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特許7441857多層構造体およびその製造方法、それを用いた包装材、真空断熱体並びに電子デバイスの保護シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】多層構造体およびその製造方法、それを用いた包装材、真空断熱体並びに電子デバイスの保護シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/04 20060101AFI20240222BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240222BHJP
   F16L 59/065 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
B32B9/04
B65D65/40 D
F16L59/065
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021564018
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2020045941
(87)【国際公開番号】W WO2021117791
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2019222797
(32)【優先日】2019-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】久詰 修平
(72)【発明者】
【氏名】尾下 竜也
【審査官】馳平 憲一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-150492(JP,A)
【文献】特開2016-040120(JP,A)
【文献】特開2016-218630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 9/04
B65D 65/40、81/24
B05D 1/36、3/02、7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(X)、層(Y)及び層(Z)を備え、少なくとも一組の層(Y)及び層(Z)が隣接して積層されており、層(Y)がアルミニウム原子を含む金属酸化物(A)と無機リン化合物(BI)との反応生成物(D)を含み、層(Z)が金属原子(MR)を有する金属化合物(R)及び水酸基含有樹脂(W)を含み、金属原子(M R )がケイ素、チタン及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、水酸基含有樹脂(W)がポリビニルアルコールであり、層(Y)及び層(Z)における単位面積当たりのアルミニウム原子のモル数(MAl)に対する金属原子(MR)のモル数(MMR)のモル比MMR/MAlが0.0005以上0.05以下である、多層構造体。
【請求項2】
水酸基含有樹脂(W)が少なくとも炭素原子を有し層(Z)における単位面積当たりの炭素原子のモル数(Mc)に対する金属原子(MR)のモル数(MMR)のモル比MMR/MCが0.0007以上0.07以下である、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
前記金属化合物(R)がグリシジル基を有するケイ素化合物(G)、有機チタン化合物(OT)及び有機ジルコニウム化合物(OZ)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1または2に記載の多層構造体。
【請求項4】
グリシジル基を有するケイ素化合物(G)が下記一般式(I)
SiX1pZqR1(4-p-q) (I)
[上記式(I)中、X1は、F、Cl、Br、I、R2O-、R3COO-、(R4CO)2CH-、およびNO3からなる群より選ばれるいずれか1つを表し、Zは、グリシジル基を有する有機基を表し、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立してアルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれるいずれか1つの基を表し、pは1~3の整数を表し、qは1~3の整数を表す。2≦(p+q)≦4である。複数のX1が存在する場合、それらのX1は互いに同一であってもよいし異なってもよい。複数のZが存在する場合、それらのZは互いに同一であってもよいし異なってもよい。複数のR1が存在する場合、それらのR1は互いに同一であってもよいし異なってもよい。]
で示される少なくとも1種の化合物である、請求項に記載の多層構造体。
【請求項5】
グリシジル基を有するケイ素化合物(G)が、3―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3―グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3―グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3―グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2―(3,4―エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、および2―(3,4―エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項に記載の多層構造体。
【請求項6】
有機チタン化合物(OT)が、有機チタンアルコキシド、有機チタンアシレートおよび有機チタンキレートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項7】
有機ジルコニウム化合物(OZ)が、有機ジルコニウムアルコキシド、有機ジルコニウムアシレートおよび有機ジルコニウムキレートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項8】
層(Z)における水酸基含有樹脂(W)と金属化合物(R)との質量比(W/R)が2.0以上200以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項9】
基材(X)、層(Y)及び層(Z)がこの順で積層されている積層構造を備える、請求項1~のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項10】
層(Z)の平均厚みが50nm以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項11】
層(Y)の平均厚みに対する層(Z)の平均厚みの比(層(Z)/層(Y))が0.10以上である、請求項1~10のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項12】
基材(X)上に、アルミニウムを含む金属酸化物(A)と、無機リン化合物(BI)と、溶媒とを含むコーティング液(S)を塗工し、溶媒を除去することで層(Y)の前駆体層を形成する工程(I)と、
前記層(Y)前駆体層上に樹脂(W)と、前記金属化合物(R)と、溶媒とを含むコーティング液(T)を塗工し、溶媒を除去することで層(Z)の前駆体層を形成する工程(II)と、
前記層(Y)の前駆体層および前記層(Z)の前駆体層を熱処理して層(Y)および層(Z)を形成する工程(III)とを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の多層構造体を含む、包装材。
【請求項14】
縦製袋充填シール袋、真空包装袋、パウチ、ラミネートチューブ容器、輸液バッグ、紙容器、ストリップテープ、容器用蓋材、またはインモールドラベル容器である、請求項13に記載の包装材。
【請求項15】
請求項13に記載の包装材が真空包装袋であり、前記真空包装袋が内容物を含み、前記内容物が芯材であり、前記真空包装袋の内部が減圧されている真空断熱体。
【請求項16】
請求項1~11のいずれか1項に記載の多層構造体を含む、電子デバイスの保護シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造体およびその製造方法、それを用いた包装材、真空断熱体並びに電子デバイスの保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムや酸化アルミニウムを構成成分とするガスバリア層をプラスチックフィルム上に形成した多層構造体は従来からよく知られており、例えば酸素によって変質しやすい物品(例えば、食品)を保護するための包装材やガスバリア性および水蒸気バリア性が要求される電子デバイスの保護シートの構成部材として用いられる。係るガスバリア層の多くは、物理気相成長法(PVD)や化学気相成長法(CVD)といったドライプロセスによってプラスチックフィルム上に形成される。しかしながら、これら蒸着フィルムは、ガスバリア層に用いられる無機化合物の薄膜が可撓性に欠けており、揉みや折り曲げに弱く、また基材との密着性が悪いため、取り扱いに注意を要し、特に印刷、ラミネート、製袋など包装材料の後加工の際に、前記薄膜にクラックを発生しガスバリア性が著しく低下する問題があった。
【0003】
この問題に対して、特許文献1では、無機化合物の薄膜上に水溶性高分子と(a)金属アルコキシドおよび/またはその加水分解物または(b)塩化錫の少なくとも一方を含む水溶液、或いは水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を塗布し可撓性に優れるガスバリア性オーバーコート層を施すことで、ガスバリア性の向上や蒸着層の保護効果が得られる方法が記載されている。
【0004】
一方、近年コーティング液を塗工する工程を経てバリア層を構築する手法がもちいられており、特許文献2には、その手法によって得られるバリア層の耐物理的ストレス性を向上させる発明として、アルミニウム原子を有する層にリン原子を複数有する重合体とエーテル結合を有し、かつグリコシド結合を有しない重合体を含む層を隣接して積層することで、レトルト処理後も良好な層間接着力を有し、延伸等の物理的ストレスを受けた際のガスバリア性を高いレベルで維持することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平07-234947号公報
【文献】国際公開第2016/103716号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の多層構造体を包装材として用いた場合、屈曲等の物理的ストレス(以下、単に「屈曲」と表現する場合がある)を受けた際の、ガスバリア性の維持が不十分である場合や、レトルト処理等の過酷条件下に付した際に(以下、単に「レトルト処理後」と表現する場合がある)層間剥離等の外観不良を起こす場合があった。
【0007】
本発明の目的は、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れ、屈曲後もガスバリア性および水蒸気バリア性を維持できるとともに、レトルト処理後に層間剥離等の外観不良を起こさない新規な多層構造体、それを用いた包装材および製品を提供することにある。本発明の他の目的の1つは、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れ、かつ、ダンプヒート試験後も、そのバリア性を維持できる新規な多層構造体を用いた電子デバイスの保護シートを提供することにある。なお、レトルト処理後に層間剥離等の外観不良を起こさない点を、単に「耐レトルト性」と表現する場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は
[1]基材(X)、層(Y)及び層(Z)を備え、少なくとも一組の層(Y)及び層(Z)が隣接して積層されており、層(Y)がアルミニウム原子を含む金属酸化物(A)と無機リン化合物(BI)との反応生成物(D)を含み、層(Z)が金属原子(M)を有する金属化合物(R)及び水酸基含有樹脂(W)を含み、層(Y)及び層(Z)における単位面積当たりのアルミニウム原子のモル数(MAl)に対する金属原子(M)のモル数(MMR)のモル比MMR/MAlが0.0005以上0.05以下である、多層構造体;
[2]水酸基含有樹脂(W)が少なくとも炭素原子を有し層(Z)における単位面積当たりの炭素原子のモル数(Mc)に対する金属原子(M)のモル数(MMR)のモル比MMR/Mが0.0007以上0.07以下である、[1]に記載の多層構造体;
[3]金属原子(M)がケイ素、チタン及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、[1]または[2]に記載の多層構造体;
[4]前記金属化合物(R)がグリシジル基を有するケイ素化合物(G)、有機チタン化合物(OT)及び有機ジルコニウム化合物(OZ)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の多層構造体;
[5]グリシジル基を有するケイ素化合物(G)が下記一般式(I)
Si(X1(4-p-q) (I)
[上記式(I)中、Xは、F、Cl、Br、I、RO-、RCOO-、(RCO)CH-、およびNOからなる群より選ばれるいずれか1つを表し、Zは、グリシジル基を有する有機基を表し、R、R、R、およびRは、それぞれ独立してアルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれるいずれか1つの基を表し、pは1~3の整数を表し、qは1~3の整数を表す。2≦(p+q)≦4である。複数のXが存在する場合、それらのXは互いに同一であってもよいし異なってもよい。複数のZが存在する場合、それらのZは互いに同一であってもよいし異なってもよい。複数のRが存在する場合、それらのRは互いに同一であってもよいし異なってもよい。]
で示される少なくとも1種の化合物である、[4]に記載の多層構造体;
[6]グリシジル基を有するケイ素化合物(G)が、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、および2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[5]に記載の多層構造体;
[7]有機チタン化合物(OT)が、有機チタンアルコキシド、有機チタンアシレートおよび有機チタンキレートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[4]~[6]のいずれかに記載の多層構造体;
[8]有機ジルコニウム化合物(OZ)が、有機ジルコニウムアルコキシド、有機ジルコニウムアシレートおよび有機ジルコニウムキレートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[4]~[7]のいずれかに記載の多層構造体;
[9]水酸基含有樹脂(W)がポリビニルアルコールである、[1]~[8]のいずれかに記載の多層構造体;
[10]層(Z)における水酸基含有樹脂(W)と金属化合物(R)との質量比(W/R)が2.0以上200以下である、[1]~[9]のいずれかに記載の多層構造体;
[11]基材(X)、層(Y)及び層(Z)がこの順で積層されている積層構造を備える、[1]~[10]のいずれかに記載の多層構造体;
[12]層(Z)の平均厚みが50nm以上である、[1]~[11]のいずれかに記載の多層構造体;
[13]層(Y)の平均厚みに対する層(Z)の平均厚みの比(層(Z)/層(Y))が0.10以上である、[1]~[12]のいずれかに記載の多層構造体;
[14]基材(X)上に、アルミニウム原子を含む金属酸化物(A)と、無機リン化合物(BI)と、溶媒とを含むコーティング液(S)を塗工し、溶媒を除去することで層(Y)の前駆体層を形成する工程(I)と、
前記層(Y)前駆体層上に樹脂(W)と、前記金属化合物(R)と、溶媒とを含むコーティング液(T)を塗工し、溶媒を除去することで層(Z)の前駆体層を形成する工程(II)と、
前記層(Y)の前駆体層および前記層(Z)の前駆体層を熱処理して層(Y)および層(Z)を形成する工程(III)とを含む、[1]~[13]のいずれかに記載の多層構造体の製造方法;
[15][1]~[13]のいずれかに記載の多層構造体を含む、包装材;
[16]縦製袋充填シール袋、真空包装袋、パウチ、ラミネートチューブ容器、輸液バッグ、紙容器、ストリップテープ、容器用蓋材、またはインモールドラベル容器である、[15]に記載の包装材;
[17][16]に記載の包装材が真空包装袋であり、前記真空包装袋が内容物を含み、前記内容物が芯材であり、前記真空包装袋の内部が減圧されている真空断熱体;
[18][1]~[13]のいずれかに記載の多層構造体を含む、電子デバイスの保護シート;
により達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れ、屈曲後もガスバリア性および水蒸気バリア性を維持できるとともに、レトルト処理後に層間剥離等の外観不良を起こさない新規な多層構造体、それを用いた包装材および製品を提供できる。また、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れ、かつ、ダンプヒート試験後も、そのバリア性を維持できる新規な多層構造体を用いた電子デバイスの保護シートを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「バリア性」とは主に酸素バリア性及び水蒸気バリア性(透湿度)の両方を意味し、「ガスバリア性」とは主に酸素バリア性を意味する。また、屈曲処理後もバリア性に優れる性質を「耐屈曲性」と表現する場合がある。
【0011】
本発明の多層構造体は、基材(X)、層(Y)及び層(Z)を備え、少なくとも一組の層(Y)及び層(Z)が隣接して積層されており、層(Y)が金属酸化物(A)と無機リン化合物(BI)との反応生成物(D)を含み、層(Z)が金属化合物(R)及び樹脂(W)を含み、層(Y)及び層(Z)における単位面積当たりのアルミニウム原子のモル数(MAl)に対する金属原子(M)のモル数(MMR)のモル比MMR/MAlが0.0005以上0.05以下である。本発明の多層構造体は、特に、層(Z)が金属化合物(R)及び樹脂(W)を含み、層(Y)及び層(Z)における単位面積当たりのアルミニウム原子のモル数(MAl)に対する金属原子(M)のモル数(MMR)のモル比MMR/MAlが0.0005以上0.05以下であることで、耐屈曲性及び耐レトルト性が良好となる傾向となる。
【0012】
[基材(X)]
基材(X)の材質は、特に制限されず、様々な材質からなる基材を使用できる。基材(X)の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂;布帛、紙類等の繊維集合体;木材;ガラス;金属;金属酸化物等が挙げられる。中でも、熱可塑性樹脂および繊維集合体を含むことが好ましく、熱可塑性樹脂を含むことがより好ましい。基材(X)の形態は、特に制限されず、フィルムまたはシート等の層状であってもよい。基材(X)としては、熱可塑性樹脂フィルム、紙層および無機蒸着層(X’)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものが好ましく、熱可塑性樹脂フィルムを含むものがより好ましく、熱可塑性樹脂フィルムであることがさらに好ましい。
【0013】
基材(X)に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートあるいはこれらの共重合体等のポリエステル系樹脂;ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12等のポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の水酸基含有ポリマー;ポリスチレン;ポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリアクリロニトリル;ポリ酢酸ビニル;ポリカーボネート;ポリアリレート;再生セルロース;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリエーテルエーテルケトン;アイオノマー樹脂等が挙げられる。基材(X)に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン-6、およびナイロン-66からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0014】
前記熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合、基材(X)は延伸フィルムであってもよいし無延伸フィルムであってもよい。得られる多層構造体の加工適性(印刷やラミネート等)が優れることから、延伸フィルム、特に二軸延伸フィルムが好ましい。二軸延伸フィルムは、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、およびチューブラ延伸法のいずれかの方法で製造された二軸延伸フィルムであってもよい。
【0015】
基材(X)に用いられる紙としては、例えば、クラフト紙、上質紙、模造紙、グラシン紙、パーチメント紙、合成紙、白板紙、マニラボール、ミルクカートン原紙、カップ原紙、アイボリー紙等が挙げられる。基材(X)に紙を用いることで、紙容器用の多層構造体が得られる。
【0016】
基材(X)が層状である場合、その平均厚みは、得られる多層構造体の機械的強度および加工性が良好になる観点から1~1000μmが好ましく、5~500μmがより好ましく、9~200μmがさらに好ましい。
【0017】
無機蒸着層(X’)は、通常、酸素や水蒸気に対するバリア性を有する層であり、透明性を有することが好ましい。無機蒸着層(X’)は無機物を蒸着することで形成できる。無機物としては、金属(例えば、アルミニウム)、金属酸化物(例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム)、金属窒化物(例えば、窒化ケイ素)、金属窒化酸化物(例えば、酸窒化ケイ素)、または金属炭化窒化物(例えば、炭窒化ケイ素)等が挙げられる。中でも、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、または窒化ケイ素で形成される無機蒸着層(X’)が、透明性に優れる観点から好ましい。
【0018】
無機蒸着層(X’)の形成方法は、特に限定されず、真空蒸着法(例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、分子線エピタキシー法、イオンプレーティング法等)、スパッタリング法(デュアルマグネトロンスパッタリング等)等の物理気相成長法;熱化学気相成長法(例えば、触媒化学気相成長法)、光化学気相成長法、プラズマ化学気相成長法(例えば、容量結合プラズマ法、誘導結合プラズマ法、表面波プラズマ法、電子サイクロトロン共鳴プラズマ法等)、原子層堆積法、有機金属気相成長法等の化学気相成長法が挙げられる。
【0019】
無機蒸着層(X’)の平均厚みは、無機蒸着層を構成する成分の種類によって異なるが、0.002~0.5μmが好ましく、0.005~0.2μmがより好ましく、0.01~0.1μmがさらに好ましい。この範囲で、多層構造体のバリア性や機械的物性が良好になる平均厚みを選択すればよい。無機蒸着層(X’)の平均厚みが0.002μm以上であると、酸素や水蒸気に対する無機蒸着層(X’)のバリア性が良好になる傾向となる。また、無機蒸着層(X’)の平均厚みが0.5μm以下であると、無機蒸着層(X’)の屈曲後のバリア性が維持される傾向となる。
【0020】
[層(Y)]
層(Y)は、金属酸化物(A)と無機リン化合物(BI)との反応生成物(D)を含む。本発明の多層構造体において、層(Y)はバリア層として機能するため、本発明の多層構造体が層(Y)を備えることで、屈曲処理前のバリア性が良好となる傾向となる。
【0021】
[アルミニウム原子を含む金属酸化物(A)]
金属酸化物(A)を構成する金属原子(それらを総称して「金属原子(M)」という場合がある)は、周期表の2~14族に属する金属原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子であるが、少なくともアルミニウム原子を含む。金属原子(M)は、アルミニウム原子単独であることが好ましいが、アルミニウム原子とそれ以外の金属原子とを含んでもよい。なお、金属酸化物(A)として、2種以上の金属酸化物(A)を混合して用いてもよい。アルミニウム原子以外の金属原子としては、例えば、マグネシウム、カルシウムなどの周期表第2族の金属;亜鉛などの周期表第12族の金属;周期表第13属の金属;ケイ素などの周期表第14族の金属;チタン、ジルコニウムなどの遷移金属などを挙げることができる。なお、ケイ素は半金属に分類される場合があるが、本明細書ではケイ素を金属に含めるものとする。アルミニウムと併用され得る金属原子(M)としては、取扱性や得られる多層構造体のガスバリア性が優れる観点から、チタン及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
金属原子(M)に占めるアルミニウム原子の割合は50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、95モル%以上であっても、実質的にアルミニウム原子のみからなってもよい。金属酸化物(A)の例には、液相合成法、気相合成法、固体粉砕法等の方法によって製造された金属酸化物が含まれる。
【0023】
金属酸化物(A)は、加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(E)(以下「化合物(E)」と略記する場合がある)の加水分解縮合物であってもよい。該特性基としては、例えば、ハロゲン原子、NO、置換基を有していてもよい炭素数1~9のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6~9のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2~9のアシロキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3~9のアルケニルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数5~15のβ-ジケトナト基、または置換基を有していてもよい炭素数1~9のアシル基を有するジアシルメチル基等が挙げられる。化合物(E)の加水分解縮合物は、実質的に金属酸化物(A)とみなすことが可能である。そのため、本明細書では、化合物(E)の加水分解縮合物を「金属酸化物(A)」という場合がある。すなわち、本明細書において、「金属酸化物(A)」は「化合物(E)の加水分解縮合物」と読み替えることができ、また、「化合物(E)の加水分解縮合物」を「金属酸化物(A)」と読み替えることもできる。
【0024】
[加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(E)]
無機リン化合物(BI)との反応の制御が容易になり、得られる多層構造体のガスバリア性が優れることから、化合物(E)は後述するアルミニウム原子を含む化合物(Ea)を含むことが好ましい。
【0025】
化合物(Ea)としては、例えば、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ-n-プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ-n-ブトキシアルミニウム、トリ-sec-ブトキシアルミニウム、トリ-tert-ブトキシアルミニウム等が挙げられ、中でも、トリイソプロポキシアルミニウムおよびトリ-sec-ブトキシアルミニウムが好ましい。化合物(E)として、2種以上の化合物(Ea)を併用してもよい。
【0026】
また、化合物(E)はアルミニウム以外の金属原子(M)を含む化合物(Eb)を含んでいてもよく、化合物(Eb)としては、例えば、テトラキス(2,4-ペンタンジオナト)チタン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキソキシ)チタン等のチタン化合物;テトラキス(2,4-ペンタンジオナト)ジルコニウム、テトラ-n-プロポキシジルコニウム、テトラ-n-ブトキシジルコニウム等のジルコニウム化合物等が挙げられる。これらは、1種単独で使用しても、2種以上の化合物(Eb)を併用してもよい。
【0027】
化合物(E)に占める化合物(Ea)の割合は特に限定されず、例えば80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましく、100モル%であってもよい。
【0028】
化合物(E)が加水分解されることで、化合物(E)が有する加水分解可能な特性基の少なくとも一部が水酸基に変換される。さらに、その加水分解物が縮合することで、金属原子(M)が酸素原子(O)を介して結合された化合物が形成される。この縮合が繰り返されると、実質的に金属酸化物とみなしうる化合物が形成される。なお、このようにして形成された金属酸化物(A)の表面には、通常、水酸基が存在する。
【0029】
本明細書においては、[金属原子(M)のみに結合している酸素原子(O)のモル数]/[金属原子(M)のモル数]の比が0.8以上である化合物を金属酸化物(A)に含めるものとする。ここで、金属原子(M)のみに結合している酸素原子(O)は、M-O-Mで表される構造における酸素原子(O)であり、M-O-Hで表される構造における酸素原子(O)のように金属原子(M)と水素原子(H)に結合している酸素原子は除外される。金属酸化物(A)における前記比は、0.9以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、1.1以上がさらに好ましい。この比の上限は特に限定されないが、金属原子(M)の原子価をnとすると、通常、n/2で表される。
【0030】
前記加水分解縮合が起こるためには、化合物(E)が加水分解可能な特性基を有していることが重要である。それらの基が結合していない場合、加水分解縮合反応が起こらないもしくは極めて緩慢となるため、目的とする金属酸化物(A)の調製が困難になる。
【0031】
化合物(E)の加水分解縮合物は、例えば、公知のゾルゲル法で採用される手法によって特定の原料から製造してもよい。該原料には、化合物(E)、化合物(E)の部分加水分解物、化合物(E)の完全加水分解物、化合物(E)が部分的に加水分解縮合してなる化合物、および化合物(E)の完全加水分解物の一部が縮合してなる化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用できる。
【0032】
なお、後述の無機リン化合物(BI)含有物(無機リン化合物(BI)または無機リン化合物(BI)を含む組成物)との混合に供される金属酸化物(A)は、リン原子を実質的に含有しないことが好ましい。
【0033】
[無機リン化合物(BI)]
無機リン化合物(BI)は、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有し、典型的には、かかる部位を複数含有し、好適には2~20個含有する。かかる部位には、金属酸化物(A)の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)と縮合反応可能な部位が含まれ、例えば、リン原子に直接結合したハロゲン原子、リン原子に直接結合した酸素原子等が挙げられる。金属酸化物(A)の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)は、通常、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)に結合している。
【0034】
無機リン化合物(BI)としては、例えば、リン酸、二リン酸、三リン酸、4分子以上のリン酸が縮合したポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸、ホスフィン酸、亜ホスフィン酸等のリンのオキソ酸、およびこれらの塩(例えば、リン酸ナトリウム)、ならびにこれらの誘導体(例えば、ハロゲン化物(例えば、塩化ホスホリル)、脱水物(例えば、五酸化二リン))等が挙げられ、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。中でも、後述するコーティング液(S)の安定性および得られる多層構造体のガスバリア性が向上する観点から、リン酸を単独で使用するか、リン酸とそれ以外の無機リン化合物(BI)を併用することが好ましい。リン酸とそれ以外の無機リン化合物(BI)とを併用する場合、無機リン化合物(BI)の50モル%以上がリン酸であることが好ましい。
【0035】
[反応生成物(D)]
反応生成物(D)は、金属酸化物(A)と無機リン化合物(BI)との反応で得られる。金属酸化物(A)と無機リン化合物(BI)とさらに他の化合物とが反応することで生成する化合物も反応生成物(D)に含まれる。
【0036】
層(Y)の赤外吸収スペクトルにおいて、800~1400cm-1の領域における最大吸収波数は1080~1130cm-1の範囲にあることが好ましい。例えば、金属酸化物(A)と無機リン化合物(BI)とが反応して反応生成物(D)となる過程において、金属酸化物(A)に由来する金属原子(M)と無機リン化合物(BI)に由来するリン原子(P)とが酸素原子(O)を介してM-O-Pで表される結合を形成する。その結果、反応生成物(D)の赤外吸収スペクトルにおいて該結合由来の特性吸収帯が生じる。M-O-Pの結合に基づく特性吸収帯が1080~1130cm-1の領域に見られる場合には、得られた多層構造体が優れたガスバリア性を発現する。特に、該特性吸収帯が、一般に各種の原子と酸素原子との結合に由来する吸収が見られる800~1400cm-1の領域において最も強い吸収である場合には、得られた多層構造体がさらに優れたガスバリア性を発現する。
【0037】
これに対し、化合物(E)または金属塩等の金属化合物と無機リン化合物(BI)とを予め混合した後に加水分解縮合させた場合には、金属化合物に由来する金属原子と無機リン化合物(BI)に由来するリン原子とがほぼ均一に混ざり合い反応した複合体が得られる。その場合、赤外吸収スペクトルにおいて、800~1400cm-1の領域における最大吸収波数が1080~1130cm-1の範囲から外れるようになる。
【0038】
層(Y)の赤外吸収スペクトルにおいて、800~1400cm-1の領域における最大吸収帯の半値幅は、得られる多層構造体のガスバリア性の観点から200cm-1以下が好ましく、150cm-1以下がより好ましく、100cm-1以下がさらに好ましく、50cm-1以下が特に好ましい。
【0039】
層(Y)の赤外吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計(パーキンエルマー株式会社製Spectrum One)を用い、800~1400cm-1を測定領域として、減衰全反射法で測定できる。ただし、前記方法で測定できない場合には、反射吸収法、外部反射法、減衰全反射法等の反射測定、多層構造体から層(Y)をかきとり、ヌジョール法、錠剤法等の透過測定という方法で測定してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0040】
また、層(Y)は、反応に関与していない金属酸化物(A)および/または無機リン化合物(BI)を部分的に含んでいてもよい。
【0041】
層(Y)において、金属酸化物(A)を構成する金属原子と無機リン化合物(BI)に由来するリン原子とのモル比は、[金属酸化物(A)を構成する金属原子]:[無機リン化合物(BI)に由来するリン原子]=1.0:1.0~3.6:1.0の範囲にあることが好ましく、1.1:1.0~3.0:1.0の範囲にあることがより好ましい。この範囲内では優れたガスバリア性能が得られる。層(Y)における該モル比は、層(Y)を形成するためのコーティング液(S)における金属酸化物(A)と無機リン化合物(BI)との混合比率によって調整できる。層(Y)における該モル比は、通常、コーティング液(S)における比と同じである。
【0042】
層(Y)の平均厚み(多層構造体が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の平均厚みの合計)は、0.05~4.0μmが好ましく、0.1~2.0μmがより好ましい。層(Y)を薄くすることで、印刷、ラミネート等の加工時における多層構造体の寸法変化を低く抑えることができる。また、多層構造体の柔軟性が増すため、その力学的特性を基材自体の力学的特性に近づけることもできる。本発明の多層構造体が2層以上の層(Y)を有する場合、ガスバリア性の観点から、層(Y)1層当たりの平均厚みは0.05μm以上が好ましい。層(Y)の平均厚みは、層(Y)の形成に用いられる後述するコーティング液(S)の濃度またはその塗工方法によって制御できる。層(Y)の平均厚みは、多層構造体の断面を走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡で観察することで測定できる。
【0043】
層(Y)は、上述した成分の他に、カルボニル基、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体(F)を含んでいてもよい。なお、重合体(F)と樹脂(W)は一部重複するが、層(Y)に含まれる水酸基含有樹脂を重合体(F)とし、層(Z)に含まれる水酸基含有樹脂を樹脂(W)とする。
【0044】
[重合体(F)]
重合体(F)は、カルボニル基、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を有する。重合体(F)は、水酸基およびカルボキシル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する重合体であることが好ましい。
【0045】
重合体(F)としては、ポリエチレングリコール;ポリビニルアルコール、炭素数4以下のα-オレフィン単位を1~50モル%含有する変性ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール(ポリビニルブチラールなど)などのポリビニルアルコール系重合体;セルロース、デンプンなどの多糖類;ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸、エチレン-アクリル酸共重合体などの(メタ)アクリル酸系重合体;エチレン-無水マレイン酸共重合体の加水分解物、スチレン-無水マレイン酸共重合体の加水分解物、イソブチレン-無水マレイン酸交互共重合体の加水分解物などのマレイン酸系重合体などが挙げられる。中でも、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール系重合体が好ましい。重合体(F)として用いられるポリビニルアルコール系重合体の好適な態様は、層(Z)に含まれる樹脂(W)と同様である。
【0046】
重合体(F)は、重合性基を有する単量体の単独重合体であってもよいし、2種以上の単量体の共重合体であってもよいし、カルボニル基、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を有する単量体と該基を有しない単量体との共重合体であってもよい。なお、重合体(F)として、2種以上の重合体(F)を混合して用いてもよい。
【0047】
重合体(F)の分子量は特に制限されないが、より優れたガスバリア性および機械的強度を有する多層構造体を得るために、重合体(F)の重量平均分子量は5000以上が好ましく、8000以上がより好ましく、10000以上がさらに好ましい。重合体(F)の重量平均分子量の上限は特に限定されず、例えば、1500000以下である。
【0048】
多層構造体の外観を良好に保つ観点から、層(Y)における重合体(F)の含有量は、層(Y)の質量を基準として、50質量%未満が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、0質量%であってもよい。重合体(F)は、層(Y)中の成分と反応していても、反応していなくてもよい。
【0049】
層(Y)は、他の成分をさらに含んでいてもよい。層(Y)に含まれ得る他の成分としては、例えば、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩等の無機酸金属塩、シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸金属塩、シクロペンタジエニル金属錯体(例えば、チタノセン)、シアノ金属錯体(例えば、プルシアンブルー)等の金属錯体、層状粘土化合物、架橋剤、重合体(F)以外の高分子化合物、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤等が挙げられる。多層構造体中の層(Y)における前記の他の成分の含有率は50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)であってもよい。
【0050】
層(Y)が重合体(F)を含む場合、層(Y)における反応生成物(D)及び重合体(F)の含有率は70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましく、実質的に反応生成物(D)及び重合体(F)のみから構成されていてもよい。なお、層(Y)において一部未反応の金属酸化物(A)および無機リン化合物(BI)が含まれる場合は、層(Y)における金属酸化物(A)、無機リン化合物(BI)、反応生成物(D)及び重合体(F)の含有率が上記範囲であることが好ましい。
【0051】
[層(Z)]
層(Z)が金属化合物(R)及び樹脂(W)を含み、層(Y)及び層(Z)における単位面積当たりのアルミニウム原子のモル数(MAl)に対する金属原子(M)のモル数(MMR)のモル比MMR/MAlが0.0005以上0.05以下である。本発明の多層構造体が層(Z)を備えることで、耐屈曲性及び耐レトルト性が良好となる傾向となる。耐屈曲性及び耐レトルト性が良好となる理由は定かではないが、金属化合物(R)と樹脂(W)とが反応(架橋)することが、一つの要因であると考えられる。モル比MMR/MAlは、0.0006以上0.045以下であることが好ましく、0.0007以上0.042以下であることがより好ましく、0.0009以上0.040以下であることがさらに好ましい。モル比MMR/MAlの算出方法は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0052】
[金属化合物(R)]
金属化合物(R)は、金属原子(M)を有する化合物であり、層(Z)は金属化合物(R)を含むことで、耐屈曲性と耐レトルト性を両立できる傾向となる。
【0053】
金属原子(M)としては、任意の金属原子を選択でき、単独で用いても2種以上併用してもよい。金属原子(M)としては、樹脂(W)との反応性をより高める観点から、ケイ素、チタン及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、ケイ素およびチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0054】
金属原子(M)がケイ素である場合、金属化合物(R)としては、アルコキシシラン、ハロゲンシラン、ビニルシラン、アルキルシラン等の比較的樹脂(W)との反応性が低いケイ素化合物;グリシジル基、アミノ基、アクリル基、イソシアネート基、メルカプト基等の有機基を有する、樹脂(W)との反応性が高いケイ素化合物が挙げられる。中でも、耐屈曲性及び耐レトルト性に優れる観点から樹脂(W)との反応性が高いケイ素化合物が好ましく、グリシジル基を有するケイ素化合物(G)(以下「ケイ素化合物(G)」と略記する場合がある)がより好ましい。
【0055】
金属化合物(R)は、樹脂(W)との反応性が良好である観点から、ケイ素化合物(G)、有機チタン化合物(OT)及び有機ジルコニウム化合物(OZ)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、ケイ素化合物(G)及び有機チタン化合物(OT)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことがより好ましい。また、樹脂(W)との反応性が良好である観点から、金属化合物(R)はケイ素化合物(G)、有機チタン化合物(OT)及び有機ジルコニウム化合物(OZ)からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、ケイ素化合物(G)及び有機チタン化合物(OT)からなる群より選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。
【0056】
ケイ素化合物(G)は、下記一般式(I)に示される少なくとも1種のケイ素化合物であることが好ましい。
Si(X1(4-p-q) (I)
[上記式(I)中、Xは、F、Cl、Br、I、RO-、RCOO-、(RCO)CH-、およびNOからなる群より選ばれるいずれか1つを表し、Zは、グリシジル基を有する有機基を表し、R、R、R、およびRは、それぞれ独立してアルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれるいずれか1つの基を表し、pは1~3の整数を表し、qは1~3の整数を表す。2≦(p+q)≦4である。複数のXが存在する場合、それらのXは互いに同一であってもよいし異なってもよい。複数のZが存在する場合、それらのZは互いに同一であってもよいし異なってもよい。複数のRが存在する場合、それらのRは互いに同一であってもよいし異なってもよい。]
【0057】
、R、R、およびRは、例えば炭素数が1~10のアルキル基、炭素数7~10のアラルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数が2~9のアルケニル基であり、好ましくは炭素数が1~6のアルキル基であり、より好ましくは炭素数が1~4のアルキル基である。
【0058】
式(I)において、Zが表す「グリシジル基を有する有機基」の中のグリシジル基は、樹脂(W)との共有結合の形成(反応)に寄与する。式(I)中のZは、グリシジル基を1つのみ有していても、グリシジル基を複数有していてもよい。
【0059】
好ましい一例では、Xがハロゲン原子または炭素数が1~4のアルコキシ基(RO-)であり、Zがグリシジル基を有する炭素数が1~4のアルキル基であり、Rが炭素数1~4のアルキル基であり、pが2または3であり、qが1または2であり、3≦(p+q)≦4である。特に好ましい一例では、Xがハロゲン原子または炭素数が1~4のアルコキシ基(RO-)であり、Zがグリシジル基を有する炭素数1~4のアルキル基であり、pが3であり、qが1である。
【0060】
金属原子(M)がケイ素である場合、金属化合物(R)としては、例えば、テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、クロロトリメトキシシラン、クロロトリエトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、ジクロロジエトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、トリクロロエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリイソプロポキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリクロロシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等が挙げられる。中でも、ケイ素化合物(G)に該当する、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランが好ましく、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランまたは3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランがより好ましい。
【0061】
有機チタン化合物(OT)としては、有機チタンアルコキシド、有機チタンアシレートおよび有機チタンキレートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。有機チタン化合物(OT)としては、例えば、チタンラクテート、チタンラクテートの部分または完全中和物(たとえば、チタンラクテート一アンモニウム塩、チタンラクテート二アンモニウム塩等のチタンラクテートアンモニウム塩;チタンラクテート一ナトリウム塩、チタンラクテート二ナトリウム塩等のチタンラクテートナトリウム塩;チタンラクテート一カリウム塩、チタンラクテート二カリウム塩等のチタンラクテートカリウム塩)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミナート)、ジ-n-ブトキシチタンビス(トリエタノールアミナート)、ジイソプロポキシチタンビス(アセチルアセトナート)、チタンテトラキス(アセチルアセトナート)、ポリチタンビス(アセチルアセトナート)、テトライソプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、チタンテトラステアリレートなどが挙げられる。中でも、キレート型の配位子を有し、水溶性のものが好ましく、具体的にはチタンラクテート、チタンラクテートの部分または完全中和物、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミナート)、ジ-n-ブトキシチタンビス(トリエタノールアミナート)が好ましく、チタンラクテート又はその部分若しくは完全中和物がより好ましい。チタンラクテートの部分または完全中和物としては、チタンラクテートアンモニウム塩が好ましい。
【0062】
有機ジルコニウム化合物(OZ)としては、有機ジルコニウムアルコキシド、有機ジルコニウムアシレートおよび有機ジルコニウムキレートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。有機ジルコニウム化合物(OZ)としては、例えば、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトテート)オクチル酸ジルコニウム化合物、ステアリン酸ジルコニウム、塩化ジルコニル化合物、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩などが挙げられる。中でも、水溶性のものが好ましく、具体的には、塩化ジルコニル化合物、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩が好ましい。
【0063】
金属化合物(R)がアルコキシ基を有するケイ素化合物を含む場合、耐屈曲性及び耐レトルト性により優れる観点から、金属化合物(R)に溶媒を加え、その後酸触媒と水を添加して公知のゾルゲル法により加水分解縮合を行う工程を含むことが好ましい。
【0064】
金属化合物(R)は1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0065】
[樹脂(W)]
樹脂(W)は、水酸基を含有する樹脂であり、樹脂(W)を用いると耐屈曲性が良好となる傾向となる。樹脂(W)は親水性樹脂であることが好ましく、水溶性又は水分散性の樹脂であることがより好ましい。樹脂(W)は、親水性が高まる観点から水酸基を有する単量体単位を有することが好ましく、かかる水酸基を有する単量体単位の含有量が、樹脂(W)を構成する全単量体単位に対して30モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、65モル%以上がさらに好ましく、90モル%以上が特に好ましい。また、樹脂(W)において、水酸基を有する単量体単位の含有量が、樹脂(W)を構成する全単量体単位に対して100質量%以下であってもよく、99.9質量%以下であってもよい。樹脂(W)における水酸基を有する単量体単位の含有量が上記範囲内にあると、耐屈曲性が良好となる傾向となる。
【0066】
樹脂(W)としては、水酸基含有エポキシ樹脂、水酸基含有ポリエステル樹脂、水酸基含有(メタ)アクリル樹脂、水酸基含有ポリウレタン樹脂、ビニルアルコール系樹脂、多糖類等が挙げられ、中でも、ビニルアルコール系樹脂または多糖類を含むことが好ましく、耐レトルト性により優れる観点から、ビニルアルコール系樹脂を含むことがより好ましく、ビニルアルコール系樹脂であることがさらに好ましい。
【0067】
ビニルアルコール系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(以下「PVA」と略記する場合がある)樹脂やエチレン-ビニルアルコール共重合体(以下「EVOH」と略記する場合がある)樹脂等が挙げられ、中でも耐屈曲性の観点から、樹脂(W)はPVA樹脂であることが好ましい。PVA樹脂としては、例えばビニルエステルを単独重合し、ケン化して得られるPVA樹脂や、その他の変性基を有する変性PVA樹脂が挙げられる。変性PVA樹脂は、共重合変性であっても後変性であっても良い。また、EVOH樹脂としては、例えばビニルエステル及びエチレンを共重合し、ケン化して得られるEVOH樹脂や、その他の変性基を有する変性EVOH樹脂が挙げられる。変性EVOH樹脂は、共重合変性であっても後変性であってもよい。これらのビニルアルコール系樹脂は、単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。なお、本明細書においてエチレン単位含有率20モル%以上はEVOH樹脂、エチレン単位含有率20モル%未満はPVA樹脂とする。
【0068】
PVA樹脂のケン化度は40モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましい。また、PVA樹脂のケン化度は99.9モル%以下であってもよい。ケン化度が40モル%以上であると層(Y)との密着性がより良好となる傾向となる。また、ケン化度が99.9モル%以下であると、後述するコーティング液(T)の調製が容易となる傾向となる。PVA樹脂のケン化度は、H-NMR測定を行い、ビニルエステル構造に含まれる水素原子のピーク面積と、ビニルアルコール構造に含まれる水素原子のピーク面積とを測定して算出できる。
【0069】
EVOH樹脂のケン化度は70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましい。また、EVOH樹脂のケン化度は99.9モル%以下であってもよい。ケン化度を上記範囲に調整することで、耐屈曲性が良好となる傾向となる。また、EVOH樹脂のエチレン単位含有量は20モル%以上60モル%以下であってもよく、40モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましい。EVOH樹脂のエチレン単位含有量が60モル%以下であることで耐屈曲性がより良好となる傾向となる。EVOH樹脂のケン化度は、H-NMR測定を行い、ビニルエステル構造に含まれる水素原子のピーク面積と、ビニルアルコール構造に含まれる水素原子のピーク面積とを測定して算出できる。
【0070】
ビニルアルコール系樹脂が変性基を有する場合、変性基としては、シラノール基、チオール基、アルデヒド基、カルボキシ基、スルホン酸基、ニトリル基、アミノ基等が挙げられ、シラノール基を有することが好ましい。
【0071】
ビニルアルコール系樹脂が共重合変性される場合、ビニルエステルとの共重合に供される他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩;アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキンラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、等のビニル化合物;酢酸イソプロペニル、1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類;塩化ビニリデン;1,4-ジアセトキシ-2-ブテン;ビニレンカーボネート等が挙げられる。ビニルアルコール系樹脂が上記他の単量体を含む場合、その含有量は10モル%以下であっても、5モル%以下であっても、3モル%以下であってもよい。
【0072】
多糖類としては、分子量2000以上のものが好ましく、例えばデンプン、セルロース、デキストリン等が挙げられ、中でも後述するコーティング液(T)を容易に調製できる観点から、デキストリンが好ましい。デンプンとしては、公知のデンプンを用いることができ、例えば、アミロース、アミロペクチン等が挙げられる。セルロースとしては公知のセルロースを使用できるが、通常水に不溶であるため、後述するコーティング液(T)においては、分散していることが好ましい。
【0073】
JIS K 6726(1994年)に準拠して測定される、樹脂(W)の濃度4質量%水溶液の、20℃における粘度は1mPa・s以上100mPa・s以下が好ましく、3mPa・s以上90mPa・s以下がより好ましく、5mPa・s以上80mPa・s以下が特に好ましい。前記範囲内であると層(Z)を均一な平均厚みに調整しやすく、得られる多層構造体の耐屈曲性を安定的に再現できる傾向となる。粘度は、市販のブルックフィールド型回転粘度計を用いて測定できる。
【0074】
層(Z)における単位面積当たりの炭素原子のモル数(Mc)に対する金属原子(M)のモル数(MMR)のモル比MMR/Mは0.0007以上が好ましく、0.002以上がより好ましく、0.003以上がさらに好ましい。モル比MMR/Mが0.0007以上であると、耐レトルト性が良好となる傾向となる。また、モル比MMR/Mは0.07以下が好ましく、0.03以下がより好ましく、0.015以下がさらに好ましい。モル比MMR/Mが0.07以下であると耐屈曲性が良好となる傾向となる。モル比MMR/Mの算出方法は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0075】
層(Z)における水酸基含有樹脂(W)と金属化合物(R)との質量比(W/R)は2.0以上が好ましく、4.0以上がより好ましく、9.0以上がさらに好ましい。質量比(W/R)が2.0以上であると、耐屈曲性が良好となる傾向がある。また、質量比(W/R)は200以下が好ましく、90以下がより好ましく、60以下がさらに好ましい。質量比(W/R)が200以下であると、耐レトルト性が良好となる傾向となる。
【0076】
層(Z)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の成分を含有してもよい。層(Z)に含まれ得る他の成分としては、例えば、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩等の無機酸金属塩、シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸金属塩、シクロペンタジエニル金属錯体(例えば、チタノセン)、シアノ金属錯体(例えば、プルシアンブルー)等の金属錯体、層状粘土化合物、架橋剤、樹脂(W)以外の高分子化合物、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤等が挙げられる。層(Z)における前記の他の成分の含有率は10質量%未満が好ましく、5質量%未満がより好ましく、3質量%未満がさらに好ましく、1質量%未満が特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)であってもよい。すなわち、金属化合物(R)及び樹脂(W)が層(Z)を占める割合は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、実質的に金属化合物(R)及び樹脂(W)のみから構成されていても、金属化合物(R)及び樹脂(W)のみから構成されていてもよい。層(Z)がケイ素化合物(G)、有機チタン化合物(OT)及び有機ジルコニウム化合物(OZ)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む場合、ケイ素化合物(G)、有機チタン化合物(OT)及び有機ジルコニウム化合物(OZ)からなる群より選ばれる少なくとも一種が層(Z)を占める割合は0.5質量%以上が好ましく、0.8質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上がさらに好ましい。質量比が0.5質量%以上であると、耐レトルト性が良好となる傾向がある。また、ケイ素化合物(G)、有機チタン化合物(OT)及び有機ジルコニウム化合物(OZ)からなる群より選ばれる少なくとも一種が層(Z)を占める割合は30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、17質量%以下がさらに好ましい。質量比が30質量%以下であると、耐屈曲性が良好となる傾向となる。なお、層(Z)はリン原子を含んでいてもよいが、その割合は5モル%以下が好ましく、3モル%以下がより好ましく、1モル%以下がさらに好ましく、実質的にリン原子を含まないことが特に好ましい。また、層(Z)は、反応生成物(D)を含んでいてもよいが、その割合は10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、1モル%以下がさらに好ましく、実質的に反応生成物(D)を含まないことが特に好ましい。
【0077】
層(Z)の形成方法としては、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法、シルクスクリーン印刷法等の周知の印刷方式;ロールコート、ナイフエッジコート、グラビアコート等の周知の塗布方式を使用できる。乾燥条件は、一般的に使用される条件で構わない。
【0078】
層(Z)の平均厚みは50nm以上が好ましく、60nm以上がより好ましく、100nm以上がさらに好ましい。層(Z)の平均厚みが50nm以上であると、耐屈曲性が良好となる傾向となる。層(Z)の平均厚みは、後記する実施例に記載の方法で測定できる。層(Z)の平均厚みは3000nm以下であっても、1000nm以下であっても、500nm以下であっても、300nm以下であってもよい。層(Z)の平均厚みが3000nm超となると、層(Z)により奏される耐屈曲性の改善効果が飽和する傾向となる。なお、後述する層(Y)及び層(Z)における単位面積当たりのアルミニウム原子のモル数(MAl)に対する金属原子(M)のモル数(MMR)のモル比MMR/MAlは、層(Z)の平均厚みによっても調整可能である。
【0079】
層(Y)の平均厚みに対する層(Z)の平均厚みの比(層(Z)/層(Y))は0.10以上が好ましく、0.15以上がより好ましく、0.20以上がさらに好ましい。平均厚みの比(層(Z)/層(Y))が0.10以上であると耐屈曲性が良好となる傾向となる。平均厚みの比(層(Z)/層(Y))は、1.5以下であってもよい。
【0080】
[他の層(J)]
本発明の多層構造体は、様々な特性(例えば、ヒートシール性、バリア性、力学物性)を向上させるために、他の層(J)を含んでもよい。このような本発明の多層構造体は、例えば、基材(X)に層(Y)を(必要に応じて後述する接着層(I)を介して)積層させ、層(Y)に層(Z)を積層させた後に、さらに該他の層(J)を直接または後述する接着層(I)を介して接着または形成することによって製造できる。他の層(J)としては、例えば、インク層;ポリオレフィン層、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層等の熱可塑性樹脂層等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
本発明の多層構造体がインク層を含む場合、インク層としては、例えば、溶剤に顔料(例えば、二酸化チタン)を包含したポリウレタン樹脂を分散した液体を乾燥した皮膜が挙げられるが、顔料を含まないポリウレタン樹脂、その他の樹脂を主剤とするインクや電子回路配線形成用レジストを乾燥した皮膜でもよい。インク層の塗工方法としては、グラビア印刷法のほか、ワイヤーバー、スピンコーター、ダイコーター等各種の塗工方法が挙げられる。インク層の厚さは0.5~10.0μmが好ましく、1.0~4.0μmがより好ましい。
【0082】
本発明の多層構造体の最表面層をポリオレフィン層とすることによって、多層構造体にヒートシール性を付与したり、多層構造体の力学的特性を向上させたりできる。ヒートシール性や力学的特性の向上等の観点から、ポリオレフィンはポリプロピレンまたはポリエチレンであることが好ましい。また、多層構造体の力学的特性を向上させるために、ポリエステルからなるフィルム、ポリアミドからなるフィルム、および水酸基含有ポリマーからなるフィルムからなる群より選ばれる少なくとも1つのフィルムを積層することが好ましい。力学的特性の向上の観点から、ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレートが好ましく、ポリアミドとしてはナイロン-6が好ましく、水酸基含有ポリマーとしてはエチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましい。
【0083】
他の層(J)は押出しコートラミネートにより形成された層であってもよい。本発明で使用できる押出しコートラミネート法に特に限定はなく、公知の方法を用いてもよい。典型的な押出しコートラミネート法では、溶融した熱可塑性樹脂をTダイに送り、Tダイのフラットスリットから取り出した熱可塑性樹脂を冷却することによって、ラミネートフィルムが製造される。
【0084】
前記シングルラミネート法以外の押出しコートラミネート法としては、サンドイッチラミネート法、タンデムラミネート法等が挙げられる。サンドイッチラミネート法は、溶融した熱可塑性樹脂を一方の基材に押出し、別のアンワインダー(巻出し機)から第2基材を供給して貼り合わせて積層体を作製する方法である。タンデムラミネート法は、シングルラミネート機を2台つないで一度に5層構成の積層体を作製する方法である。
【0085】
[接着層(I)]
本発明の多層構造体において、接着層(I)を用いて、基材(X)と層(Y)間の接着性を高めたり、他の部材(例えば、他の層(J)等)との接着性を高めることができる場合がある。接着層(I)は、接着性樹脂から構成されていてもよい。前記他の部材との接着性を高める接着性樹脂としては、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを混合し反応させる2液反応型ポリウレタン系接着剤が好ましい。また、アンカーコーティング剤または接着剤に、公知のシランカップリング剤等の少量の添加剤を加えることによって、さらに接着性を高めることができる場合がある。シランカップリング剤としては、例えば、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基等の反応性基を有するシランカップリング剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。他の部材との接着により、本発明の多層構造体に対して印刷またはラミネート等の加工を施す際に、ガスバリア性または外観の悪化をより効果的に抑制でき、さらに、本発明の多層構造体を用いた包装材の落下強度を高めることができる場合がある。
【0086】
また、基材(X)と層(Y)間の接着性を高める接着性樹脂としては、上述した接着性樹脂のほかに、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ビニルアルコール系樹脂等が好適に用いられ、ビニルアルコール系樹脂を単独で用いるか、ビニルアルコール系樹脂とポリエステル系樹脂を同時に用いることが、基材(X)と層(Y)間との接着性を高める観点から、より好ましい。ビニルアルコール系樹脂はPVA樹脂であることが好ましく、PVA樹脂としては樹脂(W)として好適に用いられる態様であることが好ましい。
【0087】
ビニルアルコール系樹脂とポリエステル系樹脂を同時に用いる場合、その質量比(ビニルアルコール系樹脂/ポリエステル系樹脂)は1/99以上50/50以下であることが、良好な接着性を維持しつつ、より高い剥離強度を示す観点から好ましい。ポリエステル系樹脂は、ビニルアルコール系樹脂との親和性の観点からカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂であることが好ましい。また、接着剤として使用する際は、ポリエステル系樹脂が水性分散体であることが好ましい。ポリエステル系樹脂が水性分散体であることで、ポリビニルアルコール系樹脂との親和性が、より良好になる傾向となる。接着層(I)の厚さは0.001~10.0μmが好ましく、0.01~5.0μmがより好ましい。
【0088】
[多層構造体の構成]
本発明の多層構造体は、少なくとも一組の層(Y)及び層(Z)が隣接して積層されている。ここで、隣接して積層されているとは、層(Y)及び層(Z)が直接積層されていることを意味する。層(Y)及び層(Z)が隣接して積層されていることで、本発明の多層構造体の耐屈曲性が、より顕著に現れるようになる。その理由は定かではないが、層(Y)と層(Z)が隣接して積層されている場合、層(Y)の表面や間隙に層(Z)の成分が浸透し、耐屈曲性がより顕著に現れていると考えられる。本発明の多層構造体の耐屈曲性をより高める観点から、本発明の多層構造体は、基材(X)、層(Y)、層(Z)がこの順に積層されている積層構造を備えることが好ましい。なお、基材(X)と層(Y)間は、直接積層されていても接着層(I)を介して積層されていてもよい。
【0089】
本発明の多層構造体の構成の具体例を以下に示すが、それぞれの具体例は複数組み合わされた構成であってもよい。なお、具体例において基材(X)および他の層(J)は具体的な樹脂名で記載する。また、具体的な樹脂名が記載された層(基材(X)および他の層(J))の間に層(Y)/層(Z)が位置する場合には、層(Z)/層(Y)との積層順に置き換えてもよい。ここで、「/」とは、接着層を介してまたは直接積層していることを意味する。
(1)層(Z)/層(Y)/ポリエステル層(基材(X))、
(2)層(Z)/層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/層(Z)、
(3)層(Z)/層(Y)/ポリアミド層、
(4)層(Z)/層(Y)/ポリアミド層/層(Y)/層(Z)、
(5)層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層、
(6)層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)/層(Z)、
(7)層(Z)/層(Y)/水酸基含有ポリマー層、
(8)層(Z)/層(Y)/水酸基含有ポリマー層/層(Y)/層(Z)、
(9)層(Z)/層(Y)/紙層、
(10)層(Z)/層(Y)/紙層/層(Y)/層(Z)、
(11)層(Z)/層(Y)/無機蒸着層/ポリエステル層、
(12)層(Z)/層(Y)/無機蒸着層/ポリアミド層、
(13)層(Z)/層(Y)/無機蒸着層/ポリオレフィン層、
(14)層(Z)/層(Y)/無機蒸着層/水酸基含有ポリマー層、
(15)層(Z)/層(Y)/ポリエステル層/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(16)層(Z)/層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/層(Z)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(17)ポリエステル層/層(Z)/層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/層(Z)/無機蒸着層/水酸基含有ポリマー層/ポリオレフィン層、
(18)ポリエステル層/層(Y)/層(Z)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(19)層(Z)/層(Y)/ポリアミド層/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(20)層(Z)/層(Y)/ポリアミド層/層(Y)/層(Z)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(21)ポリアミド層/層(Y)/層(Z)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(22)層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(23)層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)/層(Z)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(24)ポリオレフィン層/層(Y)/層(Z)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(25)層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層/ポリオレフィン層、
(26)層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層、
(27)ポリオレフィン層/層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層、
(28)層(Z)/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(29)層(Z)/層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層、
(30)ポリエステル層/層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層、
(31)層(Z)/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(32)層(Z)/層(Y)/ポリアミド層/層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層、
(33)ポリアミド層/層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層、
(34)層(Z)/層(Y)/ポリエステル層/紙層、
(35)層(Z)/層(Y)/ポリアミド層/紙層、
(36)層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層/紙層、
(37)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/層(Z)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(38)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/層(Z)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(39)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層、
(40)紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/層(Z)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(41)ポリオレフィン層/紙層/層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層、
(42)紙層/層(Z)/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(43)紙層/層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層、
(44)層(Z)/層(Y)/紙層/ポリオレフィン層、
(45)層(Z)/層(Y)/ポリエステル層/紙層/ポリオレフィン層、
(46)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層/水酸基含有ポリマー層、
(47)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層/ポリアミド層、
(48)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層/ポリエステル層、
(49)無機蒸着層/層(Z)/層(Y)/ポリエステル層、
(50)無機蒸着層/層(Z)/層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/層(Z)/無機蒸着層、
(51)無機蒸着層/層(Z)/層(Y)/ポリアミド層、
(52)無機蒸着層/層(Z)/層(Y)/ポリアミド層/層(Y)/層(Z)/無機蒸着層、
(53)無機蒸着層/層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層、
(54)無機蒸着層/層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)/層(Z)/無機蒸着層、
(55)ポリエステル層/層(Y)/層(Z)/ポリアミド層/無機蒸着層/水酸基含有ポリマー層/ポリオレフィン層、
(56)ポリアミド層/層(Y)/層(Z)/ポリエステル層/無機蒸着層/水酸基含有ポリマー層/ポリオレフィン層、
(57)ポリエステル層/層(Y)/層(Z)/ポリエステル層/層(Y)/層(Z)/無機蒸着層/水酸基含有ポリマー層/ポリオレフィン層、
(58)ポリエステル層/層(Y)/層(Z)/無機蒸着層/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(59)ポリエステル層/層(Y)/層(Z)/無機蒸着層/ポリエステル層/無機蒸着層/ポリエステル層/ポリオレフィン層
上記した例示において、無機蒸着層はアルミニウムの蒸着層および/または酸化アルミニウムの蒸着層であることが好ましい。上記した例示において、水酸基含有ポリマー層はエチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましい。上記した例示において、ポリオレフィン層はポリエチレンフィルム、またはポリプロピレンフィルムであることが好ましい。上記した例示において、ポリエステル層はPETフィルムであることが好ましい。また、上記した例示において、ポリアミド層はナイロンフィルムであることが好ましい。
【0090】
[多層構造体の製造方法]
本発明の多層構造体について説明した事項は本発明の製造方法に適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。また、本発明の製造方法について説明した事項は、本発明の多層構造体に適用できる。
【0091】
本発明の多層構造体の製造方法としては、例えば、金属酸化物(A)と無機リン化合物(BI)と溶媒とを含むコーティング液(S)を基材(X)上に塗工した後溶媒を除去し層(Y)前駆体層を形成する工程(I)と、金属化合物(R)、樹脂(W)及び溶媒を含むコーティング液(T)を前記層(Y)前駆体層上に塗工した後、溶媒を除去し層(Z)前駆体層を形成する工程(II)と、層(Y)前駆体層及び層(Z)前駆体層を熱処理して層(Y)及び層(Z)を形成する工程(III)とを含む製造方法が挙げられる。また、層(Y)に重合体(F)を含む多層構造体を製造する場合、コーティング液(S)に重合体(F)を含ませても、コーティング液(T)に重合体(F)を含ませてもよい。
【0092】
[工程(I)]
工程(I)では、金属酸化物(A)と無機リン化合物(BI)と溶媒とを含むコーティング液(S)を基材(X)上に塗工した後、溶媒を除去し層(Y)前駆体層を形成する。コーティング液(S)は、金属酸化物(A)、無機リン化合物(BI)および溶媒を混合することで得られる。
【0093】
コーティング液(S)を調整する具体的手段としては、金属酸化物(A)の分散液と、無機リン化合物(BI)を含む溶液とを混合する方法;金属酸化物(A)の分散液に無機リン化合物(BI)を添加し、混合する方法等が挙げられる。これらの混合時の温度は、50℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、20℃以下がさらに好ましい。コーティング液(S)は、他の化合物(例えば、重合体(F))を含んでいてもよく、必要に応じて、酢酸、塩酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、およびトリクロロ酢酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化合物(Q)を含んでいてもよい。
【0094】
金属酸化物(A)の分散液は、例えば、公知のゾルゲル法で採用されている手法に従い、例えば、化合物(E)、水、および必要に応じて酸触媒や有機溶媒を混合し、化合物(E)を縮合または加水分解縮合することによって調製できる。化合物(E)を縮合または加水分解縮合することによって金属酸化物(A)の分散液を得た場合、必要に応じて、得られた分散液に対して特定の処理(前記酸化合物(Q)の存在下の解膠等)を行ってもよい。金属酸化物(A)の分散液の調製に使用する溶媒は特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;水;またはこれらの混合溶媒が好ましい。
【0095】
無機リン化合物(BI)を含む溶液に用いる溶媒としては、無機リン化合物(BI)の種類に応じて適宜選択すればよいが、水を含むことが好ましい。無機リン化合物(BI)の溶解の妨げにならない限り、溶媒は有機溶媒(例えば、メタノール等のアルコール類)を含んでいてもよい。
【0096】
コーティング液(S)の固形分濃度は、該コーティング液の保存安定性および基材に対する塗工性の観点から1~20質量%が好ましく、2~15質量%がより好ましく、3~10質量%がさらに好ましい。前記固形分濃度は、例えば、コーティング液(S)の溶媒留去後に残存した固形分の質量を、処理に供したコーティング液(S)の質量で除して算出できる。
【0097】
コーティング液(S)は、ブルックフィールド型回転粘度計(SB型粘度計:ローターNo.3、回転速度60rpm)で測定された粘度が、塗工時の温度において3000mPa・s以下であることが好ましく、2500mPa・s以下であることがより好ましく、2000mPa・s以下であることがさらに好ましい。当該粘度が3000mPa・s以下であることによって、コーティング液(S)のレベリング性が向上し、外観により優れる多層構造体を得ることができる。また、コーティング液(S)の粘度としては、50mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましく、200mPa・s以上がさらに好ましい。
【0098】
コーティング液(S)において、アルミニウム原子とリン原子とのモル比は、アルミニウム原子:リン原子=1.0:1.0~3.6:1.0の範囲にあることが好ましく、1.1:1.0~3.0:1.0の範囲にあることがより好ましく、1.11:1.00~1.50:1.00の範囲にあることが特に好ましい。アルミニウム原子とリン原子とのモル比は、コーティング液(S)の乾固物の蛍光X線分析を行い、算出できる。
【0099】
コーティング液(S)の塗工は、特に限定されず、公知の方法を採用できる。塗工方法としては、例えば、キャスト法、ディッピング法、ロールコーティング法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キスコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法、バーコート法等が挙げられる。
【0100】
コーティング液(S)塗工後の溶媒の除去方法(乾燥処理)に特に制限はなく、公知の乾燥方法を適用できる。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等が挙げられる。
【0101】
乾燥温度は、基材(X)の流動開始温度より低いことが好ましい。コーティング液(S)の塗工後の乾燥温度は、例えば、60~180℃程度であってもよく、60℃以上140℃未満がより好ましく、70℃以上130℃未満がさらに好ましく、80℃以上120℃未満が特に好ましい。乾燥時間は、特に限定されないが、1秒以上1時間未満が好ましく、5秒以上15分未満がより好ましく、5秒以上300秒未満がさらに好ましい。特に、乾燥温度が100℃以上の場合(例えば、100~140℃)は、乾燥時間は1秒以上4分未満が好ましく、5秒以上4分未満がより好ましく、5秒以上3分未満がさらに好ましい。乾燥温度が100℃を下回る場合は(例えば、60~99℃)、乾燥時間は3分以上1時間未満が好ましく、6分以上30分未満がより好ましく、8分以上25分未満がさらに好ましい。コーティング液(S)の乾燥処理条件が上記範囲にあると、より良好なガスバリア性を有する多層構造体が得られる傾向となる。上記乾燥を経て溶媒が除去されることで、層(Y)前駆体層が形成される。
【0102】
[工程(II)]
工程(II)では、金属化合物(R)、樹脂(W)及び溶媒を含むコーティング液(T)を工程(I)で得られた層(Y)前駆体層上に塗工後、溶媒を除去し層(Z)前駆体を形成する。
【0103】
コーティング液(T)は、例えば、樹脂(W)及び溶媒を含む液に金属化合物(R)及び溶媒を含む液を添加する方法や、金属化合物(R)に溶媒を加え、その後酸触媒と水を添加して公知のゾルゲル法により加水分解縮合を行い、加水分解縮合物を形成した後、樹脂(W)および溶媒を含む溶液に添加する方法により調製できる。コーティング液(T)に用いる溶媒としては、特に限定はされないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;水;またはこれらの混合溶媒が好ましい。
【0104】
加水分解縮合を伴う場合の酸触媒としては、公知の酸を使用でき、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、p-トルエンスルホン酸、安息香酸、酢酸、乳酸、酪酸、炭酸、シュウ酸、マレイン酸等を使用できる。これらの中でも塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、乳酸、および酪酸が特に好ましい。酸触媒の好ましい使用量は、使用する酸の種類によって異なるが、金属化合物(R)の金属原子1モルに対して、1×10-5~10モルの範囲にあることが好ましく、1×10-4~5モルの範囲にあることがより好ましく、5×10-4~1モルの範囲にあることがさらに好ましい。
【0105】
加水分解縮合を伴う場合の水の好ましい使用量は、使用される金属化合物(R)の種類によって異なるが、工程(II)で使用される金属化合物(R)の加水分解可能な特性基1モルに対して、0.05~10モルの範囲にあることが好ましく、0.1~5モルの範囲にあることがより好ましく、0.2~3モルの範囲にあることがさらに好ましい。
【0106】
工程(II)のコーティング液(T)の調製において、温度は特に限定されず、通常2~100℃の範囲内であり、好ましくは4~60℃の範囲内であり、より好ましくは5~40℃の範囲内である。時間は樹脂(W)、金属化合物(R)、溶媒の量や種類、さらに加水分解縮合を伴う場合は反応条件(酸触媒の量や種類等)に応じて相違するが、通常、0.01~60時間の範囲内であり、好ましくは0.1~12時間の範囲内であり、より好ましくは0.1~6時間の範囲内である。また、調製は、空気、二酸化炭素、窒素、アルゴン等の各種気体の雰囲気下で実施できる。
【0107】
コーティング液(T)の固形分濃度は、該コーティング液の保存安定性および基材に対する塗工性の観点から、0.01~10質量%が好ましく、0.05~7質量%がより好ましく、0.1~5質量%がさらに好ましい。前記固形分濃度は、例えば、コーティング液(T)の溶媒留去後に残存した固形分の質量を、処理に供したコーティング液(T)の質量で除して算出できる。
【0108】
コーティング液(T)の塗工は、特に限定されず、公知の方法を採用できる。塗工方法としては、例えば、キャスト法、ディッピング法、ロールコーティング法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キスコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法、バーコート法等が挙げられる。
【0109】
コーティング液(T)を層(Y)前駆体層上に塗工した後形成された層(Z)の厚さは、コーティング液(T)の固形分濃度もしくは塗工方法によって制御できる。例えば、グラビアコート法の場合、グラビアロールのセル容積を変えればよい。
【0110】
基材(X)上に塗工後のコーティング液(T)の溶媒の除去方法に特に制限はなく、公知の乾燥方法を適用できる。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等が挙げられる。
【0111】
[工程(III)]
工程(III)では、工程(II)で形成された層(Y)前駆体層及び層(Z)前駆体層を熱処理して層(Y)及び層(Z)を形成する。工程(III)では、反応生成物(D)が生成する反応及び金属化合物(R)と樹脂(W)との反応が進行する。該反応を充分に進行させるため、熱処理の温度は140℃以上が好ましく、170℃以上がより好ましく、180℃以上がさらに好ましく、190℃以上が特に好ましい。熱処理温度が低いと、充分な反応率を得るのにかかる時間が長くなり、生産性が低下する原因となる。熱処理の温度は、基材(X)の種類等によって異なるが、例えば、ポリアミド系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合には、熱処理の温度は270℃以下が好ましい。また、ポリエステル系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合には、熱処理の温度は240℃以下が好ましい。熱処理は、空気雰囲気下、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下等で実施してもよい。熱処理時間は、1秒~1時間が好ましく、1秒~15分がより好ましく、5~300秒がさらに好ましい。
【0112】
工程(III)は、第1熱処理工程(III-1)と第2熱処理工程(III-2)を含むことが好ましい。熱処理を2段階以上で行う場合、2段階目の熱処理(以下、第2熱処理)の温度は、1段階目の熱処理(以下、第1熱処理)の温度より高いことが好ましく、第1熱処理の温度より15℃以上高いことがより好ましく、20℃以上高いことがさらに好ましく、30℃以上高いことが特に好ましい。
【0113】
また、工程(III)の熱処理温度(2段階以上の熱処理の場合は、第1熱処理温度)は、良好な特性を有する多層構造体が得られる点から、工程(II)の乾燥温度より高いことが好ましく、30℃以上高いことが好ましく、50℃以上高いことがより好ましく、55℃以上高いことがさらに好ましく、60℃以上高いことが特に好ましい。
【0114】
工程(III)の熱処理を2段階以上で行う場合、第1熱処理の温度が140℃以上200℃未満であることが好ましく、かつ第2熱処理の温度が180℃以上270℃以下であることがより好ましく、第2熱処理の温度は第1熱処理温度よりも高いことが好ましく、15℃以上高いことがより好ましく、25℃以上高いことがさらに好ましい。特に、熱処理温度が200℃以上の場合、熱処理時間は0.1秒~10分が好ましく、0.5秒~5分がより好ましく、1秒~3分がさらに好ましい。熱処理温度が200℃を下回る場合は、熱処理時間は1秒~15分が好ましく、5秒~10分がより好ましく、10秒~5分がさらに好ましい。
【0115】
工程(II)は、コーティング液(T)を工程(III)で得た層(Y)または工程(III-1)後の層(Y)前駆体層上に塗工し、乾燥処理を経る工程(II’)であってもよい。工程(II’)を工程(III)の後に行う場合、工程(II’)の乾燥処理後に工程(III)と同様の条件にて熱処理を行うことが好ましい。また、工程(II’)を工程(III-1)の後に行う場合は、工程(II’)の乾燥処理後に工程(III-2)を行うことが好ましい。
【0116】
[用途]
本発明の多層構造体はバリア性が良好であるため、包装材料、電子デバイス保護シート、防湿シートの様々な用途に適用できる。また、耐屈曲性に優れる観点から、包装材料や真空包装袋(真空断熱体の外包材)として好適に用いられる。ここで、耐レトルト性に優れるということは、過酷条件にさらされても良好な外観およびガスバリア性を維持できる性能を有するとみなすことができる。したがって、過酷な外部環境下でも優れた性能(外観およびガスバリア性)を維持できる点からも真空断熱体の外包材に好適に用いられる。さらに、本発明の多層構造体は、電子デバイスの保護シートとしても好適に用いられる。
【0117】
[包装材]
本発明の包装材は、本発明の多層構造体のみによって構成されてもよく、本発明の多層構造体と他の部材とによって構成されてもよい。例えば、包装袋の面積の50%~100%が、多層構造体によって構成されていてもよい。包装材が包装袋以外のもの(例えば、容器、蓋材)である場合も同様である。本発明の好ましい実施形態による包装材は、無機ガス(例えば、水素、ヘリウム、窒素、酸素、二酸化炭素)、天然ガス、水蒸気および常温常圧で液体状の有機化合物(例えば、エタノール、ガソリン蒸気)に対するバリア性を有する。
【0118】
本発明の包装材は、様々な方法で作製できる。例えば、シート状の多層構造体または該多層構造体を含むフィルム材(以下、単に「フィルム材」という)を接合して所定の容器の形状に成形することによって、容器(包装材)を作製してもよい。成形方法は、熱成形、射出成形、押出ブロー成形等が挙げられる。また、所定の容器の形状に成形された基材(X)の上に層(Z)および層(Y)を形成することによって、容器(包装材)を作製してもよい。
【0119】
本発明による包装材は、食品用包装材として好ましく用いられる。また、本発明による包装材は、食品用包装材以外にも、農薬、医薬等の薬品;医療器材;機械部品、精密材料等の産業資材;衣料等を包装するための包装材として好ましく使用できる。
【0120】
本発明の包装材を用いた製品としては、例えば、縦製袋充填シール袋、真空包装袋、パウチ、ラミネートチューブ容器、輸液バッグ、容器用蓋材、紙容器、ストリップテープ、インモールドラベル容器または真空断熱体等が挙げられる。
【0121】
縦製袋充填シール袋は、本発明の多層構造体(フィルム材)を縦型製袋充填機(縦型製袋充填包装機などとも呼ばれる)により製袋して得られる袋である。縦型製袋充填機は、例えば、供給されたフィルム材を相対する面が形成されるように保持しながらその側部および底部をシール(接合)して上方が開口した袋を形成し、内容物を袋の上方から供給してその内部に充填する。引き続き、縦型製袋充填機は、袋の上部をシールしてからその上方を切断し、縦製袋充填シール袋として排出する。
【0122】
真空包装袋は、本発明の多層構造体を用いて製袋して得られた袋の内部が減圧された状態で使用される袋である。袋内部が減圧されているため、真空包装袋では、通常、袋内部と袋外部とを隔てるフィルム材が袋に収容される内容物に接するように変形している。内容物は、典型的には、軸付きコーン(とうもろこし)、豆類、筍、芋、栗、茶葉、肉、魚、菓子等の食品であるか、真空断熱体として使用するために芯材を含む場合がある。
【0123】
パウチは、内容物を収容する内部と外部とを隔てる隔壁として本発明の多層構造体(フィルム材)を備えた容器である。パウチは、液状またはスラリー状である内容物の収容に適しているが、固形の内容物の収容にも使用できる。内容物は、典型的には、飲料、調味料、流動食その他の食品、および洗剤、液体石鹸その他の日用品である。
【0124】
ラミネートチューブ容器は、容器の内部と外部とを隔てる隔壁として本発明の多層構造体(ラミネートフィルム)を備えた胴体部と、容器の内部に収容された内容物を取り出すための注出部と、を備えている。ラミネートチューブ容器の胴体部は、例えば、一方の端部が閉じた筒状形状を有し、他方の端部側に注出部が配置されている。
【0125】
輸液バッグは、アミノ酸輸液剤、電解質輸液剤、糖質輸液剤、輸液用脂肪乳剤などの輸液類を内容物として収容するためのバッグ(袋)である。輸液バッグは、内容物を収容するバッグ本体に加え、口栓部材を備えていてもよい。また、輸液バッグは、バッグを吊り下げるための吊り下げ孔を備えていてもよい。輸液バッグでは、輸液を収容するための内部と外部とを隔てるフィルム材が本発明の多層構造体を備えている。
【0126】
容器用蓋材は、容器本体と組み合わされて容器を形成した状態で容器の内部と容器の外部とを隔てる隔壁の一部として機能するフィルム材(本発明の多層構造体)を備えている。容器用蓋材は、ヒートシール、接着剤を用いた接合(シール)などにより、容器本体の開口部を封止するように容器本体と組み合わされ、内部に密閉された空間を有する容器(蓋付き容器)を形成する。容器用蓋材は、通常、その周縁部において容器本体と接合される。この場合、周縁部に囲まれた中央部が容器の内部空間に面することになる。容器本体は、例えば、カップ状、トレー状、その他の形状を有する成形体であり、容器用蓋材をシールするためのフランジ部、壁面部などを備えている。
【0127】
紙容器は、内容物を収容する内部と外部とを隔てる隔壁が紙層を含む容器である。紙容器は、例えば、ゲーブルトップ型、ブリック型などの形状を有する。これらの形状は、紙容器に自立するための底壁部を備えている。
【0128】
真空断熱体は、真空包装袋と、真空包装袋により囲まれた内部に配置された芯材とを備え、芯材が配置された内部が減圧された断熱体である。芯材としては、例えば、パーライト粉末などの粉末、ガラスウールなどの繊維材、ウレタンフォームなどの樹脂発泡体、中空容器、ハニカム構造体などを使用できる。真空断熱体では、隔壁として機能する真空包装袋が多層構造体を備えている。
【0129】
真空断熱体に好適な多層構造体の層構成としては、例えば下記が挙げられる。
(1)ポリオレフィン層/エチレンービニルアルコール共重合体層/無機蒸着層/ポリアミド層/層(Z)/層(Y)/ポリエステル層
(2)ポリオレフィン層/無機蒸着層/ポリエステル層/無機蒸着層/ポリエステル層/層(Z)/層(Y)/ポリエステル層
(3)ポリオレフィン層/エチレンービニルアルコール共重合体層/無機蒸着層/層(Z)/層(Y)/ポリエステル層/層(Z)/層(Y)/ポリエステル層
(4)ポリオレフィン層/無機蒸着層/ポリエステル層/層(Z)/層(Y)/ポリエステル層/層(Z)/層(Y)/ポリエステル層
(5)ポリオレフィン層/ポリアミド層/無機蒸着層/ポリエステル層/層(Z)/層(Y)/ポリエステル層
(6)ポリオレフィン層/エチレンービニルアルコール共重合体層/無機蒸着層/無機蒸着層/ポリエステル層/層(Z)/層(Y)/ポリエステル層
無機蒸着層と組み合わせることで、ガスバリア性が向上し、熱伝導率の低下を抑制することができる。また、上記ポリオレフィン層をエチレンービニルアルコール共重合体層に変更してもよく、エチレンービニルアルコール共重合体層に変更することで高温での熱伝導率の低下の抑制効果がある。上記層構成を真空断熱体用の外包材として使用する場合、ポリオレフィン層側が内層(ヒートシール層)、ポリエステル層側が外層とすることが好ましい。上述した層構成により、内層側の長期使用による水蒸気等の外気による劣化を抑制できる傾向となるため好ましい。また、上述した層構成で使用できる材料としては、特に限定されないが、本願実施例に記載される樹脂やフィルムを好適に使用できる。
【0130】
上記成形品(たとえば縦製袋充填シール袋など)では、ヒートシールが行われることがある。ヒートシールが行われる場合には、通常、成形品の内側となる側、あるいは成形品の内側となる側および外側となる側の両方に、ヒートシール可能な層を配置することが必要である。ヒートシール可能な層が、成形品(袋)の内側となる側にのみある場合は、通常、胴体部のシールは合掌貼りシールとなる。ヒートシール可能な層が、成形品の内側となる側および外側となる側の両方にある場合は、通常、胴体部のシールは封筒貼りシールとなる。ヒートシール可能な層としては、ポリオレフィン層が好ましい。
【0131】
本発明の電子デバイスの保護シートは、本発明の多層構造体を含み、本発明の多層構造体のみによって構成されてもよい。電子デバイスの保護シートは、電子デバイスを外部環境から保護する目的で使用されるものであり、例えば、電子デバイス本体の表面を覆うように封止する封止材の表面に、本発明の保護シートを配置することができる。すなわち、本発明の保護シートは、通常封止材を介して電子デバイス本体の表面に配置される。電子デバイス本体としては特に限定されず、例えば、光電変換装置、情報表示装置、または照明装置等が挙げられる。
【0132】
本発明の電子デバイスの保護シートは、例えば、多層構造体の一方の表面または両方の表面に配置された表面保護層を含んでもよい。表面保護層としては、傷がつきにくい樹脂からなる層が好ましい。また、太陽電池のように室外で利用されることがあるデバイスの表面保護層は、耐候性(例えば、耐光性)が高い樹脂からなることが好ましい。また、光を透過させる必要がある面を保護する場合には、透光性が高い表面保護層が好ましい。表面保護層(表面保護フィルム)の材料としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が挙げられる。保護シートの一例は、一方の表面に配置されたポリ(メタ)アクリル酸エステル層を含む。
【0133】
表面保護層の耐久性を高めるために、表面保護層に各種の添加剤(例えば、紫外線吸収剤)を添加してもよい。耐候性が高い表面保護層の好ましい一例は、紫外線吸収剤が添加されたアクリル樹脂層である。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、ニッケル系、トリアジン系の紫外線吸収剤が挙げられるが、これらに限定されない。また、他の安定剤、光安定剤、酸化防止剤等を併用してもよい。
【0134】
また、本発明の多層構造体は、防湿シートとしても活用できる。例えば、化粧板用途では、室内のドアパネルなどに用いる化粧板の裏面に貼りあわせることで室内での温度や湿度の変化による吸湿・放湿などが原因で発生するそりを防止することができる。
【実施例
【0135】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されず、多くの変形が本発明の技術的思想の範囲内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。以下の実施例および比較例における分析および評価は以下のとおり行った。
【0136】
実施例および比較例で使用した材料を示す。
PET12:二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー(商標)P60」(商品名)、平均厚み12μm
ONY15:二軸延伸ナイロンフィルム;ユニチカ株式会社製、「エンブレム(商標)ONBC」(商品名)、平均厚み15μm
CPP50:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-22」(商品名)、平均厚み50μm
CPP100:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-22」(商品名)、平均厚み100μm
PET50:エチレン-酢酸ビニル共重合体との接着性を向上させたポリエチレンテレフタレートフィルム;東洋紡株式会社製、「シャインビーム(登録商標)Q1A15」(商品名)、平均厚み50μm
VM-XL:アルミ蒸着二軸延伸EVOHフィルム;株式会社クラレ製、「VM-XL」(商品名)、平均厚み12μm
LLDPE50:直鎖状低密度ポリエチレンフィルム;出光ユニテック株式会社製、「ユニラックスLS―760C」、平均厚み50μm
PVA60-98:ポリビニルアルコール;株式会社クラレ製「クラレポバール(登録商標)60-98」(商品名)ケン化度:98.0~99.0モル%、粘度(4%、20℃):54.0~66.0mPa・s
PVA28-98:ポリビニルアルコール;株式会社クラレ製「クラレポバール(登録商標)28-98」(商品名)ケン化度:98.0~99.0モル%、粘度(4%、20℃):25.0~31.0mPa・s
GPTMOS:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン;信越化学工業株式会社製「LS―2940」(商品名)
TC-315:有機チタン化合物(チタンラクテート溶液);マツモトファインケミカル株式会社製「オルガチックス TC―315」(商品名):固形分濃度35~45%
TMOS:トリメトキシシラン;信越化学工業株式会社製「LS―540」(商品名)
NTMOS:3-アミノプロピルトリメトキシシラン;信越化学工業株式会社製「KBM-903」(商品名)
【0137】
[評価方法]
(1)層(Y)及び層(Z)の平均厚み測定
収束イオンビーム(FIB)を用いて実施例及び比較例で得られた多層構造体を切削し、断面観察用の切片を作製した。作製した切片を試料台座にカーボンテープで固定し、加速電圧30kVで30秒間白金イオンスパッタを65行った。電界放出形透過型電子顕微鏡を用いて多層構造体の断面を観察し、層(Y)及び層(Z)の平均厚みを算出した。測定条件は以下の通りとした。
装置:日本電子株式会社製JEM-2100F
加速電圧:200kV
倍率:250,000倍
【0138】
(2)多層構造体の酸素透過度の測定
実施例及び比較例で得られた多層構造体を、酸素透過量測定装置にキャリアガス側に基材が向くように取り付け、JIS K7126:2006に準拠して、等圧法により酸素透過度を測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:MOCON社製MOCON OX-TRAN2/21
温度:20℃
酸素供給側の湿度:85%RH
キャリアガス側の湿度:85%RH
キャリアガス流量:10mL/分
酸素圧:1.0atm
キャリアガス圧力:1.0atm
【0139】
(3)多層構造体の透湿度の測定
実施例及び比較例で得られた多層構造体を、水蒸気透過量測定装置にキャリアガス側に基材の層が向くように取り付け、JIS K7129B:2008に準拠して、等圧法により透湿度(水蒸気透過度)を測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:MOCON社製MOCON PERMATRAN W3/33
温度:40℃
水蒸気供給側の湿度:90%RH
キャリアガス側の湿度:0%RH
キャリアガス流量:50mL/分
【0140】
(4)屈曲処理後の酸素透過度及び透湿度の測定
実施例及び比較例で得られた多層構造体を210mm×297mm(A4サイズ)にカットし、ASTM F-392に準じて、ゲルボフレックステスター(理学工業株式会社製)により50サイクルの屈曲を施した。屈曲を施した多層構造体の中央部について、上記評価方法(2)及び(3)に記載の方法にしたがって、酸素透過度及び透湿度を測定した。
【0141】
(5)レトルト後外観評価
実施例及び比較例で得られた多層構造体を12mm×12mmのサイズにカットした。これを2枚作製し、CPP50側を重ね合わせ、3辺をヒートシールした。その後、水80mLをパウチ内に充填し、残り一辺をヒートシールした。続いて、得られたパウチに対して以下の条件でレトルト処理(熱水貯湯式)を行った。レトルト後のパウチについて全面にデラミネーションによる外観不良が生じていないものをA、一部にデラミネーションによる外観不良が生じたものをB、全面にデラミネーションによる外観不良が生じたものをCとした。
レトルト処理装置:株式会社日阪製作所製 フレーバーエースRSC-60
温度:120℃
時間:30分間
圧力:0.15MPaG
【0142】
(6)モル比MMR/MAlの算出
実施例及び比較例で得られた多層構造体0.5gを白金るつぼにサンプリングし、硫酸1mLと硝酸1mLを加えホットプレート、電熱器及び伝熱炉等を用いて灰化した。灰化後、四ホウ酸リチウム0.3gを加え、高周波溶融装置で融解した。融解後、硝酸10mLを5mLずつ2回に分けて入れ溶解した。溶解後、100mLに定量し、ICP発光分光分析により多層構造体中に含有する金属量を定量した。測定条件は以下の通りとした。
装置: サーモフィッシャーサイエンティフィック iCAP6500Duo
RFパワー:1150W
ポンプ流量:50rpm補助ガス流量(アルゴン):0.5L/分
キャリアガス流量(アルゴン):0.7L/分
クーラントガス:12L/分
基材(X)に含まれる金属量についても、上記多層構造体と同様の方法で定量した。本結果より、多層構造体に含有する金属量から基材(X)に含有する金属量を差し引くことで、層(Y)および層(Z)に含有する金属量を算出した。さらに、これらをモル数に換算し、単位面積当たりに層(Y)に含有するアルミニウム原子のモル数(MAl)に対する層(Z)を構成する金属原子(M)のモル数(MMR)のモル比MMR/MAlを算出した。
【0143】
(7)モル比MMR/Mの算出
実施例及び比較例で得られた多層構造体の層(Z)表面について、X線光電子分光分析(XPS)にて算出した。X線光電子分光分析(XPS)は、走査型X線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ株式会社製「PHI Quantera SXM」)を用いて分析した。1×10-6Paの真空中で、1000μm×1000μmの範囲を取り込み角90°で分析を行った。本結果より、層(Z)に含有する炭素原子のモル数(M)に対する層(Z)を構成する金属原子(M)のモル数(MMR)のモル比MMR/Mを算出した。なお、複合構造体の層(Z)の表層が汚染されている場合には、アルゴンスパッタリング処理を行い、層(Z)内部を分析対象とした。
【0144】
(8)赤外吸収スペクトルの測定
実施例及び比較例で得られた多層構造体の層(Y)側(基材(X)と反対側)について、フーリエ変換赤外分光光度計を用い、減衰全反射法で測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:パーキンエルマー株式会社製Spectrum One
測定モード:減衰全反射法
測定領域:800~1400cm-1
【0145】
<コーティング液(S-1)の製造例>
蒸留水230質量部を撹拌しながら70℃に昇温した。その蒸留水に、トリイソプロポキシアルミニウム88質量部を1時間かけて滴下し、液温を徐々に95℃まで上昇させ、発生するイソプロパノールを留出させることによって加水分解縮合を行った。得られた液体に、60質量%の硝酸水溶液4.0質量部を添加し、95℃で3時間撹拌することによって加水分解縮合物の粒子の凝集体を解膠させた。その後、その液体を、固形分濃度が酸化アルミニウム換算で10質量%になるように濃縮し、溶液を得た。こうして得られた溶液22.50質量部に対して、蒸留水54.29質量部およびメタノール18.80質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液を得た。続いて、液温を15℃に維持した状態で分散液を撹拌しながら85質量%のリン酸水溶液4.41質量部を滴下して加えた。さらに、メタノール溶液18.80質量部を滴下して加え、粘度が1,500mPa・sになるまで15℃で撹拌を続け、目的のコーティング液(S-1)を得た。該コーティング液(S-1)における、アルミニウム原子とリン原子とのモル比は、アルミニウム原子:リン原子=1.15:1.00であった。
【0146】

<コーティング液(T-1)の製造例>
GPTMOS45.45質量部をメタノール45.45質量部に溶解しGPTMOSメタノール溶液を調製した。このGPTMOSメタノール溶液の温度を10℃以下に維持しながら、0.2規定の塩酸9.10質量部を加え、撹拌しながら10℃で30分間、加水分解および縮合反応を行うことで溶液(T-1-1)を得た。続いて、5wt%のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製「PVA60-98」)水溶液51.48質量部を蒸留水28.93質量部とメタノール19.36質量部で希釈した後、撹拌しながら溶液(T-1-1)0.23質量部を加え室温で30分撹拌することで、固形分濃度2.6%のコーティング液(T-1)を得た。
【0147】

<コーティング液(T-2)~(T-4)、(CT-3)~(CT-4)の製造例>
水酸基含有樹脂(W)の種類、金属化合物(R)の種類およびモル比MMR/Mを表1の通りとなるように変更した以外はコーティング液(T-1)の調製と同様にして、コーティング液(T-2)~(T-4)、(CT-3)~(CT-4)を得た。
【0148】

<コーティング液(T-5)の製造例>
5wt%のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製「PVA60-98」)水溶液52.00質量部を蒸留水28.44質量部とメタノール19.46質量部で希釈した後、撹拌しながら有機チタン化合物TC-315を0.15質量部加え室温で30分撹拌することで、固形分濃度2.6%のコーティング液(T-5)を得た。
【0149】

<コーティング液(T-6)~(T-9)、(CT-5)~(CT-6)の製造例>
水酸基含有樹脂(W)の種類、金属化合物(R)の種類およびモル比(MMR/M)を表1のとおりに変更した以外はコーティング液(T-5)の調製と同様にして、コーティング液(T-6)~(T-9)、(CT-5)~(CT-6)を得た。
【0150】
<コーティング液(T-10)の製造例>

TMOS44.83質量部をメタノール44.83質量部に溶解しTMOSメタノール溶液を調製した。このTMOSメタノール溶液の温度を10℃以下に維持しながら、0.2規定の塩酸10.34質量部を加え、撹拌しながら10℃で30分間、加水分解および縮合反応を行うことで溶液(T-10-1)を得た。続いて、5wt%のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製「PVA60-98」)水溶液51.47質量部を蒸留水28.97質量部とメタノール19.41質量部で希釈した後、撹拌しながら溶液(T-10-1)0.15質量部を加え室温で30分撹拌することで、固形分濃度2.6%のコーティング液(T-10)を得た。
【0151】
<コーティング液(T-11)の製造例>

NTMOS44.44質量部をメタノール44.44質量部に溶解しNTMOSメタノール溶液を調製した。このNTMOSメタノール溶液の温度を10℃以下に維持しながら、0.2規定の塩酸11.12質量部を加え、撹拌しながら10℃で30分間、加水分解および縮合反応を行うことで溶液(T-11-1)を得た。続いて、5wt%のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製「PVA60-98」)水溶液51.73質量部を蒸留水28.74質量部とメタノール19.44質量部で希釈した後、撹拌しながら溶液(T-11-1)0.18質量部を加え室温で30分撹拌することで、固形分濃度2.6%のコーティング液(T-11)を得た。
【0152】

<コーティング液(CT-1)の製造例>
5wt%のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製「PVA60-98」)水溶液52.00質量部を蒸留水28.44質量部とメタノール19.46質量部で希釈した後、室温で30分撹拌することで、固形分濃度2.6%のコーティング液(CT-1)を得た。
【0153】

<コーティング液(CT-2)の製造例>
水酸基含有樹脂(W)の種類を表1の通りとなるように変更した以外はコーティング液(CT-1)の調製と同様にして、コーティング液(CT-2)を得た。
【0154】

<コーティング液(CT-7)製造例>
テトラメトキシシラン(TMOS)4.82質量部をメタノール4.82質量部に溶解しTMOSメタノール溶液を調製した。このTMOSメタノール溶液の温度を10℃以下に維持しながら、0.2規定の塩酸1.11質量部を加え、撹拌しながら10℃で30分間、加水分解および縮合反応を行った。続いて、蒸留水52.58質量部で希釈した後、撹拌しながら5%のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製「PVA60-98」)水溶液13.00質量部、メタノール23.49質量部、GPTMOS0.19質量部を順に添加し、室温で30分撹拌することで、固形分濃度2.6%のコーティング液(CT-7)を得た。
【0155】
[実施例1]
<実施例1-1>
基材(X)として、PET12(基材(X-1))を準備した。この基材上に、乾燥後の平均厚みが0.3μmとなるようにバーコーターを用いてコーティング液(S-1)を塗工した。塗工後のフィルムを、120℃で3分間乾燥後、180℃で1分間熱処理して、基材上に層(Y-1)の前駆体層を形成した。次いで、乾燥後の平均厚みが0.2μmとなるようにバーコーターを用いてコーティング液(T-1)を塗工し、120℃で3分間乾燥後、210℃で1分間熱処理した。このようにして、基材(X-1)/層(Y-1)/層(Z-1)という構造を有する多層構造体(1-1-1)を得た。得られた多層構造体(1-1-1)について、上記評価方法(1)、(6)及び(7)に記載の方法に従って、層(Y)及び層(Z)の平均厚み測定、モル比MMR/MAlの算出およびモル比MMR/Mの算出を行った。結果を表1に示す。また、得られた多層構造体(1-1-1)について、上記評価方法(8)に記載の方法に従って赤外吸収スペクトルを測定した結果、800~1400cm-1の領域における最大吸収波数が1108cm-1であった。
【0156】
得られた多層構造体(1-1-1)上に接着層を形成し、該接着層上にONY15をラミネートすることによって積層体を得た。次に、該積層体のONY15上に接着層を形成した後、該接着層上にCPP50をラミネートし、40℃で3日間静置してエージングした。このようにして、基材(X-1)/層(Y-1)/層(Z-1)/接着層/ONY15/接着層/CPP50という構造を有する多層構造体(1-1-2)を得た。前記2つの接着層はそれぞれ、乾燥後の平均厚みが3μmとなるようにバーコーターを用いて2液型接着剤を塗工し、乾燥させることによって形成した。2液型接着剤には、三井化学株式会社製の「タケラック」(登録商標)の「A-525S」(銘柄)と三井化学株式会社製の「タケネート」(登録商標)の「A-50」(銘柄)とからなる2液反応型ポリウレタン系接着剤を用いた。
【0157】

多層構造体(1-1-2)について、前記評価方法(2)~(5)に記載の方法に従って、酸素透過度、透湿度、屈曲処理後の酸素透過度及び透湿度、並びにレトルト処理後の外観評価を行った。結果を表1に示す。
【0158】
<実施例1-2~1-17、比較例1-1~1-10>
コーティング液(T)の種類、層(Z)の平均厚みを表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1-1と同様の方法により多層構造体(1-2-1)~(1-17-1)、(C1-1-1)~(C1-10-1)及び多層構造体(1-2-2)~(1-17-2)、(C1-1-2)~(C1-10-2)を作製し、評価した。結果を表1に示す。また、得られた多層構造体(1-2-1)~(1-17-1)、(C1-1-1)~(C1-10-1)について、上記評価方法(8)に記載の方法に従って赤外吸収スペクトルを測定した結果、800~1400cm-1の領域における最大吸収波数が1108cm-1であった。
【0159】
<比較例1-11>
基材(X)として、PET12(基材(X-1))を準備した。この基材(X-1)上にアルミニウムを蒸着源とし、PVD法により、0.08μmのアルミニウム蒸着層を形成し、アルミニウム蒸着フィルムを得た。得られたアルミニウム蒸着層上に層(Z)を積層したこと以外は実施例1-1と同様の方法により多層構造体(C1-11-1)および(C1-11-2)を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0160】
<比較例1-12>
基材(X)として、PET12(基材(X-1))を準備した。この基材(X-1)上に酸化アルミニウムを蒸着源とし、PVD法により、0.04μmの酸化アルミニウム蒸着層を形成し、酸化アルミニウム蒸着フィルムを得た。得られた酸化アルミニウム蒸着層上に層(Z)を積層したこと以外は実施例1-1と同様の方法により多層構造体(C1-12-1)および(C1-12-2)を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0161】
【表1】
【0162】
[実施例2]平パウチ
<実施例2-1>
実施例1-1で作製した多層構造体(1-1-2)を幅120mm×120mmに裁断し、CPP層が内側になるように2枚の多層構造体を重ね合わせ、長方形の3辺をヒートシールすることによって平パウチ(2-1-1)を形成した。その平パウチに水100mLを充填した。得られた平パウチに対して、実施例1-1と同一の条件でレトルト処理(熱水貯湯式)を行った結果、破袋および層間剥離の発生がなく良好な外観を保持した。
【0163】
[実施例3]輸液バッグ
<実施例3-1>
実施例1-1で作製した多層構造体(1-1-2)から、120mm×100mmの多層構造体を2枚切り出した。続いて、切り出した2枚の多層構造体を、CPP層が内側になるように重ね合わせ、周縁をヒートシールするとともに、ポリプロピレン製のスパウト(口栓部材)をヒートシールによって取り付けて、輸液バッグ(3-1-1)を作製した。輸液バッグ(3-1-1)に水100mLを充填し、実施例1-1と同一の条件でレトルト処理(熱水貯湯式)を行った結果、破袋および層間剥離の発生がなく良好な外観を保持した。
【0164】
[実施例4]容器用蓋材
<実施例4-1>
実施例1-1で作製した多層構造体(1-1-2)から、直径100mmの円形の多層構造体を切り取り、容器用の蓋材とした。また、容器本体として、フランジ付きの容器(東洋製罐株式会社製、「ハイレトフレックス」(登録商標)、「HR78-84」(商品名))を準備した。この容器は、上面の直径が78mmで高さが30mmのカップ形状を有する。容器の上面は解放されており、その周縁に形成されたフランジ部の幅は6.5mmである。容器は、オレフィン層/スチール層/オレフィン層の3層の積層体によって構成されている。次に、上記容器本体に水をほぼ満杯に充填し、蓋材をフランジ部にヒートシールして、蓋付き容器(4-1-1)を得た。このとき、蓋材のCPP層がフランジ部に接触するように配置して蓋材をヒートシールした。蓋付き容器(4-1-1)を、実施例1-1と同一の条件でレトルト処理(熱水貯湯式)を行った結果、容器の破損および層間剥離の発生がなく良好な外観を保持した。
【0165】
[実施例5]インモールドラベル容器
<実施例5-1>
2枚のCPP100のそれぞれに、乾燥後の厚さが3μmとなるようにバーコーターを用いて2液型接着剤を塗工して乾燥させた。2液型接着剤には、三井化学株式会社製の「タケラック」(登録商標)の「A-525S」と三井化学株式会社製の「タケネート」(登録商標)の「A-50」とからなる2液反応型ポリウレタン系接着剤を用いた。次に、2枚のCPP100と実施例1-1の多層構造体(1-1-1)とをラミネートし、40℃で3日間静置してエージングして、CPP100/接着層/基材(X-1)/層(Y-1)/層(Z-1)/接着層/CPP100という構造を有する多層ラベル(5-1-1)を得た。
【0166】
多層ラベル(5-1-1)を容器成形型のメス型部の内壁表面の形状にあわせて切断し、メス型部の内壁表面に取り付けた。次に、オス型部をメス型部に押し込んだ。次に、溶融させたポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製の「ノバテック」(登録商標)の「EA7A」)をオス型部とメス型部との間のキャビティに220℃で注入して、射出成形を実施し、目的の容器(5-1-2)を成形した。容器本体の厚さは700μmであり、表面積は83cmであった。容器の外側全体が多層ラベル(5-1-1)で覆われ、つなぎ目は多層ラベル(5-1-1)が重なり、多層ラベル(5-1-1)が容器の外側を覆わない箇所はなかった。容器(5-1-2)の外観は良好であった。
【0167】
[実施例6]押出しコートラミネート
<実施例6-1>
実施例1-1において多層構造体(1-1-1)上の層(Z-1)上に接着層を形成した後、ポリエチレン樹脂(密度;0.917g/cm、メルトフローレート;8g/10分)を厚さが20μmになるように該接着層上に295℃で押出しコートラミネートして、基材(X―1)/層(Y-1)/層(Z-1)/接着層/ポリエチレンという構造を有するラミネート体(6-1-1)を得た。上記の接着層は、乾燥後の厚さが0.3μmとなるようにバーコーターを用いて2液型接着剤を塗工し、乾燥させることによって形成した。この2液型接着剤には、三井化学株式会社製の「タケラック」(登録商標)の「A-3210」と三井化学株式会社製の「タケネート」(登録商標)の「A-3070」とからなる2液反応型ポリウレタン系接着剤を用いた。ラミネート体(6-1-1)を、実施例1-1と同一の条件でレトルト処理(熱水貯湯式)を行った結果、層間剥離の発生がなく良好な外観を保持した。
【0168】
[実施例7]充填物の影響
<実施例7-1>
実施例2-1で作製した平パウチ(2-1-1)に1.5%エタノール水溶液500mLを充填し、レトルト処理装置(株式会社日阪製作所製、フレーバーエースRCS-60)を使用して、120℃、2.5atmで30分間熱水中においてレトルト処理を行った結果、層間剥離の発生がなく良好な外観を保持した。
【0169】
<実施例7-2~7-9>
1.5%エタノール水溶液500mLの代わりに他の充填物500mLを平パウチ(2-1-1)に充填したことを除き、実施例7-1と同様にレトルト処理を行った。そして、レトルト処理後の平パウチから測定用サンプルを切り出し、該サンプルの酸素透過度を測定した。他の充填物としては、1.0%エタノール水溶液(実施例7-2)、食酢(実施例7-3)、pH2のクエン酸水溶液(実施例7-4)、食用油(実施例7-5)、ケチャップ(実施例7-6)、醤油(実施例7-7)、しょうがペースト(実施例7-8)を用いた。いずれの場合も、レトルト処理後のサンプルの酸素透過度は、0.2mL/(m・day・atm)であった。さらに、実施例4-1で作製した蓋付き容器(4-1-1)にみかんシロップをほぼ満杯に充填し、実施例7-1と同様にレトルト処理を行った(実施例7-9)。レトルト処理後は層間剥離の発生がなく良好な外観を保持した。
【0170】
実施例7-1~7-9から明らかなように、本発明の包装材は、様々な食品を充填した状態でレトルト処理を行った後でも、良好な外観を保持した。
【0171】
[実施例8]真空断熱体
<実施例8-1>
CPP50上に、実施例5-1で用いた2液型接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。このCPP50と実施例1-1で作製した多層構造体(1-1-1)のPET層とを貼り合せることによって積層体(8-1-1)を得た。続いて、ONY15の上に、前記2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。そして、このONY15と積層体(8-1-1)とを貼り合わせることによって、CPP50/接着層/基材(X)/層(Y)/層(Z)/接着層/ONY15、という構造を有する多層構造体(8-1-2)を得た。
【0172】
多層構造体(8-1-2)を裁断し、サイズが700mm×300mmであるラミネート体を2枚得た。その2枚のラミネート体をCPP層同士が内面となるように重ね合わせ、3方を10mm幅でヒートシールして3方袋を作製した。次に、3方袋の開口部から断熱性の芯材を充填し、真空包装機を用いて20℃、内部圧力10Paの状態で3方袋を密封して、真空断熱体(8-1-3)を得た。断熱性の芯材にはシリカ微粉末を用いた。真空断熱体(8-1-3)を40℃、15%RHの条件下において360日間放置した後、ピラニー真空計を用いて真空断熱体の内部の圧力を測定した結果、37.0Paであった。
【0173】
<実施例8-2>
多層構造体(1-1-1)の層(Z)上に、実施例5-1で用いた2液型接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。この多層構造体(1-1-1)とONY15とを貼り合せることによって積層体(8-2-1)を得た。続いて積層体(8-2-1)のONY15上に前記2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。そして、この積層体(8-2-1)とVM―XLのアルミ蒸着面とを貼り合せることによって積層体(8-2-2)を得た。さらに、LLDPE50上に前記2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。そして、このLLDPE50と積層体(8-2-2)のVM―XL面を貼り合せることによって、基材(X)/層(Y)/層(Z)/接着層/ONY15/接着層/VM-XL/接着層/LLDPE50という構造を有する多層構造体(8-2-3)を得た。
【0174】
多層構造体(8-2-3)を裁断し、サイズが200mm×200mmであるラミネート体を2枚得た。その2枚のラミネート体をLLDPE50同士が内面となるように重ね合わせ、3方を10mm幅でヒートシールして3方袋を作製した。次に、3方袋の開口部から断熱性の芯材を充填し、真空包装機を用いて20℃、内部圧力10Paの状態で3方袋を密封して、真空断熱体(8-2-4)を得た。断熱性の芯材にはグラスファイバーを用いた。真空断熱体(8-2-4)を70℃、90%RHの条件下において2週間放置した前後で熱伝導率測定装置を用いて熱伝導率を測定した結果、放置した前後での熱伝導率差は4.4mW/mKであった。
【0175】
<実施例8-3>
多層構造体(1-1-1)の層(Z)上に、実施例5-1で用いた2液型接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。この多層構造体(1-1-1)と積層体(8-2-1)の基材(X)側を貼り合せることによって積層体(8-3-1)を得た。
続いて積層体(8-3-1)のONY15上に前記2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。そして、この積層体(8-3-1)とVM―XLのアルミ蒸着面とを貼り合せることによって積層体(8-3-2)を得た。さらに、LLDPE50上に前記2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。そして、このLLDPE50と積層体(8-3-2)のVM―XL面を貼り合せることによって、基材(X)/層(Y)/層(Z)/接着層/基材(X)/層(Y)/層(Z)/接着層/VM-XL/接着層/LLDPE50という構造を有する多層構造体(8-3-3)を得た。
【0176】
多層構造体(8-3-3)を裁断し、サイズが200mm×200mmであるラミネート体を2枚得た。その2枚のラミネート体をLLDPE50同士が内面となるように重ね合わせ、3方を10mm幅でヒートシールして3方袋を作製した。次に、3方袋の開口部から断熱性の芯材を充填し、真空包装機を用いて20℃、内部圧力10Paの状態で3方袋を密封して、真空断熱体(8-3-4)を得た。断熱性の芯材にはグラスファイバーを用いた。真空断熱体(8-3-4)を70℃、90%RHの条件下において2週間放置した前後で熱伝導率測定装置を用いて熱伝導率を測定した結果、放置した前後での熱伝導率差は3.6mW/mKであった。
【0177】
[実施例9]保護シート
<実施例9-1>
実施例1-1で作製した多層構造体(1-1-1)上に接着層を形成し、該接着層上にアクリル樹脂フィルム(厚さ50μm)をラミネートすることによって積層体を得た。続いて、該積層体の多層構造体(1-1-1)上に接着層を形成した後、PET50をラミネートして、PET/接着層/基材(X-1)/層(Y-1)/層(Z-1)/接着層/アクリル樹脂フィルム、という構成を有する保護シート(9-1-1)を得た。前記2つの接着層はそれぞれ、2液型接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって形成した。2液型接着剤には、三井化学株式会社製の「タケラック」(登録商標)の「A-1102」と三井化学株式会社製の「タケネート」(登録商標)の「A-3070」とからなる2液反応型ポリウレタン系接着剤を用いた。
【0178】
続いて、得られた保護シート(9-1-1)の耐久性試験として、恒温恒湿試験機を用いて、大気圧下、85℃、85%RHの雰囲気下に1000時間保護シートを保管する試験(ダンプヒート試験)を行った結果、保護シート(9-1-1)は層間剥離の発生がなく良好な外観を保持した。