(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】着果状態の把握方法、収量予測方法、生産調整方法、及びコンピュータシステム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/02 20240101AFI20240220BHJP
【FI】
G06Q50/02
(21)【出願番号】P 2021045156
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2023-09-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】中山 真義
(72)【発明者】
【氏名】東出 忠桐
(72)【発明者】
【氏名】小田 篤
【審査官】久宗 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-154510(JP,A)
【文献】特開2004-147539(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063455(WO,A1)
【文献】特開2017-184673(JP,A)
【文献】国際公開第2020/218323(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0260653(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0218157(US,A1)
【文献】Elisa Gorbe, Angeles Calatayud,Applications of chlorophyll fluorescence imaging technique in horticultural research: A review,Scientia Horticulturae,Elsevier B. V.,2012年05月01日,Volume 138,24~35ページ,https://doi.org/10.1016/j.scienta.2012.02.002
【文献】Md. Abdul Momin, Naoshi Kondo, Makoto Kuramoto, Yuichi Ogawa, Kazuya Yamamoto, Tomoo Shiigi,Investigation of Excitation Wavelength for Fluorescence Emission of Citrus Peels based on UV-VIS Spectra,Engineering in Agriculture, Environment and Food,Elsevier B. V.,2012年,Volume 5, Issue 4,126~132ページ,https://doi.org/10.1016/S1881-8366(12)80008-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実と葉を含む株のうち前記葉から発せられる可視光の輝度が、前記果実から発せられる蛍光より低くなる暗所において、照射装置が、
前記株に紫外線を照射し、
可視光による像を撮影する撮影装置が、
前記暗所において前記紫外線
を照射
している間に前記株の画像を撮影し、
コンピュータが、前記画像
における輝度分布又は蛍光色の領域の形状に基づいて、
前記画像内における前記果実
の範囲を識別することを特徴とする着果状態の把握方法。
【請求項2】
前記コンピュータは、前記画像
内における前記果実の範囲から、前記果実の数及び大きさの少なくとも一方を測定することを特徴とする請求項
1に記載の着果状態の把握方法。
【請求項3】
前記コンピュータは、前記画像内
における前記果実の範囲を前記果実の形状に近似して縮小し、該縮小後の領域から前記果実の数及び大きさの少なくとも一方を測定する請求項1
又は2に記載の着果状態の把握方法。
【請求項4】
前記照射装置は、ブラックライトであることを特徴とする請求項1乃至
3の何れかに記載の着果状態の把握方法。
【請求項5】
前記果実は、ピーマン類またはキュウリであることを特徴とする請求項1乃至
4の何れかに記載の着果状態の把握方法。
【請求項6】
前記果実は、緑色の果実であることを特徴とする請求項1乃至
4の何れかに記載の着果状態の把握方法。
【請求項7】
前記コンピュータが、請求項1乃至
6の何れかに記載された着果状態の把握方法により把握した着果状態に基づいて
所定期間における前記果実の収量を予測することを特徴とする収量予測方法。
【請求項8】
前記所定期間における前記果実の収量を増加させる方法及び前記所定期間における前記果実の収量を減少させる方法が予め定められており、
前記コンピュータが、請求項
7に記載された収量予測方法により予測した
前記所定期間における前記果実の収量
と目標収量
との大小関係に基づいて、予め定められている方法のいずれかを選択することを特徴とする生産調整方法。
【請求項9】
前記収量を増加させる方法と前記収量を減少させる方法のそれぞれが、前記予測を行うタイミングと前記所定期間と間の長さに応じて複数定められており、
前記コンピュータは、前記予測を行ったタイミングと前記所定期間との間の長さと、予測した前記所定期間における前記果実の収量と前記目標収量との大小関係と、に基づいて、予め定められている方法のいずれかを選択することを特徴とする請求項8に記載の生産調整方法。
【請求項10】
前記収量を減少させる方法には、前記所定期間が予測収量のピークよりも前の期間である場合に当該ピークを遅延させる方法と、前記所定期間が予測収量のピークよりも後の期間である場合に当該ピークを前倒しさせる方法と、が含まれることを特徴とする請求項9に記載の生産調整方法。
【請求項11】
果実と葉を含む株に紫外線を照射する照射装置と、
前記株の葉から発せられる可視光の輝度が、前記果実から発せられる蛍光より低くなる暗所において、前記紫外線の照射中に前記株の画像を撮影する撮影装置と、
前記画像
における輝度分布又は蛍光色の領域の形状に基づいて、
前記画像内における前記果実
の範囲を識別するコンピュータとを有することを特徴とするコンピュータシステム。
【請求項12】
前記コンピュータは、前記果実を識別することにより着果状態を把握し、前記着果状態に基づいて
所定期間における前記果実の収量を予測することを特徴とする請求項
11に記載のコンピュータシステム。
【請求項13】
前記所定期間における前記果実の収量を増加させる方法及び前記所定期間における前記果実の収量を減少させる方法が予め定められており、
前記コンピュータは、
前記所定期間における前記果実の収量
と目標収量
との大小関係に基づいて、予め定められている方法のいずれかを選択することを特徴とする請求項
12に記載のコンピュータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、着果状態の把握方法、収量予測方法、生産調整方法、及びコンピュータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
果実の収穫量は、果実の数及び大きさなどの株の着果状態の把握結果に基づいて予測することができる。ピーマン類やキュウリなどの緑色を呈する果実は、緑色の葉と重なると、果実の識別が難しい。ここで、ピーマン類とは、植物学的分類においてナス科トウガラシ属に属し、果実が野菜として利用されるパプリカやシシトウを含む植物を意味する。
【0003】
果実の識別に関し、例えば特許文献1及び2には、果実の画像のRGB信号から果実を認識する点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭62-295190号公報
【文献】特開平8-19333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び2の開示技術によると、複雑な画像処理により果実を識別するため、高性能な装置が必要となる。このため、果実を容易に識別する手段が求められる。このような手段は、果実の収量の予測、及び果実の生産量の調整に利用されて収穫作業の省力化に貢献することが期待される。
【0006】
そこで本発明は、株の着果状態を容易に把握することができる着果状態の把握方法及びコンピュータシステム、果実の収量を容易に予測することができる収量予測方法、並びに果実の生産量を適切に調整することができる生産調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの態様では、着果状態の把握方法は、照射装置が、果実と葉を含む株のうち前記葉から発せられる可視光の輝度が、前記果実から発せられる蛍光より低くなる暗所において、照射装置が、前記株に紫外線を照射し、撮影装置が、前記暗所において前記紫外線を照射している間に前記株の画像を撮影し、コンピュータが、前記画像における輝度分布又は蛍光色の領域の形状に基づいて、前記画像内における前記果実の範囲を識別する方法である。
【0008】
1つの態様では、コンピュータシステムは、株に紫外線を照射する照射装置と、前記紫外線の照射中に前記株の画像を撮影する撮影装置と、前記画像に基づいて、前記株に実った果実から前記紫外線の照射に応じて発せられる蛍光により前記果実を識別するコンピュータとを有する。
【0009】
1つの態様では、収量予測方法は、前記コンピュータが、上記の着果状態の把握方法により把握した着果状態に基づいて前記果実の収量を予測する方法である。
【0010】
1つの態様では、生産調整方法は、前記コンピュータが、上記の収量予測方法により予測した前記果実の収量を目標収量と比較し、比較結果に応じて前記果実の生産量を調整する方法である。
【発明の効果】
【0011】
1つの態様に係る着果状態の把握方法及びコンピュータシステムによれば、株に実った果実を容易に識別することができる。また、1つの態様に係る収量予測方法によれば、果実の収量を容易に予測することができる。また、1つの態様に係る生産調整方法によれば、果実の生産量を適切に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】株の着果状態を把握するコンピュータシステムの一例を示す構成図である。
【
図2】着果状態の把握方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】可視光線及び紫外線の照射時のピーマン類の果実の画像を示す図である。
【
図4】可視光線及び紫外線の照射時のキュウリの果実の画像を示す図である。
【
図5】可視光線及び紫外線の照射時のシシトウの果実の画像を示す図である。
【
図6】可視光線及び紫外線の照射時の赤色品種のパプリカの果実の画像を示す図である。
【
図7】可視光線及び紫外線の照射時の黄色品種のパプリカの果実の画像を示す図である。
【
図8】果実の大きさ及び数の測定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図10】果実の予測収量の算出及び生産調整の方法の一例を示すフローチャートである。
【
図13】植物成長調整剤を用いた生産調整の決定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(コンピュータシステムの構成)
図1は、株9の着果状態を把握するコンピュータシステム4の一例を示す構成図である。コンピュータシステム4は、コンピュータ1、ブラックライト2、及びデジタルカメラ3を含む。本例において、コンピュータ1、ブラックライト2、及びデジタルカメラ3は互いに独立した装置であるが、コンピュータ1、ブラックライト2、及びデジタルカメラ3のうち、少なくとも2つが1つの装置として実現されてもよい。
【0014】
着果状態の把握対象の一例として、ピーマンの株9を挙げる。ピーマンの果実93は、主茎90から伸びる側枝91からぶら下がっている。果実93の色は葉92と同じ緑色であるため、例えば夜間のように照度が低い環境において、目視で果実93を葉92から識別することは難しい。
【0015】
これに対し、ブラックライト2は株9に紫外線を照射し、デジタルカメラ3はフレームF内の株9の画像を撮像する。デジタルカメラ3は、画像の画像データDをコンピュータ1に送信する。なお、デジタルカメラ3は、例えばLAN(Local Area Network)ケーブルなどの通信ケーブルを介して画像データDを送信してもよいし、WiFi(Wireless Fidelity)などの無線LAN、またはBluetooth(登録商標)、及びNFC(Near Field Communication)などの近距離無線通信手段を介して画像データDを送信してもよい。なお、デジタルカメラ3は、株9を撮像する撮影装置の一例であり、撮影装置としては、パーソナルコンピュータやスマートフォンに備えられた小型カメラも挙げられる。
【0016】
果実93、主茎90、及び側枝91は紫外線の照射に応じて蛍光を発するが、葉92は紫外線を照射されても蛍光を発しない。このため、画像データDでは、果実93、主茎90、及び側枝91のみが明るく光っている。
【0017】
コンピュータ1は、画像データDから蛍光を発する部分を検出することにより果実93を葉92、主茎90、及び側枝91と区別されるように識別する。コンピュータ1は、例えばパーソナルコンピュータ、タブレット端末、及びスマートフォンなどであり、CPU(Central Processing Unit)10、メモリ11、通信インターフェース部(通信IF)12、入力部13、及び表示部14を有する。
【0018】
CPU10は、相互に電気信号を送受信できるようにメモリ11、通信IF12、入力部13、及び表示部14とバスなどを介して接続されている。メモリ11は、CPU10を駆動するプログラムが格納されたROM(Read Only Memory)、及びCPU10のワーキングメモリとして機能するRAM(Random Access Memory)が含まれる。
【0019】
通信IF12は、デジタルカメラ3、インターネット、及びLANなどとの通信を処理する。入力部13は、操作者がCPU10に各種の情報を入力するための装置であり、例えばキーボード、マウス、及びタッチパネルなどが挙げられる。表示部14は、CPU10からの各種の情報を表示する装置であり、例えばディスプレイ及びタッチパネルなどが挙げられる。
【0020】
通信IF12は、デジタルカメラ3から画像データDを受信してCPU10に出力する。CPU10は、画像データDに基づいて、株9に実った果実93から紫外線の照射に応じて発せられる蛍光により果実93を葉92などと区別されるように識別する。CPU10は、果実93の識別結果に基づき果実の数及び大きさを測定する。CPU10は、例えば、測定結果を表示部14に出力して表示し、あるいは通信IF12を介してサーバなどの他の装置に出力する。
【0021】
(着果状態の把握方法)
図2は、着果状態の把握方法の一例を示すフローチャートである。本例では、一例として株9の栽培者が着果状態の把握方法を実行すると仮定する。まず、栽培者は例えばビニールハウス内で株9を栽培する(ステップSt1)。
【0022】
次に栽培者は、例えば夜間などの照度の低い環境においてブラックライト2から紫外線を株9に照射する(ステップSt2)。このとき、株9の全体に紫外線を照射できるように複数個のブラックライト2が用いられてもよい。なお、ブラックライト2は、紫外線を照射する照射装置の一例である。ブラックライト2は汎用品であるため、入手が容易であるが、ブラックライト2の代わりに紫外線を照射可能な他の照射装置を用いてもよい。
【0023】
また、紫外線の照射は、コンピュータ1により実行制御されてもよい。また、照射時の照度は、紫外線の照射に応じて果実93から発せられる蛍光をコンピュータ1が認識できる程度の値とする。
【0024】
次に栽培者は、紫外線の照射中にデジタルカメラ3により株9の画像を撮影する(ステップSt3)。このとき、デジタルカメラ3は、反射光が生じないようにフラッシュをオフにして撮影する。デジタルカメラ3は、栽培者の操作またはコンピュータ1からの制御に応じて株9の画像データDをコンピュータ1に送信する。
【0025】
また、株9の画像の撮影は、コンピュータ1により実行制御されてもよい。例えば夜間、コンピュータ1がブラックライト2を搭載した車両やロボットをGPS(Global Positioning System)などの位置特定手段により取得して自動的に操縦し、温室内の複数の位置において株9の画像を撮影してもよい。これにより、栽培者の撮影作業の負担が軽減される。もっとも、栽培者は、温室内の複数の位置にそれぞれブラックライト2を設置して撮影を行ってもよい。
【0026】
また、デジタルカメラ3は、株9の葉92から発せられる可視光の輝度が、果実93から発せられる蛍光より低くなる暗所において撮影を実行するのが好ましい。すなわち、紫外線に応じて果実93から反射される蛍光の輝度が、株9の葉92から反射される可視光の輝度より十分大きくなるような暗所が撮影に適している。これにより、コンピュータ1は輝度に基づいて果実93をより容易に識別することが可能である。
【0027】
次にコンピュータ1は、画像データDに基づいて、株9に実った果実93から紫外線の照射に応じて発せられる蛍光により果実93を葉92と区別されるように識別する(ステップSt4)。コンピュータ1は、例えば画像データDの輝度分布から、輝度が所定の閾値以上である蛍光色の領域を検出することにより果実93を識別する。このため、コンピュータ1は、株9に実った果実93を容易に識別することができる。なお、コンピュータ1は、輝度だけでなく、例えば蛍光色の領域の形状が卵形状であることから果実93を識別してもよい。
【0028】
次にコンピュータ1は、果実93の識別結果に基づき果実93の大きさ及び数を測定する(ステップSt5)。この測定方法については後述する。なお、コンピュータ1は、果実93の大きさ及び数の一方のみを測定してもよい。
【0029】
次にコンピュータ1は、果実93の大きさ及び数の測定結果を表示部14または通信IF12に出力する(ステップSt6)。これにより、栽培者は、測定結果を取得して株9の着果状態を把握することができる。なお、上記のコンピュータ1の処理は、CPU10を駆動するプログラムの機能により実現されるが、これに限定されず、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0030】
(果実の識別例)
次に果実93の識別例を列挙する。
【0031】
図3は、可視光線及び紫外線の照射時のピーマン類の果実の画像S1a,S1bを示す図である。画像S1a,S1bは、ピーマン類の果実に複数の葉を重ねた状態を示す。また、紫外線の照射時のピーマン類の果実の画像S1bは、照度が低い環境下で撮影したものである。
【0032】
ピーマン類の果実と葉はともに緑色であるため、可視光線の照射時のピーマン類の果実の画像S1aではピーマン類の果実の識別が難しい。一方、紫外線の照射時のピーマン類の果実の画像S1bでは、ピーマン類の果実が紫外線の照射に応じて蛍光を発しているが、葉は蛍光を発していない。したがって、コンピュータ1は、ピーマン類の果実が葉に重なっている状態であっても、画像S1b内の蛍光色の領域を例えば輝度に基づいて検出することによりピーマン類の果実を容易に識別することができる。
【0033】
図4は、可視光線及び紫外線の照射時のキュウリの果実の画像S2a,S2bを示す図である。画像S2a,S2bは、キュウリの果実を葉に重ねた状態を示す。また、紫外線の照射時のキュウリの果実の画像S2bは、照度が低い環境下で撮影したものである。
【0034】
キュウリの果実と葉はともに緑色であるため、可視光線の照射時のキュウリの果実の画像S2aではキュウリの果実の識別が難しい。一方、紫外線の照射時のキュウリの果実の画像S2bでは、キュウリの果実が紫外線の照射に応じて蛍光を発しているが、葉は蛍光を発していない。したがって、コンピュータ1は、キュウリの果実が葉に重なっている状態であっても、画像S2b内の蛍光色の領域を例えば輝度に基づいて検出することによりキュウリの果実を容易に識別することができる。
【0035】
図5は、可視光線及び紫外線の照射時のシシトウの果実の画像S3a,S3bを示す図である。画像S3a,S3bは、複数のシシトウの果実を横に並べた状態を示す。また、紫外線の照射時のシシトウの果実の画像S3bは、照度が低い環境下で撮影したものである。各画像S3a,S3bを比較すると理解されるように、シシトウの果実も紫外線の照射に応じて蛍光を発するため、識別が容易である。
【0036】
図3~
図5に示されるような緑色果実は、とりわけ暗所では葉の緑色と区別が難しいため、本例のような紫外線による果実の識別がより効果的である。もっとも、以下に示すように、緑色果実以外の果実でも紫外線による識別が可能である。
【0037】
図6は、可視光線及び紫外線の照射時の赤色品種のパプリカの果実の画像S4a,S4bを示す図である。紫外線の照射時のパプリカの果実の画像S4bは、照度が低い環境下で撮影したものである。各画像S4a,S4bを比較すると理解されるように、赤色品種のパプリカの果実も紫外線の照射に応じて蛍光を発するため、識別が容易である。
【0038】
図7は、可視光線及び紫外線の照射時の黄色品種のパプリカの果実の画像S5a,S5bを示す図である。紫外線の照射時のパプリカの画像S5bは、照度が低い環境下で撮影したものである。各画像S5a,S5bを比較すると理解されるように、黄色品種のパプリカの果実も紫外線の照射に応じて蛍光を発するため、識別が容易である。
【0039】
このように、着果状態の把握方法を適用可能な果実93としては、上述したピーマン類の果実及びキュウリの果実などの緑色果実だけでなく、赤色品種または黄色品種のパプリカなどの緑色以外の果実であってもよい。
【0040】
(果実の大きさ及び数の測定方法)
図8は、果実の大きさ及び数の測定方法の一例を示すフローチャートである。なお、測定方法の各処理は、CPU10を駆動するプログラムの機能により実現されるが、これに限定されず、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0041】
CPU10は、デジタルカメラ3から紫外線の照射中に撮影された株の画像データDを取得する(ステップSt11)。株の一例として、符号S6aは、可視光線を照射中のピーマン類の株の画像を示し、符号S6bは、照度の低い環境において紫外線の照射中のピーマン類の株の画像を示す。符号S6a,S6bの各画像を比較すると理解されるように、果実のピーマン類の果実は、葉などの他の部分とは異なり卵形状の蛍光を発している。
【0042】
次にCPU10は、紫外線の照射中の株の画像から卵形状の蛍光色の領域を例えば輝度に基づき検出する(ステップSt12)。これにより、CPU10は、符号S6bの画像から果実のピーマン類の果実を識別することができる。
【0043】
次にCPU10は、画像中の卵形状の蛍光色の領域を果実の形状に近似する(ステップSt12)。例えばCPU10は、符号S6cの画像のように、符号S6bの画像中の蛍光色の領域を、ピーマン類の果実に類似する卵形状により近似する。このとき、CPU10は、蛍光色の領域に適合する大きさの卵形状を当てはめていき、複数個のピーマン類の果実が重なっている部分には複数個の卵形状を適合させる。
【0044】
次にCPU10は、各果実の形状で近似した蛍光色の領域を縮小する(ステップSt13)。例えばCPU10は、符号S6cの画像の複数個の卵形状の大きさを約30%に縮小することにより符号S6dの画像を得る。符号S6dの画像では、各卵形状が互いに重なっていない。
【0045】
次にCPU10は、縮小後の画像から果実の大きさ及び数を測定する(ステップSt14)。例えばCPU10は、符号S6dの画像中の卵形状の面積からピーマン類の果実の大きさを測定し、符号S6dの画像中の卵形状の数からピーマン類の果実の数を測定する。デジタルカメラ3は、ピーマンの大きさの測定を高精度に行うため、ステップSt3において、株からの距離(つまり設置位置)及び撮影倍率などの撮影条件を一定にした状態で株を撮影すると好ましい。
【0046】
このように、コンピュータ1は、株の画像に基づいて、株に実った果実から紫外線の照射に応じて発せられる蛍光により果実を識別する。このため、コンピュータ1は、複雑な処理を行うことなく、画像内の蛍光色の領域から容易に果実を識別することができる。
【0047】
また、コンピュータ1は、上記のように果実を識別することによって、果実の数及び大きさを測定する。このため、株の着果状態の把握が容易である。
【0048】
さらに、コンピュータ1は、上記のように果実の画像内の蛍光を発する領域を検出し、蛍光領域を果実の形状に近似して縮小し、縮小後の蛍光領域から果実の数及び大きさを測定するため、高精度に測定を行うことができる。
【0049】
(収量予測及び生産調整)
次に株の着果状態に基づく収量予測方法及び生産調整方法について述べる。以下の例では、温室で果実の株を栽培する場合を挙げる。
【0050】
図9は、温室8の一例を示す平面図である。温室8は、一例として4つのエリア#1~#4に分かれており、各エリア#1~#4ごとに果実93の株が栽培されている。
【0051】
各エリア#1~#4には、温度、日射量、及び二酸化炭素濃度などの環境情報を測定するセンサ81が設けられている。コンピュータ1は、例えば無線LANを介してセンサ81と通信することにより各エリア#1~#4の環境情報を取得する。さらにコンピュータ1は、例えばインターネットを介して外部のサーバから気候に関する環境情報を取得してもよい。気候に関する環境情報としては、過去の気象データ(平年値など)や気象予測メッシュなどが挙げられる。
【0052】
コンピュータ1は、例えば果実93の数及び大きさの測定結果、及び環境情報から任意の期間の果実の収量を予測する。なお、以下の説明では、コンピュータ1が予測した果実93の収量を「予測収量」と表記する。
【0053】
また、温室8には、果実93の栽培環境を制御する各種の環境制御機器80が設けられている。環境制御機器80としては、例えばヒートポンプ、換気窓、暖房機、CO2施用機、及び遮光・保温カーテンなどが挙げられる。例えばコンピュータ1は、果実93の出荷計画における上記の任意の期間の収量の目標値(以下、「目標収量」と表記)と予測収量を比較し、比較結果に応じて環境制御機器80を制御することにより果実93の生産量を調整する。
【0054】
図10は、果実93の予測収量の算出及び生産調整の方法の一例を示すフローチャートである。なお、本方法は、CPU10を駆動するプログラムの機能により実現されるが、これに限定されず、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0055】
コンピュータ1は、上述した方法により測定した果実93の数及び大きさの測定結果に基づいて株の着果状態を集計する(ステップSt21)。このとき、コンピュータ1は、果実93の数及び大きさの測定結果だけでなく、栽培者が入力部13により入力した株の開花状態、着果状態、及び生育状態に関する情報を用いてもよい。
【0056】
次にコンピュータ1は、センサ81などから果実93の栽培環境の環境情報(計測値及び予測値など)を取得する(ステップSt22)。このとき、コンピュータ1は、センサ81の環境情報だけでなく、栽培者が入力部13により入力した環境情報を取得してもよい。
【0057】
次にコンピュータ1は、環境情報に基づいて果実93の収穫時期を予測する(ステップSt23)。なお、コンピュータ1は、ステップSt23,St24の処理を、ステップSt21,St22の処理と同時並行で行ってもよい。
【0058】
次にコンピュータ1は、予測した収穫時期のうち、栽培者が選択した任意の期間(以下、選択期間と表記)の予測収量を、株の着果状態を集計結果から算出して表示部14に出力する(ステップSt24)。これにより、栽培者は任意の期間の果実93の予測収量を確認することができる。
【0059】
次にコンピュータ1は、選択期間の目標収量と予測収量を比較する(ステップSt25)。ここで、期間ごとの目標収量は、メモリ11に予め格納されていてもよいし、外部のサーバなどに格納されていてもよい。
【0060】
次にコンピュータ1は、目標収量と予測収量の比較結果に応じて果実93の生産調整方法を決定して表示部14に出力する(ステップSt26)。生産調整方法は、後述するように収穫時期のピークの調整や植物成長調整剤の利用が挙げられる。これにより、栽培者は出荷計画に従った適切な生産調整方法を把握することができる。
【0061】
図11は、果実93の予測収量の算出例を示す図である。符号Sq1は、温室8の各エリア#1~#4ごとの50日前着果数(果/エリア)、40日前着果数(果/エリア)、40日前積算気温(℃・日)、及び50日前積算気温(℃・日)を示す。
【0062】
50日前着果数及び40日前着果数は、選択期間の50日前及び40日前にそれぞれ測定された単位面積当たりの果実93の数である。40日前積算気温及び50日前積算気温は、選択期間の50日前及び40日前からそれぞれ積算された日ごとの平均気温の合計値である。40日前積算気温及び50日前積算気温は環境情報から算出される。
【0063】
コンピュータ1は、後述する収穫熟度範囲に基づいて50日前着果数、40日前着果数、40日前積算気温、及び50日前積算気温からエリア#1~#4ごとに果実93の収穫数を算出する。なお、以下の説明では、予測された収穫数を予測収穫数と表記する。
【0064】
符号Sq2は、温室8の全体の予測収穫数を示す。コンピュータ1は、各エリア#1~#4の予測収穫数を合計することにより温室8の全体の予測収穫数を算出する。
【0065】
符号Sq3は、予測収量の算出例を示す。コンピュータ1は、温室8の全体の予測収穫数に、1個の果実93の重量である1果重(g/果)を乗ずることにより予測収量を算出する。1果重(g/果)は、例えば品種ごとの固有値と果実93の生育情報及び環境情報などから算出される。
【0066】
図12は、果実93の生産調整手段の例を示す図である。コンピュータ1は、例えば果実93の生産調整手段を調整条件の成否及び調整の時期に応じて決定する。コンピュータ1は、例えば、調整の時期が選択期間の1~2か月前である場合、長期的な生産調整手段を採用し、調整の時期が選択期間の1日~2週間前である場合、短期的な生産調整手段を採用する。
【0067】
コンピュータ1は、予測収量が目標収量を上回る場合(予測収量>目標収量)、長期的な生産調整手段として環境制御機器80に対する温室8の設定気温を上昇または下降させる。設定気温が上昇すると、果実93の成長が促進されるため、予測収量のピーク期が前倒しされ、設定気温が下降すると、果実93の成長が遅れるため、予測収量のピーク期が遅延する。このように、コンピュータ1は、設定気温の調整により収穫の時期を選択期間の前後に分散させる。
【0068】
また、コンピュータ1は、予測収量が目標収量を上回る場合、短期的な生産調整手段として収穫熟度範囲の縮小を選択する。収穫熟度範囲は、収穫可能な果実93の積算気温である。コンピュータ1は、収穫熟度範囲を例えば920~1000(℃)に縮小する。
【0069】
このように、コンピュータ1は、予測収量が目標収量を上回る場合、選択期間に収穫作業の負荷が集中しないように、設定気温または収穫熟度範囲の調整により選択期間内の収穫数を減少させる。
【0070】
また、コンピュータ1は、予測収量が目標収量を下回る場合(予測収量<目標収量)、予測収量のピーク期に応じた生産調整手段を選択する。この場合、コンピュータ1は、長期的な生産調整手段として、選択期間が予測収量のピーク期から遅延しているとき、ピーク期が前倒しされるように環境制御機器80に対する温室8の設定気温を上昇させ、選択期間が予測収量のピーク期より早いとき、ピーク期が遅延するように環境制御機器80に対する温室8の設定気温を下降させる。このように、コンピュータ1は、設定気温の調整により収穫の時期を選択期間に合わせ込む。
【0071】
また、コンピュータ1は、予測収量が目標収量を下回る場合、短期的な生産調整手段として収穫熟度範囲の拡大を選択する。コンピュータ1は、収穫熟度範囲を例えば780~1000(℃)に拡大する。
【0072】
このように、コンピュータ1は、予測収量が目標収量を下回る場合、選択期間内の収穫作業が増えるように、設定気温または収穫熟度範囲の調整により選択期間内の収穫数を増加させる。
【0073】
果実の生産調整手段は、上記のように栽培の環境制御及び収穫熟度範囲の調整に限定されない。キュウリ栽培を例に挙げると、植物成長調整剤に含有される1-メチルシクロプロペン(1-MCP)は、キュウリの花の性を制御するエチレンの作用を阻害することにより着果数を抑えることが可能である。これにより、果実の収量が減少するとともに、収穫作業の負担を削減することが可能となり、株の樹勢を回復することもできる。したがって、農業の経営及び効率が改善される。
【0074】
図13は、植物成長調整剤を用いた生産調整の決定処理の一例を示すフローチャートである。なお、本方法は、CPU10を駆動するプログラムの機能により実現されるが、これに限定されず、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0075】
コンピュータ1は、上述した着果状態の把握方法に従い株の着果数を測定する(ステップSt31)。次にコンピュータ1は、着果数に基づいて果実の収量及び収穫の作業時間を予測する(ステップSt32)。
【0076】
次にコンピュータ1は、例えばメモリ11に保存された作業計画のデータに基づき、現在の作業計画が、予測された果実の収量及び収穫の作業時間に対応可能であるか否かを判定する(ステップSt33)。すなわち、コンピュータ1は、株が着果過剰であるか否かを判定する。コンピュータ1は、現在の作業計画が予測の収量及び作業時間に対応可能である場合(ステップSt33のYes)、処理を終了する。
【0077】
また、コンピュータ1は、現在の作業計画が予測の収量及び作業時間に対応不可能である場合(ステップSt33のNo)、植物成長調整剤(植調剤)の利用を決定する(ステップSt34)。このとき、コンピュータ1は、例えば表示部14に植物成長調整剤の利用の決定の旨を表示する。
【0078】
このように、植物成長調整剤を用いた生産調整により株の雌花節を雄花節に変更することができるため、果実の収量が減少して収穫作業の負担を削減することができる。なお、本例では植物成長調整剤を用いた生産調整対象の果実としてキュウリを挙げたが植物成長調整剤により花の性を変更可能な他の果実にも本例の生産調整を適用することができる。
【0079】
上述したように、コンピュータ1は、上記の着果状態の把握方法により把握した着果状態に基づいて果実の収量を予測する。このため、果実の収量の予測が容易となる。
【0080】
また、コンピュータ1は、この収量予測方法により予測した果実の収量を目標収量と比較し、比較結果に応じて前記果実の生産量を調整する。このため、果実の生産量が適切に調整される。
【0081】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 コンピュータ
2 ブラックライト
3 デジタルカメラ
4 コンピュータシステム
9 株
93 果実
D 画像データ