(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】長尺の広帯域波長フィルムの製造方法及び長尺の円偏光フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240220BHJP
【FI】
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2020158244
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 次郎
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/079746(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/079745(WO,A1)
【文献】特開2020-54939(JP,A)
【文献】国際公開第2020/137409(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/140077(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
λ/2層及びλ/4層を備える長尺の広帯域波長フィルムの製造方法であって、
長尺のフィルムであり、固有複屈折が正の樹脂からなり測定波長590nmにおける面内レターデーションが0nm以上5nm以下である層(A)を用意する第一工程と、
前記層(A)上に、固有複屈折が負の樹脂からなる層(B)を形成して、複層フィルムを得る第二工程と、
前記複層フィルムを、前記複層フィルムの長手方向に対して45°±10°の角度をなす方向に延伸して、前記長尺の広帯域波長フィルムを得る第三工程と、をこの順に含
み、
前記第二工程で形成される前記層(B)は、厚みが11μm以上であり、かつ測定波長590nmにおける厚み方向のレターデーションが-40nm以下であり、
前記第三工程における延伸を、前記固有複屈折が負の樹脂のガラス転移温度TgBよりも低い延伸温度T
E
で行う、
長尺の広帯域波長フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第二工程における前記層(B)の形成が、前記層(A)上に前記固有複屈折が負の樹脂を含む組成物を塗工することを含む、請求項1に記載の長尺の広帯域波長フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記第二工程で形成される前記層(B)は、測定波長590nmにおける面内レターデーションが5nm以下である、請求項1又は2に記載の長尺の広帯域波長フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記λ/2層が、前記層(A)を延伸して得られた層であり、前記λ/4層が、前記層(B)を延伸して得られた層である、請求項1~3のいずれか一項に記載の長尺の広帯域波長フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記広帯域波長フィルムが、1.08以下のNZ係数を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の長尺の広帯域波長フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記広帯域波長フィルムが、1.00以上のNZ係数を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の長尺の広帯域波長フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記λ/2層は、前記広帯域波長フィルムの長手方向に対して45°±10°の方向に遅相軸を有し、
前記λ/4層は、前記広帯域波長フィルムの長手方向に対して135°±10°の方向に遅相軸を有し、
前記λ/2層が、測定波長590nmにおいて、270nm以上320nm以下の面内レターデーションを有し、
前記λ/4層が、測定波長590nmにおいて、130nm以上180nm以下の面内レターデーションを有し、
前記広帯域波長フィルムが、測定波長590nmにおいて、110nm以上170nm以下の面内レターデーションを有する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の長尺の広帯域波長フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記広帯域波長フィルムの測定波長450nmにおける面内レターデーションRe(450)及び前記広帯域波長フィルムの測定波長550nmにおける面内レターデーションRe(550)が、下記式(A)を満たす、請求項1~7のいずれか一項に記載の長尺の広帯域波長フィルムの製造方法。
0.85≦Re(450)/Re(550)≦0.95 (A)
【請求項9】
前記λ/2層が、30μm以上50μm以下の厚みを有し、
前記λ/4層が、5μm以上20μm以下の厚みを有し、
前記広帯域波長フィルムが、35μm以上60μm以下の厚みを有する、
請求項1~8のいずれか一項に記載の長尺の広帯域波長フィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法で前記長尺の広帯域波長フィルムを製造する工程と、
前記長尺の広帯域波長フィルムと、長尺の直線偏光フィルムとを貼合する工程と、を含む、
長尺の円偏光フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記長尺の円偏光フィルムが、前記長尺の円偏光フィルムの長手方向に吸収軸を有する、請求項10に記載の長尺の円偏光フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記長尺の直線偏光フィルムが、前記長尺の直線偏光フィルムの長手方向に吸収軸を有する、請求項11に記載の長尺の円偏光フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺の広帯域波長フィルムの製造方法及び長尺の円偏光フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レターデーションを有する位相差フィルムは、例えば円偏光フィルムなどの構成要素として用いられている。広い波長範囲の入射光について位相差フィルムが求められる機能を発揮できるように、位相差フィルムに、入射光の波長が大きくなるほどレターデーションが大きくなる性質(逆波長分散性)を付与するための試みがされている。例えば、固有複屈折が正である樹脂の層と、固有複屈折が負である樹脂の層とを積層して位相差フィルムを製造することにより、位相差フィルムに逆波長分散性を付与することが行われている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-040258号公報
【文献】特開2007-199616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
広い波長範囲の入射光についてλ/4板として機能させるために、λ/2板として機能する層(λ/2層)とλ/4板として機能する層(λ/4層)とを組み合わせて広帯域波長フィルムとする場合がある。このようにλ/2層及びλ/4層を備えた広帯域波長フィルムを、直線偏光フィルムと組み合わせることにより、円偏光フィルムとしうる。円偏光フィルムは、例えば、画像表示装置の外光の反射を低減する反射防止フィルムとして用いられる。正面方向のみならず、傾斜方向についても反射を抑制するためには、直線偏光フィルムに組み合わせる広帯域波長フィルムは、NZ係数が1.00に近いことが好ましい。
【0005】
しかし、固有複屈折が正である樹脂の層と固有複屈折が負である樹脂の層とを備えた長尺の積層フィルムを、幅方向に延伸して広帯域波長フィルムを得る方法では、NZ係数が1.00に近い広帯域波長フィルムを得られない場合がある。したがって、NZ係数が1.00に近い長尺の広帯域波長フィルムを製造することができる方法が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するべく、鋭意検討した結果、所定の複層フィルムを、その長手方向に対して45°±10°の角度をなす方向に延伸することを含む製造方法により、前記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
【0007】
[1] λ/2層及びλ/4層を備える長尺の広帯域波長フィルムの製造方法であって、
長尺のフィルムであり、固有複屈折が正の樹脂からなり測定波長590nmにおける面内レターデーションが0nm以上5nm以下である層(A)を用意する第一工程と、
前記層(A)上に、固有複屈折が負の樹脂からなる層(B)を形成して、複層フィルムを得る第二工程と、
前記複層フィルムを、前記複層フィルムの長手方向に対して45°±10°の角度をなす方向に延伸して、前記長尺の広帯域波長フィルムを得る第三工程と、をこの順に含む、
長尺の広帯域波長フィルムの製造方法。
[2] 前記第二工程における前記層(B)の形成が、前記層(A)上に前記固有複屈折が負の樹脂を含む組成物を塗工することを含む、[1]に記載の長尺の広帯域波長フィルムの製造方法。
[3] 前記層(B)は、測定波長590nmにおける厚み方向のレターデーションが-40nm以下である、[1]又は[2]に記載の長尺の広帯域波長フィルムの製造方法。
[4] 前記λ/2層が、前記層(A)を延伸して得られた層であり、前記λ/4層が、前記層(B)を延伸して得られた層である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の長尺の広帯域波長フィルムの製造方法。
[5] 前記広帯域波長フィルムが、1.08以下のNZ係数を有する、[1]~[4]のいずれか一項に記載の長尺の広帯域波長フィルムの製造方法。
[6] 前記広帯域波長フィルムが、1.00以上のNZ係数を有する、[1]~[5]のいずれか一項に記載の長尺の広帯域波長フィルムの製造方法。
[7] 前記λ/2層は、前記広帯域波長フィルムの長手方向に対して45°±10°の方向に遅相軸を有し、
前記λ/4層は、前記広帯域波長フィルムの長手方向に対して135°±10°の方向に遅相軸を有し、
前記λ/2層が、測定波長590nmにおいて、270nm以上320nm以下の面内レターデーションを有し、
前記λ/4層が、測定波長590nmにおいて、130nm以上180nm以下の面内レターデーションを有し、
前記広帯域波長フィルムが、測定波長590nmにおいて、110nm以上170nm以下の面内レターデーションを有する、
[1]~[6]のいずれか一項に記載の長尺の広帯域波長フィルムの製造方法。
[8] 前記広帯域波長フィルムの測定波長450nmにおける面内レターデーションRe(450)及び前記広帯域波長フィルムの測定波長550nmにおける面内レターデーションRe(550)が、下記式(A)を満たす、[1]~[7]のいずれか一項に記載の長尺の広帯域波長フィルムの製造方法。
0.85≦Re(450)/Re(550)≦0.95 (A)
[9] 前記λ/2層が、30μm以上50μm以下の厚みを有し、
前記λ/4層が、5μm以上20μm以下の厚みを有し、
前記広帯域波長フィルムが、35μm以上60μm以下の厚みを有する、
[1]~[8]のいずれか一項に記載の長尺の広帯域波長フィルムの製造方法。
[10] [1]~[9]のいずれか一項に記載の製造方法で前記長尺の広帯域波長フィルムを製造する工程と、
前記長尺の広帯域波長フィルムと、長尺の直線偏光フィルムとを貼合する工程と、を含む、
長尺の円偏光フィルムの製造方法。
[11] 前記長尺の円偏光フィルムが、前記長尺の円偏光フィルムの長手方向に吸収軸を有する、[10]に記載の長尺の円偏光フィルムの製造方法。
[12] 前記長尺の直線偏光フィルムが、前記長尺の直線偏光フィルムの長手方向に吸収軸を有する、[11]に記載の長尺の円偏光フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、NZ係数が1.00に近い長尺の広帯域波長フィルムを製造することができる方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第二工程で得られる複層フィルムの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、第三工程で得られる広帯域波長フィルムの一例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0011】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。フィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0012】
以下の説明において、フィルム又は層の遅相軸とは、別に断らない限り、当該フィルム又は層の面内における遅相軸を表す。
【0013】
以下の説明において、フィルム又は層の配向角とは、別に断らない限り、当該フィルム又は層の遅相軸が、当該フィルム又は層の長手方向に対してなす角度を表す。
【0014】
以下の説明において、複数の層を備える部材における各層の光学軸(遅相軸、透過軸、吸収軸等)がなす角度は、別に断らない限り、前記の層を厚み方向から見たときの角度を表す。
【0015】
以下の説明において、ある製品又はその構成要素(広帯域波長フィルム、円偏光フィルム等)の面内の光学軸(遅相軸、透過軸、吸収軸等)の方向及び幾何学的方向(フィルムの長手方向及び幅方向等)の角度関係は、別に断らない限り、ある方向のシフトを正、他の方向のシフトを負として規定され、当該正及び負の方向は、当該製品内の構成要素において共通に規定される。例えば、ある広帯域波長フィルムにおいて、「λ/2層が、広帯域波長フィルムの長手方向に対して45°の方向に遅相軸を有し、λ/4層が、広帯域波長フィルムの長手方向に対して135°の方向に遅相軸を有する」とは、下記の2通りの場合を表す:
・当該広帯域波長フィルムを、そのある一方の面から観察すると、λ/2層の遅相軸が、広帯域波長フィルムの長手方向から時計周りに45°シフトし、且つ、λ/4層の遅相軸が、広帯域波長フィルムの長手方向から時計周りに135°シフトしている。
・当該広帯域波長フィルムを、そのある一方の面から観察すると、λ/2層の遅相軸が、広帯域波長フィルムの長手方向から反時計周りに45°シフトし、且つ、λ/4層の遅相軸が、広帯域波長フィルムの長手方向から反時計周りに135°シフトしている。
【0016】
以下の説明において、あるフィルムの正面方向とは、別に断らない限り、当該フィルムの主面の法線方向を意味し、具体的には前記主面の極角0°且つ方位角0°の方向を指す。
【0017】
以下の説明において、あるフィルムの傾斜方向とは、別に断らない限り、当該フィルムの主面に平行でも垂直でもない方向を意味し、具体的には前記主面の極角が0°より大きく90°より小さい範囲の方向を指す。
【0018】
以下の説明において、固有複屈折が正の材料とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに垂直な方向の屈折率よりも大きくなる材料を意味する。また、固有複屈折が負の材料とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに垂直な方向の屈折率よりも小さくなる材料を意味する。固有複屈折の値は誘電率分布から計算することができる。
【0019】
以下の説明において、「(メタ)アクリル」の文言は、「アクリル」、「メタクリル」及びこれらの組み合わせを包含する。
【0020】
以下の説明において、層の面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。また、層の厚み方向のレターデーションRthは、別に断らない限り、Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×dで表される値である。さらに、層のNZ係数は、別に断らない限り、(nx-nz)/(nx-ny)で表される値であり、Rth/Re+0.5により算出されうる。ここで、nxは、層の厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、層の前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは層の厚み方向の屈折率を表す。dは、層の厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、590nmである。
【0021】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±3°、±2°又は±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0022】
以下の説明において、「X°±Y°」とは、(X°-Y°)以上(X°+Y°)以下の範囲を意味する。例えば、「45°±10°」とは、35°以上55°以下の範囲を表し、「135°±10°」とは、125°以上145°以下の範囲を表す。
【0023】
以下の説明において、用語「λ/2板」、「λ/4板」、「偏光板」などに含まれる「板」は、剛直な部材のみならず、可撓性のある部材(フィルムなど)を包含する。
【0024】
[1.広帯域波長フィルムの製造方法]
[1.1.概要]
本発明の一実施形態に係る製造方法は、以下に述べる第一工程と、第二工程と、第三工程とを、この順に含む、長尺の広帯域波長フィルムの製造方法である。
第一工程:長尺のフィルムであり、固有複屈折が正の樹脂からなり測定波長590nmにおける面内レターデーションが0nm以上5nm以下である層(A)を用意する工程。
第二工程:層(A)の上に、固有複屈折が負の樹脂からなる層(B)を形成して、複層フィルムを得る工程。
第三工程:複層フィルムを、前記複層フィルムの長手方向に対して45°±10°の角度をなす方向に延伸して、長尺の広帯域波長フィルムを得る工程。
【0025】
以下、図を用いて本実施形態の長尺の広帯域波長フィルムの製造方法の概要について説明する。
図1は、第二工程で得られる複層フィルムの一例を模式的に示す斜視図である。
図2は、第三工程で得られる広帯域波長フィルムの一例を模式的に示す斜視図である。
まず、第一工程で、長尺のフィルムであり、固有複屈折が正の樹脂からなり測定波長590nmにおける面内レターデーションが0nm以上5nm以下である層(A)を用意する。
次いで、第二工程で、
図1に示すように、第一工程で用意された層(A)100上に、固有複屈折が負の樹脂からなる層(B)210を形成して、層(A)100上に層(B)210が直接設けられた複層フィルム200を得る。方向DLは、複層フィルム200の長手方向を示す。
【0026】
次いで、第三工程で、複層フィルム200の方向DLに対して、θ(ここで、θ=45°±10°である。)の角度をなす方向に延伸して、
図2に示す広帯域波長フィルム300を得る。
【0027】
層(A)100は、固有複屈折が正の樹脂からなるので、通常、延伸方向に遅相軸が発現する。したがって、
図2に示す延伸後の層(A)100の遅相軸A
100と、複層フィルム200の長手方向であって広帯域波長フィルム300の長手方向でもある、方向DLとがなす角度θ
Aは、通常方向DLと延伸方向とがなす角度θと一致する。
【0028】
層(B)210は、固有複屈折が負の樹脂からなるので、通常、延伸方向と垂直な方向に遅相軸が発現する。したがって、
図2に示す延伸後の層(B)210の遅相軸A
210と、延伸方向とは通常直交する。すなわち、遅相軸A
210と方向DLとがなす角度θ
Bは、通常θ+90°となる。
【0029】
広帯域波長フィルムは、λ/2層とλ/4層とを備える。
図2に示す延伸後の層(A)100及び延伸後の層(B)210は、それぞれλ/2層及びλ/4層であってもよく、それぞれλ/4層及びλ/2層であってもよい。後述するように、延伸後の層(A)100(層(A)を延伸して得られる層)がλ/2層であり、延伸後の層(B)210(層(B)を延伸して得られる層)が、λ/4層であることが好ましい。
【0030】
[1.2.第一工程]
第一工程では、層(A)を用意する。層(A)は、長尺のフィルムであり、固有複屈折が正の樹脂からなり測定波長590nmにおける面内レターデーションReが0nm以上5nm以下である。
長尺の広帯域波長フィルムを製造するため、層(A)として、通常長尺のフィルムを用いる。層(A)は、2層以上の層を含む複層構造を有していてもよく、1層のみを含む単層構造を有していてもよい。好ましくは、層(A)として単層構造を有するフィルムを用いる。
【0031】
層(A)は、固有複屈折が正の樹脂を含み、当該樹脂から形成されている。層(A)が、固有複屈折が正の樹脂から形成されていることで、層(A)を延伸すると延伸方向と略平行、好ましくは平行である遅相軸を発現させうる。以下、層(A)に含まれる固有複屈折が正の樹脂を、樹脂Aともいう。樹脂Aは、通常熱可塑性樹脂である。
固有複屈折が正の樹脂は、通常固有複屈折が正の重合体と、必要に応じて任意の成分とを含む。
固有複屈折が正の重合体の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド;ポリビニルアルコール;ポリカーボネート;ポリアリレート;セルロースエステル重合体、ポリエーテルスルホン;ポリスルホン;ポリアリールスルホン;ポリ塩化ビニル;ノルボルネン重合体等の環状オレフィン重合体;棒状液晶ポリマーなどが挙げられる。これらの重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、重合体は、単独重合体でもよく、共重合体でもよい。これらの中でも、レターデーションの発現性及び低温での延伸性に優れることから、ポリカーボネート重合体が好ましい。機械特性、耐熱性、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性に優れることから、環状オレフィン重合体が好ましい。
【0032】
層(A)に含まれる樹脂における、固有複屈折が正の重合体の割合は、好ましくは50重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、更に好ましくは90重量%~100重量%である。重合体の割合が前記範囲内にある場合、層(A)及び広帯域波長フィルムが十分な耐熱性及び透明性を有しうる。
【0033】
層(A)に含まれる樹脂は、重合体に組み合わせて、更に前記重合体以外の任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、顔料、染料等の着色剤;可塑剤;蛍光増白剤;分散剤;熱安定剤;光安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;酸化防止剤;微粒子;界面活性剤等が挙げられる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0034】
層(A)に含まれる樹脂のガラス転移温度TgAは、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは120℃以上であり、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは170℃以下である。層(A)に含まれる樹脂のガラス転移温度が前記範囲の下限値以上である場合、層(A)を延伸して得られる層(λ/2層又はλ/4層)の高温環境下における耐久性を高めることができる。また、層(A)に含まれる樹脂のガラス転移温度が前記範囲の上限値以下である場合、延伸処理を容易に行える。
【0035】
層(A)は、測定波長590nmにおける面内レターデーションReが、通常5nm以下、好ましくは3nm以下、更に好ましくは2nm以下であり、通常0nm以上であり、0nmであってもよい。層(A)の面内レターデーションReを、このように小さくすることにより、層(A)を延伸して得られる層の遅相軸方向を、容易に延伸方向と略平行、好ましくは平行としうる。
【0036】
第一工程で用意される層(A)の厚みは、所望の広帯域波長フィルムが得られる範囲で任意に設定しうる。層(A)の具体的な厚みは、好ましくは40μm以上、より好ましくは45μm以上、更に好ましくは50μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは90μm以下、更に好ましくは80μm以下である。
層(A)の厚みが前記範囲内にある場合、第三工程での延伸によって所望の光学特性を有するλ/2層又はλ/4層を容易に得ることができる。
層(A)を延伸して得られる層を、λ/2層として機能させる観点から、層(A)の厚みは、好ましくは30μm以上、より好ましくは35μm以上であり、好ましくは70μm以下、より好ましくは60μm以下である。
【0037】
層(A)としての長尺のフィルムは、固有複屈折が正の樹脂を材料として、任意の製造方法で製造されうる。例えば、フィルムは、溶融成形法又は溶液流延法によって製造されうる。溶融成形法のより具体的な例としては、押出成形法、インフレーション成形法又はプレス成形法が好ましく、中でも効率よく簡単に層(A)を製造できる観点から押出成形法が好ましい。
【0038】
層(A)は、コロナ処理、プラズマ処理などの表面処理がされていてもよい。また、層(A)は、表面に層(B)との接着性を高めるなどのために、易接着層が設けられていてもよい。
【0039】
[1.3.第二工程]
第二工程では、前記第一工程で用意された層(A)上に、固有複屈折が負の樹脂からなる層(B)を形成して、複層フィルムを得る。本工程で得られる複層フィルムは、層(A)及び層(B)を含む。「層(A)上」には、層(A)の面に直接に層(B)を形成する態様及び層(A)の面上に、接着層などの他の層を介して層(B)を形成する態様が含まれる。
層(B)は、固有複屈折が負の樹脂を含み、当該樹脂から形成されている。以下、層(B)に含まれる固有複屈折が負の樹脂を、樹脂Bともいう。樹脂Bは、通常熱可塑性樹脂である。
【0040】
固有複屈折が負の樹脂は、通常固有複屈折が負の重合体と、必要に応じて任意の成分とを含む。
固有複屈折が負の重合体の例としては、ポリ(ビニル芳香族化合物)系重合体;ポリアクリロニトリル重合体;ポリメチルメタクリレート重合体;及び、これらの多元共重合体;が挙げられる。
ポリ(ビニル芳香族化合物)系重合体の例としては、スチレン又はスチレン誘導体の、単独重合体;スチレン又はスチレン誘導体と任意のモノマーとの共重合体;2-ビニルナフタレン又は2-ビニルナフタレン誘導体の、単独重合体;2-ビニルナフタレン又は2-ビニルナフタレン誘導体と任意のモノマーとの共重合体;が挙げられる。また、スチレン、スチレン誘導体、2-ビニルナフタレン、又は2-ビニルナフタレン誘導体に共重合させうる前記任意のモノマーの好ましい例としては、アクリロニトリル、無水マレイン酸、メチルメタクリレート、及びブタジエンが挙げられる。さらに、これらの重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、2-ビニルナフタレンの単独重合体(ポリ(2-ビニルナフタレン))は、位相差の発現性の高さの観点から、好ましい。
【0041】
層(B)に含まれる樹脂における、固有複屈折が負の重合体の割合は、好ましくは50重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、更に好ましくは90重量%~100重量%である。重合体の割合が前記範囲内にある場合、層(B)を延伸して得られる層の遅相軸方向を、容易に制御しうる。
【0042】
層(B)に含まれる樹脂は、重合体に組み合わせて、更に前記重合体以外の任意の成分を含みうる。任意の成分としては、層(A)に含まれる樹脂が含みうる、重合体以外の任意成分の例と同様の例が挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0043】
層(B)に含まれる樹脂のガラス転移温度TgBは、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、更に好ましくは100℃以上、更に好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上であり、好ましくは200℃以下である。層(B)に含まれる樹脂のガラス転移温度TgBが前記下限値以上であることにより、固有複屈折が負の樹脂の配向緩和を低減することができる。
【0044】
層(B)は、測定波長590nmにおける厚み方向のレターデーションRthが、好ましくは-100nm以上、より好ましくは-80nm以上、更に好ましくは-70nm以上であり、好ましくは-10nm以下、より好ましくは-15nm以下、更に好ましくは-40nm以下である。層(B)の厚み方向レターデーションRthが、かかる上限値以下であることにより、層(B)を延伸して得られる層に、大きな厚み方向のレターデーションRthを付与しうる。層(B)の厚みを調整すること、層(B)を塗工法で形成する場合には塗工された固有複屈折が負の樹脂を含む組成物の乾燥速度を適宜調整することなどにより、層(B)の測定波長590nmにおける厚み方向のレターデーションRthを前記範囲内に調整できる。通常、組成物の乾燥速度を大きくすることにより、層(B)中の固有複屈折が負の樹脂の配向緩和を抑制して、厚み方向のレターデーションRthを大きくしうる。
【0045】
層(B)は、測定波長590nmにおける面内レターデーションReが、好ましくは5nm以下、より好ましくは4nm以下、更に好ましくは3nm以下であり、通常0nm以上であり、0nmであってもよい。層(B)の面内レターデーションReを、このように小さくすることにより、層(B)を延伸して得られる層の遅相軸方向を、容易に延伸方向と略垂直、好ましくは垂直としうる。
【0046】
第二工程で形成される層(B)の厚みは、所望の広帯域波長フィルムが得られる範囲で任意に設定しうる。層(B)の具体的な厚みは、好ましくは6μm以上、より好ましくは7μm以上、更に好ましくは8μm以上であり、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下、更に好ましくは20μm以下である。
層(B)を延伸して得られる層を、λ/4層として機能させる観点から、層(B)の厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは6μm以上であり、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0047】
第二工程における層(B)の形成は、任意の方法で行いうる。層(B)の形成方法の例としては、押出法、貼合法、及び塗工法が挙げられる。
押出法により層(B)を形成する場合、第二工程における層(B)の形成は、層(A)上に、固有複屈折が負の樹脂を押し出すことを含む。貼合法によって層(B)を形成する場合、第二工程における層(B)の形成は、層(A)に、固有複屈折が負の樹脂からなるフィルムを貼合することを含む。
【0048】
塗工法によって層(B)を形成する場合、第二工程における層(B)の形成は、層(A)上に、固有複屈折が負の樹脂を含む組成物を塗工することを含む。前記の組成物は、通常、固有複屈折が負の樹脂に組み合わせて更に溶媒を含む液状の組成物である。溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、3-メチル-2-ブタノン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、2-メチルシクロヘキサノン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、2-ペンタノン、及びN,N-ジメチルホルムアミドが挙げられる。また、溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0049】
前記の組成物の塗工方法としては、例えば、カーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ギャップコーティング法、及びディッピング法が挙げられる。
【0050】
また、塗工法では、第二工程における層(B)の形成は、組成物を層(A)上に塗工した後で、必要に応じて塗工された組成物を乾燥させることを含む。乾燥により溶媒が除去されて、層(A)上に固有複屈折が負の樹脂の層(B)を形成することができる。乾燥は、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥、減圧加熱乾燥等の乾燥方法で行いうる。塗工された組成物を急速に乾燥させて、層(B)の厚み方向に絶対値の大きなレターデーションを発現させる観点からは、乾燥を加熱乾燥、減圧乾燥、及び減圧加熱乾燥のいずれかで行うことが好ましい。
【0051】
前記の層(B)の形成方法の中でも、塗工法が好ましい。したがって、前記第二工程における層(B)の形成は、好ましくは層(A)上に固有複屈折が負の樹脂を含む組成物を塗工することを含む。これにより、以下の利点を有する。塗工法によれば、貼合法と比較して、層(B)の形成のための工程数を少なくでき、また層(A)と層(B)とを貼り合わせるための接着剤などが不要である。また、塗工法によれば、押出法と比較して容易に薄い層(B)を形成しうる。
【0052】
[1.4.第三工程]
第三工程では、第二工程で得られた複層フィルムを、複層フィルムの長手方向に対して45°±10°の角度をなす方向に延伸して、長尺の広帯域波長フィルムを得る。
複層フィルムは、層(A)及び層(B)を含み、複層フィルムを、複層フィルムの長手方向に対して所定の方向に延伸することで、層(A)及び層(B)が複層フィルムの長手方向(通常、層(A)及び層(B)の長手方向)に対して所定の方向に延伸される。
【0053】
層(A)は、固有複屈折が正の樹脂から形成されているので、層(A)を延伸して得られる層は、延伸方向における屈折率が、それに垂直な方向の屈折率よりも大きくなる。したがって、層(A)を延伸すると、層(A)を延伸して得られる層の遅相軸は、通常延伸方向と略平行、好ましくは平行となる。
【0054】
一方、層(B)は、固有複屈折が負の樹脂から形成されているので、層(B)を延伸して得られる層は、延伸方向における屈折率が、それに垂直な方向の屈折率よりも小さくなる。したがって、層(B)を延伸すると、層(B)を延伸して得られる層の遅相軸は、通常延伸方向と略垂直、好ましくは垂直となる。
【0055】
また、複層フィルムを延伸して得られる広帯域波長フィルムの長手方向は、通常複層フィルムの長手方向と一致する。
【0056】
よって、層(A)及び層(B)を備える複層フィルムを、複層フィルムの長手方向に対して45°±10°の範囲の角度をなす方向に延伸することにより、層(A)を延伸して得られる層の遅相軸は、広帯域波長フィルムの長手方向に対して通常45°±10°の方向となり、層(B)を延伸して得られる層の遅相軸は、広帯域波長フィルムの長手方向に対して通常135°±10°の方向となる。
【0057】
第三工程における複層フィルムの延伸方向は、複層フィルムの長手方向に対して通常35°以上、好ましくは37°以上、より好ましくは40°以上、更に好ましくは42°以上であり、通常55°以下、好ましくは53°以下、より好ましくは50°以下、更に好ましくは48°以下である。複層フィルムの延伸方向を、前記範囲内とすることにより、得られる広帯域波長フィルムのNZ係数を、所望の範囲内としうる。
【0058】
第三工程における複層フィルムの延伸倍率は、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.25倍以上、更に好ましくは1.3倍以上であり、好ましくは2.0倍以下、より好ましくは1.9倍以下、更に好ましくは1.95倍以下である。複層フィルムの延伸倍率を、前記範囲内とすることにより、得られる広帯域波長フィルムのレターデーションを容易に適切な範囲内としうる。
【0059】
層(A)に含まれる固有複屈折が正の樹脂のガラス転移温度TgA(℃)とし、層(B)に含まれる固有複屈折が負の樹脂のガラス転移温度TgB(℃)とする。第三工程における延伸温度TEは、下記条件(TA)及び(TB)を満たすことが好ましい。
【0060】
条件(TA):TEが、好ましくはTgA以上、より好ましくはTgA+5℃以上であり、好ましくはTgA+30℃以下、より好ましくはTgA+25℃以下である。
条件(TB):TEが、好ましくはTgB-20℃以上、より好ましくはTgB-15℃以上であり、好ましくはTgB+25℃以下、より好ましくはTgB+20℃以下である。
【0061】
一実施形態においては、第三工程における延伸温度TEは、好ましくは135℃以上160℃以下である。
また別の実施形態においては、第三工程における延伸温度TEは、好ましくはTgAより大きく、好ましくはTgBより小さい。ただし、この場合TgA<TgBを満たす。
【0062】
延伸温度TEが、前記条件(TA)及び(TB)を満たす範囲であることにより、層(A)を延伸して得られる層及び層(B)を延伸して得られる層の双方に、所望のレターデーションを容易に発現させうる。
【0063】
第三工程における延伸は、任意の延伸機を用いて行うことができ、例えば、テンター延伸機により行いうる。テンター延伸機の例としては、特許第5477485号に記載されたテンター延伸機が挙げられる。
特殊なテンター延伸機(例えば、フィルム把持手段同士の間隔を、フィルムの搬送方向において伸縮させることができるテンター延伸機)を用いれば、複層フィルムをその幅方向に延伸することにより、NZ係数を1.00に近づけうる。
しかし、本実施形態の製造方法によれば、そのような特殊なテンター延伸機を用いることなく、所望の範囲内のNZ係数を有する広帯域波長フィルムを実現しうる。
【0064】
[1.5.任意の工程]
本実施形態に係る長尺の広帯域波長フィルムの製造方法は、前記の第一工程、第二工程、及び第三工程に加えて、任意の工程を含みうる。
任意の工程の例としては、積層フィルム又は広帯域波長フィルムに、コロナ処理、プラズマ処理などの表面処理を行う工程が挙げられる。
【0065】
前記の第一工程、第二工程、第三工程、及び任意の工程は、いずれも、層(A)、複層フィルム及び広帯域波長フィルムなどのフィルムを連続的に搬送しながら行いうる。フィルムの搬送方向は、通常、当該フィルムの長手方向である。よって、前記の搬送の際には、フィルムの長手方向及び幅方向は、通常、MD方向(Machine Direction)及びTD方向(Transverse Direction)に一致する。
【0066】
[1.6.広帯域波長フィルムの物性など]
前記の製造方法により得られる広帯域波長フィルムは、λ/2層及びλ/4層を備える。
λ/2層の面内レターデーションReは、測定波長590nmにおいて、例えば240nm以上、好ましくは260nm以上、より好ましくは270nm以上、更に好ましくは275nm以上、特に好ましくは280nm以上であり、好ましくは320nm以下、より好ましくは315nm以下、更に好ましくは310nm以下である。λ/2層の590nmにおける面内レターデーションReが前記範囲内にあることにより、広帯域波長フィルムを直線偏光フィルムと組み合わせて、円偏光フィルムとして良好に機能させうる。
【0067】
λ/4層の面内レターデーションReは、測定波長590nmにおいて、好ましくは75nm以上、より好ましくは130nm以上、更に好ましくは132nm以上、特に好ましくは135nm以上であり、好ましくは180nm以下であり、例えば178nm以下又は175nm以下であってもよい。λ/4層の590nmにおける面内レターデーションReが前記範囲内にあることにより、広帯域波長フィルムを直線偏光フィルムと組み合わせて、円偏光フィルムとして良好に機能させうる。
【0068】
λ/2層及びλ/4層の面内レターデーションReの値は、層(A)の厚み、層(B)の厚み、及び第三工程における延伸倍率などの延伸条件を、適宜調整することにより、それぞれ調整することができる。
【0069】
λ/2層の厚み方向のレターデーションRthは、測定波長590nmにおいて、好ましくは140nm以上、より好ましくは145nm以上、更に好ましくは150nm以上であり、好ましくは210nm以下、より好ましくは205nm以下、更に好ましくは200nm以下である。
【0070】
λ/4層の厚み方向のレターデーションRthは、測定波長590nmにおいて、好ましくは-130nm以上、より好ましくは-125nm以上、更に好ましくは-120nm以上であり、好ましくは-40nm以下、より好ましくは-45nm以下、更に好ましくは-50nm以下、特に好ましくは-53nm以下である。
【0071】
λ/2層及びλ/4層の厚み方向のレターデーションRthの値は、層(A)の厚み、層(B)の厚み、及び第三工程における延伸倍率などの延伸条件を、適宜調整することにより、それぞれ調整することができる。
【0072】
λ/2層の厚みは、好ましくは30μm以上、より好ましくは33μm以上、更に好ましくは35μm以上であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは49μm以下、更に好ましくは48μm以下である。λ/2層の厚みが、前記範囲内にあることにより、λ/2層に所望のレターデーションを容易に発現させうる。
λ/4層の厚みは、好ましくは4.0μm以上、より好ましくは4.3μm以上、更に好ましくは4.5μm以上、特に好ましくは5μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは18μm以下、更に好ましくは16μm以下である。λ/4層の厚みが、前記範囲内にあることにより、λ/4層により所望のレターデーションを容易に発現させうる。
【0073】
層(A)を延伸して得られる層がλ/2層であり、層(B)を延伸して得られる層がλ/4層であってもよく、層(A)を延伸して得られる層がλ/4層であり、層(B)を延伸して得られる層がλ/2層であってもよい。
製造が容易であり、後述する広帯域波長フィルムのRe(450)/Re(550)の値を所望の範囲に調整しやすいことから、層(A)を延伸して得られる層がλ/2層であり、層(B)を延伸して得られる層がλ/4層であることが好ましい。
層(A)の厚み、層(B)の厚み、及び第三工程における延伸倍率などの延伸条件を適宜調整することにより、層(A)を延伸して得られる層をλ/2層とし、層(B)を延伸して得られる層をλ/4層としうる。
【0074】
(1)層(A)を延伸して得られる層がλ/2層であり、層(B)を延伸して得られる層がλ/4層である場合、λ/2層及びλ/4層の遅相軸が、広帯域波長フィルムの長手方向に対してなす角度(配向角)は、好ましくは以下のとおりである。ここで、通常、広帯域波長フィルムの長手方向は、各層の長手方向と一致するので、当該角度は各層の配向角と一致する。(2)においても同様である。
【0075】
λ/2層の配向角は、広帯域波長フィルムの長手方向に対して通常35°以上、好ましくは37°以上、より好ましくは40°以上、更に好ましくは42°以上であり、通常55°以下、好ましくは53°以下、より好ましくは50°以下、更に好ましくは48°以下である。λ/2層の配向角は、通常第三工程における延伸方向と略平行、好ましくは平行である。
【0076】
λ/4層の配向角は、広帯域波長フィルムの長手方向に対して通常125°以上、好ましくは127°以上、より好ましくは130°以上、更に好ましくは132°以上であり、通常145°以下、好ましくは143°以下、より好ましくは140°以下、更に好ましくは138°以下である。λ/4層の配向角は、通常第三工程における延伸方向と略垂直、好ましくは垂直である。
【0077】
(2)層(A)を延伸して得られる層がλ/4層であり、層(B)を延伸して得られる層がλ/2層である場合、λ/4層及びλ/2層の配向角は、好ましくは以下のとおりである。
【0078】
λ/4層の配向角は、広帯域波長フィルムの長手方向に対して通常35°以上、好ましくは37°以上、より好ましくは40°以上、更に好ましくは42°以上であり、通常55°以下、好ましくは53°以下、より好ましくは50°以下、更に好ましくは48°以下である。λ/4層の配向角は、通常第三工程における延伸方向と略平行、好ましくは平行である。
【0079】
λ/2層の配向角は、広帯域波長フィルムの長手方向に対して通常125°以上、好ましくは127°以上、より好ましくは130°以上、更に好ましくは132°以上であり、通常145°以下、好ましくは143°以下、より好ましくは140°以下、更に好ましくは138°以下である。λ/2層の配向角は、通常第三工程における延伸方向と略垂直、好ましくは垂直である。
【0080】
前記(1)及び(2)の好ましい配向角は、第三工程において、延伸方向を調整することにより、実現できる。
【0081】
広帯域波長フィルムの測定波長590nmにおける面内レターデーションReは、好ましくは110nm以上、より好ましくは115nm以上、更に好ましくは120nm以上であり、好ましくは170nm以下、より好ましくは165nm以下、更に好ましくは160nm以下である。
広帯域波長フィルムの面内レターデーションが前記範囲内にあることにより、広帯域波長フィルムを、λ/4板として機能させうる。
【0082】
広帯域波長フィルムの測定波長590nmにおけるNZ係数は、好ましくは1.00以上であり、1.01以上であってもよく、好ましくは1.12以下、より好ましくは1.08以下、更に好ましくは1.07以下、特に好ましくは1.06以下である。
本実施形態の製造方法によれば、NZ係数がこのように1.00に近い長尺の広帯域波長フィルムを製造しうる。特に、層(B)の測定波長590nmにおける厚み方向のレターデーションを-40nm以下とすることにより、広帯域波長フィルムのNZ係数を、効果的に1.00に近づけることができる。
【0083】
広帯域波長フィルムの厚みは、好ましくは30μm以上、より好ましくは33μm以上、更に好ましくは35μm以上であり、好ましくは60μm以下、より好ましくは59μm以下、更に好ましくは58μm以下である。本実施形態の製造方法によれば、このように薄い広帯域波長フィルムを製造しうる。
【0084】
広帯域波長フィルムの測定波長450nmにおける面内レターデーションRe(450)及び前記広帯域波長フィルムの測定波長550nmにおける面内レターデーションRe(550)は、下記式(A)を満たすことが好ましい。
0.85≦Re(450)/Re(550)≦0.95 (A)
広帯域波長フィルムのRe(450)/Re(550)の値は、好ましくは0.85以上、より好ましくは0.86以上であり、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.94以下、更に好ましくは0.92以下である。
広帯域波長フィルムのRe(450)/Re(550)の値が、前記範囲内にあることにより、広帯域波長フィルムを、広い波長範囲において所望の面内レターデーションReを有するフィルムとしうる。
【0085】
[2.円偏光フィルムの製造方法]
前記の製造方法により製造された長尺の広帯域波長フィルムを、長尺の直線偏光フィルムと貼合することにより、長尺の円偏光フィルムを製造しうる。
本発明の一実施形態に係る長尺の円偏光フィルムの製造方法は、前記の製造方法により前記長尺の広帯域波長フィルムを製造する工程と、前記長尺の広帯域波長フィルムと、長尺の直線偏光フィルムとを貼合する工程と、を含む。本実施形態に係る製造方法により製造される円偏光フィルムは、前記広帯域波長フィルムの製造方法により製造される広帯域波長フィルム及び直線偏光フィルムを含む。
【0086】
前記の貼合は、通常、直線偏光フィルム、λ/2層及びλ/4層が、厚み方向においてこの順に並ぶように行う。また、貼合には、必要に応じて、接着層又は粘着層を用いてもよい。
【0087】
直線偏光フィルムは、吸収軸を有する長尺のフィルムであり、吸収軸と平行な振動方向を有する直線偏光を吸収し、これ以外の偏光を透過させうる機能を有する。ここで、直線偏光の振動方向とは、直線偏光の電場の振動方向を意味する。
【0088】
直線偏光フィルムは、通常は偏光子層を備え、必要に応じて偏光子層を保護するための保護フィルム層を備える。
偏光子層としては、例えば、適切なビニルアルコール系重合体のフィルムに、適切な処理を適切な順序及び方式で施したものを用いうる。かかるビニルアルコール系重合体の例としては、ポリビニルアルコール及び部分ホルマール化ポリビニルアルコールが挙げられる。フィルムの処理の例としては、ヨウ素及び二色性染料等の二色性物質による染色処理、延伸処理、及び架橋処理が挙げられる。通常、偏光子層を製造するための延伸処理では、延伸前のフィルムを長手方向に延伸するので、得られる偏光子層においては当該偏光子層の長手方向に平行な吸収軸が発現しうる。この偏光子層は、吸収軸と平行な振動方向を有する直線偏光を吸収しうるものであり、特に、偏光度に優れるものが好ましい。偏光子層の厚みは、5μm~80μmが一般的であるが、これに限定されない。
【0089】
偏光子層を保護するための保護フィルム層としては、任意の透明フィルムを用いうる。中でも、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性等に優れる樹脂のフィルムが好ましい。そのような樹脂としては、トリアセチルセルロース等のアセテート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂等が挙げられる。中でも、複屈折が小さい点でアセテート樹脂、環状オレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂が好ましく、透明性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、環状オレフィン樹脂が特に好ましい。
【0090】
前記の直線偏光フィルムは、例えば、長尺の偏光子層と長尺の保護フィルム層とを貼り合わせて製造しうる。貼り合わせの際には、必要に応じて、接着剤を用いてもよい。
【0091】
直線偏光フィルムは、好ましくは、当該直線偏光フィルムの長手方向に吸収軸を有する。このような直線偏光フィルムを、45°±10°(即ち、35°~55°)の配向角を有するλ/2層、及び、135°±10°(即ち、125°~145°)の配向角を有するλ/4層を含む広帯域波長フィルムと貼合して、円偏光フィルムを製造することが好ましい。前記のような組み合わせの貼合によれば、長尺の直線偏光フィルムと長尺の広帯域波長フィルムとを、それらの長手方向を平行にして貼合することにより円偏光フィルムを製造できるので、円偏光フィルムをロールトゥロール法によって製造できる。したがって、円偏光フィルムの製造効率を高めることができる。
【0092】
長手方向に吸収軸を有する直線偏光フィルムを円偏光フィルムの製造に用いることにより、円偏光フィルムの長手方向に吸収軸を有する円偏光フィルムを得ることができる。
【0093】
円偏光フィルムは、長手方向に吸収軸を有する直線偏光フィルムと、広帯域波長フィルムとを、それらの長手方向を平行にして貼合することにより製造できる。
【0094】
こうして得られた円偏光フィルムでは、直線偏光フィルムを透過した広い波長範囲の直線偏光が、広帯域波長フィルムによって円偏光に変換される。そのため、円偏光フィルムは、広い波長範囲において、右円偏光及び左円偏光の一方の光を吸収し、残りの光を透過させる機能を有する。
【0095】
前記の円偏光フィルムは、直線偏光フィルム及び広帯域波長フィルムに組み合わせて、更に任意の層を備えていてもよい。例えば、円偏光フィルムは、直線偏光フィルムと広帯域波長フィルムとの接着のために、接着層又は粘着層を備えていてもよい。
【0096】
前記の円偏光フィルムは、光を反射しうる面に設けた場合、外光の反射を効果的に低減できる。特に、前記の円偏光フィルムは、可視領域の広い波長範囲において、外光の反射を効果的に低減できる点で、有用である。そして、このように広い波長範囲において外光の反射を効果的に低減できるので、前記の円偏光フィルムは、一部の波長の光の反射強度が大きくなることによる色付きを抑制することができる。この円偏光フィルムは、前記の反射抑制及び色付き抑制の効果を、少なくともその正面方向において得ることができ、更に通常は、その傾斜方向においても得ることができる。また、傾斜方向における反射抑制及び色付き抑制の効果は、通常、フィルム主面の全ての方位角方向で得ることが可能である。
【実施例】
【0097】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0098】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0099】
[評価方法]
(樹脂のガラス転移温度)
樹脂のガラス転移温度を、示差走査熱量分析計により、下記条件にて測定した。
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量分析計(ナノテクノロジー社製、製品名:DSC6220SII)を用いて、JIS-K7121に基づき、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0100】
(層(A)の光学特性の測定方法)
第一工程で得た層(A)としての未延伸フィルムの面内レターデーションReを、位相差計(Axometrics社製「AxoScan」)を用いて測定した。測定波長は、590nmとした。
【0101】
(広帯域波長フィルム及びその構成要素の光学特性)
評価対象となる広帯域波長フィルムを、位相差計(Axometrics社製「AxoScan」)のステージに設置した。そして、広帯域波長フィルムを透過する偏光の広帯域波長フィルムを透過する前後での偏光状態の変化を、広帯域波長フィルムの透過偏光特性として測定した。この測定は、広帯域波長フィルムの主面に対して極角-55°から55°の範囲で行う多方向測定として行った。また、前記の多方向測定は、広帯域波長フィルムの主面のある方位角方向を0°として、45°、90°、135°及び180°の各方位角方向において行った。前記の測定は、測定波長を590nm、450nm、及び550nmとして行った。
【0102】
次に、前記の位相差計(AxoScan)の付属ソフト(Axometrics社製「Multi-Layer Analysis」)を用い、前記のように測定した透過偏光特性から、広帯域波長フィルムに含まれる各層の3次元屈折率及び配向角をフィッティングパラメータに設定してフィッティング計算をすることで、各層(λ/2層及びλ/4層)の面内レターデーションRe、厚み方向のレターデーションRth、NZ係数及び配向角を求めた。これらの作業を、測定波長590nm、450nm、及び550nmについて行った。各層の波長分散性(Re(450)/Re(550)の値)を、測定波長450nm及び550nmについての面内レターデーションの数値から算出した。
【0103】
(フィルム又は層の厚み)
層(A)、層(B)、広帯域波長フィルム、及びそれを構成する各層の厚みを、フィルメトリクス社の反射分光式膜厚測定システム「F20」を用いて測定した。
【0104】
(シミュレーションによる色差ΔE*abの計算方法)
シミュレーション用のソフトウェアとしてシンテック社製「LCD Master」を用いて、各実施例及び比較例で製造された円偏光フィルムをモデル化し、下記の設定で色差ΔE*abを計算した。
【0105】
シミュレーション用のモデルでは、平面状の反射面を有するアルミニウムミラーの前記反射面に、広帯域波長フィルムのλ/4層側がミラーに接するように円偏光フィルムを貼り付けた構造を設定した。したがって、このモデルでは、厚み方向において、直線偏光フィルム、λ/2層、λ/4層及びミラーがこの順に設けられた構造が設定された。
【0106】
そして、前記のモデルにおいて、D65光源から円偏光フィルムに光を照射したときの色差ΔE*abを、前記円偏光フィルムの(i)正面方向及び(ii)傾斜方向において計算した。ここで、傾斜方向の色差ΔE*abは、極角45°の色差を0°~360°の方位角の範囲で計算した値の平均として求めた。また、色差ΔE*abの計算に当たっては、(i)正面方向及び(ii)傾斜方向のいずれにおいても、円偏光フィルムを貼り付けられていないアルミニウムミラーの、極角0°、方位角0°の方向での反射光を基準とした。
【0107】
また、シミュレーションにおいては、実際に円偏光フィルムの表面で発生する表面反射成分については、色差ΔE*abの計算から除いている。色差ΔE*abの値は、値が小さいほど色味変化が少ないことを意味しており、好ましい。反射光の色味変化が少ないことは、円偏光フィルムが、広い光の波長範囲で反射抑制機能を有していることを示す。
【0108】
[実施例1]
(第一工程:層(A)の用意)
固有複屈折が正の樹脂である、樹脂Aとしてのペレット状のノルボルネン系重合体を含む樹脂(以下、ノルボルネン系樹脂ともいう。)(日本ゼオン社製;ガラス転移温度126℃)を100℃で5時間乾燥した。乾燥した樹脂を、押出し機に供給し、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経て、Tダイからキャスティングドラム上にシート状に押し出した。シート状に押し出された樹脂を冷却し、層(A)としての、厚み60μmの長尺の未延伸フィルムを得た。未延伸フィルムについて厚み及び光学特性を測定した。得られた未延伸フィルムをロールに巻き取って回収した。
【0109】
(第二工程:層(B)の形成)
(樹脂Bの製造)
乾燥し、窒素で置換された耐圧反応器に、溶媒としてトルエン500mL、重合触媒としてn-ブチルリチウム0.29mmolを入れた後、2-ビニルナフタレン35gを加えて25℃で1時間反応させた。その結果、2-ビニルナフタレンのホモポリマーとしてのポリ(2-ビニルナフタレン)を含む反応物を得た。この反応物を大量の2-プロパノールに注いで、ポリ(2-ビニルナフタレン)を沈殿させ、分取した。得られたポリ(2-ビニルナフタレン)を、真空乾燥機を用いて200℃で24時間乾燥させた。GPCにより測定したポリ(2-ビニルナフタレン)の重量平均分子量は250000であった。また、示差走査熱量分析計により測定したポリ(2-ビニルナフタレン)のガラス転移温度は142℃であった。また、ポリ(2-ビニルナフタレン)の固有複屈折値は負である。
【0110】
(樹脂Bを含む組成物の調製)
製造された樹脂Bとしてのポリ(2-ビニルナフタレン)と1,3-ジオキソランとを混合して、樹脂Bを含む液状組成物を得た。この液状組成物におけるポリ(2-ビニルナフタレン)の濃度は、15重量%であった。
【0111】
(塗工工程)
層(A)としての未延伸フィルムをロールから引き出して、引き出された未延伸フィルム上に前記の液状組成物を塗工した。
【0112】
(乾燥工程)
その後、塗工された液状組成物を120℃で急速乾燥させて、層(A)としての未延伸フィルム上に層(B)としてのポリ(2-ビニルナフタレン)の層(厚み12μm)を形成した。これにより、層(A)としての未延伸フィルムと層(B)としてのポリ(2-ビニルナフタレン)の層とを備える複層フィルムを得た。複層フィルムが備える層(B)について、厚み及び光学特性を測定した。得られた複層フィルムをロールに巻き取って回収した。
【0113】
(第三工程:複層フィルムの延伸)
積層フィルムをロールから引き出して、テンター延伸機に連続的に供給した。そして、このテンター延伸機によって、複層フィルムを、当該複層フィルムの長手方向に対して45°の角度をなす延伸方向に、延伸温度140℃、延伸倍率1.5倍で斜め延伸を行った。これにより、ノルボルネン系樹脂の層を延伸して得られたλ/2層と、ポリ(2-ビニルナフタレン)の層を延伸して得られたλ/4層とを備える広帯域波長フィルムを得た。得られた広帯域波長フィルムを、前記の方法によって評価した。
【0114】
(円偏光フィルムの製造)
長手方向に吸収軸を有する長尺の直線偏光フィルムを用意した。この直線偏光フィルムと、前記の広帯域波長フィルムとを、互いの長手方向を平行にして貼合した。この貼合は、粘着剤(日東電工社製「CS-9621」)を用いて行った。これにより、直線偏光フィルム、λ/2層及びλ/4層をこの順で備える円偏光フィルムを得た。得られた円偏光フィルムについて、前記の方法で評価した。
【0115】
[実施例2~実施例6]
(第一工程:層(A)の用意)
押出し機の押出し条件を表1又は表2に示す層(A)の厚みが得られるように調整した。実施例4及び6においては、押出し機の押出し条件を実施例1における条件と同様とした。
以上の事項以外は、実施例1と同様に操作して、層(A)としての長尺の未延伸フィルムを用意した。未延伸フィルムについて厚み及び光学特性を測定した。
【0116】
(第二工程:層(B)の形成)
第一工程で得られた未延伸フィルム上に、表1又は表2に示す層(B)の厚みが得られるように液状組成物の塗工量を調整して、樹脂Bを含む前記の液状組成物を塗工した。実施例5においては、実施例1と同様の条件で液状組成物を塗工した。
以上の事項以外は、実施例1と同様に操作して、複層フィルムを得た。複層フィルムが備える層(B)について、厚み及び光学特性を測定した。
【0117】
(第三工程:複層フィルムの延伸工程)
実施例1と同様にして、前記複層フィルムを延伸して広帯域波長フィルムを得てこれを評価した。
【0118】
(円偏光フィルムの製造)
得られた広帯域波長フィルムを用いて、実施例1と同様にして円偏光フィルムを得てこれを評価した。
【0119】
[比較例1]
(第一工程:層(A)の用意)
押出し機の押出し条件を表2に示す層(A)の厚みが得られるように調整した。
以上の事項以外は、実施例1と同様に操作して、層(A)としての長尺の未延伸フィルムを用意した。未延伸フィルムについて厚み及び光学特性を測定した。
【0120】
(第二工程:層(B)の形成)
第一工程で得られた未延伸フィルム上に、実施例1と同様の条件で、樹脂Bを含む前記の液状組成物を塗工し、塗工された液状組成物を乾燥させて、複層フィルムを得た。複層フィルムが備える層(B)について、厚み及び光学特性を測定した。
【0121】
(第三工程:複層フィルムの延伸工程)
積層フィルムをロールから引き出して、テンター延伸機に連続的に供給した。そして、このテンター延伸機によって、複層フィルムを、当該複層フィルムの長手方向に対して90°の角度をなす延伸方向(複層フィルムの幅方向)に、延伸温度140℃、延伸倍率1.6倍で横延伸を行った。これにより、ノルボルネン系樹脂の層を延伸して得られたλ/2層と、ポリ(2-ビニルナフタレン)の層を延伸して得られたλ/4層とを備える広帯域波長フィルムを得た。得られた広帯域波長フィルムを、前記の方法によって評価した。
【0122】
(円偏光フィルムの製造)
得られた広帯域波長フィルムを用いて、実施例1と同様にして円偏光フィルムを得てこれを評価した。
【0123】
結果を下表に示す。
下表における略称は、下記の意味を表す。
「COP」:ノルボルネン系樹脂(環状オレフィン重合体を含む樹脂)
「PVN」:ポリ(2-ビニルナフタレン)
「延伸角度」:延伸方向がフィルムの長手方向となす角度
「配向角」:層の遅相軸が層の長手方向となす角度
「Re(590)」:測定波長590nmにおける面内レターデーション
「Rth(590)」:測定波長590nmにおける厚み方向のレターデーション
「NZ係数(590)」:測定波長590nmにおけるNZ係数
「Re(450)」:測定波長450nmにおける面内レターデーション
「Re(550)」:測定波長550nmにおける面内レターデーション
【0124】
【0125】
【0126】
以上の結果から、以下の事項がわかる。
実施例1~6の製造方法によれば、NZ係数が1.00以上1.11以下であって、1.00に近い広帯域波長フィルムを製造できることがわかる。また、実施例1~6の製造方法で得られた円偏光フィルムは、正面方向及び傾斜方向における色差ΔE*abがそれぞれ32.7以下であって小さく、正面方向及び傾斜方向のいずれにおいても、広い光の波長範囲において反射を抑制しうることがわかる。
特に、第二工程において、測定波長590nmにおける厚み方向のレターデーションRthが-40nm以下である層(B)を形成する、実施例1~5の製造方法によれば、特にNZ係数が1.00以上1.08以下であって、より1.00に近い広帯域波長フィルムを製造できる。また実施例1~5の製造方法で得られた円偏光フィルムは、正面方向おより傾斜方向における色差ΔE*abがそれぞれ22.2以下であって小さく、正面方向及び傾斜方向のいずれにおいても、広い光の波長範囲において効果的に反射を抑制しうることがわかる。
【0127】
一方、第三工程において、長尺の複層フィルムをその幅方向に延伸を行う比較例1の製造方法では、NZ係数が1.2より大きく、NZ係数が1.00に近い広帯域波長フィルムが得らないことがわかる。また、比較例1の製造方法で得られた円偏光フィルムは、正面方向及び傾斜方向における色差ΔE*abがそれぞれ60より大きく、正面方向及び傾斜方向のいずれにおいても、広い光の波長範囲において反射を抑制する機能が実施例よりも劣ることがわかる。
【符号の説明】
【0128】
100 層(A)
200 複層フィルム
210 層(B)
300 広帯域波長フィルム
DL 方向