IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-酸化鉱石の製錬方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 5/10 20060101AFI20240220BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20240220BHJP
   C22C 33/04 20060101ALN20240220BHJP
【FI】
C22B5/10
C22B3/22
C22C33/04 H
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020014074
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021120476
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】丹 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-156043(JP,A)
【文献】特開2016-035085(JP,A)
【文献】特開平02-086852(JP,A)
【文献】特開昭62-269765(JP,A)
【文献】特開2017-170334(JP,A)
【文献】特開2017-052995(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167841(WO,A1)
【文献】特開2019-127647(JP,A)
【文献】特開2013-211234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 5/10
C22B 3/22
C22C 33/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉱石と炭素質還元剤とを含む混合物を得る混合工程と、
得られた混合物に対して還元処理を施して、メタル相とスラグ相とを含む混在物からなる還元物を得る還元工程と、
得られた還元物に対して粉砕処理を施して前記還元物におけるメタル相とスラグ相の界面で粉砕することで、平均粒径が35.8μm以下の粉砕物を得る還元物粉砕工程と、
前記粉砕物から磁選によりメタルを回収するメタル回収工程と、
を有し、
前記還元物粉砕工程では、前記粉砕処理を2段階以上に分け、前記還元物をボールミルにより段階的に粉砕し、第2段目以降の粉砕処理で用いたボールミルよりも直径の大きいボールミルを用いて第1段目の粉砕処理に供する
酸化鉱石の製錬方法。
【請求項2】
前記還元物粉砕工程では、ボール直径が2.0mm以上30.0mm以下であるボールミルによる粉砕処理を施す
請求項1に記載の酸化鉱石の製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化鉱石の製錬方法に関するものであり、例えば、ニッケル酸化鉱石等の酸化鉱石を原料として炭素質還元剤により還元することで還元物を得て、さらに得られた還元物を粉砕及び磁選することによりフェロニッケルを得る酸化鉱の製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化鉱石の一種であるリモナイトあるいはサプロライトと呼ばれるニッケル酸化鉱石の製錬方法として、熔錬炉を使用してニッケルマットを製造する乾式製錬方法、ロータリーキルンあるいは移動炉床炉を使用して鉄とニッケルの合金(以下、鉄とニッケルの合金を「フェロニッケル」ともいう)を製造する乾式製錬方法、オートクレーブを使用して高温高圧で酸浸出し、ニッケルやコバルトが混在した混合硫化物(ミックスサルファイド)を製造する湿式製錬方法等が知られている。
【0003】
上述した様々な方法の中で、特に乾式製錬法を用いてニッケル酸化鉱石を還元して製錬する場合、反応を進めるために原料のニッケル酸化鉱石を適度な大きさに破砕する等して塊状物化する処理が前処理として行われる。
【0004】
具体的に、ニッケル酸化鉱石を塊状物化する、すなわち粉状や微粒状の鉱石を塊状にする際には、そのニッケル酸化鉱石と、それ以外の成分、例えばバインダーやコークス等の還元剤とを混合して混合物とし、さらに水分調整等を行った後に塊状物製造機に装入して、例えば一辺あるいは直径が10mm以上30mm以下程度の成形物(ペレット、ブリケット等を指す。以下、単に「ペレット」ということもある)とするのが一般的である。
【0005】
塊状物化して得られるペレットには、含有する水分を「飛ばす」ために、ある程度の通気性が必要となる。さらに、その後の還元処理においてペレット内で均一に還元が進まないと、得られる還元物の組成が不均一になり、メタルが分散したり偏在したりする等の不都合が生じる。そのため、ペレットを作製する際には混合物を均一に混合したり、得られたペレットを還元する際には可能な限り均一な温度を維持することが重要となる。
【0006】
加えて、還元処理により生成するメタル(フェロニッケル)を粗大化させることも重要である。生成したフェロニッケルが、例えば数10μm以上数100μm以下の細かな大きさであった場合、同時に生成するスラグと分離することが困難となり、フェロニッケルとしての回収率(収率)が大きく低下してしまう。そのため、還元後のフェロニッケルを粗大化する処理が必要となる。
【0007】
例えば、特許文献1には、金属酸化物と炭素質還元剤とを含む塊成物を、移動床型還元溶融炉の炉床上に供給して加熱し、金属酸化物を還元溶融させる粒状金属の製造方法において、塊成物同士の距離を0としたときの塊成物の炉床への最大投影面積率に対する、塊成物の炉床への投影面積率の相対値を敷密度としたとき、平均直径が19.5mm以上32mm以下の塊成物を、敷密度が0.5以上0.8以下になるように炉床上に供給して加熱する方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、この方法は、特定の直径を有しないものを取り除く必要があるため、塊成物を作製する際の収率が低くなる。また、塊成物の敷密度を0.5以上0.8以下に調整する必要があり、併せて塊成物を積層させることができないため生産性が低く、しかも製造コストが高くなる。
【0009】
このように、、酸化鉱石を混合及び還元して金属や合金を製造し、回収する技術には、生産性を高め、製造コストを低減させ、メタルの品質を高める点で、多くの課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-256414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、酸化鉱石等の酸化鉱石を含む混合物を還元することでメタルを製造する製錬方法において、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質のメタルを効率的に製造することができる酸化鉱石の製錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、磁選によりメタルを回収するに先立ち、予め得られた還元物に対して粉砕処理を施して還元物の粉砕物を得ることによって、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
(1)本発明の第1は、酸化鉱石と炭素質還元剤とを含む混合物を得る混合工程と、得られた混合物に対して還元処理を施して還元物を得る還元工程と、得られた還元物に対して粉砕処理を施して還元物の粉砕物を得る還元物粉砕工程と、前記粉砕物から磁選によりメタルを回収するメタル回収工程と、を有する酸化鉱石の製錬方法である。
【0014】
(2)本発明の第2は、第1の発明において、前記還元物粉砕工程では、前記粉砕処理を2段階以上に分け、前記還元物を段階的に粉砕する酸化鉱石の製錬方法である。
【0015】
(3)本発明の第3は、第1又は第2の発明において、前記還元物粉砕工程では、得られた還元物に対してボールミルによって粉砕処理を施す酸化鉱石の製錬方法である。
【0016】
(4)本発明の第4は、第3の発明において、前記還元物粉砕工程では、ボール直径が2.0mm以上30.0mm以下であるボールミルによって粉砕処理を施す酸化鉱石の製錬方法である。
【0017】
(5)本発明の第5は、第3又は第4の発明において、記還元物粉砕工程では、前記粉砕処理を2段階以上に分け、前記還元物をボールミルにより段階的に粉砕し、第2段目以降の粉砕処理で用いたボールミルよりも直径の大きいボールミルを用いて第1段目の粉砕処理に供する酸化鉱石の製錬方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る方法によれば、高品質なメタルを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れの一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0021】
≪酸化鉱石の製錬方法≫
本実施の形態に係る酸化鉱石の製錬方法は、原料鉱石である酸化鉱石(酸化物)を炭素質還元剤と混合し、その混合物(ペレット)に対して製錬炉(還元炉)内で還元処理を施すことによって、メタルとスラグとを生成させるものである。
【0022】
例えば、酸化鉱石として、酸化ニッケルや酸化鉄等を含有するニッケル酸化鉱石を原料とし、そのニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得て、混合物に含まれるニッケルを優先的に還元し、また鉄を部分的に還元することで、鉄-ニッケル合金のメタルを生成させ、さらに、そのメタルを回収することによってフェロニッケルを製造するニッケル製錬方法が挙げられる。
【0023】
以下では、このニッケル酸化鉱石の製錬方法を例に酸化鉱石の製錬方法を説明する。具体的に、このニッケル酸化鉱石の製錬方法は、図1に示すように、酸化鉱石と炭素質還元剤とを含む混合物を得る混合工程S1と、得られた混合物に対して還元処理を施して還元物を得る還元工程S2と、得られた還元物に対して粉砕処理を施して還元物の粉砕物を得る還元物粉砕工程S3と、還元物の粉砕物から磁選によりメタルを回収するメタル回収工程S4と、を含む。
【0024】
<1.混合工程>
混合工程S1は、ニッケル酸化鉱石と還元剤である炭素質還元剤とを混合して混合物を得る。具体的には、この混合工程S1では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と共に、炭素質還元剤を添加して混合し、また任意成分の添加剤として、鉄鉱石、フラックス成分、バインダー等の、例えば粒径が0.2~0.8mm程度の粉末を混合して混合物を得る。なお、混合処理は、混合機等を用いて行うことができる。
【0025】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石としては、特に限定されないが、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。なお、ニッケル酸化鉱石は、酸化ニッケル(NiO)と、酸化鉄(Fe)とを少なくとも含有する。
【0026】
本実施の形態においては、ニッケル酸化鉱石に対して、特定量の炭素質還元剤を混合して混合物とする。炭素質還元剤としては、特に限定されないが、例えば、石炭粉、コークス粉等が挙げられる。なお、この炭素質還元剤は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石の粒度や粒度分布と同等の大きさのものであると、均一に混合しやすく、還元反応も均一に進みやすくなるため好ましい。
【0027】
炭素質還元剤の混合量としては、ニッケル酸化鉱石を構成する酸化ニッケルと酸化鉄とを過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量を100%としたとき、50.0%以下の割合とすることが好ましく、40.0%以下とすることがより好ましい。このように、炭素質還元剤の混合量を、化学当量の合計値を100%としたときに50.0%以下の割合とすることで、還元反応を効率的に進行させることができる。
【0028】
なお、酸化ニッケルと酸化鉄とを過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量とは、酸化ニッケルの全量をニッケルメタルに還元するのに必要な化学当量と、酸化鉄を鉄メタルに還元するのに必要な化学当量との合計値(以下、「化学当量の合計値」ともいう)と言い換えることができる。
【0029】
炭素質還元剤の混合量の下限値としては、特に限定されないが、化学当量の合計値を100%としたときに、10.0%以上の割合とすることが好ましく、15.0%以上の割合とすることがより好ましい。
【0030】
ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤のほか、任意成分として添加する添加剤である鉄鉱石としては、特に限定されないが、例えば、鉄品位が50%程度以上の鉄鉱石、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬により得られるヘマタイト等を用いることができる。
【0031】
また、バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。また、フラックス成分としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素等を挙げることができる。
【0032】
下記表1に、混合工程S1にて混合する、一部の原料粉末の組成(質量%)の一例を示す。なお、原料粉末の組成としてはこれに限定されない。
【0033】
【表1】
【0034】
混合に際しては、混合性を高めるために混練を同時に行ってもよく、混合後に混練を行ってもよい。混練は、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸混練機、二軸混練機等を用いて行うことができる。混合物を混練することによって、その混合物にせん断力を加え、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集を解いて均一に混合できるとともに、各々の粒子の密着性を向上させ、また空隙を減少させることができる。これにより、その混合物において還元反応が起りやすくなるとともに均一に反応させることができ、還元反応の反応時間を短縮することができる。また、品質のばらつきを抑えることができる。
【0035】
また、混合を行った後、あるいは混合及び混練を行った後、押出機を用いて押出してもよい。これにより、混合物に対して圧力(せん断力)が加えられ、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集を解いてその混合物をより均一に混合させた状態とすることができる。さらに、混合物内の空隙を減少させることができる。これらのことから、後述する還元工程S2において混合物の還元反応が均一に起りやすくなり、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質なメタルを製造することができる。
【0036】
押出機は、高圧、高せん断力で混合物を混練して成形できるものであることが好ましく、一軸押出機、二軸押出機等を挙げることができる。特に、二軸押出機を備えたものであることが好ましい。高圧、高せん断で混合物を混練することにより、原料粉の混合物の凝集を解くことができ、また効果的に混練することができるうえ、混合物の強度を高めることができる。また、二軸押出機を備えたものを用いることにより、連続的に高い生産性を保ちながら混合物を得ることができる。
【0037】
また、混合物を所定形状の成形物(ペレット)に成形してもよい。成形物の形状としては、例えば、球状、直方体状、立方体状、円柱状等とすることができる。このような形状は、簡易な形状であって複雑なものではないため、成形コストを抑制しつつ不良品の発生を抑制することができ、得られる成形物の品質も均一となり、歩留り低下を抑制することができる。また、例えば、球状、直方体状、立方体状、円柱状等の形状にすることにより、積層しやすく、還元時に処理する量を多くすることが可能となる。これにより、1つのペレットの形状を巨大化しなくても還元時の処理量を増やせるため取扱いしやすく、また移動時等に崩れ落ちたりすることがなく不良等の発生を抑えることができる。
【0038】
成形(塊状化)した混合物のペレットの体積は8000mm以上であってよい。ペレットの体積が小さすぎると成形コストが高くなったり、還元炉に投入するのに手間がかかったりしてしまう。またペレットの体積が小さい場合はペレット全体に占める表面積の割合が高くなるため表面と内部の還元の差が現れやすくなり高い品質のフェロニッケルを製造し難くなる。混合物のペレットの体積は8000mm以上であると成形コストを抑えることができ、取扱いがしやすくて好ましい。さらに高い品質のフェルニッケルが製造可能となる。
【0039】
また、成形後の混合物の水分は30質量%程度(固形分が70質量%程度)であることが好ましい。特に、水分が多い場合には、混合物中の水分により、還元時に急激な昇温によって水分が一気に気化、膨張して混合物が粉々になってしまう恐れがある。よって、水分が30質量%となるように、必要に応じて乾燥工程を設けてもよい。
【0040】
乾燥方法は特に限定されないが、より具体的な混合物に対する乾燥処理としては、例えば150~400℃の熱風を混合物に対して吹き付けて乾燥させる。なお、比較的大きな混合物のペレットの場合、乾燥前や乾燥後の混合物にひびや割れが入っていてもよい。
【0041】
下記表2に、乾燥処理後の混合物における固形分中組成(質量部)の一例を示す。なお、混合物の組成としては、これに限定されるものではない。
【0042】
【表2】
【0043】
<2.還元工程>
還元工程S2は、得られた混合物に対して還元処理を施して還元物を得る。還元工程S2では加熱還元処理により、製錬反応(還元反応)が進行して、フェロニッケルメタル(以下、単に「メタル」という)と、フェロニッケルスラグ(以下、単に「スラグ」という)とが分かれて生成する。
【0044】
ここで、混合物中の炭素質還元剤がニッケル酸化鉱石の粒度や粒度分布と同等の大きさのものであると、還元反応が均一に生じさせることができ、結果として、得られるメタルの品位を高めて高品質なメタルを製造できる。
【0045】
還元工程S2における還元処理は、ニッケル酸化鉱石を含む混合物を、所定の還元温度に加熱した還元炉に装入することによって行われる。還元処理においては、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルは可能な限り完全にかつ優先的に還元し、一方で、ニッケル酸化鉱石に含まれる酸化鉄は一部だけ還元して、目的とする高いニッケル品位のフェロニッケルが得られる、いわゆる部分還元を施す。
【0046】
還元処理では、例えば1分程度のわずかな時間で、先ず還元反応の進みやすい混合物の表面近傍において混合物中のニッケル酸化鉱石及び鉄酸化物が還元されメタル化してフェロニッケルとなり、殻(シェル)を形成する。一方で、殻の中では、その殻の形成に伴ってスラグ成分が徐々に熔融して液相のスラグが生成する。これにより、混合物中では、メタルと、スラグとが分かれて生成する。
【0047】
そして、処理時間が10分程度経過すると、還元反応に関与しない余剰の炭素質還元剤がメタルに取り込まれて融点を低下させて、メタルも液相となる。なお、この還元物の体積は、還元炉に装入する混合物と比較すると、50%以上60%以下程度の体積に収縮している。
【0048】
還元処理における温度(還元温度)としては、特に限定されないが、1200℃以上1450℃以下の範囲とすることが好ましく、1300℃以上1400℃以下の範囲とすることがより好ましい。このような温度範囲で還元することで、均一に還元反応を生じさせることができ、品質のばらつきが抑制された高品質なフェロニッケルを生成できる。また、より好ましくは1300℃以上1400℃以下の範囲の還元温度で還元することで、比較的短時間で所望の還元反応を生じさせることができる。
【0049】
還元処理における時間(処理時間)としては、還元炉の温度に応じて設定されるが、10分以上であることが好ましく、15分以上であることがより好ましい。
【0050】
還元処理においては、上述した範囲の還元温度になるまで、例えばバーナー等により還元炉の内部温度を上昇させ、昇温後にその温度を維持してもよい。
【0051】
なお、還元温度(℃)と還元時間(分)の数値を乗じた値を還元に要した熱量は、20000(℃×分)以上40000(℃×分)以下の範囲であることが好ましい。これにより、高品質なメタルを効率的に製造することができる。
【0052】
還元炉としては、特に限定されないが、単一の炉を用いても、移動炉床炉等の炉床が回転移動等して工程ごとに連続的に処理可能となる炉を用いてもよい。
【0053】
その中でも、還元炉として移動炉床炉を用いることで、連続的に還元反応を進行させ、1つの設備で反応を完結させることができる。
【0054】
また、工程ごとに別々の炉を使用して操業を行った場合、炉と炉との間を移動させる際に、温度が低下してヒートロスが生じる可能性がある。さらに、雰囲気ガスに変化が生じ、炉に再装入したときに即座に反応を生じさせることができないこともある。
【0055】
これらに対して、移動炉床炉を使用した場合、1つの設備で各工程での処理を行うため、ヒートロスが低減されるとともに炉内雰囲気も的確に制御できる、反応をより効果的に進行できる。
【0056】
移動炉床炉としては、特に限定されず、例えば、円形状であって複数の処理領域に区分けされた回転炉床炉を用いることができる。回転炉床炉では、所定の方向に回転しながら、各領域においてそれぞれの処理を行う。
【0057】
回転炉床炉では、各領域を通過する際の時間(移動時間、回転時間)を制御することで、それぞれの領域での処理温度を調整することができ、回転炉床炉が1回転する毎に混合物が製錬処理される。また、移動炉床炉としては、ローラーハースキルン等であってもよい。
【0058】
還元処理では、混合工程S1から得られた混合物を還元炉に装入するにあたって、予めその還元炉内の炉床に炭素質還元剤(以下、「炉床炭素質還元剤」ともいう)を敷き詰めて、その敷き詰められた炉床炭素質還元剤の上に混合物を載置するようにしてもよい。
【0059】
また、炉床に、酸化物を主成分とする床敷材を敷いて、その上に混合物を載置してもよい。このように、炉床炭素質還元剤や床敷材等を敷いて、その上に混合物を載置することによって、炉床と混合物の反応を抑制することができ、延いては炉床の寿命を延ばすことができる。
【0060】
ここで、上述した還元処理の後、得られたメタルとスラグとからなる還元物を、例えば同一の還元炉内において所定の温度で保持する温度保持処理を施すようにしてもよい。具体的には、温度保持処理では、還元処理により得られた還元物を、還元炉から取り出さずに、同一の還元炉内で所定の温度で一定時間保持する。このように、同一の還元炉において還元物に対して温度保持処理を施すことにより、半溶融状態の還元物中でメタルを有効に沈降させてメタル相とスラグ相との分離を促進させることができる。これにより、メタルの回収率を高めることができ、より高品質なメタルを得ることができる。
【0061】
還元処理後における還元炉内の雰囲気ガスは、主に炭素質還元剤に由来するCOガスであり、CO等の還元性ガスが多く含まれており、不活性ガス等も含まれるが、酸素等の酸化性ガスは殆ど含まれない。したがって、酸素等の酸化性ガスが殆ど含まれない加熱還元処理後の還元炉内において、雰囲気ガスを伴った状態(還元物が酸化雰囲気から遮断された状態)で、得られた還元物を所定の温度に保持することで、還元物中のメタルが酸化されることを効果的に抑制しつつ還元物中のメタルを沈降させることができる。
【0062】
温度保持の処理時間(温度保持時間)としては、特に制限されないが、10分以上1000分以下であることが好ましく、30分以上180分以下であることがより好ましい。
【0063】
<3.還元物粉砕工程>
還元物粉砕工程S3は、得られた還元物に対して粉砕処理を施して還元物の粉砕物を得る。具体的には、この還元物粉砕工程S3では、混合物に対する還元加熱処理によって得られた、メタル相(メタル固相)とスラグ相(スラグ固相)とを含む混在物からなる還元物を所定の方法により粉砕処理を施す。
【0064】
還元物中のメタルとスラグとを分離する方法として、磁選することでスラグを分離しメタルを回収する方法が挙げられる。しかしながら、このような磁選する方法は、スラグが随伴するようなスラグ随伴率の高いメタル粒子も回収されるため、メタルとスラグとを十分に分離することができなくなり、回収されるメタルの品質が低下するという問題があった。
【0065】
そこで、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法では、磁選によりメタルを回収するに先立ち、予め得られた還元物に対して粉砕処理を施して還元物の粉砕物を得ることを特徴としている。これにより、スラグ随伴率の高いメタル粒子の発生を抑制して、得られるメタルの品位を高めることができる。
【0066】
このような粉砕処理は、1段階で施してもよいが、粉砕処理を2段階以上に分け、還元物を段階的に粉砕することが好ましい。これにより、順次粒径が小さくなるように段階的に粉砕することが可能となり、スラグ随伴率の高いメタル粒子の発生をより効果的に抑制することが可能となる。
【0067】
還元物に対して粉砕処理を施す方法としては、特に限定されず、例えば、ボールミル、ジョークラッシャー、ロールミル、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー、ダブルロールクラッシャー等から選ばれる粉砕装置によって粉砕処理を施す方法が挙げられる。
【0068】
なかでも、還元物に対してボールミルを用いた粉砕処理を施すことが好ましい。ボールミルは、円筒の中にボールを入れ、円筒が回転することで、原料とボールとが衝突して粉砕処理を施す粉砕装置である。このようなボールミルであれば、結合力の弱いメタルとスラグの界面で粉砕され、スラグの一部が含まれるようなメタル粒子の発生を抑制することが可能となり、磁着して回収された粉砕物のスラグ随伴率を低下させることができる。さらに、ボールミルを用いた粉砕処理は、メタル自体を細粉砕するほどの強い圧力で圧砕することをしないため、メタルが細粉化することによるテクニカルロスの発生もなく、メタル回収率を向上させることができる。
【0069】
還元物に対してボールミルを用いた粉砕処理を施す場合、ボール直径は特に限定されるものではないが、ボール直径が2.0mm以上30.0mm以下であるボールミルによって粉砕処理を施すことが好ましい。結合力の弱いメタルとスラグの界面でより優先的に粉砕され、スラグ随伴率の高いメタル粒子の発生をより確実に抑制することが可能となる。
【0070】
また、粉砕処理を2段階以上に分け還元物に対してボールミルによって粉砕処理を施す場合、第2段目以降の粉砕処理で用いたボールミルよりも直径の大きいボールミルを用いて第1段目の粉砕処理に供することが好ましい。このように第1段目のボールミルのボール直径を大きくすることで、第1段目の粉砕処理において還元物を粗砕することが可能となり、還元物を段階的に粉砕することができる。
【0071】
なお、還元物を段階的に粉砕する方法は、ボールミルのボール直径の他、ボールミル中のボールの数、ボールミルの回転速度等の粉砕条件を変更して還元物を段階的に粉砕してもよい。
【0072】
<4.メタル回収工程>
メタル回収工程S4は、粉砕物から磁選によりメタルを回収する。スラグの一部が含まれるようなメタル粒子の発生を抑制していることから、粉砕物から磁選によりメタルを回収ことでメタル回収率が向上し、スラグの一部が含まれるようなメタル粒子の発生を抑制して、得られるメタルの品位を高めることができる。
【実施例
【0073】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0074】
[混合工程]
原料であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤(石炭粉)を混合機で混合して混合物を得た。炭素質還元剤はニッケル酸化鉱石の原料に対して、ニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルと酸化鉄(Fe)とを過不足なく還元するのに必要な量を100質量%としたときに27質量%の割合となる量で含有した。
【0075】
次に、得られた混合物を、適宜水分を添加してパン型造粒機を使って直径10±0.5mmの大きさに篩った。その後、篩った試料を12に分けた。
【0076】
[還元工程]
各試料を還元炉に装入して、1350℃、30分の還元処理を施した。なお、還元炉の炉床には予め灰(主成分はSiO、その他の成分としてAl、MgO等の酸化物を少量含有する)を敷き詰め、その上に混合物試料を載置するようにした。
【0077】
[粉砕工程]
還元処理により得られた還元物を冷却後、還元炉から取り出して粉砕処理を施した。具体的には実施例に関する還元物については、還元物に対して表3に記載の粉砕装置により粉砕処理を施した。
【0078】
なお、実施例6、7に関する還元物については粉砕処理を2段階以上に分け、還元物を段階的に粉砕した。その際、第1段目の粉砕処理と、第2段目の粉砕処理とは、表3に記載のボール直径であるボールミルにより還元物を段階的に粉砕した。
【0079】
[メタル回収工程]
実施例に関する粉砕物から磁力選別によりメタルを回収した。メタルは真空中100℃、2時間の乾燥を行った。なお比較例に関する還元物については還元物に対して粉砕処理を施さず、磁力選別によりメタルを回収した。
【0080】
各試料について、ニッケルメタル回収率を、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S-8100型)により分析して算出した。
【0081】
ニッケルメタル回収率は、以下の式(1)により算出した。
ニッケルメタル化率=メタル中のニッケルの質量÷(混合物中のニッケルの質量)×100(%) ・・・(1)式
【0082】
またスラグ随伴率は式(2)により算出した。
スラグ随伴率=磁着して回収された粉砕物中のスラグの質量÷(磁着して回収された粉砕物)×100(%) ・・・(2)式
【0083】
【表3】
【0084】
表3からわかるように、得られた還元物に対して粉砕処理を施して還元物の粉砕物ら磁選によりメタルを回収することによってニッケルメタル回収率が向上していることが分かる。さらに、スラグ随伴率を低く抑えることができ、高品質なメタルを効率的に製造することができることが分かる。
【0085】
特に、還元物に対してボールミルによって粉砕処理を施した実施例1~7では、他の粉砕装置によって粉砕処理を施した実施例8~12と比較しても、ニッケルメタル回収率が向上し、スラグ随伴率が低下した。そのなかでも、粉砕処理を2段階に分けて還元物をボールミルによって段階的に粉砕した実施例6、7はさらに向上し、スラグ随伴率がさらに低下した。
【0086】
以上の結果から、磁選によりメタルを回収するに先立ち、予め得られた還元物に対して粉砕処理を施して還元物の粉砕物を得ることによって、高品質なメタルを効率的に製造することができることが確認された。
図1