(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240220BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240220BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20240220BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
C09G1/02
(21)【出願番号】P 2020555972
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2019042115
(87)【国際公開番号】W WO2020100563
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2018212314
(32)【優先日】2018-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100174159
【氏名又は名称】梅原 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】谷口 恵
(72)【発明者】
【氏名】向井 貴俊
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/088370(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/150856(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/108770(WO,A1)
【文献】特開2015-137297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
C09G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハードレーザーマークの付された表面を含むシリコンウェーハの研磨に用いられるシリコンウェーハ予備研磨用組成物であって、
砥粒、塩基性化合物、水溶性高分子および水を含み、
さらに有機酸またはその塩を含
み、
前記水溶性高分子の含有量(A
HM
)に対する前記有機酸およびその塩の含有量(A
OA
)の比(A
OA
/A
HM
)が1以上100以下である、シリコンウェーハ予備研磨用組成物。
【請求項2】
前記砥粒は、円換算径が50nm以上でかつアスペクト比が1.2以上である粒子の体積割合が50%以上である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記水溶性高分子は、窒素原子を有するポリマーを含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記有機酸は多価カルボン酸である、請求項
1~3のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記有機酸はヒドロキシ酸である、請求項
1~4のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記砥粒はシリカ粒子である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記塩基性化合物として、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩を含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関する。詳しくはシリコンウェーハ予備研磨用組成物に関する。本出願は、2018年11月12日に出願された日本国特許出願2018-212314号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
従来、金属や半金属、非金属、その酸化物等の材料表面に対して研磨用組成物を用いた精密研磨が行われている。例えば、半導体製品の構成要素等として用いられるシリコン基板の表面は、一般的にラッピング工程やポリシング工程を経て高品位の鏡面に仕上げられる。上記ポリシング工程は、典型的には、予備ポリシング工程(予備研磨工程)とファイナルポリシング工程(最終研磨工程)とを含む。上記予備ポリシング工程は、典型的には粗研磨工程(一次研磨工程)および中間研磨工程(二次研磨工程)を含んでいる。上記予備研磨用組成物に関する技術文献としては、例えば特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特許出願公開2015-233031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、シリコンウェーハには、識別等の目的で、該シリコンウェーハの表面や裏面にレーザー光を照射することによって、バーコード、数字、記号等のマーク(ハードレーザーマーク;以下「HLM」と表記することがある。)が付されることがある。HLMの付与は、一般に、シリコンウェーハのラッピング工程を終えた後、ポリシング工程を開始する前に行われる。通常、HLMを付すためのレーザー光の照射によって、HLM周縁のシリコンウェーハ表面には変質層が生じる。シリコンウェーハのうちHLMの部分自体は最終製品には用いられないが、HLM付与後のポリシング工程において上記変質層が適切に研磨されないと、隆起となって必要以上に歩留まりが低下することがあり得る。しかし、上記変質層はレーザー光のエネルギーによりポリシリコン等に変質して研磨されにくくなっている。そのため、HLM周縁の隆起(以下、単に「隆起」ともいう。)を平坦化するシリコンウェーハ予備研磨用組成物は、上記隆起解消に適した組成とされ得る。例えば特許文献1では、砥粒としてシリカ粒子を、弱酸塩として炭酸カリウムを、塩基性化合物として第四級アンモニウム化合物を含む特定の組成で、隆起解消性の検討を行っている。
【0005】
一方で、従来、研磨条件によっては、研磨時に研磨装置が振動(以下「研磨振動」という。)することが知られている。研磨振動は、装置の負荷となって構成部材の劣化を引き起こすおそれがあり、装置寿命に悪影響を及ぼし得る。HLM周縁の隆起解消性を確保しつつ、研磨振動の防止または抑制が可能な研磨用組成物が提供されれば有益である。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、HLM周縁の隆起解消性に優れ、かつ研磨振動の防止または抑制が可能なシリコンウェーハ予備研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書によるとシリコンウェーハ予備研磨用組成物が提供される。この研磨用組成物は、砥粒、塩基性化合物、水溶性高分子および水を含み、さらに有機酸またはその塩を含む。上記研磨用組成物は、HLM周縁の隆起解消性に優れる。また、上記研磨用組成物を用いた研磨では、研磨振動が生じないか、当該振動が抑制される。
【0008】
なお、本明細書においてHLM周縁の隆起を解消するとは、シリコンウェーハのHLM周辺の基準面(基準平面)から上記隆起の最高点までの高さを小さくすることをいう。シリコンウェーハのHLM周辺の基準面から上記隆起の最高点までの高さは、例えば、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0009】
好ましい一態様では、前記有機酸は多価カルボン酸である。また、前記有機酸はヒドロキシ酸であり得る。有機酸として、多価カルボン酸やヒドロキシ酸、あるいはその両方に該当するものを用いることによって、ここに開示される技術による効果、すなわち隆起解消性と研磨振動防止または抑制との両立、を好ましく実現することができる。
【0010】
好ましい一態様では、前記砥粒はシリカ粒子である。砥粒としてシリカ粒子を用いる研磨において隆起解消効果がより効果的に発揮され得る。
【0011】
好ましい一態様に係る研磨用組成物は、前記塩基性化合物として、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩を含む。塩基性化合物として水酸化第四級アンモニウム化合物を用いることで、HLM周縁の隆起解消が好ましく実現される。上記組成の研磨用組成物は研磨レート向上の点でも好ましい。
【0012】
好ましい一態様に係る研磨用組成物は、前記水溶性高分子の含有量(AHM)に対する前記有機酸およびその塩の含有量(AOA)の比(AOA/AHM)が1以上100以下である。研磨用組成物中の水溶性高分子の含有量と有機酸およびその塩の含有量との比を上記のような範囲に設定することで、HLM周縁の隆起解消がより好ましく実現される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。
【0014】
この明細書において、砥粒の平均一次粒子径とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、平均一次粒子径(nm)=6000/(真密度(g/cm3)×BET値(m2/g))の式により算出される粒子径をいう。例えばシリカ粒子の場合、平均一次粒子径(nm)=2727/BET値(m2/g)により平均一次粒子径を算出することができる。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0015】
この明細書において、砥粒を構成する各粒子のアスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM)による当該粒子の画像に外接する最小の長方形の長辺の長さを同じ長方形の短辺の長さで除することにより求めることができる。砥粒の平均アスペクト比およびアスペクト比の標準偏差は、走査型電子顕微鏡の視野範囲内にある複数の粒子のアスペクト比の平均値および標準偏差であり、これらは一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。
【0016】
この明細書において、粒子の円換算径とは、走査型電子顕微鏡による当該粒子の画像の面積を計測し、それと同じ面積の円の直径を求めることにより得られる値をいう。砥粒を構成する粒子の平均円換算径および円換算径の標準偏差は、走査型電子顕微鏡の視野範囲内にある複数の粒子の円換算径の平均値および標準偏差であり、これらも一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。
【0017】
<砥粒>
ここに開示される研磨用組成物は砥粒を含有する。砥粒は、研磨対象物の表面を機械的に研磨する働きをする。
【0018】
砥粒の材質や性状は特に制限されず、使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。砥粒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。砥粒の例としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子等のシリコン化合物粒子や、ダイヤモンド粒子等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。なかでも無機粒子が好ましい。
【0019】
ここに開示される技術において特に好ましい砥粒として、シリカ粒子が挙げられる。ここに開示される技術は、例えば、上記砥粒が実質的にシリカ粒子からなる態様で好ましく実施され得る。ここで「実質的に」とは、砥粒を構成する粒子の95重量%以上(好ましくは98重量%以上、より好ましくは99重量%以上であり、100重量%であってもよい。)がシリカ粒子であることをいう。
【0020】
シリカ粒子の具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。シリカ粒子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。研磨対象物表面にスクラッチを生じにくく、かつ良好な研磨性能(表面粗さを低下させる性能や隆起解消性等)を発揮し得ることから、コロイダルシリカが特に好ましい。コロイダルシリカとしては、例えば、イオン交換法により水ガラス(珪酸Na)を原料として作製されたコロイダルシリカや、アルコキシド法コロイダルシリカを好ましく採用することができる。ここでアルコキシド法コロイダルシリカとは、アルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されたコロイダルシリカである。コロイダルシリカは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
シリカ粒子を構成するシリカの真比重は1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.7以上である。シリカの真比重の増大により、研磨レートは高くなる傾向にある。かかる観点から、真比重が2.0以上(例えば2.1以上)のシリカ粒子が特に好ましい。シリカの真比重の上限は特に限定されないが、典型的には2.3以下、例えば2.2以下である。シリカの真比重としては、置換液としてエタノールを用いた液体置換法による測定値を採用し得る。
【0022】
砥粒の平均一次粒子径は特に限定されず、例えば10nm~200nm程度の範囲から適宜選択し得る。隆起解消性向上の観点から、平均一次粒子径は20nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましい。いくつかの態様において、平均一次粒子径は、例えば40nm超であってよく、45nm超でもよく、50nm超でもよい。また、スクラッチの発生防止の観点から、平均一次粒子径は、通常、150nm以下であることが有利であり、120nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。いくつかの態様において、平均一次粒子径は75nm以下でもよく、60nm以下でもよい。
【0023】
砥粒の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなす粒子の具体例としては、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)、繭型形状、金平糖形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。
【0024】
砥粒の平均アスペクト比は特に限定されない。砥粒の平均アスペクト比は、原理的に1.0以上であり、1.05以上、1.1以上とすることができる。平均アスペクト比の増大により、隆起解消性は概して向上する傾向にある。また、砥粒の平均アスペクト比は、スクラッチ低減や研磨の安定性向上等の観点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下である。いくつかの態様において、砥粒の平均アスペクト比は、例えば1.5以下であってよく、1.4以下でもよく、1.3以下でもよい。
【0025】
いくつかの態様において、砥粒としては、円換算径が50nm以上でかつアスペクト比が1.2以上である粒子の体積割合が50%以上であるものを採用することができる。上記体積割合を60%以上とすることもできる。上記体積割合の値が50%以上である場合、さらに言えば60%以上である場合には、隆起の解消に特に有効なサイズおよびアスペクト比の粒子が砥粒中に比較的多く含まれるので、砥粒の機械的作用による隆起解消性をより向上させることができる。
【0026】
いくつかの態様において、砥粒の平均円換算径は、例えば25nm以上であってよく、40nm以上でもよく、55nm以上でもよく、70nm以上でもよい。また、砥粒の平均円換算径は、例えば300nm以下であってよく、200nm以下でもよく、150nm以下でもよく、100nm以下でもよい。ここに開示される研磨用組成物は、このような平均円換算径を有する砥粒を用いて好適に実施され得る。
【0027】
砥粒の含有量は特に限定されず、目的に応じて適宜設定し得る。研磨用組成物の全重量に対する砥粒の含有量は、例えば0.01重量%以上であってよく、0.05重量%以上でもよく、0.1重量%以上でもよい。砥粒の含有量の増大により、隆起解消性は概して向上する傾向にある。いくつかの態様において、砥粒の含有量は、0.2重量%以上でもよく、0.5重量%以上でもよく、0.6重量%以上でもよい。また、スクラッチ防止や砥粒の使用量節約の観点から、いくつかの態様において、砥粒の含有量は、例えば10重量%以下であってよく、5重量%以下でもよく、3重量%以下でもよく、2重量%以下でもよく、1.5重量%以下でもよく、1.2重量%以下でもよく、1.0重量%以下でもよい。これらの含有量は、例えば、研磨対象物に供給される研磨液(ワーキングスラリー)における含有量に好ましく適用され得る。
【0028】
また、希釈して研磨に用いられる研磨用組成物(すなわち濃縮液)の場合、砥粒の含有量は、保存安定性や濾過性等の観点から、通常は、50重量%以下であることが適当であり、40重量%以下であることがより好ましい。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、砥粒の含有量は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上である。
【0029】
<塩基性化合物>
ここに開示される研磨用組成物は塩基性化合物を含む。ここで塩基性化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物は、研磨対象となる面を化学的に研磨する働きをし、研磨レートの向上に寄与し得る。
【0030】
塩基性化合物としては、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物等を用いることができる。例えば、アルカリ金属の水酸化物、水酸化第四級アンモニウム等の第四級アンモニウム類、アンモニア、アミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。第四級アンモニウム類の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類等が挙げられる。
【0031】
隆起解消性向上等の観点から好ましい塩基性化合物として、水酸化第四級アンモニウム類が挙げられる。特に好ましく用いられるものとして水酸化テトラメチルアンモニウムが挙げられる。上記塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
研磨用組成物全量に対する塩基性化合物の含有量は、研磨レートおよび隆起解消性の観点から、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.02重量%以上、さらに好ましくは0.03重量%以上である。塩基性化合物の含有量の増加によって、安定性も向上し得る。上記塩基性化合物の含有量の上限は、1重量%以下とすることが適当であり、表面品質等の観点から、好ましくは0.5重量%以下であり、より好ましくは0.1重量%以下、さらに好ましくは0.06重量%以下である。なお、2種以上を組み合わせて用いる場合は、上記含有量は2種以上の塩基性化合物の合計含有量を指す。これらの含有量は、例えば、研磨対象物に供給される研磨液(ワーキングスラリー)における含有量に好ましく適用され得る。
【0033】
また、希釈して研磨に用いられる研磨用組成物(すなわち濃縮液)の場合、塩基性化合物の含有量は、保存安定性や濾過性等の観点から、通常は10重量%以下であることが適当であり、5重量%以下であることがより好ましい。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、塩基性化合物の含有量は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは0.9重量%以上である。
【0034】
<水溶性高分子>
ここに開示される研磨用組成物は水溶性高分子を含む。水溶性高分子を含む研磨用組成物によると、HLM周縁の隆起を解消する性能が向上しやすい。ここに開示される技術を実施するにあたり、水溶性高分子がHLM周縁の隆起解消性向上に寄与するメカニズムを解明することは必要とされないが、研磨対象物の表面において、HLMが付与されていない領域がHLM周縁に比べて選択的に水溶性高分子で保護されて、かかる領域の研磨が抑制されることが考えられる。ただし、このメカニズムのみに限定解釈されるものではない。
【0035】
上記水溶性高分子の例としては、セルロース誘導体、デンプン誘導体、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー、ビニルアルコール系ポリマー等が挙げられる。具体例としては、ヒドロキシエチルセルロース、プルラン、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダム共重合体やブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、スチレン-マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロイルモルホリン、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルピペリジン等が挙げられる。水溶性高分子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
ここに開示される技術において水溶性高分子の分子量は特に限定されない。例えば、水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、凡そ200×104以下とすることができ、150×104以下が適当である。研磨振動や表面欠陥を抑制する観点から、上記Mwは、凡そ100×104以下であってもよく、凡そ50×104以下であってもよい。また、シリコンウェーハ表面の保護性の観点から、上記Mwは、通常、凡そ0.2×104以上であり、凡そ0.5×104以上であることが適当であり、凡そ0.8×104以上であってもよい。
【0037】
なお、水溶性高分子のMwとしては、水系のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)に基づく値(水系、ポリエチレンオキサイド換算)を採用することができる。
【0038】
ここに開示される研磨用組成物における水溶性高分子の含有量は、特に限定されず、隆起解消性や表面品質向上等の観点から、凡そ1×10-5重量%以上(例えば凡そ1×10-4重量%以上)とすることが適当であり、好ましくは凡そ5×10-4重量%以上である。上記研磨用組成物における水溶性高分子の含有量の上限は、例えば凡そ1重量%以下とすることができる。研磨効果や洗浄性等の観点から、水溶性高分子の含有量は、好ましくは凡そ0.1重量%以下、より好ましくは凡そ0.05重量%以下、さらに好ましくは凡そ0.01重量%以下(例えば凡そ0.005重量%以下)である。
【0039】
また、ここに開示される研磨用組成物における水溶性高分子の含有量は、研磨用組成物に含まれる砥粒との相対的関係によっても特定され得る。具体的には、研磨用組成物における水溶性高分子の含有量は、砥粒100重量部に対して凡そ0.001重量部以上とすることが適当であり、シリコンウェーハ表面におけるHLM周縁以外の領域の保護の観点から、好ましくは凡そ0.01重量部以上、より好ましくは凡そ0.05重量部以上(例えば凡そ0.1重量部以上)である。また、研磨効果等の観点から、水溶性高分子の含有量は、砥粒100重量部に対して凡そ10重量部以下とすることが適当であり、好ましくは凡そ1重量部以下、より好ましくは凡そ0.5重量部以下(例えば凡そ0.3重量部以下)である。
【0040】
<有機酸またはその塩>
ここに開示される研磨用組成物は、有機酸またはその塩を含むことによって特徴づけられる。有機酸またはその塩を用いることによって、優れた隆起解消性を実現しつつ、研磨振動を防止または抑制することができる。ここに開示される技術を実施するにあたり、有機酸またはその塩が研磨振動の防止等に寄与するメカニズムを解明することは必要とされないが、有機酸またはその塩は、無機酸またはその塩と比べて、砥粒のウェーハ表面に対する均一性向上に寄与し、これによってメカニカル研磨作用が円滑となり、研磨振動が生じないと考えられる。ただし、このメカニズムのみに限定解釈されるものではない。
【0041】
有機酸またはその塩としては、特に限定されず、典型的にはカルボン酸またはその塩を使用することができる。特に限定されるものではないが、上記有機酸としては、多価カルボン酸等の多価酸が好ましく用いられる。多価酸一分子当たりの酸基の数(多価カルボン酸の場合、カルボキシル基数)は2~5であり、より好ましくは2、3または4(典型的には2または3)である。有機酸は、モノカルボン酸等の一価の酸であってもよい。また、好ましい一態様に係る有機酸は、一分子中に1以上の水酸基を有するヒドロキシ酸(典型的にはヒドロキシカルボン酸)であり得る。水酸基を有する多価カルボン酸またはその塩によると、ここに開示される技術による隆起解消性と研磨振動防止等との両立が好適に実現され得る。なお、本明細書における有機酸およびその塩は、キレート剤として用いられるアミノカルボン酸系化合物や有機ホスホン酸系化合物とは異なり、したがって、第二級アミンや第三級アミン等のアミン構造を有しないものであり得る。
【0042】
また、有機酸またはその塩は、塩基性化合物との組合せで、緩衝作用を発揮し得るものが好ましい。このような緩衝作用が発揮されるように構成された研磨用組成物は、研磨中における研磨用組成物のpH変動が少なく、研磨能率の維持性に優れたものとなり得るため、隆起解消性の向上と研磨レートの維持とをより好適に両立することができる。
【0043】
有機酸としては、酢酸、イタコン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、グリコール酸、マロン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、リンゴ酸、グルコン酸、アラニン、グリシン、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、イソクエン酸、hydroxyethylidene diphosphonic acid(HEDP)、nitrilotris[methylene phosphonic acid](NTMP)、phosphonobutane tricarboxylic acid(PBTC)等が挙げられる。酸は、該酸の塩の形態で用いられてもよい。上記酸の塩は、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩や、アンモニウム塩等であり得る。なかでも、クエン酸またはその塩が好ましい。クエン酸の塩としては、金属汚染を抑制できる観点からアンモニウム塩が好ましく、クエン酸水素二アンモニウムやクエン酸三アンモニウム等が挙げられる。有機酸またはその塩は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。研磨振動防止性の点からは、有機酸およびその塩のなかから1種のみを選択して用いることが好ましい。
【0044】
有機酸およびその塩の含有量は、特に限定されず、隆起解消性の観点から、研磨用組成物の全重量に対して、例えば0.001重量%以上であってよく、0.002重量%以上でもよく、0.005重量%以上でもよい。また、研磨用組成物の分散安定性等の観点から、いくつかの態様において、上記合計含有量は、例えば5重量%以下であってよく、1重量%以下でもよく、0.3重量%以下でもよく、0.1重量%以下でもよく、0.05重量%以下(例えば0.02重量%以下)でもよい。これらの含有量は、例えば、研磨対象物に供給される研磨液(ワーキングスラリー)における含有量に好ましく適用され得る。
【0045】
また、ここに開示される研磨用組成物における有機酸およびその塩の含有量は、研磨用組成物に含まれる砥粒との相対的関係によっても特定され得る。具体的には、研磨用組成物における有機酸およびその塩の含有量は、砥粒100重量部に対して凡そ0.01重量部以上とすることが適当であり、隆起解消性の観点から、好ましくは凡そ0.1重量部以上、より好ましくは凡そ0.5重量部以上(例えば凡そ1重量部以上)である。また、分散安定性等の観点から、有機酸およびその塩の含有量は、砥粒100重量部に対して凡そ50重量部以下とすることが適当であり、好ましくは凡そ10重量部以下、より好ましくは凡そ5重量部以下(例えば凡そ3重量部以下)である。
【0046】
また、ここに開示される研磨用組成物における有機酸およびその塩の含有量は、研磨用組成物に含まれる水溶性高分子の含有量との相対的関係によっても特定され得る。具体的には、研磨用組成物における水溶性高分子の含有量(AHM)(単位:重量%)に対する有機酸およびその塩の含有量(AOA)(単位:重量%)の比(AOA/AHM)は、凡そ0.1以上とすることが適当であり、研磨振動防止等の観点から、好ましくは凡そ1以上、より好ましくは凡そ5以上である。また、分散安定性等の観点から、上記比(AOA/AHM)は、凡そ500以下とすることが適当であり、好ましくは凡そ100以下、より好ましくは凡そ50以下(例えば凡そ30以下)である。
【0047】
また、希釈して研磨に用いられる研磨用組成物(すなわち濃縮液)の場合、有機酸およびその塩の含有量は、保存安定性や濾過性等の観点から、通常は、10重量%以下であることが適当であり、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下(例えば1重量%以下)である。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、有機酸およびその塩の含有量は、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.3重量%以上である。
【0048】
<水>
ここに開示される研磨用組成物は水を含む。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。使用する水は、研磨用組成物に含有される他の成分の働きが阻害されることを極力回避するため、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下であることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂による不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。
ここに開示される研磨用組成物は、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。通常は、研磨用組成物に含まれる溶媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上(典型的には99~100体積%)が水であることがより好ましい。
【0049】
<その他の成分>
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、無機酸やその塩、界面活性剤、キレート剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(典型的には、シリコンウェーハのポリシング工程に用いられる研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0050】
上記無機酸の例としては、塩酸、リン酸、硫酸、ホスホン酸、硝酸、ホスフィン酸、ホウ酸等が挙げられる。酸は、該酸の塩の形態で用いられてもよい。上記酸の塩は、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩や、アンモニウム塩等であり得る。また、上記無機酸塩の他の例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、オルト珪酸ナトリウム、オルト珪酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム等が挙げられる。ここに開示される研磨用組成物は、無機酸塩を実質的に含まない態様、すなわち、少なくとも意図的には無機酸塩を含有させない態様で好ましく実施され得る。
【0051】
上記界面活性剤としては、両性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれの種類の界面活性剤も用いることができる。界面活性剤の分子量は、典型的には2000未満であり、1500以下が好ましい。また、界面活性剤の分子量の下限値は特定の範囲に限定されず、例えば200以上であり得る。界面活性剤の分子量は化学式から算出される値を採用することができる。ここに開示される研磨用組成物は、界面活性剤を実質的に含まない態様、すなわち、少なくとも意図的には界面活性剤を含有させない態様で好ましく実施され得る。
【0052】
上記キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましい。なかでも好ましいものとして、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミン五酢酸が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。キレート剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
上記防腐剤および防カビ剤の例としては、イソチアゾリン系化合物、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0054】
ここに開示される研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。研磨用組成物中に酸化剤が含まれていると、当該組成物が供給されることでシリコンウェーハ表面が酸化されて酸化膜が生じ、これにより研磨レートが低下してしまうことがあり得るためである。ここで、研磨用組成物が酸化剤を実質的に含有しないとは、少なくとも意図的には酸化剤を配合しないことをいい、原料や製法等に由来して微量の酸化剤が不可避的に含まれることは許容され得る。上記微量とは、研磨用組成物における酸化剤のモル濃度が0.0005モル/L以下(好ましくは0.0001モル/L以下、より好ましくは0.00001モル/L以下、特に好ましくは0.000001モル/L以下)であることをいう。好ましい一態様に係る研磨用組成物は酸化剤を含有しない。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムおよびジクロロイソシアヌル酸ナトリウムをいずれも含有しない態様で好ましく実施され得る。
【0055】
<研磨用組成物>
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液(ワーキングスラリー)の形態で研磨対象物に供給されて、その研磨対象物の研磨に用いられる。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、希釈(典型的には、水により希釈)して研磨液として使用されるものであってもよく、そのまま研磨液として使用されるものであってもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられるワーキングスラリーと、かかるワーキングスラリーの濃縮液(原液)との双方が包含される。上記濃縮液の濃縮倍率は、例えば、体積基準で2倍~100倍程度であってよく、通常は5倍~70倍程度が適当である。
【0056】
研磨用組成物のpHは、典型的には8.0以上であり、好ましくは8.5以上、より好ましくは9.0以上、さらに好ましくは9.5以上、例えば10.0以上である。pHが高くなると、研磨レートや隆起解消性が向上する傾向にある。一方、砥粒(例えばシリカ粒子)の溶解を防ぎ、該砥粒による機械的な研磨作用の低下を抑制する観点から、研磨液のpHは、通常、12.0以下であることが適当であり、11.8以下であることが好ましく、11.5以下であることがより好ましい。これらのpHは、研磨対象物に供給される研磨液(ワーキングスラリー)およびその濃縮液のpHのいずれにも好ましく適用され得る。
【0057】
なお、研磨用組成物のpHは、pHメーター(例えば、堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-23))を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を研磨用組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。
【0058】
ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよく、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、少なくとも砥粒を含むパートAと、残りの成分を含むパートBとを混合し、必要に応じて適切なタイミングで希釈することによって研磨液が調製されるように構成されていてもよい。
【0059】
ここに開示される研磨用組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物に含まれる各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0060】
<研磨>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、研磨対象物の研磨に使用することができる。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含むワーキングスラリーを用意する。次いで、その研磨用組成物を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて該研磨対象物の表面(研磨対象面)に研磨用組成物を供給する。典型的には、上記研磨用組成物を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
【0061】
上記研磨工程で使用される研磨パッドは特に限定されない。例えば、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。また、上記研磨装置としては、研磨対象物の両面を同時に研磨する両面研磨装置を用いてもよく、研磨対象物の片面のみを研磨する片面研磨装置を用いてもよい。
【0062】
上記研磨用組成物は、いったん研磨に使用したら使い捨てにする態様(いわゆる「かけ流し」)で使用されてもよいし、循環して繰り返し使用されてもよい。研磨用組成物を循環使用する方法の一例として、研磨装置から排出される使用済みの研磨用組成物をタンク内に回収し、回収した研磨用組成物を再度研磨装置に供給する方法が挙げられる。
【0063】
<用途>
ここに開示される研磨用組成物は、シリコンウェーハ等の半導体基板の研磨に好適である。上記研磨用組成物は、HLM周縁の隆起を解消する性能(隆起解消性)に優れるので、HLMの付された表面を含む研磨対象面の研磨に好ましく適用することができる。ここに開示される研磨用組成物は、予備研磨工程、より具体的には、ポリシング工程における最初の研磨工程である粗研磨工程(一次研磨工程)や、それに続く中間研磨工程(二次研磨工程)において特に好ましく使用され得る。
【0064】
上記シリコンウェーハには、ここに開示される研磨用組成物を用いる研磨工程の前に、ラッピングやエッチング、上述したHLMの付与等の、シリコンウェーハに適用され得る一般的な処理が施されていてもよい。
上記シリコンウェーハは、典型的には、シリコンからなる表面を有する。このようなシリコンウェーハは、典型的にはシリコン単結晶ウェーハであり、例えば、シリコン単結晶インゴットをスライスして得られたシリコン単結晶ウェーハである。ここに開示される研磨用組成物は、HLMが付されたシリコン単結晶ウェーハを研磨する用途に好適である。
また、ここに開示される研磨用組成物は、HLMを有しない研磨対象物の研磨にも好適に使用することができる。
【0065】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0066】
<研磨用組成物の調製>
(実施例1)
砥粒としてのコロイダルシリカと、塩基性化合物としての水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)と、クエン酸三アンモニウムと、水溶性高分子としてのポリビニルピロリドン(PVP)と、イオン交換水とを、室温25℃程度で約30分間攪拌混合することにより、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物をイオン交換水で50倍に希釈することにより、各成分を表1に示す濃度で含む研磨液を得た。表中のwt%は重量%である。上記コロイダルシリカは、平均一次粒子径が55nmであり、SEM観察による平均円換算径が93nmであり、円換算径の標準偏差が38.5であり、平均アスペクト比が1.3であり、アスペクト比の標準偏差が0.320であり、円換算径50nm以上かつアスペクト比1.2以上の粒子の体積割合が77%であり、円換算径が1~300nmである粒子の体積含有率が100%であった。また、本例に係る研磨用組成物のpHは10.2であった。
【0067】
(比較例1)
クエン酸三アンモニウムを炭酸カリウム(K2CO3)に変更し、表1に示す濃度とした他は実施例1と同様にして本例に係る研磨液を調製した。
【0068】
(比較例2~4)
比較例1の研磨液につき、比較例2では水溶性高分子を不使用とし、比較例3では炭酸カリウムを不使用とし、比較例4では砥粒を不使用として、各例に係る研磨液を調製した。
【0069】
[隆起高さ]
(シリコンウェーハの研磨)
各例に係る研磨液をそのままワーキングスラリーとして使用して、研磨対象物(試験片)の表面を下記の条件で研磨した。試験片としては、ラッピングおよびエッチングを終えた直径100mmの市販シリコン単結晶ウェーハ(厚さ:525μm、伝導型:P型、結晶方位:<100>、抵抗率:0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満)を使用した。上記ウェーハにはHLMが付されている。
(研磨条件)
研磨装置:日本エンギス株式会社製の片面研磨装置、型式「EJ-380IN」
研磨圧力:12kPa
定盤回転数:50rpm
ヘッド回転数:40rpm
研磨パッド:ニッタハース社製、商品名「SUBA800」
研磨液供給レート:100mL/分(かけ流し使用)
研磨環境の保持温度:25℃
研磨時間:20分
【0070】
(評価)
研磨後のシリコンウェーハについて、触針式表面粗さ形状測定機(SURFCOM 1500DX、株式会社東京精密製)を使用してHLMを含むサイトの表面形状を測定し、HLM周辺の基準面から隆起の最高点までの高さ[μm]を計測した。隆起高さが大きいほど、隆起解消性が悪いとの評価結果になる。得られた結果を表1の「隆起高さ」の欄に示す。
【0071】
[研磨振動]
(シリコンウェーハの研磨)
各例に係る研磨液をそのままワーキングスラリーとして使用して、研磨対象物(試験片)の表面を下記の条件で研磨した。試験片としては、ラッピングおよびエッチングを終えた直径300mmの市販シリコンウェーハ(厚み:775μm、伝導型:P型、結晶方位:<100>、抵抗率:0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満)を使用した。
(研磨条件)
研磨装置:スピードファム社製の両面研磨装置、型式「20B」
研磨パッド:ニッタハース社製、商品名「SUBA800」
研磨圧力:15kPa
スラリー流量:4.5L/分
上定盤回転数:-13.4rpm
下定盤回転数:+35.0rpm(上定盤とは逆の回転方向)
キャリアの公転回転数:11.2rpm
研磨環境の保持温度:25℃
研磨時間:5分
【0072】
(評価)
上記研磨中、研磨振動が認められた場合は「有」、研磨振動が認められなかった場合は「無」とした。得られた結果を表1の「研磨振動」の欄に示す。
【0073】
【0074】
表1に示されるように、砥粒、塩基性化合物、水溶性高分子および水を含み、有機酸またはその塩を含まない研磨用組成物を用いた比較例1では、隆起解消性は優れていたものの研磨振動が生じた。これに対し、有機酸またはその塩を用いた実施例1では、比較例1と同等の隆起解消性を示し、かつ研磨振動が生じなかった。水溶性高分子を用いなかった比較例2では、隆起解消性が劣り、また研磨振動も発生した。酸またはその塩を使用しなかった比較例3についても、良好な隆起解消性は得られず、研磨振動も生じた。砥粒を使用しなかった比較例4では、研磨振動は生じなかったものの隆起解消性が劣っていた。これらの結果から、砥粒、塩基性化合物、水溶性高分子および水を含み、さらに有機酸またはその塩を含む研磨用組成物によると、優れた隆起解消性と研磨振動防止性とを実現し得ることがわかる。
【0075】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。