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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/265 20060101AFI20240221BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240221BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240221BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240221BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20240221BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20240221BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20240221BHJP
   H01L 21/329 20060101ALI20240221BHJP
   H01L 29/872 20060101ALI20240221BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
H01L21/265 Z
H01L29/78 652T
H01L29/78 658A
H01L29/78 655A
H01L29/91 F
H01L29/91 A
H01L29/86 301P
H01L29/86 301D
H01L21/265 U
H01L29/78 301F
H01L29/78 301V
C30B29/36 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020026991
(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公開番号】P2021132134
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-01-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第66回 応用物理学会春季学術講演会の講演予稿集(9a-PB3-6)としてWEB公開(https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2019s/subject/9a-PB3-6/advanced) 第66回 応用物理学会春季学術講演会にて発表 International Conference on Silicon Carbide and Related Materials 2019 予稿集に掲載 International Conference on Silicon Carbide and Related Materials 2019にて発表 先進パワー半導体分科会誌 第6回講演会 予稿集に掲載 先進パワー半導体分科会誌 第6回講演会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】399071029
【氏名又は名称】フェニテックセミコンダクター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 智徳
(72)【発明者】
【氏名】瀬崎 洋
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-004955(JP,A)
【文献】特開2003-347235(JP,A)
【文献】特開2017-059571(JP,A)
【文献】特開2011-049408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/265
H01L 29/12
H01L 21/336
H01L 29/739
H01L 29/861
H01L 29/868
H01L 21/32
H01L 29/78
H01L 29/872
C30B 29/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4H-SiC結晶層にイオン注入を行いイオン注入層を形成する工程を備え、
前記イオン注入は、{1-100}面に対して[0001]から+10°又は-10°傾けたイオン注入角、{1-210}面に対して[0001]から+3°又は-3°傾けたイオン注入角、又は{1-100}面と{1-210}面との中間の面に対して[0001]から+4°又は-4°傾けたイオン注入角で行う、炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記イオン注入層を貫通するトレンチを形成して、前記イオン注入層を互いに分離されたソース領域とドレイン領域とする工程と、
前記トレンチにゲート絶縁膜を形成する工程と、
ゲート絶縁膜の上にゲート電極を形成する工程と、
前記ソース領域及びドレイン領域にそれぞれオーミック接触したオーミック電極を形成する工程とをさらに備えている、請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭化珪素半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置は様々な用途に用いられている。近年では、200℃以上の高温の環境や、吸収線量が数千Gy~数万Gyという環境においても作動する半導体装置が求められている。しかし、従来のシリコン(Si)半導体は、このような環境において使用することは困難であり、新たな半導体材料が検討されている。中でも、炭化珪素(SiC)半導体は、耐熱性及び放射線耐性に優れた半導体材料として期待されている。
【0003】
半導体装置を製造するには、イオン注入の技術が不可欠である。炭化珪素半導体の場合、イオン注入後の結晶性の回復がシリコン半導体のように容易ではない等の炭化珪素半導体に特有の問題がある。このため、イオン注入を炭化珪素半導体に対して最適化しようとする試みがなされている。例えば、特許文献1においては、イオンの注入の際の面方位を変えることにより、炭化珪素の結晶格子に対するダメージを低減することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-261041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭化珪素半導体に対するイオン注入には、結晶に対するダメージの問題だけでなく、注入深さの制御性が悪いという問題もある。本開示の課題は、炭化珪素半導体に対するイオン注入の注入深さの制御性を向上し、高性能の炭化珪素半導体装置を容易に製造できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の炭化珪素半導体装置の製造方法の一態様は、4H-SiC結晶層にイオン注入を行いイオン注入層を形成する工程を備え、イオン注入は、{1-100}面に対して[0001]から+10°又は-10°傾けたイオン注入角、{1-210}面に対して[0001]から+3°又は-3°傾けたイオン注入角、又は{1-100}面と{1-210}面との中間の面に対して[0001]から+4°又は-4°傾けたイオン注入角で行う。
【0007】
炭化珪素半導体装置の製造方法の一態様は、イオン注入層を貫通するトレンチを形成して、イオン注入層を互いに分離されたソース領域とドレイン領域とする工程と、トレンチにゲート絶縁膜を形成する工程と、ゲート絶縁膜の上にゲート電極を形成する工程と、ソース領域及びドレイン領域にそれぞれオーミック接触したオーミック電極を形成する工程とをさらに備えていてもよい。
【0008】
本開示の炭化珪素半導体装置の一態様は、4H-SiC結晶層と、4H-SiC結晶層に形成された少なくとも1つの不純物注入層とを備え、不純物注入層は、設計深さよりも2.14倍深い位置における不純物濃度が、設計深さ範囲における最も高い不純物濃度の20分の1以下である。
【0009】
炭化珪素半導体装置の一態様において、4H-SiC結晶層に設けられたトレンチと、トレンチにゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、不純物注入層とオーミック接触したオーミック電極とをさらに備え、不純物注入層は、トレンチを挟んで両側に設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示の半導体装置の製造方法によれば、注入深さの制御性が向上し、高性能の炭化珪素半導体装置を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係るトレンチMOSFETを示す断面図である。
図2】(a)~(h)は一実施形態に係るトレンチMOSFETの製造方法を工程順に示す断面図である。
図3】一実施形態に係る縦型MOSFETを示す断面図である。
図4】一実施形態に係るIGBTを示す断面図である。
図5】一実施形態に係るPNダイオードを示す断面図である。
図6】一実施形態に係るショットキーバリアダイオードを示す断面図である。
図7】ジャンクションバリア構造を有するショットキーバリアダイオードの変形例を示す断面図である。
図8】イオン注入角と面方位との関係を示す平面図である。
図9】ラザフォード散乱法による後方散乱イールドの測定結果を示すグラフである。
図10】深さ方向における不純物濃度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
格子面の記号において、負の指数については、結晶学上、”-”(バー)を数字の上に付けて表すことになっているが、本開示においては明細書作成の都合上、数字の前に負号を付けて表す場合がある。
【0013】
本開示の炭化珪素(SiC)半導体装置の製造方法は、4H-SiC結晶層にイオン注入を行いイオン注入層を形成する工程を備えている。イオン注入層を形成する工程において、イオン注入は{1-100}面に対して[0001]から+10°又は-10°傾けたイオン注入角、{1-210}面に対して[0001]から+3°又は-3°傾けたイオン注入角、又は{1-100}面と{1-210}面との中間の面に対して[0001]から+4°又は-4°傾けたイオン注入角で行う。なお、この角度は±1°程度のずれを許容する。
【0014】
イオン注入層は、設計深さ範囲の領域に設計された濃度で不純物が存在し、範囲外において不純物濃度が急激に減衰することが好ましい。理想的なイオン注入層を形成するために、注入イオン濃度、注入エネルギー及び基板の材質等のパラメータを用いたシミュレーションを行い、イオン注入の条件を決定する。しかし、実際の不純物の深さ方向の濃度プロファイルが、シミュレーションの結果から大きくずれて、半導体装置の特性を大きく乱す場合がある。本願発明者らは、ラザフォード後方散乱法における後方散乱イオン数の急激な低下(ディップ)が生じない角度範囲でイオン注入を行うことにより、不純物の深さ方向の濃度プロファイルをシミュレーション結果に近づけることができることを見いだした。
【0015】
具体的には、{0-100}面に平行な方向の場合、[0001]から+10°又は-10°において±1°程度のディップがほとんど生じない範囲が存在する。このため、{1-100}面に対して[0001]から+10°又は-10°傾けたイオン注入角でイオン注入を行うことにより、イオンの注入深さの制御性が向上し、設計値に近い理想的な濃度プロファイルを有するイオン注入層を形成することができる。
【0016】
同様のディップがほとんど生じない範囲は、{1-210}面に平行な方向において[0001]から+3°又は-3°と、{1-100}面と{1-210}面との中間の面に平行な方向において[0001]から+4°又は-4°においても存在する。このため、イオン注入角を、{1-210}面に対して[0001]から+3°又は-3°傾けた角度、又は{1-100}面と{1-210}面との中間の面に対して[0001]から+4°又は-4°傾けた角度とすることもできる。
【0017】
イオン注入角をこのような値とすることにより、設計注入深さよりも2.14倍深い位置における不純物濃度を、従来の{1-100}面に対して[0001]から+4°又は-4°傾けた注入角の場合と比べて1/6以下にすることができる。例えば、設計注入深さが70nmの場合は、2.14倍深い深さ150nmの位置における不純物濃度を、従来の1/6以下にすることができる。
【0018】
また、設計値注入深さよりも2.14倍深い位置における不純物濃度を、設計深さ範囲内における最も高い不純物濃度の好ましくは20分の1以下、より好ましくは50分の1以下とすることができる。例えば、設計注入深さを70nmとしてイオン注入層を形成する場合に、深さ150nmの位置における不純物濃度を、表面から70nmまでの範囲における最も高い不純物濃度の好ましくは20分の1以下、より好ましくは50分の1以下とすることができる。
【0019】
本実施形態のイオン注入層の形成方法は、深さ方向における不純物濃度の減衰が大きく理想的な不純物プロファイルを容易に実現できるため、図1に示すようなトレンチMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)の製造において有用である。
【0020】
図1に示すトレンチMOSFETは、4H-SiC単結晶からなる基板101にイオン注入により形成されたイオン注入層であるソース領域112及びドレイン領域111を有している。ソース領域112とドレイン領域111との間には、トレンチが設けられている。基板101の上には、ソース領域112、ドレイン領域111及びトレンチを露出する開口部を有する絶縁膜116が形成されている。
【0021】
トレンチにはドライ酸化膜であるゲート絶縁膜115を介してゲート電極123が形成されている。ソース領域112及びドレイン領域111の上には、それぞれシリサイド層125がオーミック接触するように形成され、シリサイド層125の上には金属層126が形成されている。ソース領域112の上に形成されたシリサイド層125及び金属層126はソース電極122として機能し、ドレイン領域111の上に形成されたシリサイド層125及び金属層126はドレイン電極121として機能する。
【0022】
トレンチMOSFETは、例えば、図2に示すように、基板101に注入マスクとなる絶縁膜117を形成した後、イオン注入を行いソース領域112及びドレイン領域111となるイオン注入層113を形成する。イオン注入は、{1-100}面に対して[0001]から+10°又は-10°傾けたイオン注入角により行う。また、ダメージの低減のために、例えば500℃での高温イオン注入が好ましい。この後、カーボンキャップ層118を形成してアニールを行い不純物の活性化及び結晶性の回復を行う。アニールは、例えば1700℃で5分間とすることができる。
【0023】
次に、イオン注入層113を露出する開口部を有する絶縁膜116を形成した後、絶縁膜116をマスクとしてトレンチを形成してイオン注入層113をソース領域112とドレイン領域111とに分離する。この後、例えば1150℃でドライ酸化を行い、トレンチ部分にゲート絶縁膜115を形成する。この後、絶縁膜116にソース領域112及びドレイン領域111を露出する開口部を形成し、ソース領域112及びドレイン領域111にシリサイド層125を形成する。この後、アルミニウム層を形成し、パターニングして、ソース電極122、ドレイン電極121及びゲート電極123を形成する。
【0024】
トレンチMOSFETにおいてソース領域112及びドレイン領域111となるイオン注入層113の深さ方向の不純物プロファイルは非常に重要である。不純物が設計位置よりも深い位置にまで注入されてしまうと、トレンチを形成してもソース領域112とドレイン領域111とが十分に分離されず、ゲート電極123の下側においてリークが発生して、閾値電圧が設計値よりも上昇してしまう。トレンチを深くすれば、閾値電圧を下げることが可能であるが、設計値よりもトレンチを深くすると寄生容量が増加して動作速度が低下してしまう。また、イオン注入層113が設計値よりも深い位置まで拡がってしまうと、イオン注入層113における不純物濃度が低下してしまうという問題もある。
【0025】
本実施形態のイオン注入層の形成方法を用いることにより、イオン注入層113が設計値よりも深い位置に拡がることを抑え、設計値と近い濃度プロファイルを実現することができる。これにより、トレンチMOSFTにおいて、ゲート電極123の下側においてリークが発生しにくくして、閾値電圧のずれを生じにくくすることができる。なお、{1-210}面に対して[0001]から+3°又は-3°傾けたイオン注入角、又は{1-100}面と{1-210}面との中間の面に対して[0001]から+4°又は-4°傾けたイオン注入角でイオン注入層113のイオン注入を行うこともできる。
【0026】
本実施形態のイオン注入層の形成方法は、原理的にp型不純物であるアルミニウム及びホウ素、n型不純物である窒素及びリンのいずれにおいても不純物プロファイルを理想型に近づけることができる。このため、p型のイオン注入層及びn型のイオン注入層のいずれの形成にも有用である。また、分子クラスターのイオンではなく、原子のイオンを注入しても不純物プロファイルの制御が容易であり、炭化珪素結晶にダメージが小さいイオン注入を行うことができる。
【0027】
本実施形態のイオン注入層の形成方法は、トレンチMOSFETに限らず、イオン注入層を有する種々の半導体装置の製造に用いることができる。例えば、図3に示すような縦型MOSFETの製造に用いることもできる。図3に示す縦型のMOSFETは、n+型の4H-SiCからなる基板131の表面上に、n-型のドリフト層132がエピタキシャル成長により形成されている。ドリフト層132の表面側にはイオン注入によりp型ウェル133及びn+型のソース領域134が設けられており、ソース領域134の上にはソース電極141が形成されている。ソース領域134を跨ぐようにゲート絶縁膜135を介してゲート電極143が形成されている。基板131の裏面の上には、オーミック電極であるドレイン電極142が形成されている。
【0028】
本実施形態のイオン注入層の形成方法は、イオン注入層であるp型ウェル133及びソース領域134の形成に用いることができる。特にソース領域134の形成に、本実施形態のイオン注入法の形成方法を用いることにより、ソース領域134が深くなりすぎないように制御することが容易にできる。
【0029】
本実施形態のイオン注入層の形成方法は、図4に示すような絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)の製造に用いることもできる。図4に示すIGBTは、例えばp+型の4H-SiCからなる基板151の表面上に、n-型のドリフト層152がエピタキシャル成長により形成されており、ドリフト層152の表面側にはp型ウェル153がイオン注入により形成されている。p型ウェル153には、n+型のエミッタ領域154がイオン注入により形成されており、エミッタ領域154の上にはエミッタ電極161が形成されている。エミッタ領域154を跨ぐようにゲート絶縁膜155を介してゲート電極163が形成されている。基板151の裏面の上には、コレクタ電極162が形成されている。
【0030】
本実施形態のイオン注入層の形成方法は、イオン注入層であるp型ウェル153及びエミッタ領域154の形成に用いることができる。特にエミッタ領域154の形成に、本実施形態のイオン注入法の形成方法を用いることにより、エミッタ領域154が深くなりすぎないように制御することが容易にできる。
【0031】
本実施形態のイオン注入層の形成方法は、図5に示すようなPNダイオードの製造に用いることもできる。図5において、n+型の4H-SiCからなる基板171の上には、n-型のエピタキシャル層172が形成され、エピタキシャル層172の上部にはイオン注入によりp+型層173が形成されている。エピタキシャル層172の上には、p+型層を露出する開口部を有するシリコン酸化膜175が形成されており、開口部にはアノード電極178が形成されている。基板171の裏面にはカソード電極179が形成されている。p+型層173の形成に、本実施形態のイオン注入法の形成方法を用いることにより、p+型層173が深くなりすぎないように制御することが容易にできる。
【0032】
本実施形態のイオン注入層の形成方法は、図6に示すようなショットキーバリアダイオードの製造に用いることもできる。図6において、n+型の4H-SiCからなる基板181の上には、n-型のエピタキシャル層182が形成され、エピタキシャル層182の上部にはイオン注入によりp+型層183が形成されている。エピタキシャル層182の上には、p+型層を露出する開口部を有するシリコン酸化膜185が形成されており、開口部にはショットキー電極188が形成されている。基板181の裏面にはオーミック電極189が形成されている。p+型層183に代えて、図7に示すようなジャンクションバリア構造184を形成することもできる。本実施形態のイオン注入法の形成方法を用いることにより、p+型層183又はジャンクションバリア構造184が深くなりすぎないように制御することが容易にできる。
【0033】
これらに限らず、4H-SiC結晶層にイオン注入層を形成するあらゆる場合に本実施形態のイオン注入層の形成方法を用いることができる。なお、イオンを注入する4H-SiC結晶層は、基板であっても、基板の上に形成したエピタキシャル成長層であってもよい。
【0034】
本開示のイオン注入層の形成方法について、実施例を用いてさらに詳細に説明する。以下の実施例は例示であり、権利範囲の限定を意図するものではない。
【実施例
【0035】
<ラザフォード後方散乱法によるチャネリング測定>
[0001]から傾けた注入角でヘリウムの注入を行いラザフォード後方散乱法によりチャネリングを測定した。注入加速電圧を2MeVとして、図8におけるライン1、ライン2及びライン3沿って角度を傾けて散乱強度を測定した。
【0036】
図9に示すように{1-100}面に平行となる方向であるライン1の場合、通常のイオン注入において用いられる-4°付近には、後方散乱イオン数が急激に低下するディップが認められる。ディップが認められる位置においてはイオン注入の際にチャネリングが生じ、深い位置まで不純物が拡がる可能性が高い。一方、-10±1°の範囲には、ディップが認められず、注入角度がずれることを考慮しても、チャネリングを生じにくくできると予測される。
【0037】
{1-210}面に平行となる方向であるライン2の場合は、-3±1°の範囲、{1-100}面と{1-210}面との中間の面に平行となる方向であるライン3の場合は、-4±1°の範囲において、後方散乱イオン数の急激な低下が認められないため、この範囲においても、チャネリングを生じにくくできると予測される。
【0038】
また、後方散乱イオン数のプロファイルは、対称となるため、ライン1においては+10°、ライン2においては+3°、ライン3においては+4°においても同様にチャネリングを生じにくくできると予測される。
【0039】
<不純物濃度プロファイルの測定>
4H-SiC単結晶基板に、イオン注入を行い、深さ方向の不純物濃度を二次イオン質量分析(SIMS)法により測定した。イオン注入は、設計注入深さが70nmとなるようにシミュレーションにより条件を決定した。条件決定のシミュレーションは、シミュレーションソフトウエアにSRIM2008を用いて行った。具体的な注入条件は、アルミニウム原子をイオン種として、注入深さを70nm、注入濃度を4×1020(atoms/cm3)とする多段注入で行い、多段注入の条件は、加速エネルギー55keVで注入量2.40×1015/cm2、加速エネルギー25keVで注入量7.00×1014/cm2、加速エネルギー12keVで注入量3.20×1013/cm2である。SIMSの測定は、アルバックファイ製2次イオン質量分析装置SIMS6650を使用し、一次イオンガンにはO2デュオプラズマトロンイオン銃を用いた。
【0040】
図10に示すように、ライン1の-4°に対応する、{1-100}面に対して[0001]から-4°傾けてイオン注入を行った場合、深さ80nm程度から、不純物濃度がシミュレーションによる理想的なプロファイルとのずれが大きくなり始め、設計注入深さの2.14倍である150nmの位置における不純物濃度は、6×1019cm-3程度となっている。
【0041】
一方、ライン1の-10°に対応する、{1-100}面に対して[0001]から-10°傾けてイオン注入を行った場合、深さ100nm程度までの不純物濃度は、シミュレーションによる理想的なプロファイルと大きく異なっていない。設計注入深さである70nmよりも深い位置においてずれが次第に拡大するが、150nmにおける不純物濃度は1×1019cm-3程度であり、-4°の場合の約1/6であった。
【0042】
また、-10°の場合、設計注入深さである70nmまでの範囲における不純物濃度の最高値は6×1020cm-3程度であり、設計注入深さの2.14倍である150nmにおける不純物濃度は、最高値の1/50以下となった。一方、-4°の場合、150nmにおける不純物濃度は最高値の約1/10であり、不純物濃度の十分な減衰が生じていない。
【0043】
<閾値電圧の比較>
図1に示すp型のトレンチMOSFETを作成したところ、{1-100}面に対して[0001]から-10°傾けてイオン注入を行った場合、閾値電圧は-4Vとなり、ノーマリーオフを実現できた。一方、{1-100}面に対して[0001]から-4°傾けてイオン注入を行った場合、閾値電圧は+9Vとなり、ノーマリーオフを実現できなかった。閾値電圧はドレイン電圧を-100mV、ソース電圧を0Vとし、ゲート電圧を変化させることで測定を行った。
【0044】
なお、トレンチ深さは160nm、ゲート絶縁膜厚は20nm、ゲート長は5μm、ゲート幅は10μmとした。イオン注入層の形成は、アルミニウム原子をイオン種として形成し、設計注入深さを70nm、注入濃度を4×1020atoms/cm3とする多段注入で行った。多段注入の条件は、加速エネルギー55keVで注入量2.40×1015/cm2、加速エネルギー25keVで注入量7.00×1014/cm2、加速エネルギー12keVで注入量3.20×1013/cm2である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本開示の炭化珪素半導体装置の製造方法は、注入深さの制御性が高く、高性能の炭化珪素半導体装置を容易に製造することができ、半導体装置の分野において有用である。
【符号の説明】
【0046】
101 基板
111 ドレイン領域
112 ソース領域
113 イオン注入層
115 ゲート絶縁膜
116 絶縁膜
117 絶縁膜
118 カーボンキャップ層
121 ドレイン電極
122 ソース電極
123 ゲート電極
125 シリサイド層
126 金属層
131 基板
132 ドリフト層
133 p型ウェル
134 ソース領域
135 ゲート絶縁膜
141 ソース電極
142 ドレイン電極
143 ゲート電極
151 基板
152 ドリフト層
153 p型ウェル
154 エミッタ領域
155 ゲート絶縁膜
161 エミッタ電極
162 コレクタ電極
163 ゲート電極
171 基板
172 エピタキシャル層
173 p+型層
175 シリコン酸化膜
178 アノード電極
179 カソード電極
181 基板
182 エピタキシャル層
183 型層
184 ジャンクションバリア構造
185 シリコン酸化膜
188 ショットキー電極
189 オーミック電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10