IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アルバックの特許一覧

<>
  • 特許-通電加熱線の製造方法および製造装置 図1
  • 特許-通電加熱線の製造方法および製造装置 図2
  • 特許-通電加熱線の製造方法および製造装置 図3
  • 特許-通電加熱線の製造方法および製造装置 図4
  • 特許-通電加熱線の製造方法および製造装置 図5
  • 特許-通電加熱線の製造方法および製造装置 図6
  • 特許-通電加熱線の製造方法および製造装置 図7
  • 特許-通電加熱線の製造方法および製造装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】通電加熱線の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/12 20060101AFI20240220BHJP
   C01B 32/914 20170101ALI20240220BHJP
【FI】
H05B3/12 B
C01B32/914
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020095364
(22)【出願日】2020-06-01
(65)【公開番号】P2021190333
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜蔵
(72)【発明者】
【氏名】青代 信
(72)【発明者】
【氏名】浅利 伸
【審査官】川口 聖司
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公告第01144374(GB,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0038541(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0148350(US,A1)
【文献】特開2013-030752(JP,A)
【文献】特開2006-028541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/02-3/18
H05B 3/40-3/82
B23P 5/00-17/06
B23P 23/00-25/00
C01B 32/00-32/991
C01G 25/00-47/00
C01G 49/10-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒化学気相成長法の触媒線として用いる通電加熱線の製造方法であって、
両端部を有し、垂直方向に折り返すように吊り下げられた長さが2m~6mのタンタル線が設置されたチャンバにアセチレンガスを導入し、
前記チャンバ内に導入する前記アセチレンガスの供給量を制御して前記チャンバの内圧を第1の内圧と前記第1の内圧より低い第2の内圧とが交互に繰り返すように変化させながら前記タンタル線を通電加熱し前記タンタル線の表面を炭化処理し、
前記第2の内圧とするときの前記チャンバ内のアセチレンガス濃度は、前記第1の内圧とするときのアセチレンガス濃度よりも低い
通電加熱線の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の通電加熱線の製造方法であって、
1回の前記第2の内圧とする時間は、1回の前記第1の内圧とする時間の5%以上又は2秒以上、1回の前記第1の内圧とする時間以下である
通電加熱線の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の通電加熱線の製造方法であって、
前記チャンバ内に前記アセチレンガスを間欠導入する
通電加熱線の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の通電加熱線の製造方法であって、
前記アセチレンガスの供給量の制御に加え、前記チャンバ内の排気量を制御することにより前記チャンバの内圧を変化させる
通電加熱線の製造方法。
【請求項5】
触媒化学気相成長法の触媒線として用いる通電加熱線を製造する製造装置であって、
内部に、両端部を有する長さが2m~6mのタンタル線が垂直方向に折り返すように吊り下げて設置されるチャンバと、
前記チャンバ内にアセチレンガスを導入するアセチレンガス供給部と、
前記チャンバ内に導入する前記アセチレンガスの供給量を制御して前記チャンバの内圧を第1の内圧と前記第1の内圧より低い第2の内圧とが交互に繰り返して変化させ、前記第2の内圧とするときの前記チャンバ内のアセチレンガス濃度が前記第1の内圧とするときのアセチレンガス濃度よりも低くなるように前記チャンバの内圧を制御する制御部と、
アセチレンガス雰囲気下で前記チャンバの内圧を変化させながら、前記タンタル線の表面を炭化処理するために、前記タンタル線を加熱する電力を前記タンタル線に供給する電源と
を具備する製造装置。
【請求項6】
請求項5に記載の製造装置であって、
前記制御部は、前記アセチレンガスの供給量の制御に加え、前記チャンバ内の排気量を制御して前記チャンバの内圧を変化させる
製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば触媒線化学気相成長法で用いられる通電加熱線の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
成膜方法のひとつに触媒化学気相成長法(Cat-CVD:catalytic-Chemical Vapor Deposition)がある。この方法は、例えば1500~2000℃に加熱した触媒線に反応ガスを供給し、反応ガスの接触反応もしくは熱分解反応を利用して生成した分解種(堆積種)を被成膜基板上に堆積させる成膜法である。
【0003】
触媒化学気相成長法は、反応ガスの分解種を基板上に堆積させて膜を形成する点でプラズマCVD法と類似する。しかし、触媒化学気相成長法は、高温の触媒線上において反応ガスの分解種を生成するので、プラズマを形成して反応ガスの分解種を生成するプラズマCVD法に比べて、プラズマによる表面損失がなく、原料ガスの利用効率も高いという利点がある。
【0004】
この触媒化学気相成長法に使用される触媒線の材料としてタンタルが広く用いられている。しかし、金属タンタル自体は、高温でのクリープ強度が低いため、金属タンタルがそのまま触媒線として用いられると、加熱時に熱伸びや、溶断が生じる。したがって、タンタルを触媒線に使用する場合には、タンタルをボロン化処理したり、炭化処理することでタンタルを高融点化、及び硬化する方法が用いられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、タンタル線を内部に設置した真空チャンバ内に炭素源ガスを導入し、タンタル線に電圧を印加することにより形成される、タンタルからなる芯部と、当該芯部を被覆する炭化タンタルからなる周縁部とを備える通電加熱線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-41576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
触媒化学気相成長法によって基板に成膜する場合等、基板面内に亘って特性が均一な膜を成膜するために、表面に炭化タンタルが均一に形成された通電加熱線が望まれている。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、表面に炭化タンタルを均一に形成することができる通電加熱線の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る通電加熱線の製造方法は、
両端部を有し、垂直方向に折り返すように吊り下げられたタンタル線が設置されたチャンバにアセチレンガスを導入し、
上記チャンバ内に導入する前記アセチレンガスの供給量を制御して上記チャンバの内圧を変化させながら上記タンタル線を通電加熱し、上記タンタル線の表面を炭化処理する。
【0010】
この構成では、チャンバの内圧を変化させながら炭化処理することによりタンタル線の全長に亘って均一にタンタル線の表面に炭化タンタルを形成することができる。
【0011】
上記チャンバの内圧の上げ下げを繰り返して、上記チャンバの内圧を変化させてもよい。
上記チャンバ内に上記アセチレンガスを間欠導入してもよい。
【0012】
上記アセチレンガスの供給量の制御に加え、上記チャンバ内の排気量を制御することにより上記チャンバの内圧を変化させてもよい。
【0013】
本発明の一実施形態に係る製造装置は、チャンバと、アセチレンガス供給部と、制御部と、電源と、を具備する。
上記チャンバは、内部に、両端部を有するタンタル線が垂直方向に折り返すように吊り下げて設置される。
上記アセチレンガス供給部は、上記チャンバ内にアセチレンガスを導入する。
上記制御部は、上記チャンバ内に導入する上記アセチレンガスの供給量を制御して上記チャンバの内圧を変化させるように上記チャンバの内圧を制御する。
上記電源は、アセチレンガス雰囲気下で上記チャンバの内圧を変化させながら、上記タンタル線の表面を炭化処理するために、上記タンタル線を加熱する電力を上記タンタル線に供給する。
【0014】
この構成では、チャンバの内圧を変化させながらタンタル線の炭化処理をすることができ、これにより、タンタル線の全長に亘って均一にタンタル線の表面に炭化タンタルを形成することができる。
【0015】
上記制御部は、上記アセチレンガスの供給量の制御に加え、上記チャンバ内の排気量を制御して上記チャンバの内圧を変化させてもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上述べたように、本発明によれば、タンタル線の全長に亘って均一にタンタル線の表面に炭化タンタルを形成することが可能な通電加熱線の製造方法及び製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る通電加熱線の製造装置の概略構成図である。
図2】上記製造装置により製造された通電加熱線の概略断面図である。
図3】通電加熱線の製造方法を示すフロー図である。
図4】上記製造装置を用いて真空チャンバの内圧を変化させず炭化処理して製造した通電加熱線の模式図である。
図5】上記製造装置を用いて真空チャンバの内圧を変化させながら炭化処理して製造した通電加熱線の模式図である。
図6】タンタル線の炭化のメカニズム及び炭化処理ムラが生じるメカニズムを説明するための模式図である。
図7】上記製造装置内で炭化処理ムラが生じるメカニズムを説明するための模式図である。
図8】アセチレンガス雰囲気を第1の内圧とする時間の長さとタンタル線温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
[製造装置の構成]
図1は本発明の実施形態に係る通電加熱線としての触媒線の製造装置1の概略構成図である。製造装置1を用いてタンタル線60の表面を炭化処理することによって、表面に炭化タンタルが形成された通電加熱線としての触媒線6を製造することができる。
製造装置1は、真空チャンバ3と、真空ポンプ4と、排気ライン5と、第1の開閉バルブ7と、電源8と、炭素源供給部であるアセチレンガス(C)供給部9と、第1の制御部としての排気制御部10と、第2の開閉バルブ11と、ガス供給ライン14と、第2の制御部としてのガス供給制御部15と、を備える。
【0019】
真空チャンバ3は、複数のタンタル線60を内部に設置可能に構成される。
排気部である真空ポンプ4は、排気ライン5を介して真空チャンバ3に接続される。真空ポンプ4は、真空チャンバ3を所定の真空度に真空排気可能とする。
排気ライン5は、真空ポンプ4と真空チャンバ3とを接続する。
第1の開閉バルブ7は、排気ライン5上に設けられる。
排気制御部10は、第1の開閉バルブ7の開閉を制御し、真空チャンバ3内の排気速度及び排気時間を制御する。
アセチレンガス供給部9は、ガス供給ライン14を介して真空チャンバ3内へアセチレンガスを供給する。
ガス供給ライン14は、アセチレンガス供給部9と真空チャンバ3とを接続する。
第2の開閉バルブ11は、ガス供給ライン14上に設けられる。
ガス供給制御部15は、第2の開閉バルブ11の開閉を制御し、真空チャンバ3内へのアセチレンガスの導入量及び導入時間を調整する。本実施形態では、炭化処理時に、真空チャンバ3の内圧を変化させるように、ガス供給制御部15によって第2の開閉バルブ11の開閉が制御されて真空チャンバ3内に導入するアセチレンガスの供給量が制御される。これにより、炭化処理時に真空チャンバ3の内圧を変化させている。
尚、アセチレンガスの供給量を制御するのに加え、真空チャンバ3内の排気量を制御することによって、炭化処理時の真空チャンバ3の内圧を調整してもよい。排気量の制御は排気制御部10による第1の開閉バルブ7の開閉の制御により行われる。
【0020】
タンタル線60は金属タンタルからなり、棒状を有する。両端部を有する各タンタル線60は、真空チャンバ3内を垂直方向(本実施形態では重力方向とする。)に垂下し、真空チャンバ3内の下部の領域で垂直方向に折り返されるようにして真空チャンバ3内で吊り下げられる。これら複数のタンタル線60は、互いに所定の間隔をあけて一直線上に列設される。なお、以下の説明において、複数のタンタル線60の列設方向を「X軸方向」、垂直方向を「Z軸方向」、これらに直交する方向を「Y軸方向」と呼ぶものとする。
なお、このタンタル線60は例えば8ユニット程度設けられるが、図1では説明をわかりやすくするため3ユニットのタンタル線60が列設された様子を示している。
【0021】
タンタル線60の長さは、当該タンタル線60の表面を炭化処理してなる触媒線6を用いて触媒化学気相成長法により成膜する対象の基板のサイズに応じて様々である。例えば触媒線6の一本の長さが、2m~6mの触媒線6が用いられる。好ましい触媒線6の長さは、2mから5mで、本実施形態では、触媒線6の炭化処理前の長さが4.5mのタンタル線60が用いられた。タンタル線60と、当該タンタル線60の表面を炭化処理してなる触媒線6の長さは同等である。
図1に示すように、一本のタンタル線60において、2つの接続端子64から折り返し部までのタンタル線60の長さが互いに等しくなるようにタンタル線60が配置されている。より具体的には、本実施形態では、タンタル線60(触媒線6)は、折り返し部、換言するとX軸方向に延在する部分の長さが120mm、折り返し部を介して両側それぞれに位置するZ軸方向に延在する部分の長さが2200mmとなるように折り返されて真空チャンバ3内に設置される。
【0022】
電源8は、触媒線6に電力を供給し、触媒線6の通電加熱を連続通電により行う。触媒線6の両端部は電源8に接続されている。
【0023】
炭化処理において、アセチレンガス雰囲気下で真空チャンバ3の内圧を変化させながら、タンタル線60を加熱して、その表面を炭化処理することにより、表面に炭化タンタルが均一に形成された触媒線6を得ることができる。詳細については、後述する。
製造装置1は以上のように構成される。
【0024】
[触媒線(通電加熱線)の構成]
次に触媒線6の構成について説明する。図2は触媒線6の断面構造を模式的に示す断面図である。上述したように、触媒線6は、タンタル線60の表面を炭化処理することにより形成される。触媒線6は、芯部6aと周縁部6bを有する。芯部6aは触媒線6の中心部分であり、周縁部6bは芯部6aを覆う触媒線の外周部分である。芯部6aは金属タンタル(Ta)からなり、周縁部6bは炭化タンタル(TaC)からなる。
【0025】
金属タンタルは高温でのクリープ強度が小さいため、金属タンタルのみからなる触媒熱線は成膜時に熱伸びや溶断が生じるおそれがある。これに対し本実施形態に係る触媒線6は金属タンタルからなる芯部6aを、高温でのクリープ強度が大きく、機械的強度も高い炭化タンタルからなる周縁部6bにより被覆しているため、触媒線6の熱的及び機械的耐久性を高いものとすることができる。具体的には、金属タンタルのみからなる触媒線は、成膜の度に交換が必要となる場合が多いが、本実施形態に係る触媒線6は交換を要することなく複数回の成膜に利用することが可能である。
【0026】
一方で炭化タンタルは金属タンタルに比べて導電性が小さく(電気抵抗が大きく)、炭化タンタルのみからなる触媒線は加熱に大きな電力が必要となる。これに対し本実施形態に係る触媒線6は、断面構造の内部が金属タンタルからなる芯部6aであるため、導電性が高く(電気抵抗が小さく)、金属タンタルのみからなる触媒線と同程度の印加電圧により加熱することが可能である。
また、炭化タンタルは化学反応に対する安定性が高いため、触媒線を用いた触媒化学気相成長法での成膜プロセス等に用いられるホウ素の芯材内部への拡散を防止できる。これにより、タンタルのホウ化による芯材の局所的な高抵抗化と、それに伴う芯材の温度上昇による溶断を防止でき、芯材の耐久性を高めることができる。したがって、触媒線の高寿命化を図ることができる。
【0027】
[触媒線(通電加熱線)の製造方法]
上記製造装置1を用いて、下記の方法のように、アセチレンガス雰囲気下で真空チャンバ3の内圧を変化させながら、タンタル線60を加熱して、その表面を炭化処理することにより、表面に均一に炭化タンタルが形成された触媒線を得ることができる。以下、図3の製造フローに沿って説明する。
【0028】
製造装置1の真空チャンバ3の内部に、触媒線6の素となるタンタル線60を1本又は複数本設置する(S11)。タンタル線60は、金属タンタルからなる線であり、その直径は数mmとすることができ、ここでは1.0mmとした。真空ポンプ4を作動させて真空チャンバ3の内部を真空排気し、真空チャンバ3内を減圧する。ここでは、0.05Pa未満に減圧した。
【0029】
次に、アセチレンガス供給部9から真空チャンバ3へアセチレンガスを供給する。アセチレンガス雰囲気下で真空チャンバ3の内圧を変化させながら電源8から各タンタル線60に電圧を印加することにより、タンタル線60の表面の炭化処理が行われる(S12)。
各タンタル線60は、印加される電圧により生じる抵抗加熱により昇温される。タンタル線60に供給される電力は、所望する加熱温度に応じて調整され、例えば40A、6.8kWの直流電力とすることができる。タンタル線の表面におけるアセチレンガス(C)の接触によりタンタル線60の表面に反応生成物である炭化タンタルからなる周縁部6bが形成される。即ち、タンタルからなる線状の芯部6aと、炭化タンタルからなり芯部6aを覆う周縁部6bとを有する触媒線6が作製される。
【0030】
炭化処理時の真空チャンバ3の内圧の変化について図5(A)を用いて説明する。
図5(A)の上側の図は、本実施形態の製造方法により製造される触媒線6の模式図であり、下側に示すグラフは、触媒線6の製造時における炭化処理時の、触媒線6の素となるタンタル線60へ供給される電力と、真空チャンバ3の内圧の時間的変化を示したものである。
アセチレンガス雰囲気の真空チャンバ3の内圧を変化させるということは、換言すると、真空チャンバ3内のアセチレンガス濃度を変化させるということである。本実施形態においては、真空チャンバ3内へのアセチレンガスの供給量を経時的に変化させて真空チャンバ3の内圧の上げ下げが交互に繰り返されるように内圧を変化させている。具体的には、アセチレンガスの供給量を500sccmで1分、0sccmで1分を交互に繰り返して変化させている。換言すると、アセチレンガスを間欠的に供給して、内圧を変化させている。アセチレンガスの供給量が500sccmのとき、真空チャンバ3内のアセチレンガス濃度が高くなる。供給量が0sccmのとき、真空チャンバ3内のアセチレンガス濃度が低くなる。図5(A)の下側のグラフでは真空チャンバ3の内圧の高低の変化を模式的に示している。
以下、炭化処理時の真空チャンバ3の内圧が高い時の内圧を第1の内圧とし、低いときの内圧を第2の内圧という。炭化処理時、真空チャンバ3の内圧は、第1の内圧と第2の内圧が交互に繰り返すように変化する。第1の内圧は例えば1.0Paである。第2の内圧は、1.0Paより低く、好ましくは0.1Pa以下であり、本実施形態では0.01Pa以下とした。処理時間は20分とした。当該処理時間は、炭化処理時間である。処理時間20分のうち10分が、真空チャンバ3の内圧が第1の内圧となる時間の合計である。残りの10分は、真空チャンバ3の内圧が第2の内圧となる時間の合計である。
図5(A)に示すように、炭化処理時、タンタル線60は通電加熱される。炭化処理時、真空チャンバ3内は、第1の内圧時では1.0×10-5/s、第2の内圧時では1.0×10-4/sの排気速度で排気される。
このようにアセチレンガス雰囲気下で、真空チャンバ3の内圧を変化させながら、炭化処理を行うことにより、図5(A)の上側の図に示すように、タンタル線60の全長に亘って均一に表面に炭化タンタルが均一に形成された触媒線6を得ることができる。
【0031】
タンタル線60の加熱温度が1000℃以上で、かつ、タンタル線に炭素が浸入したときの炭素濃度が30原子%前後以上である場合に、タンタルの炭化反応が生じる。
例えば、タンタル線60の加熱温度は、1800℃以上2400℃以下の範囲に設定することができる。ここでは、直流電流値を40Aとしたが、これに限定されず、例えば10A~60Aの範囲に設定することができる。また、直流電力を6.8kWとしたが、これに限定されず、例えば3kW~10kWの範囲に設定することができる。尚、これらの数値は一例であり、タンタル線の太さや長さにより適宜変更できる。
処理時間は、タンタル線60の加熱温度によって適宜設定される。他の条件が同等の場合、加熱温度が高ければ炭化タンタルの形成が進行される。また、他の条件が同等の場合、加熱時間が長ければ、炭化タンタルの形成が進行される。
【0032】
また、ここでは、第1の内圧を1.0Paとする例をあげたが、これに限定されず、例えば1.0Pa~10Paの範囲に設定することができる。他の条件が同等の場合、炭素雰囲気の圧力が大きければ、炭化タンタルの形成が進行される。
【0033】
ここで、真空チャンバ3の内圧を一定にして、タンタル線を炭化処理した場合について、図4を用いて説明する。図4(A)~(D)は、比較例としての触媒線71~74の模式図である。図4(A)~(D)それぞれに示す触媒線71~74は、その製造において、上述の製造装置1を用い、炭化処理時の真空チャンバ3の内圧を一定とし、アセチレンガス雰囲気の圧力、処理時間を互いに異ならせて製造したものである。いずれの触媒線71~74においても、タンタル線60に40A、6.8kWの直流電力を供給して加熱して炭化処理することによって製造した。
図4(A)は、アセチレンガス雰囲気を10Pa、処理時間を30分として製造した触媒線71の模式図である。
図4(B)は、アセチレンガス雰囲気を10Pa、処理時間を5分として製造した触媒線72の模式図である。
図4(C)は、アセチレンガス雰囲気を1.0Pa、処理時間を30分として製造した触媒線73の模式図である。
図4(D)は、アセチレンガス雰囲気を1.0Pa、処理時間を5分として製造したときの触媒線74の模式図である。
図4の各触媒線71~74において、無地の領域は炭化タンタルが形成された領域で黄色を呈し、右上がりの斜線で示す領域はカーボン(炭素)が析出し黒色を呈し、右下がりの斜線で示す領域は、カーボンが析出しかけている状態でオレンジ色を呈することを示す。黒色を呈する領域を黒化領域という。オレンジ色を呈する領域は黒化の手前の段階の状態であり、オレンジ色領域という。
【0034】
図4(A)~(D)に示すように、真空チャンバ3の内圧を一定にした状態で炭化処理した場合、触媒線71~74それぞれは部分的にカーボンが析出し黒色を呈し、タンタル線の全長に亘って均一に表面に炭化タンタルが均一に形成された触媒線を得ることができなかった。
【0035】
また、図4(A)~(D)に示すように、カーボンが析出する領域は、吊り下げられた触媒線71~74の上部に顕著に表れている。これは、製造装置1において、アセチレンガスの真空チャンバ3への供給が製造装置1の上部から行われ、真空チャンバ3内の排気が製造装置1の下部から行われ、真空チャンバ3内でアセチレンガスの空間濃度分布が生じたためと考えられる。
【0036】
真空チャンバ3の内圧を一定にした状態で炭化処理した触媒線の炭化タンタルの形成ムラ(以下、炭化処理ムラということがある。)の発生のメカニズムは、以下のように考えられる。図6及び図7を用いて説明する。
図6は、タンタル線の炭化のメカニズム及び炭化処理ムラの発生のメカニズムを説明するための模式図である。図6では炭素に符号12を付し、水素に符号13を付している。
図7は、真空チャンバ3の内圧を一定にした状態で炭化処理した場合の、製造装置1内でのタンタル線60の状態を説明する模式図であり、炭化処理ムラの発生のメカニズムを説明するための図である。
【0037】
タンタル線の炭化のメカニズムについて説明する。
図6に示すように、タンタル線60の表面の炭化処理において、タンタル線60に電力を印加することによりタンタル線60は加熱される。符号19で示される箇所のように、タンタル線60にアセチレンが接触し水素の熱脱離が起こることにより炭素12と水素13が生成される。炭素12がタンタル線60に浸入拡散し、タンタルと反応することにより、タンタル線60の表面に炭化タンタルが形成される。
【0038】
次に、炭化処理ムラの発生のメカニズムについて図6及び図7を用いて説明する。
図7(A)に示すように、上述したように、製造装置1では、アセチレンガスの空間濃度分布が生じる。図7(A)において、ドットの密度が高い方がアセチレンガスの濃度が高いことを示す。図7(A)に示すように、製造装置1内において、上部側は下部側よりもアセチレンガスの濃度が高くなっている。これにより、反応の初期段階では、タンタル線60の炭化処理において、タンタル線60の上部側は下部側よりも浸炭する炭素が多くなり、炭化がより進行する。このため、炭化タンタルの形成によりタンタル線の抵抗値が高くなるので、タンタル線60の上部側と下部側とで抵抗値が変わってくる。上部側は下部側よりも電位差が大きくなる。
【0039】
ここで、タンタル線60内での炭素12の拡散は、タンタル線60の表面から中心にいくにしたがって遅くなっていく。このため、反応の次の段階では、図6の符号20で示される箇所のように、タンタル線60内の表面に近い領域で炭素12が渋滞し、浸炭が進みにくくなり、炭素過剰供給状態となってタンタル線60の表面に炭素12が析出し、黒色を呈するようになる。また、析出した炭素12が水素13と結合して、符号21で示される箇所のように、-の極性を有するCHxが生成される。この-の極性を有するCHxは、図6の符号22で示される箇所や図7(B)に示すように、タンタル線60の+極側に引き寄せられる。これにより、タンタル線60の、下部側よりもガス濃度分布が高い上部側であって+極側にCHxが多く集中することになり、この部分の炭素濃度が高くなる。図7(B)では、炭素濃度が特に高くなる領域をドットで示している。
【0040】
反応の更に次の段階では、図7(C)に示すように、CHxが多く集中するタンタル線60の上部側の+極側で浸炭、炭化が進み、抵抗値が更に高くなる。抵抗値の上昇に伴いタンタル線60の発熱温度も上昇する。これにより、例えば、図7(C)において、三重斜線で示したタンタル線60の上部側の+極側の領域と、二重斜線で示したタンタル線60の上部側の-極側の領域とで加熱温度が異なることになり、タンタル線60の全長に亘って、抵抗分布及び温度分布が発生する。
【0041】
反応の更に次の段階では、図7(D)に示すように、温度分布の発生により炭化タンタルの形成ムラが生じる。タンタル線60の+極側の上部の領域は炭化が進む。タンタル線60の-極側の上部の領域は炭化が進まず、炭素が析出し黒色を呈する。一度黒化すると、温度低下が加速される。これにより、+極側と-極側とで温度差が更に大きくなり、炭化の進行の度合いが更に異なるようになり、タンタル線60の全長に亘って、表面のタンタル化が不均一となる。
【0042】
一方、図7(A)~(D)において、仮想破線80より下の領域は、アセチレンガスの濃度が相対的に低い領域であり、この領域に位置するタンタル線では抵抗の分布が生じず、炭素濃度のムラが発生せず炭化タンタルの形成ムラが生じない。
【0043】
図4に戻って、真空チャンバ3の内圧を一定にしてタンタル線を炭化処理した場合において、処理条件が異なることにより、カーボンが析出する領域が異なってくる。図4(A)~(D)各々に示す触媒線71~74の製造条件は上述した通りである。
図4(A)及び(B)に示すように、同一のアセチレンガス雰囲気(10Pa)では、処理時間の違いによって黒化領域の範囲が異なってくる。図に示すように、処理時間が短いほど黒化領域の範囲が小さくなることが確認された。
図4(A)及び(C)に示すように、同一の処理時間では、アセチレンガス雰囲気の違いによって黒化領域が異なってくる。図に示すように、アセチレンガスの圧力が小さいほど、黒化領域の範囲が小さくなるとともに、-極側では黒化より手前の段階であるオレンジ色領域となる。このように、アセチレンガスの圧力をより小さくすることにより、タンタル線60の全長に亘って、炭化タンタルの形成ムラの発生が軽減されることが確認されたものの、炭化処理ムラは依然として生じている。
図4(C)及び(D)に示すように、同一のアセチレンガス雰囲気(1.0Pa)では、処理時間の違いによって黒化領域が異なってくる。図に示すように、図4(D)ではオレンジ色領域が消失し、処理時間を短くすることにより、タンタル線60の全長に亘って、炭化タンタルの形成ムラの発生が更に軽減されることが確認されたものの、炭化処理ムラは依然として生じている。
【0044】
図5は、第1の内圧を1.0Paとし、第2の内圧を0.01Pa以下として、第1の内圧と第2の内圧が交互に切り替わるように、アセチレンガスの供給量を制御して、真空チャンバ3の内圧を変化させて炭化処理した場合の例を説明する図である。具体的には、アセチレンガスの供給量を、500sccm、0sccmが交互となるように経時的に変化させた。アセチレンガスを真空チャンバ3内へ導入し、真空チャンバ3内の圧力が1.0Paとなってから炭化処理が開始される。
図5(A)~(C)それぞれの上側の図は、真空チャンバ3の内圧を変化させながら炭化処理して製造された触媒線6、75及び76を示し、これらは、1回の第1の内圧とする時間を異ならせて製造した触媒線である。図5(A)~(C)それぞれの下側に示すグラフは、グラフの上に図示される触媒線を製造する際の処理条件を示し、触媒線の素となるタンタル線60へ供給される電力と、真空チャンバ3の内圧の時間的変化を示したものである。
図5(A)は本実施形態における触媒線6であり、図5(B)及び(C)は比較例における触媒線75及び76である。
【0045】
図5(A)~(C)それぞれに示す触媒線6、75及び76の製造は、上記製造装置1を用い、触媒線の素となるタンタル線60へ供給する直流電力を40A、6.8kWとし、通電加熱とした。いずれの触媒線6、75及び76の製造においても、炭化処理時において、真空チャンバ3の第1の内圧とする時間の合計が10分となるようにした。
図5(A)に示す触媒線6の製造では、第1の内圧で1分、第2の内圧で1分を交互に繰り返して真空チャンバ3の内圧を変化させ、計20分の炭化処理時間で処理を行った。
図5(B)に示す触媒線75の製造では、順に第1の内圧で5分、第2の内圧で5分、第1の内圧で5分となるように真空チャンバ3の内圧を変化させ、計15分の炭化処理時間で処理を行った。
図5(C)に示す触媒線76の製造では、順に第1の内圧で5分、第2の内圧で30分、第1の内圧で5分となるように真空チャンバ3の内圧を変化させ、計40分の炭化処理時間で処理を行った。
図5(B)及び(C)の各触媒線75、76において、無地の領域は炭化タンタルが形成された領域で黄色を呈し、右上がりの斜線で示す領域はカーボンが析出し黒色を呈する黒色領域である。
【0046】
図5(A)~(C)に示すように、炭化処理時間における真空チャンバ3の第1の内圧となる時間の合計が同じであっても、真空チャンバ3の第2の内圧とする時間の長さにかかわらず、1回の第1の内圧となる時間の長さが5分の場合、黒化領域が生じ、炭化処理ムラが生じた。
一方、図5(A)に示すように、1回の第1の内圧となる時間の長さを、図5(B)及び(C)に示した5分よりも短い1分とした場合、タンタル線の全長に亘って均一に表面に炭化タンタルが均一に形成された触媒線を得ることができた。
このように、1回の第1の内圧となる時間の長さを短くし、第1の内圧、第2の内圧が交互になるように真空チャンバ3の内圧を変化させることにより、タンタル線の全長に亘って均一に表面に炭化タンタルが均一に形成された触媒線を得ることができた。
これは、図6を用いて説明した符号20で示される箇所のような、炭素の渋滞が緩和されたためと考えられる。すなわち、第1の内圧の時間を短くすることにより炭素の供給量が少なくなり、第1の内圧から第2の内圧とすることにより更に炭素の供給量が少なくなるため、炭素の渋滞が緩和され、浸炭が進みにくくなるということが生じにくくなり、結果的に炭素の析出が抑制されたものと考えられる。
【0047】
以上のように、製造装置1内でのアセチレンガスの空間濃度分布、炭素の渋滞によりタンタル線の表面に析出した炭素が水素と結合してなる-の極性を有するCHxの生成等が原因となって炭化タンタルの形成ムラが生じると考えられる。
製造装置1内でのアセチレンガスの空間濃度分布が生じても、本実施形態のように、1回の第1の内圧となる時間の長さを短くし、第1の内圧、第2の内圧が交互になるように真空チャンバ3の内圧を変化させて炭化処理することにより、炭素の渋滞が緩和され、タンタル線の全長に亘って均一に表面に炭化タンタルが均一に形成された触媒線を得ることができる。
【0048】
1回の第1の内圧とする時間の長さは、第1の内圧の値及びタンタル線の加熱温度によって適宜設定することができる。図8を用いて説明する。
図8は、タンタル線の炭化処理において、炭化タンタルの形成ムラが生じない処理条件を測定した結果を示すグラフである。
図8のグラフに示す実線の曲線は、第1の内圧の値を1.0Paとしたときの、タンタル線の加熱温度と、炭化処理ムラとならない第1の内圧の値との関係を示す。その他の3つの破線の曲線は、それぞれ、第1の内圧の値を、0.1Pa、10Pa、100Paとしたときの、タンタル線の加熱温度と、炭化処理ムラとならない第1の内圧の値との関係を示す。それぞれの曲線において、曲線より左側の領域での条件では炭化タンタルの形成ムラが発生し、曲線より右側の領域での条件では炭化タンタルの形成ムラが発生していないことを示す。
図8に示すデータは、1回の真空チャンバ3を第1の内圧とする時間の長さと、1回の第2の内圧とする時間の長さとを同じとし、炭化処理時間における第1の内圧とする時間の合計が10分となるように設定して炭化処理を行った結果を示す。図8に示すデータは、いずれも、アセチレンガスの供給量を、第1の内圧とする時間では500sccmとし、第2の内圧とする時間では0sccmとして、炭化処理を行った。
1回の第2の内圧とする時間を、1回の第1の内圧とする時間以下として、真空チャンバ3の内圧を変化させながら、1回の第1の内圧とする時間の長さを短くすることにより、炭化処理ムラの発生が抑制されることが確認された。排気速度によっても異なるが、1回の第2の内圧とする時間は、例えば、1回の第1の内圧とする時間の5%以上とする、或いは、第2の内圧の時間を2秒以上とすることができ、真空チャンバ3内が第1の内圧から所望の第2の内圧へ下がりきる長さが好ましい。1回の第1の内圧とする時間の長さは、第1の内圧の値によって適宜設定され得る。
【0049】
図8に示すように、第1の内圧値が1.0Paの場合の実線の曲線において、例えば、タンタル線の加熱温度が2150℃で第1の内圧とする時間の長さが1分の場合、形成ムラが生じない。図8上、白抜きの丸は、タンタル線の加熱温度が2150℃で第1の内圧とする時間の長さが1分の場合を示し、実線の曲線の右側に位置する。
実線の曲線において、タンタル線の加熱温度が2150℃で第1の内圧とする時間の長さが5分の場合、形成ムラが生じる。図8上、黒塗りの丸は、タンタル線の加熱温度が2150℃で第1の内圧とする時間の長さが5分の場合を示し、実線の曲線の左側に位置する。
このように、タンタル線の加熱温度によって、形成ムラが発生しない第1の内圧とする時間の長さを適宜設定することができる。
また、図8に示すように、他の破線の各曲線においても、実線の曲線と同様に、タンタル線の加熱温度によって、形成ムラが発生しない第1の内圧とする時間の長さを適宜設定することができる。
図8に示すように、第1の内圧値によって、炭化処理ムラが発生しない好ましい第1の内圧とする時間の長さは異なる。しかし、いずれの場合においても、第1の内圧とする時間の長さが短く、第1の内圧と、第1の内圧よりも低い第2の内圧とが交互に入れ替わるように、真空チャンバ3の内圧を変化させて炭化処理することにより、炭化タンタルの形成ムラの発生が抑制されることが確認された。
【0050】
以上のように、アセチレンガス雰囲気下で、真空チャンバ3の内圧を変化させながらタンタル線60の炭化処理を行うことにより、全長に亘って表面に均一な炭化タンタルが形成された触媒線6を得ることができる。
【0051】
上述の触媒線6が設けられた成膜装置(図示せず)を用いて触媒化学気相成長法により基板に所望の膜を成膜することができる。詳細には、成膜装置内に垂直方向に垂れ下がるように設置された複数の触媒線6に対向して基板を垂直に配置する。そして、触媒線6に交流電力を供給して加熱し、原料ガスを成膜装置内に導入することにより成膜が行われる。原料ガスが高温に加熱された触媒線6に接触し、触媒反応もしくは熱分解反応により生成された反応ガスの分解種が基板上に堆積されて成膜される。
本実施形態では、全長に亘って表面に均一に炭化タンタルが形成された触媒線6を用いて成膜することができるので、面内で安定した膜特性を有する膜を成膜することができる。また、触媒線6の表面には全長に亘って均一に炭化タンタルが形成されているので、熱的及び機械的耐久性が高い。これにより、成膜中の触媒線6の熱延びや溶断の発生が防止され、成膜後に頻繁に触媒線を交換する必要もないため、成膜の生産性を向上させることが可能である。
【0052】
本発明はこの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において変更され得る。
【0053】
上述の実施形態においては、真空チャンバ内へ導入するアセチレンガスの供給量を変化させることにより、真空チャンバの内圧を変化させたが、これに限定されない。
例えば、アセチレンガスの供給量の制御に加え、排気量の制御も行って、真空チャンバの内圧変化の制御を行ってもよい。
【0054】
また、上述の実施形態では、タンタル線の表面に炭化タンタルが形成された通電加熱線を例にあげて説明したが、これに限定されない。例えば、タンタル線の表面に炭化タンタルが形成されたものに、タンタルのホウ化物又はホウ素の少なくとも一方からなる被覆層が、更に被覆されて、通電加熱線が構成されてもよい。この構成では、被覆層がタンタルのホウ化物又はホウ素を含むため、例えば、通電加熱線を用いた触媒化学気相成長法での成膜プロセスに用いられるシリコンとの合金化反応(シリサイド化)を防止でき、機械的強度の低下を抑制できる。
【0055】
また、上述の実施形態ではタンタル線に直流電力を供給して加熱する例をあげたが、交流電力を供給してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1…製造装置
3…真空チャンバ(チャンバ)
6…触媒線(通電加熱線)
8…電源
9…アセチレンガス供給部
10…排気制御部(第1の制御部)
15…ガス供給制御部(第2の制御部)
60…タンタル線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8