(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240220BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240220BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240220BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/36 A
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2020507902
(86)(22)【出願日】2019-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2019011883
(87)【国際公開番号】W WO2019182064
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2018052908
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018052909
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100134441
【氏名又は名称】廣田 由利
(72)【発明者】
【氏名】大塚 良広
(72)【発明者】
【氏名】漁師 一臣
(72)【発明者】
【氏名】大下 寛子
(72)【発明者】
【氏名】小澤 秀造
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-096650(JP,A)
【文献】特開2016-024968(JP,A)
【文献】特開2016-072071(JP,A)
【文献】特開2016-143490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、前記粒子の表面の少なくとも一部に付着した被覆層とを有し、
前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子内部にホウ素を含有し、かつ、前記被覆層がチタン化合物を含み、
前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及び、元素Mを含み、Ni、Co、及び、元素Mの合計に対するNiの原子数比が0.55以上0.95以下で表される、
非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記ホウ素の含有量が、前記正極活物質全体に対して0.002質量%以上0.15質量%以下である、請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記被覆層中のチタンの含有量が、前記正極活物質全体に対して0.01質量%以上0.15%以下である、請求項1または請求項2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子は、リチウム(Li)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及び、元素Mを含み、それぞれの物質量比が、Li:Ni:Co:M=s:(1-x-y):x:y(ただし、0.95≦s≦1.30、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.1、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含み、前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子内部に前記ホウ素の少なくとも一部が固溶する、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記被覆層が、チタンアルコキシドの加水分解生成物を含有する、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項7】
水に浸漬した際に溶出するリチウム量が、前記正極活物質全体に対して、0.05質量%以上0.25質量%以下である、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項8】
ニッケル化合物とホウ素化合物とリチウム化合物とを混合することと、
前記混合により得られた混合物を焼成することと、
前記焼成により得られた、ホウ素を含有するリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に、チタンアルコキシドを溶媒に溶解させて得られたコーティング液を付着させることと、
前記コーティング液が付着した前記リチウムニッケル複合酸化物を乾燥することと、
を備え、
前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及び、元素Mを含み、Ni、Co、及び、元素Mの合計に対するNiの原子数比が0.55以上0.95以下で表される、
非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記コーティング液は、前記チタンアルコキシドを加水分解して得られた生成物を含む、請求項8に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記加水分解は、前記チタンアルコキシドを溶媒に溶解させて得られたコーティング液に純水を加え、室温で攪拌して行う、請求項9に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記ニッケル化合物が、ニッケル水酸化物、及びニッケル酸化物の少なくとも一種である、請求項8~請求項10のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項12】
前記リチウム化合物が、水酸化リチウム、酸化リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウムのうちの少なくとも一種である、請求項8~請求項11のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項13】
前記ホウ素化合物が、ホウ酸(H
3BO
3)、酸化ホウ素(B
2O
3)あるいはメタホウ酸リチウム(LiBO
2)のうちの少なくとも1種である、請求項8~請求項12のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項14】
前記チタンアルコキシドが、チタンテトラエトキシド(Ti(OC
2H
5)
4)、チタンテトラプロポキシド(Ti(OC
3H
7)
4)、チタンテトラブトキシド(Ti(OC
4H
9)
4)から選択される群からなる少なくとも一種である、請求項8~請求項13のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項15】
前記焼成が、酸素雰囲気中、焼成温度の最高温度が700℃以上800℃以下で行われる、請求項8~請求項14のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項16】
さらに、前記乾燥後のリチウムニッケル複合酸化物を、酸素雰囲気中にて150℃以上、500℃以下で熱処理すること、を備える、請求項8~請求項15のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項17】
前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子は、リチウム(Li)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、元素M、及び、ホウ素を含み、ホウ素を除く、それぞれの物質量比が、Li:Ni:Co:M=s:(1-x-y):x:y(ただし、0.95≦s≦1.30、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.1、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、
ホウ素の含有量が、前記リチウムニッケル複合酸化物全体に対して0.002質量%以上0.15質量%以下であり、
被覆層中のチタンの含有量が、前記正極活物質全体に対して0.01質量%以上0.15%以下である、
請求項8~請求項16のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項18】
正極と、負極と、非水系電解質とを備え、前記正極は、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の正極活物質を含む、非水系電解質二次電
池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットPCなどの携帯型情報端末の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が要求されている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として、高出力の二次電池の開発も要求されている。このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池などの非水系電解質二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解液などで構成され、負極および正極の活物質には、リチウムの脱離および挿入が可能な物質が用いられている。
【0003】
非水系電解質二次電池については、現在も研究開発が盛んに行われているが、中でも、層状構造またはスピネル構造を有するリチウム金属複合酸化物を正極活物質に用いた非水系電解質二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。これまで主に提案されている正極活物質としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)などを挙げることができる。
【0004】
これらのうちリチウムコバルト複合酸化物は原料に高価なコバルト化合物を用いるため、電池の容量あたりの単価は従来のニッケル水素電池より大幅に高くなり、適用可能な用途はかなり限定されてしまう。小型二次電池についてだけではなく、電気自動車や電力貯蔵用途の大型二次電池についても、正極活物質のコストを下げより安価な非水系電解質二次電池の製造を可能とすることに対する期待は大きく、その実現は工業的に大きな意義があるといえる。
【0005】
より安価、かつ、幅広い用途に適用可能な非水系電解質二次電池用正極活物質の候補としては、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物を挙げることができる。リチウムニッケル複合酸化物はリチウムコバルト複合酸化物と同様に高い電池電圧を示す一方、リチウムコバルト複合酸化物よりも低い電気化学ポテンシャルを示すため電解液の酸化による分解が問題になりにくく、より高容量が期待でき、特に電気自動車向けとして開発が盛んに行われている。
【0006】
しかしながら、従来のリチウムニッケル複合酸化物を用いて作製した二次電池(例えば、特許文献1参照)を搭載した電気自動車においても、ガソリン車に匹敵する航続距離を実現することは困難であり、さらなる高容量化が求められている。
【0007】
一方、リチウムニッケル複合酸化物は、正極合剤ペーストのゲル化が起こりやすいという問題がある。非水系電解質二次電池の正極は、例えば、正極活物質と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのバインダーや、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの溶剤とを混合して正極合剤ペーストを作製し、アルミ箔などの集電体に塗布した後、乾燥、圧着することで形成される。このとき、正極合剤ペースト中の正極活物質からリチウムが脱離した場合、ペーストに含まれる水分と反応しペーストのpHが上昇することがある。このpHの上昇により、正極合剤ペースト中のバインダーや溶媒が重合し、正極合剤ペーストがゲル化することがある。正極合剤ペーストがゲル化した場合、集電体への塗工性が悪化し、また電池製造の歩留まりが悪化する。この傾向は、リチウムニッケル複合酸化物、中でも、正極活物質に含まれるリチウムがリチウムニッケル複合酸化物の化学量論組成よりも過剰で、かつ、リチウム以外の遷移金属中のニッケル割合が高い場合に特に顕著となる。
【0008】
このような正極合剤ペーストのゲル化を抑制する試みがいくつかなされている。例えば、特許文献2には、リチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質と、酸性酸化物粒子からなる添加剤を含む二次電池用正極組成物が提案されている。特許文献2によれば、正極組成物を用いて正極を製造する場合、正極活物質から脱離したリチウムがバインダーに含まれる水分と反応して水酸化リチウムを生成し、生成された水酸化リチウムが、酸性酸化物粒子と中和反応を起こし、正極合剤ペーストのpHの上昇を抑制し、ゲル化を抑制するとしている。また、酸性酸化物は正極内で導電剤としての役割を果たし、正極全体の抵抗を下げ、電池の出力特性向上にも寄与するとしている。
【0009】
特許文献3には、リチウム遷移金属複合酸化物の化学量論組成に対して過剰な水酸化リチウムを算出し、その過剰な水酸化リチウム1モルあたり0.05モル以上の酸化タングステンを正極活物質、導電助剤、結着剤と共に混合して正極合剤ペーストとすることにより、ゲル化を抑制しつつ高い電池特性を有する二次電池を得る非水系電解質二次電池の製造方法が提案されている。
【0010】
特許文献4には、リチウム遷移金属複合酸化物等を用いた正極電極中に、無機酸としてホウ酸等を含有させ、電極ペーストのゲル化を防止する技術が開示されており、リチウム遷移金属複合酸化物の具体例として、ニッケル酸リチウムが開示されている。
【0011】
特許文献5~7には、リチウムニッケル複合酸化物粒子と、チタンの酸化物からなる微粒子から形成される被覆層とを有する正極活物質であって、リチウムニッケル複合酸化物粒子と、アルコキシ基を有する有機チタン化合物を含むコーティング液とを混合して得られる正極活物質が提案されている。特許文献5~7によれば、この正極活物質は、正極活物質が本来持つ電池性能を阻害せずに正極合材層形成用のペースト状組成物のゲル化を抑制できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平05-242891号公報
【文献】特開2012-28313号公報
【文献】特開2013-84395号公報
【文献】特開平10-79244号公報
【文献】特開2016-024968号公報
【文献】特開2016-072071号公報
【文献】特開2016-143490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記特許文献2、3の提案では、酸性酸化物の粒子が残留することによってセパレータの破損、及びそれに伴う熱安定性の低下の恐れがある。また、酸性酸化物やタングステンの添加量を増やすことにより、正極合剤ペーストのゲル化の抑制を向上させることができるが、これらの添加による原料費の増加や、正極組成物の重量の増加により単位重量当たりの電池容量が低下する。また、特許文献4の提案においては、ホウ酸などを添加した溶媒中に正極活物質、導電剤、および結着剤を加えて撹拌混合しているが、この方法では正極活物質が十分に分散するまでに局所的にゲル化を生じるおそれがある。また、上記特許文献2~4では、正極合剤ペーストのゲル化の抑制が十分であるとはいえない。
【0014】
また、特許文献5~7のように、リチウムニッケル複合酸化物の表面を異種元素を含む層で被覆する場合、これを用いた二次電池では、電池容量(例、初期放電容量)等の電池特性が低下することがある。ニッケルの含有割合が高いリチウムニッケル複合酸化物においては、正極合剤ペーストのゲル化が発生しやすい傾向がある。ここで、特許文献5~7の技術を用いて、正極合剤ペーストのゲル化を十分に抑制しようとする場合、より多くのチタン化合物を添加することが考えられるが、これにより、電池容量が低下し、リチウムニッケル複合酸化物の本来有する高い電池容量という特性が阻害されることがある。
【0015】
本発明は、これら事情を鑑みてなされたものであり、リチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質において、より高い電池容量と、電池製造時の正極合剤ペーストのゲル化の抑制とを高いレベルで両立できる正極活物質を提供することを目的とするものである。また、本発明は、このような正極活物質を、工業規模の生産において容易に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【0016】
上記問題に鑑みて、本発明の目的は、正極合剤ペーストのゲル化を抑制し、かつ、高容量な非水系電解質二次電池を製造可能な正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の態様によれば、リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、粒子の表面の少なくとも一部に付着した被覆層とを有し、リチウムニッケル複合酸化物の粒子内部にホウ素を含有し、かつ、被覆層がチタン化合物を含む、非水系電解質二次電池用の正極活物質が提供される。
【0018】
また、ホウ素の含有量が、正極活物質全体に対して0.002質量%以上0.15質量%以下であることが好ましい。また、被覆層中のチタンの含有量が、正極活物質全体に対して0.01質量%以上0.15%以下であることが好ましい。また、リチウムニッケル複合酸化物の粒子は、チウム(Li)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及び、元素Mを含み、それぞれの物質量比が、Li:Ni:Co:M=s:(1-x-y):x:y(ただし、0.95≦s≦1.30、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.1、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されることが好ましい。また、リチウムニッケル複合酸化物の粒子は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含み、リチウムニッケル複合酸化物の粒子内部にホウ素の少なくとも一部が固溶することが好ましい。また、被覆層が、チタンアルコキシドの加水分解生成物を含有することが好ましい。また、正極活物質は、水に浸漬した際に溶出するリチウム量が、正極活物質全体に対して、0.05質量%以上0.25質量%以下であることが好ましい。
【0019】
本発明の第2の態様によれば、ニッケル化合物とホウ素化合物とリチウム化合物を混合することと、混合により得られた混合物を焼成することと、焼成により得られたリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に、チタンアルコキシドを溶媒に溶解させて得られたコーティング液を付着させることと、コーティング液が付着したリチウムニッケル複合酸化物を乾燥することと、を備える、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0020】
また、コーティング液は、チタンアルコキシドを加水分解して得られた生成物を含むことが好ましい。また、加水分解は、コーティング液に純水を加え、室温で攪拌して行うことが好ましい。また、ニッケル化合物が、ニッケル水酸化物、及びニッケル酸化物の少なくとも一種であることが好ましい。また、リチウム化合物が、水酸化リチウム、酸化リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウムのうちの少なくとも一種であることが好ましい。また、ホウ素化合物が、ホウ酸(H3BO3)、酸化ホウ素(B2O3)あるいはメタホウ酸リチウム(LiBO2)のうちの少なくとも1種であることが好ましい。また、チタンアルコキシドが、チタンテトラエトキシド(Ti(OC2H5)4)、チタンテトラプロポキシド(Ti(OC3H7)4)、チタンテトラブトキシド(Ti(OC4H9)4)から選択される群からなる少なくとも一種であることが好ましい。また、焼成が、酸素雰囲気中、焼成温度の最高温度が700℃以上800℃以下で行われることが好ましい。
【0021】
また、リチウムニッケル複合酸化物を乾燥した後に、さらに、乾燥により得られた乾燥物を酸素雰囲気中にて150℃以上、500℃以下で熱処理すること、を備えることが好ましい。また、リチウムニッケル複合酸化物の粒子は、チウム(Li)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、元素M、及び、ホウ素を含み、ホウ素を除く、それぞれの物質量比が、Li:Ni:Co:M=s:(1-x-y):x:y(ただし、0.95≦s≦1.30、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.1、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、ホウ素の含有量が、前記リチウムニッケル複合酸化物全体に対して0.002質量%以上0.15質量%以下であり、被覆層中のチタンの含有量が、前記正極活物質全体に対して0.01質量%以上0.15%以下であることが好ましい。
【0022】
本発明の第3の態様によれば、正極と、負極と、非水系電解質とを備え、前記正極は、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の正極活物質を含む、リチウムイオン二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、リチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質において、より高い電池容量と、電池製造時の正極合剤ペーストのゲル化の抑制とを高いレベルで両立できる。また、本発明の正極活物質の製造方法によれば、上記の正極活物質を容易に工業的規模で生産することができ、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1(A)は、本実施形態に係る正極活物質の一例を示す図であり、
図1(B)は、リチウム金属複合酸化物の構造 の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る正極活物質の製造方法の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る正極活物質の製造方法の他の例を示す図である。
【
図4】
図4(A)及び
図3(B)は、混合工程に用いる材料の製造方法の一例を示す図である。
【
図5】
図5(A)及び
図5(B)は、付着工程に用いるコーティング液の製造方法の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、リチウム金属複合酸化物の製造方法の他の例を示す図である。
【
図7】
図7は、評価用のコイン型電池CBAの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。また、図面においては、各構成をわかりやすくするために、一部を強調して、あるいは一部を簡略化して表しており、実際の構造または形状、縮尺等が異なっている場合がある。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。
【0026】
1.非水系電解質二次電池用正極活物質
本発明者らは、正極活物質として用いられているリチウムニッケル金属複合酸化物に関して鋭意研究を重ねた結果、ホウ素をその粒子内部に含有するリチウムニッケル複合酸化物の粒子において、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面にチタン化合物を含む被覆層を形成することにより、正極合剤ペーストのゲル化が抑制され、かつ、より電池容量が向上した二次電池を得ることができるとの知見を得て、本発明を完成した。以下、本実施形態に係る正極活物質の構成について、詳細を説明する。
【0027】
図1(A)は、本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質100」ともいう。)を示す図である。
図1(A)に示すように、正極活物質100は、ホウ素を含有するリチウムニッケル複合酸化物の粒子10と、その粒子の表面の少なくとも一部に付着したチタン化合物を含む被覆層20とを有する。ホウ素は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子10の内部に含有される。
【0028】
また、
図1(B)は、上記のリチウムニッケル複合酸化物の粒子10の構造の一例を示す図である。リチウムニッケル複合酸化物の粒子10は、リチウムとニッケルとを含む酸化物の粒子であり、
図1(B)に示すように、複数の一次粒子1からなる二次粒子2を含む。正極活物質100中のリチウムニッケル複合酸化物の粒子10は、主に二次粒子2から構成されるが、二次粒子2以外に少量の単独の一次粒子1を含んでもよい。
【0029】
(リチウムニッケル複合酸化物の粒子の組成)
リチウムニッケル複合酸化物の粒子10は、リチウム以外の金属成分として、ニッケルのみを含んでもよいが、ニッケル以外の他の元素を含んでもよく、他の金属元素を含むことが好ましい。金属元素としては、Co、Mn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、Alなどが挙げられ、要求される特性に応じて、種々の公知の金属元素を含むことができる。例えば、サイクル特性の向上や充電時の熱安定性の向上の観点から、コバルトを含むことが好ましい。
【0030】
リチウムニッケル複合酸化物の粒子10は、層状の結晶構造を有することが好ましく、ニッケルの一部がコバルトを含む任意の金属で置換された結晶構造を有することが好ましい。また、リチウムニッケル複合酸化物の粒子10は、ホウ素を含有するが、少なくとも一部のホウ素は、固溶していることが好ましく、ニッケルの一部が、ホウ素で置換された結晶構造を有することが好ましい。
【0031】
リチウムニッケル複合酸化物の粒子10がリチウム以外の金属元素として、ニッケル、コバルトを有する場合、例えば、リチウム(Li)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及び、元素Mの原子数比が、Li:Ni:Co:M=s:(1-x-y):x:y(ただし、0.95≦s≦1.30、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.1、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されてもよい。なお、上記原子数比で表されるニッケル化合物は、上記元素M以外の元素を少量含んでもよい。
【0032】
(リチウム)
上記原子数比において、リチウムの含有量を示すsは、0.95以上1.30以下であることが好ましく、1.0以上1.10以下であることがより好ましい。リチウムの原子数比が0.95未満である場合、リチウムニッケル複合酸化物の結晶内でリチウムが占めるべき部位が他の元素で占められ、充放電容量が低下することがある。一方、原子数比が1.30を超える場合、リチウムニッケル複合酸化物と共に充放電に寄与しない余剰分のリチウム化合物が存在することになり、電池抵抗が増大したり、充放電容量が低下したりすることがある。
【0033】
(ニッケル)
上記原子数比において、ニッケルの含有量を示す(1-x-y)は、0.55以上0.95以下であることが好ましい。二次電池における電池容量の向上という観点からニッケルの含有量は、上記範囲内で多い方が好ましく、例えば、0.6以上でもよく、0.7以上でもよく、0.8以上であってもよく、0.85以上であってもよい。一方、ニッケルの含有量が多い場合、正極合剤ペーストのゲル化が生じやすいが、本実施形態に係る正極活物質100は、チタン化合物を含む被覆層20を有し、かつ、リチウムニッケル複合酸化物の粒子10の内部にホウ素を含有することにより、ニッケルの含有量が多い場合においても、充放電容量(電池容量)を向上させ、かつ、正極合剤ペーストのゲル化を十分に抑制することができる。
【0034】
(コバルト)
上記原子数比において、コバルトの含有量を示すxは、0.05以上、0.35以下であることが好ましい。コバルトの原子数比が上記範囲である場合、リチウムニッケル複合酸化物の有する高い充放電容量を維持しつつ、充放電を繰り返した時のサイクル特性や充電時の熱安定性を向上させることができる。
【0035】
(元素M)
上記原子数比において、元素Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、Alであり、元素Mの含有量を示すyは、0以上0.1以下であることが好ましい。なお、元素Mを含む場合(Mが0を超える場合)、添加する元素の種類に応じて、サイクル特性や熱安定性の向上、レート特性の向上、電池抵抗の低下など多岐にわたり特性を向上させることができる。一方、元素Mの原子数比が0.10を超える場合、リチウムニッケル複合酸化物の粒子10中のニッケルの含有割合が低下し、充放電容量が低下する傾向がある。また、元素MはAlを含んでもよく、上記原子数比において、Alの含有量をy1、Al以外の元素Mの含有量をy2とする場合、y1の値は、0.01以上0.1以下(ただし、y=y1+y2)である。
【0036】
(ホウ素)
リチウムニッケル複合酸化物の粒子10は、その粒子内部にホウ素(B)を含む。リチウムニッケル複合酸化物の粒子10において、ホウ素の少なくとも一部は、結晶構造中に固溶することが好ましい。結晶構造中への固溶や、ホウ素化合物の存在は、粉末X回折などにより確認することができる。例えば、リチウムニッケル複合酸化物がホウ素を含み、かつ、粉末X回折で異相としてホウ素化合物が検出されない場合、ホウ素は、固溶しているとする。なお、ホウ素が結晶構造中に固溶する場合、ニッケルの一部がホウ素で置換されると考えられる。なお、ホウ素の一部は、一次粒子1及び/又は二次粒子2の表面又は結晶粒界にホウ素を含む化合物として存在してもよいが、二次電池における充放電容量の向上の観点から、結晶構造中に固溶することが好ましい。
【0037】
ホウ素が、リチウムニッケル複合酸化物の粒子10の結晶構造中に固溶する場合、正極活物質100の充放電容量を向上させることができる。このメカニズムの詳細は不明であるが、例えば、次のように推測される。リチウムニッケル複合酸化物の粒子10は、上述したように、微細な単結晶から構成される一次粒子1が集合した二次粒子2を含む。例えば、単結晶同士、又は、一次粒子1同士の間(境界面)は、明確な空隙が存在しない場合でも結晶的には不連続面であるため、充放電時のリチウムイオンの移動の妨げとなる。この境界面の存在は、二次電池の電池抵抗、主として正極抵抗が大きくなり、充放電容量を減少させる要因の一つとなる。同じ大きさの二次粒子2で比較した場合、この境界面の総面積は単結晶および一次粒子1の大きさが大きいほど小さくなるといえる。ここで、遷移金属(ニッケル)の一部をホウ素で置換した場合、結晶成長が進みやすくなるため、単結晶および一次粒子が大きくなり、正極活物質100の充放電容量が向上すると考えられる。また、チタン化合物を含む被覆層20と、ニオブを含むリチウムニッケル複合酸化物の粒子10を組み合わせることにより、詳細は不明であるが、溶出Li量をより低減することができる。
【0038】
ホウ素の含有量は、上記効果を奏する範囲であれば特に限定されないが、正極活物質全体に対して0.002質量%以上0.15質量%以下であることが好ましく、0.005質量%以上0.1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上0.05質量%以下であってもよい。なお、ホウ素の含有量が少なすぎる場合、上記効果が十分に発現されないことがある。また、ホウ素の含有量が過大である場合、ニッケルのリチウム以外の金属に対する割合が低下し、正極活物質100中のニッケルの割合が低下するため、充放電容量が減少することがある。また、ホウ素の含有量が多い場合、一次粒子1及び/又は二次粒子2の表面又は結晶粒界にホウ素を含む化合物として存在する割合が高くなり、電池容量が低下することがある。
【0039】
また、リチウムニッケル複合酸化物の粒子10は、ホウ素を除く組成式として、一般式(1):LiaNi1-x-yCoxMyO2+α(ただし、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.10、0.95≦a≦1.10、-0.5<α<0.5、Mは、B、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されてもよい。上記一般式(1)中の各元素の好ましい範囲は、上記の原子数比と同様である。
【0040】
(被覆層)
正極活物質100は、上述のリチウムニッケル複合酸化物の粒子10の表面の少なくとも一部に付着したチタン化合物を含む被覆層20を有する。チタン化合物を含む被覆層20により、リチウムニッケル複合酸化物の粒子10の表面を被覆した場合、正極合剤スラリーのゲル化を非常に抑制することができる。なお、チタン化合物は、チタンを含む化合物であり、チタンを含む酸化物であってもよい。
【0041】
一般的に、正極合剤スラリーは、リチウムニッケル複合酸化物などの正極活物質、アセチレンブラックなどの導電助剤、PVDFなどの結着剤、その他添加物を、N-メチルピロリドンなどの溶媒と共に混練し調製される。この正極合剤スラリーを集電体(例、アルミ薄板)に塗布した後、乾燥し、必要に応じてプレス圧縮して、正極が製造される。正極の製造の際、正極合剤スラリーが経時変化と共に粘度が上昇し、集電体への塗布が困難になることがある。この理由の詳細は不明であるが、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子10中からリチウムイオンが溶媒中に溶出し、正極合剤スラリーのpHが上昇し、溶媒の一部が重合しゲル化するためと考えられている。
【0042】
一方、本実施形態の正極活物質100では、リチウムニッケル複合酸化物の粒子10の表面に、チタン化合物を含む被覆層20が存在することにより、正極合剤スラリー中へのリチウムイオンの溶出が抑制され、正極合剤スラリーのpH上昇が起こりにくくなり、ゲル化が抑制されると考えられる。また、被覆層20がチタン化合物を含む場合、リチウム溶出抑制効果が大きく、かつ、充放電反応時にリチウムイオンの伝導性を確保できるため、正極合剤スラリーのゲル化を抑制しつつ、高い充放電容量を維持することができる。
【0043】
チタン化合物を含む被覆層20は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子10と二次電池を構成する電解液との接触面(例、二次粒子2の表面、二次粒子2内部の空隙に接する一次粒子1の表面など)の少なくとも一部に付着することが好ましい。また、被覆層20中のチタン含有量は、正極活物質全体に対して、好ましくは0.01質量%以上0.15質量%以下であり、より好ましくは0.01質量%以上0.10質量%以下であり、0.01質量%以上0.05質量%以下であってよい。チタン含有量が0.01質量%未満である場合、被覆層20によるリチウムニッケル複合酸化物の粒子10の表面への被覆が十分でなく、一部露出したリチウムニッケル複合酸化物の粒子10の表面からリチウムイオンの溶出が起こり、十分なゲル化抑制効果が得られないことがある。一方、チタン含有量が0.15質量%を超える場合、被覆層20の厚さが厚くなり、ゲル化抑制効果は得られるものの、充放電時の正極抵抗が大きくなり、二次電池の電池抵抗が増加し、充放電容量が低下することがある。
【0044】
被覆層20に含まれるチタン化合物としてはチタンアルコキシドの加水分解生成物が好ましく、チタンを含む酸化物であってもよい。チタン化合物によるリチウムニッケル複合酸化物表面の被覆は、簡易かつ表面全体を均一に被覆できる方法で行うことが好ましい。後述するように、コーティング液として、チタンアルコキシドを含む溶液を用いる場合、チタンを含む化合物を二次粒子表面に均一かつまんべんなく行きわたらせることが容易である。また、チタンアルコキシドを含むコーティング液は、加水分解(
図5(A)のステップS32参照)や熱分解により固相のチタン化合物となる。コーティング液を被覆した後に乾燥(
図2、3のステップS40参照)、又は、熱処理(
図4のステップS50参照)することで、チタン化合物を含む被覆層20を付着したリチウムニッケル複合酸化物の粒子10を得ることができる。
【0045】
(溶出リチウム量)
正極活物質100を水に浸漬した際に溶出するリチウム量(溶出リチウム量)は、正極活物質100全体に対して、0.05質量%以上0.25質量%以下であり、好ましくは0.05質量%以上0.15質量%以下である。溶出リチウム量が上記範囲である場合、正極活物質100を用いた正極合剤ペーストのゲル化が非常に抑制され、かつ、十分な初期充放電量容量を有する。なお、溶出リチウム量は、正極活物質15gを75mlの純水に攪拌分散させた後、10分間静置し、上澄み液10mlを50mlの純水で希釈して、上澄み液中のリチウム量を中和滴定法により測定して、正極活物質全体に対する溶出リチウム量(質量%)を算出した。
【0046】
なお、正極活物質100の製造方法は、上記特性を有すれば特に限定されないが、後述する製造方法により、容易に製造することができる。
【0047】
2.正極活物質の製造方法
図2、3は、本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法(以下、「正極活物質の製造方法」ともいう。)の一例を示す図である。本実施形態の正極活物質の製造方法により、上述した正極活物質100を容易に生産性高く製造することができる。なお、本実施形態の製造方法は、上記の正極活物質100以外の正極活物質を製造してもよい。以下、本実施形態に係る正極活物質の製造方法について、説明する。
【0048】
[混合工程(ステップS10)]
まず、ニッケル化合物とホウ素化合物とリチウム化合物を混合する(ステップS10)。本工程により得られた混合物を焼成すること(ステップS20)により、リチウム金属複合酸化物を得ることができる。以下、本工程に用いられる材料について説明する。
【0049】
(ニッケル化合物)
ニッケル化合物は、ニッケルを含む化合物あれば、公知の化合物を用いることができる。ニッケル化合物は、ニッケル以外の他の元素を含んでもよく、金属元素含むことが好ましい。金属元素としては、Co、Mn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、Alなどが挙げられ、要求される特性に応じて、種々の金属元素を含むことができる。ニッケル化合物は、例えば、サイクル特性の向上や充電時の熱安定性の向上の観点から、Coを含むことが好ましい。
【0050】
ニッケル化合物は、上述したリチウムニッケル複合酸化物の粒子10のリチウムを除いた組成と同様の組成とすることができる。ニッケル化合物は、例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及び、元素Mの原子数比が、Ni:Co:M=(1-x-y):x:y(ただし、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.35、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されてもよい。なお、各金属の原子数比の好ましい範囲は、上述した範囲と同様であるため記載を省略する。
【0051】
また、ニッケル化合物は、ニッケルを含む水酸化物(ニッケル水酸化物)、酸化物(ニッケル酸化物)、炭酸塩(ニッケル炭酸塩)、硫酸塩、塩化物などであってもよく、これらの中でも、リチウム化合物との反応性、及び、不純物となるアニオンを含まないという観点から、好ましくはニッケル水酸化物、ニッケル酸化物、及び、ニッケル炭酸塩のうちの少なくとも一種であり、より好ましくはニッケル水酸化物、及び、ニッケル酸化物のうちの少なくとも一種である。例えば、ニッケル化合物として酸化ニッケルを用いた場合、得られる正極活物質の組成のばらつきを低減することができ、得られる正極活物質において、ホウ素化合物に由来するホウ素が、一次粒子中に固溶し、かつ、二次粒子全体において、均一に分布することができる。なお、ニッケル化合物は、1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
なお、ニッケル化合物の製造方法は、上記組成を有するものであれば、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
図4(A)及び
図4(B)は、混合工程(ステップS10)に用いる材料の製造方法の一例を示す図である。ニッケル化合物は、例えば、
図4(A)に示すように、Ni、及び、任意に、Co、及び元素Mを含む水溶液を用いて、晶析(ステップS1)によりニッケル水酸化物を製造した、ニッケル水酸化物が用いられてもよい。また、ニッケル化合物は、例えば、
図4(B)に示すように、晶析(ステップS1)後に得られたニッケル水酸化物を、熱処理(ステップS2)し、少なくとも一部をニッケル酸化物が用いられてもよい。晶析(ステップS1)により得られた前駆体(ニッケル水酸化物/ニッケル酸化物)を用いて正極活物質を製造した場合、粒子間で組成、物性等がより均一な正極活物質を得ることができる。
【0053】
水酸化ニッケルを熱処理(ステップS2)する場合、熱処理の温度は、例えば、105℃以上750℃以下とすることができ、すべての水酸化ニッケルを酸化ニッケルに変換する場合は、400℃以上とすることが好ましい。熱処理時間は、特に限定されないが、例えば、1時間以上であり、5時間以上15時間以下が好ましい。また、熱処理を行う雰囲気は、特に限定されず、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中で行ってもよい。
【0054】
(リチウム化合物)
リチウム化合物は、リチウムを含む化合物あれば、公知の化合物を用いることができる。リチウム化合物としては、ニッケル化合物との反応性、及び、不純物を低減するという観点から、水酸化リチウム、酸化リチウム、炭酸リチウムが好ましく、水酸化リチウムがより好ましい。
【0055】
例えば、酸化ニッケル(NiO)と水酸化リチウム(LiOH)を混合し、700℃以上800℃以下で反応させると下記の式(1)の反応によりリチウムニッケル複合酸化物が生成する。
式(1):NiO+LiOH+1/4O2→LiNiO2+1/2H2O
【0056】
なお、酸化ニッケルは、上述したように、コバルト、元素Mなどの他の金属元素を含んでもよく、後述するようにホウ素(B)を含んでもよい。また、混合工程(ステップS10)に用いる材料として、酸化ニッケルを用いる場合、後の焼成工程(ステップS20)において、ホウ素をリチウムニッケル複合酸化物中に容易に固溶させることができる。
【0057】
(ホウ素化合物)
ホウ素化合物は、ホウ素を含む化合物であり、公知の化合物を用いることができる。ホウ素化合物としては、入手の容易性、不純物の低減との観点から、ホウ酸(H3BO3)、酸化ホウ素(B2O3)、及び、メタホウ酸リチウム(LiBO2)のうち少なくとも一種が好ましく、ホウ酸、及び、酸化ホウ素のうち少なくとも一種がより好ましい。なお、ホウ素化合物は、1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0058】
(混合方法)
ニッケル化合物とリチウム化合物とニオブ化合物は、微粉が生じない程度に十分に混合することが好ましい。混合が不十分である場合、得られる正極活物質の個々の粒子間でLi/Meにばらつきが生じ、十分な電池特性を得ることができない場合がある。なお、混合には、一般的な混合機を使用することができる。混合機としては、例えば、シェーカーミキサー、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができる。
【0059】
[焼成工程(ステップS20)]
次いで、上記の混合工程(ステップS10)により得られた混合物を焼成する(ステップS20)。ホウ素化合物とともに、ニッケル化合物及びリチウム化合物を焼成することにより、ホウ素化合物を含むリチウムニッケル複合酸化物を得ることができる。また、ホウ素の少なくとも一部は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子中に固溶することが好ましい。
【0060】
焼成温度としては700℃以上800℃以下が好ましい。焼成温度が700℃未満である場合、焼成反応の速度が遅く、工業的に不利になることがある。また、焼成温度が800℃を超える場合、生成したリチウムニッケル複合酸化物が分解反応を起こし、リチウムニッケル複合酸化物の収率が低下するとともに、過剰な結晶成長を起こし、電池特性、特にサイクル特性を低下させることがある。
【0061】
焼成時間は、焼成反応が十分行われる範囲であれば特に限定されないが、例えば、3時間以上20時間以下、好ましくは5時間以上10時間である。また、焼成時の雰囲気は、酸素雰囲気が好ましく、酸素濃度が100容量%の雰囲気であってもよい。
【0062】
[付着工程(ステップS30)]
次いで、焼成により得られたリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に、チタンアルコキシドを溶媒に溶解させて得られたコーティング液を付着させる(付着工程:ステップS30)。コーティング液の製造方法、及び、付着方法は、特に限定されず公知の方法を用いることができるが、以下の方法で行うことが好ましい。
【0063】
(コーティング液)
コーティング液は、チタンアルコキシドと溶媒とを混合して得られる(
図2、3、ステップS31)。チタンアルコキシドとしては、チタンテトラエトキシド(Ti(OC
2H
5)
4)、チタンテトラプロポキシド(Ti(OC
3H
7)
4)、チタンテトラブトキシド(Ti(OC
4H
9)
4)から選択される少なくとも1種が好ましい。なお、チタンアルコキシドは、1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。これらのチタンアルコキシドを用いた場合、チタンおよび酸素、炭素、水素のみから成っているため、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面にチタン化合物を含む被膜(被覆層)を形成した際に、二次電池における充放電反応の阻害要因となるアニオンの形成が抑制され、また、各種有機溶媒に可溶であるため、コーティング液の調製が容易である。
【0064】
コーティング液を調製するための溶媒としては、特に限定されず、チタンアルコキシドを溶解することが可能な公知の溶媒を用いることができるが、調製の容易性等の観点から、炭素数が4以下の低級アルコールが好ましい。低級アルコールとしては、例えば、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、テトラブチルアルコールなどが挙げられる。低級アルコールを用いた場合、アルコキシドの溶解度が高く、粘度が低いため、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に容易に塗付できる。なお、高級アルコールを用いた場合、粘性が高く噴霧しにくいことがある。
【0065】
また、アセチルアセトンなどのアルコール以外の有機溶媒を加えることで溶液の粘度調整を行い、噴霧に適したチタン化合物溶液とすることができる。なお、アセチルアセトンは、チタンアルコキシドの有するアルコキシ基の一部をキレート化(修飾)して、加水分解の速度を調整することができる。
【0066】
図5(A)及び
図5(B)は、コーティング液を調製する方法の一例を示した図である。
図5(A)に示すように、溶媒とチタンアルコキシドを混合(ステップS31)した後、チタンアルコキシドの少なくとも一部を、例えば水を混合(添加)して、加水分解(ステップS32)させてもよい。チタンアルコキシドの少なくとも一部を加水分解する場合、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面とチタン化合物との結合が強くなり、被覆層をより確実に形成させることができる。これはチタンアルコキシドの加水分解により生成する重合物がリチウムニッケル複合酸化物表面に被膜(例、酸化チタン)を形成しやすく、また、加水分解物が持つ酸素-水素結合(-OH)からリチウムニッケル複合酸化物表面の酸素との結合が出来やすいためと考えられる。
【0067】
水の混合量は、添加したチタンアルコキシド100質量部に対して、好ましくは10質量部以上50重量部以下である。また、例えば、水の混合量は、チタンアルコキシドに含まれるアルコキシド基に対して、0.5モル倍以上2モル倍以下であってもよく、0.8モル倍以上1.5モル倍以下の範囲で含んでもよく、十分な加水分解を行うという観点から、1.0倍以上であってもよい。
【0068】
なお、加水分解(ステップS32)後に得られた溶液は、コーティング液としてそのまま用いてもよく、コーティングに適した濃度となるように、さらに溶媒で希釈して用いてもよい。また、コーティング液中、チタンアルコキシドの添加量(混合量)は、例えば、コーティング溶液全体に対して、0.2質量%以上10質量%以下であってもよく、0.5質量%以上5質量%以下であってもよい。
【0069】
また、
図5(B)に示すように、溶媒とグリコール類とを混合して、コーティング液を希釈してもよい(ステップS33)。グリコール類は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ヘキシレングリコールから選択される1種類以上を用いることが好ましく、これらの中でも、低価格で取り扱いも容易な点から、水または低級アルコールに易溶なポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコールがより好ましい。溶媒とともに、水溶性グリコール類を微量添加して混合(希釈)する(ステップS33)ことにより、被覆時の膜均一性の改善や乾燥時に起こる膜割れ、剥がれの発生を回避することができる。グリコール類の添加量は、例えば、チタンアルコキシド100質量部に対して2質量部以上20質量部以下添加する。
【0070】
(付着方法)
リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に、上記のコーティング液を付着させる方法としては、粒子表面に、コーティング液が均一に付着する方法であれば、公知の方法を用いることができ、例えば、リチウムニッケル複合酸化物とコーティング液とを混合して、付着させてもよい。また、コーティング液をより均一に付着させるという観点から、リチウムニッケル複合酸化物の粒子を攪拌混合しつつ、チタンアルコキシド溶液を噴霧して液滴状にして、粒子表面に付着させる方法が好ましい。
【0071】
コーティング液の混合量(添加量)は、付着させるチタン化合物の量と、添加するコーティング液中のチタン化合物(チタンアルコキシド/チタンアルコキシドの加水分解物)の濃度によって、適宜調整できるが、好ましくは、リチウムニッケル複合酸化物全体に対して5質量%以上25質量%以下である。コーティング液の混合量が上記範囲を超える場合、混合物がペースト状になりその後の取り扱いが著しく困難になることがある。
【0072】
[乾燥工程(ステップS40)]
次いで、コーティング液が付着した上記リチウムニッケル複合酸化物を乾燥する(ステップS40)。乾燥(ステップS40)により、不要な溶媒成分を除去することができる。また、乾燥工程(ステップS40)中、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面にコーティング液中のチタンアルコキシド/チタンアルコキシドの加水分解物が吸着結合する。なお、乾燥工程(ステップS40)は、上記の付着工程(ステップS30)と同時に行ってもよく、別々に行ってもよい。
【0073】
乾燥温度は、特に限定されないが、例えば、20℃以上200℃以下であってもよく、50℃以上200℃以下であってもよい。溶媒として、アルコールを用いた場合、乾燥温度は、50℃以上150℃未満であってもよい。また、加水分解(ステップS32)を行った後、希釈(ステップS34)の溶媒として、水などの水系溶媒を用いた場合、乾燥温度は、100℃以上200℃以下であってもよい。
【0074】
また、乾燥工程(ステップS40)の後に熱処理工程(ステップS50)を行う場合、乾燥温度は、例えば、20℃以上150℃未満であることが好ましく、50℃以上150℃未満であってもよい。また、乾燥温度は、例えば、室温であってもよい。
【0075】
また、乾燥時間は、溶媒が蒸発して、粒子間の粘着が発生しない程度とすれば、特に限定されず、例えば1時間以上5時間以下である。乾燥雰囲気は、特に限定されないが、取り扱いの容易性やコストの観点から、酸性雰囲気(例えば、大気雰囲気)としてもよい。
【0076】
[熱処理工程(ステップS50)]
図3に示すように、乾燥工程(ステップS40)後、得られた乾燥物を熱処理工程(ステップS50)を行ってもよい。熱処理工程(ステップS50)を行うことにより、詳細は不明であるが、正極合剤ペーストのゲル化の原因の一つとなりうる溶出Li量を低減し、かつ、電池容量(例、初期放電容量)を向上させることができる。
【0077】
また、熱処理工程(ステップS50)により、リチウムニッケル複合酸化物の表面に付着したコーティング液中に残留した有機成分や水分を低減することができ、得られるチタン化合物を含む被覆層(被膜)の緻密性や結晶性を高めることができる。また、熱処理(ステップS50)によりチタンアルコキシド及び/又はチタンアルコキシドの加水分解物の一部が、水酸化物あるいは酸化物としてリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に強く結合して、チタン化合物を含む被覆層(被膜)がはがれにくくなり、かつ、粒子表面により均一に存在することができると考えられる。
【0078】
熱処理温度は、150℃以上500℃以下であることが好ましく、250℃以上400℃以下であることがより好ましい。熱処理温度が150℃より低い場合、被覆層(被膜)中に水分や有機物が残留して電池特性が低下することがある。一方、熱処理温度が500℃を超える場合、リチウムニッケル複合酸化物の焼結が進行しすぎて、電池特性が低下することがある。
【0079】
熱処理時間は、例えば、0.5時間以上10時間以下であり、好ましくは1時間以上5時間以下である。熱処理時間が上記範囲である場合、正極活物質表面への固着と不要な有機溶媒の除去を十分に効率よく行うことができる。
【0080】
また、熱処理の雰囲気は、特に限定されず、酸素雰囲気、不活性雰囲気、真空雰囲気から選択してもよく、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の劣化を防ぐという観点から、炭酸ガスや水分を除去した雰囲気ガスを用いることが好ましい。例えば、雰囲気ガスとしては、炭酸ガスや水分を除去した乾燥空気や、酸素を用いることが好ましい。なお、雰囲気ガスとして窒素やアルゴンなどの不活性ガスを用いると、リチウムニッケル複合酸化物の粒子が還元されて電池特性が低下する場合がある。また、熱処理は、大気雰囲気下で行ってもよく、真空雰囲気下で行ってもよい。
【0081】
なお、
図6に示すように、ホウ素を含むリチウムニッケル複合酸化物は、晶析(ステップS1’)の際にホウ素を含む化合物(ホウ素を含む塩)として添加してもよい。これにより、得られるニッケル化合物中にホウ素を均一に含むことができる。次いで、ホウ素を含むニッケル化合物とリチウム化合物とを混合し(ステップS10’)、焼成すること(ステップS20)により、ホウ素を含有するリチウムニッケル複合酸化物を得ることができる。なお、上述した混合工程(ステップS10)において、ホウ素化合物を混合した場合、得られるリチウムニッケル複合酸化物において、容易に狙ったホウ素添加量に調整することができる。なお、
図6は、熱処理工程(ステップS50)を含む例を示しているが、熱処理工程(ステップS50)を含まなくてもよく、乾燥工程(ステップS40)後に得られた乾燥物(リチウムニッケル複合酸化物)を正極活物質として用いてもよい。
【0082】
3.非水系電解質二次電池
上述した本実施形態の製造方法で得られる正極活物質100は、非水系電解質二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)の正極に好適に用いることができる。二次電池は、例えば、正極、負極および非水系電解液、セパレータを備える。また、二次電池は、例えば、正極、負極および固体電解液を備えてもよい。また、二次電池は、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成されてもよい。
【0083】
以下、正極、負極および非水系電解液、セパレータを備える二次電池について説明する。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本実施形態の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0084】
(a)正極
上記の正極活物質100を用いて、例えば、以下のようにして、非水系電解質二次電池の正極を作製することができる。
【0085】
まず、粉末状の正極活物質100、導電剤、結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合剤ペーストを作製する。本実施形態に係る正極活物質100を用いて作製された正極合剤ペーストは、ゲル化の発生が非常に抑制される。
【0086】
その正極合剤ペースト中のそれぞれの混合比は、特に限定されず、例えば、溶剤を除いた正極合剤の固形分の全質量を100質量部とした場合、正極活物質100を60~95質量部とし、導電剤を1~20質量部とし、結着剤を1~20質量部とすることが好ましい。
【0087】
得られた正極合剤ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレス等により加圧してもよい。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等をして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0088】
正極の作製にあたって、導電剤としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0089】
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
【0090】
なお、必要に応じ、正極活物質100、導電剤、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合剤に添加する。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合剤には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。
【0091】
(b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金等、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合剤を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0092】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDF等の含フッ素樹脂等を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0093】
(c)セパレータ
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0094】
(d)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0095】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0096】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2等、およびそれらの複合塩を用いることができる。
【0097】
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤等を含んでいてもよい。
【0098】
(e)二次電池の形状、構成
二次電池の形状は、円筒型、積層型等、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0099】
(f)特性
本実施形態に係る製造方法で得られた正極活物質100を用いた非水系電解質二次電池は、高容量かつ低い正極抵抗を有することができる。特に好ましい形態で得られた正極活物質100を用いた非水系電解質二次電池は、例えば、2032型コイン型電池の正極に用いた場合、190mAh/g以上、好ましくは200mAh/g以上の高い初期放電容を得ることができる。
【実施例】
【0100】
次に、本発明の一実施形態について、実施例により詳しく説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における正極活物質の分析方法及び各種評価方法は、以下の通りである。
【0101】
[粒子全体組成]
正極活物質を硝酸で溶解した後、ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPS-8100)で測定した。
【0102】
[化合物種同定]
正極活物質をX線回折装置(PANALYTICAL社製、X‘Pert、PROMRD)により評価した。
【0103】
[溶出リチウム量の測定]
正極活物質15gを75mlの純水に攪拌分散させた後、10分間静置させ、上澄み液10mlを50mlの純水で希釈して中和滴定法により上澄み液中のリチウム分(アルカリ分)を定量し、溶出リチウム量を測定した。
【0104】
[電池特性の評価]
(コイン型電池の構造)
正極活物質の容量の評価には、
図7に示す2032型のコイン型電池CBAを使用した。コイン型電池CBAは、ケースと、ケース内に収容された電極と、ウェーブワッシャーWWから構成されている。
【0105】
ケースは、中空かつ一端が開口された正極缶PCと、この正極缶PCの開口部に配置される負極缶NCとを有しており、負極缶NCを正極缶PCの開口部に配置すると、負極缶NCと正極缶PCとの間に電極を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0106】
また、電極は、正極PE、セパレータSEおよび負極NEとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極PEが正極缶PCの内面に接触し、負極NEが負極缶NCの内面に接触するようにケースに収容されている。なお、ケースはガスケットGAを備えており、このガスケットGAによって、正極缶PCと負極缶NCとの間が非接触の状態を維持するように固定されている。
【0107】
また、ガスケットGAは、正極缶PCと負極缶NCとの隙間を密封してケースの内部と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。コイン型電池CBAは、以下のようにして作製した。
【0108】
(コイン型電池の作製)
初めに、得られた正極活物質20.0gと、アセチレンブラック2.35gと、ポリフッ化ビニリデン1.18gをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させたスラリーをAl箔上に1cm2あたり正極活物質が5.0mg存在するように塗布したのち、120℃で30分間、大気中で乾燥し、NMPを除去した。正極活物質が塗布されたAl箔を幅66mmの短冊状に切り取り、荷重1.2tでロールプレスし正極PEを作製した。正極PEを直径13mmの円形に打ち抜き、真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
次に、正極PEを用いて、コイン型電池CBAを、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。この際、負極NEには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれたリチウム箔を用いた。
【0109】
初期放電容量は、コイン型電池CBAを製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの放電容量を測定し、初期放電容量とした。
【0110】
[正極合剤ペーストの粘度安定性の評価]
正極合剤ペーストは、非水系電解質二次電池用正極活物質20.0g、導電助剤としてカーボン粉末2.35g、結着剤としてKFポリマーL#7208(固形分8質量%)14.7g、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)5.1gを自転公転ミキサーを用いて15分間混練して作製した。正極合剤ペーストの安定性は、作製した正極合剤ペーストを、ポリプロピレン製の密閉容器に入れ、室温で7日間保管した後、観察して評価した。目視確認及びガラス棒で粘度を確認し、流動性を維持しゲル化しなかったものを○、ガラス棒でかき混ぜようとしても固化してかき混ぜることが出来ず、ゲル化したものを×として評価した。
【0111】
(実施例1)
[リチウムニッケル複合酸化物]
公知技術で作製した平均粒子径13.0μmのニッケル複合酸化物(組成式:Ni0.87Co0.09Al0.04O2)3000gに、106μm篩を用いて106μm以下の部分を分取したホウ酸粉末(H3BO3、和光純薬製)7.46g添加した後、水酸化リチウム(LiOH)1005.15gを加えて混合した。混合は、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて行った。なお、上記ニッケル複合酸化物は、晶析法を用いて作製されたニッケル複合水酸化物を熱処理して得た。得られた混合物を酸素気流中(酸素:100容量%)にて750℃で8時間焼成し、冷却した後にハンマーミルで解砕して焼成粉末(リチウムニッケル複合酸化物)を得た。
【0112】
得られた焼成粉末は、ICP発光分光分析によりホウ素(B)を0.03質量%、リチウム(Li)を7.39質量%、ニッケル(Ni)を52.3質量%、コバルト(Co)を5.75質量%、アルミニウム(Al)を1.07質量%含有していることが確認され、Ni:Co:Alの物質量比は0.87:0.09:0.04であり、Ni、Co、Alの物質量に対するリチウムの物質量比は1.03であった。また、X線回折ではニッケル酸リチウム(LiNiO2)に相当するピークのみが認められ、ホウ素化合物に類するピークは認められず、添加したホウ素はリチウムニッケル複合酸化物結晶中に固溶していることが確認された。
【0113】
[チタン化合物の被膜形成用溶液]
イソプロピルアルコール(和光純薬製)50mLにチタンテトラブトキシド(Ti(OC4H9)4、東京化成工業製)1.8g、アセチルアセトン(和光純薬製)0.9gを加えてビーカー中で混合した後、湯煎にて60℃に加熱しつつ30分間撹拌した。これを放冷し室温まで冷却した後、イソプロピルアルコール(同)75mL、純水0.54gを加えて室温で15分間撹拌し、チタンテトラブトキシドの加水分解物を含有するチタン化合物の被膜形成用溶液を得た。
【0114】
[チタン化合物の被覆]
転動流動コーティング装置(パウレック社製、MP-01)中に前記ホウ素含有リチウムニッケル複合酸化物600gを装入し、混合しつつ前記チタン化合物被膜形成用溶液を噴霧し、チタン化合物を被覆させた。噴霧終了後、110℃で4時間乾燥させ、チタン化合物で被覆されたホウ素含有リチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として得た。
【0115】
得られた正極活物質は、ICP発光分光分析によりチタンを0.04質量%含有していることが確認された。また、エポキシ樹脂に埋め込んだのちにクロスポリッシャー加工して粒子断面を露出させたサンプルを調製し、エネルギー分散型X線分析(EDS)でチタンの分布状態を確認したところ、チタンは粒子表面近傍のみに検出され、得られた正極活物質は、微量のホウ素を含有するリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に、チタンテトラブトキシドおよびその加水分解物を含有する被膜が形成されたものであることが確認された。
【0116】
前記正極活物質を用いて、前述の方法で評価用コイン型電池を作製し、前述の評価方法で初期放電容量を測定したところ、202mAh/gを示した。また、前述の方法で正極合剤ペーストの安定性評価を行ったところ、保管後の正極合剤ペーストは流動性を維持しており、安定性評価結果は〇であった。評価結果を表1に示す。
【0117】
(実施例2)
ホウ酸粉末の添加量を調整して、得られた焼成粉末(リチウムニッケル複合酸化物)中のホウ素(B)含有量を0.10質量%とした以外は、実施例1と同様の条件で正極活物質の製造を行い、評価した。評価結果を表1に示す。
【0118】
(実施例3)
チタン化合物の被覆量を調整して、得られた正極活物質中のチタンの含有量を0.10質量%とした以外は、実施例1と同様の条件で正極活物質の製造を行い、評価した。評価結果を表1に示す。
【0119】
(比較例1)
実施例1と同様に、公知技術で作成した、平均粒子径13.0μmのニッケル複合酸化物(組成式:Ni0.87Co0.09Al0.04O2)3000gに、水酸化リチウム(LiOH)1005.15gを加えて混合した。混合は、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて行った。得られた混合物を酸素気流中(酸素:100容量%)にて750℃で8時間焼成し、冷却した後にハンマーミルで解砕して焼成粉末を得た。
【0120】
得られた焼成粉末は、ICP発光分光分析によりリチウム(Li)を7.40質量%、ニッケル(Ni)を52.3質量%、コバルト(Co)を5.76質量%、アルミニウム(Al)を1.08質量%含有していることが確認され、Ni:Co:Alの物質量比は0.87:0.09:0.04であり、Ni、Co、Alの物質量に対するリチウムの物質量比は1.03であった。また、X線回折ではニッケル酸リチウム(LiNiO2)に相当するピークのみが認められ、上記組成のリチウムニッケル複合酸化物であることが確認された。
【0121】
前記リチウムニッケル複合酸化物を用いて、実施例1と同様に電池特性評価および正極合剤ペースト安定性評価を行った。初期放電容量は201mAh/gであり、保管後の正極合剤ペーストはガラス棒で変形させることが出来ないほどゲル化しており安定性評価結果は×であった。評価結果を表1に示す。
【0122】
(比較例2)
実施例1と同様に作成した、ホウ素含有リチウムニッケル複合酸化物に、チタン化合物被覆を行わず、粒子表面にチタン化合物被膜が形成されていない正極活物質として、実施例1と同様に電池特性評価および正極合剤ペースト安定性評価を行った。初期放電容量は204mAh/gであり、保管後の正極合剤ペーストはガラス棒で変形させることが出来ないほどゲル化しており安定性評価結果は×であった。評価結果を表1に示す。
【0123】
(比較例3)
比較例1で合成した、ホウ素を含有しないリチウムニッケル複合酸化物(焼成粉末)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、チタン化合物で被覆されたホウ素を含有しないリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として得た。
【0124】
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質は、ICP発光分光分析によりチタンを0.04質量%含有していることが確認された。また、エポキシ樹脂に埋め込んだのちにクロスポリッシャー加工して粒子断面を露出させたサンプルを調製し、エネルギー分散型X線分析(EDS)でチタンの分布状態を確認したところ、チタンは粒子表面近傍のみに検出され、得られた正極活物質は、ホウ素を含有しないリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に、チタンテトラブトキシドおよびその加水分解物を含有する被膜が形成されたものであることが確認された。
【0125】
前記正極活物質を用いて、前述の方法で評価用コイン型電池を作製し、前述の評価方法で初期放電容量を測定したところ、195mAh/gを示した。また、前述の方法で正極合剤ペーストの安定性評価を行ったところ、保管後の正極合剤ペーストは流動性を維持しており、安定性評価結果は〇であった。評価結果を表1に示す。
【0126】
(比較例4)
イソプロピルアルコール(和光純薬製)125mLにチタンテトラブトキシド(Ti(OC4H9)4、東京化成工業製)1.8gを加えてビーカー中で混合した後、湯煎にて60℃に加熱しつつ30分間撹拌して、チタンテトラブトキシドの加水分解物を含有するチタン化合物被膜形成用溶液を得た以外は、実施例1と同様の条件で正極活物質の製造を行った。得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のチタン含有量をICP発光分光分析により分析したところ、狙いのチタン含有量よりも含有量が大幅に低く、正極活物質の評価は行わなかった。
【0127】
実施例、比較例で得られた正極活物質を用いて、初期放電容量を測定した結果、および正極合剤ペーストの安定性を評価した結果を表1にまとめる。
【0128】
【0129】
(評価結果1)
実施例のホウ素を含有するリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面にチタンテトラブトキシドの加水分解物を主成分とする被膜を形成した正極活物質は、正極合剤ペーストのゲル化を抑制でき、かつ、200mAh/gを超える高い初期放電容量が得られた。一方、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に被膜が形成されていない比較例1、2の正極活物質は、どちらも正極合剤ペーストのゲル化を抑制できなかった。また、ホウ素を含有しないリチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に被膜を形成した比較例3の正極活物質は、正極合剤ペーストのゲル化は抑制できるものの、実施例1比べて初期放電容量の低下が見られた。また、チタン化合物の加水分解を行わなかった比較例4では、被覆層の形成が不十分であった。
【0130】
(実施例4)
[熱処理]
実施例1で得られた正極活物質を、アルミナボートに装入し、管状炉中で酸素気流中(酸素:100容量%)にて300℃で1時間熱処理した。得られた正極活物質は、ICP発光分光分析によりチタンを0.04質量%含有していることが確認された。また、エネルギー分散型X線分析(EDS)では、粒子表面でチタニウム(Ti)と酸素(O)が検出され、ホウ素を含有するリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面にチタニウムの酸化物を主成分とする被膜が形成されていることが確認された。さらに、エポキシ樹脂に埋め込んだのちにクロスポリッシャー加工して粒子断面を露出させたサンプルを調製し、エネルギー分散型X線分析(EDS)でチタンの分布状態を確認したところ、チタンは粒子表面近傍のみに検出され、得られた正極活物質は、微量のホウ素を含有するリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に、チタンテトラブトキシドおよびその加水分解物を含有する被膜が形成されたものであることが確認された。
【0131】
前記熱処理した正極活物質を用いて、前述の方法で評価用コイン型電池を作製し、前述の評価方法で初期放電容量を測定したところ、205mAh/gを示した。また、前述の方法で正極合剤ペーストの安定性評価を行ったところ、保管後の正極合剤ペーストは流動性を維持しており、安定性評価結果は〇であった。前述の方法で溶出リチウム量を測定したところ、正極活物質全体に対して0.14質量%であった。評価結果を表2に示す。
【0132】
(実施例5)
熱処理の条件を、酸素気流中(酸素:100容量%)にて400℃で1時間熱処理とした以外は実施例4と同様の条件で正極活物質を得た。得られた正極活物質の電池特性評価並びに正極合剤ペースト安定性評価、溶出リチウム量測定を行った。評価結果を表2に示す。
【0133】
(実施例6)
チタン化合物の被覆量を調整して、得られた正極活物質中のチタンの含有量を0.10質量%とした以外は、実施例4と同様の条件で正極活物質を得た。得られた正極活物質の電池特性評価および正極合剤ペースト安定性評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0134】
(比較例5)
比較例1で合成した、ホウ素を含有しないリチウムニッケル複合酸化物(焼成粉末)を用いた以外は、実施例4と同様の方法で、チタン化合物で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として得た。得られた正極活物質電池特性評価および正極合剤ペースト安定性評価を行った。上記の比較例1、2の評価結果とともに、比較例5の評価結果を表2に示す。
【0135】
【0136】
(評価結果2)
実施例1の正極活物質に、さらに熱処理を行って得られた実施例4~6の正極活物質は、実施例1と比較してより溶出Li量が低減され、かつ、ホウ素のみを含有する比較例2の正極活物質と比較して、同程度、又は、より向上した初期放電容量を有することが示された。一方、ホウ素を含有しないリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に被膜を形成した比較例3の正極活物質に、さらに熱処理を行って得られた比較例5の正極活物質は、正極合剤ペーストのゲル化は抑制できるものの、実施例4~6の正極活物質よりも溶出Li量が多く、初期放電容量も低かった。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明に係る非水系電解質二次電池用正極活物質は、電池の正極材に用いられた場合に電池の容量が増加し、かつ、正極合剤ペーストのゲル化が抑制でき、特にハイブリッド自動車や電気自動車用電源として使用されるリチウムイオン電池の正極活物質として好適である。
【符号の説明】
【0138】
100…正極活物質
10…リチウムニッケル複合酸化物の粒子
1…一次粒子
2…二次粒子
20…被覆層
CBA…コイン型電池
CA…ケース
PE…正極
NE…負極
GA…ガスケット
PE…正極
NE…負極
SE…セパレータ