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  • 特許-通電加熱線の製造方法および製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】通電加熱線の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/12 20060101AFI20240220BHJP
   C01B 32/914 20170101ALI20240220BHJP
【FI】
H05B3/12 B
C01B32/914
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020095170
(22)【出願日】2020-06-01
(65)【公開番号】P2021190323
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜蔵
(72)【発明者】
【氏名】青代 信
(72)【発明者】
【氏名】浅利 伸
【審査官】川口 聖司
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公告第1144374(GB,A)
【文献】特開2008-300793(JP,A)
【文献】特開2011-82207(JP,A)
【文献】特表2010-530604(JP,A)
【文献】特開2012-41576(JP,A)
【文献】特開2012-64919(JP,A)
【文献】特開2014-63666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/02- 3/18
H05B 3/40- 3/82
B23P 5/00-17/06
B23P 23/00-25/00
C01B 32/00-32/991
C01G 25/00-47/00
C01G 49/10-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒化学気相成長装置の触媒線として用いる通電加熱線の製造方法であって、
両端部を有し、垂直方向に折り返すように吊り下げられた長さが2m以上のタンタル線が設置されたチャンバにメタンガスを導入し、
前記タンタル線に交流電流値が10Aから60Aの交流電力を供給して前記タンタル線を1000℃以上2400℃以下に発熱させ、前記タンタル線の全長にわたってその表面を炭化処理して、芯部がタンタルからなり、周縁部が炭化タンタルからなる前記通電加熱線を製造する
通電加熱線の製造方法。
【請求項2】
触媒化学気相成長装置の触媒線として用いる通電加熱線を製造する製造装置であって、
内部に、両端部を有する長さが2m以上のタンタル線が垂直方向に折り返すように吊り下げて設置されるチャンバと、
前記チャンバ内にメタンガスを供給するメタンガス供給部と、
前記タンタル線の全長にわたってその表面を炭化処理して、芯部がタンタルからなり、周縁部が炭化タンタルからなる通電加熱線を製造するために、メタンガス雰囲気下で、前記タンタル線を1000℃以上2400℃以下に発熱させる交流電流値が10Aから60Aの交流電力を前記タンタル線に供給する電源と
を具備する製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば触媒線化学気相成長装置における触媒線として用いられる通電加熱線の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
成膜方法のひとつに触媒化学気相成長法(Cat-CVD:catalytic-Chemical Vapor Deposition)がある。この方法は、例えば1500~2000℃に加熱した触媒線に反応ガスを供給し、反応ガスの接触反応もしくは熱分解反応を利用して生成した分解種(堆積種)を被成膜基板上に堆積させる成膜法である。
【0003】
触媒化学気相成長法は、反応ガスの分解種を基板上に堆積させて膜を形成する点でプラズマCVD法と類似する。しかし、触媒化学気相成長法は、高温の触媒線上において反応ガスの分解種を生成するので、プラズマを形成して反応ガスの分解種を生成するプラズマCVD法に比べて、プラズマによる表面損失がなく、原料ガスの利用効率も高いという利点がある。
【0004】
この触媒化学気相成長法に使用される触媒線の材料としてタンタルが広く用いられている。しかし、金属タンタル自体は、高温でのクリープ強度が低いため、金属タンタルがそのまま触媒線として用いられると、加熱時に熱伸びや、溶断が生じる。したがって、タンタルを触媒線に使用する場合には、タンタルをボロン化処理したり、炭化処理することでタンタルを高融点化、及び硬化する方法が用いられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、タンタル線を内部に設置した真空チャンバ内に炭素源ガスを導入し、タンタル線に電圧を印加することにより形成される、タンタルからなる芯部と、当該芯部を被覆する炭化タンタルからなる周縁部とを備える通電加熱線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-41576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
触媒化学気相成長法を用いて基板に成膜する場合等、基板面内に亘って特性が均一な膜を成膜するために、表面に炭化タンタルが均一に形成された通電加熱線が望まれている。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、表面に炭化タンタルを均一に形成することができる通電加熱線の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る通電加熱線の製造方法は、
両端部を有し、垂直方向に折り返すように吊り下げられたタンタル線が設置されたチャンバにメタンガスを導入し、
上記タンタル線に交流電力を供給して発熱させ、上記タンタル線の表面を炭化処理する。
【0010】
この構成では、タンタル線に交流電力を供給してタンタル線の表面の炭化処理を行うので、タンタル線の全長に亘って均一にタンタル線の表面に炭化タンタルを形成することができる。
【0011】
例えば、上記通電加熱線の長さは2m以上であってもよい。
このように、本発明は、通電加熱線の長さが2m以上という長尺の通電加熱線の製造に好適である。
【0012】
本発明の一実施形態に係る製造装置は、チャンバと、メタンガス供給部と、電源とを具備する。
上記チャンバは、内部に、両端部を有するタンタル線が垂直方向に折り返すように吊り下げて設置される。
上記メタンガス供給部は、上記チャンバ内にメタンガスを供給する。
上記電源は、メタンガス雰囲気下で、前記タンタル線の表面を炭化処理するために、前記タンタル線を発熱させる交流電力を前記タンタル線に供給する。
【0013】
この構成では、タンタル線に交流電力を供給してタンタル線の表面の炭化処理を行うので、タンタル線の全長に亘って均一にタンタル線の表面に炭化タンタルを形成することができる。
【0014】
上記タンタル線の長さは2m以上であってもよい。
このように、本発明は、通電加熱線の長さが2m以上という長尺の通電加熱線の製造に好適である。
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように、本発明によれば、タンタル線の全長に亘って均一にタンタル線の表面に炭化タンタルを形成することが可能な通電加熱線の製造方法及び製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る通電加熱線の製造装置の概略構成図である。
図2】上記製造装置により製造された通電加熱線の概略断面図である。
図3】上記製造装置を用いて製造条件を異ならせて製造した通電加熱線の模式図であり、交流電力を用いて炭化処理して製造した通電加熱線と、直流電力を用いて炭化処理して製造した通電加熱線を示す。
図4】通電加熱線の製造方法を示すフロー図である。
図5】炭化処理ムラが生じるメカニズムを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
[製造装置の構成]
図1は本発明の実施形態に係る通電加熱線としての触媒線の製造装置1の概略構成図である。製造装置1を用いてタンタル線60の表面を炭化処理することによって、表面に炭化タンタルが形成された通電加熱線としての触媒線6を製造することができる。
製造装置1は、真空チャンバ3と、真空ポンプ4と、炭素源供給部であるメタンガス(CH)供給部9と、商用電源11と、交流電源装置18と、を備える。
【0018】
真空チャンバ3は、複数のタンタル線60を内部に設置可能に構成される。
真空ポンプ4は、真空チャンバ3に接続される。真空ポンプ4は、真空チャンバ3を所定の真空度に真空排気可能とする。
メタンガス供給部9は、真空チャンバ3内へメタンガスを供給する。
【0019】
タンタル線60は金属タンタルからなり、棒状を有する。両端部を有する各タンタル線60は、真空チャンバ3内を垂直方向(本実施形態では重力方向とする。)に垂下し、真空チャンバ3内の下部の領域で垂直方向に折り返されるようにして真空チャンバ3内で吊り下げられる。これら複数のタンタル線60は、互いに所定の間隔をあけて一直線上に列設される。なお、以下の説明において、複数のタンタル線60の列設方向を「X軸方向」、垂直方向を「Z軸方向」、これらに直交する方向を「Y軸方向」と呼ぶものとする。
なお、このタンタル線60は例えば8ユニット程度設けられるが、図1では説明をわかりやすくするため3ユニットのタンタル線60が列設された様子を示している。
【0020】
タンタル線60の長さは、当該タンタル線60の表面を炭化処理してなる触媒線6を用いて触媒化学気相成長法により成膜する対象の基板のサイズに応じて様々である。例えば触媒線6の一本の長さが、2m~6mの触媒線6が用いられる。好ましい触媒線6の長さは、2mから5mで、本実施形態では、触媒線6の炭化処理前の長さが4.5mのタンタル線60が用いられた。タンタル線60と、当該タンタル線60の表面を炭化処理してなる触媒線6の長さは同等である。
図1に示すように、一本のタンタル線60において、2つの接続端子64から折り返し部までのタンタル線60の長さが互いに等しくなるようにタンタル線60が配置されている。より具体的には、本実施形態では、図3に示すように、タンタル線60(触媒線6)は、折り返し部の長さbが120mm、Z軸方向の長さaが2200mmとなるように折り返されて真空チャンバ3内に設置される。
【0021】
交流電源装置18は、真空チャンバ3の外部に設けられ、商用電源11に接続される。各タンタル線60は、交流電源装置18に接続されている。それらの接続方法は並列でよい。具体的には、各タンタル線60の両端部は、接続端子64を介して真空チャンバ3の外部に配置された接続配線63に接続され、各接続配線63は交流電源装置18に接続されている。
【0022】
なお、商用電源11は、100V、110V、200V、220V等があり、交流電源装置18は、例えば100~220Vの間で出力電圧を制御することができる。また、タンタル線60のサイズにもよるが、交流電源装置18は、例えば10~50Aの電流をタンタル線60に印加する。典型的には、交流電源装置18は、30A、4.0kWの交流電力をタンタル線60に印加する。交流電源装置18がタンタル線60に印加する交流電圧の周波数は例えば10~100Hz、典型的には50~60Hzである。
【0023】
交流電源装置18は、商用電源11からの交流の出力信号を直接スイッチするダイレクトスイッチング方式によりスイッチングを行うものである。しかし、スイッチング素子により電圧制御を行う交流電源装置として、ダイレクトスイッチング方式のものに限られず、コンバータ(AC/DC変換器)を備えたインバータ方式のものであってもよい。
【0024】
タンタル線60の表面の炭化処理において、真空チャンバ3内にメタンガスが供給され、タンタル線60に交流電圧が供給されることにより、表面に炭化タンタルが均一に形成された触媒線6を得ることができる。詳細については、後述する。
製造装置1は以上のように構成される。
【0025】
[触媒線(通電加熱線)の構成]
次に触媒線6の構成について説明する。図2は触媒線6の断面構造を模式的に示す断面図である。上述したように、触媒線6は、タンタル線60の表面を炭化処理することにより形成される。触媒線6は、芯部6aと周縁部6bを有する。芯部6aは触媒線6の中心部分であり、周縁部6bは芯部6aを覆う触媒線の外周部分である。芯部6aは金属タンタル(Ta)からなり、周縁部6bは炭化タンタル(TaC)からなる。
【0026】
金属タンタルは高温でのクリープ強度が小さいため、金属タンタルのみからなる触媒熱線は成膜時に熱伸びや溶断が生じるおそれがある。これに対し本実施形態に係る触媒線6は金属タンタルからなる芯部6aを、高温でのクリープ強度が大きく、機械的強度も高い炭化タンタルからなる周縁部6bにより被覆しているため、触媒線6の熱的及び機械的耐久性を高いものとすることができる。具体的には、金属タンタルのみからなる触媒線は、成膜の度に交換が必要となる場合が多いが、本実施形態に係る触媒線6は交換を要することなく複数回の成膜に利用することが可能である。
【0027】
一方で炭化タンタルは金属タンタルに比べて導電性が小さく(電気抵抗が大きく)、炭化タンタルのみからなる触媒線は加熱に大きな電力が必要となる。これに対し本実施形態に係る触媒線6は、断面構造の内部が金属タンタルからなる芯部6aであるため、導電性が高く(電気抵抗が小さく)、金属タンタルのみからなる触媒線と同程度の印加電圧により加熱することが可能である。
また、炭化タンタルは化学反応に対する安定性が高いため、触媒線を用いた触媒化学気相成長法での成膜プロセス等に用いられるホウ素の芯材内部への拡散を防止できる。これにより、タンタルのホウ化による芯材の局所的な高抵抗化と、それに伴う芯材の温度上昇による溶断を防止でき、芯材の耐久性を高めることができる。したがって、触媒線の高寿命化を図ることができる。
【0028】
[触媒線(通電加熱線)の製造方法]
本実施形態において、上記製造装置1を用いて、以下の方法によりタンタル線の表面の炭化処理を行うことにより、表面に均一に炭化タンタルが形成された触媒線を得ることができる。以下、図4の製造フローに沿って説明する。
【0029】
製造装置1の真空チャンバ3の内部に、触媒線6の素となるタンタル線60を1本又は複数本設置する(S11)。タンタル線60は、金属タンタルからなる線であり、その直径は数mmとすることができ、ここでは1.0mmとした。真空ポンプ4を作動させて真空チャンバ3の内部を真空排気し、減圧する。ここでは、0.05Pa未満に減圧した。
【0030】
次に、メタンガス供給部9から反応室2へメタンガスを所定の圧力、ここでは10Paになるまで導入する。メタンガス雰囲気下で、交流電源装置18により両端部間に、ここでは、30A、4.0kWの交流電力を各タンタル線60に供給してタンタル線60を加熱することにより、タンタル線60の表面の炭化処理が行われる(S12)。ここでは、炭化処理時間を30分とした。
タンタル線60は、交流電力の供給により生じる抵抗加熱により昇温される。このタンタル線60の発熱温度は、メタンガスの水素の熱脱離が生じアセチレン(C)が生成されることが可能な温度とされる。タンタル線60の表面におけるアセチレンの接触によりタンタル線60の表面に反応生成物である炭化タンタルからなる周縁部6bが形成される。即ち、タンタルからなる線状の芯部6aと、炭化タンタルからなり芯部6aを覆う周縁部6bとを有する触媒線6が製造される。炭化処理時間は、換言すると、タンタル線60の加熱時間である。
【0031】
タンタル線60の加熱温度は、1000℃以上2400℃以下の範囲に設定することができる。ここでは、交流電流値を30Aとしたが、これに限定されず、例えば10A~60Aの範囲に設定することができる。また、交流電力を4.0kWとしたが、これに限定されず、例えば3kW~10kWの範囲に設定することができる。電流値や電力値は触媒線の太さや長さによって適宜設定することができる。
炭化処理時間(加熱時間)は、タンタル線60の加熱温度によって適宜設定される。他の条件が同等の場合、加熱温度が高ければ炭化タンタルの形成が進行される。また、他の条件が同等の場合、加熱時間が長ければ、炭化タンタルの形成が進行される。
【0032】
また、ここでは、メタンガス雰囲気の圧力を10Paとしたが、これに限定されず、例えば1Pa~10Paの範囲に設定することができる。他の条件が同等の場合、炭素雰囲気の圧力が大きければ、炭化タンタルの形成が進行される。
【0033】
タンタル線60の表面の炭化処理において、導入ガスとしてメタンガスを用い、タンタル線60に交流電力を印加することにより、表面に均一に炭化タンタルが形成された触媒線6を得ることができる。以下、図3を用いて説明する。
図3(A)は炭化処理時に交流電力を印加して製造された触媒線6を示し、図3(B)は炭化処理時に直流電力を印加して製造された触媒線61を示す。
図3(A)に示す触媒線6は、上述の製造方法で製造したものであり、一端から他端に亘って均一に炭化タンタルが形成された、表面が黄色を呈する触媒線である。
一方、図3(B)に示す触媒線61は、30A、4.0kWの直流電力をタンタル線60に供給する以外は上述の製造方法と同様の条件で製造した触媒線である。図3(B)において、斜線で示した箇所は表面に炭素が析出した領域を示す。図3(B)に示すように、直流電力を用いて炭化処理した触媒線61は、折り返され+極側に位置する部分には炭化タンタルが形成されて表面が黄色を呈する一方で、-極側に位置する部分には炭素が析出して表面が黒色を呈している。
【0034】
このように、直流電力を印加して製造した触媒線61は、その一部に炭素が析出し、タンタル線60の全長に亘って均一に炭化タンタルが形成されず、炭化タンタルの形成ムラ(以下、炭化処理ムラということがある。)が発生した。このような炭化タンタルの形成ムラは、メタンガスの圧力及び炭化処理時間等の処理条件を変更しても、直流電力を用いた場合は同様に発生した。
また、このような炭化タンタルの形成ムラは、触媒線の素となるタンタル線を、製造装置1内に垂直方向に折り返すように吊り下げた時の垂直方向の長さ(図3(A)における長さa)が1m以上の場合に、顕著に発生した。
【0035】
図3(B)に示す直流電力を印加して製造した触媒線61の炭化タンタルの形成ムラの発生のメカニズムは、次のように考えられる。図5は、炭化タンタルの形成ムラの発生のメカニズムを説明するための図である。
【0036】
図5(A)は、メタンガスの分解の過程及びタンタル線60への炭素浸入までの様子を模式的に示す図である。図5(B)はタンタル線60に炭素12が浸入する様子を模式的に示す図である。図5では炭素に符号12を付し、水素に符号13を付している。
タンタル線60は、直流電力の供給により加熱される。図5(A)に示すように、タンタル線60にメタン(CH)が接触し水素の熱脱離が起こることによりメチル基(CH)と水素イオン(H)が生成される。このメチル基とメタンとが反応し、エタン(C)と水素イオンが生成される。タンタル線60にエタンが接触し水素の熱脱離が起こることによりアセチレン(C)と水素(H)が生成される。タンタル線60にアセチレンが接触し熱脱離が起こることにより炭素(C)と水素が生成される。このように、タンタル線60に何度も接触して熱脱離が繰り返され、図5(B)に示すように、タンタル線60に浸入する炭素12が得られる。タンタル線60に炭素12が浸入拡散し、タンタル線60の表面が炭化されて炭化タンタルが形成される。
図5(A)に示すように、炭素浸入までの過程の途中で、-の極性を有するメチル基が生成される。ここで、炭化処理時に、タンタル線60に直流電力が供給される場合、-の極性を有するメチル基はタンタル線60の+極側に引き寄せられる。これにより、タンタル線60において、+極側と-極側とで電界濃度が異なり電界濃度分布が発生する。このため、+極側は、-極側よりも炭素の浸入量が多くなり、炭化が進行する。
炭化タンタルが形成されることにより抵抗値が増加するため、図5(C)に示すように、+極側と-極側とで抵抗差が生じる。この抵抗差が生じた状態で直流電力が供給されると、タンタル線60において、+極側と-極側とでの発熱温度が異なり、+極側の方が-極側よりも高い温度となる。温度が高いほどタンタルの炭化が進むため、+極側は、更に-極側よりも表面の炭化が進行する。一方で、-極側は温度が低くなるため、タンタルの炭化が進みにくく、タンタル線60に浸入し、炭化に寄与していない炭素が過剰状態となり、当該炭素がタンタル線60の表面に析出し、黒色を呈するようになる。このように、直流電力を用いて炭化処理をした場合、+極側と-極側とで炭化処理ムラが生じると考えられる。
【0037】
本実施形態においては、タンタル線60に交流電力が供給されるので、上述のような、+極側と-極側とで電界濃度分布が発生することがない。従って、+極側と-極側とでの抵抗差、ひいては加熱温度差の発生が抑制され、結果的に、炭化処理ムラの発生が抑制される。これにより、全長に亘って表面に均一な炭化タンタルが形成された触媒線6を得ることができる。尚、タンタル線の長さに係らず、メタンガス雰囲気下でタンタル線60に交流電力を供給してタンタル線の炭化処理を行うことにより、全長に亘って表面に均一な炭化タンタルが形成された触媒線6を安定して得ることができる。
【0038】
以上のように、触媒線における炭化タンタルの形成の程度は加熱温度、加熱時間及び炭素雰囲気の圧力等によって異なる。これらの条件を適切に調節することによって、芯部6aがタンタルからなり、周縁部6bが炭化タンタルからなる触媒線6を作成することが可能である。
更に、タンタル線60に交流電力を供給してタンタル線60の炭化処理を行うことにより、全長に亘って表面に均一な炭化タンタルが形成された触媒線6を得ることができる。上述したように、直流電力を供給してタンタル線の炭化処理を行う場合、炭化タンタルの形成ムラは製造装置1内に垂直方向に折り返すようにタンタル線を吊り下げた時の垂直方向の長さが1m以上の場合に顕著に発生している。従って、全長が2m以上のタンタル線の炭化処理を行う場合、タンタル線に交流電力を供給して炭化処理を行うことは特に有効である。
【0039】
上述の触媒線6が設けられた成膜装置(図示せず)を用いて触媒化学気相成長法により基板に所望の膜を成膜することができる。詳細には、成膜装置内に垂直方向に垂れ下がるように設置された複数の触媒線6に対向して基板を垂直に配置する。そして、触媒線6に交流電力を供給して加熱し、原料ガスを成膜装置内に導入することにより成膜が行われる。原料ガスが高温に加熱された触媒線6に接触し、触媒反応もしくは熱分解反応により生成された反応ガスの分解種が基板上に堆積されて成膜される。
本実施形態で得られた全長に亘って表面に均一に炭化タンタルが形成された触媒線6を用いて成膜することにより、面内で安定した膜特性を有する膜を成膜することができる。また、触媒線6の表面には全長に亘って均一に炭化タンタルが形成されているので、熱的及び機械的耐久性が高い。これにより、成膜中の触媒線6の熱延びや溶断の発生が防止され、成膜後に頻繁に触媒線を交換する必要もないため、成膜の生産性を向上させることが可能である。
【0040】
本発明はこの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において変更され得る。
上述の実施形態では、タンタル線の表面に炭化タンタルが形成された通電加熱線を例にあげて説明したが、これに限定されない。例えば、タンタル線の表面に炭化タンタルが形成されたものに、タンタルのホウ化物又はホウ素の少なくとも一方からなる被覆層が、更に被覆されて、通電加熱線が構成されてもよい。この構成では、被覆層がタンタルのホウ化物又はホウ素を含むため、例えば、通電加熱線を用いた触媒化学気相成長法での成膜プロセスに用いられるシリコンとの合金化反応(シリサイド化)を防止でき、機械的強度の低下を抑制できる。
【符号の説明】
【0041】
1…製造装置
3…真空チャンバ(チャンバ)
6…触媒線(通電加熱線)
9…メタンガス供給部
11…商用電源(電源)
60…タンタル線
図1
図2
図3
図4
図5