(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】イリジウム錯体化合物、該化合物及び溶剤を含有する組成物、該化合物を含有する有機電界発光素子、表示装置及び照明装置
(51)【国際特許分類】
C07F 15/00 20060101AFI20240220BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20240220BHJP
H10K 50/12 20230101ALI20240220BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20240220BHJP
H10K 85/30 20230101ALI20240220BHJP
H10K 101/10 20230101ALN20240220BHJP
【FI】
C07F15/00 E CSP
C09K11/06 660
H10K50/12
H10K59/10
H10K85/30
H10K101:10
(21)【出願番号】P 2022199402
(22)【出願日】2022-12-14
(62)【分割の表示】P 2019552345の分割
【原出願日】2018-11-07
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2017214771
(32)【優先日】2017-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017214772
(32)【優先日】2017-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】長山 和弘
(72)【発明者】
【氏名】家村 王己
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/087961(WO,A1)
【文献】国際公開第2002/044189(WO,A1)
【文献】特開2008-297382(JP,A)
【文献】台湾特許出願公開第200844103(TW,A)
【文献】中国特許出願公開第107236006(CN,A)
【文献】国際公開第2017/104839(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0351835(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 15/00
C09K 11/00
H10K 50/00
H10K 59/00
H10K 85/00
H10K 101/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるイリジウム錯体化合物。
【化1】
[式(1)において、Irはイリジウム原子を表す。
環Cy
1は下記式
(2’)で表されるフルオレン構造であり、
【化2】
環Cy
2は下記式(3)~式(5)のいずれかで表されるキノリンまたはナフチリジン構造であり、
【化3】
式(3)~(5)のX
1~X
18はそれぞれ独立に、炭素原子又は窒素原子を表し、
環Cy
2
を構成する窒素原子の数が2であり、
環Cy
3はベンゼン環を表し、
環Cy
4は下記式(6)で表される構造であり、
【化4】
(式(6)において、
X
19~X
22
は、炭素原
子を表し、
Yは硫黄原子を表す。)
R
1~R
4は水素原子又は置換基を表し、
a、b、cおよびdは、それぞれCy
1、Cy
2、Cy
3およびCy
4環に置換しうる最大数の整数である。
但し、aは8である。
m=1であり、n=2である。
R
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子、D、F、Cl、Br、I、N(R’)
2、-CN、-NO
2、-OH、-COOR’、-C(=O)R’、-C(=O)NR’、-P(=O)(R’)
2、-S(=O)R’、-S(=O)
2R’、-OSO
2R’、炭素数1~30の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルコキシ基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキルチオ基、炭素数2以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルケニル基、炭素数2以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキニル基、炭素数5以上60以下の芳香族基、炭素数5以上60以下の複素芳香族基、炭素数5以上40以下のアリールオキシ基、炭素数5以上40以下のアリールチオ基、炭素数5以上60以下のアラルキル基、炭素数5以上60以下のヘテロアラルキル基、炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基、炭素数10以上40以下のアリールヘテロアリールアミノ基または炭素数10以上40以下のジヘテロアリールアミノ基(該アルキル基、該アルコキシ基、該アルキルチオ基、該アルケニル基および該アルキニル基は、さらに1つ以上のR’で置換されていても良く、これらの基における1つのCH
2基あるいは2以上の隣接していないCH
2基が、R’-CR’=CR’、C≡C、Si(R’)
2、C=O、NR’、O、S、CONR’
もしくは2価の芳香族基に置き換えられていても良く、これらの基における一つ以上の水素原子が、D、F、Cl、Br、IもしくはCNで置換されていても良い。また、該芳香族基、該複素芳香族基、該アリールオキシ基、該アリールチオ基、該アラルキル基、該ヘテロアラルキル基、該ジアリールアミノ基、該アリールヘテロアリールアミノ基および該ジヘテロアリールアミノ基は、さらに1つ以上のR’で置換されていても良い。)から選ばれる。
R
1~R
4がそれぞれ複数個ある場合は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
ただし、2つ以上の隣接するR
1が互いに結合して脂肪族、芳香族又は複素芳香族を形成し、Cy
1を形成するフルオレン環に対してさらなる縮合環を形成することは無い。
該R’はそれぞれ独立に、水素原子、D、F、Cl、Br、I、-N(R’’)
2、-CN、NO
2、-Si(R’’)
3、-B(OR’’)
2、-C(=O)R’’、-P(=O)(R’’)
2、S-(=O)
2R’’、OSO
2R’’、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルコキシ基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキルチオ基、炭素数2以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルケニル基、炭素数2以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキニル基、炭素数5以上60以下の芳香族基、炭素数5以上60以下の複素芳香族基、炭素数5以上40以下のアリールオキシ基、炭素数5以上40以下のアリールチオ基、炭素数5以上60以下のアラルキル基、炭素数5以上60以下のヘテロアラルキル基、炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基、炭素数10以上40以下のアリールヘテロアリールアミノ基または炭素数10以上40以下のジヘテロアリールアミノ基(該アルキル基、該アルコキシ基、該アルキルチオ基、該アルケニル基および該アルキニル基は、さらに1つ以上のR’で置換されていても良く、これらの基における1つのCH
2基あるいは2以上の隣接していないCH
2基が、R’C=CR’、C≡C、Si(R’)
2、C=O、NR’、O、S、CONR’
もしくは2価の芳香族基に置き換えられていても良く、これらの基における一つ以上の水素原子が、D、F、Cl、Br、IもしくはCNで置換されていても良い。
また、該芳香族基、該複素芳香族基、該アリールオキシ基、該アリールチオ基、該アラルキル基、該ヘテロアラルキル基、該ジアリールアミノ基、該アリールヘテロアリールアミノ基および該ジヘテロアリールアミノ基はさらに1つ以上のR’’で置換されていても良い。)から選ばれる。
ここで、2つ以上の隣接するR’が互いに結合して、脂肪族または芳香族もしくはヘテロ芳香族の、単環または縮合環を形成しても良い。
該R’’はそれぞれ独立に、水素原子、D、F、CN、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、炭素数1~20の芳香族基または炭素数1~20の複素芳香族基から選ばれる。
ここで、2つ以上の隣接するR’’が互いに結合して、脂肪族または芳香族もしくはヘテロ芳香族の、単環または縮合環を形成しても良い。]
【請求項2】
前記R
1~R
4がそれぞれ独立に、水素原子、F、CN、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数5以上60以下の芳香族基または炭素数5以上60以下の複素芳香族基から選ばれる、請求項1に記載のイリジウム錯体化合物。
【請求項3】
環Cy
2が前記式(3)で表される構造であって、前記式(3)中のX
1が窒素原子であり、X
2~X
6が炭素原子である、請求項1
又は2に記載のイリジウム錯体化合物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のイリジウム錯体化合物および有機溶剤を含有する組成物。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のイリジウム錯体化合物を含む有機電界発光素子。
【請求項6】
請求項
5に記載の有機電界発光素子を有する表示装置。
【請求項7】
請求項
5に記載の有機電界発光素子を有する照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイリジウム錯体化合物に関し、特に、有機電界発光素子(以下、「有機EL素子」と称す場合がある。)の発光層の材料として有用なイリジウム錯体化合物に関する。本発明はまた、該化合物及び溶剤を含有する組成物、該化合物を含有する有機電界発光素子、該有機電界発光素子を有する表示装置及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL照明や有機ELディスプレイなど、有機EL素子を利用する各種電子デバイスが実用化されている。有機電界発光素子は、印加電圧が低いため消費電力が小さく、三原色発光も可能であるため、大型のディスプレイモニターだけではなく、携帯電話やスマートフォンに代表される中小型ディスプレイへの応用が始まっている。
【0003】
有機電界発光素子は発光層や電荷注入層、電荷輸送層など複数の層を積層することにより製造される。現在、有機電界発光素子の多くは、有機材料を真空下で蒸着することにより製造されているが、真空蒸着法では、蒸着プロセスが煩雑となり、生産性に劣る。真空蒸着法で製造された有機電界発光素子では照明やディスプレイのパネルの大型化が極めて難しい。
【0004】
近年、大型のディスプレイや照明に用いることのできる有機電界発光素子を効率よく製造するプロセスとして、湿式成膜法(塗布法)が研究されている。湿式成膜法は、真空蒸着法に比べて安定した層を容易に形成できる利点があるため、ディスプレイや照明装置の量産化や大型デバイスへの適用が期待されている。
【0005】
有機電界発光素子を湿式成膜法で製造するためには、使用される材料はすべて有機溶剤に溶解してインクとして使用できるものである必要がある。使用材料が溶剤溶解性に劣ると、長時間加熱するなどの操作を要するため、使用前に材料が劣化してしまう可能性がある。さらに、溶液状態で長時間均一状態を保持することができないと、溶液から材料の析出が起こり、インクジェット装置などによる成膜が不可能となる。
湿式成膜法に使用される材料には、有機溶剤に速やかに溶解することと、溶解した後析出せず均一状態を保持する、という2つの意味での溶解性が求められる。
【0006】
近年、このインクの高濃度化の要求が高まっている。これは、高濃度のインクを用いて膜厚のより厚い発光層を形成することにより、素子の駆動寿命を延ばしたり、素子の光学的設計を最適化し、いわゆるマイクロキャビティ効果を効果的に発現させて色純度を高める、などの改良が加えられてきているためである。
したがって、有機電界発光素子の湿式成膜用材料には、従来より高い溶剤溶解性を有することが要求されている。
【0007】
湿式成膜法に適用される高性能の発光材料として、発光効率が高い燐光発光性のイリジウム錯体化合物がある。イリジウム錯体化合物の配位子を工夫することで、色調や発光効率並びに素子駆動寿命を改善しようとする試みがなされている(例えば、特許文献1~7及び非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2015/087961号
【文献】特開2016-64998号公報
【文献】国際公開第2014/024889号
【文献】特開2006-151888号公報
【文献】特開2002-332291号公報
【文献】米国特許出願公開第2016/0351835号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0233442号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】S.Okada et al,Dalton Transacti ons,2005,1583-1590.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
イリジウム錯体化合物は、一般的に溶剤溶解性が乏しいため、配位子に可撓性に富む置換基を導入して溶剤溶解性を付与する必要がある。
一方で、有機電界発光素子の発光色を目的とする色調とするために、波長調整のための置換基を配位子に導入する必要がある。後者は特に緑色以上に長波長であるもの、特に発光波長の極大値600nm以上を要求される赤色のイリジウム発光材料において重要となる。
【0011】
従来の赤色発光イリジウム錯体においては、置換基が多くなりかつそれらの位置や種類あるいは配位子自体の組み合わせが適切ではない場合には高い溶剤溶解性が得られない。
溶解性と所望の色度を両立可能な材料設計の指針は未だ十分には得られていない。
【0012】
有機EL照明においては、色再現性の更なる向上が検討されている。より多くの波長成分を有する光源下では色再現性が向上する。発光材料の発光スペクトルの幅をより広くすること、言い換えれば発光スペクトルの半値幅がより広い発光材料の開発が求められている。
【0013】
本発明者が特許文献3~5に具体的に開示されている構造を参考にしたイリジウム錯体化合物を合成し、赤色発光材料としての性能を検討した結果、溶剤溶解性の改善は見られたものの、発光量子収率が低下し、有機EL材料としての発光特性が損なわれる可能性を示唆する結果を得た。
特許文献6および7に具体的に記載されているイリジウム錯体化合物は縮環構造が大きすぎるため、高い溶剤溶解性を示さない。
【0014】
本発明者は、従来の赤色発光材料では、湿式成膜法に用いるには溶剤溶解性が不十分であり、発光量子収率も低いことから、イリジウム錯体化合物の溶剤に対する高い溶解性、イリジウム錯体化合物及び溶媒を含む組成物の保存安定性及びイリジウム錯体化合物を含む有機電界発光素子の発光効率向上について、更なる改良が必要であることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、高い溶剤溶解性と目標色度とを両立可能なイリジウム錯体化合物を提供することを課題とする。特に、高い溶剤溶解性と赤色発光を併せ持つイリジウム錯体化合物を提供することを課題とする。また、上記特徴に加え、発光スペクトルの半値幅が広く、照明用途に使用される場合に色再現率を高くすることができるイリジウム錯体化合物を提供することを課題とする。
さらに本発明は、高い溶剤溶解性、保存安定性及び発光特性を並立し得る、湿式成膜型の有機電界発光素子の発光材料として好適なイリジウム錯体化合物を提供することを課題とする。
【0016】
本発明者は、特定の化学構造を有するイリジウム錯体化合物が、赤色発光材料として従来材料に比べ極めて高い溶剤溶解性を示すことを見出した。
さらに、ある特定の化学構造を有するイリジウム錯体化合物が、赤色発光材料として従来材料に比べ発光スペクトルの半値幅が広幅化することを見出した。
また、ある特定の化学構造を有するイリジウム錯体化合物が、保存安定性に優れ、高効率な発光を示すことを見出した。
【0017】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
【0018】
[1] 下記式(1)で表されるイリジウム錯体化合物。
【化1】
[式(1)において、Irはイリジウム原子を表し、
C
1~C
6は炭素原子を表し、N
1及びN
2は窒素原子を表す。
R
1~R
4は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、
a、b、cおよびdは、それぞれ環Cy
1、Cy
2、Cy
3およびCy
4に置換しうる
最大数の整数を表し、
m及びnは、1又は2を表し、m+nは3である。
環Cy
1は下記式(2)又は(2´)で表されるフルオレン構造であり、
【化2】
環Cy
1が式(2)で表される場合、環Cy
2は、下記式(3)~式(5)のいずれかで表されるキノリン又はナフチリジン構造であり、
環Cy
1が式(2´)で表される場合、環Cy
2は、下記式(3)~式(5)のいずれかで表されるナフチリジン構造であり、
【化3】
式(3)~(5)のX
1~X
18はそれぞれ独立に、炭素原子又は窒素原子を表し、
環Cy
3は炭素原子C
4およびC
5を含む芳香環又は複素芳香環を表し、
環Cy
4は炭素原子C
6および窒素原子N
2を含む複素芳香環を表す。]
【0019】
[2] 環Cy
4が下記式(6)で表される構造である、[1]に記載のイリジウム錯体化合物。
【化4】
[式(6)において、
X
19~X
22はそれぞれ独立に、炭素原子又は窒素原子を表し、
Yは、N(-R
5)、酸素原子又は硫黄原子を表し、R
5は水素原子又は置換基を表す。]
【0020】
[3] 環Cy
1が式(2)で表されるフルオレン構造であり、且つ、環Cy
3が下記式(8)で表されるものである、[1]又は[2]に記載のイリジウム錯体化合物。
【化5】
【0021】
[4] 式(6)のYが、硫黄原子である、[1]~[3]のいずれかに記載のイリジウム錯体化合物。
【0022】
[5] 環Cy2を構成する窒素原子の数が2である、[1]~[4]のいずれかに記載のイリジウム錯体化合物。
【0023】
[6] [1]~[5]のいずれかに記載のイリジウム錯体化合物および溶剤を含有する組成物。
【0024】
[7] [1]~[5]のいずれかに記載のイリジウム錯体化合物を含む有機電界発光素子。
【0025】
[8] [7]に記載の有機電界発光素子を有する表示装置。
【0026】
[9] [7]に記載の有機電界発光素子を有する照明装置。
【0027】
[10] 下記式(7)で表されるイリジウム錯体化合物。
【化6】
[式(7)において、Irはイリジウム原子を表す。
C
7~C
9は炭素原子を表し、N
3及びN
4は窒素原子を表す。
環Cy
5は炭素原子C
7およびC
8を含む芳香環又は複素芳香環を表し、
環Cy
6は炭素原子C
9および窒素原子N
3を含む複素芳香環を表し、
X
23~X
26はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子、又は窒素原子
を表し、
Y
2は酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を表し、
R
10~R
12は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。
a´およびb´は、それぞれ環Cy
5およびCy
6に置換しうる最大数の整数を表し、c´は8である。
m´およびn´は1又は2を表し、m´+n´は3である。]
【発明の効果】
【0028】
本発明のイリジウム錯体化合物は高い溶剤溶解性を有するため、湿式成膜法によって有機電界発光素子の作製が可能である。本発明の有機電界発光素子は、有機EL表示装置及び照明装置用として有用である。
また、本発明のイリジウム錯体化合物は、赤色発光材料として従来材料に比べて発光スペクトルの半値幅が広く、照明用途に使用される場合に色再現率を高くすることができる。
また、本発明のイリジウム錯体化合物は、発光量子収率が高く、発光特性に優れた有機電界発光素子を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図であ る。
【
図2】
図2は、実施例3、4及び比較例3、4の化合物の最大発光波長と半値幅の 関係を表す図である。
【
図3】
図3は、実施例5及び比較例5~7の化合物の最大発光波長と発光量子収率 との関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0031】
本明細書において、「芳香環」とは「芳香族炭化水素環」をさし、環構成原子としてヘテロ原子を含む「複素芳香環」とは区別される。同様に、「芳香族基」とは「芳香族炭化水素環基」をさし、「複素芳香族基」とは「複素芳香族環基」をさす。
【0032】
[イリジウム錯体化合物]
本発明のイリジウム錯体化合物は、下記式(1)で表される化合物である。
【0033】
【0034】
[式(1)において、Irはイリジウム原子を表し、
C1~C6は炭素原子を表し、N1及びN2は窒素原子を表す。
R1~R4は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、
a、b、cおよびdは、それぞれ環Cy1、Cy2、Cy3およびCy4に置換しうる最大数の整数を表し、
m及びnは、1又は2を表し、m+nは3である。]
【0035】
本発明のイリジウム錯体化合物が高い溶剤溶解性と目標色度とを両立させる理由は以下の通り推測される。
【0036】
フルオレン骨格を配位子に導入することは、環Cy2骨格との組み合わせにより発光波長を容易に目的とする赤色領域にできるため好ましいが、逆に、2つのベンゼン環の自由回転運動が阻害された極度に平面性の高い構造のために、溶剤への溶解性およびインクとして均一状態を保持し析出を生じないという溶解安定性が極めて悪化するのが通常である。溶剤溶解性を改善させるために、例えばフルオレンの9位に長鎖アルキル基などを導入することが行われているが、このようなものを有機電界発光素子の発光材料として用いた場合、絶縁性の長鎖アルキル基が錯体分子のHOMO軌道を大きく遮蔽するため、分子の酸化が阻害され、錯体上での電荷再結合が起こりにくくなり、結果として素子性能が悪化することが予想される。
【0037】
本発明の好ましい形態の1つとしては、特定の配位子を組み合わせてヘテロレプチック型とすることにより、該長鎖アルキル基を必ずしも必要とすることなく、溶剤溶解性を改善することができることが挙げられる。
【0038】
本発明のイリジウム錯体化合物が高い溶剤溶解性と発光量子収率とを両立させる理由は以下の通り推測される。
【0039】
量子収率を向上させるには発光材料の燐光放射速度定数krを大きくする必要がある。そのためには、化学構造を剛直なものとして熱振動へのエネルギー散逸を防ぐ、配位子に電子求引性置換基を導入するなどしてLUMOを低くし励起状態のMLCT性を高める、などの方法が用いられる。
この観点から、例えば、フルオレン構造は、二つのベンゼン環を直接結合と置換基を有していてもよいメチレン基の2つで結合させているのでかなり剛直であり、好ましいと考えられる。剛直な構造が大きすぎると分子間同士の相互作用が強くなり溶解性を大きく損なうため、フルオレン環にさらに縮環構造を導入することは避けなければならない。フルオレン基自体はメチレン基の存在により若干の電子供与性を有すると考えられるが、本発明の別の好ましい形態の一つであるイリジウム錯体化合物のように、フルオレン環の3位に複素芳香環を有する配位子構造であれば、複素芳香環とフルオレン環の2つのベンゼン環は一直線上ではないために共役は強くならず、配位子のLUMOは低められずMLCT性が高く保たれる。
【0040】
<環Cy1>
環Cy1はイリジウム原子に配位する炭素原子C1およびC2を含む下記式(2)又は(2´)で表される構造である。なお、下記式(2),(2´)において、置換基(R1)a-は省略されているが、後掲の本発明のイリジウム錯体化合物の具体例に示されるように、環Cy1は、置換基(R1)a-も含めて、9,9-ジメチルフルオレン環であることが好ましい。
【0041】
【0042】
本発明のイリジウム錯体化合物の高い溶剤溶解性と目標色度とを特に両立させる場合は、環Cy1は式(2)で表される構造の方が好ましい。本発明のイリジウム錯体化合物の高い溶剤溶解性と発光量子収率とを特に両立させる場合は、環Cy1は式(2´)で表される構造の方が好ましい。
【0043】
<環Cy2>
環Cy2は下記式(3)~(5)のいずれかで表される構造である。環Cy1が式(2)で表される構造の場合、環Cy2は、下記式(3)~式(5)のいずれかで表される、キノリン又はナフチリジン構造であることが好ましい。環Cy1が式(2´)で表される構造の場合、環Cy2は、下記式(3)~式(5)のいずれかで表されるナフチリジン構造であることが好ましい。
なお、下記式(3)~(5)において、置換基(R2)b-は省略されている。
【0044】
【0045】
式(3)~(5)のX1~X18はそれぞれ独立に、炭素原子又は窒素原子を表す。
【0046】
環Cy2に含まれる窒素原子の数は窒素原子N1を含め好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下である。窒素原子の数が3個以下であることで、イリジウム錯体化合物の有するHOMOおよびLUMOが深くなり過ぎず、正孔及び電子の両方が錯体分子に注入されやすくなる。そのため再結合が起こりにくくなり、有機電界発光素子の発光材料として好ましい傾向となる。
【0047】
環Cy2としては、上記構造の中でも、有機ELディスプレイにおける赤色発光の好ましい色度を示すという観点から、式(3)又は式(5)で表される構造が好ましく、式(3)で表される構造が特に好ましい。赤色としてより色純度を高くするという観点、および配位子をより電子求引的としてMLCT性を高めるという観点から、環Cy2は環を構成する窒素原子がN1のみであるキノリン構造よりも環を構成する窒素原子がN1を含み2つである、キナゾリンやキノキサリンなどのナフチリジン構造であることが好ましい。
【0048】
<環Cy3>
環Cy3はイリジウム原子に配位する炭素原子C4およびC5を含む芳香環又は複素芳
香環を表す。
【0049】
環Cy3は、単環であってもよく、複数の環が結合している縮合環であってもよい。縮合環の場合、環の数は特に限定されないが、6以下が好ましく、5以下が、錯体の溶剤溶解性を損なわない傾向にあるため好ましい。
【0050】
特に限定されないが、環Cy3が複素芳香環の場合、環構成原子として炭素原子の他に含まれるヘテロ原子は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子およびセレン原子から選ばれることが、錯体の化学的安定性の観点から好ましい。
【0051】
環Cy3の具体例としては、芳香環では、単環のベンゼン環;2環のナフタレン環;3環以上のフルオレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環等が挙げられる。複素芳香環では、含酸素原子のフラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環;含硫黄原子のチオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環;含窒素原子のピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、インドール環、インダゾール環、カルバゾール環、インドロカルバゾール環、インデノカルバゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、フタラジン環、キノキサリン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アクリジン環、フェナンスリジン環、カルボリン環、プリン環;複数種類のヘテロ原子を含むオキサゾール環、オキサジアゾール環、イソオキサゾール環、ベンゾイソオキサゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、イソチアゾール環、ベンゾイソチアゾール環等が挙げられる。
【0052】
これらの中でも、発光波長を制御したり、有機溶剤への溶解性を向上させたり、有機電界発光素子としての耐久性を向上させるためには、これらの環上に適切な置換基が導入されることが多く、そのような置換基の導入方法が多く知られている環であることが好ましい。そのため上記具体例のうち、イリジウム原子に直結する炭素原子C4が構成する一つの環がベンゼン環であるものが好ましい。その例としては、上述した芳香環の他に、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、カルバゾール環、インドロカルバゾール環、インデノカルバゾール環等が挙げられる。このうち、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環およびカルバゾール環がさらに好ましい。特に、溶剤溶解性を保ちつつ半値幅を広幅化させるという観点から、環Cy3は、下記式(8)で表されるフルオレン環が最も好ましい。なお、下記式(8)において、置換基(R3)c-は省略されている。
【0053】
【0054】
環Cy3を構成する原子数には特に制限は無いが、イリジウム錯体化合物の溶剤溶解性を維持する観点から、該環の構成原子数は5以上が好ましく、より好ましくは6以上である。該環の構成原子数は30以下が好ましく、より好ましくは20以下である。
【0055】
<環Cy4>
環Cy4は、炭素原子C6および、イリジウム原子に配位する窒素原子N2を含む複素芳香環を表す。
【0056】
環Cy4としては、具体的には、単環のピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ピロール環、ピラゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チアゾール環、プリン環;2環縮環のキノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、フタラジン環、キナゾリン環、キノキサリン環、ナフチリジン環、インドール環、インダゾール環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環;3環縮環のアクリジン環、フェナントロリン環、カルバゾール環、カルボリン環;4環以上縮環のベンゾフェナンスリジン環、ベンゾアクリジン環又はインドロカルボリン環などが挙げられる。さらに、これらの環を構成する炭素原子がさらに窒素原子に置き換わっていてもよい。
【0057】
これらの中でも、置換基を導入しやすく発光波長や溶剤溶解性の調整がしやすいこと、及び、イリジウムと錯体化する際に収率よく合成できる手法が多く知られていることから、環Cy4としては単環又は4環以下の縮合環が好ましく、単環又は3環以下の縮合環がより好ましく、単環又は2環の縮合環が最も好ましい。具体的には、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、シンノリン環、フタラジン環、キナゾリン環、キノキサリン環又はナフチリジン環が好ましく、さらに、イミダゾール環、オキサゾール環、キノリン環、イソキノリン環、ピリダジン環、ピリミジン環又はピラジン環が好ましく、特に、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ピリジン環、イソキノリン環、ピリダジン環、ピリミジン環又はピラジン環が好ましく、最も好ましくは、下記式(6)で表される構造である。式(6)において、置換基(R4)d-は省略されている。
【0058】
【0059】
式(6)のX19~X22はそれぞれ独立に、炭素原子又は窒素原子を表す。発光波長を特に赤色領域に調節すること、および錯体の合成のしやすさの観点から、X19~X22のうちの窒素原子の好ましい数は0又は1である。
【0060】
X19~X22が炭素原子の場合、この炭素原子には水素原子が結合していてもよく、後述のR1~R5の置換基として例示したもの、好ましくはF、アルキル基、芳香族基または複素芳香族基が置換していてもよい。イリジウム錯体化合物の溶解性を損なわないという観点から、環Cy4を構成する原子数は14以下であることが好ましく、より好ましくは13以下である。
【0061】
Yは、N(-R5)、酸素原子又は硫黄原子を表す。R5は、水素原子又は置換基を表す。
【0062】
式(6)において、5員環部分の芳香族性が高い方が化学的により安定な構造であり、錯体の安定性にも好ましいため、Yとしては、N(-R5)又は硫黄原子であることが好ましく、最も好ましくは硫黄原子である。
【0063】
R5が置換基の場合、特に限定されないが具体的には後述するR1~R4の置換基と同義であり、好ましい範囲等も同義である。
【0064】
<R1~R4及びa~d>
式(1)中のR1~R4は水素原子又は置換基を表す。R1~R4はそれぞれ独立であり、同じでも異なっていてもよい。
【0065】
a~dは、それぞれ環Cy1~環Cy4に置換しうる最大数の整数であり、aは8である。a~dが2以上の場合、複数個あるR1~R4はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0066】
2つ以上の隣接するR1~R4同士が、互いに結合して、脂肪族又は芳香族もしくは複素芳香族の、単環又は縮合環を形成してもよいが、溶剤溶解性の低下を抑制するため、R1は、2つ以上の隣接するR1が互いに結合して脂肪族、芳香族又はヘテロ芳香族を形成し、環Cy1に対して縮合しないことが好ましい。
【0067】
R1~R4が置換基である場合、その種類に特に限定はなく、目的とする発光波長の精密な制御や用いる溶剤との相性、有機電界発光素子にする場合のホスト化合物との相性などを考慮して最適な置換基を選択することができる。それら最適化の検討に際して、好ましい置換基は以下に記述される範囲である。
【0068】
R1~R4は、それぞれ独立に、水素原子、D、F、Cl、Br、I、-N(R’)2、-CN、-NO2、-OH、-COOR’、-C(=O)R’、-C(=O)NR’、-P(=O)(R’)2、-S(=O)R’、-S(=O)2R’、-OS(=O)2R’、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルコキシ基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキルチオ基、炭素数2以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルケニル基、炭素数2以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキニル基、炭素数5以上60以下の芳香族基、炭素数5以上60以下の複素芳香族基、炭素数5以上40以下のアリールオキシ基、炭素数5以上40以下のアリールチオ基、炭素数5以上60以下のアラルキル基、炭素数5以上60以下のヘテロアラルキル基、炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基、炭素数10以上40以下のアリールヘテロアリールアミノ基又は炭素数10以上40以下のジヘテロアリールアミノ基から選ばれる。
【0069】
該アルキル基、該アルコキシ基、該アルキルチオ基、該アルケニル基および該アルキニル基は、さらに1つ以上のR’で置換されていてもよく、これらの基における1つの-CH2-基あるいは2以上の隣接していない-CH2-基が、-C(-R’)=C(-R’)-、-C≡C-、-Si(-R’)2-、-C(=O)-、-NR’-、-O-、-S-、-CONR’-もしくは2価の芳香族基に置き換えられていてもよい。これらの基における一つ以上の水素原子が、D、F、Cl、Br、I又は-CNで置換されていてもよい。
【0070】
該芳香族基、該複素芳香族基、該アリールオキシ基、該アリールチオ基、該アラルキル基、該ヘテロアラルキル基、該ジアリールアミノ基、該アリールヘテロアリールアミノ基および該ジヘテロアリールアミノ基は、それぞれ独立に、さらに1つ以上のR’で置換されていてもよい。
【0071】
R’については後述する。
【0072】
炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などが挙げられる。耐久性の観点から、炭素数は1以上が好ましく、30以下が好ましく、20以下がより好ましく、12以下が最も好ましい。
【0073】
炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、n-ブトキシ基、n-ヘキシルオキシ基、イソプロピルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2-エトキシエトキシ基、2-エトキシエトキシエトキシ基などが挙げられる。耐久性の観点から、炭素数は1以上が好ましく、30以下が好ましく、20以下がより好ましく、12以下が最も好ましい。
【0074】
炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキルチオ基の例としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、n-ヘキシルチオ基、イソプロピルチオ基、シクロヘキシルチオ基、2-メチルブチルチオ基、n-ヘキシルチオ基などが挙げられる。耐久性の観点から、炭素数は1以上が好ましく、30以下が好ましく、20以下がより好ましく、12以下が最も好ましい。
【0075】
炭素数2以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、プロぺニル基、ヘプテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロオクテニル基などが挙げられる。耐久性の観点から、炭素数は2以上が好ましく、30以下が好ましく、20以下がより好ましく、12以下が最も好ましい。
【0076】
炭素数2以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキニル基の例としては、エチニル基、プロピオニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基などが挙げられる。耐久性の観点から、炭素数は2以上が好ましく、30以下が好ましく、20以下がより好ましく、12以下が最も好ましい。
【0077】
炭素数5以上60以下の芳香族基及び炭素数5以上60以下の複素芳香族基は、単一の環あるいは縮合環として存在していてもよいし、一つの環にさらに別の種類の芳香族基又は複素芳香族基が結合あるいは縮環してできる基であってもよい。
【0078】
これらの例としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ベンゾアントラセニル基、フェナントレニル基、ベンゾフェナントレニル基、ピレニル基、クリセニル基、フルオランテニル基、ペリレニル基、ベンゾピレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ナフタセニル基、ペンタセニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、スピロビフルオレニル基、ジヒドロフェナントレニル基、ジヒドロピレニル基、テトラヒドロピレニル基、インデノフルオレニル基、フリル基、ベンゾフリル基、イソベンゾフリル基、ジベンゾフラニル基、チオフェン基、ベンゾチオフェニル基、ジベンゾチオフェニル基、ピロリル基、インドリル基、イソインドリル基、カルバゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、インドロカルバゾリル基、インデノカルバゾリル基、ピリジル基、シンノリル基、イソシンノリル基、アクリジル基、フェナンスリジル基、フェノチアジニル基、フェノキサジル基、ピラゾリル基、インダゾリル基、イミダゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ナフトイミダゾリル基、フェナンスロイミダゾリル基、ピリジンイミダゾリル基、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ナフトオキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ピリミジル基、ベンゾピリミジル基、ピリダジニル基、キノキサリニル基、ジアザアントラセニル基、ジアザピレニル基、ピラジニル基、フェノキサジニル基、フェノチアジニル基、ナフチリジニル基、アザカルバゾリル基、ベンゾカルボリニル基、フェナンスロリニル基、トリアゾリル基、ベンゾトリアゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、トリアジニル基、2,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-4-イル基、テトラゾリル基、プリニル基、ベンゾチアジアゾリル基などが挙げられる。
【0079】
溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらの基の炭素数は5以上であることが好ましく、50以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましく、30以下であることが最も好ましい。
【0080】
炭素数5以上40以下のアリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、メチルフェノキシ基、ナフトキシ基、メトキシフェノキシ基などが挙げられる。溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらのアリールオキシ基の炭素数は5以上が好ましく、30以下が好ましく、25以下がより好ましく、20以下が最も好ましい。
【0081】
炭素数5以上40以下のアリールチオ基の例としては、フェニルチオ基、メチルフェニルチオ基、ナフチルチオ基、メトキシフェニルチオ基などが挙げられる。溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらのアリールチオ基の炭素数は5以上が好ましく、30以下が好ましく、25以下がより好ましく、20以下が最も好ましい。
【0082】
炭素数5以上60以下のアラルキル基の例としては、1,1-ジメチル-1-フェニルメチル基、1,1-ジ(n-ブチル)-1-フェニルメチル基、1,1-ジ(n-ヘキシル)-1-フェニルメチル基、1,1-ジ(n-オクチル)-1-フェニルメチル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基、3-フェニル-1-プロピル基、4-フェニル-1-n-ブチル基、1-メチル-1-フェニルエチル基、5-フェニル-1-n-プロピル基、6-フェニル-1-n-ヘキシル基、6-ナフチル-1-n-ヘキシル基、7-フェニル-1-n-ヘプチル基、8-フェニル-1-n-オクチル基、4-フェニルシクロヘキシル基などが挙げられる。溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらのアラルキル基の炭素数は5以上が好ましく、40以下であることがより好ましい。
【0083】
炭素数5以上60以下のヘテロアラルキル基の例としては、1,1-ジメチル-1-(2-ピリジル)メチル基、1,1-ジ(n-ヘキシル)-1-(2-ピリジル)メチル基、(2-ピリジル)メチル基、(2-ピリジル)エチル基、3-(2-ピリジル)-1-プロピル基、4-(2-ピリジル)-1-n-ブチル基、1-メチル-1-(2-ピリジル)エチル基、5-(2-ピリジル)-1-n-プロピル基、6-(2-ピリジル)-1-n-ヘキシル基、6-(2-ピリミジル)-1-n-ヘキシル基、6-(2,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-4-イル)-1-n-ヘキシル基、7-(2-ピリジル)-1-n-ヘプチル基、8-(2-ピリジル)-1-n-オクチル基、4-(2-ピリジル)シクロヘキシル基などが挙げられる。溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらのヘテロアラルキル基の炭素数は5以上であることが好ましく、50以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましく、30以下であることが最も好ましい。
【0084】
炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基の例としては、ジフェニルアミノ基、フェニル(ナフチル)アミノ基、ジ(ビフェニル)アミノ基、ジ(p-ターフェニル)アミノ基などが挙げられる。溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらのジアリールアミノ基の炭素数は10以上であることが好ましく、36以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、25以下であることが最も好ましい。
【0085】
炭素数10以上40以下のアリールヘテロアリールアミノ基の例としては、フェニル(2-ピリジル)アミノ基、フェニル(2,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-4-イル)アミノ基などが挙げられる。溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらのアリールヘテロアリールアミノ基の炭素数は10以上であることが好ましく、36以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、25以下であることが最も好ましい。
【0086】
炭素数10以上40以下のジヘテロアリールアミノ基としては、ジ(2-ピリジル)アミノ基、ジ(2,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-4-イル)アミノ基などが挙げられる。溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらのジヘテロアリールアミノ基の炭素数は10以上であることが好ましく、36以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、25以下であることが最も好ましい。
【0087】
R1~R4としては特に有機電界発光素子における発光材料としての耐久性を損なわないという観点から、それぞれ独立に、水素原子、F、-CN、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数5以上40以下のアリールオキシ基、炭素数5以上40以下のアリールチオ基、炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基、炭素数5以上60以下のアラルキル基、炭素数5以上60以下の芳香族基また炭素数5以上60以下の複素芳香族基が好ましく、水素原子、F、-CN、アルキル基、アラルキル基、芳香族基又は複素芳香族基が特に好ましく、水素原子、F、-CN、アルキル基、芳香族基、複素芳香族基が最も好ましい。
【0088】
R1~R4が置換基である場合、その置換位置は特に限定されない。但し、置換基であるR3は、環Cy3がベンゼン環である場合において、錯体の耐久性を特に重視する場合には、該ベンゼン環の4位又は5位に少なくとも一つのR3が置換されることが好ましく、4位に置換されることがさらに好ましい。この場合のR3は、上述の芳香族基又は複素芳香族基であることが好ましい。
【0089】
置換基であるR2は、環Cy2においてイリジウム原子に配位しない窒素原子が存在する場合には、その窒素原子の隣接位に、少なくとも一つ存在することが好ましい。この場合、該窒素原子を立体障害により遮蔽することにより、溶媒和などの外部からの影響を緩和し、発光波長その他物性への影響を抑制できる傾向がある。
【0090】
<R’>
R’はそれぞれ独立に、水素原子、D、F、Cl、Br、I、-N(R'')2、-CN、-NO2、-Si(R'')3、-B(OR'')2、-C(=O)R''、-P(=O)(R'')2、-S(=O)2R''、-OSO2R''、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルコキシ基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキルチオ基、炭素数2以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルケニル基、炭素数2以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキニル基、炭素数5以上60以下の芳香族基、炭素数5以上60以下の複素芳香族基、炭素数5以上40以下のアリールオキシ基、炭素数5以上40以下のアリールチオ基、炭素数5以上60以下のアラルキル基、炭素数5以上60以下のヘテロアラルキル基、炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基、炭素数10以上40以下のアリールヘテロアリールアミノ基又は炭素数10以上40以下のジヘテロアリールアミノ基から選ばれる。
【0091】
該アルキル基、該アルコキシ基、該アルキルチオ基、該アルケニル基および該アルキニル基は、さらに1つ以上のR''で置換されていてもよく、これらの基における1つの-CH2-基あるいは2以上の隣接していない-CH2-基が、-C(-R'')=C(-R'')-、-C≡C-、-Si(-R'')2-、-C(=O)-、-NR''-、-O-、-S-、-CONR''-もしくは2価の芳香族基に置き換えられていてもよい。また、これらの基における一つ以上の水素原子が、D、F、Cl、Br、I又は-CNで置換されていてもよい。
【0092】
また、該芳香族基、該複素芳香族基、該アリールオキシ基、該アリールチオ基、該アラルキル基、該ヘテロアラルキル基、該ジアリールアミノ基、該アリールヘテロアリールアミノ基および該ジヘテロアリールアミノ基は、さらに1つ以上のR''で置換されていてもよい。R''については後述する。
【0093】
また、2つ以上の隣接するR’が互いに結合して、脂肪族又は芳香族もしくはヘテロ芳香族の、単環もしくは縮合環を形成してもよい。
【0094】
上述の基の例はいずれも、R1~R4の項の記載と同義である。
【0095】
<R''>
R''はそれぞれ独立に、水素原子、D、F、-CN、炭素数1以上20以下の脂肪族炭化水素基、炭素数1以上20以下の芳香族基又は炭素数1以上20以下の複素芳香族基から選ばれる。
【0096】
2つ以上の隣接するR''が互いに結合して、脂肪族又は芳香族もしくはヘテロ芳香族の、単環もしくは縮合環を形成してもよい。
【0097】
<環Cy3と環Cy4の組み合わせ>
発光スペクトルにおける半値幅を広くし、照明用途として最も好ましい性能を示しうる補助配位子としての環Cy3と環Cy4の組み合わせは、2-(9H-フルオレン-2-イル)ベンゾチアゾールである。
【0098】
<具体例>
以下に、後掲の実施例に示した以外の本発明のイリジウム錯体化合物の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
<新規イリジウム錯体化合物>
本発明は下記式(7)で表される新規のイリジウム錯体化合物を提供するものである。
【0107】
【化19】
[式(7)において、Irはイリジウム原子を表す。
C
7~C
9は炭素原子を表し、
N
3及びN
4は窒素原子を表す。
環Cy
5は炭素原子C
7およびC
8を含む芳香環又は複素芳香環を表し、
環Cy
6は炭素原子C
9および窒素原子N
3を含む複素芳香環を表し
X
23~X
26はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子、又は窒素原子
を表し、
Y
2は酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を表し、
R
10~R
12は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。
a´およびb´は、それぞれ環Cy
5およびCy
6に置換しうる最大数の整数を表し、
c´は8である。
m´およびn´は1又は2を表し、m´+n´は3である。]
【0108】
式(7)で表されるイリジウム錯体化合物は、特定の配位子を組み合わせてヘテロレプチック型とすることにより、長鎖アルキル基を必ずしも必要とすることなく、溶剤溶解性を改善することができる。
【0109】
本発明者は、式(7)において、補助配位子環としてR12を有するフルオレン構造を有する場合に、特に発光スペクトルの半値幅が広幅化することを見出した。特に、これは主配位子環Cy5および環Cy6の種類に依らず、窒素原子N4を有する環がベンゾチアゾール環であるときに特に著しいことを見出した。
この現象の理由は明らかではないが、補助配位子側のHOMOレベルが浅くなることによって励起状態の電子が失活する際、一部補助配位子側の軌道にも遷移するため、主配位子内での遷移と競合するため、複数のエネルギーギャップによる発光を示すためと推測する。
【0110】
<環Cy5>
環Cy5はイリジウム原子に配位する炭素原子C7およびC8を含む芳香環又は複素芳香環を表す。その具体例および好ましい範囲は式(1)の環Cy3と同義である。これらの中でも、特に式(1)の環Cy1として挙げた式(2)で表されるフルオレン構造が好ましい。
【0111】
<環Cy6>
環Cy6はイリジウム原子に配位する炭素原子C9および窒素原子N3を含む複素芳香環を表す。その具体例としては、式(1)の環Cy3の複素芳香環で示したものが挙げられる。これらの中でも、特に式(1)の環Cy2として挙げた複素芳香環が好ましい。
【0112】
<X23~X26>
X23~X26はそれぞれ独立に、炭素原子又は窒素原子を表す。発光波長を特に赤色領域に調節すること、および錯体の合成のしやすさの観点から、X23~X26のうちの窒素原子の好ましい数は0又は1である。
【0113】
X23~X26が炭素原子の場合、この炭素原子には水素原子が結合していてもよく、前述のR1~R4の置換基として例示したもの、好ましくはF、アルキル基、芳香族基または複素芳香族基が置換していてもよい。イリジウム錯体化合物の溶解性を損なわないという観点から、X23~X26を含むベンゾチアゾール環を構成する原子数は13以下が好ましい。
【0114】
<Y2>
Y2は酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を表す。錯体の安定性の点から、Y2は好ましくは硫黄原子である。
【0115】
<R10~R12>
R10~R12は水素原子又は置換基を表す。R10~R12はそれぞれ独立であり、
同じでも異なっていてもよい。
【0116】
a´およびb´は、それぞれ環Cy5およびCy6に置換しうる最大数の整数を表し、c´は8である。
【0117】
R10~R12は、それらが複数個ある場合、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
2つ以上隣接するR10~R12同士が、互いに結合して、脂肪族又は芳香族もしくは複素芳香族の、単環又は縮合環を形成してもよい。
【0118】
R10~R12の置換基の具体例及びその好適例は、式(1)のR1~R4と同義である。
【0119】
<最大発光波長>
本発明のイリジウム錯体化合物は、発光波長をより長波長にすることができる。発光波長の長さを示す指標としては、以下に示す手順で測定した最大発光波長が580nm以上が好ましく、590nm以上がより好ましく、600nm以上がさらに好ましく、700nm以下が好ましく、680nm以下がより好ましい。最大発光波長がこの範囲であることで、有機電界発光素子として好適な赤色発光材料の好ましい色を発現できる傾向にある。
【0120】
(最大発光波長の測定方法)
常温下で、2-メチルテトラヒドロフランに、イリジウム錯体化合物を濃度1×10-4mol/L以下で溶解した溶液について、分光光度計(浜松ホトニクス社製 有機EL量子収率測定装置C9920-02)で燐光スペクトルを測定する。得られた燐光スペクトル強度の最大値を示す波長を、最大発光波長とす。
【0121】
<イリジウム錯体化合物の合成方法>
<配位子の合成方法>
本発明のイリジウム錯体化合物の配位子は、既知の方法の組み合わせなどにより合成され得る。特に、環Cy1のフルオレン環は、例えば、フルオレン環の2-位又は3-位に臭素、-B(OH)2基、アセチル基あるいはカルボキシ基を有する化合物を原料として用いることにより容易に導入できる。
【0122】
環Cy1と環Cy2を含む配位子の合成は、これらの原料をさらに、ハロゲン化キノリン類との鈴木-宮浦カップリング反応、2-ホルミル又はアシルアニリン類あるいは互いにオルト位にあるアシルーアミノピリジン類等とのFriedlaender環化反応(Chem.Rev.2009、109、2652、又は、Organic Reactions,28(2),37-201)など既知の反応により合成することができる。
【0123】
<イリジウム錯体化合物の合成方法>>
本発明のイリジウム錯体化合物は、既知の方法の組み合わせなどにより合成できる。以下に詳しく説明する。
【0124】
イリジウム錯体化合物の合成方法としては、判りやすさのためにフェニルピリジン配位子を例として用いた下記式[A]に示すような塩素架橋イリジウム二核錯体を経由する方法(M.G.Colombo,T.C.Brunold,T.Riedener,H.U.GudelInorg.Chem.,1994,33,545-550)、下記式[B]二核錯体からさらに塩素架橋をアセチルアセトナートと交換させ単核錯体へ変換したのち目的物を得る方法(S.Lamansky,P.Djurovich,D.Murphy,F.Abdel-Razzaq,R.Kwong,I.Tsyba,M.Borz,B.Mui,R.Bau,M.Thompson,Inorg.Chem.,2001,40,1704-1711)等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0125】
例えば、下記式[A]で表される典型的な反応の条件は以下のとおりである。
第一段階として、第一の配位子2当量と塩化イリジウムn水和物1当量の反応により塩素架橋イリジウム二核錯体を合成する。溶媒は通常2-エトキシエタノールと水の混合溶媒が用いられるが、無溶媒あるいは他の溶媒を用いてもよい。配位子を過剰量用いたり、塩基等の添加剤を用いて反応を促進することもできる。塩素に代えて臭素など他の架橋性陰イオン配位子を使用することもできる。
【0126】
反応温度に特に制限はないが、通常は0℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。また、250℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。反応温度がこの範囲であることで副生物や分解反応を伴うことなく目的の反応のみが進行し、高い選択性が得られる傾向にある。
【0127】
【0128】
二段階目は、トリフルオロメタンスルホン酸銀のようなハロゲンイオン捕捉剤を添加し第二の配位子と接触させることにより目的とする錯体を得る。溶媒は通常エトキシエタノール又はジグリムが用いられるが、配位子の種類により無溶媒あるいは他の溶媒を使用することができ、複数の溶媒を混合して使用することもできる。ハロゲンイオン捕捉剤を添加しなくても反応が進行する場合があるので必ずしも必要ではないが、反応収率を高め、より量子収率が高いフェイシャル異性体を選択的に合成するには該捕捉剤の添加が有利である。反応温度に特に制限はないが、通常0℃~250℃の範囲で行われる。
【0129】
下記式[B]で表される典型的な反応条件を説明する。
第一段階の二核錯体は式[A]と同様に合成できる。
第二段階は、該二核錯体にアセチルアセトンのような1,3-ジオン化合物を1当量以上、及び、炭酸ナトリウムのような該1,3-ジオン化合物の活性水素を引き抜き得る塩基性化合物を1当量以上反応させることにより、1,3-ジオナト配位子が配位する単核錯体へと変換する。通常原料の二核錯体を溶解しうるエトキシエタノールやジクロロメタンなどの溶媒が使用されるが、配位子が液状である場合無溶媒で実施することも可能である。反応温度に特に制限はないが、通常は0℃~200℃の範囲内で行われる。
【0130】
【0131】
第三段階は、第二の配位子を1当量以上反応させる。溶媒の種類と量は特に制限はなく、第二の配位子が反応温度で液状である場合には無溶媒でもよい。反応温度も特に制限はないが、反応性が若干乏しいため100℃~300℃の比較的高温下で反応させることが多い。そのため、グリセリンなど高沸点の溶媒が好ましく用いられる。
【0132】
最終反応後は未反応原料や反応副生物及び溶媒を除くために精製を行う。通常の有機合成化学における精製操作を適用することができるが、上記の非特許文献記載のように主として順相のシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製が行われる。展開液にはヘキサン、ヘプタン、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトン、メタノールの単一又は混合液を使用できる。精製は条件を変え複数回行ってもよい。その他のクロマトグラフィー技術(逆相シリカゲルクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー)や、分液洗浄、再沈殿、再結晶、粉体の懸濁洗浄、減圧乾燥などの精製操作を必要に応じて施すことができる。
【0133】
<イリジウム錯体化合物の用途>
本発明のイリジウム錯体化合物は、有機電界発光素子に用いられる材料、すなわち有機電界発光素子の赤色発光材料として好適に使用可能であり、有機電界発光素子やその他の発光素子等の発光材料としても好適に使用可能である。
【0134】
[イリジウム錯体化合物含有組成物]
本発明のイリジウム錯体化合物は、溶剤溶解性に優れることから、溶剤とともに使用することが好ましい。以下、本発明のイリジウム錯体化合物と溶剤とを含有する本発明の組成物(以下、「イリジウム錯体化合物含有組成物」と称す場合がある。)について説明する。
【0135】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物は、本発明のイリジウム錯体化合物および溶剤を含有する。本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物は通常湿式成膜法で層や膜を形成するために用いられ、特に有機電界発光素子の有機層を形成するために用いられることが好ましい。該有機層は、特に発光層であることが好ましい
【0136】
イリジウム錯体化合物含有組成物は、有機電界発光素子用組成物であることが好ましく、更に発光層形成用組成物として用いられることが特に好ましい。
【0137】
イリジウム錯体化合物含有組成物における本発明のイリジウム錯体化合物の含有量は、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、通常99.9質量%以下、好ましくは99質量%以下である。組成物中のイリジウム錯体化合物の含有量をこの範囲とすることにより、隣接する層(例えば、正孔輸送層や正孔阻止層)から発光層へ効率よく、正孔や電子の注入が行われ、駆動電圧を低減することができる。
本発明のイリジウム錯体化合物はイリジウム錯体化合物含有組成物中に、1種のみ含まれていてもよく、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0138】
イリジウム錯体化合物含有組成物を例えば有機電界発光素子用に用いる場合には、本発明のイリジウム錯体化合物や溶剤の他、有機電界発光素子、特に発光層に用いられる電荷輸送性化合物を含有してもよい。
【0139】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物を用いて、有機電界発光素子の発光層を形成する場合には、本発明のイリジウム錯体化合物を発光材料とし、他の電荷輸送性化合物を電荷輸送ホスト材料として含むことが好ましい。
【0140】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物に含有される溶剤は、湿式成膜によりイリジウム錯体化合物を含む層を形成するために用いる、揮発性を有する液体成分である。
【0141】
該溶剤は、溶質である本発明のイリジウム錯体化合物が高い溶剤溶解性を有するために、むしろ後述の電荷輸送性化合物が良好に溶解する有機溶剤であれば特に限定されない。
【0142】
好ましい溶剤としては、例えば、n-デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン類;トルエン、キシレン、メシチレン、フェニルシクロヘキサン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル類、シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン類;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール類;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン類;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル類;等が挙げられる。
【0143】
中でも好ましくは、アルカン類や芳香族炭化水素類である。特に、フェニルシクロヘキサンは湿式成膜プロセスにおいて好ましい粘度と沸点を有している。
【0144】
これらの溶剤は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
【0145】
用いる溶剤の沸点は通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上で、通常270℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは沸点230℃以下である。この範囲を下回ると、湿式成膜時において、組成物からの溶剤蒸発により、成膜安定性が低下する可能性がある。
【0146】
溶剤の含有量は、イリジウム錯体化合物含有組成物中好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、特に好ましくは50質量%以上で、好ましくは99.99質量%以下、より好ましくは99.9質量%以下、特に好ましくは99質量%以下である。通常発光層の厚みは3~200nm程度であるが、溶剤の含有量がこの下限を下回ると、組成物の粘性が高くなりすぎ、成膜作業性が低下する可能性がある。溶剤の含有量がこの上限を上回ると、成膜後、溶剤を除去して得られる膜の厚みが稼げなくなるため、成膜が困難となる傾向がある。
【0147】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物が含有し得る他の電荷輸送性化合物としては、従来有機電界発光素子用材料として用いられているものを使用することができる。例えば、ピリジン、カルバゾール、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クリセン、ナフタセン、フェナントレン、コロネン、フルオランテン、ベンゾフェナントレン、フルオレン、アセトナフトフルオランテン、クマリン、p-ビス(2-フェニルエテニル)ベンゼンおよびそれらの誘導体、キナクリドン誘導体、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン、アリールアミノ基が置換された縮合芳香族環化合物、アリールアミノ基が置換されたスチリル誘導体等が挙げられる。
【0148】
これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
【0149】
イリジウム錯体化合物含有組成物中の他の電荷輸送性化合物の含有量は、イリジウム錯体化合物含有組成物中の本発明のイリジウム錯体化合物1質量部に対して、通常1000質量部以下、好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下であり、通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上である。
【0150】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物には、必要に応じて、上記の化合物等の他に、更に他の化合物を含有していてもよい。例えば、上記の溶剤の他に、別の溶剤を含有してもよい。別の溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
【0151】
[有機電界発光素子]
本発明の有機電界発光素子は、本発明のイリジウム錯体化合物を含むものである。
【0152】
本発明の有機電界発光素子は、好ましくは、基板上に少なくとも陽極、陰極及び陽極と陰極の間に少なくとも1層の有機層を有するものであって、前記有機層のうち少なくとも1層が本発明のイリジウム錯体化合物を含む。前記有機層は発光層を含む。
【0153】
本発明のイリジウム錯体化合物を含む有機層は、本発明の組成物を用いて形成された層であることがより好ましく、湿式成膜法により形成された層であることがさらに好ましい。湿式成膜法により形成された層は、発光層であることが好ましい。
【0154】
本発明において湿式成膜法とは、成膜方法、即ち、塗布方法として、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等、湿式で成膜される方法を採用し、これらの方法で成膜された膜を乾燥して膜形成を行う方法をいう。
【0155】
図1は本発明の有機電界発光素子10に好適な構造例を示す断面の模式図である。
図1において、符号1は基板、符号2は陽極、符号3は正孔注入層、符号4は正孔輸送層、符号5は発光層、符号6は正孔阻止層、符号7は電子輸送層、符号8は電子注入層、符号9は陰極を各々表す。
【0156】
これらの構造に適用する材料は、公知の材料を適用することができ、特に制限はないが、各層に関しての代表的な材料や製法を一例として以下に記載する。以下において、公報や論文等を引用している場合、該当内容を当業者の常識の範囲で適宜、適用、応用することができるものとする。
【0157】
<基板1>
基板1は、有機電界発光素子の支持体となるものであり、通常、石英やガラスの板、金属板又は金属箔、プラスチックフィルム又はシート等が用いられる。これらのうち、ガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。基板1は、外気による有機電界発光素子の劣化が起こり難いことからガスバリア性の高い材質とするのが好ましい。特に合成樹脂製の基板等のようにガスバリア性の低い材質を用いる場合は、基板1の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を上げるのが好ましい。
【0158】
<陽極2>
陽極2は、発光層側の層に正孔を注入する機能を担う。陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属;インジウム及び/又はスズの酸化物等の金属酸化物;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;カーボンブラック或いはポリ(3-メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0159】
陽極2の形成は、通常、スパッタリング法、真空蒸着法等の乾式法により行われることが多い。銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板上に塗布することにより形成することもできる。導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板上に薄膜を形成したり、基板上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0160】
陽極2は、通常、単層構造であるが、適宜、積層構造としてもよい。陽極2が積層構造である場合、1層目の陽極上に異なる導電材料を積層してもよい。
【0161】
陽極2の厚みは、必要とされる透明性と材質等に応じて、決めればよい。特に高い透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率が60%以上となる厚みが好ましく、80%以上となる厚みが更に好ましい。陽極2の厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下とするのが好ましい。
透明性が不要な場合は、陽極2の厚みは必要な強度等に応じて任意に厚みとすればよく、この場合、陽極2は基板1と同一の厚みでもよい。
【0162】
陽極2の表面に成膜を行う場合は、成膜前に、紫外線+オゾン、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ等の処理を施すことにより、陽極上の不純物を除去すると共に、そのイオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させておくのが好ましい。
【0163】
<正孔注入層3>
陽極2側から発光層5側に正孔を輸送する機能を担う層は、通常、正孔注入輸送層又は正孔輸送層と呼ばれる。陽極2側から発光層5側に正孔を輸送する機能を担う層が2層以上ある場合に、より陽極2側に近い方の層を正孔注入層3と呼ぶことがある。正孔注入層3は、陽極2から発光層5側に正孔を輸送する機能を強化する点で、用いることが好ましい。正孔注入層3を用いる場合、通常、正孔注入層3は、陽極2上に形成される。
【0164】
正孔注入層3の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上で、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下である。
【0165】
正孔注入層3の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよい。成膜性が優れる点では、湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0166】
正孔注入層3は、正孔輸送性化合物を含むことが好ましく、正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを含むことがより好ましい。更には、正孔注入層3中にカチオンラジカル化合物を含むことが好ましく、カチオンラジカル化合物と正孔輸送性化合物とを含むことが特に好ましい。
【0167】
(正孔輸送性化合物)
正孔注入層形成用組成物は、通常、正孔注入層3となる正孔輸送性化合物を含有する。 湿式成膜法の場合は、通常、更に溶剤も含有する。正孔注入層形成用組成物は、正孔輸送性が高く、注入された正孔を効率よく輸送できるのが好ましい。このため、正孔移動度が大きく、トラップとなる不純物が製造時や使用時等に発生し難いのが好ましい。また、安定性に優れ、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光に対する透明性が高いことが好ましい。特に、正孔注入層3が発光層5と接する場合は、発光層5からの発光を消光しないものや発光層5とエキサイプレックスを形成して、発光効率を低下させないものが好ましい。
【0168】
正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から、4.5eV~6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合
、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、キナクリドン系化合物等が挙げられる。
【0169】
上述の例示化合物のうち、非晶質性及び可視光透過性の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、芳香族三級アミン化合物が特に好ましい。芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
【0170】
芳香族三級アミン化合物の種類は、特に制限されないが、表面平滑化効果により均一な発光を得やすい点から、重量平均分子量が1000以上1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)を用いるのが好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例としては、下記式(I)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物等が挙げられる。
【0171】
【0172】
(式(I)中、Ar1及びAr2は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族基又は置換基を有していてもよい複素芳香族基を表す。Ar3~Ar5は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族基又は置換基を有していてもよい複素芳香族基を表す。Qは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。また、Ar1~Ar5のうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0173】
下記に連結基を示す。
【0174】
【0175】
(上記各式中、Ar6~Ar16は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族基又は置換基を有していてもよい複素芳香族基を表す。Ra~Rbは、それぞれ独立して、水素原子又は任意の置換基を表す。)
【0176】
Ar1~Ar16の芳香族基及び複素芳香族基としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環由来の基がさらに好ましい。
【0177】
式(I)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のもの等が挙げられる。
【0178】
(電子受容性化合物)
正孔注入層3は、正孔輸送性化合物の酸化により、正孔注入層3の導電率を向上させることができるため、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
【0179】
電子受容性化合物としては、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、電子親和力が5eV以上である化合物が更に好ましい。
【0180】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物等が挙げられる。具体的には、4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開第2005/089024号);塩化鉄(III)(特開平11-251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物;トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(特開2003-31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体及びヨウ素等が挙げられる。
【0181】
(カチオンラジカル化合物)
カチオンラジカル化合物としては、正孔輸送性化合物から一電子取り除いた化学種であるカチオンラジカルと、対アニオンとからなるイオン化合物が好ましい。カチオンラジカルが正孔輸送性の高分子化合物由来である場合、カチオンラジカルは高分子化合物の繰り返し単位から一電子取り除いた構造となる。
【0182】
カチオンラジカルとしては、正孔輸送性化合物として前述した化合物から一電子取り除いた化学種であることが好ましい。正孔輸送性化合物として好ましい化合物から一電子取り除いた化学種であることが、非晶質性、可視光の透過率、耐熱性、及び溶解性などの点から好適である。
【0183】
カチオンラジカル化合物は、前述の正孔輸送性化合物と電子受容性化合物を混合することにより生成させることができる。前述の正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを混合することにより、正孔輸送性化合物から電子受容性化合物へと電子移動が起こり、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンとからなるカチオンイオン化合物が生成する。
【0184】
PEDOT/PSS(Adv.Mater.,2000年,12巻,481頁)やエメラルジン塩酸塩(J.Phys.Chem.,1990年,94巻,7716頁)等の高分子化合物由来のカチオンラジカル化合物は、酸化重合(脱水素重合)することによっても生成する。
ここでいう酸化重合は、モノマーを酸性溶液中で、ペルオキソ二硫酸塩等を用いて化学的に、又は、電気化学的に酸化するものである。この酸化重合(脱水素重合)の場合、モノマーが酸化されることにより高分子化されるとともに、酸性溶液由来のアニオンを対アニオンとする、高分子の繰り返し単位から一電子取り除かれたカチオンラジカルが生成する。
【0185】
(湿式成膜法による正孔注入層3の形成)
湿式成膜法により正孔注入層3を形成する場合、通常、正孔注入層3となる材料を可溶な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に湿式成膜法により成膜し、乾燥させることにより形成させる。成膜した膜の乾燥は、湿式成膜法による発光層5の形成における乾燥方法と同様に行うことができる。
【0186】
正孔注入層形成用組成物中における正孔輸送性化合物の濃度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点では、低い方が好ましく、正孔注入層3に欠陥が生じ難い点では、高い方が好ましい。正孔注入層形成用組成物中における正孔輸送性化合物の濃度は、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、0.5質量%以上が特に好ましく、70質量%以下が好ましく、60質量%以下が更に好ましく、50質量%以下が特に好ましい。
【0187】
溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
【0188】
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセター
(PGMEA)等の脂肪族エーテル及び1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等が挙げられる。
【0189】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル等が挙げられる。
【0190】
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3-イソプロピルビフェニル、1,2,3,4-テトラメチルベンゼン、1,4-ジイソプロピルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
【0191】
アミド系溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0192】
これらの他、ジメチルスルホキシド等も用いることができる。
【0193】
正孔注入層3の湿式成膜法による形成は、通常、正孔注入層形成用組成物を調製後に、これを、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布成膜し、乾燥することにより行われる。正孔注入層3は、通常、成膜後に、加熱や減圧乾燥等により塗布膜を乾燥させる。
【0194】
(真空蒸着法による正孔注入層3の形成)
真空蒸着法により正孔注入層3を形成する場合には、通常、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種類又は2種類以上を真空容器内に設置された坩堝に入れ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々を別々の坩堝に入れ)、真空容器内を真空ポンプで10-4Pa程度まで排気した後、坩堝を加熱して(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々の坩堝を加熱して)、坩堝内の材料の蒸発量を制御しながら蒸発させ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々独立に蒸発量を制御しながら蒸発させ)、坩堝に向き合って置かれた基板上の陽極2上に正孔注入層3を形成させる。2種類以上の材料を用いる場合は、それらの混合物を坩堝に入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層3を形成することもできる。
【0195】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10-6Torr(0.13×10-4Pa)以上、9.0×10-6Torr(12
.0×10-4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上、50℃以下で行われる。
【0196】
<正孔輸送層4>
正孔輸送層4は、陽極2側から発光層5側に正孔を輸送する機能を担う層である。正孔輸送層4は、本発明の有機電界発光素子では、必須の層では無いが、陽極2から発光層5に正孔を輸送する機能を強化する点では、この層を設けることが好ましい。正孔輸送層4を設ける場合、通常、正孔輸送層4は、陽極2と発光層5の間に形成される。正孔注入層3がある場合、正孔輸送層4は正孔注入層3と発光層5の間に形成される。
【0197】
正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上で、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0198】
正孔輸送層4の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよい。成膜性が優れる点では、湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0199】
正孔輸送層4は、通常、正孔輸送層4となる正孔輸送性化合物を含有する。正孔輸送層4に含まれる正孔輸送性化合物としては、特に、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5-234681号公報)、4,4’,4''-トリス(1-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J.Lumin.,72-74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’-テトラキス-(ジフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール誘導体などが挙げられる。ポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7-53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym.Adv.Tech.,7巻、33頁、1996年)等も好ましく使用できる。
【0200】
(湿式成膜法による正孔輸送層4の形成)
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、通常、上述の正孔注入層3を湿式成膜法で形成する場合と同様にして、正孔注入層形成用組成物の代わりに正孔輸送層形成用組成物を用いて形成させる。
【0201】
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、通常、正孔輸送層形成用組成物は、更に溶剤を含有する。正孔輸送層形成用組成物に用いる溶剤は、上述の正孔注入層形成用組成物で用いる溶剤と同様の溶剤を使用することができる。
【0202】
正孔輸送層形成用組成物中の正孔輸送性化合物の濃度は、正孔注入層形成用組成物中の正孔輸送性化合物の濃度と同様の範囲とすることができる。
【0203】
正孔輸送層4の湿式成膜法による形成は、前述の正孔注入層3の成膜法と同様に行うことができる。
【0204】
(真空蒸着法による正孔輸送層4の形成)
真空蒸着法で正孔輸送層4を形成する場合も、通常、上述の正孔注入層3を真空蒸着法で形成する場合と同様にして、正孔注入層3の構成材料の代わりに正孔輸送層4の構成材料を用いて形成させることができる。蒸着時の真空度、蒸着速度及び温度などの成膜条件などは、正孔注入層3の真空蒸着時と同様の条件で成膜することができる。
【0205】
<発光層5>
発光層5は、一対の電極間に電界が与えられた時に、陽極2から注入される正孔と陰極9から注入される電子が再結合することにより励起され、発光する機能を担う層である。
【0206】
発光層5は、陽極2と陰極9の間に形成される層である。発光層5は、陽極2の上に正孔注入層3がある場合は、正孔注入層3と陰極9の間に形成され、陽極2の上に正孔輸送層4がある場合は、正孔輸送層4と陰極9との間に形成される。
【0207】
発光層5の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜に欠陥が生じ難い点では厚い方が好ましく、一方、薄い方が低駆動電圧としやすい点で好ましい。発光層5の膜厚は、3nm以上が好ましく、5nm以上が更に好ましく、通常200nm以下が好ましく、100nm以下が更に好ましい。
【0208】
発光層5は、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、電荷輸送性を有する材料(電荷輸送性材料)を含有する。発光材料としては、いずれかの発光層に、本発明のイリジウム錯体化合物が含まれていればよく、適宜他の発光材料を用いてもよい。以下、本発明のイリジウム錯体化合物以外の他の発光材料について詳述する。
【0209】
(発光材料)
発光材料は、所望の発光波長で発光し、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、公知の発光材料を適用可能である。発光材料は、蛍光発光材料でも、燐光発光材料でもよいが、発光効率が良好である材料が好ましく、内部量子効率の観点から燐光発光材料が好ましい。
【0210】
蛍光発光材料としては、例えば、以下の材料が挙げられる。
【0211】
青色発光を与える蛍光発光材料(青色蛍光発光材料)としては、例えば、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、クリセン、p-ビス(2-フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0212】
緑色発光を与える蛍光発光材料(緑色蛍光発光材料)としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、Al(C9H6NO)3などのアルミニウム錯体等が挙げられる。
【0213】
黄色発光を与える蛍光発光材料(黄色蛍光発光材料)としては、例えば、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。
【0214】
赤色発光を与える蛍光発光材料(赤色蛍光発光材料)としては、例えば、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0215】
燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)の第7~11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体等が挙げられる。周期表の第7~11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。
【0216】
有機金属錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子などの(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリンなどが連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0217】
好ましい燐光発光材料として、具体的には、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2-フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2-フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2-フェニルピリジン)白金、トリス(2-フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2-フェニルピリジン)レニウム等のフェニルピリジン錯体及びオクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等のポルフィリン錯体等が挙げられる。
【0218】
高分子系の発光材料としては、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)-co-(4,4’-(N-(4-sec-ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)-co-(1,4-ベンゾ-2{2,1’-3}-トリアゾール)]などのポリフルオレン系材料、ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]などのポリフェニレンビニレン系材料が挙げられる。
【0219】
(電荷輸送性材料)
電荷輸送性材料は、正電荷(正孔)又は負電荷(電子)輸送性を有する材料であり、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、公知の材料を適用可能である。
【0220】
電荷輸送性材料は、従来、有機電界発光素子の発光層5に用いられている化合物等を用いることができ、特に、発光層5のホスト材料として使用されている化合物が好ましい。
【0221】
電荷輸送性材料としては、具体的には、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物等の正孔注入層3の正孔輸送性化合物として例示した化合物等が挙げられる他、アントラセン系化合物、ピレン系化合物、カルバゾール系化合物、ピリジン系化合物、フェナントロリン系化合物、オキサジアゾール系化合物、シロール系化合物等の電子輸送性化合物等が挙げられる。
【0222】
電荷輸送性材料としては、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5-234681号公報)、4,4’,4''-トリス(1-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン系化合物(J.Lumin.,72-74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン系化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’-テトラキス-(ジフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン等のフルオレン系化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール系化合物等の正孔輸送層4の正孔輸送性化合物として例示した化合物等も好ましく用いることができる。その他、2-(4-ビフェニリル)-5-(p-ターシャルブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(tBu-PBD)、2,5-ビス(1-ナフチル)-1,3,4-オキサジアゾール(BND)などのオキサジアゾール系化合物、2,5-ビス(6’-(2’,2”-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール系化合物、バソフェナントロリン(BPhen)、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)などのフェナントロリン系化合物等も挙げられる。
【0223】
(湿式成膜法による発光層5の形成)
発光層5の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよいが、成膜性に優れることから、湿式成膜法が好ましい。
【0224】
湿式成膜法により発光層5を形成する場合は、通常、上述の正孔注入層3を湿式成膜法で形成する場合と同様にして、正孔注入層形成用組成物の代わりに、発光層5となる材料を可溶な溶剤(発光層用溶剤)と混合して調製した発光層形成用組成物を用いて形成させる。本発明においては、この発光層形成用組成物として、本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物を用いることが好ましい。
【0225】
溶剤としては、例えば、正孔注入層3の形成について挙げたエーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤の他、アルカン系溶剤、ハロゲン化芳香族炭化水系溶剤、脂肪族アルコール系溶剤、脂環族アルコール系溶剤、脂肪族ケトン系溶剤及び脂環族ケトン系溶剤などが挙げられる。用いる溶剤は、本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物の溶剤としても例示した通りである。以下に溶剤の具体例を挙げるが、本発明の効果を損なわない限り、これらに限定されるものではない。
【0226】
例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル系溶剤;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル系溶剤;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル系溶剤;トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、3-イソプロピルビフェニル、1,2,3,4-テトラメチルベンゼン、1,4-ジイソプロピルベンゼン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤;n-デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン系溶剤;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶剤;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール系溶剤;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール系溶剤;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン系溶剤;シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン系溶剤等が挙げられる。これらのうち、アルカン系溶剤及び芳香族炭化水素系溶剤が特に好ましい。
【0227】
より均一な膜を得るためには、成膜直後の液膜から溶剤が適当な速度で蒸発することが好ましい。このため、用いる溶剤の沸点は、前述の通り、通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上で、通常270℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは沸点230℃以下である。
【0228】
溶剤の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、発光層形成用組成物、即ちイリジウム錯体化合物含有組成物中の合計含有量は、低粘性なために成膜作業が行いやすい点で多い方が好ましく、厚膜で成膜しやすい点では低い方が好ましい。前述の通り、溶剤の含有量は、イリジウム錯体化合物含有組成物において好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、特に好ましくは50質量%以上で、好ましくは99.99質量%以下、より好ましくは99.9質量%以下、特に好ましくは99質量%以下である。
【0229】
湿式成膜後の溶剤除去方法としては、加熱又は減圧を用いることができる。加熱方法において使用する加熱手段としては、膜全体に均等に熱を与えることから、クリーンオーブン、ホットプレートが好ましい。
【0230】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、乾燥時間を短くする点では温度が高いほうが好ましく、材料へのダメージが少ない点では低い方が好ましい。加温温度の上限は通常250℃以下であり、好ましくは200℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。加温温度の下限は通常30℃以上であり、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは80℃以上である。上記上限を超える温度は、通常用いられる電荷輸送材料又は燐光発光材料の耐熱性より高く、分解や結晶化する可能性があり好ましくない。加熱温度が上記下限未満では溶剤の除去に長時間を要するため、好ましくない。加熱工程における加熱時間は、発光層形成用組成物中の溶剤の沸点や蒸気圧、材料の耐熱性、および加熱条件によって適切に決定される。
【0231】
(真空蒸着法による発光層5の形成)
真空蒸着法により発光層5を形成する場合には、通常、発光層5の構成材料(前述の発光材料、電荷輸送性化合物等)の1種類又は2種類以上を真空容器内に設置された坩堝に入れ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々を別々の坩堝に入れ)、真空容器内を真空ポンプで10-4Pa程度まで排気した後、坩堝を加熱して(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々の坩堝を加熱して)、坩堝内の材料の蒸発量を制御しながら蒸発させ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々独立に蒸発量を制御しながら蒸発させ)、坩堝に向き合って置かれた正孔注入層3又は正孔輸送層4の上に発光層5を形成させる。2種類以上の材料を用いる場合は、それらの混合物を坩堝に入れ、加熱、蒸発させて発光層5を形成することもできる。
【0232】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10-6Torr(0.13×10-4Pa)以上、9.0×10-6Torr(12.0×10-4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上、50℃以下で行われる。
【0233】
<正孔阻止層6>
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。
【0234】
正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔を陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。
【0235】
このような条件を満たす正孔阻止層6の材料としては、例えば、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2-メチル-8-キノラト)アルミニウム-μ-オキソ-ビス-(2-メチル-8-キノリノラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11-242996号公報)、3-(4-ビフェニルイル)-4-フェニル-5(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7-41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10-79297号公報)などが挙げられる。国際公開第2005/022962号に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。
【0236】
正孔阻止層6の形成方法に制限はなく、前述の発光層5の形成方法と同様にして形成することができる。
【0237】
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上で、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0238】
<電子輸送層7>
電子輸送層7は素子の電流効率をさらに向上させることを目的として、発光層5又は正孔素子層6と電子注入層8との間に設けられる。
【0239】
電子輸送層7は、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、陰極9又は電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。
【0240】
このような条件を満たす電子輸送性化合物としては、例えば、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59-194393号公報)、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3-ヒドロキシフラボン金属錯体、5-ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6-207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5-331459号公報)、2-t-ブチル-9,10-N,N’-ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0241】
電子輸送層7の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上で、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0242】
電子輸送層7は、発光層5と同様にして湿式成膜法、或いは真空蒸着法により発光層5又は正孔阻止層6上に積層することにより形成される。通常は、真空蒸着法が用いられる。
【0243】
<電子注入層8>
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率よく、電子輸送層7又は発光層5へ注入する役割を果たす。
【0244】
電子注入を効率よく行うには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられる。
【0245】
電子注入層8の膜厚は、0.1~5nmが好ましい。
【0246】
陰極9と電子輸送層7との界面に電子注入層8として、LiF、MgF2、Li2O、Cs2CO3等の極薄絶縁膜(膜厚0.1~5nm程度)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Appl.Phys.Lett.,70巻,152頁,1997年;特開平10-74586号公報;IEEETrans.Electron.Devices,44巻,1245頁,1997年;SID 04 Digest,154頁)。
さらに、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送材料に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10-270171号公報、特開2002-100478号公報、特開2002-100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は通常5nm以上、好ましくは10nm以上で、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0247】
電子注入層8は、発光層5と同様にして湿式成膜法或いは真空蒸着法により、発光層5或いはその上の正孔阻止層6又は電子輸送層7上に積層することにより形成される。
湿式成膜法の場合の詳細は、前述の発光層5の場合と同様である。
【0248】
<陰極9>
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8又は発光層5など)に電子を注入する役割を果たす。陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なう上では、仕事関数の低い金属を用いることが好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の金属又はそれらの合金などが用いられる。陰極9の材料としては、例えば、マグネシウム-銀合金、マグネシウム-インジウム合金、アルミニウム-リチウム合金等の低仕事関数の合金電極などが挙げられる。
【0249】
素子の安定性の点では、陰極9の上に、仕事関数が高く、大気に対して安定な金属層を積層して、低仕事関数の金属からなる陰極9を保護するのが好ましい。積層する金属としては、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が挙げられる。
【0250】
陰極の膜厚は通常、陽極2と同様である。
【0251】
<その他の構成層>
以上、
図1に示す層構成の素子を中心に説明したが、本発明の有機電界発光素子における陽極2及び陰極9と発光層5との間には、その性能を損なわない限り、上記説明にある層の他にも、任意の層を有していてもよく、また発光層5以外の任意の層を省略してもよい。
【0252】
例えば、正孔阻止層8と同様の目的で、正孔輸送層4と発光層5の間に電子阻止層を設けることも効果的である。電子阻止層は、発光層5から移動してくる電子が正孔輸送層4に到達することを阻止することで、発光層5内で正孔との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔輸送層4から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割がある。
【0253】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。
【0254】
発光層5を湿式成膜法で形成する場合、電子阻止層も湿式成膜法で形成することが、素子製造が容易となるため、好ましい。
このため、電子阻止層も湿式成膜適合性を有することが好ましく、このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8-TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号)等が挙げられる。
【0255】
図1とは逆の構造、即ち、基板1上に陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3、陽極2の順に積層することも可能である。少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に本発明の有機電界発光素子を設けることも可能である。
【0256】
図1に示す層構成を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その際には段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合はその2層)の代わりに、例えばV
2O
5等を電荷発生層として用いると段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0257】
本発明は、有機電界発光素子が、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX-Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。
【0258】
[表示装置及び照明装置]
本発明の表示装置及び照明装置は、上述のような本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の表示装置及び照明装置の形式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【0259】
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発刊、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の表示装置および照明装置を形成することができる。
【実施例】
【0260】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明はその要旨を逸脱しない限り任意に変更して実施できる。
以下の合成例において、反応はすべて窒素気流下で実施した。
【0261】
[イリジウム錯体化合物の合成]
<合成例1:化合物1の合成>
【化24】
【0262】
200mLフラスコに、9,9-ジメチルフルオレン-2-カルボン酸:5.0g、乾燥ジクロロメタン:100mL、塩化チオニル:3.3gおよびN,N-ジメチルホルムアミド:100μLをこの順で加え、室温で1.5時間撹拌した。溶媒を減圧除去し、残渣に乾燥テトラヒドロフラン:5mLを加え、さらに、2-アミノ-3-クロロベンゾニトリル:2.7gの乾燥ピリジン:10mL溶液を加え、室温で撹拌した。10分後、2-アミノ-3-クロロベンゾニトリル:0.7gをさらに加え、合計3時間室温で撹拌した。溶媒を減圧除去し、トルエン:300mLと1N塩酸:130mLで分液洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後ろ過し減圧乾燥した。中間体1を8.8gの黄色固体として得た。中間体1は精製せず次の反応に供した。
【0263】
【0264】
1Lナスフラスコに、2,6-ジブロモ-m-キシレン:27.5g、3-(6-フェニル-n-ヘキシル)フェニルボロン酸:30.3g、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):2.5g、2Mリン酸三カリウム水溶液:2500mL、トルエン:300mLおよびエタノール:100mLを加え、100℃のオイルバスで3時間還流撹拌した。
【0265】
その後室温に冷却し、水相を除去し溶媒を減圧除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル650mL、ヘキサンのみ)で精製し、中間体2を無色オイル状物質として39.4g得た。
【0266】
【0267】
200mLフラスコに、削り状マグネシウム:2.2gを入れ、減圧下1時間撹拌した。その後中間体2:37.8gを乾燥テトラヒドロフラン:45mLに溶解した溶液を室温で30分かけて滴下した。その後室温でさらに1時間撹拌した。この反応液を、中間体1:8.8gを乾燥テトラヒドロフラン:35mLに溶解した溶液に室温で滴下し、85℃で3時間撹拌した。その後、飽和塩化アンモニウム水溶液:10mLを加えた後、溶媒を減圧除去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酸性ゲル500mL、ヘキサン→ヘキサン/酢酸エチル8/2)で精製したところ、中間体3を正味11.1g得た(但し中間体2の脱臭素水素化体が混入していて、全部で13.3gであった。次の反応に影響はないので、混合物のまま次の反応に供した)。
【0268】
【0269】
1Lナスフラスコに、中間体3:正味11.1g、2-ナフタレンボロン酸:5.4g、酢酸パラジウム:183mg、S-Phos(2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル):656mg、リン酸三カリウム:6.6gおよび脱水脱酸素トルエン:100mLを加え、130℃のオイルバスで撹拌した。途中、3時間後に水酸化ナトリウム:2.0g、エタノール:25mLおよび水:25mLを加え、4時間後に水酸化カリウム:2.7g、酢酸パラジウム:100mg、S-Phos:400mgおよびテトラヒドロフラン:10mLを加え、5時間後に水酸化バリウム8水和物:3.0g、酢酸パラジウム:100mg、S-Phos:400mgおよびテトラヒドロフラン:10mLを加え、6時間後に2-ナフタレンボロン酸:2.3g、酢酸パラジウム:100mg、S-Phos:400mgおよびテトラヒドロフラン:10mLを加え、6.5時間後に水酸化カリウム:1.2g、エタノール:50mLおよび水:50mLを加え、合計11時間反応させたが低転化率であった。
【0270】
翌日、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0):1.2gを加え、120℃で撹拌を再開した。1時間後、N,N-ジメチルホルムアミド:100mLを加え、2.5時間後に2-ナフタレンボロン酸:3.1g、酢酸パラジウム:100mg、S-Phos:400mgおよびN,N-ジメチルホルムアミド:15mLを加え、3.5時間後、酢酸パラジウム:100mg、S-Phos:400mgおよびN,N-ジメチルホルムアミド:15mLを加え、合計8時間反応させたところ、原料は消失した。その後溶媒を減圧除去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル700mL、ジクロロメタン/ヘキサン=2/8~1/1)で精製したところ、11.0gの中間体4を橙色固体として得た。
【0271】
【0272】
1Lナスフラスコに、2-(3-ブロモフェニル)ベンゾチアゾール:31.7g、B-[1,1’:3’,1''-テルフェニル]-3-イルボロン酸:33.7g、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):2.2gを入れ、さらに窒素バブリングしたトルエン:350mL、エタノール:100mLおよび2Mリン酸三カリウム水溶液:200mLを加え、100℃で4時間撹拌した。室温まで冷却後、水相を除去し、溶媒を除去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ゲル600mL、ジクロロメタン/ヘキサン=3/7→5/5)で精製し、中間体5を45.9g得た。
【0273】
【0274】
1Lナスフラスコに、中間体5:28.9g、塩化イリジウムn水和物(フルヤ金属製、イリジウム含量52%):10.7gに、2-エトキシエタノール:0.7Lおよび水:60mLを加え、9時間還流撹拌した。析出物をろ過して得たケーキの半分量を500mLのナスフラスコに入れ、3,5-ヘプタンジオン:7.4g、炭酸カリウム:10.2gおよび2-エトキシエタノール:250mLを加え、8時間還流撹拌した。室温まで冷却後、ろ過した液の溶媒を減圧除去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ゲル500mL、ジクロロメタンで展開)で精製したところ、中間体6を14.9g得た。
【0275】
【0276】
100mLナスフラスコに、中間体4:10.8g、中間体6:4.2g、トリフルオロメタンスルホン酸銀:1.5gおよびトルエン:7.5mLを加え、225℃のオイルバスで2時間撹拌した。反応中100mLナスに直結する三方コックに窒素をフローして揮発するトルエンを除去した。室温まで冷却後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル400mL、トルエン/ヘキサン=35/65~1/1で流した後、ジクロロメタン/ヘキサン=1/1で目的物を流下させた)で精製し、化合物1を赤色固体として0.96g得た。
【0277】
【0278】
1Lナスフラスコに、9,9-ジメチルフルオレン-2-カルボン酸:4.9g、乾燥ジクロロメタン:100mL、塩化チオニル:2mLおよびN,N-ジメチルホルムアミド:100μLをこの順で加え、室温で2時間撹拌した。溶媒を減圧除去し、残渣に乾燥N-メチルピロリドン:50mLを加え、さらに、2-アミノチオフェノール:2.6gの乾燥N-メチルピロリドン:50mL溶液を加え、室温で2時間撹拌した。反応液を水:800mLに投入し、2Mリン酸三カリウム水溶液:100mLで中和後、ろ過し、水で洗浄後、減圧乾燥して中間体7を6.2gのクリーム色固体として得た。
【0279】
【0280】
1Lナスフラスコに、中間体7:6.2g、塩化イリジウムn水和物(フルヤ金属製、イリジウム含量52%):3.2gに、2-エトキシエタノール:50mLおよび水:10mLを加え、6時間還流撹拌した。析出物をろ過して得たケーキ:9.1gのうち5.0gを1Lのナスフラスコに入れ、3,5-ヘプタンジオン:2.6g、炭酸カリウム:8.0gおよび2-エトキシエタノール:200mLを加え、1時間45分還流撹拌した。室温まで冷却後、溶媒を減圧除去し、得られた残渣をジクロロメタン:300mLと水:300mLで分液洗浄した後、油相の溶媒を除去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ゲル500mL、ジクロロメタン/ヘキサン=8/2で展開)で精製したところ、中間体8を2.0g得た。
【0281】
【0282】
100mLナスフラスコに、中間体8:1.4g、中間体4:4.3g、トリフルオロメタンスルホン酸銀:0.57gを加え、220℃のオイルバスで2時間撹拌した。室温まで冷却後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル400mL、トルエン/ヘキサン=4/6~1/1で流した後、ジクロロメタン/ヘキサン=1/1で目的物を流下させた)で精製し、化合物2を赤色固体として0.8g得た。
【0283】
[溶剤溶解性の比較]
<実施例1>
化合物1をシクロヘキシルベンゼンに3質量%となるように混合した。室温で2分間手による振盪のみで溶解性を観察した。その後、100℃のホットプレートで5分加熱した後、室温で40時間静置してそれぞれ析出の有無等を観察した。
【0284】
<実施例2、比較例1,2>
実施例1において、化合物1を、化合物2、下記化合物D-1、又は下記化合物D-2に代えた以外は同様の操作を行った。なお、化合物D-1は国際公開第2015/087961号、化合物D-2は国際公開第2014/024889号の記載をもとに合成した。
【0285】
【0286】
以上の結果を表1にまとめた。
表1より、本発明のイリジウム錯体化合物は溶解時の溶解性にも、溶解後時間を経た場合の溶解安定性にも優れていることがわかる。
【0287】
【0288】
[最大発光波長および半値幅の測定]
<実施例3>
化合物1を、常温下で、2-メチルテトラヒドロフラン(アルドリッチ社製、脱水、安定剤非添加)に溶解し、1×10-5mol/Lの溶液を調製した。この溶液をテフロン(登録商標)コック付きの石英セルに入れ、窒素バブリングを20分以上行った後、室温で燐光スペクトルを測定した。得られた燐光スペクトル強度の最大値を示す波長を、最大発光波長とした。また、最大発光波長の半分のスペクトル強度の幅を半値幅とした。
【0289】
発光スペクトルの測定には、以下の機器を用いた。
装置:浜松ホトニクス社製 有機EL量子収率測定装置C9920-02
光源:モノクロ光源L9799-01
検出器:マルチチャンネル検出器PMA-11
励起光:380nm
【0290】
<実施例4、比較例3,4>
実施例3において、化合物1に代えて、化合物2、前記化合物D-1又は前記化合物D-2を用いた他は同様の操作を行った。
【0291】
【0292】
実施例3および実施例4は、
図2において、比較例3と比較例4のデータを結んだ線が示す実施例3および実施例4の最大発光波長における半値幅よりも、それぞれ広い半値幅値を示した。これらの結果から、本発明のイリジウム錯体化合物は、比較例3および比較例4の最大発光波長と半値幅の直線関係から外れた広い半値幅を示すものと言える。
【0293】
【0294】
[イリジウム錯体化合物の合成]
<合成例3:化合物3の合成>
【化35】
【0295】
(反応1)
1Lナスフラスコに、3-ブロモ-4-ヒドロキシ安息香酸(50g)、メタノール(400mL)および硫酸(23mL)を入れ、95℃のオイルバスで3時間還流撹拌した。その後、炭酸ナトリウム(60g)と水(200mL)を入れ塩基性とした後、ジクロロメタン(250mL)で6回で抽出した。水相に35%塩酸(15mL)を加え、ジクロロメタン(250mL)で5回抽出した。油相を硫酸マグネシウム(50mL)で乾燥しろ過後、溶媒を減圧除去して53.6gのメチルエステル体を得た。
【0296】
(反応2)
反応1のメチルエステル体(27.7g)に、2-メチルフェニルボロン酸(16.5g)、酢酸パラジウム(0.50g)、S-Phos(2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6-ジメトキシビフェニル)(1.9g)、リン酸三カリウム(46.3g)および脱酸素トルエン(500mL)を加え、100℃で5時間撹拌した。その後、35%塩酸(40mL)、水(160mL)およびジクロロメタン(100mL)を加えて油相を回収し、熱エタノール(100mL)に溶解させた後、水(250mL)を加えて粉とした。
これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル200mL、ジクロロメタン/ヘキサン=3/7~1/0)で精製して23.1gの中間体9を得た。
【0297】
(反応3)
1Lナスフラスコに、中間体9(23.1g)、ジクロロメタン(350mL)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(35mL)およびトリエチルアミン(30mL)を加え、室温で1時間撹拌した。その後、水(200mL)と炭酸ナトリウム(30g)を加え中和後、油相を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過後溶媒を減圧除去した。
得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(直径9cmの円錐上に1cmの中性ゲルを積み、ジクロロメタン/ヘキサン=1/1で流出させた)で精製したところ、中間体10を38.3g得た。
【0298】
【0299】
(反応4)
1Lナスフラスコに、中間体10(15.5g)、酢酸パラジウム(0.94g)、S-Phos(3.6g)、リン酸三カリウム(17.9g)および脱水テトラヒドロフラン(300mL)を加え、100℃のオイルバスで5時間撹拌した。反応液を冷却後ろ過し、減圧下溶媒除去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル500mL、ジクロロメタン/ヘキサン=2/8~3/7)で精製し、中間体11を6.7g得た。
【0300】
(反応5)
1Lナスフラスコに、中間体3(6.7g)、ヨウ化n-ヘキシル(15.6g)、臭化テトラブチルアンモニウム(1.9g)、ジメチルスルホキシド(40mL)を入れ、水酸化ナトリウム(7.0g)の水(10mL)溶液を滴下し室温で2.5時間撹拌した。次いで、水酸化ナトリウム(2.0g)の水(15mL)溶液を滴下し、さらに1.5時間撹拌した。その後、35%塩酸(50mL)と水(150mL)の水溶液を加え、酢酸エチル(200mL)で抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル200mL、酢酸エチル/ヘキサン=1/9~3/7)で精製したところ、中間体12を9.9g得た。
【0301】
【0302】
(反応6)
1Lのセパラブルフラスコに、2-アミノベンゾニトリル(23.4g)、酢酸(500mL)を入れ、室温で臭素(30mL)を20分かけて滴下した。もう一つの1Lセパラブルフラスコに、2-アミノベンゾニトリル(50.4g)、酢酸(1L)を入れ、臭素(65mL)を20分かけて滴下した。室温で5時間反応させた後、水(50mL)を加えろ過した。
ろ物を合一し、水(500mL)で懸濁洗浄を行い加熱しながら減圧乾燥したところ、2-アミノ-3,5-ジブロモベンゾニトリル(141.8g)を得た。
【0303】
(反応7)
1Lナスフラスコに、2-アミノ-3,5-ジブロモベンゾニトリル(28.9g)、2-ナフタレンボロン酸(37.7g)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(5.2g)、2Mリン酸三カリウム(300mL)、トルエン(300mL)およびエタノール(100mL)を入れ、105℃のオイルバスで4.5時間撹拌した。途中、2-ナフチルボロン酸(12.5g)を追加投入した。その後、室温で水相を除去し、溶媒を減圧除去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル650mL、ジクロロメタン/ヘキサン=65/35~6/4)で精製したところ、中間体13を37.1g得た。
【0304】
【0305】
(反応8)
1Lナスフラスコに、中間体12(9.9g)、乾燥ジクロロメタン(100mL)、塩化チオニル(2.4mL)およびN,N-ジメチルホルムアミド(100μL)を入れ、室温で1.5時間撹拌した。その後、溶媒を除去し酸塩化物を得た。
別の1Lナスフラスコに、中間体13(10.2g)、脱水ピリジン(40mL)を入れ、これに先に調製した酸塩化物のテトラヒドロフラン(8mL)溶液を滴下し、室温で4時間撹拌した。その後、ジクロロメタン(200mL)を加え1N塩酸(120mL)で3回洗浄し、油相を硫酸マグネシウムで乾燥後ろ過し、減圧下に溶媒を除去して中間体14を20.1g得た。
【0306】
(反応9)
100mLフラスコに、削り状マグネシウム(5.0g)を入れ、減圧下1時間撹拌した。その後2-ブロモ-m-キシレン35.0gを乾燥テトラヒドロフラン(50mL)に溶解した溶液を室温で30分かけて滴下した。その後室温でさらに1時間撹拌した。この反応液を、中間体14(18.9g)を乾燥テトラヒドロフラン(100mL)に溶解した溶液に室温で滴下し、85℃で2時間撹拌した。次いで、飽和塩化アンモニウム水溶液(100mL)を加えた後、ジクロロメタン(200mL)で抽出し、有機相の溶媒を減圧除去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酸性ゲル500mL、ヘキサン/ジクロロメタン=6/4)および逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したところ、中間体15を11.5g得た。
【0307】
【0308】
1Lナスフラスコに、2-(3-ブロモフェニル)ベンゾチアゾール(31.7g)、B-[1,1’:3’,1’’-テルフェニル]-3-イルボロン酸(33.7g)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(2.2g)を入れ、さらに窒素バブリングしたトルエン(350mL)、エタノール(100mL)および2Mリン酸三カリウム水溶液(200mL)を加え、100℃で4時間撹拌した。室温まで冷却後、水相を除去し、溶媒を除去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ゲル600mL、ジクロロメタン/ヘキサン=3/7→5/5)で精製し、中間体16を45.9g得た。
【0309】
【0310】
1Lナスフラスコに、中間体16(28.9g)、塩化イリジウムn水和物(フルヤ金属製、イリジウム含量52%)(10.7g)に、2-エトキシエタノール(0.7L)および水(60mL)を加え、9時間還流撹拌した。析出物をろ過して得たケーキの半分量を500mLのナスフラスコに入れ、3,5-ヘプタンジオン(7.4g)、炭酸カリウム(10.2g)および2-エトキシエタノール(250mL)を加え、8時間還流撹拌した。室温まで冷却後、ろ過した液の溶媒を減圧除去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ゲル500mL、ジクロロメタンで展開)で精製したところ、中間体17を14.9g得た。
【0311】
【0312】
100mLナスフラスコに、中間体15(11.5g)、中間体17(4.2g)を入れ、オイルバスに投入し、室温から220℃へ昇温した。バスの温度が210℃を超えたときにトリフルオロメタンスルホン酸銀(1.5g)を入れ、ここから3時間撹拌した。途中2時間後に中間体17(1.0g)を追加した。反応後得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ゲル中性600mL、ジクロロメタン/ヘキサン=3/7)で精製し、化合物3を0.8g得た。
【0313】
[溶剤溶解性及び溶解後の溶解安定性の確認]
化合物3を、シクロヘキシルベンゼンに3質量%となるように混合した。室温にて、手による振盪のみで溶解性を観察したところ、いずれも速やかに溶解した。その後、100℃のホットプレートで5分加熱し、室温で50時間静置して析出の有無を観察したところ、いずれの溶液も均一状態を維持していた。
【0314】
[実施例5]
本発明のイリジウム錯体化合物である化合物3について、以下の方法で、発光量子収率、および最大発光波長の測定を行なった。結果を表3に示す。
【0315】
<発光量子収率の評価>
化合物3を、室温下、2-メチルテトラヒドロフラン(アルドリッチ社製、脱水、安定剤非添加)に溶解し、1×10-5mol/lの溶液を調製した。この溶液をテフロン(登録商標)コック付きの石英セルに入れ、窒素バブリングを20分以上行い、室温で絶対量子収率を測定し、後述の比較例5の値を1.00とした相対値を算出した。
【0316】
発光量子収率の測定には、以下の機器を用いた。
装置:浜松ホトニクス社製 有機EL量子収率測定装置C9920-02
光源:モノクロ光源L9799-01
検出器:マルチチャンネル検出器PMA-11
励起光:380nm
【0317】
<最大発光波長の測定>
化合物3を、常温下で、2-メチルテトラヒドロフランに、濃度1×10-5mol/Lで溶解した溶液について、分光光度計(浜松ホトニクス社製 有機EL量子収率測定装置C9920-02)で燐光スペクトルを測定した。得られた燐光スペクトル強度の最大値を示す波長を、最大発光波長とした。
【0318】
[比較例5~7]
実施例5において、化合物3に代えて以下に示す化合物D-3、化合物D-4又は化合物D-5を用いた他は同様に溶液を調製し、発光量子収率、および最大発光波長を測定した。発光量子収率は、比較例5の値を1.00とした相対値で示した。化合物D-3~D-5は国際公開第2015/087961号の記載をもとに合成した。結果を表3に示す。
【0319】
【0320】
【0321】
図3に、実施例5と比較例5~7における最大発光波長と発光量子収率の関係を表す。 化学的に類似する構造であるイリジウム錯体化合物に関して、特に赤色発光領域においては発光波長と量子収率は多くの場合直線関係を示すことが知られている(例として、S.Okada,et al,Dalton Trans.,2005,1583-1590)。比較例5~7はフェニル-キナゾリン型配位子とフェニル-ベンゾチアゾール型配位子とが組み合わされたイリジウム錯体化合物であり、これらの間にも同様の関係があると考えられる。
実施例5の本発明のイリジウム錯体化合物は、比較例5~7のデータを結んだ線が示す実施例5(化合物3)の最大発光波長における発光量子効率よりも高い量子収率を示した。
【0322】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2017年11月7日付で出願された日本特許出願2017-214771及び2017年11月7日付で出願された日本特許出願2017-214772に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0323】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極
10 有機電界発光素子