(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】断線検知方法および断線検知装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/54 20200101AFI20240220BHJP
G01R 31/58 20200101ALI20240220BHJP
【FI】
G01R31/54
G01R31/58
(21)【出願番号】P 2021152403
(22)【出願日】2021-09-17
【審査請求日】2023-08-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 文乃
(72)【発明者】
【氏名】深作 泉
(72)【発明者】
【氏名】南畝 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】今井 規之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 高宏
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-068171(JP,A)
【文献】特開2014-233763(JP,A)
【文献】特開2018-115992(JP,A)
【文献】特開平02-198792(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0183544(US,A1)
【文献】米国特許第06230109(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/50
G01R 31/54
G01R 31/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体を有するケーブルの前記素線の断線を検知する方法であって、
前記ケーブルをU字状に屈曲した状態として、前記ケーブルの一端部を当該一端部のケーブル長手方向に沿って所定のストロークで周期的にスライド移動させるU字屈曲動作を行い、
前記U字屈曲動作により時系列的に変化する前記導体の抵抗値を測定し、前記U字屈曲動作の周期に対応する周波数を動作周波数として、前記導体の抵抗値の時系列的な変化に含まれる前記動作周波数の抵抗値変動成分
及びその高次周波数の抵抗値変動成分を抽出し、
抽出した前記動作周波数の抵抗値変動成分
及びその高次周波数の抵抗値変動成分の大きさに基づいて、前記素線の断線を検知する、
断線検知方法。
【請求項2】
前記U字屈曲動作の周期以上の時間間隔で区切られた測定区間毎に、前記導体の抵抗値の時系列的な変化における抵抗値の最大値、最小値、を求め、抵抗値の最大値と最小値との差を基に、前記導体の断線進行状態を推定する、
請求項
1に記載の断線検知方法。
【請求項3】
前記測定区間毎に、前記導体の抵抗値の時系列的な変化における平均値を求め、下式
規格化抵抗値変動幅=(最大値-最小値)/平均値
により得られた規格化抵抗値変動幅を基に、前記導体の断線進行状態を推定する、
請求項
2に記載の断線検知方法。
【請求項4】
複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体を有するケーブルの前記素線の断線を検知する装置であって、
前記ケーブルをU字状に屈曲した状態として、前記ケーブルの一端部を当該一端部のケーブル長手方向に沿って所定のストロークで周期的にスライド移動させるU字屈曲動作を行うU字屈曲機構と、
前記U字屈曲動作により時系列的に変化する前記導体の抵抗値を測定し、前記U字屈曲動作の周期に対応する周波数を動作周波数として、前記導体の抵抗値の時系列的な変化に含まれる前記動作周波数の抵抗値変動成分
及びその高次周波数の抵抗値変動成分を抽出する測定器と、を備え、
抽出した前記動作周波数の抵抗値変動成分
及びその高次周波数の抵抗値変動成分の大きさに基づいて、前記素線の断線を検知する、
断線検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、U字屈曲されるケーブルにおいて導体の断線を検知する断線検知方法および断線検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体を有するワイヤケーブルを対象として、屈曲に起因した導体の断線の予兆を検知する方法が示される。具体的には、当該方法では、ワイヤケーブルを、電流を流した状態で一方向に向けて周期的に屈曲伸長させ、この屈曲周期に同期して変化する電流成分を検知している。すなわち、当該方法では、一部の断線箇所が屈曲周期に同期して接触と分離とを繰り返している状態が検知される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
U字屈曲されるケーブルの導体における断線の発生は、一般的に、ケーブル内の導体の電気抵抗を測定することで検知されている。導体に含まれる素線の一部に断線が発生すると、導体の抵抗値が増大するため、例えば、断線が発生していない初期状態における導体の抵抗値をあらかじめ測定しておくことで、抵抗値の初期状態からの抵抗値の増加率に基づいて断線の発生を検知することができる。
【0005】
しかしながら、導体に含まれる素線の極一部で断線が発生した場合、すなわち素線の断線本数が少ない場合には、抵抗値の増加率は極めて微小となる。このため、実用上、導体における素線の断線本数の割合が少なくとも50%以上といったレベルに達しない限り、抵抗値の増加率に基づく明確な断線検知は困難となり得る。その結果、断線が発生した直後となる初期の段階で断線を検知することは容易でなく、断線の発生を高感度で検知できないおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、導体に断線が発生したことを高感度で検知可能な断線検知方法および断線検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体を有するケーブルの前記素線の断線を検知する方法であって、前記ケーブルをU字状に屈曲した状態として、前記ケーブルの一端部を当該一端部のケーブル長手方向に沿って所定のストロークで周期的にスライド移動させるU字屈曲動作を行い、前記U字屈曲動作により時系列的に変化する前記導体の抵抗値を測定し、前記U字屈曲動作の周期に対応する周波数を動作周波数として、前記導体の抵抗値の時系列的な変化に含まれる前記動作周波数の抵抗値変動成分を抽出し、抽出した前記動作周波数の抵抗値変動成分の大きさに基づいて、前記素線の断線を検知する、断線検知方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体を有するケーブルの前記素線の断線を検知する装置であって、前記ケーブルをU字状に屈曲した状態として、前記ケーブルの一端部を当該一端部のケーブル長手方向に沿って所定のストロークで周期的にスライド移動させるU字屈曲動作を行うU字屈曲機構と、前記U字屈曲動作により時系列的に変化する前記導体の抵抗値を測定し、前記U字屈曲動作の周期に対応する周波数を動作周波数として、前記導体の抵抗値の時系列的な変化に含まれる前記動作周波数の抵抗値変動成分を抽出する測定器と、を備え、抽出した前記動作周波数の抵抗値変動成分の大きさに基づいて、前記素線の断線を検知する、断線検知装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導体に断線が発生したことを高感度で検知可能な断線検知方法および断線検知装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)は、本発明の一実施の形態に係る断線検知装置を示す概略図であり、(b)は、(a)におけるU字屈曲機構の動作例を説明する模式図である。
【
図2】ケーブルの概略的な構成例を示す断面図である。
【
図3】ケーブルに断線が生じた場合の抵抗値を説明するための模式図である。
【
図4】ケーブル抵抗値の測定原理を説明する模式図である。
【
図5】測定器の概略的な構成例および動作例を示す図である。
【
図6】
図4の測定原理を用いることによる効果の一例を説明する図である。
【
図7】ケーブルの断線検知を行った結果の一例を示す図である。
【
図8】本発明の一実施の形態に係る断線検知方法において、処理内容の一例を示すフロー図である。
【
図9】(a)は、導体の抵抗値の時系列的な変化において、所定の時間間隔で区切られた測定区間毎に、抵抗値の最大値、最小値、及び平均値を算出したグラフであり、(b)は(a)から求めた規格化抵抗値のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0012】
(断線検知装置)
図1は、
図1(a)は、本実施の形態に係る断線検知装置の構成例を示す概略図であり、
図1(b)は、
図1(a)におけるU字屈曲機構の動作例を説明する模式図である。
図2は、断線検知の対象となるケーブルの概略的な構成例を示す断面図である。
【0013】
図2に示すケーブル10は、5本の電線11と糸状の介在12とを撚り合わせたケーブルコア13の周囲に押さえ巻きテープ14をらせん状に巻きつけ、押さえ巻きテープ14の周囲を覆うようにシース15を設けて構成されている。電線11は、複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体11aと、導体11aの周囲を覆うように設けられた絶縁体11bと、を有している。導体11aは、例えば、外径0.08mmの軟銅線からなる素線を19本集合撚りして構成されている。介在12は、例えばジュートやスフからなる。絶縁体11bは、例えば、ETFE(テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体)等のフッ素樹脂からなる。なお、ケーブル10に使用する電線11の本数は5本に限定されない。押さえ巻きテープ14は、例えば、不織布や紙、樹脂等からなるテープ部材からなる。シース15は、例えばPE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)等からなる。なお、ケーブル10は、図示の構成に限らず、少なくとも撚線導体からなる導体11aを含んでいれば様々な構成であってよい。すなわち、電線11は、1本でもよいし、数本でもよいし、数十本以上でもよい。なお、電線11が1本の場合は、介在12、押さえ巻きテープ14、及びシース15を無くす場合が多い。この場合、ケーブル10と電線11は、同じものを示す。
【0014】
図1(a)に示す断線検知装置1は、ケーブル10に含まれる導体11aにおいて素線に断線が発生したことを検知するための装置であり、U字屈曲機構20と、測定器30とを備える。
【0015】
U字屈曲機構20は、ケーブル10をU字状に屈曲した状態として、ケーブル10の一端部を当該一端部のケーブル長手方向に沿って所定のストロークで周期的にスライド移動させるU字屈曲動作を行う。U字状に屈曲した状態において、ケーブル10は、平行に配置された2つの直線部10a,10bと、両直線部10a,10bを連結する半円弧状の湾曲部10cと、を有する。U字屈曲機構20は、ケーブル10の一方の端部(一方の直線部10a)が固定された固定部21と、ケーブル10の他方の端部(他方の直線部10b)が固定されたスライド部22と、を有する。スライド部22は、両直線部10a,10bの対向方向と同じ方向において、固定部21と対向するように設けられており、図示しない駆動部により、固定部21に対して相対的にスライド移動可能に構成されている。スライド部22のスライド方向は、スライド部22に固定されている直線部10bの長手方向に沿った方向である。
【0016】
図1(b)に示されるように、U字屈曲機構20は、ケーブル10が第1U字屈曲状態40aと第2U字屈曲状態40bとの間を往復するようにケーブル10に一定の周期でU字屈曲動作を行う。第1U字屈曲状態40aは、スライド部22を最も湾曲部10c側にスライド移動させた状態であり、固定部21に固定された直線部10aのケーブル長手方向に沿った長さが最も長くなり、スライド部22に固定された直線部10bのケーブル長手方向に沿った長さが最も短くなる。つまり、第1U字屈曲状態40aでは、ケーブル長手方向において湾曲部10cが最も直線部10b側のケーブル端部に近づくことになり、湾曲部10cから直線部10bのケーブル端部までの直線距離(スライド移動させる方向に沿った距離)が最も短くなる。第2U字屈曲状態40bは、スライド部22を最も湾曲部10cから離れた位置にスライド移動させた状態であり、固定部21に固定された直線部10aのケーブル長手方向に沿った長さが最も短くなり、スライド部22に固定された直線部10bのケーブル長手方向に沿った長さが最も長くなる。つまり、第2U字屈曲状態40bでは、ケーブル長手方向において湾曲部10cが最も直線部10a側のケーブル端部に近づくことになり、湾曲部10cから直線部10aのケーブル端部までの直線距離(スライド移動させる方向に沿った距離)が最も短くなる。
【0017】
第1U字屈曲状態40aと第2U字屈曲状態40bとの間を一往復すると、U字屈曲動作が1周期となる。以下、U字屈曲動作の周期に対応する周波数、すなわち、第1U字屈曲状態40aと第2U字屈曲状態40bとの間を一往復する周波数を動作周波数と呼称する。例えば、
図1(b)に示すU字屈曲動作の1周期(一往復)が1秒である場合、動作周波数fは1Hzとなる。この場合、U字屈曲機構20は、0.5秒かけて第1U字屈曲状態40aから第2U字屈曲状態40bに推移させたのち、0.5秒かけて第2U字屈曲状態40bから第1U字屈曲状態40aに戻すといったU字屈曲動作を繰り返す。このU字屈曲動作の回数である動作回数は、U字屈曲動作1周期で1回とする。なお、動作周波数fは、実使用上のケーブル10の使用条件等を加味して適切な値に定められればよい。また、湾曲部10cの曲率半径についても、実使用上のケーブル10の使用条件等を加味して適切な値に定められればよい。
【0018】
測定器30は、U字屈曲機構20のU字屈曲動作に応じて時系列的に変化するケーブル10の導体11aの抵抗値を測定し、当該ケーブル10の抵抗値の時系列的な変化に含まれる動作周波数fの抵抗値変動成分を抽出する。そして、断線検知装置1は、この測定器30で抽出された動作周波数fの抵抗値変動成分の大きさに基づいて導体11aの素線の断線を検知する。
【0019】
詳細には、測定器30は、抵抗測定部35と、周波数解析部36とを有する。抵抗測定部35は、例えば、ケーブル10(導体11a)の両端間に定電圧を印加した上で流れる電流を時系列的に測定するか、ケーブル10(導体11a)に定電流を印加した上で両端間に発生する電圧を時系列的に測定することで、ケーブル10(導体11a)の抵抗値の変化を測定する。周波数解析部36は、当該導体11aの抵抗値の時系列的な変化から動作周波数fの抵抗値変動成分を抽出する。なお、測定器30の更なる詳細については後述する。
【0020】
(前提となる断線検知の問題点)
図3は、導体11aに断線が生じた場合の抵抗値を説明するための模式図である。導体11aに断線が生じた場合、導体11aの抵抗値R[Ω]は、理論的には、式(1)で表される。式(1)において、ρ[Ω・m]は素線の抵抗率であり、La[m]は非断線箇所の導体長であり、
図3に示される導体11a全体の長さ(ケーブル長)L[m]と断線箇所の導体11aの長さLb[m]とを用いて式(2)で表される。また、Sa[m
2]は、非断線箇所の導体断面積であり、Sb[m
2]は、断線箇所の導体断面積である。
R=ρ×(La/Sa)+ρ×(Lb/Sb) …(1)
La=L-Lb …(2)
【0021】
式(1)に示されるように、導体11aの抵抗値Rは、断線箇所の断面積Sbに対して反比例する特性となる。この場合、断面積Sbがある程度大きい場合には、抵抗値Rはさほど変化せず、断面積Sbが十分に小さくなった段階で、抵抗値Rは急激に増加することになる。つまり、導体11aにおいて素線の断線本数の割合が小さい場合には、断面積Sbが十分に大きいため、抵抗値Rはさほど変化しない。そして、一例として、素線の断線本数の割合が70%~80%程度に達した段階で、断面積Sbが十分に小さくなり、抵抗値Rは、初期抵抗値から20%程度増加し得る。
【0022】
ここで、単純に初期抵抗値からの増加率に基づいて断線を検知する一般的な検知方式を用いる場合を想定する。この場合、前述したように、導体11aにおける素線の断線本数の割合が十分に大きくなるまで抵抗値Rに際立った変化が生じないことに加えて、抵抗値Rは、環境温度や、抵抗測定時の接触電位等によっても変動し得るため、初期の断線がいつの段階で生じたかを判別することは困難である。例えば、抵抗値Rの温度特性を0.4%/℃程度とすると、環境温度が20℃増加すると、抵抗値Rは8%程度増加するが、このような環境温度による抵抗値Rの変化が、素線の断線による抵抗値Rの変化よりも大きくなる場合がある。
【0023】
そのため、一般的な検知方式では、初期の断線を検知することが困難であり、言い換えれば、断線を高感度で検知することが困難である。そこで、
図1(a)および
図1(b)に示した断線検知装置1を用いることが有益となる。
【0024】
(断線検知の原理)
図4は、
図1(a)および
図1(b)の断線検知装置1を用いた場合の、断線検知の原理を説明する模式図である。
図4の例では、ケーブル10の導体11aに含まれる複数の素線の一部の箇所に断線が生じている。
図4では、この断線箇所を符号16で示している。
図4には、U字屈曲動作を行った際のケーブル10の抵抗値Rの変化が示される。なお、この例では、U字屈曲動作の動作周期が1秒となっており、動作周波数fは、1Hzとなる。また、この例では、
図1(b)に示した第1U字屈曲状態40aと第2U字屈曲状態40bの中間の位置にスライド部22を移動させた状態を基準状態40cとし、基準状態40c(時間0秒)から第1U字屈曲状態40a(時間0.25秒)、基準状態40c(時間0.50秒)、第2U字屈曲状態40b(時間0.75秒)を経由して基準状態40c(時間1.00秒)に戻るようにU字屈曲動作を行う。
【0025】
図5に示されるように、基準状態40c(時間0秒)において、断線箇所16は、湾曲部10cでケーブル中心よりも曲げの外側に位置しており、断線箇所16の導体長Lbは長くなる。それに伴い、上記式(1)の抵抗値Rは増加する。その後、第1U字屈曲状態40a(時間0.25秒)となると、断線箇所16が直線部10aに移行するので、基準状態40cと比べて断線箇所16の導体長Lbは短くなり、抵抗値Rが減少する。
【0026】
その後、基準状態40c(時間0.50秒)に戻ると、断線箇所16の導体長Lbが長くなり抵抗値Rは再び増加する。その後、第2U字屈曲状態40b(時間0.75秒)となると、断線箇所16が直線部10bに移行するので、基準状態40cと比べて断線箇所16の導体長Lbは短くなり、抵抗値Rが減少する。その後、基準状態40c(時間1.00秒)に戻ると、断線箇所16の導体長Lbが長くなり抵抗値Rは再び増加する。
【0027】
このように、断線箇所16の導体長Lbが、U字屈曲動作に同期してケーブル10の長さ方向に周期的に伸縮する結果、導体11aの抵抗値Rは、動作周波数fで変調されることになる。一方、断線が発生していない場合、理想的には、抵抗値Rの変化の中に動作周波数fで変化する抵抗値変動成分は含まれない。
【0028】
そこで、測定器30は、U字屈曲機構20によるU字屈曲動作に応じて時系列的に変化するケーブル10の抵抗値を測定し、当該ケーブル10の抵抗値の時系列的な変化から動作周波数fの抵抗値変動成分を抽出する。これにより、動作周波数fの抵抗値変動成分が発生した時点を、初期の断線が発生した時点とみなすことができる。すなわち、見方を変えれば、各時点において、動作周波数fの抵抗値変動成分が発生しているか否か(例えば、当該成分の大きさが閾値以上か否か等)に基づいて、初期の断線を含めて、少なくとも導体11aの素線に断線が発生したことを検知することが可能になる。
【0029】
(測定器30の詳細)
図5は、
図1(a)における測定器30の概略的な構成例および動作例を示す図である。
図5に示す測定器30は、測定信号の中から特定周波数の成分を検出するロックインアンプを備えた構成例となっている。
図5に示すように、測定器30は、抵抗測定部35および周波数解析部36を有する。
【0030】
抵抗測定部35は、例えば、直流信号源(例えば、直流定電圧源)35a、入力抵抗35bおよび抵抗値検出器35c等を備える。なお、直流信号源35aとして直流定電流源を用いる場合は、入力抵抗35bは不要である。直流信号源35aは、入力抵抗35bを介してケーブル10(導体11a)に直流信号(ここでは直流電圧)を印加する。これに応じて、ケーブル10(導体11a)からは、U字屈曲動作により、
図4に示したような動作周波数f(=1Hz)の成分を含んだ変調信号(例えば電圧信号)が出力される。抵抗値検出器35cは、例えば、この変調信号を所定のゲインで増幅することで、導体11aの抵抗値Rの時系列的な変化を検出する。
【0031】
周波数解析部36は、例えば、キャリア信号生成器36a、ミキサ36bおよびロウパスフィルタ(LPF)36c等を備える。キャリア信号生成器36aは、動作周波数f、つまり断線による抵抗値変動周波数と同じキャリア周波数(ωc、
図4の場合1Hz)であって、抵抗値変動周波数と同じ位相を持つキャリア信号を生成する。ミキサ36bは、このキャリア信号と、抵抗値検出器35cからの出力信号とを乗算(言い換えれば同期検波)することで、直流成分の信号と"2×ωc"成分の信号とが重畳された信号を出力する。なお、
図5に示すキャリア信号生成器36aにおいて、sin(ωct)は、ωc=2πfであるとした場合に動作周波数fの抵抗値変動成分を抽出することができる。
【0032】
ロウパスフィルタ36cは、ミキサ36bからの出力信号を受けて、"2×ωc"成分の信号を遮断し、直流成分の信号を通過させる。この直流成分の信号は、動作周波数f(=ωc)の抵抗値変動成分の大きさを表す。このように、キャリア信号生成器36a、ミキサ36bおよびロウパスフィルタ36cを用いて所定周波数(ここでは動作周波数f)の成分を検出する構成が、ロックインアンプの基本構成である。ロウパスフィルタ36cからの信号は、A/Dコンバータ37によりデジタル信号に変換され、図示しないパーソナルコンピュータ等の演算装置に出力される。演算装置では、例えば、入力された信号と閾値とを比較することで、断線の発生を検知する。
【0033】
図6は、
図4の原理を用いることによる効果の一例を説明する図である。
図6において、例えば、前述した一般的な検知方式を用いる場合、断線による抵抗値Rの増加成分が、直流周波数(=0Hz)に生じることになる。ただし、通常、周波数が低くなるほどノイズ成分(例えば、測定時の温度や接触電位等に依存したばらつき成分、半導体素子による増幅等に伴う1/fノイズ)が増大する。このため、一般的な検知方式では、抵抗値Rの増加成分が大きくならない限り(例えば、断線の程度が進行しない限り)、抵抗値Rの増加成分とノイズ成分とを区別することが困難となり得る。言い換えれば、測定結果は、ノイズ成分の要因となる測定環境に大きく影響され得る。
【0034】
一方、
図4のような方式を用いると、断線による抵抗値Rの変化成分は、動作周波数f(
図4では1Hz)に生じることになる。動作周波数f(
図4では1Hz)では、直流周波数(=0Hz)と比較してノイズ成分が小さくなる。このため、抵抗値Rの変化成分がある程度小さい場合であっても(すなわち、初期の断線状態であっても)、抵抗値Rの変化成分とノイズ成分とを区別することが可能になる。言い換えれば、測定結果は、測定環境の影響を受け難くなる。
【0035】
また、
図5のようなロックインアンプを用いた構成は、ケーブル10からの変調信号(実際には動作周波数fの抵抗値変動成分に加えてノイズ成分も含む)に対して、U字屈曲の動作周波数fを中心周波数とするバンドパスフィルタ(BPF)を通過させた構成と等価である。この際に、測定時間をある程度の時間確保すると、実効的に、このバンドパスフィルタ(BPF)の帯域幅を狭めることができる。これは、
図5におけるロウパスフィルタ36cの時定数を大きく設計できることを意味する。そして、バンドパスフィルタ(BPF)の帯域幅を狭めるほど、ノイズ成分の影響をより低減する(言い換えれば、SN比を向上させる)ことが可能になる。
【0036】
なお、
図5の構成例は、ケーブル10(導体11a)に直流信号を印加するものであったが、直流信号に限らず、交流信号源を用いて所定周波数(例えば10kHz程度)の交流信号を印加するものであってもよい。この場合、ケーブル10からは、この交流信号を動作周波数fの変調信号で振幅変調したような信号が出力される。そこで、この出力信号に対して、ミキサを用いて交流信号源の交流信号と同じ周波数のキャリア信号を乗算すれば、動作周波数fの変調信号を復調できる。このような方式を用いると、より高い周波数(例えば10kHz程度)での測定を行える結果、ノイズ成分の影響がより生じ難くなる。
【0037】
なお、
図1(a)の測定器30の構成は、
図5のようなロックインアンプを用いた構成に限らず、例えば、実際のバンドパスフィルタ(BPF)を用いて動作周波数fの成分を抽出するような構成であってよい。さらに、測定器30の構成は、例えば、
図5の抵抗値検出器35cからの出力信号をデジタル信号に変換し、それに対して高速フーリエ変換(FFT)等のデジタル処理を行うことで動作周波数fの成分を抽出するような構成であってもよい。
【0038】
(動作周波数の高次周波数の利用)
図4にて示したように、U字屈曲動作を繰り返した際に得られる抵抗値Rの変化は、所定のデューティー比のパルス波に類似した波形となる。そのため、抵抗値Rの時系列的な変化には、動作周波数fの抵抗値変動成分のみならず、動作周波数のn倍(nは2以上の自然数)の高次周波数の抵抗値変動成分が含まれる。
【0039】
そこで、周波数解析部36にて、導体11aの抵抗値Rの時系列的な変化に含まれる動作周波数fの抵抗値変動成分及びその動作周波数fのn倍(nは2以上の自然数)の周波数である高次周波数の抵抗値変動成分を抽出するようにし、抽出した動作周波数fの抵抗値変動成分及びその高次周波数の抵抗値変動成分の大きさ(すなわち、後述する
図7の抵抗値変動の振幅)に基づいて、素線の断線を検知するように構成することが可能である。上述のように、周波数が低いと外部ノイズの影響を受けやすく、周囲の環境によっては誤検知が生じてしまうおそれがあるが、動作周波数だけでなく、その高次周波数の抵抗値変動成分まで考慮する(例えば、抽出した動作周波数や高次周波数の抵抗値変動成分の大きさを予め設定した閾値と比較する)ことによって、誤検知を抑制し、断線の発生をより高精度に検知することが可能となる。
【0040】
なお、
図4を見れば分かるように、抵抗値Rの波形は、ケーブル長手方向における断線箇所16の位置や、湾曲部10cにおいて曲げの内側、外側のどちらに位置するかによって変化する。よって、抵抗測定部35で測定した抵抗値Rの波形を解析することで、ケーブル長手方向におけるどの位置で断線箇所16が発生したかを推定することも可能である。
【0041】
(実測結果)
図7は、
図1(a)および
図1(b)の断線検知装置1を用いて、ケーブル10の断線検知を行った結果の一例を示す図である。
図7の縦軸は、ロウパスフィルタ36cから出力される直流成分の信号の強度(抵抗値変動の振幅)を示す。湾曲部10cにおける曲げ半径は8mmとし、動作周波数fは1.16Hz(70rpm)とした。
【0042】
図7に示されるように、U字屈曲回数が63700回程度に達した以降の領域で、動作周波数f(=1.16Hz)、及びそのn倍の高次周波数(2次:2.32Hz、3次:3.48Hz、4次:4.64Hz・・・)の成分が明確に検出されている。このため、U字屈曲回数が63700回程度に達した時点を、初期の断線が生じた時点と推定することができる。
【0043】
(断線検知方法)
図8は、本実施の形態に係る断線検知方法において、処理内容の一例を示すフロー図である。まず、ステップS10において、
図1(a)の断線検知装置1に検査対象となるケーブル10が搭載される。続いて、ステップS11において、
図1(a)に示したU字屈曲機構20および測定器30の動作が開始される。これに応じて、U字屈曲機構20は、
図1(b)に示したように、第1U字屈曲状態40aと第2U字屈曲状態40bとの間を往復するようにスライド部22をスライド移動させて、U字屈曲動作が行われる。また、その間、測定器30は、時系列的に変化するケーブル10(導体11a)の抵抗値を測定し、その変化の中に含まれる動作周波数f及びその高次周波数の抵抗値変動成分を抽出する。
【0044】
次いで、ステップS12において、このようなU字屈曲機構20および測定器30の動作が所定の期間継続される。所定の期間とは、例えば、
図5に示したようなロックインアンプの構成において、ケーブル10(導体11a)からの出力信号が動作周波数fの抵抗値変動成分をある程度十分に含んでいる場合に、この動作周波数fの抵抗値変動成分を、ロウパスフィルタ36cを介して確実に検出するのに必要とされる期間である。言い換えれば、動作周波数fで変調された周期が単発的ではなく、ある程度持続的に生じている場合に、それを検知するのに要する期間である。この所定の期間は、測定器30の構成や測定環境(すなわちノイズ成分の大きさ)等によって適宜変わり得る。
【0045】
続いて、ステップS13において、U字屈曲機構20および測定器30の動作が停止される。その後、ステップS14において、測定器30の測定結果が参照され、ステップS15において、測定器30によって抽出された動作周波数fの抵抗値変動成分の大きさが予め定めた第1閾値以上か否かが判定される。ステップS15でYESと判定された場合、ステップS16に進む。ステップS15でNOと判定された場合、ステップS18において、断線無しと判定され、処理を終了する。
【0046】
ステップS16では、動作周波数fのn倍の高次周波数の抵抗値変動成分の大きさが、予め定めた第2閾値以上か否かが判定される。ステップS16で何次の高周波成分を用いるかは、適宜設定可能である。また、nの異なる複数の高次周波数の抵抗値変動成分について、それぞれが閾値以上かを判定するようにしてもよい。ステップS16でYESと判定された場合、ステップS17において、断線有りと判定され、処理を終了する。ステップS16でNOと判定された場合、ステップS18において、断線無しと判定され、処理を終了する。
【0047】
このようなフローにより、ステップS12での所定の期間を検査時間として、ケーブル10の導体11aの断線を、初期の断線を含めて検知することが可能になる。すなわち、十分に短い検査時間で導体11aの断線を検知することが可能になる。なお、ステップS17において、断線有りと判定されたことを音や光等の発報システムにより管理者等に通知するようにしてもよい。
【0048】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る断線検知方法では、ケーブル10をU字状に屈曲した状態として、ケーブル10の一端部を当該一端部のケーブル長手方向に沿って所定のストロークで周期的にスライド移動させるU字屈曲動作を行い、U字屈曲動作により時系列的に変化する導体11aの抵抗値を測定し、U字屈曲動作の周期に対応する周波数を動作周波数fとして、導体11aの抵抗値の時系列的な変化に含まれる動作周波数fの抵抗値変動成分を抽出し、抽出した動作周波数fの抵抗値変動成分の大きさに基づいて、素線の断線を検知している。
【0049】
これにより、ケーブル10の導体11aでの素線の断線を、初期の断線を含めて検知することが可能になり、結果として、断線を高感度で検知することが可能になる。具体的には、抵抗値の増加率を用いた一般的な検知方式では検知することが困難であった初期の断線を検知することが可能になる。その結果、ケーブル10が装着される各種システムにおいて、重大な障害(例えば、ほぼ全断線)が生じる前に対策を講じることができ、システムの信頼性を向上させることが可能になる。
【0050】
また、従来の抵抗値の増加率を用いた一般的な検知方式では、断線前の導体11aの抵抗値、すなわち初期抵抗値が必要であったが、本実施の形態では、抵抗値の絶対値ではなく、U字屈曲動作中の抵抗値の変動量(相対量)を用いて断線の発生を検知するため、初期抵抗値は不要となる。よって、本実施の形態によれば、導体11aの初期抵抗値の不明な場合であっても、導体11aの素線に断線が発生していることを高感度に検出できる。
【0051】
(他の実施の形態)
上記実施の形態では、導体11aにおいて断線が発生したことを検知する方法について述べたが、断線の発生後、その断線の進行状態を推定すること(=断線進行状態推定)も可能である。
【0052】
図9(a)は、抵抗値Rの時系列的な変化において、所定の時間間隔で区切られた測定区間毎に、抵抗値Rの最大値、最小値、及び平均値を算出し、グラフ化したものである。測定区間とする時間間隔は、U字屈曲動作の周期以上の時間間隔とすることが望ましく、例えば100周期程度の時間間隔とすることができる。
【0053】
図9(a)に示されるように、U字屈曲動作の回数が増え、断線が進むほど、抵抗値Rの最大値と最小値との差が大きくなっていることがわかる。よって、この抵抗値Rの最大値と最小値との差を基に、導体11aの断線進行状態を推定することが可能である。例えば、段階的に複数の閾値を設定しておき、各閾値と、抵抗値Rの最大値と最小値との差とを比較することで、導体11aの断線進行状態を推定することができる。なお、導体11aの断線進行状態とは、導体11aを構成する全ての素線のうち、何本の素線が断線しているかという割合である。この断線進行状態が、所定の割合(例えば80%以上)となった場合に、ケーブル10の寿命(=ケーブル寿命)に到達したと設定する。そして、推定して得られた断線進行状態がケーブル寿命に到達したか否かを予測する(=ケーブル寿命予測)。そのケーブル寿命予測結果に基づいて、ケーブル10の交換やケーブル10の予知保全等を行うか否かを判断することができる。
【0054】
さらに、上記の測定区間毎に、抵抗値Rの平均値を求め、下式
規格化抵抗値変動幅=(最大値-最小値)/平均値
により得られた規格化抵抗値変動幅を複数算出し、それらの平均値を求める。この規格化抵抗値変動幅の平均値を基に、導体11aの断線進行状態を推定するようにしてもよい。
図9(a)から求めた規格化抵抗値変動幅のグラフを
図9(b)に示す。抵抗値Rの最大値と最小値との差と、平均値とは、周囲の環境温度による影響が同じとなるため、抵抗値Rの最大値と最小値との差を平均値で規格化することにより、環境温度の変化による影響をキャンセルして、より高精度に断線進行状態を推定することが可能になる。そして、推定して得られた断線進行状態に基づいて、上記と同様のケーブル寿命予測を行い、そのケーブル寿命予測結果に基づいて、ケーブル10の交換やケーブル10の予知保全等を行うか否かを判断することができる。
【0055】
また、ケーブル10は、U字屈曲動作が行われる用途であれば、産業用ロボット等のどのような装置に適用されるものであってもよい。この場合、例えば、ケーブル10に重度の断線(例えば、ほぼ全断線)が生じると、産業用ロボット等の装置の停止、ひいては、工場における生産工程の停止を招き得る。このため、重度の断線が生じる前の早い段階で、その予兆となる軽微な断線(初期の断線)を検知することが望まれる。そこで、例えば、産業用ロボット等の装置の定期的なメンテナンス時等において、上記実施の形態を用いて、初期の断線を検知することが有益となる。
【0056】
具体的には、
図1(a)の場合と同様の装置を構築し、
図1(a)のU字屈曲機構20を、産業用ロボット等の装置におけるU字屈曲部を用いて構成すればよい。そして、産業用ロボット等の装置の制御部を用いて、あるいは、産業用ロボット等の装置に外力を加えられる外部装置を用いてケーブル10のU字屈曲動作を行うとよい。なお、測定器30については、外部からその都度付加する形態であってもよいし、予め産業用ロボット等の装置に内蔵しておく形態であってもよい。なお、このような構成を用いた際の断線検知の手順に関しては、
図8の場合と同様である。ただし、
図8におけるステップS10の処理は、既にケーブル10が装着された状態となっているため不要となる。このように、既に所定の装置に装着され、実使用状態となっているケーブル10であっても、当該ケーブル10を取り外すことなく初期の断線を高感度に検知することが可能である。
【0057】
また、このような適用例の他に、
図1(a)のような断線検知装置1を用いて、産業用ロボット等の装置に用いられるケーブル10と同種のケーブルの寿命特性を製造段階で取得しておき、その結果を産業用ロボット等の装置のメンテナンスに反映させることも有益である。具体的には、
図1(a)の装置を用いることで、ケーブル10において初期の断線が発生し得る屈曲回数が判明するため、例えば、産業用ロボット等の装置の管理者に、この屈曲回数の情報を提供することができる。この場合、管理者は、提供された屈曲回数と、産業用ロボット等の装置の稼働履歴とを照合することで、ケーブル10に重度の断線が生じる(すなわち、ケーブル寿命に達する)前に各種対策を講じることが可能になる。
【0058】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0059】
[1]複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体(11a)を有するケーブル(10)の前記素線の断線を検知する方法であって、前記ケーブル(10)をU字状に屈曲した状態として、前記ケーブル(10)の一端部を当該一端部のケーブル長手方向に沿って所定のストロークで周期的にスライド移動させるU字屈曲動作を行い、前記U字屈曲動作により時系列的に変化する前記導体(11a)の抵抗値を測定し、前記U字屈曲動作の周期に対応する周波数を動作周波数として、前記導体(11a)の抵抗値の時系列的な変化に含まれる前記動作周波数の抵抗値変動成分を抽出し、抽出した前記動作周波数の抵抗値変動成分の大きさに基づいて、前記素線の断線を検知する、断線検知方法。
【0060】
[2]前記導体(11a)の抵抗値の時系列的な変化に含まれる前記動作周波数の抵抗値変動成分及びその高次周波数の抵抗値変動成分を抽出し、抽出した前記動作周波数の抵抗値変動成分及びその高次周波数の抵抗値変動成分の大きさに基づいて、前記素線の断線を検知する、[1]に記載の断線検知方法。
【0061】
[3]前記U字屈曲動作の周期以上の時間間隔で区切られた測定区間毎に、前記導体(11a)の抵抗値の時系列的な変化における抵抗値の最大値、最小値、を求め、抵抗値の最大値と最小値との差を基に、前記導体(11)の断線進行状態を推定する、[1]または[2]に記載の断線検知方法。
【0062】
[4]前記測定区間毎に、前記導体(11a)の抵抗値の時系列的な変化における平均値を求め、下式
規格化抵抗値変動幅=(最大値-最小値)/平均値
により得られた規格化抵抗値変動幅を基に、前記導体(11a)の断線進行状態を推定する、[3]に記載の断線検知方法。
【0063】
[5]複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体(11a)を有するケーブル(10)の前記素線の断線を検知する装置であって、前記ケーブル(10)をU字状に屈曲した状態として、前記ケーブル(10)の一端部を当該一端部のケーブル長手方向に沿って所定のストロークで周期的にスライド移動させるU字屈曲動作を行うU字屈曲機構(20)と、前記U字屈曲動作により時系列的に変化する前記導体(11a)の抵抗値を測定し、前記U字屈曲動作の周期に対応する周波数を動作周波数として、前記導体(11a)の抵抗値の時系列的な変化に含まれる前記動作周波数の抵抗値変動成分を抽出する測定器(30)と、を備え、抽出した前記動作周波数の抵抗値変動成分の大きさに基づいて、前記素線の断線を検知する、断線検知装置(1)。
【0064】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…断線検知装置
10…ケーブル
10a,10b…直線部
10c…湾曲部
11…電線
11a…導体
16…断線箇所
20…U字屈曲機構
21…固定部
22…スライド部
30…測定器
35…抵抗測定部
36…周波数解析部
40a…第1U字屈曲状態
40b…第2U字屈曲状態
40c…基準状態