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特許7442013診断装置、診断方法、半導体製造装置システム及び半導体装置製造システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】診断装置、診断方法、半導体製造装置システム及び半導体装置製造システム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20240222BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
H01L21/02 Z
G05B23/02 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023500380
(86)(22)【出願日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2022004679
(87)【国際公開番号】W WO2023148967
(87)【国際公開日】2023-08-10
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】梅田 祥太
(72)【発明者】
【氏名】角屋 誠浩
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 涼次
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/061842(WO,A1)
【文献】特開2012-009064(JP,A)
【文献】特開2010-283000(JP,A)
【文献】国際公開第2020/152889(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
G05B 23/02
H01L 21/3065
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品の劣化状態を示す劣化度を用いて半導体製造装置の部品の保守要否が診断される診断装置において、
取得されたセンサ波形が複数の成分に分離され、
前記半導体製造装置の部品の劣化兆候と関連する成分が前記分離された成の中から求められ
前記求められた成分を用いて演算された劣化度を基に前記半導体製造装置の部品の保守要否が診断されることを特徴とする診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の診断装置において、
前記センサ波形は、オフセット成分、トレンド成分およびノイズ成分に分離されることを特徴とする診断装置。
【請求項3】
請求項に記載の診断装置において、
前記分離された成分の中から求められた成分は、前記ノイズ成分であることを特徴とする診断装置。
【請求項4】
請求項1に記載の診断装置において、
前記求められた劣化度の時系列データがフィルタリング処理され、
前記フィルタリング処理された劣化度を用いて演算された分布を基に前記保守要否の診断に用いられる閾値が求められることを特徴とする診断装置。
【請求項5】
請求項1に記載の診断装置において、
正規分布またはマルコフ連鎖モンテカルロ法を用い前記劣化度を入力値とする機械学習により非正規分布が推定され、
前記正規分布または前記非正規分布との尤度を基に前記保守要否の診断に用いられる閾値が求められることを特徴とする診断装置。
【請求項6】
半導体製造装置がネットワークを介して接続され請求項1に記載された診断装置を備えることを特徴とする半導体製造装置システム。
【請求項7】
半導体製造装置がネットワークを介して接続され、部品の劣化状態を示す劣化度を用いて前記半導体製造装置の部品の保守要否を診断するためのアプリケーションが実装されたプラットフォームを備える半導体装置製造システムにおいて、
取得されたセンサ波形を複数の成分に分離するステップと、
前記半導体製造装置の部品の劣化兆候と関連する成分を前記分離された成の中から求めるステップと、
前記求められた成分を用いて演算された劣化度を基に前記半導体製造装置の部品の保守要否を診断するステップと、が前記アプリケーションにより実行されることを特徴とする半導体装置製造システム。
【請求項8】
部品の劣化状態を示す劣化度を用いて半導体製造装置の部品の保守要否を診断する診断方法において、
取得されたセンサ波形を複数の成分に分離する工程と、
前記半導体製造装置の部品の劣化兆候と関連する成分を前記分離された成の中から求める工程と、
前記求められた成分を用いて演算された劣化度を基に前記半導体製造装置の部品の保守要否を診断する工程と、を有することを特徴とする診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマにより半導体のウェハを加工するプラズマ処理装置の診断装置、診断方法、半導体製造装置システム及び半導体装置製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理装置は半導体のウェハ上に微細形状を形成するために、物質をプラズマ化し、その物質の作用によりウェハ上の物質を除去するプラズマ処理を行う装置である。プラズマ処理装置では、通常、ウェハの処理枚数等を目安にして定期的に装置内のクリーニングや部品の交換といった保守を行う。しかし、経年変化や使用方法に応じた反応副生成物の蓄積等に伴う部品の劣化により、計画外の保守作業が発生しうる。計画外保守による非稼働時間を削減するために、部品の劣化状態を逐次モニタリングして、その劣化状態に応じてクリーニングや部品交換等の早期対策することが求められる。
【0003】
このような早期対策を実現するために、プラズマ処理装置の診断装置では、プラズマ処理装置に付加した複数の状態センサからプラズマ処理毎に逐次取得した複数のセンサ項目から成る時系列信号であるセンサ波形データを用いて、部品の劣化状態を示す劣化度を推定し、劣化度に基づき保守要否を診断し、必要に応じてアラーム発報することが行われる。例えば、国際公開第2018/061842号(特許文献1)には、「異常検知装置は、観測値をまとめた要約値に対して統計モデリングを適用することにより、要約値からノイズを除去した状態を推測し、当該推測に基づき一期先の要約値を予測した予測値を生成する。異常検知装置は、予測値に基づき、監視対象装置の異常有無を検知する。」との記載がある。また、特開2012-9064号公報には「正確な異常検出と共に、実際的なプロセス監視に適切な異常診断性能を実現した学習型プロセス異常診断装置」との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/061842号
【文献】特開2012-9064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プラズマ処理装置の診断において先行技術では虚報あるいは見逃しが多発し得るため、診断結果に基づく効果的な対策が困難である。
【0006】
プラズマ処理装置では、プラズマ処理回数に応じて装置状態が変化しうるため、それに伴い例えばセンサ波形データもオフセット変化しうる。一方、部品劣化に伴い前記変化とは別にセンサ波形形状に変化を呈した場合、先行技術では部品劣化と関連するセンサ波形変化が関連のないセンサ波形変化に埋もれてしまい、劣化兆候を正確に捉えられず虚報あるいは見逃しが発生しうる。
【0007】
また、プラズマ処理装置では処理履歴の差異等に起因してセンサ波形データおよび本データから演算される劣化度に装置間差が生じうる。このため、複数装置で共通の閾値を用いて劣化診断する先行技術では虚報あるいは見逃しが発生しうる。さらに、プラズマ処理装置では処理間隔が短く、各処理におけるセンサ波形データの全てに対して劣化兆候が確認できるとは限らず、劣化兆候が断続的に出現する場合もある。このような場合に、劣化度の増大がノイズか否かの判断、すなわち劣化状態か否かの判断が困難である。処理毎に動的に閾値を設定する先行技術ではノイズの影響を受けやすく虚報が発生しうる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、例えば、請求の範囲に記載の構成を採用する。
【0009】
本発明は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、診断装置は、プラズマ処理装置群の保守対象部品の保守要否を診断し、また、プラズマ処理毎に、プラズマ処理装置の各部品が少なくとも一つ備える状態センサ群から取得したセンサ波形データを用いて演算した部品の劣化状態を示す劣化度および事前に設定した前記劣化度の閾値を用いて診断をする。また、診断装置は、センサ波形データを事前に定義した複数のセンサ波形変化種別毎の成分に分離し、分離したセンサ波形成分毎に、正常時と診断時のセンサ波形成分または劣化時と診断時のセンサ波形成分に基づき劣化度演算する。
【0010】
さらに、診断装置は、プラズマ処理毎に演算した劣化度の時系列データに対してフィルタリング処理し、各プラズマ処理装置に対して、部品保守時点から所定回数処理後の時点までの学習区間におけるフィルタ処理後の複数の劣化度を用いて演算する分布に基づき、劣化診断に用いる閾値を設定する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プラズマ処理装置群の部品の保守要否の診断において、虚報および見逃しの少ない高精度な診断を実現でき、診断結果に基づく効果的な対策が可能となる。
【0012】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、一実施形態に係るプラズマ処理装置および診断装置の全体構成図である。
図2図2は、一実施形態に係る診断処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図3図3は、一実施形態に係るセンサ波形記憶部に格納するデータの一例を示す図である。
図4図4は、一実施形態に係る分離したセンサ波形種別の一例を説明するための図である。
図5図5は、センサ波形データの複数要因による複数センサ波形変化種別が混在する一例を説明するための図である。
図6図6は、処理毎の劣化度の時系列データにノイズと断続的な劣化兆候の出現が混在する一例および劣化度フィルタ処理後の劣化度の時系列データの一例を示す図である。
図7図7は、一実施形態に係る劣化診断情報の表示画面の一例として劣化度の推移を示す図である。
図8図8は、一実施形態に係る劣化診断情報の表示画面の一例としてセンサ波形成分の比較を示す図である。
図9図9は、別の実施形態に係るプラズマ処理装置および診断装置の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部には原則として同一符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【実施例
【0015】
(1)プラズマ処理装置
図1の構成図に示すように、本実施例におけるプラズマ処理装置群1は、予め設定したプラズマ処理条件に従い、プラズマ100を発生させてウェハ(試料101)をプラズマ処理する。プラズマ処理装置群1は、半導体製造装置としてのプラズマ処理装置10,11を含む。また、プラズマ処理装置(10,11)は、プラズマ処理装置(10,11)の内部のチャンバ(反応室)内の状態や部品の状態をセンサするための状態センサ群102を有し、プラズマ処理中あるいはアイドル中のセンサ値(例えば、温度や圧力)の測定値をセンサ波形データとして取得することができる。
【0016】
(2)診断装置
図1の構成図に示すように、診断装置2は、プラズマ処理装置群1の各プラズマ処理装置10,11に対応するセンサ波形データの取得や演算処理を実行する実行部31および実行部31の処理に必要な情報を格納する記憶部32で構成される計算機群(計算機30、計算機40、…)を備える。さらに、診断装置2は、実行部31の演算条件の設定や診断結果の分析を行う分析部51、分析部51の処理に必要な情報を格納する記憶部52および表示部53で構成されるサーバ50を備える。プラズマ処理装置群1は計算機群(計算機30、計算機40、…)と直接あるいはネットワークを介して接続されている。また、計算機群(計算機30、計算機40、…)とサーバ50はネットワークを介して接続されている。これにより、各計算機は各プラズマ処理装置から取得したセンサ波形データを用いた演算を実行部31で高速に行うことができる。また、サーバ50は、プラズマ処理装置群1にまたがる劣化度演算条件の設定や診断結果の分析および表示が可能となる。
【0017】
実行部31は、この例では、前処理部310、センサ波形分離部311、劣化診断部312、劣化度演算部313、劣化度フィルタ部314、装置毎劣化度学習部315を含む。記憶部32は、この例では、センサ波形記憶部320、劣化度記憶部321を含む。
【0018】
分析部51は、この例では、劣化度演算条件設定部510、診断結果分析部511を含む。記憶部52は、この例では、劣化診断情報記憶部520、保守情報記憶部521、劣化時センサ波形成分記憶部522を含む。
【0019】
ここで、診断装置2(計算機30または40)と半導体製造装置(10または11)とがネットワークを介して接続されて半導体製造装置システムが構成される。また、診断装置2(計算機30または40、サーバ50)と半導体製造装置(10または11)とがネットワークを介して接続されて半導体装置製造システムが構成される。診断装置2(計算機30または40、サーバ50)は、部品の劣化状態を示す劣化度を用いて半導体製造装置(10または11)の部品の保守要否を診断するためのアプリケーションが実装されたプラットフォームを備える。
【0020】
(3)診断処理
図2を参照して、診断装置2が行うプラズマ処理装置群1の対象部品の保守要否の診断処理の一例について説明する。なお、図2は一回のプラズマ処理毎の処理のフローを示している。
【0021】
まず、計算機30がプラズマ処理終了時に当該プラズマ処理におけるセンサ波形データ41を取得して、センサ波形記憶部320に格納する(S1)。図3は、格納するセンサ波形データの一例を示している。センサ波形データ41は複数のセンサ項目33から成っており、対応するセンサ項目33の列のセンサ波形データの列に、取得したセンサ値を格納する。また、センサ値とともに、例えば、装置ID34、処理ID35、処理条件ID36、処理日時37等のプラズマ処理内容や対象を特定する識別情報を格納する。装置ID34は、プラズマ処理を行ったプラズマ処理装置10を識別するための情報である。処理ID35は、プラズマ処理を行ったウェハを識別するための情報である。処理条件ID36は、プラズマ処理を行う際のプラズマ処理装置10の設定や工程ステップ(一回のプラズマ処理をさらに複数の工程に分割したもの)を識別するための情報である。
【0022】
次に、前処理部310が、センサ波形記憶部320から診断対象部品の診断に用いるセンサ項目のセンサ波形データを取得して前処理を行う(S2)。前処理では、劣化度演算条件設定部510で事前設定した内容に従い、例えば、センサ波形データから診断に用いる処理条件ID34の抽出やプラズマ処理時間内の時間区間の抽出、センサ波形データ41の標準化や欠損値除去を行う。
【0023】
次に、センサ波形分離部311が、センサ波形データ41を事前に定義したセンサ波形変化種別毎の成分に分離する(S3)。図4を用いて、センサ波形データ41をオフセット成分42、トレンド成分43、ノイズ成分44に分離する一例を説明する。オフセット成分42は、センサ波形データ41のオフセット項を示す成分であり、例えば処理時間TPにわたるセンサ値VSの平均値として演算する。続いて、センサ波形データ41からオフセット成分42を減算した成分に対して、カルマンフィルタやマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)等の時系列データに適用可能なモデリング手法を適用し、トレンド成分43を演算する。ノイズ成分44は、センサ波形データ41からのオフセット成分42とトレンド成分43の減算により演算する。なお、センサ波形の分離に際しては、装置状態の変化等に起因する部品劣化と関連のないセンサ波形変化種別と部品の劣化兆候と関連のあるセンサ波形変化種別を分離できればよく、分離するセンサ波形変化種別、その数および分離する手法は特に限定されない。
【0024】
次に、センサ波形分離部311は図3に示すように、分離したセンサ波形データ41の各成分(42、43、44)を成分毎にセンサ波形記憶部320に格納する(S4)。
【0025】
次に、劣化度演算部313は、診断対象部品の診断に用いるセンサ項目のセンサ波形成分に関して、リファレンスとなるセンサ波形成分データとの比較演算により、当該処理時点に対応する劣化度を演算し、劣化度記憶部321に格納する(S5)。リファレンスとなるセンサ波形成分データは、例えば、対象部品保守直後から指定処理回数までの期間のプラズマ処理におけるセンサ波形成分群を正常時のリファレンスとすることができる。これにより、リファレンスとの非類似度として劣化度を演算できる。また、対象部品の保守直前の期間のプラズマ処理におけるセンサ波形成分群を、劣化時センサ波形成分記憶部522に格納しておき、劣化時のリファレンスとすることもできる。これにより、リファレンスとの類似度として劣化度を演算できる。リファレンスとの非類似度や類似度として劣化度を演算する手法には機械学習手法を適用することができ、例えば、時系列データに対するk近傍法や特異スペクトル変換法、サポートベクターマシンといった手法を用いることができる。
【0026】
このように、分離したセンサ波形成分を用いて劣化度を演算することで、劣化兆候と関連のないセンサ波形変化に埋もれてしまい従来正しく捉えられなかった劣化兆候を正しく捉えることが可能となる。図5は、センサ波形データの複数要因による複数センサ波形変化種別が混在する一例を示す図である。横軸は処理数54である。正常時55と劣化時56のセンサ波形データ41を比較して、劣化時56はオフセット成分変化57とノイズ成分変化58が混在している。このオフセット成分変化57が装置状態の変化に起因するセンサ波形変化であり、ノイズ成分変化58が劣化兆候を示すセンサ波形変化である場合、センサ波形成分分離前のセンサ波形データ41を用いて劣化度演算すると、劣化度に両方の変化の影響が混在してしまい、劣化兆候を正しく捉えられない。この場合、劣化度演算に用いるセンサ波形成分としてノイズ成分44を用いることで劣化兆候を正しく捉える事が可能となる。
【0027】
次に、計算機30は、閾値の設定、すなわち劣化度の学習に十分なセンサ波形データ41が蓄積されたかを指定のプラズマ処理回数が経過したか否かで判断する(S6)。
【0028】
指定のプラズマ処理回数が経過した場合(Yes)、劣化度フィルタ部314が、プラズマ処理毎に演算した複数劣化度の時系列データに対しフィルタリング処理を行う(S7)。例えば、図6の左側の劣化度60の時系列データ61のグラフ62では、処理ID35の若い正常時63の区間においてノイズによる低頻度の劣化度増加64がある。一方、劣化時65の区間においては、劣化兆候が高頻度に出現しており、高頻度かつ断続的な劣化度増加66がある。このような劣化度の時系列データに対して、図6の右側のグラフ67のように、低頻度の劣化度増加64の部分はノイズとみなし劣化度の増加を抑え、高頻度な劣化度増加66の部分は劣化兆候であるとみなし継続的に劣化度が高い値を取るような劣化度フィルタを適用する。これにより、閾値を用いた保守要否の診断において、ノイズと断続的な劣化兆候出現の状態を区別することができ、虚報を減らす事が可能となる。劣化度フィルタに用いることができる手法としては種々存在するが、例えば、カルマンフィルタのトレンド項を用いる手法、逐次的にカルマンフィルタを適用しその誤差項を用いる手法、平滑化の手法を用いることができる。
【0029】
指定のプラズマ処理回数が経過していない場合(S6:No)、センサ波形データの取得(S1)へ移行する。
【0030】
劣化度の時系列データに対する劣化度フィルタ処理後に、診断に用いる閾値が未設定であるかどうかを判定する(S8)。閾値が未設定でない(設定済み)場合(No)、S10へ移行する。閾値が未設定である場合(Yes)は、装置毎劣化度学習部315が閾値設定を行う(S9)。まず、装置毎劣化度学習部315は、劣化度フィルタ処理後の劣化度の時系列データにおける、保守直後から指定処理回数までの学習区間の劣化度群を抽出する。次に、劣化度群の確率分布を推定し、例えば設定した信頼区間における劣化度の値を当該プラズマ処理装置の対象部品の診断に用いる閾値として設定する。分布推定においては、正規分布で近似できるようであれば正規分布で推定し、近似できないようであれば例えばMCMC等の非正規分布の推定手法を用いて非正規分布で推定する。本構成における本処理によれば、プラズマ処理装置毎に、対象部品の保守直後から保守までの期間毎に閾値を自動設定するため、装置間差の影響や閾値が陳腐化して診断精度が悪化する影響を除することが可能となる。
【0031】
次に、劣化診断部312が、当該プラズマ処理における劣化度フィルタ適用後の劣化度とS9で設定済の閾値を比較し、閾値を超えた場合はアラートする(S10)。また、劣化診断部312は、対象とした部品ID、使用したセンサ項目33、使用したセンサ波形成分(42、43、44)、診断対象の装置ID34、処理ID35毎の劣化度の値、閾値に対する劣化度の比率等の診断に関する情報を劣化診断情報記憶部520に格納し、必要に応じて表示部53で診断結果を確認可能とするために診断結果を表示部53に表示する。
【0032】
図7は、劣化診断情報の表示画面70の一例として劣化度の推移を示す図である。複数のプラズマ処理装置10,11に対して、劣化度演算に用いた(部品ID、センサ項目、センサ波形成分)の組合せ毎に劣化度の推移状況と閾値設定を一覧できる。また、劣化度が閾値を超えた場合にはD10のようにアラートを表示する。ユーザはこれを見て、プラズマ処理装置群1の対象部品の劣化状態を一元管理することができ、発報されたアラームに基づき保守対象部品に対する早期保守を行うことで計画外保守によるプラズマ処理装置群1の非稼働時間削減に繋げることができる。
【0033】
図8は、劣化診断情報の表示画面80の一例としてセンサ波形成分の比較を示す図である。装置ID、部品ID、センサ項目、センサ波形成分を指定することで、劣化度演算の元である各処理IDにおけるセンサ波形成分データを一覧比較できる。ユーザはこれを見て、例えば、劣化度が大きい場合にセンサ波形成分にどのようは変化が生じているかセンサ波形成分毎に確認することができ、劣化度演算条件の設定改善等に活用することができる。
【0034】
以上、実施例について説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。一例を挙げるならば、サーバ50の設置が困難な場合は、全体構成として図9のようにサーバ50の分析部51、記憶部52、表示部53を計算機B30、計算機B40に持たせる構成としてもよい。
【0035】
実施例に係る診断装置、診断方法、半導体製造装置システム及び半導体装置製造システムの特徴は、以下のようにまとめることができる。
【0036】
1)部品の劣化状態を示す劣化度を用いて半導体製造装置の部品の保守要否が診断される診断装置は、
取得されたセンサ波形が複数の波形変化種別毎の成分に分離され、
分離された波形変化種別毎の成分を基に劣化度が求められる。
【0037】
2)1)において、
波形変化種別毎の成分は、オフセット成分、トレンド成分またはノイズ成分に分離される。
【0038】
3)1)において、
波形変化種別毎の成分は、ノイズ成分に分離される。
【0039】
4)1)において、
演算された劣化度の時系列データがフィルタリング処理され、
フィルタリング処理された劣化度を用いて演算された分布を基に保守要否の診断に用いられる閾値が求められる。
【0040】
5)1)において、
劣化度を入力値とし、正規分布またはマルコフ連鎖モンテカルロ法を用いた機械学習により非正規分布が推定され、
正規分布または前記非正規分布との尤度を基に前記保守要否の診断に用いられる閾値が求められる。
【0041】
6)半導体製造装置システムは、半導体製造装置とネットワークを介して接続された上記1)の診断装置を備える。
【0042】
7)半導体製造装置がネットワークを介して接続され、部品の劣化状態を示す劣化度を用いて前記半導体製造装置の部品の保守要否を診断するためのアプリケーションが実装されたプラットフォームを備える半導体装置製造システムにおいて、
取得されたセンサ波形を複数の波形変化種別毎の成分に分離するステップと、分離された波形変化種別毎の成分を基に劣化度を求めるステップと、がアプリケーションにより実行される。
【0043】
8)部品の劣化状態を示す劣化度を用いて半導体製造装置の部品の保守要否を診断する診断方法において、
取得されたセンサ波形を複数の波形変化種別毎の成分に分離する工程と、
前記分離された波形変化種別毎の成分を基に劣化度を求める工程と、を有する。
【0044】
以上の診断装置、診断方法、半導体製造装置システム及び半導体装置製造システムにより、プラズマ処理装置群の部品の保守要否の診断において、虚報および見逃しの少ない高精度な診断を実現でき、診断結果に基づく効果的な対策が可能となる。
【符号の説明】
【0045】
1:プラズマ処理装置群、2:診断装置、30:計算機、50:サーバ、311:センサ波形分離部、314:劣化度フィルタ部、315:装置毎劣化度学習部、522:劣化時センサ波形成分記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9