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特許7439817樹脂組成物、電子部品、及び、樹脂膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】樹脂組成物、電子部品、及び、樹脂膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/26 20060101AFI20240220BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C08G59/26
C08G59/40
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021501827
(86)(22)【出願日】2020-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2020004163
(87)【国際公開番号】W WO2020175037
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2019036024
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】藤村 誠
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-242007(JP,A)
【文献】特開2009-295374(JP,A)
【文献】国際公開第2018/058116(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/037584(WO,A1)
【文献】特公昭45-12131(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
C08K 3/00 - 13/08
C08G 59/00 - 59/72
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン性極性基を有する重合体(A)と、
下式(1)で表される架橋剤(B)と、を含有する樹脂組成物であって、
前記プロトン性極性基を有する重合体(A)は、プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体及びプロトン性極性基を有するポリアミドイミド樹脂の少なくとも一方を含む、樹脂組成物。
【化1】
〔式(1)中、複数のRは、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、及び炭素数1~6のアルコキシ基の何れかを示し、m、n、及びpは0~4の整数、qは0~5の整数をそれぞれ示す。〕
【請求項2】
前記プロトン性極性基を有する重合体(A)が、カルボキシル基を有する環状オレフィン重合体である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部に対する、前記架橋剤(B)の含有量が、5質量部以上200質量部以下である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物の少なくとも一方を更に含有する、請求項1~3の何れかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載の樹脂組成物からなる樹脂膜を備える、電子部品。
【請求項6】
請求項1~4の何れかに記載の樹脂組成物を用いて形成した塗膜を200℃以上で加熱する工程を含む、樹脂膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、電子部品、及び、樹脂膜の製造方法に関するものである。特に、本発明は、電子部品に用いられる絶縁膜などの形成に好適に使用し得る樹脂組成物、当該樹脂組成物からなる樹脂膜を備える電子部品、及び、かかる樹脂膜を製造するための製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置、有機EL表示装置、集積回路素子、固体撮像素子などの電子部品には、平坦化膜、保護膜、絶縁膜等として種々の樹脂膜が設けられている。
【0003】
具体的には、例えば、特許文献1では、透明性に優れる絶縁膜を形成可能である樹脂組成物であって、絶縁膜表面にITO(Indium Tin Oxide)膜を形成してITO電極を得た際には、得られるITO電極の抵抗値を低くすることができる、樹脂組成物が開示されている。特許文献1に記載された樹脂組成物は、プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体、架橋剤、及び、有機溶媒を含有する樹脂組成物である。より具体的には、かかる樹脂組成物において、有機溶媒がジエチレングリコールエチルメチルエーテルを含有し、且つ、有機溶媒中におけるジエチレングリコールジメチルエーテルの含有量が所定範囲内である。
【0004】
また、例えば、特許文献2では、反り抑制性及びスミア除去性に優れると共に、表面への高ピール強度の導体層の形成が可能な硬化物が得られる樹脂組成物が開示されている。特許文献2に記載された樹脂組成物は、所定の構造を満たすエポキシ樹脂と、フェノール系硬化剤、シアネートエステル系硬化剤、及び活性エステル系硬化剤から選択される一種以上とを含む樹脂組成物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/163981号
【文献】特開2016-79366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、ITO電極を形成する際におけるITO膜を形成する工程において、優れた性能を呈し得るITO膜を得る目的で、ITO膜を、高温条件下で、成膜すること、及び、加熱することが検討されている。しかし、上記従来の樹脂組成物を用いて形成した樹脂膜には、高温条件下における減量を抑制すること、即ち、耐熱性の点で改善の余地があった。
【0007】
さらに、ITO電極の性能を向上させるためには、ITO電極に備えられたITO膜にしわが無い又は少ないことが好ましい。ITO膜にしわが寄れば、積層体の光透過性が劣化し、ITO電極の性能低下につながる虞がある。しかし、上記従来の樹脂組成物を用いて形成した樹脂膜には、表面にITO膜を形成した場合に、得られるITO膜の表面にしわが生じることを抑制する、という性能においても改善の余地があった。以下、本明細書において、「ITO膜の表面にしわが生じることを抑制する」という性能を、「ITOしわ抑制性能」と称する。
【0008】
そこで、本発明は、耐熱性及びITOしわ抑制性能に優れる樹脂膜を形成可能な、樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、本発明の樹脂組成物を用いて形成された樹脂膜を備える高性能な電子部品を提供することを目的とする。
さらにまた、本発明は、本発明の樹脂組成物を用いて本発明の樹脂膜を効率的に製造し得る樹脂膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、プロトン性極性基を有する重合体(A)と、所定の架橋剤(B)とを含有する樹脂組成物によれば、耐熱性及びITOしわ抑制性能に優れる樹脂膜を形成することが可能になることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の樹脂組成物は、プロトン性極性基を有する重合体(A)と、下式(1)で表される架橋剤(B)と、を含有する樹脂組成物であって、前記プロトン性極性基を有する重合体(A)は、プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体及びプロトン性極性基を有するポリアミドイミド樹脂の少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【化1】
〔式(1)中、複数のRは、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、及び炭素数1~6のアルコキシ基の何れかを示し、m、n、及びpは0~4の整数、qは0~5の整数をそれぞれ示す。〕
このように、樹脂組成物に、プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体及びプロトン性極性基を有するポリアミドイミド樹脂の少なくとも一方を含むプロトン性極性基を有する重合体(A)と、上記所定の構造を満たす架橋剤(B)とを含有させれば、耐熱性及びITOしわ抑制性能に優れる樹脂膜を形成することが可能となる。
【0011】
ここで、本発明の樹脂組成物において、前記プロトン性極性基を有する重合体(A)が、カルボキシル基を有する環状オレフィン重合体であることが好ましい。樹脂組成物にカルボキシル基を有する環状オレフィン重合体を含有させることにより、得られる樹脂膜のITOしわ抑制性能を一層高めることができる。
【0012】
また、本発明の樹脂組成物において、前記プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部に対する、前記架橋剤(B)の含有量が、5質量部以上200質量部以下であることが好ましい。架橋剤(B)の含有量が上記所定の範囲内であれば、得られる樹脂膜のITOしわ抑制性能を一層高めることができる。
【0013】
更に、本発明の樹脂組成物は、アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物の少なくとも一方を更に含有することが好ましい。樹脂組成物に、アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物の少なくとも一方を更に含有させれば、得られる樹脂膜のITOしわ抑制性能を一層高めることができる。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電子部品は、上述した何れかの樹脂組成物からなる樹脂膜を備えることを特徴とする。上述した樹脂組成物を用いて形成される樹脂膜は、耐熱性及びITOしわ抑制性能に優れるため、当該樹脂膜を備える電子部品は、所期の機能を十分に発揮することができるため、高性能である。
【0015】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の樹脂膜の製造方法は、樹脂組成物を用いて形成した塗膜を200℃以上で加熱する工程を含むことを特徴とする。上述した何れかの樹脂組成物を用いて形成した塗膜を200℃以上で加熱することにより、効率的に、耐熱性及びITOしわ抑制性能に優れる樹脂膜を製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐熱性及びITOしわ抑制性能に優れる樹脂膜を形成可能な、樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、本発明の樹脂組成物を用いて形成された樹脂膜を備える高性能な電子部品を提供することができる。
さらにまた、本発明によれば、本発明の樹脂組成物を用いて本発明の樹脂膜を効率的に製造し得る樹脂膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の樹脂組成物は、樹脂膜の形成に用いることができる。そして、かかる樹脂膜は、ITO電極を備える電子部品に好適に備えられうる。そして、本発明の電子部品は、本発明の樹脂組成物を用いて得られる樹脂膜を備えるものである。また、かかる樹脂膜は、本発明の樹脂組成物を用いた本発明の樹脂膜の製造方法に従って効率的に製造することができる。
【0018】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、後述する所定のプロトン性極性基を有する重合体(A)と、下式(1)で表される架橋剤(B)と、を含有することを特徴とする。
【化2】
〔式(1)中、複数のRは、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、及び炭素数1~6のアルコキシ基の何れかを示し、m、n、及びpは0~4の整数、qは0~5の整数をそれぞれ示す。〕
さらに、本発明の樹脂組成物は、任意で、アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物の少なくとも何れか、並びに、その他の添加剤を更に含有し得る。
【0019】
なお、本発明の樹脂組成物は、所定のプロトン性極性基を有する重合体(A)、及び、上記所定の構造を満たす架橋剤(B)を含有しているので、耐熱性及びITOしわ抑制性能に優れる。これは、重合体(A)のプロトン性極性基が、架橋剤(B)により架橋されることにより、所望の性能を呈し得る樹脂膜を形成することが可能となることに起因すると推察される。
【0020】
<プロトン性極性基を有する重合体(A)>
プロトン性極性基を有する重合体(A)とは、骨格となる構造に対してプロトン性極性基が結合してなる重合体である。ここで、「プロトン性極性基」とは、周期律表の第15族又は第16族に属する原子に水素が直接結合している原子を含む基をいう。水素が直接結合する原子は、好ましくは周期律表の第15族又は第16族の第2周期若しくは第3周期に属する原子であり、より好ましくは酸素原子、窒素原子又は硫黄原子であり、特に好ましくは酸素原子である。
【0021】
このようなプロトン性極性基の具体例としては、水酸基、カルボキシル基(ヒドロキシカルボニル基)、スルホン酸基、リン酸基等の酸素原子を有する極性基;第一級アミノ基、第二級アミノ基、第一級アミド基、第二級アミド基(イミド基)等の窒素原子を有する極性基;チオール基等の硫黄原子を有する極性基;等が挙げられる。これらの中でも、酸素原子を有するものが好ましく、より好ましくはカルボキシル基である。
本発明において、プロトン性極性基を有する重合体(A)に結合しているプロトン性極性基の数に特に限定はなく、また、相異なる種類のプロトン性極性基が含まれていてもよい。
【0022】
プロトン性極性基を有する重合体(A)の骨格は、(1)主鎖に、環状オレフィン単量体に由来する環状構造(脂環又は芳香環)を有する重合体、及び、(2)ポリアミドイミドの何れかである。なお、繰り返し単位にアミド結合及びイミド結合を有する、所謂「ポリアミドイミド樹脂」と称されうる重合体であっても、主鎖に環状オレフィン単量体に由来する環状構造を有する重合体は、上記(1)に記載した、「主鎖に、環状オレフィン単量体に由来する環状構造(脂環又は芳香環)を有する重合体」に該当するものとする。
【0023】
さらに、得られる樹脂膜のITOしわ抑制性能を一層高める観点から、プロトン性極性基を有する重合体(A)として、骨格が、(1)主鎖に、環状オレフィン単量体に由来する環状構造(脂環又は芳香環)を有する重合体を少なくとも用いること、換言すれば、プロトン性極性基を有する重合体(A)が、環状オレフィン重合体を少なくとも含むことが好ましい。以下、プロトン性極性基を有する重合体(A)としての、環状オレフィン重合体を「環状オレフィン重合体(A-1)」と称し、プロトン性極性基を有するポリアミドイミド樹脂を、「ポリアミドイミド樹脂(A-2)」と称することがある。なお、プロトン性極性基を有する重合体(A)としては、一種の重合体を単独で用いても良いし、複数種の重合体を組み合わせて用いても良い。より具体的には、プロトン性極性基を有する重合体(A)として、一種若しくは複数種の環状オレフィン重合体(A-1)又は一種若しくは複数種のポリアミドイミド樹脂(A-2)をそれぞれ用いても良いし、一種若しくは複数種の環状オレフィン重合体(A-1)と、一種若しくは複数種のポリアミドイミド樹脂(A-2)とを併用しても良い。中でも、上述のように、プロトン性極性基を有する重合体(A)が環状オレフィン重合体(A-1)を少なくとも含むことが好ましく、プロトン性極性基を有する重合体(A)が環状オレフィン重合体(A-1)であることがより好ましい。
【0024】
<<環状オレフィン重合体(A-1)>>
環状オレフィン重合体(A-1)としては、1又は2以上の環状オレフィン単量体の重合体、又は、1又は2以上の環状オレフィン単量体と、これと共重合可能な単量体との共重合体が挙げられるが、本発明においては、環状オレフィン重合体(A-1)を形成するための単量体として、少なくともプロトン性極性基を有する環状オレフィン単量体(a)を用いることが好ましい。
【0025】
プロトン性極性基を有する環状オレフィン単量体(a)(以下、単に「環状オレフィン単量体(a)」とも称することがある。)としては、特に限定されることなく、プロトン性極性基を有する環状オレフィン単量体(a)(以下、適宜、「単量体(a)」という。)の具体例としては、2-ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-メチル-2-ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-カルボキシメチル-2-ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2,3-ジヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-ヒドロキシカルボニル-3-ヒドロキシカルボニルメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、3-メチル-2-ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、3-ヒドロキシメチル-2-ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-ヒドロキシカルボニルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-3,8-ジエン、4-ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、4-メチル-4-ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、4,5-ジヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、4-カルボキシメチル-4-ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、N-(ヒドロキシカルボニルメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(ヒドロキシカルボニルエチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(ヒドロキシカルボニルペンチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(ジヒドロキシカルボニルエチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(ジヒドロキシカルボニルプロピル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(ヒドロキシカルボニルフェネチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(ヒドロキシカルボニルフェネチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(2-(4-ヒドロキシフェニル)-1-(ヒドロキシカルボニル)エチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(ヒドロキシカルボニルフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド等のカルボキシル基含有環状オレフィン;2-(4-ヒドロキシフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-メチル-2-(4-ヒドロキシフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、4-(4-ヒドロキシフェニル)テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、4-メチル-4-(4-ヒドロキシフェニル)テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、2-ヒドロキシビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-ヒドロキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-ヒドロキシエチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-メチル-2-ヒドロキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2,3-ジヒドロキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-(ヒドロキシエトキシカルボニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-メチル-2-(ヒドロキシエトキシカルボニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-(2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチル-3,3,3-トリフルオロプロピル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、3-ヒドロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-4,8-ジエン、3-ヒドロキシメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-4,8-ジエン、4-ヒドロキシテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、4-ヒドロキシメチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、4,5-ジヒドロキシメチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、4-(ヒドロキシエトキシカルボニル)テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、4-メチル-4-(ヒドロキシエトキシカルボニル)テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、N-(ヒドロキシエチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(ヒドロキシフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、等の水酸基含有環状オレフィン等を挙げることができる。中でも、得られる樹脂膜のITOしわ抑制性能を一層高める観点から、カルボキシル基含有環状オレフィンが好ましく、4-ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エンが特に好ましい。なお、環状オレフィン単量体(a)としては、一種又は複数種の単量体を用いることができる。
【0026】
環状オレフィン重合体(A-1)中における、環状オレフィン単量体(a)に由来する単位の含有割合は、環状オレフィン重合体(A-1)を構成する全繰り返し単位を100モル%として、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上が更に好ましく、90モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましく、70モル%以下が更に好ましい。環状オレフィン単量体(a)に由来する単位の含有割合を上記範囲とすることにより、得られる樹脂膜のITOしわ抑制性能を一層良好なものとすることができる。
【0027】
また、本発明で用いる環状オレフィン重合体(A-1)は、プロトン性極性基を有する環状オレフィン単量体(a)と、これと共重合可能な単量体(b)とを共重合して得られる共重合体であってもよい。このような共重合可能な単量体としては、プロトン性極性基以外の極性基を有する環状オレフィン単量体(b1)、極性基を持たない環状オレフィン単量体(b2)、及び環状オレフィン以外の単量体(b3)(以下、適宜、「単量体(b1)」、「単量体(b2)」、「単量体(b3)」という。)が挙げられる。ここで単量体(b1)~(b3)は、特性に影響が無い範囲で使用可能である。そして、環状オレフィン重合体(A-1)は、単量体(a)と、単量体(b1)とから構成されることが好ましい。さらに、下記に列挙する単量体(b1)の中でも、N-置換イミド基を有する環状オレフィンである、N-(2-エチルヘキシル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミドを用いることが好ましい。
【0028】
プロトン性極性基以外の極性基を有する環状オレフィン単量体(b1)が有する、プロトン性極性基以外の極性基の具体例としては、エステル基(アルコキシカルボニル基及びアリーロキシカルボニル基を総称していう。)、N-置換イミド基、エポキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボニルオキシカルボニル基(ジカルボン酸の酸無水物残基)、アルコキシ基、カルボニル基、第三級アミノ基、スルホン基、アクリロイル基等が挙げられる。中でも、プロトン性極性基以外の極性基としては、エステル基、N-置換イミド基及びシアノ基が好ましく、エステル基及びN-置換イミド基がより好ましく、N-置換イミド基が特に好ましい。
【0029】
そして、単量体(b1)の具体例としては、以下のような環状オレフィンが挙げられる。
エステル基を有する環状オレフィンとしては、例えば、5-アセトキシビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-メチル-5-メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、9-アセトキシテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-エトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-n-プロポキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-n-ブトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチル-9-メトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチル-9-エトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチル-9-n-プロポキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチル-9-イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチル-9-n-ブトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-(2,2,2-トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチル-9-(2,2,2-トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン等が挙げられる。
N-置換イミド基を有する環状オレフィンとしては、例えば、N-フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(2-エチルヘキシル)-1-イソプロピル-4-メチルビシクロ[2.2.2]オクト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(2-エチルヘキシル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-[(2-エチルブトキシ)エトキシプロピル]-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(エンド-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジイルジカルボニル)アスパラギン酸ジメチル等が挙げられる。
シアノ基を有する環状オレフィンとしては、例えば、9-シアノテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチル-9-シアノテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、5-シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン等が挙げられる。
ハロゲン原子を有する環状オレフィンとしては、例えば、9-クロロテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチル-9-クロロテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン等が挙げられる。
これらのプロトン性極性基以外の極性基を有する環状オレフィン単量体(b1)は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
極性基を持たない環状オレフィン単量体(b2)の具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(「ノルボルネン」ともいう。)、5-エチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-ブチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-メチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-ビニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-3,8-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、テトラシクロ[10.2.1.02,114,9]ペンタデカ-4,6,8,13-テトラエン、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン(「テトラシクロドデセン」ともいう。)、9-メチル-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-エチル-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチリデン-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-エチリデン-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-ビニル-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-プロペニル-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、ペンタシクロ[9.2.1.13,9.02,10]ペンタデカ-5,12-ジエン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、9-フェニル-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ-3,5,7,12-テトラエン、ペンタシクロ[9.2.1.13,9.02,10]ペンタデカ-12-エン等が挙げられる。
これらの極性基を持たない環状オレフィン単量体(b2)は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
環状オレフィン以外の単量体(b3)の具体例としては、鎖状オレフィンが挙げられる。鎖状オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等の炭素数2~20のα-オレフィン;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン等の非共役ジエン等が挙げられる。
これらの環状オレフィン以外の単量体(b3)は、それぞれ単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
環状オレフィン重合体(A-1)は、環状オレフィン単量体(a)を、所望により単量体(b1)~(b3)から選ばれる1種以上の単量体と共に重合することにより得られる。重合により得られた重合体を更に水素化してもよい。本発明では、水素添加された重合体も、プロトン性極性基を有する環状オレフィン系樹脂に含まれる。
【0033】
環状オレフィン重合体(A-1)は、プロトン性極性基を有しない環状オレフィン重合体に、公知の変性剤を利用してプロトン性極性基を導入し、所望により水素添加を行なう方法によっても得ることができる。ここで、水素添加は、プロトン性極性基導入前の重合体に対して行なってもよい。
また、環状オレフィン重合体(A-1)は、プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体に、更にプロトン性極性基を導入する方法によって得てもよい。
【0034】
<<ポリアミドイミド樹脂(A-2)>>
プロトン性極性基を有する重合体(A)としての、「ポリアミドイミド樹脂(A-2)」は、繰り返し単位にアミド結合及びイミド結合を有する重合体(即ち、ポリアミドイミド樹脂)であって、プロトン性極性基を有する重合体である。なお、ポリアミドイミド樹脂(A-2)は、プロトン性極性基を有しないポリアミドイミドに、公知の変性剤を利用してプロトン性極性基を導入する方法によっても得ることができる。また、ポリアミドイミド樹脂(A-2)は、プロトン性極性基を有するポリアミドイミドに、更にプロトン性極性基を導入する方法によって得てもよい。よって、下記列挙に係る各種ポリアミドイミドのうち、プロトン性極性基を有するものは、そのまま、或いは更に変性してプロトン性極性基を導入して用いることができ、プロトン性極性基を有さないものは、公知の変性剤を利用する等して変性してプロトン性極性基を導入してから、用いることができる。
【0035】
ポリアミドイミド樹脂(A-2)としては、分岐型構造を有するポリアミドイミド及び直鎖型構造を有するポリアミドイミドが挙げられる。中でも、ポリアミドイミドとしては、分岐型構造を有するポリアミドイミドが好ましい。ポリアミドイミド樹脂(A-2)が分岐型構造を有するポリアミドイミドであれば、樹脂組成物の耐薬品性を向上させることができる。
【0036】
分岐型構造を有するポリアミドイミドとしては、例えば、下式(2)で表される構造単位と下式(3)で表される構造単位を有し、且つ、下記構造式(α)、(β)及び(γ)で表される末端構造のいずれか1個以上を有する化合物、下式(4)で表される化合物、分岐型構造を有するポリアミドイミド樹脂(DIC株式会社製、ユニディックEMG‐793)、分岐型構造を有するポリアミドイミド樹脂(DIC株式会社製:ユニディックEMG‐1015)、などが挙げられる。
【0037】
【化3】
〔但し、上記式(2)中、R1は炭素数6~13の環式脂肪族構造を有する有機基を表す。〕
【0038】
【化4】
〔但し、上記式(3)中、Rは炭素数6~13の環式脂肪族構造を有する有機基を表し、Rは数平均分子量が700~4500の線状炭化水素構造を表す。〕
【0039】
【化5】
【0040】
【化6】
【0041】
【化7】
【0042】
【化8】
〔ただし、式(4)中、nは2以上200以下の整数である。〕
【0043】
上記式(4)で表される構造を有する、プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体は、例えば、下式(5)で表されるイソホロンジイソシアネートイソシアヌレート体と、無水トリメット酸とを反応させることにより得ることができる。
【化9】
【0044】
かかる反応において、水酸基を2個以上含有する多官能ポリオールを連鎖移動剤として添加して、上記式(4)の一部構造にウレタン構造を有する部位を導入してもよい。ウレタン構造を有する部位を上記式(4)の一部構造に導入することにより、分岐型構造を有するポリアミドイミドの物性をコントロールすることができる。ウレタン構造を有する部位としては、例えば、下式(6)で表される部位が挙げられる。
【0045】
【化10】
〔但し、上記式(6)中、Rは炭素数6~13の環式脂肪族構造を有する有機基を表し、Rは数平均分子量が700~4500の線状炭化水素構造を表す。〕
【0046】
また、直鎖型構造を有するポリアミドイミドとしては、例えば、下式(7)で表される化合物、などが挙げられる。
【0047】
【化11】
〔但し、上記式(7)中、nは2以上400以下の整数である。〕
【0048】
前記上記式(7)で表される化合物は、無水トリメット酸とイソホロンジイソシアネートとを反応させることにより得られる。
【0049】
<架橋剤(B)>
架橋剤(B)は、樹脂膜中に架橋構造を形成することにより、樹脂膜の耐熱性及びITOしわ抑制性能を高めるように作用する化合物である。架橋剤(B)は下式(1)で表される化合物である。
【化12】
〔式(1)中、複数のRは、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、及び炭素数1~6のアルコキシ基の何れかを示し、m、n、及びpは0~4の整数、qは0~5の整数をそれぞれ示す。〕
【0050】
ここで、Rに含まれうる炭素数1~6のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の直鎖、分岐鎖又は環状構造を有するアルキル基が挙げられる。この中でも、炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
また、Rに含まれうる炭素数1~6のアルコキシ基としては、特に限定されないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキソキシ基等の直鎖、分岐鎖又は環状構造を有するアルコキシ基が挙げられる。この中でも、炭素数1~6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。
ここで、得られる樹脂膜の耐熱性を一層高める観点から、m,n,p、及びqが全て「0」である、還元すれば、式(1)で表される化合物が置換基を有さないことが好ましい。この場合、上記式(1)において「R」が結合しうる位置に全て水素原子が結合している。
【0051】
さらに、式(1)を満たす架橋剤(B)が、置換基を有さず、且つ、2つのグリシジルエーテル基が所定の位置に結合してなる、下記構造を有する化合物であることが好ましい。かかる化合物は、日本化薬社製、「WHR-991S」として市販されている。
【化13】
【0052】
<<架橋剤(B)の含有量>>
そして、樹脂組成物における、プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部に対する、架橋剤(B)の含有量は、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることが更に好ましく、200質量部以下であることが好ましく、150質量部以下であることがより好ましく、90質量部以下であることが更に好ましく、60質量部以下であることが特に好ましく、40質量部以下であることが更に特に好ましい。プロトン性極性基を有する重合体(A)に対する架橋剤(B)の含有量が上記範囲内であれば、得られる樹脂膜の耐熱性及びITOしわ抑制性能を一層高めることができる。
【0053】
<アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物>
アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物は、得られる樹脂膜のITOしわ抑制性能を一層高めるように作用しうる成分である。さらに、樹脂組成物にアルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物を配合することで、樹脂膜の耐薬品性を高め得る。こういった効果を一層良好に発揮する観点から、樹脂組成物が、少なくともアルコキシメチル基を2つ以上有する化合物を含有することが好ましい。
【0054】
<<アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物>>
アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物としては、例えば、2つ以上のアルコキシメチル基が芳香環に直接結合してなるフェノール化合物、アミノ基が2つ以上のアルコキシメチル基で置換されてなるメラミン化合物、2つ以上のアルコキシメチル基で置換されてなるウレア化合物が挙げられる。
【0055】
2つ以上のアルコキシメチル基が芳香環に直接結合してなるフェノール化合物としては、例えば、2,6-ジメトキシメチル-4-t-ブチルフェノール、2,6-ジメトキシメチル-p-クレゾールなどのジメトキシメチル置換フェノール化合物;3,3’,5,5’-テトラメトキシメチル-4,4’- ジヒドロキシビフェニル(例えば、商品名「TMOM-BP」、本州化学工業社製)、1,1-ビス[3,5-ジ(メトキシメチル)-4-ヒドロキシフェニル]-1-フェニルエタンなどのテトラメトキシメチル置換ビフェニル化合物;4,4’,4”-(エチリデン)トリスフェノール(例えば、商品名「HMOM-TPHAP-GB」、本州化学工業社製)などのヘキサメトキシメチル置換トリフェニル化合物;が挙げられる。
【0056】
アミノ基が2つ以上のアルコキシメチル基で置換されてなるメラミン化合物としては、例えば、N,N’-ジメトキシメチルメラミン、N,N’,N”-トリメトキシメチルメラミン、N,N,N’,N”-テトラメトキシメチルメラミン、N,N,N’,N’,N”-ペンタメトキシメチルメラミン、N,N,N’,N’,N”,N”-ヘキサメトキシメチルメラミン(例えば、商品名「ニカラックMW-390LM」、商品名「ニカラックMW-100LM」、何れも三和ケミカル社製)、あるいはこれらの重合体などが挙げられる。
【0057】
2つ以上のアルコキシメチル基で置換されてなるウレア化合物としては、例えば、商品名「ニカラックMX270」、商品名「ニカラックMX280」、商品名「ニカラックMX290」(何れも三和ケミカル社製)が挙げられる。
【0058】
<<メチロール基を2つ以上有する化合物>>
メチロール基を2つ以上有する化合物としては、例えば、2つ以上のメチロール基が芳香環に直接結合してなるフェノール化合物が挙げられる。
そして、2つ以上のメチロール基が芳香環に直接結合してなるフェノール化合物としては、2,4-ジヒドロキシメチル-6-メチルフェノール、2,6-ビス(ヒドロキシメチル)-p-クレゾール、4-ターシャリー-2,6-ビス(ヒドロキシメチル)フェノール、ビス(2-ヒドロキシ-3-ヒドロキシメチル-5-メチルフェニル)メタン(商品名「DM-BIPC-F」、旭有機材社製)、ビス(4-ヒドロキシ-3-ヒドロキシメチル-5-メチルフェニル)メタン(商品名「DM-BIOC-F」、旭有機材社製)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジヒドロキシメチルフェニル)プロパン(商品名「TM-BIP-A」、旭有機材社製)などが挙げられる。
【0059】
上述したアルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物の中でも、反応性が高いという点より、アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物の一種である、N,N,N’,N’,N”,N”-ヘキサメトキシメチルメラミンが好ましい。
【0060】
[アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物の含有量]
樹脂組成物がアルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物の双方又は何れか一方を含む場合における、これらの合計含有量は、プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部あたり、1質量部以上100質量部以下とすることが好ましい。アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物の合計含有量が上記範囲内であれば、樹脂膜のITOしわ抑制性能を一層高めることができる。特に、アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物の合計含有量が上記上限値以下であれば、200℃以上といった高温条件下での硬化工程における減膜を抑制することができ、樹脂膜の耐熱性を一層高めることができる。
【0061】
<その他の添加剤>
本発明の樹脂組成物は、任意で、上記以外のその他の添加剤を含有していても良い。かかるその他の添加剤としては、上述した架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ化合物、シランカップリング剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び、感放射線化合物等が挙げられる。
【0062】
<<架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ化合物>>
架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ化合物の具体例としては、例えば、ジシクロペンタジエンを骨格とするエポキシ化合物(商品名「HP-7200」、DIC社製)、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物(シクロヘキサン骨格及び末端エポキシ基を有する15官能性の脂環式エポキシ樹脂、商品名「EHPE3150」、ダイセル社製)、エポキシ化3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ビス(3-シクロヘキセニルメチル)修飾ε-カプロラクトン(脂肪族環状3官能性のエポキシ樹脂、商品名「エポリードGT301」、ダイセル社製)、ブタンテトラカルボン酸テトラ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)修飾ε-カプロラクトン(脂肪族環状4官能性のエポキシ樹脂、商品名「エポリードGT401」、ダイセル社製)、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(商品名「セロキサイド2021」、「セロキサイド2021P」、ダイセル社製)、ε-カプロラクトン変性3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(商品名「セロキサイド2081」、ダイセル社製)、1,2:8,9-ジエポキシリモネン(商品名「セロキサイド3000」、ダイセル社製)等の脂環構造を有するエポキシ化合物;及び、ビスフェノールA型エポキシ化合物(商品名「jER825」、「jER827」、「jER828」、「jERYL980」、三菱化学社製、商品名「EPICLON840」、「EPICLON850」、DIC社製)、ビスフェノールF型エポキシ化合物(商品名「jER806」、「jER807」、「jERYL983U」、三菱化学社製、商品名「EPICLON830」、「EPICLON835」、DIC社製)、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物(商品名「jERYX8000」、「jERYX8034」三菱化学社製、商品名「ST-3000」新日鉄住金社製、商品名「リカレジンHBE-100」新日本理化社製、商品名「エポライト4000」共栄化学社製)、長鎖ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「EXA-4816」、「EXA-4850-150」、「EXA-4850-1000」DIC社製)、EO変性ビスフェノールA型エポキシ化合物(商品名「アデカレジンEP-4000L」、「アデカレジンEP-4010L」、ADEKA社製)、フェノールノボラック型多官能エポキシ化合物(商品名「jER152」、三菱化学社製)、1,6-ビス(2,3-エポキシプロパン-1-イルオキシ)ナフタレンなどのナフタレン骨格を有する多官能エポキシ化合物(商品名「HP-4032D」、DIC社製)、ジシクロペンタジエンジメタノールジグリシジルエーテル(商品名「アデカレジンEP-4000L」、「アデカレジンEP-4088L」、ADEKA社製)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(商品名「商品名「jER630」、三菱化学社製、商品名「TETRAD-C」、「TETRAD-X」、三菱ガス化学社製)、鎖状アルキル多官能エポキシ化合物(商品名「SR-TMP」、阪本薬品工業社製)、多官能エポキシポリブタジエン(商品名「エポリードPB3600」、ダイセル社製)、(商品名「エポリードPB4700」、ダイセル社製)、グリセリンのグリシジルポリエーテル化合物(商品名「SR-GLG」、阪本薬品工業社製)、ジグリセリンポリグリシジルエーテル化合物(商品名「SR-DGE」、阪本薬品工業社製)、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル化合物(商品名「SR-4GL」、阪本薬品工業社製)等の脂環構造を有さないエポキシ化合物;などを挙げることができる。なお、これらは、一種単独で、或いは複数種を組み合わせて用いることができる。
中でも、脂環構造を有するエポキシ化合物、すなわち、脂環式エポキシ化合物が好ましい。樹脂組成物に脂環式エポキシ化合物を配合することで、得られる樹脂膜の透明性を高めることができる。
【0063】
樹脂組成物中における、架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ化合物の含有量は、プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部あたり、100質量部以下であることが好ましい。架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ含有化合物の含有量が100質量部以下であれば、樹脂膜の耐薬品性を効率的に高めることができる。なお、樹脂組成物が、上述した所定の架橋剤(B)に加えて、架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ化合物を含有する場合には、架橋剤(B)及び架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ化合物の合計含有量が、<<架橋剤(B)の含有量>>の項目にて上述した、樹脂組成物におけるプロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部に対する架橋剤(B)の含有量の好適範囲を満たすことが好ましい。
【0064】
<<シランカップリング剤、界面活性剤、及び酸化防止剤>>
シランカップリング剤は、本発明の樹脂組成物を用いて得られる樹脂膜と、当該樹脂膜が形成された基材との間の密着性を高めるように機能する。そして、シランカップリング剤としては、特に限定されることなく、公知のものを用いることができる(例えば、特開2015‐94910号参照)。より具体的には、シランカップリング剤としては、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン類を好適に用いることができる。
また、シランカップリング剤の含有量は、通常、プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部あたり、0.01質量部以上5質量部以下である。
【0065】
界面活性剤は、本発明の樹脂組成物の塗工性を向上させうる成分である。界面活性剤としては、特に限定されることなく、公知のシリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、ポリオキシアルキレン系界面活性剤、メタクリル酸共重合体系界面活性剤、及びアクリル酸共重合体系界面活性剤等を用いることができる(例えば、国際公開第2017/163981号参照)。中でも、界面活性剤としては、オルガノシロキサンポリマー等のシリコーン系界面活性剤を好適に用いることができる。
また、界面活性剤の含有量は、通常、プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部あたり、0.01質量部以上1質量部以下である。
【0066】
酸化防止剤は、本発明の樹脂組成物の安定性を高め得る成分である。酸化防止剤としては、特に限定されることなく、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤のような、公知の酸化防止剤を用いることができる(例えば、特開2014-149477号参照)。
【0067】
なお、シランカップリング剤、界面活性剤、及び酸化防止剤は、それぞれ、一種単独で、或いは、2種以上を組み合わせて用いることができる。また、樹脂組成物に配合するシランカップリング剤、界面活性剤、及び酸化防止剤の量は、任意に調整し得る。
【0068】
<<感放射線化合物>>
感放射線化合物は、放射線が照射されると化学反応を引き起こすことができる化合物である。ここで、放射線としては、特に限定されることなく、例えば、可視光線;紫外線;X線;g線、h線、i線等の単一波長の光線;KrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光等のレーザー光線;電子線等の粒子線;などが挙げられる。感放射線化合物としては、特に限定されることなく、アセトフェノン化合物、トリアリールスルホニウム塩、及び、アジド化合物を用いることができる。中でも、キノンジアジド化合物等のアジド化合物を好適に用いることができる。感放射線化合物は、一種を単独で、或いは、2種以上を組み合わせて用いることができる。また、樹脂組成物に配合する感放射線化合物の量は、任意に調整し得る。
【0069】
<溶剤>
本発明の樹脂組成物が任意に含有し得る溶剤としては、特に限定されることなく、樹脂組成物の溶剤として公知の溶剤を用いることができる。そのような溶剤としては、例えば、直鎖のケトン類、アルコール類、アルコールエーテル類、エステル類、セロソルブエステル類、プロピレングリコール類、ジエチレングリコールエチルメチルエーテルなどのジエチレングリコール類、飽和γ-ラクトン類、ハロゲン化炭化水素類、芳香族炭化水素類、並びに、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びN-メチルアセトアミドなどの極性溶媒などが挙げられる(例えば、国際公開第2015/033901号参照)。
なお、これらの溶剤は、一種単独で、或いは、2種以上を混合して用いることができる。
そして、樹脂組成物中の溶剤の量は、特に限定されることなく、プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、好ましくは10000質量部以下、より好ましくは5000質量部以下、さらに好ましくは1000質量部以下である。
【0070】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明の樹脂組成物は、上述した成分を既知の方法により混合し、任意にろ過することで、調製することができる。ここで、混合には、スターラー、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの既知の混合機を用いることができる。また、混合物のろ過には、フィルター等のろ材を用いた一般的なろ過方法を採用することができる。
【0071】
<樹脂膜の製造方法>
本発明の樹脂組成物からなる樹脂膜は、上述した本発明の樹脂組成物を用いて形成した塗膜を200℃以上で加熱する工程(硬化工程)を含む、本発明の樹脂膜の製造方法により、製造することができる。本発明の樹脂膜の製造方法は、さらに、樹脂膜を形成する基板上に本発明の樹脂組成物を使用して塗膜を形成する工程(塗膜形成工程)を含んでいても良い。
また、樹脂膜を形成する基板上への塗膜の配設は、特に限定されることなく、塗布法やフィルム積層法等の既知の方途に従って行うことができる。なお、任意で、樹脂膜を形成する際に、塗膜をパターニングしても良い。パターニング方法としては、塗膜を露光し、現像する操作を伴う既知のパターニング方法を適用することができる。この場合、樹脂膜を形成するために用いる樹脂組成物は、感放射線化合物を含有しうる。
【0072】
<<塗膜形成工程>>
ここで、塗布法による塗膜の形成は、樹脂組成物を基板上に塗布した後、加熱乾燥(プリベーク)することにより行うことができる。なお、樹脂組成物を塗布する方法としては、例えば、スプレーコート法、スピンコート法、ロールコート法、ダイコート法、ドクターブレード法、回転塗布法、バー塗布法、スクリーン印刷法、インクジェット法等の各種の方法を採用することができる。加熱乾燥条件は、樹脂組成物に含まれている成分の種類や配合割合に応じて異なるが、加熱温度は、通常、30~150℃、好ましくは60~120℃であり、加熱時間は、通常、0.5~90分間、好ましくは1~60分間、より好ましくは1~30分間である。
【0073】
また、フィルム積層法による塗膜の形成は、樹脂組成物を樹脂フィルムや金属フィルム等のBステージフィルム形成用基材上に塗布し、加熱乾燥(プリベーク)することによりBステージフィルムを得た後、次いで、このBステージフィルムを基板上に積層することにより行うことができる。なお、Bステージフィルム形成用基材上への樹脂組成物の塗布及び樹脂組成物の加熱乾燥は、上述した塗布法における樹脂組成物の塗布及び加熱乾燥と同様にして行うことができる。また、積層は、加圧ラミネータ、プレス、真空ラミネータ、真空プレス、ロールラミネータ等の圧着機を用いて行なうことができる。
【0074】
<<硬化工程>>
硬化工程では、塗膜を200℃以上の温度で加熱(ポストベーク)して硬化させる。
【0075】
塗膜の加熱は、特に限定されることなく、例えば、ホットプレート、オーブン等を用いて行なうことができる。なお、加熱は、必要に応じて不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトン等が挙げられる。これらの中でも窒素とアルゴンが好ましく、特に窒素が好ましい。
【0076】
ここで、硬化工程にて塗膜を加熱する際の温度は、200℃以上であり、250℃以上であることが好ましい。本発明の樹脂組成物を使用すれば、塗膜を加熱する際の温度が200℃以上と高温である場合にも、良好に成膜することができる。さらに、硬化工程にて塗膜を加熱する際の温度の上限は特に限定されないが、400℃以下であることが好ましい。
なお、硬化工程にて塗膜を加熱する時間は、塗膜の面積や厚さ、加熱に使用する機器等に応じて適宜選択することができるが、例えば、10~120分間とすることができる。
【0077】
そして、かかる硬化工程を経た樹脂膜は、波長400nmの光の透過率が97%以上であることが好ましい。なお、「透過率」は、実施例に記載した方法に従って測定することができる。
【0078】
(電子部品)
本発明の電子部品は、上述した本発明の樹脂組成物からなる樹脂膜を備える。そして、本発明の電子部品は、本発明の樹脂組成物から形成された、耐熱性及びITOしわ抑制性能に優れる樹脂膜を備えているため、高性能である。
【0079】
<電子部品の種類>
本発明の電子部品の種類は、特に限定されない。例えば、本発明の樹脂組成物からなる樹脂膜が、耐熱性及びITOしわ抑制性能に優れたものであることから、本発明の電子部品は、本発明の樹脂組成物から成る樹脂膜の表面上にITO膜が配置されてなる、ITO電極を備える電子部品でありうる。また、例えば、本発明の樹脂膜は、半導体デバイスに備えられる再配線層の層間絶縁膜であっても良い。
【実施例
【0080】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例及び比較例において、樹脂膜のITOしわ抑制性能、加熱減量、及び透過率は、それぞれ以下の方法を使用して評価した。
【0081】
<ITOしわ抑制性能>
ガラス基板(コーニング社製、コーニング1737)上に実施例、比較例で得た樹脂組成物をスピンコート法により塗布し、ホットプレートを用いて120℃で2分間加熱乾燥(プリベーク)して、塗膜を形成した。次いで、オーブンを用いて、窒素雰囲気下、30℃から10℃/分で300℃まで昇温後、300℃で60分間加熱するポストベークを行うことで、膜厚2μmの樹脂膜を形成した。この樹脂膜上に、ITO透明電極をスパッタリング装置(芝浦エレテック社製、「i-Miller CFS-4EP-LL」、ステージ温度30℃)により40nmの膜厚で形成した。得られたITO透明電極付きの積層体のガラス基板を1.5cm角に切断して試験片を作製した。作製した試験片のガラス基板側を270℃又は300℃で加熱したホットプレート上に5分置いた後、室温まで冷却した。次いで、試験片のITO透明電極側表面を光学顕微鏡(100倍)で観察し、しわ部分の面積の、樹脂膜表面の全面積(1.5cm×1.5cm)に対する割合を算出し、以下の基準で評価した。なお、しわ部分の面積は、光学顕微鏡で得られた画像を二値化処理して抽出した。
A:樹脂膜の表面にしわの発生なし。
B:樹脂膜の表面にしわの発生はあるが、しわ部分の面積が樹脂膜表面の全面積の1/4未満。
C:樹脂膜の表面にしわの発生はあるが、しわ部分の面積が樹脂膜表面の全面積の1/4以上1/2未満。
D:樹脂膜の表面にしわの発生があり、しわ部分の面積が樹脂膜表面の全面積の1/2以上。
<加熱減量>
スパッタリング装置(芝浦エレテック社製、「i-Miller CFS-4EP-LL」)を用いて、アルミニウム薄膜が100nmの膜厚で形成されたシリコンウェハ上に、実施例、比較例で得た樹脂組成物をスピンコートした後、ホットプレートを用いてシリコンウェハを120℃で2分間加熱した(塗膜形成工程)。次いで、窒素雰囲気下、30℃から10℃/分で300℃まで昇温後、300℃で60分間の条件で熱処理させることで樹脂膜を得て、膜厚10μmの樹脂膜を片面に備える積層体を得た(硬化工程)。
得られた積層体を0.5mol/Lの塩酸水溶液に浸漬し、シリコンウェハと樹脂膜の間に位置するアルミニウム薄膜を塩酸水溶液にて溶解させることで樹脂膜をシリコンウェハから剥離した。次いで剥離した樹脂膜を水洗し、乾燥した。乾燥後の樹脂膜を示差熱熱重量同時測定装置(セイコーインスツル社製、TG/DTA6200)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で300℃まで到達させ、300℃で1時間保持した際の、300℃到達時の試料の質量W0及び300℃の保持終了時の試料の質量W1をそれぞれ測定して、それらの値から加熱減量の値:(W0-W1)/W0×100(%)を算出し、以下の基準で評価した。加熱減量が少ないほど、樹脂膜が耐熱性に優れることを意味する。
A:300℃における加熱減量が1%未満。
B:300℃における加熱減量が1%以上3%未満。
C:300℃における加熱減量が3%以上。
<光線透過率>
ガラス基板(コーニング社製、コーニング1737)上に実施例、比較例で得た樹脂組成物をスピンコート法により塗布し、ホットプレートを用いて120℃で2分間加熱乾燥(プリベーク)して、膜厚2μmの塗膜を形成した(塗膜形成工程)。次いで、オーブンを用いて、窒素雰囲気下、30℃から10℃/分で300℃まで昇温後、300℃で60分間加熱するポストベークを行うことで、樹脂膜とガラス基板とからなる積層体を得た(硬化工程)。
得られた積層体について、分光光度計V‐560(日本分光社製)を用いて波長400nmの光における光線透過率(%)を測定した。
なお、樹脂膜の光線透過率(%)は、樹脂膜が付いていないガラス基板をブランクとして、樹脂膜の厚みを2μmとした場合の換算値で算出し、以下の基準で評価した。
A:光線透過率が97%以上。
B:光線透過率が97%未満。
【0082】
(合成例1:プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(A-1)の合成)
N-置換イミド基を有する環状オレフィンとしてのN-(2-エチルヘキシル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド40モル%、及びプロトン性極性基を有する環状オレフィンとしての4-ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン60モル%からなる単量体混合物100部、1,5-ヘキサジエン2部、(1,3-ジメシチルイミダゾリン-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド(Org.Lett.,第1巻,953頁,1999年 に記載された方法で合成した)0.02部、及びジエチレングリコールエチルメチルエーテル200部を、窒素置換したガラス製耐圧反応器に仕込み、攪拌しつつ80℃にて4時間反応させて重合反応液を得た。
そして、得られた重合反応液をオートクレーブに入れて、150℃、水素圧4MPaで、5時間攪拌して水素化反応を行い、プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(A-1)としての水添重合体を含む重合体溶液を得た。得られた環状オレフィン重合体(A-1)の重合転化率は99.7%、ポリスチレン換算重量平均分子量は7,150、数平均分子量は4,690、分子量分布は1.52、水素添加率は、99.7%であった。また、得られた環状オレフィン重合体(A-1)の重合体溶液の固形分濃度は34.4質量%であった。
【0083】
(合成例2:プロトン性極性基を有さない環状オレフィン重合体(A-3)の合成)
テトラシクロ[6.5.0.1 2,5.0 8,13]トリデカ-3,8,10,12-テトラエン(MTF)80モル部、N-(4-フェニル)-(5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド)(NBPI)20モル部、1-ヘキセン 6モル部、アニソール 590モル部及びルテニウム系重合触媒として4-アセトキシベンジリデン(ジクロロ)(4,5-ジブロモ-1,3-ジメシチル-4-イミダゾリン-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(C1063、和光純薬社製)0.015モル部を、窒素置換した耐圧ガラス反応器に仕込み、攪拌下に80℃で1時間の重合反応を行って開環重合体の溶液を得た。この溶液について、ガスクロマトグラフィーを測定したところ、実質的に単量体が残留していないことが確認され、重合転化率は99%以上であった。
次いで、窒素置換した攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体の溶液を仕込み、150℃、水素圧7MPaで、5時間攪拌させて水素添加反応を行った。得られた水素化反応溶液を濃縮して、プロトン性極性基を有さない環状オレフィン重合体(A-3)の溶液(固形分濃度55.5%)を得た。得られたプロトン性極性基を有さない環状オレフィン重合体(A-3)の重量平均分子量は50000、数平均分子量は20000、水素添加率は97%であった。
【0084】
(合成例3:プロトン性極性基を有さない環状オレフィン重合体(A-4)の合成)
以下の通りの操作により、プロトン性極性基に代えて、カルボン酸無水物基を有する環状オレフィン重合体(A-4)を合成した。
重合1段目として5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン35モル部、1-ヘキセン0.9モル部、アニソール340モル部及びルテニウム系重合触媒として4-アセトキシベンジリデン(ジクロロ)(4,5-ジブロモ-1,3-ジメシチル-4-イミダゾリン-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(C1063、和光純薬社製)0.005モル部を、窒素置換した耐圧ガラス反応器に仕込み、攪拌下に80℃で30分間の重合反応を行ってノルボルネン系開環重合体の溶液を得た。
次いで、重合2段目として重合1段目に得た溶液中にテトラシクロ[9.2.1.0 2,10.0 3,8]テトラデカ-3,5,7,12-テトラエン(メタノテトラヒドロフルオレン)35モル部、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸無水物30モル部、アニソール250モル部、及びC1063 0.01モル部を追加し、攪拌下に80℃で1.5時間の重合反応を行ってノルボルネン系開環重合体の溶液を得た。この溶液について、ガスクロマトグラフィーを測定したところ、実質的に単量体が残留していないことが確認され、重合転化率は99%以上であった。
次いで、窒素置換した攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体の溶液を仕込み、C1063 0.03モル部を追加し、150℃、水素圧7MPaで、5時間攪拌させて水素添加反応を行った。かかる水素添加反応の結果得られた水素化反応溶液を濃縮して、プロトン性極性基を有さない環状オレフィン重合体(A-4)の溶液(固形分濃度55.5%)を得た。プロトン性極性基を有さない環状オレフィン重合体(A-4)の重量平均分子量は60,000、数平均分子量は30,000、分子量分布は2であった。また、水素添加率は95%であり、カルボン酸無水物基を有する繰り返し単位の含有率は30モル%であった。さらにまた、プロトン性極性基を有さない環状オレフィン重合体(A-4)の溶液の固形分濃度は22%であった。
【0085】
(実施例1)
合成例1で得られたプロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(A-1)の溶液291部(環状オレフィン重合体(A-1)として100部)、下式を満たす架橋剤(B)としての化合物(日本化薬社製、WHR-991S)10部、界面活性剤としてのオルガノシロキサンポリマー(信越化学社製、製品名「KP?341」)0.1部、シランカップリング剤としてのグリシドキシプロピルトリメトキシシラン(XIAMETER社製、製品名「OFS?6040」)1部、酸化防止剤として、ペンタエリズリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート](商品名「Irganox1010FF」、BASF社製)2.1部、並びに、溶剤としてのジエチレングリコールエチルメチルエーテル(東邦化学社製、製品名「EDM-S」)27部を混合し、溶解させた後、孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過して、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて形成した塗膜のITOしわ抑制性能、加熱減量、及び光線透過率を評価した。結果を表1に示す。
【化14】
【0086】
(実施例2~7)
架橋剤(B)の配合量、及び溶剤としてのジエチレングリコールエチルメチルエーテルの配合量を表1に示す通りにそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例8)
架橋剤(B)の配合量を25部とし、溶剤としてのジエチレングリコールエチルメチルエーテルの配合量を53部とし、さらに、アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物としてN,N,N’,N’,N”,N”-ヘキサメトキシメチルメラミン(製品名「ニカラックMW-100LM」、三和ケミカル社製)10部を配合した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例9)
架橋剤(B)の配合量を25部とし、溶剤としてのジエチレングリコールエチルメチルエーテルの配合量を71部とし、さらに、架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ化合物として、ブタンテトラカルボン酸テトラ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)修飾ε-カプロラクトン(ダイセル社製、製品名「エポリードGT401」)20部を配合した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例10)
プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(A-1)の溶液に代えて、分岐型構造を有するポリアミドイミド樹脂のプロピレングリコールメチルエーテルアセタート及びn-ブタノール混合溶液229部(DIC社製、ユニディックEMG‐793、カルボキシル基を有する分岐型ポリアミドイミド樹脂(A-2)として100部)を用い、所定の構造を有する架橋剤(B)の配合量を30部に、溶剤としてのジエチレングリコールエチルメチルエーテルを69部に変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
(比較例1)
架橋剤(B)を配合せず、これに代えて、架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ化合物である、ブタンテトラカルボン酸テトラ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)修飾ε-カプロラクトン(ダイセル社製、製品名「エポリードGT401」)60部を配合し、さらに、溶剤としてのジエチレングリコールエチルメチルエーテルの配合量を97部に変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(比較例2)
架橋剤(B)を配合せず、これに代えて、架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ化合物である、ビスフェノールA型エポキシ化合物(三菱ケミカル社製、「828EL」)60部を配合し、さらに、溶剤としてのジエチレングリコールエチルメチルエーテルの配合量を97部に変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
(比較例3)
架橋剤(B)を配合せず、これに代えて、架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ化合物である、イソシアヌル酸構造を有する6官能液状エポキシ化合物(日産化学社製、「TEPIC UC」)60部を配合し、さらに、溶剤としてのジエチレングリコールエチルメチルエーテルの配合量を97部に変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
(比較例4)
プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(A-1)の溶液に代えて、プロトン性極性基を有さない環状オレフィン重合体(A-3)の溶液180部(プロトン性極性基を有さない環状オレフィン重合体(A-3)として100部)を用い、所定の構造を有する架橋剤(B)の配合量を30部に変更し、さらに、溶剤をアニソール362部に変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
(比較例5)
プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(A-1)の溶液に代えて、プロトン性極性基を有さない環状オレフィン重合体(A-4)の溶液180部(プロトン性極性基を有さない環状オレフィン重合体(A-4)として100部)を用い、所定の構造を有する架橋剤(B)の配合量を30部に変更し、さらに、溶剤をアニソール362部に変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
表1より、所定のプロトン性極性基を有する重合体(A)と、特定の構造を満たす架橋剤(B)とを含有する実施例1~10の樹脂組成物によれば、加熱減量が少なく耐熱性優れると共に、ITOしわ抑制性能に優れる樹脂膜を形成することができたことが分かる。また、表1より、特定の構造を満たす架橋剤(B)を含有しない樹脂組成物を用いた比較例1~3の場合には、耐熱性及びITOしわ抑制性能の双方に優れる樹脂膜を形成することができなかったことが分かる。さらにまた、表1より、プロトン性極性基を有さない環状オレフィン重合体を用いた比較例4では、得られた樹脂膜の耐熱性は優れていたが、ITOしわ抑制性能は低かったことが分かる。そして、表1より、プロトン性極性基を有さないが、カルボン酸無水物基は含有する環状オレフィン重合体を用いた比較例5でも、得られた樹脂膜の耐熱性は優れていたが、ITOしわ抑制性能は低かったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の樹脂組成物によれば、耐熱性及びITOしわ抑制性能に優れる樹脂膜を形成することができる。
また、本発明によれば、本発明の樹脂組成物を用いて形成された樹脂膜を備える高性能な電子部品を提供することができる。
さらにまた、本発明によれば、本発明の樹脂組成物を用いて本発明の樹脂膜を効率的に製造し得る樹脂膜の製造方法を提供することができる。