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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/85 20060101AFI20240221BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20240221BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240221BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20240221BHJP
【FI】
C12N15/85 Z
C12N5/077 ZNA
C12N5/10
C12M3/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020509303
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2019013518
(87)【国際公開番号】W WO2019189545
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2018069241
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 善紀
(72)【発明者】
【氏名】三木 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】蒲池 泰治
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/141827(WO,A1)
【文献】特表2015-515859(JP,A)
【文献】HSU, Charlie Y. and RANCOURT, Derrick F.,Molecular Therapy,2016年05月01日,Vol. 24, Suppl. 1,p. S137-S138,DOI: 10.1016/S1525-0016(16)33152-5
【文献】LI, Linlin et al.,Oncology Letters,2017年05月,Vol. 13, No. 5,pp. 3014-3024,DOI: 10.3892/ol.2017.5828
【文献】LI, Bin et al.,Stem Cell Research & Therapy,2017年09月29日,Vol. 8, Article No. 202,pp. 1-12,DOI: 10.1186/s13287-017-0651-x
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
C12M 1/00ー 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の物質が導入された細胞の製造方法であって、
細胞非接着性容器内において、
a)接着性細胞を分散された状態でトランスフェクション試薬及び前記物質並びにマイクロキャリアを添加して培養に供し、前記トランスフェクション試薬及び前記物質並びに前記マイクロキャリアの存在下で前記物質が導入された細胞と前記マイクロキャリアとを含んでなる凝集体を形成する工程、又は、
b)接着性細胞を分散された状態でトランスフェクション試薬及び前記物質を添加してマイクロキャリアの不存在下で培養に供し、前記トランスフェクション試薬及び前記物質の存在下で前記物質が導入された細胞を含んでなる凝集体を形成する工程、
を含み、
前記工程a)及びb)において前記トランスフェクション試薬及び前記物質は培養開始日に添加され、
前記物質が、核酸である、
製造方法。
【請求項2】
前記工程が、前記細胞の静置培養下で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記細胞が、心筋細胞である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
目的の細胞の製造方法であって、
細胞非接着性容器内において、
a)接着性細胞を分散された状態でトランスフェクション試薬及び所望の物質並びにマイクロキャリアを添加して培養に供し、前記トランスフェクション試薬及び前記物質並びに前記マイクロキャリアの存在下で前記物質が導入された細胞と前記マイクロキャリアとを含んでなる凝集体を形成する工程、又は、
b)接着性細胞を分散された状態でトランスフェクション試薬及び前記物質を添加してマイクロキャリアの不存在下で培養に供し、前記トランスフェクション試薬及び前記物質の存在下で前記物質が導入された細胞を含んでなる凝集体を形成する工程、と、
前記物質が導入された細胞のなかから、該物質の細胞内での機能に基づいて目的の細胞を選別する工程と、を含み、
前記工程a)及びb)において前記トランスフェクション試薬及び前記物質は培養開始日に添加され、
前記物質が、核酸である、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の製造方法に関する。より具体的には、所望の物質が導入された細胞の製造方法に関する。
[発明の背景]
【0002】
核酸(例えば、DNA、あるいはmRNA及びsiRNAなどのRNA)などの物質の接着性細胞への導入は、従来、シャーレ及びディッシュなどの容器に細胞を播種した後、該容器の表面に接着した状態の細胞に対して物質とトランスフェクション試薬(例えば、リポソームやポリアミン)を適用することによって行われている。このため、細胞の接着のための容器の表面面積が制約となって、所望の物質が導入された細胞を商業レベルで大量に製造することが難しい。
【0003】
シャーレ及びディッシュなどの容器の表面に物質とトランスフェクション試薬を接着又は塗布した後、接着性細胞を容器に播種することによって細胞への物質の導入を行う方法(いわゆる、リバーストランスフェクション法)も知られている(特許文献1)。この方法では、播種された細胞が容器の表面に接着していく過程で物質が細胞内に導入されると考えられる。このため、やはり、細胞の接着のための容器の表面面積が制約となって、所望の物質が導入された細胞を商業レベルで大量に製造することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2008-532480号公報
【文献】国際公開2015/141827号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Miki et al., "Efficient Detection and Purification of Cell Populations Using Synthetic MicroRNA Switches", Cell Stem Cell, 16, 1-13, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、所望の物質が導入された細胞を商業レベルで大量に製造するための技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題解決のため、本発明は、以下の[1]~[35]を提供する。
[1] 所望の物質(desired substance)が導入された細胞の製造方法であって、
細胞非接着性容器内において、細胞への前記物質のトランスフェクションが可能な条件下で、細胞の凝集体を形成する工程(工程1)を含む、
製造方法。
[2] 前記細胞が、接着性細胞である、[1]の製造方法。
[3] 前記工程1は、細胞非接着性容器内において、トランスフェクション試薬及び前記物質並びにマイクロキャリアの存在下で細胞を培養し、前記物質が導入された細胞と前記マイクロキャリアとからなる凝集体を形成する工程である、[2]の製造方法。
[4] 前記工程1が、前記細胞の静置培養下で行われる、[3]の製造方法。
[5] 前記工程1は、細胞非接着性容器内において、トランスフェクション試薬及び前記物質の存在下で細胞を培養し、前記物質が導入された細胞からなる凝集体を形成する工程である、[2]の製造方法。
[6] 前記工程1が、前記細胞の静置培養下で行われる、[5]の製造方法。
[7] 前記物質が、核酸又はタンパク質である、[1]~[6]のいずれかの製造方法。
[8] 前記核酸が、(i)特定の細胞で発現するマイクロRNA(miRNA)を特異的に認識する核酸配列と、(ii)所望のタンパク質の遺伝子コード領域に対応する核酸配列を含んでなる、miRNA応答性RNAである(ここで、(ii)の核酸配列のタンパク質への翻訳は、(i)の核酸配列により制御される)、[7]の製造方法。
[9]前記細胞が、心筋細胞である、[1]~[8]のいずれかの製造方法。
[10] [9]の製造方法により得られた心筋細胞。
【0008】
[11] 目的の細胞(cell of interest)の製造方法であって、
細胞非接着性容器内において、細胞への所望の物質のトランスフェクションが可能な条件下で、細胞の凝集体を形成する工程(工程1)と、
前記物質が導入された細胞のなかから、該物質の細胞内での機能に基づいて目的の細胞を選別する工程(工程2)と、を含む製造方法。
[12] 前記細胞が、接着性細胞である、[11]の製造方法。
[13] 前記工程1は、細胞非接着性容器内において、トランスフェクション試薬及び前記物質並びにマイクロキャリアの存在下で細胞を培養し、前記物質が導入された細胞と前記マイクロキャリアとからなる凝集体を形成する工程である、[12]の製造方法。
[14] 前記工程1が、前記細胞の静置培養下で行われる、[13]の製造方法。
[15] 前記工程1は、細胞非接着性容器内において、トランスフェクション試薬及び前記物質の存在下で細胞を培養し、前記物質が導入された細胞からなる凝集体を形成する工程である、[12]の製造方法。
[16] 前記工程1が、前記細胞の静置培養下で行われる、[15]の製造方法。
[17] 前記物質が、核酸又はタンパク質である、[11]~[16]のいずれかの製造方法。
[18] 前記核酸が、(i)特定の細胞で発現するマイクロRNAを特異的に認識する核酸配列と、(ii)所望のタンパク質の遺伝子コード領域に対応する核酸配列を含んでなる、miRNA応答性RNAである(ここで、(ii)の核酸配列のタンパク質への翻訳は、(i)の核酸配列により制御される)、[17]の製造方法。
[19] 前記細胞が心筋細胞と非心筋細胞を含み、前記目的の細胞が心筋細胞であり、
前記工程2において、miRNA応答性RNAが導入された細胞のなかから、前記タンパク質への翻訳の有無に基づいて心筋細胞を選別する、[18]の製造方法。
[20] 前記細胞が心室筋細胞を含む心筋細胞であって、前記目的の細胞が心室筋細胞であり、
前記工程2において、miRNA応答性RNAが導入された心筋細胞のなかから、前記タンパク質への翻訳の有無に基づいて心室筋細胞を選別する、[18]の製造方法。[21] [19]の製造方法により得られた心筋細胞。
[22] [20]の製造方法により得られた心室筋細胞。
[23] 所望の物質を細胞に導入する方法であって、
細胞非接着性容器内において、細胞への前記物質のトランスフェクションが可能な条件下で、細胞の凝集体を形成する工程を含む、
方法。
【0009】
[24] 多能性幹細胞から目的の細胞を製造する方法であって、
多能性幹細胞の目的細胞への分化を誘導する工程(工程A)と、
分化誘導後の細胞を分散させる工程(工程B)と、
分散後の細胞を細胞非接着性容器内に導入し、細胞への所望の物質のトランスフェクションが可能な条件下で、細胞の凝集体を形成する工程(工程C)と、
前記物質が導入された細胞のなかから、該物質の細胞内での機能に基づいて前記目的細胞を選別する工程(工程D)と、を含む、製造方法。
[25] 前記細胞が、接着性細胞である、[24]の製造方法。
[26] 前記工程Cは、細胞非接着性容器内において、トランスフェクション試薬及び前記物質並びにマイクロキャリアの存在下で細胞を培養し、前記物質が導入された細胞と前記マイクロキャリアとからなる凝集体を形成する工程である、[25]の製造方法。
[27] 前記工程Cが、前記細胞の静置培養下で行われる、[26]の製造方法。
[28] 前記工程Cは、細胞非接着性容器内において、トランスフェクション試薬及び前記物質の存在下で細胞を培養し、前記物質が導入された細胞からなる凝集体を形成する工程である、[27]の製造方法。
[29] 前記工程Cが、前記細胞の静置培養下で行なわれる、[28]の製造方法。
[30] 前記物質が、核酸又はタンパク質である、[24]~[29]のいずれかの製造方法。
[31] 前記核酸が、(i)特定の細胞で発現するマイクロRNAを特異的に認識する核酸配列と、(ii)所望のタンパク質の遺伝子コード領域に対応する核酸配列を含んでなる、miRNA応答性RNAである(ここで、(ii)の核酸配列のタンパク質への翻訳は、(i)の核酸配列により制御される)である、[30]の製造方法。
[32] 前記目的細胞が心筋細胞であり、
前記工程Dにおいて、miRNA応答性RNAが導入された細胞のなかから、前記タンパク質への翻訳の有無に基づいて心筋細胞を選別する、[31]の製造方法。
[33] 前記目的細胞が心室筋細胞であり、
前記工程Dにおいて、miRNA応答性RNAが導入された心筋細胞のなかから、前記タンパク質への翻訳の有無に基づいて心室筋細胞を選別する、[31]の製造方法。
[34] [32]の製造方法により得られた心筋細胞。
[35] [33]の製造方法により得られた心室筋細胞。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、所望の物質が導入された細胞を商業レベルで大量に製造するための技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1において、EmGFPが導入された細胞のEmGFPに起因する蛍光を確認した写真である。白色部分は、EmGFPに起因する緑色蛍光を実際には示す。
図2】実施例2において、EmGFPが導入された細胞のEmGFPに起因する蛍光を確認した写真である。白色部分は、EmGFPに起因する緑色蛍光を実際には示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
本明細書において、「トランスフェクション」とは、任意の物質を細胞の内部に導入することを意味する。細胞の内部には、少なくとも、細胞質内及び核内が包含される。
【0014】
本明細書において、「所望の物質」とは、トランスフェクションにより、細胞内部に導入する、任意に選択された物質を意味する。所望の物質は、細胞内部に導入可能であれば特に限定されないが、例えば、核酸、タンパク質、粒子などが挙げられ、好ましくは核酸であり、より好ましくはRNAである。
所望の物質の使用量は、物質の種類、導入する細胞の種類及びトランスフェクション条件等によって変わり得るが、例えば、RNAの使用量は、1×10個の細胞に対して1ng~100μg、好ましくは100ng~ 5000ngである。
【0015】
「細胞への物質のトランスフェクションが可能な条件」とは、トランスフェクションを誘起し得る条件を意味する。本発明において、「細胞への物質のトランスフェクションが可能な条件」とは、特に具体的には、「細胞非接着性容器内において、トランスフェクション試薬及び物質並びにマイクロキャリアの存在下で細胞を培養し、前記物質が導入された細胞と前記マイクロキャリアとからなる凝集体を形成すること」あるいは「細胞非接着性容器内において、トランスフェクション試薬及び物質の存在下で細胞を培養し、前記物質が導入された細胞からなる凝集体を形成すること」を指す。
【0016】
「培養(Culture)」又は「培養する」とは、組織外又は体外で、例えば、ディッシュ、シャーレ、フラスコ、あるいは培養槽(タンク)中で細胞を維持し、増殖させ、かつ/又は分化させることを意味する。
【0017】
「接着性細胞」とは、足場となる固層表面への接着状態において最適に維持又は増殖させられる細胞を意味する。接着性細胞は、動物又はヒトの組織から直接得られた細胞(初代細胞)あるいはそれらを継代して得られた細胞であってよく、株として確立された細胞であってもよい。
動物又はヒトの組織から得られる細胞としては、例えば、心筋細胞を含む筋細胞や、膵細胞及び肝細胞を含む上皮細胞などが挙げられる。
株化された細胞としては、3T3、NTCTまたはWEHI株のようなマウスの細胞株、BHK株(特に、BHK21株)またはCHO株のようなハムスターの細胞株、MDCK株のようなイヌの細胞株、PK15株のようなブタの細胞株、MDBK株のようなウシの細胞株、ベロ、LLC-MK2、FRHL2またはMA104株のようなサルの細胞株、およびMRC5、HEK293、PER.C6、Hela、ECVまたはA431株のようなヒトの細胞株が挙げられる。
【0018】
「多能性(pluripotency)」とは、種々の異なった形態や機能を持つ組織や細胞に分化でき、3胚葉のどの系統の細胞にも分化し得る能力を意味する。「多能性(pluripotency)」は、胚盤には分化できず、したがって個体を形成する能力はないという点で、胚盤を含めて、生体のあらゆる組織に分化しうる「全能性(totipotency)」とは区別される。
【0019】
「多能性(multipotency)」とは、複数の限定的な数の系統の細胞へと分化できる能力を意味する。例えば、間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞はmultipotentだが、pluripotentではない。
【0020】
「幹細胞(stem cell)」としては、例えば、多能性幹細胞(pluripotent stem cell)が挙げられる。
本発明において使用可能な「多能性幹細胞(pluripotent stem cell)」とは、生体の種々の異なった形態や機能を持つ組織や細胞に分化でき、3胚葉(内胚葉、中胚葉、外胚葉)のどの系統の細胞にも分化し得る能力を有する幹細胞を指す。それには、特に限定されないが、例えば、胚性幹細胞(ESC)、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹細胞、精子幹細胞、胚性生殖細胞、人工多能性幹細胞(本明細書中、「iPSC」と称することもある)などが挙げられる。
また、本発明において使用可能な「多能性幹細胞(multipotent stem cell)」とは、複数の限定的な数の系統の細胞へと分化できる能力を有する幹細胞を指す。本発明において使用可能な「多能性幹細胞(multipotent stem cell)」としては、例えば、歯髄幹細胞、口腔粘膜由来幹細胞、毛包幹細胞、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の体性幹細胞などが挙げられる。好ましい多能性幹細胞(pluripotent stem cell)は、ESC及びiPSCである。
【0021】
「人工多能性幹細胞(iPSC)」とは、哺乳動物体細胞又は未分化幹細胞に、特定の因子(核初期化因子)を導入して再プログラミングすることにより得られる細胞を指す。現在、「人工多能性幹細胞」にはさまざまなものがあり、山中らにより、マウス線維芽細胞にOct3/4・Sox2・Klf4・c-Mycの4因子を導入することにより、樹立されたiPSC(Takahashi K, Yamanaka S., Cell, (2006) 126: 663-676)のほか、同様の4因子をヒト線維芽細胞に導入して樹立されたヒト細胞由来のiPSC(Takahashi K, Yamanaka S., et al. Cell, (2007) 131: 861-872.)、上記4因子導入後、Nanogの発現を指標として選別し、樹立したNanog-iPS細胞(Okita, K., Ichisaka, T., and Yamanaka, S. (2007). Nature 448, 313-317.)、c-Mycを含まない方法で作製されたiPS細胞(Nakagawa M, Yamanaka S., et al. Nature Biotechnology, (2008) 26, 101 - 106)、ウイルスフリー法で6因子を導入して樹立されたiPS細胞(Okita K et al. Nat. Methods 2011 May;8(5):409-12, Okita K et al. Stem Cells. 31(3):458-66.)も用いることができる。また、Thomsonらにより作製されたOCT3/4・SOX2・NANOG・LIN28の4因子を導入して樹立された人工多能性幹細胞(Yu J., Thomson JA. et al., Science (2007) 318: 1917-1920.)、Daleyらにより作製された人工多能性幹細胞(Park IH, Daley GQ. et al., Nature (2007) 451: 141-146)、桜田らにより作製された人工多能性幹細胞(特開2008-307007号)等も用いることができる。
このほか、公開されているすべての論文(例えば、Shi Y., Ding S., et al., Cell Stem Cell, (2008) Vol3, Issue 5,568-574;、Kim JB., Scholer HR., et al., Nature, (2008) 454, 646-650;Huangfu D., Melton, DA., et al., Nature Biotechnology, (2008) 26, No 7, 795-797)、あるいは特許(例えば、特開2008-307007号、特開2008-283972号、US2008-2336610、US2009-047263、WO2007-069666、WO2008-118220、WO2008-124133、WO2008-151058、WO2009-006930、WO2009-006997、WO2009-007852)に記載されている当該分野で公知の人工多能性幹細胞のいずれも用いることができる。
「人工多能性幹細胞」としては、NIH、理研(理化学研究所)、京都大学等が樹立した各種iPSC株が利用可能である。例えば、ヒトiPSC株であれば、理研のHiPS-RIKEN-1A株、HiPS-RIKEN-2A株、HiPS-RIKEN-12A株、Nips-B2株、京都大学の253G1株、201B7株、409B2株、454E2株、606A1株、610B1株、648A1株等が挙げられる。あるいは、京都大学やCellular Dynamics International等から提供される臨床グレードの細胞株並びにそれらの細胞株を用いて作製された研究用および臨床用の細胞株等を用いてもよい。
【0022】
「胚性幹細胞(ESC)」としては、マウスESCであれば、inGenious targeting laboratory社、理研(理化学研究所)等が樹立した各種マウスESC株が利用可能であり、ヒトESCであれば、NIH、理研、京都大学、Cellartis社が樹立した各種ヒトESC株が利用可能である。たとえば、ヒトESC株としては、NIHのCHB-1~CHB-12株、RUES1株、RUES2株、HUES1~HUES28株等、WisCell ResearchのH1株、H9株、理研のKhES-1株、KhES-2株、KhES-3株、KhES-4株、KhES-5株、SSES1株、SSES2株、SSES3株等を利用することができる。あるいは、臨床グレードの細胞株並びにそれらの細胞株を用いて作製された研究用および臨床用の細胞株等を用いてもよい。
【0023】
「~を含む(comprise(s)又はcomprising)」とは、その語句に続く要素の包含を示すがこれに限定されないことを意味する。したがって、その語句に続く要素の包含は示唆するが、他の任意の要素の除外は示唆しない。
「~からなる(consist(s) of又はconsisting of)」とは、その語句に続くあらゆる要素を包含し、かつ、これに限定されることを意味する。したがって、「~からなる」という語句は、列挙された要素が要求されるか又は必須であり、他の要素は実質的に存在しないことを示す。「~から本質的になる」とは、その語句に続く任意の要素を包含し、かつ、その要素について本開示で特定された活性又は作用に影響しない他の要素に限定されることを意味する。したがって、「~から本質的になる」という語句は、列挙された要素が要求されるか又は必須であるが、他の要素は任意選択であり、それらが列挙された要素の活性又は作用に影響を及ぼすかどうかに応じて、存在させる場合もあり、存在させない場合もあることを示す。
【0024】
本発明に係る細胞の製造方法は、所望の物質が導入された細胞の製造方法であって、以下の工程1を含む。
工程1:細胞非接着性容器内において、細胞への前記物質のトランスフェクションが可能な条件下で、細胞の凝集体を形成する工程。
また、本発明の他の一側面に係る細胞の製造方法は、目的の細胞の製造方法であって、工程1に加えて以下の工程2を含む。
工程2:前記物質が導入された細胞のなかから、該物質の細胞内での機能に基づいて目的の細胞を選別する工程。
なお、工程1は、本発明に係る所望の物質を細胞に導入する方法に相応する。
工程1は、より具体的には以下の工程1-1及び工程1-2のいずれかを含む。
工程1-1:細胞非接着性容器内において、トランスフェクション試薬及び前記物質並びにマイクロキャリアの存在下で細胞を培養し、前記物質が導入された細胞と前記マイクロキャリアとからなる凝集体を形成する工程。
工程1-2:細胞非接着性容器内において、トランスフェクション試薬及び前記物質の存在下で細胞を培養し、前記物質が導入された細胞からなる凝集体を形成する工程。
【0025】
本明細書中において、目的の細胞とは、例えば複数のサブタイプを含む成熟した細胞集団であってよい。複数のサブタイプを含む成熟した細胞集団として、例えば、成熟した心筋細胞集団には、心室筋細胞、心房筋細胞及びペースメーカー細胞などのサブタイプが含まれる。
【0026】
本発明に係る細胞の製造方法において、細胞は、真核細胞であれば特に限定されず、例えば、酵母、真菌、原生生物、植物細胞、昆虫細胞、両生類細胞、爬虫類細胞、鳥類細胞、非ヒト哺乳類細胞、ヒト細胞であってよい。非ヒト哺乳類動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ及びサルが例示される。細胞は、培養細胞(in vitro及びex vivo)であってよい。
細胞は、好ましくは接着性細胞とされる。細胞は、特には、マイクロキャリアへの接着能を有し、細胞非接着性容器内においてマイクロキャリアとともに培養されるとマイクロキャリアに接着し得る細胞とされる。あるいは、細胞は、凝集能を有し、細胞非接着性容器内において培養されると凝集体を形成し得る細胞とされる。
細胞は、1種類又は2種類以上であってよい。
【0027】
細胞に導入される物質は、特に限定されないが、例えば、核酸、タンパク質及び粒子などであってよい。
核酸としては、DNA、RNA及びプラスミドなどが挙げられる。これら核酸は、非天然型のヌクレオシドを含んでいてもよい。
RNAとして、特に(i)特定の細胞で発現するマイクロRNA(miRNA)を特異的に認識する核酸配列と、(ii)所望のタンパク質の遺伝子コード領域に対応する核酸配列を含んでなる、miRNA応答性RNAが挙げられる。miRNA応答性RNAでは、(i)の核酸配列が標的となるmiRNAを認識することにより、(ii)の核酸配列のタンパク質への翻訳が制御されている。具体的には、特定の細胞で発現するmiRNAに(i)の核酸配列が結合し二重鎖を形成することで、(ii)の核酸配列の遺伝子コード領域からの転写および翻訳が阻害(すなわち、オフ)に制御される(詳しくは後述する)。
プラスミドは、細胞内で発現させる遺伝子と遺伝子発現のためのプロモータなどを組み込んだものであってよい。
タンパク質としては、抗体、酵素及び蛍光タンパク質などが挙げられる。
粒子としては、樹脂製又は金属製のマイクロビーズ、金コロイドや銀コロイドなどのコロイド粒子などが挙げられる。マイクロビーズは、化合物や高分子を修飾あるいは含有させたものであってもよく、抗体やアビジン/ビオチンなどを結合したアフィニティービーズや、蛍光ビーズ、薬剤徐放ビーズなどとできる。化合物あるいは薬剤としては、センサー、細胞内反応の賦活剤や阻害剤、酸やアルカリなどが挙げられる。また、マイクロビーズは、フェライトビーズなどの磁性を有するものであってもよい。ポリマーは、温度やpHに感応して構造が変化する機能性ポリマーであってよい。
【0028】
工程1:凝集体形成工程
工程1-1では、細胞非接着性容器内において、トランスフェクション試薬及び物質並びにマイクロキャリアの存在下で細胞を培養する。細胞は分散された状態で培養に供されることが好ましく、必要に応じて工程1の前段工程においてマイクロキャリアから剥離され、分散される。剥離処理は、酵素及びキレート剤などによる化学的処理、ピペッティングなどによる物理的処理、及びこれらの組み合わせを採用できる。化学処理には市販の試薬(例えば、Liberase TM Research Grade、Roche社;StemPro Accutase Cell Dissociation Reagent、Gibco社;TrypLE Select CTS、Gibco社など)を用いることができる。分散処理も、公知の手法によって行うことができ、例えば、酵素及びキレート剤などによる化学的処理、ピペッティングなどによる物理的処理、及びこれらの組み合わせを採用できる。化学処理には市販の試薬(例えば、Liberase TM Research Grade、Roche社;StemPro Accutase Cell Dissociation Reagent、Gibco社;TrypLE Select CTS、Gibco社など)を用いることができる。
【0029】
培養には、細胞と前記マイクロキャリアとからなる凝集体または細胞のみからなる凝集体を形成させるために、細胞非接着性容器が用いられる。細胞非接着性容器には、容器の表面が細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリクス等によるコーティング処理)されていないものを使用できる。あるいは、容器の表面が、細胞との接着性を低下させる目的で人工的に処理(例えば、疎水性の分子によるコーティング処理)されているものを使用することもできる。なお、「細胞非接着性」とは、接着性細胞が接着しないか、または接着しにくい(例えば、容器に播種した細胞の総数に対して、20%未満、好ましくは10%未満、更に好ましくは1%未満の細胞が容器に接着している)ことを意味する。
このような容器として、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、及びステンレスなどを材料とする容器が挙げられる。
容器は、マイクロプレート、シャーレ(ディッシュ)、細胞培養フラスコ(スピナーフラスコ、シェイカーフラスコ等)、細胞培養バッグ、ローラーボトル、バイオリアクター及び培養槽(タンク)などであってよく、製造規模(例えば、1mL~2000L)に応じて適宜選択される。本発明においては特に大容量(例えば、100mL~2000L)のものが好適に用いられ得る。
【0030】
トランスフェクション試薬は、従来公知の試薬であってよく、例えば陽イオン性リポソーム(Lipofectamine MessengerMAX(Thermo Fisher Scientific 社)、mRNAIn stem(LIFE GENE社)など)、脂質(HiPerFect Transfection Reagent (Qiagen社)、TransMessenger Transfection Reagent (Qiagen社)、Lipofectamine Stem reagents (Qiagen社)、Lipofectamine Stem reagents (Thermo Fisher Scientific社)、RiboJuice mRNA Transfection Kit(Merck社)など)、リン酸カルシウム(ProFection(登録商標) Mammalian Transfection System(Promega社)など)、ポリマー(jetPEI(Polyplus transfection社)、DEAE Dextran(GE Healthcare Bio-Sciences AB社)など)等が用いられ得る。また、トランスフェクション試薬として、カチオン性脂質等の脂質分子を含む脂質ナノ粒子(Lipid nanoparticle、LNP)も用いることができる。トランスフェクション試薬は、細胞の種類や細胞に導入する物質の種類に応じて適宜選択することができる。
トランスフェクション試薬の使用量は、試薬、細胞及びトランスフェクション条件などによって変わり得るが、代表的には、2×10個の細胞に対してmRNAを600ng導入する場合、Lipofectamine MessengerMAXは7.5μLを用いる。
【0031】
トランスフェクション試薬の他にも、従来公知の方法(例、エレクトロポレーション、リポフェクション)により、トランスフェクションを行うことができる。例えば、エレクトロポレーションによれば、物質を適用した細胞を含む緩衝液に適当な電圧をかけることにより、物質が細胞膜を通過し、細胞内へと導入される。別の例として、リポフェクションによれば、脂質と物質とのコンプレックスを細胞に適用することにより、当該コンプレックスが細胞膜を通過し、物質が細胞内へと導入される。上記の通り、本発明におけるトランスフェクションの手法は特に限定されず、例えば、Nature Protocols(K.Yusa et al,vol.8,No.10,2013,2061-2078)、Nature Protocols(T.Sakuma et al,vol.11,No.1,2016,118-133)、Nature Protocols(B.Wefers et al,vol.8,No.12,2013,2355-2379)等に記載された手法を採用できる。
【0032】
マイクロキャリアは、表面に細胞が接着し得るものであって、細胞が接着したマイクロキャリアを液体培地中で懸濁させることで、細胞の培養に供することできる担体を意味する。マイクロキャリアは、表面に細胞を付着させた状態で液体培地中に懸濁されて細胞の培養が可能な担体であれば、その材質、形状及び大きさなどは特に制限されない。
マイクロキャリアの材質としては、デキストラン、ゼラチン、コラーゲン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリアクリルアミド、ガラス、セルロースなどが挙げられる。
マイクロキャリアの形状としては、球状(ビーズ)、円盤状などが挙げられる。
球状のマイクロキャリアの大きさは、例えば直径2~1000μm、好ましくは100~300μmである。
マイクロキャリアは多孔性であってもよい。
細胞の培養に用いるマイクロキャリアの数は、特に限定されないが、例えば、細胞10個あたり1個のマイクロキャリアである。
細胞の培養に用いるマイクロキャリアの量は、特に限定されないが、例えば細胞1×106個から5×107個に対してマイクロキャリア0.1g、好ましくは細胞2×107個から3×107個に対してマイクロキャリア0.1gである。
マイクロキャリアは、市販のものであってもよく、例えば高濃度Synthemax IIマイクロキャリア(Corning社)が用いられ得る。
【0033】
接着性細胞を細胞非接着性容器内においてトランスフェクション試薬及び所望の物質並びにマイクロキャリアを添加して、静置培養することにより、細胞がマイクロキャリアに接着して凝集体が形成され、その過程で物質が細胞に導入される。
ここでの「凝集体」は、少なくとも1つの細胞と1つのマイクロキャリアを含む集合体を意味する。
凝集体のサイズは、使用するマイクロキャリアの大きさに依存し、特に限定されない。
1つのマイクロキャリアに接着する細胞の数は、特に限定するものではないが、例えば2~500個、好ましくは、50~300個である。
また、培養細胞のうち、凝集体を形成する細胞と形成していない細胞との総数に対する凝集体形成細胞の割合は、特に限定するものではないが、例えば、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または100%である。
【0034】
工程1-2では、マイクロキャリアを用いずに、トランスフェクション試薬及び物質の存在下で細胞を培養する。
接着性細胞を細胞非接着性容器内においてトランスフェクション試薬及び物質を添加して、静置培養することにより、マイクロキャリアなしでも細胞同士が凝集体を形成し、その過程で物質が細胞に導入される。
ここでの「凝集体」は、少なくとも2つの細胞を含む集合体を意味する。凝集体の多くは、多数の細胞が接着したものが占める。
1つの凝集体を形成する細胞数は、特に限定するものではないが、例えば2~500個、好ましくは、50~300個である。
また、培養細胞のうち、凝集体を形成する細胞と形成していない細胞との総数に対する凝集体形成細胞の割合は、特に限定するものではないが、例えば、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または100%である。
【0035】
工程1(工程1-1及び工程1-2)では、トランスフェクション試薬を用いずに、マイクロキャリアの存在下又は不存在下で、細胞を物質とともに培養することによりトランスフェクションを行うこともできる(例えば、エレクトロポーション)。
【0036】
凝集体形成のため細胞は、トランスフェクションが完了するのに適当な期間静置培養される。静置培養期間としては特に限定されず、例えば2~10時間程度とすることができ、好ましくは3~6時間程度、特に好ましくは4~5時間である。培養条件としては、特に限定されないが、約37℃、5%CO存在下とすることができる。
【0037】
静置培養後、形成された凝集体を維持するために、撹拌培養が行われてもよい。静置培養期間としては特に限定されず、例えば12~48時間程度とすることができ、好ましくは24時間程度である。培養条件としては、特に限定されないが、約37℃、5%CO存在下とすることができる。
撹拌速度と時間は、細胞密度と培養容器の大きさに応じて、適宜設定されるが、代表的には4~6時間静置後、25 rpmで12時間以上撹拌する。過度の撹拌または振盪は細胞に対して物理的ストレスを与え、また凝集体の維持を阻害する。したがって、培地成分および培地内酸素濃度を均一化でき、かつ、凝集体の維持を阻害しないように撹拌速度を制御することが望ましい。
【0038】
培地には、従来公知の培地を特に限定されずに用いることができる。例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM(IMEM)培地、Improved MDM(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地(High glucose、Low glucose)、DMEM/F12培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、及びこれらの混合培地などが用いられる。
培地の使用量は、細胞や培養条件によって変わり得、当業者によって適宜決定され得る。
培地には、細胞や培養条件毎に、必要に応じて、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(製品名)、非必須アミノ酸、ビタミン、抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、又はこれらの混合物)、抗菌剤(例えば、アンホテリシンB)、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等の添加物を添加してもよい。
添加物の使用量は、細胞や培養条件によって変わり得、当業者によって適宜決定され得る。
【0039】
本発明に係る細胞の製造方法によれば、凝集体を形成させて細胞への所望の物質の導入を行うことができる。このため、従来のシャーレやディッシュを使用する方法のように細胞の接着のための容器の表面面積による制約を受けることがなく、所望の物質が導入された細胞を商業レベルで大量に得ることが可能となる。
【0040】
工程2:選別工程
工程2では、所望の物質が導入された細胞のなかから、当該物質の細胞内での機能に基づいて目的の細胞を選別する。
【0041】
目的の細胞の選別は、例えば、所望の物質のトランスフェクションにより細胞内部へと導入されたマーカータンパク質又はマーカー遺伝子を検出することによって行うことができる。マーカーは、陽性選択マーカー或いは陰性選択マーカーでありうる。好ましくは、マーカーは細胞表面マーカーであり、特に細胞表面陽性選択マーカーによれば、生存細胞の濃縮、単離、及び/又は検出が実施可能となる。マーカータンパク質の検出は、当該マーカータンパク質に特異的な抗体を用いた免疫学的アッセイ、例えば、ELISA、免疫染色、フローサイトメトリーなどを利用して行うことができる。マーカータンパク質に特異的な抗体としては、マーカータンパク質における特定のアミノ酸配列又はマーカータンパク質に結合した特定の糖鎖等に結合する抗体を用いることができる。マーカー遺伝子の検出は、当該分野で公知の核酸増幅方法及び/又は核酸検出方法、例えば、RT-PCR、マイクロアレイ、バイオチップ及びRNAseq等を利用して行うことができる。
【0042】
また、目的の細胞の選別は、例えば、導入された蛍光ビーズ又は磁性ビーズを利用して行うこともできる。蛍光ビーズ又は磁性ビーズを利用したフローサイトメトリーによる細胞選別が本技術分野において周知である。
【0043】
所望の物質がRNAである場合、工程2は、マイクロRNA(miRNA)スイッチ法によるものであってよい。miRNAスイッチ法は、上述のmiRNA応答性RNAを用いて、例えば、WO2015/105172、特許文献2及び非特許文献1に記載の方法に従って実施できる。特許文献2及び非特許文献1に記載の方法は、心筋細胞と心筋細胞以外の細胞が混在する細胞群から心筋細胞を選別する方法である(詳しくは後述する)。
【0044】
本発明の一つの実施形態では「目的の細胞」は、心室筋細胞である。
この実施形態では、前記工程2において、miRNA応答性RNAが導入された心筋細胞のなかから、所望のタンパク質への翻訳の有無に基づいて心室筋細胞を選別する。
【0045】
本明細書中、「所望のタンパク質への翻訳が有る」とは、蛍光検出、吸光度、ウェスタンブロッティング、ELISAなどの当該分野で公知の方法により当該タンパク質を検出可能なことを意味する。
【0046】
また、本発明は、多能性幹細胞から目的の細胞を製造する方法であって以下の工程A~工程Dを含む方法をも提供する。
工程A:多能性幹細胞の目的細胞への分化を誘導する工程。
工程B:分化誘導後の細胞を分散させる工程。
工程C:分散後の細胞を細胞非接着性容器内に導入し、細胞への所望の物質のトランスフェクションが可能な条件下で、細胞の凝集体を形成する工程。
工程D:前記物質が導入された細胞のなかから、該物質の細胞内での機能に基づいて前記目的細胞を選別する工程。
【0047】
多能性幹細胞から分化誘導される目的細胞は、特に限定されないが、心筋細胞(心室筋細胞、心房筋細胞、及びペースメーカー細胞などを含む)、膵前駆細胞、神経前駆細胞、肝細胞及び血管内皮細胞等が挙げられる。これらの細胞への分化誘導は、従来公知の条件を適用して行うことができる。
本発明に係る多能性幹細胞から目的の細胞を製造する方法は、例えば、多能性幹細胞から分化誘導された心筋細胞を非心筋細胞(未分化な多能性幹細胞を含む)から分離するため、多能性幹細胞から分化誘導された膵前駆細胞を非膵前駆細胞から分離するため、多能性幹細胞から分化誘導された神経前駆細胞を非神経前駆細胞から分離するため、多能性幹細胞から分化誘導された肝細胞を非肝細胞から分離するため、あるいは多能性幹細胞から分化誘導された血管内皮細胞を非血管内皮細胞から分離するために適用できる。
以下には、多能性幹細胞から心筋細胞を誘導し、miRNAスイッチ法を用いて心筋細胞から特に心室筋細胞を選別する例を用いて、本発明に係る多能性幹細胞から目的の細胞を製造する方法を具体的に説明する。
【0048】
工程A:分化誘導工程
工程Aでは、多能性幹細胞の心筋細胞への分化を誘導する。
本発明において「心筋細胞」とは、少なくとも心筋トロポニン(cTnT)またはαMHCを発現している細胞を意味する。cTnTは、ヒトの場合NCBIのaccession番号NM_000364が例示され、マウスの場合、NM_001130174が例示される。αMHCは、ヒトの場合NCBIのaccession番号NM_002471が例示され、マウスの場合、NM_001164171が例示される。
心筋細胞への分化誘導は、例えば特許文献2及び非特許文献1記載の方法を採用できる。あるいは、例えばLaflamme MAらにより報告された方法により、多能性幹細胞から心筋細胞を製造することができる(Laflamme MA &Murry CE, Nature 2011, Review)。この他にも特に特定されないが、例えば、人工多能性幹細胞を浮遊培養により細胞塊(胚様体)を形成させて心筋細胞を製造する方法、BMPシグナル伝達を抑制する物質の存在下で心筋細胞を製造する方法(WO2005/033298)、Activin AとBMPを順に添加させて心筋細胞を製造する方法(WO2007/002136)、カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質の存在下で心筋細胞を製造する方法(WO2007/126077)および人工多能性幹細胞からFlk/KDR陽性細胞を単離し、シクロスポリンAの存在下で心筋細胞を製造する方法(WO2009/118928)などが例示される。
【0049】
工程B:分散工程
工程Bでは、分化誘導後の心筋細胞を分散させる。
分散処理は、公知の手法によって行うことができ、例えば、酵素及びキレート剤などによる化学的処理、ピペッティングなどによる物理的処理、及びこれらの組み合わせを採用できる。化学処理には市販の試薬(例えば、Liberase TM Research Grade、Roche社;StemPro Accutase Cell Dissociation Reagent、Gibco社;TrypLE Select CTS、Gibco社など)を用いることができる。
【0050】
工程C:凝集体形成工程
工程Cでは、細胞非接着性容器内において、心筋細胞へのマイクロRNA(miRNA)応答性RNAのトランスフェクションが可能な条件下で、細胞の凝集体を形成する。工程Cの具体的な手順は工程1と同様である。
【0051】
miRNA応答性RNAは、(i)心室筋細胞で特異的に発現するmiRNAを特異的に認識する核酸配列と、これに機能的に連結した(ii)所望のタンパク質の遺伝子コード領域に対応する核酸配列を含んでなる。(ii)の核酸配列のタンパク質への翻訳は、(i)の核酸配列により制御される。
(ii)の遺伝子コード領域に対応する核酸のタンパク質への翻訳が(i)の核酸配列により制御されているとは、心室筋細胞で特異的に発現しているmiRNAが存在する場合に、その存在量に応じて遺伝子コード領域に対応する核酸のタンパク質への翻訳が制御されることを意味する。より好ましくは、心室筋細胞で特異的に発現しているmiRNAが(i)の核酸配列に結合し二重鎖を形成することで、(ii)の核酸配列の遺伝子コード領域からの転写および翻訳が阻害される(オフスイッチ型miRNA応答性RNA)。
(i)の核酸配列と(ii)の核酸配列が機能的に連結されるとは、(ii)の遺伝子コード領域の5’UTR内、3’UTR内、及び/または当該オープンリーディングフレーム内に、少なくとも1つの(i)の核酸配列を備えることを意味する。
【0052】
「心室筋細胞で特異的に発現するマイクロRNA(miRNA)」とは、心室筋細胞以外の細胞と比較して心室筋細胞でより高く発現しているmiRNAであれば特に限定されない。例えば、心室筋細胞以外の細胞と比較して心筋細胞において、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上あるいはそれ以上の割合で高く発現しているmiRNAであってよいが、これらには限定されない。このようなmiRNAは、データベースの情報(例えば、http://www.mirbase.org/又はhttp://www.microrna.org/)に登録されたmiRNA、及び/または当該データベースに記載されている文献情報に記載されたmiRNAより適宜選択することができる。
【0053】
(i)の核酸配列に関し、「心室筋細胞で特異的に発現しているmiRNAを特異的に認識する」とは、当該miRNAが所定の複数のタンパク質と相互作用してRNA-inducedsilencing complex(RISC)を形成した状態で(i)の核酸配列上に存在していることをいうものとする。
【0054】
(ii)の核酸配列に関し、「タンパク質の遺伝子コード領域」は、細胞内で翻訳されて、心室筋細胞の選別を可能にする任意のタンパク質をコードする核酸遺伝子である。
一例として、「遺伝子」はマーカー遺伝子であってよい。「マーカー遺伝子」とは、細胞内で翻訳されて、マーカーとして機能し、心室筋細胞の選別を可能にする任意のタンパク質をコードする遺伝子である。
細胞内で翻訳されてマーカーとして機能しうるタンパク質としては、蛍光タンパク質やアポトーシス誘導タンパク質が例示できる。蛍光タンパク質は公知の種々の分子を用いることができる。アポトーシス誘導タンパク質としては、例えば、IκB、Smac/DIABLO、ICE、HtrA2/OMI、AIF、endonuclease G、Bax、Bak、Noxa、Hrk (harakiri)、Mtd、Bim、Bad、Bid、PUMA、activated caspase-3、Fas、Tk等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
miRNA応答性RNAとしては、心室筋細胞に特異的なmiRNA(例えばmiR-208b-3p(配列番号1))を認識する配列(miRNA target sites)と蛍光タンパク質の遺伝子の配列とを組み合わせたオンスイッチ型人工RNA(miRNAスイッチ: synthetic mRNA)を用いることができる。この人工RNAを心筋細胞に導入すると、miRNAが存在する心室筋細胞では人工RNAにmiRNAが結合し、蛍光タンパク質が発現する(オンスイッチ)。一方、前記miRNAが存在しない心室筋細胞以外の細胞では人工RNAはmiRNAと結合しないため、蛍光タンパク質が発現しない。
あるいは、miRNA応答性RNAとして、心室筋細胞に特異的なmiRNAを認識する配列とアポトーシス誘導遺伝子(例えばBim)の配列とを組み合わせたオフスイッチ型人工RNAを用いてもよい。この人工RNAを細胞に導入すると、miRNAが存在する心筋細胞では人工RNAはmiRNAと結合し、アポトーシスを引き起こす遺伝子の発現が抑制される(オフスイッチ)。一方、前記miRNAが存在しない心室筋細胞以外の細胞では人工RNAはmiRNAと結合しないため、アポトーシスを引き起こす遺伝子が発現しアポトーシスが起こる。
【0056】
工程D:選別工程
工程Dでは、miRNA応答性RNAが導入された心筋細胞のなかから、miRNA応答性RNAの心筋細胞内での機能に基づいて心室筋細胞を選別し、取得する。
上記の心室筋細胞に特異的なmiRNAを認識する配列と蛍光タンパク質の遺伝子の配列とを組み合わせたオンスイッチ型人工RNAを用いる場合には、蛍光タンパク質の発現が陽性であるあるいは発現量が所定値以上である心室筋細胞を、心室筋以外の蛍光タンパク質の発現が陰性であるあるいは発現量が所定値未満である細胞から、セルソーターなどを利用して分離する。
また、上記の心室筋細胞に特異的なmiRNAを認識する配列とアポトーシス誘導遺伝子の配列とを組み合わせたオフスイッチ型人工RNAを用いる場合には、心室筋以外の細胞はアポトーシスを起こすため、心室筋細胞を機器で選別をすることなく、自動的に純化できる。
【0057】
本発明に係る細胞の製造方法によれば、工程Cにおいて、細胞に凝集体を形成させて物質の細胞への導入を行うことができる。このため、細胞の接着のための容器の表面面積が制約となることがなく、所望の物質が導入された細胞を商業レベルで大量に得ることができ、工程Dにおいて目的とする分化細胞を商業レベルで大量に得ることが可能となる。
【実施例
【0058】
[実施例1:iPSCからの心筋細胞の製造1]
本実施例では、iPSCから誘導した心筋細胞を、トランスフェクション試薬と蛍光タンパク質を発現するRNA(EmGFP mRNA)の存在下で撹拌培養し、凝集体を形成させることによって、心筋細胞へのRNAの導入を行った。
(1)心筋細胞の誘導
Synthemax II(Corning社)でコートした10cmディッシュを用い、Essential 8培地(Gibco社)にて維持、培養したiPSC(Ff-I14s04、京都大学iPS細胞研究所から入手)を、30 mL バイオリアクター内のRPMI-1640培地(Gibco社)に1.5×106 cells/mLで播種した。RPMI-1640培地は、10μmol/L Y-27632(Wako社)が添加されており、マイクロキャリア(高濃度Synthemax IIマイクロキャリア、Corning社)0.55g(表面積に換算すると198cm2)を含む。
インキュベーターにて、低酸素濃度(5%)、37℃で2日間培養した後、Basal培地としてRPMI-1640培地を用いて21日間、分化誘導を行った。
【0059】
(2)RNAトランスフェクション
(RNAの作製)
EmGFP mRNA、ならびに、miR-208a-3pおよびtagBFPからなるmiRNA応答性オフスイッチmRNAを、それぞれのmRNAに対応するDNA配列(配列番号2および配列番号3)に基づいて、以下の方法により作製した。
Warren L, et al., Cell Stem Cell. 7(5):618-30 (2010)に記載のプロトコールを用いて、MEGAscript Τ7 kit (Thermo Fisher Scientific)により、mRNAを作製した。この反応において、ウリジン三リン酸及びシチジン三リン酸に替えて、シュ一ドウリジン-5’-三リン酸及びメチルシチジン-5’-三リン酸(TriLink BioTechnologies)をそれぞれ用いた。IVT(mRNA合成)反応の前に、グアニジン-5’-三リン酸は、Anti Reverse cap Analog (Trilink Biotechnologies)で5倍希釈した。反応混合液を37℃で5時間インキュベ一卜して、TURBO DNase (Thermo Fisher Scientific)を加えた後、37℃でさらに30分インキュべ一卜した。得られたmRNAは、FavorPrep Blood / Cultured Cells total RNA extraction column (Favorgen Biotech)で精製し、Antarctic phosphatase (New England BioLabs)を用いて37℃で30分インキュベ一卜した。その後、RNeasy Mini Elute Cleanup Kit (QIAGEN)により、さらに精製した。
【0060】
(mRNAのトランスフェクション)
分化誘導後の細胞(マイクロキャリア上の細胞及びマイクロキャリアから脱離した細胞を含む)を回収した後、以下の手順により、マイクロキャリアからの細胞の剥離と、細胞の分散と、を行った。
Liberase(Liberase TM Research Grade、Roche社)を含むIMDM (Iscove's Modified Dulbecco's Medium、1% DNase 添加)で40分処理した。
次に、Accutase(StemPro Accutase Cell Dissociation Reagent、Gibco社)で10分間処理した。
最後に、ピペッティングを行った。
【0061】
ピペッティング後の細胞溶液をセルストレイナー(Sterile Cell Strainer 40μm、Fisher Scientific社)に通して、シングルセルを回収した。
遠心分離して上清を除去後、RPMI-1640培地(B27 Supplement 1/50 (vol/vol)添加、Y-27632 10μmol/L添加)で2×106 cells/mLに懸濁した。2×106 cells/mLあたり、Opti-MEM培地(Gibco社)125μLにLipofectamine MessengerMAX(Invitrogen社)7.5μL、100ng/μL EmGFP mRNA 3μL、ならびに、miR-208a-3pおよびtagBFPからなる100ng/μL miRNA応答性オフスイッチmRNA 3μLを混合し、さらに細胞懸濁液を混合した後、直ちに30mL バイオリアクター(30mL シングルユースバイオリアクター、Biott社)に移した。
インキュベーターにて、通常酸素濃度(21 %)、37℃で4時間静置培養した。その後、30mL バイオリアクターに培養液量が30mLとなるように、RPMI-1640培地(B27 Supplement 1/50 (vol/vol)添加、Y-27632 10μmol/L添加)を加え、25 rpmにて撹拌培養を開始した。
翌日、培養液を遠心分離することにより細胞凝集体を回収し、Accutase (StemPro Accutase Cell Dissociation Reagent、gibco社)で20分処理後にピペッティングし、RPMI-1640培地(DNase, Bovine Pancreas 10μg/mL添加)を加えた。さらに、遠心分離により細胞を回収し、D-PBS(-)溶液(Wako社)に懸濁後、再度、遠心分離することで細胞を回収した。回収した細胞に0.5% BSA/PBS溶液(BSA(Wako社、30w/v% Albumin Solution, from Bovine Serum, Fatty Acid Free)をPBSに1/60(vol/vol)添加)を加え、ピペッティングし、単一の細胞とし、フローサイトメトリー(FACS Aria Fusion)を用いて、EmGFPに起因する蛍光を発する細胞を確認した(図1)。
さらに、tag-BFPについても、フローサイトメトリーを用いてEmGFPとtag-BFPに起因する蛍光発現比を求めることで、tag-BFP/EmGFPが低下した細胞を心筋細胞として選別することができる。
【0062】
[実施例2:iPSCからの心筋細胞の製造2]
本実施例では、iPSCから誘導した心筋細胞を、トランスフェクション試薬、蛍光タンパク質を発現するRNA(EmGFP mRNA)及びマイクロキャリアの存在下で撹拌培養し、凝集体を形成させることによって、心筋細胞へのRNAの導入を行った。
【0063】
(1)心筋細胞の誘導
Synthemax II(Corning社)でコートした10cmディッシュを用い、Essential 8培地(Gibco社)にて維持、培養したiPSC(Ff-I14s04、京都大学iPS細胞研究所から入手)を、30 mL バイオリアクター内のRPMI-1640培地(Gibco社)に4×105 cells/mLで播種した。RPMI-1640培地は、10μmol/L Y-27632(Wako社)が添加されており、マイクロキャリア(高濃度Synthemax IIマイクロキャリア、Corning社)0.55g(表面積に換算すると198cm2)を含む。
インキュベーターにて、低酸素濃度(5%)、37℃で4日間培養した後、Basal培地としてRPMI-1640培地を用いて35日間、分化誘導を行った。
【0064】
(2)RNAトランスフェクション
(RNAの作製)
実施例1と同様の方法で100ng/μL EmGFP mRNA、ならびに、miR-208a-3pおよびtagBFPからなる100ng/μL miRNA応答性オフスイッチmRNAを作製した。
【0065】
(mRNAのトランスフェクション)
分化誘導後の細胞(マイクロキャリア上の細胞及びマイクロキャリアから脱離した細胞)を回収した後、以下の手順により、マイクロキャリアからの細胞の剥離と、細胞の分散と、を行った。
Liberase(Liberase TM Research Grade、Roche社)を含むIMDM (Iscove's Modified Dulbecco's Medium、1% DNase 添加)で40分処理した。
次に、TrypLE select(TrypLE Select CTS、Gibco社)で10分間処理した。
最後に、ピペッティングを行った。
【0066】
ピペッティング後の細胞溶液をセルストレイナー(Sterile Cell Strainer 40μm、Fisher Scientific社)に通して、シングルセルを回収した。
遠心分離して上清を除去後、RPMI-1640培地(B27 Supplement 1/50 (vol/vol)添加、Y-27632 10μmol/L添加)で懸濁した。細胞懸濁液(細胞数18.2×106)に、mRNAIn stem(LIFE GENE社)18μL、100ng/μL EmGFP mRNA 27μL、ならびに、miR-208a-3pおよびtagBFPからなる100ng/μL miRNA応答性オフスイッチmRNA 27μL)を混合し、直ちに0.1 gのマイクロキャリア(高濃度Synthemax IIマイクロキャリア)を含む30mL バイオリアクター(30mL シングルユースバイオリアクター、Biott社)に移した。
インキュベーターにて、通常酸素濃度(21 %)、37℃で5時間静置培養した。
その後、30mL バイオリアクターに培養液量が30mLとなるように、RPMI-1640培地(B27 Supplement 1/50 (vol/vol)添加、Y-27632 10μmol/L添加)を加え、25 rpmにて撹拌培養を開始した。
翌日、得られた細胞凝集体を、実施例1に準じてAccutase(StemPro Accutase Cell Dissociation Reagent、Gibco社)で処理後、ピペッティングし、セルストレイナー(Sterile Cell Strainer 40μm、Fisher Scientific社)にて単一の細胞を回収し、フローサイトメトリー(FACS Aria Fusion)を用いて、EmGFPに起因する蛍光を発する細胞を確認した(図2)。
さらに、tag-BFPについても、フローサイトメトリーを用いてEmGFPとtag-BFPに起因する蛍光発現比を求めることで、tag-BFP/EmGFPが低下した細胞を心筋細胞として選別することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、所望の物質が導入された細胞を、商業レベルで大量に製造するのに有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0068】
配列番号1:ヒトmiR-208b-3pに対応するRNA配列
配列番号2:EmGFP mRNAに対応するDNA配列
配列番号3:miR-208a-3pおよびtagBFPからなるmiRNA応答性オフスイッチmRNAに対応するDNA配列
図1
図2
【配列表】
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