(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】気液混合装置
(51)【国際特許分類】
B01F 25/422 20220101AFI20240222BHJP
B01F 23/232 20220101ALI20240222BHJP
B01F 21/20 20220101ALI20240222BHJP
B01F 25/452 20220101ALI20240222BHJP
【FI】
B01F25/422
B01F23/232
B01F21/20
B01F25/452
(21)【出願番号】P 2022067523
(22)【出願日】2022-04-15
(62)【分割の表示】P 2017165651の分割
【原出願日】2017-08-30
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 文雄
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-144993(JP,A)
【文献】特開2006-198557(JP,A)
【文献】特開2008-161734(JP,A)
【文献】特開2008-149209(JP,A)
【文献】特開2011-115771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 21/00 - 25/90
B01J 19/00
C02F 1/50
C02F 1/68
E03C 1/084
B01D 3/16 - 3/24
A47K 3/00
A01K 63/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向を軸方向として配置され、気体及び液体を含む流体の入口部が軸方向の
上端部に形成されると共に、前記流体の出口部が軸方向の
下端部に形成された筒体と、
複数の開口を有し、前記筒体内に該筒体の軸方向に間隔をあけて設けられ、前記筒体内を前記軸方向に仕切る
15段以上の仕切部と、
を備え、
前記流体は、前記入口部を通って前記筒体内に流れ込み
、前記仕切部の表面に対して垂直に流れ落ち
、前記複数の開口を通過する際に分散、微滴化され、隣接する前記仕切部間に形成される空間部において気体が液体中に溶解されるように構成され、
前記複数の仕切部のうち前記入口部に最も近い最上段の仕切部の中央部に、前記入口部から流れ込んだ前記流体の流れを妨げる邪魔板を設けた、気液混合装置。
【請求項2】
前記軸方向に隣接する前記仕切部間には、間隔を保持するための保持部材が配置されている、請求項1に記載の気液混合装置。
【請求項3】
前記仕切部は、複数の開口が形成された仕切部材によって構成されており、
複数の前記仕切部のうち前記入口部に近い前記仕切部は、複数の前記仕切部材を重ねて構成されている、請求項1に記載の気液混合装置。
【請求項4】
前記軸方向に重ねられた前記仕切部材は、互いの前記開口の位置が前記軸方向でずれている、請求項
3に記載の気液混合装置。
【請求項5】
前記仕切部材は、平織りあるいは綾織りのメッシュ、エキスパンドメタル、又は、複数の貫通孔が形成された板状部材である、請求項
3又は請求項
4に記載の気液混合装置。
【請求項6】
前記筒体には、前記入口部及び前記出口部がそれぞれ複数形成されている、請求項1に記載の気液混合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気液混合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水などの液体中へ溶解度が小さい気体を溶解させる場合には、液体内に設置された多孔質体(樹脂、金属、セラミックス等で作られたもの)に気体を流してバブリングする方法、エジェクター構造の冶具を用いて気液(気体及び液体)を混合する方法、高圧の気体を細いノズルを通して微細化して液体中へ噴霧する方法、何枚ものらせん状のスリットを通過させて気液を撹拌及び混合する方法などが用いられてきた。
【0003】
例えば、エアレーション(曝気)法は、水中にガス(主に酸素)を送り込む方法であり、近年ではマイクロバブルを用いたエアレーションが増えている。しかし、高圧のガスが必要である他に、水中の溶存ガス(例えば酸素)濃度を飽和にするには数十分の時間を要し、ガスの溶解効率が低いという問題がある。
【0004】
また、無気泡酸素溶解法は、高圧酸素ガスを充填した槽内に高圧水をスプレーして送り込む方法であり、加圧された酸素中に噴霧状の水を接触させることにより酸素を水中に溶解する方法である。しかし、高圧に耐える酸素槽やそれに水を送り込む高圧ポンプなどが必要であり、装置が高価なものとなり電力も必要である。
【0005】
一方、静的な気液混合方法として、動力を使用しないスタティックミキサーがある。この装置は、気体と液体を複雑な形状の混合部に通して気泡を細分化・微細化し、渦流や乱流により攪拌・混合する方式であるが、動力を使用する装置に比べて気液混合の効率が低くなる。また、乱流状態を作るために気液混合装置の内径を小さくする必要があり、その結果、圧力損失も大きい。例えば、特許文献1には、メッシュを複数枚重ねて、メッシュ面に対して水平または垂直に気体及び液体を流して溶解を促進する方法について開示されている。この特許文献1では、凹凸のあるメッシュの端部からメッシュ面に対して水平に気体及び液体を流して気泡を分断し、微小渦発生を起こして気液混合(気体及び液体の混合)を行っている。しかし、密に重ねたメッシュに対して気体及び液体を水平に流すと、流れが層流になって攪拌が行われず、また、ミキサー内での圧力損失が大きくなるため、低圧力損失下で気液混合を行うことは難しい。更に、気体及び液体が攪拌されないので偏流が発生しやすく、混合が不十分になる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、高効率に気体と液体を混合できる気液混合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様の気液混合装置は、気体及び液体を含む流体の入口部が軸方向の一端部に形成されると共に、前記流体の出口部が軸方向の他端部に形成された筒体と、複数の開口を有し、前記筒体内に該筒体の軸方向に間隔をあけて設けられ、前記筒体内を前記軸方向に仕切る複数の仕切部と、前記入口部を流れる前記液体の流速よりも前記筒体内を流れる前記液体の流速を低下させる流速低下手段と、を備え、前記流速低下手段として、前記入口部と前記仕切部との間でかつ前記入口部に対向する部位に、前記仕切部とは別に配置され、前記筒体に流入した前記流体を整流する整流部を有する。
【0009】
第1態様の気液混合装置では、気体及び液体を含む流体が入口部を通って筒体内に流れ込む。このとき、流速低下手段としての整流部によって液体の流速が入口部よりも筒体内で低下すると共に整流される。さらに、筒体内が仕切部によって軸方向に仕切られていることから、例えば、筒体内に仕切部を配置しない構成と比べて、筒体内における液体の流速が低流速となる。このように筒体内で液体が整流され、かつ液体の流速が低流速となるため、流体中の気体は、静止水中における浮上挙動と類似又は同様の挙動を示して筒体内に気体溜まりを形成する。一方、液体は、筒体内に形成された気体溜まりの中を流れて、途中に設けられた仕切部において複数の開口を通過する際に分散・微滴化される。このように、液体が分散・微滴化されることで、液体と気体との接触面積(気液接触面積)が増加する。そして、隣接する仕切部間に形成される空間部において気体が液体中に溶解される(言い換えると、気体と液体の混合が促進される)。
ここで、上記気液混合装置では、筒体内に形成された気体溜まり中で液体を分散・微滴化して液体中に気体を溶解させるため、例えば、気体及び液体をメッシュなどに流して気泡を細分化・微細化して気体と液体を混合する従来の技術と比べて、高効率に気体と液体を混合することができる。
【0010】
本発明の第2態様の気液混合装置は、第1態様の気液混合装置において、前記流速低下手段は、前記筒体の内径を前記入口部の内径よりも大きく構成している。
【0011】
第2態様の気液混合装置では、筒体の内径が入口部の内径よりも大きく構成されていることから、例えば、筒体の内径が入口部の内径以下の構成と比べて、筒体内の流路断面積が大きくなる。これにより、筒体内を液体が流れる際の圧力損失を低減することができる。
【0012】
本発明の第3態様の気液混合装置は、第1態様の気液混合装置において、前記整流部は、前記入口部と前記仕切部との間に配置されて前記流体の流れを妨げる邪魔板である。
【0013】
第3態様の気液混合装置では、入口部と仕切部との間に邪魔板を配置するため、入口部から流れ込んだ流体の流れが邪魔板で妨げられて、筒体内において液体が整流されると共に、液体の流速が入口部よりも低下する。ここで、上記気液混合装置では、入口部と仕切部との間に邪魔板を配置することで、筒体内を流れる液体の流速を簡単に調節することができる。
【0014】
本発明の第4態様の気液混合装置は、第1態様の気液混合装置において、前記軸方向に隣接する前記仕切部間には、間隔を保持するための保持部材が配置されている。
【0015】
第4態様の気液混合装置では、筒体の軸方向に隣接する仕切部間に保持部材を配置することで、隣接する仕切部間の間隔を容易に保持することができる。
【0016】
本発明の第5態様の気液混合装置は、第1態様の気液混合装置において、前記仕切部は、複数の開口が形成された仕切部材によって構成されており、複数の前記仕切部のうち前記入口部に近い前記仕切部は、複数の前記仕切部材を重ねて構成されている。
【0017】
第5態様の気液混合装置では、複数の仕切部のうち入口部に近い仕切部を、複数の仕切部材を重ねて構成している。このため、筒体内に流れ込む流体の動圧が流入初期に減少し、筒体内における液体の流速分布が均一化される。これにより、筒体内に気体溜まりが形成されやすくなる。
【0018】
本発明の第6態様の気液混合装置は、第5態様の気液混合装置において、前記軸方向に重ねられた前記仕切部材は、互いの前記開口の位置が前記軸方向でずれている。
【0019】
第6態様の気液混合装置では、一の仕切部材の開口の位置と、一の仕切部材に重ねられた他の仕切部材の開口の位置とが該軸方向でずれていることから、例えば、互いの開口の位置が軸方向でずれていない(軸方向で同じ)構成と比べて、液体を分散・微滴化できる。
【0020】
本発明の第7態様の気液混合装置は、第5態様又は第6態様の気液混合装置において、前記仕切部材は、平織りあるいは綾織りのメッシュ、エキスパンドメタル、あるいは、複数の貫通孔が形成された板状部材である。
【0021】
第7態様の気液混合装置では、仕切部材として、開口の数を多く設定できる部材を用いるため、液体が仕切部材の複数の開口を通過する際に、液体をより分散・微滴化できる。
【0022】
本発明の第8態様の気液混合装置は、第1態様の気液混合装置において、前記筒体には、前記入口部及び前記出口部がそれぞれ複数形成されている。
【0023】
第8態様の気液混合装置では、筒体に入口部及び出口部をそれぞれ複数形成しているため、例えば、筒体に入口部及び出口部を一つずつ形成する構成と比べて、筒体内における流体の偏流を抑制することができる。
【0024】
本発明の第9態様の気液混合装置は、第1態様の気液混合装置において、前記筒体内を流れる前記液体の断面平均流速が0.3m/s未満である。
【0025】
第9態様の気液混合装置では、筒体内を流れる液体の断面平均流速を0.3m/s未満の低速流領域としていることから、筒体内において気体が静止水中における浮上挙動と類似又は同様の挙動を示しやすく、筒体内に気体溜まりが形成されやすい。このため、上記気液混合装置では、例えば、液体の断面平均流速を0.3m/s以上とする構成と比べて、筒体内に気体溜まりが形成されやすく、高効率に気体と液体を混合することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高効率に気体及び液体を混合できる気液混合装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に一実施形態に係る気液混合装置の断面図である。
【
図2】
図1における気液混合装置内での気液混合様式のイメージ図である。
【
図3】実施例1の気液混合装置の性能を評価するための試験装置のフロー図である。
【
図4】実施例1と比較例1の気液混合装置の水流量と溶存酸素濃度との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例1と比較例1の気液混合装置の水流量と圧力損失との関係を示すグラフである。
【
図6】実施例1と比較例1の気液混合装置の水流量と酸素溶解度との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例1と比較例1の気液混合装置のレイノルズ数と酸素溶解度との関係を示すグラフである。
【
図8】比較例1と比較例2の気液混合装置の水流量と溶存酸素濃度との関係を示すグラフである。
【
図9】実施例1の気液混合装置を適用したリサイクル式オゾン水製造装置のフロー図である。
【
図10】
図9のリサイクル水電解装置で生成したオゾン水の濃度の経時変化を示すグラフである。(a)バッチ式、(b)連続抜き出し式。
【
図11】実施例1の気液混合装置を適用したリサイクル式水素水製造装置のフロー図である。
【
図12】
図11のリサイクル式水素水製造装置で生成した水素水の濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態に係る気液混合装置について説明する。
【0029】
<気液混合装置>
図1には、本実施形態の気液混合装置20の断面図が示されている。この気液混合装置20は、液体中に気体を溶解させて気体と液体を混合する装置である。
【0030】
気液混合装置20は、筒体22と、筒体22内に設けられた仕切部24と、流速低下構造26と、を備えている。
【0031】
(筒体22)
筒体22は、
図1に示されるように、円筒状とされており、軸方向の一端部(
図1では上端部)に入口部28が形成され、軸方向の他端部(
図1では下端部)に出口部30が形成されている。筒体22について詳細に説明すると、筒体22は、入口部28と一体とされた上部筒体22Aと、出口部30と一体とされた下部筒体22Bとを備えており、下部筒体22Bの上端部が上部筒体22Aに下方から嵌め込まれている。
【0032】
上部筒体22Aは、天井部を有する円筒部材であり、該天井部に入口部28が形成されている。この入口部28は、上部筒体22Aの軸方向(筒体22の軸方向と同じ)に沿って延びる配管によって構成されている。
【0033】
下部筒体22Bは、底部を有する円筒部材であり、該底部に出口部30が形成されている。この出口部30は、下部筒体22Bの軸方向(筒体22の軸方向と同じ)に沿って延びる配管によって構成されている。
【0034】
また、筒体22の内径D1は、入口部28の内径D2及び出口部30の内径D3よりも大きくされている。
【0035】
筒体22を形成する材料としては、樹脂又は金属等を用いてもよい。なお、筒体22を形成する材料は、流体の種類に適したものを選ぶことが好ましい。例えば、オゾン等の腐食性ガスを液体中に高濃度に溶解させる場合は、筒体22の素材として、PFA等のテフロン(登録商標)の樹脂やチタンなどの耐腐食性の材料を用いることが好ましい。腐食性の低い流体に用いる場合には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニールなどの汎用プラスチックやステンレスを用いてもよい。また、熱伝導度の高い材料を用いたい場合にはアルミニウムや銅を用いてもよい。
【0036】
また、筒体22の形状は、円筒状に限定されない。例えば、筒体22の形状は、多角筒状(断面多角形の筒状)、楕円筒状でもよい。
【0037】
なお、本実施形態の筒体22は、本発明における筒体の一例である。
【0038】
(仕切部24)
仕切部24は、
図1に示されるように、複数の開口24Aを有しており、筒体22内に該筒体22の軸方向に間隔をあけて複数設けられて、筒体22内を軸方向に仕切っている。この仕切部24は、複数の開口24Aを有する1つの仕切部材32によって構成されている。この仕切部材32の外形は、筒体22の内形と同じ形状(本実施形態では、仕切部材32の外形は円形状)とされ、外周部が筒体22の内周面に密着している。また、仕切部材32は、筒体22の軸方向に対して直交する方向に延在している。
【0039】
仕切部材32としては、平織りあるいは綾織りのメッシュ、エキスパンドメタル、又は、複数の貫通孔が形成された板状部材等を用いてもよい。なお、仕切部材32は、液体を分散・微滴化できれば、特に上記構成に限定されない。
【0040】
また、仕切部材32を形成する材料としては、繊維、プラスチック、金属など何でも構わないが、使用する流体に対して腐食し難い材料を選定することが好ましい。例えば、超高濃度のオゾンを液体に溶かす場合には、仕切部材32の材料として、耐腐食性が強いチタン及びテフロン(登録商標)等を用いることが好ましい。
一方、腐食性が少ない水素、酸素や窒素などを液体に溶かす場合には、仕切部材32の材料として、汎用樹脂、ナイロン、エンジニアリングプラスチック、ステンレス、炭素鋼や熱伝導度の高い銅やアルミニウム等の素材を用いることが好ましい。
【0041】
なお、本実施形態の仕切部24は、本発明における仕切部の一例である。
【0042】
(流速低下構造26)
流速低下構造26は、
図1及び
図2に示されるように、入口部28を流れる液体の流速(断面平均流速U1)よりも筒体22内を流れる液体の流速(断面平均流速U2)を低下させる構造である。流速低下構造26をより詳細に説明すると、流速低下構造26は、筒体22の内径D1を入口部28の内径D2よりも大きくした構造である。なお、本実施形態の流速低下構造26では、筒体22の内径D1を出口部30の内径D3よりも大きくしている。
【0043】
また、筒体22内を上方にある入口部28から下方にある出口部30に向かって流れる液体の断面平均流速U2は、0.3m/s未満とされている。具体的には、筒体22を流れる液体の断面平均流速U2が、0.3m/s未満となるように、筒体22の内径D1が設定されている。
【0044】
また、入口部28を流れる液体の断面平均流速U1は、0.3m/s以上1m/s以下とされている。具体的には、入口部28を流れる液体の断面平均流速U1が、0.3m/s以上1m/s以下となるように、入口部28の内径D1が設定されている。
【0045】
なお、本実施形態の流速低下構造26は、本発明における流速低下手段の一例である。
【0046】
(保持部材34)
また、気液混合装置20は、保持部材34を備えている。この保持部材34は、
図1に示されるように、筒体22の軸方向に隣接する仕切部24(仕切部材32)間に配置されている。この保持部材34によって、隣接する仕切部24間の間隔が保持されている。言い換えると、保持部材34によって、隣接する仕切部24間に空間部36が形成されている。
【0047】
保持部材34としては、隣接する仕切部24間の間隔を保持できれば特に限定されないが、例えば、Oリングやパッキンを用いてもよい。また、保持部材34を形成する材料として、仕切部材32と同様の材料(例えば、テフロン(登録商標)やチタン)を用いてもよい。
【0048】
次に本実施形態の作用効果について説明する。
【0049】
まず、本実施形態の作用効果を説明する前に、筒体22内に仕切部24を配置しない参考例の気液混合装置について説明する。この参考例の気液混合装置は、透明アクリル樹脂で筒体22を形成し、筒体22内に仕切部24を配置しない構成としている。この参考例の気液混合装置の筒体22内に入口部28(ここでは、3/8インチの配管)から気体(ここでは酸素ガス)と液体(ここでは水)を含む流体(混合物)を流し込んだ場合の流体の流動状態を観察した。なお、酸素ガスの流量(以下、適宜「酸素ガス流量」と記載する。)を120mL/min、水の流量(以下、適宜「水流量」と記載する。)を1L/min~8L/minとした。
観察の結果、酸素ガスは、水流量が1L/min~2L/minの時に筒体22内に充満してガス溜まり(気体溜まり)を形成することが明らかとなった。一方、水は、筒体22の内周面を伝わって流れ落ちた。このように仕切部24と保持部材34を配置しない場合でも、筒体22内にガス溜まりを形成できるものの、液体の大半が筒体22の内周面を流れ落ちるため、気体と液体との接触面積が小さくなり、気体と液体の混合が進まないことが分かった。また、水流量を4L/min以上にすると、細い入口部28から筒体22内へ供給される流体の動圧が高くなるため、筒体22内を流れる液体の流速が十分に減速されず、筒体22内にガス溜まりを形成できないことがわかった。
したがって、筒体22内に仕切部24を配置することで、筒体22内の液体を細分化・微滴化させて気液接触面積を増大できることが明らかとなった。また、筒体22内に仕切部24を配置することで、入口部28から筒体22内へ流れ込む流体の動圧が抑制されて、筒体22内における流速が低流速でかつ略均一となり、ガス溜まりが形成されやすくなることが分かった。
【0050】
本実施形態の気液混合装置20では、
図2に示されるように、気体及び液体を含む流体が入口部28を通って筒体22内に流れ込む(流れ落ちる)。このとき、流体が筒体22の仕切部24(仕切部材32)の表面に対して垂直に流れ落ちるため、例えば、流体が仕切部24(仕切部材32)の表面に沿って流れ落ちる従来の構成と比べて、気体と液体を混合することができる。さらに、仕切部材32の外周部を筒体22の内周面に密着させているため、仕切部材32の外周部と筒体22の内周面との間から流体が流れ落ちるのを抑制できる。このため、例えば、仕切部材32の外周部と筒体22の内周面との間から気体と液体が流れ落ちるものと比べて、気体と液体をより混合することができる。
【0051】
そして、入口部28から筒体22内に流れ込んだ流体は、流速低下構造26によって液体の流速(断面平均流速)が入口部28よりも筒体22内で低下される。具体的には、筒体22の内径D1を入口部28の内径D2よりも大きく構成していることから、筒体22内における液体の断面平均流速U2が入口部28における断面平均流速U1よりも低下する。また、筒体22内が仕切部24によって軸方向に仕切られていることから、流体の流速が筒体22内において低流速でかつ略均一となる。このとき、流体中の気体は、静止水中における浮上挙動と類似又は同様の挙動を示して筒体22内に気体溜まりZを形成する。一方、液体は、筒体22内に形成された気体溜まりZの中を流れて、途中に設けられた仕切部24において複数の開口24Aを通過する際に分散・微滴化される。このように、液体が分散・微滴化されることで、液体と気体との接触面積(気液接触面積)が増加する。そして、隣接する仕切部24間に形成される空間部36において気体が液体中に溶解される(言い換えると、気体と液体の混合が促進される)。
【0052】
ここで、気液混合装置20では、筒体22内に形成された気体溜まりZ中で液体を分散・微滴化して液体中に気体を溶解させるため、例えば、気体及び液体をメッシュなどに流して気泡を細分化・微細化して気体と液体を混合する従来の技術と比べて、高効率に気体と液体を混合することができる。
【0053】
また、気液混合装置20では、筒体22の内径D1を入口部28の内径D2よりも大きく構成していることから、例えば、内径D1が内径D2以下の構成と比べて、筒体22内の流路断面積が大きくなる。このため、筒体22内を液体が流れる際の圧力損失を低減することができる。
【0054】
さらに気液混合装置20では、筒体22の軸方向に隣接する仕切部24間に保持部材34を配置することで、隣接する仕切部24間の間隔を容易に保持することができる。
【0055】
また、気液混合装置20では、仕切部材32として、開口24Aの数を多く設定できる部材を用いるため、液体が仕切部材32の複数の開口24Aを通過する際に、液体をより分散・微滴化できる。
【0056】
またさらに、気液混合装置20では、筒体22内を流れる液体の断面平均流速U2を0.3m/s未満の低速流領域としていることから、筒体22内に流れ込んだ気体が静止水中における浮上挙動と類似又は同様の挙動を示しやすく、筒体22内に気体溜まりZが形成されやすい。このため、気液混合装置20では、例えば、液体の断面平均流速U2を0.3m/s以上とする構成と比べて、筒体22内に気体溜まりZが形成されやすく、高効率に気体と液体を混合することができる。
【0057】
前述の実施形態では、隣接する仕切部24(仕切部材32)間に保持部材34を配置しているが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、保持部材34を用いずに、隣接する仕切部材32の各々の外周部を筒体22の内周面に固定(固着)して隣接する仕切部材32間の間隔を保持する構成としてもよい。
【0058】
また、前述の実施形態では、本発明における流速低下手段の一例として流速低下構造26を用いているが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、流速低下構造26の代わりに流体の流れを妨げる邪魔板(図示省略)を入口部28と仕切部24(最も入口部28寄りの仕切部24)との間に配置する構成としてもよい。このように入口部28と仕切部24との間に邪魔板を配置することで、入口部28から流れ込んだ流体の流れが邪魔板で妨げられて流速(断面平均流速)が低下する。すなわち、入口部28における液体の断面平均流速U1よりも筒体22内における液体の断面平均流速U2が低下する。入口部28と仕切部24との間に邪魔板を配置した場合、筒体22内を流れる液体の断面平均流速U2を簡単に調節することができる。なお、流速低下構造26と邪魔板は併用してもよい。
【0059】
さらに、前述の実施形態では、仕切部24を一つの仕切部材32で構成しているが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、複数の仕切部24のうち入口部28に近い仕切部24を複数の仕切部材32を重ねて構成してもよい。このように複数の仕切部24のうち入口部28に近い仕切部24を複数の仕切部材32を重ねて構成した場合、筒体22内に流れ込む流体の動圧が流入初期に減少し、筒体22内における液体の流速分布が均一化される。これにより、筒体22内に気体溜まりZが形成されやすくなる。また、例えば、複数の仕切部24のすべてを複数の仕切部材32で構成してもよい。さらに、例えば、複数の仕切部24のうち入口部28に近い仕切部24の重ね合わせの数を他の仕切部24よりも多くしてもよい。
さらに、一つの仕切部24を複数の仕切部材32で構成する場合、互いに重ねられる仕切部材32の互いの開口の位置を軸方向でずらして重ねることが好ましい。すなわち、一の仕切部材32の開口の位置と、一の仕切部材32に重ねられた他の仕切部材32の開口の位置とを筒体22の軸方向でずらすことで、例えば、互いの開口の位置が筒体22の軸方向でずれていない(軸方向で同じ)構成と比べて、液体を分散・微滴化できる。
【0060】
またさらに、前述の実施形態では、筒体22に入口部28及び出口部30を一つずつ形成しているが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、筒体22には、入口部28及び出口部30をそれぞれ複数形成してもよい。このように筒体22に入口部28及び出口部30をそれぞれ複数形成した場合、例えば、筒体22に入口部28及び出口部30を一つずつ形成する構成と比べて、筒体22内における流体の偏流を抑制することができる。なお、筒体22に形成する入口部28の数量と出口部30の数量を変えてもよいし、入口部28の内径D2と出口部30の内径D3を変えてもよい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
実施例1の気液混合装置20(
図1参照)では、筒体22として外径49mm、内径44mm、高さ120mm、容積180mLのPFA製平底ジャー(株式会社サンプラテック、呼称0103L)を使用した。また、平底ジャーの底部と天井部に入口部28と出口部30を構成する3/8インチの配管をそれぞれ取り付けるため、テフロン(登録商標)製の継ぎ手を溶接した。この筒体22のキャップを外して、筒体22内に保持部材34としての内径37.7mm、線径3.5mmのPFA被覆Oリングを1枚(フロン工業株式会社、呼び寸法P-38)と、仕切部材32としてのφ44mmに切断した平織りの#80チタンメッシュ(株式会社くればあ、線径0.1mm、目開き率47%)を2枚重ねて形成した仕切部24と、を交互に27段積層した。すなわち、Oリングとチタンメッシュの枚数は、それぞれ27枚と54枚である。
筒体22内にチタンメッシュとOリングを充填した後、キャップを閉めれば気液混合装置20が完成するので、気液混合装置20の作製が非常に簡単となる。
【0063】
なお、実施例1の気液混合装置20にPFA(テフロン(登録商標)の一種)とチタン(Ti)という高価な材料を用いた理由は、強力な酸化力を有する150mg/L以上の超高濃度オゾン水を生成可能とするためである。このような流体を流すためには、耐オゾン性に優れた材料を用いる必要があり、テフロン(登録商標)、アクリル、Ti、ガラス以外の材料を選択することは難しい。
【0064】
次に、実施例1の気液混合装置20で混合する気体と液体について説明する。混合の対象となる気体は、液体に溶けにくい(ヘンリー定数が大きい)ものであれば、例えば、酸素、窒素、空気、水素、オゾンなどを用いてもよい。液体としては、ガスを溶かしにくい液体、例えば水、アルコール、酸性溶液、アルカリ性溶液、油などを用いてもよい。メッシュの目を詰まらすような粒子が液体中に存在する場合は、フィルターなどであらかじめ粒子を除去しておくことが好ましい。
【0065】
実施例1の気液混合装置20の大きさは、流す流体の流量を考慮して決めることが好ましい。大流量の気体と液体を流す場合には、筒体22の内径D1、メッシュの外径並びにOリングの内径を大きくし、流路の断面積を増やす。この際、液体の断面平均流速U2が0.3m/s未満の低速流領域となるように流路を設計することにより、筒体22内に気体溜まりZを形成しやすくなる。
【0066】
例えば、実施例1の気液混合装置20に水を流す場合の水流量と、入口部28内における液体(水)の断面平均流速U1及び筒体22内における液体(水)の断面平均流速U2との関係を表1にまとめた。
【0067】
【0068】
表1から、実施例1の気液混合装置20へ流す液体の断面平均流速が1L/min~12L/minの何れの条件においても、次の2つの要点を満たしていることがわかる。
【0069】
1.入口部28内における液体の断面平均流速U1は、全ての条件下で0.3m/s以上となっており、気体が入口部28内を気泡の状態で流れる(入口部28内に気体溜まりが形成されない)。
【0070】
2.筒体22内における液体の断面平均流速U1は、全ての条件下で0.3m/s未満となっており、気体は静止水中での気泡と同じように浮上挙動を示す。これにより、筒体22内に気体溜まりが形成される。
【0071】
上記2点を考慮して気液混合装置20の筒体22の内径D1と入口部28の内径D2とを設定することが好ましい。気液混合装置20内は、低流量時に偏流が起こりやすいため、入口部28近傍及び出口部30近傍の少なくとも一方に流体を整流する整流部を設けたり、筒体22に入口部28及び出口部30をそれぞれ複数設けたりして偏流を抑制してもよい。例えば、表1の水流量が1L/min~4L/minの範囲では、筒体22内のレイノルズ数Re(-)が571~2284となり、水の流れが層流となるため、偏流が生じ易い。このような条件で気液混合装置20を用いる場合には、上記のように整流部や複数の入口部28及び出口部30を設置することにより、偏流を抑制することができる。一方、表1の水流量が4L/min~12L/minの範囲では、入口部28内における液体の断面平均流速U1が1.5m/s~4.5m/sの高速となり、その動圧の影響で搬送された気泡が筒体22内に留まりにくくなる。そこで、入口部28に近い部分の仕切部24を構成するメッシュ等の枚数を増やしたり、最上段の仕切部24を構成するメッシュ等の中央部に邪魔板を設けたりするなどの手段を用いることにより、入口部28及び出口部30における液体の断面平均流速を平均化して、0.3m/s未満に抑制することができる。また、常時、高流量で気液混合装置20を使用する場合には、入口部28の本数を複数にするなどの方法により、入口部28における液体の断面平均流速U1を0.3<U1<1.0m/sとなるように設定して動圧を抑制してもよい。
【0072】
<試験例1>
実施例1の気液混合装置を用いて、酸素を水道水に溶解した結果を説明する。試験に用いた試験装置のフローを
図3に示す。この試験では、水道水の蛇口から水を流し、酸素流量計(MFC:マスフローコントローラー)を通して酸素ガス(気体)を水道水(液体)に混合した。水道水と酸素ガスの混合流体を実施例1の気液混合装置20の上部にある入口部28から下方向に流して出口部30から抜き出した。入口部28までの水道水供給ラインを3/8インチの配管で構成し、酸素ガス供給ラインを1/4インチの配管で構成した。気液混合装置20へ流す水道水の流量(以下、適宜「水流量」と記載する。)は0.6L/min~12L/minの間で変化させ、酸素ガスの流量は120mL/minに固定した。実験では、気液混合装置20における圧力損失及び出口部30における溶存酸素濃度並びに未溶解酸素量を計測した。水流量は、1Lのメスシリンダーで計測し、溶存酸素濃度は光学式溶存酸素濃度計(メトラートレド社、Seven2Go pro)で計測した。また、投入酸素のマテリアルバランスを確認するため、水上置換法で未溶解酸素量を計測した。なお、水温は、15℃であった。
【0073】
実施例1の気液混合装置20との比較用に、市販のスタティックミキサー(ノリタケカンパニーリミテッド、型式3/8-(1)-N40-174-0、エレメント数24。以下、適宜「比較例1の気液混合装置」と記載する)を気液混合装置20と置き換えて、
図3のフローにより性能を評価した。市販のスタティックミキサーにはエレメント数が12のミキサーもあるが、エレメント数が24のミキサーに比べて酸素溶解性能が30%以上も低いため、酸素溶解性能の高いエレメント数が24のミキサー(比較例1の気液混合装置)と比較した。
【0074】
実験結果を
図4に示す。
図4の横軸は水流量であり、縦軸は気液混合装置の出口部における溶存酸素濃度である。原料の水道水中には9mg/L程度の溶存酸素が含まれているが、
図4の縦軸は元々含まれていた原料の水道水中の溶存酸素を含めた値である。この
図4から、水流量が4L/minの場合のみ、実施例1と比較例1の溶存酸素濃度がほぼ等しかった。しかし、その他の水流量においては、実施例1が比較例1よりも高い溶存酸素濃度を示した。特に、低水量領域では、実施例1が比較例1よりも50%程度高い濃度の酸素水を作ることができた。例えば、0.6L/minの水道水を実施例1に流した場合、35mg/Lという高濃度の酸素水が得られた。15℃の水道水に対する酸素の飽和溶解度が49mg/Lであることを考慮すると、実施例1を用いることにより、水流量に対して1/5の流量で酸素ガスを流すことにより飽和濃度の約70%の酸素を溶解できることが明らかになった。一方、比較例1の最高溶存酸素濃度は25mg/Lであり、実施例1よりも低かった。また、水流量=1.2L/minにおける溶存酸素濃度で比較しても、実施例は30.0mg/Lであるのに対して比較例1は20.9mg/Lであり、実施例1が比較例1よりも10mg/Lも溶存酸素濃度が高かった。
【0075】
水流量と実施例1及び比較例1の圧力損失との関係を
図5に示す。実施例1は、3L/min未満の水流量では、比較例1よりも圧力損失が大きかったが、3L/min以上の水流量では比較例1よりも圧力損失が小さくなり、0.1MPaの圧力損失を許容すれば8L/minという高流量を流せた。一方、比較例1は、高流量下での圧力損失が大きく0.15MPaの圧力を掛けても4L/min程度の水しか流すことができなかった。
【0076】
次に、投入した酸素ガスの内の何%が水に溶解したか(以下、酸素溶解度(%)と定義する)をマテリアルバランスより算出した。その結果を
図6に示す。この図は、横軸を水流量、縦軸を酸素溶解度としてデータをプロットしたものである。実施例1は、どの水流量領域においても比較例1に比べて効率良く酸素を溶解できていることがわかる。特に、12L/minの水と120mL/minの酸素ガスを流すと、投入した酸素の57%を水に溶解できるという結果が得られた。この値は、他の小型ミキサーでは到達できないほどの酸素溶解度であり、原料の酸素ガスを高効率に溶解できたことがわかる。また、
図4の6L/min以上の高水流量において、水流量を増やしていっても、ずん胴ミキサー出口の溶存酸素濃度が低下しない原因は、
図6に見られるとおり水流量に比例して酸素溶解度が上昇するためであることがわかった。
【0077】
実施例1及び比較例1の内部を流れる水道水のレイノルズ数と酸素溶解度との関係を
図7に示す。実施例1は、水流量が少なくレイノルズ数が小さい条件下でも比較例1に比べてはるかに大きい酸素溶解度を示した。また、6L/min以上の水流量では、実施例のレイノルズ数が3300以上の乱流となっており、メッシュ(仕切部材32)間の空間部36における気液攪拌効果により酸素溶解度が上昇している。圧力損失を無視して12L/min以上に水流量を上げることができれば、酸素溶解度を更に上昇させることが可能である。
【0078】
以上の結果から、実施例1の気液混合装置20は、筒体22内に気体を溜め、仕切部24を構成するメッシュで液体を分散・微滴化して気体及び液体の接触面積を増大させ、空間部36で気体及び液体の混合攪拌を促進するという機構によって液体に対する気体の溶解効率を高めることができ、さらに、圧力損失も小さいという、これまでにない優れた特性を持つことが明らかとなった。
【0079】
<試験例2>
特許文献1(特開平8-173782号公報)に記載されている気液混合装置を模倣した水平型気液混合装置(以下、「比較例2」と記載する。)の性能を評価した。この試験では、比較例2の筒体内部に幅(W)40mm、奥行き(D)100mm、高さ(H)3mmの空間を形成し、その中にW40mm、D100の#100チタンメッシュを15枚設置した。また、比較例2の流体の入口部と出口部の配管数はそれぞれ二本ずつとし、さらに、入口部と出口部には、それぞれW40mm、D100mm、H10mmの整流部(空間)を設けて、筒体内での流体の偏流を抑制した。この比較例2を
図3の装置に設置して水流量を1L/min~4L/minに変化させ、酸素流量は120mL/minに固定して、溶存酸素濃度を測定した。なお、比較のため、比較例1を用いて溶存酸素濃度を測定した。その結果を
図8に示す。
【0080】
比較例2の溶存酸素濃度は、全ての水流量下で比較例1を下回り、比較例1の優秀性が顕著であった。なお、比較例2は圧力損失も大きく、4L/minの水流量での圧力損失は、0.12MPaと比較例1とほぼ同じであり、実施例1より大きかった。したがって、比較例2は、比較例1及び実施例1よりも低性能である。このことから、メッシュを密に重ねるのではなく、隣接するメッシュ間に空間部を設けた構造のミキサーの方が優れていることがわかった。
【0081】
<試験例3>
実施例1の気液混合装置20を
図9のリサイクル式オゾン水製造装置に組み入れ、約10vol.%の濃度のオゾンガスを生成する水電解セルの下流に設置してリサイクル水電解を行った。この電解方法については、特願2016-220967号(出願日2016年11月11日)に記載の方法を用いている。水電解セルの電極面積は18cm
2であり、これに27Aの電流を流して水の電解を行った。アノード水タンクには純水を入れ、そのリサイクル量は1.6L/minとした。また、カソードには0.5Mの塩水を0.7L/minの流量でリサイクルさせた。アノード水タンクの水量は3.0Lとした。この試験では、オゾン水を抜き出さない「バッチ式」、及び、0.1L/minでオゾン水を連続的に抜き出してその分の純水をアノード水タンクに補給する「連続抜き出し式」の2方式で高濃度オゾン水を生成した。その結果を
図10(a)及び
図10(b)に示す。
【0082】
図10(a)及び
図10(b)に示される通り、バッチ式で159mg/L、0.1L/minの連続抜き出し式で112mg/Lという超高濃度オゾン水を得ることができた。10vol.%の濃度のオゾンガスと平衡濃度となった場合のオゾン水の濃度をヘンリー則から算出すると70mg/L程度になる。したがって、実施例1を使用してバッチ式でオゾン水を生成する場合、飽和濃度の2倍以上もの濃度を持つ「過飽和オゾン水」を作れることが分かった。
【0083】
<試験例4>
実施例1の気液混合装置20を
図11のリサイクル式水素水製造装置に組み入れ、水電解セルの下流に設置してリサイクル水電解を行った。この電解方法についても、特願2016-220967号に記載の方法を用いている。水電解セルの電極面積は50cm
2であり、これに60Aの電流を流して水の電解を行った。アノード、カソード共に純水を供給し、リサイクル水量は、アノード水を1.0L/min、カソード水を3.0L/minとした。リサイクルタンクの水量は3.0Lとし、水を抜き出さないバッチ式で高濃度水素水を生成した。水素水の濃度は、溶存水素濃度計(有限会社共栄電子研究所、KM2100DH、測定上限=2.0mg/L)で計測した。なお、20℃、1気圧下での飽和水素濃度は、1.62mg/Lである。その結果を
図12に示す。
【0084】
図12に示される通り、運転開始から18分ほどで飽和水素水となり、20分を超えると2.0mg/L以上の過飽和水素濃度を有する高濃度水素水を3L生成することができた。常圧のタンクを用いて過飽和の水素水を生成したのは、世界で初めてのことである。このことからも、実施例1の気液混合装置20が高性能であることがわかった。
【0085】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、その主旨を逸脱しない範囲内において上記以外にも種々変形して実施することが可能であることは勿論である。例えば、気液混合装置20の上下を逆にして、下方の入口部28から上方の出口部30へ流体を流す構成としてもよい。
【0086】
なお、本発明における気液混合装置は、気液混合操作において高い溶解性能を有するので、酸素富化水や高濃度機能水(オゾン水、水素水、オゾンと過酸化水素を混合した促進酸化水など)の製造及び窒素やアルゴンなどを用いたガスパージによる脱ガスシステムでの使用など、様々な産業分野に応用できる。
【符号の説明】
【0087】
20 気液混合装置
22 筒体
24 仕切部
24A 開口
26 流速低下構造(整流部、流速低下手段)
28 入口部
30 出口部
32 仕切部材
34 保持部材
36 空間部
D1 内径(筒体の内径)
D2 内径(入口部の内径)