(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】ABCC11阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/426 20060101AFI20240221BHJP
A61K 31/4196 20060101ALI20240221BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20240221BHJP
A61K 31/343 20060101ALI20240221BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20240221BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240221BHJP
A61P 19/06 20060101ALI20240221BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240221BHJP
A61Q 15/00 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
A61K31/426
A61K31/4196
A61K31/519
A61K31/343
A61K8/49
A61P17/00
A61P19/06
A61P43/00 111
A61Q15/00
(21)【出願番号】P 2021540992
(86)(22)【出願日】2020-08-21
(86)【国際出願番号】 JP2020031672
(87)【国際公開番号】W WO2021033773
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-02-08
(32)【優先日】2019-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 優
(72)【発明者】
【氏名】高田 龍平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋史
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/023126(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/148835(WO,A1)
【文献】Zhe-Sheng CHEN et al.,“Transport of Bile Acids, Sulfated Steroids, Estradiol 17-β-d-Glucuronide, and Leukotriene C4 by Human Multidrug Resistance Protein 8 (ABCC11)”,Molecular Pharmacology,2004年11月10日,Vol. 67, No. 2,p.545-557,DOI: 10.1124/mol.104.007138
【文献】KEPPLER, Dietrich,Multidrug Resistance Proteins (MRPs, ABCCs): Importance for Pathophysiology and Drug Therapy,Handbook of Experimental Pharmacology,2010年10月26日,Vol. 201,p. 299-323
【文献】EL-SHEIKH, AAK, et al.,Effect of hypouricaemic and hyperuricaemic drugs on the renal urate efflux transporter, multidrug re,British Journal of Pharmacology,2008年08月25日,Vol. 155,p. 1066-1075
【文献】SHEN, Zancong, et al.,In Vitro and In Vivo Interaction Studies Between Lesinurad, a Selective Urate Reabsorption Inhibitor,Clin. Drug Investig.,2016年03月07日,Vol. 36,p. 443-452
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、A61Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I
【化1】
[式中、
R
1はハロゲン原子、ニトロ基(-NO
2)、シアノ基(-CN)、ホルミル基(-CHO)又はトリフルオロメチル基(-CF
3)であり、
R
2は水素原子、又は炭素数1~10個の直鎖若しくは分岐アルキル基を有するアルコキシ基であり、
Xはカルボキシル基(-CO
2H)、カルバモイル基(-CONH
2)又は炭素数1~5個の直鎖若しくは分岐アルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基であり、そして
Yは水素原子又は炭素数1~4個の直鎖若しくは分岐アルキル基である。]
で示される化合物又はその塩を有効成分とする、ABCC11阻害剤。
【請求項2】
Xがカルボキシル基であり、Yがメチル基である、請求項1記載の阻害剤。
【請求項3】
R
2が炭素数1~4個の直鎖若しくは分岐アルキル基を有するアルコキシ基である、請求項1又は2記載の阻害剤。
【請求項4】
R
1がシアノ基である、請求項1~3のいずれか1項記載の阻害剤。
【請求項5】
一般式II
【化2】
[式中、
R
3は水素原子、ハロゲン原子、シアノ基(-CN)、水酸基(-OH)、ニトロ基(-NO
2)又はアミノ基(-NH
2)であり、
R
4は水酸基(-OH)、アミノ基(-NH
2)、炭素数1~6個の直鎖若しくは分岐アルキル基を有するアルコキシ基、又は炭素数1~6個の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されたモノアルキルアミノ基若しくはジアルキルアミノ基であり、
R
5はシアノ基(-CN)、炭素数1~6個の直鎖若しくは分岐アルキル基、又は炭素数3~5個のシクロアルキル基であり、
Zは炭素原子又は窒素原子であり、そして
Wは硫黄原子又は酸素原子である。]
で示される化合物又はその塩を有効成分とする、ABCC11阻害剤。
【請求項6】
R
3がF、Cl、又はBrである、請求項5記載の阻害剤。
【請求項7】
R
4が水酸基、又は炭素数1~4個の直鎖若しくは分岐アルキル基を有するアルコキシ基である、請求項5又は6記載の阻害剤。
【請求項8】
R
5がシアノ基又はシクロプロピル基である、請求項5~7のいずれか1項記載の阻害剤。
【請求項9】
Zが窒素原子であり、Wが硫黄原子である、請求項5~8のいずれか1項記載の阻害剤。
【請求項10】
アロプリノール(Alloprinol)、ベンズブロマロン(Benzbromarone)、フェブキソスタット(Febuxostat)、レシヌラド(Lesinurad)、
及びオキシプリノール(Oxypurinol
)からなる群から選択される化合物を有効成分とする、ABCC11阻害剤。
【請求項11】
in vitroにおいて、ABCC11タンパク質を発現する形質膜小胞のABCC11介在性の低分子物質の輸送を80%以下に低減させる、請求項1~9のいずれか1項記載の阻害剤。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項記載の阻害剤を含有する腋臭症の予防若しくは治療のための医薬組成物又は制汗若しくはデオドラントのための化粧用組成物。
【請求項13】
外用薬である、請求項12記載の医薬組成物又は化粧用組成物。
【請求項14】
軟膏、クリーム、乳液、ローション、スプレー、パウダー、又はゲルの形態である、請求項13記載の医薬組成物又は化粧用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質阻害剤、並びにABCC11阻害剤に関する。本発明は更に、上記阻害剤を含有する組成物に関する。より具体的には、本発明は、腋臭症の予防及び治療のための薬剤、及び該薬剤を含有する医薬組成物又は化粧用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトは他の動物のように体臭を発するにもかかわらず、人間の文化では、強い体臭または特定の体臭が望ましくないと感知されることがある。その中でも、腋臭症(Axillary osmidrosis、以下本明細書において「AO」と記載することがある)は、不快な体臭と脇の下からの過度の発汗を特徴とする慢性皮膚疾患である(非特許文献1)。特に、体臭の強い人の割合が少ない日本や中国などのアジア諸国では、AOはより嫌われる傾向が強く、疾患として認識されている(非特許文献2)。
【0003】
ヒトATP結合カセットトランスポーターC11(ATP-binding cassette subfamily C member 11、ABCC11)は、AOの危険因子であることが報告されている(非特許文献1~4)。ABCC11の生理学的基質は完全には解明されていないが、ABCC11欠損個体ではAOのリスクがほとんどないこと、様々な臭い前駆物質を分泌する腋窩アポクリン腺における機能的ABCC11の存在を考え合わせると、ABCC11の阻害は、AOの克服に有用であることが期待される。
【0004】
一方、高尿酸血症を基礎疾患とする急性関節炎や痛風の治療又は症状の軽減のために、様々な尿酸排泄促進剤及び尿酸産生抑制剤が知られており、その中で、高尿酸血症管理のために開発されたキサンチンオキシダーゼの非プリン選択的阻害剤であるフェブキソスタット(Febuxostat)が、高尿酸血症治療剤として帝人ファーマ株式会社より販売されている(商品名「フェブリク」、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Inoue Y等、Journal of plastic, reconstructive & aesthetic surgery : JPRAS 2010, 63: 1369-1374
【文献】Ishikawa T等、Frontiers in genetics 2013, 3: 306
【文献】Toyoda Y等、FASEB journal : official publication of the Federation of American Societies for Experimental Biology 2009, 23: 2001-2013
【文献】Martin A等、J Invest Dermatol 2010, 130: 529-540
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
AOの既存の対処方法は、主として腋臭の原因成分を中和・消臭するためのアルカリ及び香料、及び皮膚常在菌の殺菌・除菌を目的とする薬剤を含有するデオドラント剤の塗布である。また、AOの原因療法として外科的治療も行われているが、高コストの上に手術のリスクもあるため、積極的に治療することはためらわれる場合がある。
【0008】
一方、現在、AOの治療自体を目的として承認された薬剤は存在しておらず、臨床的に使用されるABCC11阻害剤も存在していない。ABCC11阻害剤について利用できる情報はほとんどないのが実情である。
従って、AOという不快な状態に対する治療法の開発が必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、驚くべきことに、上記の通り、従来高尿酸血症に対して使用されてきた薬剤であるフェブキソスタットを含む複数の化合物が、ABCC11阻害剤としての機能を有することを見出した。更に、本発明者等は、これらの化合物が、ABCC11と類似の構造及び機能を有する12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質の阻害剤としても機能し得ることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を達成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明を提供するものである。
[1] 高尿酸血症治療用化合物又はその塩を有効成分とする、12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質阻害剤。
[2] 高尿酸血症治療用化合物又はその塩を有効成分とする、ABCC11阻害剤。
[3] 化合物が一般式I
【化1】
[式中、
R
1はハロゲン原子、ニトロ基(-NO
2)、シアノ基(-CN)、ホルミル基(-CHO)又はトリフルオロメチル基(-CF
3)であり、
R
2は水素原子、又は炭素数1~10個の直鎖若しくは分岐アルキル基を有するアルコキシ基であり、
Xはカルボキシル基(-CO
2H)、カルバモイル基(-CONH
2)又は炭素数1~5個の直鎖若しくは分岐アルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基であり、そして
Yは水素原子又は炭素数1~4個の直鎖若しくは分岐アルキル基である。]
で示されるものである、上記[1]又は[2]記載の阻害剤。
[4] Xがカルボキシル基であり、Yがメチル基である、上記[3]記載の阻害剤。
[5] R
2が炭素数1~4個の直鎖若しくは分岐アルキル基を有するアルコキシ基である、上記[3]又は[4]記載の阻害剤。
[6] R
1がシアノ基である、上記[3]~[5]のいずれか記載の阻害剤。
[7] 化合物が一般式II
【化2】
[式中、
R
3は水素原子、ハロゲン原子、シアノ基(-CN)、水酸基(-OH)、ニトロ基(-NO
2)又はアミノ基(-NH
2)であり、
R
4は水酸基(-OH)、アミノ基(-NH
2)、炭素数1~6個の直鎖若しくは分岐アルキル基を有するアルコキシ基、又は炭素数1~6個の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されたモノアルキルアミノ基若しくはジアルキルアミノ基であり、
R
5はシアノ基(-CN)、炭素数1~6個の直鎖若しくは分岐アルキル基、又は炭素数3~5個のシクロアルキル基であり、
Zは炭素原子又は窒素原子であり、そして
Wは硫黄原子又は酸素原子である。]
で示されるものである、上記[1]又は[2]記載の阻害剤。
[8] R
3がF、Cl、又はBrである、上記[7]記載の阻害剤。
[9] R
4が水酸基、又は炭素数1~4個の直鎖若しくは分岐アルキル基を有するアルコキシ基である、上記[7]又は[8]記載の阻害剤。
[10] R
5がシアノ基又はシクロプロピル基である、上記[7]~[9]のいずれか記載の阻害剤。
[11] Zが窒素原子であり、Wが硫黄原子である、上記[7]~[10]のいずれか記載の阻害剤。
[12] フェブキソスタット(Febuxostat)、レシヌラド(Lesinurad)、又はこれらの塩からなる群から選択される化合物を有効成分とする、12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質阻害剤。
[13] in vitroにおいて、12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質を発現する形質膜小胞の12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質介在性の低分子物質の輸送を80%以下に低減させる、上記[1]~[12]のいずれか記載の阻害剤。
[14] 上記[1]~[13]のいずれか記載の阻害剤を含有する医薬組成物又は化粧用組成物。
[15] 腋臭症の予防又は治療のための、上記[14]記載の医薬組成物又は化粧用組成物。
[16] 外用薬である、上記[15]記載の医薬組成物又は化粧用組成物。
[17] 軟膏、クリーム、乳液、ローション、スプレー、パウダー、又はゲルの形態である、上記[16]記載の医薬組成物又は化粧用組成物。
【0011】
本明細書は2019年8月21日付けで出願された、本願の優先権の基礎となる米国仮出願第62/890,053号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、従来用いられた薬剤及び治療法とは異なるメカニズムでAOの予防及び治療を行うことができる。本発明の阻害剤は、安全性及び安定性を有するものであり、ヒトへの適用において非常に好適である。また、本発明により、抗癌剤耐性に対する新たな治療薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】形質膜小胞におけるABCC11の発現を示す。Na
+/K
+-ATPase:ローディングコントロール。
【
図2】ATPの存在下又は不存在下における[1,2,6,7-
3H(N)]-硫酸デヒドロエピアンドロステロン(DHEA-S)の輸送活性を示す(n = 3)。**:P < 0.01、NS:有意差なし(パラメトリックTukey-Kramer多重比較検定、他の群に対して)。
【
図3】ABCC11によるDHEA-S輸送の時間依存的な増加を示す(n = 3)。++:P < 0.01(両側t検定)。
【
図4】フェブキソスタットによるABCC11を介したDHEA-S輸送の濃度依存性阻害を示す(n = 4)。**:P < 0.01(Dunnett検定、0μMの値に対して)。
【
図5】ABCC2機能に対するフェブキソスタットの効果を示す。エストラジオール17β-D-グルクロニド[estradiol-6,7-
3H(N)](E
217βG)輸送活性を、3.26μMのフェブキソスタット(FB)の存在下又は不存在下で5分間測定した。データは平均±標準偏差として表した(n = 3)。統計解析はBartlett検定並びにパラメトリックTukey-Kramer多重比較検定を用いて行った。図中のa、b及びcは、示された群間に有意差(P < 0.05)があることを示す。
【
図6】ABCC11を介したDHEA-S輸送に対するアロプリノール(Alloprinol、AL)、ベンズブロマロン(Benzbromarone、BZ)、フェブキソスタット(FB)、レシヌラド(Lesinurad、LS)、オキシプリノール(Oxypurinol、OX)、及びプロベネシド(Probenecid、PR)の効果を示す(n = 4)。対照は薬剤無添加を示す。
【
図7】ABCC2及びABCC4の機能に対するフェブキソスタットの効果を示す。ABCC2又はABCC4を発現する形質膜小胞におけるATP依存的E
217βG輸送活性を、3.26μMのフェブキソスタット(FB)の存在下又は不存在下で測定した。データは平均±標準偏差として表した(n = 3)。
【
図8】ABCC2及びABCC4の機能に対するフェブキソスタットの効果を示す。ABCC2又はABCC4を発現する形質膜小胞におけるATP依存的DHEA-S輸送活性を、3.26μMのフェブキソスタット(FB)の存在下又は不存在下で測定した。データは平均±標準偏差として表した(n = 3)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質阻害剤>
本発明は、高尿酸血症治療用化合物又はその塩を有効成分とする、12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質阻害剤を提供する。
【0015】
本明細書において使用する用語「12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質」とは、細胞膜に局在し、低分子物質の膜透過を担うATP結合カセット(ATP-binding cassette、ABC)トランスポーターの1種である(Toyoda Y等、Xenobiotica 2008 Jul, 38(7-8): 833-62)。具体的には、本明細書における「12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質」は、ABCC4、ABCC5、ABCC11及びABCC12からなる群より選択される。
【0016】
ABCトランスポーターの中で、多剤耐性関連タンパク質(multidrug resistance-associated protein, MRP)クラスに属するものが偽遺伝子を含めて10種報告されている。その中で、ABCC4、ABCC5、ABCC11及びABCC12は、その他の多剤耐性関連タンパク質に対する場合と比べて、互いに類似したアミノ酸配列を有している。これら4種のトランスポータータンパク質は、12回膜貫通型の多剤耐性関連タンパク質群を形成しており、ATP依存的に輸送し得る物質の種類、いわゆる基質特異性も、その他の多剤耐性関連タンパク質に対する場合と比べて互いに類似していることが知られている(Toyoda Y等、Xenobiotica 2008 Jul, 38(7-8): 833-62)。
【0017】
本発明者等の知見では、本発明の阻害剤は、ABCC4、ABCC5、ABCC11及びABCC12が媒介する輸送を阻害する一方で、ABCC11とは異なる群(17回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質群)に属するABCC1、ABCC2、ABCC3、ABCC6、及びABCC10が媒介する輸送は阻害しない可能性が示されている。
【0018】
従って、当初、ABCC11阻害作用を有することが確認された高尿酸血症治療用化合物又はその塩は、12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質を介した物質の輸送を阻害し、ABCC4阻害剤、ABCC5阻害剤、ABCC11阻害剤及び/又はABCC12阻害剤として機能し得る。
特に、ABCC4、ABCC5、及びABCC11は、抗癌剤を細胞外に排出することが認められることから、本発明の阻害剤は癌の多剤耐性克服のための補助剤としても機能し得る。
【0019】
ABCC4遺伝子の塩基配列情報は、NCBI等から提供されるデータベースにおいてGeneID: 10257として、アミノ酸配列情報は例えば参照配列: NP_005836.2等として取得することができる。
【0020】
ABCC5遺伝子の塩基配列情報は、NCBI等から提供されるデータベースにおいてGeneID: 10057として、アミノ酸配列情報は例えば参照配列: NP_005679等として取得することができる。
【0021】
ABCC11遺伝子の塩基配列情報は、NCBI等から提供されるデータベースにおいてGeneID: 85320、アクセッションNo. NM_033151等として、アミノ酸配列情報は例えば参照配列: NP_149163.2等として取得することができる。
【0022】
ABCC12遺伝子の塩基配列情報は、NCBI等から提供されるデータベースにおいてGeneID: 94160として、アミノ酸配列情報は例えばアクセッションNo. NP_150229.2等として取得することができる。
【0023】
本明細書において、「12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質阻害」とは、12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質の機能をin vitro若しくはin vivoで低減又は消失させることを意味し、例えば12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質を介した低分子物質の輸送若しくは分泌を低減又は消失させることを意味し得る。低減は、統計学的に有意とみなされる低減であれば良く、特に限定するものではないが、例えば12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質阻害効果が予想される化合物の不存在下での輸送量若しくは分泌量に対して80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、又は40%以下の輸送量若しくは分泌量に低減することを意図し得る。
【0024】
12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質を介して分泌される「低分子物質」としては、特に限定するものではないが、例えばデヒドロエピアンドロステロン硫酸(DHEA-S)、エストロン-3-硫酸等のアンドロゲンステロイド、cAMP及びcGMP等の環状ヌクレオチド、ロイコトリエンC4及びS-(2,4-ジニトロフェニル)-グルタチオン等のグルタチオン抱合体、エストラジオール17-β-D-グルクロニド及び胆汁酸塩等のグルクロン酸抱合体、5-フルオロウラシル(5-FU)及びメトトレキセート(MTX)等の抗癌剤、9-(2-ホスホニル-メトキシエチル)アデニン(PMEA)等の抗ウイルス薬を挙げることができる。
【0025】
本明細書において、「高尿酸血症治療用化合物」とは、血清尿酸値降下作用を示す、または血清尿酸値降下作用が期待できる物質であり、尿酸生成酵素阻害活性ないし尿酸輸送体阻害活性を有することを特徴とする物質をいう。
【0026】
<ABCC11阻害剤>
本発明はまた、高尿酸血症治療用化合物又はその塩を有効成分とする、ABCC11阻害剤を提供する。
【0027】
腋臭症(Axillary osmidrosis、AO)のリスクは、ABCC11遺伝子における非同義的一塩基多形c.538G>A(p.Gly180Arg)によって決定されることが本発明者等のグループ等から報告されている(Inoue Y等、Journal of plastic, reconstructive & aesthetic surgery : JPRAS 2010, 63: 1369-1374;Toyoda Y等、FASEB journal : official publication of the Federation of American Societies for Experimental Biology 2009, 23: 2001-2013;Martin A等、J Invest Dermatol 2010, 130: 529-540)。生化学的分析により、このアミノ酸置換(バリアントタイプ:Arg180)は、de novo合成ABCC11タンパク質のプロテアソーム分解を促進し、これによりABCC11の細胞内機能が失われる。機能的なABCC11(野生型:Gly180)は、さまざまな匂いの前駆体を分泌する腋窩アポクリン腺に存在しており(Toyoda Y等、Int J Mol Sci 2017, 18: 417)、従ってABCC11機能の阻害はAOの予防と治療に寄与し得る。
【0028】
ABCC11は、上記の通り、細胞膜に局在し、低分子物質の膜透過を担うATP結合カセット(ATP-binding cassette、ABC)トランスポーターの1種である(Toyoda Y等、Xenobiotica 2008 Jul, 38(7-8): 833-62)。
【0029】
尚、本明細書において、「ABCC11阻害」とは、上記の野生型(機能的)ABCC11の機能をin vitro若しくはin vivoで低減又は消失させることを意味し、例えばABCC11を介した低分子物質の輸送若しくは分泌を低減又は消失させることを意味し得る。低減は、統計学的に有意とみなされる低減であれば良く、特に限定するものではないが、例えばABCC11阻害効果が予想される化合物の不存在下での輸送量若しくは分泌量に対して80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、又は40%以下の輸送量若しくは分泌量に低減することを意図し得る。ここで、ABCC11を介して分泌される「低分子物質」としては、特に限定するものではないが、例えばデヒドロエピアンドロステロン硫酸(DHEA-S)、エストロン-3-硫酸等のアンドロゲンステロイド、cAMP及びcGMP等の環状ヌクレオチド、ロイコトリエンC4及びS-(2,4-ジニトロフェニル)-グルタチオン等のグルタチオン抱合体、エストラジオール17-β-D-グルクロニド及び胆汁酸塩等のグルクロン酸抱合体、5-フルオロウラシル(5-FU)及びメトトレキセート(MTX)等の抗癌剤、9-(2-ホスホニル-メトキシエチル)アデニン(PMEA)等の抗ウイルス薬を挙げることができる。
【0030】
従って、本発明のABCC11阻害剤は、特に機能的ABCC11を介した腋臭原因物質の分泌を低減又は消失させることによる腋臭症の予防又は治療のために好適に使用することができる。しかしながら、本発明のABCC11阻害剤は、ABCC11を介した他の機能、例えば他の低分子物質の輸送を低減又は消失させることによって、他の有利な効果を有し得る。例えば、ABCC11高発現細胞株は肺癌等で5-FU等の抗癌剤に対する耐性を獲得することが報告されており(Uemura,T等、Cancer Sci. 101 (11): 2404-2410, 2010)、従って、ABCC11阻害剤は、抗癌剤の効果を増強させるためにも使用できることが想定される。
【0031】
ヒトとは異なり、マウスやラットなどのげっ歯類にはAbcc11遺伝子がないため、in vivo実験でABCC11阻害の生理学的影響を調べることはほとんど非現実的である。本発明者等は、ABCC11を発現する形質膜小胞を使用してABCC11阻害剤の探索に適したin vitro輸送アッセイを開発した(Toyoda Y等、Journal of Dermatology 2020, doi: 10.1111/1346-8138.15512)。
【0032】
簡単に記載すると、アデノウイルス媒介性の一過性ABCC11発現293A細胞から形質膜小胞を調製し、ABCC11基質である[1,2,6,7-
3H(N)]-デヒドロエピアンドロステロン硫酸(DHEA-S)のイムノブロッティングおよびin vitro輸送アッセイを行った。
図1に示すように、調製された小胞はABCC11を発現しており、ABCC11を介して小胞内にATP依存的にDHEA-S輸送をすることができる(
図2)。このDHEA-S輸送は経時的に増大することも確認した(
図3)。
【0033】
次いで、各種化合物の存在下でこのABCC11を介したDHEA-S輸送活性を調べたところ、驚くべきことに、高尿酸血症治療用化合物として知られる化合物において、濃度依存的に輸送が阻害されること、特にフェブキソスタット及びレシヌラド(Lesinurad)が高い効果を有することが確認され、これらを新規のABCC11阻害剤として同定することができた。ABCC11タンパク質との相互作用を考慮すれば、特にフェブキソスタット及びレシヌラドの類似化合物も同様の活性を有し得る。
【0034】
本発明者等はまた、いずれも高尿酸血症の治療効果が知られているアロプリノール(Alloprinol)、ベンズブロマロン(Benzbromarone)、オキシプリノール(Oxypurinol)、及びプロベネシド(Probenecid)についてもABCC11を介したDHEA-S輸送活性を阻害することを見出した。
【0035】
更に、本発明者等は、ABCC11を介した物質の輸送を阻害する化合物が、17回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質群に属するABCC2を介した物質の輸送は阻害しないのに対して、ABCC11と同じ12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質群に属するABCC4を介した低分子物質の輸送を阻害することを見出した。12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質群における構造及び機能の類似性、及び17回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質群との相違から生じる基質の相違を考慮すれば、本発明の阻害剤のメカニズムが共通であることが想定される。
【0036】
一実施形態において、本発明は、一般式I
【化3】
[式中、
R
1はハロゲン原子、ニトロ基(-NO
2)、シアノ基(-CN)、ホルミル基(-CHO)又はトリフルオロメチル基(-CF
3)であり、
R
2は水素原子、又は炭素数1~10個の直鎖若しくは分岐アルキル基を有するアルコキシ基であり、
Xはカルボキシル基(-CO
2H)、カルバモイル基(-CONH
2)又は炭素数1~5個の直鎖若しくは分岐アルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基であり、そして
Yは水素原子又は炭素数1~4個の直鎖若しくは分岐アルキル基である。]
で示される化合物又はその塩を有効成分とする、12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質阻害剤又はABCC11阻害剤を提供する。
【0037】
特に限定するものではないが、上記の式Iにおいて、Xがカルボキシル基であり、Yがメチル基である化合物が好ましい。
一例として、式Iにおいて、R2が炭素数1~4個の直鎖若しくは分岐アルキル基を有するアルコキシ基である化合物が好ましい。
また、一例として、式Iにおいて、R1がシアノ基である化合物が好ましい。
【0038】
式Iで示される化合物において、特に好ましい化合物として、下記の構造で示されるフェブキソスタット又はその塩が挙げられる。
【化4】
【0039】
別の実施形態において、本発明は、一般式II
【化5】
[式中、
R
3は水素原子、ハロゲン原子、シアノ基(-CN)、水酸基(-OH)、ニトロ基(-NO
2)又はアミノ基(-NH
2)であり、
R
4は水酸基(-OH)、アミノ基(-NH
2)、炭素数1~6個の直鎖若しくは分岐アルキル基を有するアルコキシ基、又は炭素数1~6個の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されたモノアルキルアミノ基若しくはジアルキルアミノ基であり、
R
5はシアノ基(-CN)、炭素数1~6個の直鎖若しくは分岐アルキル基、又は炭素数3~5個のシクロアルキル基であり、
Zは炭素原子又は窒素原子であり、そして
Wは硫黄原子又は酸素原子である。]
で示される化合物又はその塩を有効成分とする、12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質阻害剤又はABCC11阻害剤を提供する。
【0040】
特に限定するものではないが、上記の式IIにおいて、R3がハロゲン原子、特にF、Cl、又はBrである化合物が好ましい。
【0041】
また、特に限定するものではないが、上記の式IIにおいて、R4が水酸基、又は炭素数1~4個の直鎖若しくは分岐アルキル基を有するアルコキシ基である化合物が好ましい。
【0042】
また、特に限定するものではないが、上記の式IIにおいて、R5がシアノ基又はシクロプロピル基である化合物が好ましい。
【0043】
また、特に限定するものではないが、上記の式IIにおいて、Zが窒素原子であり、Wが硫黄原子である化合物が好ましい。
【0044】
式IIで示される化合物において、特に好ましい化合物として、下記の構造で示されるレシヌラド又はその塩が挙げられる。
【化6】
【0045】
従って本発明はまた、フェブキソスタット、レシヌラド、又はこれらの塩からなる群から選択される化合物を有効成分とする、12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質阻害剤又はABCC11阻害剤を提供する。
【0046】
上記の一般式I及び一般式IIの化合物を含む、高尿酸血症治療用化合物の塩としては、製薬上許容される塩であれば良く、特に限定するものではないが、例えばナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、アンモニウム塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩等を挙げることができる。
【0047】
本発明の阻害剤は、特に限定するものではないが、野生型ABCC11タンパク質を発現する個体におけるアポクリン腺分泌物質の分泌量を、阻害剤不存在下における分泌量と比較して、例えば80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、又は40%以下に低減させることができる。
【0048】
上記の効果は、本発明者等が確立した上記のin vitro輸送アッセイで容易に確認することができる。すなわち、本発明の阻害剤は、in vitroにおいて、野生型ABCC11タンパク質を発現する形質膜小胞のABCC11を介する低分子物質の輸送を80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、又は40%以下に低減させることができる。
【0049】
また、本発明の阻害剤は、in vitroにおいて、12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質を発現する形質膜小胞の12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質介在性の低分子物質の輸送を80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、又は40%以下に低減させることができる。
【0050】
in vitro輸送アッセイにおいて効果を確認するために使用できる低分子物質としては、ABCC4、ABCC5、ABCC11及び/又はABCC12を介して輸送され得る天然又は合成の化合物のいずれでも良く、特に限定するものではないが、例えば下記の実施例において使用した[1,2,6,7-3H(N)]-硫酸デヒドロエピアンドロステロン(DHEA-S)、あるいはエストラジオール17β-D-グルクロニド[estradiol-6,7-3H(N)](E217βG)を好適に使用することができる。
本発明の阻害剤は、例えば癌の多剤耐性克服のための補助剤として使用することができる。本発明の阻害剤はまた、特に好適には、腋臭症の予防又は治療のために使用することができる。
【0051】
<医薬組成物/化粧用組成物>
本発明はまた、上記の本発明のABCC11阻害剤又は12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質阻害剤を含有する医薬組成物又は化粧用組成物を提供する。ここで、医薬組成物は、ABCC11阻害剤を有効成分として含有する医薬品及び医薬部外品を包含する。本発明の医薬組成物は、例えば腋臭症の予防又は治療用組成物であり得る。また、本発明の化粧用組成物は、ABCC11阻害剤を含有する制汗剤又はデオドラント製品であり得る。また、本発明の医薬組成物は、12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質阻害剤を有効成分として含有する、癌の治療又は予防のための医薬組成物であり得る。
【0052】
本発明の組成物は、任意の好適な投与経路によって投与することができる。例えば、本発明の組成物は、錠剤、粉末剤、液剤等の形態で経口投与することができる。本発明の組成物はまた、静脈内、筋肉内、腹腔内、腫瘍内等への注射若しくは注入による投与を含む、全身的若しくは局所的な非経口投与とすることができる。ヒトの腋窩アポクリン腺は毛包に開いているため、腋臭症の予防又は治療を目的とする場合、また制汗又はデオドラントを目的とする場合、投与経路は腋窩等の皮膚に局所的に投与することが有効であり、従って、組成物は外用組成物とすることが好ましい。
【0053】
外用組成物として使用する場合の医薬組成物及び化粧用組成物の形態は、当分野において通常用いられる形態であれば良く、特に限定するものではないが、軟膏、クリーム、乳液、ローション、スプレー、パウダー、ゲル等の形態とすることができる。組成物を塗布又は噴霧する場合、腋窩だけでなく、発汗等によって体臭が発生し得る部位、例えば首、背中、手足、足裏、頭部、陰部等に適用することもできる。
【0054】
本発明の組成物には、上記のABCC11阻害剤の他に、腋臭症の予防又は治療の目的等で有効な他の成分、例えば殺菌剤、抗菌剤、アルカリ物質、香料等を添加することができる。また、本発明の組成物には、限定するものではないが、投与する形態に応じて、賦形剤、緩衝剤、界面活性剤、酸化防止剤、保存剤、紫外線吸収剤、粉末等を適宜添加することができる。また、癌の治療又は予防のために用いる場合、本発明の組成物には、単独で、又は例えば抗癌剤と組み合わせて12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質阻害剤を含めることができる。
【0055】
本発明の医薬組成物における有効成分である阻害剤は、既に臨床使用が承認された薬物であるフェブキソスタット及びレシヌラドに代表される通り、ヒトへの使用において許容される安全かつ安定な薬剤である。
【0056】
経口投与した場合には、フェブキソスタットの最大血漿非結合濃度は、連続12日間、1日1回40 mgの用量で健康な被験者に投与した場合、0.126μMであることが示されている(Khosravan R等、Clin Pharmacokinet 2006, 45: 821-841)が、経口投与されたフェブキソスタットが腋窩において腋臭症の予防又は治療効果を発揮するためにはより高用量が必要とされ得る。
【0057】
本発明の組成物は、特に限定するものではないが、上記の本発明のABCC11阻害剤を組成物の全重量に対して0.001~10重量%、好ましくは0.01~3重量%、より好ましくは0.1~1重量%の範囲で含有し得る。
本発明の組成物を外用組成物として適用する場合、剤形によって異なり、特に限定されるものではないが、例えば1日1~数回、腋窩等に例えば10 mg~10 g、好ましくは50 mg~5 gの組成物を通常の塗布又はスプレー等で適用することで、望ましい効果が期待される。
【0058】
<方法>
本発明はまた、上記の本発明のABCC11阻害剤又は該阻害剤を含有する本発明の組成物を対象に投与することを含む、腋臭症の治療方法及び予防方法を提供する。また、本発明は、上記の本発明のABCC11阻害剤又は本発明の組成物を対象に投与することを含む、制汗又はデオドラント方法を提供する。本発明において、特に限定するものではないが、対象はヒト、特に野生型(機能的)ABCC11を発現するヒトであり得る。
【0059】
また、本発明は、上記の本発明の12回膜貫通型多剤耐性関連タンパク質阻害剤又は該阻害剤を含有する本発明の組成物を対象に投与することを含む、疾患の治療方法及び予防方法を提供する。疾患は、限定するものではないが、例えば抗癌剤耐性を有する対象における癌であり得る。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。以下の実施例において特に記載のない化学物質は全て市販されており、分析グレードのものを使用した。
【0061】
尚、統計解析はすべて、Excel 2019をStatcel4 add-inソフトウェア(OMS出版社、埼玉、日本)と共に用いて行った。複数の群を分析する場合、群間の分散の類似性をBartlett検定を用いて比較した。分散の均一性の検定に合格する場合は、全ての対比較についてパラメトリックTukey-Kramer多重比較検定、または対照群との比較についてDunnett検定を用いた。定量データの一対の場合、F検定を用いてデータセットの分散を比較した後、対応のないスチューデントのt検定を行った。統計学的有意性は、0.05未満または0.01未満のP値で定義した。
【0062】
[実施例1 ABCC11発現形質膜小胞の調製]
ヒト胎児腎臓293(HEK293)由来293A細胞(R70507、Invitrogen)を、10%ウシ胎児血清(Biowest、Nuaille、France)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Nacalai Tesque)、2mM L-グルタミン(ナカライテスク、京都、日本)、および1×非必須アミノ酸(Life Technologies、東京、日本)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(ナカライテスク)中、37℃、空気中5% (v/v) CO2の加湿雰囲気中で維持した。
【0063】
293A細胞を、Toyoda Y等、International Journal of Molecular Sciences 2017, 18: 417に記載されたように作製したABCC11発現またはEGFP発現(対照)アデノウイルスに感染させた後、Toyoda Y等、International Journal of Molecular Sciences 2017, 18: 417に記載されたようにして形質膜小胞を調製した。
得られた形質膜小胞を液体窒素中で急速凍結し、使用まで-80℃で保存した。形質膜小胞のタンパク質濃度は、製造者のプロトコールに従ってウシ血清アルブミンを標準としたBCAタンパク質アッセイキット(Pierce、Rockford、IL、米国)を用いて定量した。
【0064】
形質膜小胞におけるABCC11タンパク質の発現は、Toyoda Y等、International Journal of Molecular Sciences 2017, 18: 417;Toyoda Y等、FASEB journal : official publication of the Federation of American Societies for Experimental Biology 2009, 23: 2001-2013に記載されたような免疫ブロット法により、わずかな修飾を加えて調べた。
【0065】
簡単に説明すると、調製した試料をポリアクリルアミドゲル上で電気泳動的に分離し、15 Vで70分間電気泳動してHybond(登録商標) ECLTMニトロセルロース膜(GE Healthcare、Buckinghamshire、英国)に移した。
ブロッキングのために、0.05% Tween 20および5%脱脂乳(TBST脱脂乳)を含むTris緩衝生理食塩水中で、膜を4℃で一晩インキュベートした。
【0066】
ブロットをラットモノクローナル抗ABCC11抗体(M8I-74; Abcam、Cambridge、MA、USA; 200倍希釈)およびウサギポリクローナル抗Na+/K+-ATPase α抗体(sc-28800、Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CA、米国、1000倍希釈)でプローブした後、ヤギ抗ラット免疫グロブリンG (IgG)-西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗体(NA935V、GE Healthcare、2000倍希釈)およびロバ抗ウサギIgG-HRPコンジュゲート抗体(NA934V、GE Healthcare、3000倍希釈)と共にそれぞれインキュベートした。全ての抗体はTBST脱脂乳中で使用した。
【0067】
HRP依存性発光はECLTM Prime Western Blotting Detection Reagent (GE Healthcare)を用いて発色させ、マルチイメージングアナライザーFusion Solo 4TMシステム(Vilber Lourmat、Eberhardzell、ドイツ)を用いて検出した。
【0068】
その結果、
図1に示すように、ABCC11発現アデノウイルスに感染させた293A細胞由来の形質膜小胞において、ABCC11の発現が確認された。一方、EGFP発現(対照)アデノウイルスに感染させた細胞由来の形質膜小胞(Mock)ではABCC11の発現は確認されなかった。尚、いずれの小胞においても、Na
+/K
+-ATPaseは同程度に発現していることが確認された。
【0069】
[実施例2 小胞輸送アッセイ]
ABCC11基質である[1,2,6,7-3H(N)]-硫酸デヒドロエピアンドロステロン(DHEA-S) (PerkinElmer、Waltham、MA、米国)のABCC11発現形質膜小胞および対照形質膜小胞への輸送を研究するin vitro実験を、Toyoda Y等、International Journal of Molecular Sciences 2017, 18: 417に記載の迅速濾過技術に軽微な修正を加えて行った。
【0070】
簡単に説明すると、形質膜小胞を反応混合物(10 mMトリス/HCl、250 mMスクロース、10 mM MgCl2、10 mMクレアチンリン酸、1 mg/mLクレアチンホスホキナーゼ、及び50 mM ATP又はATPの代替としてAMP、pH 7.4)中の[1,2,6,7-3H(N)]-DHEA-Sの100 nMと共に37℃で5分間インキュベートし、取り込まれたDHEA-S由来の放射活性を測定した。
【0071】
形質膜小胞の捕捉のためのフィルター膜(MF-Millipore Membrane、HAWP02500; 0.45μm孔径および25 mm径、Millipore、日本、東京)上に非特異的に吸着された放射性標識DHEA-Sに由来するバックグラウンドシグナルを減少させるために、フィルター膜を、使用前に0.2% (v/v) DMSOを含む氷冷ストップ緩衝液(250 mMスクロース、0.1 M NaCl、2 mM EDTA、および10 mM Tris-HCl、pH 7.4)中のコレステロール2μM(和光純薬工業、東京、日本)とインキュベートした。
【0072】
その結果、
図2に示すように、ABCC11発現形質膜小胞において、ATP依存的にDHEA-Sが輸送されることが示された。
【0073】
[実施例3 DHEA-S輸送の経時的観察]
実施例2と同様にして、ABCC11発現形質膜小胞及び対照形質膜小胞におけるATP依存性のDHEA-Sの輸送を経時的に観察した(2.5分、5分、10分及び20分のインキュベーション)。ATP依存的DHEA-S輸送は、ATP不存在下の場合のDHEA-S輸送活性をATP存在下の活性から差し引くことにより算出した。
【0074】
その結果、
図3に示すように、ABCC11発現形質膜小胞において、DHEA-Sの輸送量が経時的に増大することが観察された。
【0075】
[実施例4 フェブキソスタットによるABCC11阻害効果]
本発明者等は予備スクリーニング段階でフェブキソスタットのABCC11阻害効果を確認した(データは示さない)ため、ABCC11に対するフェブキソスタット(0.1~30μM)の濃度依存的阻害効果を調べた。ABCC11依存的DHEA-S輸送活性は、対照形質膜小胞に対するATP依存的DHEA-S輸送活性をABCC11発現形質膜小胞に対する活性から差し引くことにより算出した。DHEA-S輸送活性は、指定された濃度のフェブキソスタットの存在下で5分間測定した。
【0076】
本実施例では、各群の輸送活性を取り込まれたクリアランス[mL/mgタンパク質/分=DHEA-Sの取り込みレベル(毎分崩壊(DPM)/mgタンパク質/分)/インキュベーション混合液中のDHEA-Sレベル(DPM/mL)]として算出し、フェブキソスタット不存在下(0μM)での輸送活性を100とした相対パーセンテージとして表した。
【0077】
算出された値に基づき、既述のExcel 2019(Microsoft、Redmond、WA、USA)で最小二乗法を用いて以下の式に従ってフィッティング曲線を求めた(Chen ZS等、Mol Pharmacol 2005; 67: 545-557)。
予測値[%]=100-((E_max × Cn)/(EC50
n+Cn)
(式中、Emaxは最大効果、EC50は最大有効濃度の半分、Cは被験化合物の濃度、nはシグモイドフィット因子である。)
最後に、この結果に基づいて、IC50を計算した。
【0078】
その結果、
図4に示すように、フェブキソスタットは濃度依存的にABCC11依存的DHEA-S輸送活性を阻害し、IC
50値は3.26μMと算出された。
【0079】
[実施例5 ABCC2依存的輸送に対する効果]
フェブキソスタットの阻害効果がABCC11に対して特異的であるか否かを確認するために、ABCC11とは異なるATP結合カセットトランスポーターであるABCC2(MRP2としても知られる)の機能に対するフェブキソスタットの効果の有無を検討した。
【0080】
この目的のために、その機能が以前の研究(Toyoda Y等、Scientific Reports 2016, 6: 24586)で確認されたヒトABCC2発現形質膜小胞及び対照形質膜小胞(ジェノメンブレン社、横浜、日本)を使用し、エストラジオール17β-D-グルクロニド[estradiol-6,7-3H(N)](E217βG)(PerkinElmer)(反応混合物中100 nM)をABCC2基質として使用し、実施例4でIC50値として算出された3.26μMのフェブキソスタット(FB)の存在下又は不存在下で37℃で5分間インキュベートした。その他の測定条件は実施例2に準じて行った。
【0081】
その結果、
図5に示すように、ABCC2発現形質膜小胞においてATP依存性のE
217βG輸送が観察されたが、フェブキソスタットによるABCC2の阻害は確認されなかった。
【0082】
[実施例6 各種化合物によるABCC11阻害活性]
実施例4と同様にして、ABCC11依存的DHEA-S輸送活性に対するアロプリノール(Alloprinol、AL)、ベンズブロマロン(Benzbromarone、BZ)、フェブキソスタット(FB)、レシヌラド(Lesinurad、LS)、オキシプリノール(Oxypurinol、OX)、及びプロベネシド(Probenecid、PR)の阻害効果の有無を検討した。
【0083】
簡単に説明すると、形質膜小胞を、最終濃度3μMの各化合物を含む反応混合物(10 mMトリス/HCl、250 mMスクロース、10 mM MgCl2、10 mMクレアチンリン酸、1 mg/mLクレアチンホスホキナーゼ、及び50 mM ATP又はATPの代替としてAMP、pH 7.4)中の[1,2,6,7-3H(N)]-DHEA-Sの100 nMと共に37℃で5分間インキュベートし、取り込まれたDHEA-S由来の放射活性を測定した。各群の輸送活性を取り込まれたクリアランス[mL/mgタンパク質/分=DHEA-Sの取り込みレベル(毎分崩壊(DPM)/mgタンパク質/分)/インキュベーション混合液中のDHEA-Sレベル(DPM/mL)]として算出し、試験化合物不存在下(0μM)での輸送活性を100とした相対パーセンテージとして表した。
【0084】
その結果、
図6に示すように、いずれも高尿酸血症の治療効果が知られているアロプリノール、ベンズブロマロン、レシヌラド、オキシプリノール、及びプロベネシドについても、フェブキソスタットと同様にABCC11を介したDHEA-S輸送活性を阻害することを見出し、化合物未添加の場合(対照)と比較して80%程度まで輸送活性を低減させた。特に、レシヌラドがフェブキソスタットと同程度の阻害活性を有しており、3μMの濃度で対照と比較して約30%まで輸送活性を低減させることを見出した。
【0085】
[実施例7 ABCC4依存的輸送に対する効果]
実施例5において、ABCC2を発現する形質膜小胞におけるATP依存性のE217βG輸送がフェブキソスタットで阻害されないことが確認された。
そこで、ABCC11と構造及び機能が近いことが報告されているABCC4(MRP4としても知られる)の機能に対するフェブキソスタットの効果の有無を検討した。ABCC4は、ABCC11の基質であるDHEA-S、及びABCC2の基質であるE217βGのいずれもATP依存的に輸送することができる。
【0086】
ヒトABCC2発現形質膜小胞、ヒトABCC4発現形質膜小胞及び対照形質膜小胞(いずれもジェノメンブレン社より入手)を使用し、エストラジオール17β-D-グルクロニド[estradiol-6,7-3H(N)](E217βG)(PerkinElmer)及び[1,2,6,7-3H(N)]-硫酸デヒドロエピアンドロステロン (DHEA-S) (PerkinElmer)(反応混合物中100 nM)を基質として使用し、3.26μMのフェブキソスタットの存在下(FB)又は不存在下(Non)で37℃で5分間インキュベートした。その他の測定条件は実施例2に準じて行った。
【0087】
その結果、
図7及び8に示すように、ABCC4発現形質膜小胞において、ATP依存性のE
217βG輸送及びDHEA-S輸送が観察されたが、フェブキソスタット存在下では、いずれの輸送活性も阻害された。これに対して、ABCC2発現形質膜小胞では、実施例5で示した通り、ABCC2を介したE
217βG輸送のフェブキソスタットによる阻害は確認されなかった(
図7)。また、ABCC2発現形質膜小胞ではATP依存的DHEA-S輸送活性は観察されなかった(
図8)。
【0088】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。