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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/00 20210101AFI20240220BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240220BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20240220BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20240220BHJP
   B22F 8/00 20060101ALI20240220BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240220BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20240220BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20240220BHJP
   B24B 55/02 20060101ALI20240220BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20240220BHJP
   C22C 28/00 20060101ALN20240220BHJP
【FI】
B22F3/00 F
B22F1/00 R
B22F3/24 G
C22C33/02 H
B22F8/00
H01F41/02 G
H01F1/057 170
B24B27/06 H
B24B55/02 Z
B24B27/06 D
B22F1/00 Y
C22C38/00 303D
C22C28/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020057457
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021155810
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(72)【発明者】
【氏名】國吉 太
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-093202(JP,A)
【文献】特開2020-027938(JP,A)
【文献】特開2003-303728(JP,A)
【文献】特開2019-062152(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0333993(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00
H01F 41/02
H01F 1/00-1/117
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B系焼結磁石用合金(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1つを必ず含み、Tは遷移金属の少なくとも1つでありFeを必ず含み、Bはホウ素である)の粉末成形体のワークを準備する工程と、
前記ワークを切断し、前記ワークを複数の成形体片に分割する工程と、
前記複数の成形体片のそれぞれを焼結して複数の焼結体素材を作製する焼結工程と、
Rを含有する拡散源の粉末を各焼結体素材における厚さ方向の上面および下面の少なくとも一方に接触させて熱処理を行い、前記拡散源の粉末に含まれるRの少なくとも一部を各焼結体素材の前記上面および前記下面から内部に拡散させる工程と、
各焼結体素材を前記上面から前記下面まで切断することにより、複数の焼結体片に分割する工程と、
前記複数の焼結体片のそれぞれからR-T-B系焼結磁石を形成する工程と、
を含
各焼結体素材の前記上面および前記下面は、前記粉末成形体の磁場配向方向に垂直であり、
前記複数の焼結体片は、前記拡散源の粉末に接触していない切断面を有している、R-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記拡散源は、Pr、TbおよびGaを含有する、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記ワークを前記複数の成形体片に分割する工程は、ワイヤソーによって行う、請求項1または2に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記ワークを前記複数の成形体片に分割する工程は、前記ワークを液体中に沈めた状態で前記ワイヤソーによって行う、請求項に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記ワークから削り取られた前記R-T-B系焼結磁石用合金の粉末粒子を回収して再利用する工程を更に含む、請求項1からのいずれか一項に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記ワークを準備する工程は、
前記R-T-B系焼結磁石用合金の粉末を準備する工程と、
湿式プレスによって前記R-T-B系焼結磁石用合金の粉末を成形する工程と、
を含む、請求項1からのいずれか一項に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
各焼結体素材から分割される前記複数の焼結体片の個数は3以上である、請求項1からのいずれか一項に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、R-T-B系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1つを必ず含み、Tは遷移金属の少なくとも1つでありFeを必ず含み、Bはホウ素である)は、RFe14B型結晶構造を有する化合物の主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相および微量添加元素や不純物の影響により生成する化合物相とから構成されている。R-T-B系焼結磁石は、高い残留磁束密度B(以下、単に「B」と記載する場合がある)と、高い保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」と記載する場合がある)を示し、優れた磁気特性を有することから、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られている。このため、R-T-B系焼結磁石は、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車(EV、HV、PHV)用モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品など多種多様な用途に用いられている。
【0003】
このようなR-T-B系焼結磁石は、例えば、合金粉末を準備する工程、合金粉末をプレス成形して粉末成形体を作製する工程、粉末成形体を焼結する工程を経て製造される。合金粉末は、例えば、以下の方法で作製される。
【0004】
まず、インゴット法またはストリップキャスト法などの方法によって各種原料金属の溶湯から合金を製造する。得られた合金を粉砕工程に供し、所定の粒径分布を有する合金粉末を得る。この粉砕工程には、通常、粗粉砕工程と微粉砕工程とが含まれており、前者は、例えば水素脆化現象を利用して、後者は例えば気流式粉砕機(ジェットミル)を用いて行われる。
【0005】
粉末成形体を焼結する工程によって得られた焼結体は、その後、研削、切断などの機械的な加工を施され、所望の形状およびサイズを持つように個片化される。より詳細には、まず、R-T-B系希土類磁石粉末をプレス装置で圧縮成形することにより、最終的な磁石製品よりも大きいサイズの粉末成形体が作製される。そして、粉末成形体を焼結工程によって焼結し、焼結体を作製する。焼結体は必要に応じてR(Rは希土類元素)を含む拡散源を磁石表面から内部に拡散させる拡散処理を行う場合もある。そして、焼結後や拡散後の焼結体を例えば超硬合金製ブレードソー、または回転砥石などによって研削加工し、所望の形状を付与することが行われている。例えば、まずブロック形状を有する焼結体を作製した後、その焼結体をブレードソーなどでスライスすることによって複数のプレート状焼結体部分を切り出すことが行われている。また、作成された焼結体に対して、必要に応じてR(Rは希土類元素)を含む拡散源を磁石表面から内部に拡散させる拡散処理を行う場合もある。
【0006】
しかしながら、R-Fe-B系磁石などの希土類合金磁石の焼結体は極めて硬くて脆い上に、加工負荷が大きいため、高精度の研削加工は困難な作業であり、加工時間が長くかかる。このため、加工工程が製造コスト増加の大きな原因となっていた。
【0007】
このような問題を解決するために、特許文献1は、磁石成形体を焼結前にワイヤソーを用いて加工する技術を記載している。ワイヤソーとは、一方向または双方向に走行するワイヤを、加工すべき粉末成形体に押し付け、ワイヤと粉末成形体との間にある砥粒によって粉末成形体を研削または切断する加工技術である。この技術によれば、焼結体よりも格段に柔らかくて加工しやすい状態にある粉末成形体を切断するため、切断加工に要する時間が大幅に短縮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-303728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
R-Fe-B系焼結磁石は、高価で希少な希土類元素を含有しているため、材料の利用効率(歩留まり)を更に高めることが求められている。粉末成形体を切断して、最終的な磁石部品の形状およびサイズに近い状態まで加工を進めると、後述する焼結体に対する拡散材料の利用効率(歩留まり)を低下させる可能性があることを本発明者は見出した。
【0010】
本開示の実施形態は、このような課題を解決し得るR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、例示的な実施形態において、R-T-B系焼結磁石用合金(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1つを必ず含み、Tは遷移金属の少なくとも1つでありFeを必ず含み、Bはホウ素である)の粉末成形体のワークを準備する工程と、前記ワークを切断し、前記ワークを複数の成形体片に分割する工程と、前記複数の成形体片のそれぞれを焼結して複数の焼結体素材を作製する焼結工程と、Rを含有する拡散源の粉末を各焼結体素材における厚さ方向の上面および下面の少なくとも一方に接触させて熱処理を行い、前記拡散源の粉末に含まれるRの少なくとも一部を各焼結体素材の前記上面および前記下面から内部に拡散させる工程と、各焼結体素材を前記上面から前記下面まで切断することにより、複数の焼結体片に分割する工程と、を含む。
【0012】
ある実施形態において、前記拡散源は、Pr、TbおよびGaを含有する。
【0013】
ある実施形態において、前記各焼結体素材の前記上面および前記下面は、前記粉末成形体の磁場配向方向に垂直である。
【0014】
ある実施形態において、前記複数の焼結体片は、前記拡散源の粉末に接触していない切断面を有している。
【0015】
ある実施形態において、前記ワークを前記複数の成形体片に分割する工程は、ワイヤソーによって行う。
【0016】
ある実施形態において、前記ワークを前記複数の成形体片に分割する工程は、前記ワークを液体中に沈めた状態で前記ワイヤソーによって行う。
ある実施形態において、前記ワークから削り取られた前記希土類合金の粉末粒子を回収して再利用する工程を更に含む。
【0017】
ある実施形態において、前記ワークを準備する工程は、前記R-T-B系焼結磁石用合金の粉末を準備する工程と、湿式プレスによって前記R-T-B 系焼結磁石用合金の粉末を成形する工程と、を含む。
【0018】
ある実施形態において、各焼結体素材から分割される前記複数の焼結体片の個数は3以上である。
【発明の効果】
【0019】
本開示の実施形態によれば、焼結体に対する拡散材料の利用効率(歩留まり)を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本開示の実施形態における製造方法の主な工程を示すフローチャートである。
図2図2は、本開示の実施形態における製造方法の主な工程の例を模式的に示す図である。
図3A図3Aは、拡散源の粉末が焼結体素材の上面および下面に接触した状態で熱処理が実行されている様子を模式的に示す断面図である。
図3B図3Bは、拡散が終了した焼結体素材をyz面に平行に切断して得た焼結体片18の断面を模式的に示す断面図である。
図4図4は、参考例における製造方法の主な工程を示す図である。
図5図5は、参考例における製造方法において、拡散源の粉末が焼結体素材の上面、下面、および側面に接触した状態で熱処理が実行されている様子を模式的に示す断面図である。
図6図6は、本開示の実施形態で使用可能なワイヤソー装置の構成例を示す斜視図である。
図7図7は、ワイヤの断面を模式的に示している断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者は検討の結果、従来のように粉末成形体を切断して、最終的な磁石部品の形状およびサイズに近い状態まで加工を進めた成形体片を焼結し、得られた焼結体素材に対して後述する拡散工程を行うと、拡散後のR-T-B系焼結磁石のHcJが大きくばらつく場合があるという問題点を見出した。HcJが大きくばらつくと、ばらついた下限のHcJの値が製品の仕様を満たすために、拡散材料を多めに使用しなければならない場合がある。よって、拡散材料の利用効率を高めるためには、拡散後のR-T-B系焼結磁石のHcJばらつきを抑制する必要がある。本発明者は検討の結果、粉末成形体を最終的な磁石部品の形状およびサイズよりも比較的大きなサイズに加工した成形体片を焼結し、得られた焼結体素材に対してRを含有する拡散源の粉末を各焼結体素材における厚さ方向の上面および下面の少なくとも一方に接触させて熱処理を行う拡散工程を行い、さらに拡散後の焼結体素材を切断して焼結体片に分割することにより、拡散後のR-T-B系焼結磁石のHcJばらつきが抑制できることを見出した。これは、最終的な磁石部品の形状およびサイズに近い状態の焼結体素材に対して拡散をおこなうのと、本開示の方法である、最終的な磁石部品の形状およびサイズよりも比較的大きなサイズの焼結体素材における厚さ方向の上面および下面の少なくとも一方から拡散を行った後、更に焼結体素材を切断するのとでは、得られたR-T-B系焼結磁石における固体間のHcJばらつきが異なるからだと考えられる。なお、本開示において、「焼結体素材における厚さ方向」とは、焼結体素材における各寸法のうち一番寸法が小さい方向をいう。なお、前記各寸法に面取りや切り欠け部の寸法は含まない。直方体形状ならば長さ、幅、厚さが各寸法になり得る。また、アーク形状(瓦型形状)ならば、外形、内径、長さ、厚さが各寸法になり得る。また、リング形状ならば、外径、内径、厚さが各寸法になり得る。本開示の厚さ方向の寸法は、10mm以下であり、好ましくは、7mm以下である。例えば、焼結体素材の寸法が85mm×50mm×7mmの場合、焼結体素材における厚さ方向は、最小寸法方向、すなわち7mmの方向である。また、厚さ方向の上面および下面とは、厚さ方向に垂直な面の上面および下面のことをいい、この場合は、85mm×50mmの面の上面および下面である。
【0022】
以下、本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法の実施形態を説明する。本実施形態におけるR-T-B系焼結磁石の製造方法は、図1のフローチャートに示すように、
・R-T-B系焼結磁石用合金の粉末成形体のワークを準備する工程(S10)と、
・ワークを切断し、ワークを複数の成形体片に分割する工程(S20)と、
・複数の成形体片のそれぞれを焼結して複数の焼結体素材を作製する焼結工程(S30)と、
・Rを含有する拡散源の粉末を各焼結体素材における厚さ方向の上面および下面の少なくとも一方に接触させて熱処理を行い、拡散源の粉末に含まれるRの少なくとも一部を各焼結体素材の前記上面および前記下面から内部に拡散させる工程(S40)と、
・各焼結体素材を前記上面から前記下面まで切断することにより、複数の焼結体片に分割する工程(S50)と、
を含む。
【0023】
次に図2を参照しながら、上記の各工程S10~S50の例を説明する。
【0024】
まず、工程S10において、R-T-B系焼結磁石用合金の粉末成形体のワーク10を準備する。R-T-B系焼結磁石用合金の組成、および、粉末成形体の実施形態における詳細は、後述する。図2の例において、ワーク10は、ブロック形状を有している。図2には、配向磁場の向きMが矢印で示されている。この向きMを「磁場配向方向」と称する。配向磁場は、R-T-B系焼結磁石用合金の粉末をプレスして粉末成形体を作製するときに粉末粒子に印加され、個々の粉末粒子の向きを磁場配向方向Mに配向させる。最終的には、この磁場配向方向Mに平行な方向に着磁される。
【0025】
次に、工程S20において、ワーク10を切断し、ワークを複数の成形体片に分割する。好ましい実施形態において、ワーク10はワイヤソーによって行うことができる。ワイヤソーの詳細は後述する。
【0026】
図2の例において、ワーク10は、粉末成形体の磁場配向方向Mに垂直な方向に沿って、複数の成形体片12に切断される。すなわち、各成形体片12では、厚さ方向が磁場配向方向Mになっている。なお、工程S20における粉末成形体の切断は、必要に応じて、複数回切断を行い成形体片12を分割してもよいが、後述する複数の焼結体片に分割する工程(S50)を行うため、粉末成形体片12は、最終的な磁石部品の形状およびサイズよりも比較的大きなサイズに分割される。
【0027】
工程S30では、複数の成形体片14のそれぞれを焼結して複数の焼結体素材16を作製する。
【0028】
次に、工程S40では、R(Rは希土類元素)を含有する拡散源の粉末50を各焼結体素材16における厚さ方向の上面16aおよび下面16bの少なくとも一方に接触させて熱処理を行う。この熱処理により、拡散源の粉末50に含まれるRの少なくとも一部を各焼結体素材16の上面16aおよび下面16bから内部に拡散する。この例において、工程S20における各成形体片14の切断面は、焼結体素材16の上面16aおよび下面16bに相当する面である。
【0029】
この後、工程S50において、各焼結体素材16を上面16aおよび下面16bの一方から他方まで切断することにより、複数の焼結体片18に分割する。
【0030】
このように、本開示の実施形態では、複数の焼結体片18は、拡散工程の後に、拡散された焼結体素材16を切断することによって得られる。したがって、個々の焼結体片18の切断面は、工程S40の段階では露出しておらず、拡散源の粉末50とは接触していない面である。
【0031】
図3Aは、工程S40における、拡散源の粉末50が焼結体素材16における厚さ方向の上面16aおよび下面16bに接触した状態で熱処理が実行されている様子を模式的に示す断面図である。図3Aの白抜きの矢印は、拡散源の粉末50からRが焼結体素材16の内部に拡散する様子を模式的に示している。この拡散は焼結体素材16内の粒界を介して進行する。
【0032】
図3Bは、上記の拡散が終了した焼結体素材16を厚さ方向に切断して得た焼結体片18の断面を模式的に示す図である。図3Bの白抜きの矢印は、拡散の様子を模式的に示している。白抜き矢印の終端から先端に向かって濃度勾配が生じている。この焼結体片18は、切断面18cを有している。図3A図3Bとのから明らかなように、切断面18cから磁石内部に向かう方向には、Rの拡散の濃度勾配はほとんど生じていない。
【0033】
本発明者の検討によると、焼結体片18では、焼結体素材16における厚さ方向の上面16aおよび下面16bの少なくとも一方からの拡散により、磁石特性の改善に必要なRの濃度分布が実現され、得られたR-T-B系焼結磁石(切断後の焼結体片)における固体間のHcJばらつきを抑制できることがわかった。また、この現象はPr、TbおよびGaを含有する拡散源を用いたときに顕著におこるとがわかった。さらに、図2のように、粉末成形体の磁場配向方向に垂直な上面および下面からの拡散が好ましいことが分かった。これは、Rの粒界拡散は、磁場配向方向Mに平行な方向に沿って進行しやすいからだと考えられる。一方、上面および下面以外の面(例えば切断面16c)からも拡散をおこなった場合は、切断面18cから磁石内部に向かうRの拡散が生じ、双方から拡散が行われることで、得られたR-T-B系焼結磁石は、固体間のHcJばらつきが大きくなることがわかった。また、最終的な磁石部品の形状およびサイズに近い状態の焼結体素材の上面および下面から拡散をおこなっても、上面および下面の少なくとも一方に接触した拡散源の粉末が切断面16cへ回り込んだり、蒸着したりして、切断面18cから磁石内部に向かうRの拡散が生じることがわかった。よって、本開示の方法である、焼結体素材の上面および下面の少なくとも一方から拡散を行ったあと、更に焼結体素材に対して切断を行うことで一方方向に沿って拡散が進行することができ、得られたR-T-B系焼結磁石における固体間のHcJばらつきを抑制できることができる。
【0034】
図4は、参考例(従来例)における製造方法の主な工程を示すフローチャートである。図1のフローチャートに示される工程と異なる点は、工程S20´において、粉末成形体を更に切断して、最終的な磁石部品の形状およびサイズに近い状態まで加工を進める点にある。その結果、得られた焼結体に対する拡散は、図4の工程S40’において、焼結体片18の上面18a、下面18b、および側面からも実行される。図5は、工程S40’において、拡散源の粉末50が焼結体片18の上面、下面、および側面(切断面)に接触した状態で熱処理が実行されている様子を模式的に示している。
【0035】
本開示の実施形態では、焼結工程の前に粉末成形体のワークを切断し、ワークを複数の成形体片に分割する工程(S20)を実行する。この切断は、ワイヤソーによって好適に行うことが可能である。
【0036】
次に、図6を参照しながら、上記の製造方法に利用可能なワイヤソー装置の構成例を説明する。図6は、本開示の実施形態におけるワイヤソー装置100の構成例を示す斜視図である。図には、参考のため、互いに直交するx軸、y軸、およびz軸を含むxyz座標系が示されている。この例において、xy平面は水平であり、z軸は鉛直方向を向いている。
【0037】
図6のワイヤソー装置100は、回転の中心軸が互いに平行になるように配列されたローラ30a、30b、30cと、一本の連続したワイヤ40とを有している。工程S10で準備された粉末成形体のワーク10は、固定用ベース20に支持される。粉末成形体を準備する工程の具体例は後述する。ここで留意する点は、ワーク10は焼結体ではなく、焼結される前の粉末の成形体(グリーンコンパクト)であることである。粉末成形体は、例えば、希土類合金の粉末を磁場中において湿式プレスまたは乾式プレスで成形することによって得られる。
【0038】
固定用ベース20は、ワーク10が固定された状態でz軸方向に上下動する。この上下動は、不図示の駆動装置によって実行され得る。駆動装置は、油圧シリンダによって駆動力を得てもよいし、モータによって動作してもよい。
【0039】
ローラ30a、30b、30cは、x軸に平行な方向からみたとき、回転中心の軸が三角形の頂点に位置するように、所定の間隔を隔てて配置される。ローラ30a、30b、30cのそれぞれの側面に複数の溝が設けられている。ワイヤ40は、ローラ30a、30b、30cの複数の溝に順番に巻き架けられている。複数の溝の中心間隔(ピッチ)は、ワイヤソーによる切断によって分割される要素の幅を規定する。ワイヤ40の両端は、例えば、不図示の回収ボビンに巻回されている。
【0040】
切断時には、ローラ30a、30b、30cおよび回収ボビンが回転する。ローラ30a、30b、30cの回転方向は、これらの配置やワイヤ40の掛け方に依存する。図6に示すワイヤソー装置100では、ローラ30a、30b、30cは同一方向に回転する。
【0041】
所定長さのワイヤ40が、一方の回収ボビンに巻き取られたら、回収ボビンおよびローラ30a、30b、30cを逆方向に回転させる。これにより、ワイヤ40が逆方向に移動し、これを繰り返すことによって、ワイヤ40が往復運動(移動)させることができる。
【0042】
ワイヤ40には、例えば、固定砥粒ワイヤを用いる。具体的には、高硬度材料の切断に適した高硬度の砥粒が電着によって素線に固着されているものを用いることができる。高硬度の砥粒は超砥粒とも呼ばれ、典型例はダイヤモンド砥粒である。
【0043】
図7は、ワイヤ40の断面を模式的に示している。ワイヤ40は素線(芯線)42と、素線42の外周面に位置する砥粒44と、固着層46とを含む。固着層46は、例えば、Niなどのメッキ金属から形成されている。砥粒44は素線42の表面に位置しており、砥粒44の周囲の素線42の表面および砥粒44を全体として固着層46が覆うことによって、砥粒44を素線42に固着させることができる。砥粒44の固着は他の方法によって実現されていてもよい。砥粒44の平均粒径は、例えば、1μm以上24μm以下である。
【0044】
ワイヤソーによってワーク10を切断する工程は、ワーク10を液体中に沈めた状態で行うことが好ましい。ワーク10が湿式プレスによって形成された粉末成形体である場合、この液体の好ましい例は、湿式プレスで使用した油剤(鉱物油または合成油)などの分散媒である。
【0045】
このようなワイヤソー装置100によってワーク10を加工するとき、ワイヤ40の砥粒44によって切削された部分からワーク10を構成している粉末粒子が切削粉となって落ちる。粉末成形体を焼結して得られる硬い焼結体を切削した場合は、その切削粉は焼結によって粒成長したり、化学反応によって組成が変化したりした粒子、または粒子の結合物である。そのため、それらを希土類磁石の粉末に混ぜて再利用しても磁石特性が劣化する可能性が高い。これに対して、焼結前の粉末成形体から得られる切削粉であれば、粉末成形体に含まれている他の粒子に比べて組成およびサイズも同様であり、再利用可能である。そのため、本開示の実施形態では、前記ワークから削り取られた前記希土類合金の粉末粒子を回収して再利用する工程をさらに含んでもよい。
【0046】
また、ワーク10が湿式プレスによって作製された粉末成形体であり、かつ、液中でワイヤソー加工を行った場合に、より優れた磁石特性の得られることも確認できた。液中でワイヤソー加工を行うことにより、砥粒44のサイズが小さい場合でも、切削性能を維持して切断面を平滑化し得る。
【0047】
以下、本実施形態におけるR-T-B系焼結磁石の製造方法を詳細に説明する。
【0048】
S10:希土類合金の粉末成形体のワークを準備する工程
<R-T-B系焼結磁石用合金の組成>
Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1つを必ず含む。好ましくは、Nd-Dy、Nd-Tb、Nd-Dy-Tb、Nd-Pr-Dy、Nd-Pr-Tb、Nd-Pr-Dy-Tbで示される希土類元素の組合せを用いる。
【0049】
Rのうち、DyおよびTbは、特にHcJの向上に効果を発揮する。上記元素以外にはLaなど他の希土類元素を含有してもよく、ミッシュメタルやジジムを用いることもできる。また、Rは純元素でなくてもよく、工業上入手可能な範囲で、製造上不可避な不純物を含有するものでもよい。含有量は、例えば、27量%以上35質量%以下である。好ましくは、R-T-B系焼結磁石のR含有量は31質量%以下(27質量%以上31質量%以下、好ましくは、29質量%以上31質量%以下)である。
【0050】
Tは、遷移金属の少なくとも1つでありFeを必ず含み、質量比でFeの50%以下をコバルト(Co)で置換してもよい(Tが実質的に鉄とコバルトとから成る場合を含む)。Coは温度特性の向上、耐食性の向上に有効であり、合金粉末は10質量%以下のCoを含んでよい。Tの含有量は、RとBあるいはRとBと後述するMとの残部を占めてよい。
【0051】
Bの含有量についても公知の含有量で差し支えなく、例えば、0.9質量%~1.2質量%が好ましい範囲である。0.9質量%未満では高いHcJが得られない場合があり、1.2質量%を超えるとBが低下する場合がある。なお、Bの一部はC(炭素)で置換することができる。
【0052】
上記元素に加え、HcJ向上のためにM元素を添加することができる。M元素は、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Hf、TaおよびWからなる群から選択される一種以上である。M元素の添加量は5.0質量%以下が好ましい。5.0質量%を超えるとBrが低下する場合があるためである。また、不可避的不純物も許容することができる。
【0053】
<R-T-B系焼結磁石用合金の製造工程>
R-T-B系焼結磁石用合金の製造工程を例示する。上述した組成となるように事前に調整した金属または合金を溶解し、鋳型に入れるインゴット鋳造法により合金インゴットを得ることができる。また、溶湯を単ロール、双ロール、回転ディスクまたは回転円筒鋳型等に接触させて急冷し、インゴット法で作られた合金よりも薄い凝固合金を作製するストリップキャスト法または遠心鋳造法に代表される急冷法により合金フレークを製造することができる。
【0054】
本開示の実施形態においては、インゴット法と急冷法のどちらの方法により製造された材料も使用可能であるが、ストリップキャスト法などの急冷法により製造されることが好ましい。急冷法によって作製した急冷合金の厚さは、通常0.03mm~1mmの範囲にあり、フレーク形状である。合金溶湯は冷却ロールの接触した面(ロール接触面)から凝固し始め、ロール接触面から厚さ方向に結晶が柱状に成長してゆく。急冷合金は、従来のインゴット鋳造法(金型鋳造法)によって作製された合金(インゴット合金)と比較して、短時間で冷却されているため、組織が微細化され、結晶粒径が小さい。また粒界の面積が広い。Rリッチ相は粒界内に大きく広がるため、急冷法はRリッチ相の分散性に優れる。このため水素粉砕法により粒界で破断し易い。急冷合金を水素粉砕することで、水素粉砕粉(粗粉砕粉)のサイズを例えば1.0mm以下とすることができる。このようにして得た粗粉砕粉をジェットミルで粉砕する。
【0055】
<微粉砕工程>
R-T-B系焼結磁石用合金の粉末は活性であり、酸化しやすい。このため、ジェットミルで使用される気体としては、発熱・発火の危険性の回避、不純物としての酸素含有量を低減させて磁石の高性能化を図るため、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスが用いられる。
【0056】
ジェットミルに投入された被粉砕物(粗粉砕粉)は、例えば、平均粒度(中位径:d50)が2.0μm以上4.5μm以下の粒度分布を持つ微粉末に粉砕されてサイクロン捕集装置0により捕集されることになる。サイクロン捕集装置は、粉末を運ぶ気流から粉末を分離するために使用される。具体的には、R-T-B系焼結磁石用合金の粗粉砕粉が前段のジェットミルで粉砕され、粉砕によって生成された微粉末が、粉砕に利用された気体とともにサイクロン捕集装置に供給される。不活性ガス(粉砕ガス)と粉砕された微粉末との混合物が高速な気流をなして、サイクロン捕集装置に送られてくる。サイクロン捕集装置は、これらの粉砕ガスと微粉末とを分離するために利用される。粉砕ガスから分離された微粉末は、粉末捕集器で回収される。
【0057】
<粉末成形体を作製する工程>
次に、磁場中プレスによって上記の微粉末から粉末成形体を作製する。磁場中プレスでは、酸化抑制の観点から、不活性ガス雰囲気中によるプレスまたは湿式プレスによって粉末成形体を形成することが好ましい。特に湿式プレスは粉末成形体を構成する粒子の表面が油剤などの分散剤によって被覆され、大気中の酸素や水蒸気との接触が抑制される。このため、プレス工程の前後あるいはプレス工程中に粒子が大気によって酸化されることを防止または抑制することができる。
【0058】
磁場中湿式プレスを行う場合、微粉末に分散媒を混ぜたスラリーを用意し、湿式プレス装置の金型におけるキャビティに供給して磁場中でプレス成形する。
【0059】
・分散媒
分散媒は、その内部に合金粉末を分散させることによりスラリーを得ることができる液体である。
【0060】
本開示に用いる好ましい分散媒として鉱物油または合成油を挙げることができる。鉱物油または合成油はその種類が特定されるものではないが、常温での動粘度が10cStを超えると粘性の増大によって合金粉末相互の結合力が強まり磁場中湿式成形時の合金粉末の配向性に悪影響を与える場合がある。このため、鉱物油または合成油の常温での動粘度は10cSt以下が好ましい。また鉱物油または合成油の分留点が400℃を超えると粉末成形体を得た後の脱油が困難となり、焼結体内の残留炭素量が多くなって磁気特性が低下する場合がある。したがって、鉱物油または合成油の分留点は400℃以下が好ましい。また、分散媒として植物油を用いてもよい。植物油は植物より抽出される油を指し、植物の種類も特定の植物に限定されるものではない。
【0061】
・スラリーの作製
得られた合金粉末と分散媒とを混合することでスラリーを得ることができる。
【0062】
合金粉末と分散媒との混合率は特に限定されないが、スラリー中の合金粉末の濃度は、質量比で、好ましくは70%以上(すなわち、70質量%以上)である。20~600cm/秒の流量において、キャビティ内部に効率的に合金粉末を供給できると共に、優れた磁気特性が得られるからである。スラリー中の合金粉末の濃度は、質量比で、好ましくは90%以下である。合金粉末と分散媒との混合方法は特に限定されない。合金粉末と分散媒とを別々に用意し、両者を所定量秤量して混ぜ合わせることによって製造してよい。また、粗粉砕粉をジェットミル等で乾式粉砕して合金粉末を得る際にジェットミル等の粉砕装置の合金粉末排出口に分散媒を入れた容器を配置し、粉砕して得られた合金粉末を容器内の分散媒中に直接回収しスラリーを得てもよい。この場合、容器内も窒素ガスおよび/またはアルゴンガスからなる雰囲気とし、得られた合金粉末を大気に触れさせることなく直接分散媒中に回収して、スラリーとすることが好ましい。さらには、粗粉砕粉を分散媒中に保持した状態で振動ミル、ボールミルまたはアトライター等を用いて湿式粉砕し、合金粉末と分散媒とから成るスラリーを得ることも可能である。
【0063】
こうして得たスラリーを公知の湿式プレス装置で成形することにより、所定の大きさおよび形状を有する粉末成形体を得ることができる。従来、この紛末成形体を焼結して焼結体を得ることが通常であるが、本実施形態では、以下に説明するように、焼結前にワイヤソーによって粉末成形体を分割する。
【0064】
S20:ワークを切断し、ワークを複数の成形体片に分割する工程
この工程におけるワークの切断は、例えば図6に示されるワイヤソー装置によって行われる。
【0065】
ワイヤ40の素線42(図7参照)の直径は、例えば140μm以上240μm以下である。素線42の直径が0.18mm未満になると、強度不足により、切断中に素線42が延びてしまう問題がある。素線42の直径が大きいほど、切削粉の排出性が向上するが、切削粉の量が増加してしまうため、025mm以下であることが望ましい。
【0066】
ワイヤ40の走行速度(ワイヤ線速)は、例えば、100m/分以上500m/分以下に設定され得る。一方、ワーク送り速度(図6のz軸方向におけるワーク移動速度)は、例えば、100mm/分以上600mm/分以下の範囲に設定され得る。ワイヤ40に印加され張力は、例えば2.0kg以上3.0kg以下である。
【0067】
ワイヤソー加工は、切り粉の排出を速やかに行う観点から、粉末成形体を湿式プレスで作製するときに使用した分散媒(鉱物油または合成油)中にワーク10を浸漬させた状態で行うこと(油中切断)が望ましい。ワイヤソー加工を大気中で行う場合は、分散媒と同様の油をワーク10とワイヤ40とが接触する部分(切削部分)に吹き付けることが望ましい。
【0068】
ワイヤソー切断によって、ワーク10は、例えば磁場配向方向のサイズが1~10mm程度(厚さ)、幅が3~50mm程度、長さが5~100mm程度の成形体片に分割され得る。
【0069】
S30:成形体片を焼結して焼結体素材を作製する工程
次に、上記のワイヤソー工程によって切断された個々の成形体片を焼結して希土類焼結磁石体(焼結体素材)を得る。成形体片の焼結工程は、例えば、0.13Pa(10-3Torr)以下、好ましくは0.07Pa(5.0×10-4Torr)以下の圧力下で、例えば温度1000℃~1150℃の範囲で行うことができる。焼結による酸化を防止するために、雰囲気の残留ガスは、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスにより置換され得る。
【0070】
S40:Rを含有する拡散源の粉末を焼結体素材の内部に拡散する工程
工程S40では、Rを含有する拡散源の粉末50を各焼結体素材16における厚さ方向の上面16aおよび下面16bの少なくとも一方に接触させて熱処理を行うことにより拡散させる。厚さ方向への拡散でないと磁気特性が低下したり、HcJばらつきを抑制できない可能性がある。また、より高い磁気特性をえるためには上面16aおよび下面16bの両方に拡散源の粉末50を接触させて熱処理を行うことが好ましい。また、上述したように、Pr、TbおよびGaを含有する拡散源が好ましい。以下、Pr、TbおよびGaを含有する拡散源を「Pr-Tb-Ga系合金」と呼ぶ。この熱処理により、Pr-Tb-Ga系合金の粉末50に含まれるPr、TbおよびGaの少なくとも一部を各焼結体素材16の少なくとも上面16aおよび下面16bから内部に拡散する。この例において、工程S20における各成形体片14の切断面は、焼結体素材16の上面16aおよび下面16bに相当する面である。
【0071】
これらの元素を焼結体素材の表面から内部に拡散すると、保磁力を効率的に高めることができる。拡散工程の方法は特に問わない。公知の方法を採用することができる。
【0072】
以下、Pr-Tb-Ga系合金について説明する。
【0073】
Pr-Tb-Ga系合金は、PrおよびTb以外の希土類元素を含んでいてもよい。好ましくは、Pr-Tb-Ga系合金に含まれるPrおよびTbの合計量は、Pr-Tb-Ga系合金全体の65mass%以上97mass%以下であり、GaはPr-Tb-Ga系合金全体の3mass%以上35mass%以下である。
【0074】
Prの含有量はPr-Tb-Ga系合金における好ましいTbの含有量はPr-Tb-Ga系合金全体の3mass%以上24mass以下である。また、Gaの50mass%以下をCuおよびSnの少なくとも一方で置換することができる。Pr-Tb-Ga系合金は不可避的不純物を含んでいても良い。なお、本開示における「Gaの50%以下をCuで置換することができる」とは、Pr-Tb-Ga系合金中のGaの含有量(mass%)を100%とし、そのうち50%をCuで置換できることを意味する。好ましくは、Pr-Tb-Ga系合金のPrの含有量は、Pr-Tb-Ga系合金に含まれる希土類元素全体の50mass%以上である。Pr-Tb-Ga系合金に含まれる希土類元素全体は、好ましくは、PrとTbのみからなる。Prを含有することにより粒界相中の拡散が進みやすくなるため、Tbをさらに効率よく拡散することが可能となり、より高いHcJを得ることができる。
【0075】
Pr-Tb-Ga系合金の形状およびサイズは、特に限定されず、任意である。Pr-Tb-Ga系合金は、フィルム、箔、粉末、ブロック、粒子などの形状をとり得る。
【0076】
Pr-Tb-Ga系合金は、一般的なR-T-B系焼結磁石の製造方法において採用されている原料合金の作製方法、例えば、金型鋳造法、ストリップキャスト法、単ロール超急冷法(メルトスピニング法)、アトマイズ法などを用いて準備することができる。また、Pr-Tb-Ga系合金は、上記の方法によって得られた合金をピンミルなどの公知の粉砕手段によって粉砕されたものであってもよい。
【0077】
工程S40では、焼結体素材の厚さ方向の上面および下面の少なくとも一方に、Rを含有する拡散源(好ましくはPr-Tb-Ga系合金)の粉末を接触させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上950℃以下の温度で第一の熱処理を実施する。この熱処理により、R(好ましくはPr、Tb、およびGa)を焼結体素材の内部に拡散させることができる。
【0078】
拡散温度は、例えば、450℃以上950℃未満である。
【0079】
上記の熱処理は、焼結体素材表面に、任意形状の拡散源の粉末を配置し、公知の熱処理装置を用いて行うことができる。例えば、焼結体素材表面をPr-Tb-Ga系合金の粉末層で覆い、上記の熱処理を行うことができる。例えば、Pr-Tb-Ga系合金を分散媒中に分散させたスラリーを焼結体素材表面に塗布した後、分散媒を蒸発させPr-Tb-Ga系合金と焼結体素材とを接触させてもよい。なお、分散媒として、アルコール(エタノール等)、アルデヒドおよびケトンを例示できる。
【0080】
上記の拡散のための熱処理が実施された焼結体素材に対して、真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上750℃以下で、かつ、拡散のための熱処理の温度よりも低い温度で熱処理(第2熱処理)を行ってもよい。第2熱処理を行うことにより、より高いHcJを得ることができる。なお、第2熱処理は、S50の工程後、すなわち焼結体片に対しておこなってもよい。
【0081】
S50:各焼結体素材を前記上面から前記下面まで切断することにより、複数の焼結体片に分割する工程
各焼結体素材を前記上面から前記下面まで切断することにより、複数の焼結体片に分割する。量産性の観点から、分割される前記複数の焼結体片の個数は3以上であることが好ましい。この分割工程は、前述したワイヤソー装置で行ってもよいし、他の切削装置によって行ってもよい。また、最終的な製品形状およびサイズにするために、さらに焼結体片を切断したり、研削したりしてもよい。個々の焼結体片は、例えば磁場配向方向のサイズ(厚さ)が1~5mm程度、幅が3~20mm程度、長さが5~100mm程度であり得る。
【0082】
こうして得た焼結磁石片に対しては、必要に応じて表面処理工程や着磁工程を経て最終的なR-T-B系焼結磁石が完成する。このように本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、最終切断の後に拡散は行わない
【実施例
【0083】
実施例1
[R-T-B系焼結磁石用合金の粉末成形体のワークを準備する工程]
合金組成がおよそ表1のNo.A-1に示す組成となるように各元素の原料を秤量し、ストリップキャスティング法により合金を作製した。得られた合金を水素粉砕法により粗粉砕し粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100質量%に対して0.04質量%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粒径D50が4μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。前記微粉砕粉を窒素雰囲気中で分留点が250℃、室温での動粘度が2cStの鉱物油に浸漬してスラリーを準備した。スラリー濃度は、85重量%であった。得られたスラリーを磁界中で成形(湿式成形)し、粉末成形体のワークを準備した。ワークのサイズは、100mm×60mm×90mm(90mmが磁化(M)方向)であった。
【0084】
[ワークを切断し、ワークを複数の成形体片に分割する工程]
前記ワークの磁場配向方向Mを含む平面(100mm×60mmの面)に沿って複数の板状部分(成形体片)に切断した。また、切断は、ワークを液体中(液体は成形時に使用した前記鉱物油と同じものを使用)に沈めた状態で行った。
【0085】
[複数の成形体片のそれぞれを焼結して複数の焼結体素材を作製する焼結工程]
得られた成形体片を、真空中、1030~1080℃(焼結による緻密化が十分起こる温度を選定)で4時間焼結し、焼結体素材を複数個得た。焼結体素材の寸法は、85mm×50mm×7.5mm(7.5mmの方向が磁場配向方向(M))であった。得られた焼結体片の密度は7.5Mg/m以上であった。得られた焼結体素材の成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定した。結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
[Rを含有する拡散源の粉末を各焼結体素材における厚さ方向の上面および下面に接触させて熱処理を行い、拡散源の粉末に含まれるRの少なくとも一部を各焼結体素材の前記上面および前記下面から内部に拡散する工程]
拡散源の組成が表2のNo.B-1及びB-2に示す組成となるように各元素の原料を秤量しそれらの原料を溶解して、単ロール超急冷法(メルトスピニング法)によりリボンまたはフレーク状の合金を得た。得られた合金を、乳鉢を用いてアルゴン雰囲気中で粉砕した後、目開き425μmの篩を通過させ、拡散源の粉末を準備した。得られた拡散源の粉末の成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定した。成分の結果を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
次に、複数の焼結体素材における厚さ方向の上面および下面(厚さ7.5mm方向の上面および下面、すなわち85mm×50mmの面の上面および下面)に、拡散源の粉末B-1およびB-2をそれぞれ散布した。そして、それぞれ、真空又は不活性ガス雰囲気中、900℃の温度で加熱させて熱処理を行うことで拡散する工程を行った。さらに拡散後の焼結体素材に対して、50Paに制御した減圧アルゴン中で、500℃の第二熱処理を行った。
【0090】
[各焼結体素材を複数の焼結体片に分割する工程]
熱処理後の焼結体素材をそれぞれ切断加工機により切断し複数個の焼結体片を得た。焼結体片の寸法は、7mm×50mm×7.5mm(7.5mmの方向が磁場配向方向(M))であった。得られた焼結体素材を7mm×7mm×7mmに加工して、10個づづB-HトレーサによってBおよびHcJを測定した。測定したHcJの最大値と最小値の差を求めることによりHcJばらつきを求めた。結果を表3に条件Aとして示す。また、条件Bとして、ワークを切断し、成形体片を7mm×50mm×7.5mm(M)にしたこと、拡散源を焼結体素材全面に塗布したこと以外は条件Aと同じ方法で焼結体素材を作製した(条件B)。条件Bでは拡散後の焼結体素材に対して切断加工は行っていない。得られた焼結体素材を7mm×7mm×7mmに加工して10個づづB-HトレーサによってBおよびHcJを測定した。測定したHcJの最大値と最小値の差を求めることによりHcJばらつきを求めた。結果を表3の条件Bに示す。
【0091】
【表3】
【0092】
表3に示す通り、No.1-1(本発明例)とNo.1-2(比較例)、No.1-3(本発明例)とNo.1-4(比較例)をそれぞれ比べると、いずれも本発明例の方がHcJばらつきは抑制されている。さらに、拡散源としてPr、TbおよびGaを含有するNo.1-1の方がNo.1-3と比べてよりHcJばらつきが抑制されている。HcJばらつきが抑制されることにより、拡散材料の利用効率を高めることが可能となる。
【符号の説明】
【0093】
10・・・粉末成形体のワーク(グリーン)、20・・・駆動装置、30a、30b、30c・・・ローラ、40・・・ワイヤソー、100・・・ワイヤソー装置
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7