(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/00 20210101AFI20240220BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20240220BHJP
B22F 8/00 20060101ALI20240220BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20240220BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240220BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20240220BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20240220BHJP
B24D 11/00 20060101ALI20240220BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20240220BHJP
B24B 55/12 20060101ALI20240220BHJP
B28D 1/08 20060101ALI20240220BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240220BHJP
【FI】
B22F3/00 F
B22F3/24 G
B22F8/00
C22C33/02 H
H01F41/02 G
H01F1/057 170
B24B27/06 H
B24D11/00 G
B24D3/00 320B
B24B55/12
B28D1/08
C22C38/00 303D
(21)【出願番号】P 2020057456
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【氏名又は名称】梶谷 美道
(72)【発明者】
【氏名】國吉 太
(72)【発明者】
【氏名】松本 綾二
(72)【発明者】
【氏名】蔭山 匡平
(72)【発明者】
【氏名】村田 剛志
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-303728(JP,A)
【文献】特開2015-166125(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0255924(US,A1)
【文献】特開2003-326449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00
H01F 41/02
H01F 1/00-1/117
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B系焼結磁石用希土類合金の粉末成形体のワークを、平均粒径が1μm以上24μm以下の複数のダイヤモンド砥粒と、前記複数のダイヤモンド砥粒が固着した素線とを有するワイヤソーによって切断して前記ワークを複数の成形体片に分割するときに、前記ワークから削り取られた前記希土類合金の粉末粒子を回収する工程と、
回収された前記粉末粒子を含む回収粉混合粉末成形体を用意する工程と、
前記回収粉混合粉末成形体を焼結する工程と、
を含む、R-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記ワイヤソーによって切断して前記ワークを複数の成形体片に分割するときに、前記ワークを液体中に沈めた状態で行う、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記R-T-B系焼結磁石用希土類合金の粉末成形体のワークを準備するため、
前記
R-T-B系焼結磁石用希土類合金の粉末を準備する工程と、
湿式プレスによって前記粉末を成形する工程と、
を
行う、請求項1または2に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記ワークは、4g/cm
3以上5g/cm
3以下の密度を有している、請求項1から3のいずれか一項に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記ワークから削り取られた希土類合金の粉末粒子を回収する工程では、前記素線から外れた前記
ダイヤモンド砥粒を、前記ワークから削り取られた前記希土類合金の粉末粒子とともに回収する、請求項1から4のいずれか一項に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記素線の直径は140μm以上350μm以下である、請求項1から
5のいずれか一項に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
前記回収粉混合粉末成形体を用意する工程は、回収された前記粉末粒子を、R-T-B系焼結磁石用希土類合金から形成された粉末に混合する工程を含む、請求項
1から6のいずれか一項に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項8】
前記回収粉混合粉末成形体を用意する工程は、前記素線から外れた前記
ダイヤモンド砥粒を前記回収した粉末粒子から分別しないで行われる、請求項
1から6のいずれか一項に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項9】
前記回収粉混合粉末成形体は、前記
ダイヤモンド砥粒を含んでいる、請求項
1から
8のいずれか一項に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項10】
前記回収粉混合粉末成形体に含まれる前記
ダイヤモンド砥粒の質量は、前記回収粉混合粉末成形体の全体の質量の0.3%以下である、請求項
9に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、R-T-B系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1つを必ず含み、Tは遷移金属の少なくとも1つでありFeを必ず含み、Bはホウ素である)は、R2Fe14B型結晶構造を有する化合物の主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相および微量添加元素や不純物の影響により生成する化合物相とから構成されている。R-T-B系焼結磁石は、高い残留磁束密度Br(以下、単に「Br」と記載する場合がある)と、高い保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」と記載する場合がある)を示し、優れた磁気特性を有することから、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られている。このため、R-T-B系焼結磁石は、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車(EV、HV、PHV)用モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品など多種多様な用途に用いられている。
【0003】
このようなR-T-B系焼結磁石は、例えば、合金粉末を準備する工程、合金粉末をプレス成形して粉末成形体を作製する工程、粉末成形体を焼結する工程を経て製造される。合金粉末は、例えば、以下の方法で作製される。
【0004】
まず、インゴット法またはストリップキャスト法などの方法によって各種原料金属の溶湯から合金を製造する。得られた合金を粉砕工程に供し、所定の粒径分布を有する合金粉末を得る。この粉砕工程には、通常、粗粉砕工程と微粉砕工程とが含まれており、前者は、例えば水素脆化現象を利用して、後者は例えば気流式粉砕機(ジェットミル)を用いて行われる。
【0005】
粉末成形体を焼結する工程によって得られた焼結体は、その後、研削、切断などの機械的な加工を施され、所望の形状およびサイズを持つように個片化される。より詳細には、まず、R-Fe-B系希土類磁石粉末をプレス装置で圧縮成形することにより、最終的な磁石製品よりも大きいサイズの成形体が作製される。そして、成形体を焼結工程によって焼結体にした後、例えば超硬合金製ブレードソー、または回転砥石などによって焼結体を研削加工し、所望の形状を付与することが行われている。例えば、まずブロック形状を有する焼結体を作製した後、その焼結体をブレードソーなどでスライスすることによって複数のプレート状焼結体部分を切り出すことが行われている。
【0006】
しかしながら、R-Fe-B系焼結磁石などの希土類合金磁石の焼結体は極めて硬くて脆い上に、加工負荷が大きいため、高精度の研削加工は困難な作業であり、加工時間が長くかかる。また、加工によって滅失する材料部分が不可避的に発生する。このため、加工工程が製造コスト増加の大きな原因となっていた。
【0007】
例えば前者の問題を解決するために、特許文献1は、磁石成形体を焼結前にワイヤソーを用いて加工する技術を記載している。ワイヤソーとは、一方向または双方向に走行するワイヤを、加工すべき成形体に押し付け、ワイヤと成形体との間にある砥粒によって成形体を研削または切断する加工技術である。この技術によれば、焼結体よりも格段に柔らかくて加工しやすい状態にある粉末成形体を切断するため、切断加工に要する時間が大幅に短縮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1は、加工における材料滅失によるコスト増加の解決方法を提供するものではなかった。R-Fe-B系焼結磁石は、高価で希少な希土類元素を含有しているため、材料の利用効率(歩留まり)を更に高めることが求められている。
【0010】
本開示の実施形態は、歩留まりを更に高めることが可能になる新しいR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、例示的な実施形態において、R-T-B系焼結磁石用希土類合金の粉末成形体のワークを準備する工程と、前記ワークを切断し、前記ワークを複数の成形体片に分割する工程と、前記成形体片を焼結する工程とを含み、前記ワークを前記複数の成形体片に分割する工程は、平均粒径が1μm以上24μm以下の複数の砥粒と、前記複数の砥粒が固着した素線とを有するワイソーによって前記ワークを切断し、前記ワークから削り取られた前記希土類合金の粉末粒子を回収する工程を含む。
【0012】
ある実施形態において、前記ワイヤソーによって前記ワークを切断する工程は、前記ワークを液体中に沈めた状態で行う。
【0013】
ある実施形態において、前記ワークを準備する工程は、前記希土類合金の粉末を準備する工程と、湿式プレスによって前記粉末を成形する工程とを含む。
【0014】
ある実施形態において、前記希土類合金は、R-T-B系焼結磁石用希土類合金であり、前記ワークは、4g/cm3以上5g/cm3以下の密度を有している。
【0015】
ある実施形態において、前記ワークから削り取られた希土類合金の粉末粒子を回収する工程では、前記素線から外れた前記砥粒を、前記ワークから削り取られた前記希土類合金の粉末粒子とともに回収する。
【0016】
ある実施形態において、前記砥粒は、ダイヤモンド砥粒である。
【0017】
ある実施形態において、前記素線の直径は140μm以上350μm以下である。
【0018】
本開示R-T-B系焼結磁石の製造方法は、ある実施形態において、R-T-B系焼結磁石用希土類合金の粉末成形体のワークを、平均粒径が1μm以上24μm以下の複数の砥粒と、前記複数の砥粒が固着した素線とを有するワイソーによって切断して前記ワークを複数の成形体片に分割するときに、前記ワークから削り取られた前記希土類合金の粉末粒子を回収する工程と、回収された前記粉末粒子を含む回収粉混合粉末成形体を用意する工程と、前記回収粉混合粉末成形体を焼結する工程とを含む。
【0019】
ある実施形態において、前記回収粉混合粉末成形体を用意する工程は、回収された前記粉末粒子を、R-T-B系焼結磁石用希土類合金から形成された粉末に混合する工程を含む。
【0020】
ある実施形態において、前記回収粉混合粉末成形体を用意する工程は、前記素線から外れた前記砥粒を前記回収した粉末粒子から分別しないで行われる。
【0021】
ある実施形態において、前記回収粉混合粉末成形体は、前記砥粒を含んでいる。
【0022】
ある実施形態において、前記回収粉混合粉末成形体に含まれる前記砥粒の質量は、前記回収粉混合粉末成形体の全体の質量の0.3%以下である。
【発明の効果】
【0023】
本開示の実施形態によれば、焼結工程前に行うワイヤソー加工によって削り取られた粉末粒子を回収して再利用するとき、磁石特性、特に耐食性の低下を抑制することが可能になる。このため、高性能磁石の特性を維持しつつ、製造コストの低減を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】
図1Aは、本開示の実施形態における製造方法の主な工程を示すフローチャートである。
【
図1B】
図1Bは、本開示の実施形態における製造方法の他の態様における工程を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、本開示の実施形態で使用可能なワイヤソー装置の構成例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、ワイヤ40の断面を模式的に示している断面図である。
【
図4A】
図4Aは、サンプルAの焼結磁石の断面写真を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、サンプルCの焼結磁石の断面写真を示す図である。
【
図4C】
図4Cは、サンプルEの焼結磁石の断面写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法の実施形態を説明する。本実施形態におけるR-T-B系焼結磁石の製造方法は、
図1Aのフローチャートに示すように、
・R-T-B系焼結磁石用希土類合金の粉末成形体のワークを準備する工程(S10)と、
・ワークを切断し、前記ワークを複数の成形体片に分割する工程(S20)と、
・成形体片を焼結する工程(S30)と
を含み、
ワークを複数の成形体片に分割する工程(S20)は、平均粒径が1μm以上24μm以下の複数の砥粒と、複数の砥粒が固着した素線とを有するワイソーによってワークを切断し、ワークから削り取られた希土類合金の粉末粒子を回収する工程(S25)を含む。
【0026】
また、本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法は、他の態様において、
図1Bのフローチャートに示すように、ワークから削り取られた希土類合金の粉末粒子を回収する工程(S25)の後に、
・回収された粉末粒子を含む回収粉混合粉末成形体を用意する工程(S40)と、
・回収粉混合粉末成形体を焼結する工程を含んでもよい(S50)と、を含む。
【0027】
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法によれば、焼結工程前に行うワイヤソー加工によって粉末成形体のワークから削り取られた粉末粒子を回収して再利用することが容易になる。また、回収された粉末粒子を含む回収粉混合粉末成形体を焼結して得たR-T-B系焼結磁石において、磁石特性、特に耐食性の低下を抑制することが可能になる。
【0028】
図2を参照しながら、上記の製造方法に利用可能なワイヤソー装置の構成例を説明する。
図2は、本開示の実施形態におけるワイヤソー装置100の構成例を示す斜視図である。図には、参考のため、互いに直交するx軸、y軸、およびx軸を含むxyz座標系が示されている。この例において、xy平面は水平であり、z軸は鉛直方向を向いている。
【0029】
図2のワイヤソー装置100は、回転の中心軸が互いに平行になるように配列されたローラ30a、30b、30cと、一本の連続したワイヤ40とを有している。工程(S10)で準備された粉末成形体のワーク10は、固定用ベース20に支持される。粉末成形体のワーク10を準備する工程の具体例は後述する。ここで留意する点は、ワーク10は焼結体ではなく、焼結される前の粉末の成形体(グリーンコンパクト)であることである。粉末成形体は、例えば、R-T-B系焼結磁石用希土類合金(以下、単に「希土類合金」と称する。)の粉末を配向磁場中において湿式プレスまたは乾式プレスで成形することによって得られる。
【0030】
固定用ベース20は、ワーク10が固定された状態でz軸方向に上下動する。この上下動は、不図示の駆動装置によって実行され得る。駆動装置は、油圧シリンダによって駆動力を得てもよいし、モータによって動作してもよい。
【0031】
ローラ30a、30b、30cは、x軸に平行な方向からみたとき、回転中心の軸が三角形の頂点に位置するように、所定の間隔を隔てて配置される。ローラ31a、31b、31cのそれぞれの側面に複数の溝が設けられている。ワイヤ40は、ローラ30a、30b、30cの複数の溝に順番に巻き架けられている。複数の溝の中心間隔(ピッチ)は、ワイヤソーによる切断によって分割される要素の幅を規定する。ワイヤ40の両端は、例えば、不図示の回収ボビンに巻回されている。
【0032】
切断時には、ローラ30a、30b、30cおよび回収ボビンが回転する。ローラ30a、30b、30cの回転方向は、これらの配置やワイヤ40の掛け方に依存する。
図2に示すワイヤソー装置100では、ローラ30a、30b、30cは同一方向に回転する。
【0033】
所定長さのワイヤ40が、一方の回収ボビンに巻き取られたら、回収ボビンおよびローラ30a、30b、30cを逆方向に回転させる。これにより、ワイヤ40が逆方向に移動し、これを繰り返すことによって、ワイヤ40が往復運動(移動)させることができる。
【0034】
ワイヤ40には、例えば、固定砥粒ワイヤを用いる。具体的には、高硬度材料の切断に適した高硬度の砥粒が電着によって素線に固着されているものを用いることができる。
【0035】
図3は、ワイヤ40の断面を模式的に示している。ワイヤ40は素線(芯線)42と、素線42の外周面に位置する砥粒44と、固着層46とを含む。固着層46は、例えば、Niなどのメッキ金属から形成されている。砥粒44は素線42の表面に位置しており、砥粒44の周囲の素線42の表面および砥粒44を全体として固着層46が覆うことによって、砥粒44を素線42に固着させることができる。砥粒44の固着は他の方法によって実現されていてもよい。砥粒44の平均粒径は、1μm以上24μm以下である。砥粒44は、平均粒径が1μm以上24μm以下の範囲にある公知のワイヤソーを使用すればよい。また、ワイヤを観察することにより、ワイヤソーの砥粒の測定することにより求めることができる。例えば、ワイヤを観察し、砥粒44をランダムに50個測定することにより平均粒径を求めてもよい。
【0036】
ワイヤソーによってワーク10を切断する工程は、ワーク10を液体中に沈めた状態で行うことが好ましい。ワーク10が湿式プレスによって形成された粉末成形体である場合、この液体の好ましい例は、湿式プレスで使用した油剤(鉱物油または合成油)などの分散媒である。
【0037】
このようなワイヤソー装置100によってワーク10を加工するとき、ワイヤ40の砥粒44によって切削された部分からワーク10を構成している粉末粒子が切削粉となって落ちる。本願発明者は、この切削粉を再利用することを検討した。粉末成形体を焼結して得られる硬い焼結体を切削した場合、その切削粉は焼結によって粒成長したり、化学反応によって組成が変化したりした粒子、または粒子の結合物である。そのため、それらを希土類磁石の粉末に混ぜて再利用しても磁石特性が劣化する可能性が高い。これに対して、焼結前の粉末成形体から得られる切削粉であれば、粉末成形体に含まれている他の粒子に比べて組成およびサイズも同様であり、十分に再利用可能である。
【0038】
しかしながら、本発明者の更なる検討によると、ワーク10から削り取られた希土類合金の粉末粒子を回収し、回収した粉末粒子を含む希土類合金の粉末成形体から焼結磁石を作製すると、磁石特性が劣化する場合のあることがわかった。その原因は、回収した粉末中にワイヤ40から脱落した砥粒44が含まれていることにあった。砥粒44の材料の典型例はダイヤモンドであり、炭素から構成されている。ダイヤモンド粒子の混入は、焼結工程で巣(空洞)を発生させ、磁石特性(特に耐食性)を劣化させ得ることがわかった。本発明者が鋭意検討した結果、砥粒44の平均粒径を1μm以上24μm以下に設定すれば、仮に回収した粉末(切削粉)中にワイヤ40から脱落した砥粒44が異物として含まれていた場合でも、焼結工程で形成される巣が十分に小さく、耐食性などの磁石特性にほとんど悪影響を及ぼさないことがわかった。
【0039】
また、ワーク10が湿式プレスによって作製された粉末成形体であり、かつ、液中でワイヤソー加工を行った場合に、より優れた磁石特性の得られることも確認できた。液中でワイヤソー加工を行うことにより、本開示の実施形態のように砥粒44のサイズが小さく限定される場合でも、切削性能を維持して切断面を平滑化し得る。
【0040】
以下、本実施形態のR-T-B系焼結磁石の製造方法を詳細に説明する。
【0041】
S10:希土類合金の粉末成形体のワークを準備する工程
<希土類合金の組成>
Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1つを必ず含む。好ましくは、Nd-Dy、Nd-Tb、Nd-Dy-Tb、Nd-Pr-Dy、Nd-Pr-Tb、Nd-Pr-Dy-Tb、Nd-Ce-Dy、Nd-Ce-Tb、Nd-Ce-Dy-Tb、Nd-Pr-Ce-Dy、Nd-Pr-Ce-Tb、Nd-Pr-Ce-Dy-Tbで示される希土類元素の組合せを用いる。
【0042】
Rのうち、DyおよびTbは、特にHcJの向上に効果を発揮する。上記元素以外にはLaなど他の希土類元素を含有してもよく、ミッシュメタルやジジムを用いることもできる。また、Rは純元素でなくてもよく、工業上入手可能な範囲で、製造上不可避な不純物を含有するものでもよい。含有量は、例えば、27質量%以上35質量%以下である。好ましくは、R-T-B系焼結磁石のR含有量は31質量%以下(27質量%以上31質量%以下、好ましくは、29質量%以上31質量%以下)である。R-T-B系焼結磁石のR含有量を31質量%以下でかつ、酸素の含有量が500ppm以上3500ppm以下(好ましくは500ppm以上3200ppm以下、さらに好ましくは500ppm以上2500ppm以下)とすることにより、より高い磁気特性を得ることができる。
【0043】
Tは、鉄を含み(Tが実質的に鉄から成る場合も含む)、質量比でその50%以下をコバルト(Co)で置換してもよい(Tが実質的に鉄とコバルトとから成る場合を含む)。Coは温度特性の向上、耐食性の向上に有効であり、合金粉末は10質量%以下のCoを含んでよい。Tの含有量は、RとBあるいはRとBと後述するMとの残部を占めてよい。
【0044】
Bの含有量についても公知の含有量で差し支えなく、例えば、0.9質量%~1.2質量%が好ましい範囲である。0.9質量%未満では高いHcJが得られない場合があり、1.2質量%を超えるとBrが低下する場合がある。なお、Bの一部はC(炭素)で置換することができる。
【0045】
上記元素に加え、HcJ向上のためにM元素を添加することができる。M元素は、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Hf、TaおよびWからなる群から選択される一種以上である。M元素の添加量は5.0質量%以下が好ましい。5.0質量%を超えるとBrが低下する場合があるためである。また、不可避的不純物も許容することができる。
【0046】
R-T-B系焼結磁石におけるN(窒素)の含有量は、50ppm以上600ppm以下が好ましい。また、R-T-B系焼結磁石におけるC(炭素)の含有量は、50ppm以上1000ppm以下が好ましい。
【0047】
<R-T-B系焼結磁石用合金の製造工程>
R-T-B系焼結磁石用合金の製造工程を例示する。上述した組成となるように事前に調整した金属または合金を溶解し、鋳型に入れるインゴット鋳造法により合金インゴットを得ることができる。また、溶湯を単ロール、双ロール、回転ディスクまたは回転円筒鋳型等に接触させて急冷し、インゴット法で作られた合金よりも薄い凝固合金を作製するストリップキャスト法または遠心鋳造法に代表される急冷法により合金フレークを製造することができる。
【0048】
本開示の実施形態においては、インゴット法と急冷法のどちらの方法により製造された材料も使用可能であるが、ストリップキャスト法などの急冷法により製造されることが好ましい。急冷法によって作製した急冷合金の厚さは、通常0.03mm~1mmの範囲にあり、フレーク形状である。合金溶湯は冷却ロールの接触した面(ロール接触面)から凝固し始め、ロール接触面から厚さ方向に結晶が柱状に成長してゆく。急冷合金は、従来のインゴット鋳造法(金型鋳造法)によって作製された合金(インゴット合金)と比較して、短時間で冷却されているため、組織が微細化され、結晶粒径が小さい。また粒界の面積が広い。Rリッチ相は粒界内に大きく広がるため、急冷法はRリッチ相の分散性に優れる。このため水素粉砕法により粒界で破断し易い。急冷合金を水素粉砕することで、水素粉砕粉(粗粉砕粉)のサイズを例えば1.0mm以下とすることができる。このようにして得た粗粉砕粉を例えばジェットミルで微粉砕する。
【0049】
<希土類合金の粉末を準備する工程>
R-T-B系焼結磁石用の希土類合金の粉末は活性であり、酸化しやすい。このため、ジェットミルで使用される気体としては、発熱・発火の危険性の回避、不純物としての酸素含有量を低減させて磁石の高性能化を図るため、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスが用いられる。
【0050】
ジェットミルに投入された被粉砕物(粗粉砕粉)は、例えば、平均粒度(中位径:d50)が2.0μm以上4.5μm以下の粒度分布を持つ微粉末に粉砕されてからサイクロン捕集装置に移動することになる。サイクロン捕集装置は、粉末を運ぶ気流から粉末を分離するために使用される。具体的には、R-T-B系焼結磁石用合金の粗粉砕粉が前段のジェットミルで粉砕され、粉砕によって生成された微粉末が、粉砕に利用された気体とともにサイクロン捕集装置に供給される。不活性ガス(粉砕ガス)と粉砕された微粉末との混合物が高速な気流をなして、サイクロン捕集装置に送られてくる。サイクロン捕集装置は、これらの粉砕ガスと微粉末とを分離するために利用される。粉砕ガスから分離された微粉末は、粉末捕集器で回収される。
【0051】
<粉末成形体を作製する工程>
次に、磁場中プレスによって上記の微粉末から粉末成形体を作製する。磁場中プレスでは、酸化抑制の観点から、不活性ガス雰囲気中によるプレスまたは湿式プレスによって粉末成形体を形成することが好ましい。特に湿式プレスは粉末成形体を構成する粒子の表面が油剤などの分散剤によって被覆され、大気中の酸素や水蒸気との接触が抑制される。このため、プレス工程の前後あるいはプレス工程中に粒子が大気によって酸化されることを防止または抑制することができる。
【0052】
磁場中湿式プレスを行う場合、微粉末に分散媒を混ぜたスラリーを用意し、湿式プレス装置の金型におけるキャビティに供給して磁場中でプレス成形する。こうして形成される粉末成形体のワークは、例えば、4g/cm3以上5g/cm3以下の密度を有している。
【0053】
・分散媒
分散媒は、その内部に合金粉末を分散させることによりスラリーを得ることができる液体である。
【0054】
本開示に用いる好ましい分散媒として鉱物油または合成油を挙げることができる。鉱物油または合成油はその種類が特定されるものではないが、常温での動粘度が10cStを超えると粘性の増大によって合金粉末相互の結合力が強まり磁場中湿式成形時の合金粉末の配向性に悪影響を与える場合がある。このため、鉱物油または合成油の常温での動粘度は10cSt以下が好ましい。また鉱物油または合成油の分留点が400℃を超えると成形体を得た後の脱油が困難となり、焼結体内の残留炭素量が多くなって磁気特性が低下する場合がある。したがって、鉱物油または合成油の分留点は400℃以下が好ましい。また、分散媒として植物油を用いてもよい。植物油は植物より抽出される油を指し、植物の種類も特定の植物に限定されるものではない。
【0055】
・スラリーの作製
得られた合金粉末と分散媒とを混合することでスラリーを得ることができる。
【0056】
合金粉末と分散媒との混合率は特に限定されないが、スラリー中の合金粉末の濃度は、質量比で、好ましくは70%以上(すなわち、70質量%以上)である。20~600cm3/秒の流量において、キャビティ内部に効率的に合金粉末を供給できると共に、優れた磁気特性が得られるからである。スラリー中の合金粉末の濃度は、質量比で、好ましくは90%以下である。合金粉末と分散媒との混合方法は特に限定されない。合金粉末と分散媒とを別々に用意し、両者を所定量秤量して混ぜ合わせることによって製造してよい。また、粗粉砕粉をジェットミル等で乾式粉砕して合金粉末を得る際にジェットミル等の粉砕装置の合金粉末排出口に分散媒を入れた容器を配置し、粉砕して得られた合金粉末を容器内の分散媒中に直接回収しスラリーを得てもよい。この場合、容器内も窒素ガスおよび/またはアルゴンガスからなる雰囲気とし、得られた合金粉末を大気に触れさせることなく直接分散媒中に回収して、スラリーとすることが好ましい。さらには、粗粉砕粉を分散媒中に保持した状態で振動ミル、ボールミルまたはアトライター等を用いて湿式粉砕し、合金粉末と分散媒とから成るスラリーを得ることも可能である。
【0057】
こうして得たスラリーを公知の湿式プレス装置で成形することにより、所定の大きさおよび形状を有する粉末成形体のワークを得ることができる。従来、この粉末成形体のワークを焼結して焼結体を得ることが通常であるが、本実施形態では、以下に説明するように、焼結前にワイヤソーによって粉末成形体のワークを分割する。
【0058】
S20:ワイヤソーによってワークを切断し、ワークを複数の成形体片に分割する工程
この工程におけるワークの切断は、例えば
図2に示されるワイヤソー装置によって行われる。
【0059】
ワイヤ40の素線42(
図3参照)の直径は、例えば140μm以上350μm以下ある。素線42の直径が140μm未満になると、強度不足により、切断中に素線42が延びてしまう問題がある。素線42の直径が大きいほど、切削粉の排出性が向上するが、切削粉の量が増加してしまうため、350μm以下であることが望ましい。
【0060】
ワイヤ40の走行速度(ワイヤ線速)は、例えば、100m/分以上500m/分以下の範囲に設定され得る。一方、ワーク送り速度(
図2のz軸方向におけるワーク移動速度)は、例えば、100mm/分以上600mm/分以下の範囲に設定され得る。ワイヤ40に印加され張力は、例えば2.0kg以上3.0kg以下である。
【0061】
ワイヤソー加工は、切り粉の排出を速やかに行う観点から、粉末成形体のワークを湿式プレスで作製するときに使用した分散媒(鉱物油または合成油)中にワーク10を浸漬させた状態で行うこと(油中切断)が望ましい。ワイヤソー加工を大気中で行う場合は、分散媒と同様の油をワーク10とワイヤ40とが接触する部分(切削部分)に吹き付けることが望ましい。
【0062】
ワイヤソー切断によって、ワーク10は、例えば厚さ1~10mm程度の成形体片に分割され得る。
【0063】
S25:ワークから削り取られた希土類合金の粉末粒子を回収する工程
本実施形態では、素線42から外れた砥粒44を回収した粉末粒子から砥粒44を分別することなく、回収した粉末粒子を用いて他のワークを準備する。このため、小さな砥粒44を分別する作業が不要である。ただし、素線42から外れた砥粒44を回収した粉末粒子から分別してもよい。この分別に際して、素線42から外れた砥粒44の全部から取り除かれることなく、砥粒44の一部が、回収した粉末粒子に混じっていてもよい。砥粒44が回収した粉末中に含まれる質量比率は、通常、例えば0.01%以上5%以下である。質量比率の見積もりは、例えば、ワイヤソーを断続的に観察することによって脱落した砥粒44の個数から脱落した砥粒44の総質量を推定し、回収した粉末粒子の総質量に対する割合から算出することが可能である。なお、重量比率が同じであっても、砥粒44の平均粒径が24μmを超えて大きくなると、焼結工程後に巣を形成するため、耐食性の低下を招くことがわかっている。
【0064】
S30:成形体片を焼結する工程
次に、上記のワイヤソー工程によって切断された個々の成形体片を焼結してR-T-B系焼結磁石(焼結体)を得る。成形体片の焼結工程は、例えば、0.13Pa(10-3Torr)以下、好ましくは0.07Pa(5.0×10-4Torr)以下の圧力下で、例えば温度1000℃~1150℃の範囲で行なうことができる。焼結による酸化を防止するために、雰囲気の残留ガスは、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスにより置換され得る。得られた焼結体に対しては時効処理などの付加的な熱処理を行うことが好ましい。このような熱処理により、磁気特性を向上させることができる。熱処理温度、熱処理時間などの熱処理条件は、公知の条件を採用することができる。こうして得たR-T-B系焼結磁石に対しては、必要に応じて、研削・研磨工程、表面処理工程、および着磁工程が施され、最終的なR-T-B系焼結磁石が完成する。
【0065】
ある好ましい実施形態において、本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、重希土類元素RH(RHは、Tb、Dy、Hoの少なくとも1つ)を焼結体の表面から内部に拡散する拡散工程を更に含む。重希土類元素RHを焼結体の表面から内部に拡散すると、保磁力を効率的に高めることができる。拡散工程の方法は特に問わない。公知の方法を採用することができる。
【0066】
本開示の実施形態では、上記の工程(S25)で回収された粉末粒子を含む回収粉混合粉末成形体を用意する工程(S40)と、その回収粉混合粉末成形体を焼結する工程と(S50)を行うことができる。以下、この点を説明する。
【0067】
S40:回収された粉末粒子を含む回収粉混合粉末成形体を用意する工程
工程(S10)の「希土類合金の粉末を準備する工程」について説明した希土類合金の粉末に、工程(S25)で回収した粉末粒子を混合して「回収粉混合粉末」を用意する。回収粉混合粉末の成形体を作製する工程は、工程(S10)の「粉末成形体を作製する工程」について説明したとおりである。
【0068】
工程(S40)は、素線から外れた砥粒を回収した粉末粒子から分別しないで行うことができる。分別を行わない場合、回収粉混合粉末が砥粒を含んでいる可能性があるが、それによって焼結磁石の特性は劣化しない。ただし、回収粉混合粉末成形体に含まれる砥粒の質量が、回収粉混合粉末成形体の全体の質量の0.3%を超えると、特性が劣化するおそれがあるため、回収粉混合粉末成形体に含まれる砥粒の質量は回収粉混合粉末成形体の全体の質量の0.3%以下であることが好ましい。さらに好ましくは回収粉混合粉末成形体の全体の質量の0.1質量%以下である。なお、回収紛混合粉末成形体は、ワークとして準備して回収紛混合粉末成形体を切断することで他の成形体片を準備してもよいし、回収紛混合粉末滞を他の成形片として準備してもよい。
【0069】
S50:回収粉混合粉末成形体を焼結する工程
回収粉混合粉末成形体末を焼結する工程は、前述した成形体片を焼結する工程(S30)と同様にして行うことができる。なお、上述したように、回収紛混合粉末成形体を切断して準備した他の成形片を焼結してもよい。
【0070】
本開示の実施形態によれば、混入したダイヤモンドの砥粒の位置に形成された空隙(巣)を形成しても、その大きさが十分に小さく、焼結磁石の耐食性は低下しない。
【0071】
(実施例)
Nd:22.6%、Pr:7.8%、B:0.9%、Co:0.5%、Al:0.1%、Cu:0.2%、Ga:0.4%(いずれも質量%)の組成となるように各元素の原料を秤量し、ストリップキャスティング法により合金を作製した。得られた合金を水素粉砕し粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100質量%に対して0.04質量%添加、混合した後、ジェットミルを用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粒径D50が4μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。前記微粉砕分を窒素雰囲気中で分留点が250℃、室温での動粘度が2cStの鉱物油に浸漬してスラリーを準備した。スラリー濃度は、85重量%であった。得られたスラリーを磁界中で成形(湿式成形)し、粉末成形体のワークを作製した。ワークのサイズは、50mm×40mm×20mmであった。前記ワークをワイヤソーで200個の成形体片に分割し、成形体片を焼結して焼結磁石を作製した。なお、ワイヤソーによる切断は、ワークを液体中(液体は成形時に使用した前記鉱物油と同じものを使用)に沈めた状態で行った。サンプルAでは、ワークの粉末成形体に対して回収粉末を混ぜておらず、ワークにはダイヤモンド砥粒は混在していなかった。サンプルBでは、平均粒径が5μmのダイモンド砥粒が含まれる回収粉末を再利用した。サンプルCでは、平均粒径が10μmのダイモンド砥粒が含まれる回収粉末を再利用した。サンプルDでは、平均粒径が20μmのダイモンド砥粒が含まれる回収粉末を再利用した。サンプルEでは、平均粒径が30μmのダイモンド砥粒が含まれる回収粉末を再利用した。再利用に利用したサンプルB~Eのワーク(回収粉混合粉末成形体)に含まれる砥粒の質量は回収粉混合粉末成形体の全体の質量の0.1%であった。なお、平均粒径は、回収粉末に含まれるダイヤモンド砥粒の粒径をそれぞれ50個測定し、その平均値を求めた。
【0072】
図4A、
図4B、および
図4Cは、それぞれ、サンプルA、サンプルC、およびサンプルEの焼結磁石の断面写真である。
図4Aからわかるように、ワイヤソーの切削粉の再利用をしていない通常の粉末から作製した焼結磁石では、巣のない正常な磁石組織が観察された。同様に、サンプルCでも、
図4Bからわかるように、巣のない正常な磁石組織が観察された。一方、サンプルEでは、
図4Cに示されるように、直径が30μm以上の巣が何か所かで観察された。
【0073】
次に、サンプルA~Eのそれぞれから作製した焼結磁石の耐食性を評価した。表1にサンプルA~Eそれぞれについての72時間のPCT試験(プレッシャークッカー試験)結果を示す。表1における減耗量のマイナスの値が大きくなるほど、耐食性が低いと評価される。
【0074】
【0075】
サンプルAはダイヤモンド砥粒が全く含まれていない焼結磁石である。サンプルAを基準として、どのくらい減耗量が大きくなるかを比較することで耐食性を評価することができる。
【0076】
表1に示すように、サンプルB~Dは、サンプルAと減耗量が同等であり、耐食性の低下が抑制されている。これに対し、サンプルEでは、耐食性の顕著な低下が生じている。
【0077】
これらの結果から、平均粒径が1μm以上24μm以下の複数の砥粒と、前記複数の砥粒が固着した素線とを有するワイソーを使用することにより、ワイヤソー加工によって粉末成形体のワークから削り取られた粉末粒子を回収し、回収された粉末粒子を含む回収粉混合粉末成形体を焼結して得たR-T-B系焼結磁石の耐食性低下を抑制できることが分かる。
【符号の説明】
【0078】
10・・・ワーク、20・・・固定用ベース、30a、30b、30c・・・ローラ、40・・・ワイヤ、100・・・ワイヤソー装置