(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】エピタキシャル成長装置の温度管理方法及びシリコン堆積層ウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20240220BHJP
C23C 16/24 20060101ALI20240220BHJP
C23C 16/52 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
H01L21/205
C23C16/24
C23C16/52
(21)【出願番号】P 2020204813
(22)【出願日】2020-12-10
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】胡盛 珀
(72)【発明者】
【氏名】中村 元宜
(72)【発明者】
【氏名】稗田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】錦戸 浩一
【審査官】加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-243061(JP,A)
【文献】特開2007-116094(JP,A)
【文献】特開2011-108766(JP,A)
【文献】特開2019-186449(JP,A)
【文献】特開2020-161733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/24
C23C 16/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内に導入された原料ガスを反応させてウェーハ上にエピタキシャル膜を気相成長させるにあたり、前記原料ガスの前記反応におけるエピタキシャル成膜時の成長温度に成長速度が依存する領域である反応律速領域において、前記チャンバ内に前記原料ガスを所定の流量で導入しながら、
パイロメータにより得られた前記ウェーハの温度の測定値に基づいて、前記エピタキシャル膜の成長温度が予め設定された成長温度となるように、前記チャンバ及び前記ウェーハを加熱する加熱部を制御しつつ、前記ウェーハ上に前記エピタキシャル膜を気相成長させる成膜工程と、
前記エピタキシャル膜の膜厚を測定する膜厚測定工程と、
前記膜厚及び前記エピタキシャル膜の成膜時間に基づいて前記成膜工程における前記エピタキシャル膜の前記成長速度を算出する成長速度算出工程と、
算出した前記成長速度を用いて、予め求めた成長速度と成長温度とのキャリブレーションカーブを参照して、前記成膜工程における実際の成長温度を取得する成長温度取得工程と、
前記実際の成長温度が前記予め設定された成長温度の管理範囲内にない場合には、温度校正を行う温度校正工程と、
を有するエピタキシャル成長装置の温度管理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエピタキシャル成長装置の温度管理方法において、
前記温度管理方法は、エピタキシャル成長装置を用いて複数枚のエピタキシャルウェーハを製造している間、定期的に行われるエピタキシャル成長装置の温度管理方法。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のエピタキシャル成長装置の温度管理方法において、
前記温度校正工程は、前記ウェーハの前記温度の前記測定値の補正及び前記予め設定された成長温度の変更のいずれか一方又は両方であるエピタキシャル成長装置の温度管理方法。
【請求項4】
請求項1
乃至3のいずれか1項に記載のエピタキシャル成長装置の温度管理方法において、
前記原料ガスは、トリクロロシランであり、
前記反応律速領域は、1,000℃より低い温度領域であり、
前記所定の流量は、10slm以上50slm以下であるエピタキシャル成長装置の温度管理方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエピタキシャル成長装置の温度管理方法によって温度校正されたエピタキシャル成長装置を用いて、ウェーハ上にシリコン膜を成長させるシリコン堆積層ウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャル成長装置を用いてウェーハ上にエピタキシャル膜を気相成長させる時の温度を管理するエピタキシャル成長装置の温度管理方法及びシリコン堆積層ウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エピタキシャル成長装置では、原料ガスをチャンバ内に導入し、原料ガスの熱分解又は還元により生成された原料を高温に加熱されたウェーハ上にエピタキシャル膜として気相成長させる。
【0003】
エピタキシャル成長の成長速度は、原料ガスの種類、成長温度、チャンバ内の圧力等に依存する。エピタキシャル成長が可能な温度領域(成長温度領域)は、
図6に示すように、チャンバ内に導入された原料ガスの熱分解反応や還元反応によりウェーハ上にエピタキシャル膜を気相成長させるにあたり、原料ガスの熱分解反応や還元反応におけるエピタキシャル成膜時の成長温度に成長速度が依存する領域である反応律速(Kinetic Control)領域KCと、原料ガスの供給量に前記成長速度が依存する領域である供給律速(Diffusion Control)領域DCとに分けられる。
【0004】
反応律速領域KCは、成長温度領域内の低温側にあって、原料ガスの熱分解が十分でなく、一部の原料ガスのみがエピタキシャル成長に寄与しており、成長速度は原料ガスの供給量に比例せず飽和傾向を示す。また、成長速度は成長温度Tに対し一定ではなく、成長温度の逆数(103/T)に対して一定の活性化エネルギーを有して変化する傾向を示す。
供給律速領域DCは、成長温度領域内の高温側にあって、温度依存性が小さい領域である。
【0005】
図6において、丸印を繋いだ曲線は原料ガスがモノシラン(SiH
4)である場合の特性、下向き三角印を繋いだ曲線は原料ガスがジクロロシラン(SiH
2Cl
2)である場合の特性である。上向き三角印を繋いだ曲線は原料ガスがトリクロロシラン(SiHCl
3)である場合の特性、四角印を繋いだ曲線は原料ガスが四塩化シリコン(SiCl
4)である場合の特性である。境界線BLは、反応律速領域KCと、供給律速領域DCとの境界温度を表す。
【0006】
前記したように、反応律速領域KCと供給律速領域DCでは成長温度の逆数(103/T)に対する成長速度の特性が大きく異なるため、温度管理が重要である。
従来、以下に示すエピタキシャル成長装置の温度管理方法が提案されている。
【0007】
特許文献1に記載された温度管理方法では、ウェーハが載置されるサセプタの上方及び下方に上パイロメータ(非接触放射温度計)及び下パイロメータを有したエピタキシャル成長装置を用いる。
【0008】
この温度管理方法では、温度校正用サセプタに取り付けた熱電対で測定した測定値により上パイロメータの測定値を校正した後、校正された前記上パイロメータの測定値に下パイロメータの測定値を一致させる。次に、量産用サセプタに載置させたサンプルウェーハ上にエピタキシャル膜を気相成長させた時のウェーハ温度を上パイロメータにより間接測定した後、この直後にサンプルウェーハの表面粗さの指標の1つとして用いられるHazeを測定する。次に、前記ウェーハ温度と、前記Hazeとの相関を導き出すための相関線を求める。
【0009】
Hazeとは、ウェーハの表面、裏面に発生した微小な凹凸であり、暗室内で集光ランプ等を用いてウェーハの表面、裏面を観察すると、光が乱反射して白く曇って見える。Hazeは、本来「もや」の意味であるが、半導体業界では、単位面積当たりのHazeの個数の多さが表面粗さの指標の1つとして用いられている。
【0010】
次に、量産用ウェーハ上にエピタキシャル膜を気相成長させた時のウェーハ温度Txを上パイロメータにより間接測定した後、この直後に量産用ウェーハのHazeを測定する。次に、前記Hazeを前記相関線に当てはめて量産用ウェーハ上にエピタキシャル膜を気相成長させた時のウェーハ温度Tyを求めた後、前記ウェーハ温度Tyに前記ウェーハ温度Txを一致させる。
【0011】
特許文献2に記載された温度管理方法は、拡散用SOIウェーハに施された熱処理の温度に基づいてチャンバの温度校正を行う。
【0012】
この温度管理方法では、熱処理後の拡散用SOIウェーハのシート抵抗と熱処理の温度とのキャリブレーションカーブを予め求めておく。拡散用SOIウェーハ上にイオン注入により不純物注入層を形成した後、この拡散用SOIウェーハをエピタキシャル成長装置のチャンバ内で熱処理する。次、拡散用SOIウェーハのシート抵抗を測定する。
【0013】
次に、前記シート抵抗を用いて前記キャリブレーションカーブを参照して、前記拡散用SOIウェーハに施された熱処理の温度を求める。次に、求めた熱処理の温度に基づいて前記チャンバの温度校正を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2007-116094号公報
【文献】特開2011-222648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1に記載された温度管理方法は、ウェーハ上にエピタキシャル膜を気相成長させた時のウェーハ温度とHazeとの間に相関があることが前提である。しかし、例えば、トリクロロシラン(SiHCl
3)を原料ガスとし、成長温度領域として反応律速領域KCである1,000℃より低い温度領域を使用した場合、
図7に示すように、Hazeと成長温度との間に相関関係を確認できない。この場合、前記相関関係を前提とする特許文献1に記載された温度管理方法を利用できない。
【0016】
図7に示すHaze平均値は、表面欠陥検査装置であるKLA-Tencor社製Surfscan SP-1を用いてウェーハの表面を観察し、得られたHazeの平均である。
【0017】
また、ウェーハ上にエピタキシャル膜を気相成長させた時、ウェーハの表面状態及び成長温度によってはウェーハ上にポリシリコン膜が気相成長する場合がある。この場合、Haze自体を測定できないため、特許文献1に記載された温度管理方法を利用できない。
【0018】
特許文献2に記載された温度管理方法では、イオン注入により不純物注入層が形成された拡散用SOIウェーハを用いている。しかし、この種のウェーハは入手が困難なため、高いコストで温度管理をしなければならないという課題がある。
【0019】
本発明は、Hazeと成長温度との間に相関関係を確認できない反応律速領域においてウェーハ上にエピタキシャル膜を気相成長させる時の温度について、低コストで温度校正できるエピタキシャル成長装置の温度管理方法及びシリコン堆積層ウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決するために、本発明に係るエピタキシャル成長装置の温度管理方法は、チャンバ内に導入された原料ガスを反応させてウェーハ上にエピタキシャル膜を気相成長させるにあたり、前記原料ガスの前記反応におけるエピタキシャル成膜時の成長温度に成長速度が依存する領域である反応律速領域において、前記チャンバ内に前記原料ガスを所定の流量で導入しながら、前記ウェーハの温度の測定値に基づいて、前記エピタキシャル膜の成長温度が予め設定された成長温度となるように、前記チャンバ及び前記ウェーハを加熱する加熱部を制御しつつ、前記ウェーハ上に前記エピタキシャル膜を気相成長させる成膜工程と、前記エピタキシャル膜の膜厚を測定する膜厚測定工程と、前記膜厚及び前記エピタキシャル膜の成膜時間に基づいて前記成膜工程における前記エピタキシャル膜の前記成長速度を算出する成長速度算出工程と、算出した前記成長速度を用いて、予め求めた成長速度と成長温度とのキャリブレーションカーブを参照して、前記成膜工程における実際の成長温度を取得する成長温度取得工程と、前記実際の成長温度が前記予め設定された成長温度の管理範囲内にない場合には、温度校正を行う温度校正工程と、を有する。
【0021】
本発明に係るエピタキシャル成長装置の温度管理方法において、前記温度校正工程は、前記ウェーハの前記温度の前記測定値の補正及び前記予め設定された成長温度の変更のいずれか一方又は両方である。
【0022】
本発明に係るエピタキシャル成長装置の温度管理方法において、前記原料ガスは、トリクロロシランであり、前記反応律速領域は、1,000℃より低い温度領域であり、前記所定の流量は、10slm以上50slm以下である。
【0023】
本発明に係るエピタキシャル成長装置の温度管理方法において、前記ウェーハの温度は、パイロメータにより測定する。
【0024】
本発明に係るシリコン堆積層ウェーハの製造方法は、前記エピタキシャル成長装置の温度管理方法によって温度校正されたエピタキシャル成長装置を用いて、ウェーハ上にシリコン膜を成長させる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、Hazeと成長温度との間に相関関係を確認できない反応律速領域においてウェーハ上にエピタキシャル膜を気相成長させる時の温度について、低コストで温度校正できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係るエピタキシャル成長装置の温度管理方法を適用したエピタキシャル成長装置の構成の一例を示す概念図である。
【
図2】トリクロロシランの流量に対する成長温度の特性の一例を示すグラフである。
【
図3】本発明の一実施形態に係るエピタキシャル成長装置の温度管理方法の事前処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図4】成長速度と成長温度とのキャリブレーションカーブの一例を示すグラフである。
【
図5】本発明の一実施形態に係るエピタキシャル成長装置の温度管理方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図6】成長温度の逆数及び成長温度に対する成長速度の特性の一例を示すグラフである。
【
図7】Haze平均に対する成長速度の特性の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
[エピタキシャル成長装置1の構成]
図1は本発明の一実施形態に係るエピタキシャル成長装置の温度管理方法を適用したエピタキシャル成長装置1の構成の一例を示す概念図である。
【0028】
エピタキシャル成長装置1は、ウェーハWを一枚ずつ処理する枚葉式であり、装置本体2と、コントローラ3と、操作部4と、ウェーハ搬送機構5とを備えている。
ウェーハWとしては、例えば、シリコンウェーハ、GaAsウェーハ、InPウェーハ、ZnSウェーハ、ZnSeウェーハ、あるいは、SOIウェーハがある。
【0029】
装置本体2は、ウェーハWが収容されるチャンバ11と、チャンバ11内においてウェーハWをその下面側から水平に支持するサセプタ12とを備えている。サセプタ12は、サセプタ支持部材13により回転自在に支持されている。
【0030】
チャンバ11は、環状のベース31と、収容したウェーハWの上方を覆う上ドーム32と、ウェーハWの下方を覆う下ドーム33とを備えている。上ドーム32の外縁下面がベース31の上面に気密に固定され、下ドーム33の外縁上面がベース31の下面に気密に固定されることにより、チャンバ11内部に密閉空間が形成されている。
【0031】
ベース31には、水平方向の対角となる位置に、チャンバ11内部にガスを導入するガス導入口31Aと、チャンバ11外部にガスを排出するガス排出口31Bとが形成されている。
【0032】
ガス供給系29は、ガス導入口31Aから、チャンバ11内の上側空間に原料ガス(例えば、トリクロロシラン(SiHCl3))、必要に応じてキャリアガス(例えば、水素(H2))又はドーパントガス(例えば、ホスフィン (PH3))を導入し、これらのガスをガス排出口31Bから排出する。
【0033】
ベース31の内側には、サセプタ12及び導入されたガスを予熱する予熱リング19が、サセプタ12の側面と3mm程度の間隙を介して取り付けられている。予熱リング19は、ガスがウェーハWと接触する前に、サセプタ12及びガスを予熱することにより、成膜前及び成膜中のウェーハWの熱均一性を高めて、エピタキシャル膜の均一性を高める。
【0034】
上ドーム32は、平板状をしている。下ドーム33は、ロート状をしている。下ドーム33の中央には、下方に延びる筒部33Aが形成されている。筒部33A内には、サセプタ12を支持するサセプタ支持部材13を構成する内主柱51及び、内主柱51の外周に軸方向摺動自在に配置されてリフトピン支持部材22の一部を構成する外主柱61が挿通されている。外主柱61の上端には外アーム62が設けられ、外アーム62の先端には、ウェーハWをサセプタ12から持ち上げるリフトピン21の下端が当接可能に設定されている。
【0035】
ベース31は、例えば、ステンレスにより構成されている。上ドーム32及び下ドーム33は、例えば、チャンバ11を加熱する上部ランプ群24及び下部ランプ群25からの赤外線などの熱線を遮らない透明石英により構成されている。
【0036】
サセプタ12は、円板状に形成されている。サセプタ12の上面には、中央に円形状に掘り込まれた座繰り部が形成されている。座繰り部は、ウェーハWを収容するために、ウェーハWの直径よりもわずかに大きい直径で形成されている。サセプタ12は、例えば、炭化珪素(SiC)で被覆されたグラファイトから構成されている。
【0037】
サセプタ支持部材13は、
図1に示すように、円柱状の内主柱51と、内主柱51の先端から放射状に延びる複数本の内アーム52と、各内アーム52の先端にそれぞれ設けられた支持ピン53とを備えている。
【0038】
各内アーム52は、内主柱51の周方向に斜め上方に延びるように設けられている。各支持ピン53は、サセプタ12を支持する。
サセプタ支持部材13は、例えば、石英から構成されている。各支持ピン53は、例えば、無垢の炭化珪素(SiC)から構成されている。
【0039】
図1に示すリフトピン21は、円錐台状の頭部と、当該頭部における直径が小さい方の端部から円柱状に延びる軸部とを備えている。リフトピン21は、頭部がサセプタ12に支持される。
リフトピン21は、例えば、炭化珪素(SiC)、石英、グラファイト、ガラス状カーボン、あるいは、炭化珪素(SiC)で被覆されたグラファイトから構成されている。
各リフトピン21は、上下に摺動する際に下端がリフトピン支持部材22により支持される。
【0040】
リフトピン支持部材22は、円筒状の外主柱61と、外主柱61の先端から放射状に延びる複数本の外アーム62と、各外アーム62の先端にそれぞれ設けられた当接部63とを備えている。各外アーム62は、外主柱61の周方向に斜め上方に延びるように設けられている。各当接部63は、対応するリフトピン21を動かす際に下端に当接して支持する。
【0041】
外主柱61は、下ドーム33を構成する筒部33Aに挿通され、外主柱61の内部にサセプタ支持部材13の内主柱51が挿通されている。
【0042】
さらに、サセプタ12は、サセプタ支持部材13上に載置される。サセプタ12で支持された各リフトピン21の下端部が対応する各当接部63に当接可能である。
リフトピン支持部材22は、例えば、石英から構成されている。
【0043】
図1に示す支持部材駆動機構23は、サセプタ支持部材13及びリフトピン支持部材22を回転させたり、リフトピン支持部材22を昇降させたりする。
【0044】
チャンバ11の上方であってウェーハWの中心の上方には、パイロメータ28が取り付けられている。パイロメータ28は、ウェーハWから放射された赤外線などの熱線を受けて当該ウェーハWの表面温度を測定する。
【0045】
チャンバ11の上方には、ウェーハWを上方から加熱するための上部ランプ群24が設けられている。一方、チャンバ11の下方には、ウェーハWを下方から加熱するための下部ランプ群25が設けられている。
【0046】
上部ランプ群24及び下部ランプ群25は、横置きタイプの複数の上部ハロゲンランプ71及び複数の下部ハロゲンランプ72からなり、リング状に配列されている。上部ランプ群24及び下部ランプ群25を総称するときは、「加熱部」という用語を用いる。
【0047】
コントローラ3は、CPU,ROM、RAM及び、ハードディスク等からなる大容量記憶装置等を有するコンピュータで構成されている。コントローラ3は、ウェーハ搬送機構5及びゲートバルブ(図示略)、支持部材駆動機構23、上部ランプ群24及び下部ランプ群25(加熱部)並びにガス供給系29を制御する。
【0048】
大容量記憶装置には、エピタキシャルウェーハを製造するためのプロセスシーケンス及び制御パラメータ(温度、圧力、ガスの種類及びガスの流量、成膜時間などの制御目標値)に関する製造プログラムと、温度(特に、チャンバ11内の設定温度)を管理するためのプロセスシーケンス及びデータ(成長速度と成長温度のキャリブレーションカーブなど)に関する温度管理プログラムとが記憶されている。
【0049】
コントローラ3は、エピタキシャルウェーハの製造時には製造プログラムを大容量記憶装置から読み出し、パイロメータ28の測定値に基づいて、前記ウェーハ搬送機構5、ゲートバルブ、支持部材駆動機構23、上部ランプ群24及び下部ランプ群25並びにガス供給系29を制御する。
【0050】
コントローラ3は、温度管理時には温度管理プログラムを大容量記憶装置から読み出し、作業者の操作及びデータに基づいて、温度(特に、チャンバ11内の設定温度)を管理する。
【0051】
操作部4は、キーボード、マウス等のポインティングデバイスを有し、作業者が各種情報を入力する際に使用する。
ウェーハ搬送機構5は、チャンバ11の図示しないウェーハ搬入出口を介して、ウェーハWをチャンバ11内に搬入し、チャンバ11内から搬出する。
【0052】
[エピタキシャルウェーハの製造方法]
次に、前記構成を有するエピタキシャル成長装置1を用いたエピタキシャルウェーハの製造方法について説明する。
まず、ウェーハWを準備する。ウェーハWの直径は、200mm、300mm、450mmなど、いずれであっても良い。
【0053】
装置本体2を構成するチャンバ11が上部ランプ群24及び下部ランプ群25で加熱されていない常温時には、サセプタ12は、サセプタ12に載置されたウェーハWの上面が水平面と平行となるように、サセプタ支持部材13で支持される。
【0054】
次に、ウェーハWをチャンバ11内に搬入する事前準備として、コントローラ3は、パイロメータ28の測定値に基づいて、上部ランプ群24及び下部ランプ群25を制御して、チャンバ11を搬送時設定温度まで加熱させる。搬送時設定温度は、一般的に650℃以上800℃以下である。
【0055】
次に、コントローラ3は、ウェーハ搬送機構5を制御して、チャンバ11の図示しないウェーハ搬入出口を介して、ウェーハWをチャンバ11内に搬入させ、サセプタ12の座繰り部上で停止させる。次に、コントローラ3は、支持部材駆動機構23を制御して、リフトピン支持部材22を上昇させ、サセプタ12で支持されているリフトピン21を上昇させることにより、ウェーハWを持ち上げ、ウェーハ搬送機構5からウェーハWを受けとる。
【0056】
次に、コントローラ3は、前記ウェーハ搬送機構5を制御して、チャンバ11の外部に移動させた後、支持部材駆動機構23を制御して、リフトピン支持部材22を下降させることにより、ウェーハWをサセプタ12の座繰り部内に載置させる。
【0057】
次に、エピタキシャル膜形成処理の事前準備として、コントローラ3は、パイロメータ28によりウェーハWの表面温度を測定しつつ、上部ランプ群24及び下部ランプ群25を制御して、チャンバ11を成膜時設定温度までさらに加熱させる。成膜時設定温度は、本実施形態では、反応律速領域KCに設定する。本実施形態では、原料ガスとしてトリクロロシラン(SiHCl
3)を使用し、成膜時設定温度は、1,000℃より低い温度領域に設定する(
図6参照)。
【0058】
次に、コントローラ3は、ガス供給系29を制御して、ガス導入口31Aからキャリアガスとしての水素ガスを連続的に導入しつつ、ガス排出口31Bから排出させることにより、チャンバ11内を水素雰囲気にする。
【0059】
次に、コントローラ3は、パイロメータ28によりウェーハWの表面温度を測定しつつ、上部ランプ群24及び下部ランプ群25を制御して、チャンバ11内の温度を上昇させるとともに、ガス供給系29を制御して、ガス導入口31Aから、トリクロロシラン(SiHCl3)をチャンバ11内の上側空間に供給させる。この際、必要に応じてキャリアガス又はドーピングガスをチャンバ11内の上側空間に供給してもよい。
【0060】
トリクロロシラン(SiHCl3)の流量は、10slm(Standard litter per minutes)以上50slm以下とする。slmは、半導体業界で用いられる体積流量単位であり、測定条件は温度が0℃、圧力が1atm(1013hPa)である。
【0061】
前記流量が10slm未満の場合、トリクロロシラン(SiHCl
3)の流量に対する成長温度の特性は、
図3に示す一例のように変化する。
図3において、白丸を繋いだ線は成長温度が850℃である場合の特性の一例、黒丸を繋いだ線は成長温度が900℃である場合の特性の一例である。成長温度が900℃である場合の特性はエピタキシャル膜の成長速度が前記流量が増加するに従って速くなる。
一方、前記流量が10slm以上の場合、成長速度の上昇が飽和するが、50slmより大きくなると、チャンバ11やサセプタ12の壁面上に、ウォールデポジションと呼ばれるポリシリコンやシリコン化合物が副生成物として堆積する可能性が高くなる。
【0062】
前記各種ガスの供給と同時に、コントローラ3は、支持部材駆動機構23を制御して、サセプタ支持部材13及びリフトピン支持部材22を回転させることにより、ウェーハWにエピタキシャル膜を均一に形成させる。
【0063】
エピタキシャル膜の形成後、コントローラ3は、パイロメータ28によりウェーハWの表面温度を測定しつつ、上部ランプ群24及び下部ランプ群25を制御して、チャンバ11内の温度を成膜時設定温度から搬送時設定温度まで下げさせる。次に、コントローラ3は、支持部材駆動機構23を制御して、リフトピン支持部材22を上昇させて、リフトピン21によりウェーハWをサセプタ12から持ち上げる。次に、コントローラ3は、ウェーハ搬送機構5を制御して、チャンバ11内部に移動させて、ウェーハWの下方で停止させる。
【0064】
次に、コントローラ3は、支持部材駆動機構23を制御して、リフトピン支持部材22を下降させてウェーハWをウェーハ搬送機構5に受け渡す。次に、コントローラ3は、ウェーハ搬送機構5を制御して、ウェーハWをチャンバ11の外部に搬出させ、1枚のエピタキシャルウェーハの製造工程が終了する。
【0065】
次に、コントローラ3は、ウェーハ搬送機構5を制御して、新しいウェーハWをチャンバ11内に搬入させた後、以上説明した一連の処理と同様の処理を行うことにより、新たなエピタキシャルウェーハを製造する。
【0066】
[エピタキシャル成長装置1の温度管理方法]
図3は、本発明の一実施形態に係るエピタキシャル成長装置の温度管理方法の事前処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【0067】
まず、作業者は、熱電対を用いてエピタキシャル成長装置1の温度校正を行う(ステップS1)。
この温度校正では、チャンバ11内に量産用サセプタに替えて、内部に熱電対が挿入可能な温度校正用サセプタを取り付け、前記パイロメータ28の測定値を熱電対の出力値と一致させるように調整する。
【0068】
次に、ステップS1の温度校正が終了したエピタキシャル成長装置1において、原料ガスを所定の流量(10slm以上50slm以下)流しつつ、成長温度を順次変更して各ウェーハW上にエピタキシャル膜を気相成長させることにより、成長温度に対する成長速度のキャリブレーションカーブを取得する(ステップS2)。
【0069】
以上説明した
図3に示す事前処理は、特許文献1に記載された温度管理方法のように、複数枚のエピタキシャルウェーハを製造している途中に行うのではなく、エピタキシャル成長装置1を新たに設置したり、エピタキシャル成長装置1の内部又は各構成部材を清掃したり、構成部材の一部を交換したりした際に行う。
【0070】
図4に前記キャリブレーションカーブの一例を示す。作業者は、エピタキシャル成長装置1の操作部4を操作して、前記キャリブレーションカーブを入力する。これにより、コントローラ3は、内部の大容量記憶装置に前記キャリブレーションカーブを記憶する。
【0071】
前記したエピタキシャルウェーハの製造方法を用いて複数枚のエピタキシャルウェーハを製造している間、定期的に、以下で説明するエピタキシャル成長装置の温度管理方法によりエピタキシャル成長装置1の温度管理を行う。
図5は、本発明の一実施形態に係るエピタキシャル成長装置の温度管理方法の事前処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【0072】
まず、作業者は、エピタキシャルウェーハの製造を中断したエピタキシャル成長装置1に、それまでと同一のプロセスシーケンス及び制御パラメータ(温度、圧力、ガスの種類及びガスの流量、成膜時間などの制御目標値)により新たにエピタキシャルウェーハを製造させる(ステップS11:成膜工程)。
【0073】
すなわち、チャンバ11内にトリクロロシラン(SiHCl3)を10slm以上50slm以下の流量で導入しながら、1,000℃より低い反応律速領域において、パイロメータ28により測定されたウェーハWの表面温度の測定値に基づいて、予め設定された成長温度でウェーハW上にエピタキシャル膜を気相成長させる。
【0074】
次に、作業者は、製造されたエピタキシャルウェーハのエピタキシャル膜の膜厚について、フーリエ変換赤外分光計(FTIR:Fourier transform infrared spectrometer)(ナノメトリクス社製:QS-3300EG)を用いて測定する(ステップS12:膜厚測定工程)。
測定箇所は、例えば、エピタキシャルウェーハの面内の60~80点とする。作業者は、エピタキシャル成長装置1の操作部4を操作して、前記フーリエ変換赤外分光計の60~80点の各膜厚の値を入力する。
【0075】
これにより、コントローラ3は、入力された各膜厚の値から平均値を算出し平均膜厚を得た後、内部の大容量記憶装置に記憶する。次に、コントローラ3は、得られた平均膜厚を前記制御パラメータの1つである成膜時間で除算して得られた値を成長速度とした後、内部の大容量記憶装置に記憶する(ステップS13:成長速度算出工程)。
【0076】
前記した方法で成長速度を求めるのは、以下に示す理由による。
ランプ加熱のウェーハWへの当たり方が装置間で異なる場合があるため、前記平均膜厚を求めることにより、その影響を排除している。エピタキシャル膜の成長速度は、ウェーハW上に形成されるエピタキシャル膜の単位時間当たりの膜厚である。
【0077】
次に、コントローラ3は、ステップS13の処理で得られた成長速度を用いて内部の大容量記憶装置に記憶されたキャリブレーションカーブ(
図4参照)を参照して、前記成長速度に対応した成長温度を取得する(ステップS14:成長温度取得工程)。
【0078】
次に、コントローラ3は、ステップS14の処理で取得した成長温度が設定温度の管理範囲内にあるか否かを判断する(ステップS15)。
ステップS15の判断結果が「YES」の場合には、コントローラ3は、何もせず、一連の処理を終了する。
一方、ステップS15の判断結果が「NO」の場合、すなわち、ステップS15の処理で取得した成長温度が設定温度の管理範囲内にない場合には、ステップS16へ進む。
【0079】
ステップS16では、コントローラ3は、温度校正を行った後、一連の処理を終了する(温度校正工程)。この温度校正としては、例えば、パイロメータ28の測定値を補正する補正値を新たに設定したり、測定値を算出するためにパイロメータ28に設定されている放射率を変更して測定値を実際の成長温度に合わせたり、制御パラメータの1つである成長温度のセットポイントを変更したり、あるいはこれらを組み合わせて行ったりする。
【0080】
このように、本実施形態では、まず、チャンバ11内にトリクロロシラン(SiHCl3)を10slm以上50slm以下の流量で導入しながら、1,000℃より低い反応律速領域KCにおいて、パイロメータ28で測定されたウェーハWの表面温度の測定値に基づいて、予め設定された成長温度でウェーハW上にエピタキシャル膜を気相成長させる。
【0081】
次に、製造されたエピタキシャルウェーハのエピタキシャル膜の膜厚を測定した後、前記膜厚に基づいて、エピタキシャル膜の成長速度を算出する。この後、算出された成長速度を用いて成長速度と成長温度とのキャリブレーションカーブから、実際の成長温度を取得する。そして、実際の成長温度が予め設定された成長温度の管理範囲内にない場合は、パイロメータ28の測定値を補正する補正値を新たに設定したり、成長温度のセットポイントを変更したりする温度校正を行っている。
【0082】
このため、本実施形態によれば、成長温度の変動を定期的に確認し、管理範囲内にない場合に温度校正を行うことにより、エピタキシャル膜の品質(例えば、膜厚)が安定する。
本実施形態によれば、Hazeと成長温度との間の相関関係を利用していないので、ウェーハW上にポリシリコン膜が気相成長した場合であっても、温度校正を行うことができる。
【0083】
本実施形態では、チャンバ11を開放することなく温度校正を行っているため、装置の稼働効率が低下したり、温度校正後に製造したエピタキシャル膜に重金属パーティクルによる欠陥が発生したりする危険性はない。
【0084】
本実施形態では、入手が困難で高価な拡散用SOIウェーハを用いていないので、低コストで温度校正を行うことができる。
本実施形態では、トリクロロシラン(SiHCl3)を10slm以上50slm以下の流量で導入しながら、ウェーハW上にエピタキシャル膜を気相成長させているので、トリクロロシラン(SiHCl3)の流れが外乱となることはない。
【0085】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0086】
例えば、前記実施形態では、原料ガスがトリクロロシラン(SiHCl
3)である場合について説明したが、これに限定されない。原料ガスは、モノシラン(SiH
4)、ジクロロシラン(SiH
2Cl
2)、四塩化シリコン(SiCl
4)のいずれでもよい。
原料ガスがモノシラン(SiH
4)、ジクロロシラン(SiH
2Cl
2)、四塩化シリコン(SiCl
4)である場合の各流量は、以下に示す条件を満たす必要がある。前記各流量は、
図6に示す反応律速領域KCと供給律速領域DCとの境界線BLより反応律速領域KC側において、当該流量以上増やしてもエピタキシャル膜の成長速度が変化しない流量である。
【0087】
また、前記実施形態では、ウェーハWの上方に取り付けられパイロメータ28がウェーハWの表面温度を測定し、その測定値に基づいて温度管理する例を示したが、これに限定されない。例えば、下ドーム33の下方に取り付けられパイロメータにより測定されたサセプタ12の裏面温度や、熱電対により測定されたウェーハWの裏面温度に基づいて温度管理してもよい。
【0088】
前記実施形態では、前記したエピタキシャル成長装置の温度管理方法によって温度校正されたエピタキシャル成長装置を用いて、ウェーハ上にエピタキシャル膜を成長させることによりエピタキシャルウェーハを製造する例を示したが、これに限定されない。
【符号の説明】
【0089】
1…エピタキシャル成長装置、2…装置本体、3…コントローラ、4…操作部、5…ウェーハ搬送機構、11…チャンバ、12…サセプタ、13…サセプタ支持部材、19…予熱リング、21…リフトピン、22…リフトピン支持部材、23…支持部材駆動機構、24…上部ランプ群(加熱部)、25…下部ランプ群(加熱部)、28…パイロメータ、29…ガス供給系、31…ベース、31A…ガス導入口、31B…ガス排出口、32…上ドーム、33…下ドーム、33A…筒部、51…内主柱、52…内アーム、53…支持ピン、61…外主柱、62…外アーム、63…当接部、71…上部ハロゲンランプ、72…下部ハロゲンランプ、BL…境界線、DC…供給律速領域、KC…反応律速領域、W…ウェーハ。