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特許7441640マイクロリソグラフィ投影露光装置に関してマニピュレータを制御する制御装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】マイクロリソグラフィ投影露光装置に関してマニピュレータを制御する制御装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
G03F7/20 501
G03F7/20 521
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019226548
(22)【出願日】2019-12-16
(65)【公開番号】P2020112786
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】10 2019 200 218.8
(32)【優先日】2019-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【弁理士】
【氏名又は名称】下地 健一
(72)【発明者】
【氏名】ビョーン ブッチャー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ヴァルト
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-536579(JP,A)
【文献】特開2006-332146(JP,A)
【文献】特開2010-045309(JP,A)
【文献】特開2016-200818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロリソグラフィ投影露光装置(50)のパラメータを変更する少なくとも1つのマニピュレータ(M1~M4、36)を、該マニピュレータにより行われる前記パラメータの変更を規定する移動変数(38、138)に関するターゲットを生成することにより制御する制御装置(14、114)であって、該制御装置は、メリット関数(42)を最適化することにより前記投影露光装置の状態特性評価(34)から前記ターゲット(38)を生成するよう構成され、前記メリット関数は、暗黙制約として前記投影露光装置の特性に関する極限(44)を考慮する少なくとも1つのペナルティ項(46)を含み、前記ペナルティ項は、前記特性が前記極限に近付くにつれてその関数値が「無限大」に向かうように定式化され、前記極限は有限の所定の値であり、
前記ペナルティ項(46)は、少なくとも一区間で少なくとも1回連続微分可能である関数(47)を含み、前記区間は実際の境界条件により制限される関数の定義域の90%超を占める、制御装置。
【請求項2】
請求項に記載の制御装置において、
前記関数は、最小増分での数値表現で利用可能であり、前記関数値が該制御装置の計算プログラムで表現可能な最小数の10倍となる区間の各点において、線形近似により求められた関連の近似点の関数値の実際の関数値からのずれが実際の関数値の50%以下であることにより、連続微分可能性が満たされ、前記各点に関連する前記近似点は、その点から前記最小増分の2倍以上離れている制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の制御装置において、
前記関数(47)は、少なくとも前記区間で少なくとも2回連続微分可能である制御装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の制御装置において、
前記関数(47)は、対数関数(47a)を少なくとも近似的に含む制御装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の制御装置において、
前記関数(47)は、有理分数関数(47b)を少なくとも近似的に含む制御装置。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の制御装置において、
前記ペナルティ項(46)は、その関数値が前記極限(44)を超える場合に「無限大」と定義されるように定式化される制御装置。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の制御装置において、
該制御装置(14、114)は、第1最適化変数として働く前記移動変数(38)及び別カテゴリのさらに別の最適化変数(43)により前記メリット関数を最適化することにより、前記ターゲットを実装するよう構成される制御装置。
【請求項8】
請求項に記載の制御装置において、
前記さらに別の最適化変数(43)は、前記極限(44)をスケーリングするためのスケール因子(43a)を含む制御装置。
【請求項9】
請求項に記載の制御装置において、
前記メリット関数(42)は、前記スケール因子(43a)の値を制限するさらに別のペナルティ項(48)を含む制御装置。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか1項に記載の制御装置において、
前記極限(44)は、前記投影露光装置の各特性に関する複数の個別極限値を含み、前記さらに別の最適化変数は、前記個別極限値をスケーリングするための複数のスケール因子(43a)と前記個別極限値の少なくとも1つが超えることができない群極限値とを含む制御装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の制御装置において、
前記ペナルティ項(46)が前記極限を含む前記投影露光装置の前記特性は、前記投影露光装置の投影レンズの結像収差を含む制御装置。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の制御装置において、
前記ペナルティ項(46)が前記極限を含む前記投影露光装置の前記特性は、前記移動変数(38)に関する前記ターゲットを含む制御装置。
【請求項13】
マイクロリソグラフィ投影レンズ(16)を調整する調整機構(10)であって、
前記投影レンズの状態特性評価(34)を確認する測定装置(12)と、前記状態特性評価から移動変数(38)に関するターゲットを生成する請求項1~12のいずれか1項に記載の制御装置(14)とを備えた調整機構。
【請求項14】
マイクロリソグラフィ投影露光装置(50)であって、投影レンズの該投影露光装置のパラメータを変更するよう構成された少なくとも1つのマニピュレータ(M1~M4)と、前記少なくとも1つのマニピュレータを制御する請求項1~12のいずれか1項に記載の制御装置(114)とを備えたマイクロリソグラフィ投影露光装置。
【請求項15】
マイクロリソグラフィ投影露光装置のパラメータを変更する少なくとも1つのマニピュレータ(M1~M4、114)を制御する方法であって、
メリット関数(42)を最適化することにより前記投影露光装置の状態特性評価(34)から前記少なくとも1つのマニピュレータの移動変数(38)に関するターゲットを生成するステップであり、
前記メリット関数は、暗黙制約として前記投影露光装置の特性に関する極限(44)を考慮する少なくとも1つのペナルティ項(46)を含み、
前記ペナルティ項は、前記特性が前記極限に近付くにつれてその関数値が「無限大」に向かうように定式化され、前記極限は有限の所定の値であり、
前記ペナルティ項(46)は、少なくとも一区間で少なくとも1回連続微分可能である関数(47)を含み、前記区間は実際の境界条件により制限される関数の定義域の90%超を占めるステップと、
前記移動変数に関して生成された前記ターゲットに基づいて前記少なくとも1つのマニピュレータにより前記投影露光装置のパラメータを変更するステップと
を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2019年1月10日付けで出願された独国特許出願第10 2019 200 218.8号の優先権を主張する。この特許出願の全開示を参照により本願に援用する。
【0002】
本発明は、マイクロリソグラフィ投影露光装置のパラメータを変更する少なくとも1つのマニピュレータを制御する制御装置及び方法に関する。さらに、本発明は、それぞれがかかる制御装置を有する、マイクロリソグラフィ投影レンズを調整する調整機構及びマイクロリソグラフィ投影露光装置に関する。
【背景技術】
【0003】
マイクロリソグラフィ投影露光装置は、半導体コンポーネントの製造中に半導体ウェハの形態の基板の構造を形成する役割を果たす。この目的で、投影露光装置は、露光プロセス中にウェハにマスク構造を結像するための複数の光学素子を有する投影レンズを備える。
【0004】
ウェハへのマスク構造のできる限り高精度の結像を補償するために、波面収差ができる限り小さな投影レンズが必要である。したがって、投影レンズには、投影レンズの個々の光学素子の状態を変更することにより波面誤差を補正することを可能にするマニピュレータが設けられる。このような状態変更の例は、該当光学素子の剛体6自由度のうち1つ又は複数の位置の変化、熱及び/又は低温での光学素子に対する作用、光学素子の変形、又は後処理デバイスによる光学素子における材料アブレーションを含む。本願の範囲内では、こうした後処理デバイスも、その一般的な意味で投影レンズのマニピュレータであると理解される。
【0005】
投影レンズに特有の収差を補正するために実行されるマニピュレータ変更は、「マニピュレータ変更モデル」とも称する移動生成(travel-generating)最適化アルゴリズムにより計算される。例として、このような最適化アルゴリズムは、特許文献1及び特許文献2に記載されている。
【0006】
したがって、従来技術から既知の最適化アルゴリズムは、以下の最適化問題を解くよう構成され得る:F(x)≦sの場合、
【数1】
【0007】
このような最適化問題は、F(x)≦sで表される制約を考慮して、
で表される性能指数関数とも称するメリット関数を最小化するよう構成される。ここで、Mは感度行列を指し、xは個々のマニピュレータ毎の移動に関する移動ベクトルを指し、bmessは投影レンズの状態ベクトルを指し、当該状態ベクトルは上記投影レンズの測定収差特性を表し、
はユークリッドノルムを指し、F(x)は制約を表す適当な関数を指し、sは投影レンズの特性に関する、例えば状態ベクトルbのパラメータ及び/又は個々の移動x等に関する各一定の極限値を指す。
【0008】
ここで、「移動」は、光学素子の光学効果を変更する目的でマニピュレータ作動により実行される光学素子の状態変数の変更を意味すると理解される。光学素子の状態変数の変更により定められるこのような移動は、関連するマニピュレータのセットポイント変化量により指定される。例として、操作は、光学素子の特定の方向の変位からなり得るが、例えば、光学素子に対する熱、低温、力、トルク、特定の波長を有する光、又は電流での作用、特に局所的な又は2次元の作用からもなり得る。さらに、操作は、後処理デバイスにより実行しようとする光学素子における材料アブレーションを規定し得る。例として、セットポイント変化量は、変位の場合に対象となる経路長又は対象となる角度範囲を規定し得る。
【0009】
(x)≦sで定義される制約は、投影レンズの該当特性に関して超えてはならないハードリミットを規定する。この問題のサイズでの計算時間のスケーリングの悪さは、この最適化法における実質的な問題を表す。それゆえ、マニピュレータ自由度が比較的多数である場合は、移動ターゲットの時間効率のよい計算が達成不可能となる。
【0010】
計算時間を短縮するために、従来技術(特許文献2)では、制約により規定された極限がメリット関数に含まれるペナルティ関数を用いて考慮される最適化法が開示されており、このペナルティ関数は、偶数指数を有する累乗に基づく。しかしながら、この方法は、制約が全ての条件下で正確に順守されることを保証するものとはなっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2010/034674号
【文献】独国特許出願公開第2015 206 448号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記問題を解決すると共に特に投影露光装置の特性に関する極限によりよく従って時間効率よく移動ターゲットを確認できるようにする、冒頭に記載したタイプの制御装置及び方法を提供することである。特に、極限は厳密に従われるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、上記目的は、例えば、マイクロリソグラフィ投影露光装置のパラメータ、特にマイクロリソグラフィ投影レンズの少なくとも1つの光学素子のパラメータを変更する少なくとも1つのマニピュレータを制御する制御装置が、マニピュレータにより行われるパラメータの変更を規定する移動変数に関するターゲットを生成することにより達成することができ、上記制御装置は、メリット関数を最適化することにより投影露光装置の、特に投影レンズの状態特性評価(state characterization)からターゲットを生成するよう構成され、メリット関数は、暗黙制約として投影露光装置の、特に投影レンズの特性に関する極限を考慮する少なくとも1つのペナルティ項を含み、ペナルティ項は、特性が極限に近付くにつれてその関数値が「無限大」に向かうように定式化される。
【0014】
上述のように、制御装置により制御される少なくとも1つのマニピュレータは、投影露光装置の投影レンズの少なくとも1つの光学素子のパラメータを変更するよう働くことができる。さらに、マニピュレータは、特に、測定マスク又はセンサ又は照明放射線の波長を調整するよう働き得る。投影露光装置の特性に関する極限は、上限又は下限とすることができ、概して、極限は1つ又は複数の制約を規定する。ペナルティ項は、メリット関数の項を意味すると理解されたく、上記ペナルティ項の関数は、最適化中に、特性を定量化する値が極限に近付くことを抑制するか又は上記値が極限を超越することを少なくとも抑制する関数である。
【0015】
上述のように、本発明による制御装置は、投影露光装置の状態特性評価から移動変数に関するターゲットを生成するよう構成される。ここで、状態特性評価は唯一の入力量である必要はなく、他の入力量、例えばマスクの放射照度又は測定周囲圧力等を、移動変数に関するターゲットを確認する目的で状態特性評価に加えて制御装置により考慮することができる。移動変数はベクトル変数として構成されることができ、そのベクトル要素のそれぞれが、マニピュレータにより行われる投影レンズの光学素子のパラメータの調整を規定する。
【0016】
状態特性評価は、投影レンズの結像収差であり得る。結像収差は、ゼルニケ像収差(Zernike image aberration)の形態又は1つ又は複数のゼルニケ像収差から得られる量の形態で入手可能であり得る。さらに、結像収差は、いわゆるリソグラフィ誤差、すなわち、マスク構造の空中像又はウェハ像の誤差、例えばオーバーレイ誤差又はライン幅誤差等であり得る。
【0017】
本発明によれば、ペナルティ項は、特性が極限に近付くにつれてその関数値が「無限大」に向かうように定式化される。例として、これは、対数関数又は有理分数関数により実施することができる。本発明によるこのようなペナルティ項の定式化は、極限の超越を効果的に防止する結果として、1つ又は複数の制約の順守が確保される。同時に、メリット関数に含まれるペナルティ項を用いて制約を暗黙的に考慮することにより、移動ターゲットの時間効率のよい計算が促される。すなわち、最適化の計算時間を少なく抑えることができると同時に、制約の順守を確保することができる。
【0018】
本発明による一実施形態によれば、ペナルティ項は、少なくとも一区間で少なくとも1回連続微分可能である関数を含む。連続微分可能性により、オプティマイザが傾斜法を用いることが可能となる。解は、傾斜法により効率的に求めることができる。
【0019】
一変形実施形態によれば、関数が少なくとも1回連続微分可能である区間は、実際の境界条件により制限される関数の定義域の90%超、特に98%超、99%超、99.9%超、又は99.99%超を占める。実際の境界条件による定義域の制限は、関数の引数が、操作システム及び/又は投影露光装置の境界条件により、数学的観点から可能な最大定義域の全値をとることが実際にはできないことを意味すると理解されたい。したがって、例えば、像収差をゼロまで減らすことが不可能な場合があり、その代わりに、ゼロの絶対値から特定の値まで近付くことができるにすぎない。特に、数学的観点から-∞又は+∞の下限又は上限を有する定義域は、実際の境界条件により有限の数値に制限される。
【0020】
さらに別の実施形態によれば、関数は、最小増分での数値表現で利用可能である。ここで、関数値が制御装置の計算プログラムで表現可能な最小数の10倍となる区間の各点において、線形近似により求められた関連の近似点の関数値の実際の関数値からのずれが実際の関数値の50%以下、特に20%以下、10%以下、5%以下、又は1%以下であることにより、連続微分可能性が満たされる。各点に関連する近似点は、その点から最小増分の2倍以上、特に最小増分の5倍以上又は10倍以上離れている。特に、これは、関数値が制御装置の計算プログラムで表現可能な最小数の1000倍又は10倍となる区間の各点に当てはまる。さらに別の実施形態によれば、関数は、少なくとも一区間で少なくとも2回連続微分可能である。これにより、オプティマイザが2次微分を用いてより迅速に傾斜法により確認されるターゲットを求めることができる。
【0021】
一変形実施形態によれば、関数は、最小増分での数値表現で利用可能であり、少なくとも2回連続微分可能性は、関数値が制御装置の計算プログラムで表現可能な最小数の10倍となる区間の各点において、二次近似により求められた関連の近似点の関数値の実際の関数値からのずれが実際の関数値の50%以下、特に20%以下、10%以下、5%以下、又は1%以下であることにより満たされ、この場合の各点に関連する近似点は、その点から最小増分の2倍以上、特に最小増分の5倍以上又は10倍以上離れている。特に、これは、関数値が制御装置の計算プログラムで表現可能な最小数の1000倍又は10倍となる区間の各点に当てはまる。
【0022】
さらに別の実施形態では、ペナルティ項は、対数関数及び/又は有理分数関数を少なくとも近似的に含む。これらの関数により、極限に特に効果的に従うことができる。対数関数の場合、これは解析関数として、そうでなければ表形式の表現で(or else however in the tabular representation)利用可能である。ここで、「少なくとも近似的に」という指定は、ペナルティ項が対数関数及び/又は有理分数関数で表される関数を含むか、又はペナルティ項が少なくともこれらの関数と非常に類似しているのでペナルティ項におけるその効果が上記関数に匹敵することを意味すると理解されたい。
【0023】
さらに別の実施形態によれば、ペナルティ項は、極限が超越される場合にその関数値が「無限大」と定義されるように定式化される。最適化アルゴリズムが比較的大きな増分を用いる場合、ペナルティ項の上記定式化では極限値が「無限大」に向かわないにもかかわらず、極限が超越され得る(the limit may be exceeded despite the aforementioned formulation of the penalty term with the limit value running counter to "infinity")。極限が超越される場合にペナルティ項の関数値を「無限大」と定義することにより、例えば最適化中に比較的大きな増分の使用により極限が超越される場合に当該超越が最適化のさらなる範囲内で取り消されることを確実にすることが可能である。
【0024】
さらに別の実施形態によれば、制御装置は、第1最適化変数として働く移動変数及び別カテゴリのさらに別の最適化変数によりメリット関数を最適化することにより、ターゲットを実装するよう構成される。上記別カテゴリのさらに別の最適化変数は、この最適化変数がマニピュレータの移動変数ではないことを意味すると理解されたい。
【0025】
さらに別の実施形態によれば、上記さらに別の最適化変数は、極限をスケーリングするためのスケール因子を含む。一変形実施形態によれば、メリット関数は、スケール因子の値を制限するさらに別のペナルティ項を含む。例として、このペナルティ項は、スケール因子の2乗又は高累乗を含み得る。
【0026】
さらに別の実施形態によれば、極限は、投影露光装置の各特性に関する複数の個別極限値を含み、上記さらに別の最適化変数は、個別極限値をスケーリングするための複数のスケール因子と個別極限値の少なくとも1つが超えることができない群極限値(group limit value)とを含む。メリット関数の上記さらに別のペナルティ項は、スケール因子及び群極限値の両方の値を制限するよう構成される。さらに、上記さらに別の最適化変数は、複数の群極限値及び上位群(supra-group)極限値を含むことができ、群極限値は、異なる群のスケール因子に関係し、群極限値のいずれも上位群極限値を超えてはならない。さらに別の実施形態によれば、メリット関数は、群極限値を制限するさらに別のペナルティ項を含み得る。この概念は、さらに上位の群極限値(supra-supra-group limit values)でのさらなるカスケーディングに拡張することができる。
【0027】
さらに他の実施形態によれば、ペナルティ項が極限を含む投影露光装置の特性は、投影露光装置の投影レンズの結像収差及び/又は移動変数に関するターゲットを含む。特性が少なくとも移動変数に関するターゲットを含む変形形態では、第1ペナルティ項は、マニピュレータ移動の少なくとも1つに関する境界条件に関係する。特に、第1ペナルティ項は、少なくとも1つの結像収差及び少なくとも1つの移動変数に関する各極限を含み得る。
【0028】
さらに、本発明によれば、マイクロリソグラフィ投影レンズを調整する調整機構が提供される。本発明による調整機構は、投影レンズの状態特性評価を確認する測定装置と、状態特性評価から移動変数に関するターゲットを生成する前述の実施形態又は変形実施形態のいずれか1つによる制御装置とを備える。
【0029】
さらに、本発明によれば、マイクロリソグラフィ投影露光装置が提供される。本発明による投影露光装置は、投影露光装置の光学素子のパラメータを変更するよう構成された少なくとも1つのマニピュレータと、少なくとも1つのマニピュレータを制御する前述の実施形態又は変形実施形態のいずれか1つによる制御装置とを備える。一実施形態によれば、少なくとも1つのマニピュレータは、投影露光装置の投影レンズの光学素子のパラメータを変更するよう構成される。
【0030】
例として、上記目的はさらに、投影露光装置の、特にマイクロリソグラフィ投影レンズの少なくとも1つの光学素子のパラメータを変更する少なくとも1つのマニピュレータを制御する方法により達成することができる。本発明による方法は、メリット関数を最適化することにより投影露光装置の、特に投影レンズの状態特性評価から少なくとも1つのマニピュレータの移動変数に関するターゲットを生成するステップを含み、メリット関数は、暗黙制約として投影レンズの特性に関する極限を考慮する少なくとも1つのペナルティ項を含み、ペナルティ項は、特性が極限に近付くにつれてその関数値が「無限大」に向かうように定式化される。さらに、本発明による方法は、移動変数に関して生成されたターゲットに基づいて少なくとも1つのマニピュレータにより投影露光装置の、特に投影レンズの少なくとも1つの光学素子のパラメータを変更するステップを含む。
【0031】
上記で挙げた、本発明による制御装置の実施形態、例示的な実施形態及び変形実施形態等に関して指定した特徴は、本発明による制御法に適宜転記することができる。本発明による実施形態のこれら及び他の特徴は、図の説明及び特許請求の範囲で説明される。個々の特徴は、本発明の実施形態として個別に又は組み合わせて実施することができる。さらに、個々の特徴は、独立して保護可能な有利な実施形態を説明するものであり、適切な場合は本願の係属中又は係属後にのみその保護が求められる。
【0032】
本発明の上記及びさらに他の有利な特徴を、添付の概略図を参照して以下の本発明による例示的な実施形態の詳細な説明に示す。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】マイクロリソグラフィ投影レンズの状態特性評価を確認する測定装置と、投影レンズに組み込まれた操作及び後処理デバイスの形態のマニピュレータを制御する制御装置とを有する、投影レンズを調整する調整機構の本発明による一実施形態の視覚化を示す。
図2】制御装置により実行される最適化アルゴリズムの基礎となるメリット関数の構成の視覚化を示す。
図3】本発明によるメリット関数の一実施形態の効果を視覚化するグラフを示す。
図4】メリット関数の比較例の効果を視覚化するグラフである。
図5】投影レンズと投影レンズのマニピュレータを制御する制御装置とを備えた、本発明によるマイクロリソグラフィ投影装置の一実施形態の視覚化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に記載する例示的な実施形態又は実施形態又は変形実施形態において、相互に機能的又は構造的に類似した要素にはできる限り同一又は同様の参照符号を付す。したがって、特定の例示的な実施形態の個々の要素の特徴を理解するためには、他の例示的な実施形態の説明又は本発明の概要を参照されたい。
【0035】
説明を容易にするために、直交xyz座標系が図示されており、当該座標系から図示のコンポーネントの各位置関係が明らかである。図1において、y方向は図の平面に対して垂直に延び、x方向は右側に延び、z方向は上方に延びる。
【0036】
図1は、マイクロリソグラフィ投影露光装置の投影レンズ16を調整する調整機構10を示す。ここで、調整機構の個々のコンポーネントは、相互に別個に配置することができるか又は単一の装置に組み込むことができる。調整装置10は、投影レンズ16の状態特性評価34を確認する測定装置12と、状態特性評価34から移動コマンド38を生成するいわゆる移動確認デバイスの形態の制御装置14とを備える。
【0037】
投影レンズ16は、マスク構造を物体面24から像面28へ結像するよう働き、例えば248nm又は193nm等の種々の波長の露光放射線用に設計することができる。本実施形態では、投影レンズ16は、EUV波長域の波長、例えば13.5nm用に設計される。
【0038】
測定装置12は、投影レンズ16の波面誤差を測定するよう構成され、投影レンズ16の入射側に照明デバイス18及び測定マスク22と、投影レンズの出射側にセンサ素子26、検出器30、及び評価デバイス32とを備える。図1では、測定マスク22は透過型の素子として示されている。しかしながら、好ましい実施形態によれば、測定マスク22は反射型である。照明デバイス18は、試験対象の投影レンズ16の作動波長の測定放射線20を、この場合はEUV放射線の形態で発生させると共に、当該放射線を物体面24に配置された測定マスク22に放射するよう構成される。本願の範囲内において、EUV放射線は、100nm未満の波長、特に約13.5nm又は約6.7nmの波長を有する電磁放射線を意味すると理解されたい。多くの場合に「コヒーレンスマスク」とも称する測定マスク22は、第1周期構造を有する。第2周期構造を有する像格子の形態のセンサ素子26は、像面28に配置される。測定マスク22の市松構造をセンサ素子26の市松構造と組み合わせることも可能である。シアリング干渉法又は点回折干渉法の分野からの当業者に既知の周期構造の他の組み合わせを用いることも可能である。図1では、センサ素子26は透過型の素子として示されている。しかしながら、特に、センサ素子26は反射型とすることもできる。
【0039】
2次元分解するカメラの形態の検出器30が、センサ素子26の下に、厳密には投影レンズ16の瞳面と共役な平面に配置される。センサ素子26及び検出器30は合わせてセンサモジュールを形成する。測定マスク22及びセンサモジュールは、当業者に既知のシアリング干渉計又は点回折干渉計を形成し、投影レンズ16の波面誤差を測定するよう働く。この目的で、当業者に既知の位相シフト法が特に適用される。
【0040】
評価デバイス32は、検出器30により記録された強度パターンから投影レンズ16の状態特性評価34を確認する。本実施形態によれば、状態特性評価34は、投影レンズ16の波面誤差を特徴付ける1組のゼルニケ係数bを含む。
【0041】
本願において、例えばDaniel Malacara著の学術書「Optical Shop Testing(光学実験・測定法)」第2版、John Wiley & Son, Inc.、13.2.3章(1992年)から知られる
は、例えば米国出願公開第2013/0188246号明細書の段落[0125]~[0129]に記載のようにいわゆるフリンジ分類(fringe sorting)に従ってZで表され、この場合、bが各ゼルニケ多項式(「ゼルニケ関数」とも称する)に割り当てられたゼルニケ係数である。フリンジ分類は、例えばH. Gross著、「Handbook of Optical Systems(光学系ハンドブック)」第2巻、Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA、ヴァインハイム、2005年、215ページの表20-2に示されている。次式のように、瞳面内の極座標(ρ,Φ)に応じて、投影レンズの像面における1点での波面ずれW(ρ,Φ)が展開される。
【数2】
【0042】
本願の範囲内では、ゼルニケ多項式がZで、すなわち下付き添字jを用いて示されるのに対して、ゼルニケ係数はbで示される。ここで、当業界では、ゼルニケ係数bがZjで、すなわち標準表記の添字を用いて、例えば非点収差を表すZ5及びZ6等で示されることも多いことに留意されたい。
【0043】
【0044】
投影レンズ16は、図1に示す実施形態では4つの光学素子E1~E4のみを有する。全ての光学素子が可動式に取り付けられる。この目的で、各マニピュレータM、特にマニピュレータM1~M4のそれぞれが、光学素子E1~E4のそれぞれに割り当てられる。マニピュレータM1、M2、及びM3は、それぞれが割り当てられた光学素子E1、E2、及びE3のx方向及びy方向の、したがって光学素子の各反射面が位置する平面と実質的に平行な変位を可能にする。
【0045】
マニピュレータM4は、y軸と平行に配置された傾斜軸40の周りの回転により光学素子E4を傾斜させるよう構成される。結果として、E4の反射面の角度は、入射放射線に対して変更される。マニピュレータのさらに他の自由度も考えられる。したがって、例えば、該当光学素子の光学面と交差するこの光学素子の変位、及び反射面に対して垂直な基準軸の周りの回転を行わせることができる。
【0046】
一般的には、ここに図示するマニピュレータM1~M4のそれぞれが、所定の移動に沿った剛体運動を行いながら割り当てられた光学素子E1~E4の変位をもたらすために、対応する光学素子のパラメータを変更させるよう設けられる。例として、このような移動は、種々の方向の並進、傾斜、及び/又は回転をいかなる形で組み合わせることもできる。代替として又は追加として、割り当てられた光学素子のパラメータの異なる様式での変更をマニピュレータの適当な作動により行うよう構成されたマニピュレータを設けることも可能である。この点で、例えば、特定の温度分布又は特定の力分布を光学素子に適用することにより、作動を実行することができる。この場合、移動は、光学素子の温度分布の変更又は変形可能レンズ若しくは変形可能ミラーとして具現された光学素子に対する局所的な張力の付与の結果として得ることができる。
【0047】
図示の場合では、移動コマンド38に含まれる移動xは、移動x、x、x、及びxを含み、これらはマニピュレータM1~M4により実行される光学素子E1~E4の1つ又は複数の少なくとも1つのパラメータの変更を予め決定し、したがって投影レンズ16のマニピュレータM1~M4を制御する役割を果たす。確認された移動x~xは、移動信号により個々のマニピュレータM1~M4に伝達され、実行すべき各補正移動を上記マニピュレータに提供する。これらは、生じた投影レンズ16の波面誤差を補正するための割り当てられた光学素子E1~E4の対応する変位を規定する。マニピュレータが複数の自由度を有する場合、複数の移動xをマニピュレータに伝達することも可能である。
【0048】
【0049】
制御装置14に恒久的又は一時的に接続され得るマニピュレータシステム(本例示的な実施形態ではマニピュレータM1~M4)に関する上記移動xと、補正非球面後処理デバイス36に関する
とに加えて、移動コマンド38は、ここでは詳細に説明しないさらに他の実施形態によるさらに他の移動も含み得る。これらは、測定マスク22又はセンサ素子26の作動波長又は位置等、制御装置14により恒久的に作動可能なさらなる自由度を調整するための移動を含み得る。さらに、これらの移動は、投影レンズ16の機械構造における介入を規定する手動操作可能な自由度及び移動を含み得る。このような介入は、調整リング又はフレーム位置の変化に関するものであり得るが、これにはレンズの部分的な分解及び再組立てが必要であり、したがって通常はレンズを調整機構から取り外す必要もある。
【0050】
制御装置14の機能を、図2を参照して以下に視覚化する。この機能は、移動生成最適化アルゴリズム41を実行するよう構成される。最適化アルゴリズム41は、図2に参照符号42で示すメリット関数Hを最適化する役割を果たす。
【0051】
既に上述したように、最適化アルゴリズムにより生成される移動コマンド38の移動は、ベクトル型の移動変数xで表され、これは、投影レンズ16に設けられたマニピュレータM1~M4の移動xと、補正非球面後処理デバイス36のコントローラの
とを含む。状態特性評価34は、状態ベクトルbで表され、そのベクトル成分は、ここに記載する実施形態では上記ゼルニケ係数bである。ゼルニケ係数bは、状態パラメータとも称する。さらに他の実施形態によれば、状態ベクトルbは、ゼルニケ係数又はその代替物に加えて、空中像量(aerial image quantities)及び/又は直接2次元波面表現及び/又は上記量から得られる量、例えば一次結合等のパラメータを含み得る。
【0052】
状態変更の場合のマニピュレータ、この場合はマニピュレータM1~M4、及び後処理デバイス36の自由度に関するそれらの感度は、一変形実施形態に従って感度行列Mで表される。ここで、感度行列Mは、標準移動x によるマニピュレータの自由度iの調整と、そこから得られる投影レンズ16の状態ベクトルbの変更との間の関係を表す。ゼルニケ係数bの1つに関する感度行列Mの個々の行は、いずれの場合も図2にMで示す。
【0053】
図2に示す実施形態では、メリット関数Hは、移動変数x及び以下でより詳細に説明するスケーリング量t(参照符号43)の関数として定式化される。スケーリング量tは、メリット関数の最適化中に本例示的な実施形態では対応するゼルニケ係数b(参照符号34)の形態の投影レンズ16の各特性が超えてはならない各極限値aをスケーリングするための1つ又は複数のスケール因子t(参照符号43a)を含む。ここで、極限値aは、各初期極限値(initial limit values)sに対するスケール因子tによりスケーリングされる(a=t・s)。極限値a全体を、極限a(参照符号44)と称する。本文では、極限値aを個々の極限値とも称する。図2にはより詳細に示さないさらに別の実施形態によれば、極限は、ゼルニケ係数bに関する極限値に加えて投影レンズ16のさらなる特性に関する極限値も含み得る。これらは、マニピュレータシステムM1~M4又は36の移動xiに関する極限値aMiを含み得る。極限値aMiは、技術的理由で生じるマニピュレータM1~M4の最大撓みから例えば生じ得るマニピュレータ移動の境界条件と、その実際の位置とを規定する。最大撓みが技術的理由で生じる理由は、例えば、マニピュレータの機械的限界に、又は他の技術的境界条件、例えば精度又は速度の理由による増分の制限にあり得る。
【0054】
図2に示す実施形態のとおり、移動生成最適化アルゴリズム41は、以下の最適化問題を解くよう構成される。
【数3】
【0055】
ここで、移動変数x及びスケーリング量tは、最適化変数45として働き、これは、最適化アルゴリズム41の実行時に移動変数xのベクトル成分の1つ又は複数及びスケーリング量tの成分tの1つ又は複数が最適化変数45として働くことを特に意味すると理解されたい。したがって、スケーリング量tと共に、異なるカテゴリの、すなわち移動変数に関係しないカテゴリの変数も、移動変数xに加えて最適化変数45として働く。このような最適化問題の基本的な解法に関するさらなる詳細は、例えば、特許文献1の特に38ページ~45ページから得ることができる。
【0056】
ここで説明する例示的な実施形態によるメリット関数Hは、以下のとおりである。
【数4】
【0057】
異なる表現をすると、メリット関数Hは、以下の形態の少なくとも1つの第1ペナルティ項46を含む。
【数5】
【0058】
この項は、暗黙制約として、ゼルニケ係数bの形態の投影レンズ16の1つ又は複数の特性に関する上記極限aと、場合によってはメリット関数におけるマニピュレータ移動とを考慮する役割を果たす。
【0059】
ペナルティ項46は、図2に参照符号47で示すペナルティ関数p(ξ,a)の和を含み、ここでaは上記極限であり、ξはここで説明する例示的な実施形態に従って以下のように定義される。
【数6】
ここで、いずれの場合も上述したように、Mは感度行列Mの列を指し、xは移動変数を指し、bはゼルニケ係数を指す。
【0060】
図2のペナルティ関数p(ξ,a)について、2つの変形実施形態を以下の形態で示し、第1に、以下の形態i)がある。
【数7】
【0061】
第2に、以下の形態ii)がある。
【数8】
【0062】
ペナルティ関数p(ξ,a)は、いずれの場合も、投影レンズ16の対応する特性が極限a、すなわち各極限値aに近付くとその関数値が「無限大」に向かうように定式化される。この挙動は、式(7)によるペナルティ関数p(ξ,a)における対数関数47aの使用と、式(8)によるペナルティ関数p(ξ,a)における有理分数関数47bの使用とにより、いずれの場合も範囲[ξmin;a[におけるξに関してもたらされ、ここでξminはξの最小許容値を指す。ξ=a又は極限aを超えるξの値の場合、次式が当てはまる:p(ξ,a)=∞。例として、式(7)で用いられる対数関数は、自然対数、常用対数、又は任意の他の底(特に正の底)の対数に関し得る。
【0063】
式(7)で用いられる対数関数47a及び式(8)で用いられる有理分数関数47bの両方が、両方の変数で複数回連続微分可能である。これは許容範囲に当てはまる。この許容範囲は、該当の関数の定義域全体を含むことができ、この場合、これは対数関数47a又は有利分数関数の値が無限大にならない範囲全体である。一実施形態によれば、数学的観点から可能な最大定義域は、実際の境界条件により制限される。これは、関数の引数が、操作システム及び/又は投影露光装置の境界条件により、数学的観点から可能な最大定義域の全値をとることが実際にはできないことを意味すると理解されたい。したがって、例えば、像収差をゼロまで減らすことが不可能な場合があり、その代わりに、ゼロの絶対値に特定の値まで近付くことができるにすぎない。特に、数学的観点から-∞又は+∞の下限又は上限を有する定義域は、実際の境界条件により有限の数値に制限される。
【0064】
さらに別の実施形態によれば、関数は、ある区間で複数回連続微分可能であり、この区間は、実際の境界条件により制限される関数の定義域の90%超、特に98%超、99%超、99.9%超、又は99.99%超を占める。
【0065】
上記区間の微分可能性のこの制限は、特に、関数が数値表現で利用可能である場合に当てはまる。ここで、一実施形態による1回連続微分可能性は、関数値が制御装置14の計算プログラムで表現可能な最小数の10倍となる上記区間の各点において、線形近似により求められた関連の近似点の関数値の実際の関数値からのずれが実際の関数値の50%以下、特に20%以下、10%以下、5%以下、又は1%以下であることにより満たされ、この場合の各点に関連する近似点は、その点から最小増分の2倍以上、特に最小増分の5倍以上又は10倍以上離れている。
【0066】
一実施形態によれば、数値表現における関数の2回連続微分可能性は、関数値が制御装置14の計算プログラムで表現可能な最小数の10倍となる区間の各点において、二次近似により求められた関連の近似点の関数値の実際の関数値からのずれが実際の関数値の50%以下、特に20%以下、10%以下、5%以下、又は1%以下であることにより満たされ、この場合の各点に関連する近似点は、その点から最小増分の2倍以上、特に最小増分の5倍以上又は10倍以上離れている。これは、関数値が制御装置の計算プログラムで表現可能な最小数の1000倍又は10倍となる区間の各点に当てはまる。
【0067】
【0068】
【0069】
例えばp(ξ,a)等の2次元関数とξ及びaに関するその微分可能性とへの拡張は、数学において既知であり、キーワードとして例えば「偏微分」及び「全微分」を含む。微分可能性に関する上記説明は、数値的応用に関する計算精度を考慮して理解すべきである。
【0070】
さらに、図2に関して、範囲[ξmin;a[におけるペナルティ関数p(ξ,a)の1階微分の利用可能性により、最適化アルゴリズム41が勾配法を用いてそのターゲットを求めることができる。範囲[ξmin;a[におけるペナルティ関数p(ξ,a)の2階微分の利用可能性、特に高階微分の利用可能性の結果として、勾配関数により確認されたターゲットを特に短時間で、例えば大きな増分を用いて求めることができる。
【0071】
上記の式(4)から明らかなように、メリット関数Hはさらに、次の形態の第2ペナルティ項48を含む。
【数9】
【0072】
この項は、スケール因子tを制限する役割を果たす。ここで、制限のサイズは、
を適切に予め決定することにより設定することができる。ここで、一実施形態に従って群極限値を提供することができ、スケールファクタtに関連する個々の極限値aの少なくとも1つは、この群極限値を超えてはならない。さらに別の実施形態によれば、ペナルティ項48は、スケールファクタt及び群極限値の両方の値を制限するよう構成される。さらに、複数の群極限値及び上位群極限値が提供されてもよく、群極限値は、それぞれ異なる群のスケール因子tに関係し、群極限値のいずれも上位群極限値を超えてはならない。さらに別の実施形態によれば、メリット関数42は、群極限値を制限するさらに別のペナルティ項を含み得る。上記概念は、さらに上位の群極限値でのさらなるカスケーディングに拡張することができる。
【0073】
ペナルティ項46(式(5))及びペナルティ項48(式(9))に加えて、式(4)で表されるメリット関数Hは、
を任意に含むことができ、式中、bはゼルニケ係数bのベクトル表現であり、
はユークリッドノルムを指す。さらに、メリット関数Hは、例えば、フェージング収差(fading aberrations)、オーバーレイ誤差、マニピュレータシステムM1~M4の境界条件、後処理デバイス36により行われる補正非球面アブレーションの境界補正、及び/又はゼルニケ係数bのグループ化RMS値(grouped RMS values)を考慮するために、さらに他のペナルティ項を任意に含み得る。フェージング収差は、像収差が投影露光装置の走査方向に、すなわち露光中のマスクとウェハとの相対移動の方向にどのように変化するかを特定するものを意味すると理解されたい。オーバーレイ誤差は、基板上の結像マスク構造の目標位置に対するその局所的な像位置変位を特定する。
【0074】
【0075】
図3のグラフにおいて、Hの値をtの値に応じたχ/tの関数として示し、Γ=1とする。グラフ中、ξが極限aに近付くことは、χ/tが値「1」に近付くことに対応する。グラフから明らかなように、χ/tが値1に近付くとtの全代表値の曲線は「無限大」に向かう。すなわち、Hは、tでスケーリングされた初期極限値sの侵害(infringement)が防止されるよう構成される。
【0076】
これに対して、図4のグラフは、ξが極限aに近付くときの従来技術から導出されたメリット関数Hの値を示す。このメリット関数は、
【数10】
【0077】
メリット関数Hの第1項
は、従来技術から既知であり本明細書で最初に述べた、偶数指数を有する累乗に基づくペナルティ関数を用いたメリット関数に基づく。この既知のペナルティ関数は、この場合は、tにより極限aに関するスケーリング量が導入され且つχに加えてさらに別の最適化変数として提供されるように変更される。Hに関してすでに上述した置換
を行うと、次式が得られる。
【数11】
【0078】
図4のグラフにおいて、図3に示すHと同様に、Hをtの値に応じたχ/tの関数として示し、Γ=1及びN=12とする。ξが極限aに近付くことは、グラフ中でχ/tが値「1」に近付くことに対応し、このとき関数値Hが顕著に増加するが、値「1」を超えることが確実に防止されるほど強くはない。すなわち、メリット関数Hは、tでスケーリングされた初期極限値sの侵害を十分確実には防止しない。
【0079】
図5は、マイクロリソグラフィ投影露光装置50の発明による実施形態を示す。本実施形態は、EUV波長域で動作するよう設計される。この動作波長の結果として、全ての光学素子がミラーとして具現される。しかしながら、本発明はEUV波長域での投影露光装置に限定されない。本発明によるさらに他の実施形態は、例えば、UV域の作動波長、例えば365nm、248nm、又は193nm等用に設計される。この場合、光学素子の少なくともいくつかは、従来の透過レンズ素子として構成される。
【0080】
図5に示す投影露光装置50は、露光放射線54を発生させる露光放射線源52を備える。この場合、露光放射線源52は、EUV源として具現され、例えばプラズマ放射線源を含み得る。露光放射線54は、最初に照明光学ユニット56を通過し、それによりマスク58へ偏向される。照明光学ユニット56は、マスク58に入射する露光放射線54の種々の角度分布を発生させるよう構成される。ユーザが所望する照明設定に応じて、照明光学ユニット556は、マスク58に入射する露光放射線54の角度分布を構成する。選択可能な照明設定の例には、いわゆる2重極照明、輪帯照明、及び4重極照明が含まれる。
【0081】
マスク58は、ウェハの形態の基板64に結像されるマスク構造を有し、マスク変位ステージ60上に変位可能に搭載される。図5に示すように、マスク58は、反射マスクとして具現することができ、又は代替として、特にUVリソグラフィ用の透過マスクとして構成することもできる。図5に示す実施形態では、露光放射線54は、マスク58で反射されてから投影レンズ16を通過し、投影レンズ16は、図1に示す調整機構10を参照してすでに記載されたものである。投影レンズ16は、マスク58のマスク構造を基板64に結像するよう働く。露光放射線54は、ここではミラーの形態である複数の光学素子により投影レンズ16内で誘導される。基板64は、基板変位ステージ66上に変位可能に搭載される。投影露光装置50は、いわゆるスキャナ又はいわゆるステッパとして設計することができる。
【0082】
ステップアンドスキャン投影露光装置とも称するスキャナとしての実施形態の場合、マスク変位ステージ60及び基板変位ステージ66は、マスク58を基板64に結像する各インスタンス、すなわち視野を基板64に結像する各インスタンスで協調して動く。図5に示すように、この場合、マスク変位ステージ60は走査方向62に動き、基板変位ステージは走査方向68に動く。上述のフェージング収差は、このようなスキャナのフィールド露光中の走査運動まで遡ることができる。
【0083】
投影露光装置50はさらに、マスク変位ステージ60及び基板変位ステージ66を含む露光プロセスを制御する中央制御デバイス72を備える。さらに、投影露光装置50は、マニピュレータM1~M4を制御する制御装置114を備える。制御装置114はさらに、状態エンコーダ80及び移動確認デバイス86を備える。状態エンコーダ80は、投影レンズ16の現在状態特性評価34aを移動確認デバイス86へ送り、移動確認デバイス86はそこから移動コマンド138を発生させる。移動コマンド138は、移動x、図示の場合では移動x、x、x、及びxを含む。図1に示す調整機構10に関してさらに詳細に上述したように、これらの移動は、マニピュレータM1~M4を制御する役割を果たす。
【0084】
移動確認デバイス86が発生させた移動コマンド138は、移動xに対応する光学素子E1~E4の状態変数の形態でマニピュレータM1~M4により実行される変更を含む。確認された移動xは、移動信号を用いて個々のマニピュレータM1~M4に通信され、それらのそれぞれについて行うべき補正移動を予め規定する。これらにより、生じた投影レンズ16の波面誤差を補正するために割り当てられた光学素子E1~E4の対応する変位が規定される。移動xを確認するために、移動確認デバイス86は、特に露光プロセスの実行時に、それぞれ更新された状態特性評価34aを状態エンコーダ80からの波面を特徴付けるゼルニケ係数bの形態で受け取る。
【0085】
一実施形態によれば、移動確認デバイス86は、基板64の露光中に複数回更新される移動xを生成する。一実施形態によれば、状態エンコーダ80は、メモリ82及びシミュレーションデバイス84を有する。波面測定により投影レンズ16で確認された収差パラメータの形態の状態特性評価34は、メモリ82に記憶される。これらの測定結果は、図1を参照して記載した測定装置12等の外部の波面測定装置により収集することができる。しかしながら、代替として、状態特性評価34は、基板変位ステージ66に組み込まれた波面測定デバイス70により測定されることもできる。例として、このような測定は、いずれの場合もウェハの各露光後又はウェハ一式の露光後に行うことができる。代替として、測定の代わりにシミュレーション又はシミュレーションと緩い測定(reduced measurement)との組み合わせを行うことも可能である。
【0086】
メモリ82に記憶された、ゼルニケ係数の形態の収差パラメータの形態の状態特性評価34の測定値は、いずれの場合も必要に応じてシミュレーションデバイス84により露光プロセス中に更新された条件に適合される。一変形実施形態によれば、中央制御デバイス72は、現在照射強度74をシミュレーションデバイス84に定期的に伝達する。これから、且つ各照明設定に基づいて、シミュレーションデバイス84は、レンズ素子加熱により引き起こされる収差パラメータの変化を計算する。さらに、シミュレーションデバイスは、投影露光装置50の周囲圧力を監視する圧力センサ76から測定値を継続して得る。収差パラメータに対する周囲圧力の変更の効果が、シミュレーションデバイス84により考慮される。
【0087】
図5に示す投影露光装置50の制御デバイス114が図1に示す調整機構10の制御デバイス14とは異なるのは、制御デバイス114が状態エンコーダ80により現在照射強度74を用いて、波面測定デバイスにより測定された状態特性評価34を現在状態特性評価34aに変換するという点である。制御装置114の移動確認デバイス86の関数は、制御デバイス14の関数に対応するが、制御装置114が発生させた移動コマンド138がマニピュレータの移動xを有する移動変数xのみを含み、補正非球面後処理デバイス36を制御するための移動
を含まないという制約がある。図2図4を参照して記載した調整機構10の制御デバイス14の特性は、制御装置114の移動確認デバイス86の特性にも同様に当てはまる。
【0088】
上記の例示的な実施形態、実施形態、又は変形実施形態の説明は、例として示すと理解されたい。それにより行われる開示は、第1に当業者が本発明及びそれに関連する利点を理解できるようにし、第2に当業者の理解では自明でもある記載の構造及び方法の変更及び修正を包含する。したがって、添付の特許請求の範囲の記載に従って本発明の範囲内に入る限りの全てのそのような変更及び修正、並びに等価物は、特許請求の範囲の保護の対象となることが意図される。
【符号の説明】
【0089】
10 調整機構
12 測定装置
14 制御装置
16 投影レンズ
18 照明デバイス
20 測定放射線
22 測定マスク
24 物体面
26 センサ素子
28 像面
30 検出器
32 評価デバイス
34 状態特性評価
34a 現在状態特性評価
36 後処理デバイス
38 移動変数xの形態の移動コマンド
40 傾斜軸
41 最適化アルゴリズム
42 メリット関数H
43 スケーリング量t
43a スケール因子t
44 極限a
45 最適化変数
46 第1ペナルティ項
47 ペナルティ関数
47a 対数関数
47b 有理分数関数
48 第2ペナルティ項
50 投影露光装置
52 露光放射線源
54 露光放射線
56 照明光学ユニット
58 マスク
60 マスク変位ステージ
62 マスク変位ステージの走査方向
64 基板
66 基板変位ステージ
68 基板変位ステージの走査方向
70 波面測定デバイス
72 中央制御ユニット
74 現在照射照度
76 圧力センサ
80 状態エンコーダ
82 メモリ
84 シミュレーションユニット
86 移動確認デバイス
114 制御装置
138 移動コマンド
E1~E4 光学素子
M1~M4 マニピュレータ
マニピュレータの移動

図1
図2
図3
図4
図5