活物質前駆体粒子を成長させた。
【0135】
一方、前記第1正極活物質前駆体粒子を成長させる時に前記反応器が満液になると、反応器内に位置する濾過装置を介して反応が完了した溶媒を反応器の外部に排出しながら、前記第1遷移金属水溶液、NaOH水溶液およびNHOH水溶液を反応器に投入した。
【0136】
次いで、第1遷移金属水溶液の供給を中断し、前記第1正極活物質前駆体粒子を含む反応器内のpHがpH12.6になるように調節した後、前記第2遷移金属水溶液を8mol/hr、NaOH水溶液を16mol/hr、NHOH水溶液を2.4mol/hrの速度で反応器に投入し、pH12.6の下で1時間沈殿反応を行って第2正極活物質前駆体粒子の核を形成した。
【0137】
次に、反応器内のpHがpH11.6になるように調節した後、前記第2遷移金属水溶液を8mol/hr、NaOH水溶液を16mol/hr、NHOH水溶液を2.4mol/hrの速度で反応器に投入し、pH11.6の下で47時間反応を行って第1正極活物質前駆体粒子および第2正極活物質前駆体粒子を同時に成長させた。
【0138】
結果、最終製造された正極活物質前駆体は、Ni0.73Co0.07Mn0.20(OH)の組成を有するコア部および前記コア部の表面に形成され、Ni0.68Co0.12Mn0.198Zr0.002(OH)の組成を有するシェル部を含むコアシェル構造を有する第1正極活物質前駆体粒子とNi0.68Co0.12Mn0.198Zr0.002(OH)の組成を有する第2正極活物質前駆体粒子を含むバイモーダル型正極活物質前駆体であった。
【0139】
比較例1
コアシェル構造を有する大粒子の正極活物質前駆体と小粒子の正極活物質前駆体をそれぞれ製造した後、これを混合して、バイモーダル前駆体を製造した。
【0140】
先ず、大粒子の正極活物質前駆体を製造するために、実施例1と同様に反応器(70L)を非酸化雰囲気にした後、前記反応器に濃度25重量%のNaOH水溶液40mL、濃度9重量%のNHOH水溶液870mLを投入した後、50℃で550rpmの撹拌速度で撹拌し、反応器内のpHをpH12.2で維持した。次に、前記第1遷移金属水溶液を8mol/hr、NaOH水溶液を16mol/hr、NHOH水溶液を2.4mol/hrの速度で反応器に投入して4時間反応を行って、正極活物質前駆体粒子の核を形成した。次いで、前記反応器内のpHがpH11.6になるように、第1遷移金属水溶液、NaOH水溶液およびNHOH水溶液を投入し、pH11.6で3時間反応を維持して第1正極活物質前駆体粒子を成長させ、反応器は満液になった。前記反応器が満液になると、反応器内に位置する濾過装置を介して反応が完了した溶媒を反応器の外部に排出し、同時に第1遷移金属水溶液、NaOH水溶液およびNHOH水溶液を反応器に投入して25時間反応を維持することで前記第1正極活物質前駆体粒子を成長させ、平均組成がNi0.73Co0.07Mn0.2(OH)であるコア部を形成した。次いで、第1遷移金属水溶液の供給を中断し、第2遷移金属水溶液を供給して総反応時間が80時間になるまで前記正極活物質前駆体粒子を成長させ、前記コア部の表面に平均組成がNi0.68Co0.12Mn0.2(OH)であるシェル部を有する平均粒径(D50)が10.8μmである大粒子前駆体を形成した。
【0141】
次に、小粒子の正極活物質前駆体を製造するために、実施例1と同様に反応器(70L)を非酸化雰囲気にした後、前記反応器に濃度25重量%のNaOH水溶液40mL、濃度9重量%のNHOH水溶液870mLを投入した後、50℃で550rpmの撹拌速度で撹拌し、反応器内のpHをpH12.2に維持した。次に、第2遷移金属水溶液を8mol/hr、NaOH水溶液を16mol/hr、NHOH水溶液を2.4mol/hrの速度で反応器に投入し、4時間反応を行って、正極活物質前駆体粒子の核を形成した。次いで、前記反応器内のpHがpH11.6になるように、第2遷移金属水溶液、NaOH水溶液およびNHOH水溶液を投入し、pH11.6で44時間反応を維持して第2正極活物質前駆体粒子を成長させて平均組成がNi0.68Co0.12Mn0.2(OH)であり、平均粒径(D50)が3.8μmである小粒子前駆体を形成した。
【0142】
前記で製造した大粒子正極活物質前駆体と小粒子正極活物質前駆体を70:30の重量比で混合し、バイモーダル型前駆体を製造した。
【0143】
比較例2
大粒子の正極活物質前駆体と小粒子の正極活物質前駆体をそれぞれ製造した後、これを混合し、バイモーダル前駆体を製造した。
【0144】
この際、NiSO、CoSO、MnSOをニッケル:コバルト:マンガンのモル比が70:10:20のモル比になるようにする量で水の中で混合し、濃度2.4Mの遷移金属水溶液を準備し、これを用いて、単一組成を有し、平均組成がNi0.7Co0.1Mn0.2(OH)であり、平均粒径(D50)が10.8μmである大粒子前駆体および平均組成がNi0.7Co0.1Mn0.2(OH)であり、平均粒径(D50)が3.8μmである小粒子前駆体を製造し、これを使用する以外は、前記比較例1と同じ方法を用いてバイモーダル型前駆体を製造した。
【0145】
実験例1:正極活物質前駆体の特性評価
前記実施例1および比較例1~2で製造した正極活物質前駆体の粒子特性を評価した。
【0146】
1)タップ密度の評価
100mLの容器に実施例1および比較例1~2でそれぞれ取得した正極活物質前駆体50gを充填した後、所定の条件で振動させて得られる粒子の見掛け密度を測定した。具体的には、タップ密度試験機(KYT-4000、Seishin社製)を用いて前記正極活物質前駆体のタップ密度を測定した。測定結果は、下記表1に示した。
【0147】
2)ペレット(pellet)密度の評価
前記実施例1および比較例1~2で製造した正極活物質前駆体粒子をそれぞれ2.5kgf/cmの圧延密度で圧縮してペレット状にした後、密度測定装置(4350L、Carver社製)を用いて正極活物質前駆体のペレット密度を測定した。測定結果は、下記表1に示した。
【0148】
【表1】
【0149】
前記表1に示されているように、本発明の実施例で製造した正極活物質前駆体が、比較例で製造した正極活物質前駆体に比べて、タップ密度およびペレット密度が改善したことを確認することができた。
【0150】
3)正極活物質前駆体の表面特性の確認
前記実施例1および比較例1~2で製造した正極活物質前駆体の表面特性を走査電子顕微鏡を用いて確認した。
【0151】
図1図3は、それぞれ、本発明の実施例1、比較例1および2で製造した正極活物質前駆体の表面特性を示すSEMイメージである。
【0152】
図1図3に示されているように、本願発明のように単一反応器で大粒子正極活物質前駆体および小粒子正極活物質前駆体を製造しても、大粒子正極活物質前駆体および小粒子正極活物質前駆体をそれぞれ製造した後、混合した図2および図3と表面特性が類似することを確認することができた。
【0153】
実験例2:粒度分布の確認
前記実施例1および比較例1~2で製造した正極活物質前駆体粒子の粒度分布を確認するために、粒度分布測定装置(S-3500、Microtrac社製)を用いて実施例1および比較例1~2で生成した正極活物質前駆体の粒度を測定し、その結果を下記表2および図4に示した。
【0154】
【表2】
【0155】
前記表2を参照すると、実施例1のように、単一反応器で大粒子正極活物質前駆体および小粒子正極活物質前駆体を製造しても、大粒子正極活物質前駆体および小粒子正極活物質前駆体をそれぞれ製造した後、混合した比較例1および2と粒度分布挙動が類似することを確認することができた。
【0156】
一方、図4の粒度分布結果を分析すると、実施例1のように、単一反応器で大粒子正極活物質前駆体および小粒子正極活物質前駆体を製造しても、二つのピークが示されることを確認することができ、1番目のピークを小粒子の平均粒径(D50)とみなし、2番目のピークを大粒子の平均粒径(D50)とみなし、各ピークが示された平均粒径(D50)を下記表3に示した。
【0157】
【表3】
【0158】
実験例3:正極活物質の焼成均一度の確認
前記実施例1および比較例1~2で製造した正極活物質前駆体を用いて製造した正極活物質の焼成均一度を確認するために、前記実施例1および比較例1~2でそれぞれ製造した正極活物質前駆体をそれぞれLiOHと1:1.03の比率(重量%)で混合し、830℃で10時間焼成して、バイモーダル型正極活物質を製造した。前記で製造した正極活物質を用いて、二次電池を製造した後、前記二次電池の初期容量および容量維持率を確認した。
【0159】
この際、二次電池は、前記実施例1および比較例1~2でそれぞれ製造した正極活物質を使用する以外は、下記のように同じ方法を用いて製造した。具体的には、前記実施例1および比較例1~2でそれぞれ製造した正極活物質、カーボンブラック導電材(super-p)、およびKF1100バインダー(Kurea社製)を92.5:3.5:4.0の重量比で混合し、これをN‐メチルピロリドン(NMP)溶媒の中で混合して正極形成用組成物を製造した。前記正極形成用組成物を厚さが20μmであるAl集電体に塗布した後、乾燥し、ロールプレスを実施して正極を製造した。前記で製造した正極と負極としてLiメタルを20μmの単層セパレータとともに積層して通常の方法でコイン型電池を製造した後、これを電池ケースに入れて、エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジエチルカーボネートを3:4:3の体積比で混合した混合溶媒に1MのLiPFを溶解させた電解液を注入し、前記実施例1および比較例1~2によるリチウム二次電池を製造した。
【0160】
前記のように製造した実施例1および比較例1~2のリチウム二次電池の寿命特性を測定した。
【0161】
具体的には、前記実施例1および比較例1~2で製造したリチウム二次電池それぞれに対して、25℃でCC-CVモードで0.2C、4.3Vまで充電し(終止電流:1/20C)、0.2Cの定電流で3.0Vになるまで放電を実施して初期充電および放電容量を測定した。次に、0.5Cの定電流で4.3Vまで1/20Cカットオフ(cut off)で充電を実施し、1.0Cの定電流で3.0Vになるまで放電を実施した。前記充電および放電挙動を1サイクルとし、このようなサイクルを50回繰り返して実施した後、前記実施例1および比較例1~2によるリチウム二次電池の寿命特性を測定し、これを下記表4に示した。
【0162】
【表4】
【0163】
前記表4に示されているように、前記実施例1の正極活物質前駆体を用いて製造した二次電池の初期放電容量は、実施例1と組成が同じ大粒子および小粒子前駆体をそれぞれ相違する反応器で合成した後、混合した比較例1より優れていることを確認することができた。
【0164】
これによって、本発明による方法で製造されたバイモーダル型正極活物質の焼成均一度に優れていることを確認することができた。
図1
図2
図3
図4