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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】複合材料評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2251 20180101AFI20240220BHJP
【FI】
G01N23/2251
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020046359
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021148491
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】中根 敏雄
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-180677(JP,A)
【文献】特開2007-333682(JP,A)
【文献】特開2020-024188(JP,A)
【文献】特開2004-143372(JP,A)
【文献】特開2005-285485(JP,A)
【文献】特開2013-224932(JP,A)
【文献】特開2010-197269(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0174301(US,A1)
【文献】特開2017-187387(JP,A)
【文献】特開2012-113865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真密度X(g/cm)のマトリックス樹脂中に、真密度Y(g/cm)のドメイン又は粒子が分散しており、(真密度X-真密度Y)の絶対値が0.2g/cm以上である複合材料における、前記ドメイン又は粒子の分散状態を、走査型電子顕微鏡によって評価する複合材料評価方法であって、
前記複合材料に対して、エッチング処理及び導電膜形成処理のいずれも行わずに、測定試料表面を形成し、
10Pa以上4000Pa以下の減圧下、加速電圧kV以下で電子線を照射し、
前記走査型電子顕微鏡の撮影画像を画像処理して得られる二値化画像から、前記マトリックス樹脂と、前記ドメイン又は粒子と、を区別して前記分散状態を画像化することを特徴とする複合材料評価方法。
【請求項2】
ガリウムイオン源からの収束イオンビーム照射によるFIB-SEM又はアルゴンイオン照射によるイオンミリング手法で前記測定試料表面を形成する請求項1記載の複合材料評価方法。
【請求項3】
試料上の加工位置に遮蔽板のエッジを立て、イオンビーム照射によって遮蔽板から突出している部分を削り取ることで、遮蔽版エッジに沿った平滑断面を形成する断面ミリング法で前記測定試料表面を形成する請求項1又は2に記載の複合材料評価方法。
【請求項4】
前記走査型電子顕微鏡の反射電子検出器から検出される反射電子により前記測定試料表面の反射電子像を取得し、
前記反射電子像の輝度を画像処理して得られる二値化画像から、前記マトリックス樹脂と、前記ドメイン又は粒子と、を区別して前記分散状態を画像化することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の複合材料評価方法。
【請求項5】
前記ドメイン又は粒子の径が1μm以下である、請求項1から4のいずれかに記載の複合材料評価方法。
【請求項6】
前記二値化画像から、前記測定試料表面における前記ドメイン又は粒子の断面積を定量化する、請求項5に記載の複合材料評価方法。
【請求項7】
前記マトリックス樹脂がポリアリーレンスルフィド樹脂であり、分散する前記ドメインが1μm以下のエラストマーである請求項1から6のいずれかに記載の複合材料評価方法。
【請求項8】
前記複合材料は無機フィラーを含むものである請求項1から7のいずれかに記載の複合材料評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型電子顕微鏡を用いた複合材料評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂同士のポリマーアロイや、樹脂中に微粒子が分散された複合材料系においては、その相分離構造や分散状態が材料特性に影響を与えることから、複合材料におけるドメインや粒子の分散性を評価・解析することは極めて重要である。
【0003】
特に最近はポリマーアロイや複合材料の高性能化が進み、観察すべきドメインの大きさが1μmを下回ることも多く、たとえば顕微IRイメージングなどの手法では空間分解能が要求レベルに達しない。透過型電子顕微鏡による観察においては、特に無機フィラーを含む複合材料系から超薄切片を切り出すことは容易でなく、また広範囲を観察することが困難なため、分散性の評価手法としては好ましくない。
【0004】
例えば、試料を鏡面研磨し、研磨面に導電性を有する蒸着膜を形成し、走査型電子顕微鏡で電子線の加速電圧を3kV以上10kV以下となるようにして設定し、反射電子像の輝度及び分布量から強誘電体の結晶粒子を評価・解析する方法が開示されている(特許文献1)。
【0005】
このように、非導電体試料の評価として走査型電子顕微鏡を用いる場合には、電子線照射表面に、電子線の照射に伴う帯電(チャージアップ)を防止するために、前処理として試料の測定表面に導電性を有する蒸着膜を蒸着するのが一般的である。また、他に試料の測定表面に凹凸形状を付与するための物理エッチングや化学エッチング等のエッチング処理も前処理として行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-197269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、蒸着膜越しに試料の表面を観察したときには、樹脂のポリマーアロイ等、共に炭素原子を主とする構成材料については反射電子像の輝度に差がなく、このためミクロドメインや微粒子の分散状態の観察を正確に行うことは困難である。また、ドメインや粒子を定量することはなおさら困難である。
【0008】
同様に、エッチング処理による表面凹凸形成も、元試料の表面状態そのものを変えてしまうので、ミクロドメインや微粒子の分散状態の観察を正確に行うことは困難であり、同じくドメインや粒子を定量することは困難である。
【0009】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、走査型電子顕微鏡を用いて、反射電子像により観察を行う複合材料評価方法であって、エッチング処理や導電膜形成処理のいずれも行わずに、ドメインや粒子の分散状態を確認でき、また、その定量化をも可能とする複合材料評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、下記の手段によって上記目的を解決することができることを見出した。
【0011】
1.真密度X(g/cm)のマトリックス樹脂中に、真密度Y(g/cm)のドメイン又は粒子が分散しており、(真密度X-真密度Y)の絶対値が0.2g/cm以上である複合材料における、前記ドメイン又は粒子の分散状態を、走査型電子顕微鏡によって評価する複合材料評価方法であって、
前記複合材料に対して、エッチング処理及び導電膜形成処理のいずれも行わずに、測定試料表面を形成し、
10Pa以上4000Pa以下の減圧下、加速電圧kV以下で電子線を照射し、
前記走査型電子顕微鏡の撮影画像を画像処理して得られる二値化画像から、前記マトリックス樹脂と、前記ドメイン又は粒子と、を区別して前記分散状態を画像化することを特徴とする複合材料評価方法。
2. ガリウムイオン源からの収束イオンビーム照射によるFIB-SEM又はアルゴンイオン照射によるイオンミリング手法で前記測定試料表面を形成する前記1記載の複合材料評価方法。
3. 試料上の加工位置に遮蔽板のエッジを立て、イオンビーム照射によって遮蔽板から突出している部分を削り取ることで、遮蔽版エッジに沿った平滑断面を形成する断面ミリング法で前記測定試料表面を形成する前記1又は2に記載の複合材料評価方法。
4. 前記走査型電子顕微鏡の反射電子検出器から検出される反射電子により前記測定試料表面の反射電子像を取得し、
前記反射電子像の輝度を画像処理して得られる二値化画像から、前記マトリックス樹脂と、前記ドメイン又は粒子と、を区別して前記分散状態を画像化することを特徴とする前記1から3のいずれかに記載の複合材料評価方法。
5. 前記ドメイン又は粒子の径が1μm以下である、前記1から4のいずれかに記載の複合材料評価方法。
6. 前記二値化画像から、前記測定試料表面における前記ドメイン又は粒子の断面積を定量化する、前記5に記載の複合材料評価方法。
7. 前記マトリックス樹脂がポリアリーレンスルフィド樹脂であり、分散する前記ドメインが1μm以下のエラストマーである前記1から6のいずれかに記載の複合材料評価方法。
8. 前記複合材料は無機フィラーを含むものである前記1から7のいずれかに記載の複合材料評価方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の複合材料評価方法により、マトリックス樹脂中における、ドメイン又は粒子(以下ドメイン等ともいう)の分散状態を正確に把握すると共に、分散性の定量化を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1の反射電子像である。
図2図1の画像を画像処理してマトリックスとドメイン等とに分離表示した二値化画像である。
図3図1の拡大画像である。
図4図2の拡大画像である。
図5】実施形態2の反射電子像である。
図6図5の画像を画像処理してマトリックスとドメイン等とに分離表示した二値化画像である。
図7図1の画像の輝度の分布である。
図8】実施形態3の反射電子像である。
図9図8の画像を画像処理してマトリックスとドメイン等1とに分離表示した二値化画像である。
図10図8の画像を画像処理してマトリックスと無機フィラー3とに分離表示した二値化画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の複合材料評価方法の一実施形態について詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
<複合材料評価方法>
本発明の複合材料評価方法は、観察試料を作成する試料準備工程と、走査型電子顕微鏡により反射電子像を取得する観察工程と、反射電子操作画像の輝度から試料の表面の元素を定量する解析工程と、を含む複合材料評価方法である。以下、各工程についてそれぞれ説明する。そして、最後に測定対象とする複合材料(以下単に試料ともいう)について説明する。
【0016】
本発明の複合材料評価方法における複合材料とはマトリックスとドメイン等を含むものであり、ドメイン等は炭素原子を主とする構成材料であり、マトリックスとの反射電子像の輝度差が小さく従来の手法では分散状態の観察が困難であったものを指す。具体的にはエラストマーやアロイ化するポリマーの他、カーボンブラックやカーボンナノチューブ等を含む。
【0017】
更に前記複合材料はガラス繊維やタルク、マイカ、炭酸カルシウム、カオリン、チタン酸カルシウム等の無機フィラーを含むものであっても良い。一般的にカーボンブラックなどは無機フィラーに該当するが本発明ではドメイン等に含むものとする。
【0018】
[試料準備工程]
本発明に関する試料準備工程は、試料の表面を切削又は研磨して観察鏡面を作成する工程である。試料に観察鏡面を作成する方法は、特に限定されるものではない。例えば、ウルトラミクロトームを用いて室温、又は液体窒素やクライオシステム等による冷却温度下、ガラスナイフ又はダイヤモンドナイフを用いて観察鏡面を削り出す方法や、研磨機により研磨する方法を挙げることができる。
【0019】
研磨機による研磨の具体的な方法としては、まずダイヤモンド研磨板を用いて荒削りを行い、試料の表面を平坦化する。その後ダイヤモンド懸濁液等の研磨液とダイヤモンド研磨板との組合せ粒度を徐々に小さくして研磨する。そして、バフ研磨を行い鏡面加工する。
【0020】
さらに、イオンビームによって超平滑面を作製するイオンミリング法やFIB-SEM と呼ばれる手法で観察鏡面を削り出す方法がより好ましい。また、イオンビーム照射の際に、試料面の温度が上昇して溶融あるいは変形しないように液体窒素等による間接冷却を併用することも好ましい。
【0021】
イオンビームのイオン源としてはイオンミリング法ではアルゴンガス、FIB-SEMにおいてはガリウム液体金属等が用いられることが多いが、本発明においてはイオン源を特に規定するものではない。
【0022】
試料準備工程を得ることによって、鏡面加工された研磨面を作成することができる。鏡面加工された研磨面を作成することで、後の観察工程において反射電子像を取得する際に観察試料表面の凹凸に起因するコントラストの変化を抑制することができる。
【0023】
この試料準備工程では、鏡面研磨された前記試料の表面に、導電性を有する蒸着膜の形成は行わない。本来、走査型電子顕微鏡により電子線を照射する際には、電子線の照射に伴う帯電(チャージアップ)を防止するために試料の表面に、導電性を有する蒸着膜を形成させる。しかし、蒸着膜越しに試料の表面を観察した場合には、試料の表面のドメイン観察を行うことは必ずしも容易ではない。
【0024】
本来的には反射電子の発生はミクロ的には表面の原子量(マクロ的にはその範囲の平均の原子量)を反映した反射像コントラストが得られるのであるが、蒸着膜の存在によって、反射電子数の差が検知され難くなる。すると、得られる反射電子像の輝度差が十分に得られず、ドメインや粒子の分布観察を行うことが困難である。
【0025】
このため、本発明においては、試料前処理としての導電膜形成処理は行わない。また、本来ある表面の分散状態をそのまま把握するために、物理的エッチング、化学的エッチング等のエッチング処理も行わない。
【0026】
[観察工程]
本発明に関する観察工程は、試料準備工程により得られた観察試料の研磨された表面に走査型電子顕微鏡を用いて減圧下で電子線を照射し走査型電子顕微鏡の反射電子検出器から検出される反射電子により観察試料の反射電子像を取得する工程である。
【0027】
走査型電子顕微鏡では、試料内部に侵入した電子が試料原子と衝突した際に放出される原子内殻電子を検出して二次電子像を取得する方法もよく行われている。しかしながら、二次電子像は試料の表面形状を観察するのに適した方法であり、本発明のような、ドメインや粒子の分散観察には好ましくない。
【0028】
ただし、イオンビームによって超平滑面を作製する場合には、複合材料を構成する各成分のイオンビーム切削性がわずかに異なることで微小な凹凸が形成され、形態観察に適した二次電子像観察によってドメイン界面を明瞭に確認できる場合もある。
【0029】
観察試料の研磨された表面に走査型電子顕微鏡を用いて電子線を照射する。電子線の加速電圧は、10kV以下であり、7kV以下が好ましく、3kV以下がより好ましく、1kV以下が特に好ましい。
【0030】
本発明に関する観察試料の表面には導電性を有する蒸着膜が形成されていないため、電子線の照射に伴う帯電(チャージアップ)が発生しやすくなるが、従来よりも低い加速電圧で観察試料の研磨された表面に電子線を照射することで、電子線の照射に伴う帯電(チャージアップ)を防止することができる。
【0031】
また、加速電圧を低くすることで、試料表面から入射した電子の内部散乱範囲を狭くすることができ、ドメインや粒子と、マトリックス樹脂との界面を明確にでき、後述する解析工程での二値化作業が行いやすくなる等のメリットがある。
【0032】
観察試料の研磨された表面に走査型電子顕微鏡を用いて電子線を照射する工程は通常1×10-3Pa以下程度の減圧下で行うが、本発明に関する観察試料は、表面に導電性を有する蒸着膜を形成しないことを特徴としている。
【0033】
そのため、従来よりも低真空である10Pa以上4000Pa以下の減圧下で電子線を照射することで、電子線の照射に伴う帯電(チャージアップ)を防止することもできる。これは、低真空中の残留ガス分子と電子線との相互作用で生じた陽イオンが観察試料の表面の電荷を中和することができるためである。
【0034】
走査型電子顕微鏡の観察倍率は1000倍以上200000倍以下であることが好ましい。走査型電子顕微鏡の観察倍率がこのような範囲であることで、1μm以下のポリマーアロイにおけるミクロドメイン構造や分散状態、1μm以下のカーボンブラック等の無機微粒子の分散状態を把握できる。
【0035】
観察工程では、観察試料の研磨された表面に電子線を照射しその反射電子を走査型電子顕微鏡の反射電子検出器により検出する。反射電子検出器は、本発明に関する低加速電圧の電子線をも検出できる高感度の反射電子検出器を用いることが好ましい。
【0036】
また、本発明に用いられる走査型電子顕微鏡は、特に制限されるものではなく、従来公知のものを使用することができる。低加速電圧及び低真空下で電子線の照射を行う点から、低加速電圧かつ低真空に設定可能で、高感度かつ高分解能の反射電子検出器を有する走査型電子顕微鏡を用いることが好ましい。
【0037】
また、本発明に関する観察工程では、走査型電子顕微鏡の反射電子検出器により観察試料の反射電子像を取得する。反射電子像の輝度は観察試料の組成(真密度、真比重、平均原子量)の違いに起因して変化する。そのため、反射電子像を取得することによって、試料の表面のドメインや粒子の観察が可能となる。
【0038】
[解析工程]
本発明に関する解析工程は、観察工程によって得られた反射電子像の輝度の分布から、ドメイン等として画像認識をさせる輝度の閾値を設定し、ドメイン等以外との二値化画像を得てドメイン等の断面積や試料中の分散状態を評価する工程である。輝度の閾値は1つでも良いし、2つの閾値を設定してその間の輝度の範囲を使用することも出来る。実用上、画像処理装置を用いて輝度や輝度の範囲を調整しながら二値化画像を確認することでマトリックスとドメイン等を簡便に分離して表示することが出来る。
【0039】
各構成材料の輝度のピークが十分離れている場合はピークを目安に閾値を設定できるが、ピークが近接している場合は輝度の設定を細かく調整することでドメイン等のみの二値化画像を得ることが出来る。
【0040】
反射電子像の輝度と試料に含有される構成材料とは、後述する相関があるため、試料中のドメインや粒子の分散状態を観察することができる。
また、輝度は画像処理にてグレースケール化し、グレースケールの閾値を設定することで二値化画像を得てもよい。この場合輝度値はグレースケールでの画素値を示す。
【0041】
ここまでは二値化による解析工程について説明したが、ドメイン等として複数の構成材料を含む場合、それぞれの成分について二値化により解析を行っても良いが、各ドメイン等の輝度の閾値または輝度の範囲の差が大きければ、各ドメインの輝度の閾値または輝度の範囲で多値化した画像を元に各ドメイン等に色を割り当てることで各ドメイン等の分散状態を同時に観察することもできる。
【0042】
なお、真密度差が0.2g/cm以上であれば分散状態を知ることができるが、マトリックス樹脂に対しドメイン等の体積%が体積1%以上である場合に、より正確な分散状態を知ることができる。さらに好ましくは5体積%以上である。
【0043】
さらに本発明ではドメイン等の径が1μm以下である場合に精度よく解析することができる。また0.05μm以上であることが好ましい。
【0044】
本発明に関する解析工程には、例えば、反射電子像を画像解析ソフト等による画像解析を用いることができる。以下、その詳細につき具体的な実施形態を用いて説明する。
【0045】
以下、本発明の複合材料の一例として、下記表1、表2および表3の組成の複合材料を例に実際の測定結果につき説明を行なう。
<実施形態1>
【0046】
【表1】
<実施形態2>
【0047】
【表2】
<実施形態3>
【0048】
【表3】
【0049】
[実施形態1]
図1は、上記複合材料の研磨工程後の走査電子顕微鏡による反射電子像(2000倍)であり(加速電圧0.7kV)、図2は、図1を画像処理して得られた二値化画像である。
【0050】
図1において、マトリックス樹脂1はポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、単にPPS樹脂と表記する)であり、白く円形状の最も大きな部分は無機フィラー2(ガラス繊維)であり、白く角状の小片として存在しているのが無機フィラー1(炭酸カルシウム)であり、黒点状に分散しているのがドメイン等1(オレフィン系エラストマー E-GMA-MA)である。
【0051】
図7は、実施形態1の反射電子像の輝度の分布を示したものである。図7の輝度値(この例では80)を境に二値化したものが図2である。マトリックス樹脂1のPPS樹脂とドメイン等1のオレフィン系エラストマーの真密度差は|1.35-0.96|=0.39(g/cm)と十分大きく判別が容易である。
【0052】
図2のドメイン等1の断面積の割合を計算した結果は9.2%であり、実施形態1に含まれるドメイン等1の体積%とほぼ同値を得ている。このように二値化画像から、測定試料表面におけるドメイン又は粒子の断面積の割合を構成材料の割合として数値化して定量化することができる。
【0053】
なお、試料中の反射電子像を撮影するポイントが表層部分だけなど極端に偏ったり、拡大率が大きすぎて構成原料が撮影されていないこともあるため適宜調整する必要がある。ガラス繊維や炭酸カルシウム、マイカといった無機フィラーを含む場合は1000から3000倍程度の倍率が適切である。
【0054】
なお、図3は、図1の一部を10000倍に拡大した図であり、その二値化画像が図4である。図4では、更に明確にマトリックス樹脂とオレフィン系エラストマーのドメイン等1とが区別されている(炭酸カルシウムやガラス繊維が存在しない領域での画像である)。
【0055】
また、本実施形態においては、ガラス繊維と炭酸カルシウムは真密度差が0.16g/cmと小さく、二値化しても双方が区別可能なグレースケールの閾値を得ることができず、観察の適用対象外とした。
【0056】
このように、本発明の複合材料評価方法の対象となる複合材料は、真密度X(g/cm)のマトリックス樹脂中に、真密度Y(g/cm)のドメイン又は粒子が分散しており、真密度X-真密度Yである真密度差の絶対値が0.2g/cm以上である複合材料である。好ましくは真密度差の絶対値は0.3g/cm以上である。
【0057】
なお、実施形態においては、E-GMA-MA(オレフィン系エラストマー)を含む複合材料の評価をおこなったが、測定できるエラストマーはE-GMA-MA(オレフィン系エラストマー)に限定されない。エラストマーとしては、例えば、本実施形態で測定したオレフィン系エラストマーの他にもスチレン系エラストマー等が挙げられる。
【0058】
オレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPR)や、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体(E-GMA)や本実施形態で用いたエチレン-グリシジルメタクリレート-アクリル酸メチル共重合体(E-GMA-MA)を挙げることができる。
【0059】
また、スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)やスチレン・エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)を挙げることができる。なお、上記のオレフィン系エラストマーやスチレン系エラストマーの真密度は0.8~1.2g/cm程度である。
【0060】
また、上記のように、図2図4のような二値化画像から、測定試料表面におけるドメイン又は粒子の断面積の割合を構成原料の割合として数値化して定量化することもできる。
【0061】
[実施形態2]
図5図6は、マトリックス樹脂2(液晶ポリマー 真密度1.4g/cm)95質量部と、ドメイン等2(平均径55nmのカーボンブラック(真密度1.8g/cm)2.5質量部と、無機フィラー2(ガラス繊維)2.5質量部とが分散している液晶ポリマー(LCP)複合材料であり、図5はその反射電子像(10000倍)、図6図4と同様の二値化画像である。
【0062】
この実施形態2においても真密度差は|1.8-1.4|=0.4(g/cm)であり、二値化画像から、LCP中のカーボンブラック凝集体のサブミクロンレベルでの分散状態を観察することができる。
【0063】
なお、図6によれば、画面中央部及び画面中央上部の二ヶ所につきカーボンブラックの凝集が観察されている。このように、本発明によれば、分散状態の良否を判定することができる。
【0064】
[実施形態3]
図10は、表3の複合材料をイオンミリングにより研磨後の走査電子顕微鏡による反射電子像(20000倍)であり、図11図12は、図10を画像処理して得られた二値化画像である。
【0065】
図11の黒い斑点状の部分はドメイン等1(オレフィン系エラストマー E-GMA-MA)を示しており、サブミクロンレベルで分散していることが分かる。図12の黒い筋状部分は無機フィラー3(マイカ)を示している。
【0066】
マトリックス樹脂1とドメイン等1または無機フィラー3はそれぞれ真密度差が|1.35-0.96|=0.39(g/cm)、|1.35-2.8|=1.45(g/cm)と大きく、更にドメイン等1と無機フィラー3との真密度差が|0.96-2.8|=1.84(g/cm)と大きいため、それぞれの成分を区別して観察することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10