(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】重水素化標識化合物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07B 59/00 20060101AFI20240222BHJP
C07C 51/347 20060101ALI20240222BHJP
C07C 69/587 20060101ALI20240222BHJP
C07C 69/24 20060101ALI20240222BHJP
C07C 53/126 20060101ALI20240222BHJP
C07C 57/12 20060101ALI20240222BHJP
C07C 67/20 20060101ALI20240222BHJP
C07F 9/09 20060101ALI20240222BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20240222BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240222BHJP
【FI】
C07B59/00
C07C51/347
C07C69/587
C07C69/24
C07C53/126
C07C57/12
C07C67/20
C07F9/09 U
G01N27/62 V
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2022538046
(86)(22)【出願日】2021-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2021027395
(87)【国際公開番号】W WO2022019336
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2020124674
(32)【優先日】2020-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝田 良
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 順子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 康平
(72)【発明者】
【氏名】濱 弘太郎
(72)【発明者】
【氏名】横山 和明
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106008639(CN,A)
【文献】国際公開第2019/183564(WO,A1)
【文献】特表2006-505777(JP,A)
【文献】特表2016-522677(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108276269(CN,A)
【文献】RODRIGUEZ,S. et al,Synthesis of gem-dideuterated tetradecanoic acids and their use in investigating the enzymatic trans,Journal of Organic Chemistry,2001年,Vol.66, No.24,p.8052-8058
【文献】HUTCHINS,R.O. et al.,Selective reductions of conjugated acetylenes with magnesium in methanol and methanol-d,Tetrahedron Letters,1989年,Vol.30, No.1,p.55-6
【文献】ONO,A. et al,Biosynthetic pathway for production of a conjugated dienyl sex pheromone of a Plusiinae moth, Thysan,Insect Biochemistry and Molecular Biology,2002年,Vol.32, No.6,p.701-708
【文献】GOSALBO,L. et al,Synthesis of deuterated cyclopropene fatty esters structurally related to palmitic and myristic acid,Lipids,1993年,Vol.28, No.12,p.1125-30
【文献】NAVARRO,I. et al,Stereospecificity of the (E)- and (Z)-11 Myristoyl CoA Desaturases in the Biosynthesis of Spodoptera,Journal of the American Chemical Society,1997年,Vol.119, No.46,p.11335-11336
【文献】HISLOP,J. et al,Synthesis of deuterated γ-lactones for use in stable isotope dilution assays,Journal of Agricultural and Food Chemistry,2004年,Vol.52, No.23,p.7075-7083
【文献】CRANDALL,J.K.,Methyl(trifluoromethyl)dioxirane,e-EROS Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis,2016年,p.1-11
【文献】LIU,W. et al,Site-Selective and Metal-Free Aliphatic C-H Oxidation Enabled Synthesis of [5,24,25-D3]-(25S)-Δ7-Da,Chemistry - A European Journal,2015年,Vol.21, No.14,p.5345-5349
【文献】OLDFIELD,E. et al,Spectroscopic studies of specifically deuterium labeled membrane systems. Nuclear magnetic resonance,Biochemistry,1978年,Vol.17, No.14,p.2727-40
【文献】MENDELSOHN,R. et al,CD2 rocking modes as quantitative infrared probes of one-, two-, and three-bond conformational disor,Biochemistry,1991年,Vol.30, No.35,p.8558-63
【文献】ZHAO,D. et al,Palladium-Catalyzed H/D Exchange Reaction with 8-Aminoquinoline as the Directing Group: Access to or,Journal of Organic Chemistry,2018年,Vol.83, No.15,p.7860-7866
【文献】LUO,F. et al,Palladium catalyzed arylation of C(sp3)-H bonds of carbonyl β-position in water,Huaxue Xuebao,2016年,Vol.74, No.10,p.805-810
【文献】佐治木弘尚,重水素標識化反応~「炭素-水素」結合を「炭素-重水素」に変換する~,化学と教育,2013年,61巻,8号,404-407
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B
C07C
C07F
G01N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が12個以上の重水素化された脂肪酸若しくはその誘導体または重水素化された脂肪酸をその構造の一部とする化合物からなる重水素化標識化合物であって、
前記脂肪酸の
α位およびβ位が重水素化され
、かつ、前記脂肪酸に存在する重水素の数が3個または4個であることを特徴と
し、
前記誘導体が、脂肪酸エステル、脂肪酸ジメチルジスルフィド誘導体、脂肪酸ジメチルオキサゾリン誘導体または脂肪酸シリル誘導体であり、前記脂肪酸エステルが、アルキルエステルまたはアリールエステルであり、
前記化合物が、脂質または脂肪酸結合タンパク質であり、前記脂質が、コレステロールエステル、アシルグリセロール、リン脂質、糖脂質またはスフィンゴ脂質である、重水素化標識化合物
(但し、前記炭素数が12個以上の重水素化された脂肪酸がシクロプロペン基を有する脂肪酸、テトラデカン酸、(Z)-11-テトラデセン酸、(E)-11-テトラデセン酸、(Z)-11-ノナデセン酸または(Z)-7-ドデセン酸である重水素化標識化合物と、前記化合物がコラン酸である重水素化標識化合物とを除く。)。
【請求項2】
請求項
1に記載の重水素化標識化合物の製造方法であって、脂肪酸アミドを白金族金属触媒の存在下で重水素化する工程を含んでなる、
製造方法。
【請求項3】
白金族金属触媒が、パラジウム触媒である、請求項
2に記載の製造方法。
【請求項4】
脂肪酸アミドを塩基の存在下で重水素化する工程をさらに含んでなる、請求項
3に記載の製造方法。
【請求項5】
重水素化された化合物を脱保護する工程をさらに含んでなる、請求項
3または4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項
1に記載の重水素化標識化合物を質量分析の内部標準物質として使用することを特徴とする、脂質若しくは脂肪酸結合タンパク質またはそれらの代謝物の定量方法。
【請求項7】
請求項
1に記載の重水素化標識化合物を代謝物マーカーとして使用することを特徴とする、生体内代謝の解析方法。
【請求項8】
脂質若しくは脂肪酸結合タンパク質またはそれらの代謝物の定量方法における質量分析の内部標準物質としての、請求項
1に記載の重水素化標識化合物の使用。
【請求項9】
生体内代謝の解析方法における代謝物マーカーとしての、請求項1に記載の重水素化標識化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本願は、先行する日本国出願である特願2020-124674(出願日:2020年7月21日)の優先権の利益を享受するものであり、その開示内容全体は引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、重水素化標識化合物およびその製造方法に関する。本発明はまた、脂質またはその代謝物の定量方法および脂質代謝の解析方法に関する。
【背景技術】
【0003】
脂質は、炭水化物やタンパク質と並ぶ三大栄養素の一つであり、エネルギー源や生体膜の構成要素としてだけでなく、情報伝達物質等の多様な生理機能を有する。また、脂質の基本構成単位である脂肪酸は、長鎖の炭化水素骨格の末端にカルボキシ基を有するシンプルな構造でありながらも、炭素数や二重結合等の違いから様々な種類が存在し多彩な生理機能を発現することが知られている。例えば、疾患との関係では副腎白質ジストロフィーにおいて全身の組織で極長鎖脂肪酸の増加が認められ、トランス脂肪酸は健康への影響から世界保健機関(WHO)は加工食品を製造する時に生じるトランス脂肪酸を2023年までに低減するよう各国政府に対し呼び掛けている。
【0004】
このように社会的にも注目度の高い脂肪酸の解析にはガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS)や液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)が主に用いられている。しかしながら、GC-MSやLC-MSにおいて内部標準物質となる安定同位体標識脂肪酸の種類は極めて限られているのが現状である。また、13炭素(13C)や重水素(2H)等を用いた従来の脂肪酸の同位体標識化合物の製造方法は、工程数が多いことや酸化脂肪酸への適用が難しいといった問題があった(特許文献1)。また、ルテニウム触媒により脂肪酸を重水素化標識する方法では不飽和結合の位置や数により反応結果が左右され、またトランス体には適用できないという問題があった(非特許文献1)。このため、脂質や脂肪酸の代謝解析に重要な脂肪酸の定量的な手法の確立が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Vidovic et al., J. Org. Chem. 2017, 82, 13115-13120.
【発明の概要】
【0007】
本発明は、新規な重水素化標識化合物およびその製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、脂質若しくは脂肪酸結合タンパク質またはそれらの代謝物の新規な定量方法と、生体内代謝の新規な解析方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、脂肪酸の少なくともβ位を重水素化することで重水素化標識化合物を合成できること、そしてこの重水素化技術は多様な脂肪酸に適用可能であることを見出した。本発明者らはまた、前記重水素化標識化合物を使用して脂質代謝解析が可能であることを確認した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0009】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]脂肪酸の少なくともβ位が重水素化されたことを特徴とする、重水素化標識化合物。
[2]脂肪酸のα位がさらに重水素化された、上記[1]に記載の重水素化標識化合物。
[3]重水素の数が3個または4個である、上記[1]または[2]に記載の重水素化標識化合物。
[4]標識化合物が脂肪酸若しくはその誘導体または脂肪酸をその構造の一部とする化合物である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の重水素化標識化合物。
[5]脂肪酸の誘導体が、脂肪酸エステル、脂肪酸ジメチルジスルフィド誘導体または脂肪酸ジメチルオキサゾリン誘導体である、上記[4]に記載の重水素化標識化合物。
[6]脂肪酸エステルが、アルキルエステルまたはアリールエステルである、上記[5]に記載の重水素化標識化合物。
[7]脂肪酸をその構造の一部とする化合物が、脂質または脂肪酸結合タンパク質である、上記[4]に記載の重水素化標識化合物。
[8]脂質がコレステロールエステル、アシルグリセロール、リン脂質、糖脂質またはスフィンゴ脂質である、上記[7]に記載の重水素化標識化合物。
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載の重水素化標識化合物の製造方法であって、脂肪酸アミドを白金族金属触媒の存在下で重水素化する工程を含んでなる、方法。
[10]白金族金属触媒が、パラジウム触媒である、上記[9]に記載の製造方法。
[11]脂肪酸アミドを塩基の存在下で重水素化する工程をさらに含んでなる、上記[9]または[10]に記載の製造方法。
[12]重水素化された化合物を脱保護する工程をさらに含んでなる、上記[9]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13]上記[1]~[8]のいずれかに記載の重水素化標識化合物を質量分析の内部標準物質として使用することを特徴とする、脂質若しくは脂肪酸結合タンパク質またはそれらの代謝物の定量方法。
[14]上記[1]~[8]のいずれかに記載の重水素化標識化合物を代謝物マーカーとして使用することを特徴とする、生体内代謝の解析方法。
[15]脂質若しくは脂肪酸結合タンパク質またはそれらの代謝物の定量方法における質量分析の内部標準物質としての、上記[1]~[8]のいずれかに記載の重水素化標識化合物の使用、または生体内代謝の解析方法における代謝物マーカーとしての、上記[1]~[8]のいずれかに記載の重水素化標識化合物の使用。
【0010】
本発明の重水素化標識化合物は、脂質や脂肪酸の定量分析や代謝解析等に広く用いることができる点で有利である。本発明の重水素化標識化合物はまた、重水素源として安価な重水やメタノール-d1を使用して合成できる点でも有利である。本発明の重水素化標識化合物はさらに、生体内に存在する脂肪酸や脂質と区別されるため、代謝物マーカーとして生体内代謝解析等に使用することができる点でも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、ホスファチジルコリン(構成脂肪酸:パルミチン酸/リノエライジン酸-D
4)(PC 16:0/D
4-trans-18:2)のLC-MS/MS解析の結果を示す。
【
図2】
図2は、活性化されたヒト血小板において生成されたホスファチジルコリン(PC)の代謝産物(派生物)の網羅的解析の結果(ボルケーノプロット)を示す。Eはトランス型、Zはシス型、p値は有意確率を示す。
【
図3】
図3は、ヒト血小板における重水素化標識脂肪酸のアシル転移活性の立体特異性を示す。
【
図4】
図4Aは、AGPAT7のHODE転移活性を示す(pは有意確率を示す)。
図4Bは、AGPAT7のHODE転移活性の動的解析結果を示す。
【発明の具体的説明】
【0012】
<<定義>>
本発明において基の全部または一部としての「アルキル」は、直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を意味し、炭素数1~4のアルキルの場合、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルが挙げられる。
【0013】
本発明において基の全部または一部としての「アルケニル」は、1個または複数個の二重結合を有する直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を意味する。
【0014】
本発明において「ハロゲン原子」としては、塩素(Cl)、臭素(Br)、フッ素(F)、ヨウ素(I)が挙げられ、塩素、臭素、ヨウ素が好ましい。
【0015】
本発明において「置換されていてもよい」とは、置換される基または原子上の1または複数個の水素原子が別の基に置換されることを意味する。
【0016】
本発明において「芳香族炭化水素基」および「芳香族複素環基」は、芳香族の特性を有する環系化合物またはその部分をいい、例えば、π電子が4n+2個ある環状共役系を含む安定な構造を有する。芳香族炭化水素基は、6~14員の不飽和炭素環であり、単環式であっても、2または3環式の芳香族縮合環基であってもよく、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレンが挙げられる。芳香族複素環基は、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選択される1種または2種以上の異種原子を環員原子として含む、5~14員の不飽和複素環であり、単環式であっても、2または3環式の芳香族縮合複素環基であってもよい。異種原子の個数は、1個または複数個とすることができ、例えば、1~4個、1~3個、1~2個または1個である。芳香族複素環基としては、例えば、ピリジン、キノリン、プリン、イソキノリン、オキサゾリンが挙げられる。
【0017】
<<重水素化標識化合物>>
本発明の重水素化標識化合物は、脂肪酸のα位とβ位のうち少なくともβ位が重水素化されたものである。本発明の重水素化標識化合物はまた、脂肪酸のα位がさらに重水素化されていてもよい。ここで、脂肪酸のα位、β位とは、脂肪酸の末端のカルボキシ基に最も近い炭素原子(α炭素)と、2番目に近い炭素原子(β炭素)をそれぞれいう。また、重水素化とは、α位またはβ位の炭素原子上の水素が重水素に置換されていることをいい、例えば、脂肪酸のβ位の重水素化とは、β位の炭素原子上の水素が重水素に置換されていることをいい、β位の炭素原子上に重水素が存在すること(炭素原子に重水素が結合していること)と同義である。
【0018】
本発明の重水素化標識化合物に存在する重水素の数は1~4個であり、本発明の重水素化標識化合物を内在性物質の影響を受けない標識化合物として提供する場合には、好ましくは3個または4個であり、より好ましくは4個である。本発明の重水素化標識化合物における脂肪酸のβ位の炭素原子上に存在する重水素の数は1または2個であり、α位の炭素原子上に存在する重水素の数は1または2個である。本発明の好ましい態様においては、本発明の重水素化標識化合物における脂肪酸のβ位の炭素原子上に存在する重水素の数は2個であり、かつ、α位の炭素原子上に存在する重水素の数は1または2個(より好ましくは2個)である。
【0019】
本発明の重水素化標識化合物は、脂肪酸またはその誘導体そのものであっても、脂肪酸をその構造の一部とする化合物であってもよい。本発明の重水素化標識化合物が、脂肪酸またはその誘導体そのものである場合には、該脂肪酸のβ位が重水素化されていることは前記の通りである。また、本発明の重水素化標識化合物が、脂肪酸をその構造の一部とするものである場合、1個または2個以上の脂肪酸を構造の一部とすることができる。本発明の重水素化標識化合物が1個の脂肪酸を構造の一部とする化合物である場合には、該脂肪酸のβ位が重水素化されている。また、本発明の重水素化標識化合物が2個以上の脂肪酸を構造の一部とする化合物である場合には、少なくとも1個の脂肪酸のβ位が重水素化されている。なお、2個以上の脂肪酸は一部または全部が同じ種類の脂肪酸であっても、異なる種類の脂肪酸であってもよい。
【0020】
本発明において「脂肪酸」は、不飽和度の観点からは飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸のいずれをも含むものである。脂肪酸はまた、炭素数(カルボキシ基の炭素を含む)の観点からは短鎖脂肪酸(炭素数2~4)、中鎖脂肪酸(炭素数5~11)、長鎖脂肪酸(炭素数12~22)、極長鎖脂肪酸(炭素数23以上)のいずれをも含むものである。脂肪酸の炭素数の下限は例えば2個、3個、5個、8個、12個または16個とすることができ、脂肪酸の炭素数の上限は例えば36個、30個または25個とすることができ、これら炭素数の上限および下限は任意に組み合わせることができる。脂肪酸の炭素数は例えば2~36個、2~30個、2~25個、3~36個、3~30個、3~25個、8~25個または16~25個とすることができる。不飽和脂肪酸はまた、シス型であってもトランス型であってもよい。本発明において「脂肪酸」は、炭化水素基上の1個または複数個(例えば1~3個または1~2個)の水素原子が、水酸基、アルコキシ基、エポキシ基、アミノ基、ハロゲン基、シアノ基、アルキルチオ、(tert-ブチルジメチルシリル)オキシ基等の官能基(該官能基は同一であっても異なっていてもよい)により置換されたものも含む。脂肪酸の例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノエライジン酸、リシノール酸、13-ヒドロキシ-9Z,11E-オクタデカジエノイック酸(13-HODE)、(S,9Z,11E)-13-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)オクトデカ-9,11-ジエノン酸(TBS-13-HODE)、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、エルカ酸、イソプレノイド、9-ヒドロキシオクタデカン酸、(9Z,11E)-N-(キノリン-8-イル)オクタデカ-9,11-ジエン酸等が挙げられる。
【0021】
本発明において「脂肪酸の誘導体」は上述の脂肪酸を誘導体化してなる化合物をいい、例えば、脂肪酸エステル、脂肪酸ジメチルジスルフィド誘導体、脂肪酸ジメチルオキサゾリン誘導体、脂肪酸シリル誘導体が挙げられる。脂肪酸の誘導体はGS-MSやLC-MSを用いた脂肪酸解析等において使用することができる点で有利である。
【0022】
本発明において「脂肪酸エステル」は、上述の脂肪酸をエステル化してなる化合物(エステル体)をいい、具体的には脂肪酸のカルボキシ基をエステル化してなる化合物をいう。脂肪酸エステルとしては、アルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステルのような炭素数1~6(好ましくは炭素数1~4)のアルキルエステル)や、アリールエステル(例えば、フェニルエステルのような芳香族炭化水素エステル)が挙げられる。
【0023】
本発明において「脂肪酸ジメチルジスルフィド誘導体」は、上述の脂肪酸をジメチルジスルフィドを用いて誘導体化してなる化合物をいい、具体的には、脂肪酸の不飽和位(2つの炭素原子)にメチルスルフィド基が導入されてなる化合物をいう。メチルスルフィド基は、不飽和脂肪酸またはそのエステル体(例えば、メチルエステル)の不飽和位にジメチルジスルフィドを反応させることにより導入できる。
【0024】
本発明において「脂肪酸ジメチルオキサゾリン誘導体」は、上述の脂肪酸をジメチルオキサゾリン化してなる化合物をいい、具体的には、脂肪酸のカルボキシ部分にジメチルオキサゾリン基が導入されてなる化合物をいう。ジメチルオキサゾリン誘導体は、脂肪酸のエステル体(例えば、メチルエステル)と2-アミノ-2-メチルプロパノールを反応させることにより得ることができる。
【0025】
本発明において「脂肪酸シリル誘導体」は、上述の脂肪酸をシリル化してなる化合物(シリル体)をいい、具体的には脂肪酸のカルボキシ基をシリル化してなる化合物をいう。脂肪酸シリル誘導体は、脂肪酸とシリル化剤とを反応させることにより得ることができる。シリル化剤としては、トリメチルシリル化剤、ジメチルシリル化剤、ジメチルアルキルシリル化剤、ハロメチルシリル化剤、環状シリレン化剤が挙げられる。
【0026】
本発明において「脂肪酸をその構造の一部とする化合物」としては脂質、脂肪酸結合タンパク質が挙げられる。なお、前記タンパク質にはペプチドも含まれる。脂質の例としては、コレステロールエステル、アシルグリセロール(例えば、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、トリアシルグリセロール)、リン脂質(例えば、ホスファチジルコリン(本明細書中「PC」ということがある)、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、リゾホスファチジン酸、リゾホスファチジルセリン)、糖脂質(例えば、ヘキソシルセラミド、スルファチド、ガングリオシド、グロボシド)、スフィンゴ脂質(スフィンゴミエリン、セラミド、スフィンゴシン-1-リン酸)等が挙げられる。脂肪酸結合タンパク質の例としては、アミノ末端にミリスチン酸が共有結合してなるII型血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ、システイン残基にパルミチン酸が共有結合してなるシナプス後膜肥厚タンパク質95、セリン残基にオクタン酸が共有結合してなるグレリン、システイン残基にイソプレノイドが共有結合してなるRabタンパク質等が挙げられる。
【0027】
本発明の重水素化標識化合物の好ましい態様によれば、後述の式(II)の化合物または式(III)の化合物が提供される。
【0028】
<<重水素化標識化合物の製造方法>>
本発明の重水素化標識化合物は、基質化合物に対する重水素化反応により製造することができる。ここで、重水素化反応工程は、脂肪酸のβ位に対する重水素化反応工程を少なくとも含むものであり、脂肪酸のα位の重水素化反応工程をさらに含んでいてもよい。脂肪酸のα位の重水素化反応工程と、脂肪酸のβ位の重水素化反応工程との両方を実施する場合、両工程の順序はいずれが先でもよい。
【0029】
<脂肪酸のβ位に対する重水素化反応>
本発明の製造方法における脂肪酸のβ位に対する重水素化反応は、脂肪酸アミドを白金族金属触媒の存在下で重水素化することにより実施することができる。ここで、白金族金属触媒としては、パラジウム触媒(例えば、酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、ピバル酸パラジウム、塩化パラジウム、アリルパラジウムクロリドダイマー、パラジウムアセチルアセトナート、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、シクロペンタジエニルアリルパラジウムのようなパラジウム錯体、およびホスフィン配位子、N-ヘテロ環状カルベン配位子が配位したパラジウム錯体)、白金触媒(白金アセチルアセトナート、塩化白金のような白金錯体、およびホスフィン配位子、N-ヘテロ環状カルベン配位子が配位したパラジウム錯体)、ロジウム触媒、ルテニウム触媒等が挙げられ、反応性と価格の観点から好ましくは酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、ピバル酸パラジウムである。基質化合物に対する触媒量は0.01~2当量(eq)(好ましくは0.1~1当量)の範囲とすることができる。
【0030】
上記重水素化反応においては重水素の供給源として重水素含有化合物を存在させてもよい。重水素の供給源としては、重水、メタノール-d1、メタノール-d4、エタノール-d1、エタノール-d6、イソプロパノール-d1、イソプロパノール-d8等が挙げられ、反応性、コスト、安全性の観点から重水が好ましい。
【0031】
本発明における白金族金属触媒を用いた重水素化反応は、塩基の存在下、溶媒中において実施することができる。使用可能な塩基としては、例えば、ピバル酸セシウム、酢酸セシウム、ピバル酸カリウム、酢酸カリウム、ピバル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ピバル酸リチウム、酢酸リチウム、ピバル酸亜鉛、酢酸亜鉛、ピバル酸カルシウム、酢酸カルシウム、ピバル酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム等が挙げられ、反応性の観点から好ましくはピバル酸セシウムである。また使用可能な溶媒としては有機溶媒が挙げられ、例えば、トルエン、ベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン、塩化メチレン、クロロホルム等が挙げられ、反応性の観点からはトルエンが好ましい。
【0032】
本発明における白金族金属触媒を用いた重水素化反応はまた、0.02~4当量(好ましくは0.2~2当量)の塩基の存在下、室温~130℃(好ましくは70~90℃)の温度、1~24時間(好ましくは17~19時間)の条件下で撹拌することにより実施することができる。
【0033】
<脂肪酸のα位に対する重水素化反応>
本発明の製造方法における脂肪酸のα位に対する重水素化反応は、脂肪酸アミドを塩基の存在下で重水素化することにより実施することができる。ここで、塩基としては、炭酸塩(例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム)、カルボン酸塩(例えば、酢酸塩)、炭酸水素塩、水酸化物塩、リン酸塩、アルカリ金属塩(例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩)が挙げられる。
【0034】
脂肪酸のα位に対する重水素化反応は溶媒中で実施することができ、該溶媒は重水素の供給源ともなるものを使用することができる。その例としては、メタノール-d1、メタノール-d4、エタノール-d1、エタノール-d6、イソプロパノール-d1、イソプロパノール-d8、重水(D2O)、アセトン-d6、クロロホルム-d1、アセトニトリル-d3、ジメチルスルホキシド-d6等が挙げられる。
【0035】
上記の脂肪酸のα位に対する重水素化反応は、0.1~3当量(好ましくは0.5~2当量)の塩基の存在下、室温~120℃(好ましくは70~90℃)の温度、1~24時間(好ましくは16~20時間)の条件下で撹拌することにより実施することができる。
【0036】
<脂肪酸アミドおよびその調製>
脂肪酸アミドは、本発明の重水素化反応の基質となるものであればいずれも使用できるが、例えば、下記式(I)の化合物を使用することができる。
Ra-C(=O)-N(-Rb)-Rc・・・(I)
(上記式中、
Raは、脂肪酸のうちカルボキシ基に結合する炭化水素鎖を表し、
Rbは、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表し、
Rcは、下記基(i)、基(ii)または基(iii):
(i)2環式の9~10員の芳香族複素環基(この複素環は、好ましくは環員原子として1~4個の異種原子を含んでいてもよく、また、同一または異なってもよく、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子、カルボキシ基、ベンジル基、アミノ基、芳香族炭化水素基および芳香族複素環基から選択される1種または2種以上により置換されていてもよい);
(ii)フェニル基(このフェニル基は、下記(a)または(b):
(a)単環式の6員の芳香族複素環基(この複素環は環員原子として1または2個の異種原子を含んでいてもよい);または
(b)-N(-R11)(-R12)、-OR13、-SR14または-C(=NR15)(-OR16)(R11、R12、R13、R14、R15およびR16はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表し、R15およびR16はそれらが結合している炭素原子と一緒になって5または6員の複素環を形成してもよく、この複素環は1個または2個の炭素数1~4のアルキル基により置換されていてもよい)により置換されていてもよい);または
(iii)-X-Z(Xは-CH-または-C(=O)-を表し、Zは単環式の6員の芳香族複素環基(この複素環は環員原子として1または2個の異種原子を含んでいてもよい)を表す)を表す。)
【0037】
Raは、例えば、アルキル基またはアルケニル基を表し、前記アルキル基または前記アルケニル基は1個または複数個(例えば1~3個または1~2個)の官能基(該官能基は同一であっても異なっていてもよく、例えば、水酸基、炭素数1~4のアルコキシ基、エポキシ基、アミノ基、ハロゲン基、シアノ基、炭素数1~4のアルキルチオ基および(tert-ブチルジメチルシリル)オキシ基から選択することができる)で置換されていてもよい。Raが表すアルキル基およびアルケニル基の炭素数の下限は例えば1個、2個、4個、7個、11個または15個とすることができ、炭素数の上限は例えば36個、35個、30個、29個または24個とすることができ、これら炭素数の上限および下限は任意に組み合わせることができる。Raが表すアルキル基およびアルケニル基の炭素数は例えば1~36個、1~30個、2~35個、2~29個、2~24個、7~24個または15~24個とすることができる。
【0038】
Rbは、好ましくは水素原子を表す。
【0039】
Rcが基(i)を表す場合、Rcは、好ましくは2環式の10員芳香族複素環基(この複素環は環員原子として1または2個の窒素原子を含んでいてもよい)を表し、より好ましくはキノリン、プリンを表し、さらに好ましくはキノリン-8-イル基、プリン-6-イルである。
【0040】
Rcが基(ii)を表す場合、Rcは、好ましくは
- 単環式の6員の芳香族複素環基(この複素環は、好ましくは環員原子として1または2個の窒素原子、より好ましくは環員原子として1個の窒素原子を含んでいてもよい)により置換されたフェニル基;または
- 基-N(-R11)(-R12)(R11およびR12は、同一または異なってもよく、水素原子またはメチルを表し、好ましくはR11およびR12はメチルを表す)、基-OR13(R13はメチルを表す)、基-SR14(R14はメチルを表す)または基-C(=NR15)(-OR16)(R15およびR16はそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基を表し、R15およびR16はそれらが結合している炭素原子と一緒になって5員の複素環を形成してもよく、この複素環は1個または2個のメチル基により置換されていてもよい)により置換されたフェニル基
を表す。
【0041】
Rcが基(iii)を表す場合、Rcは、好ましくは基-X-Z(Xは-CH-または-C(=O)-を表し、Zは単環式の6員の芳香族複素環基(この複素環は、好ましくは環員原子として1または2個の窒素原子、より好ましくは環員原子として1個の窒素原子を含んでいてもよい)を表す)を表す。
【0042】
R
cは、さらに好ましくは下記(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(If)および(Ig)のいずれかの基を表す。
【化1】
(上記式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6は、同一または異なってもよく、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子、カルボキシ基、ベンジル基、アミノ基、芳香族炭化水素基および芳香族複素環基を表し、好ましくは、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子またはカルボキシ基を表し、より好ましくは、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6の1つまたは2つが、同一または異なってもよく、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子、カルボキシ基、ベンジル基、アミノ基、芳香族炭化水素基および芳香族複素環基を表し、残りが水素原子を表し、さらに好ましくは、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6の1つまたは2つが、同一または異なってもよく、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子またはカルボキシ基を表し、残りが水素原子を表す);
【0043】
【化2】
(上記式中、R
7は、同一または異なってもよく、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子、カルボキシ基、ベンジル基、アミノ基、芳香族炭化水素基および芳香族複素環基を表し、好ましくは、水素原子、炭素数1~4のアルキル基またはベンジル基を表す);
【0044】
【化3】
(上記基中、Aは、基-N(-R
11)(-R
12)、基-OR
13、基-SR
14または基-C(=NR
15)(-OR
16)を表し、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15およびR
16は前記で定義した内容と同義であり、好ましくは、R
11、R
12、R
13およびR
14はメチルであり、R
15およびR
16は、同一または異なってもよく炭素数1~4のアルキルを表す);
【0045】
【0046】
式(I)の脂肪酸アミドのうち、反応性の観点からRcが式(Ia)の基を表すもの(8-キノリンアミドおよびその誘導体)が好ましい。
【0047】
本発明の重水素化反応の基質となる脂肪酸アミドは脂肪酸のアミド化反応により調製することができる。脂肪酸のアミド化は、例えば、脂肪酸とアミノ基を有する化合物とをカルボン酸とアミンの縮合反応により反応させて実施することができる。本発明では重水素化反応に先立って脂肪酸のアミド化反応を実施して重水素化反応の基質となる脂肪酸アミドを合成してもよい。脂肪酸のアミド化反応は、例えば、カルボン酸:Ra-COOH(Raは前記で定義した内容と同義である)と、アミン:HN(-Rb)(-Rc)(RbおよびRcは前記で定義した内容と同義である)とをカルボン酸とアミンの縮合反応により反応させて実施することができる。カルボン酸とアミンの縮合反応は公知であり、例えば、Yang, Q. et al., ACS Catal. 2017, 7, 5220-5224.やPeng, J.-B. et al., ACS Catal. 2019, 9, 2977-2893.等を参照して実施することができる。
【0048】
<アミドの脱保護とエステルの加水分解>
本発明の製造方法は、重水素化された脂肪酸アミドを脱保護して脂肪酸エステルへ変換し、続いて該エステルを加水分解する工程をさらに含んでもよい。脂肪酸アミドを脱保護する工程(脂肪酸エステルへの変換工程)は、公知の方法(例えば、Deguchi, T. et al., ACS Catal. 2017, 7, 3157-3161.)に従って実施することができる。また、エステルを加水分解する工程は、公知の方法(例えば、Meyer, M. P. et al., J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 430-439.)に従って実施することができる。具体的には後記の実施例の記載に従って実施することができる。
【0049】
アミドの脱保護とエステルの加水分解により本発明の重水素化標識化合物を得ることができる。製造された本発明の重水素化標識化合物としては、例えば、式(II):Ra-C(=O)-OH(Raは前記式(I)で定義した内容と同義であり、脂肪酸のα位およびβ位のうち少なくともβ位が重水素化され、脂肪酸のα位がさらに重水素化されていてもよく、好ましくは、脂肪酸のβ位の炭素原子上に存在する重水素の数が2個であり、かつ、α位の炭素原子上に存在する重水素の数が1または2個(より好ましくは2個)である)で表される重水素化標識脂肪酸が挙げられる。また、本発明においてはエステルの加水分解を行わず、本発明の重水素化標識脂肪酸のエステル体を得てもよい。製造された本発明の重水素化標識化合物のエステル体としては、例えば、式(III):Ra-C(=O)-O-Rd(Raは前記式(I)で定義した内容と同義であり、Rdはアルキル基(例えば、炭素数1~6または炭素数1~4のアルキル基)またはアリール基(例えば、フェニル基のような芳香族炭化水素基)を表し、脂肪酸のα位およびβ位のうち少なくともβ位が重水素化され、脂肪酸のα位がさらに重水素化されていてもよく、好ましくは、脂肪酸のβ位の炭素原子上に存在する重水素の数が2個であり、かつ、α位の炭素原子上に存在する重水素の数が1または2個(より好ましくは2個)である)で表される重水素化標識脂肪酸エステルが挙げられる。
【0050】
<重水素化標識脂質の合成例>
本発明の重水素化標識化合物が脂質から構成される場合、該重水素化標識化合物は本発明の重水素化標識化合物である脂肪酸またはその誘導体を使用して合成することができる。脂質の合成方法は公知であり、脂肪酸として本発明の重水素化標識脂肪酸またはその誘導体を用いる以外は公知の方法に従って本発明の重水素化標識脂質を合成することができる。
【0051】
本発明の重水素化標識脂質は、本発明の重水素化標識脂肪酸またはその誘導体を出発物質として公知の方法により合成することができる。例えば、コレステロールエステルはKomura, K. et al., Synthesis. 2008, 3407-3410.の記載に従って、アシルグリセロールはManhas, S. et al., Green Chem. 2019, 21, 5363-5367.の記載に従って、リン脂質はAcharya, H. P. et al., Synlett. 2005, 2015-2018.の記載に従って、それぞれ合成することができる。
【0052】
<<重水素化標識化合物を用いた定量方法>>
本発明の重水素化標識化合物は安定同位体標識化合物であるため、質量分析の内部標準物質として使用することができる。すなわち本発明によれば、本発明の重水素化標識化合物を質量分析の内部標準物質として使用することを特徴とする、脂質若しくは脂肪酸結合タンパク質またはそれらの代謝物の定量方法が提供される。本発明によればまた、脂質若しくは脂肪酸結合タンパク質またはそれらの代謝物の定量方法における質量分析の内部標準物質としての、本発明の重水素化標識化合物の使用が提供される。一般に、対象試料中の脂質等の目的物質の質量分析では標準物質を指標としてその定量を行うが、対象試料に含まれる夾雑物等がイオン化に影響を与え正確に定量できない場合がある。このため、目的物質と化学的性質や構造が類似した物質を内部標準物質として使用することで、イオン化の影響を補正し目的物質を正確に定量することが可能となる。従来は脂質やその代謝物の内部標準物質は種類が少なく限定されるものであったが、本発明の定量方法および本発明の使用によればこれまで正確な定量が困難であった脂質やその代謝物についても正確な定量ができる点で有利である。
【0053】
本発明の脂質若しくは脂肪酸結合タンパク質またはそれらの代謝物の定量方法は、(A)対象試料、標準物質および本発明の重水素化標識化合物を含む質量分析用試料を調製する工程と、(B)前記質量分析用試料を質量分析により解析(分析)する工程とを含んでいてもよい。対象試料としては、例えば、血液、尿等の体液、皮膚、口腔粘膜、外科的手術によって得られる組織の他、食品、化粧品、医薬品が挙げられる。
【0054】
<<重水素化標識化合物を用いた生体内代謝の解析方法>>
本発明の重水素化標識化合物は安定同位体標識化合物であるため、代謝物マーカーとして使用することもできる。すなわち本発明によれば、本発明の重水素化標識化合物を代謝物マーカーとして使用することを特徴とする、生体内代謝の解析方法(分析方法)が提供される。本発明によればまた、生体内代謝の解析方法(分析方法)における代謝物マーカーとしての、本発明の重水素化標識化合物の使用が提供される。脂肪酸に存在する水素を重水素で置換しても化学的性質は基本的に同じであり、生体内や生体外の評価系における標識化合物を質量分析や核磁気共鳴(NMR)等で容易に検出することが可能である。このため、例えば、本発明の重水素化標識化合物をモデル動物に投与することにより、あるいは、生体外の評価系(例えば、生体から単離した細胞、組織、器官および臓器;再生医工学技術により調製された組織、器官および臓器;培養細胞;微生物;酵素等)に使用することにより、生体内の代謝過程や代謝産物の動態をトレースすることができる。解析対象となる生体内代謝としては、脂質代謝、糖代謝等の生体内物質代謝が挙げられる。本発明の解析方法および本発明の使用によれば、これまで正確な定量が困難であった脂質の代謝メカニズムの解析をすることができる点で有利である。
【0055】
本発明の脂質代謝の解析方法は、(C)対象に本発明の標識化合物を投与するか、または生体外の評価系に本発明の標識化合物を使用する工程と、(D)対象または評価系における前記標識化合物の存在を検出または解析(分析)する工程とを含んでいてもよい。対象における標識物質の存在の検出または解析は、対象から採取した体液や組織について実施しても、対象に対して直接実施してもよい。前記対象としては、例えば、動物モデルが挙げられる。前記評価系としては、例えば、生体から単離した細胞、組織、器官および臓器;再生医工学技術により調製された組織、器官および臓器;培養細胞;微生物;酵素等が挙げられる。標識物質の存在の検出および解析は、例えば、質量分析やNMRにより実施することができる。分析手法に適した試料の調製は公知の方法に従って実施することができる。本発明の脂質代謝の解析方法および本発明の使用は、少なくとも工程(D)をイン・ビトロで実施することができる。
【実施例】
【0056】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0057】
測定機器等
本実施例(例1~18)では、以下の測定機器等を使用した。NMRスペクトルは、NMR分光計(AVANCE HD 400、Bruker)で取得した。化学シフトはδ(ppm)値で表され、結合定数はヘルツ(Hz)で表される。1Hおよび13C NMRスペクトルは、テトラメチルシランまたは溶媒残留シグナルを参照した。略語は次のものを使用した:s=シングレット、d=ダブレット、t=トリプレット、m=マルチプレット、br-s=ブロードシングレット。IRスペクトルは分光光度計(Cary 630 FTIR、Agilent)、ESI質量分析スペクトルは質量分析計(micrOTOF-II、Bruker)、融点は融点測定器(MP-21型、ヤマト科学)で測定した。すべての化学物質は試薬グレードのものであり、受領時の状態で使用した。すべての反応は、10mLスクリューキャップチューブ、シュレンクチューブ、若しくはナスフラスコで行った。各反応における生成物の精製は、中圧分取液体クロマトグラフシステム(EPCLC-W-Prep 2XY、山善)とカートリッジカラム(Purif-Pack(登録商標)-EX、照光サイエンス)を、若しくはシリカゲル(DIOLシリカ、富士シリシア)を使用して順相カラムクロマトグラフィーにより行った。
【0058】
本実施例(例1~16)では、各種脂肪酸について重水素化を行った。また、本実施例(例17)では、重水素化標識脂肪酸を使用して重水素化脂質の合成を行った。さらに、本実施例(例18~21)では、重水素化標識脂肪酸を使用して脂質代謝解析を行った。以下、順に説明する。
【0059】
例1:重水素化標識脂肪酸(リノール酸)の製造
(1)(9Z,12Z)-N-(キノリン-8-イル)オクタデカ-9,12-ジエナミドの調製
【化5】
【0060】
リノール酸(1.40g、5.0mmol)、DMF(0.1mL)およびCH2Cl2(15mL)をアルゴン雰囲気下で50mLシェンクチューブに入れた。0℃に冷却後、塩化オキサリル(0.85mL、10mmol)を滴下し、室温で一晩攪拌し反応させた。次に、すべての揮発性物質を減圧下で除去した。アルゴン雰囲気下の別のフレームドライしたフラスコで、8-アミノキノリン(721mg、5.0mmol)とトリエチルアミン(0.87mL、6.25mmol)のCH2Cl2(10mL)溶液を0℃に冷却した。CH2Cl2(9.0mL)中の酸塩化物の溶液を、カニューレを介して溶液に滴下した。室温で一晩攪拌した後、反応を1N HClでクエンチし、NaHCO3水溶液と塩水で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、減圧下で蒸発させた。そして、得られた化合物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、表題化合物を得た(収率44%、884mg、2.2mmol)。1HNMRデータは、公知文献(Perez-Gomez, M. et al., Organometallics. 2019, 38, 973-980.)に記載されているものと一致することが確認された。
【0061】
無色油: Rf 0.74 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.81 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.44-7.56 (m, 3H), 5.31-5.39 (m, 4H), 2.77 (dd, J = 6.4, 6.0 Hz, 2H), 2.56 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 2.00-2.07 (m, 4H), 1.83 (tt, J = 7.6, 7.6 Hz, 2H), 1.27-1.41 (m, 14H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
【0062】
(2)重水素化標識化合物((9Z,12Z)-N-(キノリン-8-イル)オクタデカ-9,12-ジエナミド-2,2,3,3-d
4)の調製
【化6】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0063】
上記(1)で得られた化合物に対してまずβ位の重水素化を行い、次いでα位の重水素化を行って表題の化合物を得た。具体的には下記アおよびイの手順に従って行った。
【0064】
ア β位の重水素化
まず、β位の重水素化を行った。上記(1)で得られた化合物(205.9mg、0.506mmol)、酢酸パラジウム(11.4mg、0.051mmol、10mol%)およびピバル酸セシウム(23.6mg、0.10mmol、20mol%)を空気下で10mLスクリューキャップチューブに入れた。トルエン(5.0mL、0.1M)を加えてアミドを溶解させた後、その混合物に重水(D2O)(0.50mL)を加えた。80℃で18時間攪拌して反応させ、進行をエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)でモニターした。反応混合物を室温に冷却し、分離漏斗に移し、酢酸エチル(AcOEt)で希釈し、塩水で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、減圧下で蒸発させた。粗β位-重水素化標識化合物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより粗精製した。
【0065】
イ α位の重水素化
続いて、上記アで得られたβ位-重水素化標識化合物(188.6mg、約0.46mmol)、炭酸カリウム(63.7mg、0.46mmol、1eq)、およびメタノール-d1(CH3OD、2.3mL、0.2M)を空気下で10mLスクリューキャップチューブに入れた。80℃で18時間攪拌して反応させ、進行をESI-MSでモニターした。反応混合物を室温に冷却し分離漏斗に移し、AcOEtで希釈し、塩水で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、減圧下で蒸発させた。得られた化合物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、重水素化された表題化合物を得た(収率78%、162.2mg、0.395mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%、β位が97%と確認された。
【0066】
無色油: Rf 0.74 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.81 (m, 2H), 8.12 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.40-7.55 (m, 3H), 5.32-5.38 (m, 4H), 2.77 (dd, J = 6.4, 6.0 Hz, 2H), 2.52 (br-s, 0.07H, 97%D), 2.00-2.07 (m, 4H), 1.77-1.80 (m, 0.08H, 96%D), 1.27-1.41 (m, 14H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 171.9, 148.1, 138.3, 136.3, 134.6, 130.2, 130.0, 128.0, 127.9 (overlapped), 127.4, 121.5, 121.3, 116.4, 37.0-37.4 (m, α-CD2), 31.5, 29.6, 29.3 (overlapped), 29.3, 29.2, 29.0, 27.2, 25.6, 24.4-25.2 (m, β-CD2), 22.6, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C27H34D4N2ONa+ [M+Na]+ 433.3127, found 433.3139.
IR (ATR-IR, neat) 3555, 3008, 2922, 2851, 2848, 1685, 1520, 1383, 1327, 1264, 1163, 969, 913, 824, 790, 753, 678 cm-1.
【0067】
(3)重水素化エステル化合物(リノール酸メチル-2,2,3,3-d
4((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエノエートメチル-2,2,3,3-d
4))の調製
【化7】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0068】
公知文献(Deguchi, T. et al. T., ACS Catal. 2017, 7, 3157-3161.)の記載に従って、上記(2)で得られた化合物の8-アミノキノリン部位を脱保護(エステルに変換)した。具体的には以下の手順に従って行った。
【0069】
上記(2)で得られた化合物(38.4mg、0.094mmol)、ニッケルビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート)(8.0mg、0.019mmol、20mol%)およびMeOH-d1(CH3OD、0.9mL、0.1M)を粗いN2パージとともに10mLスクリューキャップチューブに入れた。100℃で16時間撹拌して反応させ、進行を薄層クロマトグラフィー(TLC)およびESI-MSによりモニターした。反応混合物を分離漏斗に移し、AcOEtで希釈し、塩水で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、減圧下で蒸発させた。そして、シリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~75/25)、表題のエステル化合物を得た(収率85%、23.8mg、0.080mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が97%と確認されたが、β位は残H2Oピークとのオーバーラップにより確認できなかった。
【0070】
無色油: Rf 0.74 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.30-5.42 (m, 4H), 3.67 (s, 3H), 2.77 (dd, J = 6.4, 6.4 Hz, 2H), 2.27 (br-s, 0.07H, 97%D), 2.02-2.07 (m, 4H), 1.60 (overlapped with H2O), 1.30-1.36 (m, 20H), 0.89 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 174.4, 130.2, 130.1, 128.1, 127.9, 51.4, 33.0-33.8 (m, α-CD2), 31.5, 29.6, 29.4, 29.1, 28.9, 27.2, 27.2, 25.6, 23.7-24.5 (m, β-CD2), 22.6, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C19H30D4NaO2
+ [M+Na]+ 321.2702, found 321.2710.
IR (ATR-IR, neat) 3008, 2922, 2855, 1737, 1461, 1260, 1193, 1085, 719 cm-1.
【0071】
(4)重水素化標識脂肪酸(リノール酸-2,2,3,3-d
4((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエノイック酸-2,2,3,3-d
4))の調製
【化8】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0072】
公知文献(Meyer, M. P. et al., J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 430-439.)を参考に、上記(3)で得られた化合物を加水分解によりカルボン酸に変換し、表題の重水素化リノール酸-d4を得た。具体的には以下の手順に従って行った。
【0073】
上記(3)で得られたエステル化合物(23.8mg、0.080mmol)、THF(0.80mL)およびメタノール-d1(CH3OD、0.27mL)を粗いN2パージとともに10mLスクリューキャップチューブに入れた。0℃に冷却した後、NaOD/D2O溶液(Sigma-Aldrich、40wt%、30μL)を反応混合物に加えた。混合物を0℃で5分間および室温で2時間撹拌した。進行はTLCによりモニターした。反応を1N HClでクエンチし、ジエチルエーテルで希釈し、分離した。有機層をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、減圧下で蒸発させた。得られた化合物をシリカゲフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(DIOLシリカゲル(富士シリシア化学)、溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、表題の重水素化リノール酸-d4を得た(収率90%、20.4mg、0.072mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%、β位が94%と確認された。
【0074】
無色油: Rf 0.13 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.30-5.42 (m, 4H), 2.77 (dd, J = 6.4, 6.8 Hz, 2H), 2.32 (br-s, 0.08H, 96%D), 2.02-2.08 (m, 4H), 1.59-1.63 (m, 0.11H, 94%D), 1.24-1.39 (m, 14H), 0.89 (t, J = 6.4 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 180.1, 130.2, 130.0, 128.1, 127.9, 32.9-33.8 (m, α-CD2), 31.5, 29.6, 29.4, 29.1 (overlapped), 28.8, 27.2, 27.2, 25.6, 23.6-24.4 (m, β-CD2), 22.6, 14.1
HRMS (ESI (-)) m/z calcd for C18H27D4O2
- [M-H]- 283.2581, found 283.2579.
IR (ATR-IR, neat) 3400-2400 (br), 3009, 2922, 2855, 1707, 1481, 1409, 1293, 947, 839, 719 cm-1.
【0075】
例2:重水素化標識脂肪酸(ステアリン酸)の製造
(1)N-(キノリン-8-イル)ステアラミドの調製
【化9】
ステアリン酸のカルボキシ基の8-キノリンアミド化を例1(1)に記載した手順と同様の手順で行った。ステアリン酸(1.41g、5.0mmol)に対し、最終的にシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、表題化合物を得た(収率77%、1.57g、3.83mmol)。
1HNMRデータは、公知文献(Qian, P. et al., Chem. Lett. 1999, 28, 1229-1230.、Gou, Q. et al., J. Org. Chem. 2015, 80, 3176-3186.)に記載されているものと一致していることが確認された。
【0076】
白色固体: Rf 0.48 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.79-8.82 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.44-7.56 (m, 3H), 2.56 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 1.82 (tt, J =7.6, 7.6 Hz, 2H), 1.25-1.42 (m, 28H), 0.89 (t, J = 6.4 Hz, 3H)
【0077】
(2)重水素化標識化合物(N-(キノリン-8-イル)ステアラミド-2,2,3,3-d
4)の調製
【化10】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0078】
上記(1)で得られた化合物(123.2mg、0.30mmol)の重水素化を例1(2)アおよびイに記載した手順と同様の手順で行った。最終的に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、重水素化された表題の化合物を得た(収率65%、80.6mg、0.195mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%、β位が93%と確認された。
【0079】
白色固体: Rf 0.48 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.82 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.44-7.56 (m, 3H), 2.53 (br-s, 0.08H, 96%D), 1.75-1.82 (m, 0.14H, 93%D), 1.25-1.42 (m, 28H), 0.89 (t, J = 6.4 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 172.0, 148.1, 138.3, 136.3, 134.6, 127.9, 127.5, 121.5, 121.3, 116.4, 37.1-38.0 (m, α-CD2), 31.9, 29.7 (overlapped), 29.7, 29.6, 29.5, 29.4, 29.2, 29.1, 24.5-25.4 (m, β-CD2), 22.7, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C27H38D4N2ONa+ [M+Na]+ 437.3440, found 437.3430
IR (ATR-IR, neat) 3339, 2956,2914, 2848, 1662, 1524, 1487, 1379, 1323, 1267, 1167, 837, 790, 760, 723 cm-1.
mp 62-63 ℃.
【0080】
(3)重水素化エステル化合物(ステアリン酸メチル-2,2,3,3-d
4)の調製
【化11】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0081】
上記(2)で得られた重水素化標識化合物(29.4mg、0.071mmol)について、例1(3)に記載した手順と同様の手順で、8-アミノキノリン部位を脱保護(エステルに変換)した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~75/25)、表題のエステル化合物を得た(収率75%、16.2mg、0.054mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が97%、β位が96%と確認された。
【0082】
白色固体: Rf 0.81 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 3.59 (s, 3H), 2.26 (br-s, 0.08H, 96%D), 1.57-1.59 (m, 0.07H, 97%D), 1.18-1.21 (m, 28H), 0.81 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 173.4, 50.4, 32.1-32.8 (m, α-CD2), 30.9, 28.7 (overlapped), 28.7, 28.6, 28.6, 28.6, 28.4, 28.3, 28.2, 28.0, 27.9, 22.7-23.6 (m, β-CD2), 21.7, 13.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C19H34D4NaO2
+ [M+Na]+ 303.3196, found 303.3198.
IR (ATR-IR, neat) 2952, 2915, 2844, 1737, 1461, 1275, 1193, 1096, 850, 719, 671 cm-1.
mp 38-39 ℃.
【0083】
(4)重水素化標識脂肪酸(ステアリン酸-2,2,3,3-d
4)の調製
【化12】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0084】
上記(3)で得られた化合物(15.4mg、0.051mmol)について、例1(4)に記載した手順と同様の手順で加水分解した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(DIOLシリカゲル、溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~75/25)、表題の重水素化ステアリン酸-d4を得た(収率88%、13.1mg、0.045mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%、β位が94%と確認された。
【0085】
白色固体: Rf 0.81 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ2.32 (br-s, 0.08H, 96%D), 1.59-1.62 (m, 0.12H, 94%D), 1.26-1.30 (m, 28H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 180.0, 130.0, 129.7, 32.9-33.6 (m, α-CD2), 31.9, 29.7(overlapped), 29.7, 29.7, 29.6, 29.5, 29.4, 29.2, 28.9, 28.8, 23.5-242 (m, β-CD2), 22.7, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C18H31D4O2
+ [M+Na]+ 287.2894, found 287.2893.
IR (ATR-IR, neat) 3300-2500 (br), 2956, 2915, 2848, 1696, 1481, 1409, 1320, 1197, 951, 891, 719, 664 cm-1.
mp 68-69 ℃.
【0086】
例3:重水素化標識脂肪酸(オレイン酸)の製造
(1)N-(キノリン-8-イル)オレアミドの調製
【化13】
【0087】
オレイン酸のカルボキシ基の8-キノリンアミド化を例1(1)に記載した手順と同様の手順で行った。オレイン酸(1.41g、5.0mmol)に対し、最終的にシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~80/20)、表題化合物を得た(収率87%、1.77g、4.43mmol)。1HNMRデータは、公知文献(Ano, Y. et al., J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 12984-12986.)に記載されているものと一致していることが確認された。
【0088】
無色油: Rf 0.57 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.82 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.44-7.54 (m, 3H), 5.33-5.35 (m, 2H), 2.56 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 2.00-2.05 (m, 4H), 1.82 (tt, J = 7.6, 7.6 Hz, 2H), 1.26-1.44 (m, 20H), 0.87 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
【0089】
(2)重水素化標識化合物(N-(キノリン-8-イル)オレアミド-2,2,3,3-d
4)の調製
【化14】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0090】
上記(1)で得られた化合物(122.6mg、0.30mmol)の重水素化を例1(2)アおよびイに記載した手順と同様の手順で行った。最終的に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~80/20)、重水素化された表題の化合物を得た(収率78%、98.6mg、0.24mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が97%、β位が97%と確認された。
【0091】
無色油: Rf 0.57 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.79-8.81 (m, 2H), 8.14 (dd, J = 8.0, 1.6 Hz, 2H), 7.42-7.54 (m, 3H), 5.30-5.38 (m, 2H), 2.53 (br-s, 0.06H, 97%D), 1.98-2.01 (m, 4H), 1.77-1.79 (m, 0.07H, 97%D), 1.26-1.42 (m, 20H), 0.87 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 171.9, 148.1, 138.3, 136.3, 134.6, 130.0, 129.8, 127.9, 127.4, 121.5, 121.3, 116.4, 37.1-37.6 (m, α-CD2), 31.9, 29.8 (overlapped), 29.7, 29.5, 29.3, 29.3, 29.2, 29.0, 27.2, 27.2, 24.4-25.4 (m, β-CD2), 22.7, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C27H36D4N2ONa+ [M+Na]+ 435.3284, found 435.3276.
IR (ATR-IR, neat) 3355, 3004, 2922, 2851, 1685, 1521, 1382, 1327, 1264, 824, 790, 753 cm-1.
【0092】
(3)重水素化エステル化合物(オレイン酸メチル-2,2,3,3-d
4)の調製
【化15】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0093】
上記(2)で得られた重水素化標識化合物(58.2mg、0.14mmol)について、例1(3)に記載した手順と同様の手順で、8-アミノキノリン部位を脱保護(エステルに変換)した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~75/25)、表題のエステル化合物を得た(収率87%、37.0mg、0.12mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が97%、β位が96%と確認された。
【0094】
無色油: Rf 0.70 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.30-5.39 (m, 2H), 3.37 (s, 3H), 2.27 (br-s, 0.07H, 97%D), 1.99-2.03 (m, 2H), 1.59-1.65 (m, 0.09H, 96%D), 1.27-1.30 (m, 20H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 174.4, 130.0, 129.8, 51.4, 33.0-33.8 (m, α-CD2), 31.3, 29.8, 29.7, 29.5, 29.3, 29.1, 28.9, 27.2, 27.2, 23.2-24.7 (m, β-CD2), 22.7, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C19H32D4NaO2
+ [M+Na]+ 323.2859, found 323.2852.
IR (ATR-IR, neat) 3004, 2922, 2851, 1741, 1461, 1260, 1193, 1085, 850, 813, 723 cm-1.
【0095】
(4)重水素化標識脂肪酸(オレイン酸-2,2,3,3-d
4)の調製
【化16】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0096】
上記(3)で得られた化合物(18.4mg、0.061mmol)について、例1(4)に記載した手順と同様の手順で加水分解した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(DIOLシリカゲル、溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、表題の重水素化オレイン酸-d4を得た(収率71%、12.4mg、0.043mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が97%、β位が96%と確認された。
【0097】
無色油: Rf 0.28 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.30-5.39 (m, 2H), 2.32-2.33 (m, 0.07H, 97%D), 1.99-2.04 (m, 4H), 1.57-1.63 (m, 0.08H, 96%D), 1.27-1.31 (m, 20H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 180.0, 130.0, 129.7, 33.1-33.7 (m, α-CD2), 31.9, 29.8, 29.7, 29.5, 29.3, 29.1, 29.1, 28.8 (overlapped), 27.2, 27.2, 23.5-24.2 (m, β-CD2), 22.7, 14.1
HRMS (ESI (-)) m/z calcd for C18H29D4O2
- [M-H]- 285.2737, found 285.2730.
IR (ATR-IR, neat) 3300-2500 (br), 3004, 2922, 2851, 1707, 1461, 1409, 1297, 947, 723 cm-1.
【0098】
例4:重水素化標識脂肪酸(エライジン酸)の製造
(1)(E)-N-(キノリン-8-イル)オクタデク-9-エナミドの調製
【化17】
【0099】
エライジン酸のカルボキシ基の8-キノリンアミド化を例1(1)に記載した手順と同様の手順で行った。エライジン酸(1.41g、5.0mmol)に対し、最終的にシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~80/20)、表題化合物を得た(収率86%、1.76g、4.30mmol)。本化合物はCAS No. [1453491-93-4](Pan, F. et al., Org. Lett. 2013, 15, 4758-4761.)として知られているが、スペクトルデータは報告されていない。
【0100】
白色固体: Rf 0.55 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.82 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.44-7.56 (m, 3H), 5.33-5.38 (m, 2H), 2.56 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 1.96 (m, 4H), 1.80 (tt, J = 7.6, 7.6 Hz, 2H), 1.26-1.46 (m, 20H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 171.9, 148.1, 138.4, 136.4, 134.6, 130.5, 130.2, 127.9, 127.5, 121.6, 121.3, 116.4, 38.3, 32.6, 32.6, 31.9, 29.7 (overlapped), 29.6, 29.5, 29.3, 29.3, 29.2, 29.0, 25.7, 22.7, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C27H41N2O+ [M+H]+ 409.3213, found 409.3198.
IR (ATR-IR, neat) 3291, 2915, 2848, 1662, 1521, 1484, 1423, 1379, 1320, 1260, 1167, 958, 824, 787, 757, 719, 678 cm-1.
mp 37-38 ℃.
【0101】
(2)重水素化標識化合物((E)-N-(キノリン-8-イル)オクタデク-9-エナミド-2,2,3,3-d
4)の調製
【化18】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0102】
上記(1)で得られた化合物(122.6mg、0.30mmol)の重水素化を例1(2)アおよびイに記載した手順と同様の手順で行った。最終的に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~80/20)、重水素化された生成物を得た(収率76%、94.1mg、0.23mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が97%、β位が96%と確認された。
【0103】
白色固体: Rf 0.55 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.82 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.0, 1.6 Hz, 2H), 7.43-7.56 (m, 3H), 5.33-5.43 (m, 2H), 2.53 (br-s, 0.07H, 97%D), 1.96 (m, 4H), 1.77-1.81 (m, 0.08H, 96%D), 1.26-1.42 (m, 20H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 172.0, 148.1, 138.3, 136.4, 134.6, 130.4, 130.2, 127.9, 127.5, 121.5, 121.3, 116.4, 37.1-37.8 (m, α-CD2), 32.6, 32.6, 31.9, 29.7 (overlapped), 29.6, 29.5, 29.3, 29.2, 29.2, 29.0, 24.4-25.2 (m, β-CD2), 22.7, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C27H36D4N2ONa+ [M+Na]+ 435.3284, found 435.3278.
IR (ATR-IR, neat) 3291, 2956, 2915, 2848, 1659, 1521, 1379, 1320, 1271, 962, 823, 790, 757, 723 cm-1.
mp 35-36 ℃.
【0104】
(3)重水素化エステル化合物(エライジン酸メチル-2,2,3,3-d
4)の調製
【化19】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0105】
上記(2)で得られた重水素化標識化合物(25.6mg、0.062mmol)について、例1(3)に記載した手順と同様の手順で、8-アミノキノリン部位を脱保護(エステルに変換)した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~75/25)、表題のエステル化合物を得た(収率85%、15.9mg、0.053mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%と確認されたが、β位は残H2Oピークとのオーバーラップにより確認できなかった。
【0106】
無色油: Rf 0.73 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.33-5.43 (m, 2H), 3.67 (s, 3H), 2.27 (br-s, 0.08H, 96%D), 1.95-1.97 (m, 2H), 1.60 (overlapped with H2O), 1.26-1.29 (m, 20H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 173.4, 129.5, 129.2, 50.4, 32.1-32.6 (m, α-CD2), 28.6, 28.5, 28.5, 28.3, 28.2, 28.0, 27.9, 27.8, 22.7-23.6 (m, β-CD2), 21.7, 13.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C19H32D4NaO2
+ [M+Na]+ 323.2859, found 323.2849.
IR (ATR-IR, neat) 2922, 2851, 1741, 1461, 1435, 1260, 1193, 1085, 989, 805, 723 cm-1.
【0107】
(4)重水素化標識脂肪酸(エライジン酸-2,2,3,3-d
4)の調製
【化20】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0108】
上記(3)で得られた化合物(15.0mg、0.050mmol)を加水分解した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(DIOLシリカゲル、溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、表題の重水素化エライジン酸-d4を得た(収率90%、12.9mg、0.045mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%、β位が95%と確認された。
【0109】
白色粘着固体: Rf 0.25 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.33-5.43 (m, 2H), 2.31 (br-s, 0.08H, 96%D), 1.94-1.
97 (m, 4H), 1.60-1.65 (m, 0.10H, 95%D), 1.26-1.30 (m, 20H), 0.88 (t, J = 6.4 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 180.0, 130.5, 130.2, 32.9-33.6 (m, α-CD2), 32.6, 32.6, 31.9, 29.7, 29.7, 29.6, 29.5, 29.3, 29.2, 28.9, 28.8, 23.4-24.2 (m, β-CD2), 22.7, 14.1
HRMS (ESI (-)) m/z calcd for C18H29D4O2
- [M-H]- 285.2737, found 285.2738.
IR (ATR-IR, neat) 3400-2400 (br), 3034, 2960, 2919, 2848, 1711, 1468, 1420, 1375, 1312, 1059, 962, 872, 731, 667 cm-1.
mp 41 ℃.
【0110】
例5:重水素化標識脂肪酸(リノエライジン酸)の製造
(1)(9E,12E)-N-(キノリン-8-イル)オクタデカ-9,12-ジエナミドの調製
【化21】
【0111】
リノエライジン酸のカルボキシ基の8-キノリンアミド化を例1(1)に記載した手順と同様の手順で行った。ステアリン酸(280mg、1.0mmol)に対し、最終的にシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、表題化合物を得た(収率90%、181.2mg、0.45mmol)。
【0112】
無色油: Rf 0.55 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.81 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.44-7.54 (m, 3H), 5.35-5.45 (m, 4H), 2.65-2.66 (m, 2H), 2.56 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 1.95-2.00 (m, 4H), 1.82 (tt, J = 7.6, 7.6 Hz, 2H), 1.24-1.41 (m, 14H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 171.9, 148.1, 138.4, 136.4, 134.6, 131.1, 131.0, 128.7, 128.6, 127.9, 127.5, 121.6, 121.3, 116.4, 38.3, 35.7, 32.6, 31.4, 29.5, 29.2, 29.2, 29.0, 25.7, 22.6, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C27H38N2ONa+ [M+Na]+ 429.2876, found 429.2875.
IR (ATR-IR, neat) 3355, 2922, 2851, 1689, 1521, 1484, 1424, 1383, 1323, 1260, 1189, 969, 828, 790, 752 cm-1.
【0113】
(2)重水素化標識化合物((9E,12E)-N-(キノリン-8-イル)オクタデカ-9,12-ジエナミド-2,2,3,3-d
4)の調製
【化22】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0114】
上記(1)で得られた化合物(131.4mg、0.32mmol)の重水素化を例1(2)アおよびイに記載した手順と同様の手順で行った。最終的に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、重水素化された生成物を得た(収率75%、98.5mg、0.24mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が95%、β位が97%と確認された。
【0115】
無色油: Rf 0.55 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.81 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.0, 1.6 Hz, 2H), 7.42-7.55 (m, 3H), 5.38-5.42 (m, 4H), 2.65-2.66 (m, 2H), 2.53 (br-s, 0.06H, 97%D), 1.95-2.00 (m, 4H), 1.77-1.83 (m, 0.10H, 95%D), 1.24-1.41 (m, 14H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 171.9, 148.1, 138.3, 136.3, 134.6, 131.1, 130.9, 128.7, 128.5, 127.9, 127.4, 121.5, 121.3, 116.4, 37.1-37.9 (m, α-CD2), 35.6, 32.5, 31.4, 29.5, 29.2, 29.0 (overlapped), 24.6-25.4 (m, β-CD2), 22.5, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C27H34D4N2ONa+ [M+Na]+ 433.3127, found 433.3139.
IR (ATR-IR, neat) 3355, 3023, 2922, 2851, 1685, 1521, 1424, 1383, 1327, 1264, 969, 917, 824, 790, 753, 678 cm-1.
【0116】
(3)重水素化エステル化合物(リノエライジン酸メチル2,2,3,3-d
4)の調製
【化23】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0117】
上記(2)で得られた重水素化標識化合物(21.0mg、0.051mmol)について、例1(3)に記載した手順と同様の手順で、8-アミノキノリン部位を脱保護(エステルに変換)した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~75/25)、表題のエステル化合物を得た(収率86%、13.1mg、0.044mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が97%と確認されたが、β位は残H2Oピークとのオーバーラップにより確認できなかった。
【0118】
無色油: Rf 0.62 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.35-5.46 (m, 4H), 3.67 (s, 3H), 2.66-2.67 (m, 2H), 2.27 (br-s, 0.07H, 97%D), 1.97-1.99 (m, 4H), 1.60 (overlapped with H2O), 1.26-1.35 (m, 14H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 174.4, 131.1, 130.9, 128.7, 128.6, 51.4, 35.6, 33.0-33.9 (m, α-CD2), 32.5, 32.5, 31.4, 29.5, 29.2, 29.1, 29.0, 28.9, 23.7-24.7 (m, β-CD2), 22.6, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C19H30D4NaO2+ [M+Na]+ 321.2702, found 321.2700.
IR (ATR-IR, neat) 3023, 2922, 2855, 1737, 1461, 1435, 1260, 1193, 1085, 969, 805, 727 cm-1.
【0119】
(4)重水素化標識脂肪酸(リノエライジン酸-2,2,3,3-d
4)の調製
【化24】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0120】
リノエライジン酸メチル-d4(37.5mg、0.13mmol)について、例1(4)に記載した手順と同様の手順で加水分解した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(DIOLシリカゲル、溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、表題の重水素化リノエライジン酸-d4を得た(収率73%、26.0mg、0.091mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%、β位が94%と確認された。
【0121】
白色粘着固体: Rf 0.13 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.35-5.46 (m, 4H), 2.62-2.71 (m, 2H), 2.31 (br-s, 0.08H, 96%D), 1.96-2.00 (m, 4H), 1.58-1.61 (m, 0.11H, 94%D), 1.25-1.38 (m, 14H), 0.88 (t, J = 6.4 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 180.2, 131.1, 130.9, 128.7, 128.5, 35.7, 32.9-33.6 (m, α-CD2), 32.6, 32.5, 31.4, 29.4, 29.2, 29.1, 29.0, 28.8, 23.4-24.4 (m, β-CD2), 22.6, 14.1
HRMS (ESI (-)) m/z calcd for C18H27D4O2
- [M-H]- 283.2581, found 283.2582.
IR (ATR-IR, neat) 3300-2500 (br), 3023, 2922, 2855, 1707, 1461, 1409, 1293, 1088, 985, 839, 727 cm-1.
mp 28-29 ℃.
【0122】
例6:重水素化標識脂肪酸((S,9Z,11E)-13-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)オクトデカ-9,11-ジエノン酸(TBS-13-HODE))の製造
(1)(S,9Z,11E)-13-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-N-(キノリン-8-イル)オクタデカ-9,11-ジエナミドの調製
【化25】
【0123】
TBS-13-HODEのカルボキシ基の8-キノリンアミド化を例8(1)に記載した手順と同様の手順で行った。TBS-13-HODE(385mg、0.94mmol)に対し、最終的にシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~65/35)、表題化合物を得た(収率70%、377mg、0.70mmol)。
【0124】
無色油: Rf 0.55 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.81 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.0, 1.6 Hz, 2H), 7.44-7.54 (m, 3H), 6.41 (dd, J = 14.8, 10.8 Hz, 1H), 5.96 (dd, J = 10.8, 10.8 Hz, 1H), 5.61 (dd, J = 14.8, 6.0 Hz, 1H), 5.39 (dt, J = 10.8, 7.6 Hz, 1H), 4.14 (dt, J = 6.0, 6.0 Hz, 1H), 2.56 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 2.16 (dt, J = 7.2, 7.2 Hz, 2H), 1.82 (tt, J = 7.6, 7.6 Hz, 2H), 1.26-1.46 (m, 16H), 0.86-0.89 (m, 12H), 0.04 (s, 3H), 0.02 (s, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 171.9, 148.1, 138.3, 136.8, 136.3, 134.6, 131.7, 128.1, 128.0, 127.5, 124.4, 121.6, 121.3, 116.4, 73.2, 38.4, 38.3, 31.9, 29.7, 29.3, 29.3, 29.1, 27.7, 25.9, 25.7, 25.0, 22.6, 18.3, 14.1, -4.3, -4.7
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C33H52N2O2SiNa+ [M+Na]+ 559.3690, found 559.3695.
IR (ATR-IR, neat) 3355, 3004, 2926, 2855, 1689, 1521, 1484, 1383, 1323, 1252, 1074, 984, 828, 675 cm-1.
【0125】
(2)重水素化標識化合物((S,9Z,11E)-13-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-N-(キノリン-8-イル)オクタデカ-9,11-ジエナミド-2,2,3,3-d
4)の調製
【化26】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0126】
上記(1)で得られた化合物(201.1mg、0.375mmol)の重水素化を例1(2)アおよびイに記載した手順と同様の手順で行った。最終的に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~65/35)、重水素化された表題の化合物を得た(収率69%、138.9mg、0.257mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が97%、β位が97%と確認された。
【0127】
無色油: Rf 0.55 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.81 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.44-7.54 (m, 3H), 6.41 (dd, J = 14.8, 10.8 Hz, 1H), 5.96 (dd, J = 10.8, 10.8 Hz, 1H), 5.61 (dd, J = 14.8, 6.0 Hz, 1H), 5.39 (dt, J = 10.8, 7.6 Hz, 1H), 4.16 (dt, J = 6.0, 6.0 Hz, 1H), 2.53 (br-s, 0.05H, 97%D), 2.16 (dt, J = 7.6, 7.2 Hz, 2H), 1.77-1.81 (m, 0.05H, 97%D), 1.26-1.56 (m, 16H), 0.86-0.89 (m, 12H), 0.04 (s, 3H), 0.02 (s, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 171.9, 148.1, 138.3, 136.8, 136.3, 134.6, 131.7, 128.1, 127.9, 127.4, 124.4, 121.5, 121.3, 116.4, 73.2, 38.4, 37.0-37.9 (m, α-CD2), 31.8, 29.7, 29.3, 29.1, 29.0, 27.7, 25.9, 24.9, 24.4-25.1 (m, β-CD2), 22.6, 18.3, 14.1, -4.3, -4.8
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C33H48D4N2O2SiNa+ [M+Na]+ 563.3941, found 563.3944.
IR (ATR-IR, neat) 3355, 2922, 2855, 1685, 1521, 1383, 1327, 1252, 1074, 984, 835, 734 cm-1.
【0128】
(3)重水素化エステル化合物(TBS-13-HODEメチル-2,2,3,3-d
4((S,9Z,11E)-13-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)オクタデカ-9,11-ジエノエートメチル-2,2,3,3-d
4))の調製
【化27】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0129】
上記(2)で得られた重水素化標識化合物(154.6mg、0.29mmol)について、例1(3)に記載した手順と同様の手順で、8-アミノキノリン部位を脱保護(エステルに変換)した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~75/25)、表題のエステル化合物を得た(収率62%、76.9mg、0.18mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が97%と確認されたが、β位は残H2Oピークとのオーバーラップにより確認できなかった。
【0130】
無色油: Rf 0.68 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.41 (dd, J = 14.8, 10.8 Hz, 1H), 5.96 (dd, J = 10.8, 10.8 Hz, 1H), 5.61 (dd, J = 14.8, 6.0 Hz, 1H), 5.39 (dt, J = 10.8, 7.6 Hz, 1H), 4.15 (dt, J = 6.0, 6.0 Hz, 1H), 3.67 (s, 3H), 2.27 (br-s, 0.06H, 97%D), 2.13-2.18 (m, 2H), 1.58 (overlapped with H2O), 1.27-1.52 (m, 6H), 0.86-0.90 (m, 12H), 0.05 (m, 3H), 0.02 (m, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 174.4, 136.9, 131.7, 128.3, 124.5, 73.3, 51.5, 38.5, 33.0-33.8 (m, α-CD2), 32.0, 29.7, 29.2, 29.2, 29.0, 27.8, 27.5, 26.0, 25.1, 23.8-24.7 (m, β-CD2), 22.7, 18.3, 14.2, -4.2, -4.7
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C25H44D4NaO3Si+ [M+Na]+ 451.3516, found 451.3506.
IR (ATR-IR, neat) 3008, 2948, 2930, 2855, 1741, 1461, 1435, 1360, 1252, 1193, 1077, 984, 951, 835, 775, 734 cm-1.
【0131】
(4)重水素化標識脂肪酸(TBS-13-HODE-2,2,3,3-d
4((S,9Z,11E)-13-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)オクトデカ-9,11-ジエノン酸-2,2,3,3-d
4))の調製
【化28】
【0132】
TBS-13-HODEメチル-2,2,3,3-d4(91.4mg、0.213mmol)について、例1(4)に記載した手順と同様の手順で加水分解した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(DIOLシリカゲル、溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=90/10~80/20)、表題の重水素化TBS-13-HODEを得た(収率94%、82.8mg、0.20mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が97%、β位が96%と確認された。
【0133】
無色油: Rf 0.17 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.41 (dd, J = 14.8, 10.8 Hz, 1H), 5.96 (dd, J = 10.8, 10.8 Hz, 1H), 5.61 (dd, J = 14.8, 6.0 Hz, 1H), 5.39 (dt, J = 10.8, 7.6 Hz, 1H), 4.15 (dt, J = 6.0, 6.0 Hz, 1H), 2.31 (br-s, 0.07H, 97%D), 2.13-2.18 (m, 2H), 1.58-1.61 (m, 0.08H, 96%D), 1.26-1.49 (m, 16H), 0.86-0.90 (m, 12H), 0.05 (s, 3H), 0.03 (s, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 180.2, 136.8, 131.6, 128.2, 124.4, 73.2, 38.4, 32.9-33.7 (m, α-CD2), 31.8, 29.6, 29.1, 29.0, 28.8, 27.7, 25.9, 25.0, 23.4-24.4 (m, β-CD2), 22.6, 18.3, 14.1
HRMS (ESI (-)) m/z calcd for C24H42D4O3SiNa+ [M+Na]+ 437.3359, found 437.3349.
IR (ATR-IR, neat) 3400-2400 (br), 3008, 2926, 2855, 1707, 1461, 1409, 1361, 1297, 1252, 1074, 984, 947, 872, 835, 775, 731, 671 cm-1.
【0134】
例7:重水素化標識脂肪酸(エルカ酸)の製造
(1)(Z)-N-(キノリン-8-イル)ドコス-13-エナミドの調製
【化29】
【0135】
エルカ酸のカルボキシ基の8-キノリンアミド化を例8(1)に記載した手順と同様の手順で行った。エルカ酸(880mg、2.6mmol)に対し、最終的にシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~82/18)、表題化合物を得た(収率70%、840mg、1.81mmol)。1HNMRデータは、公知文献(Sun, W.-W. et al., Org. Lett. 2013, 16, 480-483.)に記載されているものと一致していることが確認された。
【0136】
無色油: Rf 0.43 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.81 (br-s, 1H), 8.78-8.81 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.4, 1.2 Hz, 2H), 7.43-7.56 (m, 3H), 5.31-5.38 (m, 2H), 2.56 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 1.99-2.06 (m, 4H), 1.91 (tt, J = 7.6, 7.2 Hz, 2H), 1.26-1.45 (m, 28H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
【0137】
(2)重水素化標識化合物((Z)-N-(キノリン-8-イル)ドコス-13-エナミド-2,2,3,3-d
4)の調製
【化30】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0138】
上記(1)で得られた化合物(71.5mg、0.15mmol)の重水素化を例1(2)アおよびイに記載した手順と同様の手順で行った。最終的に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~82/18)、重水素化された表題の化合物を得た(収率83%、59.9mg、0.13mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が97%、β位が97%と確認された。
【0139】
無色油: Rf 0.43 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.79-8.81 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.4, 1.2 Hz, 2H), 7.44-7.56 (m, 3H), 5.31-5.38 (m, 2H), 2.53 (br-s, 0.07H, 97%D), 1.93-2.01 (m, 4H), 1.77-1.80 (m, 0.07H, 97%D), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 172.0, 148.1, 138.3, 136.3, 134.6, 129.9 (overlapped), 127.9, 127.4, 121.5, 121.3, 116.4, 37.3-38.0 (m, α-CD2), 31.9, 29.8, 29.7, 29.7, 29.6 (overlapped), 29.6, 29.5 (overlapped), 29.4, 29.3 (overlapped), 29.1, 27.2, 24.5-25.2 (m, β-CD2), 22.7, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C31H44D4N2NaO+ [M+Na]+ 491.3910, found 491.3914.
IR (ATR-IR, neat) 3355, 2922, 2815, 1685, 1521, 1383, 1327, 1263, 824, 790, 753, 723, 678 cm-1.
【0140】
(3)重水素化エステル化合物(エルカ酸メチル-2,2,3,3-d
4((13Z)-13-ドコセン酸メチル-2,2,3,3-d
4))の調製
【化31】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0141】
上記(2)で得られた重水素化標識化合物(29.2mg、0.062mmol)について、例1(3)に記載した手順と同様の手順で、8-アミノキノリン部位を脱保護(エステルに変換)した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~75/25)、表題のエステル化合物を得た(収率83%、18.3mg、0.051mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が97%と確認されたが、β位は残H2Oピークとのオーバーラップにより確認できなかった。
【0142】
無色油: Rf 0.71 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.31-5.39 (m, 2H), 3.67 (s, 3H), 2.27 (br-s, 0.08H, 96%D), 1.97-2.06 (m, 2H), 1.58 (overlapped with H2O), 1.26-1.29 (m, 28H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 174.4, 129.9, 129.9, 51.4, 33.0-33.9 (m, α-CD2), 31.9, 29.8, 29.7, 29.7, 29.6, 29.6, 29.6, 29.5, 29.5, 29.3 (overlapped), 29.2, 29.0, 28.9, 27.2, 23.7-24.6 (m, β-CD2), 22.7, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C23H40D4NaO2
+ [M+Na]+ 379.3485, found 379.3472.
IR (ATR-IR, neat) 3004, 2922, 2851, 1741, 1481, 1260, 1193, 1074, 805, 723 cm-1.
【0143】
(4)重水素化標識脂肪酸(エルカ酸-2,2,3,3-d
4((13Z)-13-ドコセン酸-2,2,3,3-d
4))の調製
【化32】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0144】
上記(3)で得られた化合物(17.7mg、0.050mmol)について、例1(4)に記載した手順と同様の手順で加水分解した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(DIOLシリカゲル、溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、表題の重水素化エルカ酸-d4を得た(収率95%、16.2mg、0.047mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が97%、β位が97%と確認された。
【0145】
白色粘着固体: Rf 0.31 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.31-5.39 (m, 2H), 2.31 (br-s, 0.06H, 97%D), 1.97-2.06 (m, 4H), 1.55-1.65 (m, 0.07H, 97%D), 1.26-1.34 (m, 28H), 0.88 (t, J = 6.4 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 180.1, 129.9, 129.9, 32.9-33.7 (m, α-CD2), 31.9, 29.8, 29.7, 29.7 29.6, 29.6, 29.6, 29.5, 29.5, 29.5, 29.3 (overlapped), 29.2, 28.8, 27.2, 23.7-24.4 (m, β-CD2), 22.7, 14.1
HRMS (ESI (-)) m/z calcd for C22H37D4O2
- [M-H]- 341.3363, found 341.3359.
IR (ATR-IR, neat) 3300-2500 (br), 3001, 2915, 2848, 1692, 1469, 1405, 1293, 1234, 1185,1059, 947, 723 cm-1.
mp 30-31 ℃.
【0146】
例8:重水素化標識脂肪酸(パルミチン酸)の製造
(1)N-(キノリン-8-イル)パルミタミドの調製
【化33】
【0147】
パルミチン酸のカルボキシ基の8-キノリンアミド化をスキーム4の反応に基づいて行った。具体的には下記の手順に従って行った。パルミチン酸(129mg、0.5mmol)、8-アミノキノリン(79mg、0.55mmol)、WSCD・HCl(125mg、0.65mmol)、DMAP(6.1mg、0.05mmol)、およびCH2Cl2(5mL)を室温でアルゴン雰囲気下の50mLシェンクチューブに入れた。一晩撹拌した後、反応をNH4Cl水溶液でクエンチし、塩水で洗った。有機層をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、減圧下で蒸発させた。得られた化合物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、表題化合物を得た(収率87%、166.3mg、0.044mmol)。
【0148】
白色固体: Rf 0.41 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.81 (br-s, 1H), 8.80-8.82 (m, 2H), 8.17 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.46-7.56 (m, 3H), 2.56 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 1.82 (tt, J =7.6, 7.6 Hz, 2H), 1.25-1.47 (m, 24H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 172.0, 148.1, 138.4, 136.4, 134.6, 127.9, 127.5, 121.5, 121.3, 116.4, 38.3, 31.9, 29.7, 29.7, 29.7, 29.7, 29.6, 29.5, 29.4, 29.4, 29.4 29.3, 25.7, 22.7, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C25H39N2O+ [M+H]+ 383.3057, found 383.3053.
IR (ATR-IR, neat) 3291, 2915, 2848, 1659, 1521, 1484, 1424, 1379, 1320, 1252, 1170, 824, 787, 753, 719 cm-1.
mp 57-58 ℃.
【0149】
(2)重水素化標識化合物(N-(キノリン-8-イル)パルミタミド-2,2,3,3-d
4)の調製
【化34】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0150】
上記(1)で得られた化合物(38.3mg、0.10mmol)の重水素化を例1(2)アおよびイに記載した手順と同様の手順で行った。最終的に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、重水素化された表題の化合物を得た(収率81%、31.2mg、0.081mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%、β位が98%と確認された。
【0151】
白色固体:Rf0.41(n-hexane/AcOEt=4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.81 (m, 2H), 8.15 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.43-7.55 (m, 3H), 2.53 (br-s, 0.08H, 96%D), 1.77-1.80 (m, 0.04H, 98%D), 1.25-1.42 (m, 24H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 172.0, 148.1, 138.4, 136.4, 134.6, 127.9, 127.5, 121.5, 121.3, 116.4, 37.3-38.0 (m, α-CD2), 31.9, 29.7 (overlapped), 29.7, 29.6, 29.5, 29.4, 29.2, 29.1, 24.4-25.4 (m, β-CD2), 22.7, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C25H34D4N2ONa+ [M+Na]+ 409.3127, found 409.3124.
IR (ATR-IR, neat) 3291, 2956, 2915, 2848, 1655, 1520, 1423, 1379, 1319, 1267, 1162, 823, 787, 753, 719 cm-1.
mp 55-56 ℃.
【0152】
(3)重水素化エステル化合物(パルミチン酸メチル-2,2,3,3-d
4(ヘキサデカン酸メチル-2,2,3,3-d
4))の調製
【化35】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0153】
上記(2)で得られた重水素化標識化合物(9.7mg、0.025mmol)について、例1(3)に記載した手順と同様の手順で、8-アミノキノリン部位を脱保護(エステルに変換)した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~75/25)、表題のエステル化合物を得た(収率66%、4.5mg、0.016mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%、β位が95%と確認された。
【0154】
白色ろう状個体: Rf 0.71 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 3.66 (s, 3H), 2.26 (br-s, 0.08H, 96%D), 1.58 (m, 0.10H, 95%D), 1.25-1.28 (m, 24H), 0.87 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 174.4, 51.4, 33.0-33.6 (m, α-CD2), 31.9, 29.7, 29.7, 29.7, 29.6, 29.6, 29.5, 29.4, 29.4, 29.2, 28.9, 23.8-24.7 (m, β-CD2), 22.7, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C17H30D4NaO2
+ [M+Na]+ 297.2702, found 297.2695.
IR (ATR-IR, neat) 2956, 2922, 2855, 1741, 1465, 1435, 1260, 1193, 1077, 1025, 801, 719 cm-1.
【0155】
(4)重水素化標識脂肪酸(パルミチン酸-2,2,3,3-d
4(ヘキサデカン酸-2,2,3,3-d
4))の調製
【化36】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0156】
上記(3)で得られた化合物(25.2mg、0.092mmol)について、例1(4)に記載した手順と同様の手順で加水分解した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(DIOLシリカゲル、溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、表題の重水素化パルミチン酸-d4を得た(収率82%、19.7mg、0.76mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%、β位が95%と確認された。
【0157】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ2.31 (br-s, 0.08H, 96%D), 1.59-1.62 (m, 0.10H, 95%D), 1.26-1.30 (m, 24H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 180.3, 32.9-33.8 (m, α-CD2), 31.9, 29.7, 29.7, 29.7, 29.7, 29.7, 29.6, 29.4, 29.4, 29.2, 28.8, 23.5-24.2 (m, β-CD2), 22.7, 14.1
HRMS (ESI (-)) m/z calcd for C16H27D4O2
- [M-H]- 259.2581, found 259.2580.
IR (ATR-IR, neat) 3300-2400 (br), 2956, 2915, 2848, 1692, 1469, 1413, 1312, 1200, 951, 891, 719, 664 cm-1.
mp 62-63 ℃.
【0158】
例9:重水素化標識脂肪酸(リシノール酸)の製造
(1)(R,Z)-12-ヒドロキシ-N-(キノリン-8-イル)オクタデック-9-エナミドの調製
【化37】
【0159】
リシノール酸のカルボキシ基の8-キノリンアミド化を例8(1)に記載した手順と同様の手順で行った。リシノール酸(303mg、1.02mmol、純度80%、関東化学)に対し、最終的にシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより2回精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~65/35)、表題化合物を得た(収率14%、62.0mg、0.15mmol)。
【0160】
無色油: Rf 0.35 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.80-8.82 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.0, 1.6 Hz, 2H), 7.44-7.54 (m, 3H), 5.53-5.59 (m, 1H), 5.37-5.43 (m, 1H), 3.58-3.64 (m, 1H), 2.56 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 2.21 (dd, J = 6.8, 6.4 Hz, 2H), 2.03-2.06 (m, 2H), 1.82 (tt, J = 7.6, 7.6 Hz, 2H), 1.28-1.48 (m, 18H), 0.89 (t, J = 6.4 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 171.9, 148.1, 138.3, 136.4, 134.6, 133.3, 127.9, 127.5, 125.3, 121.6, 121.3, 116.4, 71.5, 38.2, 36.9, 35.4, 31.8, 29.6, 29.4, 29.3, 29.2, 29.1, 27.4, 25.7, 25.6, 22.6, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C27H40N2O2Na+ [M+Na]+ 447.2982, found 447.2986.
IR (ATR-IR, neat) 3351, 3004, 2922, 2851, 1677, 1521, 1484, 1383, 1323, 1254, 1062, 828, 790, 757, 690 cm-1.
【0161】
(2)重水素化標識化合物((R,Z)-12-ヒドロキシ-N-(キノリン-8-イル)オクタデック-9-エナミド-2,2,3,3-d
4)の調製
【化38】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0162】
上記(1)で得られた化合物(27.5mg、0.065mmol)の重水素化を例1(2)アおよびイに記載した手順と同様の手順で行った。最終的に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~65/35)、重水素化された表題の化合物を得た(収率53%、14.7mg、0.034mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%、β位が95%と確認された。
【0163】
無色油: Rf 0.35 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.82 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.44-7.54 (m, 3H), 5.53-5.59 (m, 1H), 5.37-5.43 (m, 1H), 3.58-3.64 (m, 1H), 2.53 (br-s, 0.09H, 96%D), 2.20 (dd, J = 6.8, 6.4 Hz, 2H), 2.03-2.06 (m, 2H), 1.77-1.80 (m, 0.10H, 95%D), 1.25-1.48 (m, 18H), 0.88 (t, J = 6.4 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 172.0, 148.1, 138.3, 136.4, 134.6, 133.4, 127.9, 127.5, 125.5, 121.6, 121.3, 116.4, 71.5, 37.1-37.8 (m, α-CD2), 36.9, 35.4, 31.8, 29.6, 29.4, 29.2, 29.1, 29.0, 27.4, 25.7, 24.4-25.3 (m, β-CD2), 22.6, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C27H36D4N2O2Na+ [M+Na]+ 451.3233, found 451.3229.
IR (ATR-IR, neat) 3350, 3004, 2922, 2851, 1677, 1520, 1484, 1383, 1327, 1263, 1047, 828, 790, 767 cm-1.
【0164】
(3)重水素化エステル化合物(リシノール酸メチル-2,2,3,3-d
4(((R,Z)-12-ヒドロキシオクタデカ-9-エノエート-2,2,3,3-d
4))の調製
【化39】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0165】
上記(2)で得られた重水素化標識化合物(21.7mg、0.051mmol)について、例1(3)に記載した手順と同様の手順で、8-アミノキノリン部位を脱保護(エステルに変換)した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=95/5~75/25)、表題のエステル化合物を得た(収率61%、9.7mg、0.031mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が95%と確認されたが、β位は残H2Oピークとのオーバーラップにより確認できなかった。
【0166】
無色油: Rf 0.54 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.53-5.60 (m, 1H), 5.37-5.44 (m, 1H), 3.67 (s, 3H), 3.61-3.65 (m, 1H), 2.27 (br-s, 0.10H, 95%D), 2.21 (dd, J = 6.8, 6.8 Hz, 2H), 2.05 (dt, J = 7.2, 6.8 Hz, 2H), 1.58 (overlapped with H2O), 1.25-1.48 (m, 18H), 0.88 (t, J = 6.4 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 174.4, 133.4, 125.2, 71.5, 51.4, 36.9, 35.4, 32.9-33.8 (m, α-CD2), 31.8, 29.6, 29.4, 29.1, 29.1, 28.8, 27.4, 25.7, 23.7-24.6 (m, β-CD2), 22.6, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C19H32D4O3Na+ [M+Na]+ 339.2808, found 339.2806.
IR (ATR-IR, neat) 3437 (br), 3008, 2922, 2855, 1737, 1461, 1435, 1267, 1193, 1122, 1081, 1044, 857, 805, 723 cm-1.
【0167】
(4)重水素化標識脂肪酸(リシノール酸-2,2,3,3-d
4((R,Z)-12-ヒドロキシオクタデカ-9-エノン酸-2,2,3,3-d
4))の調製
【化40】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0168】
上記(3)で得られた化合物(14.0mg、0.044mmol)について、例1(4)に記載した手順と同様の手順で加水分解した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(DIOLシリカゲル、溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=90/10~60/40)、表題の重水素化パルミチン酸-d4を得た(収率89%、11.8mg、0.039mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が95%、β位が93%と確認された。
【0169】
無色油: Rf 0.54 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.52-5.59 (m, 1H), 5.36-5.43 (m, 1H), 3.59-3.65 (m, 1H), 2.30 (br-s, 0.10H, 95%D), 2.21 (dd, J = 6.8, 6.8 Hz, 2H), 2.05 (td, J = 7.2, 6.8 Hz, 2H), 1.58-1.61 (m, 0.15H (overlapped), ca. 93%D), 1.25-1.49 (m, 18H), 0.88 (t, J = 6.4 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 179.4, 133.4, 125.2, 71.6, 36.8, 35.3, 32.9-33.7 (m, α-CD2), 31.8, 29.5, 29.3, 29.0, 28.9, 28.7, 27.3, 25.7, 23.4-24.4 (m, β-CD2), 22.6, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C18H30D4O3Na+ [M+Na]+ 325.2651, found 325.2655.
IR (ATR-IR, neat) 3500-2400 (br), 3011, 2922, 2855, 1707, 1461, 1405, 1290, 1123, 1077, 1033, 947, 857, 801, 723 cm-1.
【0170】
例10:重水素化標識脂肪酸(13-HODE)の製造
(1)(S,9Z,11E)-13-ヒドロキシ-N-(キノリン-8-イル)オクタデカ-9,11-ジエナミドの調製
【化41】
【0171】
13-HODEのカルボキシ基の8-キノリンアミド化を例8(1)に記載した手順と同様の手順で行った。13-HODE(102.3mg、0.345mmol)に対し、最終的にシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより2回精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~75/25)、表題化合物を得た(収率27%、38.8mg、0.092mmol)。
【0172】
無色油: Rf 0.32 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.81 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.43-7.53 (m, 3H), 6.49 (dd, J = 15.2, 11.2 Hz, 1H), 5.97 (dd, J = 11.2, 11.2 Hz, 1H), 5.66 (dd, J = 15.2, 6.8 Hz, 1H), 5.43 (dt, J = 11.2, 7.6 Hz, 1H), 4.16 (dt, J = 7.6, 6.4 Hz, 1H), 2.56 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 2.18 (dt, J = 6.8, 6.8 Hz, 2H), 1.80-1.83 (m, 2H), 1.23-1.61 (m, 16H), 0.88 (t, J = 6.4 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 172.0, 148.1, 138.3, 136.4, 136.0, 134.6, 132.8, 128.0, 127.9, 127.5, 125.7, 121.6, 121.4, 116.5, 72.9, 38.2, 37.4, 31.8, 29.5, 29.2, 29.1, 28.9, 27.6, 25.6, 25.1, 22.6, 14.0
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C27H38N2O2Na+ [M+Na]+ 445.2825, found 445.2823.
IR (ATR-IR, neat) 3347, 3004, 2922, 2851, 1677, 1525, 1484, 1383, 1323, 1260, 1066, 984, 947, 828, 790, 753 cm-1.
【0173】
(2)重水素化標識化合物((S,9Z,11E)-13-ヒドロキシ-N-(キノリン-8-イル)オクタデカ-9,11-ジエナミド-2,2,3,3-d
4)の調製
【化42】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0174】
上記(1)で得られた化合物(38.8mg、0.092mmol)の重水素化を例1(2)アおよびイに記載した手順と同様の手順で行った(第2工程は21時間)。最終的に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~75/25)、重水素化された表題の化合物を得た(収率64%、25.0mg、0.059mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が93%、β位が94%と確認された。
【0175】
無色油: Rf 0.32 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.81 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.43-7.53 (m, 3H), 6.49 (dd, J = 15.2, 11.2 Hz, 1H), 5.97 (dd, J = 11.2, 11.2 Hz, 1H), 5.66 (dd, J = 15.2, 6.8 Hz, 1H), 5.43 (dt, J = 11.2, 7.6 Hz, 1H), 4.16 (dt, J = 7.6, 6.4 Hz, 1H), 2.53 (br-s, 0.14H, 93%D), 2.18 (dt, J = 6.8, 6.8 Hz, 2H), 1.77-1.81 (m, 0.13H, 94%D), 1.23-1.61 (m, 16H), 0.88 (t, J = 6.4 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 172.0, 148.1, 138.3, 136.4, 136.0, 134.5, 132.8, 127.9, 127.8, 127.5, 125.7, 121.6, 121.4, 116.5, 72.8, 37.2-37.7 (m, α-CD2), 37.3, 31.8, 29.4, 29.1, 28.9, 27.6, 25.1, 24.5-25.2 (m, β-CD2), 22.6, 14.0
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C27H34D4N2O2Na+ [M+Na]+ 449.3077, found 449.3073.
IR (ATR-IR, neat) 3347, 3004, 2922, 2851, 1677, 1521, 1484, 1383, 1327, 1263, 1047, 984, 947, 828, 790 cm-1.
【0176】
(3)重水素化エステル化合物((S,9Z,11E)-13-ヒドロキシオクタデカ-9,11-ジエン酸メチル-2,2,3,3-d
4)の調製
【化43】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0177】
上記(2)で得られた重水素化標識化合物(24.0mg、0.056mmol)について、例1(3)に記載した手順と同様の手順で、8-アミノキノリン部位を脱保護(エステルに変換)した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=95/5~75/25)、表題のエステル化合物を得た(収率60%、10.6mg、0.034mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が94%と確認されたが、β位は残H2Oピークとのオーバーラップにより確認できなかった。
【0178】
無色油: Rf 0.39 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.48 (dd, J = 15.2, 11.2 Hz, 1H), 5.97 (dd, J = 11.2, 11.2 Hz, 1H), 5.66 (dd, J = 15.2, 6.8 Hz, 1H), 5.43 (dt, J = 11.2, 7.6 Hz, 1H), 4.16 (dt, J = 6.8, 6.4 Hz, 1H), 3.13 (s, 3H), 2.27 (br-s, 0.13H, 94%D), 2.18 (dt, J = 7.2, 7.2 Hz, 2H), 1.25-1.64 (m, 16H), 0.89 (t, J = 6.4 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 174.4, 136.0, 132.8, 127.8, 125.7, 72.9, 51.5, 37.3, 33.1-33.8 (m, α-CD2), 31.8, 29.5, 29.0, 29.0, 28.8, 27.7, 25.1, 23.7-24.6 (m, β-CD2), 22.6, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C19H30D4O3Na+ [M+Na]+ 337.2651, found 337.2650.
IR (ATR-IR, neat) 3448 (br), 3008, 2926, 2855, 1737, 1461, 1435, 1267, 1193, 1126, 1081, 1048, 984, 951, 913, 854, 854, 731 cm-1.
【0179】
(4)重水素化標識脂肪酸(13-HODE-2,2,3,3-d
4((S,9Z,11E)-13-ヒドロキシオクタデカ-9,11-ジエン酸-2,2,3,3-d
4))
【化44】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0180】
上記(3)で得られた化合物(17.5mg、0.056mmol)について、例1(4)に記載した手順と同様の手順で加水分解した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(DIOLシリカゲル、溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、表題の重水素13-HODE-d4を得た(収率84%、14.1mg、0.047mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が94%と確認されたが、β位は残H2Oピークとのオーバーラップにより確認できなかった。
【0181】
無色油: Rf 0.13 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3):δ 6.49 (dd, J = 15.1, 11.2 Hz, 1H), 5.97 (dd, J = 11.2, 11.2 Hz, 1H), 5.66 (dd, J = 15.1, 6.8 Hz, 1H), 5.43 (dt, J = 11.2, 7.6 Hz, 1H), 4.17 (dt, J = 6.8, 6.4 Hz, 1H), 2.31 (br-s, 0.12H, 94%D), 2.17-2.18 (m, 2H), 1.26-1.63 (m, 16H), 0.89 (t, J = 6.4 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 179.3, 135.7, 132.8, 127.8, 125.8, 73.0, 37.3, 32.6-33.8 (m, α-CD2), 31.8, 29.3, 28.8, 28.8, 28.6, 27.6, 25.1, 23.4-24.4 (m, β-CD2), 22.6, 14.0
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C18H28D4O3Na+ [M+Na]+ 323.2495, found 323.2494.
IR (ATR-IR, neat) 3500-2300 (br), 3012, 2926, 2855, 1707, 1461, 1409, 1290, 1267, 1126, 1051, 1018, 984, 947, 910, 835, 731 cm-1.
【0182】
例11:重水素化標識脂肪酸(リノレン酸)の製造
(1)(9Z,12Z,15Z)-N-(キノリン-8-イル)オクタデカ-9,12,15-トリエナミドの調製
【化45】
【0183】
リノレン酸のカルボキシ基の8-キノリンアミド化を例1(1)に記載した手順と同様の手順で行った。リノレン酸(970mg、3.48mmol)に対し、最終的にシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~82/18)、表題化合物を得た(収率76%、1.07g、2.65mmol)。
【0184】
無色油: Rf 0.39 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.82 (m, 2H), 8.15 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.42-7.53 (m, 3H), 5.28-5.42 (m, 6H), 2.79-2.82 (m, 4H), 2.56 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 2.03-2.09 (m, 4H), 1.78-1.84 (m, 2H), 1.35-1.46 (m, 8H), 0.97 (t, J = 7.6 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 171.9, 148.1, 138.3, 136.3, 134.6, 131.9, 130.3, 128.3, 127.9, 127.7, 127.7, 127.4, 127.1, 121.5, 121.3, 116.4, 38.2, 29.6, 29.3, 29.3, 29.2, 27.2, 25.7, 25.6, 25.5, 20.6, 14.3
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C27H37N2O+ [M+H]+ 405.2900, found 405.2903.
IR (ATR-IR, neat) 3355, 3008, 2922, 2851, 1689, 1521, 1484, 1383, 1323, 1260, 828, 790, 682 cm-1.
【0185】
(2)重水素化標識化合物((9Z,12Z,15Z)-N-(キノリン-8-イル)オクタデカ-9,12,15-トリエナミド-2,2,3,3-d
4)の調製
【化46】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0186】
上記(1)で得られた化合物(33.3mg、0.082mmol)の重水素化を例1(2)アおよびイに記載した手順と同様の手順で行った。最終的に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~82/18)、重水素化された表題の化合物を得た(収率68%、22.7mg、0.056mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が97%、β位が95%と確認された。
【0187】
無色油: Rf 0.39 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.82 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.0, 1.6 Hz, 2H), 7.44-7.56 (m, 3H), 5.30-5.42 (m, 6H), 2.79-2.82 (m, 4H), 2.53 (br-s, 0.07H, 97%D), 2.03-2.09 (m, 4H), 1.77-1.81 (m, 0.10H, 95%D), 1.35-1.44 (m, 8H), 0.89 (t, J = 7.2 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 171.9, 148.1, 138.3, 136.3, 134.6, 131.9, 130.3, 128.3 (overlapped), 127.9, 127.7, 127.4, 127.1, 121.5, 121.3, 116.4, 37.1-37.9 (m, α-CD2), 29.6, 29.3, 29.2, 29.0, 27.2, 25.6, 25.5, 24.4-25.2 (m, β-CD2), 20.5, 14.3
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C27H32D4N2ONa+ [M+Na]+ 431.2971, found 431.2961.
IR (ATR-IR, neat) 3354, 3008, 2960, 2922, 2851, 1684, 1521, 1383, 1327, 1264, 913, 828, 790 cm-1.
【0188】
(3)重水素化エステル化合物(リノレン酸メチル-2,2,3,3-d
4((9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエネートメチル-2,2,3,3-d
4))の調製
【化47】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0189】
上記(2)で得られた重水素化標識化合物(32.1mg、0.079mmol)について、ニッケルビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート)を50mol%とし、反応後にピロリジンジチオカルバミン酸アンモニウム(33.6mg、0.20mmol)を加えて後処理をしたこと以外は例1(3)に記載した手順と同様の手順で、8-アミノキノリン部位を脱保護(エステルに変換)した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~75/25)、表題のエステル化合物を得た(収率72%、16.8mg、0.057mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%と確認されたが、β位は残H2Oピークとのオーバーラップにより確認できなかった。
【0190】
無色油: Rf 0.77 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.28-5.43 (m, 6H), 3.67 (s, 3H), 2.79-2.82 (m, 4H), 2.27 (br-s, 0.08H, 96%D), 2.03-2.12 (m, 4H), 1.58 (overlapped with H2O), 1.25-1.35 (m, 8H), 0.98 (t, J = 7.6 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 174.4, 132.0, 130.3, 128.3, 128.3, 127.7, 127.1, 51.4, 33.0-33.8 (m, α-CD2), 29.6, 29.1, 28.9, 28.9, 27.2, 25.6, 25.5, 23.7-24.5 (m, β-CD2), 20.6, 14.3
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C19H28D4NaO2
+ [M+Na]+ 319.2546, found 319.2539.
IR (ATR-IR, neat) 3012, 2960, 2926, 2855, 1741, 1461, 1435, 1260, 1193, 1085, 1021, 984, 798, 705 cm-1.
【0191】
(4)重水素化標識脂肪酸(リノレン酸-2,2,3,3-d
4((9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエン酸-2,2,3,3-d
4))
【化48】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0192】
上記(3)で得られた化合物(16.3mg、0.055mmol)について、例1(4)に記載した手順と同様の手順で加水分解した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(DIOLシリカゲル、溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、表題の重水素化リノレン酸-d4を得た(収率89%、13.9mg、0.049mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%、β位が95%と確認された。
【0193】
無色油: Rf 0.17 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.28-5.43 (m, 6H), 2.79-2.82 (m, 4H), 2.31 (br-s, 0.08H, 96%D), 2.03-2.12 (m, 4H), 1.60 (br-s, 0.10H, 95%D), 1.32-1.35 (m, 8H), 0.98 (m, J = 7.6 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 179.9, 132.0, 130.3, 128.3, 128.3, 127.8, 127.1, 32.9-33.6 (m, α-CD2), 29.6, 29.1, 28.8, 28.2, 27.2, 25.6, 25.5, 23.4-24.4 (m, β-CD2), 20.6, 14.3
HRMS (ESI (-)) m/z calcd for C18H25D4O2
- [M-H]- 281.2424, found 281.2416.
IR (ATR-IR, neat) 3500-2500 (br), 3012, 2926, 2855, 1707, 1461, 1405, 1260, 1174, 1074, 973, 723 cm-1.
【0194】
例12:重水素化標識脂肪酸(アラキドン酸)の製造
(1)(5Z,8Z,11Z,14Z)-N-(キノリン-8-イル)イコサ-5,8,11,14-テトラエナミドの調製
【化49】
【0195】
アラキドン酸のカルボキシ基の8-キノリンアミド化を例8(1)に記載した手順と同様の手順で行った。アラキドン酸(500mg、1.64mmol)に対し、最終的にシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~65/35)、表題化合物を得た(収率92%、649mg、1.51mmol)。
【0196】
無色油: Rf 0.44 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.80 (m, 2H), 8.15 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.45-7.53 (m, 3H), 5.31-5.46 (m, 8H), 2.78-2.83 (m, 6H), 2.58 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 2.23 (dt, J = 7.2, 7.2 Hz, 2H), 2.04 (dt, J = 7.2, 7.2 Hz, 2H), 1.82 (tt, J = 7.6, 7.2 Hz, 2H), 1.26-1.36 (m, 6H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 171.5, 148.1, 138.3, 136.4, 134.5, 130.5, 129.1, 128.9, 128.5, 128.2, 128.2, 127.9, 127.9, 127.6, 127.4, 121.6, 121.3, 116.4, 37.5, 31.5, 29.3, 27.2, 26.7, 25.7, 25.6, 25.6, 25.4, 22.6, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C29H39N2O+ [M+H]+ 431.3057, found 431.3057.IR (ATR-IR, neat) 3355, 3008, 2952, 2922, 2855, 1689, 1521, 1484, 1481, 1383, 1323, 1148, 828, 790, 686 cm-1.
【0197】
(2)重水素化標識化合物((5Z,8Z,11Z,14Z)-N-(キノリン-8-イル)イコサ-5,8,11,14-テトラエナミド-2,2,3,3-d
4)の調製
【化50】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0198】
上記(1)で得られた化合物に対してまずβ位の重水素化を行い、次いでα位の重水素化を行って表題の化合物を得た。具体的には下記アおよびイの手順に従って行った。
【0199】
ア β位の重水素化
まず、β位の重水素化を行った。上記(1)で得た化合物(33.9mg、0.079mmol)、酢酸パラジウム(17.7mg、0.079mmol、1eq)およびピバル酸セシウム(36.8mg、0.16mmol、2eq)を空気下で10mLのスクリューキャップチューブに入れた。トルエン(0.8mL、0.1M)を加えてアミドを溶解し、D2O(0.08mL)を混合物に加えた。反応は80℃で1時間撹拌して行い、進行をESI-MSでモニターした。反応混合物を室温に冷却し、ピロリジンジチオカルバミン酸アンモニウム(33.7mg、0.21mmol、2.6eq)およびD2O(0.8mL)を反応に加えた。30分間撹拌した後、混合物を分液漏斗に移し、酢酸エチルで希釈し、塩水で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、減圧下で蒸発させた。粗β位-重水素化標識化合物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより粗精製した。
【0200】
イ α位の重水素化
続いて、上記アで得られたβ位-重水素化標識化合物(29.5mg、約0.068mmol)、炭酸カリウム(9.4mg、0.068mmol、1eq)、およびメタノールd1(CH3OD、0.34mL、0.2M)を空気下で10mLスクリューキャップチューブに入れた。反応は80℃で18時間攪拌して行い、進行をESI-MSでモニターした。反応混合物を室温に冷却し、分離漏斗に移し、酢酸エチルで希釈し、塩水で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、減圧下で蒸発させた。得られた化合物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~65/35)、重水素化された生成物を得た(収率67%、22.6mg、0.052mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が95%、β位が88%と確認された。
【0201】
無色油: Rf 0.44 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.79-8.81 (m, 2H), 8.15 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.43-7.53 (m, 3H), 5.34-5.45 (m, 8H), 2.79-2.83 (m, 6H), 2.55 (br-s, 0.10H, 95%D), 2.22 (d, J = 5.6 Hz, 2H), 2.04 (dt, J = 6.8, 6.8 Hz, 2H), 1.86-1.92 (m, 0.24H, 88%D), 1.26-1.38 (m, 6H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 171.6, 148.1, 138.3, 136.4, 134.5, 130.5, 129.1, 128.9, 128.5, 128.2, 128.2, 127.9, 127.9, 127.6, 127.4, 121.6, 121.3, 116.4, 36.3-37.2 (m, α-CD2), 31.5, 29.3, 27.2, 26.5, 25.7, 25.6, 25.6, 24.4-25.3 (m, β-CD2), 22.6, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C29H35D4N2O+ [M+H]+ 435.3308, found 435.3303.
IR (ATR-IR, neat) 3355, 3008, 2952, 2922, 2851, 1684, 1521, 1383, 1327, 1264, 917, 824, 790 cm-1.
【0202】
(3)重水素化エステル化合物(アラキドン酸メチル-2,2,3,3-d
4((5Z,8Z,11Z,14Z)-イコサ-5,8,11,14-テトラエン酸メチル-2,2,3,3-d
4))の調製
【化51】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0203】
上記(2)で得られた重水素化標識化合物(52.4mg、0.12mmol)について、ニッケルビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート)を50mol%とし、反応後にピロリジンジチオカルバミン酸アンモニウム(51.3mg、0.31mmol)を加えて後処理をしたこと以外は例1(3)に記載した手順と同様の手順で、8-アミノキノリン部位を脱保護(エステルに変換)した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~75/25)、表題のエステル化合物を得た(収率75%、28.9mg、0.090mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%、β位が残H2Oピークとの部分的なオーバーラップがあり約91%と確認された。
【0204】
無色油: Rf 0.76 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.31-5.43 (m, 8H), 3.67 (s, 3H), 2.80-2.84 (m, 6H), 2.29 (br-s, 0.09H, 96%D), 2.09 (d, J = 5.6 Hz, 2H), 2.04 (dt, J = 6.8, 6.8 Hz, 2H), 1.66-1.71 (m, ca. 0.17H, 91%D), 1.24-1.40 (m, 6H), 0.89 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 174.1, 130.5, 128.9, 128.9, 128.6, 128.2, 128.2, 127.9, 127.5, 51.5, 32.3-33.2 (m, α-CD2), 31.5, 29.3, 27.2, 26.3, 25.6, 25.6, 25.6, 23.6-24.7 (m, β-CD2), 22.6, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C21H30D4NaO2
+ [M+Na]+ 345.2702, found 345.2705.
IR (ATR-IR, neat) 3012, 2960, 2926, 2855, 1737, 1655, 1435, 1394, 1260, 1193, 1167, 1111, 1077, 1044, 1006, 969, 917, 846, 816, 708 cm-1.
【0205】
(4)重水素化標識脂肪酸(アラキドン酸-2,2,3,3-d
4((5Z,8Z,11Z,14Z)-イコサ-5,8,11,14-テトラエン酸-2,2,3,3-d
4))
【化52】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0206】
上記(3)で得られた化合物(23.8mg、0.074mmol)について、例1(4)に記載した手順と同様の手順で加水分解した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(DIOLシリカゲル、溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~80/20)、表題の重水素化アラキドン酸-d4を得た(収率93%、21.2mg、0.069mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が95%、β位が90%と確認された。
【0207】
無色油: Rf 0.18 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.31-5.44 (m, 8H), 2.80-2.87 (m, 6H), 2.34 (br-s, 0.11H, 95%D), 2.12 (d, J = 6.0 Hz, 2H), 2.05 (dt, J = 6.8, 6.8 Hz, 2H), 1.66-1.71 (m, ca. 0.20H, 90%D), 1.26-1.39 (m, 6H), 0.89 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 180.0, 130.5, 129.1, 128.7, 128.6, 128.3, 128.1, 127.9, 127.6, 32.4-33.1 (m, α-CD2), 31.5, 29.3, 27.2, 26.2, 25.6, 25.6, 23.3-24.2 (m, β-CD2), 22.6, 14.1
HRMS (ESI (-)) m/z calcd for C20H27D4O2
- [M-H]- 307.2581, found 307.2582.
IR (ATR-IR, neat) 3300-2500 (br), 3012, 2960, 2926, 2855, 1707, 1461, 1409, 1297, 1178, 1107, 1047, 928, 839, 705 cm-1.
【0208】
例13:重水素化標識脂肪酸(エイコサペンタエン酸(EPA))の製造
(1)(5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-N-(キノリン-8-イル)イコサ-5,8,11,14,17-ペンタミドの調製
【化53】
【0209】
EPAのカルボキシ基の8-キノリンアミド化を反応時間を2時間としたこと以外は例1(1)に記載した手順と同様の手順で行った。EPA(1.16g、3.82mmol)に対し、最終的にシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~65/35)、表題化合物を得た(収率72%、1.18g、2.76mmol)。
【0210】
淡黄色油: Rf 0.61 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.80-8.81 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.0, 1.6 Hz, 2H), 7.45-7.54 (m, 3H), 5.27-5.49 (m, 10H), 2.79-2.84 (m, 8H), 2.58 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 2.22 (td, J = 7.6, 6.4 Hz, 2H), 2.07 (dq, J = 7.6, 7.6 Hz, 2H), 1.91 (tt, J = 7.6, 7.2 Hz, 2H), 0.96 (t, J = 7.6 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 171.5, 148.0, 138.3, 136.3, 134.5, 132.0, 129.1, 128.9, 128.5, 128.2, 128.2, 128.1, 128.1, 127.9, 127.9, 127.4, 127.0, 121.5, 121.3, 116.4, 37.5, 26.7, 25.7, 25.6, 25.5, 25.5, 25.4, 20.5, 14.3
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C29H37N2O+ [M+H]+ 429.2900, found 429.2898.
IR (ATR-IR, neat) 3355, 3008, 2960, 2922, 1689, 1521, 1484, 1461, 1387, 1323, 1260, 1148, 828, 790, 686 cm-1.
【0211】
(2)重水素化標識化合物((5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-N-(キノリン-8-イル)イコサ-5,8,11,14,17-ペンタミド-2,2,3,3-d
4)の調製
【化54】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0212】
上記(1)で得られた化合物(17.5mg、0.041mmol)の重水素化を例12(2)アおよびイに記載した手順と同様の手順で行った。最終的に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~65/35)、重水素化された表題の化合物を得た(収率91%、16.1mg、0.037mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が92%、β位が85%と確認された。
【0213】
淡黄色油: Rf 0.61 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.81 (m, 2H), 8.15 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.43-7.54 (m, 3H), 5.27-5.49 (m, 10H), 2.79-2.84 (m, 8H), 2.55 (br-s, 0.16H, 92%D), 2.22 (d, J = 5.6 Hz, 2H), 2.07 (dq, J = 7.2, 7.2 Hz, 2H), 1.86-1.92 (m, 0.31H, 88%D), 0.96 (t, J = 8.0 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 171.6, 148.1, 138.3, 136.4, 134.5, 132.0, 129.1, 128.9, 128.5, 128.3, 128.2, 128.1, 128.1, 127.9, 127.9, 127.5, 127.0, 121.6, 121.4, 116.4, 36.5-37.2 (m, α-CD2), 26.6, 26.5, 25.7, 25.6, 25.5, 24.4-25.3 (m, β-CD2), 20.6, 14.3
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C29H32D4N2NaO+ [M+Na]+ 455.2971, found 455.2963.
IR (ATR-IR, neat) 3355, 3008, 2960, 2922, 1685, 1521, 1383, 1327, 1263, 917, 824, 790, 753, 686 cm-1.
【0214】
(3)重水素化エステル化合物(エイコサペンタエン酸メチル-2,2,3,3-d
4((5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ-5,8,11,14,17-ペンタエン酸メチル-2,2,3,3-d
4))の調製
【化55】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0215】
上記(2)で得られた重水素化標識化合物(46.8mg、0.108mmol)について、ニッケルビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート)を50mol%とし、反応後にピロリジンジチオカルバミン酸アンモニウム(46.2mg、0.28mmol)を加えて後処理をしたこと以外は例1(3)に記載した手順と同様の手順で、8-アミノキノリン部位を脱保護(エステルに変換)した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~75/25)、表題のエステル化合物を得た(収率47%、16.4mg、0.051mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%、β位が91%と確認された。
【0216】
無色油: Rf 0.67 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.28-5.43 (m, 10H), 3.67 (s, 3H), 2.79-2.86 (m, 8H), 2.29 (br-s, 0.09H, 96%D), 2.04-2.10 (m, 4H), 1.66-1.72 (m, 0.19H, 91%D), 0.98 (t, J = 8.0 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 174.1, 132.0, 128.9, 128.8, 128.6, 128.3, 128.2, 128.1, 128.1, 127.9, 127.0, 51.4, 32.3-33.2 (m, α-CD2), 26.3, 25.6 (overlap), 25.6, 25.5, 23.6-24.5 (m, β-CD2), 20.6, 14.3
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C21H28D4NaO2
+ [M+Na]+ 343.2546, found 343.2544.
IR (ATR-IR, neat) 3015, 2963, 2933, 2874, 1741, 1454, 1435, 1390, 1267, 1193, 1167, 1111, 1077, 921, 805, 708 cm-1.
【0217】
(4)重水素化標識脂肪酸(エイコサペンタエン酸(EPA)-2,2,3,3-d
4((5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ-5,8,11,14,17-ペンタエン酸-2,2,3,3-d
4))
【化56】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0218】
上記(3)で得られた化合物(15.3mg、0.048mmol)について、例1(4)に記載した手順と同様の手順で加水分解した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(DIOLシリカゲル、溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~80/20)、表題の重水素化エイコサペンタエン酸(EPA)-d4を得た(収率96%、14.1mg、0.046mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が94%、β位が91%と確認された。
【0219】
無色油: Rf 0.16 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.28-5.44 (m, 10H), 2.80-2.88 (m, 8H), 2.33-2.34 (m, 0.13H, 94%D), 2.04-2.13 (m, 4H), 1.67-1.70 (m, 0.18H, 91%D), 0.97 (t, J = 7.2 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 179.6, 132.1, 129.0, 128.8, 128.6, 128.3, 128.2, 128.2, 128.1, 127.9, 127.0, 32.2-33.2 (m, α-CD2), 26.2, 25.6 (overlap), 25.5, 25.5, 23.3-24.1 (m, β-CD2), 20.6, 14.3
HRMS (ESI (-)) m/z calcd for C20H25D4O2
- [M-H]- 305.2424, found 305.2424.
IR (ATR-IR, neat) 3400-2500 (br), 3012, 2967, 2926, 2870, 1707, 1409, 1297, 1174, 1110, 1070, 928, 835, 794, 701 cm-1.
【0220】
例14:重水素化標識脂肪酸(ペンタコサ-10,12-ジイン酸)の製造
(1)N-(キノリン-8-イル)ペンタコサ-10,12-ジイナミドの調製
【化57】
【0221】
ペンタコサ-10,12-ジイン酸のカルボキシ基の8-キノリンアミド化を例8(1)に記載した手順と同様の手順で行った。ペンタコサ-10,12-ジイン酸(749mg、2.0mmol)に対し、最終的にシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOE
t=100/0~70/30)、表題化合物を得た(収率89%、890mg、1.78mmol)。
【0222】
薄桃色固体: Rf 0.50 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.79 (br-s, 1H), 8.77-8.79 (m, 2H), 8.14 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 7.42-7.54 (m, 3H), 2.54 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 2.21 (t, J = 6.8 Hz, 4H), 1.80 (tt, J = 7.2, 7.2 Hz, 2H), 1.24-1.53 (m, 30H), 0.86 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 171.9, 148.1, 138.4, 136.4, 134.6, 127.9, 127.5, 121.6, 121.3, 116.4, 77.6, 77.5, 65.3, 65.3, 38.2, 31.9, 29.7, 29.6, 29.6, 29.6, 29.5, 29.4, 29.2, 29.1, 29.0, 28.9, 28.8, 28.4, 28.3, 25.6, 22.7, 19.2, 19.2, 14.1.
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C34H49N2O+ [M+H]+ 501.3839, found 501.3839.
IR (ATR-IR, neat) 3347, 3042, 2915, 2851, 1681, 1528, 1484, 1424, 1387, 1331, 1260, 1100, 824, 790, 749, 682 cm-1.
mp 46-47 ℃.
【0223】
(2)重水素化標識化合物(N-(キノリン-8-イル)ペンタコサ-10,12-ジイナミド-2,2,3,3-d
4)の調製
【化58】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0224】
上記(1)で得られた化合物(183.8mg、0.37mmol)のβ位の重水素化は例1(2)アに記載した手順と同様の手順で行い、α位の重水素化は高い重水素化含有量を得るために例1(2)イに記載した手順と同様の手順を2回繰り返して行った。最終的に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、重水素化された表題の化合物を得た(収率60%、111.0mg、0.22mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が97%、β位が96%と確認された。
【0225】
白色固体: Rf 0.50 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.80 (m, 2H), 8.15 (dd, J = 8.4, 1.2 Hz, 2H), 7.43-7.55 (m, 3H), 2.53 (br-s, 0.06H, 97%D), 2.23 (t, J = 6.8 Hz, 4H), 1.76-1.80 (m, 0.09H, 96%D), 1.25-1.54 (m, 26H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 171.9, 148.1, 138.3, 136.4, 134.6, 127.9, 127.5, 121.6, 121.3, 116.4, 77.6, 77.5, 65.3, 65.3, 37.0-37.8 (m, α-CD2), 31.9, 29.6, 29.6, 29.6, 29.5, 29.4, 29.2, 29.1, 29.0, 28.9, 28.9, 28.8, 28.4, 28.3, 24.4-25.3 (m, β-CD2), 22.7, 19.2, 19.2, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C34H45D4N2O+ [M+H]+ 505.4090, found 505.4091.
IR (ATR-IR, neat) 3347, 3045, 2919, 2851, 1677, 1528, 1484, 1424, 1387, 1327, 1264, 824, 749, 719, 678 cm-1.
mp 46-47 ℃.
【0226】
(3)重水素化エステル化合物(ペンタコサ-10,12-ジイン酸メチル-2,2,3,3-d
4)の調製
【化59】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0227】
上記(2)で得られた重水素化標識化合物(76.3mg、0.15mmol)について、例1(3)に記載した手順と同様の手順で、8-アミノキノリン部位を脱保護(エステルに変換)した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~75/25)、表題のエステル化合物を得た(収率80%、47.7mg、0.12mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%、β位が95%と確認された。
【0228】
白色固体: Rf 0.80 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 3.67 (s, 3H), 2.24 (t, J = 7.0 Hz, 4.09H, overlapped with a-CD2), 1.58 (br-s, 0.08H, 96%D), 1.51 (tt, J = 7.2, 7.0 Hz, 4H),1.26-1.41 (m, 26H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 174.3, 77.6, 77.4, 65.3, 65.2, 51.4, 32.9-33.7 (m, α-CD2), 31.9, 29.7, 29.6, 29.6, 29.5, 29.4, 29.1, 29.0, 28.9, 28.9, 28.8, 28.8, 28.4, 28.3, 23.7-24.6 (m, β-CD2), 22.7, 19.2, 19.2, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C26H40D4NaO2
+ [M+H]+ 415.3485, found 415.3486.
IR (ATR-IR, neat) 2922, 2855, 1741, 1461, 1435, 1260, 1193, 1088, 1051, 1006, 850, 813, 723 cm-1.
mp 28-29 ℃.
【0229】
(4)重水素化標識脂肪酸(ペンタコサ-10,12-ジイン酸-2,2,3,3-d
4)の調製
【化60】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0230】
上記(3)で得られた化合物(47.7mg、0.12mmol)について、例1(4)に記載した手順と同様の手順で加水分解した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(DIOLシリカゲル、溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、表題の重水素化ペンタコサ-10,12-ジイン酸-d4を得た(収率>99%、46.0mg、0.12mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が97%、β位が96%と確認された。
【0231】
白色固体: Rf 0.18 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 2.31 (br-s, 0.06H, 97%D), 2.24 (t, J = 7.2 Hz, 4H), 1.58 (br-s, 0.09H, 96%D), 1.51 (tt, J = 7.2, 7.0 Hz, 4H), 1.26-1.41 (m, 26H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 180.2, 77.6, 77.4, 65.3, 65.2, 32.9-33.7 (m, α-CD2), 31.9, 29.7, 29.6, 29.6, 29.5, 29.4, 29.1, 29.0, 28.9, 28.9, 28.7, 28.8, 28.4, 28.3, 23.4-24.3 (m, β-CD2), 22.7, 19.2, 19.2, 14.1
HRMS (ESI (-)) m/z calcd for C25H37D4O2
- [M-H]- 377.3363, found 377.3352.
IR (ATR-IR, neat) 3200-2500 (br), 3022 (br), 2919, 2848, 2684, 1689, 1461, 1420, 1331, 1189, 1115, 1051, 999, 932, 895, 842, 723, 678 cm-1.
mp 28-29 ℃.
【0232】
例15:重水素化標識脂肪酸(9-ヒドロキシオクタデカン酸)の製造
(1)9-ヒドロキシ-N-(キノリン-8-イル)オクタデカンアミドの調製
【化61】
9-ヒドロキシオクタデカン酸のカルボキシ基の8-キノリンアミド化を例8(1)に記載した手順と同様の手順で行った。9-ヒドロキシオクタデカン酸(180.3mg、0.60mmol)に対し、最終的にシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=95/5~50/50)、表題化合物を得た(収率65%、166.8mg、0.39mmol)。
【0233】
白色固体: R
f 0.16 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 9.81 (br-s, 1H), 8.78-8.82 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.44-7.56 (m, 3H), 3.54-3.60 (m, 1H), 2.56 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 1.82 (tt, J = 7.6, 7.6 Hz, 2H), 1.26-1.47 (m, 26H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl
3): δ 171.9, 148.1, 138.4, 136.4, 134.6, 127.9, 127.4, 121.5, 121.3, 116.4, 71.9, 38.2, 37.5, 37.5, 31.9, 29.7, 29.6, 29.6, 29.5, 29.3, 29.3, 29.2, 25.7, 25.6, 25.6, 22.7, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C
27H
42N
2O
2Na
+ [M+Na]
+ 449.3138, found 449.3135.
IR (ATR-IR, neat) 3289 (br), 2922, 2851, 1666, 1521, 1487, 1465, 1424, 1379, 1320, 1260, 1193, 1107, 1074, 824, 790, 753, 723 cm
-1.
mp 73 ℃.
(2)重水素化標識化合物(9-ヒドロキシ-(N-(キノリン-8-イル)オクタデカンアミド-2,2,3,3-d
4)の調製
【化62】
(上記式中、Dは重水素である。)
上記(1)で得られた化合物(85.3mg、0.20mmol)の重水素化を例1(2)アおよびイに記載した手順と同様の手順で行った。最終的に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=95/5~50/50)、重水素化された表題の化合物を得た(収率71%、60.7mg、0.141mmol)。
1HNMR分析により重水素化率はα位が98%、β位が96%と確認された。
【0234】
無色油: Rf 0.14 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.82 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 2H), 7.44-7.56 (m, 3H), 3.55-3.60 (m, 1H), 2.53 (br-s, 0.04H, 98%D), 1.77-1.81 (m, 0.08H, 96%D), 1.26-1.47 (m, 26H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 172.0, 148.1, 138.4, 136.4, 134.6, 128.0, 127.5, 121.5, 121.3, 116.5, 71.9, 37.0-38.0 (m, α-CD2), 37.5, 37.5, 31.9, 29.7, 29.6, 29.6, 29.5, 29.3, 29.3, 29.0, 25.7, 25.6, 24.4-25.3 (m, β-CD2), 22.7, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C27H39D4N2O2
+ [M+H]+ 431.3570, found 431.3570.
IR (ATR-IR, neat) 3289 (br), 2915, 2851, 1662, 1521, 1485, 1461, 1428, 1379, 1323, 1271, 1163, 1133, 1096, 1025, 980, 913, 869, 824, 790, 749, 708 cm-1.
mp 73-74 ℃.
【0235】
(3)重水素化エステル化合物(9-ヒドロキシオクタデカン酸メチル-2,2,3,3-d
4)
【化63】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0236】
上記(2)で得られた重水素化標識化合物(41.6mg、0.097mmol)について、例1(3)に記載した手順と同様の手順で、8-アミノキノリン部位を脱保護(エステルに変換)した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=95/5~75/25)、表題のエステル化合物を得た(収率58%、17.7mg、0.056mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が97%と確認され、β位は残H2Oピークとの部分的なオーバーラップにより>93%と確認された。
【0237】
白色固体: Rf 0.45 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 3.66 (s, 3H), 3.55-3.60 (m, 1H), 2.27 (br-s, 0.05H, 97%D), 1.57-1.60 (m, <0.14H (overlapped), >93%D), 1.26-1.46 (m, 26H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 174.4, 72.0, 51.4, 37.5, 37.5, 32.9-33.8 (m, α-CD2), 31.9, 29.7, 29.7, 29.6, 29.5, 29.3, 29.2, 28.8, 25.7, 25.6, 23.9-24.6 (m, β-CD2), 22.7, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C19H34D4NaO3
+ [M+Na]+ 341.2964, found 341.2964.
IR (ATR-IR, neat) 3370 (br), 2922, 2855, 1741, 1461, 1430, 1338, 1290, 1174, 1133, 1074, 1040, 947, 906, 876, 850, 723, 671 cm-1.
mp 48-49 ℃.
【0238】
(4)重水素化標識脂肪酸(9-ヒドロキシオクタデカン酸-2,2,3,3-d
4)の調製
【化64】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0239】
上記(3)で得られた化合物(17.1mg、0.054mmol)について、例1(4)に記載した手順と同様の手順で加水分解した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(DIOLシリカゲル、溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=90/10~60/40)、表題の重水素化9-ヒドロキシオクタデカン酸-d4を得た(収率95%、14.5mg、0.051mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が97%、β位が93%と確認された。
【0240】
白色固体: Rf 0.08 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 3.56-3.62 (m, 1H), 2.31 (br-s, 0.06H, 97%D), 1.57-1.62 (m, 0.14H, 93%D), 1.26-1.30 (m, 26H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 179.3, 72.1, 37.5, 37.4, 32.9-33.6 (m, α-CD2), 31.9, 29.7, 29.6, 29.6, 29.4, 29.3, 29.1, 28.7, 25.6, 25.5, 23.5-24.5 (m, β-CD2), 22.7, 14.1
HRMS (ESI (-)) m/z calcd for C18H31D4O3
- [M-H]- 303.2843, found 303.2843.
IR (ATR-IR, neat) 3500-2500 (br), 3042, 2915, 2848, 2583, 1692, 1465, 1409, 1320, 1193, 1133, 1103, 1025, 951, 906, 842, 723, 664 cm-1.
mp 73-74 ℃.
【0241】
例16:重水素化標識脂肪酸((9Z,11E)-N-(キノリン-8-イル)オクタデカ-9,11-ジエン酸)の製造
(1)(9Z,11E)-N-(キノリン-8-イル)オクタデカ-9,11-ジエナミドの調製
【化65】
(9Z,11E)-N-(キノリン-8-イル)オクタデカ-9,11-ジエン酸のカルボキシ基の8-キノリンアミド化を例8(1)に記載した手順と同様の手順で行った。(9Z,11E)-N-(キノリン-8-イル)オクタデカ-9,11-ジエン酸(97.6mg、1.0mmol)に対し、最終的にシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~65/35)、表題化合物を得た(収率84%、118.2mg、0.29mmol)。
【0242】
無色油: Rf 0.60 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.81 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.0, 1.6 Hz, 2H), 7.44-7.56 (m, 3H), 6.29 (ddd, J = 15.2, 10.8, 1.0 Hz, 1H), 5.94 (dd, J = 10.8, 10.8 Hz, 1H), 5.65 (dt, J = 15.2, 7.2 Hz, 1H), 5.29 (dt, J = 10.8, 7.2 Hz, 1H), 2.56 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 2.15 (dt, J = 7.2, 6.8 Hz, 2H), 2.09 (dt, J = 7.2, 7.2 Hz, 2H), 1.82 (dt, J = 7.6, 7.2 Hz, 2H), 1.24-1.48 (m, 16H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 171.9, 148.1, 138.3, 136.3, 134.7, 134.6, 129.9, 128.7, 127.9, 127.4, 125.6, 121.5, 121.3, 116.4, 38.2, 32.9, 31.7, 29.7, 29.4, 29.3, 29.3, 29.1, 28.9, 27.7, 25.7, 22.6, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C27H39N2O+ [M+H]+ 407.3057, found 407.3057.
IR (ATR-IR, neat) 3358, 3019, 2922, 2855, 1689, 1521, 1484, 1457, 1428, 1383, 1327, 1260, 1163, 984, 947, 828, 790, 757, 723, 675 cm-1.
【0243】
(2)重水素化標識化合物((9Z,11E)-N-(キノリン-8-イル)オクタデカ-9,11-ジエナミド-2,2,3,3-d
4)の調製
【化66】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0244】
上記(1)で得られた化合物(63.8mg、0.157mmol)の重水素化を例1(2)アおよびイに記載した手順と同様の手順で行った。最終的に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~60/40)、重水素化された表題の化合物を得た(収率71%、46.0mg、0.112mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%、β位が98%と確認された。
【0245】
無色油: Rf 0.48 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.80 (br-s, 1H), 8.78-8.81 (m, 2H), 8.16 (dd, J = 8.0, 1.2 Hz, 2H), 7.44-7.56 (m, 3H), 6.29 (dd, J = 15.0, 10.8, 1.0 Hz, 1H), 5.94 (dd, J = 10.8, 10.8 Hz, 1H), 5.65 (dt, J = 15.0, 7.2 Hz, 1H), 5.29 (dt, J = 10.8, 7.2 Hz, 1H), 2.53 (br-s, 0.08H, 96%D), 2.15 (dt, J = 7.2, 6.8 Hz, 2H), 2.09 (dt, J = 7.2, 7.2 Hz, 2H), 1.77-1.80 (m, 0.05H, 98%D), 1.24-1.48 (m, 16H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 172.0, 148.1, 138.3, 136.4, 134.7, 134.6, 129.9, 128.7, 127.9, 127.4, 125.6, 121.5, 121.3, 116.4, 37.1-37.7 (m, α-CD2), 32.9, 31.7, 29.7, 29.4, 29.2, 29.1, 29.0, 28.9, 27.7, 24.4-25.2 (m, β-CD2), 22.6, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C27H35D4N2O+ [M+H]+ 411.3308, found 411.3311.
IR (ATR-IR, neat) 3355, 3015, 2922, 2855, 1689, 1521, 1484, 1461, 1428, 1383, 1327, 1264, 1163, 984, 947, 828, 790, 753, 723, 678 cm-1.
【0246】
(3)重水素化エステル化合物((9Z,11E)-N-(キノリン-8-イル)オクタデカ-9,11-ジエン酸メチル-2,2,3,3-d
4)の調製
【化67】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0247】
上記(2)で得られた重水素化標識化合物(32.3mg、0.079mmol)について、例1(3)に記載した手順と同様の手順で、8-アミノキノリン部位を脱保護(エステルに変換)した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~75/25)、表題のエステル化合物を得た(収率70%、16.4mg、0.055mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%と確認されたが、β位は残H2Oピークとのオーバーラップにより確認できなかった。
【0248】
無色油: Rf 0.72 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.29 (ddd, J = 15.2, 10.8, 1.2 Hz, 1H), 5.94 (dd, J = 10.8, 10.8 Hz, 1H), 5.65 (dt, J = 15.2, 7.2 Hz, 1H), 5.29 (dt, J = 10.8, 7.2 Hz, 1H), 3.66 (s, 3H), 2.26 (br-s, 0.09H, 96%D), 2.15 (dt, J = 7.2, 6.8 Hz, 2H), 2.09 (dt, J = 7.2, 7.2 Hz, 2H), 1.60 (overlapped with H2O), 1.24-1.48 (m, 16H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 174.4, 134.8, 129.9, 128.7, 125.6, 51.4, 32.8-33.8 (m, α-CD2), 32.9, 31.7, 29.7, 29.4, 29.1, 29.1, 28.9, 28.9, 27.6, 23.7-24.5 (m, β-CD2), 22.6, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C19H30D4NaO2
+ [M+Na]+ 321.2702, found 321.2702.
IR (ATR-IR, neat) 3019, 2952, 2922, 2855, 1741, 1461, 1435, 1260, 1193, 1174, 1081, 984, 947, 805, 727 cm-1.
【0249】
(4)重水素化標識脂肪酸((9Z,11E)-オクタデカ-9,11-ジエン酸-2,2,3,3-d
4)の調製
【化68】
(上記式中、Dは重水素である。)
【0250】
上記(3)で得られた化合物(14.1mg、0.047mmol)について、例1(4)に記載した手順と同様の手順で加水分解した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(DIOLシリカゲル、溶離液:n-ヘキサン/AcOEt=100/0~80/20)、表題の(9Z,11E)-N-(キノリン-8-イル)オクタデカ-9,11-ジエン酸-d4を得た(収率97%、13.0mg、0.046mmol)。1HNMR分析により重水素化率はα位が96%、β位が98%と確認された。
【0251】
無色油: Rf 0.36 (n-hexane/AcOEt = 4/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.29 (ddd, J = 15.2, 10.8, 1.2 Hz, 1H), 5.94 (dd, J = 10.8, 10.8 Hz, 1H), 5.66 (dt, J = 15.2, 7.2 Hz, 1H), 5.29 (dt, J = 10.8, 7.2 Hz, 1H), 2.31 (br-s, 0.08H, 96%D), 2.15 (dt, J = 7.2, 6.8 Hz, 2H), 2.09 (dt, J = 7.2, 7.2 Hz, 2H), 1.58-1.65 (m, 0.04H, 98%D), 1.25-1.42 (m, 16H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 179.7, 134.8, 129.9, 128.7, 125.6, 32.8-33.5 (m, α-CD2), 32.9, 31.8, 29.7, 29.4, 29.1, 29.0, 28.9, 28.8, 27.6, 23.5-24.2 (m, β-CD2), 22.6, 14.1
HRMS (ESI (-)) m/z calcd for C18H27D4O2
- [M-H]- 283.2581, found 283.2579.
IR (ATR-IR, neat) 3300-2500 (br), 3019, 2922, 2855, 1701, 1461, 1409, 1297, 1088, 11025, 984, 947, 835, 805, 727 cm-1.
【0252】
例17:重水素化標識脂質((R)-2-(((S,9Z,11E)-13-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)オクタデカ-9,11-ジエノイル-2,2,3,3-d
4
)オキシ)-3-(パルミトイルオキシ)プロピル(2-(トリメチルアンモニオ)エチル)ホスフェート)の合成
例17では、下記スキームに示すように重水素化標識脂肪酸を使用して表題の化合物を合成した。
【化69】
【0253】
1-ヘキサデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルコリン(東京化成工業、11.4mg、0.023mmol)およびTBS-13-HODE-2,2,3,3-d4(19.1mg、0.046mmol)を10mLシュレンクチューブに入れて、トルエン共沸により乾燥させた。室温でアルゴン雰囲気下、2、4、6-トリクロロベンゾイルクロリド(21.6μL、0.138mmol)、1-メチルイミダゾール(11μL、0.138mmol)、およびCH2Cl2(0.5mL)を加え、36時間撹拌した。進行はTLCによりモニターした。反応後、揮発成分を全て減圧留去した。得られた化合物をシリカゲフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(DIOLシリカゲル、溶離液:CH2Cl2/メタノール=100/0~70/30)、(R)-2-(((S,9Z,11E)-13-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)オクタデカ-9,11-ジエノイル-2,2,3,3-d4)オキシ)-3-(パルミトイルオキシ)プロピル(2-(トリメチルアンモニオ)エチル)ホスフェートを得た(収率55%、11.3mg、0.0127mmol)。
【0254】
白色ろう様固体: Rf 0.17 (CH2Cl2/methanol = 1/1)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.41 (dd, J = 15.2, 11.2 Hz, 1H), 5.96 (dd, J = 11.2, 10.8 Hz, 1H), 5.61 (dd, J = 15.2, 6.0 Hz, 1H), 5.38 (dt, J = 10.8, 7.6 Hz, 1H), 5.21 (br-s, 1H), 4.37-4.40 (m, 3H), 4.10-4.16 (m, 2H), 3.93-4.03 (m, 4H), 3.41 (s, 9H), 2.28 (t, J = 7.6 Hz, 2H, α-CH2 of palmitate moiety and α-CD2 of TBS-13-HODE moiety), 2.15 (dt, J = 7.6, 6.8 Hz, 2H), 1.56-1.59 (m, 2H, β-CH2 of palmitate moiety and β-CD2 of TBS-13-HODE moiety), 1.44-1.50 (m,2H), 1.25-1.36 (m, 38H), 0.86-0.90 (m, 15H), 0.05 (s, 3H), 0.03 (s, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 173.6, 173.2, 136.9, 131.5, 128.2, 124.3, 73.2, 70.1 (d, J = 6.4 Hz), 66.2 (br-s), 63.9 (br-s), 62.7, 59.7 (br-s), 54.5, 38.4, 34.1, 33.5-34.0 (m, α-CD2), 31.9, 31.8, 29.7, 29.7, 29.7, 29.7, 29.6, 29.4, 29.4, 29.2, 29.2, 28.9, 27.7, 27.7 , 25.9, 25.0, 25.0, 24.9, 23.6-24.5 (m, β-CD2), 22.7, 22.6, 18.3, 14.1, 14.1, -4.3, -4.7
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C48H90D4NO9PSiNa+ [M+Na]+ 914.6579, found 914.6593.
IR (ATR-IR, neat) 2952, 2922, 2855, 1737, 1651, 1461, 1364, 1252, 1170, 1059, 969, 872, 835, 775, 671 cm-1.
【0255】
例18:重水素化標識脂肪酸を使用した脂質代謝解析(1)
例18では、下記スキームに示すように重水素化標識脂肪酸を使用してホスファチジルコリン((R)-2-(((9E,12E)-オクタデカ-9,12-ジエノイル-2,2,3,3-d
4)オキシ)-3-(パルミトイルオキシ)プロピル(2-(トリメチルアンモニオ)エチル)ホスフェート)(構成脂肪酸:パルミチン酸/リノエライジン酸-D
4)を合成し、LC-MS/MS解析により生体内由来の脂肪酸(脂質)との区別が可能か検討した。
【化70】
【0256】
リゾホスファチジルコリン(Lyso-PC)(1-パルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)(東京化成工業、11.4mg、0.023mmol)、リノエライジン酸-2,2,3,3-d4(12.7mg、0.045mmol)およびDMAPO(18.7mg、0.135mmol)を10mLシュレンクチューブに入れて、トルエン共沸により乾燥させた。アルゴン雰囲気下、CH2Cl2(0.5mL)を加え溶解させた後、MNBA(46.5mg、0.135mmol)を加えて室温で3時間撹拌した。進行はTLCによりモニターした。反応後、揮発成分を全て減圧留去した。得られた化合物をシリカゲフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(DIOLシリカゲル、溶離液:CH2Cl2/メタノール=100/0~80/20)、を得た(収率50%、9.4mg、0.012mmol)。
【0257】
白色ろう状固体: Rf 0.11 (n-hexane/AcOEt = 2/3)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.35-5.46 (m, 4H), 5.17-5.22 (m, 1H), 4.40 (dd, J = 12.0, 2.4 Hz, 1H) 4.32 (br-s, 2H), 4.12 (dd, J = 12.0, 7.6 Hz, 1H), 3.89-3.99 (m, 2H), 3.81 (br-s, 2H), 3.37 (s, 9H), 2.65-2.68(m, 2H), 2.27 (t, J = 7.6 Hz, 2H, a-position (CH2) of palmitate moiety and a-position (CD2) of linoelaidate moiety), 1.95-2.00 (m, 4H), 1.53-1.60 (m, 2H, b-position (CH2) of palmitate moiety and b-position (CD2) of linoelaidate moiety), 1.25-1.44 (m, 38H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 173.6, 173.3, 131.1, 130.9, 128.7, 128.5, 70.5 (d, JP-C = 7.8 Hz), 66.5 (d, JP-C = 5.1 Hz), 63.4 (d, JP-C = 7.7 Hz), 63.0, 59.3 (d, JP-C = 4.6 Hz), 54.5, 35.7, 34.1, 33.0-33.9 (m, α-CD2 of linoelaidate moiety), 32.6, 32.6, 31.9, 31.4, 30.9, 29.7 (overlapped), 29.7 (overlapped), 29.6 (overlapped), 29.4, 29.4, 29.2, 29.2 (overlapped), 29.2, 29.1, 28.9, 24.9, 23.7-24.7 (m, β-CD2 of linoelaidate moiety), 22.7, 22.6, 14.1, 14.1
HRMS (ESI (+)) m/z calcd for C42H76D4NNaO8P+ [M+Na]+ 784.5765, found 784.5765.
IR (ATR-IR, neat) 3377 (br), 3027, 2960, 2922, 2855, 1733, 1495, 1469, 1349, 1252, 1174, 1092, 1059, 965, 924, 876, 816, 734 cm-1.
【0258】
LC-MS/MS解析は、高速液体クロマトグラフィー(LC)に質量分析装置(MS)をつなげたLC-MS装置を用いて行った。LCとして、Ultimate 3000 ultra high performance LC system(Thermo)を用い、MSとして、Q-Exactive Orbitrap(Thermo)を用いた。InertSustain C18 Metal-free column(ジーエルサイエンス)をHPLCカラムとして用い、アセトニトリル、メタノール、水およびイソプロパノールから構成される移動相を用いてグラジエント溶出した。分析条件は表1に示す通りであった。
【0259】
【0260】
LC-MS/MS解析を行った結果は、
図1に示す通りであった。主要ピークA(m/z 185)はホスホコリン(m/z 184)とは対応せず、一重水素化ホスホコリンが割り当てられることが確認された。ピークは、ホスファチジルコリン((R)-2-(((9E,12E)-オクタデカ-9,12-ジエノイル-2,2,3,3-d
4)オキシ)-3-(パルミトイルオキシ)プロピル(2-(トリメチルアンモニオ)エチル)ホスフェート)がマススペクトロメトリー中で断片化され、ケテン種を生じる際に形成される(Hsu FF and Turk J., J Am Soc Mass Spectrom, 2003)。重要なことに、一重水素化ホスホコリンの185m/zのピークは四重水素化脂肪酸を有するホスファチジルコリンに限定的に検出され、設計通りα位に重水素元素を有することが確認された。この結果から、185m/zのピークは、生体内における代謝物マーカーとして利用することが可能であり、重水素化リン脂質を生体内由来リン脂質から区別することができることが確認された。
【0261】
例19:重水素化標識脂肪酸を使用した脂質代謝解析(2)
例19では、重水素化標識脂肪酸を使用してヒト血小板の脂質代謝解析を行った。活性化された血小板は多数の脂質代謝物を産生することが知られており、PCに取り込まれる脂肪酸の種類について検討した。
【0262】
(1)方法
ア LC-MS/MS解析
ヒト静脈血より単離した血小板をタイロード液にサスペンドし、メチルベータシクロデキストリン(Sigma)中に溶解したにリノール酸-D4またはメチルベータシクロデキストリン中に溶解したリノエライジン酸-D4を終濃度30μMとなるように添加し、さらに、トロンビン(0.001ユニット)を添加し、37℃で30分間インキュベートした。そして、Bligh EG, et al., Can. J. Biochem. Physiol, 1959に記載の方法に従って活性化されたヒト血小板から脂質を抽出し、LC-MSを用いて解析した。LC-MS/MS解析は、LCとして、Nexera XR HPLCシステム(島津製作所)を用い、MSとして、QTRAP4500(Sciex)を用いた。カプセルパックC18 ACRカラム(大阪ソーダ)をHPLCカラムとして用い、アセトニトリル、メタノール、水およびイソプロパノールから構成される移動相を用いてグラジエント溶出した。分析条件は表2に示す通りであった。一重水素化ホスホコリンの185 m/zをプロダクトイオンとして生成する分子種を、多重反応モニタリング(Multiple Reaction Monitoring)法を用いて網羅的に測定することで、添加したリノール酸-D4もしくはリノエライジン酸-D4を含むPC分子種を検出した。また、ホスホコリンの184 m/zをプロダクトイオンとして生成する分子種を、多重反応モニタリング法を用いて網羅的に測定することで、添加したリノール酸-D4もしくはリノエライジン酸-D4を含まない、血小板に内在的に存在するPC分子種を検出した。
【0263】
【0264】
イ 脂質代謝解析
LC-MSによって、リノール酸-D4もしくはリノエライジン酸-D4を含むPC分子種を網羅的に検出し、検出された各PC分子種について、リノール酸-D4添加時とリノエライジン酸-D4添加時で比較した。比較して得た変動比(ratio)と有意確率(p値)を、それぞれlog2と-log10に換算し、それぞれをX軸、Y軸の値として図表を作成することで、ボルケーノプロットを得た。
【0265】
ウ ホスファチジルコリン(PC)形成のスキーム
血小板内における重水素化標識脂肪酸(脂肪酸-D
4)を含むPC形成のスキームを下記に示す。
【化71】
【0266】
(2)結果
結果は、
図2および表3に示す通りであった。
図2は、LC-MSによる解析結果をボルケーノプロットしたものであり、重水素化標識脂肪酸(リノール酸-D
4またはリノエライジン酸-D
4)と生体内由来脂肪酸(リノール酸またはリノエライジン酸)のそれぞれの代謝プロファイルを解析するために、m/z 185およびm/z 184のプロダクトイオンをスキャニングすることによりホスファチジルコリン(PC)の種類について網羅的に解析した結果を示す。リノール酸-D
4およびリノエライジン酸-D
4の派生物を比較した結果、生体外由来脂肪酸(重水素化標識脂肪酸)と生体内由来脂肪酸のそれぞれについてPC種として17種と3種の成分を検出した(
図2の太線で囲んだ箇所)。そして、MS/MS解析を進めた結果、20種のPCのうち11種を同定した(表3、
図2のナンバリングしたプロット)。プロット#1のPCは、PC(構成脂肪酸:パルミチン酸/リノエライジン酸-D
4(トランス型))が、PC(構成脂肪酸:パルミチン酸/リノール酸-D
4(シス型))と比較して、多いことが確認された。一方で、プロット#5では、リノール酸-D
4(シス型)が酸化されて取り込まれPC(構成脂肪酸:パルミチン酸/HODE-D
4)として存在することが確認された。これらの結果から、活性化された血小板ではリノエライジン酸-D
4(トランス型)とリノール酸-D
4(シス型)の代謝プロファイルは異なることが示された。
【0267】
【0268】
例20:重水素化標識脂肪酸を使用した脂質代謝解析(3)
例20では、PCにリノエライジン酸-D4が効率的に取り込まれるメカニズムについて検討した。
【0269】
(1)方法
血小板におけるシス型脂肪酸とトランス型脂肪酸の立体特異性について検討した。重水素化標識脂肪酸がPCにおけるグリセロール骨格のsn-1位またはsn-2位に結合するかを解析するために、血小板から抽出した脂質分画をホスホリパーゼA
1(PLA
1)またはホスホリパーゼA
2(PLA
2)でインキュベートした。PCはPLA
1およびPLA
2によりそれぞれ2-アシル-LPCおよび1-アシル-LPCに分解される(次のスキーム参照)。
【化72】
【0270】
PLA1反応として、例19(1)アに記載の方法により得た血小板由来の脂質分画を酢酸バッファー中に懸濁し、PLA1(アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus
oryzae)由来、Sigma)と、ジエチルエーテルを添加して、4度条件下で一晩撹拌した。1%のギ酸入りメタノールを添加し、遠心後、上清を回収した。回収した上清を固相抽出カラム(Waters)にアプライし、水とクロロホルムを用いて洗浄後、1%のギ酸入りメタノールで溶出した。PLA2反応として、例19(1)アに記載の方法により得た血小板由来の脂質分画を0.1%のTriton-X100を含むトリスバッファー中に懸濁し、PLA2(アピス・メリフェラ(Apis
mellifera)由来、Sigma)を添加して、4度条件下で一晩撹拌した。反応液を固相抽出カラム(Waters)にアプライし、水とクロロホルムを用いて洗浄後、メタノールで溶出した。溶出して得た反応液中の2-アシル-LPCおよび1-アシル-LPCは、LC-MS装置を用いて行った。なお、LCとして、Ultimate 3000 ultra high performance LC system(Thermo)を、MSとして、Q-Exactive Orbitrap(Thermo)を用いた。カプセルパックC18 ACRカラム(大阪ソーダ)をHPLCカラムとして用い、水およびイソプロパノールから構成される移動相を用いてグラジエント溶出した。分析条件は表4に示す通りであった。
【0271】
【0272】
結果は、
図3に示す通りであった。リノエライジン酸-D
4(トランス型)は、リノール酸-D
4(シス型)と比較してPCのsn-1位とsn-2位の両方で有意に多くPCに取り込まれることが確認された(
図3A)。一方、エライジン酸-D
4(トランス型)は、オレイン酸-D
4(シス型)と比較して、やや多めにPCに取り込まれる傾向があった(
図3B)。これらの結果から、リノエライジン酸-D
4(トランス型)とエライジン酸-D
4(トランス型)の代謝プロファイルは異なり、それぞれのトランス脂肪酸の代謝プロセスはそれらの構造特性によって異なることが示唆された。
【0273】
例21:重水素化標識脂肪酸を使用した脂質代謝解析(4)
例21では、LPCにHODEを転移させるアシルトランスフェラーゼの酵素活性ついて検討した。
【0274】
(1)方法
10%の牛胎児血清を添加したD-MEM(富士フィルム和光純薬)中で培養したHEK293細胞に対して、pcDNA3.1ベクター(Thermo)内にAGPAT2およびAGPAT7をクローニングして得た発現プラスミドを、リポフェクション法により導入した。リポフェクション用試薬としては、リポフェクトアミン2000(Thermo)を用いた。48時間後、細胞を回収し、トリスバッファー中に懸濁させ、チップ式ソニケーターで細胞を破砕することで細胞抽出液を得た。この細胞抽出液を100,000gの回転速度で1時間遠心分離し、細胞膜画分を得た。3μgのタンパク量に相当する細胞膜画分、アシルトランスフェラーゼアクセプター分子として1-アシル-パルミチン酸-LPC(終濃度26μM)と、アシルトランスフェラーゼドナー分子としてD4―HODE―CoA(終濃度10μM)を混合した。37℃で10分間のインキュベーション後、総脂質分画はBligh EG, et al., Can. J. BIochem. Physiol, 1959に記載の方法により抽出し、LC-MSを用いて、反応産物を測定した。なお、HODE-CoA-D4は、オキサリルクロリドを用いてHODE-D4とCoAを縮合反応させることにより得た。
【0275】
動態解析(kinetic analysis)は、上記方法によって得た細胞膜画分について、0.05μgのタンパク量に相当する細胞膜画分、アシルトランスフェラーゼアクセプター分子として1-アシル-パルミチン酸-LPC(終濃度10μM)と、アシルトランスフェラーゼドナー分子としてHODE-CoA-D4(終濃度0μM、0.01μM、0.02μM、0.1μM、0.2μMまたは1μM)を混合した。37℃で10分間のインキュベーション後、総脂質分画はBligh EG, et al., Can. J. BIochem. Physiol, 1959に記載の方法により抽出し、LC-MSを用いて、反応産物を測定した。LC-MS条件は、LCとして、Ultimate 3000 ultra high performance LC system(Thermo)を、MSとして、Q-Exactive Orbitrap(Thermo)を用いた。InertSustainC18メタルフリーカラム(ジーエルサイエンス)をHPLCカラムとして用い、アセトニトリル、メタノール、水およびイソプロパノールから構成される移動相を用いてグラジエント溶出した。分析条件は表1と同様とした。測定結果について、X軸をHODE-CoA-D4量、Y軸をnmol/分/mgタンパク質とするグラフ上に表記し、ミカエリス・メンテン式を用いて回帰曲線を作成することで、KmおよびVmaxを得た。
【0276】
(2)結果
結果は、
図4に示す通りであった。AGPAT7は、AGPAT2または対照と比較して有意に高いHODE-D
4転移活性を有することが確認された(
図4A)。また、AGPAT7のHODE転移活性の動態解析の結果、K
mとV
maxは71.2nMと1.25nmol/分/mgと算出された(
図4B)。
【0277】
以上の例18~21の結果から、本発明の重水素化標識脂肪酸を使用して生体サンプルの脂質代謝解析が可能であることが確認された。