(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】触媒組成物およびそれを用いたイソブテン-イソプレン共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 4/52 20060101AFI20240221BHJP
C08F 4/54 20060101ALI20240221BHJP
C08F 210/12 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C08F4/52
C08F4/54
C08F210/12
(21)【出願番号】P 2022548046
(86)(22)【出願日】2021-09-07
(86)【国際出願番号】 KR2021012138
(87)【国際公開番号】W WO2022059990
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】10-2020-0120298
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】キム、チョン-シク
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒ-チョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、キョン-シン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ウォン-ヒ
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-525165(JP,A)
【文献】特開2011-080084(JP,A)
【文献】特表2019-524937(JP,A)
【文献】特開2003-277428(JP,A)
【文献】国際公開第2002/008303(WO,A1)
【文献】VAGEDES, Dominik et al.,Synthesis and structural characterization of [H(OEt2)2]+[(C3H3N2){B(C6F5)3}2]- a Bronsted acid with an imidazole-derived ‘non-coordinating’ anion,Journal of Organometallic Chemistry,2002年,641,148-155
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/00- 4/82
C08F 6/00-246/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される触媒および化学式2で表される助触媒を含む触媒組成物。
【化15】
前記化学式1中、
Rは、炭素数2~12のアルキル基であり、
R
1~R
6は、それぞれ独立してハロゲン基であり、
a~fは、それぞれ独立して1~5の整数であり、
【化16】
前記化学式2中、
R
aは、炭素数1~20の炭化水素基であり、
Xは、ハロゲン基であり、
nは、0~3の整数である。
【請求項2】
前記化学式1中、
Rは、炭素数2~8のアルキル基であり、
R
1~R
6は、それぞれ独立してFまたはClであり、
a~fは、それぞれ独立して3~5の整数である、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記化学式1中、
Rは、炭素数2~6のアルキル基であり、
R
1~R
6は、Fであり、
a~fは、それぞれ独立して4または5の整数である、
請求項1または2に記載の触媒組成物。
【請求項4】
前記化学式1で表される触媒は、下記化学式1-1または化学式1-2で表される化合物である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の触媒組成物。
【化17】
【化18】
【請求項5】
前記化学式2中、
R
aは、炭素数1~12のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、または炭素数6~12のアリール基であり、
Xは、ClまたはBrであり、
nは、1~3の整数である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の触媒組成物。
【請求項6】
前記化学式2中、
R
aは、炭素数1~12のアルキル基であり、
Xは、Clであり、
nは、2または3の整数である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の触媒組成物。
【請求項7】
前記化学式1で表される触媒および化学式2で表される助触媒の重量比は1:2~1:16である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の触媒組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の触媒組成物の存在下で、イソブテンとイソプレンを共重合するステップを含む、イソブテン-イソプレン共重合体の製造方法。
【請求項9】
前記共重合は、-50~-10℃の温度で行われる、請求項8に記載のイソブテン-イソプレン共重合体の製造方法。
【請求項10】
前記化学式1で表される触媒の量は、イソブテンおよびイソプレンの総重量を基準として0.002~0.05重量%である、
請求項8または9に記載のイソブテン-イソプレン共重合体の製造方法。
【請求項11】
前記化学式2で表される助触媒の量は、イソブテンおよびイソプレンの総重量を基準として0.05~0.4重量%である、
請求項8~10のいずれか一項に記載のイソブテン-イソプレン共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年9月18日付けの韓国特許出願10-2020-0120298に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、イミダゾリウムイオン系触媒およびアルミニウム系助触媒を含む触媒組成物、およびそれを用いたイソブテン-イソプレン共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ブチルゴム(イソブテン-イソプレンゴム、isobutene-isoprene rubber、IIR)は、イソブテンと約1~6%のイソプレンが含まれているイソブテン-イソプレン共重合体であり、耐化学性、耐湿性、電気絶縁性などに優れるため、粘着組成物、粘着シートなどの用途として用いられる。また、ブチルゴムは、イソプレンの二重結合に追加のハロゲン化反応を行って他のゴムと架橋/コンパウンディングさせて用いられ、気体透過性がないという特徴があるため、タイヤの内部チューブおよび内部ライナーなどに広く用いられている。
【0004】
ブチルゴム重合のために用いられる合成方法としてはカチオン重合が代表的であり、触媒としてBF3やAlCl3のようなルイス酸触媒が一般的に用いられる。ルイス酸触媒は、水分に脆弱であるため、水と反応すると、HClまたはHFのような強酸が作られ、これは製品に混ざって品質低下問題を発生させたりもする。また、ルイス酸触媒の強い腐食性により、工程設計時に耐腐食性を考慮した高い投資費の策定が必要である。
【0005】
カチオン重合は、低い温度で行われることが多く、製造しようとするブチルゴムの分子量に応じて重合温度を-100℃付近で注意してコントロールしなければならないという難しさがある。特に、中分子以上のブチルゴム製品は、分子量を高めるために、反応温度を極低温である-100℃まで下げて重合を行わなければならない。これを調節するためには高価のエチレン冷凍機を設置して使用しなければならず、安全性を確保するためには複数台の冷凍機を二重、三重に設計して投資費が増加するという問題がある。
【0006】
また、反応性を十分に高めるためには、ハロゲン含有溶媒である塩化メチル(CH3Cl)、ジクロロメタン(CH2Cl2)、塩化エチル(CH3CH2Cl)などの毒性がある溶媒を用いることになり、これもまた短所として挙げられる。
【0007】
さらに、ルイス酸触媒の使用後、クエンチ作業には、多量のNaOH、KOH、NaNH4、KNH4のような有機塩基が用いられる。このような有機塩基はルイス酸と反応してNa(BF3OH)、Na(AlCl3OH)、K(BF3OH)、K(AlCl3OH)のような高毒性廃棄物を作ることになり、これを洗浄する場合に多量の廃水が発生する。
【0008】
上記のように従来のブチルゴムの製造方法は、多様な問題を有しているため、環境に無害な方法を用いて効率的にブチルゴムを製造するための方法の開発が依然として必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、数平均分子量を制御しつつ高い重合転換率でイソブテン-イソプレン共重合体を製造することができる触媒組成物を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、前記触媒組成物を用いたイソブテン-イソプレン共重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明は、下記化学式1で表される触媒および化学式2で表される助触媒を含む触媒組成物を提供する。
【0013】
【0014】
前記化学式1中、
Rは、炭素数2~12のアルキル基であり、
R1~R6は、それぞれ独立してハロゲン基であり、
a~fは、それぞれ独立して1~5の整数であり、
【0015】
【0016】
前記化学式2中、
Raは、炭素数1~20の炭化水素基であり、
Xは、ハロゲン基であり、
nは、0~3の整数である。
【0017】
また、本発明は、前記触媒組成物の存在下で、イソブテンとイソプレンを共重合するステップを含む、イソブテン-イソプレン共重合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の触媒組成物は、触媒活性に優れたイミダゾリウムイオン系触媒とアルミニウム系助触媒を組み合わせたものであり、それを用いてイソブテン-イソプレン共重合体を製造する場合、イソブテン-イソプレン共重合体を高い重合転換率で製造することができるため、製造工程の経済性および効率性を改善することができ、また、高い分子量および狭い分子量分布を有する共重合体を制御することができるという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明が容易に理解されるように、本発明をより詳細に説明する。
本発明の説明および請求の範囲で用いられている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈すべきである。
【0020】
<触媒組成物>
本発明の触媒組成物は、下記化学式1で表される触媒および化学式2で表される助触媒を含むことを特徴とする。
【0021】
【0022】
前記化学式1中、
Rは、炭素数2~12のアルキル基であり、
R1~R6は、それぞれ独立してハロゲン基であり、
a~fは、それぞれ独立して1~5の整数であり、
【0023】
【0024】
前記化学式2中、
Raは、炭素数1~20の炭化水素基であり、
Xは、ハロゲン基であり、
nは、0~3の整数である。
【0025】
前記「アルキル基(alkyl group)」は、1価の脂肪族飽和炭化水素を意味し、メチル、エチル、プロピル、およびブチルなどの直鎖状アルキル基、およびイソプロピル(isopropyl)、sec-ブチル(sec-butyl)、tert-ブチル(tert-butyl)、およびネオペンチル(neo-pentyl)などの分岐状アルキル基をいずれも含む意味であり得る。具体的に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、1-メチル-ブチル基、1-エチル-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、4-メチル-2-ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、ヘプチル基などが挙げられるが、これに制限されない。
【0026】
具体的に、前記Rは、炭素数2~12のアルキル基、炭素数2~8のアルキル基、炭素数2~6のアルキル基、炭素数2~4のアルキル基、またはエチル基であってもよく、R1~R4は、それぞれ独立して、ハロゲン基、具体的にはFまたはCl、例えばFであってもよく、a~fは、それぞれ独立して、1~5の整数、または3~5の整数、4または5の整数であってもよい。最も好ましくは、前記R1~R4はフルオロ基であり、かつ、a~fは5であってもよい。
【0027】
より具体的に、前記化学式1で表される触媒は、下記化学式1-1または1-2で表されてもよいが、これに制限されない。
【0028】
【0029】
【0030】
本発明の触媒は、電子求引現象の強いハロゲン基置換基を1個以上フェニル基に含有する有機ボレートをアニオン部として含んでいるため、C-B結合が強い。したがって、本発明のアルミニウム系助触媒と混合しても、C-B結合が維持され、触媒活性を失わず、カチオン重合に用いられて優れた効率を示すことができる。
【0031】
また、アニオン部にフェニル基が3個結合されたBを2個含み、これらを連結するブリッジにイミダゾリウムが位置することを特徴とする構造である。フェニル基が3個結合されたBを2個含んで立体的にバルキーなだけでなく、2個のBを連結するイミダゾリウムブリッジは折れた構造であって平面をなすことができず、3次元的に見る際にさらに多い部分を遮ることができるため、さらにバルキーな形態を有することになる。このように触媒中のアニオン部のバルキーな構造は、イソブテンとイソプレンのカチオン重合時に重合が行われる鎖の末端カチオンを安定化させて安全性を高め、カチオン重合が終結せずに継続的に単量体が結合して重合するようにする。このような過程により製造されたイソブテン-イソプレン共重合体は、高い分子量を示すことができる。
【0032】
これに対し、Bを1個だけ含む場合、アニオン部の大きさが相対的に小さいため、重合体鎖末端のカチオンに結合した際に、化学式1で表される触媒を用いた場合よりは相対的に不安定な状態となる。この場合、鎖末端カチオンの不安定性により、カチオン重合が早期終結するか連鎖移動(chain transfer)が発生し、低い分子量の共重合体だけが生成される問題が発生し得る。
【0033】
また、Bを2個含むとしてもこれらを連結するブリッジにイミダゾリウムが位置せず、例えば、ニトリル(nitrile)やアジド(azide)のように一直線、平面の形態を有するブリッジが位置する場合、アニオン部が相対的に立体的ではないため、鎖末端のカチオンを不安定な状態にして反応性が顕著に低くなる。
【0034】
本発明の触媒組成物は、前記化学式1で表される触媒とともに、化学式2で表される助触媒を含む。ここで、化学式2で表される助触媒は、例えば、トリアルキルアルミニウム化合物、ジアルキルアルミニウムハライド化合物、アルキルアルミニウムジハライド化合物、アルミニウムトリハライド化合物などを指してもよい。
【0035】
【0036】
前記化学式2中、
Raは、炭素数1~20の炭化水素基であり、
Xは、ハロゲン基であり、
nは、0~3の整数である。
【0037】
前記Raは、それぞれ独立して、炭素数1~12のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、または炭素数6~12のアリール基であってもよく、好ましくは、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~3のアルキル基、またはエチル基であってもよい。前記Xは、好ましくはClまたはBrであってもよく、好ましくはClであってもよく、nは、1~3の整数、2または3の整数であってもよい。
【0038】
前記化学式2で表される助触媒としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリ-n-プロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ-t-ブチルアルミニウム、トリペンチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリシクロヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリ-2-エチルヘキシルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム;ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソプロピルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライド、ジメチルアルミニウムブロマイドなどのジアルキルアルミニウムハライド;メチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、イソプロピルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジブロマイドなどアルキルアルミニウムジハライド;アルミニウムトリクロライドなどのアルミニウムトリハライド;またはこれらの組み合わせを用いてもよいが、これに制限されない。
【0039】
本発明の触媒組成物は、イソブテン-イソプレン共重合体を製造するためのカチオン重合反応に用いるのに好適である。カチオン重合時には、重合途中に形成されるカチオン部位を安定化させることが重要であるが、化学式2で表される助触媒は、強いルイス酸で、触媒構造中のボレート系バルキーアニオンとイオン対を形成することができ、これにより、カチオン部位を効果的に安定化させる役割をし、高分子量のイソブテン-イソプレン共重合体の製造が可能である。
【0040】
特に、イソブテンとイソプレンの共重合時には、イソブテンを単独重合することとは異なり、イソプレンが重合中のカチオン鎖に結合されて共鳴構造をなすことができるため、カチオンの追加反応を低下させて追加重合が非常に遅く行われるか終結(termination)反応が起こる恐れがあり、これを考慮して早期終結が起こらないように高い反応性を有する触媒および助触媒を選択して用いることが重要である。
【0041】
本発明のように化学式1で表される触媒と化学式2で表される助触媒を組み合わせて重合反応に用いる場合、化学式2で表される助触媒においてアルミニウムに結合されたアルキルが化学式1で表される触媒の水素と反応してアルカンに解離する。その後、化学式2で表される助触媒中の空いているsiteは、化学式1で表される触媒のエーテルと化学式2で表される助触媒の他の分子が強く結合してルイス酸性質の強いアルミニウムカチオンが形成され、これはイソブテンとイソプレンの共重合反応の重合開始剤として効果的に作用することができる。例えば、本発明において、化学式2で表される助触媒としてEt2AlClを用いると、[Al(Et)Cl]+または[AlCl]2+のようにアルミニウムカチオンが形成されて重合触媒として作用することになる。
【0042】
これに対し、アルミニウムを含まない他種類の助触媒は、上記のような反応が起こらず、特にアルミニウムではない金属としてマグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)などの元素を含む金属化合物、アルミノキサンのようなアルミニウム酸化物などは、反応性が低く、触媒との反応により金属カチオンを形成し難いため、カチオン重合反応の助触媒として用いるのに適していない。また、アルミニウムを含むとしても、アルカンに一部の官能基が解離するなどのメカニズムを介してカチオン重合を容易に開始可能な構造でなければ、化学式1で表される触媒とともに助触媒として使用し難い。
【0043】
このように、本発明においては、高い転換率でカチオン重合を行ってイソブテン-イソプレン共重合体を効率的に製造できる適切な組み合わせとして、化学式1で表される触媒および化学式2で表される助触媒を用いたことが特徴である。
【0044】
前記化学式1で表される触媒および化学式2で表される助触媒の重量比は1:2~1:16であってもよく、具体的に、イソブテン-イソプレン共重合体の重量平均分子量を所望の範囲の適正な値に容易に制御しつつ収率を高めるという面で、1:4~1:12、または1:8であってもよい。
【0045】
前記範囲から外れて化学式2で表される助触媒の重量が過度に少ない場合、助触媒を介した触媒活性化が十分に起こらないため、カチオン重合が効率的に行われない問題が発生し、前記範囲から外れて化学式1で表される触媒の重量が過度に少ない場合、触媒を用いた重合反応の進行が十分に行われず、用いた助触媒と対比して重合効率が低下する問題が発生し得る。
【0046】
<イソブテン-イソプレン共重合体の製造方法>
本発明のイソブテン-イソプレン共重合体の製造方法は、前記触媒組成物の存在下で、イソブテンとイソプレンを共重合するステップを含むことを特徴とする。
【0047】
前記イソブテンとイソプレンの共重合は、-50~-10℃の温度で行われてもよく、本発明が目的とする高分子量のイソブテン-イソプレン共重合体を効率的に製造するという面で、具体的には-40~-20℃の温度で行われてもよい。また、前記温度での重合反応は、30分~5時間、または1時間~3時間行われてもよい。
【0048】
重合温度が-10℃よりも高い場合、相対的に高い温度では、連鎖移動が速く起こって転換率は高くなることができるものの分子量が低く形成されるため、本発明のように高分子量のイソブテン-イソプレン共重合体を製造できなくなる問題が発生し、重合温度が-50℃よりも低い場合、低い温度により触媒の活性が減少するため、同一の重合反応を行う際にさらに多い量の触媒が求めれることになり、重合工程の経済性および効率性が非常に低下する問題が発生し得る。
【0049】
本発明において、前記化学式1で表される触媒の含量は、イソブテンおよびイソプレンの総重量を基準として0.002~0.05重量%であってもよく、具体的に、0.002重量%以上、0.005重量%以上、0.010重量%以上、0.050重量%以下、0.040重量%以下、0.030重量%以下であってもよい。前記範囲を満たす場合、重合反応が効率的に行われることができ、前記数値範囲よりも触媒が過量用いられる場合、原料費用の増加に比べて重合効率が大幅に向上しない。
【0050】
また、前記助触媒の含量は、イソブテンおよびイソプレンの総重量を基準として0.05~0.4重量%であってもよく、具体的に、0.05重量%以上、0.10重量%以上、0.15重量%以上、0.40重量%以下、0.30重量%以下、0.20重量%以下であってもよい。前記範囲で助触媒が用いられる場合、助触媒の適切な使用効果が実現されることでイソブテン-イソプレン共重合体を優れた効率で製造することができ、過量添加する場合、最終的な共重合体中の残留副産物の含量増加に応じた工程費用の増加をもたらす恐れがあるため、前記範囲内で助触媒の適切な含量を制御して用いることが好ましい。
【0051】
前記イソプレンの含量は、目的とする物性を満たす範囲内で適宜選択されてもよく、具体的に、イソブテンを基準として、1モル%以上、1.5モル%以上、10モル%以下、8モル%以下、5モル%以下、3モル%以下、2.5モル%以下であってもよい。
【0052】
本発明の製造方法により製造されたイソブテン-イソプレン共重合体の分子量分布は1.5~3.0、具体的に、2.9以下、2.8以下、2.5以下、2.4以下であってもよい。
【0053】
本発明の製造方法により前記範囲内で共重合体の物性を多様に調節して製造することができ、特に助触媒の種類や含量を調節することで、所望の目的に応じて分子量および分子量分布を制御することが容易である。
【0054】
前記重量平均分子量および数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC;gel permeation chromatography)により分析されるポリスチレン換算分子量であり、前記分子量分布は、(重量平均分子量)/(数平均分子量)の比から計算されたものである。
【0055】
本発明の触媒組成物は、前記分子量および分子量分布値を有するイソブテン-イソプレン共重合体の製造に好適であり、化学式1で表される触媒および化学式2で表される助触媒を用いて開始反応と連鎖移動反応を容易に制御し、前記範囲の高い重量平均分子量および低い分子量分布を有するイソブテン-イソプレン共重合体を製造することができる。
【0056】
そこで、所望の高い重量平均分子量を有するイソブテン-イソプレン共重合体を製造するために重合温度を-50~-10℃にしてもよいが、重合温度はこれに制限されず、製造しようとするイソブテン-イソプレン共重合体の分子量、分子量分布などを考慮して通常の技術者が反応温度を適宜調節してもよい。
【0057】
また、本発明において、前記触媒組成物は、ハロゲン非含有溶媒を含んでもよく、すなわち、前記共重合は、ハロゲン非含有溶媒下で行われてもよい。具体的に、本発明の触媒組成物は、触媒および助触媒とともに炭化水素溶媒を含み、前記炭化水素溶媒は、ハロゲン化炭化水素溶媒およびハロゲン非含有溶媒を混合して用いてもよく、または、ハロゲン非含有溶媒のみを単独で用いてもよい。
【0058】
前記ハロゲン非含有溶媒は、脂肪族炭化水素溶媒または芳香族炭化水素溶媒であってもよい。例えば、前記脂肪族炭化水素溶媒は、ブタン、ペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、およびオクタンからなる群から選択される1種以上であってもよく、前記芳香族炭化水素溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン、およびエチルベンゼンからなる群から選択される1種以上であってもよいが、これに制限されない。
【0059】
前記ハロゲン化炭化水素溶媒は、クロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、1-クロロブタン、およびクロロベンゼンからなる群から選択される1種以上であってもよいが、これに制限されない。
【0060】
本発明において、ハロゲン非含有溶媒およびハロゲン化炭化水素溶媒を混合して溶媒として用いる場合、混合割合は、100:1~1:2の体積比であってもよく、具体的には、100:1~1:1の体積比であってもよいが、これに制限されない。
【0061】
本発明のイソブテン-イソプレン共重合体の製造方法は、単量体をカチオン重合するステップ後に触媒を除去するステップをさらに行ってもよい。本発明の触媒は、物理的に単純濾過するステップにより効率的に除去することができるため、従来技術のルイス酸触媒に比べて使用および除去が遥かに容易である。
【0062】
具体的に、イソブテン-イソプレン共重合体の重合後に有機溶媒を除去し、有機溶媒をオリゴマーまたはポリマーの40重量%以下、20重量%以下、または5重量%以下に調節してもよい。次いで、流動性がある重合体の場合、80メッシュ以上、100メッシュ以上、または200メッシュ以上のガラスフィルタを用いて、不溶性物質を濾過するステップを行う。または、シリカ、セライト、またはゼオライトフィルタを用いて、流動性がある重合体を通過させることで触媒を除去してもよい。
【0063】
一方、流動性が少ない重合体の場合、直鎖状アルキル溶媒、例えば、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、およびエーテル溶媒、例えば、ジエチルエーテル、石油エーテルからなる群から選択される1種以上を用いて流動性を付与した後、前記ガラスフィルタ、シリカ、セライト、またはゼオライトフィルタを通して濾過するステップを行ってもよい。
【0064】
通常、生成されたイソブテン-イソプレン共重合体をペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ジエチルエーテル、または石油エーテルなどの有機溶媒に溶解後に水洗して触媒を除去する。しかし、本発明は、上記のような単純濾過ステップにより、化学式1で表される触媒を効率的に除去することができるため、別の水洗ステップを行わなくてもよい。
【0065】
また、本発明の製造方法は、前記濾過ステップ後に、残留溶媒を乾燥させるステップをさらに含んでもよい。例えば、乾燥温度は30~200℃、または40~150℃であってもよく、真空度は300torr以下、200torr以下、または100torr以下であってもよい。これにより、所望のイソブテン-イソプレン共重合体を効率的に得ることができる。また、乾燥方式は、特に制限されず、通常の方式によるものであってもよい。
【0066】
また、本発明のイソブテン-イソプレン共重合体の製造方法は、前記重合ステップ後、前記濾過前に、ハロゲン化炭化水素溶媒を乾燥させるステップを別に行っても行わなくてもよい。乾燥ステップを行う場合、乾燥条件は、上記と同様に行われてもよく、特に制限されない。
【0067】
ハロゲン化炭化水素溶媒を乾燥させるステップを別に行う場合、さらに高純度でイソブテン-イソプレン共重合体を得ることができるという利点がある。ただし、本発明によると、上記のような単純濾過により容易に触媒を除去することができるため、前記重合ステップ後、前記濾過前に、ハロゲン化炭化水素溶媒を乾燥させる別のステップを省略することができるため、工程が単純化するという利点がある。
【0068】
実施例
以下、実施例により本発明をより詳細に説明しようとする。ただし、下記の実施例は、本発明を例示するためのものであって、これらのみに本発明の範囲が限定されるものではない。
【0069】
<触媒の製造>
製造例1
【0070】
【0071】
DCMの存在下で、ナトリウムイミダゾールに、ナトリウムイミダゾールに対して2当量のB(C6F5)3を混合し、常温で15時間撹拌し、[Na]+[Imd(B(C6F5)3)2]-を製造した。ジエチルエーテル中のHCl溶液を低温状態で投入した後、常温に昇温させ、1時間撹拌した。真空でジエチルエーテルを除去し、副産物であるNaCl塩をフィルタして除去した。
【0072】
得られた物質、DCMにジブチルエーテル3当量を添加した後、常温で30分間撹拌し、溶媒およびジブチルエーテルを真空乾燥し、製造例1の触媒を得た。
【0073】
製造例2
【0074】
【0075】
DCMの存在下で、ナトリウムイミダゾールに、ナトリウムイミダゾールに対して2当量のB(C6F5)3を混合し、常温で15時間撹拌し、[Na]+[Imd(B(C6F5)3)2]-を製造した。ジエチルエーテル中のHCl溶液を低温状態で投入した後、常温に昇温させ、1時間撹拌した。真空でジエチルエーテルを除去し、副産物であるNaCl塩をフィルタして除去することで、製造例2の触媒を得た。
【0076】
比較製造例1
【0077】
【0078】
DCMの存在下で、LiB(C6F5)4にジエチルエーテル中のHCl溶液を低温状態で投入した後、常温に昇温させ、1時間撹拌した。真空でジエチルエーテルを除去し、副産物であるNaCl塩をフィルタして除去した。
【0079】
得られた物質、DCMにジブチルエーテル3当量を添加した後、常温で30分間撹拌し、溶媒およびジブチルエーテルを真空乾燥し、比較製造例1の触媒を得た。
【0080】
比較製造例2
【0081】
【0082】
DCMの存在下で、LiB(C6F5)4にジエチルエーテル中のHCl溶液を低温状態で投入した後、常温に昇温させ、1時間撹拌した。真空でジエチルエーテルを除去し、副産物であるNaCl塩をフィルタして除去することで、比較製造例2の触媒を得た。
【0083】
比較製造例3
【0084】
【0085】
DCMの存在下で、NaCNを基準として2当量のB(C6F5)3を混合し、常温で15時間撹拌し、[Na]+[CN(B(C6F5)3)2]-を製造した。ジエチルエーテル中のHCl溶液を低温状態で投入した後、常温に昇温させ、1時間撹拌した。真空でジエチルエーテルを除去し、副産物であるNaCl塩をフィルタして除去した。
【0086】
得られた物質、DCMにジブチルエーテル3当量を添加した後、常温で30分間撹拌し、溶媒およびジブチルエーテルを真空乾燥し、比較製造例3の触媒を得た。
【0087】
比較製造例4
【0088】
【0089】
DCMの存在下で、NaN3を基準として2当量のB(C6F5)3を混合し、常温で15時間撹拌し、[Na]+[N3(B(C6F5)3)2]-を製造した。ジエチルエーテル中のHCl溶液を低温状態で投入した後、常温に昇温させ、1時間撹拌した。真空でジエチルエーテルを除去し、副産物であるNaCl塩をフィルタして除去した。
【0090】
得られた物質、DCMにジブチルエーテル3当量を添加した後、常温で30分間撹拌し、溶媒およびジブチルエーテルを真空乾燥し、比較製造例4の触媒を得た。
【0091】
比較製造例5
【0092】
【0093】
グローブボックスにて、100mgのLiAlH4をTHF 5mLに溶解させた後、4当量のペンタフルオロフェニルを徐々に投入し、H2が十分に発生できるようにコックを開いた。常温で1時間の撹拌後にコックを閉じ、グローブボックスの外に持ってきて、ジエチルエーテル中のHCl 3当量を徐々に投入した。1時間の撹拌後に真空で溶媒を除去した後、グローブボックス内に入れた。DCMに溶解した後、シリンジフィルタを用いてLiClを除去し、真空で溶媒を除去した後、無水ヘキサンで洗浄した。その後、真空乾燥し、白色固体として比較製造例5の触媒を得た。
【0094】
<イソブテン-イソプレン共重合体の製造>
実施例1
水分と酸素が除去されたアンドリューガラス加圧反応器を準備した。イソブテンのボンベと-40℃に下がったアンドリューガラスが連結されたラインを介してイソブテンを20g投入した。溶媒として水分精製カラムを通過したヘキサンを用い、反応物中の単量体濃度(Total solution for compound、TSC)を計算した後、当該TSCに合う量をシリンジで分取した後、アンドリューガラス上端に投入した。
【0095】
コモノマー(Co-monomer)であるイソプレンは、グローブボックス内のアルミナカラムを通過させた後に用いた。イソプレンは、前記イソブテンを基準として1.65mol%となるようにシリンジで定量し、アンドリューガラス上端に投入した。触媒は、グローブボックス内で低温保管された製造例1の触媒をイソブテンおよびイソプレンの総重量を基準として0.025重量%を定量し、ジクロロメタン(DCM)溶媒に溶かした。助触媒(Et)2AlClもグローブボックス内に保管し、助触媒をヘキサンに25重量%に希釈し、イソブテンおよびイソプレンの総重量を基準として0.200重量%を定量して触媒溶液と混合した。
【0096】
混合した触媒+助触媒溶液をシリンジに移してグローブボックスの外に移送し、アンドリューガラス上端に投入した。触媒の投入後、-40℃で60分間反応を行った。反応終了後、アンドリューガラス上端のバルブを開いて残存する未反応イソブテンを除去した後、アンドリューガラスを開いてブチルゴムおよび溶媒を回収した。回収されたブチルゴムは、110℃のオーブンで2時間乾燥して残留溶媒の除去後に分析を行った。
【0097】
実施例2~5、比較例1~12
下記表1のように重合条件を変更したことを除いては、前記実施例1と同様にイソブテン-イソプレン共重合体を製造した。
【0098】
【0099】
<イソブテン-イソプレン共重合体の物性分析>
実験例1
前記実施例および比較例で製造されたイソブテン-イソプレン共重合体を対象とし、下記方法により物性を測定し、その結果を表2に整理した。
【0100】
(1)収率(%)
上記で得られたイソブテン-イソプレン共重合体の重量(g)をイソブテンの重量(g)とイソプレンの重量(g)の和で割って計算した。
【0101】
(2)イソプレンの含量(mol%)
500MHz NMR(Agilent社)を用いて1H NMRを測定した(試料濃度:0.5重量%、溶媒:CDCl3)。1H NMRスペクトルから共重合体中のイソプレンの存在を確認し、下記数式によりイソプレンの含量を計算した。
-イソプレンの含量(mol%)=(共重合体中のイソプレンのモル数)/(共重合体中のイソブテンのモル数)+(共重合体中のイソプレンのモル数)
【0102】
(3)重量平均分子量、分子量分布
イソブテン-イソプレン共重合体を下記ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析条件下で測定して数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を測定し、(重量平均分子量)/(数平均分子量)の値で分子量分布を計算した。
-カラム:PL MiniMixed B×2
-溶媒:THF
-流速:0.3ml/min
-試料濃度:2.0mg/ml
-注入量:10μL
-カラム温度:40℃
-Detector:Agilent RI detector
-Standard:Polystyrene(3次関数で補正)
-Data processing:ChemStation
【0103】
【0104】
化学式1に該当しない比較製造例の触媒を用いた比較例1および2の場合、同一条件で触媒の種類だけを製造例1のものを用いた実施例1に比べて、重量平均分子量が遥かに低い共重合体が製造された。
【0105】
また、比較製造例の触媒を用いた比較例3~5、本発明の触媒を用いたものの助触媒を用いていない比較例6および7は、イソブテンとイソプレンの共重合反応がろくに行われず、イソブテン-イソプレン共重合体を得ることができなかった。
【0106】
本発明の触媒とともに化学式2に該当しない助触媒を用いた比較例8~12の場合、比較例9および12においてのみイソブテン-イソプレン共重合体を得ることができ、比較例9および12のいずれも、実施例に比べて、重量平均分子量は低く分子量分布は広い共重合体が製造されることを確認した。
上記の結果のように、本発明により化学式1で表される触媒および化学式2で表される助触媒を共に用いる場合、重量平均分子量が高く分子量分布が狭いイソブテン-イソプレン共重合体を優れた収率で製造可能であることが分かった。