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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】凹面回折格子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20240221BHJP
【FI】
G02B5/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020027121
(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公開番号】P2021131478
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】青野 宇紀
(72)【発明者】
【氏名】江畠 佳定
(72)【発明者】
【氏名】八重樫 健太
(72)【発明者】
【氏名】松井 繁
(72)【発明者】
【氏名】内田 功
(72)【発明者】
【氏名】山本 治朗
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-514737(JP,A)
【文献】特開2006-058682(JP,A)
【文献】特開2012-252307(JP,A)
【文献】国際公開第2012/067239(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/187998(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第04340103(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の格子溝を備える反射膜と、
金属で構成されており、一方の面に前記反射膜が設けられた保持膜と、
凹面を備える凹面基板と、
前記凹面と前記保持膜の他方の面の間に設けられ、前記保持膜と前記反射膜を前記凹面基板に固定する固定層と、
を備え、
前記保持膜と前記反射膜が金属で構成されており、前記保持膜が、前記反射膜の線膨張係数と等しい値の線膨張係数を持つ、凹面回折格子の製造方法であって、
平面基板の上に格子溝を形成する工程と、
前記平面基板の前記格子溝の上に前記反射膜を成膜する工程と、
前記反射膜の上に前記保持膜を成膜する工程と、
前記平面基板を前記反射膜と前記保持膜の積層体から剥離することで、前記反射膜に前記格子溝が形成された平面回折格子を作製する工程と、
前記平面回折格子の、前記格子溝を備える面と反対側の面に、前記固定層を設置し、前記平面回折格子の前記固定層が設置された面に対向するように、前記凹面基板を配置する工程と、
前記平面回折格子の形状を、前記凹面基板の前記凹面の形状に倣わせて変形させて、前記凹面回折格子を形成する工程と、
を有する、
ことを特徴とする凹面回折格子の製造方法。
【請求項2】
前記保持膜は、前記格子溝同士の間にも存在する、
請求項1に記載の凹面回折格子の製造方法。
【請求項3】
前記固定層は、樹脂または金属で構成されている、
請求項1に記載の凹面回折格子の製造方法。
【請求項4】
前記固定層は、金属粒子を含む樹脂で構成されている、
請求項1に記載の凹面回折格子の製造方法。
【請求項5】
前記格子溝は、鋸歯形状である、
請求項1に記載の凹面回折格子の製造方法。
【請求項6】
前記凹面基板は、金属、シリコン、またはガラスで構成されている、
請求項1に記載の凹面回折格子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹面回折格子と、それを備えた光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
凹面回折格子は、分光光度計等の光学装置に用いられる光学素子であり、波長ごとに光を分光し集光する機能を有する。凹面回折格子を用いた光学装置は、装置の部品数を少なくでき、装置の構成を簡便にすることが可能である。
【0003】
従来の回折格子は、格子溝が形成された反射膜が基板に固定されて構成されている。特許文献1~3に従来の回折格子の例を示す。
【0004】
特許文献1には、格子溝が形成された型(マスター回折格子)に反射膜(アルミニウム膜)を形成し、反射膜を樹脂製の接着剤でガラス基板に固定し、ガラス基板を型から剥離させ、反射膜を基板に反転接着させることで、回折格子の格子面を形成することが記載されている。
【0005】
特許文献2には、石英やガラスなどの平板状の基板に、ホログラフィック露光とイオンビームエッチングで鋸歯状の格子溝を形成し、格子溝の表面にアルミニウムや金等の金属膜をコーティングすることで、回折格子を製造することが記載されている。
【0006】
特許文献3には、曲面固定基板に載置された平面回折格子に荷重を印加して曲面回折格子の型を形成することが記載されている。凹面回折格子は、この曲面回折格子の型を反射膜(金属または樹脂)に転写し、反射膜に硬化樹脂と固定基板を設置することで、作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-92687号公報
【文献】特開2017-211670号公報
【文献】国際公開WO2016/059928
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、3に記載された回折格子は、回折格子の型を反射膜に転写する(回折格子の型に反射膜を形成する)ことにより作製され、反射膜が樹脂で基板に固定されている。これらの回折格子では、反射膜が樹脂上に設置されているので、樹脂が温度や湿度などの影響により伸縮すると、反射膜が変形して、回折格子の光学特性に影響を及ぼすという課題がある。
【0009】
特許文献2に記載された回折格子では、石英やガラスなどの基板に形成された格子溝の表面に金属膜(反射膜)がコーティングされているので、反射膜は、温度や湿度などの影響を受けにくい。しかし、反射膜が格子溝の表面にコーティングされて形成されるので、反射膜の格子溝の頂部(格子溝を構成する凸部の頂部)が丸くなり、回折格子の光学特性が低下するおそれがあるという課題がある。
【0010】
本発明の目的は、温度の影響により反射膜が変形するのを防ぐことができ、温度による光学特性の低下を防止できる凹面回折格子と、この凹面回折格子を用いた光学装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による凹面回折格子は、複数の格子溝を備える反射膜と、金属で構成されており、一方の面に前記反射膜が設けられた保持膜と、凹面を備える凹面基板と、前記凹面と前記保持膜の他方の面の間に設けられ、前記保持膜と前記反射膜を前記凹面基板に固定する固定層とを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、温度の影響により反射膜が変形するのを防ぐことができ、温度による光学特性の低下を防止できる凹面回折格子と、この凹面回折格子を用いた光学装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例1による光学装置を示す図。
図2】本発明の実施例1による凹面回折格子を示す斜視図。
図3図2の切断線A-Aにおける凹面回折格子の断面図。
図4】従来の凹面回折格子の断面図。
図5A】本発明の実施例1による凹面回折格子の製造方法の第1の工程を説明する図。
図5B】本発明の実施例1による凹面回折格子の製造方法の第2の工程を説明する図。
図5C】本発明の実施例1による凹面回折格子の製造方法の第3の工程を説明する図。
図5D】本発明の実施例1による凹面回折格子の製造方法の第4の工程を説明する図。
図5E】本発明の実施例1による凹面回折格子の製造方法の第5の工程を説明する図。
図5F】本発明の実施例1による凹面回折格子の製造方法の第6の工程を説明する図。
図5G】本発明の実施例1による凹面回折格子の製造方法の第7の工程を説明する図。
図5H】本発明の実施例1による凹面回折格子の製造方法の第8の工程を説明する図。
図6A】本発明の実施例1による凹面回折格子の別な製造方法の第1の工程を説明する図。
図6B】本発明の実施例1による凹面回折格子の別な製造方法の第2の工程を説明する図。
図6C】本発明の実施例1による凹面回折格子の別な製造方法の第3の工程を説明する図。
図6D】本発明の実施例1による凹面回折格子の別な製造方法の第4の工程を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による凹面回折格子は、格子溝を備える反射膜と凹面基板との間に保持膜を備え、保持膜と反射膜を凹面基板に固定する固定層を備える。本発明による凹面回折格子は、固定層が温度や湿度の影響で変形したり、光の照射により反射膜の温度が上昇したりしても、保持膜によって格子溝自体の変形を防ぐことができ、光学特性の低下を防止できる。保持膜は、反射膜の変形を抑制し、凹面回折格子の温度の影響による光学特性の低下を防止する。本発明による凹面回折格子は、凹面基板、固定層、及び保持膜が熱伝導率の大きい材料で構成されていると、凹面回折格子から放熱しやすいので、エネルギーの大きい光が照射されても、熱による温度上昇を抑制でき、安定した分光性能を有することができる。また、本発明による凹面回折格子は、反射膜の格子溝の形状のばらつきが小さく、光学特性に優れるという特徴も有する。
【0015】
以下、本発明の実施例による凹面回折格子と光学装置について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の実施例1による光学装置を示す図である。光学装置1は、試料(例えば、化学物質や生体物質)に光を当てると、試料に含まれる物質の化学結合に特有の波長の光が選択的に吸収されることを利用して、試料の濃度測定や物質同定に使用される。
【0017】
光学装置1は、白色光源11、集光レンズ12a、12b、試料室13、スリット14、凹面回折格子2、複数の検出器16を備える。光学装置1は、冷却装置15を備えるのが好ましい。
【0018】
白色光源11は、光を放射して試料に照射する。
【0019】
集光レンズ12aは、白色光源11が放射した光を集光し、試料室13の試料に照射する。
【0020】
試料室13は、計測対象である試料を収納する。
【0021】
集光レンズ12bは、試料を透過した光をスリット14に集光する。
【0022】
スリット14は、集光レンズ12bが集光した光を通過させて凹面回折格子2に照射させる。
【0023】
凹面回折格子2は、スリット14を通過した光を波長ごとに分光してスペクトルを形成する。
【0024】
検出器16は、検出する波長に応じて複数が備えられ、直線状に配置される。複数の検出器16は、形成されたスペクトルを検出し、波長ごとに光の強度を測定する。
【0025】
冷却装置15は、例えばラジエーターまたはペルチェ素子を用いて構成でき、凹面回折格子2を冷却する。エネルギーの大きい光が凹面回折格子2に照射されると、凹面回折格子2は、温度が上昇し、反射膜が変形して光学特性(分光性能)が低下するおそれがある。温度上昇による光学特性の低下を防止するため、凹面回折格子2に接触するように冷却装置15を設置するのが好ましい。凹面回折格子2は、冷却装置15によって冷却されて温度上昇が抑制される。また、光学装置1を構成する筐体を冷却装置15とみなし、凹面回折格子2をこの筐体に接触させて設置してもよい。
【0026】
図2図3を用いて、本発明の実施例1による凹面回折格子2を説明する。図2は、本実施例による凹面回折格子2を示す斜視図である。図3は、図2の切断線A-Aにおける凹面回折格子2の断面図である。
【0027】
本実施例による凹面回折格子2は、凹面基板24、固定層23、保持膜25、及び反射膜22を備える。固定層23、保持膜25、及び反射膜22は、凹面基板24に向かって凹む凹形状である。
【0028】
凹面基板24は、銅やアルミニウムなどの金属、シリコン、またはガラスで構成することができる。凹面基板24の上には、固定層23、保持膜25、及び反射膜22が、この順に設けられている。凹面基板24は、凹面24aを備え、凹面24aに固定層23が設けられている。凹面24aは、任意の曲率を有する。
【0029】
固定層23は、樹脂または金属で構成され、凹面基板24と保持膜25の間に設けられており、保持膜25と反射膜22を凹面基板24に固定する接着材の役割を果たす。固定層23は、例えば、エポキシなどの熱硬化性樹脂、またはハンダ、スズ、インジウムなどの接着用の金属で構成することができる。また、固定層23は、金属粒子(例えば、銅やアルミニウムの粒子)を含む熱硬化性樹脂で構成してもよい。この金属粒子は、固定層23の熱伝導率を大きくする。
【0030】
保持膜25は、金属で構成され、反射膜22の形状を保つための部材であり、固定層23によって凹面基板24に固定されている。保持膜25の一方の面には、反射膜22が設けられている。保持膜25の他方の面(すなわち、凹面基板24を向く面)には、固定層23が設けられている。保持膜25は、銅やニッケルなどの熱伝導率が大きい金属で構成するのが好ましい。
【0031】
反射膜22は、複数の格子溝21を備え、格子溝21で光を反射する。反射膜22は、アルミニウムや金などの反射率の高い材料を用いて構成することができる。また、反射膜22は、アルミニウムや金などの熱伝導率が大きい材料で構成されていると、効果的に放熱することができ、温度上昇による変形を防止できる。
【0032】
格子溝21は、任意の形を備えることができ、例えば、鋸歯形状、波型形状(例えば、正弦波形状)、または矩形状(例えば、パルス波形状)を備えることができる。格子溝21が鋸歯形状であると、後述する本実施例による凹面回折格子2の製造方法で作製しやすいという利点がある。
【0033】
保持膜25は、温度や湿度による反射膜22の格子溝21の変形を防止し、反射膜22の形状を保つための部材である。保持膜25の他方の面(すなわち、凹面基板24に固定された面)は、平坦な凹面である。図3に示すように、保持膜25は、反射膜22の格子溝21と格子溝21の間にも存在するのが好ましい。保持膜25が格子溝21同士の間にも存在すると、保持膜25の一方の面(すなわち、反射膜22が設けられている面)は、格子溝21と同じ形状(例えば、鋸歯形状、波形状、または矩形状)を備える。
【0034】
反射膜22は、光が当たって熱が溜まり温度が上昇すると変形する。反射膜22の温度上昇による変形を防ぐためには、反射膜22から熱を逃がす必要がある。このため、本実施例による凹面回折格子2では、凹面基板24、固定層23、及び保持膜25は、熱伝導率が大きい材料で構成するのが好ましい。
【0035】
ここで、従来の凹面回折格子の構成について説明する。
【0036】
図4は、従来の凹面回折格子52の断面図であり、図3に対応する図である。従来の凹面回折格子52は、凹面24aを備える凹面基板24の上に、固定層23と反射膜22が設けられている。固定層23は、樹脂で構成され、反射膜22を凹面基板24に固定する部材である。反射膜22は、複数の格子溝21を備える。
【0037】
固定層23は、反射膜22の格子溝21同士の間にも存在する。このため、温度や湿度の影響により固定層23が変形すると、反射膜22が変形して格子溝21の形状が崩れ、凹面回折格子52の光学特性が低下することがある。
【0038】
本実施例による凹面回折格子2(図2図3)は、上記の構成を備えるので、温度や湿度の影響により固定層23が変形(例えば伸縮)しても、保持膜25が反射膜22の変形を抑制し、凹面回折格子2の光学特性の低下を防止できる。
【0039】
また、固定層23と凹面基板24を熱伝導率の大きい材料で構成すると、凹面回折格子2に熱が溜まって温度が上昇するのを、効果的に抑制できる。
【0040】
保持膜25は、温度の変化により反射膜22と同様に保持膜25の形状が変化するような線膨張係数を持つのが好ましい。すなわち、保持膜25の線膨張係数は、反射膜22の線膨張係数にほぼ等しい値か近い値であるのが好ましい。保持膜25と反射膜22で線膨張係数の値が同程度であると、温度上昇により保持膜25と反射膜22が変形しても、これらは一緒に変形するので、反射膜22の格子溝21は、伸びるがその形状を保つことができる。
【0041】
従来の凹面回折格子52(図4)では、固定層23の線膨張係数は、反射膜22の線膨張係数よりも大きい。このため、従来の凹面回折格子52では、温度上昇により固定層23が変形すると、反射膜22の格子溝21は、変形して形状が崩れてしまう。
【0042】
なお、図5C、5Dと図6C、6Dを用いて説明するように、反射膜22と保持膜25の間には、シード膜26が設けられる。シード膜26は、図3には示していない。シード膜26については、後述する。
【0043】
次に、本実施例による凹面回折格子2の製造方法の例を説明する。
【0044】
図5A図5Hは、本実施例による凹面回折格子2の製造方法の第1~第8の工程を説明する図である。なお、図5A図5Dには、平面基板30と平面回折格子20の一部を示している。
【0045】
初めに、図5Aに示すように、平面基板30の上に格子溝31を形成する。平面基板30は、銅やアルミニウムなどの金属、シリコン、またはガラスで構成することができる。格子溝31は、例えば、半導体素子の製造プロセスで用いられるフォトリソグラフィやエッチングなどを用いて平面基板30の表面に凸部31aを設けることで、平面基板30の上に形成することができる。凸部31aは、凹面回折格子2の格子溝21と同様に、任意の形を備えることができ、例えば、鋸歯形状、波型形状、または矩形状を備えることができる。
【0046】
次に、図5Bに示すように、格子溝31(凸部31a)の上に、蒸着またはスパッタで反射膜22を成膜する。反射膜22は、凸部31aに沿って凹凸ができるように形成される。
【0047】
次に、図5Cに示すように、反射膜22の上に、蒸着またはスパッタでシード膜26を成膜し、シード膜26の上に、めっきで保持膜25を成膜する。
【0048】
シード膜26は、めっきで保持膜25を成膜するときに、電流を流しやすくして保持膜25を成長させるために用いられ、特に反射膜22がアルミニウムで構成されるときに有効である。シード膜26は、反射膜22と保持膜25の間での拡散(例えば、反射膜22を構成するアルミニウムが保持膜25の中に拡散していくこと)を防止する。シード膜26は、複数種類の金属膜で構成できる。例えば、シード膜26は、反射膜22と密着力の大きい金属(例えば、チタン)の膜、反射膜22の温度上昇による拡散を防止する金属(例えば、白金)の膜、及び酸化しにくい金属(例えば、金や白金)の膜を、この順に反射膜22の上に成膜することで構成できる。
【0049】
次に、図5Dに示すように、格子溝31(凸部31a)が形成された平面基板30を、反射膜22、シード膜26、及び保持膜25の積層体から剥離することで、平面回折格子20を作製する。平面回折格子20は、反射膜22、シード膜26、及び保持膜25がこの順に並んだ平面状の積層体である。反射膜22には、凸部31aによって格子溝21が形成されている。平面回折格子20は、例えば凸部31aを溶かして除去することで、平面基板30が剥離されて作製される。
【0050】
次に、図5Eに示すように、平面回折格子20の、格子溝21を備える面と反対側の面に、固定層23を設置する。そして、平面回折格子20の格子溝21を備える面に対向するように、凸面基板27を配置し、平面回折格子20の固定層23が設置された面に対向するように、凹面基板24を配置する。凸面基板27は、凸面27aを持つ基板であり、凸面27aが平面回折格子20に対向するように配置される。凹面基板24は、凹面24aを持つ基板であり、凹面24aが平面回折格子20に対向するように配置される。
【0051】
次に、図5Fに示すように、真空雰囲気下で、固定層23の接着温度または共晶点以上の温度にて、凸面基板27に荷重28を印加して、平面回折格子20を凸面基板27と凹面基板24で挟む。この加熱と加圧により、平面回折格子20の形状を、凸面基板27の凸面27aと凹面基板24の凹面24aの形状に倣わせて変形させ、平面回折格子20を凹面基板24に接着させる。固定層23は、凸面基板27に荷重28を印加して平面回折格子20を変形させた状態で、冷却させて硬化させる。固定層23が硬化すると、平面回折格子20は、凹面基板24に固定される。
【0052】
なお、凸面基板27に荷重28を印加して、平面回折格子20を凸面基板27と凹面基板24で挟んでも、格子溝21は、変形しない。格子溝21の頂部(格子溝21を構成する凸部の頂部)に力が加わっても、この力が格子溝21の頂部を挟む辺に分散するために格子溝21が変形しないことは、実験で検証済みである。
【0053】
次に、図5Gに示すように、固定層23が硬化して平面回折格子20が凹面基板24に固定された後、凸面基板27を除去する。
【0054】
次に、図5Hに示すように、平面回折格子20の、凹面基板24からはみ出した部分を除去することで、凹面回折格子2を製造することができる。
【0055】
本実施例による凹面回折格子2は、以下に説明する方法でも製造することができる。
【0056】
図6A図6Dは、図5A図5Dに対応する図であり、本実施例による凹面回折格子2の別な製造方法の第1~第4の工程を説明する図である。本実施例による凹面回折格子2は、図5A図5Dに示した工程の代わりに図6A図6Dに示した工程を実施することで、製造することもできる。
【0057】
初めに、図6Aに示すように、機械加工(例えば、機械装置を用いた刻印)によって平面基板30の表面に凸部31aを設けることで、平面基板30に格子溝31を形成する。
【0058】
次に、図6Bに示すように、格子溝31(凸部31a)の上に、蒸着またはスパッタで反射膜22を成膜する。反射膜22は、凸部31aに沿って凹凸ができるように形成される。図6Bに示す工程は、図5Bに示した工程と同じである。
【0059】
次に、図6Cに示すように、反射膜22の上に、蒸着またはスパッタでシード膜26を成膜し、シード膜26の上に、めっきで保持膜25を成膜する。図6Cに示す工程は、図5Cに示した工程と同じである。
【0060】
次に、図6Dに示すように、格子溝31(凸部31a)が形成された平面基板30を、反射膜22、シード膜26、及び保持膜25の積層体から剥離することで、平面回折格子20を作製する。平面回折格子20は、この積層体から平面基板30を引き剥がして除去することで、作製される。
【0061】
次に、図5E図5Hに示した工程を実施することで、本実施例による凹面回折格子2を製造することができる。
【0062】
本実施例による凹面回折格子2では、反射膜22の格子溝21の形状は、平面基板30に形成された格子溝31の形状を反映しており、格子溝21の頂部(格子溝21を構成する凸部の頂部)の形状は、格子溝31の底部の形状を反映している。このため、本実施例による凹面回折格子2は、格子溝21の形状のばらつきが小さく、ノイズ(迷光)を低減でき、光学特性に優れる。
【0063】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1…光学装置、2…凹面回折格子、11…白色光源、12a、12b…集光レンズ、13…試料室、14…スリット、15…冷却装置、16…検出器、20…平面回折格子、21…格子溝、22…反射膜、23…固定層、24…凹面基板、24a…凹面、25…保持膜、26…シード膜、27…凸面基板、27a…凸面、28…荷重、30…平面基板、31…格子溝、31a…凸部、52…従来の凹面回折格子。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図6A
図6B
図6C
図6D