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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】フライ麺塊の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20240221BHJP
   A23L 7/113 20160101ALI20240221BHJP
【FI】
A23L7/109 B
A23L7/113
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022002548
(22)【出願日】2022-01-11
(62)【分割の表示】P 2017169662の分割
【原出願日】2017-09-04
(65)【公開番号】P2022036205
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北野 翔
(72)【発明者】
【氏名】田中 充
(72)【発明者】
【氏名】荻野 悠馬
(72)【発明者】
【氏名】金井 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】狹間 英信
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-083887(JP,U)
【文献】特開2004-337156(JP,A)
【文献】国際公開第2015/053350(WO,A1)
【文献】特開平05-328923(JP,A)
【文献】特開昭53-034941(JP,A)
【文献】実開平07-005386(JP,U)
【文献】特開平06-007102(JP,A)
【文献】特開2001-314163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109- 7/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップ状容器に封入されるフライ麺塊の製造方法であって、α化後の麺線群を、底面中央部にリテーナの内部に向かう凸状部を設けたリテーナに収納し、麺線群収納後の型枠の下方部分をフライオイルに浸漬して麺線群の下方部分を所定時間フライ処理した後に、前記リテーナの全体をフライオイルに浸漬してフライ処理するフライ麺塊であって、
当該フライ麺塊の高さをh、麺塊の底部に形成された凹状部の高さをdとすると、d/h=0.35~0.75の範囲となるフライ麺塊の製造方法。
【請求項2】
前記α化後の麺線群のリテーナへの収納後において、麺線群を撹拌する工程を含む請求項1に記載のフライ麺塊の製造方法。
【請求項3】
前記撹拌が麺線群に対する気流の供給によって行われる請求項2に記載のフライ麺塊の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カップに収納した場合に、輸送や保管時に受ける物理的衝撃によってもフライ麺塊の反転が抑制されたフライ麺塊に関する。
【背景技術】
【0002】
フライされた麺塊が収納されたカップ入り即席麺(即席カップめん)は、常温での長期保存が可能で、調理が簡便、かつ安価に提供される優れた加工食品である。カップ入り即席麺は、カップ状容器内の側面部にフライ麺塊の側面が当接する形態で麺塊が封入されている場合が多い。
このカップ入り即席麺において、稀ではあるが、流通時などに受ける容器外部からの想定外の物理的衝撃により、フライ麺塊の下部が破損し、容器内部で麺塊が移動し、麺塊が傾いたり、上面と底面がひっくり返る、いわゆる反転が起こる場合が報告されている。
フライ麺塊が反転してしまうと、フライ麺塊上部に添加された乾燥具材などが麺塊下部の空間へ落ち込み、復元後も具材が麺の下へ埋もれるため、喫食時の見栄えが悪くなり、商品価値を低下させるものとなる。本件技術に関連する先行技術として、以下の先行技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2015/053350 当該先行技術は外部からの衝撃によるカップ内での麺塊の反転を防止できる優れた方法である。その一方、当該先行技術による方法以外にも他にカップ状容器内での麺塊の反転防止に関する技術も検討が可能と想定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明使者らは、即席カップめんの流通時に予期できない想定以上に強い物理的衝撃が加わった場合でもフライ麺塊の反転を抑制できる新たな技術を開発することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
カップ状容器における反転を種々の角度から検討した結果、カップ容器内における麺塊のサイズ(体積)が小さいと反転しやすいことを見出した。しかし、麺線群の量が限定されている場合においては、通常のリテーナを用いる場合には、体積を増加することには限界がある。
【0006】
一方、麺塊の反転に関与する麺塊の”体積”とは、麺塊の上面及び下面及び高さの各サイズが影響し、たとえ、麺塊の内部が空隙状態であっても、その麺塊の外形状(上面、下面、高さ)についての形状が確定し、当該形状による体積(以下“見かけ上の体積”とする)を大きくすることが確保できれば麺塊の反転が抑制されることが予想される。
本発明者らは、この点を種々の検討した結果、リテーナに凸状部を設けて、麺塊の底面に凹状の空隙部を設ける方法を検討した。一方、通常のリテーナの全部を直ちに浸漬するフライ方法では、底面部の凸状部周縁に充填された麺線がフライ中に上昇してしまい、凹状の空隙部形状を確保することができず、フライ後の麺塊高さは小さくなり、見かけ上体積が大きくなく反転を防止することは困難であった。
【0007】
そこで、一旦、麺線群収納後の型枠の下方部分をフライオイルに浸漬して麺線群の下方部分を所定時間フライ処理した後に、全体を浸漬する方法を採用することで、底面に凹状の空隙部を設けつつ、麺塊の見かけ上の体積を増加できることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本願第一の発明は、
“α化後の麺線群を、底面中央部に凸状部を設けたリテーナに収納し、麺線群収納後の型枠の下方部分をフライオイルに浸漬して麺線群の下方部分を所定時間フライ処理した後に、前記リテーナの全体をフライオイルに浸漬してフライ処理するフライ麺塊の製造方法。”、である。
【0009】
次に、本発明は、カップ状容器に封入されるフライ麺塊に前記製造方法が、カップ状容器に封入されるカップ入り即席麺用のフライ麺塊の製造として好適に利用することができる。
すなわち、本願第二の発明は、
“前記フライ麺塊が、カップ状容器に封入されるカップ入り即席麺用のフライ麺塊である請求項1に記載のフライ麺塊の製造方法。”、である。
次に、本発明においては、上述のリテーナに対して当該凸状部の周縁部へ麺線群を正しく充填するためリテーナに収納後に麺線群を撹拌する工程を含むことが好ましい。
【0010】
すなわち、本願第三の発明は、
“前記α化後の麺線群のリテーナへの収納後において、麺線群を撹拌する工程を含む請求項1又は2に記載のフライ麺塊の製造方法。”、である。
さらに、本発明においては、撹拌の方法として、麺線群に対する気流の供給によって行うことが可能である。
すなわち、本願第四の発明は、
“前記撹拌が麺線群に対する気流の供給によって行われる請求項3に記載のフライ麺塊の製造方法。”、である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造法により得られるフライ麺塊をカップ状容器に収納することで、反転を抑制できるカップ入り即席麺とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】カップ状容器の例を示した斜視図である。(a)開口部が円形タイプ(b)開口部が四角形のタイプ(c)開口部が広いどんぶり形のタイプ。
図2】カップ状容器の例の正面断面図である。(a)縦型カップ(b)どんぶり形カップ。
図3】(a)本発明の製造方法によって得られるフライ麺塊の断面模式図である。(b)カップ状容器に当該フライ麺塊が収納された状態の断面模式図である。
図4】(a)リテーナの例の斜視図である。(b)蓋の例の斜視図である。
図5】本発明の第一実施態様のリテーナの断面図である。
図6】本発明の第一実施態様のリテーナの斜視図である。
図7】本発明の他の実施態様のリテーナの断面図である。
図8】リテーナの下方部分をフライオイルに浸漬した後、リテーナ全体をフライオイルに浸漬してフライする場合のフライ工程を示す模式図である。
図9】麺塊の高さを示す模式図
図10】麺塊の見かけ上体積を示す模式図
図11】カップ状容器内のフライ麺塊の断面模式図である。
図12】フライ麺塊の実際の形状を示した断面図である。
図13】本発明で得られるフライ麺塊の大きさを示す斜視模式図である。
図14】本発明のフライ麺塊の見かけ上体積と凹状部の体積を示した模式図である。
図15】実施例1で用いたリテーナの断面図である。
図16】比較例1で用いたリテーナの断面図である。
図17】実施例1及び比較例1のフライ麺塊の斜視写真である。
【符号の説明】
【0013】
1 カップ状容器
2 フライ麺塊
3 乾燥具材
4 粉末スープ
5 リテーナ(型枠)
6 蓋
7 フライオイル
8 リテーナの凸状部
9 フライ麺塊の凹状部
h1 本発明の製法でのフライ麺塊の高さ
h2 通常製法でのフライ麺塊の高さ
h フライ麺塊の高さ
d フライ麺塊の凹状部(空隙部)の高さ
r1 フライ麺塊の上部半径
r2 フライ麺塊の底部半径
w フライ麺塊の底部帯状部の幅
V1 凹状部を有する麺塊の見かけ上体積
V2 凹状部を有する麺塊の凹状部体積
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための形態について説明する。但し、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。
【0015】
─カップ状容器─
本発明に使用するカップ状容器1とは、種々の形態を含む。開口部については図1(a)に示すように円形が主であるが、これに限定されるものではなく、図1(b)の四角形や五角形であってもよい。また、開口部の比較的小さな縦型カップのみならず、図1(c)に示すような開口部の大きなどんぶり形の容器であってもよいことはもちろんである。
【0016】
また、特に図2(a)、(b)に示すように胴部が容器の開口部に向かって開拡状に広がっている略テーパ形状を有するカップ状容器が好適に使用できる。また、この場合のテーパ角については特に限定されるものではないが、概ね3゜~15゜程度である。
本発明におけるカップ状容器1は縦長のタイプの容器に好適に利用することができるが、これに限定されるものではない。
尚、カップの材質は特に限定されるものではない。紙、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の種々の素材を用いることができる。但し、本発明の効果の点においてはポリプロピレン製のカップを使用すると特に好適である。
【0017】
─フライ麺塊─
本発明にいうフライ麺塊2とは、後述するフライ工程を経て製造される即席麺塊である。フライ麺塊2は常法によって調製することができる。具体的には、小麦粉等原料粉に、副原料、練り水を加えて混練した後、圧延・切出して麺線とするか、押出して麺線とした後、麺線を蒸煮又は茹でてα化処理し、必要に応じて着味した後、これをリテーナ5に入れてフライ処理を行って乾燥処理し、フライ麺塊を完成させる。尚、蒸煮においては通常蒸気だけでなく、過熱蒸気を利用してもよいことは勿論である。
【0018】
─カップ状容器に封入されたフライ麺塊─
本発明のフライ麺塊2は種々の形状が可能であるが、上述のカップ状容器1の開口部(胴部)の形状と同様の形状とすることが好ましい。すなわち、開口部(胴部)が円形であれば、麺塊2の胴部が円形であり、開口部が多角形であれば当該多角形の形状とすることが好ましい。このようにすることで麺塊2とカップ状容器1の少なくとも一部の胴部を当接させ、カップ状容器内でのフライ麺塊の揺動を抑制することができる。
【0019】
特に、カップ状容器1がテーパ形状を有している場合、前記フライ麺塊2についても、同様か又は容器のテーパ角よりもわずかに大きめのテーパ形状を有する麺塊2とし、さらに、当該カップ状容器1の中間付近位置で該麺塊側面と該カップ状容器内側面とが当接して保持されるような構成とすることが好ましい(図3(a)、(b))。このようにカップ状容器1内で、麺塊2が容器の底に着かずに中空保持される構造とすれば、麺塊2が容器1内で固定されて動きにくく、注湯した場合に熱湯が麺塊底面にも回るため、湯戻り性が向上する。
【0020】
尚、麺塊2上には具材3やスープ4を載置してもよいことは勿論である(図3(b))。また、図3(b)には、粉末状のスープ4が載置される場合を示しているが、本発明はこれらの態様に限定されず、別途小袋に封入した液体や粉末スープを添付してもよい。
【0021】
─反転の抑制─
カップ状容器1内にフライ麺塊2を収納したカップ入り即席麺の場合、輸送等の場合に種々の衝撃が加わる場合がある。すなわち、輸送等における落下や衝撃又は店頭における処理時における落下等の場合である。
このような場合においては、このような流通時などに受ける容器外部からの想定外の物
理的衝撃により、フライ麺塊2の下部が破損し、容器内部で麺塊2が移動し、麺塊が傾いたり、上面と下面がひっくり返る、いわゆる反転が起こる場合がある。すなわち、麺塊が反転してしまうと、麺塊上部に添加された乾燥具材3や粉末スープ4などが麺塊下部の空間へ落ち込み、復元後も具材が麺の下へ埋もれるため、喫食時の見栄えが悪くなる。特に、当該カップ状容器1の中間位置で該麺塊側面と該カップ状容器内側面が当接して保持されるような構成の場合、麺塊2の表面に乾燥具材3を配置して湯戻し後も麺塊2の表面に具材等が載置された状態で喫食できることが予定されているため、麺塊の傾きやひっくり返りは可能であれば、避けることが好ましい。本発明による製造方法におけるフライ麺塊を用いることで上述の"反転"を抑制できる。
【0022】
尚、上述のように本発明にいう"反転"とは、フライ麺塊2がカップ内で上面と下面がひっくり返る状態のみならず、カップ内の水平面に対して概ね角度20゜程度以上の傾きを有する場合を含む。これらの傾きを有する場合も本発明の反転に含まれるものとする。
【0023】
─麺線群のα化─
本発明においてはα化後の麺線群をフライ処理する。具体的には、小麦粉等原料粉に、副原料、練り水を加えて混練した後、圧延・切出して麺線を調製する。当該麺線を蒸煮又は茹でる等の方法によりα化処理する。尚、α化には過熱蒸気やその他の種々の方法を用いてもよい。
【0024】
─リテーナ─
本発明にいうリテーナ5とは、麺線群のフライ処理のための金属製の型枠をいう。すなわち、α化処理した麺線群を当該リテーナ5投入して、フライオイル中に浸漬してフライ処理を行う。
尚、当該リテーナ5は通常、当該リテーナ5(フライ処理のためのカップ状型枠)が連続して装着された連帯の状態のタイプが利用されることが多い(図4(a))。尚、本発明におけるリテーナとは、個々のカップ状型枠及び連帯の状態のいずれも示すものとする。
【0025】
また、リテーナ5には、多数の孔部が設けられており、通液性を有している。また、孔部は底面にのみ設けても良いし、側面部にも設けてもよい。さらに、フライ処理時には、上部に蓋部6を被せて、開口部を封鎖した状態でフライ処理するのが一般的であるが、当該蓋部6も通液性のため孔部を設けておくことが必要となる(図4(b))。
【0026】
─底面中央部に凸状部を設けたリテーナ─
本発明に利用する底部に凸状部を設けたリテーナ5とは、図5、6に示すような略テーパ―形状のカップ状型枠をいい、当該リテーナ5の底部を凸状に隆起部8を設けたタイプをいう。
当該凸状部の形状としては断面が図5に示すように球状の他、楕円状、円錐(図7)、多角錐、円錐台、あるいは多角錐台などの様々な形状が可能である。但し、当該部の容積を向上させる観点から、球状や楕円状が好ましい。
次に、当該リテーナのサイズについては図5に示すように、概ね上面の直径40mm~150mm、下面の形状が直径30mm~140mm、高さが15mm~100mm程度である。
【0027】
さらに、凸状部の周辺の溝部が幅3mm以上、好ましくは5mm以上である。3mm未満では、凹状底部の形状が形成されにくく、また、底部の厚みが薄いと壊れることが多く、反転の原因となる場合があるためである。また、凸状部の頂上部より上面部までの距離が4mm以上、好ましくは7mm以上である。4mm未満では、中央部付近の麺線が疎となり中央部に、具、スープを載置した場合、落下する場合がある。
【0028】
─リテーナへの収納─
上記の凸状部8を有するリテーナ5にα化後の麺線群を投入する。通常、カット後の一纏りの麺線群を投入する。連続的な機械的操作によって行われるのが通常である。
本発明においては、凸状部8を有するリテーナ5への麺線群の投入した状態で続けて、フライ工程に移行することができるが、リテーナ5への投入後において麺線群を撹拌するステップを加えることが好ましい。
【0029】
これは、図5、6に示すようにリテーナ5の凸状部8周辺の帯状部が狭い場合においては、麺線群を投入した際に麺線群が帯状部分付近に麺線群が充填しずらい場合がある。このため、凸状部周辺の帯状部分付近にも麺線群を正しく充填させることが好ましい。
麺線群を帯状部分に充填させるための方法としては、麺線群をリテーナ5に収納した後において麺線群を撹拌する方法が有効である。
【0030】
具体的には、リテーナ5に収納された麺線群を撹拌バーによって撹拌する方法が挙げられる。又は、麺線群をリテーナ5に収納した状態で、リテーナ5に振動を加えて麺線群の位置を調整する方法も可能である。さらに、麺線群に気流を供給して麺線群を撹拌する方法も可能である。例えば、上部より気流を供給する方法等がある。
【0031】
─フライ工程─
フライの工程は、α化された麺線を120℃~170℃程度の油中を1~3分間程度通過させることにより、油熱乾燥させる工程である。
そして、当該フライの工程においては、α化後の麺線を収納し、図4(a)に示すようにフライするためのリテーナ5(型枠)が用いられる。当該リテーナについては様々なタイプを用いることができる。一般には、当該リテーナ5は麺線を収納する複数の各リテーナ(カップ型枠)が連続して配置され一体となる場合が多い。また、図4(b)に示すように当該リテーナ5のそれぞれのカップ型枠の開口部に対応し、複数の蓋部が連続して配置され一体となった多孔性(通液性)の蓋6が用いられる場合が多い。
【0032】
α化された麺線群がリテーナ5に収納され、当該リテーナ5の上部に蓋6が載置され、フライオイル7内に浸漬されてフライ処理が行われる。リテーナ5内には、α化後の麺線群をリテーナ5の容積の5~8分目以上を収納することが好ましい。尚、収納する麺線の量が多い方が、後述するリテーナ5全体をフライオイル中に浸漬する場合においてフライ麺塊2の上面を平坦にすることが容易となる。
【0033】
─麺線群収納後の型枠の下方部分をフライオイルに浸漬─
本発明においては、麺線群収納後のリテーナ5(型枠)の下方部分をフライオイル7に浸漬する。これによって、麺線群の下方部分を所定時間フライすることによってフライ麺塊2の下端部の帯状部分付近の麺線の形状を確保することができる。
本発明においては、柔軟性のある麺線群をリテーナ5に収納し、まずフライ麺塊2の底部の凹状部9の下端部の保形性を確保する。本工程を経ないと、フライオイル中に浸漬したフライ時にリテーナ5の凸状部8周辺に収納された麺線群がフライオイル中で容易に上昇してしまい、フライ麺塊の凹状部9の形状を確保することができず、見かけ上の体積を増加させることが困難となる。
【0034】
次に、本発明においては、一旦、リテーナ5の底面に設けられた凸状部8に対応する、フライ麺塊2の底面に形成された凹状部9の保形性を確保した後、全体をフライオイル7中に浸漬して麺塊のフライを完成させる。
具体的には、図8に示すようなリテーナ5の下方部分のフライオイルへの浸漬によるフライ処理方法がある。すなわち、麺線群を収納したリテーナ5にα化後の麺線群を収納した状態で上部に蓋をしてフライオイル中に浸漬する。ここで、本発明ではリテーナ5の下方部分のみをまず、フライオイル7に浸漬する。そして、一定時間経過後に全体をフライオイル7中に浸漬する。
【0035】
すなわち、図8に示すようにリテーナ5全体をフライオイル中に浸漬することで麺線群がフライされながら上部に浮上し、リテーナ5に載置された蓋6に押圧され、蓋6で平坦部を形成する。
尚、すでにフライ処理されて保形性を有するフライ麺塊2の下端部も浮上する場合もあるが、麺塊の底面に形成された凹状部9の保形性が確保されている限り、麺線群がどのような動きをしてもよい。
【0036】
これらの方法によって、フライ麺塊2の凹状部の形状が確保されることにより本発明にいう見かけ上の体積が大きく確保される。
フライオイル7へのリテーナ5下方部分の浸漬は特に限定されないが、リテーナ5の高さの10%~80%程度であれば好ましい。さらに好ましくは、30~70%程度である。具体的には、深さが45~65mm程度のリテーナ5であれば、概ね10~40mm程度であることが好ましい。
【0037】
また、フライ時間(下方部フライ)はフライオイル7のフライ温度等によって異なるが、フライ温度が140℃~180℃であれば概ね5秒~60秒である。特に、5秒~40秒程度が好ましい。さらに好ましくは、10秒~30秒程度である。
このようにリテーナ5の下方部をフライオイル7に浸漬した状態で所定時間の保持することによりフライ麺塊の下端部の保形性が確保される。尚、上記の工程は、複数回のステップで徐々にフライオイル7中に浸漬する方法でもよい。例えば、麺線群を収納し蓋を施したリテーナ5を所定時間(5~20秒程度)ごとに5~15mm段階的にフライオイル7中に深く浸漬して行き、その後、リテーナ5の全体をフライオイル7中に浸漬し、所定時間フライする方法も可能である。
【0038】
さらに、ステップではなく徐々にリテーナ5をフライオイル7中に深く浸漬していきフライ後のフライ麺塊2の下端部の保形性を確保してもよい。例えば、1~5mm/秒程度の速度で5秒~40秒程度、フライ開始からフライオイル中への浸漬を徐々に深くしていくという方法も可能である。フライ麺塊の底部の凹状部9の下端部の保形性を確保した後、リテーナ5全体をフライオイル7中に浸漬する。その他種々の方法により麺塊全体のフライを完了することができる。フライ麺塊2の底部の凹状部9の保形性を確保した後であれば様々な工程を採用することが可能である。
【0039】
本発明においては、フライ麺塊2の底部下端部の保形性を確保した後、リテーナ5全体をフライオイル7中に浸漬してフライする(全体フライ)。
(下方部フライ+全体フライ)の総フライ時間は上述の下方部のフライ時間及びフライオイルのフライ温度等によって多少異なるが、フライ温度が140℃~180℃であれば概ね30秒~240秒である。特に、50秒~180秒程度が好ましい。さらに好ましくは、70秒~160秒程度である。
尚、上述の場合、蓋部6によってフライ麺塊2の上端部を平坦に形成する場合を示したが、必ずしも本形態に限定されないことは勿論である。
【0040】
─本発明の製造方法によって得られる麺塊の形状─
本発明の製造方法によって得られる麺塊は、図9に示すように、実際には同一の麺線群の量であっても、(1)に示すように凸状部8を有するリテーナ5を用いてフライ麺塊2の内部に空隙部(凹状部9)を設けることで、得られるフライ麺塊2の高さを大きくすることができる。また、これによって麺塊2の底部に形成された凹状の空隙部(凹状部)9も含めた麺塊の体積(以下、“見かけ上の体積”とする)を大きくすることができる(図10)。さらに、内部に当該凹状部9を設けることによって、その分の体積を減らすことができるので、得られるフライ麺塊2の麺線密度を大きくすることができる。
【0041】
すなわち、カップ状容器1でのフライ麺塊2の反転に関与する麺塊の”体積”とは、麺塊の上面及び下面及び高さの各サイズが影響し、たとえ、フライ麺塊2の内部が空隙状態であっても、その麺塊2の外形状(上面、下面、高さ)についての形状が確定し、当該形状による体積(“見かけ上の体積”)を大きくすることが確保できれば、同じ麺線の量を使用する場合であっても以下の図11に示すように、カップ状容器1内でのフライ麺塊2の反転は起こりにくくなる。
【0042】
さらに、カップ状容器1内における実際のフライ麺塊2の形状は、凸状部8を有するリテーナ5を利用した本発明の製造方法によって得られる麺塊2の場合、図12(1)に示すように、下端部の形状の保形性が確保されているため、麺塊2の斜辺長さ(L1)を概ね維持することができる。
一方、通常リテーナ5による麺塊の場合、下端部が破損し易く、図12(2)に示すように麺塊2の斜辺長さ(L2)が短くなる場合も多い。このため、通常麺塊の場合、反転し易くなるという現象が見られる。
本発明はこのような、麺塊2の破損による反転の発生の点においてもこれを防ぐことができるため、一層反転防止効果を奏することができる。
【0043】
─好ましい麺塊の形状─
本発明において得られるフライ麺塊2の形状として、好ましい形態は以下の範囲である。すなわち、図13に示すように、底部に凹状の空隙部を設けた麺塊において、高さをh、凹状部(空隙部)9の高さをd、麺塊上部の半径をr1、麺塊底部の半径をr2、底部周縁部の帯状部の幅をwとすると、d/h=0.35~0.75が好ましい。さらに、好ましくは0.40~0.70の範囲である。また、w/r2=0.06~0.60が好ましい。さらに、好ましくは0.10~0.35の範囲である。また、概ねdは10~35mm、hは25~60mm、r1は30~60mm、r2は20~50mm、wは3~5mm程度であることが好ましい。
【0044】
凹状部9の内面形状は楕円状、球状とともに、円錐状等も可能であり特に限定されない。このように種々の形状が可能である。但し、凹状部の体積を増加させる点では、楕円状、球状の凹状部9とすることが好ましい。
また、本発明においては、麺線群の量にもよるが、図14に示すように凹状部9の体積V2が大きい程、見かけ体積V1が増加するために好ましいが、V2の体積が大きすぎると、麺塊の強度が下がる恐れがあるため、具体的には、見かけ体積V1に対して、凹状部の体積V2について、V2/V1=0.05~0.30が好ましい。さらに、好ましくは0.08~0.18である。尚、上述の見かけ体積V1及び凹状部体積V2は、得られる麺塊についてノギスや定規等によって長さを測定したり、画像解析装置によって麺塊の輪郭を検出する等から計算で算出できることは勿論である。
【0045】
─カップ状容器への封入─
上述の製造方法により製造されたフライ麺塊2については蓋6をはずした後、リテーナ5よりフライ後のフライ麺塊2を取り出す。取り出し方法としては、種々の方法がありうるが連続のラインであればリテーナ5を反転させてリテーナ5から麺塊を分離したり、反転時に衝撃を与えてリテーナ5からの分離を促進させてもよい。これらは公知の方法を用いることができる。
【0046】
当該リテーナ5より分離したフライ麺塊2についてカップ状容器1に収納する。上述のようにこの場合には、麺塊2をカップ状容器1の胴部に保持する中空保持とするタイプが好ましい。
その後、必要に応じて、乾燥具材3、粉末スープ4、別袋の粉末又は液体スープや具材パックを収納し、上部をヒートシール等によってアルミ等の蓋部をしてシールすることによりカップ入り即席麺が完成する。完成後のカップ入り即席麺については適宜、ポリプロピレンやポリエチレン等のシュリンクフィルムで包装してもよいことはもちろんである。
【実施例
【0047】
以下に本願発明の実施例を記載する。本願発明の実施例はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)(本願製法の場合)
リテーナ5として、長方形状の枠体に、予め製造した金属性のカップ型枠の4つを一列に連続して並べ(四連)、カップ型枠の隣接する部分と枠体を溶接してリテーナ5を準備した。当該リテーナ5のカップ型枠の開口部の内径は89mm、底部の内径は75.5mm、深さは38.3mmであり、底部に細孔が多数設けられている。
また、底部に設けられた凸状部8は外径50mm、R25mmのラウンド形状を有し当該凸状部8の底部からの高さは25mmであった(図15を参照)。すなわち、半球状の凸状部8を設けた(図15)。
【0049】
使用したα化麺線は以下のように調製した。小麦粉10重量部とデンプン1重量部を混合し、当該粉体1kgに対して、食塩、かんすい等を溶解させた水340mlを加えて、混練・複合・圧延した。得られた麺帯を18番手の切刃で麺線を切出し、約2分間蒸煮した後、カットした後、食塩を含む着味液を付加したα化後の麺線60gを調製した。
当該α化後の麺線60gを前記の図15のリテーナ本体に収納し、凸状部8の周辺部の麺線群を撹拌し、凸状部8の周辺に麺線群を正しく充填した後、金属製の蓋6を被せた。当該蓋6をしたリテーナ5を温度150℃のフライヤーのフライオイル中に、フライオイルに浸漬されるリテーナ5の下方部分がリテーナ5の底面から約20mmとなるように浸漬し、この状態で30秒間保持した(下端部フライ)。その後、リテーナ5に被せられた蓋6までフライオイル中に浸漬するようにリテーナ5の全体をフライオイル中に浸漬し、約1分40秒保持してフライ処理を行い、フライ麺塊2を調整した。
【0050】
調製されたフライ麺塊2を開口部の内径94.8mm、底面部内径74mm、高さ75.5mmの紙製のカップ状容器1に収納して、上部を紙及びアルミニウム層を含む蓋部でヒートシールして封鎖して、カップ入り即席麺を調製した。フライ麺塊2の重量は概ね38gであった。
【0051】
(比較例1)
リテーナ5として、実施例1で用いたリテーナ5について、凸状部を除いたタイプの図16のリテーナ5を準備した。当該リテーナ5のカップ型枠の開口部の内径は89mm、底部の内径は75.5mm、深さは38.3mmであり、底部に細孔が多数設けられている(図16)。
実施例1と同様に、麺線群60gをリテーナに収納後、上部に金属製の蓋6を被せた。当該蓋をしたリテーナ5を、直ちにその全体をフライオイル中に浸漬させて、約2分10秒浸漬して、フライし、フライ麺塊2を調製した。フライ麺塊2の重量は概ね38gであった。
【0052】
─試験方法─
実施例1及び比較例1の方法のそれぞれで製造したカップ入り即席麺10個のそれぞれについて、底面→右側面→左側面→上面の順にそれぞれを下向きとした状態で30cmの高さから床に落下させ強制的に衝撃を加えた。さらに、同様のサイクルを2順行い、計12回強制的に衝撃を加えた。次に、カップ入り即席麺の蓋部をすべて開封して内部の麺塊の状態について調べた。評価は以下の3種類で評価した。
○:麺の傾き無し・・・100点
△:麺がカップ内で傾きあり(水平面に対して20゜以上)・・・50点
×:麺の傾きが大きく横向き程度以上(水平面対して50゜以上)・・・0点
10点のサンプルについて、それぞれに評価、該当する点数を以下の表1に示す。
【0053】
【表1】

表1に示すように、本願発明の製造方法によると麺塊の反転が、比較例1に比べて実施例1の場合、著しく抑制された。
また、表1には示していないが、凸状部8を有するリテーナ5を用いる場合であっても、フライ時に下方部のフライを行わずに、比較例と同様に直ちにリテーナ5をフライオイル中に浸漬するフライ方法によって得られた麺塊については、比較例の場合とほぼ同様の反転が見られた。表1及び上記結果から、本願発明の製法によって得られるフライ麺塊2が反転を回避する上で有用であることを示す結果である。
尚、実施例1及び比較例1の製造方法より得られた麺塊の写真を図17に示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17