(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】立体造形物、立体造形物の製造方法、立体造形用液体セット、立体造形物の製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/336 20170101AFI20240222BHJP
B29C 64/112 20170101ALI20240222BHJP
B29C 64/205 20170101ALI20240222BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240222BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240222BHJP
【FI】
B29C64/336
B29C64/112
B29C64/205
B33Y70/00
B33Y80/00
(21)【出願番号】P 2019235111
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2019030121
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【氏名又は名称】酒井 正己
(72)【発明者】
【氏名】新美 達也
(72)【発明者】
【氏名】松村 貴志
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 拓也
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-078437(JP,A)
【文献】特開2017-105154(JP,A)
【文献】特開2018-075750(JP,A)
【文献】特開2016-176006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 70/00
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物性のそれぞれ異なるハイドロゲルから成る複数の部位を有する立体造形物であって、前記物性のそれぞれ異なるハイドロゲルは、いずれも
、水、有機溶媒、ポリマー、及び、鉱物を含み、水分含有率が70質量%以上であり
、前記有機溶媒の含有率は1質量%以上10質量%以下であり、かつ、前記複数の部位において隣接した部位を構成するハイドロゲルの溶媒濃度の差が5質量%以内である立体造形物。
【請求項2】
前記物性のそれぞれ異なるハイドロゲルが、いずれも水分含有率が80質量%以上である、請求項1に記載の立体造形物。
【請求項3】
ハイドロゲル前駆体液の液膜を硬化させてなる層を複数積層する立体造形物の製造方法であって、
水、有機溶媒、重合性モノマー、及び、鉱物を含み、水分含有率が70質量%以上で
あり、
前記有機溶媒の含有率は1質量%以上10質量%以下であり、かつ、溶媒濃度の差異が5質量%以内である複数のハイドロゲル前駆体液を用い、前記複数のハイドロゲル前駆体液の付与位置と付与量とを制御することにより液膜を形成する液体付与工程と、前記液膜を硬化させる膜硬化工程とを有し、前記膜硬化工程により得られた液膜を硬化させてなる層が、物性のそれぞれ異なるハイドロゲルからなる複数の領域を有するものとなる、立体造形物の製造方法。
【請求項4】
前記液体付与工程が、複数のハイドロゲル前駆体液を所定の付与量比で同一位置に付与する操作を、付与量比および/または付与する位置を変えて同一の面内で繰り返し行い、同一層となる液膜内に付与量比のそれぞれ異なるハイドロゲル前駆体液混合物からなる複数の領域を作製することを含む、請求項
3に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項5】
前記複数のハイドロゲル前駆体液が、液滴吐出方式により付与される、請求項3又は
4に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項6】
前記複数のハイドロゲル前駆体液の付与量が、付与する液滴の体積の変更により調節される、請求項
3乃至
5のいずれか1項に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項7】
前記複数のハイドロゲル前駆体液の付与量が、付与する液滴の液滴数の変更により調節される、請求項
3乃至
5のいずれか1項に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項8】
前記複数のハイドロゲル前駆体液が、いずれも、重合性モノマーとして、多官能重合性モノマーを含む、請求項
3乃至
7のいずれか1項に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項9】
水
、有機溶媒、重合性モノマー及び鉱物を含み、水分含有率が70質量%以上
で、前記有機溶媒の含有率は1質量%以上10質量%以下である第1のハイドロゲル前駆体液、ならびに前記第1のハイドロゲル前駆体液とは組成が異なり、第1のハイドロゲル前駆体液と溶媒濃度の差異が5質量%以内であり、水分含有率が70質量%以上
で、有機溶媒の含有率が1質量%以上10質量%以下である第2のハイドロゲル前駆体液を有する、立体造形用液体セット。
【請求項10】
前記立体造形用液体セットにおいて、第1のハイドロゲル前駆体液と第2のハイドロゲル前駆体液には、いずれも多官能重合性モノマーが含有され、両者に含有される多官能重合性モノマーの種類および/または含有量が異なる、請求項
9に記載の立体造形用液体セット。
【請求項11】
請求項
9又は
10に記載の立体造形用液体セットにおける第1のハイドロゲル前駆体液及び第2のハイドロゲル前駆体液を付与する液体付与工程と、前記液体付与工程により形成された液膜を硬化させる膜硬化工程と、を含む、立体造形物の製造方法。
【請求項12】
請求項
9又は
10に記載の立体造形用液体セットにおける第1のハイドロゲル前駆体液及び第2のハイドロゲル前駆体液を付与する液体付与手段と、前記液体付与手段により形成された液膜を硬化させる膜硬化手段と、を有する、立体造形物の製造装置。
【請求項13】
前記液体付与手段が液滴吐出方式である、請求項
12に記載の立体造形物の製造装置。
【請求項14】
前記膜硬化手段がUV-LEDである、請求項
12又は
13に記載の立体造形物の製造装置。
【請求項15】
前記液体付与手段により形成された液膜を平滑化する手段を有する、請求項
12乃至
14のいずれか1項に記載の立体造形物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体造形物、立体造形物の製造方法、立体造形用液体セット、立体造形物の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロゲルは、ポリマーなどの分散質がネットワーク構造を作り、その中に分散媒である水が取り込まれた状態で形成される。ハイドロゲルは分散媒の量(濃度)により、その物性(圧縮応力、引張強度、弾性率など)が大きく変化する。言い換えれば、分散媒濃度によりゲルの物性をコントロールできると言える。
【0003】
ハイドロゲルは多量の水分を含み人体組成に近いことから、その物性、触感も人体のそれに近い。このため、臓器や皮膚といった医療用モデルの材料として展開され、物性コントロールにより、様々な部位再現に向けて有効に活用されている。
【0004】
三次元の立体物を造形する技術として、3Dプリンター(AM:Additive Manufacturing)と呼ばれる技術が知られている。
この技術は、積層方向について薄く切った断面形状を計算し、その形状に従って各層を形成して積層することにより立体物を造形する技術である。
【0005】
また、立体物を造形する手法としては、熱溶融積層法(FDM:Fused Deposition Molding)、インクジェッティング、バインダージェッティング、マテリアルジェッティング、光造形(SLA:Stereo Lithography Apparatus)、粉末焼結積層造形(SLS:Selective Laser Sintering)などが知られている。これらの中でも、近年、マテリアルジェッティングにより液状の光硬化性樹脂を造形物の必要箇所に像形成し、これを多層化することで三次元の立体物を造形する方式が開発されている。
【0006】
前記三次元の立体物を造形する装置として、例えば、造形材料の粗密の程度を表す充填率又は混合比に従って造形材料を積層し、領域又はパーツ単位で造形材料の違いにより質量を変えて、立体物を造形することができる立体物造形装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、複数のインクジェットヘッドを用い、造形物の大きな部分を形成するための材料を射出するヘッドと、小さな部分を形成するための材料を射出するヘッドを備える三次元立体物を造形する装置が提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
また、複数のインクジェットヘッドを用い、硬化後に弾性の異なる複数のフォトポリマーを射出するヘッドを備える三次元立体物を造形する装置が提案されている(特許文献3参照)。
【0009】
また、ハイドロゲルを用いて三次元立体造形をする際に、組成の異なる複数のハイドロゲル前駆体を用い、それぞれの付与量を変化させて、造形物の物性分布を付与する造形方法が提案されている(特許文献4参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ハイドロゲルに含有される水は、分散質に物理吸着しているため、ゲルの中で動きやすい状態にある。このため溶媒量(濃度)の異なるハイドロゲルを隣接させると、溶媒濃度の高いゲルから低いゲルに、溶媒が拡散(移行)してしまい、その結果、造形物の形状やハイドロゲルの物性が変化してしまうという課題があるという知見が新たに得られた。
本発明は、物性のそれぞれ異なるハイドロゲルから成る複数の部位を有する、経時変化の少ない立体造形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を達成するための手段は、物性のそれぞれ異なるハイドロゲルから成る複数の部位を有する立体造形物であって、前記物性のそれぞれ異なるハイドロゲルは、いずれも水分含有率が70質量%以上であり、かつ、前記複数の部位において隣接した部位を構成するハイドロゲルの溶媒濃度の差が5質量%以内である立体造形物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、物性のそれぞれ異なるハイドロゲルからなる複数の部位を含有する、経時変化が少ない立体造形物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、鉱物としての水膨潤性層状粘土鉱物、及び前記水膨潤性層状粘土鉱物を水中で分散させた状態の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、水分含有率の異なる部位を内包した、物性の異なるハイドロゲルからなる複数の部位を有する立体造形物を表す一例の模式図である。
【
図3】
図3は、水分含有率の濃度傾斜に伴い、水分が移行する様子を表した概念図である。
【
図4】
図4は、本発明の立体造形物の製造方法に用いられる製造装置の一例である。
【
図5】
図5は、支持体(サポート材)を除去して、立体造形物を得る概念図である。
【
図6】
図6は、本発明の立体造形物の製造方法に用いられる製造装置の他の一例である。
【
図7】
図7は、本発明における液滴吐出方式により、第1のハイドロゲル前駆体液と第2のハイドロゲル前駆体液を混合する一例を示す模式図である。
【
図8】
図8は、本発明における第1のハイドロゲル前駆体液の含有量と第2のハイドロゲル前駆体液の含有量の質量比を変えた一例を示す模式図である。
【
図9】
図9は、実施例1で作製したハイドロゲル構造体の模式図である。
図9Aは側面から見た断面図、
図9Bは上から見た図面である。
【
図10】
図10は、実施例9で作製した臓器モデル(ハイドロゲル構造体)の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(立体造形物)
本発明の立体造形物は、物性のそれぞれ異なるハイドロゲルから成る複数の部位を有し、経時変化が少なくその状態(形状や物性など)が維持される立体造形物である。
本発明の立体造形物は、物性のそれぞれ異なるハイドロゲルからなる複数の部位を有し、前記物性のそれぞれ異なるハイドロゲルは、いずれも水分含有率が70質量%以上で、かつ、前記複数の部位において隣接した部位を構成するハイドロゲルに含有される溶媒濃度の差が5質量%以内である。
本発明の立体造形物は、物性のそれぞれ異なるハイドロゲルが、いずれも水を含む溶媒、ポリマー、及び鉱物を含有するハイドロゲルを含むことが好ましく、更に必要に応じてその他の成分を含む。前記立体造形物は、溶媒に分散された前記鉱物と、重合性モノマーが重合した前記ポリマーとが複合化して形成された三次元網目構造の中に、前記水を含む溶媒が包含されているハイドロゲルからなることが好ましい。
【0015】
本発明の立体造形物が有する物性の異なる部位が3つ以上存在する場合、隣接していない物性の異なる部位の間でも、両方の部位に隣接している部位を介して溶媒の移行が生じ得る。したがって好ましい一態様において、本発明の立体造形物は、すべての物性の異なる複数の部位を構成するハイドロゲルに含有される溶媒濃度の差が5質量%以内である。
【0016】
<ハイドロゲル>
ハイドロゲルは、少なくとも水を含む溶媒、ポリマー、及び鉱物を含むことが好ましい。特に、溶媒に分散された前記鉱物と、重合性モノマーが重合した前記ポリマーとが複合化して形成された三次元網目構造の中に、前記水を含む溶媒が包含されているハイドロゲルからなることが好ましい。
ハイドロゲルを構成する各種材料の詳細は、後述の製造方法において説明する。
【0017】
<立体造形物の構成>
本発明の立体造形物は、物性のそれぞれ異なるハイドロゲルからなる複数の部位を有する。ここでいう物性とは、硬度、弾性率、伸びなど、ハイドロゲルの性質を指す。ハイドロゲルの物性はゲルに含有される水分含有率で異なることが知られており、一般的には水分含有率の調整でハイドロゲルの物性コントロールが行われる。
なお、本発明においては、立体造形物中の異なる物性を有するハイドロゲルからなる部分を「部位」といい、立体造形物を製造する工程において製造されるハイドロゲル前駆体液混合物の液膜内において付与量比の異なるハイドロゲル前駆体液混合物のそれぞれが占める部分および前記液膜を硬化させてなるハイドロゲル層内における物性が異なる複数のハイドロゲルのそれぞれが占める部分を「領域」という。
【0018】
図2には、水分含有率の異なる部位を内包した物性の異なるハイドロゲルからなる複数の部位を有する立体造形物(101)を示す。水分含有率の少ない部位(102)に、水分含有率の多い部位(103)が内包されている。造形直後はこの状態を維持できるが、時間の経過と共に、水分含有率の多い部位(103)から水分含有率の少ない部位(102)に水の移行が起こる(
図3参照)。
この現象は隣接する2つの部位で双方の水分含有率が異なる場合、水分濃度傾斜により、水分濃度の高い部位から低い部位に水の移行(拡散)が起こるものである。双方の水分含有率が平衡状態(ほぼ同濃度)になるまで継続し、結果として隣接する2つの部位の水分含有率がほぼ同一になり、物性が変化してしまう。また、水分を奪われた部位は、体積の減少という現象も発現し、結果として立体造形物が変形してしまう。
同じ現象は水のみならず、ハイドロゲルを構成する束縛されていない(化学結合に関与していない)低分子材料にも当てはまる。具体的には、水以外の有機溶媒がそれに該当する。
【0019】
この課題を解決するためには、物性を異ならせた隣接する2つの部位におけるハイドロゲルに含有される溶媒(前記水+有機溶媒)濃度の差異を限りなく小さくすることが肝要である。同一濃度とすることが理想的であるが、所望する物性、処方上の制約などがあり完全に同一に出来ないケースが存在するが、隣接する2つの部位の濃度差が5質量%以内であれば、濃度差の影響は小さくなる。
【0020】
またハイドロゲル中の水分の含有率が小さいほど水分の移行が激しくなるため、立体造形物全体(全ての部位)においてハイドロゲルに含有される水分含有率が70質量%以上であることが肝要である。この濃度に設定することにより、水分含有率差の影響を小さくするだけでなく、ハイドロゲルに期待される人体組成に近い状態が再現される。例えば、医療に用いられる電気デバイス(電気メスなど)対応、超音波伝導性(エコー、超音波診断への適合)などが達成される。
【0021】
本発明の立体造形物の用途としては、例えば生体モデル、好ましくは臓器モデル(例えばヒトなどの臓器モデル)などが挙げられる。本発明の立体造形物の造形に用いるハイドロゲルの水分含有率は、立体造形物の用途により至適値は異なり得るが、例えばヒトの臓器モデルに用いる場合であれば、モデルとする組織における水分含有率と同等であることが好ましい。一般にヒトの臓器の水分含有率は70~85質量%程度であることが知られており、例えば心臓であれば約80質量%、腎臓であれば約83質量%、脳や腸であれば約75質量%などである。したがって、本発明の立体造形物におけるハイドロゲルの水分含有率は、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。
【0022】
(立体造形物の製造方法、および製造装置)
本発明の立体造形物の製造方法は、ハイドロゲル前駆体液の液膜を硬化させてなる層を複数積層する立体造形物の製造方法であって、水分含有率が70質量%以上で、かつ、溶媒濃度の差異が5質量%以内である複数のハイドロゲル前駆体液を用い、前記複数のハイドロゲル前駆体液の付与位置と付与量とを制御することにより液膜を形成する液体付与工程と、前記液膜を硬化させる膜硬化工程とを有し、前記膜硬化工程により得られた液膜を硬化させてなる層が、物性値のそれぞれ異なるハイドロゲルから成る複数の領域を有するものとなる立体造形物の製造方法である。更に必要に応じてその他の工程を含む。
上記の製造方法により得られた立体造形物は、本発明の立体造形物となる。
【0023】
本発明の立体造形物の製造方法は、前記液体付与工程が、複数のハイドロゲル前駆体液を所定の付与量比で同一位置に付与する操作を、付与量比および/または付与する位置を変えて同一の面内で繰り返し行い、同一層となる液膜内に付与量比のそれぞれ異なるハイドロゲル前駆体液混合物からなる複数の領域を作製することを含む。
【0024】
インクジェット方式を用いた三次元プリンター(立体造形装置;マテリアルジェッティング)の造形技術として、複数のインクを用いることでマルチマテリアルを達成する技術は知られている。また特許文献4に記載されているように、組成の異なる2つの液体(本発明におけるハイドロゲル前駆体液に相当)を用い、それらの付与する位置と付与量とを制御することにより、ハイドロゲルの物性値をコントロールし、その分布を付けるという考え方は既に存在している。
しかしながら、実際にハイドロゲルで立体造形物を造形する場合、造形後の経時変化により、所望の物性分布は変化してしまい、結果としてマルチマテリアルで物性をコントロールした高精度の立体造形が達成できないケースが存在した。本発明では、この課題を解決しない限り、ハイドロゲルの有用性を使いこなすことができないという知見に基づき本発明を完成した。
【0025】
本発明の立体造形物の製造方法は、ハイドロゲル前駆体液を付与する第1の工程、及び液膜を硬化させる第2の工程を複数回繰り返す。繰り返し回数としては、特に制限はなく、作製する立体造形物の大きさ、形状などに応じて適宜選択することができる。
【0026】
立体造形物の大きさとしては、硬化後1層あたりの平均厚みが、10μm以上50μm以下が好ましい。平均厚みが、10μm以上50μm以下であると、精度よく、また、剥離することもなく造形することが可能であり、立体造形物の高さ分だけ積層することができる。
【0027】
以下において、2種類のハイドロゲル前駆体液を用いる態様を例として本発明の詳細を説明するが、本発明はかかる態様に限定されるものではない。当業者であれば、かかる説明からさらなる態様(例えば3種類以上のハイドロゲル前駆体液を用いる態様)について容易に理解するものである。
前記立体造形物の製造方法においては、第1のハイドロゲル前駆体液及び第1のハイドロゲル前駆体液とは組成の異なる第2のハイドロゲル前駆体液を、それぞれの付与する位置と付与量とを制御することにより、硬化して得られるハイドロゲルの物性が異なる複数の領域を連続的に有する前記液膜を形成し、かかる液膜を積層することにより、圧縮応力及び弾性率などのハイドロゲルの物性が個々の部位毎に異なる立体造形物を効率よく製造することができる。
【0028】
前記硬化して得られるハイドロゲルの物性が異なる複数の領域は、第1の工程において得られる、同一の膜内に連続的に存在する。第1の工程において得られる膜の同一の膜内において前記硬化して得られるハイドロゲルの物性が連続的に異なることが好ましい。
前記第1のハイドロゲル前駆体液及び前記第2のハイドロゲル前駆体液を付与する位置と付与量としては、形成された膜、同一膜内等において異なっていれば特に制限はなく、造形したい造形物やその使用目的等に応じて適宜選択することができる。
【0029】
また、前記立体造形物の製造方法としては、後述する立体造形用液体セットにおける少なくとも第1のハイドロゲル前駆体液及び第2のハイドロゲル前駆体液を付与する液体付与工程(第1の工程)と、前記液体付与工程により形成された液膜を硬化させる膜硬化工程(第2の工程)と、を含む態様も好適に用いることができる。
前記立体造形物の製造方法における各工程について詳細に説明する。
【0030】
<第1の工程、及び第1の手段>
前記第1の工程は、第1のハイドロゲル前駆体液、および第1のハイドロゲル前駆体液とは組成が異なる第2のハイドロゲル前駆体液を、同一位置に付与する工程(液体付与工程)である。
前記第1の工程は、第1のハイドロゲル前駆体液及び第2のハイドロゲル前駆体液を付与する液体付与手段により好適に行うことができる。
【0031】
前記第1のハイドロゲル前駆体液及び前記第2のハイドロゲル前駆体液を付与する方法としては、液滴が適切な精度で目的の領域に付与できる方式であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液滴吐出方式などが挙げられる。前記液滴吐出方式としては、例えば、ディスペンサー方式、スプレー方式、インクジェット方式などが挙げられる。なお、これらの方式を実施するには公知の装置を好適に使用することができる。
【0032】
これらの中でも、前記ディスペンサー方式は、液滴の定量性に優れるが、付与面積が狭くなる。前記スプレー方式は、簡便に微細な吐出物を形成でき、付与面積が広く、付与性に優れるが、液滴の定量性が悪く、スプレー流による飛散が発生する。前記インクジェット方式は、前記スプレー方式に比べ、液滴の定量性が良く、前記ディスペンサー方式に比べ、付与面積が広くできる利点があり、複雑な立体造形物を精度良くかつ効率よく形成することができる。このため、本発明においては、前記インクジェット方式を用いることが好ましい。
【0033】
前記液滴吐出方式を用いる場合、装置としては、前記第1のハイドロゲル前駆体液、前記第2のハイドロゲル前駆体液等を吐出可能なノズルを有することが好ましい。なお、前記ノズルとしては、公知のインクジェットプリンターにおけるノズルを好適に使用することができ、前記インクジェットプリンターとしては、例えば、リコーインダストリー株式会社製のMH5420/5440などが好適に挙げられる。前記インクジェットプリンターは、ヘッド部から一度に滴下できる液量が多く、付与面積が広いため、付与の高速化を図ることができる点で好ましい。
【0034】
<<第1のハイドロゲル前駆体液>>
ハイドロゲルは、水を含む溶媒と、ポリマーと、鉱物とから構成されることが好ましい。特に、溶媒に分散された前記鉱物と、重合性モノマーが重合した前記ポリマーとが複合化して形成された三次元網目構造の中に、前記水が包含されているハイドロゲルからなることが好ましい。
このハイドロゲルの前駆体であるハイドロゲル前駆体液は、水および任意に有機溶媒を含む溶媒、重合性モノマーおよび鉱物を含み、更に必要に応じてその他の成分を含んでなる。重合性モノマーは重合することによってハイドロゲルの成分であるポリマーを形成する。
【0035】
<ポリマー>
前記ポリマーとしては、例えば、アミド基、アミノ基、水酸基、テトラメチルアンモニウム基、シラノール基、エポキシ基などを有するポリマーが挙げられ、水溶性であることが好ましい。
前記ポリマーは、ホモポリマー(単独重合体)であってもよいし、ヘテロポリマー(共重合体)であってもよく、また、変性されていてもよいし、公知の官能基が導入されていてもよく、また塩の形態であってもよいが、ホモポリマーが好ましい。
本発明において、前記ポリマーが「水溶性である」とは、例えば、30℃の水100gに該ポリマーを1g混合して撹拌したとき、その90質量%以上が溶解するものを意味する。
【0036】
<重合性モノマー>
重合性モノマーとしては、重合性を有していれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、光重合性官能基を有する化合物が好ましい。
例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等の、ラジカルを発生する光重合開始剤で硬化可能なエチレン性の不飽和基を含む化合物;エポキシ基等の、酸を発生する光酸発生剤で硬化可能な環状エーテル基を含む化合物が好ましく、硬化性の点から、エチレン性の不飽和基を含む化合物がより好ましい。
前記エチレン性の不飽和基を含む化合物としては、例えば、(メタ)アクリルアミド基を有する化合物、(メタ)アクリレート化合物、(メタ)アクリロイル基を有する化合物、ビニル基を有する化合物、アリル基を有する化合物などが挙げられる。
また、前記重合性モノマーとしては、例えば、単官能重合性モノマー、多官能重合性モノマーなどを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
--単官能重合性モノマー--
前記単官能重合性モノマーとしては、例えば、アクリルアミド、N-置換アクリルアミド誘導体、N,N-ジ置換アクリルアミド誘導体、N-置換メタクリルアミド誘導体、N,N-ジ置換メタクリルアミド誘導体、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート(EHA)、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート(HPA)、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェノール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルホリンが好ましい。
前記単官能重合性モノマーを重合させることにより、有機ポリマーが得られる。
前記単官能重合性モノマーの含有量としては、第1のハイドロゲル前駆体液全量に対して、0.5質量%以上20質量%以下が好ましい。
【0038】
--多官能重合性モノマー--
前記多官能重合性モノマーとしては、例えば、二官能重合性モノマー、三官能以上の重合性モノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記二官能重合性モノマーとしては、例えば、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート(MANDA)、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート(HPNDA)、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート(BGDA)、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート(BUDA)、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート(HDDA)、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(DEGDA)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート(NPGDA)、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(TPGDA)、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化オペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール200ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール400ジ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
前記三官能以上の重合性モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPTA)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート(PETA)、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート(DPHA)、トリアリルイソシアネート、ε-カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールの(メタ)アクリレート、トリス(2ーヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタ(メタ)アクリレートエステルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
前記多官能重合性モノマーの含有量としては、第1のハイドロゲル前駆体液中の単官能モノマー全量に対して、0.01モル%以上10モル%以下が好ましい。前記含有量が、0.01モル%以上10モル%以下であると、ゲル物性の調整が容易になる。
【0041】
<水>
前記水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。
前記水には、保湿性付与、抗菌性付与、導電性付与、硬度調整などの目的に応じて有機溶媒等のその他の成分を溶解または分散させてもよい。
本発明においては、ハイドロゲル全体の水分含有率(水分濃度)が重要な因子であり、全体の70質量%以上であることが重要である。
【0042】
<鉱物>
前記鉱物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水膨潤性層状粘土鉱物などが挙げられる。
前記水膨潤性層状粘土鉱物は、単一層の状態で水に分散した
図1の上図に示すように、単位格子を結晶内に持つ二次元円盤状の結晶が積み重なった状態を呈しており、前記水膨潤性層状粘土鉱物を水中で分散させると、
図1の下図に示すように、各単一層状態で分離して円盤状の結晶となる。
【0043】
前記水膨潤性層状粘土鉱物としては、例えば、水膨潤性スメクタイト、水膨潤性雲母などが挙げられる。より具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、高弾性の立体造形物が得られる点から、水膨潤性ヘクトライトが好ましい。
【0044】
前記水膨潤性ヘクトライトは、適宜合成したものであってもよいし、市販品であってもよい。前記市販品としては、例えば、合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)、SWN(Coop Chemical Ltd.製)、フッ素化ヘクトライトSWF(Coop Chemical Ltd.製)などが挙げられる。これらの中でも、立体造形物の弾性率の点から、合成ヘクトライトが好ましい。
前記水膨潤性とは、
図1に示すように層状粘土鉱物の層間に水分子が挿入され、水中に分散されることを意味する。
【0045】
前記鉱物の含有量は、立体造形物の弾性率及び硬度の点から、立体造形物の全量に対して、1質量%以上40質量%以下が好ましく、1質量%以上25質量%以下がより好ましい。
【0046】
<有機溶媒>
前記有機溶媒は、立体造形物の保湿性を高めるために含有される。
前記有機溶媒としては、例えば、炭素数1~4のアルキルアルコール類、アミド類、ケトン類、ケトンアルコール類、エーテル類、多価アルコール類、ポリアルキレングリコール類、多価アルコールの低級アルコールエーテル類、アルカノールアミン類、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
これらの中でも、保湿性の点から、多価アルコールが好ましく、具体的にはエチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類が良好に使用される。
前記有機溶媒の含有率は、立体造形物の全量に対して、1質量%以上10質量%以下が好ましい。前記含有率が、1質量%以上であると、乾燥防止の効果が得られる。また、10質量%以下であると、層状粘土鉱物が均一に分散される。
【0048】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸等のホスホン酸化合物、安定化剤、重合開始剤、着色剤、粘度調整剤、接着性付与剤、酸化防止剤、老化防止剤、重合促進剤、紫外線吸収剤、可塑剤、防腐剤、分散剤、乾燥防止剤などが挙げられる。
【0049】
--安定化剤--
前記安定化剤としては、前記鉱物を分散安定させ、ゾル状態を保つために用いられる。
また、液滴吐出方式では液体としての特性安定化のために必要に応じて安定化剤が用いられる。
前記安定化剤としては、例えば、高濃度リン酸塩、非イオン界面活性剤などが挙げられる。有機溶媒であるグリコールも安定化剤として機能する。
前記非イオン界面活性剤としては、適宜合成してもよく、市販品を用いてもよい。
【0050】
--重合開始剤--
前記重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤などが挙げられる。これらの中でも、保存安定性の点から、活性エネルギー線を照射することによりラジカル又はカチオンを生成する光重合開始剤が好ましい。
前記光重合開始剤としては、光(特に波長220nm以上400nm以下の紫外線)の照射によりラジカルを生成する任意の物質を用いることができる。
前記熱重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アゾ系開始剤、過酸化物開始剤、過硫酸塩開始剤、レドックス(酸化還元)開始剤などが挙げられる。
【0051】
-粘度調整剤-
前記粘度調整剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機溶媒であるプロピレングリコールも粘度調整剤として機能する。
【0052】
-乾燥防止剤-
前記乾燥防止剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機溶媒であるグリセリンも乾燥防止剤として機能する。
【0053】
-分散剤-
前記分散剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エチドロン酸などが挙げられる。
【0054】
-重合促進剤-
前記重合促進剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンなどが挙げられる。
【0055】
前記第1のハイドロゲル前駆体液の液滴の体積としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、2pL以上60pL以下が好ましく、15pL以上30pL以下がより好ましい。前記第1のハイドロゲル前駆体液の液滴の体積が、2pL以上であると、吐出安定性を向上でき、60pL以下であると、造形用の吐出ノズル等に液体を充填する際に、充填が容易になる。
【0056】
前記第1の工程において形成される膜における前記第1のハイドロゲル前駆体液の含有量(質量%)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記第1のハイドロゲル前駆体液の付与量により制御することができる。
なお、前記第1のハイドロゲル前駆体液の付与量は、前記第1のハイドロゲル前駆体液の液滴の体積に前記第1のハイドロゲル前駆体液の液滴数を掛けることにより算出することができる。
【0057】
前記第1のハイドロゲル前駆体液の表面張力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、20mN/m以上45mN/m以下が好ましく、25mN/m以上34mN/m以下がより好ましい。
前記表面張力が、20mN/m以上であると、吐出安定性を向上でき、45mN/m以下であると、造形用の吐出ノズル等に液体を充填しやすくなる。
なお、前記表面張力は、例えば、表面張力計(自動接触角計DM-701、協和界面科学株式会社製)などを用いて測定することができる。
【0058】
前記第1のハイドロゲル前駆体液の粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、温度を調整することで適宜利用可能であるが、例えば、25℃で、3mPa・s以上20mPa・s以下が好ましく、6mPa・s以上12mPa・s以下がより好ましい。
前記粘度が、3mPa・s以上20mPa・s以下であると、吐出安定性を向上できる。
なお、前記粘度は、例えば、回転粘度計(VISCOMATE VM-150III、東機産業株式会社製)などを用いて25℃の環境下で測定することができる。
【0059】
<<第2のハイドロゲル前駆体液>>
第2のハイドロゲル前駆体液は、前記第1のハイドロゲル前駆体液とは組成が異なり、硬化時の物性値が第1のハイドロゲル前駆体液とは異なり、両者を混合製膜することで、立体造形物(ハイドロゲル)の物性をコントロールする機能を有する。
即ち、本発明においては、第1のハイドロゲル前駆体液と第2のハイドロゲル前駆体液を同一位置に成膜し両者を混合させる。この際、前記第1のハイドロゲル前駆体液及び前記第2のハイドロゲル前駆体液を付与する位置と付与量とを制御することにより、成膜中の硬化性材料成分を調整するものである。
【0060】
第2のハイドロゲル前駆体液を構成する材料としては、前記した第1のハイドロゲル前駆体液を構成する材料として挙げた材料と同様のものを用いることができる。
但し、第1のハイドロゲル前駆体液とは、硬化時におけるハイドロゲルの物性値を変化させる必要があるため、含有する材料の種類や濃度を変化させる。中でも、鉱物種および/または鉱物濃度、モノマー種類および/またはモノマー濃度を変更することが効果的である。
【0061】
ハイドロゲル前駆体液を構成する材料の中でも、物性に大きく影響を与えることが可能な材料として、多官能重合性モノマーを挙げることが出来る。多官能重合性モノマーは、ハイドロゲルのネットワーク構造を構築する際の架橋剤として働くことが出来る。このため、ハイドロゲルの強度を初めとする物性に大きく関与する。
また、多官能重合性モノマーはハイドロゲル前駆体液を構成する材料の中でも含有量が少ない。このため、多官能重合性モノマーの含有量を変化させても、ハイドロゲル前駆体液の材料構成比率を極端に大きく変化させることは少なく(溶媒濃度差を大きく変化させない)、制御因子としては有効に使用される。ハイドロゲルの物性制御には、多官能重合性モノマー種および/または濃度を変更することが非常に効果的である。
また、本発明が応用されるインクジェット方式においては、インク粘度制御が重要な要因となるが、ハイドロゲル前駆体液中の含有量の少ない多官能重合性モノマーの種類および/または濃度を変化させても粘度変動はさほど大きくないため、有効に使用される。
必要な条件としては、第2のハイドロゲル前駆体液の水分含有率が70質量%以上であることである。
第2のハイドロゲル前駆体液の表面張力、粘度の適正範囲は、第1のハイドロゲル前駆体液に準じるものである。
【0062】
前記第1のハイドロゲル前駆体液及び前記第2のハイドロゲル前駆体液を付与する位置と付与量とを制御する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液滴の体積を変更して制御する方法、液滴の液滴数を変更して制御する方法などが挙げられる。
【0063】
後述の様に、第1のハイドロゲル前駆体液と第2のハイドロゲル前駆体液との量比を変え、物性が異なる領域を形成するが、隣接した領域におけるハイドロゲルの溶媒濃度差が5質量%以内になるように制御することが肝要になる。これを達成するためには、2つのハイドロゲル前駆体液の溶媒濃度を勘案した制御を行えば良いが、初めから2つのハイドロゲル前駆体液の溶媒濃度差を5質量%以内に処方しておくと制御が楽になる。
尚、ここで言うハイドロゲルの溶媒濃度とは、硬化後のハイドロゲルに含有される溶媒(水および有機溶媒の合計)の濃度である。
【0064】
<第2の工程、及び第2の手段>
前記第2の工程は、前記第1の工程により形成された液膜を硬化させ、硬化した膜を積層させることで、部位毎に圧縮応力及び弾性率などの物性値を変えられる立体造形物を造形する工程(膜硬化工程)である。硬化後の膜は、硬化性材料が他の成分と共に構造体を形成した状態になっている。前記第2の工程(膜硬化工程)は、前記第2の手段(膜硬化手段)により好適に行うことができる。
【0065】
前記第2の手段としての膜硬化手段としては、例えば、紫外線(UV)照射ランプ、電子線などが挙げられる。前記膜硬化手段には、オゾンを除去する機構が具備されることが好ましい。
前記紫外線(UV)照射ランプの種類としては、例えば、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドなどが挙げられる。
前記超高圧水銀灯は点光源であるが、光学系と組み合わせて光利用効率を高くしたDeepUVタイプは、短波長領域の照射が可能である。
前記メタルハライドは、波長領域が広いため着色物に有効であり、Pb、Sn、Fe等の金属のハロゲン化物が用いられ、光重合開始剤の吸収スペクトルに合わせて選択できる。硬化に用いられるランプとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、FusionSystem社製のHランプ、Dランプ、Vランプ等のような市販されているものも使用することができる。
【0066】
また本発明においては、UV-LED(Ultra Violet-Light Emitting Diode:紫外線発光ダイオード)が好適に使用される。LEDの発光波長としては特に制限するものではなく、一般的には365nm、375nm、385nm、395nm、405nmのものがあるが、造形物への色の影響を考慮すると、開始剤の吸収が大きくなるように、短波長発光の方が有利である。
UV-LEDは、一般的に用いられる紫外線照射ランプ(高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ)、電子線などにくらべ、硬化時にサンプルに与える熱エネルギーが小さく、サンプルの熱損傷が小さくなる。特に、本発明で造形するハイドロゲルは、水を蓄えた状態で存在することで、その特徴を発現するため、この効果は顕著なものである。
【0067】
<第3の工程、及び第3の手段>
前記第3の工程は、第2の工程により硬化した硬化性材料で構成される立体造形物を支持するための硬質成形体となる液体(以下、サポート材液)を、前記第1のハイドロゲル前駆体液及び前記第2のハイドロゲル前駆体液とは異なる領域に付与して成膜する工程であり、第3の手段により実施することができる。本発明の立体造形物の製造方法は、任意に前記第3の工程を含み得る。
前記第3の手段としてのサポート材液を付与する手段としては、前記立体造形物の製造装置における前記第1の手段と同様の手段を用いることができる。
【0068】
<<サポート材液>>
前記サポート材液は、立体造形物を支持するための硬質成形体となる液体である。前記サポート材液は、硬化性材料を含有し、重合開始剤を含有することが好ましく、更に必要に応じてその他の成分を含有してなるが、水や層状粘度鉱物は含まない。
前記サポート材液としては、前記第1のハイドロゲル前駆体液及び前記第2のハイドロゲル前駆体液とは組成が異なることが好ましい。
【0069】
前記硬化性材料としては、活性エネルギー線(紫外線、電子線等)照射、加熱等により重合反応を生起して硬化する化合物であることが好ましく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、活性エネルギー線硬化性化合物、熱硬化性化合物などが挙げられる。これらの中でも、常温で液体の材料が好ましい。
【0070】
前記サポート材液を、前記第1のハイドロゲル前駆体液及び第2のハイドロゲル前駆体液とは異なる領域に付与するとは、前記サポート材液と前記第1のハイドロゲル前駆体液及び第2のハイドロゲル前駆体液の付与領域が重ならないことを意味し、前記サポート材液と前記第1のハイドロゲル前駆体液及び第2のハイドロゲル前駆体液とが隣接していても構わない。
【0071】
前記サポート材液を付与する方法としては、前記サポート材液からなる液滴が適切な精度で目的の場所に付与できる方式であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液滴吐出方式などが挙げられる。前記液滴吐出方式としては、例えば、ディスペンサー方式、インクジェット方式などが挙げられる。
サポート材を用いることにより、例えば
図5に示す様に造形後に支持体(サポート材)18を取り除くことで、オーバーハング部など所望の形状を有する立体造形物17を得ることができる。
【0072】
<その他の工程、及びその他の手段>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、剥離工程、成形体の研磨工程、成形体の清浄工程などが挙げられる。
前記その他の手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、剥離手段、成形体の研磨手段、成形体の清浄手段などが挙げられる。
特に、第1の工程で形成された液膜は、全ての領域が狙いの膜厚(層厚)になっているとは限らないため、第2の工程の前に、第1の工程で形成された液膜を平滑化させる工程を導入することが望ましい。
前記第1の工程で形成された液膜を平滑化させる工程は、液膜を平滑化する手段により行うことができる。
【0073】
インクジェット方式の場合は不吐出があったり、インクジェット方式/ディスペンサー方式共に、ドット間段差などが生じたりすることがあり、高精度な積層構造物を形成するためには、不十分な場合がある。これを補償するためには、層を形成した直後に機械的に平滑化する(均す)、機械的に削り取る、平滑度を検知して次の層の積層時に製膜量をドットレベルで調整する、などの方法が考えられる。
【0074】
本発明で使用するハイドロゲルは、対象とする造形物が内臓等であるため、その硬度は比較的柔らかい。このため平滑化に際しては、層を形成した直後に機械的に均す平滑化方法が有効に使用することができる。
機械的に平滑化する方法とは、例えば、ブレード形状の部材で均す、ローラー形状の部材で均すなどの方法が挙げられる。
以上の様な構成を有する三次元造形装置の一例を
図4に示す。
【0075】
以上説明したように、本発明の立体造形物の製造方法においては、液滴吐出方式などの細孔より液体を吐出することにより、1層ずつの像を形成できるように付与され、硬化前の第1のハイドロゲル前駆体液と第2のハイドロゲル前駆体液とが、所定領域に所定の付与量で付与され、部分的に付与量比のそれぞれ異なるハイドロゲル前駆体液混合物からなる複数の領域を有する液膜を形成するようにする。ここで、第1のハイドロゲル前駆体液と第2のハイドロゲル前駆体液との量比を変えることで、質量比を容易に変えることができ、一定の体積あたりの架橋剤量や重合性モノマー量などを制御することができる。かかる液膜を硬化し積層することにより、ハイドロゲルの圧縮応力及び弾性率などの物性が異なる複数の部位を有する立体造形物を得ることができる。
ここで肝要なことは、第1のハイドロゲル前駆体液と第2のハイドロゲル前駆体液との量比を変え、物性が異なる領域を形成するが、隣接した領域における溶媒濃度差が5質量%以内になるように制御することである。
【0076】
従来の立体造形物の製造方法においては、単一の硬化性材料、又は複数の硬化性材料を異なる領域に打ち分けて圧縮応力及び弾性率が異なる部位を有する立体造形物を造形していた。しかしながら、かかる立体造形物の製造方法では複数の硬化性材料由来の圧縮応力及び弾性率などの物性だけを含む立体造形物しか製造できなかった。その結果、連続的に異なる圧縮応力及び弾性率などの物性を有する立体造形物の造形はできなかった。また、前記液体と第2の液体とを付与し、硬化後の圧縮応力及び弾性率が異なる複数の領域を有する前記液膜を形成することにより、圧縮応力及び弾性率などの物性を制御する技術についても知られているが、かかる方法では経時的な物性変化により造形物の形状や特性が変化してしまう場合があることがわかった。
【0077】
本発明の立体造形物の製造方法は、第1のハイドロゲル前駆体液と第2のハイドロゲル前駆体液の水分含有率を70質量%以上にして、かつ、隣接する領域の溶媒濃度の差が5質量%以内になるようにすることによって、造形後経時変化の少ないハイドロゲルからなる立体造形物を得ることができる。
【0078】
(実施形態)
以下、本発明の立体造形物の製造方法及び立体造形物の製造装置の具体的な実施形態の一例について説明する。
まず、三次元CADで設計された三次元形状又は三次元スキャナやディジタイザで取り込んだ三次元形状のサーフェイスデータ或いはソリッドデータを、STLフォーマットに変換して積層造形装置に入力する。
次に、三次元形状の圧縮応力分布の測定を行う。手法としては、特に制限はないが、例えば、MR Elastrogrphy (以下、MRE)を用いることで三次元形状の圧縮応力分布データを得て、このデータを積層造形装置に入力する。入力された圧縮応力データに基づいて、三次元形状のデータに対応する領域に吐出する第1のハイドロゲル前駆体液と第2のハイドロゲル前駆体液との付与量を決定する。この入力されたデータに基づいて、造形しようとする三次元形状の造形方向を決める。造形方向は特に制限はないが、通常はZ方向(高さ方向)が最も低くなる方向を選ぶ。
【0079】
造形方向を確定したら、その三次元形状のX-Y面、X-Z面、Y-Z面への投影面積を求め、立体造形物のブロック形状を得る。得られたブロック形状を一層の厚みでZ方向に輪切り(スライス)にする。一層の厚みは使う材料によるが、通常は20μm以上60μm以下が好ましい。造形しようとする立体造形物が1個の場合は、このブロック形状がZステージ(一層造形毎に一層分ずつ下降する造形物をのせるテーブル)の真中に来るように配置される。また、複数個同時に造形する場合はブロック形状がZステージに配置されるが、ブロック形状を積み重ねることも可能である。これらのブロック形状化や輪切りデータ(スライスデータ:等高線データ)やZステージへの配置は、使用材料を指定すれば自動的に作製することも可能である。
【0080】
次に、造形工程を実施する。
図6に示す異なるヘッド1とヘッド2とを双方向に動かして、第1のハイドロゲル前駆体液と第2のハイドロゲル前駆体液とを所定領域に所定の付与量比で吐出し、ドットを形成する。その際、
図7に示すようにドットにおいて第1のハイドロゲル前駆体液(21)と第2のハイドロゲル前駆体液(22)とを混合し、所定の質量比(第1のハイドロゲル前駆体液:第2のハイドロゲル前駆体液)にすることが可能である。
図7に示した例では、第1のハイドロゲル前駆体液:第2のハイドロゲル前駆体液=2:1であることを示す。
【0081】
さらに、連続したドットを形成することで、所定の質量比(第1のハイドロゲル前駆体液:第2のハイドロゲル前駆体液)が所定の領域にある第1のハイドロゲル前駆体液及び第2のハイドロゲル前駆体液の混合液膜を作製することができる。そして、第1のハイドロゲル前駆体液及び第2のハイドロゲル前駆体液の混合液膜に紫外線(UV)光を照射することで硬化して、
図6に示すように所定の領域に所定の質量比(第1のハイドロゲル前駆体液:第2のハイドロゲル前駆体液)を有するハイドロゲル膜を形成することができる。
【0082】
前記ハイドロゲル膜を一層形成した後に、前記ステージ(
図4参照)が一層分の高さだけ下降する。再度、前記ハイドロゲル膜上に連続したドットを形成することで、所定の質量比(第1のハイドロゲル前駆体液:第2のハイドロゲル前駆体液)が所定の領域にある第1のハイドロゲル前駆体液及び第1のハイドロゲル前駆体液の混合液膜を作製する。第1のハイドロゲル前駆体液及び第2のハイドロゲル前駆体液の混合液膜に紫外(UV)光を照射することで硬化して、ハイドロゲル膜を形成する。これらの積層を繰り返すことで、
図8のような立体造形が可能となる。
【0083】
このように立体造形した水を主成分として含むハイドロゲル造形体である立体造形物は、
図8のようにハイドロゲル内で異なる第1のハイドロゲル前駆体液及び第2のハイドロゲル前駆体液の質量比(第1のハイドロゲル前駆体液:第2のハイドロゲル前駆体液)を有し、連続的に圧縮応力及び弾性率などの物性値を変えることができる。
【0084】
また、
図4に示すように、ハイドロゲル前駆体液を噴射するインクジェットヘッド(10、11、12)にUV光(紫外光)照射機(13)を隣接させることにより、平滑処理に要する時間を省くことができ、高速造形が可能である。この際、UV光照射機(13)として、UV-LEDを用いることにより、造形中の造形物に照射される熱エネルギーを低減することができ、有効な手段である。
また
図4に示す様に、インクジェットヘッド(10、11、12)およびUV光照射機(13)に隣接して、平滑化部材(16)を設けることにより、一層ごとの平滑化、層厚の制御も可能になり、本発明における造形において非常に有効な手段である。
【0085】
(立体造形用液体セット)
本発明の立体造形用液体セットは、前記第1のハイドロゲル前駆体液と、前記第2のハイドロゲル前駆体液とを有し、更に必要に応じてその他の成分を有しても良い。その他の成分としては、例えば第1および第2のハイドロゲル前駆体液とは異なる組成のハイドロゲル前駆体液、ハイドロゲル前駆体液の希釈液、重合開始剤を含む液、キレート剤を含む液などが挙げられる。
前記第1のハイドロゲル前駆体液としては、水を含む溶媒、硬化性材料として重合性モノマーを含み、鉱物をさらに含むことが好ましく、さらに重合開始剤を含むことがより好ましい。
前記重合性モノマーとしては、前記立体造形物の製造方法におけるハイドロゲル前駆体液の重合性モノマーと同様のものを用いることができる。
第1のハイドロゲル前駆体液は、水分含有率が70質量%以上である。
【0086】
前記第2のハイドロゲル前駆体液としては、第1のハイドロゲル前駆体液とは組成が異なり、第1のハイドロゲル前駆体液と溶媒濃度の差異が5質量%以内であり、水分含有率が70質量%以上である。また、架橋剤、及び鉱物の少なくともいずれかを含むことが好ましく、さらに重合開始剤を含むことがより好ましい。
前記架橋剤としては、前記立体造形物の製造方法における第1のハイドロゲル前駆体液の架橋剤と同様のものを用いることができる。
第1のハイドロゲル前駆体液と第2のハイドロゲル前駆体液には、いずれも多官能重合性モノマー(架橋剤)が含有され、両者に含有される多官能重合性モノマーの種類および/または含有量が異なることが好ましい。
前記鉱物としては、前記立体造形物の製造方法における第1ハイドロゲル前駆体液の鉱物と同様のものを用いることができる。
前記第1のハイドロゲル前駆体液及び前記第2ハイドロゲル前駆体液における重合開始剤としては、前記立体造形物の製造方法における第1ハイドロゲル前駆体液の重合開始剤と同様のものを用いることができる。
【0087】
本発明は下記(1)の立体造形物に係るものであるが、下記(2)~(19)を実施形態として含む。
(1)物性のそれぞれ異なるハイドロゲルから成る複数の部位を有する立体造形物であって、前記物性のそれぞれ異なるハイドロゲルは、いずれも水分含有率が70質量%以上であり、かつ、前記複数の部位において隣接した部位を構成するハイドロゲルの溶媒濃度の差が5質量%以内である、立体造形物。
(2)前記物性のそれぞれ異なるハイドロゲルが、いずれも水を含む溶媒、ポリマー、及び鉱物を含む、上記(1)に記載の立体造形物。
(3)前記物性のそれぞれ異なるハイドロゲルが、いずれも溶媒として水及び有機溶媒を含む、上記(1)又は(2)に記載の立体造形物。
(4)前記物性のそれぞれ異なるハイドロゲルが、いずれも水分含有率が80質量%以上である、上記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の立体造形物。
(5)ハイドロゲル前駆体液の液膜を硬化させてなる層を複数積層する立体造形物の製造方法であって、水分含有率が70質量%以上で、かつ、溶媒濃度の差異が5質量%以内である複数のハイドロゲル前駆体液を用い、前記複数のハイドロゲル前駆体液の付与位置と付与量とを制御することにより液膜を形成する液体付与工程と、前記液膜を硬化させる膜硬化工程とを有し、前記膜硬化工程により得られた液膜を硬化させてなる層が、物性のそれぞれ異なるハイドロゲルからなる複数の領域を有するものとなる、立体造形物の製造方法。
(6)前記液体付与工程が、複数のハイドロゲル前駆体液を所定の付与量比で同一位置に付与する操作を、付与量比および/または付与する位置を変えて同一の面内で繰り返し行い、同一層となる液膜内に付与量比のそれぞれ異なるハイドロゲル前駆体液混合物からなる複数の領域を作製することを含む、上記(5)に記載の立体造形物の製造方法。
(7)前記複数のハイドロゲル前駆体液が、液滴吐出方式により付与される上記(5)又は(6)に記載の立体造形物の製造方法。
(8)前記複数のハイドロゲル前駆体液の付与量が、付与する液滴の体積の変更により調節される、上記(5)乃至(7)のいずれか1項に記載の立体造形物の製造方法。
(9)前記複数のハイドロゲル前駆体液の付与量が、付与する液滴の液滴数の変更により調節される、上記(5)乃至(7)のいずれか1項に記載の立体造形物の製造方法。
(10)前記複数のハイドロゲル前駆体液が、いずれも水を含む溶媒、重合性モノマー、及び鉱物を含む、上記(5)乃至(9)のいずれか1項に記載の立体造形物の製造方法。
(11)前記複数のハイドロゲル前駆体液が、いずれも溶媒として水及び有機溶媒を含む、上記(5)乃至(10)のいずれか1項に記載の立体造形物の製造方法。
(12)前記複数のハイドロゲル前駆体液が、いずれも、重合性モノマーとして、多官能重合性モノマーを含む、上記(5)乃至(11)のいずれか1項に記載の立体造形物の製造方法。
(13)水を含む溶媒、重合性モノマーおよび鉱物を含み、水分含有率が70質量%以上の第1のハイドロゲル前駆体液、ならびに前記第1のハイドロゲル前駆体液とは組成が異なり、第1のハイドロゲル前駆体液と溶媒濃度の差異が5質量%以内であり、水分含有率が70質量%以上の第2のハイドロゲル前駆体液を有する、立体造形用液体セット。
(14)前記立体造形用液体セットにおいて、第1のハイドロゲル前駆体液と第2のハイドロゲル前駆体液には、いずれも多官能重合性モノマーが含有され、両者に含有される多官能重合性モノマーの種類および/または含有量が異なる、上記(13)に記載の立体造形用液体セット。
(15)上記(13)又は(14)に記載の立体造形用液体セットにおける第1のハイドロゲル前駆体液及び第2のハイドロゲル前駆体液を付与する液体付与工程と、前記液体付与工程により形成された液膜を硬化させる膜硬化工程と、を含む、立体造形物の製造方法。
(16)上記(13)又は(14)に記載の立体造形用液体セットにおける第1のハイドロゲル前駆体液及び第2のハイドロゲル前駆体液を付与する液体付与手段と、前記液体付与手段により形成された液膜を硬化させる膜硬化手段と、を有する、立体造形物の製造装置。
(17)前記液体付与手段が液滴吐出方式である、上記(16)に記載の立体造形物の製造装置。
(18)前記膜硬化手段がUV-LEDである、上記(16)又は(17)に記載の立体造形物の製造装置。
(19)前記液体付与手段により形成された液膜を平滑化する手段を有する、上記(16)乃至(18)のいずれか1項に記載の立体造形物の製造装置。
【実施例】
【0088】
以下、本発明における実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0089】
(ハイドロゲル前駆体液1の作製)
減圧脱気を30分間実施したイオン交換水を純水として用いた。
まず、純水70.0質量部を撹拌させながら、層状粘土鉱物としてNa+
0.66[(Si8Mg5.35Li0.66)O20(OH)4]-
0.66の組成を有する合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)5.72質量部を少しずつ添加し、撹拌して分散液を作製した。次に、合成ヘクトライトの分散剤としてエチドロン酸(東京化成工業株式会社製)0.29質量部を添加して分散液を得た。
次に、得られた分散液に、硬化性材料として、活性アルミナのカラムを通過させ重合禁止剤を除去したジメチルアクリルアミド(DMAA、東京化成工業株式会社製)7.50質量部を添加した。更に、架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA、東京化成工業株式会社製)0.07質量部を添加した。乾燥防止剤として有機溶媒であるグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)5.0質量部を添加して混合した。
次に、重合促進剤としてN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED、東京化成工業株式会社製)0.172質量部添加した後に、撹拌混合した。撹拌混合の後、減圧脱気を10分間実施した。続いて、ろ過を行うことで、不純物等を除去し、均質なハイドロゲル前駆体液1を得た。
【0090】
(ハイドロゲル前駆体液2~4の作製)
ハイドロゲル前駆体液1の作製と同じ手順で、表1-1に記載のとおりに処方量を変更し、ハイドロゲル前駆体液2~4を作製した。表1-1に記載した各材料に関する数値は質量部を表す。
【0091】
【0092】
(ハイドロゲル前駆体液5の作製)
減圧脱気を30分間実施したイオン交換水を純水として用いた。
まず、純水70.0質量部を撹拌させながら、層状粘土鉱物としてNa+
0.66[(Si8Mg5.35Li0.66)O20(OH)4]-
0.66の組成を有する合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)5.72質量部を少しずつ添加し、撹拌して分散液を作製した。次に、合成ヘクトライトの分散剤としてエチドロン酸(東京化成工業株式会社製)0.29質量部を添加して分散液を得た。
次に、得られた分散液に、硬化性材料として、活性アルミナのカラムを通過させ重合禁止剤を除去したジメチルアクリルアミド(DMAA、東京化成工業株式会社製)14.90質量部を添加した。更に、架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA、東京化成工業株式会社製)0.14質量部を添加した。更にグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)5.0質量部を添加して混合した。
次に、重合促進剤としてN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED、東京化成工業株式会社製)0.172質量部添加した後に、撹拌混合した。撹拌混合の後、減圧脱気を10分間実施した。続いて、ろ過を行うことで、不純物等を除去し、均質なハイドロゲル前駆体液5を得た。
【0093】
(ハイドロゲル前駆体液6~8の作製)
ハイドロゲル前駆体液5の作製と同じ手順で、表1-2に記載のとおりに処方量を変更し、ハイドロゲル前駆体液6~8を作製した。表1-2に記載した各材料に関する数値は質量部を表す。
【0094】
【0095】
(硬化液の作製)
減圧脱気を30分間実施したイオン交換水を純水として用いた。
まず、純水98質量部を撹拌させながら、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)2質量部を添加した後に、撹拌混合した。完全に溶解したところで、ろ過を行うことで、不純物等を除去し、硬化液を得た。
【0096】
(実施例1)
10質量部のハイドロゲル前駆体液2と、1.1質量部の硬化液を撹拌混合して、スチロール角形ケース1型(アズワン社製)に2時間密封硬化して、内側ハイドロゲル(23)を作製した(
図9参照)。
40質量部のハイドロゲル前駆体液1と、4.4質量部の硬化液の撹拌混合したものを準備し、内側ハイドロゲル(23)と共にスチロール角形ケース3型(アズワン社製)に2時間密封硬化して、外側ハイドロゲル(24)を作製し、
図9に示すような内側ハイドロゲル(23)を内包したハイドロゲル構造体1(25)を作製した。
【0097】
(実施例2)
実施例1におけるハイドロゲル前駆体液2をハイドロゲル前駆体液3に変更した以外は、実施例1と同様にハイドロゲル構造体2を作製した。
【0098】
(実施例3)
実施例1におけるハイドロゲル前駆体液2をハイドロゲル前駆体液4に変更した以外は、実施例1と同様にハイドロゲル構造体3を作製した。
【0099】
(比較例1)
実施例1におけるハイドロゲル前駆体液2をハイドロゲル前駆体液6に変更し、ハイドロゲル前駆体液1をハイドロゲル前駆体液5に変更した以外は、実施例1と同様にハイドロゲル構造体4を作製した。
【0100】
(比較例2)
比較例1におけるハイドロゲル前駆体液6をハイドロゲル前駆体液7に変更した以外は、比較例1と同様にハイドロゲル構造体5を作製した。
【0101】
(比較例3)
比較例1におけるハイドロゲル前駆体液6をハイドロゲル前駆体液8に変更した以外は、比較例1と同様にハイドロゲル構造体6を作製した。
【0102】
(評価)
上述の様に作製したハイドロゲル構造体1~6において、外側ハイドロゲル(23)及び内側ハイドロゲル(24)のヤング率を測定した。結果を表2に示す。
ヤング率の測定は、柔さ計測システム(株式会社堀内電機製作所製)を用いた。
評価のタイミングは、ハイドロゲル造形体作製直後および、保管3日後である。
保管に関しては、ハイドロゲルの乾燥を防ぐため、ラミジップ(株式会社 生産日本社製)に密閉して保管した。
また、目視にてハイドロゲル造形体の形状について確認を行った。結果を表2に示す。
【0103】
(結果)
表2から分かるように、実施例1~3(ハイドロゲルの水分含有率が70質量%以上で、かつ、隣接した部位の溶媒濃度の差が5質量%以内である場合)では、経時後においても、物性(ヤング率)の変化がほとんど認められず、また形状の変化も認められなかった。
一方、比較例1~3(隣接した部位の溶媒濃度の差が5質量%以上である場合)では、溶媒の移行により、物性(ヤング率)の変化が大きく、またハイドロゲル前駆体液6~8で作製した部分の体積収縮が大きかった。
【0104】
【0105】
(ハイドロゲル前駆体液9の作製)
減圧脱気を30分間実施したイオン交換水を純水として用いた。
まず、純水75.0質量部を撹拌させながら、層状粘土鉱物としてNa+
0.66[(Si8Mg5.35Li0.66)O20(OH)4]-
0.66の組成を有する合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)5.72質量部を少しずつ添加し、撹拌して分散液を作製した。次に、合成ヘクトライトの分散剤としてエチドロン酸(東京化成工業株式会社製)0.29質量部を添加して分散液を得た。
【0106】
次に、得られた分散液に、硬化性材料として、活性アルミナのカラムを通過させ重合禁止剤を除去したアクリロイルモルホリン(ACMO、KJケミカルズ株式会社製)10.0質量部、ジメチルアクリルアミド(DMAA、東京化成工業株式会社製)1.00質量部を添加した。更に、架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA、東京化成工業株式会社製)0.10質量部、及び界面活性剤としてLS106(花王株式会社製)0.51質量部を添加して混合した。
【0107】
次に、重合促進剤としてN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED、東京化成工業株式会社製)0.172質量部、光重合開始剤として4質量% Irgacure184(BASF社製)メタノール溶液(光重合開始剤液)0.60質量部添加した後に、撹拌混合した。撹拌混合の後、減圧脱気を10分間実施した。続いて、ろ過を行うことで、不純物等を除去し、均質なハイドロゲル前駆体液9を得た。
【0108】
(ハイドロゲル前駆体液10~14の作製)
ハイドロゲル前駆体液9と同じ手順で、表3に記載の通り処方量を変更し、ハイドロゲル前駆体液10~14を作製した。表3に記載した各材料に関する数値は質量部を表す。
【0109】
【0110】
(実施例4)
上述の様にして作製したハイドロゲル前駆体液9およびハイドロゲル前駆体液10を用いて、以下のようにして物性の異なる複数の領域を有する立体造形物を作製した。
ハイドロゲル前駆体液9およびハイドロゲル前駆体液10を、インクジェットヘッド(リコーインダストリー株式会社製、MH5420)に充填し、300dpi×300dpiとなるように吐出した。吐出する液滴の体積を制御して質量比(ハイドロゲル前駆体液9:ハイドロゲル前駆体液10)を
図6に示すように変えてハイドロゲル造形体である立体造形物を作製した。
図6は、ハイドロゲル造形体である立体造形物における1領域のハイドロゲル前駆体液9およびハイドロゲル前駆体液10との液滴の体積を制御した混合比分布を示している。
【0111】
具体的には、第1ハイドロゲル前駆体液用、及び第2ハイドロゲル前駆体液用のヘッドを4ヘッドずつ用いてハイドロゲル前駆体液9およびハイドロゲル前駆体液10を吐出した。1領域に吐出する液体の総付与量が144pLとなるように制御した。
【0112】
例えば、ハイドロゲル前駆体液9:ハイドロゲル前駆体液10の体積がそれぞれ、72pL:72pL(1:1)、36pL:108pL(1:3)、108pL:36pL(3:1)の様に、ハイドロゲル前駆体液の体積を変更して、ハイドロゲルを含む膜を形成し、紫外線照射機(ウシオ電機株式会社製、SPOT CURE SP5-250DB)で350mJ/cm2の光量を照射して硬化させた。100層同様に膜を形成した後、硬化して、ハイドロゲルより構成される3次元の立体造形物を作製した。
この立体造形物は2つ作製し、1つは作製直後に縦30mm×横30mm×高さ10mmの部位を切り出し、もう1つは3日間密閉下で保管した後に同様の大きさで切り出した。
【0113】
(比較例4)
実施例4におけるハイドロゲル前駆体液9およびハイドロゲル前駆体液10の代わりに、ハイドロゲル前駆体液13およびハイドロゲル前駆体液14を用いて、実施例4と同様の立体造形物を作製した。こちらも実施例4と同様に切り出して、圧縮応力の測定に供した。
【0114】
(評価)
図6に示すように作製した立体造形物の物性(70%圧縮時の圧縮応力)を測定した。サンプルは、実施例4および比較例4で切り出したものを、圧縮応力の測定に供した。
具体的には、万能試験機(株式会社島津製作所製、AG-I)、ロードセル1kN、1kN用圧縮治具(直径100mmの円柱状の金属)に立体造形物を挟んで、ロードセルに掛かる圧縮に対する応力をコンピュータに記録し、変位量に対する応力をプロットし、70%圧縮時の圧縮応力を測定した。
【0115】
(結果)
結果を表4に示す。
なお、体積比1:1のサンプルは、
図6における左上の部位から切り出したものである。
表4に示した結果から、2種類のハイドロゲル前駆体液の体積を調整し、比率を変更して混合製膜することにより、造形されるハイドロゲルの物性をコントロールすることができることが分かる。
また、表4から分かるように、ハイドロゲル前駆体液9及びハイドロゲル前駆体液10を用いた実施例4(ハイドロゲルの水分含有率が70質量%以上で、かつ、隣接した部位の溶媒濃度の差が5質量%以内である場合)では、経時後においても、物性(圧縮応力)の変化がほとんど認められなかった。
一方、ハイドロゲル前駆体液13およびハイドロゲル前駆体液14を用いた比較例4(隣接した部位の溶媒濃度の差が5質量%以上である場合)では、溶媒の移行により、物性(圧縮応力)の変化が大きかった。
【0116】
【0117】
(実施例5)
上述の様に作製したハイドロゲル前駆体液11およびハイドロゲル前駆体液12を用いて、物性の異なる複数の領域を有する立体造形物を作製した。
ハイドロゲル前駆体液11およびハイドロゲル前駆体液12を、インクジェットヘッド(リコーインダストリー株式会社製、MH5420)に充填し、300dpi×300dpiとなるように吐出した。吐出する液滴の液滴数を制御して質量比(ハイドロゲル前駆体液11:ハイドロゲル前駆体液12)を
図6に示すように変えてハイドロゲル造形体である立体造形物を作製した。
図6は、ハイドロゲル造形体である立体造形物における1領域のハイドロゲル前駆体液11およびハイドロゲル前駆体液12との液滴の体積を制御した混合比分布を示している。
【0118】
具体的には、第1ハイドロゲル前駆体液用、及び第2ハイドロゲル前駆体液用のヘッドを4ヘッドずつ用いてハイドロゲル前駆体液11およびハイドロゲル前駆体液12を吐出した。1領域に吐出する液体の総付与量が144pLとなるように制御した。また、液滴の体積1滴は36pLとし、1領域の液滴数が4滴になるように吐出した。
【0119】
例えば、ハイドロゲル前駆体液11:ハイドロゲル前駆体液12の液滴数の比がそれぞれ、1:1、1:3、3:1の様に、ハイドロゲル前駆体液の液滴数を変更して、ハイドロゲルを含む膜を形成し、紫外線照射機(ウシオ電機株式会社製、SPOT CURE SP5-250DB)で350mJ/cm2の光量を照射して硬化させた。100層同様に膜を形成した後、硬化して、ハイドロゲルより構成される3次元の立体造形物を作製した。
実施例4の場合と同様に、立体造形物は2つ作製し、1つは作製直後に縦30mm×横30mm×高さ10mmの部位を切り出し、もう1つは3日間密閉下で保管した後に同様の大きさで切り出した。
【0120】
(評価)
実施例4の場合と同様に、70%圧縮時の圧縮応力を測定した。
評価は、造形物作製直後と3日後に実施した。
【0121】
(結果)
結果を表5に示す。
2種類のハイドロゲル前駆体液の液滴数を調整し、比率を変更して混合製膜することにより、造形されるハイドロゲルの物性をコントロールすることができることが分かる。表5から分かるように、ハイドロゲル前駆体液11およびハイドロゲル前駆体液12を用いた実施例5(ハイドロゲルの水分含有率が70%以上で、かつ、隣接した部位の溶媒濃度の差が5質量%以内である場合)では、経時後においても、物性(圧縮応力)の変化がほとんど認められなかった。
【0122】
【0123】
(ハイドロゲル前駆体液15の作製)
減圧脱気を30分間実施したイオン交換水を純水として用いた。
まず、純水75.0質量部を撹拌させながら、層状粘土鉱物としてNa+
0.66[(Si8Mg5.35Li0.66)O20(OH)4]-
0.66の組成を有する合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)5.72質量部を少しずつ添加し、撹拌して分散液を作製した。次に、合成ヘクトライトの分散剤としてエチドロン酸(東京化成工業株式会社製)0.29質量部を添加して分散液を得た。
【0124】
次に、得られた分散液に、硬化性材料として、活性アルミナのカラムを通過させ重合禁止剤を除去したアクリロイルモルホリン(ACMO、KJケミカルズ株式会社製)10.0質量部、ジメチルアクリルアミド(DMAA、東京化成工業株式会社製)1.0質量部を添加した。更に、架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA、東京化成工業株式会社製)0.1質量部、及び界面活性剤としてLS106(花王株式会社製)0.51質量部、白色分散体(AC-RW7:大日精化製)0.6質量部を添加して混合した。
【0125】
次に、重合促進剤としてN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED、東京化成工業株式会社製)0.172質量部、光重合開始剤として4質量%Irgacure184(BASF社製)メタノール溶液(光重合開始剤液)0.60質量部添加した後に、撹拌混合した。撹拌混合の後、減圧脱気を10分間実施した。続いて、ろ過を行うことで、不純物等を除去し、均質なハイドロゲル前駆体液15を得た。
【0126】
(ハイドロゲル前駆体液16の作製)
減圧脱気を30分間実施したイオン交換水を純水として用いた。
まず、純水70.0質量部を撹拌させながら、層状粘土鉱物としてNa+
0.66[(Si8Mg5.35Li0.66)O20(OH)4]-
0.66の組成を有する合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)5.72質量部を少しずつ添加し、撹拌して分散液を作製した。次に、合成ヘクトライトの分散剤としてエチドロン酸(東京化成工業株式会社製)0.29質量部を添加して分散液を得た。
【0127】
次に、得られた分散液に、硬化性材料として、活性アルミナのカラムを通過させ重合禁止剤を除去したアクリロイルモルホリン(ACMO、KJケミカルズ株式会社製)10.0質量部、ジメチルアクリルアミド(DMAA、東京化成工業株式会社製)1.0質量部を添加した。更に、架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA、東京化成工業株式会社製)0.1質量部、及び界面活性剤としてLS106(花王株式会社製)0.51質量部、白色分散体(AC-RW7:大日精化製)0.6質量部を添加して混合した。更にグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)5.0質量部を添加して混合した。
【0128】
次に、重合促進剤としてN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED、東京化成工業株式会社製)0.172質量部、光重合開始剤として4質量%Irgacure184(BASF社製)メタノール溶液(光重合開始剤液)0.60質量部添加した後に、撹拌混合した。撹拌混合の後、減圧脱気を10分間実施した。続いて、ろ過を行うことで、不純物等を除去し、均質なハイドロゲル前駆体液16を得た。
【0129】
【0130】
(支持体形成用液体材料の作製)
1-ドデカノール(東京化成工業株式会社製)58.0質量部、ステアリルアクリレート(東京化成工業株式会社製)48.0質量部、及びIrgacure819(BASF社製)4.0質量部を撹拌し、混合溶解した。続いてろ過を行い、不純物等を除去し、最後に真空脱気を10分間実施し、均質な支持体形成用液体材料を得た。
【0131】
(実施例6)
図4に示すようなインクジェット方式の三次元プリンターに、前記ハイドロゲル前駆体液15、ハイドロゲル前駆体液10、及び支持体形成用液体材料を充填し、インクジェットヘッド(リコーインダストリー株式会社製、GEN4)4個に充填し、噴射させ、製膜を行った。
造形は、あらかじめ準備した腎臓モデルデータを基に、3Dプリント用のデータに変換し、これを基に腎臓モデルを造形した。尿管部分はハイドロゲル前駆体液15、腎実質部分(正常部)はハイドロゲル前駆体液10、腫瘍部はハイドロゲル前駆体液15とハイドロゲル前駆体液10を1:1体積比になるように混合製膜し、これらを支える部分を支持体形成用液体材料にて造形を行った。
紫外線照射機(ウシオ電機株式会社製、SPOT CURE SP5-250DB)で350mJ/cm
2の光量を照射して前記ハイドロゲル前駆体液15、ハイドロゲル前駆体液10、及び支持体形成用液体材料を硬化させながら、腎臓モデル及び支持体の形成を行った。
造形後、
図5に示すように腎臓モデルと支持体を剥離して、
図10に示すような本発明の立体造形物(腎臓モデル1)を形成した。
図10に示す腎臓モデルは腫瘍部120、正常部121及び尿管122からなっている。
【0132】
(実施例7)
実施例6において使用したハイドロゲル前駆体液15をハイドロゲル前駆体液16に、ハイドロゲル前駆体液10をハイドロゲル前駆体液12に変更した以外は、実施例6と同様に立体造形物(腎臓モデル2)を形成した。
【0133】
(評価)
上述の様に作製した腎臓モデル1および腎臓モデル2において、尿管、腎実質、腫瘍部分のヤング率を測定した。
ヤング率の測定は、柔さ計測システム(株式会社堀内電機製作所製)を用いた。
評価のタイミングは、腎臓モデル作製直後および、保管3日後である。
保管に関しては、腎臓モデルの乾燥を防ぐため、ラミジップ(株式会社 生産日本社製)に密閉して保管した。
また、この腎臓モデルは腫瘍摘出のトレーニングモデルを意識したものであるため、腎実質部分を電気デバイス(一般的電気手術器:PROG、株式会社モリタ東京製作所)にて、切れ味の試験を行った。
【0134】
(結果)
結果を表7に示す。
2種類のハイドロゲル前駆体液の体積比を調整し、混合製膜することにより、造形される腎臓モデルの物性(ヤング率)をコントロールすることができることが分かる。部位によりヤング率が異なり、また同時に着色性も変わり、部位の識別が容易になった。この状態は保管後も変化がなかった。
【0135】
【0136】
更に、電気デバイスにより腎実質部分を切り、腫瘍を摘出する操作を行った。
腎臓モデル1、2共に腎実質部分が切開され、腫瘍を取り除くことが出来た。
しかしながら、腎臓モデル1に比べ腎臓モデル2は、切れ味の点で多少劣るものであった。
【0137】
(ハイドロゲル前駆体液17の作製)
減圧脱気を30分間実施したイオン交換水を純水として用いた。
まず、純水70.0質量部を撹拌させながら、層状粘土鉱物としてNa+
0.66[(Si8Mg5.35Li0.66)O20(OH)4]-
0.66の組成を有する合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)5.72質量部を少しずつ添加し、撹拌して分散液を作製した。
次に、合成ヘクトライトの分散剤としてエチドロン酸(東京化成工業株式会社製)0.29質量%を添加して分散液を得た。
次に、得られた分散液に、硬化性材料として、活性アルミナのカラムを通過させ重合禁止剤を除去したジメチルアクリルアミド(DMAA、東京化成工業株式会社製)14質量部を添加した。更に、架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA、東京化成工業株式会社製)0.065質量部を添加した。乾燥防止剤として有機溶媒であるグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)5.0質量部を添加して混合した。
次に、重合促進剤としてN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED、東京化成工業株式会社製)0.172質量部添加した後に、撹拌混合した。撹拌混合の後、減圧脱気を10分間実施した。続いて、ろ過を行うことで、不純物等を除去し、均質なハイドロゲル前駆体液17を得た。
【0138】
(ハイドロゲル前駆体液18、19の作製)
ハイドロゲル前駆体液17と同じ手順にて、表8に記載の通り処方量を変更し、ハイドロゲル前駆体液18、19を作製した。表8に記載した各材料に関する数値は質量部を表す。
【0139】
(ハイドロゲル前駆体液20、21の作製)
ハイドロゲル前駆体液17と同じ手順にて架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)から、ジエチレングリコールジアクリレート(2EGA、東京化成工業株式会社製)に置き換え、表8に記載の通り処方量を変更し、ハイドロゲル前駆体液20、21を作製した。表8に記載した各材料に関する数値は質量部を表す。
【0140】
【0141】
(実施例8)
10質量部のハイドロゲル前駆体液17と、実施例1で用いた1.1質量部の硬化液を撹拌混合して、スチロール角形ケース1型(アズワン社製)に2時間密封硬化して、内側ハイドロゲル(23)を作製した(
図9参照)。
40質量部のハイドロゲル前駆体液18と、4.4質量部の硬化液の撹拌混合したものを準備し、内側ハイドロゲル(23)と共にスチロール角形ケース3型(アズワン社製)に2時間密封硬化して、外側ハイドロゲル(24)を作製し、
図9に示すような内側ハイドロゲル(23)を内包したハイドロゲル構造体7(25)を作製した。
【0142】
(実施例9)
実施例8におけるハイドロゲル前駆体液18をハイドロゲル前駆体液19に変更した以外は、実施例8と同様にハイドロゲル構造体8を作製した。
【0143】
(実施例10)
実施例8におけるハイドロゲル前駆体液18をハイドロゲル前駆体液20に変更した以外は、実施例8と同様にハイドロゲル構造体9を作製した。
【0144】
(実施例11)
実施例8におけるハイドロゲル前駆体液18をハイドロゲル前駆体液21に変更した以外は、実施例8と同様にハイドロゲル構造体10を作製した。
【0145】
(評価)
上述の様に作製したハイドロゲル構造体7~10において、外側ハイドロゲル(23)及び内側ハイドロゲル(24)のヤング率を測定した。結果を表9に示す。
ヤング率の測定は、柔さ計測システム(株式会社堀内電機製作所製)を用いた。
評価のタイミングは、ハイドロゲル造形体作製直後および、保管3日後である。
保管に関しては、ハイドロゲルの乾燥を防ぐため、ラミジップ(株式会社 生産日本社製)に密閉して保管した。
また、目視にてハイドロゲル造形体の形状について確認を行った。結果を表9に示す。
【0146】
(結果)
表9から分かるように、実施例8~11(ハイドロゲルの水分含有率が70質量%以上で、かつ、隣接した部位の溶媒濃度の差が5質量%以内である場合)では、経時後においても、物性(ヤング率)の変化がほとんど認められず、また形状の変化も認められなかった。
また、多官能重合性モノマー(架橋剤)の量、および種類を変更した場合には、物性値(ヤング率)を大きく変化させることが可能であることが分かる。
【0147】
【符号の説明】
【0148】
9 造形装置
10 造形体用インクジェットヘッド
11 支持体用インクジェットヘッド
12 造形体用インクジェットヘッド
13 UV光照射機
14 造形体支持基板
15 ステージ
16 平滑化部材
17 立体造形物
18 支持体(サポート材)
21 第1のハイドロゲル前駆体液
22 第2のハイドロゲル前駆体液
23 内側のハイドロゲル
24 外側のハイドロゲル
25 ハイドロゲル構造体
101 ハイドロゲルからなる立体造形物
102 水分含有率の少ない部位
103 水分含有率の多い部位
120 腫瘍部
121 正常部
122 尿管
【先行技術文献】
【特許文献】
【0149】
【文献】特許第5408207号公報
【文献】米国特許第5059266号明細書
【文献】米国特許第6658314号明細書
【文献】特開2017-105154号公報