(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】単結晶成長用坩堝、単結晶製造装置
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20240220BHJP
C30B 23/06 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/06
(21)【出願番号】P 2020074030
(22)【出願日】2020-04-17
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2019118988
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤川 陽平
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-239464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に円筒形の空間が形成され、嵌合部において第1筐体および第2筐体に分割可能な単結晶成長用坩堝であって、
前記第1筐体は、前記第2筐体よりも線膨張係数が大きい材料から構成され、
前記嵌合部は、前記第1筐体の内壁側を前記第2筐体に向けて突出させた第1突出部と、前記第1突出部の外周面を覆い、前記第2筐体の外壁側を前記第1筐体に向けて突出させた第2突出部と、を有し、
前記第1突出部は、突出方向の根元部分よりも先端部分のほうが外径が大きくなるように形成され、かつ前記第2突出部は、突出方向の根元部分よりも先端部分のほうが内径が小さくなるように形成され、
前記第1突出部の外周面は、根元部分から先端部分に向かって一様に外径が増加し、
前記第2突出部の内周面は、根元部分から先端部分に向かって一様に内径が減少し、
常温において、前記第1突出部の先端部分の外径は、前記第2突出部の先端部分の内径と同じかそれよりも小さく、
単結晶成長温度において、前記第1突出部の先端部分の外径は、前記第2突出部の先端部分の内径よりも大きいことを特徴とする単結晶成長用坩堝。
【請求項2】
内部に円筒形の空間が形成され、嵌合部において第1筐体および第2筐体に分割可能な単結晶成長用坩堝であって、
前記第1筐体は、前記第2筐体よりも線膨張係数が大きい材料から構成され、
前記嵌合部は、前記第1筐体の内壁側を前記第2筐体に向けて突出させた第1突出部と、前記第1突出部の外周面を覆い、前記第2筐体の外壁側を前記第1筐体に向けて突出させた第2突出部と、を有し、
前記第1突出部は、突出方向の根元部分よりも先端部分のほうが外径が大きくなるように形成され、かつ前記第2突出部は、突出方向の根元部分よりも先端部分のほうが内径が小さくなるように形成され、
前記第1突出部の外周面は、根元部分と先端部分でそれぞれ外径が異なる2つの周面を有し、前記第2突出部の内周面は、根元部分と先端部分でそれぞれ内径が異なる2つの周面を有し、前記第1突出部の外周面の2つの周面と段差とのなす角度が90度以上であり、前記第2突出部の内周面の2つの周面と段差とのなす角度が90度以上であり、
常温において、前記第1突出部の先端部分の外径は、前記第2突出部の先端部分の内径と同じかそれよりも小さく、
単結晶成長温度において、前記第1突出部の先端部分の外径は、前記第2突出部の先端部分の内径よりも大きいことを特徴とする単結晶成長用坩堝。
【請求項3】
常温において、前記第1突出部の先端部分の外径と、前記第2突出部の先端部分の内径との差は、0mm以上、1mm以下の範囲であることを特徴とする請求項1
または2に記載の単結晶成長用坩堝。
【請求項4】
前記第1筐体と前記第2筐体の線膨張係数の差は0.4×10
-6(1/℃)以上、4×10
-6(1/℃)以下の範囲であることを特徴とする請求項1から
3のいずれか一項に記載の単結晶成長用坩堝。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか一項に記載の単結晶成長用坩堝と、前記単結晶成長用坩堝を加熱する加熱手段と、を少なくとも備えたことを特徴とする単結晶製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、SiCなどの単結晶を成長させる際に用いる単結晶成長用坩堝、およびこれを備えた単結晶製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
半導体等のデバイスには、SiCウェハ上にエピタキシャル膜を形成したSiCエピタキシャルウェハが用いられる。SiCウェハ上に化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)によって設けられたエピタキシャル膜が、SiC半導体デバイスの活性領域となる。SiCウェハは、SiCインゴットを加工して得られる。
【0004】
SiCインゴットは、昇華再結晶法(以下、昇華法という)等の方法で作製できる。昇華法は、例えば、黒鉛などから形成された坩堝(単結晶成長用坩堝)にSiCの原料と種結晶とを入れて、坩堝の加熱によって原料から昇華した原料ガスを種結晶上で再結晶化することで単結晶を得る方法である。
【0005】
こうした昇華法に用いる単結晶成長用坩堝は、一般的に、内部に円筒形の空間(結晶成長空間)を有する、互いに係脱可能な本体部と蓋部とから構成されている。そして、この本体部と蓋部との嵌合部を、単結晶成長時に原料ガスを極力漏洩させない構造にすることが望ましい。
【0006】
例えば、特許文献1では、坩堝を構成する第2の部材の熱膨張係数を第1の部材の熱膨張係数よりも大きくすることにより、坩堝の加熱時に第1の部材と第2の部材との嵌合部の隙間を小さくして、昇華ガス(原料ガス)の漏洩を少なくできる単結晶製造装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された単結晶製造装置では、嵌合部において第1の部材と第2の部材とが接する面が坩堝の上下方向に対して平行な面を成している。こうした構成では、加熱によって原料から生じた昇華ガス(原料ガス)が坩堝内圧を上昇させて、その結果第1の部材と第2の部材との間に隙間が生じて昇華ガスが漏洩する懸念がある。
【0009】
また、こうした坩堝内圧の上昇により坩堝を構成する部材どうしの隙間から昇華ガスが漏洩しないように、部材どうしをネジ構造などによって螺合できる。しかし、そのような構成は、坩堝の加熱によって生じる部材の熱膨張を吸収できず、その結果、螺合部分にクラックが生じる懸念がある。
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑みたものであって、
原料ガスの発生によって坩堝の内圧が上昇しても、坩堝を構成する部材どうしが嵌合する嵌合部から原料ガスが漏洩する懸念が無く、
かつ、加熱によって部材が熱膨張しても、嵌合部にクラックが生じることのない、
単結晶成長用坩堝、およびこれを備えた単結晶製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決するために、本発明に係る単結晶成長用坩堝は、内部に円筒形の空間が形成され、嵌合部において第1筐体および第2筐体に分割可能な単結晶成長用坩堝であって、前記第1筐体は、前記第2筐体よりも線膨張係数が大きい材料から構成され、前記嵌合部は、前記第1筐体の内壁側を前記第2筐体に向けて突出させた第1突出部と、前記第1突出部の外周面を覆い、前記第2筐体の外壁側を前記第1筐体に向けて突出させた第2突出部と、を有し、前記第1突出部は、突出方向の根元部分よりも先端部分のほうが外径が大きくなるように形成され、かつ前記第2突出部は、突出方向の根元部分よりも先端部分のほうが内径が小さくなるように形成され、常温において、前記第1突出部の先端部分の外径は、前記第2突出部の先端部分の内径と同じかそれよりも小さく、単結晶成長温度において、前記第1突出部の先端部分の外径は、前記第2突出部の先端部分の内径よりも大きいことを特徴とする。
【0012】
また、本発明では、前記第1突出部の外周面は、根元部分から先端部分に向かって一様に外径が増加し、前記第2突出部の内周面は、根元部分から先端部分に向かって一様に内径が減少する構成であっても良い。
【0013】
また、本発明では、前記第1突出部の外周面は、根元部分と先端部分でそれぞれ外径が異なる2つの周面を有し、前記第2突出部の内周面は、根元部分と先端部分でそれぞれ内径が異なる2つの周面を有する構成であっても良い。
【0014】
また、本発明では、常温において、前記第1突出部の先端部分の外径と、前記第2突出部の先端部分の内径との差は、0mm以上、1mm以下の範囲であってもよい。なお、部材どうしを嵌合しやすくするためには、前記差は0mmを超えていればよく、例えば0.1mm以上1mm以下であってもよい。
【0015】
また、本発明では、前記第1筐体の線膨張係数と前記第2筐体の線膨張係数との差は、0.4×10-6(1/℃)以上、4×10-6(1/℃)以下の範囲であってもよい。
【0016】
また、本発明に係る単結晶製造装置は、前記各項記載の単結晶成長用坩堝と、前記単結晶成長用坩堝を加熱する加熱手段と、を少なくとも備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、原料ガスの発生によって坩堝の内圧が上昇しても、坩堝を構成する部材どうしが嵌合する嵌合部から原料ガスが漏洩する懸念が無く、かつ、加熱によって部材が熱膨張しても嵌合部にクラックが生じることのない単結晶成長用坩堝、およびこれを備えた単結晶製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の単結晶製造装置の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態の単結晶成長用坩堝の嵌合部付近を示す要部拡大断面図である。
【
図3】単結晶成長用坩堝の作用を説明する説明図である。
【
図4】本発明の他の実施形態の単結晶成長用坩堝の嵌合部付近を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の単結晶成長用坩堝、およびこれを備えた単結晶製造装置について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0020】
(単結晶製造装置)
図1は、SiCインゴットの製造に用いる単結晶製造装置の一例を示す断面図である。
SiCインゴットの製造に好適な単結晶製造装置100は、昇華法を利用したSiC単結晶の製造装置であり、原料を加熱することによって生じた原料ガス(昇華ガス)を単結晶(種結晶)上で再結晶化し、大きな単結晶(インゴット)を得ることができる。
【0021】
単結晶製造装置100は、坩堝(単結晶成長用坩堝)10とコイル13とを有する。坩堝10とコイル13との間には、コイル13の誘導加熱により発熱する発熱体(図示略)を有してもよい。
【0022】
坩堝10は、外形が円筒形を成し、内部に円筒形の空間(結晶成長空間)Sが形成されている。坩堝10は、嵌合部20において第1筐体10Aおよび第2筐体10Bに分割可能に形成されている。本実施形態では、第1筐体10Aは、上下方向の下側の筐体であり、第2筐体10Bは、上下方向の上側の筐体である。
【0023】
こうした坩堝10を構成する第1筐体10Aおよび第2筐体10Bは、本実施形態では黒鉛から構成されている。また、第1筐体10Aは、第2筐体10Bよりも線膨張係数が大きい材料から構成され、本実施形態では、互いに密度が異なる黒鉛を用いることによって、第1筐体10Aの線膨張係数を第2筐体10Bの線膨張係数よりも大きくしている。具体的には、第1筐体10Aは高密度の黒鉛、第2筐体10Bは低密度の黒鉛から構成されている。
【0024】
例えば、第1筐体10Aは線膨張係数が4×10-6(1/℃)以上、7×10-6(1/℃)以下程度の材料から構成され、第2筐体10Bは線膨張係数が3×10-6(1/℃)以上、6×10-6(1/℃)以下程度の材料から構成される。そして、第1筐体10Aの線膨張係数と第2筐体10Bの線膨張係数との差は、0.4×10-6(1/℃)以上、4×10-6(1/℃)以下の範囲にすることが好ましい。
【0025】
坩堝10の第2筐体10Bには、原料Gと対向する位置に設けられた結晶設置部11を有する。坩堝10は、内部に結晶設置部11から原料Gに向けて拡径するテーパーガイド12を有してもよい。
なお、
図1においては、理解を容易にするために、原料G、種結晶15及び種結晶15から成長したSiCインゴット16を同時に図示しているが、実際の製造時にはこうした状態が存在するとは限らない。
【0026】
コイル13に交流電流を印加すると、坩堝10が加熱され、空間S内に原料Gから原料ガスが生じる。発生した原料ガスは、テーパーガイド12に沿って結晶設置部11に設置された種結晶15に供給される。種結晶15に原料ガスが供給されることで、種結晶15の主面(結晶成長面)15aにSiCインゴット(SiC単結晶)16が結晶成長する。種結晶15の主面15aは、例えば、カーボン面、又は、カーボン面から10°以下のオフ角を設けた面とすることが好ましい。
【0027】
図2は、本発明の一実施形態の単結晶成長用坩堝の嵌合部付近を示す要部拡大断面図である。なお、この
図2は、常温(25℃)での状態であり、かつ第1筐体と第2筐体とを離間させた状態を示している。
【0028】
第1筐体10Aの上側の開放端には、嵌合部20を構成する第1突出部21が一体に形成されている。第1突出部21は、第1筐体10Aの内壁10Af側を第2筐体10Bに向けて突出させた部位である。第1突出部21は、その突出方向D1の根元部分21eの外径OR1よりも、先端部分21tの外径OR2のほうが大きくなるように形成されている。本実施形態では、第1突出部21には、根元部分21eから先端部分21tに向かって一様に(均一に)外径が増加するテーパー状の外周面21fが形成されている。
【0029】
第2筐体10Bの下側の開放端には、嵌合部20を構成する第2突出部22が一体に形成されている。第2突出部22は、第2筐体10Bの外壁10Bg側を第1筐体10Aに向けて突出させた部位であって、第1突出部21の外周面21fを覆う。第2突出部22は、その突出方向D2の根元部分22eの内径IR1よりも、先端部分22tの内径IR2のほうが小さくなるように形成されている。本実施形態では、第2突出部22には、根元部分22eから先端部分22tに向かって一様に内径が減少するテーパー状の内周面22fが形成されている。
【0030】
嵌合部20における第1突出部21と第2突出部22との関係は、常温(25℃)では、第1突出部21の先端部分21tの外径OR2は、第2突出部22の先端部分22tの内径IR2と同じかそれよりも小さくなるように形成される。
また、結晶成長温度(Gt:℃)、例えば2000℃においては、第1筐体10Aの線膨張係数(Te1)が第2筐体10Bの線膨張係数(Te2)よりも大きいことにより、第1突出部21の先端部分21tの外径OR2は、第2突出部22の先端部分22tの内径IR2よりも大きくなるように形成される。
【0031】
上述した外径OR2と内径IR2に係る常温(25℃)と結晶成長温度(Gt:℃)におけるそれぞれの関係を満たした上で、第1突出部21の根元部分21eの外径OR1および先端部分21tの外径OR2と、第2突出部22の根元部分22eの内径IR1および先端部分22tの内径IR2との寸法の関係が以下の2つの範囲(範囲1および範囲2)を満たすように嵌合部20を形成する。
0.5mm≧[IR2+IR2×Te2×(Gt-25)]-[OR1+OR1×Te1×(Gt-25)]≧-0.2mm・・・(範囲1)
0.5mm≧[IR1+IR1×Te2×(Gt-25)]-[OR2+OR2×Te1×(Gt-25)]≧-0.2mm・・・(範囲2)
【0032】
上述した範囲1および範囲2は、坩堝10の第1筐体10Aおよび第2筐体10Bを構成する黒鉛材の剛性や強度などの物性を考慮して選択することができる。範囲1および範囲2が負の値をとる場合、高温環境下において、第1突出部21の外径が第2突出部22の内径より大きくなることを意味する。そのため、嵌合部20をより強固に密着できる構成となるので好ましい。一方で、割れやすい黒鉛材を用いる場合には不向きである。
【0033】
常温(25℃)における第1突出部21の各部の寸法の具体例として、第1突出部21の根元部分21eの外径OR1は248mm~253mm、先端部分21tの外径OR2は249mm~254mm、外径OR1と外径OR2との差ΔOR1は0.1mm~1mm、第1突出部21の根元部分21eから先端部分21tまでの突出長さL1は5.0mm~5.1mmとなるように形成されている。
【0034】
常温(25℃)における第2突出部22の各部の寸法の具体例として、第2突出部22の根元部分22eの内径IR1は250mm~256mm、先端部分22tの内径IR2は249mm~255mm、内径IR1と内径IR2との差ΔIR1は0.1mm~1mm、第2突出部22の根元部分22eから先端部分22tまでの突出長さL2は5.0mm~5.1mmとなるように形成されている。
また、例えば嵌合状態において、常温(25℃)における第1筐体10Aの第1突出部21の外周面21fと、第2筐体10Bの第2突出部22の内周面22fとのクリアランスは0.1mm~1mmとなるように形成されている。
【0035】
以上のような構成の本実施形態の坩堝(単結晶成長用坩堝)10およびこれを備えた単結晶製造装置100によれば、常温(25℃)においては、坩堝10の嵌合部20における第1突出部21の外径のうち最大径となる先端部分21tの外径OR2が、第2突出部22の内径のうち最小径となる先端部分22tの内径IR2と同じかこれよりも小さくなるように形成されている。これにより、第1突出部21の外周面21fと第2突出部22の内周面22fとの間にはクリアランスが保たれるので、原料Gを空間Sに入れた第1筐体10Aに対して、種結晶15を取り付けた第2筐体10Bを、嵌合部20で容易に嵌合させることができる。
【0036】
次に、こうした坩堝10を結晶成長温度、例えば2000℃まで昇温させると、黒鉛で形成された坩堝10は各部分が熱膨張するが、この時、互いに密度が異なる黒鉛を用いることによって、第1筐体10Aの線膨張係数を第2筐体10Bの線膨張係数よりも大きくしているので、嵌合部20における第1突出部21の寸法と第2突出部22の寸法との比率が変化する。
【0037】
例えば、2000℃の結晶成長温度においては、第2突出部22よりも第1突出部21のほうがより大きく熱膨張する。その結果、
図3に示すように、嵌合部20においては、第1突出部21の先端部分21tの外径OR2’は、第2突出部22の先端部分22tの内径IR2’よりも大きくなる。
【0038】
これにより、常温(25℃)では存在していた第1突出部21の外周面21fと第2突出部22の内周面22fとの間のクリアランスが0になり、第1突出部21の外周面21fと第2突出部22の内周面22fとが密着する。
【0039】
その結果、結晶成長温度においては、原料Gから生じた原料ガス(昇華ガス)が嵌合部20から漏洩することが無く、原料ガスを坩堝10の内部の空間S内に確実に封止しておくことが可能になる。
【0040】
また、結晶成長温度においては、第1突出部21の先端部分21tの外径OR2’が第2突出部22の先端部分22tの内径IR2’よりも大きくなるので、原料ガスの発生によって空間S内の内圧が上昇しても、第1筐体10Aに対して第2筐体10Bが持ち上がって外れることも確実に防止することができる。
【0041】
また、結晶成長温度においては、熱膨張した第1突出部21と第2突出部22とが、テーパー状の外周面21fと内周面22fとで接するので、本実施形態はネジ構造などと比較して嵌合部20にクラックの起点になりやすい鋭角な溝や突起などがなく、熱膨張による嵌合部20のクラックの発生を効果的に抑制することが可能になる。
【0042】
なお、上述した実施形態では、第1突出部21の外周面21fや第2突出部22の内周面22fは、それぞれ根元部分から先端部分に向かって一様に(均一に)外径や内径が変化するテーパー面を成しているが、これ以外にも、例えば、根元部分から先端部分に向かって外径や内径が不均一に変化するような面を形成していても良い。
【0043】
図4は、本発明の別な実施形態の単結晶成長用坩堝の嵌合部付近を示す要部拡大断面図である。なお、この
図4は、常温(25℃)での状態であり、かつ第1筐体と第2筐体とを離間させた状態を示している。
この実施形態の坩堝(単結晶成長用坩堝)30を構成する第1筐体30Aは、第2筐体30Bよりも線膨張係数が大きい材料から構成され、本実施形態では、第1筐体30Aの線膨張係数を第2筐体30Bの線膨張係数よりも大きくしている。
【0044】
第1筐体30Aの上側の開放端には、嵌合部40を構成する第1突出部41が一体に形成されている。第1突出部41は、第1筐体30Aの内壁30Af側を第2筐体30Bに向けて突出させた部位である。本実施形態では、第1突出部41の外周面41fは、根元部分41eを含む周面41faと、先端部分41tを含む周面41fbの2つの円筒状の周面を有し、この2つの周面41faと周面41fbとの接続部分には段差K1が形成されている。そして、第1突出部41は、その突出方向D1の根元部分41eの周面41faの外径OR3よりも、先端部分41tの周面41fbの外径OR4のほうが大きくなるように形成されている。
【0045】
第2筐体30Bの下側の開放端には、嵌合部40を構成する第2突出部42が一体に形成されている。第2突出部42は、第1突出部41の外周面41fを覆い、第2筐体30Bの外壁30Bg側を第1筐体30Aに向けて突出させた部位である。本実施形態では、第2突出部42の内周面42fは、根元部分42eを含む周面42faと、先端部分42tを含む周面42fbの2つの円筒状の周面を有し、この2つの周面42faと周面42fbとの接続部分には段差K2が形成されている。そして、第2突出部42は、その突出方向D2の根元部分42eを含む周面42faの内径IR3よりも、先端部分42tを含む周面42fbの内径IR4のほうが小さくなるように形成されている。
【0046】
嵌合部40における第1突出部41と第2突出部42との関係は、常温(25℃)では、第1突出部41の先端部分41tを含む周面41fbの外径OR4は、第2突出部42の先端部分42tを含む周面42fbの内径IR4と同じかそれよりも小さくなるように形成される。
【0047】
また、結晶成長温度(Gt:℃)、例えば2000℃においては、第1筐体30Aの線膨張係数(Te3)が第2筐体30Bの線膨張係数(Te4)よりも大きいことにより、第1突出部41の周面41fbの外径OR4は、第2突出部42の周面42fbの内径IR4よりも大きくなるように形成される。
【0048】
上述した外径OR4と内径IR4に係る常温(25℃)と結晶成長温度(Gt:℃)におけるそれぞれの関係を満たした上で、第1突出部41の根元部分41eを含む周面41faの外径OR3および先端部分41tを含む周面41fbの外径OR4と、第2突出部42の根元部分42eを含む周面42faの内径IR3および先端部分42tを含む周面42fbの内径IR4との寸法の関係が以下の2つの範囲(範囲3および範囲4)を満たすように嵌合部40を形成する。
0.5mm≧[IR4+IR4×Te4×(Gt-25)]-[OR3+OR3×Te3×(Gt-25)]≧-0.2mm・・・(範囲3)
0.5mm≧[IR3+IR3×Te4×(Gt-25)]-[OR4+OR4×Te3×(Gt-25)]≧-0.2mm・・・(範囲4)
【0049】
上述した範囲3および範囲4は、坩堝30の第1筐体30Aおよび第2筐体30Bを構成する黒鉛材の剛性や強度などの物性を考慮して選択することができる。範囲3および範囲4が負の値をとる場合、高温環境下において、第1突出部41の外径が第2突出部42の内径より大きくなることを意味する。そのため、嵌合部40をより強固に密着できる構成となり好ましい。一方で、割れやすい黒鉛材を用いる場合には不向きである。
【0050】
常温(25℃)における第1突出部41の各部の寸法の具体例として、第1突出部41の根元部分41eを含む周面41faの外径OR3は248mm~253mm、先端部分41tを含む周面41fbの外径OR4は249mm~254mm、外径OR3と外径OR4との差ΔOR2は0.1mm~1mm、第1突出部41の根元部分41eから先端部分41tまでの突出長さL3は5.9mm~6.1mm、周面41faと周面41fbとの突出長さ方向に沿った長さの比L3a:L3bは1:1程度になるように形成されている。
【0051】
常温(25℃)における第2突出部42の各部の寸法の具体例として、第2突出部42の根元部分42eを含む周面42faの内径IR3は250mm~256mm、先端部分42tを含む周面42fbの内径IR4は249mm~255mm、内径IR3と内径IR4との差ΔIR2は0.1mm~1mm、第2突出部42の根元部分42eから先端部分42tまでの突出長さL4は5.9mm~6.1mm、周面42faと周面42fbとの突出長さ方向に沿った長さの比L4a:L4bは1:1~1:0.9になるように形成されている。
【0052】
以上のような構成の本実施形態の坩堝(単結晶成長用坩堝)30であっても、結晶成長温度、例えば2000℃まで昇温させると、黒鉛で形成された坩堝30は各部分が熱膨張するが、この時、互いに密度が異なる黒鉛を用いることによって、第1筐体30Aの線膨張係数を第2筐体30Bの線膨張係数よりも大きくしているので、嵌合部40における第1突出部41の寸法と第2突出部42の寸法との比率が変化する。
【0053】
例えば、2000℃の結晶成長温度においては、第2突出部42よりも第1突出部41のほうがより大きく熱膨張するので、嵌合部40においては、第1突出部41の先端部分41tを含む周面41fbの外径OR4は、第2突出部42の先端部分42tを含む周面42fbの内径IR4よりも大きくなる。
これにより、第1突出部41の周面41fbが第2突出部42の周面42faに密着するようになり、結晶成長温度においては、原料Gから生じた原料ガス(昇華ガス)が嵌合部40から漏洩することが無く、原料ガスを坩堝30の内部の空間S内に確実に封止しておくことが可能になる。
【0054】
また、結晶成長温度においては、第1突出部41の先端部分41tを含む周面41fbの外径OR4が第2突出部42の先端部分42tを含む周面42fbの内径IR4よりも大きくなるので、原料ガスの発生によって空間S内の内圧が上昇しても、第1筐体30Aに対して第2筐体30Bが持ち上がって外れることも確実に防止することができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0056】
10…坩堝(単結晶成長用坩堝)
10A…第1筐体
10B…第2筐体
20…嵌合部
21…第1突出部
22…第2突出部
100…単結晶製造装置