(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】発光材料、波長変換部材、発光装置及び発光材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/66 20060101AFI20240221BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20240221BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20240221BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20240221BHJP
【FI】
C09K11/66
C09K11/08 A
C09K11/08 G
G02B5/20
H01L33/50
(21)【出願番号】P 2021156998
(22)【出願日】2021-09-27
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 俊
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩希
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/012193(WO,A1)
【文献】Zhang et al.,Suppressing Ion Migration Enables Stable Perovskite Light-Emitting Diodes with All-Inorganic Strategy,Advanced Functional Materials,2020年,30,2001834 (pp.1-8),DOI: 10.1002/adfm.202001834
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
G02B 5/20
H01L 33/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型結晶構造を有し、CsPbBr
3で表される組成を有する結晶と、Cs
4PbBr
6で表される組成を有する結晶と、を含むハロゲン化セシウム鉛と、カリウム化合物と、を含み、
カリウムの含有量が、全体量に対して、0.8質量%以上3.5質量%以下の範囲内である、発光材料。
【請求項2】
請求項1に記載の発光材料と、前記発光材料を配置させる樹脂を含む透光性部材と、を備えた波長変換部材。
【請求項3】
請求項2に記載の波長変換部材と、前記波長変換部材に光を照射する光源と、を備えた発光装置。
【請求項4】
ハロゲン化セシウムと、ハロゲン化カリウムと、水と、を含む第1溶液と、ハロゲン化鉛を含む第2溶液と、を準備することと、
前記第1溶液と前記第2溶液を混合して第3溶液とし、ペロブスカイト型結晶構造を有し、CsPbBr
3で表される組成を有する結晶と、Cs
4PbBr
6で表される組成を有する結晶を含むハロゲン化セシウム鉛と、カリウム化合物と、を含む発光材料を前記第3溶液中に析出させることと、を含み、
前記第1溶液及び前記第2溶液を準備する工程において、前記第2溶液中の前記ハロゲン化鉛1モルに対して、前記第1溶液中の前記ハロゲン化セシウムの含有量がモル比で4モル以上8モル以下の範囲内であり、前記ハロゲン化カリウムの含有量がモル比で2モル以上4モル以下の範囲内である、発光材料の製造方法。
【請求項5】
前記第1溶液及び前記第2溶液を準備する工程において、前記第1溶液中の前記ハロゲン化セシウムの濃度が、2.5モルL
-1以上3.5モルL
-1以下の範囲内である、請求項4に記載の発光材料の製造方法。
【請求項6】
前記第1溶液及び前記第2溶液を準備する工程において、前記第2溶液が、有機溶媒を含み、前記第2溶液中の前記ハロゲン化鉛の濃度が、0.050モルL
-1以上0.300モルL
-1以下の範囲内である、請求項4又は5に記載の発光材料の製造方法。
【請求項7】
前記第1溶液及び前記第2溶液を準備する工程において、前記第1溶液に対する前記第2溶液の体積比(第2溶液/第1溶液)が3以上8以下の範囲内である、請求項4から6のいずれか1項に記載の発光材料の製造方法。
【請求項8】
前記発光材料を析出させる工程において、前記第2溶液を撹拌しながら、前記第1溶液を滴下して、混合することを含む、請求項4から7のいずれか1項に記載の発光材料の製造方法。
【請求項9】
前記発光材料を析出する工程の後、前記第3溶液中に析出された前記発光材料を、固液分離し、15℃以上35℃以下の範囲内の温度で、大気雰囲気で1時間以上、乾燥すること、を含む請求項4から8のいずれか1項に記載の発光材料の製造方法。
【請求項10】
前記発光材料を乾燥する工程の後、表面処理剤、波長400nm以上の光を透過する無機物を含むナノ粒子、及び、波長が400nm以上の光を透過する無機物を含む膜状物、からなる群から選択される少なくとも1つを前記発光材料の表面に付着させること、を含む、請求項9に記載の発光材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発光材料、波長変換部材、発光装置及び発光材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)やレーザーダイオード(LD)の発光素子と、発光材料を用いる発光装置は、車載用や室内照明用の発光装置、液晶を使った画像表示装置のバックライト光源、イルミネーション、プロジェクター用の光源装置等の広い分野で利用されている。
【0003】
特許文献1には、ペロブスカイト系の構造を有する発光材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ペロブスカイト型結晶構造を含む発光材料は、発光効率を維持するためにさらなる改善が求められる。
【0006】
本発明の一態様は、ペロブスカイト型結晶構造を含む発光材料の発光効率を維持することができる発光材料、波長変換部材、発光装置及び発光材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の態様は、ペロブスカイト型結晶構造を有し、CsPbBr3で表される組成を有する結晶と、Cs4PbBr6で表される組成を有する結晶を含むハロゲン化セシウム鉛と、カリウム化合物と、含み、カリウムの含有量が、全体量に対して0.8質量%以上3.5質量%以下の範囲内である、発光材料である。
【0008】
第二の態様は、前記発光材料と、前記発光材料を配置させる樹脂を含む透光性部材と、を備えた波長変換部材である。
【0009】
第三の態様は、前記波長変換部材と、前記波長変換部材に光を照射する光源と、を備えた発光装置である。
【0010】
第四の態様は、ハロゲン化セシウムと、ハロゲン化カリウムと、水と、を含む第1溶液と、ハロゲン化鉛を含む第2溶液と、を準備することと、前記第1溶液と前記第2溶液を混合して第3溶液とし、ペロブスカイト型結晶構造を有し、CsPbBr3で表される組成を有する結晶と、Cs4PbBr6で表される組成を有する結晶を含むハロゲン化セシウム鉛と、カリウム化合物と、を含む発光材料を前記第3溶液中に析出させることと、を含み、前記第1溶液及び前記第2溶液を準備する工程において、前記第2溶液中の前記ハロゲン化鉛1モルに対して、前記第1溶液中の前記ハロゲン化セシウムの含有量がモル比で4モル以上8モル以下の範囲内であり、前記ハロゲン化カリウムの含有量がモル比で2モル以上4モル以下の範囲内である、発光材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、ペロブスカイト型結晶構造を含む発光材料の発光効率を維持することができる発光材料、波長変換部材、発光装置及び発光材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】発光材料の製造方法の第1実施態様を示すフローチャートである。
【
図2】発光材料の製造方法の第2実施態様を示すフローチャートである。
【
図3】発光装置の第1実施形態を示す概略断面図である。
【
図4】波長変換部材の第2実施形態を示す概略断面図である。
【
図5】波長変換部材の第3実施形態を示す概略断面図である。
【
図6】発光装置の第2実施形態を示す概略断面図である。
【
図7】発光装置の第2実施形態を示す概略斜視図である。
【
図8】実施例1に係る発光材料と、比較例1に係る発光材料の輝度の維持率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る発光材料、波長変換部材、発光装置及び発光材料の製造方法を説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具現化するための例示であって、本発明は、以下の発光材料、波長変換部材、発光装置及び発光材料の製造方法に限定されない。なお、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係は、JIS Z8110に従う。
【0014】
発光材料
発光材料は、ペロブスカイト型結晶構造を有し、CsPbBr3で表される組成を有する結晶と、Cs4PbBr6で表される組成を有する結晶と、を含むハロゲン化セシウム鉛と、カリウム化合物と、を含み、カリウムの含有量が、全体量に対して、0.8質量%以上3.5質量%以下の範囲内である。
【0015】
発光材料は、ペロブスカイト型結晶構造を有し、CsPbBr3で表される組成を有する結晶と、Cs4PbBr6で表される組成を有する結晶と、を含む。CsPbBr3で表される組成を有する結晶は、立方晶系のペロブスカイト型構造を有し、Cs4PbBr6で表される組成を有する結晶は、三方晶系の結晶構造を有する。発光材料は、Cs4PbBr6で表される組成を有する結晶が発光材料のマトリックスとなり、このマトリックス中にCsPbBr3で表される組成を有するナノサイズの結晶が埋め込まれた状態となっている。本明細書において、直径が数nmから数百nmサイズの結晶をナノ結晶ともいう。CsPbBr3で表される組成を有するナノ結晶は、Pbを中心として角部にBrを配置した八面体構造となるCs4PbBr6の3つの角部に配置されたBrが隣接する八面体構造と共有し、Pbを中心として角部にCsを配置した六面体構造となるCs4PbBr6の3つの角部に配置されたCsが隣接する六面体構造と共有した結晶構造を有する。発光材料のマトリックスを構成するCs4PbBr6で表される組成を有する結晶は、Pbを中心として角部にBrを配置した八面体構造の角部に配置されたBr、又は、Pbを中心として角部にCsを配置した六面体構造の角部に配置されたCsが、それぞれ隣接する六面体構造及び八面体構造をと共有せずに孤立して存在する。
【0016】
発光材料に含まれるハロゲン化セシウム鉛は、立方晶系のペロブスカイト型構造を有するCsPbBr3で表される組成を有する結晶が光の照射を受け、発光すると推測される。立方晶系のCsPbBr3で表される組成を有する結晶は、ペロブスカイト型構造を構成するBrやCsが隣接する構造と共有されているため、結晶構造に歪みが生じ、結晶構造中にBrやCsが存在しない欠損になりやすいと推測される。発光材料の製造時に含まれる水分中の水酸基(OH)は、Br(臭素)の代わりに、配位子としての役割を果たすと推測される。発光材料が乾燥すると、配位子としてBrの代わりに発光材料中に含まれていた水酸基が無くなり、欠損部分が生じるために、発光効率が低下すると推測される。
【0017】
発光材料がハロゲン化セシウム鉛とともに、カリウム化合物を含み、カリウムの含有量が全体量に対して0.8質量%以上3.5質量%以下の範囲内であると、カリウムが、Csが存在しない欠損部分に取り込まれやすくなり、欠損部分が少なくなると推測される。例えば乾燥により配位子としての役割を果たしていた水酸基(OH)が、発光材料から存在しなくなった場合であっても、発光材料全体としての欠損部分は少なくなり、高い発光効率が維持される。発光材料中のカリウムの含有量は、全体量に対して、1.0質量%以上3.4質量%以下の範囲内でもよく、1.0質量%以上3.3質量%以下の範囲内でもよく、1.5質量%以上でもよく、1.8質量%以上でもよく、2.0質量%以上でもよい。また、発光材料に含まれるカリウムの含有量が、全体量に対して0.8質量%以上3.5質量%以下の範囲内である場合、発光材料の組成1モルにおけるカリウムの含有量をモル比の数値で表すと、0.3以上0.9以下の範囲内である。発光材料中のカリウムの含有量は、例えば誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(例えば株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて、発光材料100質量%に対するカリウムの含有量を測定することができる。
【0018】
本明細書において、発光効率は、対象となる試料の内部量子効率をいう。内部量子効率は、例えば発光ピーク波長が450nmの励起光を試料に照射して、量子効率測定装置(例えばQE-2100、大塚電子株式会社製)を用いて発光スペクトルを測定し、この発光スペクトルから導き出すことができる。試料の発光スペクトルから、励起光の光量子数、励起光の試料による散乱光量子数、試料の発光光量子数を測定し、JIS Z1697に準拠して吸収率及び内部量子効率を測定することができる。内部量子効率は、試料に吸収された光量子のうち、発光に変換された光量子の割合であり、発光光量子数(%)を吸収光量子数(%)で除することにより算出することができる。
【0019】
発光材料中の水分が多すぎると、発光材料のマトリックスを構成する三方晶系のCs4PbBr6で表される組成を有する結晶は、結晶構造が変化し、斜方晶系の結晶構造を有するCsPbBr3で表される組成を有する結晶に変化する。斜方晶系の結晶構造を有するCsPbBr3で表される組成を有する結晶は光を吸収する。発光材料のマトリックスを構成する三方晶系のCs4PbBr6で表される組成を有する結晶の一部が斜方晶系のCsPbBr3で表される組成を有する結晶に結晶構造が変化すると、発光材料に照射された光を吸収するため、発光する立方晶系のペロブスカイト型構造を有するCsPbBr3で表される組成を有する結晶まで光が到達せず、発光材料の発光効率が低下する。発光材料のマトリックスを構成する三方晶系の結晶構造を有するCs4PbBr6で表される組成を有する結晶は、水溶性であり、過剰量の水の存在によって、最終的はCsBr、PbBr2まで分解する。また、発光材料のマトリックス中に含まれるナノ結晶であるCsPbBr3で表される組成を有する結晶も水溶性であると推測され、過剰量の水の存在によって、最終的はCsBr、PbBr2まで分解すると推測される。また、乾燥によって発光材料中の水分が揮発するため、配位子としての水分中の水酸基(OH)も乾燥によって揮発し、欠損部分も増えると推測される。
【0020】
発光材料中のハロゲン化セシウム鉛の含有量は、発光材料100質量%に対して、1.0質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であってもよく、発光材料がカリウムを除く残部がハロゲン化セシウム鉛からなるものであってもよい。発光材料は、カリウムの含有量が0.8質量%以上3.5質量%以下の範囲内であり、ハロゲン化セシウム鉛の含有量が99.0質量%以下でもよく、96.5質量%以下であってもよい。発光材料に含まれるCsPbBr3で表される組成を有する結晶の含有量は、マトリックスとなるCs4PbBr6を100体積%としたときに、0.1体積%以上10体積%以下の範囲内であり、0.5体積%以上8.0体積%以下の範囲内でもよく、0.8体積%以上5.0体積%以下の範囲内でもよい。
【0021】
発光材料は、平均粒径が0.1μm以上20μm以下の範囲内であってもよく、0.2μm以上18μm以下の範囲内でもよく、0.3μm以上15μm以下の範囲内でもよい。発光材料の平均粒径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)の画像中の個々の粒子の外形が確認できる複数個(例えば20個)の粒子について最長径を測定し、その算術平均値を平均粒径としてもよい。
【0022】
発光材料は、380nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光の照射を受けたときに、500nm以上610nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を発することが好ましい。発光材料は、380nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光により励起されたときに発する光の発光ピーク波長が、500nmより大きく600nm以下の範囲内であることがより好ましく、510nm以上570nm以下の範囲内であることがさらに好ましく520nm以上530nm以下の範囲内であることがよりさらに好ましい。発光材料の発光スペクトルにおいて、半値全幅は狭いことが好ましく、半値全幅が35nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましく、25nm以下であることがさらに好ましい。半値全幅は、5nm以上であってもよい。本明細書において、半値全幅は、発光スペクトルにおいて、最大の発光強度を示す発光ピーク波長における発光強度に対して発光強度が50%となる波長幅をいう。
【0023】
発光材料の製造方法
発光材料の製造方法は、ハロゲン化セシウムと、ハロゲン化カリウムと、水と、を含む第1溶液と、ハロゲン化鉛を含む第2溶液と、を準備することと、前記第1溶液と前記第2溶液を混合して第3溶液とし、ペロブスカイト型結晶構造を有し、CsPbBr3で表される組成を有する結晶と、Cs4PbBr6で表される組成を有する結晶と、を含むハロゲン化セシウム鉛と、カリウム化合物と、を含む発光材料を第3溶液中に析出させることと、を含み、前記準備する工程において、第2溶液中のハロゲン化鉛1モルに対して、前記第1溶液中の前記ハロゲン化セシウムの含有量がモル比で4モル以上8モル以下の範囲内であり、前記ハロゲン化カリウムの含有量がモル比で2モル以上4モル以下の範囲内である。
【0024】
以下、図を参照にして発光材料の製造方法を説明する。
図1は、発光材料の製造方法の第1実施態様に係る例を示すフローチャートである。発光材料の製造方法の第1実施態様の工程は、ハロゲン化セシウムと、ハロゲン化カリウムと、水と、を含む第1溶液を準備する工程S101と、ハロゲン化鉛を含む第2溶液を準備する工程S102とを含み、さらに第1溶液と第2溶液を混合して第3溶液とし、ペロブスカイト型結晶構造を有する結晶と、を含むハロゲン化セシウム鉛と、カリウム化合物と、を含む発光材料を第3溶液中に析出させる工程S104と、発光材料を製造する工程を含む。
【0025】
図2は、発光材料の製造方法の第2実施態様に係る例を示すフローチャートである。発光材料の製造方法の第2実施態様は、上記工程S104の後に、第3溶液中に析出させた発光材料を個液分離する工程S105を含む。
【0026】
第1溶液の準備
第1溶液は、ハロゲン化セシウムと、ハロゲン化カリウムと、水と、を含む水溶液であることが好ましい。水は、脱イオン水を用いることができる。第1溶液中のハロゲン化セシウムの濃度は、後述する第2溶液中のハロゲン化鉛1モルに対して、第1溶液中のハロゲン化セシウムの含有量がモル比で4モル以上8モル以下の範囲内であり、第1溶液中のハロゲン化カリウムの含有量がモル比で2モル以上4モル以下の範囲内である。第1溶液中のハロゲン化セシウムの濃度が、第2溶液中のハロゲン化鉛1モルに対して、4モル以上8モル以下の範囲内であれば、第1溶液及び第2溶液を混合することによって得られる第3溶液中に、ペロブスカイト型結晶構造を有し、三方晶系のCs4PbBr6で表される組成を有するマトリックスを構成する結晶構造中に、立方晶系のCsPbBr3で表される組成を有するナノサイズの結晶が埋め込まれた状態の発光材料を得ることができる。
【0027】
ハロゲン化セシウムは、臭化セシウムを用いることができる。第1溶液中のハロゲン化セシウムの濃度は、前述の第2溶液中のハロゲン化鉛1モルに対してハロゲン化セシウムの含有量がモル比で2モル以上4モル以下の範囲内を満たしていればよい。第1溶液中のハロゲン化セシウムの濃度は、欠損部分の少ない発光材料を析出しやすくするために、2.5モルL-1以上3.5モルL-1以下の範囲内であることが好ましく、2.8モルL-1以上3.2モルL-1以下の範囲内であることがより好ましい。
【0028】
また、第1溶液が、ハロゲン化セシウムとともに、後述する第2溶液中のハロゲン化鉛1モルに対して、ハロゲン化カリウムをモル比で2モル以上4モル以下の範囲内で含むと、隣接する構造と共有されているため、Csが存在しない欠損部分が少ない結晶構造を有する発光材料を得ることができる。第2溶液中のハロゲン化鉛1モルに対して、第1溶液中のハロゲン化カリウムの含有量がモル比で2モル以上4モル以下の範囲内であれば、発光材料の全体量に対してカリウムの含有量が0.8質量%以上3.5質量%以下の範囲内の発光材料が得られる。第1溶液及び第2溶液を混合して得られた第3溶液中に析出された発光材料中のカリウムのモル比は、発光材料の組成1モルにおいてモル比の数値で表すと0.3以上0.9以下の範囲内である。ハロゲン化カリウムは、臭化カリウムを用いることができる。
【0029】
第2溶液の準備
第2溶液は、ハロゲン化鉛と有機溶媒を含むことが好ましい。有機溶媒は、ハロゲン化鉛が溶解する溶媒であればよい。有機溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、γ-ブチロラクトン(GBL)、ジクロロメタン(DCM)、トルエン、クロロホルム、アセトニトリル、シクロヘキサン、及びヘキサンからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶媒を用いることができ、2種以上を併用してもよい。第2溶液中のハロゲン化鉛の濃度は、欠損部分の少ない発光材料を後述する第3溶液に析出しやすくするために、0.050モルL-1以上0.300モルL-1以下の範囲内であることが好ましく、0.100モルL-1以上0.250モルL-1以下の範囲内であることがより好ましく、0.125モルL-1以上0.200モルL-1以下の範囲内であってもよい。
【0030】
第1溶液と第2溶液を準備する工程において、前記第1溶液に対する前記第2溶液の体積比(第2溶液/第1溶液)が3以上8以下の範囲内であることが好ましい。第1溶液に対する第2溶液の体積比(第2溶液/第1溶液)が3以上8以下の範囲内であると、後述する発光材料を第3溶液に析出する工程において、第1溶液及び第2溶液が十分に混合され、ペロブスカイト型結晶構造を有し、CsPbBr3で表される組成を有する結晶と、Cs4PbBr6で表される組成を有する結晶と、を含み、欠損部分の少ない発光材料を第3溶液に析出させることができる。第1溶液に対する第2溶液の体積比(第2溶液/第1溶液)は、3以上7以下の範囲内であることがより好ましい。
【0031】
発光材料を第3溶液中に析出
発光材料の製造方法は、第1溶液と第2溶液とを混合して第3溶液とし、ペロブスカイト型結晶構造を有し、CsPbBr3で表される組成を有する結晶と、Cs4PbBr6で表される組成を有する結晶と、を含むハロゲン化セシウム鉛と、カリウム化合物と、を含む発光材料を第3溶液中に析出させることを含む。
【0032】
発光材料を析出させる工程において、第2溶液を撹拌しながら、第2溶液中に第1溶液を滴下して混合し、第3溶液を得ることが好ましい。第1溶液を第2溶液に添加して得られた第3溶液中でハロゲン化セシウムとハロゲン化鉛を反応させる時間は、反応が十分に行われる温度であればよく、好ましくは0.5時間以上5時間以内であり、さらに好ましくは1時間以上3時間以内である。第1溶液を第2溶液に添加して得られた第3溶液中でハロゲン化セシウムとハロゲン化鉛を反応させる温度は、室温であればよく、好ましくは15℃以上35℃以下の範囲内であり、18℃以上30℃以下の範囲内でもよく、20℃から25℃の範囲内でもよい。第2溶液を撹拌する時間は、第2溶液中に第1溶液を滴下する間は、第2溶液を撹拌することが好ましい。第1溶液を第2溶液に滴下して得られた第3溶液は、ハロゲン化セシウムとハロゲン化鉛を反応させる間は撹拌を連続することが好ましい。
【0033】
固液分離、必要に応じて洗浄、乾燥
発光材料を第3溶液中に析出させた後、前記第3溶液中に析出された発光材料を、固液分離し、15℃以上35℃以下の範囲内の温度で、大気雰囲気で1時間以上、乾燥すること、を含む。
【0034】
第3溶液中に析出させた発光材料は、自然沈降させて上澄みを除去し、固液分離してもよく、遠心分離機を使用し、析出させた発光材料を沈降させて、上澄みを除去して固液分離してもよい。
【0035】
第3溶液から固液分離された発光材料は、必要に応じて洗浄してもよく、洗浄と固液分離を少なくとも2回以上の複数回繰り返してもよい。複数回の洗浄を行う場合には、1回目の洗浄と、1回目以降の洗浄で異なる種類の洗浄液を用いて洗浄してもよい。洗浄液としては、トルエン、ヘキサン等の非極性有機溶媒、又はクロロホルム、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の極性有機溶媒が挙げられる。洗浄液は、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
発光材料の製造方法は、第3溶液から固液分離して、必要に応じて洗浄された発光材料を、15℃以上35℃以下の範囲内の温度で、大気雰囲気で1時間以上の乾燥させること、を含むことが好ましい。第3溶液に析出された発光材料を前記温度範囲の大気雰囲気中で乾燥させることにより、発光材料粒子中の欠損部分を増やさないように、発光材料中の水分の量及びカリウムの量を維持することができる。また、前述の洗浄によって発光材料に含まれる有機溶媒を除去することができる。
【0037】
発光材料の乾燥は、室温で、大気雰囲気で1時間以上、乾燥させることが好ましい。発光材料を乾燥させる温度は、20℃以上30℃以下の範囲内でもよく、20℃から25℃の範囲内でもよい。本明細書において、大気雰囲気は、酸素を20体積%以上含み、大気圧(101.3kPa)雰囲気をいう。発光材料を乾燥する時間は、1時間以上であってもよく、5時間以上であってもよく、10時間以上であってもよい。発光材料を乾燥する時間は、カールフィッシャー法で測定した発光材料中の水分量が0.1質量%未満となるように25時間以内であることが好ましく20時間以内でもよく、18時間以内であってもよい。
【0038】
発光材料の製造方法は、発光材料を乾燥する工程の後、表面処理剤、波長400nm以上の光を透過する無機物を含むナノ粒子、及び、波長が400nm以上の光を透過する無機物を含む膜状物、からなる群から選択される少なくとも1つを発光材料の粒子表面に付着させること、を含む、ことが好ましい。
【0039】
発光装置
次に発光材料を構成要素とする波長変換部材、及び、波長変換部材を用いた発光装置について説明する。波長変換部材は、前述の発光材料と、発光材料を配置する樹脂と、を含む透光性部材を備える。発光装置は、前述の発光材料を含む波長変換部材と、励起光源と、を備える。
【0040】
発光装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図3は、発光装置の第1実施形態を示す概略断面図である。
【0041】
発光装置100は、凹部を有する成形体40と、光源となる発光素子10と、発光素子10を被覆する第1実施形態に係る波長変換部材50とを備える。成形体40は、第1リード20及び第2リード30と、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含む樹脂部42とが一体的に成形されてなるものである。成形体40は、凹部の底面を構成する第1リード20及び第2リード30が配置され、凹部の側面を構成する樹脂部42が配置されている。成形体40の凹部の底面に、発光素子10が載置されている。発光素子10は、一対の正負の電極を有しており、その一対の正負の電極は、第1リード20及び第2リード30とそれぞれワイヤ60を介して電気的に接続されている。発光素子10は、波長変換部材50により被覆されている。波長変換部材50は、樹脂と、発光素子10からの光の照射を受けて発光する発光材料70を含む。発光材料70は、前述の発光材料を第1発光材料71として含む。発光材料70は、第1発光材料71の発光ピーク波長とは異なる波長範囲が異なる発光ピーク波長を有する第2発光材料72を含んでいてもよい。
【0042】
発光素子
光源には発光素子を用いることができる。発光素子は380nm以上500nm以下の波長範囲内に発光ピーク波長を有する光を発する。発光素子の発光スペクトルにおける発光ピークの半値全幅は、例えば30nm以下とすることができる。
【0043】
波長変換部材
波長変換部材は、発光材料と、その発光材料を配置させる樹脂とを含む。
【0044】
第1発光材料
波長変換部材は、前述のペロブスカイト型結晶構造を有し、CsPbBr3で表される組成を有する結晶と、Cs4PbBr6で表される組成を有する結晶を含むハロゲン化セシウム鉛と、カリウム化合物とを含む発光材料を第1発光材料とし、この第1発光材料を含む。
【0045】
第1発光材料は、例えば光源を覆う波長変換部材に含有されて発光装置を構成することができる。光源が第1発光材料を含有する波長変換部材で覆われた発光装置では、光源から出射された光の一部が第1発光材料に照射されて、500nm以上610nm以下の波長範囲内に発光ピーク波長を有する光が放射される。380nm以上500nm以下の波長範囲内に発光ピーク波長を有する光を発する光源を用いることで、放射される光の一部を波長変換部材中の発光材料がより効率よく発光に利用することができる。
【0046】
波長変換部材に含まれる第1発光材料の量は、発光装置から発せられる混色光の所望の色調に応じて適宜選択することができる。第1発光材料の含有量は、波長変換部材に含まれる樹脂100質量部に対して、1.0質量部以上20質量部以下の範囲内で含むことが好ましく、1.0質量部以上10質量部以下の範囲内で含んでいてもよく、1.0質量部以上5.0質量部以下の範囲内で含んでいてもよい。
【0047】
第2発光材料
波長変換部材は、第1発光材料とは発光ピーク波長が異なる第2発光材料を含んでいてもよい。例えば発光装置は、青色光を放出する発光素子と、これに励起される第1発光材料と、第2発光材料を備えることによって、所望の混色光を発することができる。第2発光材料は、380nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光により励起されたときに、発光スペクトルにおいて、600nm以上670nm以下の範囲に少なくとも1つの発光ピーク波長を有するものであることが好ましい。
【0048】
第2発光材料は、以下の蛍光体であってもよい。第2発光材料は、例えば(2a)Sr及びCaから選ばれる少なくとも1種の元素とAlを組成に含み、Euで賦活されるシリコンナイトライド系蛍光体、(2b)Euで賦活されるアルカリ土類金属シリコンナイトライド系蛍光体、(2c)K、Li、Na、Rb、Cs及びNH4
+からなる群から選ばれる少なくとも1種と、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を組成に含み、Mnで賦活されるフッ化物蛍光体、及び(2d)Mnで賦活されるフルオロジャーマネート蛍光体からなる群から選択される少なくとも1種の発光材料を含むことが好ましく、2種以上の発光材料を含んでいてもよい。
【0049】
(2a)Sr及びCaから選ばれる少なくとも1種の元素とAlを組成に含み、Euで賦活されるシリコンナイトライド系蛍光体は、下記式(i)で表される組成式に含まれる組成を有する蛍光体が挙げられる。
(Ca1-s-tSrsEut)xAluSivNw (i)
式(i)中、s、t、u、v、w及びxは、それぞれ0≦s≦1.0、0<t<1.0、0<s+t<1.0、0.8≦x≦1.0、0.8≦u≦1.2、0.8≦v≦1.2、1.9≦u+v≦2.1、2.5≦w≦3.5を満たす数である。式(i)で表される組成を含む蛍光体を、CaAlSiN3:Eu蛍光体又は(Sr,Ca)AlSiN3:Eu蛍光体と表す場合もある。本明細書において、蛍光体の組成を表す式中、カンマ(,)で区切られて記載されている複数の元素は、これらの複数の元素のうち少なくとも1種の元素を組成中に含有することを意味する。また、本明細書において、蛍光体の組成を表す式中、コロン(:)の前は母体結晶を構成する元素及びそのモル比を表し、コロン(:)の後は賦活元素を表す。
【0050】
(2b)Euで賦活されるアルカリ土類金属シリコンナイトライド系蛍光体は、下記式(ii)で表される組成式に含まれる組成を有する蛍光体が挙げられる。
(Ca1-p-q-rSrpBaqEur)2Si5N8 (ii)
式(ii)中、p、q及びrは、0≦p≦1.0、0≦q≦1.0、0<r<1.0及びp+q+r≦1.0を満たす。
【0051】
(2c)Mnで賦活されるフッ化物蛍光体は、下記式(iii)で表される組成式に含まれる組成を有する蛍光体又は下記式(iv)で表される組成式に含まれる組成を有する蛍光体が挙げられる。
Ac[M2
1-bMn4+
bFd] (iii)
A’c’[M2’1-b’Mn4+
b’Fd’] (iv)
式(iii)中、Aは、K+、Li+、Na+、Rb+、Cs+及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種を含み、M2は、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含み、Aは、K+が好ましく、M2は、Siが好ましい。bは、0<b<0.2を満たし、cは、[M2
1-bMn4+
bFd]イオンの電荷の絶対値であり、dは、5<d<7を満たす。なお、式(iii)で表される組成式に含まれる組成として、例えば、K2SiF6:Mn(「KSF」とも表記する。)と表記することもある。
式(iv)中、A’は、K+、Li+、Na+、Rb+、Cs+及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種を含み、M2’は、第4族元素、第13族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含み、Aは、K+が好ましく、M2は、Si及びAlが好ましい。b’は、0<b’<0.2を満たし、c’は、[M2’
1-b’Mn4+
b’Fd’]イオンの電荷の絶対値であり、d’は、5<d’<7を満たす。なお、式(iv)で表される組成式に含まれ、SiおよびAlを含む組成として、例えば、「KSAF」とも表記する組成が挙げられる。
【0052】
(2d)Mnで賦活されるフルオロジャーマネート蛍光体は、下記式(v)で表される組成式に含まれる組成を有する蛍光体が挙げられる。
(i-j)MgO・(j/2)Sc2O3・kMgF2・mCaF2・(1-n)GeO2・(n/2)M3
2O3:zMn4+ (v)
式(v)中、M3はAl、Ga及Inからなる群から選択される少なくとも1種であり、i、j、k、m、n及びzはそれぞれ、2≦i≦4、0≦j<0.5、0<k<1.5、0≦m<1.5、0<n<0.5、及び0<z<0.05を満たす。
【0053】
第2発光材料が、380nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光により励起されたときに600nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光材料であり、第2発光材料が蛍光体である場合、第2発光材料としては、具体的には、KSF、KSAF、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn4+等で表されるマグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体、Ca2Si5N8:Eu、(Ba,Sr)2Si5N8:Eu、(Sr,Ca)AlSiN3:Eu、CaAlSiN3:Eu、SrLiAl3N4:Eu等が挙げられる。第2発光材料は、発光スペクトルにおける半値全幅が10nm以下と狭いため、色再現性の範囲が広い発光装置が得られるという点で、前記(2c)で表されるフッ化物蛍光体を用いることが好ましい。
【0054】
波長変換部材に含まれる第2発光材料の量は、発光装置から発せられる混色光の所望の色調に応じて適宜選択することができる。第2発光材料の含有量は、波長変換部材に含まれる樹脂100質量部に対して、1.0質量部以上20質量部以下の範囲内で含むことが好ましく、1.0質量部以上10質量部以下の範囲内で含んでいてもよく、1.0質量部以上5.0質量部以下の範囲内で含んでいてもよい。
【0055】
波長変換部材は、樹脂及び発光材料に加えて、フィラー、光拡散材等をさらに含んでいてもよい。フィラーや光拡散材を含むことで、発光素子からの指向性を緩和させ、視野角を増大させることができる。
【0056】
波長変換部材
第1実施形態に係る発光装置に用いた第1実施形態に係る波長変換部材とは異なる形態の波長変換部材について説明する。波長変換部材は、前述の第1発光材料と、この発光材料を配置させる樹脂とを含む。波長変換部材は、前述の発光材料と、この発光材料を配置させる樹脂と、を含む波長変換シートと、発光材料を含んでいない樹脂を含む透光性部材とを備えていてもよい。以下、図面を参照にして、波長変換部材及び波長変換部材を用いた発光装置の一実施形態について説明する。なお、本明細書において、「シート」、「フィルム」、「層」等の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。したがって、「フィルム」は、シートとも呼ばれるような部材も含む意味で用いられ、また「シート」はフィルムとも呼ばれ得るような部材も含む意味で用いられる。
【0057】
図4は、第2実施形態に係る波長変換部材51の概略断面図である。波長変換部材51は、前述の第1発光材料を配置させる樹脂と、を含む波長変換シート55と、樹脂を含む透光性部材56と、を備える。波長変換部材51は、波長変換シート55の光の入射面又は出射面となる少なくとも一方の面にシート状の透光性部材56を備えていてもよい。
【0058】
図5は、第3実施形態に係る波長変換部材52の概略断面図である。波長変換部材52は、前述の第1発光材料を配置させる樹脂と、を含む波長変換シート55と、波長変換シート55の光の入射面及び出射面の両面にシート状の樹脂を含む第1透光性部材57と、シート状の樹脂を含む第2透光性部材58と、を備える。
【0059】
波長変換シート
波長変換シートは、前述の第1発光材料を配置させる樹脂を含む波長変換シート用組成物をシート状に形成することができる。波長変換シートには、前述の第1発光材料とは発光ピーク波長の範囲が異なる第2発光材料を含んでいてもよい。第2発光材料は、前述の第2発光材料を用いることができる。波長変換部材は、複数の波長変換シートを備え、前述の第1発光材料を含む第1波長変換シートと、第1発光材料とは発光ピーク波長の範囲が異なる第2発光材料を含む第2波長変換シートと、を備えていてもよい。
【0060】
波長変換シートに含まれる樹脂は、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂及びこれらの変性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を用いることができる。波長変換シートの厚さは、30μm以上800μm以下の範囲内である。
【0061】
波長変換シートに含まれる第1発光材料又は第2発光材料の含有量は、波長変換シートに含まれる樹脂100質量部に対して、1.0質量部以上20質量部以下の範囲内で含むことが好ましく、1.0質量部以上10質量部以下の範囲内で含んでいてもよく、1.0質量部以上5.0質量部以下の範囲内で含んでいてもよい。
【0062】
波長変換シートを形成する方法としては、例えば印刷法、圧縮成形法等が挙げられる。印刷法により波長変換シートを形成する場合は、基材に、波長変換シート用組成物を印刷法により塗布し硬化する。
【0063】
透光性部材
波長変換部材は、波長変換シートの光の入射面又は出射面となる少なくとも一方の面に透光性部材を備える。
【0064】
透光性部材は、樹脂を含み、波長変換シートの保護部材としても機能する。透光性部材は、複数の異なる種類の樹脂の層を含み、無機酸化物で形成されたバリア層を含むものであってもよい。透光性部材の全体の厚みは、強度及び小型化の要望を満たすために、5μm以上500μm以下の範囲内であることが好ましい。
【0065】
発光装置の第2実施形態について説明する。
図6は、発光装置の第2実施形態の概略断面図である。
図7は、発光装置の第2実施形態の概略斜視図である。
【0066】
発光装置200は、第2実施形態に係る波長変換部材51と、波長変換部材51に光を照射する発光素子11と、を備える。波長変換部材51は、前述の第1発光材料を含む波長変換シート55と、波長変換シート55の出射側の面に透光性部材56と、を備える。発光素子11は、基板90の配線91上に導電性部材61を介して、フリップチップ実装されている。基板90は、配線91と、配線91を保持する基体92とを備える。波長変換部材51は、前面視において、発光素子11の全面を覆い隠す大きさである。波長変換部材51の光の入射面51aは、発光素子11の一つの面に導光部材62を介して接着されている。被覆部材80は、基板90上に形成され、導電性部材61、発光素子11、導光部材62及び波長変換部材51の側面を被覆し、導電性部材61、発光素子11、導光部材62及び波長変換部材51の全周囲を包囲している。波長変換部材51の前面と被覆部材80の前面は、実質的に同一面を構成している。発光素子11は前述の発光素子10と同様の発光素子を用いることができる。
【0067】
基板
基板は、少なくとも、配線と、その配線を保持する基体と、により構成される。
【0068】
配線
配線は、基体の少なくとも上面(前面)に形成され、基体の内部及び/若しくは側面及び/若しくは下面(後面)にも形成されていてもよい。
【0069】
基体
基体は、リジッド基板であれば、樹脂若しくは繊維強化樹脂、セラミックス、ガラス、金属、紙等を用いて構成することができる。
【0070】
導電性部材
導電性部材としては、金、銀、銅等のバンプ、銀、金、銅、プラチナ、アルミニウム、パラジウム等の金属粉末と樹脂バインダを含む金属ペーストの少なくとも一つを用いることができる。
【0071】
導光部材
導光部材は、発光素子と波長変換部材を接着し、発光素子からの光を波長変換部材に導光する部材である。導光部材の母材は、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、又はこれらの変性樹脂が挙げられる。
【0072】
被覆部材
被覆部材は、前方への光取り出し効率の観点から、発光素子の発光ピーク波長における光反射率が、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0073】
被覆部材の樹脂
被覆部材を構成する樹脂は、例えばシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、又はこれらの変性樹脂が挙げられる。
【0074】
白色顔料
白色顔料は、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムのうちの一種を単独で、又はこれらのうちの二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
発光装置の製造方法
発光装置の製造方法は、特開2017-188592号公報に記載の方法によって、発光装置を製造することができる。
【0076】
例えばバックライトで用いる発光装置において、青色光を発する発光素子と、緑色光を発する発光材料と、赤色光を発する発光材料と、を用いることで、色再現性の範囲が広い発光色を得ることができる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
実施例及び比較例において使用した試薬等は以下のとおりである。
臭化セシウム(CsBr)(東京化成工業株式会社製)
臭化鉛(II)(PbBr2)(Stream Chemicals製)
臭化カリウム(KBr)(富士フィルム和光純薬株式会社製)
ジメチルスルホキシド(DMSO)(特級、富士フィルム和光純薬株式会社製)
アセトン(濃度99質量%、富士フィルム和光純薬株式会社製)
【0079】
発光材料の製造に使用した装置は以下のとおりである。
遠心分離機(CN-2060、アズワン株式会社製)
【0080】
実施例1
臭化セシウム1.596g、臭化カリウム0.892gを脱イオン水2.25mLに溶解した第1溶液を準備した。第1溶液中の臭化セシウムの濃度は、3.3モルL-1であった。
臭化鉛(II)0.688gをジメチルスルホキシド(DMSO)15mLに溶解した第2溶液を準備した。第2溶液中の臭化鉛の濃度は、0.125モルL-1であった。
第1溶液に対する第2溶液の体積比(第2溶液/第1溶液)は、6.66であった。
以下、実施例及び比較例において、第1溶液中の臭化セシウム(CsBr)及び臭化カリウム(KBr)と、第2溶液中の臭化鉛(PbBr2)のモル量と、このモル量から算出される第2溶液中の臭化鉛(PbBr2)を1とした、臭化セシウム(CsBr)及び臭化カリウム(KBr)のモル比を仕込みモル比として、以下の表1に示した。また、実施例及び比較例において、第1溶液中の臭化セシウム(CsBr)のモル濃度(モルL-1)、第2溶液中の臭化鉛(PbBr2)のモル濃度(モルL-1)、第1溶液に対する第2溶液の体積比(第2溶液/第1溶液)を、以下の表1に記載した。
第2溶液を撹拌しながら、第1溶液を第2溶液中にマイクロピペットを用いて滴下し、第1溶液と第2溶液を混合した第3溶液を得た。
第1溶液の滴下終了後、第3溶液を2時間撹拌して臭化セシウムと臭化鉛と臭化カリウムと、を反応させて、ペロブスカイト型結晶構造を有し、CsPbBr3で表される組成を有する結晶と、Cs4PbBr6で表される組成を有する結晶と、を含むハロゲン化セシウム鉛と、カリウム化合物と、を含む発光材料を第3溶液に析出させた。
臭化セシウムと臭化鉛と臭化カリウムの反応終了後、遠心分離機を使用して5000rpmで10分間遠心分離を行い、発光材料を沈降させ、上澄み液を捨てて、固液分離した。
得られた発光材料をアセトンとジメチルスルホキシド(DMSO)を体積比1:1で混合した第1洗浄液で第1洗浄した。洗浄後の発光材料を再び遠心分離機を使用して5000rpmで10分間遠心分離を行い、発光材料を沈降させ、上澄み液を捨てて固液分離した。
第1洗浄後の発光材料をアセトンとジメチルスルホキシド(DMSO)を体積比1:1で混合した第2洗浄液で第2洗浄した。第2洗浄後の発光材料を再び遠心分離機を使用して5000rpmで10分間遠心分離を行い、発光材料を沈降させ、上澄み液を捨てて固液分離した。固液分離後、第2洗浄後の発光材料をドラフトで15時間、室温(20℃から25℃)、大気雰囲気で乾燥させ、実施例1の発光材料を得た。得られた発光材料中にペロブスカイト型結晶構造を有し、CsPbBr3で表される組成を有する結晶と、Cs4PbBr6で表される組成を有する結晶と、を含むことは、例えば、CuKα線を用いたX線回折(XRD:X-ray Diffraction)法によりX線回折装置を用いたXRDパターンを測定することによって確認することができる。例えば得られた発光材料を粉砕し、粉砕前の発光材料のXRDパターンと、粉砕後のXRDパターンを比較すると、粉砕前の発光材料のXRDパターンには、三方晶系のCs4PbBr6で表される組成を有する結晶に由来するピークのみが確認でき、粉砕後の発光材料のXRDパターンには、三方晶系のCs4PbBr6で表される組成を有する結晶に由来するピークと、立方晶系のCsPbBr3で表される組成を有する結晶に由来するピークと、が確認できる。立方晶系のCsPbBr3で表される組成を有する結晶に由来するピークが確認できれば、発光材料中に立方晶系のペロブスカイト型結晶構造が含まれていることが確認できる。例えばCuKα線を用いたX線回折法により測定した発光材料のXRDパターンによる、発光材料中のペロブスカイト型結晶構造の有無は、特願2020-217169号の記載を参照にして確認することができる。
【0081】
実施例2
臭化セシウム3.192g、臭化カリウム0.446gを脱イオン水4.5mLに溶解した第1溶液を準備した。第1溶液中の臭化セシウムの濃度は、3.3モルL-1であった。
臭化鉛(II)0.688gをジメチルスルホキシド(DMSO)15mLに溶解した第2溶液を準備した。第2溶液中の臭化鉛の濃度は、0.125モルL-1であった。
上述の第1溶液と第2溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の発光材料を得た。
【0082】
実施例3
臭化セシウム3.192g、臭化カリウム0.892gを脱イオン水4.5mLに溶解した第1溶液を準備した。第1溶液中の臭化セシウムの濃度は、3.3モルL-1であった。
臭化鉛(II)0.688gをジメチルスルホキシド(DMSO)15mLに溶解した第2溶液を準備した。第2溶液中の臭化鉛の濃度は、0.125モルL-1であった。
上述の第1溶液と第2溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の発光材料を得た。
【0083】
比較例1
臭化カリウムを含まない第1溶液を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、比較例1の発光材料を得た。
【0084】
比較例2
臭化カリウムの代わりに臭化ナトリウムを0.386g含む第1溶液を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、比較例2の発光材料を得た。
【0085】
発光材料中の各元素の含有量(質量%)及び原子量比
発光材料中のセシウム(Cs)、鉛(Pb)、臭素(Br)、及びカリウム(K)の含有量
発光材料中のセシウム(Cs)、鉛(Pb)、臭素(Br)、及びカリウム(K)の含有量を、ICP発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emision Spectroscopy)を用いて測定し、元素分析の結果から各元素の含有量(質量%)と、原子量比を算出し、以下の表1に記載した。比較例2の発光材料は、走査型電子顕微鏡(SEM)とエネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X-ray Spectrometer:EDX、オックスフォード製、加速電圧:10kV)を用いて、発光材料の分析を行ったところ、ナトリウム(Na)が未検出であり、発光材料中にNaが取り込まれていなかったため、ICP発光分光分析法は行わなかった。以下の表1中、「-」の記号は、該当する数値がないことを表す。
【0086】
【0087】
発光特性(量子効率、発光ピーク波長、半値全幅)
得られた各発光材料について、発光特性を測定した。発光材料の発光特性は、量子効率測定装置(QE-2100、大塚電子株式会社製)を用いて、発光ピーク波長が450nmである光を発光材料に照射し、室温(25℃)における発光スペクトルを測定した。得られた発光スペクトルから、量子効率(%)、発光ピーク波長(nm)、発光ピークの半値全幅(nm)を求めた。量子効率(%)は、発光材料に吸収された光量子のうち、発光に変換された光量子の割合である。量子効率(%)は、発光光量子数(%)を吸収光量子数(%)で除した数値に100を掛けることにより算出した。
さらに各発光材料を、窒素を含む雰囲気(N2:96体積%、O2:4体積%)中、室温(25℃程度)、4日から5日程度乾燥し、乾燥後の各発光材料について、上述の測定と同様にして、発光スペクトルを測定し、得られた発光スペクトルから、量子効率(%)、発光ピーク波長(nm)、発光ピークの半値全幅を求めた。結果を以下の表2に示す。
【0088】
試料の作製
実施例及び比較例で得られた発光材料10質量部と、アクリル樹脂100質量部とを混合し、厚さが120μmで水蒸気透過率が0.1g/m2・dayであるバリアフィルムに塗工し、もう1枚の前記バリアフィルムを貼り合わせて、紫外線を照射して硬化させ、25mm角の大きさにカットしてサンプルシートを作製した。
【0089】
輝度維持率の測定
直下型ブルーライト光源の上に拡散板を配置し、サンプルシートに直下型ブルーライト光源からの光を照射されるように開口した厚さ2mmのサンプル台を、拡散板上に配置した。
サンプル台の開口部分にサンプルシートを配置し、サンプルシート上に、第1プリズムシート、第2プリズムシート、偏光シートをこの順序で積層し、サンプルシートを配置したサンプル台と一致する大きさ開口を有する厚さ1mmの板を配置し、サンプルシートを透過した光が光軸方向に水平に入射されるように分光光度計を配置し、サンプルシートから発せられる光の輝度を測定した。初期の輝度に対する、室温で36mW/cm
2の光を直下型ブルーライト光源から10時間、サンプルシートに照射した後の輝度の割合を輝度の維持率とした。また、比較例1の発光材料を第1発光材料として用いたサンプルシートの輝度の維持率を100%とし、各実施例の発光材料を第1発光材料として用いたサンプルシートの輝度の維持率を相対維持率とした。結果を以下の表2に示す。比較例2の発光材料は、発光材料中にカリウムが存在していなかったため、輝度の維持率については測定していない。以下の表2中、「-」の記号は、該当する数値がないことを表す。
図8に、実施例1に係る発光材料を用いたサンプルシート及び比較例1に係る発光材料を用いたサンプルシートに光を照射する光源の駆動時間に対する各サンプルシートから発せられる光の輝度の維持率のグラフを示す。
【0090】
【0091】
表1に示されるように、実施例1から3に係る発光材料は、カリウムの含有量が全体量に対して0.8質量%以上3.5質量%以下の範囲内であった。表2に示されるように、実施例1に係る発光材料は、輝度の維持率が98%であり、特に、実施例2に係る発光材料は、輝度の維持率が55%であり、実施例3に係る発光材料は輝度の維持率が57%であり、比較例1に係る発光材料よりも発光効率が維持されていた。実施例1に係る発光材料は、カリウム化合物を含まない比較例1に係る発光材料の輝度維持率に対して、191%以上の高い維持率を示し、実施例2及び3に係る発光材料も、比較例1に係る発光材料の輝度維持率に対して、それぞれ106%以上、110%以上の高い維持率を示した。
【0092】
発光材料中のカリウムの含有量が3.3質量%とカリウムが比較的多く含まれる実施例1に係る発光材料は、窒素雰囲気中で乾燥後も量子効率が大きく低下せず、高い量子効率を維持していた。
【0093】
カリウム化合物を含まない比較例1に係る発光材料は、輝度の維持率が低くなった。また、比較例1に係る発光材料は、窒素雰囲気中で乾燥後、量子効率が低下した。カリウム化合物の代わりにナトリウム化合物を含む比較例2に係る発光材料は、窒素雰囲気中で乾燥した後、乾燥前の量子効率と比較して、量子効率が半分以下に低下した。
【0094】
図8は、実施例1に係る発光材料を用いたサンプルシートと、比較例1に係る発光材料を用いたサンプルシートに光を照射する光源の駆動時間と、各サンプルシートから発せられる光の輝度の維持率を表すグラフである。
図8に示すように、実施例1に係る発光材料は、光源から光を照射されたとき(駆動時間0時間)の初期の輝度に対する、光源から光を10時間照射されたとき(駆動時間10時間)のときの輝度の維持率が、比較例1に比べて高く、ペロブスカイト型結晶構造を含む発光材料の発光効率を維持していた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本開示の実施形態に係る発光材料は、各種照明用光源、車載用光源、ディスプレイ用光源等に有用である。特に、液晶を使った画像表示装置のバックライトユニットに有利に適用できる。本開示の実施形態に係る発光装置は、モバイル機器の表示装置用のバックライトにも有利である。
【符号の説明】
【0096】
10、11:発光素子、20:第1リード、30:第2リード、40:成形体、42:樹脂部、50、51、52:波長変換部材、55:波長変換シート、56:透光性部材、60:ワイヤ、61:導電性部材、70:発光材料、71:第1発光材料、72:第2発光材料、80:被覆部材、90:基板、100、200:発光装置。