IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東ソー株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】環状ウレア化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 233/34 20060101AFI20240222BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240222BHJP
【FI】
C07D233/34
C07B61/00 300
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020005124
(22)【出願日】2020-01-16
(65)【公開番号】P2021113158
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】冨重 圭一
(72)【発明者】
【氏名】田村 正純
(72)【発明者】
【氏名】迫田 孝太郎
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 学
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109847806(CN,A)
【文献】Green Chemistry,2013年,Vol.15, No.6,pp.1567-1577
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2)で示される環状ウレア化合物の製造方法であって、酸化セリウム(IV)のみからなる金属酸化物触媒存在下、下記一般式(1)で示されるジアミン化合物を60~100重量%含む物質と二酸化炭素を混合し、加熱処理することを特徴とする、環状ウレア化合物の製造方法。
【化1】
(一般式(1)及び一般式(2)中、R~Rは、各々独立して、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を示す。なお、一般式(1)におけるRと一般式(2)におけるRは同一であり、R~Rについても同様である。nは0又は1である。なお、一般式(1)におけるnと一般式(2)におけるnは同一である。)
【請求項2】
前記ジアミン化合物を80~100重量%含む前記物質を用いることを特徴とする、請求項1に記載の環状ウレア化合物の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(1)及び前記一般式(2)において、R~Rが全て水素原子であり、nが0であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の環状ウレア化合物の製造方法。
【請求項4】
前記ジアミン化合物を60~100重量%含む前記物質と前記二酸化炭素を0.3~2MPa(ゲージ圧)の加圧状態で混合及び加熱処理することを特徴とする、請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の環状ウレア化合物の製造方法。
【請求項5】
前記ジアミン化合物を60~100重量%含む前記物質と前記二酸化炭素を130~250℃の温度で加熱処理することを特徴とする、請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の環状ウレア化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ウレア化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の原因の一つとして、温室効果ガスの排出が挙げられる。温室効果ガスとしては、二酸化炭素(CO)、メタン(CH)、フロン類(CFCs等)等が挙げられる。温室効果ガスの中でも、二酸化炭素の影響が最も大きく、二酸化炭素(火力発電所、製鉄所等のプラントから排出される二酸化炭素等)の削減が緊急の課題となっている。
【0003】
前記課題の解決策の一つとして、例えば二酸化炭素と、ジアミン化合物を高温高圧下で反応させて、環状ウレア化合物を合成する方法が報告されている(非特許文献1)。
【0004】
また、別の解決策として、溶媒及び酸化セシウム存在下、二酸化炭素とジアミン化合物を反応させて、環状ウレア化合物を合成する方法が報告されている(非特許文献2)。
【0005】
非特許文献1や非特許文献2で報告される環状ウレア化合物の合成において、プラントから排出される二酸化炭素を原料として使用すれば、二酸化炭素の削減が期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Green Chemistry, 12, 1811-1816(2010)
【文献】Green Chemistry, 15, 1567-1577(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の非特許文献1の環状ウレア化合物製造方法については、反応条件が10MPaと高圧であったため、工業的な実施は困難であった。
【0008】
上記の非特許文献2の環状ウレア化合物製造方法については、環状ウレア化合物を製造した後に残存する反応溶媒の留去に多量のエネルギーを要する点で工業的でないという課題があった。
【0009】
本発明は、環状ウレア化合物の製造方法に係る新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、触媒として金属酸化物を加えて反応を行うことで、下記の環状ウレア化合物が効率よく得られるという知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に示す化合物、及びその製造方法に係る。
[1] 下記一般式(2)で示される環状ウレア化合物の製造方法であって、金属酸化物触媒存在下、下記一般式(1)で示されるジアミン化合物を60~100重量%含む物質と二酸化炭素を混合し、加熱処理することを特徴とする、環状ウレア化合物の製造方法。
【化1】

(一般式(1)及び一般式(2)中、R~Rは、各々独立して、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を示す。なお、一般式(1)におけるRと一般式(2)におけるRは同一であり、R~Rについても同様である。nは0又は1である。なお、一般式(1)におけるnと一般式(2)におけるnは同一である。)
[2] 前記金属酸化物触媒が、酸化セリウム(IV)であることを特徴とする、[1]に記載の環状ウレア化合物の製造方法。
[3] 前記ジアミン化合物を80~100重量%含む前記物質を用いることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の環状ウレア化合物の製造方法。
[4] 前記一般式(1)及び前記一般式(2)において、R~Rが全て水素原子であり、nが0であることを特徴とする、[1]乃至[3]のいずれか一項に記載の環状ウレア化合物の製造方法。
[5] 前記ジアミン化合物を60~100重量%含む前記物質と前記二酸化炭素を0.3~2MPa(ゲージ圧)の加圧状態で混合及び加熱処理することを特徴とする、[1]乃至[4]のいずれか一項に記載の環状ウレア化合物の製造方法。
[6] 前記ジアミン化合物を60~100重量%含む物質と前記二酸化炭素を130~250℃の温度で加熱処理することを特徴とする、[1]乃至[5]のいずれか一項に記載の環状ウレア化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、環状ウレア化合物の製造方法に係る新規な技術を提供することができる。
【0013】
また、本発明の一実施形態によれば、従来公知の製造方法に比べて、低い圧力で環状ウレア化合物を製造することができ、また、後処理(精製処理)で多量の溶媒留去が不要になるため、省エネルギーな工業プロセスを確立することができる。このため、本発明の一実施形態によれば、従来公知の製造方法に比べて、低エネルギーでの二酸化炭素の有効利用が可能となり、環境負荷影響を低減することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明は、環状ウレア化合物の製造方法であり、金属酸化物触媒存在下、少なくともジアミン化合物を60~100重量%含む物質と二酸化炭素とを混合し、加熱処理することを特徴とする。
【0016】
本発明のジアミン化合物と環状ウレア化合物は、それぞれ、下記の一般式(1)及び(2)で示される。以下の説明では、下記一般式(1)で示されるジアミン化合物を、ジアミン化合物(1)とも称し、下記一般式(2)で示される環状ウレア化合物を、環状ウレア化合物(2)とも称する。
【0017】
【化2】

(一般式(1)及び一般式(2)中、R~Rは、各々独立して、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を示す。なお、一般式(1)におけるRと一般式(2)におけるRは同一であり、R~Rについても同様である。また、nは0または1である。なお、一般式(1)におけるnと一般式(2)におけるnは同一である。)
【0018】
ここで、上記一般式(1)及び一般式(2)において、nが0である場合、ジアミン化合物(1)は、下記一般式(1’)で示されるジアミン化合物となり、環状ウレア化合物(2)は、下記一般式(2’)で示される環状ウレア化合物となる。
【0019】
【化3】


(一般式(1’)及び一般式(2’)中、R~Rは、一般式(1)及び一般式(2)におけるR~Rと同義である。)
【0020】
本発明に用いられるジアミン化合物(1)は、市販のものでもよいし、公知の方法により合成したものでもよく、特に限定されない。
【0021】
~Rにおける炭素数1~4のアルキル基については、特に限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基等を挙げることができる。
【0022】
ジアミン化合物(1)については、反応性の観点から、R~Rが全て水素原子であり、尚且つnが0であるものが好ましい。即ち、ジアミン化合物(1)は、エチレンジアミンが好ましい。
【0023】
本発明のジアミン化合物(1)の純度としては、特に限定はないが、環状ウレア化合物(2)製造後の精製工程での精製のしやすさを考えると、95%以上が好ましく、98%以上が特に好ましい。
【0024】
ジアミン化合物(1)を含む物質について、ジアミン化合物(1)の含有量は、ジアミン化合物(1)を含む物質100重量%に対し、60~100重量%であり、常温常圧液体物質であることが好ましい。ここで、常温常圧液体物質とは、常温(15℃)及び常圧(大気圧)において液体の物質を指す。
【0025】
ジアミン化合物(1)を60~100重量%含む物質において、ジアミン化合物(1)以外に当該物質に含まれていてもよい成分としては、アミンや二酸化炭素に対して不可逆反応を起こさない成分が好ましく、特に限定するものではないが、例えば、溶媒や希釈剤を例示することができる。当該溶媒や希釈剤は、常温常圧液体であってもよく、一般式(1)で示されるジアミン化合物を60~100重量%含む物質中で溶解するものであれば常温常圧固体であってもよい。
【0026】
このような溶媒や希釈剤としては、特に限定するものではないが、例えば、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert-ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等)、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、トルエン、キシレン、ピリジン等を挙げることができる。なお、反応性の観点から、溶媒は、アルコールが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、又はイソプロパノールがより好ましい。
【0027】
なお、本発明は、省エネルギーに優れる点で、一般式(1)で示されるジアミン化合物を65~100重量%含む物質を用いることが好ましく、一般式(1)で示されるジアミン化合物を80~100重量%含む物質を用いることがより好ましく、一般式(1)で示されるジアミン化合物を90~100重量%含む物質を用いることがよりさらに好ましく、実質100重量%の一般式(1)で示されるジアミン化合物を用いることが特に好ましい。
【0028】
また、上記の通り溶媒や希釈剤を用いる場合、本願明の一般式(1)で示されるジアミン化合物を60~100重量%含む物質として、一般式(1)で示されるジアミン化合物を65重量%以上100重量%未満で含むアルコール溶液を用いることが好ましく、一般式(1)で示されるジアミン化合物を80重量%以上100重量%未満で含むアルコール溶液を用いることがより好ましく、一般式(1)で示されるジアミン化合物を90重量%以上100重量%未満で含むアルコール溶液を用いることがよりさらに好ましい。なお、溶媒や希釈剤を用いない場合には、本願明の一般式(1)で示されるジアミン化合物を60~100重量%含む物質として、実質100重量%の一般式(1)で示されるジアミン化合物を用いることが特に好ましい。
【0029】
本発明の二酸化炭素は、一般公知の方法で入手できるものを用いることができ、特に限定するものではないが、例えば、市販の二酸化炭素ガス、炭化水素の水蒸気改質ガスから分離した二酸化炭素、燃焼排ガスから分離した二酸化炭素、石灰炉で得られる二酸化炭素等を用いることができるが、温室効果ガスの排出削減の点で、特に燃焼排ガスから分離した二酸化炭素を用いることが好ましい。
【0030】
本発明の二酸化炭素の純度としては、特に限定はないが、反応のしやすさを考えると、95%以上が好ましく、98%以上が特に好ましい。
【0031】
本発明において、二酸化炭素の使用量は、特に限定するものではないが、反応性を向上させる観点から、ジアミン化合物化合物(1) 1molに対し2~30molであることが好ましく、より好ましくは4~10molである。
【0032】
本発明に用いられる金属酸化物触媒としては、特に限定されるものではないが、例えば酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化ランタン(III)、酸化チタン(IV)、酸化ジルコニウム(IV)、酸化セリウム(IV)を挙げることができる。中でも反応性の観点から、酸化セリウム(IV)が好ましい。当該酸化セリウム(IV)については、BET表面積60~90m/gであるものが更に好ましく、特に限定するものではないが、例えば、非特許文献2(Green Chemistry, 15, 1567-1577(2013))に記載の方法により、第一稀元素社製の酸化セリウム(IV)HSグレードを600℃で焼成して得られるものを挙げることができる。
【0033】
本発明において、金属酸化物触媒の使用量は、一般的な範囲であれば特に限定するものではないが、反応速度および経済性の観点で、通常、ジアミン化合物(1) 1molに対し0.05~0.4molであることが好ましく、より好ましくは0.1~0.3molである。
【0034】
本発明の製造方法は、金属酸化物触媒の存在下において、少なくとも、上述した一般式(1)で示されるジアミン化合物を60~100重量%含む物質と二酸化炭素とを混合し、加熱処理することを含む。金属酸化物触媒の存在下で、一般式(1)で示されるジアミン化合物を60~100重量%含む物質と二酸化炭素とを混合し、加熱処理することで、後述する反応が進行し、環状ウレア化合物(2)が製造される。
【0035】
一般式(1)で示されるジアミン化合物を60~100重量%含む物質と二酸化炭素の混合は、一般式(1)で示されるジアミン化合物を60~100重量%含む物質中のジアミン化合物化合物(1)と二酸化炭素が接触するような条件で行われればよく、混合条件については特に限定されない。また、ジアミン化合物化合物(1)と二酸化炭素の形態(気体、個体、液体)も、特に限定されるものではないが、反応性の観点からは、ジアミン化合物(1)は液体、二酸化炭素は気体の状態で混合することが好ましく、ジアミン化合物(1)と二酸化炭素を加圧状態で混合することが好ましい。
【0036】
一般式(1)で示されるジアミン化合物を60~100重量%含む物質と二酸化炭素を金属酸化物触媒の存在下で混合し、加熱処理することによって進行する反応は、前段部分と後段部分に分けられる。すなわち、前段部分は、二酸化炭素がジアミン化合物(1)に付加して下記一般式(3)で示されるカルバミン酸中間体(以下、「カルバミン酸中間体(3)」ともいう)を生成する段階である。なお、前段部分は、ジアミン化合物(1)と二酸化炭素を金属酸化物触媒の存在下で混合することで進行させることができる。また、後段部分は、カルバミン酸中間体(3)が金属酸化物触媒の作用を受けて環化反応して環状ウレア化合物(2)を生成する段階である。なお、後段部分は、ジアミン化合物(1)と二酸化炭素を金属酸化物触媒の存在下で混合して得られた混合物を加熱処理することで進行させることができる。
【0037】
【化4】

(一般式(3)中、R~Rは、各々独立して、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を示す。なお、なお、一般式(3)におけるRは一般式(1)及び式(2)におけるRと同一であり、R~Rについても同様である。また、nは0または1である。なお、一般式(3)におけるnは一般式(1)及び式(2)におけるnと同一である。)
【0038】
本発明の前段部分の反応温度、つまり、前段部分の反応が進行する際の混合条件(温度)は、反応速度およびエネルギーコストの点で、-20~150℃であることが好ましく、より好ましい反応温度は0℃~100℃である。
【0039】
本発明の前段部分の反応圧力、つまり、前段部分の反応が進行する際の混合条件(圧力)は、反応速度およびエネルギーコストの点で、0.3~2MPa(ゲージ圧)であることが好ましく、より好ましい反応圧力は0.5~1.5MPa(ゲージ圧)である。なお、ゲージ圧とは、大気圧を0MPaとした圧力である。
【0040】
本発明の前段部分の反応時間、つまり、前段部分の反応が進行する際の混合条件(時間)は、反応収率及び設備運用コストの点で、0.2~48時間であることがこのましく、より好ましい反応時間は0.5~24時間である。
【0041】
本発明の後段部分の反応温度、つまり、後段部分の反応が進行する際の加熱処理条件(温度)は、反応速度およびエネルギーコストの点で、130~250℃であることが好ましく、より好ましい反応温度は140℃~200℃である。
【0042】
本発明の後段部分の反応圧力、つまり、後段部分の反応が進行する際の加熱処理条件(圧力)は、反応速度およびエネルギーコストの点で、0.3~2MPa(ゲージ圧)であることが好ましく、より好ましい反応圧力は0.5~1.5MPa(ゲージ圧)である。
【0043】
本発明の後段部分の反応時間、つまり、後段部分の反応が進行する際の加熱処理条件(時間)は、反応収率及び設備運用コストの点で、6~120時間であることが好ましく、より好ましい反応時間は12~48時間である。
【0044】
上記の前段部分の反応と後段部分の反応については、混合条件(圧力、反応時間)及び加熱処理条件(温度、圧力、反応時間)を反応毎に設定して別々に行われてもよいが、混合条件(圧力、反応時間)及び加熱処理条件(温度、圧力、反応時間)を統一して一機同時的に行うことが好ましい。このような本願発明の製造方法においては、反応速度およびエネルギーコストの点で、0.3~2MPa(ゲージ圧)の加圧状態で混合及び加熱処理を行うことが好ましく、0.5~1.5MPa(ゲージ圧)の加圧状態で混合及び加熱処理を行うことがより好ましく、130~250℃の温度で加熱処理を行うことが好ましく、140~200℃の温度で加熱処理を行うことがより好ましい。
【0045】
なお、本反応では非特許文献2(Green Chemistry, 15, 1567-1577(2013))に記載の方法のように、2-プロパノール、メタノール、エタノール、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン等の溶媒を用いても環状ウレア化合物(2)を得ることができるが、非特許文献2の様に多量の溶媒を用いると、環状ウレア化合物との分離にエネルギー(一般的には蒸留の為の熱エネルギー)が必要となり、このエネルギーを確保するために化石燃料を燃やせば二酸化炭素を生成する可能性があり、二酸化炭素削減プロセスとしての意味が薄くなるため、溶媒添加量は少ないことが好ましく、実質無溶媒で行うことが最も好ましい。
【0046】
本発明における反応方式としては、流通式(連続的に原料を投入し、連続的に反応を行い、連続的に生成物を回収していく方式)、回分式(原料投入、反応、生成物回収の各工程を順番に行う方式)の何れを採用しても良い。
【0047】
一般式(1)で示されるジアミン化合物を60~100重量%含む物質と二酸化炭素を混合し、加熱処理して上述した反応が完結した後は、蒸留等の精製操作により目的の環状ウレア化合物(2)を精製することが好ましい。例えば、蒸留精製する際は、蒸留効率の悪化を防止するため、金属酸化物触媒を事前に除去しておくことが好ましい。金属酸化物触媒を事前に除去する方法として、特に限定するものではないが、例えば、反応操作終了後の反応液に対してろ過、遠心分離等の操作によって金属酸化物触媒を除去する第1の方法が挙げられる。また、前記の反応液から未反応のジアミン化合物(1)を留去した後、遠心分離操作によって金属酸化物触媒を除去する第2の方法も挙げられる。第1の方法を用いる場合、環状ウレア化合物(2)は、金属酸化物触媒を除去した後、未反応のジアミン化合物(1)を留去することによって得られる。
【0048】
環状ウレア化合物(2)の蒸留条件としては特に限定されないが、通常50℃~150℃、圧力は5mmHg~760mmHgの範囲で行われる。なお、回収した原料ジアミン化合物(1)は、再び環状ウレア化合物(2)を製造する原料として使用しても差支えない。その際、多少の環状ウレア化合物(2)を含んでもよい。反応終了後に残存している原料ジアミン化合物(1)が少ないほど、回収に掛かるエネルギーコストを低減することができる。
【実施例
【0049】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
実施例1
本実施例では、一般式(1)で示されるジアミン化合物を60~100重量%含む物質としてエチレンジアミン(東ソー社製)6.0g(0.10mol)を用いた。この一般式(1)で示されるジアミン化合物を60~100重量%含む物質及び酸化セリウム(IV)(第一希元素社製のHSグレードのものを600℃で3時間焼成したもの)2.06g(0.012mol)を200mLオートクレーブに入れ、二酸化炭素(0.4mol(関西商工社製))でオートクレーブ内を置換(0.9MPaで加圧後脱圧、を5回繰り返す)した後、二酸化炭素の圧力を1.0MPaまで上げオートクレーブ内を10時間25℃で攪拌(混合)した。攪拌時は、エチレンジアミンの形態は液体であり、二酸化炭素の形態は気体であった。
【0051】
オートクレーブ内を脱圧した後、再び密閉し、170℃まで加熱して24時間攪拌した。この時のオートクレーブ内の圧力は0.9MPaであり、エチレンジアミンの形態は液体であり、二酸化炭素の形態は気体であった。オートクレーブを室温まで冷却した後、内容物(液体)をNMRで分析した。NMRによる分析は、日本電子株式会社製JNM-ECZ400(1H NMR、400MHz)を用いて行った。
【0052】
NMRによる分析の結果、環状ウレア化合物(2)である2-イミダゾリジノンが3.79g(0.044mol)生成していることを確認した。下記式(1)から求められる2-イミダゾリジノンの収率は、44%であった。

(上記式(1)において、Xは2-イミダゾリジノンの収率(%)を示し、Yは生成した2-イミダゾリジノンのモル数(実施例1においては、0.044mol)を示し、Zは投入したエチレンジアミン(実施例1においては、0.10mol)から生成可能な2-イミダゾリジノンの最大モル数(実施例1においては、0.10mol)を示す)。
【0053】
実施例2
実施例1において、エチレンジアミン(東ソー社製)6.0g(0.10mol)の代わりに、エチレンジアミン 4.0g(0.067mol)及びイソプロパノール 1.0g(0.033mol)の組成物(ジアミン含有量80.0重量%)を一般式(1)で示されるジアミン化合物を60~100重量%含む物質として用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。24時間撹拌後のオートクレーブ内の圧力は1.2MPaであった。また、10時間の攪拌及び24時間の攪拌時において、エチレンジアミンの形態は液体であり、二酸化炭素の形態は気体であり、イソプロパノールの形態は液体ないしは気体であった。実施例1と同様の条件で、内容物(液体)をNMRで分析したところ、2-イミダゾリジノンが2.70g(0.031mol)生成していることを確認した。上記式(1)から求められる2-イミダゾリジノンの収率は、47%であった。
【0054】
比較例1
実施例1において、エチレンジアミン(東ソー社製)6.0g(0.10mol)の代わりに、エチレンジアミン 3.0g(0.05mol)及びイソプロパノール 3.0g(0.05mol)の組成物(ジアミン含有量50重量%)を一般式(1)で示されるジアミン化合物を60~100重量%含む物質として用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。24時間撹拌後のオートクレーブ内の圧力は1.4MPaであった。また、10時間の攪拌及び24時間の攪拌時において、エチレンジアミンの形態は液体であり、二酸化炭素の形態は気体であり、イソプロパノールの形態は液体ないしは気体であった。実施例1と同様の条件で、内容物(液体)をNMRで分析したところ、2-イミダゾリジノンが0.43g(0.005mol)生成していることを確認した。上記式(1)から求められる2-イミダゾリジノンの収率は、10%であった。
【0055】
比較例2
実施例1において、エチレンジアミン(東ソー社製)6.0g(0.10mol)の代わりに、エチレンジアミン 0.72g(0.012mol)及びイソプロパノール 5.4g(0.090mol)の組成物(ジアミン含有量12重量%)を一般式(1)で示されるジアミン化合物を60~100重量%含む物質として用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。24時間撹拌後のオートクレーブ内の圧力は1.8MPaであった。また、10時間の攪拌及び24時間の攪拌時において、エチレンジアミンの形態は液体であり、二酸化炭素の形態は気体であり、イソプロパノールの形態は液体ないしは気体であった。実施例1と同様の条件で、内容物(液体)をNMRで分析したところ、2-イミダゾリジノンが0.40g(0.0047mol)生成していることを確認した。上記式(1)から求められる2-イミダゾリジノンの収率は、39%であった。
【0056】
比較例3
実施例1において、エチレンジアミン(東ソー社製)6.0g(0.10mol)の代わりに、エチレンジアミン 0.05g(0.0008mol)及びイソプロパノール 5.5g(0.083mol)の組成物(ジアミン含有量0.90重量%)を一般式(1)で示されるジアミン化合物を60~100重量%含む物質として用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。24時間撹拌後のオートクレーブ内の圧力は2.0MPaであった。また、10時間の攪拌及び24時間の攪拌時において、エチレンジアミンの形態は液体であり、二酸化炭素の形態は気体であり、イソプロパノールの形態は液体ないしは気体であった。実施例1と同様の条件で、内容物(液体)をNMRで分析したところ、2-イミダゾリジノンが0.03g(0.00035mol)生成していることを確認した。上記式(1)から求められる2-イミダゾリジノンの収率は、44%であった。
【0057】
【表1】
【0058】
上記の通り、比較例3では、環状ウレア化合物(2)が収率44%で得られるが、比較例2や比較例1のように、溶媒量を低減させると急激に反応収率が低下した。しかしながら、驚くべきことに、溶媒量を更に少なくして、ジアミン化合物(1)濃度を60重量%以上としたところ、改めて高い環状ウレア化合物(2)収率が得られることが判明した。