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特許7439872複合材料の物性値予測装置、物性値予測プログラム及び物性値予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】複合材料の物性値予測装置、物性値予測プログラム及び物性値予測方法
(51)【国際特許分類】
   G16C 20/30 20190101AFI20240220BHJP
【FI】
G16C20/30
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022139905
(22)【出願日】2022-09-02
【審査請求日】2023-10-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】社内 大介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 岳大
(72)【発明者】
【氏名】木部 有
(72)【発明者】
【氏名】谷 毅彦
【審査官】橋沼 和樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-088015(JP,A)
【文献】特開2022-087429(JP,A)
【文献】特開2021-047627(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0052393(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16C 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料に要求される物性に対応する物性値を予測する物性値予測装置であって、
説明変数として複合材料を構成する材料の配合情報と前記材料の特徴情報とを用い、目的変数として予め定められた物性に対応する物性値を算出するように学習された物性回帰式を前記物性に対応して記憶するとともに、前記特徴情報の算出に必要な前記材料の特徴量の値を記憶する記憶部と、
予測対象の複合材料を構成する材料の配合情報を受け付ける受付部と、
前記物性に対応する前記物性回帰式を前記記憶部から取得し、取得した前記物性回帰式を用いて、前記物性値を算出する物性値算出部と、を備え、
前記配合情報及び前記特徴情報を用いて作成された前記物性回帰式は、前記必要な材料の前記配合情報及び前記特徴量の値から前記特徴情報を算出するための特徴関数を含み、
前記物性値算出部は、前記物性回帰式を用いて、受け付けた前記材料の前記配合情報と、当該配合情報及び受け付けた前記材料の前記特徴量の値から算出された前記特徴情報に基づいて前記物性値を算出する、
物性値予測装置。
【請求項2】
複合材料に要求される物性に対応する物性値を予測する物性値予測装置であって、
説明変数として複合材料を構成する材料の配合情報と前記材料の特徴情報とを用い、目的変数として予め定められた第1の物性に対応する第1の物性値を算出するように学習された第1の物性回帰式を前記第1の物性に対応して記憶し、説明変数として前記複合材料を構成する前記材料の前記配合情報を用い、目的変数として予め定められた第2の物性に対応する第2の物性値を算出するように学習された第2の物性回帰式を前記第2の物性に対応して記憶するとともに、前記特徴情報の算出に必要な前記材料の特徴量の値を記憶する記憶部と、
予測対象の複合材料を構成する材料の配合情報を受け付ける受付部と、
前記第1または第2の物性に対応する前記第1または第2の物性回帰式を前記記憶部から取得し、取得した前記第1または第2の物性回帰式を用いて、前記第1または第2の物性値を算出する物性値算出部と、を備え、
前記配合情報及び前記特徴情報を用いて作成された前記第1の物性回帰式は、前記必要な材料の前記配合情報及び前記特徴量の値から前記特徴情報を算出するための特徴関数を含み、
前記物性値算出部は、
前記第1の物性回帰式を取得した場合は、取得した前記第1の物性回帰式を用いて、受け付けた前記材料の前記配合情報と、当該配合情報及び受け付けた前記材料の前記特徴量の値から算出された前記特徴情報に基づいて前記第1の物性値を算出し、
前記第2の物性回帰式を取得した場合は、取得した前記第2の物性回帰式を用いて、受け付けた前記配合情報に基づいて前記第2の物性値を算出する、
性値予測装置。
【請求項3】
前記特徴情報は、材料の構造的な特徴情報である、
請求項1または2に記載の物性値予測装置。
【請求項4】
前記複合材料は、高分子複合材料であり、
前記構造的な特徴情報は、前記高分子複合材料中のポリマーについての体積分率、エチレンとの共重合体の含有率、及び無水マレイン酸変性量、並びに前記高分子複合材料中の難燃剤についての体積分率及び表面積のいずれかである、
請求項3に記載の物性値予測装置。
【請求項5】
前記特徴情報は、材料の熱的な特徴情報である、
請求項1または2に記載の物性値予測装置。
【請求項6】
前記複合材料は、高分子複合材料であり、
前記熱的な特徴情報は、前記高分子複合材料中のポリマーについての結晶部の融解熱及びメルトフローレートのいずれかである、
請求項5に記載の物性値予測装置。
【請求項7】
複合材料に要求される物性に対応する物性値を予測する物性値予測装置のコンピュータを、
予測対象の複合材料を構成する材料の配合情報を受け付ける受付部と、
説明変数として複合材料を構成する材料の配合情報と前記材料の特徴情報とを用い、目的変数として予め定められた物性に対応する物性値を算出するように学習された物性回帰式を前記物性に対応して記憶するとともに、前記特徴情報の算出に必要な前記材料の特徴量の値を記憶する記憶部から、前記物性に対応する前記物性回帰式を取得し、取得した前記物性回帰式を用いて、前記物性値を算出する物性値算出部、
として機能させるための物性値予測プログラムであって、
前記配合情報及び前記特徴情報を用いて作成された前記物性回帰式は、前記必要な材料の前記配合情報及び前記特徴量の値から前記特徴情報を算出するための特徴関数を含み、
前記物性値算出部は、前記物性回帰式を用いて、受け付けた前記材料の前記配合情報と、当該配合情報及び受け付けた前記材料の前記特徴量の値から算出された前記特徴情報に基づいて前記物性値を算出する、
物性値予測プログラム。
【請求項8】
複合材料に要求される物性に対応する物性値を予測する物性値予測装置のコンピュータを、
予測対象の複合材料を構成する材料の配合情報を受け付ける受付部と、
説明変数として複合材料を構成する材料の配合情報と前記材料の特徴情報とを用い、目的変数として予め定められた第1の物性に対応する第1の物性値を算出するように学習された第1の物性回帰式を前記物性に対応して記憶し、説明変数として前記複合材料を構成する前記材料の前記配合情報を用い、目的変数として予め定められた第2の物性に対応する第2の物性値を算出するように学習された第2の物性回帰式を前記物性に対応して記憶するとともに、前記特徴情報の算出に必要な前記材料の特徴量の値を記憶する記憶部から、前記物性に対応する前記第1または第2の物性回帰式を取得し、取得した前記第1または第2の物性回帰式を用いて、前記第1または第2の物性値を算出する物性値算出部、として機能させるための物性値予測プログラムであって、
前記配合情報及び前記特徴情報を用いて作成された前記第1の物性回帰式は、前記必要な材料の前記配合情報及び前記特徴量の値から前記特徴情報を算出するための特徴関数を含み、
前記物性値算出部は、
前記第1の物性回帰式を取得した場合は、取得した前記第1の物性回帰式を用いて、受け付けた前記材料の前記配合情報と、当該配合情報及び受け付けた前記材料の前記特徴量の値から算出された前記特徴情報に基づいて前記第1の物性値を算出し、
前記第2の物性回帰式を取得した場合は、取得した前記第2の物性回帰式を用いて、受け付けた前記配合情報に基づいて前記第2の物性値を算出する、
物性値予測プログラム。
【請求項9】
複合材料に要求される物性に対応する物性値を予測する物性値予測方法であって、
予測対象の複合材料を構成する材料の配合情報を受け付ける受付ステップと、
説明変数として複合材料を構成する材料の配合情報と前記材料の特徴情報とを用い、目的変数として予め定められた物性に対応する物性値を算出するように学習された物性回帰式を前記物性に対応して記憶するとともに、前記特徴情報の算出に必要な前記材料の特徴量の値を記憶する記憶部から、前記物性に対応する前記物性回帰式を取得し、取得した前記物性回帰式を用いて、前記物性値を算出する物性値算出ステップと、を含み、
前記配合情報及び前記特徴情報を用いて作成された前記物性回帰式は、前記必要な材料の前記配合情報及び前記特徴量の値から前記特徴情報を算出するための特徴関数を含み、
前記物性値算出ステップは、前記物性回帰式を用いて、受け付けた前記材料の前記配合情報と、当該配合情報及び受け付けた前記材料の前記特徴量の値から算出された前記特徴情報に基づいて前記物性値を算出する、
物性値予測方法。
【請求項10】
複合材料に要求される物性に対応する物性値を予測する物性値予測方法であって、
予測対象の複合材料を構成する材料の配合情報を受け付ける受付ステップと、
説明変数として複合材料を構成する材料の配合情報と前記材料の特徴情報とを用い、目的変数として予め定められた第1の物性に対応する第1の物性値を算出するように学習された第1の物性回帰式を前記第1の物性に対応して記憶し、説明変数として前記複合材料を構成する前記材料の前記配合情報を用い、目的変数として予め定められた第2の物性に対応する第2の物性値を算出するように学習された第2の物性回帰式を前記第2の物性に対応して記憶するとともに、前記特徴情報の算出に必要な前記材料の特徴量の値を記憶する記憶部から、前記第1または第2の物性に対応する前記第1または第2の物性回帰式を取得し、取得した前記前記第1または第2の物性回帰式を用いて、前記物性値を算出する物性値算出ステップと、を含み、
前記配合情報及び前記特徴情報を用いて作成された前記第1の物性回帰式は、前記必要な材料の前記配合情報及び前記特徴量の値から前記特徴情報を算出するための特徴関数を含み、
前記物性値算出ステップは、
前記第1の物性回帰式を取得した場合は、取得した前記第1の物性回帰式を用いて、受け付けた前記材料の前記配合情報と、当該配合情報及び受け付けた前記材料の前記特徴量の値から算出された前記特徴情報に基づいて前記第1の物性値を算出し、
前記第2の物性回帰式を取得した場合は、取得し前記第2の物性回帰式を用いて、受け付けた前記配合情報に基づいて前記第2の物性値を算出する、
物性値予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料の物性値予測装置、物性値予測プログラム及び物性値予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数のポリマー及び複数の配合剤を含む個々の材料から構成されたポリマー組成物の性能を予測するポリマー組成物の性能予測方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載されたポリマー組成物の性能予測方法は、コンピュータに、複数のポリマー及び複数の配合剤を含む個々の材料の分子に関する情報と、材料をいくつか混合した複数種類のポリマー組成物の材料の配合割合と、各ポリマー組成物に対応する性能とを入力して、コンピュータが近似応答関数を構築する工程と、コンピュータに、評価対象のポリマー組成物の材料の配合割合と、各材料の分子に関する情報とを入力する工程と、コンピュータが、近似応答関数と、予測対象のポリマー組成物の材料の配合割合と、分子に関する情報とに基づいて、予測対象のポリマー組成物の性能を計算する工程とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6627624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者らの知見によると、複合材料を構成する材料の比重、表面積等の材料の特徴に関する情報が物性に影響を与えることを見出した。
【0006】
本発明の目的は、予測対象の複合材料を構成する材料の配合情報のみに基づいて物性値を予測する場合と比較して、物性値の高精度な予測が可能な複合材料の物性値予測装置、物性値予測プログラム及び物性値予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、複合材料に要求される物性に対応する物性値を予測する物性値予測装置であって、説明変数として複合材料を構成する材料の配合情報と前記材料の特徴情報とを用い、目的変数として予め定められた物性に対応する物性値を算出するように学習された物性回帰式を前記物性に対応して記憶するとともに、前記特徴情報の算出に必要な前記材料の特徴量の値を記憶する記憶部と、予測対象の複合材料を構成する材料の配合情報を受け付ける受付部と、前記物性に対応する前記物性回帰式を前記記憶部から取得し、取得した前記物性回帰式を用いて、受け付けられた前記配合情報に基づいて前記物性値を算出する物性値算出部と、を備え、前記配合情報及び前記特徴情報を用いて作成された前記物性回帰式は、前記必要な材料の前記配合情報及び前記特徴量の値から前記特徴情報を算出するための特徴関数を含む、物性値予測装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、予測対象の複合材料を構成する材料の配合情報のみに基づいて物性値を予測する場合と比較して、物性値の高精度な予測が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係る物性値予測装置の概略の構成例を示すブロック図である。
図2】入力データセットの一例を示す図である。
図3】出力データセットの一例を示す図である。
図4】物性回帰式テーブルの一例を示す図である。
図5】特徴関数テーブルの一例を示す図である。
図6】特徴量テーブルの一例を示す図である。
図7】簡略化した入力データセットの一例を示す図である。
図8】簡略化した特徴量テーブルの一例を示す図である。
図9】物性値予測装置の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る物性値予測装置の概略の構成例を示すブロック図である。この物性値予測装置1は、コンピュータ等から構成され、予測処理部2と、記憶部3と、入力インタフェース(I/F)部4と、出力インタフェース(I/F)部5とを備え、複合材料に要求される物性に対応する物性値を予測する物性値予測機能を有する。
【0011】
物性値予測装置1が対象とする複合材料は、複合材料を構成する構成材料(以下、単に「材料」という。)を複合化して製造されるものである。複合材料は、例えば、高分子材料と他の材料を複合化した高分子複合材料でもよい。高分子複合材料は、例えば、複数のポリマー及び複数の配合剤を複合化して製造されるポリマー組成物等の高分子組成物を用いたものでもよい。高分子複合材料としては、例えば、電線被覆材料、シート、チューブ、ボンド磁石、マグネットロール等が該当する。ポリマー組成物は、1種類以上のポリマーと、1種類以上の難燃剤と、1種類以上の酸化防止剤とを含むものでもよい。
【0012】
本明細書において、物性とは、複合材料に要求される性質をいい、例えば、引張破断伸び、引張強度等の機械的物性や耐熱温度、熱膨張率等の熱的物性等でもよい。
【0013】
(物性値予測機能の説明)
物性値予測装置1が有する物性値予測機能は、物性に応じた予測モデルを機械学習を用いて作成する学習機能と、予測モデルを用いて物性に対応した物性値を予測する予測機能とを含む。
【0014】
説明変数として複合材料を構成する材料の配合情報と材料の特徴情報とを用い、目的変数として予め定められた複数の物性に対応する複数の物性値を算出するように複数の予測モデルを、機械学習を用いて作成しておく。予測モデルは、予測精度を高めるために材料の配合情報と特徴情報を用いて作成された物性回帰式を用いる。以上は学習機能に基づくものである。ここで、材料の特徴情報とは、物性に影響を与える要因となる情報であって、材料の配合情報及び特徴量の値から求められる情報をいう。材料の特徴量とは、材料個々が有する特徴をいい、例えば、比重、表面積等が該当する。材料の特徴量の値は、材料の特徴に関する情報の一例である。
【0015】
物性値を予測する際に、予測対象の複合材料を構成する材料の配合情報を受け付け、受け付けた配合情報に基づいて、物性ごとの物性回帰式を用いて複数の物性に対応する複数の物性値を算出する。以上は予測機能に基づくものである。なお、予め定められた複数の物性のうちの一部(1つも含む。)の物性に対応する物性値を算出してもよい。また、予め定められた物性は、1つでもよい。
【0016】
予測処理部2は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、インタフェース等から構成されている。予測処理部2は、記憶部3に記憶されている物性値予測プログラム31をRAMに読み出してCPUが実行することにより、データセット受付部21、算出処理部22、データセット出力部23として機能する。算出処理部22は、物性値算出部221と、特徴量算出部222とを有する。予測処理部2の各部21~23の詳細については、後述する。なお、予測処理部2の各部21~23は、FPGA:Field Programmable Gate Array)、ASIC:Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアによって構成してもよい。
【0017】
記憶部3は、ROM、RAM、ハードディスク等から構成されており、記憶部3には、本実施の形態に係る物性値予測方法を実行するための物性値予測プログラム31、入力データセット32(図2参照)、出力データセット33(図3参照)、物性回帰式テーブル34(図4参照)、特徴関数テーブル35(図5参照)、特徴量テーブル36(図7参照)等を記憶する。なお、本明細書において、テーブルに情報を書き込む場合に記録を用い、記憶部に情報を書き込む場合に記憶を用いる。また、各テーブル34~36をサーバ等の外部装置が保持してもよい。
【0018】
入力I/F部4は、物性値予測装置1に接続された記録媒体からデータセットを入力するものである。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク(FD:Flexible Disk)やハードディスク等の磁気ディスク、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)等の光ディスク、USB(Universal Serial Bus)メモリ等を用いることができる。なお、物性値予測プログラム31をCD-ROM等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供することができ、クラウドサーバ等の外部サーバに格納しておき、ネットワークを介して利用することもできる。外部サーバに格納された物性値予測プログラム31を利用する場合、データセットは、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等のネットワーク経由でネット環境に繋いで外部サーバに入力してもよい。
【0019】
出力I/F部5は、物性値予測装置1に接続された出力装置にデータセットを出力するものである。出力装置としては、例えば、液晶ディスプレイ等の表示装置や、プリンタ等の印刷装置等を用いることができる。なお、入力I/F部4及び出力I/F部5の代わりに、物性値予測装置1に接続された端末装置との間でデータセットを入出力してもよい。また、データセットの形式としては、例えば、CSV形式やテーブル形式でもよい。これらのデータを開くことでデータセットが表形式で画面に表示される。
【0020】
入力データセット32は、記録媒体から入力I/F部4を介して入力されるデータセットであり、予測対象の複数種類のポリマー組成物を構成する材料の配合情報を含む。入力データセット32の詳細については、後述する。
【0021】
出力データセット33は、出力I/F部5を介して出力装置に出力されるデータセットであり、図2に示す予測対象の複数種類のポリマー組成物に対し、予測処理部2により予測された複数の物性値が記録される。出力データセット33の詳細については、後述する。
【0022】
物性回帰式テーブル34は、物性名に対応して物性回帰式が記録されたものである。特徴関数テーブル35は、特徴関数名に対応して物性関数が記録されたものである。特徴量テーブル36は、材料名に対応して材料の特徴量の値が記録されたものである。これらのテーブル34~36の詳細については、後述する。
【0023】
(入力データセットの構成)
図2は、入力I/F部4を介して入力される入力データセット32の一例を示す図である。入力データセット32は、複数種類のポリマー組成物について、ポリマー組成物ごとに材料に関するデータが記録されている。具体的には、入力データセット32は、組成物名(組成物1乃至組成物18)に対応して、材料名の材料a乃至材料gの各配合割合(質量部)が記録されている。組成物名は、ポリマー組成物を識別する識別情報の一例である。材料名は、材料を識別する識別情報の一例である。
【0024】
図2に示すポリマー組成物としては、例えば、電線被覆材料を挙げることができる。電線被覆材料は、例えば、材料a乃至材料dのポリマーと、材料e乃至材料gのフィラーとを有する。材料a乃至材料dのポリマーの配合割合は、例えば、ポリマー100質量部に対して0乃至50質量部である。材料e乃至材料gのフィラーの配合割合は、例えば、ポリマー100質量部に対して0乃至200質量部である。なお、材料a乃至材料gを配合量で表現してもよい。配合割合及び配合量は、配合情報の一例である。
【0025】
ポリマーとしては、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレンアクリル酸共重合体等のポリオレフィンや、塩素化ポリエチレン等のエラストマを挙げることができる。また、ポリマーは、エチレン系共重合体を含んでもよい。
【0026】
配合剤としては、例えば、難燃剤、架橋剤、タルク、炭酸カルシウム、シリカ等のフィラーや、可塑剤、安定剤等を挙げることができる。難燃剤として、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムのいずれか、又は両方を含むものでもよい。なお、ポリマー組成物を構成するポリマーや配合剤等の材料の種類や数は、上記のものに限られない。
【0027】
(出力データセットの構成)
図3は、出力I/F部5を介して出力装置に出力される出力データセット33の一例を示す図である。出力データセット33は、複数種類のポリマー組成物について、ポリマー組成物ごとに予め定められた複数の物性に関するデータが記録されている。具体的には、出力データセット33は、組成物名(組成物1乃至組成物18)に対応して、物性名の物性A乃至Eに対応する物性値が算出処理部22により算出されて記録される。物性名は、物性を識別する識別情報の一例である。
【0028】
(物性回帰式テーブルの構成)
図4は、物性回帰式テーブル34の一例を示す図である。物性回帰式テーブル34は、物性名(物性A乃至物性E)に対応して物性回帰式(1)~(5)が記録されている。物性回帰式(1)~(5)は、説明変数として、ポリマー組成物を構成する材料の配合情報、又は材料の配合情報及び特徴情報を用いて作成され、目的変数として物性値を算出するように機械学習されたものである。
【0029】
図4に示す物性回帰式(1)~(5)は、具体的には、次のとおりである。
ya=fa(W+特徴関数1+特徴関数2) ・・・(1)
yb=fb(W+特徴関数3) ・・・(2)
yc=fc(W+特徴関数1+特徴関数4) ・・・(3)
yd=fd(W+特徴関数4+特徴関数5) ・・・(4)
ye=fe(W) ・・・(5)
【0030】
ここで、ya、yb、yc、yd、yeは、それぞれ物性A乃至物性Eに対応する物性値を示す。fa(W)、fb(W)、fc(W)、fd(W)、fe(W)は、それぞれ物性A乃至物性Eに対応する材料の配合情報Wを変数とする関数を示す。特徴関数1乃至5は、特徴関数名であり、図5に示す特徴関数テーブル35に記録された特徴関数が対応する。特徴関数名は、特徴関数を識別する識別情報の一例である。物性回帰式(1)~(4)は、第1の物性回帰式の一例である。物性回帰式(5)は、第2の物性回帰式の一例である。なお、物性回帰式は、上記のものに限られない。例えば、物性回帰式は、関数に重み付けを施してもよく、加算以外の他の四則演算等を用いてもよい。
【0031】
特徴情報は、例えば、材料の性質等に応じて、次のように分類することができる。
(a)材料の構造的な特徴情報
これには、例えば、高分子複合材料中のポリマーについての体積分率、エチレンとの共重合体の含有率、無水マレイン酸変性量、高分子複合材料中の難燃剤についての体積分率及び表面積等が含まれる。
(b)材料の熱的な特徴情報
これには、例えば、高分子複合材料中のポリマーについての結晶部の融解熱、メルトフローレート等が含まれる。
【0032】
特徴情報として構造的な特徴情報を用いることにより、機械的物性の予測精度を高めることができる。また、特徴情報として熱的な特徴情報を用いることにより、熱的物性の予測精度を高めることができる。また、材料の特徴量及び特徴情報は、要求される物性に応じたものを用いるのが好ましい。例えば、要求される物性が引張破断伸びの場合、難燃剤の表面積等を用いてもよい。
【0033】
(特徴関数テーブルの構成)
図5は、特徴関数テーブル35の一例を示す図である。特徴関数テーブル35は、特徴関数名(特徴関数1乃至特徴関数5)に対応して特徴関数が記録されている。具体的には、特徴関数1に対応してf(W,ρ)、特徴関数2に対応してf(W,H)、特徴関数3に対応してf(W,C)、特徴関数4に対応してf(W,S)、特徴関数5に対応してf(W,**)が記録されている。f(W,ρ)、f(W,H)、f(W,C)、f(W,S)、f(W,**)は、特徴情報の一例である。ここで、Wは配合情報(質量部)、ρは比重(g/cm)、Hは融解熱(j/g)、Cは共重合体率(wt%)、SはBET比表面積(m/g)、**はその他の特徴量をそれぞれ示す。比重、融解熱、共重合体率、BET比表面積は、特徴量の一例である。なお、特徴量は、上記のものに限られない。例えば、特徴量として、分子量、粒径、結晶化度等を用いてもよい。
【0034】
図5に示す特徴関数f乃至fは、特徴関数名に紐付けられた特徴量の値が特徴量テーブル36に記録されている。これにより、物性値を予測する際に、特徴量の値を入力する手間を省けるとともに、特徴量の値に基づいて算出される特徴情報を用いずに物性値を予測した場合よりも高精度に物性値を予測することができる。
【0035】
(特徴量テーブルの構成)
図6は、特徴量テーブル36の一例を示す図である。特徴量テーブル36は、特徴量名に対応して材料名の材料a乃至材料gの各特徴量の値ρa乃至ρd、Ha乃至Hd、Ca乃至Cd、Se乃至Sgが記録されている。特徴量テーブル36のうち特徴量の値が記録されていない箇所は、特徴関数として特徴量を使用しないことを示す。
【0036】
(予測処理部を構成する各部の構成)
次に、予測処理部2を構成する各部21~23の詳細について説明する。
【0037】
データセット受付部21は、予測対象のポリマー組成物を構成する材料の配合情報を受け付ける。具体的には、データセット受付部21は、記録媒体から入力I/F部4を介してデータセットを受け付け、受け付けたデータセットを入力データセット32として記憶部3に記憶する。なお、データセット受付部21は、データセットとともに、予め定められた複数の物性のうち一部(1つを含む。)の物性を受け付けてもよい。これにより、予測対象のポリマー組成物に対し、予測する物性の数を減らすことができる。また、データセット受付部21は、材料の配合情報と、材料の特徴量の値とを含むデータセットを受け付けてもよい。これにより、特徴関数が特徴量の値を保持しなくて済み、記憶部3の容量を小型化することができる。
【0038】
算出処理部22は、物性に対応する物性回帰式を記憶部3から取得し、入力データセット32から配合情報を読み取り、物性回帰式及び配合情報に基づいて、物性値算出部221及び特徴量算出部222により物性値を算出する。
【0039】
物性値算出部221は、予め定められた複数の物性A乃至物性Eについて、物性に対応する物性回帰式を物性回帰式テーブル34から取得し、取得した物性回帰式に特徴関数が含まれている場合は、特徴量算出部222に特徴関数を計算させて算出結果の特徴情報を取得する。
【0040】
物性値算出部221は、入力データセット32から各組成物に対応する材料の配合情報を読み取り、物性回帰式テーブル34から取得した物性回帰式を用いて、特徴量算出部222が算出した特徴関数の算出結果及び材料の配合情報に基づいて、物性A乃至物性Eについて各々の物性値を算出し、物性値を出力データセット33の対応するセルに記録する。
【0041】
物性値算出部221は、取得した物性回帰式に特徴関数が含まれていない場合は、入力データセット32から読み取った各組成物に対応する材料の配合情報に基づいて、取得した物性回帰式を用いて、物性A乃至物性Eについて各々の物性値を算出し、物性値を出力データセット33の対応するセルに記録する。
【0042】
特徴量算出部222は、特徴関数を計算し、その算出結果を物性値算出部221に出力する。具体的には、特徴量算出部222は、物性値算出部221が取得した特徴関数に基づいて、特徴量テーブル36から関係する特徴量の値を取得し、物性値算出部221が取得した配合情報のうち、関係する配合情報を取得する。特徴量算出部222は、取得した配合情報及び特徴量の値に基づいて、特徴関数を計算し、その算出結果を物性値算出部221に出力する。
【0043】
データセット出力部23は、全てのセルに物性値が記録された出力データセット33を出力I/F部5を介して出力装置に出力する。
【0044】
(特徴情報の算出例)
次に、特徴量算出部222による特徴関数の算出例を図7及び図8を参照して説明する。
【0045】
図7は、図2に示す入力データセット32を簡略化した入力データセットの一例を示す図である。図7に示す入力データセット32aは、組成物名のTEST1に対応して、材料名のポリマー1、ポリマー2、フィラー3、フィラー4の各配合情報W1、W2、W3、W4(質量部)が記録されている。
【0046】
図8は、図7に対応して簡略化した特徴量テーブルの一例を示す図である。特徴量テーブル36aは、材料名のポリマー1、ポリマー2、フィラー3、フィラー4に対応して、比重(g/cm)の値ρ1~ρ4、融解熱(J/g)の値H1,H2、共重合体の含有率を示す共重合体率(wt%)の値C1,C2、BET比表面積(m/g)の値S3,S4が記録されている。ρ1~ρ4、H1、H2、C1、C2、S3、S4は、特徴量の値の一例である。
【0047】
図5に示す特徴関数1のf(W,ρ)の一例として、フィラーの体積(cm)とポリマーの体積(cm)との比率を示すフィラー体積比率を算出する場合について説明する。フィラー体積比率vf_test1は、次の特徴関数で表される。
vf_test1=(W3/ρ3+W4/ρ4)/(W1/ρ1+W2/ρ2)・・・(6)
【0048】
図7に示す入力データセット32aから、材料名のポリマー1、ポリマー2、フィラー3、フィラー4の各W1乃至W4を取得し、図8に示す特徴量テーブル36aから、材料名のポリマー1、ポリマー2、フィラー3、フィラー4の各比重ρ1乃至ρ4を取得し、W1乃至W4、ρ1乃至ρ4、及び上記式(6)に基づいて、フィラー体積比率vf_test1を算出する。
【0049】
図5に示す特徴関数2のf(W,H)の一例として、各ポリマーの融解熱(J/g)を合成した合成融解熱(J/g)を算出する場合について説明する。合成融解熱H_test1は、次の特徴関数で表される。
H_test1=(H1*W1+H2*W2)/(W1+W2) ・・・(7)
【0050】
図7に示す入力データセット32aから、材料名のポリマー1、ポリマー2の各W1、W2を取得し、図8に示す特徴量テーブル36aから、材料名のポリマー1、ポリマー2の各融解熱H1、H2を取得し、W1、W2、H1、H2、及び上記式(7)に基づいて、合成融解熱H_test1を算出する。
【0051】
図5に示す特徴関数3のf(W,C)の一例として、各ポリマーの共重合体率(wt%)を合成した合成共重合体率(wt%)を算出する場合について説明する。合成共重合体率C_test1は、次の特徴関数で表される。
C_test1=(C1*W1+C2*W2)/(W1+W2) ・・・(8)
【0052】
図7に示す入力データセット32aから、材料名のポリマー1、ポリマー2の各W1、W2を取得し、図8に示す特徴量テーブル36aから、材料名のポリマー1、ポリマー2の各共重合体率C1、C2を取得し、W1、W2、C1、C2、及び上記式(8)に基づいて、合成共重合体率C_test1を算出する。
【0053】
図5に示す特徴関数4のf(W,S)の一例として、フィラー表面積を算出する場合について説明する。フィラー表面積Sf_test1は、各フィラーの添加量(g)とBET比表面積(m/g)との積により求まるものであり、次の特徴関数で表される。
Sf_test1=S3*W3+S4*W4 ・・・(9)
【0054】
図7に示す入力データセット32aから、材料名のフィラー3、フィラー4の各W3、W4を取得し、図8に示す特徴量テーブル36aから、材料名のフィラー3、フィラー4の各BET比表面積S3、S4を取得し、W3、W4、S3、S4、及び上記式(9)に基づいて、フィラー表面積Sf_test1を算出する。
【0055】
<物性値予測装置の動作>
次に、物性値予測装置1の動作の一例について、図9を参照して説明する。図9は、物性値予測装置1の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【0056】
データセット受付部21は、記録媒体から入力I/F部4を介してデータセットを受け付け、受け付けたデータセットを入力データセット32として記憶部3に記憶する(ST1)。
【0057】
次に、算出処理部22の物性値算出部221は、入力データセット32の各行からデータを読み取る(ST2)。図2に示す場合は、組成物名の組成物1に対応する材料名の材料a、材料b、材料c、材料eの各配合情報(50,30,20,200)、・・・組成物18に対する材料a、材料b、材料dの各配合情報(30、40、30、100)を読み取る。
【0058】
次に、物性値算出部221は、予め定められた複数の物性A乃至物性Eのうち、最初の物性Aに対応する物性回帰式(1)を物性回帰式テーブル34から取得する(ST3)。
【0059】
次に、物性値算出部221は、取得した物性回帰式(1)に特徴関数が含まれているか否かを判断する(ST4)。
【0060】
物性回帰式(1)の場合、特徴関数名として特徴関数1及び特徴関数2が含まれているため(ST3:Yes)、物性値算出部221は、特徴関数1に対応する特徴関数のf(W,ρ)、及び特徴関数2に対応する特徴関数のf(W,H)を特徴関数テーブル35から取得する(ST5)。
【0061】
特徴量算出部222は、物性値算出部221が取得した特徴関数1のf(W,ρ)及び特徴関数2のf(W,H)に基づいて、特徴量テーブル36から関係する特徴量の値ρ、Hを取得し、上記ステップST2で読み取られた配合情報のうち、関係する配合情報を取得する。次に、特徴量算出部222は、取得した配合情報及び特徴量の値に基づいて、特徴関数1のf(W,ρ)及び特徴関数2のf(W,H)をそれぞれ計算する(ST6)。特徴量算出部222は、これらの算出結果を物性値算出部221に出力する。
【0062】
物性値算出部221は、上記ステップST2で読み取られた配合情報と、特徴量算出部222から出力された特徴関数1及び特徴関数2の各算出結果とに基づいて、物性回帰式(1)を用いて物性値yaを算出し、物性値yaを出力データセット33の対応するセルに記録する(ST7)。
【0063】
上記ステップST4において、物性回帰式に特徴関数が含まれていない場合(ST4:No)、物性値算出部221は、特徴関数の取得(ST5)、及び特徴情報の算出(ST6)を行わずに、物性回帰式を用いて物性値を算出する(ST7)。例えば、物性回帰式(5)の場合は、特徴関数の取得(ST5)、及び特徴情報の算出(ST6)を行わずに、物性回帰式(5)を用いて物性値yeを算出し、物性値yeを出力データセット33の対応するセルに記録する(ST7)。
【0064】
次に、物性値算出部221は、全ての物性について物性値の算出が終わったか否かを判断する(S8)。全ての物性について物性値の算出を終わっていないと判断した場合(ST8:No)、ステップST3に進み、次の物性Bに対応する物性回帰式(2)を物性回帰式テーブル34から取得する(ST3)。
【0065】
その後は、前述したように、物性回帰式(2)に対する特徴関数の有無の判断(ST4)、特徴関数の取得(ST5)、特徴情報の算出(ST6)、及び物性値の算出(ST7)が行われる。
【0066】
以上のようにして、入力データセット32の全ての行について物性値の算出(ST7)が終わると(ST8:Yes)、データセット出力部23は、全てのセルに物性値が記録された出力データセット33を出力I/F部5を介して出力装置に出力する(ST9)。出力装置は、出力データセット33の内容をディスプレイ又は用紙に出力する。
【0067】
(本実施の形態の作用、効果)
本実施の形態によれば、以下の作用、効果を奏する。
(a)予め材料の特徴量の値を保持した物性回帰式を用いることで、比重、表面積等のように材料によって定まる材料の特徴量の値(特徴パラメータ値)を、物性値の予測の際に入力する手間を省くことができる。特に、複数の物性値を予測する場合には、予測する物性値の数に応じて特徴パラメータ値の数が増えるため、入力する手間を省く効果は大きい。
(b)予測対象の複合材料を構成する材料の配合情報のみに基づいて物性値を予測する場合と比較して、物性値の高精度な予測が可能となる。例えば、本発明者らの実験によると、材料の配合情報のみに基づいて物性値を予測する場合は、物性値の予測誤差が10%程度であったものが、予測対象の複合材料を構成する材料の配合情報及び特徴情報に基づいて物性値を予測する場合は、物性値の予測誤差を8%程度に改善できることが分った。
(c)1つの予測対象の複合材料について、要求される複数の物性に対応する複数の物性値を一度に予測することができる。
【0068】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0069】
[1]複合材料に要求される物性に対応する物性値を予測する物性値予測装置(1)であって、
説明変数として複合材料を構成する材料の配合情報と前記材料の特徴情報とを用い、目的変数として予め定められた物性に対応する物性値を算出するように学習された物性回帰式を前記物性に対応して記憶するとともに、前記特徴情報の算出に必要な前記材料の特徴量の値を記憶する記憶部(3)と、
予測対象の複合材料を構成する材料の配合情報を受け付ける受付部(21)と、
前記物性に対応する前記物性回帰式を前記記憶部(3)から取得し、取得した前記物性回帰式を用いて、受け付けられた前記配合情報に基づいて前記物性値を算出する物性値算出部(221)と、を備え、
前記配合情報及び前記特徴情報を用いて作成された前記物性回帰式は、前記必要な材料の前記配合情報及び前記特徴量の値から前記特徴情報を算出するための特徴関数を含む、
物性値予測装置(1)。
【0070】
[2]前記記憶部(3)は、目的変数として予め定められた複数の物性に対応する複数の物性値を算出するように学習された複数の物性回帰式を記憶し、前記複数の物性回帰式は、説明変数として前記配合情報及び前記特徴情報を用いて作成された第1の物性回帰式と、説明変数として前記配合情報を用いて作成された第2の物性回帰式とを含む、前記[1]に記載の物性値予測装置(1)。
【0071】
[3]前記特徴情報は、材料の構造的な特徴情報である、前記[1]に記載の物性値予測装置(1)。
【0072】
[4]前記複合材料は、高分子複合材料であり、前記構造的な特徴情報は、前記高分子複合材料中のポリマーについての体積分率、エチレンとの共重合体の含有率、及び無水マレイン酸変性量、並びに前記高分子複合材料中の難燃剤についての体積分率及び表面積のいずれかである、前記[3]に記載の物性値予測装置(1)。
【0073】
[5]前記特徴情報は、材料の熱的な特徴情報である、前記[1]に記載の物性値予測装置(1)。
【0074】
[6]前記複合材料は、高分子複合材料であり、前記熱的な特徴情報は、前記高分子複合材料中のポリマーについての結晶部の融解熱及びメルトフローレートのいずれかである、前記[5]に記載の物性値予測装置(1)。
【0075】
[7]複合材料に要求される物性に対応する物性値を予測する物性値予測装置(1)のコンピュータを、
予測対象の複合材料を構成する材料の配合情報を受け付ける受付部と、
説明変数として複合材料を構成する材料の配合情報と前記材料の特徴情報とを用い、目的変数として予め定められた物性に対応する物性値を算出するように学習された物性回帰式を前記物性に対応して記憶するとともに、前記特徴情報の算出に必要な前記材料の特徴量の値を記憶する記憶部(3)から、前記物性に対応する前記物性回帰式を取得し、取得した前記物性回帰式を用いて、受け付けられた前記配合情報に基づいて前記物性値を算出する物性値算出部(221)、として機能させるための物性値予測プログラム(31)であって、
前記配合情報及び前記特徴情報を用いて作成された前記物性回帰式は、前記必要な材料の前記配合情報及び前記特徴量の値から前記特徴情報を算出するための特徴関数を含む、物性値予測プログラム(31)。
【0076】
[8]複合材料に要求される物性に対応する物性値を予測する物性値予測方法であって、
予測対象の複合材料を構成する材料の配合情報を受け付ける受付ステップと、
説明変数として複合材料を構成する材料の配合情報と前記材料の特徴情報とを用い、目的変数として予め定められた物性に対応する物性値を算出するように学習された物性回帰式を前記物性に対応して記憶するとともに、前記特徴情報の算出に必要な前記材料の特徴量の値を記憶する記憶部(3)から、前記物性に対応する物性回帰式を取得し、取得した前記物性回帰式を用いて、受け付けられた前記配合情報に基づいて前記物性値を算出する物性値算出ステップと、を含み、
前記配合情報及び前記特徴情報を用いて作成された前記物性回帰式は、前記必要な材料の前記配合情報及び前記特徴量の値から前記特徴情報を算出するための特徴関数を含む、物性値予測方法。
【0077】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施の形態は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形、実施が可能である。
【0078】
また、上記実施の形態の構成要素の一部を省くことや変更してもよい。また、上記実施の形態のフローにおいて、ステップの追加、削除、変更、入替え等を行ってもよい。
【符号の説明】
【0079】
1…物性値予測装置、2…予測処理部、3…記憶部、4…入力I/F部、5…出力I/F部、21…データセット受付部、22…算出処理部、23…データセット出力部、31…物性値予測プログラム、32、32a…入力データセット、33…出力データセット、34…物性回帰式テーブル、35…特徴関数テーブル、36、36a…特徴量テーブル、221…物性値算出部、222…特徴量算出部
【要約】
【課題】予測対象の複合材料を構成する材料の配合情報のみに基づいて物性値を予測する場合と比較して、物性値の高精度な予測が可能な複合材料の物性値予測装置、物性値予測プログラム及び物性値予測方法を提供する。
【解決手段】物性値予測装置1は、複合材料に要求される物性に対応する物性値を予測する物性値予測装置であって、説明変数として複合材料を構成する材料の配合情報及び特徴情報を用い、目的変数として予め定められた物性に対応する物性値を算出するように学習された物性回帰式を物性に対応して記憶する記憶部3と、予測対象の複合材料を構成する材料の配合情報が記録されたデータセットを受け付けるデータセット受付部21と、物性に対応する物性回帰式を記憶部3から取得し、取得した物性回帰式を用いて、受け付けられた配合情報に基づいて物性値を算出する算出処理部22とを備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9