(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】故障予測システム及び故障予測方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/20 20230101AFI20240222BHJP
E02F 9/26 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
G06Q10/20
E02F9/26 Z
(21)【出願番号】P 2020082141
(22)【出願日】2020-05-07
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100118049
【氏名又は名称】西谷 浩治
(72)【発明者】
【氏名】小熊 尚太
(72)【発明者】
【氏名】大松 繁
(72)【発明者】
【氏名】大野 修一
【審査官】山崎 誠也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-023489(JP,A)
【文献】国際公開第02/057662(WO,A1)
【文献】特開2017-188030(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047408(WO,A1)
【文献】特開2020-166745(JP,A)
【文献】国際公開第2011/092830(WO,A1)
【文献】特開2019-049102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
E02F 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部旋回体と、下部走行体と、前記上部旋回体内の油圧ポンプからコントロールバルブを介して供給される作動油によって前記下部走行体内の走行モータを駆動する油圧回路と、
前記上部旋回体に接続された作業装置とを有する作業機械を対象とする故障予測システムであって、
前記走行モータの動作時における前記油圧回路に関する所定の状態量を、前記上部旋回体内において検出する検出手段と、
前記検出手段が検出した前記状態量に基づいて、当該状態量と故障との関係を表す所定の故障予測モデルによって前記下部走行体の故障を予測する予測手段と、
前記予測手段による予測結果を出力する出力手段と、
前記状態量を説明変数、前記故障の有無を目的変数とし、収集した下部走行体の故障情報を教師データとして用いて、機械学習によって前記故障予測モデルを作成する情報処理装置と、
を備え、
前記状態量には、当該状態量の検出時における前記作業機械の動作状態が、前記走行モータと前記作業装置との複合動作状態であるか、前記走行モータの単独動作状態であるかを示す動作状態情報が付加される、故障予測システム。
【請求項2】
前記状態量は、前記油圧ポンプの圧力又はトルク、前記コントロールバルブを駆動するための駆動制御信号、前記走行モータの圧力、トルク、又は稼働時間のうちの、少なくとも一つを含む、請求項1に記載の故障予測システム。
【請求項3】
前記状態量には、当該状態量の検出時における前記作業機械の走行路が平地であるか傾斜地であるかを示す走行路情報が付加される、請求項
1に記載の故障予測システム。
【請求項4】
前記故障情報には、下部走行体内の故障部品名を示す情報が含まれ、
前記予測手段は、前記下部走行体の故障部品をさらに予測する、請求項
1又は3に記載の故障予測システム。
【請求項5】
前記作業機械と無線通信を行うサーバ装置をさらに備え、
前記サーバ装置が前記予測手段を有する、請求項1~
4のいずれか一つに記載の故障予測システム。
【請求項6】
前記作業機械が前記予測手段を有する、請求項1~
4のいずれか一つに記載の故障予測システム。
【請求項7】
上部旋回体と、下部走行体と、前記上部旋回体内の油圧ポンプからコントロールバルブを介して供給される作動油によって前記下部走行体内の走行モータを駆動する油圧回路と、
前記上部旋回体に接続された作業装置とを有する作業機械を対象として故障予測システムが実行する故障予測方法であって、
前記走行モータの動作時における前記油圧回路に関する所定の状態量を、前記上部旋回体内において検出し、
検出した前記状態量に基づいて、当該状態量と故障との関係を表す所定の故障予測モデルによって前記下部走行体の故障を予測し、
予測結果を出力
し、
前記状態量を説明変数、前記故障の有無を目的変数とし、収集した下部走行体の故障情報を教師データとして用いて、機械学習によって前記故障予測モデルを作成し、
前記状態量には、当該状態量の検出時における前記作業機械の動作状態が、前記走行モータと前記作業装置との複合動作状態であるか、前記走行モータの単独動作状態であるかを示す動作状態情報が付加される、故障予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下部走行体を有する作業機械を対象とする故障予測システム及び故障予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、港湾用移動式クレーン等の機械の部品を対象とする、機械部品の期待耐用年数の推定方法が開示されている。当該方法は、作業を実行する際に機械のプロセスデータを記録し、記録したプロセスデータをデータベースへ転送し、データベースに格納されたプロセスデータを分析することによって機械部品の期待耐用年数を推定する。プロセスデータは、個々の機械部品についての速度、荷重、パワー、温度、及び油圧条件等を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された方法によると、個々の機械部品において直接的に計測可能なプロセスデータが、当該機械部品の故障予測のために取得される。
【0005】
クローラ式の下部走行体を有する油圧ショベル等の作業機械では、その作業内容の特性から、起伏が激しい悪路、凹凸の多い未舗装路、又は急傾斜の斜面等で、クローラ走行が行われることが多い。そして、当該クローラ走行時の応力に起因して下部走行体の各部品の損傷が大きいため、実際に故障が発生する前に部品交換等のメンテナンスを行うことが推奨される。
【0006】
従って、下部走行体の各部品の故障予測を行うべく上記特許文献1に開示された方法を流用することにより、下部走行体の各部品にひずみゲージを貼付し、クローラ走行時に各部品に加わる応力を当該ひずみゲージによって直接的に計測する手法が考えられる。
【0007】
しかし、下部走行体にはクローラ走行時に大きな応力が加わるため、下部走行体内にひずみゲージ等のセンサを配置したのでは、その応力に起因してセンサ自身に故障が多発する可能性があり、故障予測の信頼性が低い。また、下部走行体内のセンサと上部旋回体内のコントローラとを接続するための配線を、下部走行体と上部旋回体とのジョイント部分に通す必要がある。そのため、上部旋回体の旋回動作時に当該配線が損傷又は断線する可能性もあり、故障予測の信頼性が低い。しかも、故障予測対象である下部走行体の各部品に対して上記センサ及び上記配線を追加実装する必要があるため、作業機械の製造コストが上昇する。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みて成されたものであり、作業機械が有する下部走行体の故障予測を、高信頼性かつ低コストで実現することが可能な、故障予測システム及び故障予測方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る故障予測システムは、上部旋回体と、下部走行体と、前記上部旋回体内の油圧ポンプからコントロールバルブを介して供給される作動油によって前記下部走行体内の走行モータを駆動する油圧回路と、前記上部旋回体に接続された作業装置とを有する作業機械を対象とする故障予測システムであって、前記走行モータの動作時における前記油圧回路に関する所定の状態量を、前記上部旋回体内において検出する検出手段と、前記検出手段が検出した前記状態量に基づいて、当該状態量と故障との関係を表す所定の故障予測モデルによって前記下部走行体の故障を予測する予測手段と、前記予測手段による予測結果を出力する出力手段と、前記状態量を説明変数、前記故障の有無を目的変数とし、収集した下部走行体の故障情報を教師データとして用いて、機械学習によって前記故障予測モデルを作成する情報処理装置と、を備え、前記状態量には、当該状態量の検出時における前記作業機械の動作状態が、前記走行モータと前記作業装置との複合動作状態であるか、前記走行モータの単独動作状態であるかを示す動作状態情報が付加されるものである。
【0010】
この態様によれば、検出手段は、走行モータの動作時における油圧回路に関する所定の状態量を、上部旋回体内において検出し、予測手段は、検出手段が検出した状態量に基づいて、所定の故障予測モデルによって下部走行体の故障を予測する。従って、走行時に大きな応力が加わる下部走行体内にひずみゲージ等のセンサを配置する必要がないため、当該応力に起因する当該センサ自身の故障及び配線の断線等は生じない。その結果、故障予測システムの信頼性を向上することが可能となる。しかも、検出手段としては上部旋回体内の既存の圧力センサ等を兼用できるため、故障予測システムを低コストで実現することが可能となる。
また、この態様によれば、状態量を説明変数、故障の有無を目的変数とし、収集した下部走行体の故障情報を教師データとして用いた機械学習によって、故障予測モデルを適切に作成することが可能となる。
また、この態様によれば、作業機械の動作状態が複合動作状態であるか単独動作状態であるかによって状態量を区別することにより、故障予測モデルの作成処理及び当該故障予測モデルを用いた故障予測処理の精度を向上することが可能となる。
【0011】
上記態様において、前記状態量は、前記油圧ポンプの圧力又はトルク、前記コントロールバルブを駆動するための駆動制御信号、前記走行モータの圧力、トルク、又は稼働時間のうちの、少なくとも一つを含むことが望ましい。
【0012】
この態様によれば、油圧回路の状態量として、油圧ポンプの圧力又はトルク、コントロールバルブを駆動するための駆動制御信号、走行モータの圧力、トルク、又は稼働時間のうちの少なくとも一つを用いることにより、故障予測モデルの作成処理及び当該故障予測モデルを用いた故障予測処理を、適切に実行することが可能となる。
【0017】
上記態様において、前記状態量には、当該状態量の検出時における前記作業機械の走行路が平地であるか傾斜地であるかを示す走行路情報が付加されることが望ましい。
【0018】
この態様によれば、状態量の検出時における作業機械の走行路が平地であるか傾斜地であるかによって状態量を区別することにより、故障予測モデルの作成処理及び当該故障予測モデルを用いた故障予測処理の精度を向上することが可能となる。
【0019】
上記態様において、前記故障情報には、下部走行体内の故障部品名を示す情報が含まれ、前記予測手段は、前記下部走行体の故障部品をさらに予測することが望ましい。
【0020】
この態様によれば、下部走行体内の故障部品名を示す情報を故障情報に含めることによって、下部走行体の故障部品の予測が可能な故障予測モデルを作成することができる。その結果、部品単位でのメンテナンスを行うことが可能となる。
【0021】
上記態様において、前記作業機械と無線通信を行うサーバ装置をさらに備え、前記サーバ装置が前記予測手段を有することが望ましい。
【0022】
この態様によれば、サーバ装置が予測手段を有するため、多数の作業機械が存在する場合に、サーバ装置へ情報が集約されるために故障予測モデルの精度を向上できるとともに、各作業機械への高性能な情報処理装置の搭載を省略できるためにシステムの導入コストを削減することが可能となる。
【0023】
上記態様において、前記作業機械が前記予測手段を有することが望ましい。
【0024】
この態様によれば、作業機械が予測手段を有するため、外部のサーバ装置等が不要となり、システム構成を簡素化することが可能となる。
【0025】
本発明の一態様に係る故障予測方法は、上部旋回体と、下部走行体と、前記上部旋回体内の油圧ポンプからコントロールバルブを介して供給される作動油によって前記下部走行体内の走行モータを駆動する油圧回路と、前記上部旋回体に接続された作業装置とを有する作業機械を対象として故障予測システムが実行する故障予測方法であって、前記走行モータの動作時における前記油圧回路に関する所定の状態量を、前記上部旋回体内において検出し、検出した前記状態量に基づいて、当該状態量と故障との関係を表す所定の故障予測モデルによって前記下部走行体の故障を予測し、予測結果を出力し、前記状態量を説明変数、前記故障の有無を目的変数とし、収集した下部走行体の故障情報を教師データとして用いて、機械学習によって前記故障予測モデルを作成し、前記状態量には、当該状態量の検出時における前記作業機械の動作状態が、前記走行モータと前記作業装置との複合動作状態であるか、前記走行モータの単独動作状態であるかを示す動作状態情報が付加されるものである。
【0026】
この態様によれば、走行モータの動作時における油圧回路に関する所定の状態量を、上部旋回体内において検出し、検出した状態量に基づいて、所定の故障予測モデルによって下部走行体の故障を予測する。従って、走行時に大きな応力が加わる下部走行体内にひずみゲージ等のセンサを配置する必要がないため、当該応力に起因する当該センサ自身の故障及び配線の断線等は生じない。その結果、故障予測システムの信頼性を向上することが可能となる。しかも、検出手段としては上部旋回体内の既存の圧力センサ等を兼用できるため、故障予測システムを低コストで実現することが可能となる。
また、この態様によれば、状態量を説明変数、故障の有無を目的変数とし、収集した下部走行体の故障情報を教師データとして用いた機械学習によって、故障予測モデルを適切に作成することが可能となる。
また、この態様によれば、作業機械の動作状態が複合動作状態であるか単独動作状態であるかによって状態量を区別することにより、故障予測モデルの作成処理及び当該故障予測モデルを用いた故障予測処理の精度を向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、作業機械が有する下部走行体の故障予測を、高信頼性かつ低コストで実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施の形態に係る故障予測システムの故障予測対象である作業機械の構成を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る故障予測システムの全体構成を示す図である。
【
図3】作業機械内の油圧回路のうち、走行モータの駆動に関連する部分を抜き出して示す図である。
【
図5】コントローラの入出力信号の一例を示す図である。
【
図6】状態量データの作成及び記録に関してコントローラが実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】状態量データの送信に関してコントローラが実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】下部走行体の故障予測に関してサーバ装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、本発明の実施の形態に係る故障予測システムの故障予測対象である作業機械1の構成を模式的に示す図である。本実施の形態の例において、作業機械1は、バケットが装着された油圧ショベルである。但し、作業機械1は、油圧ショベル等の建設機械に限らず、農業機械又は工業機械等の他の作業機械であっても良い。
【0030】
図1に示すように作業機械1は、クローラ式の下部走行体11と、下部走行体11上に配置された上部旋回体12と、上部旋回体12に接続された作業装置13とを備えている。上部旋回体12は、油圧モータで構成される旋回モータによって、下部走行体11に対し旋回可能である。
【0031】
下部走行体11は、走行モータ20、フレーム21、ローラ22、アイドラ23、クローラ24、及びシュー25等の構成部品を有している。走行モータ20は油圧モータで構成されている。下部走行体11は、走行モータ20として、独立して駆動可能な左右一対の左走行モータ20L及び右走行モータ20Rを有する。
図1には、左走行モータ20Lのみが表れている。上部旋回体12の内部には、作業機械1の全体の制御を司るコントローラ31が配置されている。作業装置13は、ブーム41、アーム42、及びバケット43を有している。但し、バケット43に代えてブレーカ又はニブラ等の他のアタッチメントが装着されていても良い。また、作業装置13は、それぞれブーム41、アーム42、及びバケット43を駆動するためのアクチュエータとして、ブームシリンダ44、アームシリンダ45、及びバケットシリンダ46を有している。
【0032】
図2は、本実施の形態に係る故障予測システムの全体構成を示す図である。
図2に示すように故障予測システムは、複数(
図2の例では3機)の作業機械1A~1C、サーバ装置2、管理装置3、通信ネットワーク4、及び表示装置5を備えている。各作業機械1A~1Cは、
図1に示した作業機械1に相当する。通信ネットワーク4は、インターネット通信網又は公衆電話回線網等の有線又は無線の任意の通信ネットワークである。サーバ装置2は、通信ネットワーク4を介して作業機械1A~1Cと通信可能である。管理装置3は、通信ネットワーク4を介して作業機械1A~1C及びサーバ装置2と通信可能である。表示装置5は、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイ等であり、管理装置3に接続されている。管理装置3及び表示装置5は、故障予測システムの管理者が駐在するオペレーションセンタに設置されている。
【0033】
図3は、作業機械1内の油圧回路50のうち、走行モータ20の駆動に関連する部分を抜き出して示す図である。
図3に示すように油圧回路50は、油圧ポンプ51(左油圧ポンプ51L及び右油圧ポンプ51R)、原動機52、作動油タンク53、リリーフ弁54(左リリーフ弁54L及び右リリーフ弁54R)、走行モータ用コントロールバルブ55(左走行モータ用コントロールバルブ55L及び右走行モータ用コントロールバルブ55R)、及び走行モータ20(左走行モータ20L及び右走行モータ20R)を備えている。操縦者のレバー操作又はペダル操作に応答するパイロット信号の圧力によって走行モータ用コントロールバルブ55を駆動することにより、油圧ポンプ51から走行モータ20への作動油の供給の可否並びに供給の方向及び流量が制御される。
【0034】
なお、操作レバー又は操作ペダルは、操縦者による操作量に応じた電気信号を出力する、いわゆる電気レバー又は電気ペダルであっても良い。この場合、走行モータ用コントロールバルブ55の制御システムは、当該操作レバー又は操作ペダルと、所定のコントローラと、比例制御弁とを備えて構成される。操作レバー又は操作ペダルから出力された電気信号がコントローラに入力され、コントローラは電気信号に応じた指令電流値を比例弁に入力する。比例弁は、指令電流値に応じたパイロット信号圧力を出力する。当該パイロット信号圧力によって走行モータ用コントロールバルブ55が駆動されることにより、油圧ポンプ51から走行モータ20への作動油の供給の可否並びに供給の方向及び流量が制御される。
【0035】
図3に示した油圧回路50のうち、走行モータ20は下部走行体11内に配置されており、それ以外の構成要素は上部旋回体12内に配置されている。下部走行体11と上部旋回体12との回路の接続部分には、スイベルジョイント56が配置されている。本実施の形態の例では、いわゆる2ポンプ方式の油圧回路が採用されており、例えば、左油圧ポンプ51Lは左走行モータ20L、旋回モータ、及びアームシリンダ45の駆動に共用され、右油圧ポンプ51Rは右走行モータ20R、ブームシリンダ44、及びバケットシリンダ46の駆動に共用される。
【0036】
また、油圧回路50は、圧力センサ61~63(左圧力センサ61L~63L及び右圧力センサ61R~63R)を有している。圧力センサ61~63は上部旋回体12内に配置されている。圧力センサ61は、油圧ポンプ51の圧力、つまり油圧ポンプ51の出口地点における作動油の圧力を測定し、その測定値を示す信号S1(S1L及びS1R)を出力する。圧力センサ62は、走行モータ用コントロールバルブ55の走行モータ20側の第1ポート(前進走行時の作動油出口ポート)地点における作動油の圧力を測定し、その測定値を示す信号S6(S6L及びS6R)を出力する。この圧力は、走行モータ20の第1ポート(前進走行時の作動油入口ポート)地点における作動油の圧力にほぼ等しい。圧力センサ63は、走行モータ用コントロールバルブ55の走行モータ20側の第2ポート(前進走行時の作動油入口ポート)における作動油の圧力を測定し、その測定値を示す信号S7(S7L及びS7R)を出力する。この圧力は、走行モータ20の第2ポート(前進走行時の作動油出口ポート)地点における作動油の圧力にほぼ等しい。圧力センサ62によって測定される圧力(信号S6)と圧力センサ63によって測定される圧力(信号S7)との差として、走行モータ20の圧力が得られる。
【0037】
図4は、コントローラ31が有する機能を示す図であり、
図5は、コントローラ31の入出力信号の一例を示す図である。
図4に示すようにコントローラ31は、動作状態判定部71、走行路判定部72、カウンタ73、ポンプトルク演算部74、及びモータトルク演算部75を有している。これらの機能は、CPU等のプロセッサが所定のプログラムを実行することによってソフトウェアとして実現されても良いし、FPGA等の専用回路を用いてハードウェアとして実現されても良い。また、コントローラ31には、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶部32と、通信ネットワーク4を介してサーバ装置2及び管理装置3と無線通信を行うための通信部33とが接続されている。
【0038】
図4,5を参照して、コントローラ31には、油圧ポンプ51(51L及び51R)の圧力を示す信号S1(S1L及びS1R)が、圧力センサ61(61L及び61R)から入力される。コントローラ31は、作動油の吐出量制御のためにシリンダブロック(図略)の傾転角を制御するためのポンプ電流を、信号S2(S2L及びS2R)として油圧ポンプ51に入力する。コントローラ31には、走行モータ用コントロールバルブ55(55L及び55R)を駆動するためのパイロット信号の圧力を示す信号S3(S3L及びS3R)が入力される。コントローラ31には、ブームシリンダ用コントロールバルブ、アームシリンダ用コントロールバルブ、バケットシリンダ用コントロールバルブ、又は旋回モータ用コントロールバルブ(いずれも図略)を駆動するためのパイロット信号の圧力を示す信号S4が入力される。コントローラ31は、可変容量式の走行モータ20(20L及び20R)の容量を設定するための信号S5(S5L及びS5R)を、傾転切換弁(図略)を介して走行モータ20に入力する。コントローラ31には、走行モータ用コントロールバルブ55の上記第1ポートの圧力を示す信号S6(S6L及びS6R)が、圧力センサ62(62L及び62R)から入力される。コントローラ31には、走行モータ用コントロールバルブ55の上記第2ポートの圧力を示す信号S7(S7L及びS7R)が、圧力センサ63(63L及び63R)から入力される。
【0039】
上記の通り、左油圧ポンプ51Lは左走行モータ20L、旋回モータ、及びアームシリンダ45の駆動に共用され、右油圧ポンプ51Rは右走行モータ20R、ブームシリンダ44、及びバケットシリンダ46の駆動に共用される。つまり、油圧ポンプ51は走行モータ20及び作業装置13(旋回モータを含む)の駆動に共用される。動作状態判定部71は、作業機械1の動作状態が、走行モータ20と作業装置13とが同時に駆動されている状態(複合動作状態)であるか、走行モータ20が単独で駆動されている状態(単独動作状態)であるかを判定する。そのためにまず動作状態判定部71は、
図4,5に示したパイロット信号圧力(信号S3)に関して、一定値以上の大きさのパイロット信号圧力が一定時間以上継続して入力されている場合(
図5の期間T1,T2,T3)に、作業機械1が走行している、つまり走行モータ20が駆動されていると判定する。次に動作状態判定部71は、期間T1,T2,T3の各々に関して、
図4に示したパイロット信号圧力(信号S4)の圧力値と所定のしきい値とを比較し、当該パイロット信号圧力の圧力値が当該しきい値以上である場合には複合動作状態であると判定し、当該パイロット信号圧力の圧力値が当該しきい値未満である場合には単独動作状態であると判定する。
【0040】
走行路判定部72は、走行モータ20の単独動作状態で作業機械1が走行を行っている場合に、作業機械1の走行路が平地であるか傾斜地であるかを判定する。油圧ポンプ51のトルクをT、圧力をP、傾転容量(ポンプの1回転あたりの吐出容量)をqとすると、T=(P×q)/(2π)の関係が成り立つ。最大値の走行パイロット信号圧力の入力により作業機械1が最高速度で平地走行を行っている場合には、圧力Pはリリーフ圧と比較して小さいため、傾転容量qは最大傾転容量qmaxとなる。その状態から走行路の斜度が徐々に大きくなる場合を想定すると、斜度が所定値に到達するまでは最大傾転容量qmaxを維持したまま圧力Pが徐々に大きくなるが、斜度が当該所定値以上となると、より大きな圧力Pが必要となるため、圧力Pの上昇に伴って傾転容量qが最大傾転容量qmaxから低下する。つまり、作業機械1の走行速度が低下する。走行路判定部72は、走行モータ20の単独動作状態で作業機械1が走行を行っている場合において、傾転容量qが最大傾転容量qmaxを維持している場合(圧力Pが所定値P0以下の場合)には走行路は平地であると判定し、傾転容量qが最大傾転容量qmaxから低下した場合(圧力Pが所定値P0を超えた場合)には走行路は傾斜地であると判定する。但し、走行路判定部72は、油圧ポンプ51の傾転容量q又は圧力Pを用いる代わりに、加速度センサ又はジャイロセンサ等の姿勢センサの検出値を用いることにより、作業機械1の走行路が平地であるか傾斜地であるかを判定しても良い。
【0041】
カウンタ73は、クロック周期が既知である所定のクロック信号のクロック数をカウントする。コントローラ31は、信号S3で表されるパイロット信号圧力によって走行モータ20の駆動開始及び駆動停止を検出し、駆動開始を検出してから駆動停止を検出するまでの間のカウンタ73のカウント値に基づいて、走行モータ20の稼働時間を算出する。
【0042】
ポンプトルク演算部74は、油圧ポンプのポンプ電流と傾転容量との既知の関係式を用いて、信号S2で表されるポンプ電流から油圧ポンプ51の傾転容量qを算出する。また、ポンプトルク演算部74は、T=(P×q)/(2π)[Nm]なる関係式を用いて、油圧ポンプ51の圧力P(信号S1)と傾転容量qとに基づいて油圧ポンプ51のトルクTを算出する。
【0043】
モータトルク演算部75は、圧力センサ62によって測定される圧力(信号S6)と圧力センサ63によって測定される圧力(信号S7)との差として、走行モータ20の圧力を算出する。また、モータトルク演算部75は、走行モータのトルクと圧力及び容量との既知の関係式を用いて、上記で算出した走行モータ20の圧力と、信号S5で表される走行モータ20の容量とに基づいて、走行モータ20のトルクを算出する。
【0044】
コントローラ31は、以上のようにして検出された、油圧ポンプ51の圧力及びトルク、走行モータ20の圧力、トルク、及び稼働時間、並びに、走行モータ用コントロールバルブ55のパイロット信号圧力を含めて、走行モータ20の動作時における油圧回路に関する所定の状態量を表す状態量データS8を作成する。状態量データS8には、これら複数の状態量の全てが含まれても良いし、一部のみが含まれても良い。また、パイロット信号圧力に代えて、操作レバー又は操作ペダルから出力される油圧又は電気信号等の、走行モータ用コントロールバルブ55を駆動するための他の駆動制御信号を含めても良い。また、状態量データS8には、状態量の検出時における作業機械1の動作状態が複合動作状態であるか単独動作状態であるかを示す動作状態情報がさらに含まれる。また、状態量データS8には、状態量の検出時における作業機械1の走行路が平地であるか傾斜地であるかを示す走行路情報がさらに含まれる。また、状態量データS8には、状態量の検出時刻(年月日を含む)を示す検出時刻情報、及び、作業機械1の固有識別情報がさらに含まれる。状態量データS8には、他の情報をさらに含めても良い。コントローラ31は、作成した状態量データS8を記憶部32に記録する。また、コントローラ31は、記憶部32から読み出した状態量データS8を、通信部33から通信ネットワーク4を介してサーバ装置2に送信する。
【0045】
図6は、状態量データS8の作成及び記録に関してコントローラ31が実行する処理の流れを示すフローチャートである。作業機械1の電源が投入されることにより、コントローラ31はこの処理の実行を開始する。
【0046】
まずステップSP101において動作状態判定部71は、一定値以上の大きさのパイロット信号圧力(信号S3)が一定時間以上継続して入力されているか否かによって、作業機械1が走行中であるか否か、つまり走行モータ20が駆動されているか否かを判定する。
【0047】
作業機械1が走行中でない場合(ステップSP101:NO)は、動作状態判定部71はステップSP101の処理を繰り返し実行する。
【0048】
作業機械1が走行中である場合(ステップSP101:YES)は、次にステップSP102において動作状態判定部71は、パイロット信号圧力(信号S4)の圧力値が所定のしきい値以上であるか否かによって、作業装置13(旋回モータを含む)が駆動されているか否かを判定する。
【0049】
作業装置13が駆動されていない場合(ステップSP102:NO)、つまり走行モータ20の単独動作状態である場合は、次にステップSP103において走行路判定部72は、油圧ポンプ51の傾転容量qが最大傾転容量qmaxを維持しているか否か、あるいは油圧ポンプ51の圧力Pが所定値P0以下であるか否かによって、作業機械1の走行路が平地であるか否かを判定する。
【0050】
作業機械1の走行路が平地である場合(ステップSP103:YES)は、次にステップSP104において動作状態判定部71は、作業機械1の動作状態として、単独動作状態かつ平地走行状態を示す作業状態K1を設定する。
【0051】
作業機械1の走行路が平地でない場合(ステップSP103:NO)は、次にステップSP108において動作状態判定部71は、作業機械1の動作状態として、単独動作状態かつ傾斜地走行状態を示す作業状態K2を設定する。
【0052】
作業装置13が駆動されている場合(ステップSP102:YES)は、次にステップSP112において動作状態判定部71は、作業機械1の動作状態として、走行モータ20及び作業装置13の複合動作状態を示す作業状態K3を設定する。
【0053】
なお、本実施の形態の例では、動作状態判定部71は作業機械1の動作状態を作業状態K1~K3の3種類に分類したが、さらに細かく分類しても良い。
【0054】
ステップSP104の次にステップSP105においてコントローラ31は、油圧ポンプ51及び走行モータ20の圧力、並びに、走行モータ用コントロールバルブ55のパイロット信号圧力を検出する。次にステップSP106においてポンプトルク演算部74及びモータトルク演算部75は、油圧ポンプ51及び走行モータ20のトルクをそれぞれ算出する。次にステップSP107においてコントローラ31は、当該作業状態K1での走行モータ20の稼働時間を算出する。コントローラ31は、これらの状態量に、作業状態K1を示す作業状態情報(動作状態情報及び走行路情報を包含する情報)、検出時刻情報、及び作業機械1の固有識別情報を付加することにより、状態量データS8を作成する。
【0055】
ステップSP108の次にステップSP109においてコントローラ31は、油圧ポンプ51及び走行モータ20の圧力、並びに、走行モータ用コントロールバルブ55のパイロット信号圧力を検出する。次にステップSP110においてポンプトルク演算部74及びモータトルク演算部75は、油圧ポンプ51及び走行モータ20のトルクをそれぞれ算出する。次にステップSP111においてコントローラ31は、当該作業状態K2での走行モータ20の稼働時間を算出する。コントローラ31は、これらの状態量に、作業状態K2を示す作業状態情報、検出時刻情報、及び作業機械1の固有識別情報を付加することにより、状態量データS8を作成する。
【0056】
ステップSP112の次にステップSP113においてコントローラ31は、油圧ポンプ51及び走行モータ20の圧力、並びに、走行モータ用コントロールバルブ55のパイロット信号圧力を検出する。次にステップSP114においてポンプトルク演算部74及びモータトルク演算部75は、油圧ポンプ51及び走行モータ20のトルクをそれぞれ算出する。次にステップSP115においてコントローラ31は、当該作業状態K3での走行モータ20の稼働時間を算出する。コントローラ31は、これらの状態量に、作業状態K3を示す作業状態情報、検出時刻情報、及び作業機械1の固有識別情報を付加することにより、状態量データS8を作成する。
【0057】
ステップSP107,SP111,SP115の次にステップSP116においてコントローラ31は、作成した状態量データS8を記憶部32に記録する。
【0058】
コントローラ31は、
図6に示した状態量データS8の生成及び記録処理を、コントローラ31が制御信号を出力する制御周期毎に、あるいは一定の時間間隔で、繰り返し実行する。これにより、記憶部32には複数の状態量データS8が蓄積される。なお、コントローラ31は、上述の状態量のうち、油圧ポンプ51及び走行モータ20の圧力及びトルク並びに走行モータ用コントロールバルブ55のパイロット信号圧力に関しては、検出又は算出した値そのものを記憶部32に記録しても良いし、所定時間(例えば1分間)毎の平均値を算出してその平均値を記憶部32に記録しても良い。
【0059】
図7は、状態量データS8の送信に関してコントローラ31が実行する処理の流れを示すフローチャートである。作業機械1の電源が投入されることにより、コントローラ31はこの処理の実行を開始する。
【0060】
まずステップSP201においてコントローラ31は、状態量データS8を前回送信してから所定時間が経過したか否かを判定する。この所定時間は、予め設定された一定の送信時間間隔であり、例えば1時間である。但し、1時間に限らず、半日(12時間)又は1日(24時間)等の任意の時間間隔であって良い。
【0061】
所定時間が経過していない場合(ステップSP201:NO)は、コントローラ31はステップSP201の処理を繰り返し実行する。
【0062】
所定時間が経過した場合(ステップSP201:YES)は、次にステップSP202においてコントローラ31は、未送信の状態量データS8を記憶部32から読み出す。通信部33は、記憶部32から読み出された状態量データS8を、通信ネットワーク4を介してサーバ装置2に送信する。
【0063】
図8は、サーバ装置2の構成を示す図である。
図8に示すようにサーバ装置2は、通信部81、データ解析部82、データ蓄積部83、及び故障予測器84を備えている。故障予測器84は、状態量と故障時期との関係を表す故障予測モデルによって、作業機械1の下部走行体11の故障時期を予測する。
図2に示したように、サーバ装置2は通信ネットワーク4を介して複数の作業機械1A~1Cと通信可能である。サーバ装置2は、複数の作業機械1A~1Cから受信した状態量データS8を、データ蓄積部83に蓄積する。また、いずれかの作業機械1において下部走行体11の故障が発生した場合には、その作業機械1の固有識別情報、故障発生日時、故障が発生した部品名、故障内容(症状及び程度等)を含む故障情報が、その作業機械1からサーバ装置2に送信される。但し、管理装置3が作業機械1から故障情報を収集し、管理装置3がサーバ装置2に故障情報を送信しても良い。サーバ装置2は、受信した故障情報をデータ蓄積部83に蓄積する。故障予測器84は、データ蓄積部83に蓄積されている複数の状態量を説明変数とし、下部走行体11の各部品の故障の有無を目的変数とし、データ蓄積部83に蓄積されている複数の故障情報を教師データとして用いて、ニューラルネットワークを用いたディープラーニング等の機械学習によって、故障予測モデルを作成する。ここで、説明変数としては、作業機械毎の複数の状態量の平均値又は積算値等を用いても良い。目的変数としては、任意の所定累積稼働時間(累積稼働日数又は累積稼働月数等でも良い。)における故障発生の有無を示す情報が用いられる。教師データとしては、収集した故障情報に基づいて抽出された、故障に至るまでの累積稼働時間等の情報を用いることができ、さらに、故障が発生していない作業機械に関しても、上記の所定累積稼働時間に同一又は近似する作業機械に関するデータを教師データとして用いても良い。故障予測器84は、故障予測モデルの作成完了後も、サーバ装置2が新たな状態量データS8及び新たな故障情報を受信する度に、故障予測モデルを逐次更新する。
【0064】
図9は、下部走行体11の故障予測に関してサーバ装置2が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【0065】
まずステップSP301において通信部81は、作業機械1から状態量データS8を受信する。
【0066】
次にステップSP302においてデータ解析部82は、受信した状態量データS8に含まれている走行モータ20の稼働時間が「0」でないか否かを確認することにより、その状態量データS8に走行データが含まれているか否かを判定する。
【0067】
走行データが含まれていない場合(ステップSP302:NO)は、サーバ装置2は処理を終了する。
【0068】
走行データが含まれている場合(ステップSP302:YES)は、次にステップSP303においてデータ解析部82は、受信した状態量データS8に含まれている作業機械1の固有識別情報を確認することにより、状態量データS8の送信元の作業機械1がサーバ装置2に既登録の機体であるか未登録の機体であるかを判定する。
【0069】
作業機械1が既登録の機体である場合(ステップSP303:YES)は、次にステップSP304においてデータ解析部82は、データ蓄積部83の全記憶空間のうち当該作業機械1に対して割り当てられている記憶領域に、ステップSP301で受信した状態量データS8を格納する。
【0070】
作業機械1が未登録の機体である場合(ステップSP303:NO)は、次にステップSP305においてデータ解析部82は、データ蓄積部83の全記憶空間内に、当該作業機械1に関する記憶領域を割り当てる。次にステップSP306においてデータ解析部82は、ステップSP301で受信した状態量データS8を、ステップSP305で割り当てた記憶領域に格納する。
【0071】
ステップSP304,SP306の次にステップSP307においてサーバ装置2は、ステップSP304,SP306でデータ蓄積部83に格納された状態量データS8をデータ蓄積部83から読み出し、当該状態量データS8を故障予測器84に入力する。故障予測器84は、当該状態量データS8に基づいて、上記故障予測モデルによって作業機械1の下部走行体11の各部品の故障時期を予測する。故障予測器84は、予測故障時期が近い(例えば1ヶ月以内である)部品が存在する場合には「1」の故障フラグを出力し、予測故障時期が近い部品が存在しない場合には「0」の故障フラグを出力する。
【0072】
故障予測器84が「1」の故障フラグを出力した場合(ステップSP307:YES)は、次にステップSP308において通信部81は、作業機械1の固有識別情報、故障が予測される下部走行体11の部品名、及び予測故障時期を含む故障警報を、通信ネットワーク4を介して管理装置3に送信する。管理装置3は、受信した故障警報を表示装置5に表示することにより、管理者に対して故障予測情報を報知する。
【0073】
故障予測器84が「0」の故障フラグを出力した場合(ステップSP307:NO)は、サーバ装置2は処理を終了する。
【0074】
本実施の形態に係る故障予測システムによれば、圧力センサ61~63、ポンプトルク演算部74、及びモータトルク演算部75(検出手段)は、走行モータ20の動作時における油圧回路に関する所定の状態量を、上部旋回体12内において検出する。故障予測器84(予測手段)は、検出手段が検出した状態量に基づいて、所定の故障予測モデルによって下部走行体11の故障を予測する。従って、走行時に大きな応力が加わる下部走行体11内にひずみゲージ等のセンサを配置する必要がないため、当該応力に起因する当該センサ自身の故障及び配線の断線等は生じない。その結果、故障予測システムの信頼性を向上することが可能となる。しかも、検出手段としては上部旋回体12内の既存の圧力センサ61等を兼用できるため、故障予測システムを低コストで実現することが可能となる。
【0075】
また、油圧回路の状態量として、油圧ポンプ51の圧力又はトルク、走行モータ用コントロールバルブ55を駆動するための駆動制御信号(パイロット信号圧力等)、走行モータ20の圧力、トルク、又は稼働時間のうちの少なくとも一つを用いることにより、故障予測モデルの作成処理及び当該故障予測モデルを用いた故障予測処理を、適切に実行することが可能となる。
【0076】
また、状態量を説明変数とし、下部走行体11の故障の有無を目的変数とし、複数の作業機械1A~1Cから収集した下部走行体11の故障情報を教師データとして用いた機械学習によって、故障予測モデルを適切に作成することが可能となる。
【0077】
また、作業機械1の動作状態が複合動作状態であるか単独動作状態であるかによって状態量を区別することにより、故障予測モデルの作成処理及び当該故障予測モデルを用いた故障予測処理の精度を向上することが可能となる。
【0078】
また、状態量の検出時における作業機械1の走行路が平地であるか傾斜地であるかによって状態量を区別することにより、故障予測モデルの作成処理及び当該故障予測モデルを用いた故障予測処理の精度を向上することが可能となる。
【0079】
また、下部走行体11内の故障部品名を示す情報を故障情報に含めることによって、下部走行体11の故障部品の予測が可能な故障予測モデルを作成することができる。その結果、部品単位でのメンテナンスを行うことが可能となる。
【0080】
また、サーバ装置2が故障予測器84を有するため、多数の作業機械1が存在する場合に、サーバ装置2へ情報が集約されるために故障予測モデルの精度を向上できるとともに、各作業機械1への高性能な情報処理装置の搭載を省略できるためにシステムの導入コストを削減することが可能となる。
【0081】
<変形例>
上記実施の形態では作業機械1の外部のサーバ装置2が故障予測器84を有するが、作業機械1自身が故障予測器84を有しても良い。故障予測器84は、状態量データS8に基づいて、故障予測モデルによって下部走行体11の各部品の故障時期を予測する。但し、故障予測モデルに代えて、各部品の累積稼働時間等を所定の許容上限値と比較するという簡易な処理によって故障予測を行っても良い。故障予測器84は、予測故障時期が近い部品が存在する場合には、上部旋回体12の操縦室内に設置されているディスプレイに故障警報を表示する。
【0082】
本変形例によれば、作業機械1自身が故障予測器84を有するため、外部のサーバ装置2等が不要となり、システム構成を簡素化することが可能となる。
【符号の説明】
【0083】
1 作業機械
2 サーバ装置
11 下部走行体
12 上部旋回体
13 作業装置
20 走行モータ
50 油圧回路
51 油圧ポンプ
55 走行モータ用コントロールバルブ
61~63 圧力センサ
84 故障予測器