IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人九州大学の特許一覧 ▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ホウ素含有水の処理方法 図1
  • 特許-ホウ素含有水の処理方法 図2
  • 特許-ホウ素含有水の処理方法 図3
  • 特許-ホウ素含有水の処理方法 図4
  • 特許-ホウ素含有水の処理方法 図5
  • 特許-ホウ素含有水の処理方法 図6
  • 特許-ホウ素含有水の処理方法 図7
  • 特許-ホウ素含有水の処理方法 図8
  • 特許-ホウ素含有水の処理方法 図9
  • 特許-ホウ素含有水の処理方法 図10
  • 特許-ホウ素含有水の処理方法 図11
  • 特許-ホウ素含有水の処理方法 図12
  • 特許-ホウ素含有水の処理方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】ホウ素含有水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20230101AFI20240221BHJP
【FI】
C02F1/58 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020004804
(22)【出願日】2020-01-16
(65)【公開番号】P2020121302
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2019013040
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹木 圭子
(72)【発明者】
【氏名】林 良和
(72)【発明者】
【氏名】中村 壮志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 竜也
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 悟
(72)【発明者】
【氏名】山根 正嗣
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-065125(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158914(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/128490(WO,A1)
【文献】特開2013-039551(JP,A)
【文献】特開2014-223569(JP,A)
【文献】特開2013-75261(JP,A)
【文献】国際公開第2014/162623(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58 - 1/64
1/52 - 1/56
1/28
B01D 21/00 - 21/34
15/00 - 15/42
B01J 20/00 - 20/28
20/30 - 20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸根を含有するホウ素含有水にリン源を添加し、ついでカルシウム源を添加し、ハイドロキシアパタイトを生成してホウ素を共沈させる第1HAP生成工程を備え
前記第1HAP生成工程は、前記ホウ素含有水に前記カルシウム源を添加する前にマグネシウム源を添加し、前記ホウ素含有水のマグネシウム濃度を9.5mM以上、21.4mM以下に調整する工程を有する
ことを特徴とするホウ素含有水の処理方法。
【請求項2】
前記リン源はリン酸マグネシウムアンモニウムである
ことを特徴とする請求項記載のホウ素含有水の処理方法。
【請求項3】
前記第1HAP生成工程で得られたスラリーを固液分離して固形分を得る固液分離工程と、
前記固形分を酸で溶解して溶解液を得る溶解工程と、
新規のホウ素含有水に前記溶解液を添加してハイドロキシアパタイトを生成してホウ素を共沈させる第2HAP生成工程と、を備える
ことを特徴とする請求項1または2記載のホウ素含有水の処理方法。
【請求項4】
前記第2HAP生成工程において、前記ホウ素含有水のpHを11.5以上に調整する
ことを特徴とする請求項記載のホウ素含有水の処理方法。
【請求項5】
前記固液分離工程、前記溶解工程および前記第2HAP生成工程からなる一連の工程を複数回繰り返して行ない、
この際、2回目以降の前記固液分離工程では前記第1HAP生成工程で得られたスラリーを固液分離するのに代えて、前回の前記第2HAP生成工程で得られたスラリーを固液分離する
ことを特徴とする請求項または記載のホウ素含有水の処理方法。
【請求項6】
前記一連の工程の繰り返し回数を3回以下とする
ことを特徴とする請求項記載のホウ素含有水の処理方法。
【請求項7】
前記固液分離工程において、濾布として寝具カバー用の布を用いる
ことを特徴とする請求項のいずれかに記載のホウ素含有水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有水の処理方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、炭酸根を含有するホウ素含有水からホウ素を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素を含有する水(以下、「ホウ素含有水」という。)は、自然界において地下水、海水などとして存在している。また、ホウ素はホウ素化合物を原材料として使用する工業、例えば、ガラス工業をはじめ、医薬、化粧品原料、石鹸工業、電気めっき工業などで生じる廃水、発電所から生じる廃水、ゴミ焼却場で生じる洗煙廃水などの廃水に含まれている。ホウ素含有水の起源によっては、炭酸根も同時に含有される場合がある。
【0003】
ホウ素は、動植物にとって必須の微量栄養素であるが、その反面、農業用水中に数mg/L以上の濃度で含まれている場合、植物の成長を阻害することが知られている。また、ホウ素を人体に継続的に摂取したとき、健康障害が生じるおそれがあることから、ホウ素の人体摂取量が法令で規制されている。例えば、水道水の水質基準では水道水に含まれるホウ素濃度が1.0mg/L以下に規制されている。また、海域へのホウ素の排水基準ではホウ素濃度が230mg/L以下、海域外への排水基準ではホウ素濃度が10mg/L以下に規制されている。そこで、ホウ素を含有する廃水は、ホウ素を除去する処理を行なった後に、放流される。
【0004】
ホウ素含有水からホウ素を除去する方法として、アルミニウムや鉄などの水酸化物とともにホウ素を沈殿させる沈殿法、ジルコニウムやマグネシウムなどの水酸化物にホウ素を吸着させる吸着法、ホウ素含有水を蒸発濃縮してホウ酸を晶析する蒸発濃縮法、アルコール基を有する溶媒によりホウ素を抽出分離する溶媒抽出法、逆浸透膜を用いてホウ素を分離除去する逆浸透膜法などの種々の方法が知られている。
【0005】
しかしながら、沈殿法は、低濃度のホウ素を沈殿させるために共沈剤を多量に添加するため操業資材が多量に必要であり、またホウ素含有澱物である汚泥の発生量が多いという問題がある。吸着法は、ジルコニウムやマグネシウムなどの水酸化物へのホウ素の吸着容量が低いため、多量の吸着剤の添加が不可欠であり、効率性と経済性において実用的でない。蒸発濃縮法は、ホウ素含有水を濃縮しホウ酸を晶析させるために熱源が必要であり、特にホウ素濃度が低い廃水を対象とする場合には、莫大なエネルギーを必要とするので経済的でない。しかも、晶析後のホウ素含有水の中和処理が必要となる。溶媒抽出法は、有機溶媒からホウ素を逆抽出して得られるホウ素含有液の処理のほかに、有機溶媒が微量溶解している処理後の廃水の処理が不可欠である。活性炭などにより有機溶媒を回収除去するなどの処理が必要であり経済的でない。逆浸透膜法は、この方法のみで低濃度になるまでホウ素を除去することが困難であるので、他の方法との併用が必要である。また、膜の閉塞による効率悪化の問題がある。
【0006】
特許文献1には、ホウ素を含有する廃水に、アルミニウム化合物、硫酸化合物、カルシウム化合物、およびpH調整剤を同時に添加して、pHをアルカリ性に調整した反応液中に析出物を析出させる方法が開示されている。この方法によれば、ホウ素を取り込んだエトリンガイトを析出させることで、廃水からホウ素を除去できる。
【0007】
しかし、ホウ素含有水に炭酸根が含まれていると、エトリンガイトの生成が阻害され、ホウ素を除去できない。これに対して、特許文献2には、ホウ素含有水にリン源を添加した後にカルシウム源を添加してハイドロキシアパタイトを生成することにより、ホウ素含有水に炭酸根が含まれていてもホウ素を除去できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-144433号公報
【文献】特開2018-065125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2には、ホウ素含有水にカルシウム源を添加する前にアルミニウムイオンを共存させると、ハイドロキシアパタイトの生成が促進され、短時間でホウ素を除去できることが開示されている。
【0010】
特許文献2によれば、ホウ素含有水のアルミニウム濃度を高くするほど、短時間でホウ素を除去できる。しかし、ホウ素含有水のアルミニウム濃度を高くするほど、ハイドロキシアパタイトを生成した後、固液分離により得られる残渣からアルミニウムが溶出しやすくなる。アルミニウムは排水基準が定められていないものの、水道水の水質基準は0.2mg/L以下と定められている。ホウ素含有水のアルミニウム濃度を高くしすぎると、残渣に接触した液は水質基準を満たさないことがある。
【0011】
また、ホウ素含有水の処理を工業的に行なうには、薬剤に要するコストを低減することが求められる。
【0012】
上記事情に鑑み、本発明は処理時間を短縮するための添加剤が残渣から再溶出することを抑制できるホウ素含有水の処理方法を提供することを目的とする。
または、本発明は薬剤に要するコストを低減できるホウ素含有水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1発明のホウ素含有水の処理方法は、炭酸根を含有するホウ素含有水にリン源を添加し、ついでカルシウム源を添加し、ハイドロキシアパタイトを生成してホウ素を共沈させる第1HAP生成工程を備え、前記第1HAP生成工程は、前記ホウ素含有水に前記カルシウム源を添加する前にマグネシウム源を添加し、前記ホウ素含有水のマグネシウム濃度を9.5mM以上、21.4mM以下に調整する工程を有することを特徴とする。
第2発明のホウ素含有水の処理方法は、第1発明において、前記リン源はリン酸マグネシウムアンモニウムであることを特徴とする。
第3発明のホウ素含有水の処理方法は、第1または第2発明において、前記第1HAP生成工程で得られたスラリーを固液分離して固形分を得る固液分離工程と、前記固形分を酸で溶解して溶解液を得る溶解工程と、新規のホウ素含有水に前記溶解液を添加してハイドロキシアパタイトを生成してホウ素を共沈させる第2HAP生成工程と、を備えることを特徴とする。
第4発明のホウ素含有水の処理方法は、第3発明において、前記第2HAP生成工程において、前記ホウ素含有水のpHを11.5以上に調整することを特徴とする。
第5発明のホウ素含有水の処理方法は、第3または第4発明において、前記固液分離工程、前記溶解工程および前記第2HAP生成工程からなる一連の工程を複数回繰り返して行ない、この際、2回目以降の前記固液分離工程では前記第1HAP生成工程で得られたスラリーを固液分離するのに代えて、前回の前記第2HAP生成工程で得られたスラリーを固液分離することを特徴とする。
第6発明のホウ素含有水の処理方法は、第5発明において、前記一連の工程の繰り返し回数を3回以下とすることを特徴とする。
第7発明のホウ素含有水の処理方法は、第3第6発明のいずれかにおいて、前記固液分離工程において、濾布として寝具カバー用の布を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1~第2発明によれば、処理時間を短縮するために添加したマグネシウムが残渣から再溶出することを抑制できる。
第3~第7発明によれば、ハイドロキシアパタイトに吸着されるホウ素の量が増加するため、ハイドロキシアパタイトの生成に必要な薬剤のコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】図(A)は実施例1~3、比較例1、2における濾液のB濃度の経時変化(0~2時間)を示すグラフである。図(B)は実施例1~3、比較例1、2における濾液のB濃度の経時変化(0~24時間)を示すグラフである。
図2】実施例1~3、比較例1、2における濾液のP濃度の経時変化を示すグラフである。
図3】実施例1~3、比較例1、2における濾液のCa濃度の経時変化を示すグラフである。
図4】実施例1~3、比較例2における濾液のMg濃度の経時変化を示すグラフである。
図5】実施例1~3、比較例1、2における濾液のSi濃度の経時変化を示すグラフである。
図6】実施例1~3、比較例1、2における濾液のCO3 2-濃度の経時変化を示すグラフである。
図7】実施例1~3、比較例1、2における濾液のHCO3-濃度の経時変化を示すグラフである。
図8】実施例1~3、比較例1、2における濾液のpHの経時変化を示すグラフである。
図9】実施例2における残渣のXRDスペクトルである。
図10】比較例1、3における濾液のB濃度の経時変化を示すグラフである。
図11】比較例3における濾液のAl濃度の経時変化を示すグラフである。
図12】繰り返し回数に対する濾液のホウ素濃度の変化を示すグラフである。
図13】溶解液添加の後の実廃水のホウ素量とハイドロキシアパタイトへのホウ素吸着量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明の実施形態を説明する。
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係るホウ素含有水の処理方法は、炭酸根を含有するホウ素含有水からホウ素を除去する方法である。具体的には、ホウ素含有水にリン源を添加し(リン添加工程)、ついで、ホウ素含有水にカルシウム源を添加し(カルシウム添加工程)、ハイドロキシアパタイト(HAP:Hydoroxyapatite)を生成してホウ素を共沈させる。以下、この処理を第1HAP生成工程と称する。
【0017】
ここで、リン源としてリン酸二水素アンモニウム(NH42PO4)、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)、リン酸(H3PO4)、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP:Magnesium Ammonium Phosphate、NH4MgPO4)などが用いられる。また、カルシウム源として水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化焼成ドロマイトなどが用いられる。
【0018】
リン酸マグネシウムアンモニウムはリン酸塩鉱物の一種であり、ストルバイトとも称される。リン酸マグネシウムアンモニウムは肥料製造の原料として多量に生産されているため一般的な試薬に比べて安価である。
【0019】
水酸化焼成ドロマイトは天然産物であるドロマイトに対して焼成、水和などの処理をして製造される工業製品である。水酸化焼成ドロマイトは一般的な試薬に比べて安価である。例えば、水酸化焼成ドロマイト1gには、水酸化カルシウム7.65mmol、酸化カルシウム0.59mmol、水酸化マグネシウム3.81mmol、酸化マグネシウム2.53mmolが含まれる。
【0020】
リン添加工程において、リン源の添加量を、添加後の溶液のリンに対するホウ素のモル比(以下、「B/P」という。)が0.08~0.14となる量とすることが好ましい。ホウ素に対してリンを過剰にすることで、ホウ素がハイドロキシアパタイトの結晶に取り込まれる機会が増えると推測される。
【0021】
カルシウム添加工程において、カルシウム源の添加量を、添加後の溶液のカルシウムに対するリンのモル比(以下、「P/Ca」という。)が0.2~0.45となる量とすることが好ましい。ハイドロキシアパタイトはCa10(PO4)6(OH)2で表されP/Ca=0.6である。P/Caを0.6より小さくすることで、結晶中のPに代わってBが取り込まれやすくなると推測される。なお、P/Caが0.45を超えるとホウ素を十分に除去できない恐れがある。また、P/Caが0.2より小さいとハイドロキシアパタイトが十分に生成されない恐れがある。
【0022】
なお、カルシウム源の添加量を、添加後の溶液のカルシウムに対するホウ素のモル比(以下、「B/Ca」という。)が0.3以下となる量とすることが好ましい。カルシウムの量が少なすぎると(B/Caが0.3を超えると)、ハイドロキシアパタイトが十分に生成できなくなる。
【0023】
リン添加工程の後、カルシウム添加工程の前に、ホウ素含有水のpHを4.7~5.2に調整することが好ましい。pH調整は例えば塩酸を添加することで行なうことができる。ホウ素含有水のpHを上記範囲に調整すれば、ハイドロキシアパタイトの生成に必要なカルシウム源の溶解が促進され、短時間でホウ素を除去できる。
【0024】
カルシウム添加工程の後、ホウ素含有水を撹拌することが好ましい。ホウ素含有水を撹拌すれば、ハイドロキシアパタイトの生成に要する時間が短くなり、短時間でホウ素を除去できる。
【0025】
ハイドロキシアパタイトが生成した後、固液分離によりハイドロキシアパタイトを除去することで、ホウ素含有水からホウ素を除去できる。
【0026】
ホウ素含有水に炭酸根が含まれていると、カルシウムが炭酸カルシウムの生成に消費され、ハイドロキシアパタイトが生成されにくく、ホウ素を除去することが困難である。しかし、以上の処理方法によれば、ホウ素含有水に炭酸根が含まれていても、ホウ素を除去できる。
【0027】
その理由はつぎの通りであると推測される。ホウ素含有水にリン源を添加した後に、カルシウム源を添加するようにすれば、カルシウム源が添加される時点で炭酸カルシウムよりもハイドロキシアパタイトの生成反応が優先的になる。そのため、ホウ素含有水に炭酸根が含まれていても、カルシウム源が炭酸カルシウムの生成に消費されず、ハイドロキシアパタイトが生成される。
【0028】
ホウ素含有水にマグネシウム源を添加し、ホウ素含有水にマグネシウムイオンを共存させることが好ましい。そうすれば、ハイドロキシアパタイトの生成が促進される。ハイドロキシアパタイトの生成に要する時間が短くなり、短時間でホウ素を除去できる。
【0029】
その理由はつぎの通りであると推測される。ホウ素含有水にマグネシウムイオンを共存させると、リン添加工程で添加されたリン源の作用により、ハイドロキシアパタイト中のCaをMgに置き換えた前駆的な結晶が生成する。カルシウム添加工程でカルシウム源を添加すると、前駆的な結晶中のMgとCaとが置き換わってハイドロキシアパタイトが生成する。なお、Caと置き換わったMgは、ハイドロキシアパタイトに取り込まれるか、表面に吸着すると考えられる。このように前駆的な結晶を経てハイドロキシアパタイトを生成する反応は、前駆的な結晶を経ずに直接ハイドロキシアパタイトを生成する反応に比べて容易に起こる。そのため、カルシウム源を添加した後にハイドロキシアパタイトが短時間で生成する。
【0030】
ホウ素含有水にマグネシウム源を添加するタイミングはカルシウム添加工程の前であればよく、リン添加工程の前でもよいし、pH調整の後でもよい。マグネシウム源としてはホウ素含有水中でマグネシウムイオンを生成できるものであれば特に限定されず、塩化マグネシウム(MgCl2)、臭化マグネシウム(MgBr2)、ヨウ化マグネシウム(MgI2)、硝酸マグネシウム(Mg(NO3)2)、リン酸マグネシウムアンモニウム(NH4MgPO4)などが用いられる。
【0031】
なお、リン酸マグネシウムアンモニウムはリン源としてもマグネシウム源としても働く。リン添加工程で添加するリン源としてリン酸マグネシウムアンモニウムを用いれば、ホウ素含有水のマグネシウム濃度を高くすることもできる。そのため、マグネシウム源を別途添加する必要がなくなるか、添加量を少なくすることができる。
【0032】
カルシウム添加工程の前におけるホウ素含有水のマグネシウム濃度を9.5mM以上に調整することが好ましい。または、マグネシウム源添加後の溶液のホウ素に対するマグネシウムのモル比(以下、「Mg/B」という。)を4.3以上に調整することが好ましい。
【0033】
ホウ素含有水のマグネシウム濃度が低すぎる(9.5mM未満である)と、むしろハイドロキシアパタイトの生成に要する時間が長くなり、ホウ素除去の処理時間が長くなる。ホウ素含有水のマグネシウム濃度を9.5mM以上とすれば、ハイドロキシアパタイトの生成に要する時間が短くなり、短時間でホウ素を除去できる。
【0034】
ホウ素含有水にマグネシウムイオンを共存させた場合、ハイドロキシアパタイトを生成した後、固液分離により得られる残渣からマグネシウムはほとんど溶出しない。すなわち、ホウ素含有水にマグネシウム源を添加すれば、ホウ素除去の処理時間を短縮できるとともに、残渣からのマグネシウムの再溶出を抑制できる。
【0035】
なお、マグネシウムは排水基準が定められていない。また、マグネシウムの水道水の水質基準は300mg/L以下であり、アルミニウムの水質基準0.2mg/Lよりも高い。したがって、残渣から微量のマグネシウムが溶出したとしても、残渣に接触した液が水質基準を満たす可能性は高い。したがって、処理時間を短縮するための添加剤として、アルミニウム源を用いるより、マグネシウム源を用いる方が、安全性が高いといえる。
【0036】
ホウ素除去の処理時間を短縮でき、残渣からのマグネシウムの再溶出を抑制できるとの観点において、マグネシウム濃度の上限は定かではない。しかし、少なくとも21.4mM以下(またはMg/Bが9.7以下)であれば、ホウ素除去の処理時間を短縮でき、残渣からのマグネシウムの再溶出を抑制できることが確認されている。
【0037】
〔第2実施形態〕
つぎに、本発明の第2実施形態に係るホウ素含有水の処理方法を説明する。
本実施形態の処理方法は、(1)第1HAP生成工程、(2)固液分離工程、(3)溶解工程、(4)第2HAP生成工程を有する。(1)~(4)の工程はこの順に行なわれる。また、(2)~(4)の工程は、必要に応じて、複数回繰り返し行なわれる。以下、各工程を説明する。
【0038】
(1)第1HAP生成工程
前述のごとく、第1HAP生成工程では、炭酸根を含有するホウ素含有水にリン源を添加し、ついでカルシウム源を添加し、ハイドロキシアパタイトを生成してホウ素を共沈させる。第1HAP生成工程では固形分としてハイドロキシアパタイトを含有するスラリーが得られる。
【0039】
(2)固液分離工程
固液分離工程では、第1HAP生成工程で得られたスラリーを固液分離して固形分を得る。固形分が除去された液は、ホウ素含有水からホウ素が除去された処理後液である。
【0040】
(3)溶解工程
溶解工程では、固液分離工程で得られた固形分(ハイドロキシアパタイト)を酸で溶解して溶解液を得る。溶解に用いられる酸として塩酸などが挙げられる。溶解工程において固形分を実質的に全て溶解する。
【0041】
(4)第2HAP生成工程
第2HAP生成工程では、溶解工程で得られた溶解液を新規のホウ素含有水に添加してハイドロキシアパタイトを生成してホウ素を共沈させる。溶解液はハイドロキシアパタイトを溶解した液であるので、ハイドロキシアパタイトの生成に必要なリン源およびカルシウム源が含まれている。そのため、ホウ素含有水に溶解液を添加すれば、再びハイドロキシアパタイトが生成される。また、この際、ホウ素含有水に含まれるホウ素が共沈する。このように新規のホウ素含有水に対してもホウ素除去処理を行なうことができる。第2HAP生成工程においても固形分としてハイドロキシアパタイトを含有するスラリーが得られる。
【0042】
溶解液は酸性であるためホウ素含有水に溶解液を添加するとpHが低くなる。そこで、ホウ素含有水のpHをハイドロキシアパタイトの生成に適したアルカリに調整することが好ましい。具体的には、溶解液添加後のホウ素含有水のpHを11.5以上に調整することが好ましい。pH調整に用いられるアルカリは特に限定されないが、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。
【0043】
前述のごとく、(2)固液分離工程、(3)溶解工程、および(4)第2HAP生成工程からなる一連の工程は複数回繰り返して行なってもよい。この際、2回目以降の固液分離工程では、第1HAP生成工程で得られたスラリーを固液分離するのに代えて、前回(2回目の固液分離工程であれば1回目)の第2HAP生成工程で得られたスラリーを固液分離する。このように繰り返し処理を行なうたびに、新規のホウ素含有水に対してホウ素除去処理を行なうことができる。
【0044】
しかし、ハイドロキシアパタイトに吸着されるホウ素の量には上限があり、繰り返し回数にも上限がある。したがって、ハイドロキシアパタイトの生成によるホウ素除去能力が低下する前に繰り返し処理を終了することが好ましい。具体的には、(2)~(4)からなる一連の工程の繰り返し回数を3回以下とすることが好ましい。
【0045】
以上のようにハイドロキシアパタイトの溶解と生成を繰り返すと、ハイドロキシアパタイトの生成量は基本的に変わらないものの、ハイドロキシアパタイトに吸着されるホウ素の量が増加する。そのため、ハイドロキシアパタイトの生成に必要な薬剤のコストを低減できる。
【0046】
この理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。
以下の化学式に示されるように、ハイドロキシアパタイトへのホウ素の吸着は、OH-とB(OH)4 -との置換反応であると考えることができる。
Ca10(PO4)6(OH)2+2[B(OH)4]-→Ca10(PO4)6[B(OH)4] 2+2OH-
【0047】
1回の反応ではハイドロキシアパタイトのOH-サイトの一部がB(OH)4 -に置き換わる。そのため、1回の反応のみではハイドロキシアパタイトにOH-が残されており、ホウ素除去能力に余力がある。ハイドロキシアパタイトの溶解と生成を繰り返すと、OH-とB(OH)4 -との置換反応がより進行する。これにより、ハイドロキシアパタイトのOH-サイトの多くがB(OH)4 -に置き換わる。例えば、1回の反応によりハイドロキシアパタイトのOH-サイトの4分の1がB(OH)4 -に置き換わるとすれば、置換反応を4回繰り返すことでハイドロキシアパタイトのOH-サイトの全てをB(OH)4 -に置き換えることができる。そのため、ハイドロキシアパタイトの溶解と生成を繰り返すと、ハイドロキシアパタイトに吸着されるホウ素の量が増加する。
【0048】
ところで、固液分離工程で用いられる固液分離装置は特に限定されないが濾過装置を用いることができる。また、濾過装置に用いられる濾布として、専用品のほか、寝具カバー用の布を用いることもできる。専用品はサイズの選択性が低いために固液分離操作が煩雑になる場合があり、また、資材コストが高くなる。これに対して寝具カバー用の布は、サイズの選択性が高く、また、低コストである。
【0049】
寝具カバー用の布として、ポリエステル平織生地で、繊維径が200~300デニールのものは、機械的強度および耐食性に優れており好ましい。目開きが固形物粒子の粒径より大きい場合でも、ケーキ濾過により微粒子を捕捉できる。生成される沈澱物の性状が変動する場合は、固液分離成績に影響する目開き、強度などに影響する布の性状(織り方、繊維種類)を適宜選択すればよい。
【0050】
また、濾過装置として以下に説明するような簡易な構成のものを用いることができる。すなわち、円筒状のバケツの開口部に半球形のザルを嵌め、ザルの内側を寝具カバー用の布で覆ったものを濾過装置として用いることができる。寝具カバー用の布の上からスラリーを装入し、数時間放置する。そうすると、固形分は寝具カバー用の布の上に残り、バケツには濾液が溜まる。
【実施例
【0051】
つぎに、ホウ素含有水のマグネシウム濃度に関する試験を説明する。
(ホウ素含有水)
ホウ素含有水として地下水を採取して得た実廃水を用いた。実廃水の組成を、イオンクロマトグラフィー(Na、K、Mg、Cl-、SO4 2-濃度の測定に使用。)、ICP-OES(B、Ca濃度の測定に使用。メーカー:Perkin Elmer、型番:Optima 8300DV、以下同じ。)、ICP-MS(As濃度の測定に使用。メーカー:アジレントテクノロジー株式会社、型番:Agilent 7500C)、酸滴定(HCO3 -濃度の測定に使用。)で分析した。その結果、実廃水には、24mg/L(=2.2mM)のホウ素、904mg/LのHCO3 -のほか、Na、K、Mg、Ca、Cl-、SO4 2-、Asなどが含まれていることが分かった。このうち、Mg濃度は0.5~0.6mM程度であった。また、実廃水のpHは8.2であった。
【0052】
(実施例1)
実廃水(ホウ素濃度:2.2mM)に粉末状のリン酸二水素アンモニウム(NH42PO4)を添加して溶解した。ここで、リン酸二水素アンモニウムの添加量を添加後の溶液のリン濃度が18.3mMとなる量とした。したがって、B/P=0.12となっている。つぎに、溶液に1Mの塩酸(HCl)を添加してpHを4.7に調整した。
【0053】
つぎに、溶液に粉末状の塩化マグネシウム(MgCl2)を添加して溶解した。ここで、塩化マグネシウムの添加量を添加後の溶液のマグネシウム濃度が9.5mMとなる量とした。したがって、Mg/B=4.3となっている。塩化マグネシウムを添加しても溶液のpHに変動はなかった。
【0054】
つぎに、溶液40mLに粉末状の水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を添加した。ここで、水酸化カルシウムの添加量を添加後の溶液においてP/Ca=0.3となるように、0.18gとした。
【0055】
つぎに、溶液をバイオシェイカー(メーカー:Takasaki Scientific Instruments Corp、型番:TB-16R)に入れた。バイオシェイカーはポリエチレンテレフタレート製の円筒形容器であり、内径28.5mm、高さ73.5mmである。バイオシェイカーを寝かした状態で容器重心を中心として100rpmで120分撹拌した。液温は35℃とした。
【0056】
撹拌した後、バイオシェイカーを静置した。静置開始から24時間後までの適当な時間間隔でバイオシェイカーから試料を取り出した。取り出した試料を孔径0.2μmのフィルターを用いて吸引濾過し、濾液と残渣とを分離回収した。なお、静置開始からの時間を反応時間と称する。
【0057】
濾液のB、PO4 3-、Ca2+、Mg、Si濃度をICP-OESで測定し、CO3 2-、HCO3 -濃度を酸滴定で測定した。また、濾液のpHをpHメータにより測定した。その結果を図1図8に示す。
【0058】
(実施例2)
塩化マグネシウムの添加量を添加後の溶液のマグネシウム濃度が21.4mMとなる量とした。したがって、Mg/B=9.7となっている。その余の手順および条件は実施例1と同様である。
【0059】
濾液のB、PO4 3-、Ca2+、Mg、Si濃度をICP-OESで測定し、CO3 2-、HCO3 -濃度を酸滴定で測定した。また、濾液のpHをpHメータにより測定した。その結果を図1図8に示す。また、残渣は上口デシケーターを用いて真空乾燥させた後、XRD分析(メーカー:Rigaku、型番:Ultima IV)を行なった。その結果を図9に示す。
【0060】
(実施例3)
実廃水(ホウ素濃度:2.2mM)に粉末状のリン酸マグネシウムアンモニウム(NH4MgPO4)を添加して溶解した。ここで、リン酸マグネシウムアンモニウムの添加量を添加後の溶液のリン濃度が18.3mMとなる量とした。したがって、B/P=0.12となっている。つぎに、溶液に1Mの塩酸(HCl)を添加してpHを4.7に調整した。
【0061】
つぎに、溶液に粉末状の塩化マグネシウムを添加して溶解した。ここで、塩化マグネシウムの添加量を添加後の溶液のマグネシウム濃度が19.6mMとなる量とした。したがって、Mg/B=8.9となっている。塩化マグネシウムを添加しても溶液のpHに変動はなかった。その後の手順および条件は実施例1と同様である。
【0062】
濾液のB、PO4 3-、Ca2+、Mg、Si濃度をICP-OESで測定し、CO3 2-、HCO3 -濃度を酸滴定で測定した。また、濾液のpHをpHメータにより測定した。その結果を図1図8に示す。
【0063】
(比較例1)
溶液に塩化マグネシウムを添加しなかった。その余の手順および条件は実施例1と同様である。なお、実廃水のマグネシウム濃度は0.57mMである。
【0064】
濾液のB、PO4 3-、Ca2+、Si濃度をICP-OESで測定し、CO3 2-、HCO3 -濃度を酸滴定で測定した。また、濾液のpHをpHメータにより測定した。その結果を図1図3図5図8に示す。
【0065】
(比較例2)
塩化マグネシウムの添加量を添加後の溶液のマグネシウム濃度が5.2mMとなる量とした。したがって、Mg/B=2.4となっている。その余の手順および条件は実施例1と同様である。
【0066】
濾液のB、PO4 3-、Ca2+、Mg、Si濃度をICP-OESで測定し、CO3 2-、HCO3 -濃度を酸滴定で測定した。また、濾液のpHをpHメータにより測定した。その結果を図1図8に示す。
【0067】
図9より、実施例2において、反応時間45分の時点でハイドロキシアパタイトの生成が確認でき、反応時間が60分を超えるとハイドロキシアパタイトの明らかなピークが現れることが分かる。これより、ハイドロキシアパタイトが生成されることが確認された。
【0068】
図1(A)から分かるように、濾液のホウ素濃度が海域外への排水基準である0.92mM(=10mg/L)以下に低減するのに要する反応時間は、実施例1では1.4時間、実施例2では0.85時間、実施例3では0.6時間、比較例1では1.6時間、比較例2では1.75時間である。これより、溶液のマグネシウム濃度を9.5mM以上に調整した実施例1~3では、マグネシウム源を添加しなかった比較例1に比べて、ホウ素除去の処理時間を短縮できることが確認された。
【0069】
なお、溶液のマグネシウム濃度を5.2mMに調整した比較例2では、マグネシウム源を添加しなかった比較例1に比べて、ホウ素除去の処理時間が長くなる。
【0070】
発明者らはこの理由を、次のように推測している。
ホウ素含有水にマグネシウムイオンが含まれていると、カルシウム源を添加した後の反応の初期において、Mg(B(OH))4 +のような安定性の低い錯体が形成され、この錯体にホウ素が取り込まれる。この錯体の形成および分解により、ホウ素濃度は不安定な状態となる。実施例2、3において、ホウ素濃度が下がった後(0.1時間付近)、一時的に高くなる(0.5時間付近)はこのためと推測される。
【0071】
しかし、反応時間が十分に経過すれば、形成された錯体は分解し、また、新たな錯体が形成されることもない。その代わりに、安定的にホウ素を取り込むハイドロキシアパタイトが形成される反応が主となる。すなわち、錯体が形成される反応からハイドロキシアパタイトが形成される反応に切り替わる。
【0072】
マグネシウム濃度が5.2mMの比較例2では、錯体の形成からハイドロキシアパタイトの形成に反応が切り替わるのに長い時間を要するため、マグネシウム源を添加しなかった比較例1よりもホウ素除去の処理時間が長くなる。一方、実施例1は、マグネシウム濃度が9.5mMであり、錯体の影響が相殺されるのに十分な濃度であるため、比較例1よりもホウ素除去の処理時間が短くなる。
【0073】
ただし、ホウ素含有水に炭酸根が含まれていると、ハイドロキシアパタイトの形成時にホウ素の取り込みが妨害される場合があるとの知見もある。炭酸根の作用と錯体の形成とは相互に影響があるとも考えられる。そのため、マグネシウム濃度が低い場合にホウ素除去の処理時間が長くなる理由は、明らかであるとはいえない。
【0074】
マグネシウム濃度を21.4mMに調整した実施例2に比べて、マグネシウム濃度を19.6mMに調整した実施例3の方が、ホウ素除去の処理時間が短い。したがって、マグネシウム濃度を高くするほど、処理時間を短くできるとはいえない。しかし、少なくともマグネシウム濃度が21.4mM以下であれば、ホウ素除去の処理時間を短縮できことが確認できる。
【0075】
図4から分かるように、実施例1~3のいずれも、マグネシウム濃度は反応開始直後から0.1mM以下となっており、その状態は少なくとも24時間維持されている。マグネシウムの水道水の水質基準は12.4mM(=300mg/L)である。濾液のマグネシウム濃度は水質基準よりも十分に低い状態で維持されている。これより、少なくともホウ素含有水のマグネシウム濃度を9.5~21.4mMの範囲で調整した場合に、残渣からのマグネシウムの再溶出を十分に抑制できることが確認された。
【0076】
(比較例3)
溶液に塩化マグネシウムに代えて、粉末状の硝酸アルミニウム(Al(NO3)3)を添加して溶解した。ここで、硝酸アルミニウムの添加量を添加後の溶液のアルミニウム濃度が0.8mMとなる量とした。硝酸アルミニウムの添加により溶液のpHが低下したので、溶液に水酸化ナトリウムを添加してpHを4.8に調整した。その余の手順および条件は実施例1と同様である。
【0077】
濾液のB、Al濃度をICP-OESで測定した。その結果を図10および図11に示す。図10から分かるように、濾液のホウ素濃度が海域外への排水基準である0.92mM(=10mg/L)以下に低減するのに要する反応時間は、比較例3では0.7時間である。比較例1よりも処理時間が短いことから、アルミニウム源を添加すればホウ素除去の処理時間を短縮できるといえる。
【0078】
しかし、図11から分かるように、濾液のアルミニウム濃度は、反応開始直後にほぼゼロとなり、その後(0.7時間以降)再び高くなる。これは、生成されたハイドロキシアパタイトからアルミニウムが再溶出するためと考えられる。再溶出後の濾液のアルミニウム濃度は約0.05mMであり、水道水の水質基準0.007mM(=0.2mg/L)よりも高い。
【0079】
比較例3の条件では、ホウ素含有水のホウ素濃度を排水基準以下に低減するために必要な時間(0.7時間)静置すると、アルミニウムの再溶出が避けられないといえる。したがって、処理時間を短縮するための添加剤として、アルミニウム源を用いるより、マグネシウム源を用いる方が、安全性が高いといえる。
【0080】
つぎに、ホウ素含有水の繰り返し処理に関する試験を説明する。
ホウ素含有水として地下水を採取して得た実廃水を用いた。実廃水のホウ素濃度は21mg/L(=1.9mM)である。
【0081】
(1)第1HAP生成工程
実廃水1Lに粗精製リン酸を2.2mL(P物質量で約19mmol)添加した。粗精製リン酸添加後の溶液のpHは1.9であった。溶液に空気を吹き込みながら撹拌した後、30分間脱気した。脱気後の溶液に水酸化カルシウムを5.9g(Ca物質量で約80mmol)添加し、60分間撹拌した。撹拌後の溶液のpHは12.7であった。
【0082】
(2)固液分離工程
撹拌後の溶液を吸引濾過した。濾過により得られた固形分を110℃の環境下で2時間乾燥させた。乾燥後の固形分の重量を測定した。また、濾液の一部を採取してホウ素濃度を測定した。
【0083】
(3)溶解工程
乾燥後の固形分をメノウ乳鉢で解砕した。解砕した固形分に(1+1)塩酸を添加した。ここで、塩酸の添加量[mL]は固形分の重量[g]の約2.7倍とした。固形分が実質的に全て溶解された溶解液が得られた。
【0084】
(4)第2HAP生成工程
新規の実廃水1Lに溶解液を添加し、30分間脱気した。脱気後の溶液に水酸化カルシウムを添加してpHを11.5に調整した。その後、溶液を60分間撹拌した。
【0085】
その後、(2)~(4)を4回繰り返して行なった。なお、4回目の第2HAP生成工程で得られたスラリーに対しても固液分離を行ない、固形分の重量測定および濾液のホウ素濃度測定を行なった。
【0086】
図12に、繰り返し回数に対する濾液のホウ素濃度の変化を示す。なお、図12のグラフにおいて繰り返し回数0回目は第1HAP生成工程を意味する。図12のグラフから分かるように、繰り返し回数3回目までは濾液のホウ素濃度を約0.5mMに低減できている。濾液のホウ素濃度は海域外への排水基準である0.92mM(=10mg/L)以下となっている。しかし、繰り返し回数4回目では濾液のホウ素濃度が1.99mMと高くなっている。
【0087】
図13に、溶解液を添加した後の実廃水(0回目は実廃水そのもの)のホウ素量とハイドロキシアパタイトへのホウ素吸着量との関係を示す。繰り返し回数を増やすほど、溶液に含まれるホウ素の量が多くなる。これは、ホウ素を含む溶解液を新規の実廃水に添加したためである。繰り返し回数3回目まではハイドロキシアパタイトに吸着されたホウ素の量も増加する。しかし、繰り返し回数4回目は3回目の場合と比較してホウ素吸着量の増加がみられない。これは、繰り返し回数3回目で、ハイドロキシアパタイトのホウ素吸着能力の限界に達したことを意味する。これより、本試験の条件下では、繰り返し回数を3回以下とすることが好ましいといえる。
【0088】
図12に、塩酸添加量、水酸化カルシウム添加量、および固形分生成量の推移を示す。固形分(ハイドロキシアパタイト)の生成量にはほとんど変化が見られない。ハイドロキシアパタイトの単位重量当たりに吸着されるホウ素の量は、繰り返し処理を行なうことで増加することが分かる。これより、ハイドロキシアパタイトの生成に必要な薬剤のコストを低減できることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13