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  • 特許-化合物、及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】化合物、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/08 20060101AFI20240226BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240226BHJP
【FI】
C07D487/08
C07B61/00 300
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020553082
(86)(22)【出願日】2019-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2019039501
(87)【国際公開番号】W WO2020080165
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2018196008
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100118991
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 聡二郎
(72)【発明者】
【氏名】金田 清臣
(72)【発明者】
【氏名】満留 敬人
(72)【発明者】
【氏名】和田 佳之
(72)【発明者】
【氏名】高木 由紀夫
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0174824(US,A1)
【文献】特表2002-535227(JP,A)
【文献】特開昭59-033261(JP,A)
【文献】特開平05-333469(JP,A)
【文献】国際公開第2005/066112(WO,A1)
【文献】特開2012-121843(JP,A)
【文献】国際公開第2020/050160(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/175309(WO,A1)
【文献】DMOWSKI, W. et al.,exo,exo-4,8-Ethenopolyfluoro-2,6-dioxaperhydroindacenes. Unusual Alkenes Flanked with Fluorine Atoms,J. Org. Chem.,1997年,Vol. 62, No. 6,p. 1760-1765
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物を準備する工程と、
前記式(1)で表される化合物を、Pt-V又はRh-Moを含む触媒を用いて水素源と反応させる工程と、を少なくとも含む、
式(2)で表される化合物の製造方法。
【化1】
(前記式(1)及び式(2)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、アルキル基である。)
【請求項2】
前記式(1)及び前記式(2)におけるR1及びR2が、エチル基である
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記水素源が、分子状水素、ギ酸アンモニウム、ギ酸ナトリウム、ヒドラジン、及び水素化ホウ素ナトリウムから選択される1種以上を含む
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記水素源が、分子状水素である
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応工程が、湿式プロセス下で行われる
請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記触媒が、不均一系触媒である
請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記触媒は、担体にPtとVとが又はRhとMoとが担持された触媒であり
前記担体が、シリカ(SiO 2 )、チタニア(TiO 2 )、ジルコニア(ZrO 2 )、アルミナ(Al 2 3 )、酸化マグネシウム(MgO)、及びリン酸三カルシウム(HAP;ヒドロキシアパタイト)よりなる群から選ばれる一種である
請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記担体が、リン酸三カルシウム(HAP;ヒドロキシアパタイト)である
請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物、及びその製造方法に関する。本発明は、より詳細には、N,N’-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジン、及びその製造方法に関する。
【従来の技術】
【0002】
N,N,N’,N’-テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウムは、ゼオライト等の多孔結晶材料の原料(例えば有機構造規定剤(OSDA;Organic Structure-Directing Agent))として使用される有用な化合物である(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
例えば、N,N,N’,N’-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウム(I)は、以下に示すように、まず、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボン酸二無水物(II)を出発物とし、エチルアミンと反応させてN,N’-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボキシジイミド(III)を得る。続いて、得られたイミド化合物(III)を、リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH)を用いて還元し、N,N’-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジン(IV)を得る。さらに、ジピロリジン化合物(IV)を誘導して、N,N,N’,N’-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウム(I)とする。
【0004】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第6049018号明細書
【文献】特開2016-169139号公報
【文献】米国特許出願公開第6656268号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
N,N’-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジン(以下、前駆体ともいう)の合成では、イミド化合物(III)中のカルボニル基を還元するために、反応性の高い還元剤を用いなければならない。しかしながら、反応性の高い還元剤は、発火等の危険があり且つ取り扱いが難しい。そのため、反応を制御する困難性や安全上の問題から、上記前駆体を、工業上、量産化することは困難である。このような事情から、安全且つ容易に合成することができる、OSDAの製造に有用な化合物が求められている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、工業上、安全且つ容易に製造可能な、OSDAの製造に有用な、新規化合物、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0008】
なお、ここでいう目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも、本発明の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らがOSDAの製造に有用な化合物の提供について鋭意検討した結果、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジン骨格を有する所定の化合物は、安全且つ容易に合成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
[1]
式(1)で表される化合物を準備する工程と、前記式(1)で表される化合物を、触媒を用いて水素源と反応させる工程と、を少なくとも含む、式(2)で表される化合物の製造方法。
【化2】
(前記式(1)及び式(2)中、R及びRは、それぞれ独立して、アルキル基である。)
[2]
前記式(1)及び式(2)におけるR及びRが、エチル基である[1]に記載の製造方法。
[3]
前記水素源が、分子状水素、ギ酸アンモニウム、ギ酸ナトリウム、ヒドラジン、及び水素化ホウ素ナトリウムから選択される1種以上を含む[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
前記水素源が、分子状水素である[1]又は[2]に記載の製造方法。
[5]
前記反応工程が、湿式プロセス下で行われる[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
前記触媒が、不均一系触媒である[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
式(2)で表される化合物。
【化3】
(前記式(2)中、R及びRは、それぞれ独立して、アルキル基である。)
[8]
前記式(2)におけるR及びRが、エチル基である[7]に記載の化合物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の化合物は、N,N’-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボキシジイミドから簡便且つ安全に合成することができ、工業的に有利である。また、本発明の化合物は、ゼオライト等の多孔結晶材料の原料になる化合物(OSDA)の前駆体ないしは中間体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】参考例1により得られたAFX型ゼオライトのXRDデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。すなわち、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いる。例えば「1~100」との数値範囲の表記は、その上限値「100」及び下限値「1」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0014】
(化合物)
本実施形態の化合物は、式(2)で表される化合物である。本実施形態の化合物は、OSDAの原料として用いられるN,N,N’,N’-テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウムと同様にビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジン骨格を有し、OSDAの原料の前駆体ないしは中間体として有用である。また、後述する好ましい製造方法にて述べるように、本実施形態の化合物は、LiAlH等の取り扱いや反応の制御が難しい還元剤試薬を使用することなく、簡便且つ安全に合成することができるため、工業的に有利である。
本明細書において、式(2)で表される化合物は、N,N’-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンともいう。
【0015】
【化4】
【0016】
上記式(2)中、R及びRは、それぞれ独立して、アルキル基である。
アルキル基としては、炭素数1~4の直鎖状又は分岐状のアルキル基を好適に挙げることができ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
これらのアルキル基の中でも、好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基であり、より好ましくはメチル基、エチル基であり、さらに好ましくはエチル基である。
【0017】
式(2)で表される化合物としては、具体的には以下の化合物を挙げることができる。
【化5】
【0018】
(製造方法)
本実施形態の式(2)で表される化合物は、公知の合成ルートで製造することができ、その製造方法は特に限定されない。とりわけ、上述した従来技術のようにLiAlH等の取り扱いや反応の制御が難しい還元剤試薬を用いない製造方法が、工業上の観点から好ましい。具体的には、式(1)で表される化合物を、触媒を用いて水素源と反応させる工程を含む製造方法が特に好適である。式(1)で表される化合物は、N,N’-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボキシジイミドともいう。
【0019】
本実施形態の特に好適な製造方法は、以下のスキームで表すことができる。
【化6】
【0020】
この製造方法では、取り扱いが難しい強力な還元剤、例えば発火等の危険がある還元剤等を使用する必要がないため、安全且つ容易に、N,N’-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボキシジイミドを製造することができる。そして、かかる製造方法によれば、比較的に安全な条件下で合成可能なため、設備負担が小さく、大ロットで製造することができるため、得られる式(2)で表される化合物の生産性及び経済性が高められる。
【0021】
上記スキーム中における式(1)で表される化合物中のR及びRは、式(2)におけるR及びRと同義であり、好ましい置換基についても式(2)におけるR及びRと同様の基を挙げることができる。
なお、式(1)で表される化合物は、市販品として入手してもよく、公知の合成ルートで適宜合成することもできる。例えば、市販のビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボン酸二無水物とアルキルアミン又はその塩との反応により合成して入手してもよい。
【0022】
上記の製造方法において使用する水素源としては、式(1)で表される化合物を水素化可能なものの中から適宜選択して用いることができる。具体的には、水素ガス等の分子状水素;ギ酸アンモニウム、ギ酸ナトリウム、ヒドラジン、及び水素化ホウ素ナトリウム(SBH)等の水素供与体;等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの水素源は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら水素源の中でも、好ましくは分子状水素である。
【0023】
上記の製造方法において使用する触媒としては、水素化に通常使用可能な触媒を用いることができ、その種類は特に制限されない。触媒は、不均一系触媒であることが好ましい。不均一系触媒を用いることにより、後処理等の操作が簡便であり、大ロットで製造したとしても化合物の生産性及び経済性が高められる。
触媒は、遷移金属を含む触媒であることが好ましい。
遷移金属としては、例えば、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等の金属が挙げられる。これらの金属は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
上述した遷移金属は、担体上に担持されていてもよい。担体としては、触媒の担体として通常使用される担体であれば特に制限されない。例えば、無機酸化物、活性炭素、イオン交換樹脂等が挙げられる。無機酸化物としては、具体的には、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)、ジルコニア(ZrO2)、アルミナ(Al23)、酸化マグネシウム(MgO)、リン酸三カルシウム(HAP;ヒドロキシアパタイト)、及びこれら無機酸化物の二種以上の複合体(例えば、ゼオライト等)等が挙げられる。
【0024】
上記の製造方法において使用する触媒としては、PtとVとが担体に担持された触媒を好適に用いることができる。PtとVとが担体に担持された触媒を用いることにより、式(2)で表される化合物を、より温和な条件下で還元することができる。
本明細書において、PtとVとが担体に担持された触媒は、「Pt-V/Z」とも表される。ここで、Zは、担体を表す。
【0025】
上記Pt-V/Zを構成する白金は、特に限定されないが、例えば、白金粒子が好ましい。ここで白金粒子とは、金属白金又は酸化白金の少なくとも1種の粒子であり、好ましくは金属白金の粒子である。
白金粒子は、少なくとも白金を含有していれば特に限定されず、ルテニウム、ロジウム、及びパラジウム等の貴金属を少量含んでいてもよい。
白金粒子は一次粒子でもよく、二次粒子でもよい。白金粒子の平均粒子径は、好ましくは1~30nmであり、より好ましくは1~10nmである。なお、上記平均粒子径は、電子顕微鏡で任意の数の粒子の直径を観察し、それらの直径の平均値を指す。
【0026】
上記Pt-V/Zを構成するバナジウムは、特に限定されないが、例えば、バナジウム酸化物が好ましい。バナジウム酸化物としては、例えば、バナジン酸イオン(VO 3-、VO 3-)、五酸化バナジウム、酸化バナジウム(II)、及び酸化バナジウム(IV)等が挙げられる。これらのバナジウム酸化物の中でも、好ましくはVである。
【0027】
上記Pt-V/Zにおける、PtとVとの組成比は、金属としてのPt:金属としてのVのモル数のモル数換算で、1:0.001~10であることが好ましく、1:0.005~5であることがより好ましい。
【0028】
前記Pt-V/Zにおける担体Zは、特に限定されないが、吸着能がBET値として0.1~300m/gであってよく、平均粒子径が0.02~200μmであってもよい。
担体の形態としては、特に限定されないが、例えば、粉末状、球形粒状、不定形顆粒状、円柱形ペレット状、押し出し形状、リング形状等が挙げられる。
担体を構成する成分としては、前述した担体の中でも、HAPが好ましい。
【0029】
前記Pt-V/Zは、白金化合物とバナジウム化合物の混合液と、担体を混合して混合物を得て、当該混合物を乾燥することにより製造することができる。
上記白金化合物としては、例えば、白金アセチルアセトナート(Pt(acac))、テトラアンミン白金(II)酢酸塩、ジニトロジアンミン白金(II)、ヘキサアンミン白金(IV)炭酸塩、ビス(ジベンザルアセトン)白金(0)等の白金錯体塩、塩化白金、テトラクロロ白金酸カリウム等の塩が挙げられる。これら白金化合物の中でも、好ましくはPt(acac)である。
上記バナジウム化合物としては、例えば、バナジルアセチルアセトナート(VO(acac))、ビス(タルトラト)ビス[オキソバナジウム(IV)]酸テトラメチルアンモニウム等のバナジウム錯体塩、バナジン(V)酸アンモニウム、ナフテン酸バナジウム等の塩が挙げられる。これらバナジウム化合物の中でも、好ましくはVO(acac)である。
【0030】
前記Pt-V/Zを製造における混合液は、白金化合物とバナジウム化合物とを溶媒に懸濁又は溶解させたものである。溶媒としては、例えば、水、及び、アルコール、アセトン等の有機溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は1種又は2種以上を併用してもよい。
【0031】
上記混合液は、担体と混合する。上記混合液と担体とを混合する方法は、特に限定されず、各成分が十分に分散すればよい。担体の量は、金属換算の白金0.1mmolに対し、担体0.1~100gであることが好ましく、1~10gであることがより好ましい。担体の混合後は、0.5~12時間攪拌することが好ましい。
上記混合液と担体との混合物は、溶媒をロータリーエバポレータ等で除去した後、乾燥させる。乾燥は、例えば、80~200℃で1~60時間乾燥させることが好ましい。乾燥後は、必要に応じて乾燥物を粉砕し、マッフル炉等を使用して焼成することが好ましい。
【0032】
上記の製造方法は、具体的には、式(1)で表される化合物を準備し、これを触媒、及び水素源と混合して、反応させる方法を挙げることができる。
ここで、式(1)で表される化合物、触媒、及び水素源を混合する順番は任意である。作業性の観点から、本実施形態の製造方法では、式(1)で表される化合物と触媒とを混合して必要に応じて溶媒を加え、その後に水素源を反応器に導入することが好ましい。
また、本実施形態の製造方法では、低温低圧条件下で反応を進行させるため、モレキュラーシーブスを反応系内に添加してもよい。モレキュラーシーブスの添加量は、式(1)で表される化合物の質量に対し、0.1~10倍量であることが好ましく、0.5~5倍量であることがより好ましい。
【0033】
本実施形態における反応は、溶媒の存在下、すなわち、湿式プロセス下で行ってもよい。
溶媒は、式(1)で表される化合物を溶解できれば特に制限されず、反応温度や反応物等に応じて適宜選択すればよい。
溶媒としては、例えば、水;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;アセトニトリル、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;テトラヒドロフラン(以下、THFとも記載する。)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒;等が挙げられる。これら溶媒は、1種を単独であるいは2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
これらの溶媒の中でも、好ましくはエーテル系溶媒であり、より好ましくは1,2-ジメトキシエタンである。
【0034】
溶媒の使用の有無及びその使用量はその他の反応条件を考慮して適宜設定すればよく、特に制限されないが、式(1)で表される化合物の濃度を、反応混合物中、0.001~10mol/Lとすることが好ましく、0.01~5mol/Lとすることがより好ましく、0.01~3mol/Lとすることがさらに好ましい。
【0035】
触媒の使用量は、式(1)で表される化合物の質量に対し、0.1~50倍量とすることが好ましく、0.5~20倍量とすることが好ましく、1~10倍量とすることがさらに好ましい。
【0036】
反応温度は、特に制限されないが、通常20~200℃、好ましくは50~150℃、より好ましくは50~120℃の範囲である。
反応時間は、GC-MS等を用い反応の進行状況をモニタリングすることによって適宜調整すればよく、通常1分~100時間、好ましくは0.5時間~70時間、より好ましくは1時間~60時間である。
【0037】
本実施形態の製造方法において、分子状水素を用いる場合、反応器内の水素圧は、通常0.1~10MPaであり、好ましくは1.0~10MPaであり、より好ましくは2.0~8.0MPaである。
【0038】
反応終了後の混合物は、上記反応で溶媒を用いる場合、得られた反応溶液を必要に応じて濃縮した後、残渣をそのまま原材料や前駆体や中間体として使用してもよく、反応混合物を適宜後処理して上記式(2)で表される化合物を得てもよい。後処理の具体的な方法としては、水洗、ろ過、乾燥、抽出、蒸留、クロマトグラフィー等の公知の精製方法を挙げることができる。これらの精製方法は、2種以上を組み合わせて行ってもよい。
【実施例
【0039】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらによりなんら限定されるものではない。すなわち、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更することができる。また、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における好ましい上限値又は好ましい下限値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0040】
[製造例1;Pt-V/HAP触媒の調製]
アセトン90mLにエヌ・イーケムキャット社製Pt(acac)(白金アセチルアセトナート、0.4mmol)とシグマアルドリッチ社のVO(acac)(バナジルアセチルアセトナート、0.4mmol)とを加え、室温で30分撹拌した。さらに和光純薬社のHAP(商品名「リン酸三カルシウム」)1.0gを加えて室温で4時間撹拌した。得られた混合物から溶媒をロータリーエバポレータで除去し、淡緑色の粉末を得た。得られた粉末を110℃で終夜乾燥した。さらに、乾燥した粉末をメノウ鉢で粉砕し、大気中で、3時間、300℃で焼成し、濃灰色の粉末(Pt-V/HAP)を得た。
【0041】
[製造例2;N,N’-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボニルジイミドの合成]
ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボン酸二無水物(分子量248.19、粉末、東京化成工業製)4.0g、70%エチルアミン溶液(分子量81.54、固体、東京化成工業製)25mLを2Lフラスコに入れ、水12mLを添加し、ホットスターラー上で撹拌器を用いて撹拌し、窒素雰囲気下とした。室温で撹拌した。60℃まで昇温した後、徐々に昇温し最終的には100℃とした。反応を44時間行った後、放冷後ろ過し、純水で洗浄して乾燥することで、N,N’-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボキシジイミドの白色固体1.6g(収率95%以上)を得た。
得られた白色固体の1H-NMR及び13C-NMRを以下に示す。
1H-NMR(400MHz, CDCl3) δ: 6.10 (t, 2H), 3.79 (brs, 2H), 3.48 (q4, 4H), 2.96 (s, 4H), 1.07 (t, 6H).
13C-NMR(400Hz, CDCl3) δ: 176.47(×4), 130.75(×2), 42.83(×4), 33.84(×2), 33.47(×2), 12.90(×2).
【0042】
[実施例1;N,N’-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンの合成]
製造例1で得られたPt-V/HAPを0.3g、製造例2で得られたN,N’-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボニルジイミド0.3mmol、和光純薬社のモレキュラーシーブス4Å 0.1gを50mLのステンレス製オートクレーブに加えた。さらに、溶媒として1,2-ジメトキシエタン(DME)5mLを加えた。反応温度150℃、水素圧5MPa下、48時間水素化反応を行い、N,N’-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンを得た。反応後、GC-MSを用いてN,N’-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンの収率を測定したところ、収率77%であった。
生成物を単離し、1H-NMR及び13C-NMRの測定結果を以下に示す。
【0043】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ = 2.72 (t, J = 17 Hz, 4H), 2.49 (dd, J = 30 , 14 Hz, 4H), 2.43 (dd, J = 18, 10 Hz, 4H), 2.21 (s, 4H), 1.57 (s, 4H), 1.40 (s, 2H), 1.14 (t, J = 15 Hz, 6H);
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ = 57.0(×4), 50.2(×2), 40.7(×4), 30.6(×2), 14.6(×2), 13.9(×2).
【0044】
[製造例3;Rh-Mo/HAPの調製]
蒸留水80mLの入った100mLナスフラスコに、エヌ・イーケムキャット社製K[RhCl]を0.2mmol加え、3分間超音波処理を行った。その後、強攪拌しながら和光純薬社のHAP(商品名「リン酸三カルシウム」)1.0gを加えて80℃まで加熱し、この状態で15時間攪拌した後、1.5時間静置して室温まで溶液を放冷した。放冷した前記溶液に(NHMo24・4HOaq(40mM)を25mL(Mo含有量:1.0mmol)滴下した後、50℃まで加熱し、3時間攪拌した。攪拌後濾過し、蒸留水約1Lを用いて濾過洗浄を行った。濾過洗浄を行った濾物を120℃で8時間以上乾燥し、Rh-Mo/HAPを得た(Rh:0.2mmol/g、Mo:0.017mmol/g)。
反応に使用するオートクレーブに製造例3で得た触媒と、溶媒であるDME(1,2-dimethoxyethane)5mLとを加え、水素ガスで20atmに加圧し、160℃に加熱し、1時間還元処理を行った。その後、遠心分離機(2000rpm、1分間)にかけ、上澄み液をピペットで取り出して除いた。そこにDME5mLを加えて、1分間超音波処理を行った。この洗浄工程をもう一度繰り返した後、最後に上澄み液を取り除き、反応前還元処理を行った。
【0045】
[実施例2;N,N’-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンの合成]
実施例1において、Pt-V/HAPに代えて製造例3で得られたRh-Mo/HAPを0.3g、温度を160℃に代えたこと以外は、実施例1と同様にしてN,N’-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンを得た。反応後、GC-MSを用いてN,N’-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンの収率を測定したところ、収率60%であった。
【0046】
[参考例1:AFX型ゼオライトの合成]
(N,N,N’,N’-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物の合成)
実施例1と同様の方法でN,N’-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジン(分子量248.41)2.2gを合成し、その50mLエタノール溶液を100mLフラスコに入れ、ヨウ化エチル(分子量155.97、液体、東京化成工業)6.0gを滴下した。窒素雰囲気下で2日間還流した後、放冷後ろ過し、アセトンで洗浄して乾燥することで、目的物であるN,N,N’,N’-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物の白色粉末2.6g(収率52%)を得た。得られた白色粉末の1H-NMR及び13C-NMRを以下に示す。
【0047】
1H-NMR(400MHz, D2O) δ: 3.82 (dd, 4H), 3.49 (q4, 4H), 3.38 (q4, 4H), 3.33 (d, 4H), 2.68(m, 4H), 1.80 (s, 2H), 1.64 (s, 4H), 1.36 (t, 6H), 1.31 (t, 6H)
13C-NMR(400Hz, CDCl3) δ: 65.00(×4), 58.51(×2), 54.41(×2), 40.11(×4), 28.33(×2), 14.86(×2), 11.01(×2), 10.1(×2)
【0048】
(AFX型ゼオライトの合成)
N,N,N’,N’-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物(分子量558.62)2.0g、4.8質量%水酸化ナトリウム溶液8.4g、FAU型ゼオライトCBV712(ゼオリスト社製、シリカアルミナ比SAR10.9)2.7g、水3.3gをSUSビーカー内で48時間撹拌した。混合物の組成は次のとおりであった。
【0049】
【表1】
【0050】
上記混合物における各成分の数値は、SiOの物質量を1としたときの物質量比を意味する。
次いで、この原料組成物(混合物)を50cc内筒テフロン(登録商標)のステンレス製密閉耐圧容器に入れ、170℃で48時間静置保持した。この水熱処理後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の水で洗浄し、105℃で乾燥して生成物を得た。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物はAFX型ゼオライトの単相であることが確認された。
図1に、当該AFX型ゼオライトのXRDデータを示す。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、OSDAの材料となる化合物の中間原料等として有用なN,N’-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンを簡便且つ安全に提供することができ、例えば含水アルミノケイ酸塩の一種であるゼオライト等の供給が比較的に安定且つ低コストで実現可能である。そのため、本発明は、各種の無機或いは有機分子の吸着剤又は分離剤の他、乾燥剤、脱水剤、イオン交換体、石油精製触媒、石油化学触媒、固体酸触媒、三元触媒、排ガス浄化触媒、NOx吸蔵材等の用途において、広く且つ有効に利用可能である。
図1