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特許7439573熱可塑性ゴム組成物、熱可塑性ゴム組成物の製造方法、電線およびケーブル
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  • 特許-熱可塑性ゴム組成物、熱可塑性ゴム組成物の製造方法、電線およびケーブル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】熱可塑性ゴム組成物、熱可塑性ゴム組成物の製造方法、電線およびケーブル
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/26 20060101AFI20240220BHJP
   C08C 19/12 20060101ALI20240220BHJP
   C08C 19/25 20060101ALI20240220BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20240220BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240220BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20240220BHJP
   H01B 7/295 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C08L23/26
C08C19/12
C08C19/25
C08J3/24 A CEQ
C08L101/00
H01B3/44 L
H01B7/295
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020037932
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2021138846
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】芦原 新吾
(72)【発明者】
【氏名】矢▲崎▼ 浩貴
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-141384(JP,A)
【文献】特開2015-201361(JP,A)
【文献】特開2016-001560(JP,A)
【文献】特開2018-206625(JP,A)
【文献】特開平06-041391(JP,A)
【文献】特開2018-168349(JP,A)
【文献】特開2015-201362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/26
C08C 19/12
C08C 19/25
C08J 3/24
C08L 101/00
H01B 3/44
H01B 7/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有ゴムにシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフト塩素含有ゴム及び極性基を有するポリマを含むシラン架橋性成分(a)が架橋された架橋成分(A)と、ゴムおよび融点が70℃以上である非架橋樹脂の少なくとも1つを含む非架橋成分(B)と、を含み、
前記シラン架橋性成分(a)における前記塩素含有ゴム及び前記極性基を有するポリマを含むベース材料の含有量が50質量部~85質量部、前記非架橋成分(B)の含有量が15質量部~50質量部であり、
前記非架橋成分(B)が形成する海相に前記架橋成分(A)が島相として分散する海島構造を有する、
熱可塑性ゴム組成物。
【請求項2】
前記塩素含有ゴムは、塩素化ポリエチレンである、
請求項1に記載の熱可塑性ゴム組成物。
【請求項3】
ショアA硬度が90以下である、
請求項1又は2に記載の熱可塑性ゴム組成物。
【請求項4】
酸素指数が20以上である、
請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性ゴム組成物。
【請求項5】
塩素含有ゴムにシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフト塩素含有ゴム及び極性基を有するポリマを含むシラン架橋性成分(a)を準備する工程と、
前記シラン架橋性成分(a)と、ゴムおよび融点が70℃以上である非架橋樹脂の少なくとも1つを含む非架橋成分(B)とを、前記シラン架橋性成分(a)における前記塩素含有ゴム及び前記極性基を有するポリマを含むベース材料の含有量が50質量部~85質量部、前記非架橋成分(B)の含有量が15質量部~50質量部となるように混合し混合物を形成する工程と、
前記混合物を混練しながら前記シラン架橋性成分(a)を架橋させることで、架橋成分(A)を形成する工程と、を有し、
前記架橋成分(A)および前記非架橋成分(B)を含む、熱可塑性ゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
導体と、前記導体の外周を被覆するように設けられる絶縁層とを備え、
前記絶縁層が、
塩素含有ゴムにシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフト塩素含有ゴム及び極性基を有するポリマを含むシラン架橋性成分(a)が架橋された架橋成分(A)と、ゴムおよび融点が70℃以上である非架橋樹脂の少なくとも1つを含む非架橋成分(B)と、を含み、前記シラン架橋性成分(a)における前記塩素含有ゴム及び極性基を有するポリマを含むベース材料の含有量が50質量部~85質量部、前記非架橋成分(B)の含有量が15質量部~50質量部であり、前記非架橋成分(B)が形成する海相に前記架橋成分(A)が島相として分散する海島構造を有する、熱可塑性ゴム組成物から形成される、
電線。
【請求項7】
導体と、前記導体の外周を被覆するように設けられる絶縁層と、前記絶縁層の外周を被覆するように設けられる外被層とを備え、
前記外被層が、
塩素含有ゴムにシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフト塩素含有ゴム及び極性基を有するポリマを含むシラン架橋性成分(a)が架橋された架橋成分(A)と、ゴムおよび融点が70℃以上である非架橋樹脂の少なくとも1つを含む非架橋成分(B)と、を含み、前記シラン架橋性成分(a)における前記塩素含有ゴム及び極性基を有するポリマを含むベース材料の含有量が50質量部~85質量部、前記非架橋成分(B)の含有量が15質量部~50質量部であり、前記非架橋成分(B)が形成する海相に前記架橋成分(A)が島相として分散する海島構造を有する、熱可塑性ゴム組成物から形成される、
ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ゴム組成物、熱可塑性ゴム組成物の製造方法、電線およびケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
電線や絶縁層の被覆層には、耐熱性をはじめとした諸特性を向上させるために、架橋処理が施されることがある。
【0003】
架橋処理としては、例えば、架橋剤や架橋助剤を用いた方法やシランカップリング剤を用いた方法がある。架橋剤や架橋助剤を用いる場合、被覆材料に予め架橋剤などを配合して、導体や電線の周囲に被覆材料を被覆させた後に加熱や電子線照射を行うことにより架橋を行う。シランカップリング剤を用いたシラン架橋の場合、被覆材料に含まれるポリマ成分にシランカップリング剤を化学的に結合(グラフト化)させ、被覆後に水分の作用によりシランカップリング剤同士を縮合させることにより架橋を行う。シラン架橋は、架橋剤を用いた方法と比べて、大規模な設備や多大なエネルギーを必要としないので、経済性や環境性に優れている。
【0004】
被覆層の形成材料としては、電線やケーブルの可とう性の観点からはゴム材料がよく、ゴム材料へのシラン架橋の適用が検討されている。ただし、ゴム材料は、未架橋の状態ではゴム弾性率が小さく、電線やケーブルの被覆層において潰れ変形を生じさせることがある。一般に電線やケーブルを作製する場合、未架橋のゴム材料を押し出して被覆層を形成した後に電線やケーブルをドラムに巻き取り、その状態でシラン架橋を行う。そのため、被覆層は、ゴム材料が架橋されるまでの間に潰れて変形してしまうことがある。
【0005】
一方、潰れ変形しないようゴム材料を架橋させた後に押出成形することも考えられるが、ゴム材料の架橋物は加熱成形性に乏しく、被覆層に成形できないことがある。
【0006】
そこで、被覆層における潰れ変形を抑制する方法としては、例えば特許文献1に示すように、シラン架橋性ゴム又はポリマに結晶性ポリマを混合した熱可塑性を有するシラン架橋材料が提案されている。この材料によれば、材料の混練中にシラン架橋を進行させることができるので、押出成形して架橋させるまでの間の潰れ変形を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-020450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した特許文献1の材料では、エチレン酢酸ビニル共重合体などの非ハロゲン性材料を用いているため、電線やケーブルに要求される難燃性を満足できないことがある。難燃性を向上させるために難燃剤を配合することも考えられるが、難燃剤を多量に配合することで被覆層の可とう性が損なわれることがある。
【0009】
本発明は、ゴム材料において架橋させながらも加熱成形性を維持し、可とう性および難燃性を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、
塩素含有ゴムにシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフト塩素含有ゴムを含むシラン架橋性成分(a)が架橋された架橋成分(A)と、ゴムおよび融点が70℃以上である非架橋樹脂の少なくとも1つを含む非架橋成分(B)と、を含み、
前記シラン架橋性成分(a)における前記塩素含有ゴムを含むベース材料の含有量が50質量部~85質量部、前記非架橋成分(B)の含有量が15質量部~50質量部である、
熱可塑性ゴム組成物が提供される。
【0011】
本発明の他の態様によれば、
塩素含有ゴムにシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフト塩素含有ゴムを含むシラン架橋性成分(a)を準備する工程と、
前記シラン架橋性成分(a)と、ゴムおよび融点が70℃以上である非架橋樹脂の少なくとも1つを含む非架橋成分(B)とを、前記シラン架橋性成分(a)における前記塩素含有ゴムを含むベース材料の含有量が50質量部~85質量部、前記非架橋成分(B)の含有量が15質量部~50質量部となるように混合し混合物を形成する工程と、
前記混合物を混練しながら前記シラン架橋性成分(a)を架橋させる、もしくは、前記混合物を混練した後に前記シラン架橋性成分(a)を架橋させることで、架橋成分(A)を形成する工程と、を有し、
前記架橋成分(A)および前記非架橋成分(B)を含む、熱可塑性ゴム組成物の製造方法が提供される。
【0012】
本発明のさらに他の態様によれば、
導体と、前記導体の外周を被覆するように設けられる絶縁層とを備え、
前記絶縁層が、
塩素含有ゴムにシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフト塩素含有ゴムを含むシラン架橋性成分(a)が架橋された架橋成分(A)と、ゴムおよび融点が70℃以上である非架橋樹脂の少なくとも1つを含む非架橋成分(B)と、を含み、前記シラン架橋性成分(a)における前記塩素含有ゴムを含むベース材料の含有量が50質量部~85質量部、前記非架橋成分(B)の含有量が15質量部~50質量部である、熱可塑性ゴム組成物から形成される、
電線が提供される。
【0013】
本発明のさらに他の態様によれば、
導体と、前記導体の外周を被覆するように設けられる絶縁層と、前記絶縁層の外周を被覆するように設けられる外被層とを備え、
前記外被層が、
塩素含有ゴムにシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフト塩素含有ゴムを含むシラン架橋性成分(a)が架橋された架橋成分(A)と、ゴムおよび融点が70℃以上である非架橋樹脂の少なくとも1つを含む非架橋成分(B)と、を含み、前記シラン架橋性成分(a)における前記塩素含有ゴムを含むベース材料の含有量が50質量部~85質量部、前記非架橋成分(B)の含有量が15質量部~50質量部である、熱可塑性ゴム組成物から形成される、
ケーブルが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ゴム材料において架橋させながらも加熱成形性を維持し、可とう性および難燃性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るケーブルの概略構造を示す断面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る電線の概略構造を示す断面図である。
図3図3は、実施例におけるケーブルの作製を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは上述した課題を解決すべく検討を行い、被覆層の可とう性が得られること、難燃剤を配合しなくても高い難燃性を有することから、ゴム成分の中でも塩素含有ゴムに着目した。塩素含有ゴムを被覆材料に適用する場合、塩素含有ゴムにシランカップリング材をグラフト化してシラングラフト架橋性ゴムとした後に、これを押出成形して架橋させることにより被覆層を形成する。ただし、シラン架橋性ゴムが押出成形時に早期架橋してしまうことがあり、得られる被覆層の表面外観が悪くなることがある。
【0017】
このことから、本発明者らは塩素含有ゴムについて架橋させても加熱成形性を維持できるような方法について検討を行った。その結果、シラン架橋性ゴムに加熱溶融する非架橋樹脂やゴムを添加するとよいことを見出した。この混合物によれば、非架橋樹脂やゴムにシラン架橋性ゴムの架橋物を分散させることができるので、塩素含有ゴムの架橋物による特性を得ながらも、非架橋樹脂やゴムによる加熱成形性を得ることができる。
【0018】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。
【0019】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について説明する。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0020】
(1)熱可塑性ゴム組成物
本実施形態の熱可塑性ゴム組成物(以下、単にゴム組成物ともいう)は、シランカップリング剤がグラフトされた塩素含有ゴムを含むシラン架橋性成分(a)が架橋された架橋成分(A)と、融点が70℃以上である非架橋樹脂およびゴムの少なくとも1つを含む非架橋成分(B)と、を含み、シラン架橋性成分(a)に含まれるベース材料の含有量が50質量部~85質量部、非架橋成分(B)の含有量が15質量部~50質量部である。以下、各成分について詳述する。
【0021】
(架橋成分(A))
架橋成分(A)は、シランカップリング剤がグラフトされたシラングラフト塩素含有ゴムを含むシラン架橋性成分(a)が架橋されたものである。架橋成分(A)は、熱可塑性ゴム組成物において架橋した状態で存在する。架橋成分(A)は、塩素を含むので、熱可塑性ゴム組成物の難燃性に寄与する。また、架橋されているので、熱可塑性ゴム組成物に耐熱性を付与し、成形体(例えば被覆層など)の高温度での変形率(加熱変形率)を低く抑えることができる。
【0022】
塩素含有ゴムとしては、分子構造中に塩素を含むゴム状物質であれば特に限定されず、例えば塩素化ポリエチレン、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ブチルゴムなど公知のゴムを用いることができる。この中でも分子中に二重結合を持たないゴムが好ましく、塩素化ポリエチレンが好ましい。塩素化ポリエチレンは、分子中に二重結合をもたないので、分子中に二重結合を有するクロロプレンゴム等と比べて、熱可塑性ゴム組成物の耐熱性や耐オゾン性を向上させることができる。
【0023】
シランカップリング剤の塩素含有ゴムへのグラフト方法は、塩素含有ゴムの種類に応じて適宜変更するとよい。塩素含有ゴムの中でも、例えば塩素化ポリエチレンやクロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ブチルゴムなど飽和もしくは不飽和度が小さな分子構造を有するゴムでは、有機過酸化物の分解により生成するラジカルを用いてグラフト化するとよい。また例えばクロロプレンゴムでは、アリル位に結合した反応活性の高い塩素と塩基性官能基を有するシランとの求核置換反応を用いてグラフト化するとよい。有機過酸化物としては、具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-アミルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5ジメチル2,5ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-t-アミルパーオキサイド、1,1-ジ(t-アミルパーオキシ)シクロヘキサン、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネートなどを用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
シランカップリング剤としては、例えばラジカルへの付加反応を示す有機官能基とアルコキシ基とを有するものを用いることができる。有機官能基としては、例えばビニル基、メタクリル基、アクリル基、スチリル基などが挙げられる。またアルコキシ基としてはメトキシ基やエトキシ基などが挙げられる。具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3‐アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、p‐スチリルトリメトキシシラン、もしくは上記有機官能基およびアルコキシ基を有するアルコキシオリゴマなどを用いることができる。これらは単独でも用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0025】
シランカップリング剤としては、塩素との求核置換反応を示す有機官能基(例えばアミノ基)を有するアルコキシシランを用いることもできる。具体的には、3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルトリエトキシシラン、N‐フェニル‐3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、N‐フェニル‐3‐アミノプロピルトリエトキシシラン、N‐2‐(アミノエチル)‐3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、N‐2‐(アミノエチル)‐3‐アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3‐トリエトキシシリル‐N‐(1.3‐ジメチル‐ブチリデン)プロピルアミン、もしくはアミノ基を有するアルコキシオリゴマなどを用いることができる。これらは単独でも用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらは単独でも用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0026】
グラフト化させるシランカップリング剤の量は、特に限定されないが、塩素含有ゴム100質量部に対して例えば0.1質量部~20質量部とするとよく、1質量部~10質量部とすることが好ましい。
【0027】
シラン架橋性成分(a)は、シラングラフト塩素含有ゴム以外に、塩素含有ゴムとは異なる他のポリマのシラングラフト化物を含んでもよい。その他のポリマとしては、塩素含有ゴムと同様にシランカップリング剤をグラフト化できるものであれば特に限定されない。ポリマとしては、エチレン‐酢酸ビニル共重合体、エチレン‐アクリル酸エステル共重合体などの極性基を有するポリマ、これらを不飽和カルボン酸またはその無水物などにより酸変性したポリマ、ポリ塩化ビニル、ハロゲン化ポリマ、塩素含有ゴムなどのハロゲン元素を含むポリマが好ましい。これらは単独でも用いてもよく2種以上を併用してもよい。その他のポリマによれば、熱可塑性ゴム組成物に占める塩素含有ゴムの比率を低減し、熱可塑性ゴム組成物の加工時や電線の長期使用時において熱可塑性ゴム組成物の脱塩化水素による劣化を抑制することができる。なお、その他のポリマの配合量は、特に限定されず、塩素含有ゴムの難燃性や可とう性などの特性を過度に損なわない範囲で適宜変更するとよい。好ましくは、塩素含有ゴムおよびその他のポリマとの合計に対して、その他のポリマの含有量を0質量%以上50質量%以下、塩素含有ゴムの含有量を50質量%以上100質量%以下とするとよい。
【0028】
シラン架橋性成分(a)には、架橋を促進させるためにシラノール縮合触媒が含まれるとよい。シラノール縮合触媒としては、例えば、マグネシウムやカルシウム等のII族、コバルトや鉄等のVIII族、錫、亜鉛およびチタン等の元素や金属化合物、オクチル酸またはアジピン酸の金属塩、アミン系化合物、酸などを用いることができる。より具体的には、ジオクチル錫ジネオデカノエート、ジブチル錫ジラウリレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクタエート、酢酸第一錫、カブリル酸第一錫、ナフテン酸鉛、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン、硫酸や塩酸などの無機酸、トルエンスルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸などの有機酸を用いることができる。
【0029】
また、シラン架橋性成分(a)には、シランカップリング剤の塩素含有ゴムへのグラフトの際に使用する塩化水素捕捉剤や過酸化物などが含まれる。例えば、塩化水素捕捉剤としてはハイドロタルサイト様化合物、エポキシ変性油、酸化マグネシウムなどを用いることができる。また例えば、過酸化物としては、ジクミルパーオキサイドなどを用いることができる。
【0030】
なお、シラノール縮合触媒の配合量は、特に限定されないが、シラン架橋性成分(a)100質量部に対して0質量部~1質量部とするとよい。また、塩素含有ゴムとしてクロロプレンゴムとアミノシランとを用いる場合、これらはシラン架橋が進みやすいので、シラノール縮合触媒を配合しなくてもよい。
【0031】
(非架橋成分(B))
非架橋成分(B)は、融点が70℃以上である非架橋樹脂およびゴムの少なくとも1つを含む。非架橋成分(B)は、熱可塑性ゴム組成物においてシラン架橋されずに存在する成分であり、熱可塑性ゴム組成物に加熱成形性を付与する。また、融点が70℃以上である非架橋樹脂によれば、融点が70℃以上であるので、70℃よりも低い温度における成形体の加熱変形を抑制することができる。ただし、熱可塑性ゴム組成物の可とう性を考慮すると、融点は110℃未満であることが好ましい。一方、ゴムによれば、融点にかかわらず反発弾性を有するので、70℃よりも低い温度における成形体の加熱変形を抑制することができる。ゴムとしては、特に種類は限定されないが、塩素含有ゴムと混合する観点からは塩素含有ゴムとの親和性が高いことが好ましく、分岐構造中に極性基を有するものであることが好ましい。また、ゴム分子間や分子内に絡み合い、水素結合などの物理的化学的な補強効果をもつものが好ましい。なお、本明細書において、融点は、示差走査熱量計(DSC)でのベースラインシフトやピーク温度により測定された値を示す。
【0032】
非架橋成分(B)として用いる非架橋樹脂は、融点が70℃以上であれば特に限定されず、分子構造中に塩素を含まなくてもよい。また非架橋成分(B)として用いるゴムは、融点を持たないものでもよい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐αオレフィン共重合体、エチレン‐酢酸ビニル共重合体、エチレン‐アクリル酸エステル共重合体、エチレン‐プロピレン共重合体、エチレン‐プロピレン‐ジエン共重合体、ポリウレタン、シリコーンゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、フッ素ゴム、スチレン‐ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、もしくはこれらの変生物や混合物などを用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ただし、前述のとおり、可とう性の観点からは非架橋樹脂の融点は70℃以上110℃未満であることが好ましい。
【0033】
(他の添加剤)
熱可塑性ゴム組成物には、上述した架橋成分(A)および非架橋成分(B)以外に、必要に応じて、その他の添加剤を含んでもよい。例えば、電線やケーブルの被覆材料に一般的に使用される可塑剤、塩化水素捕捉剤、滑剤、酸化防止剤、重金属不活性化剤、難燃剤、架橋剤、架橋助剤、補強材、充填剤、着色剤などを用いることができる。
【0034】
(成分組成)
熱可塑性ゴム組成物において、シラン架橋性成分(a)に含まれるベース材料の含有量は50質量部~85質量部、非架橋成分(B)の含有量は15質量部~50質量部である。このような含有量とすることにより、架橋成分(A)および非架橋成分(B)それぞれに由来する特性をバランスよく得ることができる。好ましくは、シラン架橋性成分(a)におけるベース材料の含有量は60質量部~80質量部、非架橋成分(B)の含有量は20質量部~40質量部である。なお、シラン架橋性成分(a)に含まれるベース材料とは、シラン架橋性成分(a)に含まれる塩素含有ゴムやその他のポリマなどのベースポリマを示す。
【0035】
(相構造)
熱可塑性ゴム組成物は、架橋成分(A)および非架橋成分(B)がともにマトリックスを構成する共連続構造、もしくは、一方がマトリックス(海相)を構成して他方がドメイン(島相)を構成する海島構造を有することが好ましい。熱可塑性ゴム組成物を成形体としたときに、その表面外観を良好にする観点からは海島構造を有することがより好ましく、非架橋成分(B)が海相、架橋成分(A)が島相を構成する海島構造を有することがさらに好ましい。
【0036】
(特性)
本実施形態の熱可塑性ゴム組成物は以下の特性を有する。
ゴム組成物は、塩素を含む架橋成分(A)を含有するので、難燃剤を含まなくても高い難燃性を有する。具体的には、難燃性の指数である酸素指数が20以上となる。
また、ゴム組成物は、難燃剤を減量もしくはなくすことができるので、硬度を低くして可とう性を高く維持することができる。具体的には、ゴム組成物の硬度がデュロメータ硬度計で測定されるショアA硬度で90以下となる。
また、ゴム組成物は、非架橋成分(B)を含むので、加熱成形性を有する。つまり、ゴム組成物は押出成形により被覆層に形成することができる。
またその一方で、非架橋成分(B)が融点が70℃以上である非架橋樹脂またはゴムを含むので、ゴム組成物は70℃未満の環境下では加熱変形しにくい。具体的には、後述の実施例で測定される加熱変形率を10%以下にすることができる。
【0037】
(2)熱可塑性ゴム組成物の製造方法
続いて、上述した熱可塑性ゴム組成物の製造方法について説明する。
【0038】
(グラフト工程)
まず、シラングラフト塩素含有ゴムを含むシラン架橋性成分(a)を準備する。具体的には、塩素含有ゴムと、シランカップリング剤と、有機過酸化物と、必要に応じて、その他のポリマとを混合し、加熱しながら混練する。これにより、有機過酸化物の存在下で塩素含有ゴムにシランカップリング剤をグラフトさせ、シラングラフト塩素含有ゴム、および、その他のポリマのシラングラフト化物を含むシラン架橋性成分(a)を形成する。なお、塩素含有ゴムとその他のポリマとは混合して同時にシラングラフトを行ってもよいが、別々にシラングラフトを行った後に混合してもよい。
【0039】
(混合工程)
続いて、シラン架橋性成分(a)と、融点が70℃以上である非架橋樹脂およびゴムの少なくとも1つを含む非架橋成分(B)と、を混合する。このとき、シラン架橋性成分(a)に含まれるベース材料、例えば塩素含有ゴムやその他のポリマなどの含有量が50質量部~85質量部、非架橋成分(B)の含有量が15質量部~50質量部となるように混合する。
【0040】
(混練工程)
続いて、得られた混合物を加熱混練する。これにより、シラン架橋性成分(a)および非架橋成分(B)を互いに分散させ、混合物に共連続構造もしくは海島構造を導入する。なお、混練する際の加熱温度は、非架橋成分(B)の融点よりも高い温度、好ましくは20度以上高い温度とするとよい。非架橋成分(B)としてゴムを使用する場合は、80℃以上とするとよい。
【0041】
(架橋工程)
続いて、混練した後の混合物にシラノール縮合触媒を添加して混練する。これにより、混合物に含まれるシラン架橋性成分(a)をシラン架橋させて、架橋成分(A)を形成し、本実施形態の熱可塑性ゴム組成物を得る。
【0042】
なお、架橋は、混合物中に含まれる水分により進行することになるが、架橋反応を促進させるために混練温度を高くしたり、水分を添加したりしてもよい。
【0043】
また、上記では、シラン架橋性成分(a)および非架橋成分(B)の混練と、シラノール縮合触媒の添加とを別々に行ったが、混合工程にてシラン架橋性成分(a)および非架橋成分(B)にシラノール縮合触媒を添加してもよい。この場合、混練工程にてシラン架橋性成分(a)および非架橋成分(B)を加熱混練しながら、シラン架橋性成分(a)の架橋を同時に行うことができる。熱可塑性ゴム組成物を成形したときに成形体の表面外観を良好にする観点からは、混練と添加とを別々に行うことが好ましい。別々に行う場合、シラン架橋性成分(a)を非架橋成分(B)に微細に分散させて、熱可塑性ゴム組成物に海島構造を導入しやすくなるためである。
【0044】
また、その他の添加剤はグラフト工程、混合工程および架橋工程のいずれで添加してもよい。その他の添加剤のうち、塩化水素捕捉剤は塩素含有ゴムの劣化を抑制できるので、グラフト工程にて添加するとよい。また、アミノ系やフェノール系の酸化防止剤は、ラジカル捕捉能が高く、シランカップリング剤のグラフト化を阻害するおそれがあるので、混合工程や架橋工程にて添加するとよい。
【0045】
(3)ケーブル
次に、本発明の一実施形態に係るケーブルについて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るケーブル1の概略構造を示す断面図である。
【0046】
図1に示すように、本実施形態のケーブル1は、導体10、絶縁層11および外被層12を備えて構成される。
【0047】
導体10としては、低酸素銅や無酸素銅等からなる銅線、銅合金線、アルミニウムや銀等からなる金属線、又は金属線を撚り合わせた撚り線を用いることができる。導体10の外径は、ケーブル1の用途に応じて適宜変更することができる。
【0048】
導体10の外周を被覆するように、絶縁層11が設けられている。絶縁層11は、従来公知の樹脂組成物、例えばエチレンプロピレンゴムを含む樹脂組成物で形成されている。絶縁層11の厚さは、ケーブル1の用途に応じて適宜変更することができる。
【0049】
絶縁層11の外周を被覆するように、外被層12が設けられている。外被層12は、上述した熱可塑性ゴム組成物で形成されている。外被層12の厚さは、ケーブル1の用途に応じて適宜変更することができる。
【0050】
ケーブル1は、例えば、以下のように製造される。まず、導体10として銅線を準備する。そして、押出機により、導体10の外周を被覆するように、エチレンプロピレンゴムを含む樹脂組成物を押し出して、所定厚さの絶縁層11を形成する。続いて、絶縁層11の外周を被覆するように、上述した熱可塑性ゴム組成物を所定の厚さで押し出して外被層12を形成する。これにより、ケーブル1が得られる。本実施形態の熱可塑性ゴム組成物は、シラン架橋性成分(a)を架橋させているものの、非架橋成分(B)を含むため、押出成形が可能である。しかも、予め架橋処理が施されているので、外被層12として押出成形した後に架橋処理を施す必要がない。
【0051】
<本発明の実施形態に係る効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0052】
本実施形態の熱可塑性ゴム組成物は、シラングラフト塩素含有ゴムを含むシラン架橋性成分(a)が架橋された架橋成分(A)と、融点が70℃以上である非架橋樹脂およびゴムの少なくとも1つを含む非架橋成分(B)と、を、シラン架橋性成分(a)に含まれるベース材料の含有量が50質量部~85質量部、非架橋成分(B)の含有量が15質量部~50質量部となるように含んでいる。ゴム組成物によれば、架橋成分(A)および非架橋成分(B)を含むので、架橋処理による効果(例えば耐熱性などの向上)を得ながらも、加熱成形性に優れている。つまり、そのまま押出成形することができ、押出成形した後に別途架橋処理を施す必要がなく、工程を省略することができる。また、架橋成分(A)は塩素を含むので、難燃剤を配合しなくても高い難燃性を実現することができる。また、難燃剤を配合しないことで、難燃剤による硬度の増加を抑制することができ、可とう性を高く維持することができる。また、非架橋成分(B)は、融点が70℃以上である非架橋樹脂またはゴムを含むので、70℃未満の温度範囲では加熱変形しにくく、耐加熱変形性に優れる。したがって、本実施形態の熱可塑性ゴム組成物によれば、架橋させながらも加熱成形性を確保することができ、可とう性、難燃性および耐加熱変形性を高い水準でバランスよく実現することができる。
【0053】
具体的には、熱可塑性ゴム組成物は、酸素指数で20以上となるような難燃性を有する。また、硬度がデュロメータ硬度計で測定されるショアA硬度で90以下となるような可とう性を有する。
【0054】
また、シラン架橋性成分(a)と非架橋成分(B)とを混練して架橋処理を施すことにより、シラン架橋性成分(a)の架橋による異物の生成を抑制でき、押出成形したときの成形体の表面外観を良好にすることができる。
【0055】
熱可塑性ゴム組成物は、非架橋成分(B)で構成される海相に架橋成分(A)が島相として分散する海島構造を有することが好ましい。このような構造を有することで、諸特性より高い水準でバランスよく実現できるとともに、成形体の表面外観をより良好にすることができる。
【0056】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0057】
上述の実施形態では、ケーブル1が、導体の外周に絶縁層が設けられた1本の電線を備える場合について説明したが、ケーブル1は、2本以上の電線を撚り合わせた複数の絶縁電線を備えてもよい。
【0058】
また、上述の実施形態では、熱可塑性ゴム組成物をケーブル1の被覆層12として用いる場合について説明したが、これに限定されない。熱可塑性ゴム組成物を、例えば、図2に示すような電線2の絶縁層11に用いることもできる。この場合、上述の実施形態で外被層12を形成する場合と同様に、導体11の外周に熱可塑性ゴム組成物を押し出して絶縁層11を形成するとよい。
【実施例
【0059】
次に、本発明について実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0060】
実施例および比較例で用いた材料は次の通りである。
【0061】
シラン架橋性成分(a)に用いた材料は以下のとおりである。
【0062】
塩素含有ゴムとして以下を用いた。
・塩素化ポリエチレン:科利化工株式会社製「CM3685」
・クロロプレンゴム:昭和電工株式会社製「ショウプレンW」
【0063】
その他のポリマとして以下を用いた。
・エチレン‐酢酸ビニル共重合体(1):三井化学株式会社製「エバフレックスEV260」
【0064】
他の添加剤として以下を用いた。
塩化水素捕捉剤として以下を用いた。
・ハイドロタルサイト:協和化学工業株式会社製「マグセラー1」
・エポキシ変性油:日本油脂株式会社製「ニューサイザー510R」
・酸化マグネシウム:協和化学株式会社製「キョーワマグ30」
過酸化物として以下を用いた。
・ジクミルパーオキサイド:日本油脂株式会社製「DCP」
シランカップリング剤として以下を用いた。
・メタクリル基含有シラン:信越化学株式会社製「KBM-503」
・アミノ基含有シラン:信越化学株式会社製「KBM-903」
【0065】
非架橋成分(B)としては以下を用いた。
融点が70℃以上で非架橋樹脂として以下を用いた。
・エチレン‐エチルアクリレート共重合体(融点100℃):日本ポリエチレン株式会社製「レクスパールA-1150」
・エチレン‐αオレフィン共重合体(1)(融点55℃):三井化学株式会社製「タフマーDF740」
・エチレン‐αオレフィン共重合体(2)(融点77℃):三井化学株式会社製「タフマーDF940」
・エチレン‐酢酸ビニル共重合体(2)(融点62℃):三井化学株式会社製「エバフレックスEV170」
・エチレン‐酢酸ビニル共重合体(3)(融点83℃):東ソー株式会社製「ウルトラセン627」
ゴムとして以下を用いた。
・エチレン‐プロピレン‐ジエン共重合体:JSR株式会社製「EP51」
・塩素化ポリエチレン:昭和電工株式会社製「エラスレン352GB」
・スチレン‐エチレンブチレン‐スチレン共重合体:旭化成株式会社製「SOE S1605」
【0066】
その他の添加剤として以下を用いた。
可塑剤として以下を用いた。
・フタル酸エステル:丸紅株式会社製「DINP」
・鉱物油:出光興産株式会社製「NP-24」
補強剤として以下を用いた。
・カーボンブラック:旭カーボン株式会社製「旭カーボン60UG」
充填剤として以下を用いた。
・炭酸カルシウム:備北粉化工業株式会社製「ソフトン1200」
酸化防止剤として以下を用いた。
・フェノール系酸化防止剤:BASF株式会社製「イルガノックス1010」
・アミン系酸化防止剤:川口化学工業株式会社製「アンテージDDA」
・硫黄系酸化防止剤:ADEKA株式会社製「アデカスタブAO-412S」
滑剤として以下を用いた。
・脂肪酸アミド:三菱ケミカル株式会社製「スリパックス-O」
・パラフィンワックス:日本精蝋株式会社製「パラフィン135」
シラノール縮合触媒として以下を用いた。
・ジオクチル錫ジネオデカノエート:日東化学株式会社製「ネオスタンU-830」
【0067】
(1)シラン架橋性成分(a)の準備
まず、塩素含有ゴムにシランカップリング剤をグラフト化させて、シラングラフト塩素含有ゴムを含むシラン架橋性成分(a)準備した。具体的には、下記表1に示すように、塩素含有ゴム、塩化水素捕捉剤、シランカップリング剤、必要に応じて、その他のポリマや過酸化物を3Lニーダ混練機に投入して混練することにより、塩素含有ゴムへのシランカップリング剤のグラフト化を行った。本実施例では、下記表1に示すように、塩素含有ゴムの種類を変更したり、他のポリマを添加したりすることで、組成の異なるシラン架橋性成分(a1)~(a3)の3種類を準備した。
【0068】
なお、ニーダ混練機では、温度を100℃、回転数を20rpmで10分間混練を行った。この際、混練による材料の自己発熱で過酸化物が分解しないよう、材料温度が120℃以下となるような混練条件を設定した。また、アミノ基含有シランを用いる場合には、グラフト化を進行させるため、10分程度の混練を行った。過酸化物を混合する場合には、上記混練後にニーダ混練機の温度を180℃に設定し、回転数30rpmで混練を継続した。材料温度が180℃に到達した後、回転数20rpmで4分間混練を行い、過酸化物を分解させてグラフト化を進行させた。
【0069】
【表1】
【0070】
(2)熱可塑性ゴム組成物の調製
(実施例1)
続いて、3Lニーダ混練機を用いて、シラン架橋性成分(a)、非架橋成分(B)、可塑剤、補強剤、充填剤、酸化防止剤および滑剤を投入し、これらを混練した。具体的には、下記表2に示すように、シラン架橋性成分(a1)を93.755質量部、非架橋成分(B)としてエチレン‐エチルアクリレート共重合体を15質量部、投入して、シラン架橋性成分(a)に含まれるベース材料(ベースポリマ)の含有量と非架橋成分(B)の含有量との比率が85:15となるように混合した。そして、さらに、可塑剤を10質量部、補強剤を30質量部、充填剤を10質量部、酸化防止剤としてフェノール系を0.5質量部、硫黄系を1質量部、滑剤として脂肪酸アミドを1質量部、添加して混練した。混練の際、ニーダ混練機の温度を非架橋成分(B)の融点(融点を持たない非晶性ポリマでは軟化温度)を超える温度に設定し、回転数20rpmで8分間行った。これにより、シラン架橋性成分(a1)および非架橋成分(B)が微細に分散した混合物を得た。
【0071】
【表2】
【0072】
続いて、3Lニーダ混練機を用いて、得られた混合物にシラノール縮合触媒を0.1質量部添加して混練した。このとき、ニーダ混練機の温度は上記混練と同様の温度に設定し、回転数20rpmで10分間混練を行った。これにより、混合物に含まれるシラン架橋性成分(a1)を架橋させて架橋成分(A1)を形成し、架橋成分(A1)および非架橋成分(B)を含む熱可塑性ゴム組成物を得た。
【0073】
(実施例2~5、比較例1、2)
実施例2~5、比較例1、2では、シラン架橋性成分(a)に含まれるベース材料と非架橋成分(B)との比率を表2に示すように適宜変更した以外は、実施例1と同様に熱可塑性ゴム組成物を調製した。
【0074】
(実施例6~10、比較例3、4)
実施例6~10、比較例3、4では、シラン架橋成分(a1)と混合する非架橋成分(B)の種類を下記表3に示すように変更した以外は、実施例3と同様に熱可塑性ゴム組成物を調製した。
【0075】
【表3】
【0076】
(実施例11、12)
実施例11、12では、シラン架橋性成分(a)の種類を(a1)から(a2)または(a3)に変更した以外は、実施例10と同様に熱可塑性ゴム組成物を調製した。
【0077】
(3)ケーブルの作製
続いて、図3に示す単軸押出機を用いてケーブルを作製した。具体的には、単軸押出機100のダイス105に、スズめっき軟銅線を複数本撚り合わせた導体断面積が0.75mmで外径1.1mmの導体10を挿通させて、その外周にエチレン‐プロピレン‐ジエン共重合体混和物を厚さ0.8mmで押し出して絶縁層11を形成すると共に、絶縁層11の外周に上述の熱可塑性ゴム組成物を押し出して、厚さ1.0mmの外被層12を形成することで、外径約4.7mmのケーブル1を作製した。
【0078】
なお、ケーブル1の作製では、20mm単軸の単軸押出機100を用いた。また、スクリュ直径Dとスクリュ長さLとの比率L/Dを25とした。また、シリンダ103aの温度を120℃、シリンダ103bの温度を170℃、ネック109の温度を170℃、クロスヘッド部110の温度を170℃、ダイス105の温度を170℃とした。また、スクリュ102の回転数を20rpm、スクリュ102の形状をフルフライト形状、圧縮比を2.0とした。
【0079】
(4)評価
作製したケーブルについて以下のように評価した。
【0080】
(相構造)
作製したケーブルの外被層を剥ぎ取り、その断面を走査型電子顕微鏡で観察し、架橋成分(A)および非架橋成分(B)のそれぞれがマトリックス(海相)もしくはドメイン(島相)のいずれを構成するのかを確認した。表2では、[A]/[B]で表記し、例えば架橋成分(A)が島相で、非架橋成分(B)が海相であれば、「島/海」と表記した。
【0081】
(表面外観)
作製したケーブルの表面外観を目視により観察して評価した。表面が平滑であり、架橋ブツや荒れ(ざらつき)などが少なく、ケーブルとして全く問題がなく優れたものを「◎」、多少外観に劣る箇所があるもののケーブルとしては問題のないレベルであるものを「〇」、架橋ブツや荒れが見られ、ケーブルとしての美観が損なわれたものを「×」と表記した。
【0082】
(ゲル分率)
外被層の架橋度を評価するために、外被層のゲル分率を測定した。具体的には、まず、熱可塑性ゴム組成物から試料0.5gを採取し、この試料を40メッシュの真鍮製金網に入れた。続いて、試料を110℃のオイルバス中でキシレンにより24時間、抽出処理した。抽出処理後、残存した試料をキシレンから取り出して一晩自然乾燥させた後に、80℃で4時間真空乾燥した。そして、残存した試料の乾燥後の質量を秤量し、キシレン抽出前の試料の質量aとキシレン抽出後の残存した試料の質量bとの比から下記式(1)により算出した。算出にあたっては、ハイドロタルサイト様化合物、酸化マグネシウム、カーボンブラックおよび炭酸カルシウムはキシレン不溶分としてゲル分には含めず、ポリマゲルとして計算した。ゲル分率は、ゴム弾性などの物性の観点からは50%以上であることが望ましい。なお、式(1)中、aは仕込み質量(g)、bは抽出乾燥後の質量(g)、xは全配合量(質量部)、yは架橋成分(A)および非架橋成分(B)のポリマ分の合計配合量(質量部)、zはハイドロタルサイト様化合物、酸化マグネシウム、カーボンブラックおよび炭酸カルシウムの合計配合量(質量部)をそれぞれ示す。
(ゲル分率(%))=(b-a×(z/x))/(a×(y/x))×100・・・(1)
【0083】
(ショアA硬度)
ケーブルの外被層から試験片を剥ぎ取り採取し、試験片の内面の凹凸を研磨によって平滑にし、厚さが6mm以上となるように複数重ね合わせて試験サンプルを作製した。この試験サンプルについてJIS K6253による試験方法でデュロメータ硬度計を用いてショアA硬度を測定した。本実施例では、ショアA硬度が90以下であれば、可とう性に優れるものと評価した。
【0084】
(酸素指数)
まず、熱可塑性ゴム組成物を熱プレス機により180℃、10MPaの条件でプレスを行い、厚さ3mmのシート片に成形した。得られたシート片について、東洋精機株式会社製の「OXYGEN INDEXER」を用いてJIS K7201-2(2007)に示される方法により酸素指数を測定した。本実施例では、酸素指数が20以上であれば、難燃性を有し、20未満であれば、難燃性が不十分であると評価した。
【0085】
(加熱変形率)
ケーブルの外被層から試料片を剥ぎ取り採取し、その試料片の導体側の内面を凹凸が無くなるように研削し、試験サンプルを作製した。この試験サンプルについて、株式会社上島製作所製の加熱変形試験機「TM-1515」を用いて、予熱30分、10N加圧(かまぼこ型金属製治具の上に試験サンプルを載置し、平行平板の金属製治具で挟んで加圧)、加圧時間30分の条件で加圧し、試験前後の試験サンプルの厚さを測定して、下記式(2)より加熱変形率を算出した。本実施例では、加熱変形率が10%以下であれば、加熱変形しにくく、10%を超える場合であれば加熱変形しやすいと評価した。なお、下記式(2)中、cは試験後の試験サンプルの厚さ(mm)、dは試験前の試験サンプルの厚さ(mm)を示す。
(加熱変形率(%))=c/d×100・・・(2)
【0086】
(5)評価結果
各実施例、比較例について評価結果を表2、表3にまとめる。
【0087】
比較例1では、シラン架橋性成分(a)の比率を高くしたため、成形体の表面外観が悪くなることが確認された。比較例2では、非架橋成分(B)の比率を高くしたため、シラン架橋性成分(a)におけるベース材料の比率が低くなり、表面外観を良好にできたり、加熱変形率を低減して耐加熱変形性を向上できたりするものの、硬度が高く、十分な可とう性が得られないばかりか、所望の耐熱性を得られないことが確認された。
【0088】
これに対して、実施例1~5によれば、シラン架橋性成分(a)におけるベース材料と非架橋成分(B)とを適切な比率で混合しているため、熱可塑性ゴム組成物の成形体について、難燃性、可とう性および加熱変形性を高い水準でバランスよく実現できるとともに、表面外観を良好にできることが確認された。特に、実施例2~4では、シラン架橋性成分(a)に含まれるベース材料の含有量を60質量部~80質量部、非架橋成分(B)の含有量を20質量部~40質量部とすることで、熱可塑性ゴム組成物に海島構造を導入し、諸特性や表面外観だけでなく架橋度も高くできることが確認された。また、いずれの熱可塑性ゴム組成物も加熱成形性に優れ、押出成形により外被層を形成できることが確認された。
【0089】
また、比較例3、4では、非架橋成分(B)として融点が70℃以上の非架橋樹脂またはゴムを使用せず、融点が70℃未満の非架橋樹脂を用いたため、成形体の加熱変形率が高く、熱で変形しやすいことが確認された。
【0090】
これに対して、実施例6~10によれば、非架橋成分(B)として融点が70℃以上である非架橋樹脂またはゴムを用いることで、加熱変形率を小さくすることができ、成形体の耐熱変形性を向上できることが確認された。
【0091】
また、実施例10~12によれば、塩素含有ゴムの種類によらず塩素化ポリエチレンおよびクロロプレンゴムのいずれでも、また塩素含有ゴムにその他のポリマを添加しても、実施例1~9と同様の効果を得られることが確認された。
【0092】
以上のように、シラン架橋性成分(a)における塩素含有ゴムを含むベース材料と融点が70℃以上である樹脂またはゴムを含む非架橋成分(B)とを所定の比率で配合して熱可塑性ゴム組成物とすることにより、架橋させながらも加熱成形性を確保でき、さらには成形体の可とう性、難燃性そして表面外観など諸特性を向上させることができる。
【0093】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様を付記する。
【0094】
(付記1)
本発明の一態様は、
塩素含有ゴムにシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフト塩素含有ゴムを含むシラン架橋性成分(a)が架橋された架橋成分(A)と、ゴムおよび融点が70℃以上である非架橋樹脂の少なくとも1つを含む非架橋成分(B)と、を含み、
前記シラン架橋性成分(a)における前記塩素含有ゴムを含むベース材料の含有量が50質量部~85質量部、前記非架橋成分(B)の含有量が15質量部~50質量部である、
熱可塑性ゴム組成物である。
【0095】
(付記2)
付記1において、好ましくは、
前記塩素含有ゴムは、塩素化ポリエチレンである。
【0096】
(付記3)
付記1又は2において、好ましくは、
前記非架橋成分(B)が形成する海相に前記架橋成分(A)が島相として分散する海島構造を有する。
【0097】
(付記4)
付記1~3のいずれかにおいて、好ましくは、
ショアA硬度が90以下である。
【0098】
(付記5)
付記1~4のいずれかにおいて、好ましくは、
酸素指数が20以上である。
【0099】
(付記6)
付記1~5のいずれかにおいて、好ましくは、
前記架橋成分(A)の含有量が60質量部~80質量部、前記非架橋成分(B)の含有量が20質量部~40質量部である。
【0100】
(付記7)
本発明の他の態様は、
塩素含有ゴムにシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフト塩素含有ゴムを含むシラン架橋性成分(a)を準備する工程と、
前記シラン架橋性成分(a)と、ゴムおよび融点が70℃以上である非架橋樹脂の少なくとも1つを含む非架橋成分(B)とを、前記シラン架橋性成分(a)における前記塩素含有ゴムを含むベース材料の含有量が50質量部~85質量部、前記非架橋成分(B)の含有量が15質量部~50質量部となるように混合し混合物を形成する工程と、
前記混合物を混練しながら前記シラン架橋性成分(a)を架橋させる、もしくは、前記混合物を混練した後に前記シラン架橋性成分(a)を架橋させることで、架橋成分(A)を形成する工程と、を有し、
前記架橋成分(A)および前記非架橋成分(B)を含む、熱可塑性ゴム組成物の製造方法である。
【0101】
(付記8)
本発明のさらに他の態様は、
導体と、前記導体の外周を被覆するように設けられる絶縁層とを備え、
前記絶縁層が、
塩素含有ゴムにシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフト塩素含有ゴムを含むシラン架橋性成分(a)が架橋された架橋成分(A)と、ゴムおよび融点が70℃以上である非架橋樹脂の少なくとも1つを含む非架橋成分(B)と、を含み、前記シラン架橋性成分(a)における前記塩素含有ゴムを含むベース材料の含有量が50質量部~85質量部、前記非架橋成分(B)の含有量が15質量部~50質量部である、熱可塑性ゴム組成物から形成される、
電線である。
【0102】
(付記9)
本発明のさらに他の態様は、
導体と、前記導体の外周を被覆するように設けられる絶縁層と、前記絶縁層の外周を被覆するように設けられる外被層とを備え、
前記外被層が、
塩素含有ゴムにシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフト塩素含有ゴムを含むシラン架橋性成分(a)が架橋された架橋成分(A)と、ゴムおよび融点が70℃以上である非架橋樹脂の少なくとも1つを含む非架橋成分(B)と、を含み、前記シラン架橋性成分(a)における前記塩素含有ゴムを含むベース材料の含有量が50質量部~85質量部、前記非架橋成分(B)の含有量が15質量部~50質量部である、熱可塑性ゴム組成物から形成される、
ケーブルである。
【符号の説明】
【0103】
1 ケーブル
2 絶縁電線
10 導体
11 絶縁層
12 外被層
図1
図2
図3