IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成エレクトロニクス株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】光学デバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/61 20060101AFI20240221BHJP
   H01L 31/0232 20140101ALI20240221BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
G01N21/61
H01L31/02 D
G02B5/28
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2022194955
(22)【出願日】2022-12-06
(62)【分割の表示】P 2019103829の分割
【原出願日】2019-06-03
(65)【公開番号】P2023029348
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018160781
(32)【優先日】2018-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】笹山 憲吾
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-015679(JP,A)
【文献】特開平03-215803(JP,A)
【文献】特開2011-027699(JP,A)
【文献】特開2004-252214(JP,A)
【文献】特開2005-284704(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106054300(CN,A)
【文献】特開2005-207830(JP,A)
【文献】特開平08-292095(JP,A)
【文献】実開平01-181001(JP,U)
【文献】Lewis Fleming et al.,Reducing N2O induced cross-talk in a NDIR CO2 gas sensor for breath analysis using multilayer thin f,Surface & Coatings Technology,Elsevier B.V.,2017年09月14日,Vol.336,p.9-16,DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.surfcoat.2017.09.033
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/61
G01J 1/00-1/60
G02B 5/28
H01L 31/00-33/64
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、当該基板の少なくとも一面上に形成された屈折率の異なる複数の層を有する多層膜と、を有する光学フィルタと、
第一導電型半導体層、活性層及び第二導電型半導体層を有する赤外線受発光素子と、
を備え、
前記多層膜は、2400nm~6000nmの波長域における屈折率が1.2以上2.5以下である第1層と、2400nm~6000nmの波長域における屈折率が3.2以上4.2以下である第2層と、が交互に積層された構造を含み、
前記赤外線受発光素子は、6000nm~8000nmの波長域において感度がない、又は、6000nm~8000nmの波長域において発光を示さず、
前記光学フィルタは、2400nm~6000nmの波長域の中に、50nm以上の幅で平均透過率が70%以上となる波長域を含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上であり、かつ、6000nm~8000nmの波長域における平均透過率が60%以下である、光学デバイス。
【請求項2】
前記活性層は、AlxIn1-xSb(0.02≦x≦0.20)又はInAsySb1-y(0.75≦y≦1)を含む、請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項3】
前記活性層は、AlxIn1-xSb(0.02≦x≦0.05)又はInAsySb1-y(0.75≦y≦0.90)を含み、
前記光学フィルタは、5600nm~6000nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上400nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上である、
請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項4】
NDIRガスセンサとして機能する光学デバイスであって、測定対象ガスがNH3である、請求項3に記載の光学デバイス。
【請求項5】
前記活性層は、AlxIn1-xSb(0.02≦x≦0.05)又はInAsySb1-y(0.75≦y≦0.90)を含み、
前記光学フィルタは、5200nm~5500nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上300nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上である、
請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項6】
NDIRガスセンサとして機能する光学デバイスであって、測定対象ガスがNOである、請求項5に記載の光学デバイス。
【請求項7】
前記活性層は、AlxIn1-xSb(0.02≦x≦0.12)又はInAsySb1-y(0.75≦y≦0.90)を含み、
前記光学フィルタは、4500nm~4800nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上300nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上である、
請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項8】
NDIRガスセンサとして機能する光学デバイスであって、測定対象ガスがCOである、請求項7に記載の光学デバイス。
【請求項9】
前記活性層は、AlxIn1-xSb(0.02≦x≦0.12)又はInAsySb1-y(0.75≦y≦0.90)を含み、
前記光学フィルタは、4200nm~4350nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上150nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上である、
請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項10】
NDIRガスセンサとして機能する光学デバイスであって、測定対象ガスがCO2である、請求項9に記載の光学デバイス。
【請求項11】
前記活性層は、AlxIn1-xSb(0.04≦x≦0.14)又はInAsySb1-y(0.80≦y≦1)を含み、
前記光学フィルタは、3300nm~3600nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上300nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上である、
請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項12】
NDIRガスセンサとして機能する光学デバイスであって、測定対象ガスがCH2O、C3H8又はC2H5OHである、請求項11に記載の光学デバイス。
【請求項13】
前記活性層は、AlxIn1-xSb(0.04≦x≦0.14)又はInAsySb1-y(0.80≦y≦1)を含み、
前記光学フィルタは、3200nm~3400nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上200nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上である、
請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項14】
NDIRガスセンサとして機能する光学デバイスであって、測定対象ガスがCH4である、請求項13に記載の光学デバイス。
【請求項15】
前記活性層は、AlxIn1-xSb(0.08≦x≦0.20)又はInAsySb1-y(0.80≦y≦1)を含み、
前記光学フィルタは、2400nm~2800nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上400nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上である、
請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項16】
NDIRガスセンサとして機能する光学デバイスであって、測定対象ガスがH2Oである、請求項15に記載の光学デバイス。
【請求項17】
前記多層膜の膜厚は、5000nm以上25000nm以下である、請求項1~16の何れか一項に記載の光学デバイス。
【請求項18】
前記多層膜において前記第1層と前記第2層とが交互に積層された回数は、10回以上60回以下である、請求項1~17の何れか一項に記載の光学デバイス。
【請求項19】
前記第1層は、SiO、SiO2、TiO2、ZnSからなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項1~18の何れか一項に記載の光学デバイス。
【請求項20】
前記第2層は、Si、Geからなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項1~19の何れか一項に記載の光学デバイス。
【請求項21】
前記赤外線受発光素子は、赤外線LED及び/又は赤外線フォトダイオードである、請求項1~20の何れか一項に記載の光学デバイス。
【請求項22】
前記多層膜が前記基板の両面上に形成されている、請求項1~21の何れか一項に記載の光学デバイス。
【請求項23】
前記光学フィルタは、6000nm~8000nmの波長域における平均透過率が2%以上である、請求項1~22の何れか一項に記載の光学デバイス。
【請求項24】
基板と、当該基板の少なくとも一面上に形成された屈折率の異なる複数の層を有する多層膜と、を有する光学フィルタと、
第一導電型半導体層、活性層及び第二導電型半導体層を有する赤外線受発光素子と、
を備え、
前記多層膜は、SiO、SiO2、TiO2、ZnSからなる群から選択される少なくとも一つを含む第1層と、Si、Geからなる群から選択される少なくとも一つを含む第2層と、が交互に積層された構造を含み、
前記赤外線受発光素子は、6000nm~8000nmの波長域において感度がない、又は、6000nm~8000nmの波長域において発光を示さず、
前記光学フィルタは、2400nm~6000nmの波長域の中に、50nm以上の幅で平均透過率が70%以上となる波長域を含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上であり、かつ、6000nm~8000nmの波長域における平均透過率が60%以下である、光学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NDIRガスセンサ及び光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大気中の測定対象ガスの濃度測定を行うガス濃度測定装置として、非分散赤外線吸収型(Non-Dispersive Infrared:NDIR)ガス濃度測定装置が知られている。非分散赤外線吸収型ガス濃度測定装置は、ガスの種類によって吸収される赤外線の波長が異なることを利用し、この吸収量を検出することによりそのガス濃度を測定するようになっている。この原理を用いたガス濃度測定装置としては、例えば、測定対象ガスが吸収特性を持つ波長に限定した赤外線を透過するフィルタ(透過部材)と赤外線受光素子とを組み合わせ、測定対象ガスが吸収する赤外線の吸収量を測定することによってガスの濃度を測定するように構成された装置が挙げられる。この原理を応用した炭酸ガス濃度測定装置が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-33431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、各検出対象ガスに対して赤外線光源、赤外線受発光素子や光学フィルタの最適な組み合わせは検討されていないのが現状である。特にこれまでは光学フィルタの仕様の最適化は行われていなかった。
本発明は、簡素化した光学フィルタを用いた場合にも高精度なNDIRガスセンサ及び光学デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0006】
一態様において、本発明のNDIRガスセンサは、
基板と、当該基板の少なくとも一面上に形成された屈折率の異なる複数の層を有する多層膜と、を有する光学フィルタと、
第一導電型半導体層、活性層及び第二導電型半導体層を有する赤外線受発光素子と、
を備え、
前記多層膜は、2400nm~6000nmの波長域における屈折率が1.2以上2.5以下である第1層と、2400nm~6000nmの波長域における屈折率が3.2以上4.2以下である第2層と、が交互に積層された構造を含み、
前記活性層は、AlIn1-xSb(0.02≦x≦0.20)又はInAsSb1-y(0.75≦y≦1)を含み、
前記光学フィルタは、2400nm~6000nmの波長域の中に、50nm以上の幅で平均透過率が70%以上となる波長域を含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上であり、かつ、6000nm~8000nmの波長域における平均透過率が2%以上60%以下である。
【0007】
また、別の態様において、本発明のNDIRガスセンサは、
基板と、当該基板の少なくとも一面上に形成された屈折率の異なる複数の層を有する多層膜と、を有する光学フィルタと、
第一導電型半導体層、活性層及び第二導電型半導体層を有する赤外線受発光素子と、
を備え、
前記多層膜は、SiO、SiO、TiO、ZnSからなる群から選択される少なくとも一つを含む第1層と、Si、Geからなる群から選択される少なくとも一つを含む第2層と、が交互に積層された構造を含み、
前記活性層は、AlIn1-xSb(0.02≦x≦0.20)又はInAsSb1-y(0.75≦y≦1)を含み、
前記光学フィルタは、2400nm~6000nmの波長域の中に、50nm以上の幅で平均透過率が70%以上となる波長域を含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上であり、かつ、6000nm~8000nmの波長域における平均透過率が2%以上60%以下である。
【0008】
一態様において、本発明の光学デバイスは、
基板と、当該基板の少なくとも一面上に形成された屈折率の異なる複数の層を有する多層膜と、を有する光学フィルタと、
第一導電型半導体層、活性層及び第二導電型半導体層を有する赤外線受発光素子と、
を備え、
前記多層膜は、2400nm~6000nmの波長域における屈折率が1.2以上2.5以下である第1層と、2400nm~6000nmの波長域における屈折率が3.2以上4.2以下である第2層と、が交互に積層された構造を含み、
前記活性層は、AlIn1-xSb(0.02≦x≦0.20)又はInAsSb1-y(0.75≦y≦1)を含み、
前記光学フィルタは、2400nm~6000nmの波長域の中に、50nm以上の幅で平均透過率が70%以上となる波長域を含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上であり、かつ、6000nm~8000nmの波長域における平均透過率が2%以上60%以下である。
【0009】
また、別の態様において、本発明の光学デバイスは、
基板と、当該基板の少なくとも一面上に形成された屈折率の異なる複数の層を有する多層膜と、を有する光学フィルタと、
第一導電型半導体層、活性層及び第二導電型半導体層を有する赤外線受発光素子と、
を備え、
前記多層膜は、SiO、SiO、TiO、ZnSからなる群から選択される少なくとも一つを含む第1層と、Si、Geからなる群から選択される少なくとも一つを含む第2層と、が交互に積層された構造を含み、
前記活性層は、AlIn1-xSb(0.02≦x≦0.20)又はInAsSb1-y(0.75≦y≦1)を含み、
前記光学フィルタは、2400nm~6000nmの波長域の中に、50nm以上の幅で平均透過率が70%以上となる波長域を含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上であり、かつ、6000nm~8000nmの波長域における平均透過率が2%以上60%以下である。
【0010】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡素化した光学フィルタを用いた場合にも高精度なNDIRガスセンサ及び光学デバイスを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態における光学フィルタの断面の一例を示す図である。
図2】本実施形態におけるNDIRガスセンサの一例を示す図である。
図3】本発明による光学フィルタと比較例による光学フィルタとを比較して説明する図である。
図4】比較例による光学フィルタと本発明による光学フィルタとの相違を示す図である。
図5】実施例1~3に係る赤外線受発光素子の各層の積層構造を示す図である。
図6】実施例1及び実施例3に係る赤外線受光素子の分光スペクトルを示す図である。
図7】実施例1及び実施例2に係る光学フィルタ(簡素化フィルタ)の透過スペクトルを、比較例に係る光学フィルタ(従来構成のフィルタ)の透過スペクトルと比較して、示す図である。
図8】実施例1及び実施例2に係る簡素化フィルタの積層構造を示す図である。
図9】実施例1において赤外線受光素子と光学フィルタ(簡素化フィルタ)とを組み合わせて構成したCO検出向けIR-センサの分光スペクトルを示す図である。
図10】実施例2に係る赤外線発光素子の発光スペクトルを示す図である。
図11】実施例2において赤外線発光素子と光学フィルタ(簡素化フィルタ)とを組み合わせて構成したCO検出向けIR-LEDの発光スペクトルを示す図である。
図12】実施例3及び実施例5に係る光学フィルタ(簡素化フィルタ)の透過スペクトルを、比較例に係る光学フィルタ(従来構成のフィルタ)の透過スペクトルと比較して、示す図である。
図13】実施例3及び実施例5に係る簡素化フィルタの積層構造を示す図である。
図14】実施例3において赤外線受光素子と光学フィルタ(簡素化フィルタ)とを組み合わせて構成したCO検出向けIR-センサの分光スペクトルを示す図である。
図15】実施例4に係る赤外線受発光素子の各層の積層構造を示す図である。
図16】実施例4に係る赤外線受光素子の分光スペクトルを示す図である。
図17】実施例4に係る光学フィルタ(簡素化フィルタ)の透過スペクトルを、比較例に係る光学フィルタ(従来構成のフィルタ)の透過スペクトルと比較して、示す図である。
図18】実施例4に係る簡素化フィルタの積層構造を示す図である。
図19】実施例4において赤外線受光素子と光学フィルタ(簡素化フィルタ)とを組み合わせて構成したCH検出向けIR-センサの分光スペクトルを示す図である。
図20】実施例5に係る赤外線受発光素子の各層の積層構造を示す図である。
図21】実施例5に係る赤外線受光素子の分光スペクトルを示す図である。
図22】実施例5において赤外線受光素子と光学フィルタ(簡素化フィルタ)とを組み合わせて構成したCO検出向けIR-センサの分光スペクトルを示す図である。
図23】光学フィルタに用いられる誘電体材料の屈折率の波長分散データである。
図24】受発光部品のカットオフ波長を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と言う。)を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。
また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
また、以下では本実施形態について、図面を用いて説明する。ただし、以下に説明する各図において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適宜省略する。
また、本実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、各部の材質、形状、構造、配置、寸法等を下記のものに特定するものでない。
また、本実施形態は、以下で説明されている特徴的な構成の組み合わせの全てを含むものである。
本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
[NDIRガスセンサ]
本実施形態に係るNDIRガスセンサは、一の態様において、基板と、基板の少なくとも一面上に形成された屈折率の異なる複数の層を有する多層膜と、を有する光学フィルタと、第一導電型半導体層、活性層及び第二導電型半導体層を有する赤外線受発光素子と、を備え、多層膜は、2400nm~6000nmの波長域における屈折率が1.2以上2.5以下である第1層と、2400nm~6000nmの波長域における屈折率が3.2以上4.2以下である第2層と、が交互に積層された構造を含み、活性層は、AlIn1-xSb(0.02≦x≦0.20)又はInAsSb1-y(0.75≦y≦1)を含み、光学フィルタは、2400nm~6000nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上1000nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上である。
【0016】
また、本実施形態に係るNDIRガスセンサは、別の態様において、基板と、当該基板の少なくとも一面上に形成された屈折率の異なる複数の層を有する多層膜と、を有する光学フィルタと、第一導電型半導体層、活性層及び第二導電型半導体層を有する赤外線受発光素子と、を備え、多層膜は、SiO、SiO、TiO、ZnSからなる群から選択される少なくとも一つを含む第1層と、Si、Geからなる群から選択される少なくとも一つを含む第2層と、が交互に積層された構造を含み、活性層は、AlIn1-xSb(0.02≦x≦0.20)又はInAsSb1-y(0.75≦y≦1)を含み、光学フィルタは、2400nm~6000nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上1000nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上である。
【0017】
図1は、本実施形態における光学フィルタの断面の一例を示す。
図1に示すように、この例の光学フィルタは、2400nm~6000nmの波長域における屈折率が1.2~2.5となる低屈折率材料(L)からなる層と、2400nm~6000nmの波長域における屈折率が3.2~4.2となる高屈折率材料(H)からなる層とを、Si基板上に直接設けられる層が上記高屈折率材料(H)となるように、Si基板の両面に交互積層することで、多層膜が形成されている。本実施形態の光学フィルタでは、図1の構成に限定されることなく、多層膜は、基板の一面上にのみ形成されていてもよく、基板の両面上に形成されていてもよい。
また、本実施形態の光学フィルタでは、多層膜は、屈折率が1.2~2.5となる第1層と屈折率が3.2~4.2となる第2層とが交互に積層されている限り、特に限定されないが、図1に例のように、高屈折率材料(H)が基板上に直接設けられることが本発明の効果を高めるうえで好ましい。
【0018】
本実施形態において、光学フィルタは、中赤外域の干渉型バンドパスフィルタである。一般に、中赤外域の干渉型バンドパスフィルタは積層数が多く、成膜時の欠陥が増加しやすい。また、光学フィルタの積層数が多いと、NDIRガスセンサの小型化が困難である。そのため、光学フィルタの積層数は少ないことが好ましい。ただし、単に光学フィルタの積層数を減らして簡素化すると、ガスセンサの精度が劣化するおそれがある。
【0019】
また、高精度なNDIRガスセンサを実現するためには、検出対象ガス以外のガスによる赤外線の吸収の影響を低減する必要がある。
【0020】
発明者は、赤外線受発光素子や光学フィルタの最適な組み合わせを検討した結果、以下に説明するように、簡素化した光学フィルタを用いても精度が劣化しないNDIRガスセンサを実現した。
【0021】
ここで、簡素化した光学フィルタとは、センサ感度の無い領域の遮断機能を制限することで、当該領域の遮断に必要な光学薄膜の積層分を減らした光学フィルタである。積層数の少ない簡素化した光学フィルタを用いることで量産性の向上が期待できる。また、積層数を減らすことにより成膜時の欠陥を低減することができ、その結果、歩留まりの改善が見込める。また、多積層が原因の反りが低減されることにより、ダイシングで発生するチッピングの発生が抑制され、量産安定性を高めることができる。なお、センサ感度の無い領域は、以下のように定められる。詳細については後述するが、赤外線受発光素子はバンドギャップエネルギーEgによって長波長側のカットオフ波長が定まる(図24参照)。本実施形態において、バンドギャップエネルギーEgは6000nmに対応し、例えば6000nm~8000nmの波長域がカットオフされる。以下、本実施形態において、センサ感度の無い領域は6000~8000nmの波長域であるとして説明する。
【0022】
本実施形態に係るNDIRガスセンサによれば、赤外線受発光素子の活性層がAlIn1-xSb(0.02≦x≦0.20)又はInAsSb1-y(0.75≦y≦1)を含み、光学フィルタの2400nm~6000nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を50nm以上1000nm以下含み、かつ6000nm~8000nmの波長帯における最大透過率が5%以上であっても、ガスの検出精度を保ちつつ、簡易に製造できる安価な光学フィルタを用いることが可能となるという効果を奏する。
【0023】
検出対象ガスとしては、CO、CO、メタン、HO、NO、COH、C、NH、CHO等の2μm~10μmの波長帯の赤外線に対して吸収特性を有するガス種が一例として挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0024】
本実施形態に係るNDIRガスセンサが備える赤外線受発光素子は、赤外線発光素子(例えば赤外線LED)及び/又は赤外線受光素子(例えば赤外線フォトダイオード)である。つまり、赤外線受発光素子は、赤外線発光素子および赤外線受光素子の少なくとも一つである。赤外線受光素子は、フォトダイオードに限られず、光導電型センサやサーミスタ、サーモパイル等種々のものから選択することができる。赤外線発光素子は、発光ダイオードに限られず、ランプやMEMSヒーター等の種々のものから選択することができる。赤外線発光素子および赤外線受光素子は、活性層がAlIn1-xSb(0.02≦x≦0.20)又はInAsSb1-y(0.75≦y≦1)を含むことが好ましい。
【0025】
図2は、本実施形態におけるNDIRガスセンサの一例を示す図である。
本実施形態に係るNDIRガスセンサでは、図2に示すように、赤外線発光素子から出力させる赤外線の光路中に赤外線受光素子を設置し、赤外線受光素子の前には検出対象であるガスの吸収波長を選択的に透過させる光学フィルタを設置する。
【0026】
図3は、本発明による光学フィルタと比較例による光学フィルタとを比較して説明する図である。
図3の比較例の技術では、分光感度に波長選択性(波長による感度変化)がない。一方、本発明では図3のように波長選択性がある。よって、本発明では、感度のない波長については光学フィルタでカットする必要がなく、光学フィルタに求められる機能は簡略化できる。
図4は、比較例による光学フィルタと本発明による光学フィルタとの相違を示す図である。
図4に示すように、本実施形態におけるNDIRガスセンサでは、カット特性を決定づけるカット面と呼ばれる多層積層の膜厚を大幅に減らすことができる。後述する実施例で示すように、多層膜が基板の両面に形成されている場合に、各面の総膜厚の比を0.5~2.0の範囲に含めることが可能である。つまり、通常バンドパス面の2倍よりも大きかったカット面の膜厚を、バンドパス面の0.5~2.0倍にすることが可能である。
【0027】
以下、本発明の一態様のNDIRガスセンサの各構成について説明する。
【0028】
-光学フィルタ-
光学フィルタは、基板と、基板上に形成され、屈折率の異なる複数の層を有する多層膜と、を有する。多層膜は、基板の一面のみに形成されていてもよく、両面に形成されていてもよい。
光学フィルタは、NDIRガスセンサ内のうち、赤外線発光素子から放射された赤外線が赤外線受光素子に至る光路の間の何れかの場所に設置される。光学フィルタは、赤外線発光素子と一体形成されていてもよく、また、赤外線受光素子と一体形成されていてもよい。また、光路内の所定の場所に設置されていてもよい。また、光学フィルタを複数備える形態でもよい。
光学フィルタは、基板上に第1層及び第2層を蒸着法により成膜することで作成することができる。
【0029】
--基板--
基板の一面上に多層膜が形成されるため、基板は、多層膜を構成する各層の形成に適したものであればよい。一例としては、Si基板、Ge基板、ZnS基板、サファイア基板等が挙げられるが、これらに限らない。
【0030】
--多層膜--
多層膜は、屈折率の異なる複数の層を有する膜であり、具体的には、2400nm~6000nmの波長域における屈折率が1.2以上2.5以下である第1層と、2400nm~6000nmの波長域における屈折率が3.2以上4.2以下である第2層と、が交互に積層された構造を含む。
【0031】
本実施形態における光学フィルタは、2400nm~6000nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上1000nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上である。
なお、上記平均透過率が70%以上95%以下となる波長域の幅は、かかる波長域が複数ある場合にはその合計によるものとする。
【0032】
本実施形態における光学フィルタでは、6000nm~8000nmの波長域における平均透過率が2%以上60%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以上60%以下であり、さらに好ましくは40%以上60%以下である。ここで、光学フィルタは、Si基板を挟んで設けられる上記のカット面と、バンドパス面と、を有する(図1参照)。6000nm~8000nmの波長域における平均透過率の上限である60%は、本実施形態におけるバンドパス面の同波長域の平均透過率の上限に対応する。一般に、バンドパス面は、センサ感度の無い領域においても透過率は100%とはならない。そのため、光学フィルタでは、6000nm~8000nmの波長域における平均透過率は、100%よりも小さい上限値を有し、上限値はバンドパス面の平均透過率によって定められる。一方、光学フィルタの6000nm~8000nmの波長域における平均透過率の下限は、カット面の平均透過率によって変動する。つまり、カット面の積層状態によって、光学フィルタの平均透過率の下限を例えば40%、30%または2%に変更することが可能である。
【0033】
6000~8000nmの波長域における平均透過率に好適値が存在する理由は以下の通りである。光学フィルタの積層数は、遮断する波長域の広さに依存する傾向がある。特にNDIRガスセンサにおいては、6000~8000nmの範囲に複数のガス(HO、SO、C、COH、CHO、CH、NOなど)の吸収があるため、特定のガスを精度よく検出するためには、6000~8000nmの波長域の中赤外線を遮断する必要がある。
【0034】
一方、半導体受発光部品の感度域は、状態密度とボルツマン分布に影響する。図24は、半導体受発光部品のカットオフ波長を示す図である。特に長波長側の感度の立ち上がり波長はバンドギャップエネルギーEgに依存する。本願発明では、受発光部品のバンドギャップエネルギーを最適設計することで、検出対象ガスに応じた固有の吸収波長域には感度を有する一方で、6000~8000nmの波長域には感度を持たないセンサを実現できる。その結果、光学フィルタによる6000~8000nmの遮断は重要ではなくなり、光学フィルタの設計は簡素化され、コスト削減と量産性の向上を実現できる。そのとき、6000~8000nmの波長域における平均透過率は2%を超えるようになり、平均透過率2~60%の範囲においては、NDIRガスセンサとしての性能を維持したまま光学フィルタを簡素化することが可能となる。
【0035】
一方で、高精度なガスセンサを実現するためには、2400~6000nmの波長域の中に含まれる、平均透過率が70%以上となる透過スペクトルの形状を、矩形に近づけることが望まれる。透過スペクトルの立ち上がりと立ち下がり形状を矩形に近いシャープな形状にするためには、光学フィルタの積層数が増え、その結果6000~8000nmの波長域においても一定の遮断効果を受けるようになる。そのため、平均透過率は60%以内に収まるようになる。つまり、6000~8000nmの波長域における上下限の値は、NDIRガスセンサとしての性能を維持したまま、光学フィルタを簡素化できる範囲を示す。
【0036】
(光学フィルタの平均透過率の測定方法)
光学フィルタの2400nm~6000nmの波長域における平均透過率が70%以上95%以下であることの確認方法としては、顕微FT-IR装置(ブルカー社製、Hyperion3000+TENSOR27)によって、例えば、波数範囲900cm-1から4200cm-1、波数分解能8cm-1にて透過スペクトルを取得し、上記波長域における透過率の数値積分値に対して、波長域(範囲)で割ることにより実施できる。測定点数としては、1000nmあたり200点(=5nmあたり1点)とする。6000nm~8000nmの波長域における平均透過率も同様の方法で確認が可能である。
【0037】
ここで第1層が複数回積層された場合、それぞれの第1層の材料及び膜厚は同じでもよく、異なっていてもよい。第2層についても同様である。多層膜は第1層及び第2層以外の層をさらに含んでいてもよい。第1層と第2層を交互に積層する場合にも、第1層→第2層→第3層→第1層→第2層・・・というような積層構造とすることも可能である。
【0038】
多層膜の膜厚としては、5000nm以上25000nm以下が好ましく、5000nm以上20000nm以下がさらに好ましい。これにより、光学フィルタ製造の時間短縮及び歩留まり改善という効果を奏する。膜厚は、断面SEM観察により測定可能である。
【0039】
第1層と第2層とが交互に積層された回数は、第1層一層と第2層一層とを一つの繰り返し単位としたときの繰り返し単位の数として、それぞれ10回以上60回以下が好ましく、10回以上40回以下がさらに好ましい。これにより、光学フィルタ製造の時間短縮及び歩留まり改善という効果を奏する。
なお、上記交互に積層された回数は、断面SEM観察により測定可能である。
【0040】
---第1層---
本実施形態の多層膜の第1層は、2400nm~6000nmの波長域における屈折率が1.2以上2.5以下の層である。
第1層の具体的な材料としては、SiO、SiO、TiO、ZnS等が挙げられる。第1層は、上記材料からなるものとしてよい。
【0041】
---第2層---
本実施形態の多層膜の第2層は、2400nm~6000nmの波長域における屈折率が3.2以上4.2以下の層である。
第2層の具体的な材料としては、Si、Ge等が挙げられる。第2層は、上記材料からなるものとしてよい。
【0042】
(第1層及び第2層の屈折率の測定方法)
なお、本実施形態における屈折率については、JIS K7142に準拠して、エリプソメーターにより測定した値とする。
【0043】
-赤外線受発光素子-
赤外線受発光素子は、第一導電型半導体層、活性層AlIn1-xSb(0.02≦x≦0.20)又はInAsSb1-y(0.75≦y≦1)、及び第二導電型半導体層を有する素子である。
【0044】
ここで、「受発光」とは、受光及び発光の少なくとも何れかの機能を有することを意味し、赤外線受発光素子は、具体的には赤外線発光ダイオードや赤外線フォトダイオードを指す。
【0045】
またここで、「AlIn1-xSb(0.02≦x≦0.20)を含む」とは、AlとInとSbを層内に含むことを意味するが、その他の元素を含む場合もこの表現に含まれる。具体的には、他の元素を少量(例えばAs、P、Ga、N等の元素を数%以下)加える等してこの層の組成に軽微な変更を加える場合についてもこの表現に含まれる。その他の層の組成を表現する場合に「含む」という文言を使用する場合にも、同様の意味を有するものとする。
【0046】
(各層のAl組成の測定方法)
各層のAl組成は、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)法により以下のように求めた。測定にはCAMECA社製磁場型SIMS装置IMS 7fを用いた。この手法は、固体表面にビーム状の一次イオン種を照射することで、スパッタリング現象により深さ方向に掘り進めながら、同時に発生する二次イオンを検出することで、組成分析を行う手法である。なおここで、Al組成とは、各層に含まれる全13族元素に対するAl元素の比率を指す。
【0047】
具体的には、一次イオン種をセシウムイオン(Cs+)、一次イオンエネルギーを2.5keV、ビーム入射角を67.2°とし、検出二次イオン種としてマトリックス効果が小さいMCs+(Mは、Al、Ga、In、As、Sbなど)を検出した。
【0048】
この際、上述のような一定条件でスパッタリングを行い、目的とする層の深さまでスパッタリングを所定の時間行うことで、目的とする層の組成分析を行った。なお、目的とする層の深さは、後述の断面TEM測定により各層の厚さから求めることができる。SIMS分析のスパッタリング時間―深さの変換は、分析と同条件での一定時間スパッタリング深さを、例えば触針式の段差計を用いて測定しスパッタレートを求め、これを使って試料測定時のスパッタリング時間を深さに変換することで求めた。
【0049】
そして、各層におけるMCs+の信号強度から、Al組成を求めた。例えばAlInSb層の場合、Al組成は(AlCs+の信号強度)÷((AlCs+の信号強度)+(InCs+の信号強度))から求めた。
【0050】
なお、各層が深さ方向に均一な組成であっても、スパッタリングの影響により信号強度が深さ方向に分布を生じる場合があるが、この場合は最大の信号強度を各層の信号強度の代表値とする。
【0051】
なお、分析で求められるAl組成定量値は真値からのずれを伴い得る。この真値からのずれを補正するために、X線回折(XRD:X-ray Diffracton)法から得られる格子定数値を求めた別サンプルを用意し、Al組成値が既知である標準試料として用いて、各層のAl組成の測定条件を用いてSIMS分析を行うことで、信号強度に対するAl組成の感度係数を求めた。各層のAl組成は、SIMS信号強度に上記感度係数をかけることで求めた。
【0052】
ここで、別サンプルとしてはGaAs基板上に積層された膜厚800nmのAlIn1-xSbを用いた。このサンプルについて、格子定数をスペクトリス株式会社製X線回折装置X’Pert MPDを用いてX線回折(XRD:X-ray Diffaction)法により以下のように求め、標準試料としてのAl組成xを求めた。
【0053】
X線回折による2θ-ωスキャンを行うことにより、基板表面の面方位に対応する面の面指数の2θ-ωスキャンにおけるピーク位置から、AlIn1-xSbを含む層の基板表面に対する法線方向の格子定数を求め、該法線方向の格子定数からベガード則を用いてAl組成xを決定した。ここでは、AlIn1-xSb層の異方的な歪みはないものとした。ベガード則は具体的には以下の式(1)で表される。
【0054】
【数1】
【0055】
ここでaAlSbはAlSb、aInSbはInSbの格子定数であり、aAlInSbは上記のX線回折により求まるAlIn1-xSbの格子定数である。aAlSbには6.1355Åを、aInSbには6.4794Åを使用した。SIMS測定に対する標準試料としては、0.10<x<0.15のものを用いた。
【0056】
活性層がInAsSb1-y(0.75≦y≦1)を含む場合のAs組成yについても、上記と同様の手法を用いることで測定可能である。この際には、別サンプルとしてはGaAs基板上に積層された膜厚800nmのInAsSb1-yを用い、ベガード則は具体的には以下の式(2)で表される。
【0057】
【数2】
【0058】
ここでaInAsはInAs、aInSbはInSbの格子定数であり、aInAsSbは上記のX線回折により求まるInAsSb1-yの格子定数である。aInAsには6.0585Åを、aInSbには6.4794Åを使用する。SIMS測定に対する標準試料としては、0.10<y<0.15のものを用いた。
【0059】
第一導電型及び第二導電型はそれぞれn型(n型不純物を含む)、i型(不純物を含まない)及びp型(p型不純物を含む)の何れかであってよい。
第一導電型半導体層、活性層及び第二導電型半導体層は、GaAs基板やSi基板等の半導体基板上に形成されてもよい。
本実施形態では、基板から順に、第一導電型半導体層、活性層、第二導電型半導体層となるように各層を設けてもよく、基板から順に、第二導電型半導体層、活性層、第一導電型半導体層となるように各層を設けてもよい。そして、本実施形態では、好ましくは、第一導電型がn型、第二導電型がp型である。
【0060】
また、本実施形態では、第一導電型半導体層と活性層との間、及び/又は活性層と第二導電型半導体層との間に、それぞれ一層又は複数層のバリア層が設けられていてもよい。
本実施形態では、好ましくは、第一導電型半導体層と活性層との間にn型バリア層が、活性層と第二導電型半導体層との間にp型バリア層が、それぞれ設けられる。
n型バリア層としては、n型AlIn1-xSb(0.20≦x≦0.35)が本発明の効果を高めるうえで好ましい。
p型バリア層としては、p型AlIn1-xSb(0.20≦x≦0.35)が本発明の効果を高めるうえで好ましい。
【0061】
[活性層の組成と光学フィルタの特性の関係]
各検出対象ガスに対する、活性層の好ましい組成及び光学フィルタの特性は以下の通りである。
検出対象ガスがNH(5500nm~6500nmに吸収有り)の場合、活性層は、AlIn1-xSb(0.02≦x≦0.05)又はInAsSb1-y(0.75≦y≦0.90)を含み、光学フィルタは、5600nm~6000nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上400nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上であることが好ましい。
検出対象ガスがNO(5100nm~5700nmに吸収有り)の場合、活性層は、AlIn1-xSb(0.02≦x≦0.05)又はInAsSb1-y(0.75≦y≦0.90)を含み、光学フィルタは、5200nm~5500nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上300nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上であることが好ましい。
検出対象ガスがCO(4400nm~5000nmに吸収有り)の場合、活性層は、AlIn1-xSb(0.02≦x≦0.12)又はInAsSb1-y(0.75≦y≦0.90)を含み、光学フィルタは、4500nm~4800nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上300nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上であることが好ましい。
検出対象ガスがCO(4100nm~4400nmに吸収有り)の場合、活性層は、AlIn1-xSb(0.02≦x≦0.12)又はInAsSb1-y(0.75≦y≦0.90)を含み、光学フィルタは、4200nm~4350nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上150nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上であることが好ましい。
検出対象ガスがCHO(3100nm~3800nmに吸収有り)、又はC(3200nm~3700nmに吸収有り)、又はCOH(3200nm~3700nmに吸収有り)の場合、活性層は、AlIn1-xSb(0.04≦x≦0.14)又はInAsSb1-y(0.80≦y≦1)を含み、光学フィルタは、3300nm~3600nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上300nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上であることが好ましい。
検出対象ガスがCH(3200nm~3500nmに吸収有り)の場合、活性層は、AlIn1-xSb(0.04≦x≦0.14)又はInAsSb1-y(0.80≦y≦1)を含み、光学フィルタは、3200nm~3400nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上200nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上であることが好ましい。
検出対象ガスがHO(2500nm~2900nmに吸収有り)の場合、活性層は、AlIn1-xSb(0.08≦x≦0.20)又はInAsSb1-y(0.80≦y≦1)を含み、光学フィルタは、2400nm~2800nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上400nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上であることが好ましい。
【0062】
[光学デバイス]
本実施形態に係る光学デバイスは、前述の本実施形態に係るNDIRガスセンサと同様の特徴を備えるものである。光学デバイスはNDIRガスセンサに限定されず、同様の特徴を有する赤外線放射温度計、赤外分光イメージング、人体検知センサ、であってよい。
本実施形態に係る光学デバイスによれば、簡素化した光学フィルタを用いた際にも、所望の波長帯域の赤外線のみを選択的に受光/発光が可能となる、という効果を得ることができる。
【0063】
本実施形態に係る光学デバイスは、一の態様において、基板と、基板の少なくとも一面上に形成された屈折率の異なる複数の層を有する多層膜と、を有する光学フィルタと、第一導電型半導体層、活性層及び第二導電型半導体層を有する赤外線受発光素子と、を備え、多層膜は、2400nm~6000nmの波長域における屈折率が1.2以上2.5以下である第1層と、2400nm~6000nmの波長域における屈折率が3.2以上4.2以下である第2層と、が交互に積層された構造を含み、活性層は、AlIn1-xSb(0.02≦x≦0.20)又はInAsSb1-y(0.75≦y≦1)を含み、光学フィルタは、2400nm~6000nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上1000nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上である。
【0064】
また、本実施形態に係る光学デバイスは、別の態様において、基板と、当該基板の少なくとも一面上に形成された屈折率の異なる複数の層を有する多層膜と、を有する光学フィルタと、第一導電型半導体層、活性層及び第二導電型半導体層を有する赤外線受発光素子と、を備え、多層膜は、SiO、SiO、TiO、ZnSからなる群から選択される少なくとも一つを含む第1層と、Si、Geからなる群から選択される少なくとも一つを含む第2層と、が交互に積層された構造を含み、活性層は、AlIn1-xSb(0.02≦x≦0.20)又はInAsSb1-y(0.75≦y≦1)を含み、光学フィルタは、2400nm~6000nmの波長域の中に、平均透過率が70%以上95%以下となる波長域を幅50nm以上1000nm以下で含み、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率が5%以上である。
【実施例
【0065】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではなく、その発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変更可能であることは言うまでもない。
【0066】
[実施例1]
簡素化フィルタと赤外線受光素子とを組み合わせたIR-センサについて説明する。IR-センサは、例えばCO2センサのような光学デバイスの一部を構成する。まず、PINダイオード構造については、MBE法により作成した。活性層はAl0.04In0.96Sbとし、n型半導体層は、Snを1.0×1019原子/cmドーピングすることで、エネルギーバンドを縮退させ、2000nmより長波長の赤外線光に対して透明化している。さらに、活性層を挟むように、n型Al0.22In0.78Sbとp型Al0.22In0.78Sbをバリア層として設けた。図5に、実施例1に係る赤外線受発光素子の各層の積層構造を示す。
このようにして準備した半導体ウエハの表面にi線用ポジ型フォトレジストを塗布し、縮小投影型露光機によりi線を使用し露光を行った。次に現像を行い、半導体積層部の表面にレジストパターンを規則的に複数形成した。次に、ドライエッチング処理により、複数のメサを形成した。メサ形状を有する素子上に、ハードマスクとしてSiOを成膜後、ドライエッチングで素子分離を行い、その後、保護膜としてSiNを成膜し、フォトリソグラフィーとドライエッチングによりコンタクトホールを形成した。その後、フォトリソグラフィーとスパッタリングにより、複数のメサを直列接続した。その後、ポリイミド樹脂を保護膜として、素子表面を覆うように形成した。
上述した前工程プロセスにより作製したウエハをダイシングして個片化し、Auワイヤーをボンディングしリードフレームと結線して、エポキシ系モールド樹脂で受光面が露出するように封止した。このように作製した赤外線受光素子の分光感度スペクトルを測定した結果、図6の結果が得られた。図6に、実施例1に係る赤外線受光素子の分光スペクトルを示す。このセンサは、COの吸収帯域である4300nm付近の赤外線には感度を有するが、6000nmより長波長側の赤外線には、ほとんど感度を持たない。
光学フィルタの設計は、シミュレーションで実施した。シミュレーションの手法については、フレネル係数を利用した公知の計算手法を用いた。また、光学薄膜の材料としては、GeとSiOを想定し、これらの複素屈折率の波長分散データについては、文献値を用いた。以下に、光学シミュレーションにより計算した簡素化フィルタの設計について述べる。
図7に、実施例1に係る光学フィルタ(簡素化フィルタ)の透過スペクトルを、比較例に係る光学フィルタ(従来構成のフィルタ)の透過スペクトルと比較して、示す。図8に、実施例1に係る簡素化フィルタの積層構造を示す。図7に示すように、簡素化フィルタは2000nm~2500nm付近、あるいは6500nm以降に透過域をもつ。この領域の遮断機能を不要としたことで、光学薄膜の厚みは、従来フィルタの25000nmに対して8432nmにまで削減できている。図7で示す簡素化フィルタは、4180nm~4330nmの波長域において、平均透過率が81%となっている。また、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率は51%であり、その波長域での平均透過率は20%である。
次に、図9に、実施例1において赤外線受光素子と光学フィルタ(簡素化フィルタ)とを組み合わせて構成したCO検出向けIR-センサの分光スペクトルを示す。この結果が示すように、どちらの光学フィルタを用いても、赤外線受光素子と組み合わせた際の出力は同等である。つまり、NDIR式ガスセンサ用のセンサ部品としての性能は一切低下させずに、光学フィルタの設計を大幅に簡素化できることを示せた。
【0067】
[実施例2]
簡素化フィルタと赤外線発光素子とを組み合わせたIR-LEDについて説明する。IR-LEDは、例えばCO2センサのような光学デバイスの一部を構成する。まず、PINダイオード構造については、MBE法により作成した。活性層はAl0.04In0.96Sbとし、n型半導体層は、Snを1.0×1019原子/cmドーピングすることで、エネルギーバンドを縮退させ、2000nmより長波長の赤外線光にたいして透明化している。さらに、活性層を挟むように、n型Al0.22In0.78Sbとp型Al0.22In0.78Sbをバリア層として設けた。図5に、実施例2に係る赤外線受発光素子の各層の積層構造を示す。
このようにして準備した半導体ウエハの表面にi線用ポジ型フォトレジストを塗布し、縮小投影型露光機によりi線を使用し露光を行った。次に現像を行い、半導体積層部の表面にレジストパターンを規則的に複数形成した。次に、ドライエッチング処理により、複数のメサを形成した。メサ形状を有する素子上に、ハードマスクとしてSiOを成膜後、ドライエッチングで素子分離を行い、その後、保護膜としてSiNを成膜し、フォトリソグラフィーとドライエッチングによりコンタクトホールを形成した。その後、フォトリソグラフィーとスパッタリングにより、複数のメサを直列接続した。その後、ポリイミド樹脂を保護膜として、素子表面を覆うように形成した。
上述した前工程プロセスにより作製したウエハをダイシングして個片化し、Auワイヤーをボンディングしリードフレームと結線して、エポキシ系モールド樹脂で発光面が露出するように封止した。このように作製した赤外線発光素子の発光スペクトルを測定した結果、図10の結果が得られた。図10に、実施例2に係る赤外線発光素子の発光スペクトルを示す。このIR-LEDは、COの吸収帯域である4300nm付近の赤外域では発光を示すが、6000nmより長波長側の赤外域では発光を示さない。
光学フィルタの設計は、シミュレーションで実施した。シミュレーションの手法については、フレネル係数を利用した公知の計算手法を用いた。また、光学薄膜の材料としては、GeとSiOを想定し、これらの複素屈折率の波長分散データについては、文献値を用いた。以下に、光学シミュレーションにより計算した簡素化フィルタの設計について述べる。
図7に、実施例2に係る光学フィルタ(簡素化フィルタ)の透過スペクトルを、比較例に係る光学フィルタ(従来構成のフィルタ)の透過スペクトルと比較して、示す。図8に、実施例2に係る簡素化フィルタの積層構造を示す。図7に示すように、簡素化フィルタは2000nm~2500nm付近、あるいは6500nm以降に透過域をもつ。この領域の遮断機能を不要としたことで、光学薄膜の厚みは、従来フィルタの25000nmに対して8432nmにまで削減できている。図7で示す簡素化フィルタは、4180nm~4330nmの波長域において、平均透過率が81%となっている。また、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率は51%であり、その波長域での平均透過率は20%である。
次に、図11に、実施例2において赤外線発光素子と光学フィルタ(簡素化フィルタ)とを組み合わせて構成したCO検出向けIR-LEDの発光スペクトルを示す。この結果が示すように、どちらの光学フィルタを用いても、赤外線発光素子と組み合わせた際の出力は同等である。つまり、NDIR式ガスセンサ用の光源としての性能は一切低下させずに、光学フィルタの設計を大幅に簡素化できることを示せた。
【0068】
[実施例3]
簡素化フィルタと赤外線受光素子とを組み合わせたIR-センサについて説明する。IR-センサは、例えばCO2センサのような光学デバイスの一部を構成する。まず、PINダイオード構造については、MBE法により作成した。活性層はAl0.04In0.96Sbとし、n型半導体層は、Snを1.0×1019原子/cmドーピングすることで、エネルギーバンドを縮退させ、2000nmより長波長の赤外線光に対して透明化している。さらに、活性層を挟むように、n型Al0.22In0.78Sbとp型Al0.22In0.78Sbをバリア層として設けた。図5に、実施例3に係る赤外線受発光素子の各層の積層構造を示す。
このようにして準備した半導体ウエハの表面にi線用ポジ型フォトレジストを塗布し、縮小投影型露光機によりi線を使用し露光を行った。次に現像を行い、半導体積層部の表面にレジストパターンを規則的に複数形成した。次に、ドライエッチング処理により、複数のメサを形成した。メサ形状を有する素子上に、ハードマスクとしてSiOを成膜後、ドライエッチングで素子分離を行い、その後、保護膜としてSiNを成膜し、フォトリソグラフィーとドライエッチングによりコンタクトホールを形成した。その後、フォトリソグラフィーとスパッタリングにより、複数のメサを直列接続した。その後、ポリイミド樹脂を保護膜として、素子表面を覆うように形成した。
上述した前工程プロセスにより作製したウエハをダイシングして個片化し、Auワイヤーをボンディングしリードフレームと結線して、エポキシ系モールド樹脂で受光面が露出するように封止した。このように作製した赤外線受光素子の分光感度スペクトルを測定した結果、図6の結果が得られた。図6に、実施例1に係る赤外線受光素子の分光スペクトルを示す。このセンサは、COの吸収帯域である4300nm付近の赤外線には感度を有するが、6000nmより長波長側の赤外線には、ほとんど感度を持たない。
光学フィルタの設計は、シミュレーションで実施した。シミュレーションの手法については、フレネル係数を利用した公知の計算手法を用いた。また、光学薄膜の材料としては、SiとSiOを想定し、これらの複素屈折率の波長分散データについては、文献値を用いた。以下に、光学シミュレーションにより計算した簡素化フィルタの設計について述べる。
図12に、実施例3に係る光学フィルタ(簡素化フィルタ)の透過スペクトルを、比較例に係る光学フィルタ(従来構成のフィルタ)の透過スペクトルと比較して、示す。図13に、実施例3に係る簡素化フィルタの積層構造を示す。図12に示すように、簡素化フィルタは2000nm~2500nm付近、あるいは6000nm~8000nmに透過域をもつ。この領域の遮断機能を不要としたことで、光学薄膜の厚みは、従来フィルタの25000nmに対して9780nmにまで削減できている。図12で示す簡素化フィルタは、4180nm~4330nmの波長域において、平均透過率が76%となっている。また、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率は62%であり、その波長域での平均透過率は24%である。
次に、図14に、実施例3において赤外線受光素子と光学フィルタ(簡素化フィルタ)とを組み合わせて構成したCO検出向けIR-センサの分光スペクトルを示す。この結果が示すように、どちらの光学フィルタを用いても、赤外線受光素子と組み合わせた際の出力は同等である。つまり、NDIR式ガスセンサ用のセンサ部品としての性能は一切低下させずに、光学フィルタの設計を大幅に簡素化できることを示せた。
【0069】
[実施例4]
簡素化フィルタと赤外線受光素子とを組み合わせたIR-センサについて説明する。IR-センサは、例えばCHセンサのような光学デバイスの一部を構成する。まず、PINダイオード構造については、MBE法により作成した。活性層はAl0.09In0.91Sbとし、n型半導体層は、Snを1.0×1019原子/cmドーピングすることで、エネルギーバンドを縮退させ、2000nmより長波長の赤外線光に対して透明化している。さらに、活性層を挟むように、n型Al0.30In0.70Sbとp型Al0.30In0.70Sbをバリア層として設けた。図15に、実施例4に係る赤外線受発光素子の各層の積層構造を示す。
このようにして準備した半導体ウエハの表面にi線用ポジ型フォトレジストを塗布し、縮小投影型露光機によりi線を使用し露光を行った。次に現像を行い、半導体積層部の表面にレジストパターンを規則的に複数形成した。次に、ドライエッチング処理により、複数のメサを形成した。メサ形状を有する素子上に、ハードマスクとしてSiOを成膜後、ドライエッチングで素子分離を行い、その後、保護膜としてSiNを成膜し、フォトリソグラフィーとドライエッチングによりコンタクトホールを形成した。その後、フォトリソグラフィーとスパッタリングにより、複数のメサを直列接続した。その後、ポリイミド樹脂を保護膜として、素子表面を覆うように形成した。
上述した前工程プロセスにより作製したウエハをダイシングして個片化し、Auワイヤーをボンディングしリードフレームと結線して、エポキシ系モールド樹脂で受光面が露出するように封止した。このように作製した赤外線受光素子の分光感度スペクトルを測定した結果、図16の結果が得られた。図16に、実施例4に係る赤外線受光素子の分光スペクトルを示す。このセンサは、CHの吸収帯域である3300nm付近の赤外線には感度を有するが、6000nmより長波長側の赤外線には、ほとんど感度を持たない。
光学フィルタの設計は、シミュレーションで実施した。シミュレーションの手法については、フレネル係数を利用した公知の計算手法を用いた。また、光学薄膜の材料としては、GeとSiOを想定し、これらの複素屈折率の波長分散データについては、文献値を用いた。以下に、光学シミュレーションにより計算した簡素化フィルタの設計について述べる。
図17に、実施例4に係る光学フィルタ(簡素化フィルタ)の透過スペクトルを、比較例に係る光学フィルタ(従来構成のフィルタ)の透過スペクトルと比較して、示す。図18に、実施例4に係る簡素化フィルタの積層構造を示す。図17に示すように、簡素化フィルタは6000nm~8000nmに透過域をもつ。この領域の遮断機能を不要としたことで、光学薄膜の厚みは、従来フィルタの25000nmに対して7529nmにまで削減できている。図17で示す簡素化フィルタは、3260nm~3380nmの波長域において、平均透過率が78%となっている。また、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率は85%であり、その波長域での平均透過率は52%である。
次に、図19に、実施例4において赤外線受光素子と光学フィルタ(簡素化フィルタ)とを組み合わせて構成したCH検出向けIR-センサの分光スペクトルを示す。この結果が示すように、どちらの光学フィルタを用いても、赤外線受光素子と組み合わせた際の出力は同等である。つまり、NDIR式ガスセンサ用のセンサ部品としての性能は一切低下させずに、光学フィルタの設計を大幅に簡素化できることを示せた。
【0070】
[実施例5]
簡素化フィルタと赤外線受光素子とを組み合わせたIR-センサについて説明する。IR-センサは、例えばCO2センサのような光学デバイスの一部を構成する。まず、PINダイオード構造については、MBE法により作成した。活性層はInAs0.87Sb0.13とし、n型半導体層はエネルギーバンドを縮退させ、2000nmより長波長の赤外線光に対して透明化している。さらに、活性層を挟むように、n型Al0.30In0.70AsSbとp型Al0.30In0.70AsSbをバリア層として設けた。図20に、実施例5に係る赤外線受発光素子の各層の積層構造を示す。
このようにして準備した半導体ウエハの表面にi線用ポジ型フォトレジストを塗布し、縮小投影型露光機によりi線を使用し露光を行った。次に現像を行い、半導体積層部の表面にレジストパターンを規則的に複数形成した。次に、ドライエッチング処理により、複数のメサを形成した。メサ形状を有する素子上に、ハードマスクとしてSiOを成膜後、ドライエッチングで素子分離を行い、その後、保護膜としてSiNを成膜し、フォトリソグラフィーとドライエッチングによりコンタクトホールを形成した。その後、フォトリソグラフィーとスパッタリングにより、複数のメサを直列接続した。その後、ポリイミド樹脂を保護膜として、素子表面を覆うように形成した。
上述した前工程プロセスにより作製したウエハをダイシングして個片化し、Auワイヤーをボンディングしリードフレームと結線して、エポキシ系モールド樹脂で受光面が露出するように封止した。このように作製した赤外線受光素子の分光感度スペクトルを測定した結果、図21の結果が得られた。図21に、実施例5に係る赤外線受光素子の分光スペクトルを示す。このセンサは、COの吸収帯域である4300nm付近の赤外線には感度を有するが、6000nmより長波長側の赤外線には、ほとんど感度を持たない。
光学フィルタの設計は、シミュレーションで実施した。シミュレーションの手法については、フレネル係数を利用した公知の計算手法を用いた。また、光学薄膜の材料としては、SiとSiOを想定し、これらの複素屈折率の波長分散データについては、文献値を用いた。以下に、光学シミュレーションにより計算した簡素化フィルタの設計について述べる。
図12に、実施例5に係る光学フィルタ(簡素化フィルタ)の透過スペクトルを、比較例に係る光学フィルタ(従来構成のフィルタ)の透過スペクトルと比較して、示す。図13に、実施例5に係る簡素化フィルタの積層構造を示す。図12に示すように、簡素化フィルタは2000nm~2500nm付近、あるいは6000nm~8000nmに透過域をもつ。この領域の遮断機能を不要としたことで、光学薄膜の厚みは、従来フィルタの25000nmに対して9780nmにまで削減できている。図12で示す簡素化フィルタは、4180nm~4330nmの波長域において、平均透過率が76%となっている。また、6000nm~8000nmの波長域における最大透過率は62%であり、その波長域での平均透過率は24%である。
次に、図22に、実施例5において赤外線受光素子と光学フィルタ(簡素化フィルタ)とを組み合わせて構成したCO検出向けIR-センサの分光スペクトルを示す。この結果が示すように、どちらの光学フィルタを用いても、赤外線受光素子と組み合わせた際の出力は同等である。つまり、NDIR式ガスセンサ用のセンサ部品としての性能は一切低下させずに、光学フィルタの設計を大幅に簡素化できることを示せた。
【0071】
実施例1~5の光学シミュレーションで使用した誘電体材料の屈折率の波長分散データを図23に示す。
【0072】
実施例及び比較例の詳細条件及び結果を表1に示す。ここで、実施例1および2と比較例の波長-透過率曲線については図7に示し、実施例3および5の波長-透過率曲線については図12に示し、実施例4の波長-透過率曲線については図17に示した。
【0073】
【表1】
【0074】
表1の実施例1~5は、比較例と比べて光学フィルタの膜厚が3分の1以下でありながら、赤外線受発光素子と組み合わせた際には、同等の性能を実現できる。ここで、比較例は、実施例1~5と異なり、6000~8000nmの波長域において最大透過率は0.5%以下であって、5%よりも小さい。また、比較例は、実施例1~5と異なり、6000~8000nmの波長域において平均透過率は0.1%であって、2%よりも小さい。
【0075】
本発明によれば、簡素化した光学フィルタを用いた場合にも高精度なNDIRガスセンサ及び光学デバイスを提供することが可能となる。
なお、実施例2の赤外線発光素子と実施例1、3~5のいずれかの赤外線受光素子と簡素化フィルタとを組み合わせて光学デバイスを構成してもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24