(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】衣服用分水システム、水冷衣服
(51)【国際特許分類】
A41D 13/005 20060101AFI20240222BHJP
A41D 31/12 20190101ALI20240222BHJP
【FI】
A41D13/005 103
A41D31/12
(21)【出願番号】P 2020073458
(22)【出願日】2020-04-16
【審査請求日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2019111601
(32)【優先日】2019-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年5月8日に株式会社中電工本社で販売宣伝用チラシの配布により公開、令和1年6月5日に福山市役所・情報発信課で販売宣伝用プレスリリース資料初版の提出により公開、令和1年6月13日に株式会社サンエス・技術棟で新聞取材及び資料の提供により公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000130732
【氏名又は名称】株式会社サンエス
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】林 平造
(72)【発明者】
【氏名】小林 真澄
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 圭
(72)【発明者】
【氏名】篠田 亜美
(72)【発明者】
【氏名】橘高 薫
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-60052(JP,A)
【文献】特開平6-105736(JP,A)
【文献】登録実用新案第3163781(JP,U)
【文献】特開平1-293102(JP,A)
【文献】実開平4-33927(JP,U)
【文献】特開平3-101814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/00-13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分水管と、前記分水管に送水する送水管とを有する衣服用分水システムであって、
前記分水管は、多孔質中空糸膜であり、且つ、材質が親水性材料で
あり、
前記分水管の両端の端部開口部が、前記送水管の端部開口部と連結している、衣服用分水システム。
【請求項2】
前記多孔質中空糸膜の、内径が100~1000μmであり、孔径が0.01~5μmであり、かつ前記分水管が下記条件Aを満たす、請求項1に記載の衣服用分水システム。
条件A:長さ20cmの前記分水管に、一方の端部から他方の端部へ流量35mL/分で通水した際の前記他方の端部における膜面流束をV
20(cm
3/cm
2/分)、前記一方の端部における膜面流束をV
0(cm
3/cm
2/分)とした時、V
0/V
20≦3.0、且つ、V
20≧0.5である。
【請求項3】
前記多孔質中空糸膜が溶融紡糸後に延伸されたものであり、前記分水管が下記条件Bを満たす、請求項1又は2に記載の衣服用分水システム。
条件B:長さ400mmの前記分水管を、エタノールに10分間浸漬した後、純水に10分間浸漬し、60℃の雰囲気中で30分間乾燥した後、室温で5分間冷却する浸漬処理を行い、処理後の前記分水管の長さをL1(単位:mm)とするとき、下記式(I)で算出される収縮率が5%以下である。
収縮率=(400-L1)/400×100 ・・・(I)
【請求項4】
前記分水管の材質が、ポリオレフィン系樹脂である、請求項1~3のいずれか一項に記載の衣服用分水システム。
【請求項5】
前記分水管の引張強度が、5N/filament以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の衣服用分水システム。
【請求項6】
さらに、給水容器と、前記給水容器から前記送水管へ水を供給するポンプとを備える、請求項1~
5のいずれか一項に記載の衣服用分水システム。
【請求項7】
衣服本体に、請求項1~
6のいずれか一項に記載の衣服用分水システムが取り付けられている、水冷衣服。
【請求項8】
前記衣服本体を構成する材料が、吸水性繊維と疎水性繊維で構成された生地を含む、請求項
7に記載の水冷衣服。
【請求項9】
前記吸水性繊維が、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、アクリル及び吸水加工されたポリエステルからなる群より選ばれる1種以上である、請求項
8に記載の水冷衣服。
【請求項10】
前記疎水性繊維が、ポリエステル、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選ばれる1種以上である、請求項
8又は
9に記載の水冷衣服。
【請求項11】
前記生地を構成する繊維が、総繊度33dtex~330dtex、且つ、単繊維繊度0.3dtex~4.0dtexのマルチフィラメントである、請求項
8~
10のいずれか一項に記載の水冷衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衣服用分水システム、前記衣服用分水システムを備えた水冷衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
身体を冷却できる衣服として、外気を服の内側に取り込む送風ファンを備えた送風機付き衣服と、必要に応じて水で濡らすことができるインナーとを組み合わせた空調服が提案されている。濡れたインナーに送風ファンからの風を当て、気化熱を利用して身体を冷却しようとするものである。
特許文献1には、外周面に微細孔を有するホースの複数本を、一端部開口が上側、他端部開口が下側となるように蛇行させた状態でインナーの外側面に固定し、これらのホースの一端部開口から水を供給してインナーを濡らす方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では,製品としての完成度を高めるためには、細部にわたって、さらに検討することが求められる。
本発明は、身体の冷却効果を有する水冷衣服に用いられる衣服用分水システム、前記衣服用分水システムを備えた水冷衣服の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の態様を有する。
[1] 分水管と、前記分水管に送水する送水管とを有する衣服用分水システムであって、前記分水管は、多孔質中空糸膜であり、且つ、材質が親水性材料である、衣服用分水システム。
[2] 前記分水管が下記条件Aを満たす、[1]の衣服用分水システム。
条件A:長さ20cmの前記分水管に、一方の端部から他方の端部へ流量35mL/分で通水した際の前記他方の端部における膜面流束をV20(cm3/cm2/分)、前記一方の端部における膜面流束をV0(cm3/cm2/分)とした時、V0/V20≦3.0、且つ、V20≧0.5である。
[3] 前記分水管が下記条件Bを満たす、[1]又は[2]に記載の衣服用分水システム。
条件B:長さ400mmの前記分水管を、エタノールに10分間浸漬した後、純水に10分間浸漬し、60℃の雰囲気中で30分間乾燥した後、室温で5分間冷却する浸漬処理を行い、処理後の前記分水管の長さをL1(単位:mm)とするとき、下記式(I)で算出される収縮率が5%以下である。
収縮率=(400-L1)/400×100 ・・・(I)
[4] 前記分水管の材質が、ポリオレフィン系樹脂である、[1]~[3]のいずれかの衣服用分水システム。
[5] 前記分水管の引張強度が、5N/filament以上である、[1]~[4]のいずれかの衣服用分水システム。
[6] 前記分水管の、最小曲げ半径が10mm以下である、[1]~[5]のいずれかの衣服用分水システム。
[7] 前記分水管の両端の端部開口部が、前記送水管の端部開口部と連結している、[1]~[6]のいずれかの衣服用分水システム。
[8] さらに、給水容器と、前記給水容器から前記送水管へ水を供給するポンプとを備える、[1]~[7]のいずれかの衣服用分水システム。
[9] 衣服本体に、[1]~[8]のいずれかの衣服用分水システムが取り付けられている、水冷衣服。
[10] 前記衣服本体を構成する材料が、吸水性繊維と疎水性繊維で構成された生地を含む、[9]の水冷衣服。
[11] 前記吸水性繊維が、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、アクリル及び吸水加工されたポリエステルからなる群より選ばれる1種以上である、[10]の水冷衣服。
[12] 前記疎水性繊維が、ポリエステル、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選ばれる1種以上である、[10]又は[11]の水冷衣服。
[13] 前記生地を構成する繊維が、総繊度33dtex~330dtex、且つ、単繊維繊度0.3dtex~4.0dtexのマルチフィラメントである、[10]~[12]のいずれかの水冷衣服。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、身体の冷却効果を有する水冷衣服に用いられる衣服用分水システム、身体の冷却効果を有する水冷衣服が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態に係る空調服の一部破断正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る水冷衣服を裏返した状態の正面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る衣服用分水システムの一部の拡大断面図である。
【
図5】
図4に示す構成を形成する方法を説明するための拡大断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る水冷衣服における、分水管の取り付け状態を示す斜視図である。
【
図7】参考実施例および参考比較例の測定結果を示すグラフである。
【
図8】実施例および比較例の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は本実施形態の空調服1を示す概略構成図である。
本実施形態の空調服1は、送風機付き衣服2と、送風機付き衣服2内にインナーとして着用される水冷衣服(以下、単にインナーという)3とを備える。
図2はインナー3を裏返した状態の正面図であり、
図3はその背面図である。インナー3は、衣服本体(以下、インナー本体という)31と、インナー本体31に一体的に取り付けられた衣服用分水システム(以下、単に分水システムという)4とを備える。
分水システム4は、水が滲み出す分水管41と、分水管41に送水する送水管42を備える。
本明細書において、インナー本体31の表面と裏面について、インナー本体31を着用したときに外側となる面を表面、内側(身体側)となる面を裏面という。
インナー本体31の身頃の裏面に、複数本の分水管41が蛇行した状態で配置されている。また、インナー本体31の側部の裏面に、送水管42が配置されている。
なお、本実施形態において、分水管41及び送水管42は、インナー本体31の裏面上に配置されているが、インナー本体31の表面上に配置してもよい。
【0009】
送水管42としては合成樹脂、ゴムなどの可撓性を有する材料からなるチューブが用いられる。送水管42はポンプ43を介して給水容器44に着脱可能に連結できるように構成されている。
具体的には、送水管42の一端部にポンプ43が連結され、ポンプ43には蓋45を貫通する吸入管46が連結されている。吸入管46を給水容器44内に差し込んだ状態で、蓋45を給水容器44の開口部に着脱自在に装着できる構成となっている。給水容器44としては、例えば市販の飲料水容器を使用できる。
またポンプ43には、電源47及びスイッチ48が接続されている。
【0010】
送水管42は、インナー本体31の裾側から、脇部及び肩部に沿って首部へ伸び、後ろ身頃の首部において第1の分岐部42aを介して左右に分岐し、左右それぞれの肩部近傍において、さらに第2の分岐部42bを介して前後に分岐し、4つの端部開口部42cがそれぞれ連結部材5を介して分水管41に連結されている。
【0011】
図4に示すように、連結部材5は、管状結合部51とガイド部52とからなる。管状結合部51は1本の送水管42の端部開口部42c内に挿入される。
管状結合部51内及びガイド部52内には、複数本の分水管41の端部が収容されている。管状結合部51内には、複数本の分水管41の端部が集合した状態で収容されて接着固定されている。管状結合部51内の分水管41の端部開口部41aは、管状結合部51の開口部51aと面一となっている。
例えば
図5に示すように、1本の分水管41を折り返して束ね、折り返し部41bを連結部材5のガイド部52側から管状結合部51に挿入し、管状結合部51の開口部51aと面一となる切断面で折り返し部41bを切断することにより、
図4に示す構成を形成できる。
図4に示す構成は、管状結合部51を送水管42の端部開口部42cに挿入することで、1本の送水管42の端部開口部42cと分水管41の複数の端部開口部41aとが連結されるようになっている。これにより、給水容器44内の水が、送水管42を通って複数本の分水管41へ送水される。1つの管状結合部51内に収容される分水管41の端部の数は、例えば1~70が好ましく、2~30がより好ましい。
またガイド部52内では、隣り合う分水管41が互いに間隔をあけて配置され、接着固定されている。ガイド部52内において、隣り合う分水管41の間隔は、管状結合部51から遠ざかるにしたがって漸次広くなっている。
【0012】
分水管41は多孔質中空糸膜(以下、単に中空糸膜ともいう。)であり、且つ材質が親水性材料である(以下、「親水性」ということもある。)。
中空糸膜の材質は、折れにくく加工性に優れる点でポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリオレフィン系樹脂とは、オレフィンを主体として得た重合体である。オレフィンのみを用いて得た重合体であってもよいし、オレフィンと他のモノマーの共重合体であってもよいし、それらの変性樹脂であってもよい。
ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。
これらのうちでも、加工性、生体適合性、靱性等に優れる点でポリエチレンが好ましい。
【0013】
本明細書において、「材質が親水性材料である分水管(多孔質中空糸膜)」とは、下記(1)または(2)の少なくとも一方を満たすものである。
(1)分水管(多孔質中空糸膜)の外表面、内表面及び外表面から内表面にわたる多孔質体内部の表面を構成する材料の、水に対する接触角が60度以下であること。
(2)分水管(多孔質中空糸膜)の平均孔径が5μm以下である場合、膜長7cmの乾燥した分水管(多孔質中空糸膜)の中空側から150kPaの水圧をかけた際に、当該中空糸膜の全体が湿潤した状態になること。
【0014】
図2、3に示すように、分水管41は両方の端部が連結部材5内に固定され、その間の部分がインナー本体31の身頃の裏面上に、互いに離間した蛇行状態で配置されている。分水管41は、
図6に示すように、インナー本体31に糸6で縫い付けて固定されている。
このように、各分水管41の両端の端部開口部41aを送水管42の端部開口部42cと連結することで、分水管41から滲み出す水の量の、長さ方向における均一性を向上させることができる。
1本の分水管41の両方の端部が、同じ連結部材5に収容されていてよく、一方の端部と他方の端部とが異なる連結部材5にそれぞれ収容されていてもよい。
1本の分水管41の長さは、例えば5~200cmが好ましく、10~100cmがより好ましく、20~70cmがさらに好ましい。
インナー本体31に取り付けられている複数本の分水管41の長さは、互いに同じでもよく、異なってもよい。
【0015】
本実施形態において分水管41としては、下記条件Aを満たす中空糸膜が好ましい。
条件A:長さ20cmの中空糸膜の、一方の端部から他方の端部へ流量35mL/分で通水したときの、前記他方の端部における膜面流束をV20(cm3/cm2/分)、前記一方の端部における膜面流束をV0(cm3/cm2/分)とすると、V0/V20≦3.0且つV20≧0.5である。
V20の値が高いほど、分水管41の全長にわたって充分な量の水が滲み出しやすく、V0/V20の値が低いほど、分水管41から滲み出す水の量の、長さ方向における均一性に優れる。
インナー本体31を充分に濡らすことができる点で、V20の値は2.0以上が好ましく、4.0以上がより好ましく、5.0以上がさらに好ましく、6.0以上が特に好ましい。
また、インナー本体31を均一に濡らすことができる点で、V0/V20の値は2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.3以下がさらに好ましく、1.2以下が特に好ましい。
V20の上限は特に限定されないが、実用的には30以下が好ましく、15以下がより好ましく、10以下がさらに好ましく、8以下が特に好ましい。
V0/V20の下限は特に限定されないが、実用的には0.5以上が好ましく、0.6以上がより好ましく、0.7以上がさらに好ましく、0.8以上が特に好ましい。
膜面流束は後述の実施例に記載の方法で測定する。
【0016】
中空糸膜のV0/V20及びV20の値は、中空糸膜の内径、孔径等によって調整できる。前記条件Aを満たしやすい点で、中空糸膜の内径は100~1000μmが好ましく、265~520μmがより好ましい。中空糸膜の孔径は0.01~5μmが好ましく、0.03~0.4μmがより好ましい。
【0017】
分水管41を構成する中空糸膜は、下記条件Bを満たすことが好ましい。
条件B:長さ400mmの分水管(中空糸膜)を、エタノールに10分間浸漬した後、純水に10分間浸漬し、60℃の雰囲気中で30分間乾燥した後、室温で5分間冷却する浸漬処理を行い、処理後の前記分水管の長さをL1(単位:mm)とするとき、下記式(I)で算出される収縮率が5%以下である。
収縮率=(400-L1)/400×100 ・・・(I)
分水管41を構成する中空糸膜の収縮率が低いほど、インナー3の洗濯と乾燥を繰り返したときの寸法安定性に優れる。収縮率は4%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましい。
【0018】
収縮率は、具体的に以下の方法で測定する。
(1)まず、中空糸膜(1フィラメント)を500mmの長さに切断して試験体とする。試験体の一端を固定し、他端を自重で垂下させる。他端の先端に50mg/dtexの荷重をかけた状態で、両端を除く長さ400mmの部分(被測定部分)に印をつける。
(2)次に、浸漬処理を行う。すなわち、試験体をエタノール(室温)に10分間浸漬した後、取り出し、続いて純水(室温)に10分間浸漬して取り出す。試験体の一端を固定し他端を自重で垂下させた状態で、雰囲気温度60℃の乾燥機内で30分間乾燥させた後、室温で5分間冷却する。
(3)次いで、前記(1)と同様に試験体の他端の先端に50mg/dtexの荷重をかけた状態で、前記(1)で印をつけた前記被測定部分の長さL1(単位:mm)を測定する。
(4)前記式(I)により収縮率を算出する。
なお、本明細書において「室温」とは、特に断りの無い限り23℃±2℃の範囲内の温度を意味する。
【0019】
中空糸膜の収縮率は、中空糸膜の製造条件によって調整できる。
例えば、溶融紡糸した後に延伸する工程を有する中空糸膜の製造方法において、延伸工程で生じる残存応力が小さいと、中空糸膜の収縮率は小さくなる傾向がある。具体的には、延伸時の加熱温度が高いと収縮率が小さくなる傾向がある。変形速度が小さいと収縮率が小さくなる傾向がある。延伸倍率が小さいと収縮率が小さくなる傾向がある。
また、延伸工程の後に、中空糸膜の融点以下の温度(熱緩和温度)で加熱して、延伸により生じた残存応力を緩和する熱緩和処理を1回以上行うと、中空糸膜の収縮率は小さくなる傾向がある。
熱緩和処理を行う場合、延伸工程を経た延伸後中空糸膜を搬送しながら加熱することが好ましい。送り出し速度より巻き取り速度を遅くして、延伸後中空糸膜を弛緩させた状態で加熱してもよい。(1-巻き取り速度/送り出し速度)×100で表される緩和率(単位:%)は0%以上であり、0~35%が好ましい。熱緩和率を高めると中空糸膜の収縮率が低下する傾向がある。
また、熱緩和温度を高めると収縮率が低下する傾向がある。加熱時間を長くすると収縮率が低下する傾向がある。熱緩和処理の回数を増やすと収縮率が低下する傾向がある。
【0020】
延伸工程の後、必要に応じて、公知の方法で親水化処理を行ってもよい。延伸工程後に熱緩和処理を行う場合、親水化処理は熱緩和処理の前に行ってもよく、熱緩和処理の後に行ってもよい。また、熱緩和処理を複数回行う場合、熱緩和処理と熱緩和処理との間で親水化処理を行ってもよい。
【0021】
中空糸膜の引張強度は5N/filament(以下、「N/fil.」とも記載する)以上が好ましく、15N/fil.以上がより好ましい。前記引張強度が前記下限値以上であると、着用時または洗濯時に、中空糸膜に外力が付与されても充分な耐久性が得られやすい。前記引張強度の上限値は特に限定されないが、入手し易い点では600N/fil.以下が好ましい。
本明細書における中空糸膜の引張強度は、以下の測定方法で得られる値(単位:N/fil.)である。
引張試験機に、中空糸膜1filamentを、つかみ間隔10cmでセットし、引張速度5cm/minで中空糸膜を伸長し、破断時の応力を引張強度(単位:N/fil.)とする。
引張試験機としては、例えば、低速伸長型引張試験機(オリエンテック社製品名:テンシロンRTM-100、ロードセル:50N)を用いることができる。
【0022】
中空糸膜の最小曲げ半径は10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましい。前記最小曲げ半径が前記上限値以下であると、折れにくく加工性に優れる。また、着用時または洗濯時に、中空糸膜が変形しても充分な耐久性が得られやすい。
本明細書における中空糸膜の最小曲げ半径は以下の測定方法で得られる値(単位:mm)である。
長さ約20cmの中空糸膜1filamentでループ(輪)を作り、中空糸膜の両端をループが小さくなるようにゆっくりと左右に引っ張る。中空糸膜が座屈する直前のループ内側の直径の1/2(ループが楕円の場合は長径と短径の平均の1/2)を最小曲げ半径とする。
【0023】
インナー本体31を構成する材料は特に限定されないが、水の拡散性と吸水性の点で吸水性繊維と疎水性繊維で構成された生地を含むことが好ましい。少なくとも、分水管41を固定する部分の生地が、吸水性繊維と疎水性繊維で構成された生地であることが好ましい。
前記吸水性繊維は、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、アクリル及び吸水加工されたポリエステルからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
前記疎水性繊維は、ポリエステル、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
前記生地を構成する繊維は、総繊度が33~330dtexであり、且つ、単繊維繊度が0.3~5.0dtexであるマルチフィラメントが好ましい。
前記生地を構成する繊維の具体例としては、特開2005-023431号公報の段落0049~段落0058に記載のものが挙げられる。
【0024】
図1に示すように、送風機付き衣服2は、通気性を抑えた材料で形成され、その背面側下方に、外気を服の内側に取り込む送風ファン21が装着されている。送風機付き衣服2の下方には、身体との隙間を抑制する締付部22が形成されている。また送風ファン21を必要に応じて駆動する駆動装置(図示略)が設けられている。
送風ファン21を駆動すると、送風機付き衣服2外の空気(外気)が、この送風ファン21部分から送風機付き衣服2の内側に取り込まれ、次に、インナー3の表面に沿って上昇し、その後は、送風機付き衣服2の襟首開口部23や袖開口部24から送風機付き衣服2外へと流出するように構成されている。
【0025】
本実施形態の空調服1を使用する際は、まずインナー3を身体に接触するように着用し、その外側に送風機付き衣服2を装着する。また、分水システム4の吸入管46を、水が入った給水容器44内に差し込み、蓋45を給水容器44の開口部に装着して密閉する。
ポンプ43を駆動すると、給水容器44内の水が送水管42へ供給され、送水管42を通って分水管41へ送られ、分水管41から滲み出るように流出し、インナー本体31を濡らす。ポンプ43は連続的に駆動してもよく、間欠的に駆動してもよい。
そして、送風機付き衣服2の送風ファン21を駆動すると、送風ファン21からの送風によってインナー本体31に浸み込んだ水が気化する際に、身体から気化熱を奪い、身体を冷却することができる。
給水容器44内の水がなくなれば、蓋45を開けて水を補給してもよく、給水容器44を交換してもよい。
【0026】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことが可能である。
例えば、本実施形態では、胴体部分に装着する空調服を例に説明したが、同じ原理で手足や頭部、あるいは下半身を冷却する空調服も構成できる。
本発明の分水システムを備えた水冷衣服は、例えば高温下での野外活動、野外業務、屋内業務をする際に着用する衣服として有用である。
また本実施形態では、分水システムを備えた水冷衣服を、空調服のインナーとして用いたがこれに限らない。例えば、分水システムを備えた水冷衣服のみを着用してもよく、衣服本体に浸み込んだ水が気化する際に、身体から気化熱を奪い、身体を冷却する効果が得られる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下の測定方法を用いた。
<膜面流束の測定方法>
[V20、V0の測定方法]
長さ20cmの中空糸膜の、一方の端部から他方の端部へ流量35mL/分で通水し、他方の端部における膜面流束V20(単位:cm3/cm2/分)を下記の方法で測定した。また、一方の端部における膜面流束V0(単位:cm3/cm2/分)を下記の方法で測定した。
Hagen-Poiseiulleの法則から導かれた圧力と膜の透過係数から、20cmの流量を算出してV20とした。
Hagen-Poiseiulleの法則から導かれた圧力と膜の透過係数から、0cmの流量を算出してV0とした。
[V2~V18の測定方法]
前記V20の測定方法において、中空糸膜の長さを、2cmから18cmまで2cm刻みの長さに変更したしたほかはV20の測定方法と同様にして、他方の端部における膜面流束V2~V18(単位:cm3/cm2/分)をそれぞれ測定した。
【0028】
[例1]
内径が480μm、孔径が0.1μmの、親水性ポリエチレン中空糸膜(収縮率3.5%、引張強度15N/fil.、最小曲げ半径4mm)を使用した。
上記の方法でV
0、V
10、V
20、を測定した。その結果を
図7のグラフに示す。
図7の横軸は中空糸膜の長さ(単位:cm)、縦軸は他方の端部における膜面流束(単位:cm
3/cm
2/分)を示す。ただし横軸がゼロのときの膜面流束は、前記一方の端部における膜面流束V
0とする(以下、同様)。
測定結果より、本例で使用した中空糸膜はV
0=7.80、V
20=6.82、V
0/V
20の比は約1.14であった。
【0029】
[例2]
本例では内径が280μm、孔径が0.03μmの、親水性ポリエチレン中空糸膜(収縮率1.25%、引張強度2.45N/fil.)を使用した。
例1と同様にしてV
0、V
10、V
20、を測定し、結果を
図7に示す。
測定結果より、本例で使用した中空糸膜はV
0=16.5、V
20=13.2、V
0/V
20の比は約1.25であった。
【0030】
[例3]
本例では内径が350μm、孔径が0.1μmの、親水性ポリエチレン中空糸膜(収縮率2.13%、引張強度25N/fil.)を使用した。
例1と同様にしてV
0、V
10、V
20、を測定し、結果を
図7に示す。
測定結果より、本例で使用した中空糸膜はV
0=13.3、V
20=8.90、V
0/V
20の比は約1.49であった。
【0031】
[製造例1]
ポリエチレンを原料とし、中空糸膜製造用ノズルを用いて溶融紡糸し、冷却固化して中空糸を得た。中空糸を115℃、16時間の条件でアニール処理(定長熱処理)した後、室温で、延伸倍率が1.8倍になるように冷延伸し、続いて、延伸温度114℃で、冷延伸を含めた総延伸倍率が6.6倍となるように熱延伸して、中空糸膜を得た。中空糸膜を親水化処理して、内径が460μm、孔径が0.1μmの、親水性ポリエチレン中空糸膜(収縮率4.57%、引張強度17.6N/fil.)を得た。
例1と同様にしてV0、V10、V20、を測定したところ、V0=8.52、V20=7.39、V0/V20の比は約1.15であった。
【0032】
[製造例2]
製造例1と同様にして中空糸膜を製造した。中空糸膜を親水化処理する前に、熱緩和温度118℃、緩和率20%の条件で熱緩和処理した。さらに、製造例1と同様にして親水化処理をした後に、熱緩和温度110℃、緩和率3%の条件で熱緩和処理をして、内径が542μm、孔径が0.1μmの、親水性ポリエチレン中空糸膜(収縮率1.13%、引張強度17.7N/fil.)を得た。
例1と同様にしてV0、V10、V20、を測定したところ、V0=7.37、V20=6.77、V0/V20の比は約1.09であった。
【0033】
(実施例1)
例1の中空糸膜を分水管41として用い、
図1~3に示す構成のインナー3を作製した。インナー本体31は、肌面側は、吸水性繊維:アセテートマルチフィラメント(三菱ケミカル社製品名:ベントクール、総繊度84dtex、単繊維繊度2.8dtex)と、疎水性繊維:ポリエステルマルチフィラメント(総繊度33dtex、短繊維繊度2.3dtex)とを複合した複合糸を、表面側には、疎水性繊維:ポリエステルマルチフィラメント(総繊度84dtex、単繊維繊度2.3dtex)を使用した両面丸編地生機を作製した。
得られた生機をアルカリ処理、染色、仕上げを行い、縫製を行った。
アルカリ処理は、ベントクール中のジアセテート成分のみを鹸化し、吸水性を向上させるために行っている。
【0034】
インナー本体31の前身頃と後ろ身頃に、それぞれ7本の分水管41を蛇行配置した。1本の分水管41の長さは20~100cmとし、各分水管41の両方の端部を連結部材5内に固定した。
図1に示すように、インナー3を身体に接触するように着用し、その外側に送風機付き衣服2(サンエス社製品名:空調風神服)を装着して、後述の試験方法にしたがって、運動を継続して行ったときの冷却効果を測定した。運動中は、分水管へ約270mL/時の流量で送水するとともに、送風機付き衣服2の送風ファン21を連続駆動した、送風ファン21の風量は「中」とした。
結果を
図8のグラフに示す。
図8において、横軸は運動開始からの経過時間、縦軸は平均皮膚温度(6名の被験者の測定値の平均値)を示す(以下、同様)。
【0035】
(比較例1)
実施例1において、インナー3を使用せず、送風機付き衣服2(サンエス社製品名:空調風神服)のみを装着し、同様の試験を行った。
【0036】
(比較例2)
実施例1において、インナー3及び送風機付き衣服2の両方を使用せず、その代わりに市販の作業着(材質ポリエステル80%、綿20%、半そで)のみを装着し、同様の試験を行った。
【0037】
<冷却効果の試験方法>
温度36℃、相対湿度50%の環境下にて、所定の負荷量で自転車エルゴメーター(アルインコ社製品名:AFB7018)を1時間こぎ、皮膚温度の経時変化を測定した。
被験者は23~47歳の男性6名とした。予めWATT max測定方法に基づいて被験者の体力測定を実施して限界値を求め、限界値の30~35%を負荷量とした。
皮膚温度は、皮膚温度計(Texas Instruments社製品名:LM35CAZ)を用い、Roberts et al.の3点法(下記式)により求めた平均皮膚温度を、皮膚温度の測定値とした。
平均皮膚温度=0.43×胸部皮膚温度+0.25×上腕部皮膚温度+0.32×大腿部皮膚温度
【0038】
図8の結果に示されるように、インナー3と送風機付き衣服2を装着した実施例1は、比較例1、2に比べて、運動中の皮膚温度の上昇が小さく抑えられており、身体の冷却効果に優れていた。
【符号の説明】
【0039】
1 空調服
2 送風機付き衣服
3 インナー(水冷衣服)
4 分水システム(衣服用分水システム)
5 連結部材
6 糸
21 送風ファン
22 締付部
23 襟首開口部
24 袖開口部
31 インナー本体(衣服本体)
41 分水管
41a 端部開口部
41b 折り返し部
42 送水管
42a 第1の分岐部
42b 第2の分岐部
42c 端部開口部
43 ポンプ
44 給水容器
45 蓋
46 吸入管
47 電源
48 スイッチ
51 管状結合部
51a 開口部
52 ガイド部